(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-15
(45)【発行日】2024-10-23
(54)【発明の名称】チーズ様発酵食品の製造方法及びチーズ様発酵食品
(51)【国際特許分類】
A23C 20/02 20210101AFI20241016BHJP
A23L 11/00 20210101ALI20241016BHJP
【FI】
A23C20/02
A23L11/00 Z
(21)【出願番号】P 2020078315
(22)【出願日】2020-04-27
【審査請求日】2022-12-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000004477
【氏名又は名称】キッコーマン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003753
【氏名又は名称】弁理士法人シエル国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100173646
【氏名又は名称】大森 桂子
(72)【発明者】
【氏名】勝川 雅裕
【審査官】二星 陽帥
(56)【参考文献】
【文献】韓国公開特許第10-2011-0098223(KR,A)
【文献】特開昭63-269946(JP,A)
【文献】特開2004-129523(JP,A)
【文献】特開2006-180842(JP,A)
【文献】特開平01-148166(JP,A)
【文献】特開昭59-045830(JP,A)
【文献】特開平04-094661(JP,A)
【文献】特開平06-014765(JP,A)
【文献】国際公開第2006/135089(WO,A1)
【文献】特開平06-197719(JP,A)
【文献】特開平07-236417(JP,A)
【文献】特開平07-031371(JP,A)
【文献】特開2017-077187(JP,A)
【文献】~大豆をまるごと使った、おからが出ない豆腐」の秘密~,須坂市公認ポー タルサイト・いけいけすざか [online],2016年05月20日,URL: https://blog.s uzaka.jp/ijushien/2016/05/20/p31402 [検索日 2021.05.21]
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23C 20/02
A23L 11/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水に浸漬して含水させた大豆を麿砕して得た呉汁から不溶性成分を分離して得た豆乳に、おからを乾燥質量で50質量%以下(ただし、0質量%は含まない)添加した原料を、乳酸
菌を用いて凝固させる凝固工程と、
前記凝固工程により得た凝固物からホエイを分離してカードを形成する工程と、
麹菌により前記カードを発酵・熟成させる工程と
を有し、
前記発酵・熟成させる工程では、前記カードに前記麹菌の種麹、豆麹若しくは米麹を混合するか、又は、前記カードの表面に前記麹菌の種麹を含む液を噴霧するチーズ様発酵食品の製造方法。
【請求項2】
前記発酵・熟成させる工程において、麹菌として醤油用麹菌及び/又は味噌用麹菌を用いる請求項1に記載のチーズ様発酵食品の製造方法。
【請求項3】
前記発酵・熟成させる工程において、Aspergillus oryzae及び/又はAspergillus soyaを用いる請求項1又は2に記載のチーズ様発酵食品の製造方法。
【請求項4】
前記原料として、豆乳100質量部に対して、おからを乾燥質量で2.5~38.3質量部配合したものを用いる請求項1~3のいずれか1項に記載のチーズ様発酵食品の製造方法。
【請求項5】
前記豆乳及び前記おからのいずれか一方又は両方は、脱皮大豆を用いて製造されたものである請求項1~4のいずれか1項に記載のチーズ様発酵食品の製造方法。
【請求項6】
前記おからとして、おからパウダーを用いる請求項1~5のいずれか1項に記載のチーズ様発酵食品の製造方法。
【請求項7】
水に浸漬して含水させた大豆を麿砕して得た呉汁から不溶性成分を分離して得た豆乳に、おからを乾燥質量で50質量%以下(ただし、0質量%は含まない)添加した原料の凝固物から形成されたカードを、麹菌により発酵・熟成させたチーズ様発酵食品であって、
香気成分として、イソ吉草酸を0.65mg/g以上含有するチーズ様発酵食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、豆乳とおからを用いてチーズ様発酵食品を製造する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、豆乳を原料とするチーズ様発酵食品に関する種々の検討がなされている(例えば、特許文献1~4,非特許文献1参照)。特許文献1には、原料大豆中の可溶性糖区分の60%以上を除去した豆乳を、チーズと同様の方法で発酵及び熟成させて、チーズ様食品を製造する方法が提案されている。また、非特許文献1には、乳酸発酵に用いる乳酸菌の種類や発酵・熟成に用いるチーズカビの種類を変えて作製した豆乳チーズについて、成分分析結果及び抗酸化性の評価結果が開示されている。
【0003】
しかしながら、特許文献1や非特許文献1に記載の方法のように、原料を牛乳から豆乳に置き換えただけでは、豆乳特有の臭いや味が強くなり、チーズに近い風味の発酵食品を得ることはできない。そこで、特許文献2には、大豆特有の味や臭いを低減するため、大豆原料にラクトコッカス・ラクチス・サブピーシーズ・ラクチスCu-1株、又は/及び、ラクトバシルス・プランタラムAP-1株から選択される植物質由来の乳酸菌を加えて乳酸発酵させ、得られた発酵物を固形状に固め、熟成するチーズ様大豆発酵食品の製法が提案されている。
【0004】
また、特許文献3には、特殊な豆乳を使用したり、カビ付けにより長期の熟成を行ったりすることなくプロセスチーズ様食品を得るため、プロテアーゼ活性を有する乳酸菌で豆乳を発酵させて得たカードを、加温及び濾過することによりチーズ様食品を製造する方法が提案されている。更に、特許文献4には、消化性に優れ、香味、組成においても風味良好なナチュラルチーズ様発酵食品を得るため、チーズ製法の常法に従って処理したカードを、型詰、圧搾して固形状に成形した後、空気との接触を遮断しつつ麹を基質とした醸造物中で発酵熟成させる方法が提案されている。
【0005】
一方、栄養価を高めるため、豆乳ではなく、おからを含む大豆粉を用いて発酵食品を製造する方法も提案されている(特許文献5参照)。例えば、特許文献5に記載の乳酸菌発酵物の製造方法では、2段階で加熱処理された丸大豆を粉砕して得た大豆粉を、熱水に分散溶解して大豆粉分散溶解液とし、この大豆粉分散溶解液をプロテアーゼ処理して均質化した後、乳酸菌で発酵させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平7-236417号公報
【文献】特開2009-136158号公報
【文献】国際公開第2009/001443
【文献】特開昭63-269946号公報
【文献】特開2017-153458号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】西山美樹、他5名,”豆乳を用いたチーズ様食品の調製とその抗酸化性および特性”,日本食品科学工学会誌,公益社団法人日本食品科学工学会,2013年9月,第60巻,第9号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、前述した従来の方法では、豆乳及びおからを原料としてチーズに近い風味及び食感のチーズ様発酵食品を製造することは困難である。具体的には、特許文献2に記載の方法のように乳酸発酵の際に植物質由来の乳酸菌を加えても、チーズ特有の香気成分や旨味成分は産生されない。また、特許文献3,5に記載の方法のように、乳酸発酵のみ行い、熟成工程を行わずに製造した場合、チーズ特有の香気成分が産生されないため、チーズに近い風味は得られない。
【0009】
一方、特許文献4に記載の方法は、麹を基質とした醸造物中で発酵熟成しており、用いる醸造物によって味や風味が大きく変化するため、チーズに近い自然な風味の発酵食品を得ることは難しい。また、特許文献4に記載の方法には、酵母を添加した麹を基質とした醸造物を用いると、アルコールが発生したり、酵母により糖が消費されて風味が変化したりするという問題点もある。
【0010】
そこで、本発明は、豆乳とおからを含む原料を用いて、チーズに近い風味を呈し、かつ、なめらかな食感を有し、かつ、不足しがちな食物繊維を摂取できるチーズ様発酵食品を製造することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係るチーズ様発酵食品の製造方法は、水に浸漬して含水させた大豆を麿砕して得た呉汁から不溶性成分を分離して得た豆乳に、おからを乾燥質量で50質量%以下(ただし、0質量%は含まない)添加した原料を、乳酸菌を用いて凝固させる凝固工程と、前記凝固工程により得た凝固物からホエイを分離してカードを形成する工程と、麹菌により前記カードを発酵・熟成させる工程とを有し、前記発酵・熟成させる工程では、前記カードに前記麹菌の種麹、豆麹若しくは米麹を混合するか、又は、前記カードの表面に前記麹菌の種麹を含む液を噴霧する。
前記発酵・熟成させる工程では、麹菌として醤油用麹菌及び/又は味噌用麹菌を用いることができ、具体的には、Aspergillus oryzae及び/又はAspergillus soyaを用いることができる。
また、前記原料としては、例えば、豆乳100質量部に対して、おからを乾燥質量で2.5~38.3質量部配合したものを用いることができる。
なお、原料に用いる前記豆乳及び前記おからのいずれか一方又は両方は、脱皮大豆を用いて製造されたものとしてもよい。
【0012】
本発明に係る発酵食品は、水に浸漬して含水させた大豆を麿砕して得た呉汁から不溶性成分を分離して得た豆乳に、おからを乾燥質量で50質量%以下(ただし、0質量%は含まない)添加した原料の凝固物から形成されたカードを、麹菌により発酵・熟成させたチーズ様発酵食品であり、香気成分として、イソ吉草酸を0.65mg/g以上含有するものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、豆乳とおからを含む原料から、チーズに近い風味を有し、ざらつきがなくなめらかな食感で、かつ、食物繊維を摂取することができるチーズ様発酵食品を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の実施形態のチーズ様発酵食品の製造工程を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための形態について、添付の図面を参照して、詳細に説明する。なお、本発明は、以下に説明する実施形態に限定されるものではない。
【0016】
図1は本発明の実施形態に係るチーズ様発酵食品の製造工程を示すフローチャートである。
図1に示すように本実施形態のチーズ様発酵食品の製造方法は、凝固工程(ステップS1)と、カード形成工程(ステップS2)と、発酵・熟成工程(ステップS3)とを行う。
【0017】
[凝固工程]
凝固工程S1では、豆乳及びおからを含有し、おから含有量(乾燥質量)が全質量の50質量%以下(ただし、0質量%は含まない)である原料を、乳酸菌、酸及び凝固剤のうち少なくとも1種を用いて凝固させて凝固物を得る。原料に用いる豆乳は、水に浸漬して含水させた大豆を麿砕して得た呉汁からおからなどの不溶性成分を分離して得られる豆乳であればよい。
【0018】
また、原料に用いるおからは、豆腐や豆乳を製造する過程で発生するものを用いることができ、各種おからの中でも豆乳を製造する過程で発生する豆乳おからを使用することが好ましい。豆乳おからは、例えば水に浸した大豆をつぶした呉汁から遠心分離することにより得られる。また、本実施形態のチーズ様発酵食品の製造方法では、生おからを用いてもよいが、生おからを乾燥しパウダー化したおからパウダーを用いることが好ましく、特に豆乳おからパウダーが好適である。
【0019】
おからは、凝固物にしたときのざらつきなどをなくし、食感を向上させる観点から、粒子が細かいものを用いることが好ましく、具体的にはレーザ回折式粒度分布測定装置を用いた粒子径解析-レーザ回折・散乱法(ISO13320、ISO9276、JISZ8825:2013)により測定した粒子径(メディアン径)が500μm以下のものが好ましく、より好ましくは200μm以下、更に好ましくは100μm以下である。
【0020】
原料に用いる豆乳及びおからの種類は特に限定されるものではないが、脱皮大豆を用いて製造された豆乳やおからを用いることが好ましい。これにより、大豆特有の青臭さが低減され、よりチーズに近い風味の発酵食品が得られる。なお、原料に用いる豆乳及びおからは、1種に限定されるものではなく、大豆の種類や加工方法が異なるものを、複数組み合わせて使用することもできる。
【0021】
ただし、原料中のおから量が乾燥質量で50質量%を超えると、おから由来のぼそぼそした食感が際立ち、発酵・熟成工程を経てもざらつきが残り、なめらかな食感が得られない。そこで、本実施形態のチーズ様発酵食品の製造方法で用いる原料は、全質量あたりのおから量を乾燥質量で50質量%以下(ただし、0質量%は含まない)とする。なお、原料におけるおから以外の成分は、主に豆乳であるが、本発明の効果を阻害しない範囲であれば、各種調味料、香味野菜やハーブ、色素などの豆乳及びおから以外の成分が含まれていてもよい。
【0022】
また、原料における豆乳とおからの配合比は、特に限定されるものではないが、豆乳100質量部に対して、おからを乾燥質量で2.5~38.3質量部配合することが好ましい。前述した割合で、豆乳とおからを配合することで、チーズ様の風味を損なうことなく、発酵食品中の食物繊維含有量を高めることができる。
【0023】
2020年版日本人の食事摂取基準(厚生労働省)と、平成30年国民健康・栄養調査(厚生労働省)の結果を比較すると、特に食物繊維の不足している20~59歳の男女では、食物繊維が4.0~8.1g不足していることがわかる。そこで、豆乳100質量部に対しておからを乾燥質量で2.5質量部配合して製造されたチーズ様発酵食品を100g摂取することにより、前述した食物繊維の不足分を補うことができる。
【0024】
前述した原料は、豆乳とおからを混合した後で殺菌処理を施してもよく、また、殺菌処理済みの豆乳やおからを用いてもよい。更に、原料には、必要に応じて、水や糖を添加することもできる。
【0025】
本実施形態のチーズ様発酵食品の製造方法において乳酸を用いて原料を凝固させる場合は、豆乳とおからを含有する原料に乳酸菌を添加して乳酸発酵させる。その際用いられる乳酸菌としては、例えば、ストレプトコッカス・サーモフィラスなどのストレプトコッカス属の乳酸菌、ラクトバチルス・ブルガリカス、ラクトバチルス・カゼイ、ラクトバチルス・アシドフィルス、ラクトバチルス・ガッセリ、ラクトバチルス・デルブルッキィなどのラクトバチルス属の乳酸菌、ラクトコッカス・ラクティスなどのラクトコッカス属の乳酸菌、ロイコノストック・メセンテロイテス、ロイコノストック・ラクティスなどのロイコノストック属の乳酸菌、エンテロコッカス・フェカーリス、エンテロコッカス・フェシウムなどのエンテロコッカス属の乳酸菌、ビフィドバクテリウム・ビフィダム、ビフィドバクテリウム・アドレッセンティスなどのビフィドバクテリウム属の乳酸菌、ペディオコッカス・ペントサセウス、ペディオコッカス・ハロフィルスなどのペディオコッカス属の乳酸菌が挙げられるが、これらに限定されるものではなく、豆乳及びおからを含有する原料を凝集させることができるものであればよい。
【0026】
乳酸発酵の条件は、特に限定されるものではなく、原料や乳酸菌の種類に応じて適宜設定することができるが、例えば前述した乳酸菌を用いる場合は、20~43℃の温度条件下で、4~20時間程度行えばよい。これにより、原料中のタンパク質が凝固し、pH5以下の乳酸発酵物が得られる。なお、乳酸発酵により得た凝固物は、乳酸菌の殺菌及びホエイ排出促進のため、中心温度が85℃以上となる温度で1~15分程度、加熱・殺菌することが好ましい。
【0027】
一方、酸によって原料を凝固させる場合は、原料にクエン酸、乳酸、酢酸、アスコルビン酸及びグルコン酸などの有機酸や希塩酸などの無機酸を添加し、pHが酸性になるよう調整する。また、凝固剤により原料を凝固させる場合は、原料に豆腐用凝集剤として用いられている塩化マグネシウムや塩化カルシウムなどの2価の金属塩を添加すればよい。
【0028】
[カード形成工程]
カード形成工程S2では、凝固物からホエイを分離してカードを形成する。ホエイの分離方法は、チーズの製造で用いられている方法を適用することができる。例えば、凝固物を綿布で包み、又は、モールドやフープに入れ、所定の圧力をかけて一晩静置する。これにより、ホエイが排出され、適度な固さを有するカードが得られる。
【0029】
なお、チーズ様発酵食品に塩を含有させる場合は、例えば、ホエイを排出させて得たカードを一度崩して塩を加えた後、再度綿布で包み又はモールドやフープに入れ、所定の圧力をかけた状態で4~12時間静置して、カードを再形成すればよい。又は、例えば、カードを20%食塩水中に10分間~一晩浸漬することで加塩することもできる。
【0030】
[発酵・熟成工程]
発酵・熟成工程S3では、前述したカード形成工程S2で形成したカードに麹菌を付着させ、この麹菌によってカードを発酵・熟成させる。麹菌の種類は、特に限定されるものではないが、醤油用麹菌及び味噌用麹菌が好ましく、Aspergillus oryzae、若しくは、Aspergillus soya、又はその両方を用いることがより好ましい。これにより、チーズに近い風味を呈し、なめらかな食感で、旨みを有するチーズ様発酵食品が得られる。なお、麹菌は、単体で使用してもよいが、複数種を組み合わせて使用してもよい。
【0031】
麹菌を付着させる方法も特に限定されるものではなく、例えば、カードの表面全体に麹菌が付着するように前述した麹菌の種麹を含む液をカードに噴霧する方法や、前述した麹菌の種麹、豆麹又は米麹をカードに混合する方法などを適用することができる。
【0032】
一方、熟成期間は、製造されるチーズ様発酵食品の種類や熟成温度に応じて適宜設定することができる。例えば、クリームチーズやカッテージチーズのようなフレッシュな香りや酸味のあるあっさりとした風味の発酵食品を製造する場合は、熟成期間を短くすることが好ましい。一方、パルミジャーノ・レジャーノのように旨味が強く、芳醇な風味を有する発酵食品を製造する場合は、1ヶ月以上熟成することが好ましい。なお、本実施形態のチーズ様発酵食品は、一定の温度湿度下(主に7~16℃の低温下)において熟成することで、チーズのような風味と食感が形成される。
【0033】
工業的には、麹菌を付着させたカードを、例えば25~35℃の温度条件下に1~3日間静置して麹菌を育成させた後、例えば15~25℃の温度条件下に10~60日間静置して熟成させることにより、チーズ様発酵食品を得ることができる。その際、熟成条件を変えることにより、異なる種類のチーズ様発酵食品を製造することができ、例えば麹菌を旺盛に生育させると、ブルーチーズのように麹臭が強いチーズ様発酵食品とすることができる。
【0034】
また、麹臭を抑えたチーズにするためには、例えば、麹菌を育成させたカードを、脱酸素剤を入れたフィルム袋で密封包装又はパラフィン紙に包み、その状態で熟成してもよい。これにより、麹菌の生育が止まり、麹菌が旺盛に生育することで呈する麹臭の発生を抑制したチーズ様発酵食品を製造できる。更に、カードは、有害な微生物の混入・繁殖を抑えた状態で熟成させることが好ましく、これにより、熟成期間に麹菌が作り出した酵素にてチーズ様に発酵熟成させることができる。
【0035】
前述した方法で製造されたチーズ様発酵食品は、香気成分としてイソ吉草酸を0.65mg/g以上含有する。ここでいうイソ吉草酸含有量は、ガスクロマトグラフィーを用いて測定した値である。イソ吉草酸は、チーズに近い風味をもたらすものであり、本実施形態の方法で製造された発酵食品は、豆乳及びおからを用いて製造したにもかかわらず、イソ吉草酸含有量が多く、チーズに近い風味を呈する。
【0036】
以上詳述したように、本実施形態のチーズ様発酵食品の製造方法は、麹菌により発酵・熟成しているため、原料におからが含まれていても、豆乳特有の青臭さが抑えられると共に、ざらつきがなくなめらかな食感を呈するチーズ様発酵食品が得られる。また、本実施形態のチーズ様発酵食品は、原料に豆乳とおからを使用しているため、栄養価が高いだけでなく、旨みも感じられる。
【実施例】
【0037】
以下、実施例及び比較例を挙げて、本発明の効果について具体的に説明する。
【0038】
(第1実施例)
本実施例においては、豆乳とおからの配合比を変えてチーズ様発酵食品を作製し、風味及び食感を評価した。
【0039】
<試料の作製>
実施例の原料には、豆乳(キッコーマン飲料株式会社製 無調整豆乳)に、豆乳おから(キッコーマンソイフーズ株式会社製 豆乳おからパウダー)を所定量添加したものを用いた。そして、これらの原料に必要に応じて水を加え、中心温度85℃以上で15分間加熱殺菌したものに、乳酸菌(Streptococcus thermophilus,Lactobacillus delbrueckii subsp.bulgaricus,Lactobacillus helveticus)を添加して43℃で7時間発酵させた。
【0040】
得られた乳酸発酵物(凝固物)を、中心温度85℃以上で1分間加熱殺菌した後、綿の布とモールドで包み、圧力をかけた状態で一晩静置し、ホエイを排出させてカードを形成した。その後、形成したカードを一度崩し、カード全質量に対して4質量%の食塩を添加した後、綿の布とモールドで包み、圧力をかけた状態で5時間静置して、カードを再形成させた。
【0041】
次に、得られたカード全面に、Aspergillus oryzae(Bioc社製 良い種麹醤油用)の種麹0.103gを0.9質量%食塩水10mlに懸濁させた液を噴霧した。麹菌を付着させたカードは、25℃の温度条件下で2日間又は3日間静置し、表面が黄色でわずかに緑色になるまで、麹菌を生育した。更に、各試料を、脱酸素剤を入れたフィルム袋に入れて密封し、15℃の温度条件下で4~8週間静置し、熟成させた。
【0042】
<評価>
所定期間熟成させた後、各試料を袋から取り出し、2人のパネルにより、食感(なめらかさ)及び風味(チーズ様の風味)について官能評価を行った。「風味」については、2名ともチーズに近い風味を感じた場合は○、1名がチーズに近い風味を感じた場合は△、2人ともチーズに近い風味は感じられなかった場合は×とした。「食感」は、2人ともなめらか(ザラツキがない)と感じた場合は〇、1名のみなめらかと感じた場合には△、2名ともザラツキがあると感じ場合は×とした。
【0043】
以上の結果を下記表1に示す。なお、下記表1に示す原料組成の残部は、豆乳おからに含まれる水分などである。
【0044】
【0045】
上記表1に示すように、おからの配合量(乾燥質量)が原料全質量の50質量%を超えている比較例1の発酵食品、及び豆乳を用いずおからと水で製造した比較例2の発酵食品は、チーズに近い風味を有していたが、熟成後もざらつきが残り、食感が劣っていた。これに対して、おから含有量(乾燥質量)が全質量の50質量%以下となるように豆乳におからを配合した原料から製造した実施例1~4の発酵食品は、大豆特有の青臭さはなく、チーズに近い風味を有し、なめらかな食感が得られた。
【0046】
(第2実施例)
次に、前述したNo.2の発酵食品と同様の方法で、熟成期間のみを変更して発酵食品を製造し、呈味(旨み)、風味(チーズ様の風味)及び食感(なめらかさ)を評価すると共に、香気成分の分析を行った。
【0047】
<評価>
「風味」及び「食感」は、第1実施例と同様の方法及び条件で官能評価を行った。また、「呈味」についても、2名のパネルにより官能評価を行い、2名とも旨みを感じた場合は○、1名が旨みを感じた場合は△、2人とも旨みを感じなかった場合は×とした。
【0048】
香気成分の分析は、ガスクロマトグラフィー(アルファ・モス・ジャパン社製 HERACLES II)により行い、チーズ特有の香気成分であるイソ吉草酸の濃度を算出した。その際、サンプルを20mlのバイアルに2g封入し、SPME(固相マイクロ抽出法)にてバイアル内部の成分の濃縮、抽出を行い、トラップ温度を40℃/240℃(脱離温度)とし、キャリアガスは水素を用いた。カラムはメタルキャピラリーカラム(MXT-5・MXT-WAX)を用い、カラム昇温条件は初期温度40℃、初期恒温時間10秒、昇温速度は1.5℃/秒にて40℃から250℃に到達させ、FID温度は260℃にて検出を行った。
【0049】
以上の結果を下記表2に示す。
【0050】
【0051】
上記表2に示すように、イソ吉草酸を0.65mg/g以上含有する発酵食品は、呈味(旨味)、食感、風味の全てに優れていた。
【0052】
以上の結果から、本発明によれば、豆乳とおからを含む原料からチーズに近い風味及び食感を有し、不足しがちな食物繊維を容易に摂取できるチーズ様発酵食品を製造できることが確認された。