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特許7572234樹脂組成物、樹脂フィルム、金属張積層板及びプリント配線板
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-15
(45)【発行日】2024-10-23
(54)【発明の名称】樹脂組成物、樹脂フィルム、金属張積層板及びプリント配線板
(51)【国際特許分類】
   C08L 79/08 20060101AFI20241016BHJP
   C08K 3/22 20060101ALI20241016BHJP
   C08K 3/36 20060101ALI20241016BHJP
   C08L 27/12 20060101ALI20241016BHJP
   C08L 101/12 20060101ALI20241016BHJP
   H05K 1/03 20060101ALI20241016BHJP
【FI】
C08L79/08 Z
C08K3/22
C08K3/36
C08L27/12
C08L101/12
H05K1/03 610H
H05K1/03 610N
H05K1/03 610S
H05K1/03 630H
【請求項の数】 18
(21)【出願番号】P 2020213772
(22)【出願日】2020-12-23
(65)【公開番号】P2022099776
(43)【公開日】2022-07-05
【審査請求日】2023-11-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000006644
【氏名又は名称】日鉄ケミカル&マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115118
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邊 和浩
(74)【代理人】
【識別番号】100095588
【弁理士】
【氏名又は名称】田治米 登
(74)【代理人】
【識別番号】100094422
【弁理士】
【氏名又は名称】田治米 惠子
(74)【代理人】
【識別番号】110000224
【氏名又は名称】弁理士法人田治米国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤 麻織人
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 智之
【審査官】櫛引 智子
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-193164(JP,A)
【文献】特開平09-227695(JP,A)
【文献】特開2008-019428(JP,A)
【文献】特開2005-179631(JP,A)
【文献】特開平06-046726(JP,A)
【文献】国際公開第2020/241902(WO,A1)
【文献】国際公開第2021/085329(WO,A1)
【文献】特開2020-056011(JP,A)
【文献】特開2020-163841(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08K,C08L
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の(A)~(C)成分;
(A)繊維状液晶ポリマーフィラー、
(B)粒子状金属酸化物フィラー
及び
(C)ポリイミド、その前駆体、液晶ポリマー及びフッ素樹脂から選ばれる1種以上
を含有するとともに、樹脂組成物中の固形分の含有量に対し、前記(A)成分及び前記(B)成分のフィラーの合計含有量が10~90体積%の範囲内であり、前記(C)成分の含有量が10~90体積%の範囲内である樹脂組成物。
【請求項2】
前記(A)成分の繊維状液晶ポリマーフィラーの長軸の平均長さLと、長軸に対し直交する短軸の平均径Dとの比L/Dが2.5以上である請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記(A)成分の繊維状液晶ポリマーフィラーの長軸の平均長さLが0.1mm~5mmの範囲内であり、短軸の平均径Dが5μm~50μmの範囲内である請求項に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
前記(A)成分の繊維状液晶ポリマーフィラーの融点が290℃以上である請求項1からのいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
前記樹脂組成物中の固形分の含有量に対し、前記(A)成分の繊維状液晶ポリマーフィラーの含有量が5~60体積%の範囲内である請求項1からのいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
前記(B)成分の粒子状金属酸化物フィラーは、体積平均粒子径D50が1μm~100μmの範囲内である請求項1からのいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項7】
前記(B)成分の粒子状金属酸化物フィラーが、CuKα線によるX線回折分析スペクトルの2θ=10°~90°の範囲におけるSiOに由来する全ピークの総面積に対するクリストバライト結晶相及びクオーツ結晶相に由来するピークの合計面積の割合が20重量%以上のシリカ粒子である請求項1からのいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項8】
前記樹脂組成物中の固形分の含有量に対し、前記(B)成分の粒子状金属酸化物フィラーの含有量が20~80体積%の範囲内である請求項1からのいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項9】
体積基準で、前記(B)成分の粒子状金属酸化物フィラーの含有量に対する前記(A)成分の繊維状液晶ポリマーフィラーの含有量の比[(A)成分/(B)成分]が、0.1~10の範囲内である請求項1からのいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項10】
前記(B)成分の粒子状金属酸化物フィラーの体積平均粒子径D50に対する前記(A)成分の繊維状液晶ポリマーフィラーの短軸の平均径Dの比[D/D50]が、1~50の範囲内である請求項1からのいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項11】
前記(B)成分の粒子状金属酸化物フィラーの体積平均粒子径D50に対する前記(A)成分の繊維状液晶ポリマーフィラーの長軸の平均長さLの比[L/D50]が、10~1000の範囲内である請求項1から10のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項12】
前記(C)成分のポリイミドが、熱可塑性ポリイミドである請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項13】
前記熱可塑性ポリイミドが、原料としてジアミン成分を用いるポリイミドであって、前記ジアミン成分が、全ジアミン成分に対し、ダイマー酸の二つの末端カルボン酸基が第1級のアミノメチル基又はアミノ基に置換されてなるダイマージアミンを主成分とするダイマージアミン組成物を30モル%以上含有するポリイミドである請求項12に記載の樹脂組成物。
【請求項14】
単層又は複数層の樹脂層を有する樹脂フィルムであって、
前記樹脂層の少なくとも1層が、請求項1~13のいずれか1項に記載の樹脂組成物を使用して形成されたフィラー含有樹脂層であることを特徴とする樹脂フィルム。
【請求項15】
前記フィラー含有樹脂層は、23℃、50%RHの恒温恒湿条件のもと24時間調湿後にスプリットポスト誘電体共振器(SPDR)により測定される10GHzにおける比誘電率が3以下であり、誘電正接が0.003以下である請求項14に記載の樹脂フィルム。
【請求項16】
前記フィラー含有樹脂層は、10℃から20℃におけるMD方向の平均熱膨張係数(CTE)の絶対値が50ppm/K以下であり、かつ、TD方向の平均熱膨張係数(CTE)の絶対値が100ppm/K以下である請求項14又は15に記載の樹脂フィルム。
【請求項17】
単層又は複数層から構成される絶縁樹脂層と、前記絶縁樹脂層の少なくとも一方の面に積層された金属層と、を備えた金属張積層板であって、
前記絶縁樹脂層を構成する少なくとも1層が、請求項14~16のいずれか1項に記載の樹脂フィルムからなることを特徴とする金属張積層板。
【請求項18】
単層又は複数層から構成される絶縁樹脂層と、前記絶縁樹脂層の少なくとも一方の面に積層された回路配線層と、を備えたプリント配線板であって、
前記絶縁樹脂層を構成する少なくとも1層が、請求項14~16のいずれか1項に記載の樹脂フィルムからなることを特徴とするプリント配線板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば回路基板材料として有用な樹脂組成物、それを用いる樹脂フィルム、金属張積層板及びプリント配線板に関する。
【背景技術】
【0002】
フレキシブル回路基板(Flexible Printed Circuit Board;FPC)は、限られたスペースでも立体的かつ高密度の実装が可能であるため、電子機器の可動部分の配線や、ケーブル、コネクター等の部品にその用途が拡大し、多くの分野の機器へ搭載されている。それに伴い、FPCが使用される環境の多様化が進み、要求される性能も高度化している。例えば、情報処理や情報通信においては、大容量情報を伝送・処理するために伝送周波数を高くする取り組みが行われており、回路基板についても、絶縁樹脂層の誘電特性の改善による伝送損失の低減が強く求められている。
【0003】
絶縁樹脂層の誘電特性を改善するための一つのアプローチとして、絶縁樹脂層を構成する母材自体を誘電正接が低い樹脂により構成することが検討されている。例えば、液晶ポリマーは、低誘電率、低誘電正接を特徴とする樹脂であり、これを母材とすることによって、絶縁樹脂層の誘電特性を大きく改善することができる。しかし、液晶ポリマーを母材とするフィルムは、耐熱性や金属箔との接着性が低いという問題があり、回路基板材料として要求される特性のすべてを満足するものではない。また、誘電特性に優れた樹脂材料として、フッ素樹脂、ポリオレフィン、ポリスチレン、ポリエステルなども知られている。しかし、これらの樹脂は、熱膨張係数が非常に大きく、絶縁樹脂層に使用した場合に回路基板の寸法安定性が著しく損なわれる、という問題があった。
【0004】
別のアプローチとして、絶縁樹脂層を構成する母材に、比誘電率や誘電正接を低下させ得るフィラーを複合化することも検討されている。しかし、絶縁樹脂層に無機フィラーを添加すると、樹脂フィルムの柔軟性や靭性が低下し、回路基板材料として必要な物性が損なわれるという問題が生じやすい。
【0005】
ところで、絶縁樹脂層にフィラーを添加することによって複合化し、機能性を高める手法は、誘電特性の改善に限らず広く知られている。例えば、特許文献1では、射出成型されるエポキシ樹脂へアラミド繊維またはガラス繊維を添加することによって、機械的強度に優れ、熱膨張率が低い絶縁樹脂を得ることが提案されている。特許文献1では、さらに粒状フィラーを添加することで、繊維状フィラーに特有の熱膨張係数の異方性が解消できるとの記載があるが、誘電特性やフレキシブル性に対する検討はなされていない。
また、特許文献2では、エポキシ樹脂へ繊維状フィラーと球状フィラーを添加することによって、熱膨張係数の異方性の少ない高強度な成形材料を作製することが提案されている。しかしながら、特許文献2では、無機繊維を用いている為、フレキシブルな樹脂フィルムへの成型は困難であり、誘電特性の改善についての検討もなされていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平11-273456公報
【文献】特許第6547277号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、本発明の目的は、柔軟性や靭性などの物性を損なうことなく、誘電特性と寸法安定性が両立されている樹脂フィルムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため鋭意検討を行った結果、母材となる樹脂中に繊維状の液晶ポリマーフィラーと、粒子状の金属酸化物フィラーを組み合わせて配合することによって、樹脂フィルムの物性を損なうとこなく、誘電特性と寸法安定性を同時に改善できることを見出し、本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明の樹脂組成物は、下記の(A)~(C)成分;
(A)繊維状液晶ポリマーフィラー、
(B)粒子状金属酸化物フィラー
及び
(C)熱可塑性樹脂及び/又は熱硬化性樹脂
を含有する。
【0010】
本発明の樹脂組成物において、前記樹脂組成物中の固形分の含有量に対し、前記(A)成分及び前記(B)成分のフィラーの合計含有量が10~90体積%の範囲内であってもよく、前記(C)成分の含有量が10~90体積%の範囲内であってもよい。
【0011】
本発明の樹脂組成物は、前記(A)成分の繊維状液晶ポリマーフィラーの長軸の平均長さLと、長軸に対し直交する短軸の平均径Dとの比L/Dが2.5以上であってもよい。
【0012】
本発明の樹脂組成物は、前記(A)成分の繊維状液晶ポリマーフィラーの長軸の平均長さLが0.1mm~5mmの範囲内であってもよく、短軸の平均径Dが5μm~50μmの範囲内であってもよい。
【0013】
本発明の樹脂組成物は、前記(A)成分の繊維状液晶ポリマーフィラーの融点が290℃以上であってもよい。
【0014】
本発明の樹脂組成物は、前記樹脂組成物中の固形分の含有量に対し、前記(A)成分の繊維状液晶ポリマーフィラーの含有量が5~60体積%の範囲内であってもよい。
【0015】
本発明の樹脂組成物において、前記(B)成分の粒子状金属酸化物フィラーは、体積平均粒子径D50が1μm~100μmの範囲内であってもよい。
【0016】
本発明の樹脂組成物は、前記(B)成分の粒子状金属酸化物フィラーが、CuKα線によるX線回折分析スペクトルの2θ=10°~90°の範囲におけるSiOに由来する全ピークの総面積に対するクリストバライト結晶相及びクオーツ結晶相に由来するピークの合計面積の割合が20重量%以上のシリカ粒子であってもよい。
【0017】
本発明の樹脂組成物は、前記樹脂組成物中の固形分の含有量に対し、前記(B)成分の粒子状金属酸化物フィラーの含有量が20~80体積%の範囲内であってもよい。
【0018】
本発明の樹脂組成物は、体積基準で、前記(B)成分の粒子状金属酸化物フィラーの含有量に対する前記(A)成分の繊維状液晶ポリマーフィラーの含有量の比[(A)成分/(B)成分]が、0.1~10の範囲内であってもよい。
【0019】
本発明の樹脂組成物は、前記(B)成分の粒子状金属酸化物フィラーの体積平均粒子径D50に対する前記(A)成分の繊維状液晶ポリマーフィラーの短軸の平均径Dの比[D/D50]が、1~50の範囲内であってもよい。
【0020】
本発明の樹脂組成物は、前記(B)成分の粒子状金属酸化物フィラーの体積平均粒子径D50に対する前記(A)成分の繊維状液晶ポリマーフィラーの長軸の平均長さLの比[L/D50]が、10~1000の範囲内であってもよい。
【0021】
本発明の樹脂組成物は、前記(C)成分が、熱可塑性ポリイミド、液晶ポリマー及びフッ素樹脂から選ばれる1種以上であってもよい。
【0022】
本発明の樹脂組成物は、前記(C)成分が、原料としてジアミン成分を用いるポリイミドであって、前記ジアミン成分が、全ジアミン成分に対し、ダイマー酸の二つの末端カルボン酸基が第1級のアミノメチル基又はアミノ基に置換されてなるダイマージアミンを主成分とするダイマージアミン組成物を30モル%以上含有するポリイミドであってもよい。
【0023】
本発明の樹脂フィルムは、単層又は複数層の樹脂層を有する樹脂フィルムであって、前記樹脂層の少なくとも1層が、上記いずれかの樹脂組成物を使用して形成されたフィラー含有樹脂層である。
【0024】
本発明の樹脂フィルムにおいて、前記フィラー含有樹脂層は、23℃、50%RHの恒温恒湿条件のもと24時間調湿後にスプリットポスト誘電体共振器(SPDR)により測定される10GHzにおける比誘電率が3以下であってもよく、誘電正接が0.003以下であってもよい。
【0025】
本発明の樹脂フィルムにおいて、前記フィラー含有樹脂層は、10℃から20℃におけるMD方向の平均熱膨張係数(CTE)の絶対値が50ppm/K以下であってもよく、かつ、TD方向の平均熱膨張係数(CTE)の絶対値が100ppm/K以下であってもよい。
【0026】
本発明の金属張積層板は、単層又は複数層から構成される絶縁樹脂層と、前記絶縁樹脂層の少なくとも一方の面に積層された金属層と、を備えた金属張積層板であって、前記絶縁樹脂層を構成する少なくとも1層が、上記いずれかの樹脂フィルムからなる。
【0027】
本発明のプリント配線板は、単層又は複数層から構成される絶縁樹脂層と、前記絶縁樹脂層の少なくとも一方の面に積層された回路配線層と、を備えたプリント配線板であって、前記絶縁樹脂層を構成する少なくとも1層が、上記いずれかの樹脂フィルムからなる。
【発明の効果】
【0028】
本発明の樹脂組成物は(A)~(C)成分を含有することによって、柔軟性や靭性などの物性を損なうことなく、優れた誘電特性と寸法安定性が両立された樹脂フィルムを形成できる。本発明の樹脂フィルムは、低い誘電正接によって高周波信号(特に10GHz以上の高周波信号)の伝送損失が効果的に低減され、寸法安定性にも優れることから、各種の電子機器におけるFPC等の回路基板材料として好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
本発明の一実施の形態に係る樹脂組成物は、下記の(A)~(C)成分;
(A)繊維状液晶ポリマーフィラー、
(B)粒子状金属酸化物フィラー
及び
(C)熱可塑性樹脂及び/又は熱硬化性樹脂
を含有する。
【0030】
[(A)成分:繊維状液晶ポリマーフィラー]
(A)成分の繊維状液晶ポリマーフィラーは、形状異方性を有する繊維状フィラーであり、フィラーの長軸方向の平均熱膨張係数(以下、単に「CTE」と記すことがある)が低いため、樹脂フィルムの低CTE化に寄与する。また、繊維状液晶ポリマーフィラーは柔軟性を有することから、樹脂フィルムの柔軟性維持に有効である。本発明において、「繊維状」とは、フィラーの長軸の平均長さLと、長軸に対し直交する短軸の平均径Dとの比L/Dが2.5以上であることを意味する。繊維状液晶ポリマーフィラーは、好ましくはL/Dが4.5以上、より好ましくは15.0以上、さらに好ましくは30.0以上である。L/Dが2.5未満である場合は、繊維状液晶ポリマーフィラーが樹脂フィルム中で無秩序に配置され易くなりCTEの改善効果が低減する。また、繊維状液晶ポリマーフィラー同士が凝集しやすくなるといった不具合が発現する。
【0031】
繊維状液晶ポリマーフィラーの長軸の平均長さLは、繊維状液晶ポリマーフィラーと(C)成分との複合化手法により適宜選択できるが、繊維状液晶ポリマーフィラーを(C)成分に分散させる際の分散性を考慮すると、例えば、0.1mm~5mmの範囲内が好ましく、0.2mm~1mmの範囲内がより好ましい。長軸の平均長さLが0.1mm未満では、樹脂組成物をキャストして樹脂フィルムを形成したときに、フィルムの厚み方向に繊維状液晶ポリマーフィラーが配向する割合が多くなってCTEを下げる効果が行われる。一方、長軸の平均長さLが5mmを超えると、繊維状液晶ポリマーフィラー同士が絡まり、樹脂組成物をキャストして樹脂フィルムを形成することが困難となる。長軸の平均長さLが上記範囲内であれば、ハンドリング性を損なうことなく、また、樹脂フィルムを形成したときの表面平滑性を悪化させることがなく、外観良好な樹脂フィルムが得られる。
【0032】
繊維状液晶ポリマーフィラーの短軸の平均径Dは、例えば5μm~50μmの範囲内が好ましく、10μm以上30μm以下の範囲内がより好ましい。短軸の平均径Dが上記範囲内であれば、樹脂フィルムを形成したときの表面平滑性を悪化させることがなく、外観良好な樹脂フィルムが得られる。
【0033】
繊維状液晶ポリマーフィラーを構成する液晶ポリマー(Liquid Crystal Polymer)は、溶融時に液晶性を示す樹脂であり、全芳香族系液晶ポリマーでも半芳香族系液晶ポリマーでもよい。液晶ポリマーとしては、特に限定されるものではないが、例えば、以下の(1)~(4)に分類される化合物及びその誘導体から導かれる公知のサーモトロピック液晶ポリエステル及びポリエステルアミドなどのポリエステル構造を有するものが好ましい。
(1)芳香族又は脂肪族ジヒドロキシ化合物
(2)芳香族又は脂肪族ジカルボン酸
(3)芳香族ヒドロキシカルボン酸
(4)芳香族ジアミン、芳香族ヒドロキシアミン又は芳香族アミノカルボン酸
【0034】
これらの原料化合物から得られる液晶ポリマーの代表例として、下記式(a)~(n)に示す構造単位から選ばれる2つ以上の組み合わせを有する共重合体であって、式(a)で示す構造単位又は式(e)で示す構造単位のいずれかを含む共重合体が好ましく、特に、式(a)で示す構造単位と式(e)で示す構造単位とを含む共重合体がより好ましい。また、液晶ポリマー中の芳香環が多くなるほど、誘電特性と難燃性を向上させる効果が期待できることから、上記(1)として芳香族ジヒドロキシ化合物を、上記(2)として芳香族ジカルボン酸を含むものが好ましい。
【0035】
【化1】
【0036】
繊維状液晶ポリマーフィラーの製造方法としては、溶融紡糸、溶融押出、溶液キャスティング方法、流延方法等、様々な方法があるが、効果的に液晶ポリマー分子を配向させるためには、溶融工程と押出工程による成形を経ることが好ましく、特に、次式によって求められる押出時の最大剪断速度uを、好ましくは10sec-1以上、より好ましくは10sec-1以上とすることがよい。
u= 4Q/{π×(d/2)
[但し、Qは押出吐出口断面を単位時間当たりに通過するポリマー吐出量(cm/sec)、dは押出吐出口断面の最も短い径の長さ(cm)を示すが、例えばチューブ状ノズルや細孔等の円形の押出吐出口の場合はその直径(cm)とする。]
このような最大剪断速度であると、液晶ポリマー分子の配向が十分となり、繊維状液晶ポリマーフィラーとして用いた際のCTEの制御性が得られやすくなる。
【0037】
特に細孔より樹脂を吐出することで液晶ポリマー分子が強く長軸方向へ配向した液晶ポリマー繊維が得られる。細孔とは例えば口金の孔径(直径)が1mm以下のものを指し、より好ましくは0.5mm以下のものを指す。
【0038】
得られた繊維は、複数組合せた結合物としてもよい。結合物としては、撚糸、織物、編物、不織布が例示される。結合物は、裁断、粉砕等により、細分し使用してもよい。また、形状異方性を示すフィラーを複数組合せた凝集物としてもよい。例えば、加熱または化学的な作用により凝集物を作成してもよい。凝集物は、裁断、粉砕等により、細分し使用してもよい。なお、結合物や凝集物については、それらの全体形状ではなく、繊維の状態で形状異方性を把握できればよい。
【0039】
例えば上記の方法で製造された液晶ポリマー繊維を束ねて所定の長さに切断することで、短繊維状(チョップドファイバー状、カットファイバー状とも呼ばれる)の液晶ポリマーフィラーを得ることが出来る。さらに、粉砕することによってミルドファイバー状のフィラーを製造することができる。このとき繊維は凍結させても良く、凍結させることにより効率よく液晶ポリマーフィラーを細分することが出来る。
【0040】
繊維状液晶ポリマーフィラーの断面形状は円形に限られず、星型や花型、十字型、中空型でもよい。繊維状液晶ポリマーフィラーの断面形状を変えることで、繊維状液晶ポリマーフィラーの表面積を調整して(C)成分との密着性を制御することや、樹脂溶液の粘度を制御することが出来る。
【0041】
繊維状液晶ポリマーフィラーは、分散性や(C)成分との密着性を向上させる目的で、表面改質処理がなされていてもよい。表面改質処理としては、例えば、プラズマ処理、コーティング処理などを挙げることができる。また、繊維状液晶ポリマーフィラーは、多重層構造や芯鞘型構造であってもよい。多重層構造としては例えば中空状の液晶ポリマーフィラーや多孔質状態の液晶ポリマーフィラー、芯鞘型構造としては、例えば芯部分が液晶ポリマーで、鞘部分が(C)成分と接着性が高い樹脂であるものが好ましい。(C)成分と接着性が高い樹脂としては、例えばポリイミド、ポリアミド、ペルフルオロアルコキシフッ素樹脂(PFA)、ポリオレフィン等の熱可塑性樹脂が好適である。
【0042】
液晶ポリマーは非常に優れた誘電特性を有し、これを繊維状のフィラーとして配合することによって、樹脂フィルムの誘電特性の悪化を防ぐことができる。繊維状液晶ポリマーフィラーは、単体として、23℃、50RHの環境下での20GHzにおける比誘電率が、好ましくは2~3.5の範囲内、より好ましくは、2.7~3.2の範囲内であり、誘電正接が、好ましくは0.002以下であり、より好ましくは0.0015以下であるものを用いることがよい。繊維状液晶ポリマーフィラーの誘電特性を上記範囲内とすることで、繊維状液晶ポリマーフィラーを用いて得られる樹脂フィルムの誘電特性の悪化を防ぐことが出来る。
【0043】
繊維状液晶ポリマーフィラーの誘電特性の測定方法としては、繊維状液晶ポリマーフィラーのみをそのまま集合体として、もしくは溶融成型することによって測定が可能である。樹脂フィルムから繊維状液晶ポリマーフィラーとそれ以外の成分とを分離する必要がある場合は、分離方法としては繊維状液晶ポリマーフィラーと、それ以外の成分との融点の差や溶解度の差を適宜選択して利用できる。例えば繊維状液晶ポリマーフィラーが不溶かつ繊維状液晶ポリマーフィラー以外の成分が可溶な溶剤へ樹脂フィルムを溶解し、不要物をろ過、および遠心分離によって分離することが出来る。樹脂フィルムを粉砕し、繊維状液晶ポリマーフィラーのみが融解する温度で処理することによっても液晶ポリマーを分離することが出来る。
【0044】
繊維状液晶ポリマーフィラーを構成している液晶ポリマーの融点は、液晶転移温度や液晶化温度と称される場合があるが、290℃以上が好ましい。より好ましくは300℃以上、さらに好ましくは310℃以上である。融点が290℃を下回ると電子機器等の製造過程で融解し、特性の変化をきたすおそれがある。
【0045】
[(B)成分:粒子状金属酸化物フィラー]
(B)成分の粒子状金属酸化物フィラーは、金属酸化物を主成分とするフィラーであって形状が粒子状をなすものである。「粒子状」とは、長軸の長さをX、その軸に対し直交する軸の中で最も短い短軸の長さをYとしたときに、X/Yが2.5未満、好ましくは2以下、より好ましくは1.5以下であることを意味し、例えば、板状、球状、多面体状などであってよい。また、「板状」とは、例えば、扁平状、平板状、薄片状、鱗片状等を含む意味で用い、粒子状金属酸化物フィラーの厚みが、平面部分の長径又は短径より十分に小さいもの、好ましくは1/2以下であるものをいう。粒子状金属酸化物フィラーを配合することによって、樹脂フィルムを形成したときのCTEと誘電正接を低下させることができる。また、粒子状金属酸化物フィラーは通常の燃焼温度では熱分解しないことから、添加によって難燃性の向上を図ることができる。
【0046】
粒子状金属酸化物フィラーとしては、球状のものを用いることが最も好ましい。球状とは、形状が真球状に近い粒子で、平均長径と平均短径の比が1又は1に近いものをいう。また、粒子状金属酸化物フィラーは、粒子の90重量%以上が円形度0.7以上であることが好ましく、0.9以上であることがより好ましい。粒子状金属酸化物フィラーの円形度は、画像解析法によって、撮影された粒子と同じ投影面積を持つ円を想定し、その円の周囲長と当該粒子の周囲長の比で求めることができる。円形度が0.7未満であると、表面積が増え、誘電特性に悪影響が生じることがあり、さらに樹脂溶液へ配合した際の粘度の上昇が大きくなり、取り扱いがし難くなる。また、3次元的に求められる真球度においても前記円形度の値と実質的に対応する値が好ましい。
【0047】
粒子状金属酸化物フィラーは、金属酸化物を50重量%以上含有することが好ましく、70重量%以上含有することがより好ましい。粒子状金属酸化物フィラーを構成する金属酸化物としては、例えば非晶質シリカ、結晶性シリカ、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化ベリリウム、酸化ニオブ、酸化チタンなどを挙げることができる。これらの中でも、樹脂フィルムを形成したときの低誘電正接化を図る観点から、後述するようにクリストバライト結晶相もしくはクオーツ結晶相を有する結晶性シリカ粒子が最も好ましい。
【0048】
粒子状金属酸化物フィラーの中でも、クリストバライト結晶相を有するシリカ粒子は、一般的なシリカ粒子と比較して非常に優れた誘電特性(例えば、クリストバライト結晶相を90重量%以上含有するシリカ粒子は、単体で20GHzにおける誘電正接が0.0001程度)であり、樹脂フィルムの低誘電正接化に大きく寄与することができる。
したがって、樹脂フィルムを形成したときの低誘電正接化を図る観点から、シリカ粒子全体として、CuKα線によるX線回折分析スペクトルの2θ=10°~90°の範囲におけるSiOに由来する全ピークの総面積に対するクリストバライト結晶相及びクオーツ結晶相に由来するピークの合計面積の割合が20重量%以上であるシリカ粒子が好ましく、40重量%以上であるシリカ粒子がより好ましく、80重量%以上であるシリカ粒子が望ましい。シリカ粒子全体におけるクリストバライト結晶相及び/又はクオーツ結晶相の割合を高くすることで、樹脂フィルムの更なる低誘電正接化を図ることが可能となる。シリカ粒子全体におけるクリストバライト結晶相及びクオーツ結晶相に由来するピークの面積の割合が20重量%未満であると誘電特性向上の効果が不明瞭になる。なお、X線回折分析スペクトルにおける対象のピークが、非晶質のブロードなピークとの分離が困難な場合や他の結晶相ピークと重なる場合は、公知の各種解析手法、例えば内部標準法やPONKCS法等を用いることができる。
【0049】
粒子状金属酸化物フィラーは、体積平均粒子径D50が1μm~100μmの範囲内であることが好ましく、2~50μmの範囲内であることがより好ましい。ここで、「体積平均粒子径D50」は、レーザ回折散乱法による体積基準の粒度分布測定によって得られる頻度分布曲線における累積値が50%となる値である。体積平均粒子径D50が1μm未満であると、粒子状金属酸化物フィラーの比表面積が増え、粒子表面の吸着水や極性基が誘電特性へ影響を及ぼすことがある。体積平均粒子径D50が100μmを超えると、樹脂フィルムの表面の凹凸として現れ、フィルム表面の平滑性を悪化させることがある。粒子状金属酸化物フィラーの体積平均粒子径D50が1μm~100μmの範囲内であれば、(A)成分の繊維状液晶ポリマーフィラーの短軸の平均径Dと同程度の大きさとなることから、フィルム表面の平滑性に影響せず、繊維状液晶ポリマーフィラーの配向と整列を粒子状金属酸化物フィラーによって効果的に阻害できる。また、適度な粒子径によって吸着水や表面官能基の量が低減され、誘電特性を効果的に改善できる。したがって、樹脂組成物によって樹脂フィルムを形成したときの表面平滑性を悪化させることがなく、外観良好でCTEの異方性が緩和された低誘電正接の樹脂フィルムが得られる。
【0050】
また、(A)成分の繊維状液晶ポリマーフィラーの短軸の平均径Dと、(B)成分の粒子状金属酸化物フィラーの体積平均粒子径D50との関係は、繊維状液晶ポリマーフィラーの配向と整列を効果的に阻害し、樹脂フィルムにおけるCTEの異方性を緩和する観点から、比[D/D50]が1~50の範囲内であることが好ましく、2~30の範囲内がより好ましい。比[D/D50]が1~50の範囲内であれば、繊維状液晶ポリマーフィラーの配向と整列を粒子状金属酸化物フィラーによって妨げる作用が強く働き、樹脂フィルムを形成したときのMD方向とTD方向のCTE差を縮小することができる。
【0051】
さらに、(A)成分の繊維状液晶ポリマーフィラーの長軸の平均長さLと、(B)成分の粒子状金属酸化物フィラーの体積平均粒子径D50との関係は、繊維状液晶ポリマーフィラーの配向と整列を効果的に阻害し、樹脂フィルムにおけるCTEの異方性を緩和する観点から、比[L/D50]が10~1000の範囲内であることが好ましく、20~500の範囲内がより好ましい。比[L/D50]が10~1000の範囲内であれば、繊維状液晶ポリマーフィラーの配向と整列を粒子状金属酸化物フィラーによって妨げる作用が強く働き、樹脂フィルムを形成したときのMD方向とTD方向のCTE差を縮小することができる。
【0052】
粒子状金属酸化物フィラーは、市販品を適宜選定して用いることができる。例えば、球状クリストバライトシリカ粉末(日鉄ケミカル&マテリアル社製、商品名;CR10-20)、球状非晶質シリカ粉末(日鉄ケミカル&マテリアル社製、商品名;SC70-2)などを好ましく使用できる。さらに、粒子状金属酸化物フィラーとして2種以上の異なる金属酸化物の粒子を併用してもよい。
【0053】
[(C)成分:熱可塑性樹脂及び/又は熱硬化性樹脂]
(C)成分は、樹脂フィルムとしたときのマトリクス樹脂となる成分である。(C)成分として利用可能な熱可塑性樹脂としては、例えば、熱可塑性ポリイミド、熱可塑性ビスマレイミド樹脂、熱可塑性エポキシ樹脂、熱可塑性ポリアミド、液晶ポリマー、フッ素樹脂、ポリオレフィン、ポリスチレン、ポリエーテル、ポリエーテルケトン、ポリエステルなどを挙げることができる。また、(C)成分として利用可能な熱硬化性樹脂としては、例えば、非熱可塑性ポリイミド、熱硬化性エポキシ樹脂、熱硬化性ポリフェニレンエーテル、フェノール樹脂などを挙げることができる。上記熱可塑性樹脂及び熱硬化性樹脂は、2種以上を組み合わせて使用することができる。なお、本明細書において、「熱可塑性樹脂」とは、一般に加熱によって軟化し、冷却によって固化し、これを繰り返すことができ、ガラス転移温度(Tg)が明確に確認できる樹脂を意味し、「非熱可塑性樹脂」とは、一般に加熱しても軟化しない樹脂を意味する。
【0054】
(C)成分として、上記例示のポリマーの前駆体を用いることができる。前駆体とは、ある物質について、その物質が生成する前の段階の物質のことを指し、本明細書においては樹脂の前駆体として、オリゴマー体も含める。例えば、ポリイミドの場合はポリアミド酸が前駆体に該当する。前駆体を用いることが好ましい場合としては、溶剤へ不溶なポリマーにおいても、その前駆体は可溶である場合などが挙げられる。具体的には全芳香族ポリイミドの多くは汎用溶剤へ不溶であるが、その前駆体のポリアミド酸はアミド系溶剤に容易に溶解する。また、ポリエステルは、高分子量体では溶剤に不溶な場合でもそのオリゴマー体は溶剤可溶性と成り得る。一般に、オリゴマー体とは重合度の低いポリマーを指し、本明細書においては、反復数が2~50の範囲内で分子量が5000以下であるものを指す。オリゴマー体は活性点を持つ場合、加熱等のエネルギーを与えること、溶液濃度を上昇させること、活性化剤や架橋剤を添加することによって、反応し、重合度を上げることが可能である。
【0055】
以下、(C)成分として利用可能な樹脂の中でも、特に好ましい樹脂であるポリイミド(熱可塑性、非熱可塑性)、液晶ポリマー及びフッ素樹脂について説明する。
【0056】
[ポリイミド]
ポリイミドは、下記一般式(1)で表されるイミド基を有するポリマーである。さらにアミド基やエーテル結合を有する場合にはポリアミドイミドやポリエーテルイミドと呼称されることがあるが、本明細書では、これらを総じてポリイミドと記載する。このようなポリイミドは、例えば、マレイミド成分とジアミンもしくはトリアミン成分とを重合させる方法や、ビスマレイミドと芳香族シアン酸エステルを架橋させる方法、ジアミン成分と酸二無水物成分とを実質的に等モル使用し、有機極性溶媒中で重合させる方法などの公知の方法によって製造することができる。この時、加熱を行っても良い。この場合、粘度を所望の範囲とするために、ジアミン成分に対する酸二無水物成分のモル比を調整してもよく、その範囲は、例えば0.98~1.03のモル比の範囲内とすることが好ましい。
【0057】
【化2】
【0058】
一般式(1)において、Arはテトラカルボン酸二無水物残基を含む酸無水物から誘導される4価の基を示し、Rはジアミンから誘導される2価のジアミン残基を示し、nは1以上の整数である。
【0059】
酸二無水物としては、例えば、O(OC)-Ar-(CO)Oによって表される芳香族テトラカルボン酸二無水物が好ましく、下記芳香族酸無水物残基をArとして与えるものが例示される。
【0060】
【化3】
【0061】
また、全テトラカルボン酸無水物成分の100モル部に対して、特に、下記の一般式(2)及び/又は(3)で表されるテトラカルボン酸無水物を合計で50モル部以上含有することが好ましく、80モル部以上含有することがより好ましい。
【0062】
【化4】
【0063】
一般式(2)中、Xは、単結合、または、下式から選ばれる2価の基を示し、一般式(3)中、Yで表される環状部分は、4員環、5員環、6員環、7員環又は8員環から選ばれる環状飽和炭化水素基を形成していることを示す。
【0064】
【化5】
【0065】
上記式において、Zは-C-、-(CH)n-又は-CH-CH(-O-C(=O)-CH)-CH-を示すが、nは1~20の整数を示す。
【0066】
ジアミンとしては、例えば、HN-R-NHによって表されるジアミンが好ましく、下記ジアミン残基をRとして与えるジアミンが例示される。
【0067】
【化6】
【0068】
これらのジアミンの中でも、ジアミノジフェニルエーテル(DAPE)、2,2’-ジメチル-4,4’-ジアミノビフェニル(m-TB)、パラフェニレンジアミン(p-PDA)、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン(TPE-R)、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン(APB)、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン(TPE-Q)、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン(BAPP)、2,2-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン(TFMB)、ダイマー酸(二量体脂肪酸)の二つの末端カルボン酸基が第1級アミノメチル基又はアミノ基に置換されてなるダイマージアミン、及びそれを主成分とするダイマージアミン組成物が好適なものとして例示される。
【0069】
特に、ダイマージアミン組成物は、低誘電正接化だけでなく、樹脂フィルムの靭性を高めることができるため、全ジアミン成分に対し、ダイマージアミン組成物を30モル%以上、好ましくは40モル%以上含有するジアミン成分から誘導される構造単位を含有することがよい。ここで、ダイマージアミン組成物は、下記の成分(a)を主成分として含有するとともに、成分(b)及び(c)の量が制御されている精製物である。
(a)ダイマージアミン
(b)炭素数10~40の範囲内にある一塩基酸化合物の末端カルボン酸基を第1級アミノメチル基又はアミノ基に置換して得られるモノアミン化合物
(c)炭素数41~80の範囲内にある炭化水素基を有する多塩基酸化合物の末端カルボン酸基を第1級アミノメチル基又はアミノ基に置換して得られるアミン化合物(但し、前記ダイマージアミンを除く)
【0070】
(a)成分のダイマージアミンとは、ダイマー酸の二つの末端カルボン酸基(-COOH)が、第1級のアミノメチル基(-CH-NH)又はアミノ基(-NH)に置換されてなるジアミンを意味し、炭素数18~54の範囲内、好ましくは22~44の範囲内にある二塩基酸化合物の末端カルボン酸基を第1級アミノメチル基又はアミノ基に置換して得られるジアミン化合物、と定義することができる。ダイマージアミン組成物は、分子蒸留等の精製方法によって(a)成分のダイマージアミン含有量を96重量%以上、好ましくは97重量%以上、より好ましくは98重量%以上にまで高めたものを使用することがよい。(a)成分のダイマージアミン含有量を96重量%以上とすることで、ポリイミドの分子量分布の拡がりを抑制することができる。なお、技術的に可能であれば、ダイマージアミン組成物のすべて(100重量%)が、(a)成分のダイマージアミンによって構成されていることが最もよい。
【0071】
ダイマージアミン組成物は、市販品が利用可能であり、(a)成分のダイマージアミン以外の成分を低減する目的で精製することが好ましく、例えば(a)で成分を96重量%以上とすることが好ましい。精製方法としては、特に制限されないが、蒸留法や沈殿精製等の公知の方法が好適である。ダイマージアミン組成物の市販品としては、例えばクローダジャパン社製のPRIAMINE1073(商品名)、同PRIAMINE1074(商品名)、同PRIAMINE1075(商品名)等が挙げられる。
【0072】
合成されたポリアミド酸又はポリイミドは、通常、反応溶媒溶液として使用することが有利であるが、必要により濃縮、希釈又は他の有機溶媒に置換して樹脂溶液(ワニス)を形成することができる。ポリアミド酸をイミド化させる方法は、特に制限されず、例えば前記溶媒中で、80~400℃の範囲内の温度条件で1~24時間かけて加熱するといった熱処理が好適に採用される。
【0073】
また、ポリイミドがケトン基を有する場合に、該ケトン基と、少なくとも2つの第1級のアミノ基を官能基として有するアミノ化合物(以下、「架橋形成用アミノ化合物」と記すことがある)のアミノ基を反応させてC=N結合を形成させることによって、架橋構造を形成することができる。架橋構造の形成によって、ポリイミドの耐熱性を向上させることができる。ケトン基を有するポリイミドを形成するために好ましいテトラカルボン酸無水物としては、例えば3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(BTDA)を、ジアミン化合物としては、例えば、4,4’―ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゾフェノン(BABP)、1,3-ビス[4-(3-アミノフェノキシ)ベンゾイル]ベンゼン(BABB)等の芳香族ジアミンを挙げることができる。
【0074】
架橋形成用アミノ化合物としては、(I)ジヒドラジド化合物、(II)芳香族ジアミン、(III)脂肪族アミン等を例示することができる。これらの中でも、ジヒドラジド化合物は、ワニスの保存安定性と硬化時間の短縮化を両立させることができるので好ましい。ジヒドラジド化合物としては、例えば、シュウ酸ジヒドラジド、マロン酸ジヒドラジド、コハク酸ジヒドラジド、グルタル酸ジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、ピメリン酸ジヒドラジド、スベリン酸ジヒドラジド、アゼライン酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジド、ドデカン二酸ジヒドラジド、マレイン酸ジヒドラジド、フマル酸ジヒドラジド、ジグリコール酸ジヒドラジド、酒石酸ジヒドラジド、リンゴ酸ジヒドラジド、フタル酸ジヒドラジド、イソフタル酸ジヒドラジド、テレフタル酸ジヒドラジド、2,6-ナフトエ二酸ジヒドラジド、4,4-ビスベンゼンジヒドラジド、1,4-ナフトエ酸ジヒドラジド、2,6-ピリジン二酸ジヒドラジド、イタコン酸ジヒドラジド等のジヒドラジド化合物が好ましい。以上のジヒドラジド化合物は、単独でもよいし、2種類以上混合して用いることもできる。
【0075】
ポリイミド中のケトン基と架橋形成用アミノ化合物とを架橋形成させる場合は、ポリイミドを含む樹脂溶液に、上記架橋形成用アミノ化合物を加えて、ポリイミド中のケトン基と架橋形成用アミノ化合物の第1級アミノ基とを縮合反応させる。この縮合反応により、樹脂溶液は硬化して硬化物となる。この場合、架橋形成用アミノ化合物の添加量は、ケトン基1モルに対し、第1級アミノ基が合計で0.004モル~1.5モル、好ましくは0.005モル~1.2モルとすることができる。ケトン基1モルに対して第1級アミノ基が合計で0.004モル未満となるような架橋形成用アミノ化合物の添加量では、架橋形成用アミノ化合物による架橋が十分ではないため、硬化後の耐熱性が発現しにくい傾向となり、架橋形成用アミノ化合物の添加量が1.5モルを超えると未反応の架橋形成用アミノ化合物が熱可塑剤として作用し、接着剤層としての耐熱性を低下させる傾向がある。
【0076】
架橋形成のための縮合反応の条件は、ポリイミドにおけるケトン基と上記架橋形成用アミノ化合物の第1級アミノ基が反応してイミン結合(C=N結合)を形成する条件であれば、特に制限されない。加熱縮合の温度は、縮合によって生成する水を系外へ放出させるため、又はポリイミドの合成後に引き続いて加熱縮合反応を行なう場合に当該縮合工程を簡略化するため等の理由で、例えば120~220℃の範囲内が好ましく、140~200℃の範囲内がより好ましい。反応時間は、30分~24時間程度が好ましい。反応の終点は、例えばフーリエ変換赤外分光光度計(市販品:日本分光製FT/IR620)を用い、赤外線吸収スペクトルを測定することによって、1670cm-1付近のポリイミド樹脂におけるケトン基に由来する吸収ピークの減少又は消失、及び1635cm-1付近のイミン基に由来する吸収ピークの出現により確認することができる。
【0077】
以上、ポリイミドの耐熱性付与のため、イミン結合の形成によって架橋構造とした架橋ポリイミドの例を挙げて説明したが、これに限定されるものではなく、ポリイミドの硬化方法として、例えばエポキシ樹脂、エポキシ樹脂硬化剤、マレイミド、活性化エステル樹脂、スチレン骨格を有する樹脂等の不飽和結合を有する化合物等を配合し硬化することも可能である。
【0078】
ポリイミドフィルムは一般に耐熱性に優れ、低CTE化されたポリイミドフィルムも存在する。しかしながら、イミド構造の極性によって誘電正接及び吸水性が高く、樹脂組成の設計上、低CTE化と低誘電正接化はトレード・オフとなる。本発明では(A)成分及び(B)成分と複合化することで、ポリイミドをマトリクス樹脂とする樹脂フィルムについて、前記特性を維持したまま低誘電正接化することが可能となっている。
【0079】
[フッ素樹脂]
(C)成分として利用可能なフッ素樹脂は、フッ素を含有するモノマーを重合させて得られるポリマーであれば特に限定されるものではなく、例えば、ポリテトラフルオロエチレン、及び一つ以上の水素基がフッ素基に置換されたエチレンを原料の一部として重合されたポリマーを挙げることができる。例えばテトラフルオロエチレンとオレフィンとの共重合体等が好ましく、テトラフルオロエチレン‐パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、テトラフルオロエチレン‐エチレン共重合体、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体などが挙げられる。耐熱性、誘電特性、低吸水性に優れたフッ素樹脂が良い。
【0080】
フッ素樹脂フィルムは一般に耐熱性、誘電特性、低吸水性に優れ、特に誘電特性は液晶ポリマーのみからなるフィルム以上に優れた特性を示す。しかしながら、フッ素樹脂フィルムは、一般にCTEが100ppm/Kを超えるため、異種材料、特に金属材料と組み合わせて使用する場合に、温度変化による応力の発生に起因する反りや剥離、ずれが生じやすい。本発明では、フッ素樹脂を(A)成分及び(B)成分と複合化することで、フッ素樹脂をマトリクス樹脂とする樹脂フィルムについて、前記特性を維持したまま低CTE化することが可能となる。
【0081】
[液晶ポリマー]
(C)成分として利用可能な液晶ポリマーとしては、(A)成分の液晶ポリマーフィラーについて説明した液晶ポリマーを用いることができる。液晶ポリマーフィルムは、一般に誘電特性に優れているが、MD方向とTD方向のCTE差を小さくするためにインフレーション法などの特殊な製法が必要となる。本発明では、液晶ポリマーを(A)成分及び(B)成分と複合化することで、特殊な製法を用いることなく簡便な方法で液晶ポリマーをマトリクス樹脂とする樹脂フィルムのMD方向とTD方向のCTE差を緩和できるとともに、誘電特性をさらに改善し、低誘電正接化することが可能となる。
【0082】
[任意成分]
本実施の形態の樹脂組成物は、発明の効果を損なわない範囲で、(A)~(C)成分以外に、任意成分を含むことができる。任意成分としては、例えば、有機溶媒などの溶剤、(A)成分以外の有機フィラー、(B)成分以外の無機フィラー、触媒、可塑剤、エラストマー、カップリング剤、硬化剤、顔料、難燃剤、放熱剤等を挙げることができる。有機溶媒としては、例えば、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)、N,N-ジエチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、2-ブタノン、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ヘキサメチルホスホルアミド、N-メチルカプロラクタム、硫酸ジメチル、シクロヘキサノン、ジオキサン、テトラヒドロフラン、ジグライム、トリグライム、クレゾール等が挙げられる。これらの溶媒を2種以上併用することもでき、更にはキシレン、トルエンのような芳香族炭化水素の併用も可能である。有機溶媒の含有量としては特に制限されるものではないが、(C)成分の濃度が5~50重量%程度になるような使用量に調整して用いることが好ましい。(A)成分以外の有機フィラーとしては、例えば、エラストマー粒子、ゴム粒子などを挙げることができる。(B)成分以外の無機フィラーとしては、例えば、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、窒化ケイ素等の窒化物、フッ化アルミニウム、フッ化カルシウム、フッ化マグネシウム、ケイフッ化カリウム等のフッ化物、ホスフィン酸金属塩等の金属塩などを挙げることができる。これらは1種又は2種以上を混合して用いることができる。
【0083】
[配合比]
樹脂組成物において、各成分の配合比は、これらの種類に応じて適宜設定できるが、樹脂組成物中の固形分(溶剤を除いた残部を意味する。)の含有量に対し、(A)成分及び(B)成分のフィラーの合計含有量が10~90体積%の範囲内であり、(C)成分の含有量が10~90体積%の範囲内であることが好ましく、(A)成分及び(B)成分のフィラーの合計含有量が20~70体積%の範囲内であり、(C)成分の含有量が30~90体積%の範囲内であることがより好ましい。(A)成分及び(B)成分のフィラーの合計含有量が10体積%未満では、誘電特性と寸法安定性を改善する効果が発現しにくく、90体積%を超えると、フィルム表面にフィラーが露出し、平滑性が損なわれることがある。
【0084】
(A)成分の繊維状液晶ポリマーフィラーの含有量は、樹脂組成物中の固形分の含有量に対し、5~60体積%の範囲内であることが好ましく、10~50体積%の範囲内であることがより好ましい。(A)成分の含有量が5体積%未満では、誘電特性を改善する効果が発現しにくく、60体積%を超えて多すぎると、繊維状液晶ポリマーフィラー同士が絡まり、ダマとなりやすくなり、ハンドリング性が低下したり、表面平滑性が損なわれたりする。
【0085】
(B)成分の粒子状金属酸化物フィラーの含有量は、樹脂組成物中の固形分の含有量に対し、20~80体積%の範囲内であることが好ましく、30~70体積%の範囲内であることがより好ましい。(B)成分の含有量が20体積%未満では、誘電特性を改善する効果と、(A)成分の繊維状液晶ポリマーフィラーの配向を阻害する効果が十分に発現しにくく、80体積%を超えると、樹脂フィルムが脆化しやすくなるとともに、表面平滑性が損なわれる。
【0086】
また、(B)成分の含有量に対する(A)成分の含有量の比[(A)成分/(B)成分]は、体積基準で0.1~10の範囲内であることが好ましい。比[(A)成分/(B)成分]が0.1~10の範囲内であれば、(A)成分の繊維状液晶ポリマーフィラーの配向と整列を(B)成分の粒子状金属酸化物フィラーによって効果的に阻害することが可能になり、樹脂フィルムを形成したときのMD方向とTD方向のCTE差を縮小することができる。
【0087】
[樹脂組成物の製造方法]
本実施の形態の樹脂組成物の製造方法は、(A)~(C)成分の種類と組合せに応じて適宜選択できるため、特段限定されるものではないが、好ましい方法として、(C)成分を有機溶媒に溶解させた樹脂溶液に、まず、(B)成分の粒子状金属酸化物フィラーを添加し、均一に混合した後に、(A)成分の繊維状液晶ポリマーフィラーを添加し、均一に混合することが好ましい。(B)成分と(A)成分の添加の順序を逆にして、(C)成分を有機溶媒に溶解させた樹脂溶液に対し、(B)成分よりも先に(A)成分を添加すると、繊維状液晶ポリマーフィラーどうしの絡まりや凝集が生じ、均一な樹脂組成物を形成することが困難となる。
【0088】
[樹脂フィルム]
本実施の形態の樹脂フィルムは、単層又は複数層の樹脂層を有する樹脂フィルムであって、樹脂層の少なくとも1層が上記樹脂組成物を使用して形成されたフィラー含有樹脂層であればよい。ただし、フィラー含有樹脂層は、樹脂フィルムの主たる層であることが好ましい。ここで、「主たる層」とは、樹脂フィルムの全体厚みに対して50%を超える厚みを有する層を意味する。したがって、樹脂フィルムの全体がフィラー含有樹脂層により構成されていることがより好ましい。また、樹脂フィルムは、例えば接着剤層として絶縁樹脂層の一部分を構成していてもよいし、フィルムの状態で、例えばボンディングシートとしての利用が可能である。ここで、「ボンディングシート」とはフィルム同士、フィルムと金属、及び、金属と金属などを接着する目的に使用されるものである。その使用形態はフィルム状態で積層接着させることに限定されず、例えばワニス状で接着剤層として塗布し硬化させることもできる。
【0089】
また、フィラー含有樹脂層は、23℃、50%RHの恒温恒湿条件のもと24時間調湿後にスプリットポスト誘電体共振器(SPDR)により測定される10GHzにおける比誘電率が3以下であることが好ましく、誘電正接が0.003以下であることが好ましい。回路基板の伝送損失を改善するためには、特に絶縁樹脂層の誘電正接を制御することが重要であり、誘電正接を上記値以下とすることで、伝送損失を下げる効果が増大する。従って、例えば高周波回路基板の絶縁樹脂層として樹脂フィルムを適用する場合、伝送損失を効率よく低減できる。10GHzにおける誘電正接が0.003を超えると、樹脂フィルムを回路基板の絶縁樹脂層として適用した際に、高周波信号の伝送経路上で電気信号のロスが大きくなるなどの不都合が生じやすくなる。
【0090】
また、フィラー含有樹脂層は、10℃から20℃におけるMD方向のCTEの絶対値が50ppm/K以下であることが好ましく、かつ、TD方向のCTEが100ppm/K以下であることが好ましい。MD方向及びTD方向のCTEが上記値以下であることによって、フィルム面内の加熱前後の寸法変化を抑えることができるため、反りを抑制できるとともに、プリント配線板の配線同士の接合時の位置ずれを防止することが可能となる。
【0091】
[厚み]
樹脂フィルム全体の厚さは、例えば15~250μmの範囲内であることが好ましく、25~200μmの範囲内がより好ましい。樹脂フィルムの厚みが15μmに満たないと、フィルムの表面平滑性が悪化する可能性があり、金属張積層板の製造時の搬送工程で金属箔にシワが入り、また樹脂フィルムが破れるなどの不具合が生じやすくなる。反対に、樹脂フィルムの厚みが250μmを超えると樹脂フィルムの折り曲げ性が低下するなどの点で不利になる傾向となる。
【0092】
[樹脂フィルムの製造方法]
樹脂フィルムの製造方法は、(A)~(C)成分の種類と組合せに応じて適宜選択できるため、特段限定されるものではないが、好ましい方法として、(A)~(C)成分とともに有機溶媒を含有する樹脂組成物を任意の基材上に塗布して乾燥等を行いフィルム状に成型するキャスト法が好ましい。
【0093】
[作用]
本実施の形態では、樹脂組成物が(A)成分及び(C)成分とともに(B)成分を含有することによって、樹脂フィルムを形成したときのCTEの異方性が緩和される。これは、樹脂組成物をキャストしてフィルムを形成するときに、(A)成分の繊維状液晶ポリマーフィラーがMD方向に配列することを(B)成分の粒子状金属酸化物フィラーが適度に妨げることによって、フィラー含有樹脂層の異方性を緩和するためである。その結果、加熱後の寸法変化を抑えることができるため、本実施の形態の樹脂フィルムを用いることによって、より微細化、高精細化されたプリント配線板を製造することが可能となる。
【0094】
[金属張積層板]
本実施の形態の金属張積層板は、絶縁樹脂層と、この絶縁樹脂層の少なくとも一方の面に積層された金属層と、を備えた金属張積層板であり、絶縁樹脂層の少なくとも1層が上記樹脂フィルムからなる。金属張積層板は、絶縁樹脂層の片面側のみに金属層を有する片面金属張積層板であってもよいし、絶縁樹脂層の両面に金属層を有する両面金属張積層板であってもよい。
【0095】
[絶縁樹脂層]
絶縁樹脂層は単層又は複数層から構成され、上記樹脂フィルムからなる層を含んでいる。例えば、上記樹脂フィルムが、機械特性や熱物性を担保するための絶縁樹脂層の主たる層としての非熱可塑性樹脂層を形成していてもよい。また、上記樹脂フィルムが、銅箔などの金属層との接着強度を担う接着剤層としての熱可塑性樹脂層を形成していてもよい。なお、「主たる層」とは、絶縁樹脂層の総厚みの50%超を占める層を意味する。また、本実施の形態の金属張積層板は、樹脂フィルムと金属箔とを接着するための接着剤を用いることを除外するものではない。ただし、絶縁樹脂層の両面に金属層を有する両面金属張積層板において接着剤層を介在させる場合には、接着剤層の厚みは、誘電特性を損なわないように、全絶縁樹脂層の厚みの30%未満とすることが好ましく、20%未満とすることがより好ましい。また、絶縁樹脂層の片面のみに金属層を有する片面金属張積層板において接着剤層を介在させる場合には、接着剤層の厚みは、誘電特性を損なわないように、全絶縁樹脂層の厚みの15%未満とすることが好ましく、10%未満とすることがより好ましい。
絶縁樹脂層の層厚みは、例えば高周波回路用には、35~200μmの範囲内が好ましく、50~150μmの範囲内がより好ましい。この範囲内であれば、金属張積層板のフレキシブル性と、回路基板にしたときの高周波信号の伝送損失の抑制の両立が可能である。
【0096】
樹脂フィルムを絶縁樹脂層とする金属張積層板を製造する方法としては、例えば、金属箔上に樹脂組成物を塗布し真空及び/又は加熱処理を行う方法や、樹脂フィルムに直接、又は任意の接着剤を介して金属箔を加熱圧着する方法、金属蒸着等の手法によって樹脂フィルムに金属層を形成する方法などを挙げることができる。なお、両面金属張積層板は、例えば、片面金属張積層板を形成した後、互いに樹脂層を向き合わせて熱プレスによって圧着し形成する方法や、片面金属張積層板の樹脂層に金属箔を圧着し形成する方法等により得ることができる。
【0097】
[金属層]
金属層の材質としては、特に制限はないが、例えば、銅、ステンレス、鉄、ニッケル、ベリリウム、アルミニウム、亜鉛、インジウム、銀、金、スズ、ジルコニウム、タンタル、チタン、鉛、マグネシウム、マンガン及びこれらの合金等が挙げられる。これらの中でも、特に銅、銀又はそれらの合金が好ましい。特に金属層に銅を用いた銅張積層板(CCL)は、電気伝導度やコストの観点から好ましい。金属層は、金属箔からなるものであってもよいし、フィルムに金属蒸着したもの、ペースト等を印刷したものであってもよい。また、樹脂組成物を直接塗布可能な点から、金属箔でも金属板でも使用可能であり、銅箔若しくは銅板が好ましい。
【0098】
金属層の厚みは、金属張積層板の使用目的に応じて適宜設定されるため特に限定されないが、例えば5μm~3mmの範囲内が好ましく、12μm~1mmの範囲内がより好ましい。金属層の厚みが5μmに満たないと、金属張積層板の製造等における搬送時にシワが入るなどの不具合が生じるおそれがある。反対に金属層の厚みが3mmを超えると硬くて加工性が悪くなる。金属層の厚みについては、一般的に、車載用回路基板などの用途では厚いものが適し、LED用回路基板などの用途などでは薄い金属層が適する。
【0099】
[プリント配線板]
プリント配線板は、金属張積層板の金属層を導体として回路を形成してなるものである。すなわち、プリント配線板は、単層又は複数層から構成される絶縁樹脂層と、絶縁樹脂層の少なくとも一方の面に積層された回路配線層と、を備え、絶縁樹脂層を構成する少なくとも1層が、上記樹脂フィルムからなる。特に回路配線に銅を用いると、電気伝導度やコストの観点から好ましい。高周波信号による伝送損失を考慮すると、銅と絶縁樹脂層の界面にある銅側の粗度Rzは1.5μm以下が好ましく、1μm以下がより好ましい。ここで、高周波とは10GHz以上の周波数を指す。
【0100】
以上のように、本実施の形態の樹脂フィルム及び金属張積層板は、(A)~(C)成分を含有することにより、優れた誘電特性と寸法安定性が両立されている。従って、樹脂フィルム及び金属張積層板は、高周波信号伝送における損失が低減され、寸法安定性も維持できることから、各種の電子機器におけるFPC等の回路基板材料として好適に用いることができる。
【実施例
【0101】
以下に実施例を示し、本発明の特徴をより具体的に説明する。ただし、本発明の範囲は、実施例に限定されない。なお、以下の実施例において、特にことわりのない限り各種測定、評価は下記によるものである。
【0102】
[アミン価の測定方法]
約2gのダイマージアミン組成物を200~250mLの三角フラスコに秤量し、指示薬としてフェノールフタレインを用い、溶液が薄いピンク色を呈するまで、0.1mol/Lのエタノール性水酸化カリウム溶液を滴下し、中和を行ったブタノール約100mLに溶解させる。そこに3~7滴のフェノールフタレイン溶液を加え、サンプルの溶液が薄いピンク色に変わるまで、0.1mol/Lのエタノール性水酸化カリウム溶液で攪拌しながら滴定する。そこへブロモフェノールブルー溶液を5滴加え、サンプル溶液が黄色に変わるまで、0.2mol/Lの塩酸/イソプロパノール溶液で攪拌しながら滴定する。
アミン価は、次の式(1)により算出する。
アミン価={(V2×C2)-(V1×C1)}×MKOH/m ・・・(1)
ここで、アミン価はmg-KOH/gで表される値であり、MKOHは水酸化カリウムの分子量56.1である。また、V、Cはそれぞれ滴定に用いた溶液の体積と濃度であり、添え字の1、2はそれぞれ0.1mol/Lのエタノール性水酸化カリウム溶液、0.2mol/Lの塩酸/イソプロパノール溶液を表す。さらに、mはグラムで表されるサンプル重量である。
【0103】
[GPC及びクロマトグラムの面積パーセントの算出]
GPCは、20mgのダイマージアミン組成物を200μLの無水酢酸、200μLのピリジン及び2mLのTHF(テトラヒドロフラン)で前処理した100mgの溶液を、10mLのTHF(1000ppmのシクロヘキサノンを含有)で希釈し、サンプルを調製した。調製したサンプルを東ソー株式会社製、商品名;HLC-8220GPCを用いて、カラム;TSK-gel G2000HXL,G1000HXL、 フロー量;1mL/min、カラム(オーブン)温度;40℃、注入量;50μLの条件で測定した。なお、シクロヘキサノンは流出時間の補正のために標準物質として扱った。
【0104】
このとき、シクロヘキサノンのメインピークのピークトップがリテンションタイム27分から31分になるように、且つ、前記シクロヘキサノンのメインピークのピークスタートからピークエンドが2分になるように調整し、シクロヘキサノンのピークを除くメインピークのピークトップが18分から19分になるように、且つ、前記シクロヘキサノンのピークを除くメインピークのピークスタートからピークエンドまでが2分から4分30秒となる条件で、各成分(a)~(c);
(a)メインピークで表される成分;
(b)メインピークにおけるリテンションタイムが遅い時間側の極小値を基準にし、それよりも遅い時間に検出されるGPCピークで表される成分;
(c)メインピークにおけるリテンションタイムが早い時間側の極小値を基準にし、それよりも早い時間に検出されるGPCピークで表される成分;
を検出した。
【0105】
[ポリイミドの重量平均分子量(Mw)の測定]
重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフ(東ソー株式会社製、HLC-8220GPCを使用)により測定した。標準物質としてポリスチレンを用い、展開溶媒にテトラヒドロフランを用いた。
【0106】
[誘電特性の評価]
<シリカ粒子>
ベクトルネットワークアナライザ(キーサイトテクノロジー社製、商品名;ベクトルネットワークアナライザE8363C)及び空洞共振器摂動法による関東電子応用開発社製の比誘電率測定装置を用い、比誘電率測定モード;TM020に設定し、周波数10GHzにおけるシリカ粒子の比誘電率(ε1)及び誘電正接(Tanδ1)を測定した。なお、シリカ粒子は粉体状であり試料管チューブ(内径は1.68mm、外径は2.28mm、高さは8cm)へ充填し、測定した。
【0107】
<液晶ポリマー短繊維>
固形分10重量%に調整した液晶ポリマー短繊維のジメチルアセトアミド分散液を銅箔の平滑面に塗布し、120℃で20分間乾燥した。その後、新たな銅箔をその平滑面が塗布した液晶ポリマー短繊維層と接するように積層し、液晶ポリマーの融点+20℃で10分間かけて真空圧着し、得られた積層体の銅箔をエッチングして除去することで、液晶性高分子のフィルムを得た。
ベクトルネットワークアナライザ(キーサイトテクノロジー社製、商品名;ベクトルネットワークアナライザE8363C)およびスプリットポスト誘電体共振器(SPDR共振器)を用いて、得られた液晶性高分子フィルムを温度;23℃、湿度;50%の条件下で、24時間放置した後、10GHzの周波数における比誘電率および誘電正接を測定した。
【0108】
<樹脂フィルム>
ベクトルネットワークアナライザ(キーサイトテクノロジー社製、商品名;ベクトルネットワークアナライザE8363C)およびSPDR共振器を用いて温度160℃、圧力3.5MPa、時間60分間の条件でプレスした樹脂フィルムを温度;23℃、湿度;50%の条件下で、24時間放置した後、10GHzの周波数における比誘電率および誘電正接を測定した。
【0109】
[CTEの測定方法]
樹脂フィルムを3mm×20mmのサイズに切り出し、サーモメカニカルアナライザー(Bruker社製、商品名;4000SA)を用い、引張モードで5.0gの荷重を加えながら一定の昇温速度で5℃から300℃まで昇温させ、10℃から20℃までの平均熱膨張係数(平均線熱膨張係数;CTE)をフィルムのMD方向及びTD方向についてそれぞれ測定し求めた。
【0110】
[融点の測定]
示差走査熱量分析装置(DSC、SII社製、商品名;DSC-6200))を用いて、不活性ガス雰囲気中、室温から450℃まで1.5℃/minで昇温し、融点の測定を行った。
【0111】
[長軸の平均長さ及び短軸の平均長さの測定方法]
無作為に10本の繊維状フィラーを取り出し、実体顕微鏡を用いて、独立に観察し、取り出したフィラーそれぞれについて長軸の長さ及び短軸の長さを測定し、平均値として求めた。
【0112】
[真比重の測定]
連続自動粉体真密度測定装置(セイシン企業社製、商品名;AUTO TRUE DENSERMAT‐7000)を用いて、ピクノメーター法(液相置換法)による真比重の測定を行った。
【0113】
[円形度の測定]
湿式フロー式粒子径・形状分析装置(シスメックス社製、商品名;FPIA-3000)を用いて、動的流動粒子画像解析によるシリカ粒子の平均円形度を測定した。
【0114】
[体積平均粒子径D50の測定]
レーザ回折式粒度分布測定装置(マルバーン社製、商品名;Master Sizer3000)を用いて、水を分散媒とし粒子屈折率1.54の条件で、レーザ回折・散乱式測定方式によるシリカ粒子の体積平均粒子径の測定を行った。
【0115】
[クリストバライト結晶相の測定]
X線回折測定装置(ブルカー社製、商品名;D2PHASER)を用いて、回折角度(Cu,Kα)2θ=10°~90°の範囲のSiOに由来する全ての回折パターン(ピーク位置、ピーク幅及びピーク強度)から、SiOに由来する全ピークの総面積を算出する。次に、クリストバライト結晶相に由来するピーク位置を特定し、クリストバライト結晶相の全ピークの総面積を算出して、SiOに由来する全ピークの総面積に対する割合(重量%)を求めた。なお、各ピークの帰属は、International Centre for Diffraction Data(ICDD)のデータベースを参照した。
【0116】
[ピール強度の測定]
ピール強度の測定は、以下の方法で行った。銅張積層板を試験片幅3mmに切り出し、引張試験機(東洋精機製作所製、ストログラフVE)を用いて、試験片の90°方向に、速度50mm/minで引っ張ったときの樹脂層と銅箔の剥離強度を測定した。
【0117】
[調湿はんだ耐熱性の評価]
調製した銅張積層板の樹脂側面に銅箔の粗化面が接するように積層し加熱圧着により両面銅張積層板を調製した。得られた両面銅張積層板を30mm角に切り出し、この試験片を23℃、相対湿度;50%で72時間放置した後、288℃に設定した半田浴中に10秒間浸漬し、その接着状態を観察して、発泡、ふくれ、剥離等の不具合の有無を確認した。不具合が生じなかった場合を良とし、不具合が生じた場合は不可とした。
【0118】
実施例及び比較例に用いた略号は、以下の化合物を示す。
PI:ポリイミド
PMDA:ピロメリット酸二無水物
BTDA:3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物
BPDA:3,3’,4,4’‐ビフェニルテトラカルボン酸二無水物
DDA:クローダジャパン株式会社製、商品名;PRIAMINE1075を蒸留精製したもの(a成分;99.2重量%、b成分:0%、c成分;0.8%、アミン価:210mgKOH/g)
BAPP:2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン
BAFL:9,9-ビス(4-アミノフェニル)フルオレン
m-TB:2,2'‐ジメチル‐4,4'‐ジアミノビフェニル
N-12:ドデカン二酸ジヒドラジド
LCP:液晶ポリマー
NMP:N-メチル-2-ピロリドン
DMAc:N,N‐ジメチルアセトアミド
【0119】
LCP1:ポリエステル構造を有する液晶ポリマー、融点(Tm);350℃、真比重;1.4、比誘電率;3.1、誘電正接;0.0010
LCP2:ポリエステル構造を有する液晶ポリマー、融点(Tm);330℃、真比重;1.4、比誘電率; 3.4、誘電正接;0.0020
LCP3:ポリエステル構造を有する液晶ポリマー、融点(Tm);320℃、真比重;1.4、比誘電率; 3.4、誘電正接;0.0008
【0120】
形状1:短繊維状、長軸の平均長さ;0.5mm、短軸の平均長さ;28μm、製造方法;溶融紡糸後、裁断
形状2:短繊維状、長軸の平均長さ;3mm、短軸の平均長さ;28μm、製造方法;溶融紡糸後、裁断
【0121】
粒子1:日鉄ケミカル&マテリアル社製。商品名;CR10-20(球状クリストバライトシリカ粉末、円形度;0.98、クリストバライト結晶相;98重量%、真比重;2.33、D50;10.8μm、10GHzにおける比誘電率;3.16、10GHzにおける誘電正接;0.0008)
粒子2:アドマテック社製。商品名;SE4050(球状非晶質シリカ粉末、真球状、真比重;2.21、D50;1.5μm、10GHzにおける比誘電率;2.92、10GHzにおける誘電正接;0.0052)
粒子3:日鉄ケミカル&マテリアル社製。商品名;SC70-2(球状非晶質シリカ粉末、円形度;0.98、真比重;2.21、D50;11.7μm、10GHzにおける比誘電率;3.08、10GHzにおける誘電正接;0.0015)
【0122】
(合成例1)
500mLのセパラブルフラスコに、酸無水物として33.84gのBTDA(0.1048モル)、ジアミンとして56.16gのDDA(0.1051モル)、126gのNMP及び84gのキシレンを装入し、40℃で1時間良く混合して、ポリアミド酸溶液を調製した。このポリアミド酸溶液を190℃に昇温し、8時間加熱、攪拌することでイミド化を完結し、64gのキシレンを加え希釈したポリイミド溶液1(固形分;30重量%、重量平均分子量;58,500)を調製した。このポリイミド組成をPI1とする。
【0123】
(合成例2~3)
酸無水物およびジアミンを表1のように変えた以外は、合成例1と同様にしてポリイミド溶液2及び3を調製した。このポリイミド組成をPI2及びPI3とする。
【0124】
【表1】
【0125】
(合成例4)
300mlのセパラブルフラスコに、19gのm-TB(90mmol)及び230gのDMAcを投入し、室温、窒素気流下で撹拌した。完全に溶解した後、16gのPMDA(72mmol)及び5.3gのBPDA(18mmol)を添加し、室温で18時間撹拌してポリアミド酸溶液1を得た。得られたポリアミド酸溶液1の粘度は22,400cpsであった。ポリアミド酸溶液1を硬化して得られるポリイミドをPI4とする。
【0126】
(合成例5)
300mlのセパラブルフラスコに、24gのBAPP(60mmol)、230gのDMAcを投入し、室温、窒素気流下で撹拌した。完全に溶解した後、6.5gのPMDA(30mmol)、8.7gのBPDA(30mmol)を添加し、室温で18時間撹拌してポリアミド酸溶液2を得た。得られたポリアミド酸溶液2の粘度は21,074cpsであった。ポリアミド酸溶液2を硬化して得られるポリイミドをPI5とする。
【0127】
[実施例1]
合成例1で得られたポリイミド溶液1の100gに、架橋剤として1.1gのN-12を配合し、115gの粒子1を添加し、撹拌した後、11.7gの形状1のLCP1を添加し、全固形分濃度が45重量%になるようにキシレンを加えて希釈し、攪拌することでポリイミドワニス1を調製した。このポリイミドワニス1中の全固形分に対する体積基準の含有量は、LCP1が10%、粒子1が60%であった。
【0128】
調製したポリイミドワニス1を電解銅箔(12μm)に流延し、80℃で20分間乾燥を行った後、160℃で1時間処理し、銅張積層板1を調製した。さらに銅箔をエッチングすることで樹脂フィルム1(厚さ;145μm)を調製した。
樹脂フィルム1の各種評価結果は以下のとおりである。
比誘電率;2.5、誘電正接;0.0009、CTE(TD);58ppm/K、CTE(MD);17ppm/K、ピール強度;1.3kN/m、調湿はんだ耐熱性;良
【0129】
[実施例2]
合成例1で得られたポリイミド溶液1の100gに、架橋剤として1.1gのN-12を配合し、19.2gの粒子1を添加し、撹拌した後、11.7gの形状1のLCP1を添加し、全固形分濃度が45重量%になるようにキシレンを加えて希釈し、攪拌することでポリイミドワニス2を調製した。このポリイミドワニス2中の全固形分に対する体積基準の含有量は、LCP1が20%、粒子1が20%であった。
【0130】
調製したポリイミドワニス2を電解銅箔(12μm)に流延し、80℃で20分間乾燥を行った後、160℃で1時間処理し、銅張積層板2を調製した。さらに銅箔をエッチングすることで樹脂フィルム2(厚さ;113μm)を調製した。
樹脂フィルム2の各種評価結果は以下のとおりである。
比誘電率;1.9、誘電正接;0.0015、CTE(TD);91ppm/K、CTE(MD);20ppm/K、調湿はんだ耐熱性;良
【0131】
[実施例3]
合成例1で得られたポリイミド溶液1の100gに、架橋剤として1.1gのN-12を配合し、57.5gの粒子1を添加し、撹拌した後、17.5gの形状1のLCP1を添加し、全固形分濃度が45重量%になるようにキシレンを加えて希釈し、攪拌することでポリイミドワニス3を調製した。このポリイミドワニス3中の全固形分に対する体積基準の含有量は、LCP1が20%、粒子1が40%であった。
【0132】
調製したポリイミドワニス3を電解銅箔(12μm)に流延し、80℃で20分間乾燥を行った後、160℃で1時間処理し、銅張積層板3を調製した。さらに銅箔をエッチングすることで樹脂フィルム3(厚さ;135μm)を調製した。
樹脂フィルム3の各種評価結果は以下のとおりである。
比誘電率;2.0、誘電正接;0.0013、CTE(TD);70ppm/K、CTE(MD);17ppm/K
【0133】
[実施例4]
合成例1で得られたポリイミド溶液1の100gに、架橋剤として1.1gのN-12を配合し、28.8gの粒子1を添加し、撹拌した後、35gの形状1のLCP1を添加し、全固形分濃度が45重量%になるようにキシレンを加えて希釈し、攪拌することでポリイミドワニス4を調製した。このポリイミドワニス4中の全固形分に対する体積基準の含有量は、LCP1が40%、粒子1が20%であった。
【0134】
調製したポリイミドワニス4を電解銅箔(12μm)に流延し、80℃で20分間乾燥を行った後、160℃で1時間処理し、銅張積層板4を調製した。さらに銅箔をエッチングすることで樹脂フィルム4(厚さ;58μm)を調製した。
樹脂フィルム1の各種評価結果は以下のとおりである。
比誘電率;1.8、誘電正接;0.0009、CTE(TD);69ppm/K、CTE(MD);30ppm/K、ピール強度;1.2kN/m、調湿はんだ耐熱性;良
【0135】
[実施例5]
合成例1で得られたポリイミド溶液1の100gに、架橋剤として1.1gのN-12を配合し、18.3gの粒子2を添加し、撹拌した後、11.7gの形状1のLCP1を添加し、全固形分濃度が45重量%になるようにキシレンを加えて希釈し、攪拌することでポリイミドワニス5を調製した。このポリイミドワニス5中の全固形分に対する体積基準の含有量は、LCP1が20%、粒子2が20%であった。
【0136】
調製したポリイミドワニス5を電解銅箔(12μm)に流延し、80℃で20分間乾燥を行った後、160℃で1時間処理し、銅張積層板5を調製した。さらに銅箔をエッチングすることで樹脂フィルム5(厚さ;158μm)を調製した。
樹脂フィルム5の各種評価結果は以下のとおりである。
比誘電率;2.0、誘電正接;0.0015、CTE(TD);87ppm/K、CTE(MD);15ppm/K、調湿はんだ耐熱性;良
【0137】
[実施例6]
合成例1で得られたポリイミド溶液1の100gに、架橋剤として1.1gのN-12を配合し、55gの粒子2を添加し、撹拌した後、17.5gの形状1のLCP1を添加し、全固形分濃度が45重量%になるようにキシレンを加えて希釈し、攪拌することでポリイミドワニス6を調製した。このポリイミドワニス5中の全固形分に対する体積基準の含有量は、LCP1が20%、粒子2が40%であった。
【0138】
調製したポリイミドワニス6を電解銅箔(12μm)に流延し、80℃で20分間乾燥を行った後、160℃で1時間処理し、銅張積層板6を調製した。さらに銅箔をエッチングすることで樹脂フィルム6(厚さ;178μm)を調製した。
樹脂フィルム6の各種評価結果は以下のとおりである。
比誘電率;2.2、誘電正接;0.0016、CTE(TD);57ppm/K、CTE(MD);15ppm/K、ピール強度;1.1kN/m、調湿はんだ耐熱性;良
【0139】
[実施例7]
合成例1で得られたポリイミド溶液1の100gに、架橋剤として1.1gのN-12を配合し、33gの粒子3を添加し、撹拌した後、14gの形状1のLCP1を添加し、全固形分濃度が45重量%になるようにキシレンを加えて希釈し、攪拌することでポリイミドワニス7を調製した。このポリイミドワニス7中の全固形分に対する体積基準の含有量は、LCP1が20%、粒子3が30%であった。
【0140】
調製したポリイミドワニス7を電解銅箔(12μm)に流延し、80℃で20分間乾燥を行った後、160℃で1時間処理し、銅張積層板7を調製した。さらに銅箔をエッチングすることで樹脂フィルム7(厚さ;108μm)を調製した。
樹脂フィルム7の各種評価結果は以下のとおりである。
比誘電率;1.9、誘電正接;0.0016、CTE(TD);80ppm/K、CTE(MD);23ppm/K、調湿はんだ耐熱性;良
【0141】
[実施例8]
合成例2で得られたポリイミド溶液2の100gに、架橋剤として1.1gのN-12を配合し、19.2gの粒子1を添加し、撹拌した後、11.7gの形状1のLCP1を添加し、全固形分濃度が45重量%になるようにキシレンを加えて希釈し、攪拌することでポリイミドワニス8を調製した。このポリイミドワニス8中の全固形分に対する体積基準の含有量は、LCP1が20%、粒子1が20%であった。
【0142】
調製したポリイミドワニス8を電解銅箔(12μm)に流延し、80℃で20分間乾燥を行った後、160℃で1時間処理し、銅張積層板8を調製した。さらに銅箔をエッチングすることで樹脂フィルム8(厚さ;102μm)を調製した。
樹脂フィルム8の各種評価結果は以下のとおりである。
比誘電率;1.9、誘電正接;0.0011、CTE(TD);70ppm/K、CTE(MD);22ppm/K
【0143】
[実施例9]
合成例3で得られたポリイミド溶液3の100gに、架橋剤として1.1gのN-12を配合し、19.2gの粒子1を添加し、撹拌した後、11.7gの形状1のLCP1を添加し、全固形分濃度が45重量%になるようにキシレンを加えて希釈し、攪拌することでポリイミドワニス9を調製した。このポリイミドワニス9中の全固形分に対する体積基準の含有量は、LCP1が20%、粒子1が20%であった。
【0144】
調製したポリイミドワニス9を電解銅箔(12μm)に流延し、80℃で20分間乾燥を行った後、160℃で1時間処理し、銅張積層板9を調製した。さらに銅箔をエッチングすることで樹脂フィルム9(厚さ;97μm)を調製した。
樹脂フィルム9の各種評価結果は以下のとおりである。
比誘電率;2.0、誘電正接;0.0014、CTE(TD);75ppm/K、CTE(MD);20ppm/K、ピール強度;1.5kN/m、調湿はんだ耐熱性;良
【0145】
[実施例10]
合成例4で得られたポリアミド酸溶液1の100gに、7gの粒子1を添加し、撹拌した後、2.1gの形状2のLCP1を添加し、全固形分濃度が20重量%になるようにDMAcを加えて希釈し、攪拌することでポリアミド酸ワニス1を調製した。このポリアミド酸ワニス1中の全固形分に対する体積基準の含有量は、LCP1が10%、粒子1が20%であった。
【0146】
調製したポリアミド酸ワニス1を電解銅箔(12μm)に流延し、130℃で3分間乾燥させた。その後155℃から360℃まで段階的な熱処理を行ってイミド化し、銅張積層板10を調製した。さらに銅箔をエッチングすることで樹脂フィルム10(厚さ;40μm)を調製した。
樹脂フィルム10の各種評価結果は以下のとおりである。
比誘電率;2.8、誘電正接;0.0028、CTE(TD);10ppm/K、CTE(MD);4ppm/K
【0147】
[実施例11]
合成例4で得られたポリアミド酸溶液1の100gに、7gの粒子1を添加し、撹拌した後、2.1gの形状2のLCP2を添加し、全固形分濃度が20重量%になるようにDMAcを加えて希釈し、攪拌することでポリアミド酸ワニス2を調製した。このポリアミド酸ワニス2中の全固形分に対する体積基準の含有量は、LCP2が10%、粒子1が20%であった。
【0148】
調製したポリアミド酸ワニス2を電解銅箔(12μm)に流延し、130℃で3分間乾燥させた。その後155℃から360℃まで段階的な熱処理を行ってイミド化し、銅張積層板11を調製した。さらに銅箔をエッチングすることで樹脂フィルム11(厚さ;48μm)を調製した。
樹脂フィルム11の各種評価結果は以下のとおりである。
比誘電率;2.9、誘電正接;0.0028、CTE(TD);18ppm/K、CTE(MD);17ppm/K、調湿はんだ耐熱性;良
【0149】
[実施例12]
合成例5で得られたポリアミド酸溶液2の100gに、6.9gの粒子2を添加し、撹拌した後、4.2gの形状2のLCP1を添加し、全固形分濃度が15重量%になるようにDMAcを加えて希釈し、攪拌することでポリアミド酸ワニス3を調製した。このポリアミド酸ワニス3中の全固形分に対する体積基準の含有量は、LCP1が20%、粒子2が20%であった。
【0150】
調製したポリアミド酸ワニス3を電解銅箔(12μm)に流延し、130℃で3分間乾燥させた。その後155℃から360℃まで段階的な熱処理を行ってイミド化し、銅張積層板12を調製した。さらに銅箔をエッチングすることで樹脂フィルム12(厚さ;55μm)を調製した。
樹脂フィルム12の各種評価結果は以下のとおりである。
比誘電率;3.0、誘電正接;0.0040、CTE(TD);42ppm/K、CTE(MD);30ppm/K、調湿はんだ耐熱性;良
【0151】
[実施例13]
LCP3の微粉末が50wt%分散したDMAc液を50gに24.6gの粒子2を添加し、撹拌した後、10gの形状1のLCP1を添加し、全固形分濃度が50重量%になるようにDMAcを加えて希釈し、攪拌することでLCPワニス1を調製した。このLCPワニス1中の全固形分に対する体積基準の含有量は、LCP1が20%、粒子2が30%であった。
【0152】
調製したLCPワニス1を電解銅箔(12μm)に流延し、130℃で3分間乾燥させた。その後155℃から340℃まで段階的な熱処理を行い、銅張積層板13を調製した。さらに銅箔をエッチングすることで樹脂フィルム13(厚さ;45μm)を調製した。
樹脂フィルム13の各種評価結果は以下のとおりである。
比誘電率;2.8、誘電正接;0.0015、CTE(TD);40ppm/K、CTE(MD);38ppm/K
【0153】
[比較例1]
粒子1と形状1のLCP1を添加しなかったこと以外は実施例1と同様にして銅張積層板14及び樹脂フィルム14(厚さ;50μm)を調製した。
樹脂フィルム14の各種評価結果は以下のとおりである。
比誘電率;2.6、誘電正接;0.0019、CTE(TD);150ppm/K、CTE(MD);150ppm/K、ピール強度;1.3kN/m、調湿はんだ耐熱性;良
【0154】
[比較例2]
形状1のLCP1を添加しなかったこと以外は実施例3と同様にして銅張積層板15及び樹脂フィルム15(厚さ;49μm)を調製した。
樹脂フィルム15の各種評価結果は以下のとおりである。
比誘電率;2.8、誘電正接;0.0013、CTE(TD);90ppm/K、CTE(MD);90ppm/K、調湿はんだ耐熱性;良
【0155】
[比較例3]
形状1のLCP1を添加しなかったこと以外は実施例6と同様にして銅張積層板16及び樹脂フィルム16(厚さ;48μm)を調製した。
樹脂フィルム16の各種評価結果は以下のとおりである。
比誘電率;2.9、誘電正接;0.0020、CTE(TD);72ppm/K、CTE(MD);72ppm/K、調湿はんだ耐熱性;良
【0156】
[比較例4]
形状1のLCP1を添加しなかったこと以外は実施例7と同様にして銅張積層板17及び樹脂フィルム17(厚さ;53μm)を調製した。
樹脂フィルム17の各種評価結果は以下のとおりである。
比誘電率;2.8、誘電正接;0.0016、CTE(TD);129ppm/K、CTE(MD);129ppm/K、調湿はんだ耐熱性;良
【0157】
[参考例1]
粒子1を添加しなかったこと以外は実施例2と同様にして銅張積層板18及び樹脂フィルム18(厚さ;63μm)を調製した。
樹脂フィルム18の各種評価結果は以下のとおりである。
比誘電率;1.9、誘電正接;0.0017、CTE(TD);120ppm/K、CTE(MD);16ppm/K、調湿はんだ耐熱性;良
【0158】
以上、本発明の実施の形態を例示の目的で詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に制約されることはなく、種々の変形が可能である。