(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-15
(45)【発行日】2024-10-23
(54)【発明の名称】多結晶シリコン原料
(51)【国際特許分類】
C30B 29/06 20060101AFI20241016BHJP
【FI】
C30B29/06 502H
(21)【出願番号】P 2021512310
(86)(22)【出願日】2020-04-02
(86)【国際出願番号】 JP2020015226
(87)【国際公開番号】W WO2020204143
(87)【国際公開日】2020-10-08
【審査請求日】2023-03-24
(31)【優先権主張番号】P 2019073020
(32)【優先日】2019-04-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003182
【氏名又は名称】株式会社トクヤマ
(74)【代理人】
【識別番号】110001494
【氏名又は名称】前田・鈴木国際特許弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】浅野 卓也
(72)【発明者】
【氏名】佐伯 幸一
(72)【発明者】
【氏名】惠本 美樹
(72)【発明者】
【氏名】小野田 透
【審査官】末松 佳記
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-315336(JP,A)
【文献】特開2014-156376(JP,A)
【文献】特開2016-108160(JP,A)
【文献】特表2018-525308(JP,A)
【文献】特開2018-090466(JP,A)
【文献】特開2018-095515(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 1/00-35/00
C01B 33/035
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の多結晶シリコン塊を含む、
p型単結晶シリコン製造用多結晶シリコン原料であって、
前記多結晶シリコン原料のバルク内に存在するドナー元素の合計濃度をCd1[ppta]とし、前記多結晶シリコン原料のバルク内に存在するアクセプター元素の合計濃度をCa1[ppta]とし、前記多結晶シリコン原料の表面に存在するドナー元素の合計濃度をCd2[ppta]とし、前記多結晶シリコン原料の表面に存在するアクセプター元素の合計濃度をCa2[ppta]としたときに、
前記Cd1、Ca1、Cd2およびCa2が、5[ppta]≦(Ca1+Ca2)-(Cd1+Cd2)≦26[ppta]である関係を満足することを特徴とする多結晶シリコン原料。
【請求項2】
前記多結晶シリコン原料に含まれる多結晶シリコン塊の総重量を100%とすると、多結晶シリコン塊の最大辺長が10mm以上45mm以下である多結晶シリコン塊の重量が90%以上であることを特徴とする請求項1に記載の多結晶シリコン原料。
【請求項3】
前記多結晶シリコン原料に含まれる多結晶シリコン塊の総重量を100%とすると、多結晶シリコン塊の最大辺長が20mm以上70mm以下である多結晶シリコン塊の重量が90%以上であることを特徴とする請求項1に記載の多結晶シリコン原料。
【請求項4】
前記多結晶シリコン原料に含まれる多結晶シリコン塊の総重量を100%とすると、多結晶シリコン塊の最大辺長が60mm以上100mm以下である多結晶シリコン塊の重量が90%以上であることを特徴とする請求項1に記載の多結晶シリコン原料。
【請求項5】
複数の多結晶シリコン塊を含む多結晶シリコン原料を溶融して、p型単結晶シリコンを製造する方法であって、
前記多結晶シリコン原料溶融時にドーパントを添加せずに、抵抗率が10000Ωcm以上であるp型単結晶シリコンを製造する工程を有し、
前記多結晶シリコン原料として、多結晶シリコン原料のバルク内に存在するドナー元素の合計濃度をCd1[ppta]とし、多結晶シリコン原料のバルク内に存在するアクセプター元素の合計濃度をCa1[ppta]とし、多結晶シリコン原料の表面に存在するドナー元素の合計濃度をCd2[ppta]とし、多結晶シリコン原料の表面に存在するアクセプター元素の合計濃度をCa2[ppta]としたときに、前記Cd1、Ca1、Cd2およびCa2が、5[ppta]≦(Ca1+Ca2)-(Cd1+Cd2)≦26[ppta]である関係を満足する多結晶シリコン原料を用いるp型単結晶シリコンの製造方法。
【請求項6】
p型単結晶シリコンを製造する工程において、p型単結晶シリコンの抵抗率が50000Ωcm以下である請求項5に記載のp型単結晶シリコンの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多結晶シリコン原料に関する。特に、本発明は、高い抵抗率を有する単結晶シリコンを製造するための多結晶シリコン原料に関する。
【背景技術】
【0002】
単結晶シリコンは、工業的に極めて重要な材料であり、半導体ウエハ、太陽電池セル、高周波デバイス、センサ等の各種素子の基板等に用いられている。各種素子の基板に用いる場合、基板内の電荷の移動を抑制するために、基板は高い抵抗率を有する単結晶シリコンであることが求められる。たとえば、特許文献1に記載されているように、抵抗率が数千Ωcm程度の基板が求められている。
【0003】
単結晶シリコンは、多結晶シリコン原料を溶融して得られるシリコン融液に種結晶を接触させることにより単結晶シリコンインゴットとして得られる。単結晶シリコンインゴットを得る方法としては、CZ(チョクラルスキー)法およびFZ(浮遊帯)法が知られている。
【0004】
従来、高い抵抗率を有する単結晶シリコンは、FZ法により製造されてきた。しかしながら、FZ法では、大口径のインゴットを製造することは困難であり、コスト面で不利であった。
【0005】
そこで、φ300mm以上の大口径のインゴットを比較的容易に製造可能であり、かつFZ法よりも低コストであるCZ法により、高い抵抗率を有する単結晶シリコンを製造することが試みられている。
【0006】
たとえば、特許文献2は、多結晶シリコン原料中の不純物濃度の差(ドナー濃度とアクセプター濃度との差)が特定の範囲内に管理された多結晶シリコン原料を用いることにより、高い抵抗率を有する単結晶シリコンが得られることを開示している。
【0007】
しかしながら、多結晶シリコン原料の表面は、通常汚染されており、種々の不純物元素が表面に存在している。このような不純物元素の中にはドーパント元素(ドナー元素およびアクセプター元素)も含まれている。多結晶シリコン原料の表面に存在するドーパント元素(表面ドーパント元素)と、多結晶シリコン原料のバルク内に存在するドーパント元素(バルクドーパント元素)とは区別される。
【0008】
ところが、多結晶シリコン原料を溶融する際に、表面ドーパント元素は、バルクドーパント元素と共に、シリコン融液に含まれることとなる。したがって、単結晶シリコンを引き上げる際に、表面ドーパント元素は、単結晶シリコン内にバルクドーパント元素として取り込まれる。その結果、多結晶シリコン原料の表面ドーパント元素は、単結晶シリコンの抵抗率に影響を与えてしまう。
【0009】
特に、CZ法において用いられる多結晶シリコン原料は、多結晶シリコンロッドを破砕して得られる断片状の原料(多結晶シリコン塊)を用いる。そのため、多結晶シリコン塊から構成される多結晶シリコン原料の表面積は、FZ法において用いられるロッド状の多結晶シリコン原料の表面積よりも非常に大きくなってしまう。表面ドーパント元素量は表面積に比例するので、CZ法では、表面ドーパント元素が単結晶シリコンの抵抗率に与える影響は極めて大きい。
【0010】
さらに、多結晶シリコン原料における多結晶シリコン塊の大きさは一定ではなく、所定の粒度分布を有している。多結晶シリコン塊の表面積は、多結晶シリコン塊の大きさに対応しているため、表面ドーパント元素量は、多結晶シリコン塊の大きさに応じて異なっている。
【0011】
そこで、高い抵抗率を有する単結晶シリコンを製造する際に、多結晶シリコン原料のバルクドーパント元素だけでなく、表面ドーパント元素にも着目する技術が知られている。たとえば、特許文献3は、多結晶シリコン原料における表面ドーパント元素の濃度およびバルクドーパント元素の濃度をそれぞれ所定の範囲内とすることを開示している。また、特許文献4及び特許文献5は、多結晶シリコン原料における表面ドーパント元素の濃度およびバルクドーパント元素の濃度を測定して、その測定結果に基づき、所望の抵抗率となるようにドーパントを添加することを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】特開2017-69240号公報
【文献】特開2004-315336号公報
【文献】特開2013-151413号公報
【文献】特開2014-156376号公報
【文献】特開2018-90466号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
近年、より高い抵抗率を有する単結晶シリコンが求められており、たとえば、10000Ωcm以上の抵抗率を有する単結晶シリコンが求められている。このような非常に高い抵抗率を有する単結晶シリコンを得るには、ドーパントを添加することなく、多結晶シリコン原料に含まれるドーパント元素量を調整することが好ましい。
【0014】
しかしながら、特許文献2では、多結晶シリコン原料のバルクドーパント元素の濃度を制御することは示唆されておらず、単に、種々の多結晶シリコン原料を組み合わせて、原料中のドナー濃度とアクセプター濃度との差が特定の範囲内に管理された原料を用いているだけである。しかも、多結晶シリコン原料の表面ドーパント元素の濃度には何ら着目していない。
【0015】
したがって、表面ドーパント元素の濃度によっては、所望の導電型と逆の導電型を有する単結晶シリコンが得られてしまうという問題があった。あるいは、所望の導電型の単結晶シリコンであっても、所望の抵抗率が得られないという問題があった。
【0016】
そもそも、特許文献2では、抵抗率が2000Ωcm程度の単結晶シリコンを製造することを目的としており、多結晶シリコン原料中のドナー濃度とアクセプター濃度との差を特許文献2に記載された範囲内としても、抵抗率が、たとえば10000Ωcm以上の単結晶シリコンを製造することはできない。
【0017】
特許文献3では、表面ドーパント元素の濃度とバルクドーパント元素の濃度とに着目しているものの、それぞれの濃度範囲を特定しているに過ぎない。そのため、表面ドーパント元素におけるドナー濃度およびアクセプター濃度と、バルクドーパント元素におけるドナー濃度およびアクセプター濃度と、の大小関係によっては、所望の導電型と逆の導電型を有する単結晶シリコンが得られてしまうという問題があった。あるいは、所望の導電型の単結晶シリコンであっても、所望の抵抗率が得られないという問題があった。
【0018】
特許文献4及び特許文献5では、特許文献2と同様に、多結晶シリコン原料の表面ドーパント元素の濃度およびバルクドーパント元素の濃度を制御することは示唆されておらず、表面ドーパント元素の濃度およびバルクドーパント元素の濃度の測定結果に基づき、ドーパントを添加して単結晶シリコンの抵抗率を調整している。
【0019】
しかしながら、特許文献4も特許文献5も、特許文献2と同様に、抵抗率が数千Ωcm程度の単結晶シリコンを製造することを目的としている。したがって、特許文献4に開示された方法により、たとえば、10000Ωcm以上の抵抗率を有する単結晶シリコンを得ようとする場合には、ドーパントの添加量を極微量とせざるを得ない。このような極微量のドーパント添加量を秤量するには誤差が大きくなり、所望の抵抗率が得られがたいという問題があった。
【0020】
しかも、これら特許文献では、意図されているドーパント元素が、具体的には、ドナー元素であればリン(P)のみ、さらにアクセプター元素であればホウ素(B)のみでしかない。これらのため斯様にドーパントを添加せずに得られる単結晶シリコンの抵抗率を狙いどおりの値にできず、その結果、上記ドーパントを添加して調整しなければ、導電型の制御はもちろん、抵抗率も所望の高い値を制御困難とするものであった。
【0021】
本発明は、このような実状に鑑みてなされ、ドーパントを添加することなく、導電型がp型であり、かつ狙いの高い抵抗率を精度よく示すことができる単結晶シリコンを製造するための多結晶シリコン原料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明者らは、多結晶シリコン原料において、抵抗率に影響を与える全てのアクセプターおよびドナーを考慮して、これらのバランスを所定の範囲内とすることにより、狙いの抵抗率が高くても、狙いの導電型を有し、狙いの抵抗率を精度よく示すことができる単結晶シリコンが得られることを見出した。
【0023】
上記目的を達成するため、本発明の態様は、
[1]複数の多結晶シリコン塊を含む単結晶シリコン製造用多結晶シリコン原料であって、
多結晶シリコン原料のバルク内に存在するドナー元素の合計濃度をCd1[ppta]とし、多結晶シリコン原料のバルク内に存在するアクセプター元素の合計濃度をCa1[ppta]とし、多結晶シリコン原料の表面に存在するドナー元素の合計濃度をCd2[ppta]とし、多結晶シリコン原料の表面に存在するアクセプター元素の合計濃度をCa2[ppta]としたときに、
Cd1、Ca1、Cd2およびCa2が、5[ppta]≦(Ca1+Ca2)-(Cd1+Cd2)≦26[ppta]である関係を満足することを特徴とする多結晶シリコン原料である。
【0024】
[2]多結晶シリコン原料に含まれる多結晶シリコン塊の総重量を100%とすると、多結晶シリコン塊の最大辺長が10mm以上45mm以下である多結晶シリコン塊の重量が90%以上であることを特徴とする[1]に記載の多結晶シリコン原料である。
【0025】
[3]多結晶シリコン原料に含まれる多結晶シリコン塊の総重量を100%とすると、多結晶シリコン塊の最大辺長が20mm以上70mm以下である多結晶シリコン塊の重量が90%以上であることを特徴とする[1]に記載の多結晶シリコン原料である。
【0026】
[4]多結晶シリコン原料に含まれる多結晶シリコン塊の総重量を100%とすると、多結晶シリコン塊の最大辺長が60mm以上100mm以下である多結晶シリコン塊の重量が90%以上であることを特徴とする[1]に記載の多結晶シリコン原料である。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、ドーパントを添加することなく、導電型がp型であり、かつ狙いの高い抵抗率を精度よく示すことができる単結晶シリコンを製造するための多結晶シリコン原料を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】
図1は、本実施形態に係る多結晶シリコン原料を製造する方法および本実施形態に係る多結晶シリコン原料を用いて単結晶シリコンを製造する方法の工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明を、具体的な実施形態に基づき、以下の順序で詳細に説明する。
1.多結晶シリコン原料
2.多結晶シリコン原料の製造方法
2.1.多結晶シリコンロッドの製造
2.2.多結晶シリコンロッドの破砕
2.3.多結晶シリコン破砕物の洗浄
2.4.多結晶シリコン原料
3.多結晶シリコン原料のドーパント濃度制御
3.1.多結晶シリコン原料のバルクドーパント濃度制御
3.1.1.バルクドーパント濃度の測定
3.2.多結晶シリコン原料の表面ドーパント濃度制御
3.2.1.表面ドーパント濃度の測定
4.本実施形態のまとめ
【0030】
(1.多結晶シリコン原料)
本実施形態に係る多結晶シリコン原料は、複数の多結晶シリコン塊を含む。多結晶シリコン塊は、公知の方法により製造される多結晶シリコンロッドを破砕して得られる多結晶シリコン破砕物を洗浄して得られる。
【0031】
本実施形態に係る多結晶シリコン原料は、導電型がp型である単結晶シリコンの製造に好適に用いられる。単結晶シリコン内に存在するキャリアが正孔である場合には、導電型はp型であり、自由電子である場合には、導電型はn型である。
【0032】
単結晶シリコン内において、正孔を供給するアクセプター元素としては、ホウ素(B)、アルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)、インジウム(In)が挙げられる。一方、自由電子を供給するドナー元素としては、リン(P)、ヒ素(As)、アンチモン(Sb)が挙げられる。したがって、導電型がp型である単結晶シリコンにおいては、電荷を運ぶキャリアとして、正孔が多数キャリアである。
【0033】
そこで、導電型がp型の単結晶シリコンを製造するために、本実施形態では、単結晶シリコンの原料として使用される多結晶シリコン原料に存在する全てのドーパント(アクセプター元素およびドナー元素)を考慮して、アクセプター元素濃度をドナー元素濃度よりも大きくして、正孔を多数キャリアとすることにより、導電型がp型の単結晶シリコンを容易に得ることができる。
【0034】
一方、導電型がp型である単結晶シリコンの抵抗率はアクセプター元素濃度、すなわち、単結晶シリコン中のキャリアの数に対応している。アクセプター元素濃度が大きいと、キャリアである正孔の数が多いため、抵抗率は低くなる。したがって、高い抵抗率を有する単結晶シリコンを得るには、アクセプター元素濃度を小さくする必要がある。
【0035】
しかしながら、本発明者らは、このアクセプター元素濃度は、単結晶シリコン内に存在するアクセプター元素の合計の濃度である必要はなく、抵抗率に実際に寄与する実効アクセプター元素濃度であればよいことに着目した。アクセプター元素とドナー元素とが単結晶シリコン内に存在する場合、アクセプター元素に由来するキャリア(正孔)とドナー元素に由来するキャリア(自由電子)とが打ち消し合うので、キャリア数の観点からは、アクセプター元素濃度とドナー元素濃度との差が、実効アクセプター元素濃度となり、実効アクセプター元素濃度に対応する有効なキャリア数が抵抗率に反映される。
【0036】
換言すれば、実効アクセプター元素濃度を所定の範囲内とすることにより、導電型がp型である単結晶シリコンの抵抗率を所定の範囲内とすることができる。
【0037】
ここで、単結晶シリコン引上げ工程において、多結晶シリコン原料以外の外的要因で受けるドーパント汚染は極微量に抑えることができる。従って、単結晶シリコン内の実効アクセプター元素濃度を制御するには、上述したように、単結晶シリコンの原料として使用される多結晶シリコン原料に存在する全てのドーパント(アクセプター元素およびドナー元素)を考慮して、その濃度を制御すればよい。多結晶シリコン原料に存在するアクセプター元素およびドナー元素は、多結晶シリコン原料のバルク内に存在するドーパント(バルクドーパント)と、多結晶シリコン原料の表面に存在するドーパント(表面ドーパント)とからなる。
【0038】
そこで、本実施形態では、多結晶シリコン原料のバルク内および表面に存在するアクセプター元素の合計濃度と、多結晶シリコン原料のバルク内および表面に存在するドナー元素の合計濃度と、の差が特定の範囲に制御されている。
【0039】
具体的には、多結晶シリコン原料のバルク内に存在するドナー元素の合計濃度をCd1[ppta]とし、多結晶シリコン原料のバルク内に存在するアクセプター元素の合計濃度をCa1[ppta]とし、多結晶シリコン原料の表面に存在するドナー元素の合計濃度をCd2[ppta]とし、多結晶シリコン原料の表面に存在するアクセプター元素の合計濃度をCa2[ppta]とした場合に、Cd1、Ca1、Cd2およびCa2は以下の関係を満足する。
5[ppta]≦(Ca1+Ca2)-(Cd1+Cd2)≦26[ppta]
【0040】
ここで、上記多結晶シリコン原料の表面に存在するドナー元素の合計濃度(Cd2)およびアクセプター元素の合計濃度(Ca2)は、多結晶シリコン原料の表面に存在するこれらドナー元素の量およびアクセプター元素の量を、多結晶シリコン原料の表面に対する値で示したものではなく、後述する算出式から明らかなように、これら各表面ドーパント元素量を、多結晶シリコン原料のシリコンの元素数量に対する値として示した値である。
【0041】
アクセプター元素濃度とドナー元素濃度とが上記の範囲内に制御された多結晶シリコン原料を用いることにより、製造される単結晶シリコンのバルク内のドーパント濃度は、多結晶シリコン原料由来の濃度がほぼ反映される。したがって、多結晶シリコン原料におけるアクセプター元素濃度とドナー元素濃度とを上記のように制御することにより、製造される単結晶シリコンは、狙いの導電型を有し、狙いの抵抗率を精度よく示すことができる。
【0042】
上記の関係における上限値である26[ppta]は、抵抗率がほぼ10000[Ωcm]を示す単結晶シリコン内の理論上のアクセプター元素濃度に相当する。すなわち、上記の関係において、多結晶シリコン原料における実効アクセプター元素濃度の上限を26[ppta]とすることにより、導電型がp型であり、抵抗率が10000[Ωcm]近傍である単結晶シリコンを得ることができる。
【0043】
一方、上記の関係における下限値である5[ppta]は、抵抗率がほぼ50000[Ωcm]を示す単結晶シリコン内の理論上のアクセプター元素濃度に相当する。抵抗率が50000[Ωcm]を超える単結晶シリコンは、真性半導体に近いレベルのドーパント濃度を示すので、アクセプター元素濃度またはドナー元素濃度のごく僅かな変化により、アクセプター元素濃度とドナー元素濃度との大小関係が逆転してしまい、所望の導電型とは逆の導電型、すなわち、n型の単結晶シリコンが得られる場合がある。
【0044】
抵抗率が10000[Ωcm]以上を示すP型の単結晶シリコンをより確実に得る観点からは、Cd1、Ca1、Cd2およびCa2は以下の関係を満足するのがより好ましい。
10[ppta]≦(Ca1+Ca2)-(Cd1+Cd2)≦20[ppta]
【0045】
また、単結晶シリコンの引き上げ中には、ドナー元素であるリンと、アクセプター元素であるホウ素とが単結晶シリコン中に取り込まれる。リンとホウ素とでは、偏析係数が異なり、偏析係数0.8のホウ素は単結晶シリコン中にほとんど偏析しないため、引き上げ初期と引き上げ後期とで単結晶シリコン中のホウ素濃度はあまり変わらない。一方、偏析係数0.35のリンは、ホウ素に比べて偏析しやすく、引き上げ初期は単結晶シリコン中のリン濃度が低いものの、引き上げ後期になるにつれ単結晶シリコン中のリン濃度が上昇する。その結果、引き上げられた単結晶シリコンにおいて、引き上げ初期に得られた部分と、引き上げ後期に得られた部分とで、アクセプター元素濃度とドナー元素濃度との大小関係が逆転してしまい、導電型が反転する場合がある。これを防止するため、本実施形態では、上記の関係において、下限値を5[ppta]に規定する。
【0046】
本実施形態では、実効アクセプター元素濃度が上記の関係を満足していれば、Cd1、Ca1、Cd2およびCa2の値は特に制限されない。すなわち、多結晶シリコン原料におけるバルクドーパント濃度および表面ドーパント濃度の絶対値の制御はそれほど重要ではなく、バルクドーパント濃度と表面ドーパント濃度とを連携させて制御することが重要である。
【0047】
なお、Ca1は通常、1~10[ppta]の範囲にあり、安定的に10000[Ωcm]以上のP型単結晶シリコンを得る観点からは、Ca1は1~4[ppta]の範囲であることが好ましい。Ca2は通常、1~100[ppta]の範囲にあり、上記と同じ理由から、Ca2は10~90[ppta]の範囲であることが好ましい。他方、Cd1は通常、1~80[ppta]の範囲にあり、安定的に10000[Ωcm]以上のP型単結晶シリコンを得る観点からは、Cd1は10~60[ppta]の範囲であることが好ましい。Cd2は通常、1~50[ppta]の範囲にあり、上記と同じ理由から、Cd2は1~30[ppta]の範囲であることが好ましい。
【0048】
(2.多結晶シリコン原料の製造方法)
本実施形態に係る多結晶シリコン原料を製造する方法としては、特に制限されず、シーメンス法、流動層法等の公知の方法であればよい。本実施形態では、シーメンス法により多結晶シリコン原料を製造する方法について
図1に示す工程図を用いて説明する。
【0049】
(2.1.多結晶シリコンロッドの製造)
シーメンス法では、まず、反応容器内部に、炭素製電極に接続されたシリコン芯線を配置し、シリコン芯線に通電して、シリコンの析出温度以上に加熱する。
図1に示すように、加熱されたシリコン芯線に対して、原料ガスとしてシラン化合物のガスと還元性ガスとを供給し、化学気相析出法によりシリコン芯線上に多結晶シリコンを析出させて、多結晶シリコンロッドを得る。
【0050】
シラン化合物としては、モノシラン、トリクロロシラン、四塩化ケイ素、モノクロロシラン、ジクロロシラン等が例示されるが、本実施形態では、トリクロロシランが好ましい。また、還元性ガスとしては、通常、水素ガスが使用される。
【0051】
得られる多結晶シリコンロッドには、原料ガス(トリクロロシランおよび水素)および電極に起因する不純物元素が含まれている。このような不純物元素には、ボロン(B)、アルミニウム(Al)、リン(P)、ヒ素(As)等のドーパント元素が含まれている。すなわち、このようなドーパント元素は、多結晶シリコンロッドのバルク中に含まれるバルクドーパント元素である。
【0052】
本実施形態では、後述するバルクドーパント濃度制御を行い、多結晶シリコンロッドのバルクドーパント元素の濃度(Cd1およびCa1)を所定の範囲内に制御している。
【0053】
(2.2.多結晶シリコンロッドの破砕)
図1に示すように、得られた多結晶シリコンロッドは、所定のサイズに切断、破砕され、塊状の多結晶シリコン破砕物とされる。具体的には、多結晶シリコンロッドを、炭化タングステンなどの硬質金属から構成されるハンマー、ジョークラッシャー等の破砕機などにより塊状に破砕する。破砕後の多結晶シリコン破砕物の表面には、ハンマーや破砕機の材質、破砕時の環境等に起因する不純物元素が付着し、当該表面が汚染されてしまう。
【0054】
このような不純物元素には、上述したドーパント元素が含まれることがある。すなわち、多結晶シリコン破砕物の表面には、表面ドーパント元素が存在することがある。表面ドーパント元素が存在すると、多結晶シリコン破砕物を溶融して得られるシリコン融液から単結晶シリコンを製造する際に、多結晶シリコン破砕物の表面ドーパント元素が単結晶シリコン中に取り込まれ、単結晶シリコン中にバルクドーパント元素として存在し、単結晶シリコンの導電型および抵抗率に大きな影響を与えてしまう。
【0055】
(2.3.多結晶シリコン破砕物の洗浄)
そこで、本実施形態では、
図1に示すように、多結晶シリコンロッドの破砕に起因する多結晶シリコン破砕物の表面汚染を低減するために、多結晶シリコン破砕物に対して洗浄(湿式処理)を行う。具体的には、まず、フッ化水素酸、硝酸等を含む溶液に、多結晶シリコン破砕物を接触させて、多結晶シリコン破砕物の表面部分をエッチングにより溶出させる。このような処理を行うことにより、破砕時に付着した表面ドーパント元素を多結晶シリコン破砕物から分離することができる。エッチング後には、超純水等により、多結晶シリコン破砕物をリンスして乾燥する。
【0056】
(2.4.多結晶シリコン原料)
本実施形態では、
図1に示すように、洗浄後の多結晶シリコン破砕物に対して、後述する表面ドーパント濃度制御を行い、多結晶シリコン原料を得る。
【0057】
本実施形態では、上記の実効アクセプター元素濃度を満足する多結晶シリコン原料に含まれる多結晶シリコン塊の総重量を100%とすると、多結晶シリコン塊の最大辺長が10mm以上45mm以下である多結晶シリコン塊の重量が90%以上であることが好ましい。また、上記の実効アクセプター元素濃度を満足する多結晶シリコン原料に含まれる多結晶シリコン塊の総重量を100%とすると、多結晶シリコン塊の最大辺長が20mm以上70mm以下である多結晶シリコン塊の重量が90%以上であることも好ましい。また、上記の実効アクセプター元素濃度を満足する多結晶シリコン原料に含まれる多結晶シリコン塊の総重量を100%とすると、多結晶シリコン塊の最大辺長が60mm以上100mm以下である多結晶シリコン塊の重量が90%以上であることも好ましい。
【0058】
上記の実効アクセプター元素濃度には、表面ドーパント元素濃度が考慮されている。この表面ドーパント元素濃度は、多結晶シリコン原料の表面積に依存する。たとえば、多結晶シリコン原料を構成する多結晶シリコン塊の粒径が小さい場合と、多結晶シリコン塊の粒径が大きい場合とでは、多結晶シリコン原料の重量を同じ重量としたときに、多結晶シリコン塊の粒径が小さい方が、多結晶シリコン原料の表面積(多結晶シリコン塊の表面積の合計)は大きくなる。すなわち、同じ重量の多結晶シリコン原料であっても、粒径が小さい方が、表面ドーパント元素の付着量が多くなりやすいため、表面ドーパント濃度は、粒径が大きい場合よりも大きくなり、p型の導電型の制御や、かつ狙いの高い抵抗率を精度よく達成することが、より困難になる。
【0059】
しかしながら、本実施形態では、後述するが、多結晶シリコン原料の粒径を考慮して、表面ドーパント濃度を制御している。その結果、上記のように、多結晶シリコン原料を構成する多結晶シリコン塊の粒径が異なる場合であっても、多結晶シリコン原料における実効アクセプター元素濃度が上記の関係を満足するようにしている。この効果をより顕著に達成できる観点から、多結晶シリコン原料は、粒径が小さく表面積の大きい塊であるのがより好ましい。具体的には、前記した粒度のものの中で、多結晶シリコン原料に含まれる多結晶シリコン塊の総重量を100%として、多結晶シリコン塊の最大辺長が10mm以上45mm以下である多結晶シリコン塊の重量が90%以上であることが特に好ましい。
【0060】
多結晶シリコン破砕物をエッチングすることにより、多結晶シリコンロッドの破砕時までの表面汚染の影響は除去できるものの、多結晶シリコン原料が使用されるまでの間の保管環境等により、再び、多結晶シリコン原料の表面がドーパント元素に汚染されることがある。
【0061】
そのため、このような表面汚染を低減するために、
図1に示すように、通常、洗浄後の多結晶シリコン原料は、ポリエチレン等の樹脂からなる包装袋に所定量充填され、包装袋が密封される。密封された状態で保管された後、包装袋は単結晶シリコン製造装置が設置されているクリーンルームまで搬送され、包装袋が開封され多結晶シリコン原料が取り出され、ルツボ又はリチャージ管に充填される。
【0062】
(3.多結晶シリコン原料のドーパント濃度制御)
本実施形態では、多結晶シリコン原料におけるバルクドーパント濃度(Cd1およびCa1)と表面ドーパント濃度(Cd2およびCa2)とが上記の関係を満足するように制御している。
【0063】
本実施形態では、多結晶シリコン原料におけるバルクドーパント濃度とは、
図1に示すように、バルクドーパント濃度制御後の多結晶シリコンロッドのバルク内に含まれるドーパント濃度である。多結晶シリコン原料における表面ドーパント濃度とは、
図1に示すように、洗浄後の多結晶シリコン破砕物(多結晶シリコン原料)に対して、表面ドーパント濃度制御後のドーパント濃度である。表面ドーパント濃度制御後、速やかに、多結晶シリコン原料を包装袋に充填して密封することにより、表面ドーパント濃度制御後の表面ドーパント濃度が、多結晶シリコン原料の使用時まで維持される。
【0064】
バルクドーパント濃度は、多結晶シリコンロッド製造時の原料ガスの純度、電極を構成する材質の純度や析出反応器の材質、温度等により制御することができる。また、バルクドーパント濃度は、多結晶シリコンロッドから多結晶シリコン原料を得るまでの間において変化しない。したがって、まず、バルクドーパント濃度を制御して、所定の値に確定させてから、表面ドーパント濃度を制御する操作を行うことにより、多結晶シリコン原料におけるバルクドーパント濃度と表面ドーパント濃度とが上述した関係を満足させることが容易となる。
【0065】
(3.1.多結晶シリコン原料のバルクドーパント濃度制御)
シリコンにおけるアクセプター元素は、ホウ素(B)、アルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)、インジウム(In)であるが、ガリウムおよびインジウムは、多結晶シリコンロッドのバルク内にはほぼ存在しないので、その濃度を考慮する必要はない。したがって、本実施形態では、バルクアクセプター濃度として、バルクB濃度、バルクAl濃度について考慮する。
【0066】
シリコンにおけるドナー元素は、リン(P)、ヒ素(As)、アンチモン(Sb)であるが、アンチモンは、多結晶シリコンロッドのバルク内にはほぼ存在しないので、その濃度を考慮する必要はない。したがって、本実施形態では、バルクドナー濃度としては、バルクP濃度、バルクAs濃度について考慮する。
【0067】
多結晶シリコンロッドのバルクP濃度は、たとえば、特開平10-316413号公報に記載されているように、原料ガスであるトリクロロシラン中のジクロロシラン濃度を調整することにより制御できる。また、たとえば、特開2004-250317号公報、特開2005-67979号公報、特開2012-91960号公報等に記載されているように、クロロシラン類を、液状のアルコキシシラン類の存在下で蒸留、あるいは、所定の構造を有するアルデヒド化合物の存在下で蒸留することにより制御できる。
【0068】
多結晶シリコン原料に含まれるリン濃度はバルクP濃度にてコントロール可能であるが、バルクP濃度だけでは所定のリン濃度に到達しない場合は、後述する方法にて表面P濃度を制御すればよい。
【0069】
多結晶シリコンロッドのバルクB濃度およびバルクAl濃度を制御するには、多結晶シリコンロッドの原料ガスであるトリクロロシランの純度を制御する必要がある。しかしながら、バルクB濃度およびバルクAl濃度を制御しようとすると、バルク炭素(C)濃度、バルクリン(P)濃度も変動してしまう。そこで、本実施形態では、バルクB濃度およびバルクAl濃度はできる限り低減し、表面B濃度および表面Al濃度を制御することにより、多結晶シリコン原料におけるアクセプター元素濃度を制御する。
【0070】
多結晶シリコンロッドのバルクB濃度、バルクAl濃度およびバルクAs濃度は、バルクP濃度と同様に、たとえば、特開2013-129592号公報、特開2004-250317号公報、特開2005-67979号公報、特開2012-91960号公報に記載されているように、クロロシラン類を、液状のアルコキシシラン類の存在下で蒸留して得られる精製クロロシラン類、あるいは、所定の構造を有するアルデヒド化合物の存在下で蒸留して得られる精製クロロシラン類を用いることにより制御できる。
【0071】
(3.1.1.バルクドーパント濃度の測定)
本実施形態では、バルクドーパント濃度はJIS H0615に従い測定する。具体的には、多結晶シリコンロッド直胴部の任意の位置において、シリコン芯線を含む直径方向に内径19mmのコアリングロッドをドリルで切り出し、FZ用多結晶シリコンロッドを得る。得られたFZ用多結晶シリコンロッドをテーパ加工した後、脱脂洗浄を行い、フッ硝酸によりエッチングする。エッチング後のFZ用多結晶シリコンロッドをFZ法により単結晶化する。
【0072】
得られた単結晶において、10mm間隔で単結晶の長軸方向の抵抗値を測定し、平均抵抗率を算出する。次に、単結晶において、算出された平均抵抗率と同じ抵抗率を示す位置から単結晶を切り出す。切り出した単結晶を研磨した後、フッ硝酸によりエッチングし、フォトルミネッセンス(PL)測定用サンプルを得る。得られたPL測定用サンプルは液体ヘリウムに浸漬した状態でPL装置によりバルクドーパント濃度が測定される。
【0073】
(3.2.多結晶シリコン原料の表面ドーパント濃度制御)
続いて、表面ドーパント元素の濃度を制御する方法について説明する。表面ドーパント元素の濃度の制御は、多結晶シリコン原料の表面へのドーパント元素の付着を制御すればよいので、様々な方法を採用することができる。以下に示す方法は、表面ドーパント元素の濃度を制御する方法の一例であり、以下に示す方法以外の方法により制御してもよい。
【0074】
本実施形態では、表面ドナー元素として、表面P濃度について考慮し、表面アクセプター元素として、表面B濃度、表面Al濃度について考慮する。なお、作業者への安全、環境への影響、各種法令規制等を考慮して、表面As濃度は制御しない。また、アンチモン、ガリウム、インジウムについては、通常、多結晶シリコン原料の表面には存在せず、他のドーパント元素により表面ドーパント濃度を制御可能なので、これらの元素の表面濃度は、バルク濃度と同様に考慮しない。前述したように多結晶シリコン原料の表面へのドーパント元素の付着は、多結晶シリコンロッドの破砕時に生じ易いが、斯様な破砕時に付着した表面ドーパント元素は、多結晶シリコン破砕物を洗浄することにより容易に除去できる。このため、本実施形態では、
図1に示すように、表面ドーパント濃度の制御は洗浄後の多結晶シリコン破砕物に対して行う。
【0075】
多結晶シリコン原料の表面B濃度は、多結晶シリコン原料が接触している大気中のボロン濃度、給気量、暴露時間に比例する。また、表面B濃度は、多結晶シリコン原料を構成する多結晶シリコン塊の粒径に反比例し、多結晶シリコン塊の表面積に比例する。
【0076】
したがって、平均粒径L[mm]である洗浄後の多結晶シリコン破砕物(多結晶シリコン原料)W[kg]に対して、B濃度がQ
_B[ng/m
3]であるエアーをV[m
3/min]供給している環境下で、当該環境に多結晶シリコン原料をt[min]曝露した際の多結晶シリコン原料の表面B濃度Ca2
_B[ppta]は下式で表すことができる。
【数1】
なお、式中の「k1」は比例係数であり、複数の試料を測定して算出すればよい。上記の式では、多結晶シリコン原料の平均粒径が50mmである場合を基準としている。したがって、平均粒径が50mmよりも小さくなると、エアーへの暴露条件が同じであっても表面B濃度が増加し、平均粒径が50mmよりも大きくなると、表面B濃度は減少する。
【0077】
表面B濃度の制御は、通常、クリーンルーム内で行うので、クリーンルームに供給されるエアーの給気量Vは一定である。また、当該エアー中のB濃度は、公知の方法により測定することができ、たとえば、JACA No.35Aに定めるインピンジャー分析で測定することができる。
【0078】
表面Al濃度および表面P濃度は、多結晶シリコン原料が充填される包装袋を構成する樹脂であるポリエチレン樹脂を利用して制御する。たとえば、特開2017-56959号公報には、多結晶シリコン原料の表面を清浄に維持するために、当該多結晶シリコン原料を保管あるいは搬送する際に用いるポリエチレン包装袋に含まれる所定のドーパント元素の濃度を低くすることが記載されている。これに対し、本実施形態では、ポリエチレン樹脂からのAlおよびPの表面汚染を積極的に利用して、表面Al濃度および表面P濃度が所定の値となるように制御する。
【0079】
多結晶シリコン原料の表面Al濃度は、ポリエチレンフィルム中のAl濃度と、多結晶シリコン原料の単位重量あたりのポリエチレンフィルムとの接触面積と、に比例する。また、多結晶シリコン原料の表面P濃度は、ポリエチレンフィルム中のリン酸エステル量と、多結晶シリコン原料の単位重量あたりのポリエチレンフィルムとの接触面積と、に比例する。
【0080】
そこで、本実施形態では、表面B濃度を制御するためのクリーンルーム環境下で、多結晶シリコン原料をポリエチレンフィルムに接触させる。このとき、多結晶シリコン原料の表面が、AlおよびP以外の元素により汚染されることを防止するために、多結晶シリコン原料の底面および側面をポリエチレンフィルムで覆って、養生することが好ましい。
【0081】
なお、本発明者らは、表面Al濃度および表面P濃度に関して、多結晶シリコン原料の平均粒径およびポリエチレンフィルムとの接触時間の影響は無視できることを見出した。
【0082】
ポリエチレン樹脂には、多くの場合、有機アルミニウム、アルミノキサン、塩化アルミニウム等の触媒由来のAl分が含まれており、多結晶シリコン原料とポリエチレン樹脂とが接触すると、ポリエチレン樹脂に含まれるAlが多結晶シリコン原料の表面に付着する。
【0083】
ポリエチレン樹脂に含まれるAlの含有量は原料であるポリエチレンペレットに依存するので、ポリエチレン樹脂に含まれるAl濃度を制御することができる。そこで、Al濃度Q
_Al[ng/cm
2]であるポリエチレンフィルム上に、多結晶シリコン原料W[kg]を載せた際のポリエチレンフィルムと多結晶シリコン原料との接触面積をS[cm
2]とすると、多結晶シリコン原料の表面Al濃度Ca2
_Al[pptw]は下式で表すことができる。
【数2】
式中の「k2」は比例係数であり、複数の試料を測定して算出すればよい。なお、ポリエチレンフィルム中のAl濃度Q
_Al[ng/cm
2]は、多結晶シリコン原料と接触する面が内側になるようにポリエチレンフィルムを袋状にヒートシールし、塩酸、硝酸等の希酸を投入してポリエチレンを抽出した後、ICP-MSで定量すればよい。また、接触面積Sは、平面状のポリエチレンフィルム上に多結晶シリコン原料を隙間なく載置する場合、当該ポリエチレンフィルムの面積に一致する。
【0084】
また、ポリエチレン樹脂には、可塑剤、酸化防止剤等の用途で、リン酸エステル類が添加剤として添加されている。多結晶シリコン原料とポリエチレン樹脂とが接触すると、リン酸エステル類に起因するリンが多結晶シリコン原料の表面に付着する。ポリエチレン樹脂中のリン量は、リン酸エステル類の量に依存するので、ポリエチレン樹脂に含まれるリン量を制御することができる。
【0085】
そこで、ポリエチレンペレットW
1[kg]に対してリン酸エステルW
2[kg]を添加したポリエチレンフィルム上に、多結晶シリコン原料W
3[kg]を載せた際のポリエチレンフィルムと多結晶シリコン原料との接触面積をS[cm
2]とすると、多結晶シリコン原料の表面P濃度(Ca2
_P)[ppta]は下式で表すことができる。
【数3】
式中の「k3」は比例係数であり、複数の試料を測定して算出すればよい。また、接触面積Sは、平面状のポリエチレンフィルム上に多結晶シリコン原料を隙間なく載置する場合、当該ポリエチレンフィルムの面積に一致する。
【0086】
上記のようにして、表面ドーパント濃度を制御した後は、速やかに、多結晶シリコン原料をAlおよびPを実質的に含有しない包装袋に充填して密封することにより、表面ドーパント濃度制御後の表面ドーパント濃度が、多結晶シリコン原料の使用時まで維持される。このAlおよびPを実質的に含有しない包装袋としては、可塑剤・酸化防止剤としてリン酸エステル類を含有しない低密度ポリエチレン(LDPE)等から構成される包装袋が例示される。LDPEは、Al分を含有した触媒を使用せずにラジカル重合で合成できるからである。
【0087】
(3.2.1.表面ドーパント濃度の測定)
上記の手法により表面ドーパント濃度を制御した後の多結晶シリコン原料における表面B濃度、表面Al濃度、表面P濃度については、以下に示す方法により測定することができる。
【0088】
まず、定量下限向上のため高純度硝酸および高純度フッ酸を含むフッ硝酸溶液にボロンの揮発防止用の錯形成剤を溶解させる。錯形成剤としては高価アルコール類が例示される。
【0089】
所定量の多結晶シリコン塊をフッ硝酸溶液中に浸漬して、表層部分を深さ1μm以上、好ましくは20~30μmに渡ってエッチングにより溶出した後、多結晶シリコン塊を取り出す。その後、100℃以上で、溶出分を含むフッ硝酸溶液を蒸発乾固させた後、残渣分を高純度硝酸で溶解させて回収する。回収した残渣分を2重収束型ICP-MSで定量した実測値を用いて、表面B濃度、表面Al濃度、表面P濃度の夫々を算出すればよい。
【0090】
表面As濃度については、以下に示す方法により測定することができる。たとえば、特開2005-172512号公報に記載されているように、蓋に不純物ガス採取用の取り出し口を備えるフッ素樹脂製容器内に多結晶シリコン塊を所定量充填した後、取り出し口から、高純度フッ酸を所定量投入し、多結晶シリコン塊を高純度フッ酸に浸漬させて密閉する。表層の自然酸化膜を除去した後、発生したヒ素分を含有するガスを取り出し口から採取し、採取したガスを、気体試料導入システムが付属する2重収束型ICP-MSを用いて定量した実測値を用いて、多結晶シリコン原料における表面As濃度を算出すればよい。
【0091】
なお、これら表面B濃度、表面Al濃度、表面P濃度、および表面As濃度は、2重収束型ICP-MSを用いて定量した各ドーパント元素濃度の実測値を用いて下記式により算出される。
【数4】
Q:表面ドーパント各元素の濃度[ppta]
C:実測値[ng/L]
Cb:操作ブランク値[ng/L]
W:多結晶シリコンサンプル重量[g]
L:残渣分の回収に使用した硝酸量[L]
M
Si:シリコンの原子量
M:対象ドーパント(B、Al、P、As)の原子量
【0092】
そうして上記により得られた表面B濃度、表面Al濃度、表面P濃度、および表面As濃度から、表面ドーパント濃度(Ca2およびCd2)[ppta]を求めることができる。
【0093】
(4.本実施形態のまとめ)
本実施形態では、単結晶シリコンに存在するバルクドーパント元素の合計濃度が、単結晶シリコンを製造するために使用される多結晶シリコン原料において、当該多結晶シリコン原料に存在する全ドーパント元素の合計濃度にほぼ依存することに着目している。
【0094】
単結晶シリコンの導電型は、自由電子および正孔のどちらが多数キャリアであるかにより決まる。また、単結晶シリコンの抵抗率は、多数キャリア数と少数キャリア数との差分に対応している。
【0095】
そこで、単結晶シリコンを製造するために使用される多結晶シリコン原料において、多結晶シリコン原料におけるアクセプター元素のバルク濃度および表面濃度と、ドナー元素のバルク濃度および表面濃度と、が上述した関係を満足するよう制御している。
【0096】
単結晶シリコンを製造する方法としては、たとえば、
図1に示すように、上記の多結晶シリコン原料を用いて単結晶シリコンインゴットを製造する方法が例示される。単結晶シリコンインゴットを得る方法としては、CZ法が好ましい。CZ法では、ルツボに収容された多結晶シリコン原料を加熱してシリコン融液とし、当該シリコン融液に種結晶を接触させて得られる単結晶シリコンインゴットを引き上げながら成長させる。
【0097】
得られる単結晶シリコンインゴットは、通常、棒状であり、安定的に結晶育成され、径が一定な直胴部と、直胴部の両端に位置するトップ部(拡径部)およびテイル部(縮径部)とから構成されていることが多い。CZ法により製造した単結晶シリコンインゴットの直胴部の長さは通常、900~1800mmであり、径は通常、φ200~300mmである。
【0098】
なお、多結晶シリコン原料溶融時にドーパントを添加して、抵抗率等を制御してもよいが、本実施形態に係る多結晶シリコン原料を用いることにより、多結晶シリコン原料溶融時にドーパントを添加しなくても、高抵抗の単結晶シリコンインゴットを得ることができる。なお、本実施形態に係る多結晶シリコン原料を用いて単結晶シリコンを製造する場合においても、単結晶シリコンの特性を制御するために、多結晶シリコン原料溶融時にドーパントを添加してもよい。
【0099】
多結晶シリコン原料において、実効アクセプター元素濃度(アクセプター元素のバルク濃度および表面濃度の合計と、ドナー元素のバルク濃度および表面濃度の合計と、の差分)が上述した関係を満足することにより、得られる単結晶シリコンインゴットの導電型はP型であり、かつ抵抗率が、多結晶シリコン原料の実効アクセプター元素濃度に対応する値を示す。
【0100】
本実施形態では、単結晶シリコンインゴットの導電型に影響を与えるアクセプター元素およびドナー元素の全ての濃度を考慮しているので、所望の導電型が得られ、所望の導電型とは異なる導電型のインゴットが得られることはない。
【0101】
また、多結晶シリコン原料における上述した関係から算出される値は、単結晶シリコンインゴットにおける抵抗率に対応しているので、狙いの抵抗率を精度よく達成することができる。
【0102】
以上、本発明の実施形態について説明してきたが、本発明は上記の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の範囲内において種々の態様で改変しても良い。
【実施例】
【0103】
以下、実施例において、本発明をさらに詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0104】
(実施例1)
多結晶シリコン原料は、シーメンス法により製造した。原料ガスとしては、純度の高い精製トリクロロシランと水素とを使用した。
【0105】
精製トリクロロシランは、以下に示す方法により製造したものを用いた。まず、金属シリコンと呼ばれる冶金級の低純度シリコンと塩化水素との反応、および金属シリコンとテトラクロロシランと水素との反応により、純度の低い粗トリクロロシランを得た。
【0106】
粗トリクロロシランの原料である金属シリコンには、B、Al、P、Asがそれぞれ数百ppb~数百ppmの割合で混入しており、金属シリコンと塩化水素との反応、および、金属シリコンとテトラクロロシランと水素との反応時に、各ドーパント成分も塩素化され、粗トリクロロシラン中に混入する。
【0107】
そこで、得られた粗トリクロロシランを蒸留精製して、粗トリクロロシラン中のB、P、AlおよびAsを分離除去し、精製トリクロロシランを得た。得られた精製トリクロロシラン中の不純物濃度をICP-MSで測定した結果、B、P、Al、As濃度はそれぞれ1[ppba]以下であった。
【0108】
また、多結晶シリコンの析出工程では、上記精製トリクロロシランを反応容器に供給するとともに、未反応のトリクロロシランを回収して蒸留精製を行い、再び反応容器内に供給した。トリクロロシランの回収精製工程では、ジクロロシランと、ジククロシランと沸点の近いSiH3PH3と、を系外に放出し、回収精製トリクロロシラン中のP濃度を低減した。
【0109】
回収精製トリクロロシラン中のB、P、Al、As濃度をICP-MSで測定した結果それぞれ1[ppba]以下であり、ガスクロマトグラフィでジクロロシラン濃度を測定した結果800[ppmw]であった。
【0110】
水素として、露点-70℃以下の高純度水素と、高純度水素を反応容器に供給後に回収された未反応の水素を精製した回収精製水素と、を用いた。高純度水素と回収精製水素とが混合され、反応容器内に供給する直前の水素中のドーパント成分量をインピンジャー法で測定した結果、B、Al、P、Asとも定量下限の0.05[ppbv]以下であった。
【0111】
多結晶シリコンが析出するシリコン芯線は、多結晶シリコンロッドより切り出した後、フッ硝酸を用いたエッチングにより、表層を深さ5μm以上溶出させて、切り出し時に受けた重金属汚染とドーパント汚染との影響を除去した。
【0112】
シリコン芯線を通電加熱し、約1000℃まで昇温させた後、上記の精製トリクロロシランと高純度水素との混合ガスを反応容器内に供給し、多結晶シリコンの析出を行った。析出した多結晶シリコンの径が直径約130mmとなった段階で精製トリクロロシランと高純度水素との混合ガスおよび電力の供給を終了し、析出反応を終了させた。続いて、多結晶シリコンの析出物を切り出し、多結晶シリコンロッドを得た。
【0113】
得られた多結晶シリコンロッドのバルクドーパント濃度を以下のようにして測定した。JIS H0615に従い、得られた多結晶シリコンロッドから、シリコン芯線部を通るようにコアリングを行い、直径19mmのコアリングロッドを取得した。得られたコアリングロッドをフッ硝酸でエッチングし、コアリング時の汚染を除去した後、FZ法による単結晶化を行った。得られた単結晶の長軸方向において、10mm毎に比抵抗値を四端針抵抗測定器(NAPSON製RT-80)により測定し、平均抵抗率を算出した。平均抵抗率は2200[Ωcm]であった。
【0114】
続いて、抵抗率が2200[Ωcm]を示す位置よりフォトルミネッセンス用サンプルを切出し、研磨、エッチングを行い、鏡面サンプルを得た。得られた鏡面サンプルを液体ヘリウム中に浸漬させ、フォトルミネッセンス測定装置(西進商事製 PL-82IGA)で各ドーパント量を測定した。その結果、バルクB濃度が2[ppta]、バルクAl濃度が定量下限である1[ppta]未満、バルクP濃度が45[ppta]、バルクAs濃度が1[ppta]であった。したがって、バルクアクセプター濃度は2[ppta]であり、バルクドナー濃度は46[ppta]であった。なお、バルクAl濃度の測定結果は1[ppta]未満であり、且つピークも確認されなかったことから、バルクAl濃度は0[ppta]としてバルクアクセプター濃度の計算を行った。
【0115】
バルクドーパント濃度測定用サンプルを取得した後の残りの多結晶シリコンロッドを破砕し多結晶シリコン破砕物(多結晶シリコンナゲット)を得た。
【0116】
得られた多結晶シリコンナゲットを選別装置により3種類のサイズに選別し、選別されたナゲット各30kgを抜取り1ピースずつノギスで最大辺長を測定した。
【0117】
スモールサイズのナゲットSには、最大辺長が10mm以上、45mm以下のナゲットが93wt%含まれており、ナゲットSのメジアン径は31mmであった。
【0118】
ミドルサイズのナゲットMには、最大辺長が20mm以上、70mm以下のナゲットが92wt%含まれており、ナゲットMのメジアン径は51mmであった。
【0119】
ラージサイズのナゲットLには、最大辺長が60mm以上100mm以下のナゲットが92wt%含まれており、ナゲットLのメジアン径は83mmであった。
【0120】
サイズにより選別された多結晶シリコンナゲットを電子工業用硝酸と電子工業用フッ化水素酸との混酸でエッチングを行い、表層部分を溶出させ、破砕時の表面汚染を除去した。ナゲットのサイズによりエッチング液への反応性が異なるので、ナゲットのサイズに応じてエッチング時間を調整し、いずれのサイズのナゲットにおいてもエッチオフ量が3μm以上となるようにエッチングした。その後、比抵抗18MΩcmの超純水でリンスを行い、サイズの異なる3種類の多結晶シリコン原料を得た。3種類の多結晶シリコン原料のバルクドーパント濃度は同じである。
【0121】
得られた多結晶シリコン原料に対して、表面ドーパント濃度を以下のようにして制御した。
【0122】
まず、多結晶シリコン原料を、ISO14644-1 Class6で清浄度が管理されているクリーンルームに搬送し、サイズ毎にポリエチレンシートが敷かれたコンテナに受け、風乾を行った。
【0123】
いずれのサイズの多結晶シリコン原料も、コンテナには150kgの多結晶シリコンを載置し、その時の多結晶シリコン原料とポリエチレンシートとの接触面積は1.7m2であった。また、風乾時に多結晶シリコン原料に供給したエアーの量は40m3/minであった。
【0124】
供給したエアー中のドーパント濃度を日本空気清浄協会が定める基準(JACA No.35A)に従い測定した結果、B濃度が31ng/m3、Al濃度、P濃度、As濃度はいずれも定量下限である1ng/m3以下であった。
【0125】
養生用のポリエチレンシートとして、酸化防止剤としてリン酸エステル類を含まない直鎖状短鎖分岐ポリエチレン(LLDPE)シートを用いた。このポリエチレンシートを5%希硝酸水溶液に浸漬して、ICP-MSにてポリエチレンシート表面のドーパント量を調査した結果、Al濃度が13ng/cm2、B濃度、P濃度、As濃度はいずれも定量下限である1ng/cm2であった。
【0126】
表面ドーパント濃度をコントロールするために、風乾時間を、ナゲットSについては6時間、ナゲットMについては15時間、ナゲットLについては36時間とした。風乾完了後、サイズ毎にポリエチレン包装袋に5kgずつ詰め、包装袋開口部をヒートシールにて密閉した。尚、ポリエチレン包装袋に5%希硝酸を満たし、抽出液をICP-MSにて測定することで、包装袋のナゲットとの接触面のドーパント量を調査した結果、B濃度、Al濃度、P濃度、As濃度いずれも定量下限である1ng/cm2であった。
【0127】
表面ドーパント濃度測定用サンプルとして、密閉されたポリエチレン包装袋から多結晶シリコンナゲットをサイズ毎に各5kgの抜取りを行った。表面ドーパント濃度は以下のようにして測定した。
【0128】
高純度硝酸および高純度フッ化水素酸にマンニトールを添加して溶解させた後、多結晶シリコンナゲット約100gをPFA製ピンセットにて袋から取出し、フッ硝酸に浸漬させ、ナゲット表面を20~30μm溶解させた後、多結晶シリコンナゲットをフッ硝酸から取除いた。
【0129】
多結晶シリコンを取除いた後のフッ硝酸を加熱し、蒸発乾固させた後、硝酸10mlで残渣分を回収溶解させて、二重収束型ICP-MS(Thermo Fischer製 Element2)で各表面ドーパント元素を定量した。得られた実測値から、下記に示す式を用いて、多結晶シリコンに含まれるシリコン数を基準とする各表面ドーパント元素濃度を算出した。結果を表1に示した。
【数5】
Q:表面ドーパント各元素の濃度[ppta]
C:実測値[ng/L]
Cb:操作ブランク値[ng/L]
W:多結晶シリコンサンプル重量[g]
L:残渣分の回収に使用した硝酸量[L]
M
Si:シリコンの原子量
M:対象ドーパント(B、Al、P、As)の原子量
【0130】
なお、表面As濃度については、蓋に不純物ガス採取用の取出し口がついているフッ素樹脂製容器内に多結晶シリコンナゲット約100gを充填した後、取り出し口から高純度弗酸200mLを注ぎ、多結晶シリコンナゲットを浸漬させた。この操作により発生したAs分を含有するガスを、気体試料導入システム(J-Sicence製)を備える二重収束型ICP-MSにて定量した実測値を用いた。
【0131】
【0132】
得られた多結晶シリコンナゲットを用いてCZ法により単結晶シリコンの育成を行った。
【0133】
石英坩堝に多結晶シリコンを充填する際の汚染を防ぐために、エアワッシャで外気処理した後、低ボロングラスファイバー製HEPAフィルタを通過したエアーをクリーンルームに供給し、その空気中ドーパント濃度をインピンジャー法にて測定した結果、B濃度が2ng/m3、Al濃度、P濃度、As濃度のいずれも定量下限である1ng/m3以下であった。
【0134】
ISO14644-1 Class6で清浄度が管理されているクリーンルームにて、密封されたポリエチレン包装袋を開封し、石英坩堝に多結晶シリコンナゲットを150kg充填した後、CZ法により、直胴長1600mm、φ200mmである単結晶シリコンを得た。
【0135】
得られた単結晶シリコンの直胴部のトップ側(固化率0.05)とテイル側(固化率0.84)との比抵抗値を四端針抵抗測定器で測定した結果、表2の結果が得られた。
【0136】
【0137】
表2より、多結晶シリコン原料におけるバルクドーパント濃度と表面ドーパント濃度とを上記の関係を満足するように制御することにより、所望の導電型であるp型の単結晶シリコンが得られることが確認できた。
【0138】
また、試料番号1~3の抵抗率の大小関係が、試料番号1~3を製造するために使用された多結晶シリコン原料の実効アクセプター元素濃度(C*)の大小関係に対応していることが確認できた。したがって、多結晶シリコン原料の実効アクセプター元素濃度を所定の値とすることにより、狙いの抵抗率を精度よく達成することができる。
【0139】
(実施例2)
実施例1と同様にトリクロロシランの合成、蒸留精製、回収精製、および多結晶シリコンの析出を行った。このときの回収精製トリクロロシラン中のジクロロシラン濃度をガスクロマトグラフィで測定した結果、900ppmwであった。
【0140】
析出後に得られた多結晶シリコンを実施例1と同様の方法により分析を行った。平均抵抗率は1,700[Ωcm]であった。バルクB濃度が2[ppta]、バルクAl濃度が定量下限である1[ppta]未満であった。バルクアクセプター濃度はバルクAl濃度を0[ppta]と見なして、2[ppta]とした。バルクP濃度は51[ppta]、バルクAs濃度は3[ppta]であった。したがって、バルクドナー濃度は54[ppta]であった。
【0141】
続いて、実施例1と同様に、得られた多結晶シリコンロッドを破砕し、ナゲットS、ナゲットM、ナゲットLに選別した後、エッチングを行い、多結晶シリコン原料を得た。
【0142】
各サイズ30kgずつを抜取り、1ピース毎に最大辺長を測定した結果、ナゲットSには、最大辺長が10mm以上、45mm以下のナゲットが91wt%含まれており、ナゲットSのメジアン径は29mmであった。ナゲットMには、最大辺長が20mm以上、70mm以下のナゲットが94wt%含まれており、ナゲットMのメジアン径は51mmであった。ナゲットLには、最大辺長が60mm以上100mm以下のナゲットが94wt%含まれており、ナゲットLのメジアン径は81mmであった。
【0143】
実施例1と同様にエッチングして得られた多結晶シリコン原料をサイズ毎にポリエチレンシートが敷かれたコンテナに受け、風乾を行った。このときコンテナに積載した多結晶シリコン原料の重量はサイズ毎に150kgであった。多結晶シリコン原料とポリエチレンシートとの接触面積は1.7m2であった。また、風乾時に多結晶シリコン原料に供給したエアーの量は40m3/minであった。尚、供給したエアー中のドーパント濃度を測定した結果、B濃度が57ng/m3、Al濃度、P濃度、As濃度はいずれも定量下限である1ng/m3以下であった。
【0144】
養生用のポリエチレンシートとして、リン酸エステル類を含むLLDPEシートを用いた。このシート表面のドーパント量を測定した結果、P濃度が15ng/cm2、Al濃度が4ng/cm2、B濃度、As濃度はいずれも定量下限である1ng/cm2であった。
【0145】
また、ナゲットの風乾時間は、ナゲットSについては3時間、ナゲットMについては7時間、ナゲットLについては18時間とし、風乾後、ポリエチレン包装袋に5kgずつ詰め、包装袋開口部をヒートシールにて密閉した。
【0146】
密閉されたポリエチレン包装袋から多結晶シリコンナゲットをサイズ毎に各5kg抜き取りを行い、実施例1と同様に各表面ドーパント濃度を算出した。結果を表3に示した。
【0147】
【0148】
得られた多結晶シリコンナゲットを用いて、実施例1と同様にCZ法により、直胴長1600mm、φ200mmである単結晶シリコンを得た。
【0149】
実施例1と同様に、得られた単結晶シリコンの導電型と比抵抗値を測定した。結果を表4に示した。
【0150】
【0151】
表4より、実施例1と同様に、多結晶シリコン原料におけるバルクドーパント濃度と表面ドーパント濃度との関係を上記の範囲内に制御することにより、所望の導電型および狙いの抵抗率を有する単結晶シリコンが得られることが確認できた。
【0152】
(実施例3)
実施例1と同様にトリクロロシランの合成、蒸留精製、回収精製、および多結晶シリコンの析出を行った。このときの回収精製トリクロロシラン中のジクロロシラン濃度をガスクロマトグラフィで測定した結果、200ppmwであった。
【0153】
析出後に得られた多結晶シリコンを実施例1と同様の方法により分析を行った。平均抵抗率は8,300[Ωcm]であった。バルクB濃度は2[ppta]、バルクAl濃度は定量下限である1[ppta]未満であった。バルクアクセプター濃度は、バルクAl濃度を0[ppta]と見なして、2[ppta]とした。バルクP濃度は11[ppta]、バルクAs濃度は2[ppta]であった。したがって、バルクドナー濃度は13[ppta]であった。
【0154】
続いて、実施例1と同様に、得られた多結晶シリコンロッドを破砕し、ナゲットS、ナゲットM、ナゲットLに選別した後、エッチングを行い、多結晶シリコン原料を得た。
【0155】
各サイズ30kgずつを抜取り、1ピース毎に最大辺長を測定した結果、ナゲットSには、最大辺長が10mm以上、45mm以下のナゲットが92wt%含まれており、ナゲットSのメジアン径は31mmであった。ナゲットMには、最大辺長が20mm以上、70mm以下のナゲットが93wt%含まれており、ナゲットMのメジアン径は50mmであった。ナゲットLには、最大辺長が60mm以上100mm以下のナゲットが92wt%含まれており、ナゲットLのメジアン径は81mmであった。
【0156】
実施例1と同様にエッチングして得られた多結晶シリコン原料をサイズ毎にポリエチレンシートが敷かれたコンテナに受け、風乾を行った。このときコンテナに積載した多結晶シリコン原料の重量はサイズ毎に150kgであった。多結晶シリコン原料とポリエチレンシートとの接触面積は1.7m2であった。また、風乾時に多結晶シリコン原料に供給したエアーの量は40m3/minであった。尚、供給したエアー中のドーパント濃度を測定した結果、B濃度が30ng/m3、Al濃度、P濃度、As濃度はいずれも定量下限である1ng/m3以下であった。
【0157】
養生用のポリエチレンシートとして、リン酸エステル類を含まないLDPEシートを用いた。このシート表面のドーパント量を測定した結果、Al濃度が2ng/cm2、B濃度、P濃度、As濃度はいずれも定量下限である1ng/cm2であった。
【0158】
また、ナゲットの風乾時間は、ナゲットSについては3時間、ナゲットMについては7時間、ナゲットLについては18時間とし、風乾後、ポリエチレン包装袋に5kgずつ詰め、包装袋開口部をヒートシールにて密閉した。
【0159】
密閉されたポリエチレン包装袋から多結晶シリコンナゲットをサイズ毎に各5kg抜き取りを行い、実施例1と同様に各表面ドーパント濃度を算出した。結果を表5に示した。
【0160】
【0161】
得られた多結晶シリコンナゲットを用いて、実施例1と同様にCZ法により、直胴長1600mm、φ200mmである単結晶シリコンを得た。
【0162】
実施例1と同様に、得られた単結晶シリコンの導電型と比抵抗値を測定した。結果を表6に示した。
【0163】
【0164】
表6より、実施例1と同様に、多結晶シリコン原料におけるバルクドーパント濃度と表面ドーパント濃度との関係を上記の範囲内に制御することにより、所望の導電型および狙いの抵抗率を有する単結晶シリコンが得られることが確認できた。
【0165】
(比較例1)
実施例1と同様にトリクロロシランの合成、蒸留精製、回収精製、および多結晶シリコンの析出を行った。このときの回収精製トリクロロシラン中のジクロロシラン濃度をガスクロマトグラフィで測定した結果、150ppmwであった。
【0166】
析出後に得られた多結晶シリコンを実施例1と同様の方法により分析を行った。平均抵抗率は10,100[Ωcm]であった。バルクB濃度は2[ppta]、バルクAl濃度は定量下限である1[ppta]未満であった。バルクアクセプター濃度は、バルクAl濃度を0[ppta]と見なして、2[ppta]とした。バルクP濃度は9[ppta]、バルクAs濃度は1[ppta]であった。したがって、バルクドナー濃度は10[ppta]であった。
【0167】
続いて、実施例1と同様に、得られた多結晶シリコンロッドを破砕し、ナゲットS、ナゲットM、ナゲットLに選別した後、エッチングを行い、多結晶シリコン原料を得た。
【0168】
各サイズ30kgずつを抜取り、1ピース毎に最大辺長を測定した結果、ナゲットSには、最大辺長が10mm以上、45mm以下のナゲットが92wt%含まれており、ナゲットSのメジアン径は30mmであった。ナゲットMには、最大辺長が20mm以上、70mm以下のナゲットが92wt%含まれており、ナゲットMのメジアン径は49mmであった。ナゲットLには、最大辺長が60mm以上100mm以下のナゲットが94wt%含まれており、ナゲットLのメジアン径は81mmであった。
【0169】
実施例1と同様にエッチングして得られた多結晶シリコン原料をサイズ毎にポリエチレンシートが敷かれたコンテナに受け、風乾を行った。このときコンテナに積載した多結晶シリコン原料の重量はサイズ毎に150kgであった。多結晶シリコン原料とポリエチレンシートとの接触面積は1.7m2であった。また、風乾時に多結晶シリコン原料に供給したエアーの量は40m3/minであった。尚、供給したエアー中のドーパント濃度を測定した結果、B濃度が14ng/m3、Al濃度、P濃度、As濃度はいずれも定量下限である1ng/m3以下であった。
【0170】
養生用のポリエチレンシートとして、リン酸エステル類を含まないLDPEシートを用いた。このシート表面のドーパント量を測定した結果、Al濃度が2ng/cm2、B濃度、P濃度、As濃度はいずれも定量下限である1ng/cm2であった。
【0171】
また、実施例1と同じくナゲットの風乾時間は、ナゲットSについては2時間、ナゲットMについては4時間、ナゲットLについては12時間とし、風乾後、ポリエチレン包装袋に5kgずつ詰め、包装袋開口部をヒートシールにて密閉した。
【0172】
密閉されたポリエチレン包装袋から多結晶シリコンナゲットをサイズ毎に各5kg抜き取りを行い、実施例1と同様に各表面ドーパント濃度を算出した。結果を表7に示した。
【0173】
【0174】
得られた多結晶シリコンナゲットを用いて、実施例1と同様にCZ法により、直胴長1600mm、φ200mmである単結晶シリコンを得た。
【0175】
実施例1と同様に、得られた単結晶シリコンの導電型と比抵抗値を測定した。結果を表8に示した。
【0176】
【0177】
表8より、実施例1~3とは異なり、試料番号10~12の単結晶シリコンインゴットについては、いずれも、Top側の導電型は狙いの導電型と逆のn型となり、インゴットの途中でp型に反転した。
【0178】
したがって、多結晶シリコン原料の汚染を極力抑えるために、バルクドーパント濃度および表面ドーパント濃度の両方を低くしても、バルクドーパント濃度と表面ドーパント濃度との関係を所定の範囲内に制御しなければ、単結晶シリコンインゴットの途中で導電型が反転してしまうことが確認できた。その結果、単結晶シリコンの収率が著しく落ちることが確認できた。
【0179】
なお、導電型がP型であり、抵抗率が10000[Ωcm]以上を示す位置における直胴長は、試料番号10では600mmであり、試料番号11では150mmであり、試料番号12では300mmであった。
【0180】
(比較例2)
実施例1と同様にトリクロロシランの合成、蒸留精製、回収精製、および多結晶シリコンの析出を行った。このときの回収精製トリクロロシラン中のジクロロシラン濃度をガスクロマトグラフィで測定した結果、200ppmwであった。
【0181】
析出後に得られた多結晶シリコンを実施例1と同様の方法により分析を行った。平均抵抗率は7,600[Ωcm]であった。バルクB濃度は3[ppta]、バルクAl濃度は定量下限である1[ppta]未満であった。バルクアクセプター濃度は、バルクAl濃度を0[ppta]と見なして、3[ppta]とした。バルクP濃度は12[ppta]、バルクAs濃度は1[ppta]であった。したがって、バルクドナー濃度は13[ppta]であった。
【0182】
続いて、実施例1と同様に、得られた多結晶シリコンロッドを破砕し、ナゲットS、ナゲットM、ナゲットLに選別した後、エッチングを行い、多結晶シリコン原料を得た。
【0183】
各サイズ30kgずつを抜取り、1ピース毎に最大辺長を測定した結果、ナゲットSには、最大辺長が10mm以上、45mm以下のナゲットが94wt%含まれており、ナゲットSのメジアン径は29mmであった。ナゲットMには、最大辺長が20mm以上、70mm以下のナゲットが92wt%含まれており、ナゲットMのメジアン径は49mmであった。ナゲットLには、最大辺長が60mm以上100mm以下のナゲットが94wt%含まれており、ナゲットLのメジアン径は79mmであった。
【0184】
実施例1と同様にエッチングして得られた多結晶シリコン原料をサイズ毎にポリエチレンシートが敷かれたコンテナに受け、風乾を行った。このときコンテナに積載した多結晶シリコン原料の重量はサイズ毎に150kgであった。多結晶シリコン原料とポリエチレンシートとの接触面積は1.7m2であった。また、風乾時に多結晶シリコン原料に供給したエアーの量は40m3/minであった。尚、供給したエアー中のドーパント濃度を測定した結果、B濃度が19ng/m3、Al濃度、P濃度、As濃度はいずれも定量下限である1ng/m3以下であった。
【0185】
養生用のポリエチレンシートとして、リン酸エステル類を含むLLDPEシートを用いた。このシート表面のドーパント量を測定した結果、P濃度が15ng/cm2、Al濃度が2ng/cm2、B濃度、As濃度はいずれも定量下限である1ng/cm2であった。
【0186】
また、実施例1と同じくナゲットの風乾時間は、ナゲットSについては6時間、ナゲットMについては15時間、ナゲットLについては36時間とし、風乾後、ポリエチレン包装袋に5kgずつ詰め、包装袋開口部をヒートシールにて密閉した。
【0187】
密閉されたポリエチレン包装袋から多結晶シリコンナゲットをサイズ毎に各5kg抜き取りを行い、実施例1と同様に、各表面ドーパント濃度を算出した結果を表9に示した。
【0188】
【0189】
得られた多結晶シリコンナゲットを用いて、実施例1と同様にCZ法により、直胴長1600mm、φ200mmである単結晶シリコンを得た。
【0190】
実施例1と同様に、得られた単結晶シリコンの導電型と比抵抗値を測定した。結果を表10に示した。
【0191】
【0192】
表10より、試料番号13の単結晶シリコンインゴットについては、導電型はp型であり、Top側の抵抗率は10000[Ωcm]以上であったものの、Top側から直胴長750mmである位置以降は10000[Ωcm]を下回った。試料番号14および試料番号15の単結晶シリコンインゴットについては、導電型はp型であったものの、Top側から抵抗率が10000[Ωcm]以下であった。
【0193】
したがって、バルクドーパント濃度と表面ドーパント濃度との関係が上記の範囲よりも大きい場合には、単結晶シリコンインゴットの抵抗率が10000[Ωcm]よりも小さくなってしまうことが確認できた。