(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-16
(45)【発行日】2024-10-24
(54)【発明の名称】磁気マーカの検出方法及びシステム
(51)【国際特許分類】
G08G 1/00 20060101AFI20241017BHJP
G05D 1/244 20240101ALI20241017BHJP
B60W 40/06 20120101ALI20241017BHJP
G08G 1/16 20060101ALN20241017BHJP
【FI】
G08G1/00 X
G05D1/244
B60W40/06
G08G1/16 C
(21)【出願番号】P 2021062783
(22)【出願日】2021-04-01
【審査請求日】2024-01-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000116655
【氏名又は名称】愛知製鋼株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129654
【氏名又は名称】大池 達也
(72)【発明者】
【氏名】山本 道治
(72)【発明者】
【氏名】長尾 知彦
(72)【発明者】
【氏名】青山 均
【審査官】稲本 遥
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/171232(WO,A1)
【文献】特開2001-143193(JP,A)
【文献】特開2019-002772(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 10/00 -10/30
30/00 -60/00
G08G 1/00 -99/00
G05D 1/244
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁気センサを備える車両が走路を移動している最中に、走路の表面をなす路面に配設された磁気マーカを検出するための方法であって、
前記磁気センサは、少なくとも2軸を含む複数の軸に沿って作用する磁気成分の大きさを、当該複数の軸毎に計測可能であり、
前記複数の軸のうち、少なくともいずれかの軸に沿う磁気成分の大きさの車両の進行方向における変化に基づいて、前記磁気マーカが属する可能性が高い時間的あるいは空間的な区間である候補区間を特定する第1の処理と、
前記2軸のうちの一方の軸に沿って作用する磁気成分の大きさの前記候補区間における変化を表す第1の信号と、他方の軸に沿って作用する磁気成分の大きさの前記候補区間における変化を表す第2の信号と、の同期の度合いに応じて前記候補区間において前記磁気マーカを検出したか否かを判断する第2の処理と、を含む磁気マーカの検出方法。
【請求項2】
請求項1において、前記第2の処理において、前記同期の度合いを数値化して閾値処理を実行し、当該同期の度合いを表す数値が所定の閾値以上のとき、前記候補区間において前記磁気マーカを検出したと判断する磁気マーカの検出方法。
【請求項3】
請求項1または2において、前記一方の軸と前記他方の軸とは、互いに直交している磁気マーカの検出方法。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項において、前記一方の軸は、前記進行方向の軸である一方、前記他方の軸は、該進行方向に対して直交する軸であり、
前記第2の処理は、前記第1の信号と、前記第2の信号に微分処理を施して得られる信号と、の相関の度合いを表す相関係数を、前記同期の度合いを表す数値として求める処理である磁気マーカの検出方法。
【請求項5】
請求項1~3のいずれか1項において、前記2軸は、いずれも、前記進行方向に対して直交する軸であり、
前記第2の処理は、前記第1の信号と前記第2の信号との相関の度合いを表す相関係数を、前記同期の度合いを表す数値として求める処理である磁気マーカの検出方法。
【請求項6】
請求項1~3のいずれか1項において、前記2軸は、いずれも、進行方向に対して直交する軸であり、
前記磁気マーカは、前記2軸に加えて、前記進行方向の軸に沿う磁気成分の大きさを計測可能であり、
前記第2の処理では、前記2軸のうちの一方の軸に沿って作用する磁気成分の大きさの前記候補区間における変化を表す第1の信号と、他方の軸に沿って作用する磁気成分の大きさの前記候補区間における変化を表す第2の信号と、の同期の度合いに加えて、
前記進行方向の軸に沿って作用する磁気成分の大きさの前記候補区間における変化を表す第3の信号と、前記第1の信号及び前記第2の信号のうちの少なくともいずれかの信号と、の同期の度合いを取得する磁気マーカの検出方法。
【請求項7】
請求項6において、前記第2の処理は、前記第1の信号と前記第2の信号との相関の度合いを表す相関係数を、前記同期の度合いを表す数値として求めると共に、
前記第1の信号及び前記第2の信号のうちの少なくともいずれかの信号に微分処理を施して得られる信号と、前記第3の信号と、の相関の度合いを表す相関係数を、前記同期の度合いを表す数値として求める処理である磁気マーカの検出方法。
【請求項8】
磁気センサを備える車両が、走路の表面をなす路面に配設された磁気マーカを検出するためのシステムであって、
前記磁気センサは、少なくとも2軸を含む複数の軸に沿って作用する磁気成分の大きさを、当該複数の軸毎に計測可能であり、
前記複数の軸のうち、少なくともいずれかの軸に沿う磁気成分の大きさの車両の進行方向における変化に基づいて、前記磁気マーカが属する可能性が高い時間的あるいは空間的な区間である候補区間を特定する第1の回路と、
前記2軸のうちの一方の軸に沿って作用する磁気成分の大きさの前記候補区間における変化を表す第1の信号と、他方の軸に沿って作用する磁気成分の大きさの前記候補区間における変化を表す第2の信号と、の同期の度合いに応じて前記候補区間において磁気マーカを検出したか否かを判断する第2の回路と、を含むシステム。
【請求項9】
請求項8において、前記第2の回路は、前記同期の度合いを数値化して閾値処理を実行し、当該同期の度合いを表す数値が所定の閾値以上のとき、前記候補区間において前記磁気マーカを検出したと判断するシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の走路に配設された磁気マーカの検出方法及びシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、道路に配設された磁気マーカを車両制御に利用するための車両用の磁気マーカ検出システムが知られている(例えば、特許文献1参照。)。このような磁気マーカ検出システムを用いて、例えば車線に沿って配設された磁気マーカを車両の磁気センサ等で検出できれば、自動操舵制御や車線逸脱警報や自動運転等、各種の運転支援を実現できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来の磁気マーカ検出システムでは、次のような問題がある。すなわち、磁気センサ等に作用する様々な外乱磁気に起因し、磁気マーカの検出確実性が損なわれるおそれがあるという問題がある。例えば併走する車両やすれ違う車両なども外乱磁気の発生源となり得る。
【0005】
本発明は、上記従来の問題点に鑑みてなされたものであり、検出確実性が高い磁気マーカの検出方法及びシステムを提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様は、磁気センサを備える車両が走路を移動している最中に、走路の表面をなす路面に配設された磁気マーカを検出するための方法であって、
前記磁気センサは、少なくとも2軸を含む複数の軸に沿って作用する磁気成分の大きさを、当該複数の軸毎に計測可能であり、
前記複数の軸のうち、少なくともいずれかの軸に沿う磁気成分の大きさの車両の進行方向における変化に基づいて、前記磁気マーカが属する可能性が高い時間的あるいは空間的な区間である候補区間を特定する第1の処理と、
前記2軸のうちの一方の軸に沿って作用する磁気成分の大きさの前記候補区間における変化を表す第1の信号と、他方の軸に沿って作用する磁気成分の大きさの前記候補区間における変化を表す第2の信号と、の同期の度合いに応じて前記候補区間において前記磁気マーカを検出したか否かを判断する第2の処理と、を含む磁気マーカの検出方法にある。
【0007】
本発明の一態様は、磁気センサを備える車両が、走路の表面をなす路面に配設された磁気マーカを検出するためのシステムであって、
前記磁気センサは、少なくとも2軸を含む複数の軸に沿って作用する磁気成分の大きさを、当該複数の軸毎に計測可能であり、
前記複数の軸のうち、少なくともいずれかの軸に沿う磁気成分の大きさの車両の進行方向における変化に基づいて、前記磁気マーカが属する可能性が高い時間的あるいは空間的な区間である候補区間を特定する第1の回路と、
前記2軸のうちの一方の軸に沿って作用する磁気成分の大きさの前記候補区間における変化を表す第1の信号と、他方の軸に沿って作用する磁気成分の大きさの前記候補区間における変化を表す第2の信号と、の同期の度合いに応じて前記候補区間において磁気マーカを検出したか否かを判断する第2の回路と、を含むシステムにある。
【発明の効果】
【0008】
本発明は、少なくとも2軸を含む複数の軸に沿って作用する磁気成分の大きさを、軸毎に計測可能な磁気センサを備える車両を前提としている。本発明は、磁気マーカが属する可能性が高い候補区間を特定する第1の処理あるいは回路と、候補区間において磁気マーカを検出したか否かを判断する第2の処理あるいは回路と、の組合せに技術的特徴のひとつを有している。
【0009】
第1の処理あるいは回路は、複数の軸のうち少なくともいずれかの軸に沿う磁気成分の大きさの進行方向における変化に基づいて前記候補区間を特定する。第2の処理あるいは回路は、前記2軸のうちの一方の軸に沿って作用する磁気成分の大きさの前記候補区間における変化を表す第1の信号と、他方の軸に沿って作用する磁気成分の大きさの前記候補区間における変化を表す第2の信号と、の同期の度合いに応じて磁気マーカが検出されたか否かを判断する。
【0010】
本発明では、まず、磁気マーカが属する可能性が高い候補区間が特定される。そして、磁気マーカが属する可能性が高い候補区間につき、第1の信号と第2の信号との同期の度合いを利用し、磁気マーカを検出したか否かが判断される。本発明によれば、このように候補区間を特定する段階と、この候補区間にて磁気マーカを検出したか否かが判断される段階と、の2段階を設けることで、磁気マーカの検出確実性の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施例1における、車両が磁気マーカを検出する様子を示す正面図。
【
図2】実施例1における、磁気マーカが配設された車線を走行する車両を示す上面図。
【
図3】実施例1における、マーカ検出システムの構成図。
【
図4】実施例1における、マーカ検出処理の流れを示すフロー図。
【
図5】実施例1における、鉛直方向の磁気計測値(Gv)の進行方向における変化を示す説明図。
【
図6】実施例1における、進行方向の磁気計測値(Gt)の進行方向における変化を示す説明図。
【
図8】実施例1における、Gvの時間差分値の進行方向における変化を示す説明図。
【
図9】実施例1における、Gvの車幅方向の変化カーブ(分布曲線)を示す説明図。
【
図10】実施例1における、車幅方向の磁気勾配の車幅方向における変化カーブ(分布曲線)を示す説明図。
【
図11】実施例1における、車幅方向の磁気計測値(Gh)の進行方向における変化を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の実施の形態につき、以下の実施例を用いて具体的に説明する。
(実施例1)
本例は、道路に敷設された磁気マーカ10を検出するための検出方法及びシステム1に関する例である。この内容について、
図1~
図11を用いて説明する。
【0013】
本例は、磁気マーカ10を検出するためのマーカ検出システム(システムの一例)1を、車線維持走行を可能にする運転支援システム5Sに適用した例である。運転支援システム5Sは、操舵輪を操舵するための図示しないステアリングアクチュエータや、エンジン出力を調節するスロットルアクチュエータ、などを制御する車両ECU50を含んで構成されている。車両ECU50は、例えば、磁気マーカ10に対する横ずれ量をゼロに近づけるように車両5を制御し、車線維持走行を実現する。
【0014】
マーカ検出システム1は、磁気センサCn(nは1~15の整数)を含むセンサユニット11と、磁気マーカ10を検出するためのマーカ検出処理を実行する検出ユニット12と、の組み合わせにより構成されている。以下、磁気マーカ10を概説した後、磁気マーカ検出システム1を構成するセンサユニット11、及び検出ユニット12を説明する。
【0015】
磁気マーカ10は、車両5の走路をなす車線100の中央に沿って例えば2m毎に配設される道路用マーカである。この磁気マーカ10は、直径20mm、高さ28mmの柱状をなし、路面100Sに設けた孔への収容が可能である。磁気マーカ10は、磁性材料である酸化鉄の磁粉を基材である高分子材料中に分散させたフェライトプラスチックマグネットである。なお、フェライトプラスチックマグネットそのものである磁気マーカ10の表面の全部または一部に、例えば樹脂モールド層を設けることも良い。
【0016】
磁気マーカ10をなすフェライトプラスチックマグネットの最大エネルギー積(BHmax)は、6.4kJ/立方メートルである。そして、磁気マーカ10の端面の磁束密度は45mT(ミリテスラ)である。ここで、磁気マーカを利用する車両としては、乗用車やトラックなどの様々な車種が考えられる。磁気センサの取付高さは車種毎の地上高に依存しており、一般的には100~250mmの範囲が想定される。磁気マーカ10は、磁気センサCnの取付け高さとして想定される範囲の上限に当たる高さ250mmの位置に、8μT(8×10-6T)の磁束密度の磁気を作用できる。
【0017】
次に、マーカ検出システム1を構成するセンサユニット11及び検出ユニット12について説明する。
【0018】
センサユニット11は、
図1~
図3のごとく、15個の磁気センサC1~C15が一直線上に配列された棒状のユニットである。15個の磁気センサC1~C15の間隔は、10cmの等間隔となっている。センサユニット1は、長手方向が車幅方向に沿う状態で、例えば車両5のフロントバンパーの内側に取り付けられる。本例の車両5の場合、路面100Sを基準としたセンサユニット11の取付け高さが200mmとなっている。センサユニット11は、15個の磁気センサCnと、図示しないCPU等を内蔵した信号処理回路110と、の組合せを含んで構成されている(
図3)。
【0019】
磁気センサCnは、アモルファスワイヤなどの感磁体のインピーダンスが外部磁界に応じて敏感に変化するという公知のMI効果(Magneto Impedance Effect)を利用して磁気を検出するセンサである。磁気センサCnは、アモルファスワイヤなどの感磁体に沿って作用する磁気成分を検出し、その磁気成分の大きさ(磁気計測値)を表すセンサ信号を出力する。
【0020】
磁気センサCnは、磁束密度の測定レンジが±0.6ミリテスラであって、測定レンジ内の磁束分解能が0.02マイクロテスラという高感度のセンサである。上記のごとく、磁気マーカ10は、磁気センサCnの取付け高さとして想定する範囲100~250mmにおいて8μT(8×10-6T)以上の磁束密度の磁気を作用できる。磁束密度8μT以上の磁気を作用する磁気マーカ10であれば、磁束分解能が0.02μTの磁気センサCnを用いて確実性高く検出可能である。
【0021】
なお、本例の磁気センサCnは、互いに直交する2軸の方向に作用する磁気成分を検知できるよう、互いに直交する一対の感磁体を有している。各磁気センサCnは、一対の感磁体の方向が同じになるようにセンサユニット11に組み込まれている。センサユニット11は、進行方向の軸(一方の軸)に沿って作用する磁気成分、及び鉛直方向の軸(他方の軸、進行方向に対して直交する軸)に沿って作用する磁気成分、を各磁気センサCnが検出できるよう、車両5に取り付けられている。
【0022】
信号処理回路110(
図3)は、各磁気センサCnのセンサ信号に対して、ノイズ除去や増幅などの信号処理を施す回路である。信号処理回路110は、車両5が所定量(例えば5cm)進む毎に各磁気センサCnのセンサ信号を取り込み、対応する磁気計測値を生成して検出ユニット12に入力する。なお、信号処理回路110は、上記のごとく、鉛直方向の軸に沿って作用する磁気成分の大きさを表す磁気計測値(Gv)、及び進行方向の軸に沿って作用する磁気成分の大きさを表す磁気計測値(Gt)、を生成する。以下の説明では、適宜、磁気センサの磁気計測値と記載する。
【0023】
検出ユニット12は、センサユニット11を制御し、磁気マーカ10を検出するための演算処理であるマーカ検出処理を実行する回路である。検出ユニット12は、各種の演算を実行するCPU(central processing unit)、ROM(read only memory)やRAM(random access memory)などのメモリ素子など、が実装された回路基板を有している。
【0024】
RAMの記憶領域には、各磁気センサCnの時系列の磁気計測値を記憶するためのワークエリアが形成されている。検出ユニット12は、このワークエリアを利用して、車両5の移動履歴に当たる過去の所定距離(例えば10m)に亘る時系列の磁気計測値を記憶している。
【0025】
検出ユニット12には、車両5が備える車速センサの信号線が接続されている。車速センサは、車輪が所定量回転する毎にパルス信号を出力するセンサである。所定量としては、例えば、1度、10度、30度などの所定の角度や、1cm、5cm、10cmなどの所定の距離等がある。本例の検出ユニット12は、車両5が5cm進む毎に磁気計測値(Gv、Gt)を出力するよう、センサユニット11を制御する。
【0026】
検出ユニット12は、上記のRAMのワークエリアにて記憶された各磁気センサCnによる磁気計測値(Gt、Gv)を読み出して、マーカ検出処理等を実行する。検出ユニット12によるマーカ検出処理の結果には、磁気マーカ10を検出した旨のほか、検出された磁気マーカ10に対する横ずれ量が含まれている。検出ユニット12は、車両5が5cm進む毎(移動する毎)にマーカ検出処理を実行し、マーカ検出処理の検出結果を車両ECU50に入力する。上記のごとく、検出ユニット12による検出結果は、車線維持のための自動操舵制御や車線逸脱警報や自動運転など、車両5側の各種の制御に利用される。なお、本例では、車両5が5cm進む毎にマーカ検出処理を1回ずつ実行する構成を例示するが、例えば3kHzの周波数でマーカ検出処理を繰り返し実行することも良い。
【0027】
検出ユニット12は、以下の各回路(手段)としての機能を備えている。
(a)第1の回路:進行方向の磁気計測値(Gt)の車両5の進行方向における変化に基づいて、磁気マーカ10が属する可能性が高い候補区間を特定する(第1の処理)。なお、候補区間は、2つの時点に挟まれた時間的な区間であっても良く、2つの地点間の空間的な区間であっても良い。
(b)第2の回路:候補区間において磁気マーカ10が検出されたか否かを判断する(第2の処理)。第2の回路は、候補区間における鉛直方向の磁気計測値(Gv)の変化を表す第1の信号と、候補区間における進行方向の磁気計測値(Gt)の変化を表す第2の信号と、の同期の度合いに応じて上記の判断を実行する。
【0028】
上記のように構成されたマーカ検出システム1の動作について、
図4のマーカ検出処理のフロー図を参照して説明する。このマーカ検出処理は、車両5が5cm進む毎にマーカ検出システム1が実行する処理である。以下、検出ユニット12の動作を主体としてマーカ検出処理の内容を説明する。
【0029】
検出ユニット12は、車両5が5cm進む毎に、センサユニット11の各磁気センサCnの磁気計測値を取り込む。なお、検出ユニット12は、車速センサから入力されたパルス信号を処理することで、車両5が5cm進んだことを検知する。検出ユニット12は、各磁気センサCnの磁気計測値として、進行方向の磁気成分の大きさを表す磁気計測値(進行方向の磁気計測値、Gt)と、鉛直方向の磁気成分の大きさを表す磁気計測値(鉛直方向の磁気計測値、Gv)と、を取り込む(S101)。検出ユニット12は、センサユニット11から取り込んだ各磁気センサCnの磁気計測値(Gt、Gv)をワークエリア(RAMの記憶領域)に随時、書き込む。このとき、最新の磁気計測値(Gt、Gv)が新たに記憶される一方、最古の磁気計測値(Gt、Gv)が消去される。これにより、各磁気センサCnについて、過去の10m分の時系列の磁気計測値(Gt、Gv)がワークエリアにて記憶され保持される。
【0030】
車両5が磁気マーカ10を通過する際の進行方向において、Gv(鉛直方向の磁気計測値)は
図5に例示するように変化する。Gvは、磁気マーカ10に接近するに連れて次第に大きくなり、磁気センサが磁気マーカ10の真上に位置するときにピークとなる。そして、磁気マーカ10から離れるに連れて次第に小さくなる。Gvの進行方向の変化カーブは、正規分布曲線のようになる。なお、同図は、磁気マーカ10のN極が上方に向かっている場合の例示である。
【0031】
また、車両5が磁気マーカ10を通過する際の進行方向において、Gt(進行方向の磁気計測値)は
図6に例示するように変化する。Gtは、磁気マーカ10に接近するに連れて次第に大きくなり、磁気マーカ10の手前の位置で正側のピークとなる。さらに磁気マーカ10に近づくと、Gtが次第に小さくなり、磁気マーカ10の真上に磁気センサが位置するときにゼロとなる。これは、進行方向の磁気成分の向きが磁気マーカ10のどちら側かで反転するためである。そして、磁気マーカ10から離れるにつれてGt(絶対値)が負側に次第に大きくなり、ピークを迎える。さらに、磁気マーカ10から離れると、Gt(絶対値)は次第に小さくなりゼロに近づく。Gtの進行方向の変化カーブは、
図6のように、正負の2つの山が磁気マーカ10を挟んで隣り合うような曲線となる。Gtの変化カーブは、磁気マーカ10の真上で、急な傾きでゼロを交差するゼロクロスZcを生じている。
【0032】
検出ユニット12は、まず、上記のRAMのワークエリアを参照し、各磁気センサCnのGtの時系列のデータ(
図6)を読み出す。
図6を参照して説明した通り、車両5の走行中にセンサユニット11が磁気マーカ10の真上に到達すると、磁気マーカ10の上に位置する磁気センサによるGtの変化カーブについて、その正負が反転するゼロクロスZcが生じる。検出ユニット12は、各磁気センサCnによるGtの変化カーブについて、ゼロクロスZcの検出を試みる(S102)。
【0033】
検出ユニット12は、ゼロクロスZcを検出できたとき(S102:YES)、ゼロクロスZcに対応する進行方向の位置を基準とした所定の区間を、磁気マーカ10が属する可能性が高い候補区間として設定する(S103)。本例では、
図7のごとく、ゼロクロスZcの位置を中央として、その前後1mに亘る区間を、候補区間として設定している。
【0034】
続いて検出ユニット12は、上記のRAMのワークエリアを参照し、候補区間におけるGv(鉛直方向の磁気計測値)を読み出す。そして、候補区間におけるGvの時系列データについて、時間的に隣り合うデータの差分を求める。この時間差分は、
図5のGvの時間微分(微分処理の一例)に相当している。この時間差分によれば、
図5のGvの変化カーブが、
図8に例示する変化カーブに変換される。
【0035】
図8のGvの時間差分値の変化カーブは、
図6に例示するGt(進行方向の磁気計測値)の変化カーブと同じ傾向を呈する。
図8のGvの時間差分値は、
図6の変化カーブと同様、磁気マーカ10の中心位置に接近するに連れて次第に大きくなり、磁気マーカ10の中心位置の手前で正側のピークとなる。さらに磁気マーカ10の中心位置に近づくと、鉛直方向の磁気計測値の時間差分は次第に小さくなり、磁気マーカ10の真上に磁気センサが位置するときにゼロとなる。そして、磁気マーカ10の中心位置から離れるにつれてGv(絶対値)が負側に次第に大きくなり、ピークを迎える。さらに、磁気マーカ10から離れると、Gvの時間差分値(絶対値)は次第に小さくなりゼロに近づく。Gvの時間差分値の変化カーブ(
図8)は、
図6と同様、正負の2つの山が磁気マーカ10の中心を挟んで隣り合うような曲線となる。また、Gvの時間差分値の変化カーブは、磁気マーカ10の真上で、急な傾きでゼロを交差するゼロクロスZcを生じている。
【0036】
検出ユニット12は、上記のステップS103で設定された候補区間におけるGtの変化カーブ(第1の信号、
図7)と、同候補区間におけるGvの時間差分値の変化カーブ(第2の信号、
図8)と、の相関の度合い(同期の度合いの一例)を表す相関係数を演算により求める(S104)。なお、相関係数を演算するに当たっては、対象の2つの変化カーブの振幅を1とする正規化処理を、予め施しておくと良い。2つの変化カーブに正規化処理を施せば、完全一致のときに相関係数が1となる、正規化相関係数を求めることができる。相関係数は、上記の第1の信号と第2の信号との同期の度合いを数値化した数値の一例である。
【0037】
検出ユニット12は、ステップS104で求めた相関係数(正規化相関係数)に閾値処理を施し、Gtの変化カーブと、Gvの時間差分値の変化カーブと、の同期の度合いを判断する。具体的には、検出ユニット12は、上記の正規化相関係数が、0.8以上であるとき(S105:YES)、上記の2つの変化カーブの同期の度合いが高いと判断する。そして、検出ユニット12は、2つの変化カーブの同期の度合いが高ければ、候補区間において磁気マーカ10を検出できたと判断し、その旨の検出結果を確定させる(106)。
【0038】
検出ユニット12は、磁気マーカ10の検出が確定すると、その検出された磁気マーカ10に対する車両5の横ずれ量を計測する(S107)。そして、検出ユニット12は、磁気マーカ10が検出された旨、及びその磁気マーカ10に対する横ずれ量を含む検出結果を、マーカ検出処理の結果として出力する(S108)。なお、車両ECU50は、検出ユニット12が出力する検出結果を利用して、車線維持走行等の運転支援制御を実現する。
【0039】
ここで、検出ユニット12が車両5の横ずれ量を計測する方法について
図9及び
図10を参照して説明する。例えば、センサユニット11の各磁気センサCnのGv(鉛直方向の磁気計測値)の変化カーブ(分布曲線)は、例えば、
図9に示すようにひと山のカーブとなる。この変化カーブのピーク、すなわち車幅方向におけるピークは、磁気マーカ10の中心位置に対応して現れる。
【0040】
本例では、センサユニット11の各磁気センサCnのGvについて、隣り合う2つの磁気センサによる磁気計測値の差分、すなわち車幅方向の磁気勾配を求めている。車幅方向の磁気勾配の変化カーブ(分布曲線)は、
図10に例示するように、ゼロクロスZcを介して正負の山が隣り合うような曲線となる。車幅方向において、磁気マーカ10の中心位置に対してどちら側の磁気センサであるかに応じて磁気の向きが反転し、磁気が増える正の磁気勾配か、磁気が減る負の磁気勾配か、が入れ替わるからである。したがって、同図中のゼロクロスZcは、磁気マーカ10の中心位置に対応して現れる。
【0041】
車幅方向の磁気勾配の変化カーブを例示する
図10に基づけば、車幅方向における磁気マーカ10の中心位置を特定可能である。例えば、車幅方向の磁気勾配の正負が反転するゼロクロスZcが、いずれか2つの磁気センサCnの中間に位置していれば、その中間の位置が、車幅方向における磁気マーカ10の中心位置となる。例えば、ある磁気センサの位置における車幅方向の磁気勾配がゼロであって、かつ、その両外側の磁気センサの位置における車幅方向の磁気勾配の正負が反転している場合、中央の磁気センサの直下の位置が、車幅方向における磁気マーカ10の中心位置となる。
【0042】
検出ユニット12は、センサユニット11の中央位置(例えば磁気センサC8の位置)の磁気マーカ10に対する車幅方向の位置的な偏差を、車両5の横ずれ量として計測する。例えば、
図10の場合であれば、ゼロクロスZcの位置がC9とC10との中間辺りのC9.5に相当する位置となっている。上記のように磁気センサC9とC10の間隔は10cmであるから、磁気マーカ10に対する車両5の横ずれ量は、車幅方向においてセンサユニット11の中央に位置するC8を基準として(9.5-8)×10cmとなる。
【0043】
以上のように本例のシステム1では、Gt(進行方向の磁気計測値)の進行方向の変化に着目する第1の処理と、GtとGv(鉛直方向の磁気計測値)の同期の度合いに着目する第2の処理と、の組合せによって磁気マーカ10を確実性高く検出している。第1の処理によれば、Gtの正負反転が生じるゼロクロスZcに応じて、磁気マーカ10が属する可能性が高い候補区間を、漏れ少なく確実性高く設定できる。
【0044】
さらに、第2の処理によれば、前記第1の処理によって設定された候補区間において、Gtの進行方向の変化と、Gvの進行方向の変化と、の同期の度合いに基づいて、候補区間にて磁気マーカ10を検出できたか否かを判断できる。第2の処理によって候補区間にて磁気マーカ10が検出できたか否かを判断すれば、上記の第1の処理によって誤検出があっても、確実性高くこの誤検出を排除できる。
【0045】
なお、本例における第2の処理では、Gtの進行方向の変化カーブ(
図7)と、Gvの時間差分値の進行方向の変化カーブ(
図8)と、の相関の度合い(正規化相関係数)を、2つの変化カーブの同期の度合いとして求めている。これに代えて、Gtの進行方向の変化カーブ(
図7)と、Gvの進行方向の変化カーブ(
図5)と、の同期の度合いを求めて磁気マーカ10を検出することも良い。同期の度合いとして、例えば、
図7の変化カーブのゼロクロスZcの時点と、
図5の変化カーブのピークの時点と、の時間的なずれを特定することも良い。同期の度合いとして、
図7の変化カーブの周波数あるいは周期と、
図5の変化カーブの周波数あるいは周期と、のずれを特定することも良い。なお、同期の度合いとして変化カーブの周波数あるいは周期のずれを求める場合、
図7の変化カーブと
図8の変化カーブとで、時点のずれや、周波数のずれや、周期の差や、周期のずれ(位相差)、などを特定することも良い。時点のずれや、周波数のずれや、周期の差や、周期のずれ(位相差)、などを同期の度合いとして求める場合、例えば、ずれ量や差の値に関する閾値処理によって候補区間に磁気マーカ10が属するか否かの判断により、最終的に磁気マーカ10を検出できたか否かの判断が可能である。
【0046】
本例では、進行方向の磁気成分と、鉛直方向の磁気成分と、を計測可能な磁気センサを例示している。進行方向の磁気成分、車幅方向の磁気成分、及び鉛直方向の磁気成分のうち、いずれか2つの方向の磁気成分を計測可能な磁気センサであっても良い。例えば、車幅方向の磁気成分と、進行方向の磁気成分と、を計測可能な磁気センサを採用した場合、磁気マーカ10から車幅方向に若干ずれて位置する磁気センサが出力する車幅方向の磁気計測値(Gh)の進行方向における変化カーブに着目すると良い。この変化カーブは、
図11に例示するように、磁気マーカ10の真横に位置するときにピークとなり、その前後において次第に小さくなるひと山の曲線となる。
図11に例示の変化カーブは、
図5のGvの進行方向の変化カーブと同様の傾向のものである。したがって、Gtの進行方向の変化カーブと、Ghの進行方向の変化カーブと、の場合であれば、本例で説明した方法とほぼ同様の方法により、同期の度合いを調べることが可能である。
【0047】
また、進行方向に直交する軸である鉛直方向の軸及び車幅方向の軸に沿う磁気成分を計測することも良い。例えば、Gvの進行方向の変化カーブ(
図5)と、Ghの進行方向の変化カーブ(
図11)と、の場合、いずれも、磁気マーカ10を通過する時点でピークとなるひと山のカーブとなる。これらの変化カーブの組合せであれば、そのまま、相関計数を調べることが可能である。なお、第1の処理において、候補区間を設定する際には、Gvの時間差分(
図8)、あるいはGhの時間差分を求め、ゼロクロスを検出することも良い。
【0048】
さらに、進行方向の軸に沿う磁気成分、車幅方向の軸に沿う磁気成分、及び鉛直方向の軸に沿う磁気成分を計測可能な磁気センサを採用することも良い。この場合には、3方向の磁気成分の計測値について同期の度合いを調べることで、上記の第2の処理による精度を一層向上できる。例えば、Gvの進行方向の変化カーブ(
図5、第1の信号の一例)と、Ghの進行方向の変化カーブ(
図11、第2の信号の一例)と、の相関係数を同期の度合いとして取得するのに加えて、Gtの進行方向の変化カーブ(
図6、第3の信号の一例)と、Gvの進行方向の変化カーブ(
図5、第1の信号の一例)およびGhの進行方向の変化カーブ(
図11、第2の信号の一例)のうちの少なくともいずれかと、の同期の度合いを取得することも良い。そして、これらの2つの同期の度合いについて、それぞれ、閾値処理を実行し、双方の閾値処理で肯定的な判断ができたときに、磁気マーカ10を検出できたと判断しても良い。このとき、Gvの進行方向の変化カーブ(
図5、第1の信号の一例)あるいはGhの進行方向の変化カーブ(
図11、第2の信号の一例)について微分処理を施して得られる信号について、Gtの進行方向の変化カーブ(
図6、第3の信号の一例)との相関係数を、同期の度合いとして求めることも良い。
【0049】
なお、磁気センサによる磁気の検出方向が、厳密に、進行方向、車幅方向、鉛直方向のいずれかに一致していることは必須の要件ではない。また、磁気センサによる磁気の検出方向が互いに直交することも必須の要件ではない。磁気センサによる複数の検出方向(検出軸)が、互いに交差していれば良い。
【0050】
なお、本例では、磁気マーカ10が属する可能性が高い候補区間として、進行方向における位置的な区間を例示している。これに代えて、時間的な区間を候補区間として設定することも良い。例えば、
図6中のゼロクロスZcの時点を含む所定期間を、候補区間として設定することも良い。所定期間は、例えば、車速によって変更することも良く、例えば、高速道路では短い時間とし、車速が低い一般道路では長い時間としても良い。
【0051】
以上、実施例のごとく本発明の具体例を詳細に説明したが、これらの具体例は、特許請求の範囲に包含される技術の一例を開示しているにすぎない。言うまでもなく、具体例の構成や数値等によって、特許請求の範囲が限定的に解釈されるべきではない。特許請求の範囲は、公知技術や当業者の知識等を利用して上記具体例を多様に変形、変更あるいは適宜組み合わせた技術を包含している。
【符号の説明】
【0052】
1 マーカ検出システム(システム)
10 磁気マーカ
100 車線(走路)
100S 路面
11 センサユニット
Cn 磁気センサ
110 信号処理回路
12 検出ユニット(第1の回路、第2の回路)
5 車両
50 車両ECU