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特許7572641送受信装置、無線通信システム及び無線通信方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-16
(45)【発行日】2024-10-24
(54)【発明の名称】送受信装置、無線通信システム及び無線通信方法
(51)【国際特許分類】
   H04B 7/06 20060101AFI20241017BHJP
   H04B 7/08 20060101ALI20241017BHJP
   H04B 7/0452 20170101ALI20241017BHJP
【FI】
H04B7/06 958
H04B7/08 802
H04B7/06 152
H04B7/0452 100
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2022570895
(86)(22)【出願日】2020-12-24
(86)【国際出願番号】 JP2020048491
(87)【国際公開番号】W WO2022137445
(87)【国際公開日】2022-06-30
【審査請求日】2023-05-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】弁理士法人志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】五藤 大介
(72)【発明者】
【氏名】糸川 喜代彦
(72)【発明者】
【氏名】小島 康義
(72)【発明者】
【氏名】坂元 一光
【審査官】齊藤 晶
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-145260(JP,A)
【文献】VASAVADA, Y. et al.,Determination of locations of calibration earth stations for ground based beam forming in satellite,MILCOM 2017 - 2017 IEEE Military Communications Conference (MILCOM),2017年10月23日,pp.331-336
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 7/06
H04B 7/08
H04B 7/0452
IEEE Xplore
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
通信エリア形成時の基準となる1以上の第1の通信装置と、前記1以上の第1の通信装置の近傍に位置する第2の通信装置と、移動する送受信装置とを有する無線通信システムにおける前記送受信装置であって、
前記1以上の第1の通信装置と、前記1以上の第1の通信装置の近傍に位置する第2の通信装置との間で通信を行う複数のアンテナと、
前記1以上の第1の通信装置から送信された既知の参照信号に基づいて前記1以上の第1の通信装置毎にチャネル推定を行うチャネル推定部と、
前記チャネル推定により得られた推定値を用いて、前記複数のアンテナを制御して、前記1以上の第1の通信装置の位置する方向に指向性を有するビームを形成するアンテナ制御部と、
備え、
前記複数のアンテナは、前記アンテナ制御部の制御に応じて前記1以上の第1の通信装置を含む所定の範囲に形成された通信エリアに送信ビームを形成、又は、前記通信エリアに位置する前記第2の通信装置から送信された信号を受信する受信ビームを形成し、
前記第1の通信装置が複数の場合、
前記第1の通信装置それぞれの位置する方向に指向性を有するビームを形成するタイミングを示すスケジュールを作成するタイムスケジュール作成部をさらに備え、
前記タイムスケジュール作成部は、前記送受信装置の移動経路に基づいて前記スケジュールを作成する送受信装置。
【請求項2】
前記第1の通信装置が複数の場合、
前記アンテナ制御部は、前記複数のアンテナのうち一部のアンテナを用いて、1つの第1の通信装置の位置する方向に指向性を有するビームを形成し、前記複数のアンテナのうち残りのアンテナを用いて、他の第1の通信装置の位置する方向に指向性を有するビームを形成する、請求項1に記載の送受信装置。
【請求項3】
前記アンテナ制御部は、前記送受信装置の移動経路と、前記第1の通信装置の位置情報とに応じて、ビームを形成する前記第1の通信装置を選択する、請求項1又は2に記載の送受信装置。
【請求項4】
前記アンテナ制御部は、前記複数のアンテナの一部のアンテナを制御して、前記1以上の第1の通信装置のうち特定の第1の通信装置に対してヌルビームを形成する、請求項1からのいずれか一項に記載の送受信装置。
【請求項5】
通信エリア形成時の基準となる1以上の第1の通信装置と、前記1以上の第1の通信装置の近傍に位置する第2の通信装置と、移動する送受信装置とを有する無線通信システムであって、
前記1以上の第1の通信装置は、
前記送受信装置と通信可能タイミングで、前記送受信装置に対して少なくとも識別情報を含む参照信号を送信し、
前記送受信装置は、
通信エリア形成時の基準となる1以上の第1の通信装置と、前記1以上の第1の通信装置の近傍に位置する第2の通信装置との間で通信を行う複数のアンテナと、
前記1以上の第1の通信装置から送信された前記参照信号に基づいて前記1以上の第1の通信装置毎にチャネル推定を行うチャネル推定部と、
前記チャネル推定により得られた推定値を用いて、前記複数のアンテナを制御して、前記1以上の第1の通信装置の位置する方向に指向性を有するビームを形成するアンテナ制御部と、
備え、
前記複数のアンテナは、前記アンテナ制御部の制御に応じて前記1以上の第1の通信装置を含む所定の範囲に形成された通信エリアに送信ビームを形成、又は、前記通信エリアに位置する前記第2の通信装置から送信された信号を受信する受信ビームを形成し、
前記第1の通信装置が複数の場合、
前記送受信装置は、前記第1の通信装置それぞれの位置する方向に指向性を有するビームを形成するタイミングを示すスケジュールを作成するタイムスケジュール作成部をさらに備え、
前記タイムスケジュール作成部は、前記送受信装置の移動経路に基づいて前記スケジュールを作成する送無線通信システム。
【請求項6】
通信エリア形成時の基準となる1以上の第1の通信装置と、前記1以上の第1の通信装置の近傍に位置する第2の通信装置と、移動する送受信装置とを有する無線通信システムにおける無線通信方法であって、
前記1以上の第1の通信装置から送信された既知の参照信号に基づいて前記1以上の第1の通信装置毎にチャネル推定を行い、
前記チャネル推定により得られた推定値を用いて、複数のアンテナを制御して、前記1以上の第1の通信装置の位置する方向に指向性を有するビームを形成し、
前記1以上の第1の通信装置を含む所定の範囲に形成された通信エリアに送信ビームを形成、又は、前記通信エリアに位置する前記第2の通信装置から送信された信号を受信する受信ビームを形成し、
前記第1の通信装置が複数の場合、
前記送受信装置の移動経路に基づいて、前記第1の通信装置それぞれの位置する方向に指向性を有するビームを形成するタイミングを示すスケジュールを作成する無線通信方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、送受信装置、無線通信システム及び無線通信方法に関する。
【背景技術】
【0002】
静止軌道上のデータ中継衛星と、低軌道周回衛星との衛星間通信において、ビームフォーミング技術を用いて追尾する技術が提案されている(例えば、非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】中西孝行, et al. “ディジタルビームフォーミング技術を用いた衛星搭載マルチビームフェイズドアレーアンテナの干渉抑圧に関する検討”, 電子情報通信学会技術研究報告. SANE, 宇宙・航行エレクトロニクス 111.90 (2011): 11-16.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のようなビームフォーミング技術を用いてサービスを向上させることが望まれている。このような問題は、衛星間通信においてビームフォーミングを行う場合に限らず、ビームフォーミング技術を用いて地上に位置する通信装置間で通信を行う場合においても生じる。
【0005】
上記事情に鑑み、本発明は、ビームフォーミング技術を用いてサービスを向上させることができる技術の提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様は、通信エリア形成時の基準となる1以上の第1の通信装置と、前記1以上の第1の通信装置の近傍に位置する第2の通信装置と、移動する送受信装置とを有する無線通信システムにおける前記送受信装置であって、前記1以上の第1の通信装置と、前記1以上の第1の通信装置の近傍に位置する第2の通信装置との間で通信を行う複数のアンテナと、前記1以上の第1の通信装置から送信された既知の参照信号に基づいて前記1以上の第1の通信装置毎にチャネル推定を行うチャネル推定部と、前記チャネル推定により得られた推定値を用いて、前記複数のアンテナを制御して、前記1以上の第1の通信装置の位置する方向に指向性を有するビームを形成するアンテナ制御部と、備え、前記複数のアンテナは、前記アンテナ制御部の制御に応じて前記1以上の第1の通信装置を含む所定の範囲に形成された通信エリアに送信ビームを形成、又は、前記通信エリアに位置する前記第2の通信装置から送信された信号を受信する受信ビームを形成する送受信装置である。
【0007】
本発明の一態様は、通信エリア形成時の基準となる1以上の第1の通信装置と、前記1以上の第1の通信装置の近傍に位置する第2の通信装置と、移動する送受信装置とを有する無線通信システムであって、前記1以上の第1の通信装置は、前記送受信装置と通信可能タイミングで、前記送受信装置に対して少なくとも識別情報を含む参照信号を送信し、前記送受信装置は、通信エリア形成時の基準となる1以上の第1の通信装置と、前記1以上の第1の通信装置の近傍に位置する第2の通信装置との間で通信を行う複数のアンテナと、前記1以上の第1の通信装置から送信された前記参照信号に基づいて前記1以上の第1の通信装置毎にチャネル推定を行うチャネル推定部と、前記チャネル推定により得られた推定値を用いて、前記複数のアンテナを制御して、前記1以上の第1の通信装置の位置する方向に指向性を有するビームを形成するアンテナ制御部と、備え、前記複数のアンテナは、前記アンテナ制御部の制御に応じて前記1以上の第1の通信装置を含む所定の範囲に形成された通信エリアに送信ビームを形成、又は、前記通信エリアに位置する前記第2の通信装置から送信された信号を受信する受信ビームを形成する送無線通信システムである。
【0008】
本発明の一態様は、通信エリア形成時の基準となる1以上の第1の通信装置と、前記1以上の第1の通信装置の近傍に位置する第2の通信装置と、移動する送受信装置とを有する無線通信システムにおける無線通信方法であって、前記1以上の第1の通信装置から送信された既知の参照信号に基づいて前記1以上の第1の通信装置毎にチャネル推定を行い、前記チャネル推定により得られた推定値を用いて、複数のアンテナを制御して、前記1以上の第1の通信装置の位置する方向に指向性を有するビームを形成し、前記1以上の第1の通信装置を含む所定の範囲に形成された通信エリアに送信ビームを形成、又は、前記通信エリアに位置する前記第2の通信装置から送信された信号を受信する受信ビームを形成し、前記第1の通信装置が複数の場合、前記送受信装置の移動経路に基づいて、前記第1の通信装置それぞれの位置する方向に指向性を有するビームを形成するタイミングを示すスケジュールを作成する無線通信方法である。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、ビームフォーミング技術を用いてサービスを向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明における無線通信システムの概要を説明するための図である。
図2】第1の実施形態による無線通信システムの構成図である。
図3】第1の実施形態における無線通信システムのビームフォーミング制御処理の流れを示すシーケンス図である。
図4】第2の実施形態による無線通信システムの構成図である。
図5】第2の実施形態における無線通信システムのビームフォーミング制御処理の流れを示すシーケンス図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態を詳細に説明する。
(概要)
図1は、本発明における無線通信システムの概要を説明するための図である。本発明における無線通信システムでは、図1に示すように、少なくとも移動中継局2と、1以上の端末局3と、1以上の参照局5とを有する。図1では、一例として、参照局5が、3台備えられている場合を示している。参照局5の近傍には、端末局3が位置しているものとする。参照局5-1~5-3は、移動中継局2と通信可能になると、移動中継局2に対して既知の参照信号を送信する。参照信号は、移動中継局2との間でパターンが予め定められた既知の信号であり、少なくとも参照局5の識別情報が含まれる。
【0012】
移動中継局2は、参照局5-1~5-3それぞれから送信された参照信号を各アンテナで受信する。移動中継局2は、受信した参照信号に基づいて参照局5毎にチャネル推定を行う。移動中継局2は、チャネル推定により得られた推定値を用いて、各参照局5間で干渉が低減されるようにビームを形成する。その結果、移動中継局2は、図1に示すように、各参照局5-1~5-3の位置する方向に指向性を有するビームを形成し、結果として各参照局5-1~5-3を基準として所定の大きさの通信エリア2-1~2-3を形成する。これにより、通信エリア2-1~2-3に位置する端末局3は、移動中継局2と通信可能になる。そして、各端末局3は、移動中継局2との間で通信を行う。
以上のように、本発明では、参照局5を基準として端末局3のための通信エリアを形成する。以下、具体的な構成について説明する。
【0013】
(第1の実施形態)
図2は、第1の実施形態による無線通信システム1の構成図である。無線通信システム1は、移動中継局2と、1以上の端末局3と、基地局4と、1以上の参照局5とを有する。無線通信システム1が有する移動中継局2、端末局3、基地局4及び参照局5それぞれの数は任意である。端末局3の数は、多数であることが想定される。
【0014】
移動中継局2は、移動体に搭載され、通信可能なエリアが時間の経過により移動する。移動中継局2は、例えば、LEO(Low Earth Orbit)衛星に備えられる。LEO衛星の高度は2000km以下であり、地球の上空を1周約1.5時間程度で周回する。移動中継局2は、地球の上空を移動しながら、複数の端末局3それぞれから送信された各データを無線信号により受信する。本発明における移動中継局2では、複数の端末局3それぞれからデータを受信するための通信可能なエリアを、参照局5を基準として形成する。移動中継局2は、受信した各データを基地局4へ無線により送信する。以下、移動中継局2から端末局3及び基地局4に送信される信号をダウンリンク信号という。
【0015】
端末局3は、センサが検出した環境データ等のデータを収集し、移動中継局2へ無線により送信する。例えば、端末局3は、移動中継局2から送信タイミングが指示されている場合には、指示された送信タイミングで、収集したデータを移動中継局2へ無線により送信する。端末局3は、例えば、IoT(Internet of Things)端末である。端末局3の近傍には、参照局5が位置しているものとする。端末局3は、第2の通信装置の一態様である。
基地局4は、移動中継局2から端末局3が収集したデータを受信する。
【0016】
参照局5は、通信エリア形成時の基準となる装置である。例えば、参照局5は、端末局3が配置されている場所の近傍に配置される。参照局5は、移動中継局2と通信可能なタイミングになると、少なくとも参照局5の識別情報を含む参照信号を生成し、生成した参照信号を移動中継局2に送信する。移動中継局2と通信可能なタイミングは、例えば移動中継局2から送信されるダウンリンク信号を受信したタイミングであってもよいし、移動中継局2を搭載しているLEO衛星の軌道情報を保持している場合には軌道情報に基づいてLEOが参照局5の近傍に位置しているタイミングであってもよい。LEOの軌道情報は、任意の時刻におけるLEO衛星の位置、速度、移動方向などを得ることが可能な情報である。送信時刻は、例えば、送信開始タイミングからの経過時間で表してもよい。参照局5は、第1の通信装置の一態様である。
端末局3、基地局4及び参照局5は、地上や海上等の地球上の特定の位置に設置される。以下、端末局3及び参照局5それぞれから移動中継局2に対して送信される信号を端末アップリンク信号という。
【0017】
移動中継局として、静止衛星や、ドローン、HAPS(High Altitude Platform Station)などの無人航空機に搭載された中継局を用いることが考えられる。しかし、静止衛星に搭載された中継局の場合、地上のカバーエリア(フットプリント)は広いものの、高度が高いために、地上に設置されたIoT端末に対するリンクバジェットは非常に小さい。一方、ドローンやHAPSに搭載された中継局の場合、リンクバジェットは高いものの、カバーエリアが狭い。
【0018】
さらには、ドローンにはバッテリーが、HAPSには太陽光パネルが必要である。本実施形態では、LEO衛星に移動中継局2を搭載する。よって、リンクバジェットは限界内に収まることに加え、LEO衛星は、大気圏外を周回するために空気抵抗がなく、燃料消費も少ない。また、ドローンやHAPSに中継局を搭載する場合と比較して、フットプリントも大きい。
【0019】
LEO衛星に搭載された移動中継局2は、地上に設置された参照局5の方向に指向性を有するビームを形成している。この際、移動中継局2は、ビームの中心周波数が参照局5の位置に向くようにビームを形成する。そのため、参照局5にビームを向けることができ、安定したビームフォーミング制御が可能になる。すなわち、LEO衛星が常時移動している場合であっても、所望の方向に干渉なくビームを向けることができる。
さらに、参照局5に向けてビームを形成しているため、参照局5を基準として所定の大きさの通信エリアを形成することができる。これにより、通信エリア内に位置する端末局3は、移動中継局2との通信が可能になる。
【0020】
各装置の構成を説明する。
移動中継局2は、N本のアンテナ21(Nは2以上の整数)と、端末通信部22と、制御部23と、基地局通信部24と、複数本のアンテナ25と、参照局情報記憶部26とを備える。N本のアンテナ21をそれぞれ、アンテナ21-1~21-Nと記載する。
【0021】
端末通信部22は、N個の送受信部221と、N個の端末信号復調部222とを有する。N個の送受信部221を、送受信部221-1~221-Nと記載する。N個の端末信号復調部222を、端末信号復調部222-1~222-Nと記載する。
【0022】
送受信部221-n(nは1以上N以下の整数)は、アンテナ21-nにより端末アップリンク信号を受信する。このように、送受信部221-nは、アンテナ21-nにより1以上の端末局3及び参照局5との間で通信を行う。
【0023】
端末信号復調部222-n(nは1以上N以下の整数)は、送受信部221-nが受信した端末アップリンク信号を復調し、復調結果を制御部23又は基地局通信部24に出力する。例えば、端末信号復調部222-nは、センサにより収集されたデータが復調結果に含まれる場合には、復調結果を基地局通信部24に出力する。例えば、端末信号復調部222-nは、参照信号を表す既知のパターンが復調結果に含まれる場合には、復調結果を制御部23に出力する。
【0024】
端末信号復調部222-nが行う復調には、例えば、送受信部221-nによって受信されたRF(Radio Frequency)信号をベースバンド信号に変換する周波数変換、端末局3及び参照局5から送信されるアップリンク信号を検出するためのフレーム検出が含まれる。さらに、例えば端末信号復調部222-nでデジタル処理を行う場合には、端末信号復調部222-nはアナログデジタル変換を行う。
【0025】
制御部23は、CPU(Central Processing Unit)等のプロセッサやメモリを用いて構成される。制御部23は、プログラムを実行することによって、通信制御部231、チャネル推定部232、行列生成部233及びアンテナ制御部234の機能を実現する。これらの機能部のうち一部または全部は、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)やPLD(Programmable Logic Device)、FPGA(Field Programmable Gate Array)などのハードウェア(回路部;circuitryを含む)によって実現されてもよいし、ソフトウェアとハードウェアとの協働によって実現されてもよい。これらの機能の一部は、予め移動中継局2に搭載されている必要はなく、追加のアプリケーションプログラムが移動中継局2にインストールされることで実現されてもよい。
【0026】
通信制御部231は、ダウンリンク信号の送信を制御する。例えば、通信制御部231は、予め定められたタイミングに、ダウンリンク信号を送信するように端末通信部22を制御する。予め定められたタイミングは、常時であってもよいし、移動中継局2が、所定の位置に移動したタイミングであってもよいし、所定の時刻になったタイミングであってもよいし、参照局5が位置している場所に移動したタイミングであってもよい。
【0027】
チャネル推定部232は、参照局5から送信された既知の参照信号に基づいて参照局5毎にチャネル推定を行う。
行列生成部233は、チャネル推定により得られた推定値を用いて重み行列を推定値毎に生成する。行列生成部233による重み行列の生成には、ZF(Zero Forcing)法、MMSE(Minimum Mean-Square-Error)法等が用いられる。なお、重み行列の生成は、上記に限定されず重み行列を生成できれば他の手法が用いられてもよい。重み行列の生成にZF法を用いる場合、チャネル推定行列の逆行列を重み行列とすればよい。
【0028】
アンテナ制御部234は、各重み行列を用いて、複数のアンテナ21-Nを制御して、各参照局5の位置する方向に指向性を有するビームを形成する。例えば、アンテナ制御部234は、参照局5-1から送信された参照信号により得られた推定値から生成された重み行列を用いて、複数のアンテナ21のうち一部のアンテナ21を制御して、参照局5-2の位置する方向に指向性を有するビームを形成する。アンテナ制御部234が参照局5の位置する方向に送信するビームは、シングルビームでもよいし、マルチビームであってもよい。アンテナ制御部234は、ビームの形成にデジタルビームフォーミング制御を用いる。
【0029】
複数のアンテナ21は、アンテナ制御部234の制御に応じて、参照局5を含む所定の範囲に形成された通信エリアに送信ビームを形成する。複数のアンテナ21は、アンテナ制御部234の制御に応じて、参照局5を含む所定の範囲に形成された通信エリアに位置する端末局3から送信された信号を受信する受信ビームを形成する。以下の説明では、複数のアンテナ21が、受信ビームを形成する場合を例に説明する。
【0030】
基地局通信部24は、任意の無線通信方式のダウンリンク信号により受信波形情報を基地局4へ送信する。基地局通信部24は、記憶部241と、制御部242と、送信データ変調部243と、送受信部244とを備える。
記憶部241は、移動中継局2を搭載しているLEO衛星の軌道情報と、基地局4の位置とに基づいて、予め計算された送信開始タイミングを記憶する。
【0031】
制御部242は、記憶部241に記憶された送信開始タイミングにおいて、受信波形情報を基地局4に送信するように送信データ変調部243及び送受信部244を制御する。
送信データ変調部243は、端末通信部22から出力された受信波形情報を送信データとして読み出し、読み出した送信データを変調して基地局ダウンリンク信号を生成する。
送受信部244は、基地局ダウンリンク信号を電気信号から無線信号に変換し、アンテナ25から送信する。
【0032】
参照局情報記憶部26には、参照局5に関する情報が記憶されている。例えば、参照局情報記憶部26には、参照局5に関する情報として、参照局5の識別情報及び位置情報が記憶されている。参照局情報記憶部26は、磁気記憶装置や半導体記憶装置などの記憶装置を用いて構成される。
【0033】
端末局3は、データ記憶部31と、送受信部32と、通信制御部33と、アンテナ34とを備える。なお、端末局3は、複数のアンテナ34を備えてもよい。
データ記憶部31には、センサデータが記憶される。
【0034】
送受信部32は、移動中継局2との間で通信を行う。例えば、送受信部32は、通信制御部33の指示に応じてデータ記憶部31からセンサデータを端末送信データとして読み出す。送受信部32は、読み出した端末送信データを設定した端末アップリンク信号をアンテナ34から無線により送信する。
【0035】
送受信部32は、例えば、LPWA(Low Power Wide Area)により信号を送受信する。LPWAには、LoRaWAN(登録商標)、Sigfox(登録商標)、LTE-M(Long Term Evolution for Machines)、NB(Narrow Band)-IoT等があるが、任意の無線通信方式を用いることができる。送受信部32は、他の端末局3と時分割多重、OFDM(Orthogonal Frequency Division Multiplexing:直交周波数分割多重)などにより送受信を行ってもよい。送受信部32は、使用する無線通信方式において予め決められた方法により、複数本のアンテナ34から送信する信号のビーム形成を行ってもよい。
【0036】
通信制御部33は、移動中継局2から指示される送信タイミングで、データ記憶部31に記憶されているセンサデータを送受信部32に送信させる。
【0037】
基地局4は、アンテナ41と、送受信部42と、基地局信号受信処理部43と、端末信号受信処理部44とを備える。送受信部42は、アンテナ41により受信した端末ダウンリンク信号を、電気信号に変換する。基地局信号受信処理部43は、送受信部42が電気信号に変換した受信信号の復調及び復号を行い、受信波形情報を得る。基地局信号受信処理部43は、受信波形情報を端末信号受信処理部44に出力する。
【0038】
端末信号受信処理部44は、受信波形情報が示す端末アップリンク信号の受信処理を行う。このとき、端末信号受信処理部44は、端末局3が送信に使用した無線通信方式により受信処理を行って端末送信データを取得する。端末信号受信処理部44は、端末信号復調部441と、端末信号復号部442とを備える。
【0039】
端末信号復調部441は、波形データを復調し、復調により得られたシンボルを端末信号復号部442に出力する。端末信号復調部441は、波形データが示す信号に対して、移動中継局2のアンテナ21が受信した端末アップリンク信号のドップラーシフトを補償する処理を行ってから、復調を行ってもよい。アンテナ21が受信した端末アップリンク信号が受けるドップラーシフトは、端末局3の位置と、移動中継局2が搭載されているLEOの軌道情報に基づき予め計算される。端末信号復号部442は、端末信号復調部441が復調したシンボルを復号し、端末局3から送信された端末送信データを得る。
【0040】
参照局5は、データ記憶部51と、送受信部52と、通信制御部53と、アンテナ54とを備える。なお、参照局5は、複数のアンテナ54を備えてもよい。
データ記憶部51には、参照局5の識別情報が記憶される。
【0041】
送受信部52は、移動中継局2との間で通信を行う。例えば、送受信部52は、通信制御部53からの指示に応じて、データ記憶部31から参照局5の識別情報を読み出す。送受信部52は、読み出した識別情報を含む参照信号を端末アップリンク信号としてアンテナ54から無線により送信する。
【0042】
送受信部52は、例えば、LPWAにより信号を送受信する。送受信部52は、使用する無線通信方式において予め決められた方法により、複数本のアンテナ54から送信する信号のビーム形成を行ってもよい。
【0043】
通信制御部53は、移動中継局2と通信可能タイミングで、参照信号を送受信部52に送信させる。
【0044】
無線通信システム1の動作を説明する。
図3は、第1の実施形態における無線通信システム1のビームフォーミング制御処理の流れを示すシーケンス図である。図3の説明では、無線通信システム1に参照局5が2台(参照局5-1及び参照局5-2)備えられている場合を例に説明する。2台の参照局5-1及び参照局5-2の機能部を区別するため、それぞれの機能部に枝番“-1”又は“-2”を付すものとする。以下の説明では、図3の処理は、参照局5の近くに移動中継局2が位置しているタイミングで実行されるものとして説明する。
【0045】
移動中継局2の通信制御部231は、移動中継局2が参照局5の近くに位置しているタイミングで、端末通信部22を制御してダウンリンク信号を送信させる。ここで、移動中継局2が参照局5の近くに位置しているか否かは、参照局情報記憶部26と、移動中継局2の軌道情報とに基づいて判定される。参照局情報記憶部26には、各参照局5の位置情報が記憶されている。そのため、通信制御部231は、移動中継局2の軌道情報に基づく移動中継局2の位置と、各参照局5の位置とを把握できる。通信制御部231は、移動中継局2の位置が、少なくとも1つの参照局5との所定の範囲内に位置してことを契機に端末通信部22を制御してダウンリンク信号を送信させる。
【0046】
端末通信部22は、通信制御部231の制御に従って、ダウンリンク信号を送信する(ステップS101)。すなわち、移動中継局2は、送受信部221-1~221-Nを介して、ダウンリンク信号を送受信部221-1~221-Nの通信範囲内に送信する。ここで移動中継局2が送信するダウンリンク信号は、参照局5に送信を許可することを示す情報が含まれる。送受信部221-1~221-Nの通信範囲内に参照局5が位置している場合、参照局5はダウンリンク信号を受信する。ここでは、参照局5-1及び5-2が、送受信部221-1~221-Nのいずれかの通信範囲内に位置しているものとする。参照局5-1及び5-2は、移動中継局2から送信されたダウンリンク信号を受信する。
【0047】
送受信部52-1は、移動中継局2から送信されたダウンリンク信号を受信すると、通信制御部53-1の制御に従って、データ記憶部51-1に記憶されている参照局5-1の識別情報を含む既知の参照信号を端末アップリンク信号としてアンテナ55-1から無線により送信する(ステップS102)。
【0048】
送受信部52-2は、移動中継局2から送信されたダウンリンク信号を受信すると、通信制御部53-2の制御に従って、データ記憶部51-2に記憶されている参照局5-2の識別情報を含む既知の参照信号を端末アップリンク信号としてアンテナ55-2から無線により送信する(ステップS103)。
【0049】
送受信部221-1~221-Nはそれぞれ、各参照局5から送信された端末アップリンク信号を受信する。端末信号復調部222-1~222-Nは、送受信部221-1~221-Nが受信した端末アップリンク信号を復調し、復調結果を制御部23に出力する。チャネル推定部232は、復調された参照信号を用いて、移動中継局2と各参照局5との間のチャネル推定を行う(ステップS104)。チャネル推定部232は、移動中継局2と各参照局5との間のチャネル推定により得られた推定値を行列生成部233に出力する。
【0050】
行列生成部233は、チャネル推定部232から出力された推定値を用いて重み行列を参照局5毎に生成する(ステップS105)。行列生成部233は、生成した重み行列の情報をアンテナ制御部234に出力する。アンテナ制御部234は、各重み行列を用いて、複数のアンテナ21-Nを制御して、参照局5-1及び5-2それぞれの位置する方向に指向性を有するビーム(例えば、受信ビーム)を形成する(ステップS106)。より具体的には、アンテナ制御部234は、複数のアンテナ21-Nのうち一部のアンテナ21-1~21-n-1を用いて、参照局5-1の位置する方向に指向性を有するビームを形成する。さらに、アンテナ制御部234は、複数のアンテナ21-Nのうち残りのアンテナ21-n~21-Nを用いて、参照局5-2の位置する方向に指向性を有するビームを形成する。
【0051】
上記の処理により、参照局5-1の近傍に参照局5-1を基準とした通信可能エリアが形成され、参照局5-2の近傍に参照局5-2を基準とした通信可能エリアが形成される。その後、移動中継局2は、通信可能エリア内に位置している端末局3からの送信を受け付ける(ステップS107)。参照局5-1の近傍に位置し、通信可能エリア内に位置している端末局3の通信制御部33は、移動中継局2から指示される送信タイミングで、データ記憶部31に記憶されているセンサデータを送受信部32に送信させる。送受信部32は、通信制御部33の制御に従って、センサデータを送信する。参照局5-2の近傍に位置し、通信可能エリア内に位置している端末局3の通信制御部33は、移動中継局2から指示される送信タイミングで、データ記憶部31に記憶されているセンサデータを送受信部32に送信させる。送受信部32は、通信制御部33の制御に従って、センサデータを送信する。
【0052】
以上のように構成された無線通信システム1によれば、移動中継局2が、参照局5から送信される信号に基づいて参照局5の位置する方向に指向性を有するビームを形成する。具体的には、移動中継局2は、参照局5から送信された信号に基づいてチャネル推定を行い、チャネル推定結果により得られる重み行列を用いて、参照局5の位置する方向に指向性を有するビームを形成している。これにより、安定したビームフォーミング制御ができる。その結果、参照局5の周囲に通信可能なエリアを形成することができ、通信可能なエリア内に位置している端末局3との通信が可能になる。そのため、ビームフォーミング技術を用いてサービスを向上させることが可能になる。
【0053】
(第2の実施形態)
第2の実施形態では、移動中継局2が参照局5にビームを向けるタイミングを時間毎に切り替える構成について説明する。
第2の実施形態において基本的なシステム構成は、第1の実施形態と同様である。以下、第1の実施形態との相違点をメインに説明する。
【0054】
図4は、第2の実施形態による無線通信システム1aの構成図である。無線通信システム1aは、移動中継局2aと、1以上の端末局3と、基地局4と、1以上の参照局5とを有する。無線通信システム1aが有する移動中継局2a、端末局3、基地局4及び参照局5それぞれの数は任意である。
移動中継局2aは、N本のアンテナ21と、端末通信部22と、制御部23aと、基地局通信部24と、複数本のアンテナ25と、参照局情報記憶部26aとを備える。
【0055】
制御部23aは、CPU等のプロセッサやメモリを用いて構成される。制御部23aは、プログラムを実行することによって、通信制御部231、チャネル推定部232、行列生成部233、アンテナ制御部234a及びタイムスケジュール作成部235の機能を実現する。これらの機能部のうち一部または全部は、ASICやPLD、FPGAなどのハードウェア(回路部;circuitryを含む)によって実現されてもよいし、ソフトウェアとハードウェアとの協働によって実現されてもよい。これらの機能の一部は、予め移動中継局2aに搭載されている必要はなく、追加のアプリケーションプログラムが移動中継局2aにインストールされることで実現されてもよい。
【0056】
制御部23aは、アンテナ制御部234に代えてアンテナ制御部234aを備える点、タイムスケジュール作成部235を新たに備える点で制御部23と構成が異なる。制御部23aは、他の構成については制御部23と同様である。そのため、制御部23a全体の説明は省略し、アンテナ制御部234a及びタイムスケジュール作成部235について説明する。
【0057】
タイムスケジュール作成部235は、移動中継局2の軌道情報と参照局5の位置情報とに基づいて、参照局5の位置する方向に指向性を有するビームを形成するタイミングを示すタイムスケジュールを作成する。
【0058】
アンテナ制御部234aは、タイムスケジュール作成部235により作成されたタイムスケジュールに従って、該当する参照局5の推定値より得られる重み行列を用いて、複数のアンテナ21-Nを制御して、各参照局5の位置する方向に指向性を有するビームを形成する。すなわち、アンテナ制御部234aは、参照局5の位置する方向に指向性を有するビームを形成するタイミングを時間で切り替える。
【0059】
参照局情報記憶部26aには、参照局5に関する情報が記憶されている。例えば、参照局情報記憶部26aには、参照局5に関する情報として、参照局5の識別情報、位置情報及びチャネル推定値が記憶されている。参照局情報記憶部26aは、磁気記憶装置や半導体記憶装置などの記憶装置を用いて構成される。
【0060】
無線通信システム1aの動作を説明する。
図5は、第2の実施形態における無線通信システム1aのビームフォーミング制御処理の流れを示すシーケンス図である。図5の説明では、無線通信システム1aに参照局5が2台(参照局5-1及び参照局5-2)備えられている場合を例に説明する。なお、図5において、図3と同様の処理については図3と同様の符号を付して説明を省略する。
【0061】
ステップS101からステップS103までの処理が実行されると、送受信部221-1~221-Nはそれぞれ、各参照局5から送信された端末アップリンク信号を受信する。端末信号復調部222-1~222-Nは、送受信部221-1~221-Nが受信した端末アップリンク信号を復調し、復調結果を制御部23に出力する。チャネル推定部232は、復調された参照信号を用いて、移動中継局2aと各参照局5との間のチャネル推定を行う(ステップS201)。チャネル推定部232は、チャネル推定により得られた推定値を参照局情報記憶部26aに記憶させる。
【0062】
タイムスケジュール作成部235は、移動中継局2の軌道情報と参照局5の位置情報とに基づいてタイムスケジュールを作成する(ステップS202)。例えば、タイムスケジュール作成部235は、移動中継局2の軌道情報により得られる移動中継局2の現時点の位置に近い参照局5へのビームフォーミング制御が早くなるようにタイムスケジュールを作成してもよいし、時間毎にランダムに参照局5を割り当てることによってタイムスケジュールを作成してもよい。なお、タイムスケジュールの作成にあたり、同じ参照局5が連続して割り当てられていてもよいし、各参照局5が順番に割り当てられていてもよい。
【0063】
ここで一例を挙げて説明する。図5に示すように、参照局5-1及び5-2が、移動中継局2aと通信可能な位置に位置している場合、タイムスケジュール作成部235は数秒(例えば、1秒)毎に参照局5-1と参照局5-2とが交互に入れ替わるタイムスケジュールを作成する。タイムスケジュール作成部235は、作成したタイムスケジュールをアンテナ制御部234aに出力する。
【0064】
アンテナ制御部234aは、タイムスケジュール作成部235によって作成されたタイムスケジュールに従って、対象となる参照局5の位置する方向に指向性を有するビームを形成する(ステップS203)。上記の例の場合、まずアンテナ制御部234aは、参照局5-1の位置する方向に指向性を有するビームを形成する。具体的には、アンテナ制御部234aは、行列生成部233に対して、参照局5-1の推定値を用いて重み行列を生成させる。
【0065】
行列生成部233は、アンテナ制御部234aの指示に従って、参照局情報記憶部26aから参照局5-1に対応する推定値を取得し、取得した推定値を用いて重み行列を生成する。行列生成部233は、生成した重み行列の情報をアンテナ制御部234aに出力する。アンテナ制御部234aは、行列生成部233から出力された重み行列を用いて、複数のアンテナ21-Nを制御して、参照局5-1の位置する方向に指向性を有するビーム(例えば、受信ビーム)を形成する。
【0066】
参照局5-1の位置する方向に指向性を有するビームを形成からタイムスケジュールで定められた時間が経過した場合、次にアンテナ制御部234aは、参照局5-2の位置する方向に指向性を有するビームを形成する。具体的には、アンテナ制御部234aは、行列生成部233に対して、参照局5-2の推定値を用いて重み行列を生成させる。
【0067】
行列生成部233は、アンテナ制御部234aの指示に従って、参照局情報記憶部26aから参照局5-2に対応する推定値を取得し、取得した推定値を用いて重み行列を生成する。行列生成部233は、生成した重み行列の情報をアンテナ制御部234aに出力する。アンテナ制御部234aは、行列生成部233から出力された重み行列を用いて、複数のアンテナ21-Nを制御して、参照局5-2の位置する方向に指向性を有するビーム(例えば、受信ビーム)を形成する。
【0068】
移動中継局2aは、以上のようなビームフォーミング制御の切り替えを、タイムスケジュールに従って実行する。なお、上記の例では、参照局5-1と参照局5-2とを交互に切り替える例で説明したが、3台以上ある場合には同じ時間帯で2台の参照局5に向けたビームが形成されてもよい。すなわち、同じ時間帯に複数の参照局5に向けたビームが形成されるようにタイムスケジュールが作成されてもよい。
【0069】
以上のように構成された無線通信システム1aによれば、第1の実施形態と同様の効果を得ることができる。
さらに、無線通信システム1aでは、タイムスケジュールにより参照局5に向けたビームが形成されるタイミングが切り替えられる。これにより、同時にビームを形成できる数に限りがあっても、時間に応じて他の参照局5に向けたビームを形成することができる。したがって、第1の実施形態よりも参照局5の設置台数に制限が無い。そのため、参照局5の設置の自由度が増し、利便性を向上させることが可能になる。
【0070】
以下、第1の実施形態及び第2の実施形態の変形例について説明する。
移動中継局2,2aは、常時移動しているため移動中継局2,2aと参照局5との位置関係が変化することが想定される。そこで、チャネル推定部232は、適宜チャネル推定を行うように構成されてもよい。このように構成される場合、チャネル推定部232は、前回のチャネル推定を行ってから、定められた時間経過したタイミングで通信制御部231にダウンリンク信号の送信を指示する。通信制御部231は、チャネル推定部232からの指示に応じて、端末通信部22を制御してダウンリンク信号を送信する。その後、移動中継局2,2aは、ステップS104以降の処理を実行する。
【0071】
上記の各実施形態では、参照局5の位置が固定されている場合について説明した。そのため、移動中継局2,2aが、参照局5の位置を予め記憶しておくことで参照局5の位置を把握することができる。参照局5は、設置位置は移動可能な構成であってもよい。このように構成される場合、移動中継局2は、参照局5から位置情報を取得する度に、参照局情報記憶部26に記憶されている位置情報を更新する。参照局5は、参照局5の識別情報に加えて位置情報を含む参照信号を移動中継局2,2aに送信する。参照局5の位置情報は、移動後の場所でユーザによって参照局5に登録されていてもよいし、参照局5がGPS(Global Positioning System)等の位置情報取得手段により位置情報を取得してもよい。
以上の構成により、参照局5の位置が移動する場合であっても、本発明における技術を適用することが可能になる。
【0072】
上記の各実施形態では、参照局5は、移動中継局2から送信されたダウンリンク信号を受信したことを契機に、参照信号を端末アップリンク信号として送信している。これに対して、参照局5があらかじめ移動中継局2の軌道情報を保持している場合には、参照局5が移動中継局2の通信可能な時間を判断して、参照信号を端末アップリンク信号として送信するように構成されてもよい。このように構成される場合、参照局5は、移動中継局2の軌道情報を参照することで、どの時間帯に移動中継局2がどの位置にいるのかを把握することができる。そこで、参照局5は、軌道情報を参照して、移動中継局2が参照局5の近く(例えば、参照局5の上空)に位置する時間帯に、参照信号を端末アップリンク信号として送信する。
【0073】
上記の各実施形態において、アンテナ制御部234,234aは、複数のアンテナ21の一部のアンテナを制御して、複数の参照局5のうち特定の参照局5に対して干渉を抑圧するためにヌルビームを形成するように構成されてもよい。ここで、特定の参照局5とは、指向性を有するビームの形成対象ではない参照局5である。例えば、図1において移動中継局2が、参照局5-1及び5-2に対して指向性を有するビームの形成する場合、参照局5-3が特定の参照局5となる。この場合、アンテナ制御部234,234aは、複数のアンテナ21の一部のアンテナを制御して、参照局5-1及び5-2それぞれの位置する方向に対しては指向性を有するビームの形成し、参照局5-3の位置する方向に対してはヌルビームを形成する。これにより、参照局5-3の位置する方向からの雑音を抑圧することができる。
【0074】
移動中継局2、2aは、軌道情報と、参照局の位置情報とに基づいて通信可能エリアを形成する場所を選択するように構成されてもよい。移動中継局2、2aは、上空を移動しているため、数多くの参照局5と通信が可能になることが想定される。そのため、あと少し移動しただけで通信できなくなるような参照局5との間でも移動中継局2の位置によっては通信が可能である。あと少し移動しただけで通信できなくなるような参照局5に指向性を有するビームを形成することで、移動中継局2の位置的に本来通信可能なエリアを形成すべき場所に通信可能なエリアを形成できない場合もある。そこで、アンテナ制御部234,234aは、移動中継局2、2aの位置と参照局5の位置関係に基づいて、参照局5の中から、移動中継局2の位置的に本来通信可能なエリアを形成すべき場所に位置する参照局5を選択する。本来通信可能なエリアを形成すべき場所に位置する参照局5とは、移動中継局2、2aの位置と参照局5の位置との近さが閾値未満となる参照局5である。そして、アンテナ制御部234,234aは、選択した参照局5に指向性を有するビームを形成する。これにより、参照局5の設置台数が多い場合であっても、適切な参照局5を選択することができる。
【0075】
第1の実施形態と第2の実施形態とは、組み合わされてもよい。このように構成される場合、移動中継局2のアンテナ制御部234は、切替条件が満たされた場合に、現時点で実行しているビームフォーミング制御処理から他のビームフォーミング制御処理に変更する。切替条件は、外部からの指示であってもよいし、時間帯で設定されていてもよいし、移動中継局2の位置に応じて設定されていてもよい。
このように構成されることによって、切り替えが必要なタイミングで自由に切り替えることができる。例えば、参照局5の設置台数が少なくて時間で切り変える必要がない地域と、参照局5の設置台数が多くて頻繁に切り替える必要がある地域とで設定を変えることで、その場所に応じたビームフォーミング制御処理を実行することができる。
【0076】
移動中継局2,2aが備えるアンテナ21、端末通信部22、制御部23,23a及び参照局情報記憶部26は、移動する送受信装置として構成されてもよい。この送受信装置は、単体の装置として構成されてもよいし、上記の実施形態のように、移動中継局2,2aとして構成されてもよい。
【0077】
なお、上記実施形態において、移動中継局が搭載される移動体は、LEO衛星である場合を説明したが、静止衛星、ドローンやHAPSなど上空を飛行する他の飛行体であってもよい。
【0078】
上述した実施形態における移動中継局2,2aが行う一部又は全ての処理(ビームフォーミング制御処理、タイムスケジュール作成処理)をコンピュータで実現するようにしてもよい。その場合、この機能を実現するためのプログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行することによって実現してもよい。なお、ここでいう「コンピュータシステム」とは、OSや周辺機器等のハードウェアを含むものとする。また、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、CD-ROM等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置のことをいう。
【0079】
さらに「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、インターネット等のネットワークや電話回線等の通信回線を介してプログラムを送信する場合の通信線のように、短時間の間、動的にプログラムを保持するもの、その場合のサーバやクライアントとなるコンピュータシステム内部の揮発性メモリのように、一定時間プログラムを保持しているものも含んでもよい。また上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであってもよく、さらに前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるものであってもよく、FPGA(Field Programmable Gate Array)等のプログラマブルロジックデバイスを用いて実現されるものであってもよい。
【0080】
以上、この発明の実施形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計等も含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明は、移動中継局が搭載される移動体と通信を行う技術に適用できる。
【符号の説明】
【0082】
1、1a…無線通信システム,
2、2a…移動中継局,
3…端末局,
4…基地局,
5…参照局,
21-1~21-N…アンテナ,
22…端末通信部,
23…制御部,
24…基地局通信部,
25…アンテナ,
31…データ記憶部,
32…送受信部,
33…通信制御部,
34…アンテナ,
41…アンテナ,
42…送受信部,
43…基地局信号受信処理部,
44…端末信号受信処理部,
51…データ記憶部,
52…送受信部,
53…通信制御部,
54…アンテナ,
221-1~221-N…送受信部,
222-1~222-N…端末信号復調部,
231…通信制御部,
232…チャネル推定部,
233…行列生成部,
234…アンテナ制御部,
235…タイムスケジュール作成部,
241…記憶部,
242…制御部,
243…送信データ変調部,
244…送受信部,
25…アンテナ,
26…参照局情報記憶部,
441…端末信号復調部,
442…端末信号復号部
図1
図2
図3
図4
図5