IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日産化学工業株式会社の特許一覧

特許7572661液晶配向剤、液晶配向膜及び液晶表示素子
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-16
(45)【発行日】2024-10-24
(54)【発明の名称】液晶配向剤、液晶配向膜及び液晶表示素子
(51)【国際特許分類】
   G02F 1/1337 20060101AFI20241017BHJP
   C08G 73/10 20060101ALI20241017BHJP
【FI】
G02F1/1337 525
C08G73/10
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021546933
(86)(22)【出願日】2020-09-16
(86)【国際出願番号】 JP2020035095
(87)【国際公開番号】W WO2021054365
(87)【国際公開日】2021-03-25
【審査請求日】2023-08-30
(31)【優先権主張番号】P 2019170885
(32)【優先日】2019-09-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003986
【氏名又は名称】日産化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101236
【弁理士】
【氏名又は名称】栗原 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100166914
【弁理士】
【氏名又は名称】山▲崎▼ 雄一郎
(72)【発明者】
【氏名】森内 正人
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 直史
【審査官】岩村 貴
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-185064(JP,A)
【文献】特開2017-049576(JP,A)
【文献】特開平06-016629(JP,A)
【文献】特開2005-336243(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2018-0065776(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02F 1/1337
C08G 73/10
C07D 487/08
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式[I]で表される少なくとも1種の第1ジアミンと、下記式[S1]で表される側鎖構造を有する少なくとも1種の第2ジアミンとを含み、前記式[S1]で表される側鎖構造が、下記式[S1-x1]~[S1-x7]からなる群から選ばれる少なくとも1種であるジアミン成分から得られる重合体と、有機溶媒とを含むことを特徴とする液晶配向剤。
【化1】
(式[I]において、Zは、下記式[Z-1]~[Z-9]から選択される。*は結合手を表す。)
【化2】
【化3】
(式[S1]中、X及びXは、それぞれ独立して、単結合、-(CH-(aは1~15の整数を示す。)、-CONH-、-NHCO-、-CON(CH)-、-NH-、-O-、-COO-、-OCO-又は-((CHa1-Am1-(a1は1~15の整数であり、Aは酸素原子又は-COO-を表し、mは1~2の整数である。mが2の場合、複数のa1及びAは、それぞれ独立して前記定義を有する)を表す。G及びGはそれぞれ独立して、炭素数6~12の2価の芳香族基又は炭素数3~8の2価の脂環式基から選ばれる2価の環状基を表す。前記環状基上の任意の水素原子は、炭素数1~3のアルキル基、炭素数1~3のアルコキシ基、炭素数1~3のフッ素含有アルキル基、炭素数1~3のフッ素含有アルコキシ基又はフッ素原子からなる群から選ばれる少なくとも1種で置換されていてもよい。m及びnはそれぞれ独立して0~3の整数であって、m及びnの合計は1~6である。Rは炭素数1~20のアルキル基、炭素数1~20のアルコキシ基、又は炭素数2~20のアルコキシアルキル基を表し、Rを形成する任意の水素原子はフッ素原子で置換されていてもよい。)
【化4】
(式[S1-x1]~[S1-x7]中、Rは炭素数1~20のアルキル基を表す。Xは、-(CH-(aは1~15の整数である)、-CONH-、-NHCO-、-CON(CH)-、-NH-、-O-、-CHO-、-CHOCO-、-O-(CH-O-(mは1~6の整数である)、-COO-又は-OCO-を表す。Aは、酸素原子又は-COO-*(ただし、「*」を付した結合手が(CHa2と結合する)を表す。Aは、酸素原子又は*-COO-(ただし、「*」を付した結合手が(CHa2と結合する)を表す。a3は0又は1の整数であり、a1及びa2はそれぞれ独立して、2~10の整数である。Cyは1,4-シクロへキシレン基又は1,4-フェニレン基を表す。)
【請求項2】
前記重合体が、前記ジアミン成分とテトラカルボン酸二無水物との重縮合物であるポリイミド前駆体及びそのイミド化物であるポリイミドからなる群から選ばれる少なくとも一種の重合体である請求項1に記載の液晶配向剤。
【請求項3】
前記ジアミン成分は、下記式[1]及び[2]で表されるジアミンから選ばれる少なくとも1種を含有することを特徴とする請求項1または2に記載の液晶配向剤。
【化5】
(式[1]中、Yは、前記式[S1]で表される側鎖構造から選ばれる1価の基を表す。式[2]において、Xは、単結合、-O-、-C(CH-、-NH-、-CO-、-(CH-、-SO-、-O-(CH-O-、-O-C(CH-、-CO-(CH-、-NH-(CH-、-SO-(CH-、-CONH-(CH-、-CONH-(CH-NHCO-、-COO-(CH-OCO-、-CONH-、-NH-(CH-NH-、又は-SO-(CH-SO-を表す。mは1~8の整数である。2つのYはそれぞれ独立して前記式[S1]で表される側鎖構造から選ばれる1価の基を表す。)
【請求項4】
請求項1~請求項3の何れか一項に記載の液晶配向剤から得られることを特徴とする液晶配向膜。
【請求項5】
請求項4に記載の液晶配向膜を具備することを特徴とする液晶表示素子。
【請求項6】
下記式[II]で表されることを特徴とするジアミン。
【化6】
(式[II]において、Zは、下記式[Z-1]、[Z-3]、[Z-4]、[Z-6]及び[Z-7]から選択される。*は結合手を表す。)
【化7】
【請求項7】
下記式で表されることを特徴とする請求項6記載のジアミン。
【化8】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶配向剤、液晶配向膜及び液晶表示素子に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から液晶装置は、パーソナルコンピュータや携帯電話、テレビジョン受像機等の表示部として幅広く用いられている。液晶装置は、例えば、素子基板とカラーフィルタ基板との間に挟持された液晶層、液晶層に電界を印加する画素電極及び共通電極、液晶層の液晶分子の配向性を制御する配向膜、画素電極に供給される電気信号をスイッチングする薄膜トランジスタ(TFT)等を備えている。液晶分子の駆動方式としては、TN方式、VA方式等の縦電界方式や、IPS方式、フリンジフィールドスイッチング(以下、FFS)方式等の横電界方式が知られている(例えば、特許文献1)。
【0003】
一般に、基板の片側のみに電極を形成させ、基板と平行方向に電界を印加する横電界方式では、従来の上下基板に形成された電極に電圧を印加して液晶を駆動させる縦電界方式と比べ、広い視野角特性を有し、高品位な表示が可能な液晶表示素子として知られている。液晶を一定方向に配向させるための手法としては、基板上にポリイミド等の高分子膜を形成し、この表面を布で擦る、いわゆるラビング処理を行う方法があり、工業的にも広く用いられてきた。
【0004】
液晶表示素子の構成部材である液晶配向膜は、液晶を均一に並べるための膜であるが、液晶の配向均一性だけでなく種々の特性が必要とされる。例えば、液晶を駆動させる電圧によって液晶配向膜に電荷が蓄積し、これらの蓄積された電荷が液晶の配向を乱し、あるいは残像や焼き付き(以下、残留DC由来の残像と称する。)として表示に影響を与え、液晶表示素子の表示品位を著しく低下させたりする問題点があるため、これらの課題を克服する液晶配向剤が提案されている(特許文献2)。
【0005】
また、生産工程での経済性が非常に重要であることから、素子基板の再生利用が容易であることも必要とされている。すなわち、液晶配向剤から液晶配向膜を形成後、配向性等の検査を行い欠陥が生じていた場合、基板から液晶配向膜を除去し、基板を回収するリワーク工程が簡便に実施できることが求められている。
しかしながら、液晶配向膜には下地との密着性が求められるので、必要な密着性を備えた液晶配向膜を製造でき、且つリワーク工程は簡便に実施できる液晶配向剤が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平2013-167782号公報
【文献】国際公開第02/33481号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、このような事情に鑑み、密着性を含む必要な性能を備え且つリワーク性が良好な液晶配向膜を製造できる液晶配向剤、並びにそれにより製造された液晶配向膜及び液晶表示素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意研究を行った結果、イミド骨格を有する特定のジアミンと共に、特定の側鎖構造を有するジアミンをジアミン成分として導入することにより、密着性を含む必要な性能を備え且つリワーク性が良好な液晶配向膜を製造できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
上記目的を達成する本発明の液晶配向剤は、
下記式[I]で表される少なくとも1種の第1ジアミンと、下記式[S1]~[S3]で表される群から選ばれる側鎖構造を有する少なくとも1種の第2ジアミンとを含むジアミン成分から得られる重合体と、有機溶媒とを含むことを特徴とする液晶配向剤。
【化1】
(式[I]において、Zは、下記式[Z-1]~[Z-9]から選択される。*は結合手を表す。)
【化2】
【化3】
(式[S1]中、X及びXは、それぞれ独立して、単結合、-(CH-(aは1~15の整数を示す。)、-CONH-、-NHCO-、-CON(CH)-、-NH-、-O-、-COO-、-OCO-又は-((CHa1-Am1-(a1は1~15の整数であり、Aは酸素原子又は-COO-を表し、mは1~2の整数である。mが2の場合、複数のa1及びAは、それぞれ独立して前記定義を有する)を表す。G及びGはそれぞれ独立して、炭素数6~12の2価の芳香族基又は炭素数3~8の2価の脂環式基から選ばれる2価の環状基を表す。前記環状基上の任意の水素原子は、炭素数1~3のアルキル基、炭素数1~3のアルコキシ基、炭素数1~3のフッ素含有アルキル基、炭素数1~3のフッ素含有アルコキシ基又はフッ素原子からなる群から選ばれる少なくとも1種で置換されていてもよい。m及びnはそれぞれ独立して0~3の整数であって、m及びnの合計は1~6であり、好ましくは1~4である。Rは炭素数1~20のアルキル基、炭素数1~20のアルコキシ基、又は炭素数2~20のアルコキシアルキル基を表し、Rを形成する任意の水素原子はフッ素原子で置換されていてもよい。)
【化4】
(式[S2]中、Xは単結合、-CONH-、-NHCO-、-CON(CH)-、-NH-、-O-、-CHO-、-COO-又は-OCO-を表す。Rは炭素数1~20のアルキル基又は炭素数2~20のアルコキシアルキル基を表し、Rを形成する任意の水素原子はフッ素原子で置換されていてもよい。)
【化5】
(式[S3]中、Xは-CONH-、-NHCO-、-O-、-COO-又は-OCO-を表す。Rはステロイド骨格を有する構造を表す。)
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、密着性を含む必要な性能を備え且つリワーク性が良好な液晶配向膜を製造できる液晶配向剤及び液晶配向膜、並びに液晶表示素子を提供することができる。

【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明をより詳細に説明する。
【0012】
本発明の液晶配向剤は、上記式[I]で表される構造を有する第1ジアミンと、上記式[S1]~[S3]で表される側鎖構造を有する第2ジアミン化合物を含むジアミン成分から得られる重合体と、有機溶媒とを含むものであるが、まず、ジアミンについて説明する。
【0013】
<第1ジアミン>
第1ジアミンは、下記式[I]で表される構造を有する。
【化6】
(式[I]において、Zは、上記式[I]の定義の通りである。)
【0014】
式[I]において、アミノ基の位置は下記式[I-1]又は[I-2]のようにパラ位又はメタ位が好ましい。また、Zは、下記式[Z-1]~[Z-9]から選択される。*は結合手を表す。
【化7】
【化8】
【0015】
本発明の第1ジアミンは、ジニトロ化合物を還元してニトロ基をアミノ基に変換することで、得ることができる。ジニトロ化合物を還元する方法は特に制限はなく、パラジウム-炭素、酸化白金、ラネーニッケル、白金黒、ロジウム-アルミナ、硫化白金炭素等を触媒として用い、酢酸エチル、トルエン、テトラヒドロフラン、ジオキサン、アルコール系等の溶媒中、水素ガス、ヒドラジン、塩化水素等によって還元を行う方法が例示できる。必要に応じてオートクレーブ等を用いて加圧下で行ってもよい。
【0016】
このようにして得られた本発明の第1ジアミン化合物は、ポリアミック酸やポリアミック酸エステル等のポリイミド前駆体、ポリイミド、ポリウレア、ポリアミド等(これらを纏めて「重合体」という)の原料として用いることができる。この重合体は、例えば、所定の有機溶媒に溶解して液晶配向剤として用いることができるが、その用途に限定されない。
【0017】
なお、上記第1ジアミンのうち、下記式[II]で表されるジアミンは新規化合物である。
【化9】
(式[II]において、Zは、下記式[Z-1]~[Z-4]、[Z-6]及び[Z-7]から選択される。*は結合手を表す。)
【化10】
【0018】
式[II]において、アミノ基の位置は上記式[I-1]又は[I-2]のようにパラ位又はメタ位が好ましい。この場合において、上記式[I-1]又は[I-2]において、Zが、上記式[Z-1]~[Z-4]、[Z-6]及び[Z-7]から選択されるものが好ましい。
【0019】
<特定側鎖構造を有する第2ジアミン>
特定側鎖構造を有する第2ジアミンは、垂直配向性を発現するものであり、下記式[S1]~[S3]で表される群から選ばれる少なくとも1種の側鎖構造を有する。以下、かかる特定側鎖構造を有する第2ジアミンの例である、式[S1]~[S3]で表される特定側鎖構造を有するジアミンについて順に説明する。
【0020】
[A]:下記式[S1]で表される特定側鎖構造を有するジアミン
【化11】
上記式[S1]中、X及びXは、それぞれ独立して、単結合、-(CH-(aは1~15の整数を示す。)、-CONH-、-NHCO-、-CON(CH)-、-NH-、-O-、-COO-、-OCO-又は-((CHa1-Am1-(a1は1~15の整数であり、Aは酸素原子又は-COO-を表し、mは1~2の整数である。mが2の場合、複数のa1及びAは、それぞれ独立して前記定義を有する)を表す。
【0021】
なかでも、原料の入手性や合成の容易さの点からは、X及びXは、それぞれ独立して、単結合、-(CH-(aは1~15の整数を示す。)、-O-、-CHO-又は-COO-が好ましく、単結合、-(CH-(aは1~10の整数を示す。)、-O-、-CHO-又は-COO-がより好ましい。
【0022】
また、上記式[S1]中、G及びGは、それぞれ独立して、炭素数6~12の2価の芳香族基、及び炭素数3~8の2価の脂環式基からなる群から選ばれる2価の環状基を表す。該環状基上の任意の水素原子は、炭素数1~3のアルキル基、炭素数1~3のアルコキシ基、炭素数1~3のフッ素含有アルキル基、炭素数1~3のフッ素含有アルコキシ基又はフッ素原子で置換されていてもよい。m及びnは、それぞれ独立して、0~3の整数を示し、m及びnの合計は1~6であり、好ましくは1~4である。
【0023】
また、上記式[S1]中、Rは、炭素数1~20のアルキル基、炭素数1~20のアルコキシ基又は炭素数2~20のアルコキシアルキル基を表す。Rを形成する任意の水素原子はフッ素原子で置換されていてもよい。このうち、炭素数6~12の2価の芳香族基の例としては、フェニレン基、ビフェニル構造、ナフチレン基等が挙げられる。また、炭素数3~8の2価の脂環式基の例としては、シクロプロピレン基、シクロヘキシレン基等が挙げられる。
【0024】
従って、上記式[S1]の好ましい具体例として、下記式[S1-x1]~[S1-x7]があげられる。
【化12】
【0025】
上記式[S1-x1]~[S1-x7]中、Rは、上記式[S1]の場合と同様である。Xは、-(CH-(aは1~15の整数を示す。)、-CONH-、-NHCO-、-CON(CH)-、-NH-、-O-、-CHO-、-CHOCO-、-COO-又は-OCO-を表す。Aは、酸素原子又は-COO-*(「*」を付した結合手が(CHa2と結合する)を表す。Aは、酸素原子又は*-COO-(「*」を付した結合手が(CHa2と結合する)を表す。aは0又は1の整数を示し、a及びaはそれぞれ独立して2~10の整数を示す。Cyは1,4-シクロへキシレン基又は1,4-フェニレン基を表す。
【0026】
[B]:下記式[S2]で表される特定側鎖構造を有するジアミン
【化13】
上記式[S2]中、Xは単結合、-CONH-、-NHCO-、-CON(CH)-、-NH-、-O-、-CHO-、-COO-又は-OCO-を表す。なかでも、液晶配向剤の液晶配向性の点から、Xは-CONH-、-NHCO-、-O-、-CHO-、-COO-又は-OCO-が好ましい。
【0027】
また、上記式[S2]中、Rは、炭素数1~20のアルキル基又は炭素数2~20のアルコキシアルキル基を表す。Rを形成する任意の水素原子はフッ素原子で置換されていてもよい。なかでも、液晶配向剤の液晶配向性の点から、Rは炭素数3~20のアルキル基又は炭素数2~20のアルコキシアルキル基が好ましい。
式[S2]の好ましい具体例としては、Xが、-O-、-CHO-、-COO-又は-OCO-のいずれかであり、Rが炭素数3~20のアルキル基又は炭素数2~20のアルコキシアルキル基である場合が好ましく、Rが炭素数3~20のアルキル基である場合が更に好ましく、Rを形成する任意の水素原子はフッ素原子で置換されていてもよい。
【0028】
[C]:下記式[S3]で表される特定側鎖構造を有するジアミン
【化14】
上記式[S3]中、Xは-CONH-、-NHCO-、-O-、-COO-又は-OCO-を表す。Rはステロイド骨格を有する構造を表す。ここでのステロイド骨格は、3つの六員環及び1つの五員環が結合した下記式(st)で表される骨格が挙げられる。
【化15】
【0029】
上記式[S3]の例として下記式[S3-x]が挙げられる。Meはメチル基を表す。
【化16】
【0030】
上記式[S3-x]中、Xは、上記式[X1]又は[X2]を表す。また、Colは、上記式[Col1]~[Col3]からなる群から選ばれるいずれかの基を表し、Gは、上記式[G1]~[G4]からなる群から選ばれるいずれかの基を表す。*は他の基に結合する部位を表す。
【0031】
上記式[S3-x]における、X、Col及びGの好ましい組合せの例としては、例えば、下記の組合せが挙げられる。すなわち、[X1]と[Col1]と[G1]、[X1]と[Col1]と[G2]、[X1]と[Col2]と[G1]、[X1]と[Col2]と[G2]、[X1]と[Col3]と[G2]、[X1]と[Col3]と[G1]、[X2]と[Col1]と[G2]、[X2]と[Col2]と[G2]、[X2]と[Col2]と[G1]、[X2]と[Col3]と[G2]、[X2]と[Col1]と[G1]である。
【0032】
また、上記式[S3]の具体的としては、特開平4-281427号公報の段落[0024]に記載のステロイド化合物から水酸基(ヒドロキシ基)を除いた構造、同公報の段落[0030]に記載のステロイド化合物から酸クロライド基を除いた構造、同公報の段落[0038]に記載のステロイド化合物からアミノ基を除いた構造、同公報の段落[0042]に記載のステロイド化合物からハロゲン原子を除いた構造、及び特開平8-146421号公報の段落[0018]~[0022]に記載の構造等が挙げられる。
【0033】
なお、ステロイド骨格の代表例としては、コレステロール(上記式[S3-x]における[Col1]及び[G2]の組み合わせ)が挙げられるが、該コレステロールを含まないステロイド骨格を利用することもできる。すなわち、ステロイド骨格を有するジアミンとして、例えば3,5-ジアミノ安息香酸コレスタニル等が挙げられるが、かかるコレステロール骨格を有するジアミンを含まないジアミン成分とすることも可能である。また、特定側鎖構造を有するジアミンとして、ジアミンと側鎖との連結位置にアミド結合を含まないものを利用することもできる。本実施形態においては、コレステロール骨格を有するジアミンを含まないジアミン成分を利用しても、長期に渡って高い電圧保持率を確保できる液晶配向膜や液晶表示素子を得ることができる液晶配向剤を提供できる。
【0034】
なお、上記式[S1]~[S3]で表される側鎖構造を有するジアミンは、下記式[1]及び[2]で表されるジアミンから選ばれる少なくとも1種が好ましい。
【化17】
(式[1]中、Yは、上記式[S1]~[S3]で表される側鎖構造から選ばれる1価の基を表す。式[2]において、Xは、単結合、-O-、-C(CH-、-NH-、-CO-、-(CH-、-SO-、-O-(CH-O-、-O-C(CH-、-CO-(CH-、-NH-(CH-、-SO-(CH-、-CONH-(CH-、-CONH-(CH-NHCO-、-COO-(CH-OCO-、-CONH-、-NH-(CH-NH-、又は-SO-(CH-SO-を表す。mは1~8の整数である。2つのYはそれぞれ独立して上記式[S1]~[S3]で表される側鎖構造から選ばれる1価の基を表す。)
【0035】
上記式[1]で表されるジアミンの好ましい具体例として、下記式[1-S1]~[1-S3]の構造で表されるジアミンが挙げられる。式[2]で表されるジアミンは、後述する垂直配向性を発現する二側鎖型の特定側鎖構造を有するジアミンにおいて具体例を説明する。
【化18】
上記式[1-S1]中、X、X、G、G、R、m及びnは、上記式[S1]における場合と同様である。上記式[1-S2]中、X及びRは、上記式[S2]における場合と同様である。上記式[1-S3]中、X及びRは、上記式[S3]における場合と同様である。
【0036】
(垂直配向性を発現する二側鎖型の特定側鎖構造を有するジアミン)
垂直配向性を発現する二側鎖型の特定側鎖構造を有するジアミンは、上記式[2]で表される。
【0037】
上記式[2]中、Xは、単結合、-O-、-NH-、又は-O-(CH-O-を示すのが好ましい。
【0038】
また、上記式[2]中、Yは、Xの位置からメタ位であってもオルト位であってもよいが、好ましくはオルト位がよい。すなわち、上記式[2]は、下記式[1’]であるのが好ましい。
【化19】
【0039】
また、上記式[2]中、2つのアミノ基(-NH)の位置は、ベンゼン環上のいずれの位置であってもよいが、下記式[1]-a1~[1]-a3で表される位置が好ましく、下記式[1]-a1であるのがより好ましい。下記式中、Xは、上記式[2]における場合と同様である。なお、下記式[1]-a1~[1]-a3は、2つのアミノ基の位置を説明するものであり、上記式[2]中で表されていたYの表記が省略されている。
【化20】
【0040】
従って、上記式[1’]及び[1]-a1~[1]-a3に基づけば、上記式[2]は、下記式[1]-a1-1~[1]-a3-2からなる群から選ばれるいずれかの構造であるのが好ましく、下記式[1]-a1-1で表される構造がより好ましい。下記式中、X及びYは、それぞれ上記式[2]における場合と同様である。
【化21】
【0041】
また、上記式[S1]~[S3]の例として、下記式[S]-1~[S]-20が挙げられる。このうち、上記式[S1]の例としては、下記式[S]-1~[S]-4、[S]-8又は[S]-10が好ましい。なお、下記式中、*は、上記式[1]、[1’]及び[1]-a1~[1]-a3におけるフェニル基との結合位置を表す。また、[S]-1~[S]-20において、nは1~20の整数であり、mは1~6の整数である。
【化22】
【0042】
【化23】
【0043】
ジアミン成分が、所定構造を有する二側鎖ジアミンを含有することで、過度の加熱にさらされた場合でも、液晶を垂直に配向させる能力が低下し難くなる液晶配向膜となる。また、ジアミン成分が該二側鎖ジアミンを含有することで、膜に何らかの異物が接触し、傷ついた際も、液晶を垂直に配向させる能力が低下し難くなる液晶配向膜となる。すなわち、ジアミン成分が該二側鎖ジアミンを含有することで、各種の上記特性に優れた液晶配向膜が得られる液晶配向剤を提供できるようになる。
【0044】
本実施形態において、ジアミン成分に上記第1ジアミンと上記第2ジアミンを含む場合、第1ジアミンの含有割合は、全ジアミン成分の10~90モル%が好ましく、20~80モル%がより好ましい。また、第2ジアミンの含有割合は、10~90モル%が好ましく、20~80モル%がより好ましい。後述のその他のジアミンを含む場合は、上記第1ジアミン及び第2ジアミンの含有量の合計が、95モル%以下であることが好ましく、90モル%以下であることがより好ましい。
【0045】
<その他のジアミン:光反応性側鎖を有するジアミン>
本実施形態のジアミン成分は、その他のジアミンとして、光反応性側鎖を有するジアミンを含有してもよい。ジアミン成分が、光反応性側鎖を有するジアミンを含有することで、特定重合体やそれ以外の重合体に、光反応性側鎖を導入できるようになる。
光反応性側鎖を有するジアミンの具体例は、例えば、再公表特許公報2016-140328号公報の段落[0124]~[0132]に記載のものを挙げることができるがこれに限定されない。より好ましい具体的として、下記式(a-1)~(a-4)が挙げられる。
【化24】
(X、X10は、それぞれ独立に、単結合、-O-、-COO-、-NHCO-、又は-NH-である結合基を表し、Yはフッ素原子で置換されていてもよい炭素数1~20のアルキレン基を表す。)
【0046】
これらの光反応性側鎖を有するジアミンは、1種単独又は2種以上混合して用いることができる。液晶配向膜とした際の液晶配向性、プレチルト角、電圧保持特性、蓄積電荷等の特性、液晶表示素子とした際の液晶の応答速度等に応じて、1種単独か2種以上混合して用いるか、また、2種以上混合して用いる場合にはその割合等、適宜調整すればよい。
【0047】
本実施形態において、ジアミン成分に光反応性側鎖ジアミンが含まれる場合、該光反応性側鎖ジアミンは、全ジアミン成分の10~70モル%が好ましく、10~60モル%がより好ましい。
【0048】
<その他のジアミン:上記以外のジアミン>
特定重合体を得るためのジアミン成分に含まれていてもよいその他のジアミンは、上記光反応性側鎖を有するジアミン等に限定されない。
ポリイミド前駆体及び/又は、ポリイミドを製造する場合、本発明の効果を損わない限りにおいて、上記したジアミン以外のその他のジアミンをジアミン成分として併用することができる。具体的には、例えば、再公表特許公報WO2016-140328号公報の段落[0135]に記載のジアミン、或いは、2,6-ジアミノピリジン、3,4-ジアミノピリジン、2,4-ジアミノピリミジン、3,6-ジアミノカルバゾール、N-メチル-3,6-ジアミノカルバゾール、下記式(z-1)~(z-18)で表されるジアミン、下記式(R1)~(R5)などのラジカル開始機能を有するジアミン、下記式(5-1)~(5-11)などの基「-N(D)-」(Dは加熱によって脱離し水素原子に置き換わる保護基を表し、好ましくはtert-ブトキシカルボニル基である。)を有するジアミン、を挙げることができる。
【化25】
【化26】
【化27】
(式中のnは2~10の整数である。)
【化28】
【0049】
上記再公表特許公報WO2016-140328号公報の段落[0135]に記載のジアミンの中でも好ましい具体例を下記に示す。
p-フェニレンジアミン、2,3,5,6-テトラメチル-p-フェニレンジアミン、2,5-ジメチル-p-フェニレンジアミン、m-フェニレンジアミン、2,4-ジメチル-m-フェニレンジアミン、2,5-ジアミノトルエン、2,6-ジアミノトルエン、4,4’-ジアミノビフェニル、3,3’-ジメチル-4,4’-ジアミノビフェニル、3,3’-ジメトキシ-4,4’-ジアミノビフェニル、3,3’-ジヒドロキシ-4,4’-ジアミノビフェニル、3,3’-ジカルボキシ-4,4’-ジアミノビフェニル、3,3’-ジフルオロ-4,4’-ビフェニル、3,3’-トリフルオロメチル-4,4’-ジアミノビフェニル、3,4’-ジアミノビフェニル、3,3’-ジアミノビフェニル、2,3’-ジアミノビフェニル、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、3,3’-ジアミノジフェニルメタン、3,4’-ジアミノジフェニルメタン、2,3’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、3,3’-ジアミノジフェニルエーテル、3,4’-ジアミノジフェニルエーテル、2,3’-ジアミノジフェニルエーテル、4,4’-スルホニルジアニリン、3,3’-スルホニルジアニリン、ビス(4-アミノフェニル)シラン、ビス(3-アミノフェニル)シラン、ジメチル-ビス(4-アミノフェニル)シラン、ジメチル-ビス(3-アミノフェニル)シラン、4,4’-チオジアニリン、3,3’-チオジアニリン、4,4’-ジアミノジフェニルアミン、3,3’-ジアミノジフェニルアミン、3,4’-ジアミノジフェニルアミン、2,3’-ジアミノジフェニルアミン、N-メチル(4,4’-ジアミノジフェニル)アミン、N-メチル(3,3’-ジアミノジフェニル)アミン、N-メチル(3,4’-ジアミノジフェニル)アミン、N-メチル(2,2’-ジアミノジフェニル)アミン、N-メチル(2,3’-ジアミノジフェニル)アミン、4,4’-ジアミノベンゾフェノン、3,3’-ジアミノベンゾフェノン、3,4’-ジアミノベンゾフェノン、1,4-ジアミノナフタレン、2,3’-ジアミノベンゾフェノン、1,5-ジアミノナフタレン、1,2-ビス(4-アミノフェニル)エタン、1,2-ビス(3-アミノフェニル)エタン、1,3-ビス(4-アミノフェニル)プロパン、1,3-ビス(3-アミノフェニル)プロパン、1,4-ビス(4-アミノフェニル)ブタン、1,4-ビス(3-アミノフェニル)ブタン、ビス(3,5-ジエチル-4-アミノフェニル)メタン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)プロパン、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)プロパン、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ブタン、1,4-ビス(3-アミノフェノキシ)ブタン、1,5-ビス(4-アミノフェノキシ)ペンタン、1,5-ビス(3-アミノフェノキシ)ペンタン、1,6-ビス(4-アミノフェノキシ)へキサン、1,6-ビス(3-アミノフェノキシ)へキサン、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4-ビス(4-アミノフェニル)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノフェニル)ベンゼン、1,4-ビス(4-アミノベンジル)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4’-[1,4-フェニレンビス(メチレン)]ジアニリン、4,4’-[1,3-フェニレンビス(メチレン)]ジアニリン、3,4’-[1,4-フェニレンビス(メチレン)]ジアニリン、3,4’-[1,3-フェニレンビス(メチレン)]ジアニリン、3,3’-[1,4-フェニレンビス(メチレン)]ジアニリン、3,3’-[1,3-フェニレンビス(メチレン)]ジアニリン、1,4-フェニレンビス[(4-アミノフェニル)メタノン]、1,4-フェニレンビス[(3-アミノフェニル)メタノン]、1,3-フェニレンビス[(4-アミノフェニル)メタノン]、1,3-フェニレンビス[(3-アミノフェニル)メタノン]、1,4-フェニレンビス(4-アミノベンゾエート)、1,4-フェニレンビス(3-アミノベンゾエート)、1,3-フェニレンビス(4-アミノベンゾエート)、1,3-フェニレンビス(3-アミノベンゾエート)、ビス(4-アミノフェニル)テレフタレート、ビス(3-アミノフェニル)テレフタレート、ビス(4-アミノフェニル)イソフタレート、ビス(3-アミノフェニル)イソフタレート、N,N’-(1,4-フェニレン)ビス(4-アミノベンズアミド)、N,N’-(1,3-フェニレン)ビス(4-アミノベンズアミド)、N,N’-(1,4-フェニレン)ビス(3-アミノベンズアミド)、N,N’-(1,3-フェニレン)ビス(3-アミノベンズアミド)、N,N’-ビス(4-アミノフェニル)テレフタルアミド、N,N’-ビス(3-アミノフェニル)テレフタルアミド、N,N’-ビス(4-アミノフェニル)イソフタルアミド、N,N’-ビス(3-アミノフェニル)イソフタルアミド、9,10-ビス(4-アミノフェニル)アントラセン、4,4’-ビス(4-アミノフェノキシ)ジフェニルスルホン、2,2’-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2’-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、2,2’-ビス(4-アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2’-ビス(3-アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2’-ビス(3-アミノ-4-メチルフェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2’-ビス(4-アミノフェニル)プロパン、2,2’-ビス(3-アミノフェニル)プロパン、2,2’-ビス(3-アミノ-4-メチルフェニル)プロパン、3,5-ジアミノ安息香酸、2,5-ジアミノ安息香酸などの芳香族ジアミン、ビス(4-アミノシクロヘキシル)メタン、ビス(4-アミノ-3-メチルシクロヘキシル)メタンなどの脂環式ジアミン、1,3-ジアミノプロパン、1,4-ジアミノブタン、1,5-ジアミノペンタン、1,6-ジアミノへキサンなどの脂肪族ジアミン。
【0050】
上記その他のジアミンは、液晶配向膜とした際の液晶配向性、プレチルト角、電圧保持特性、蓄積電荷などの特性に応じて、1種類又は2種類以上を混合して使用することもできる。
【0051】
<重合体>
本発明の重合体は、上記ジアミンを用いて得られる重合体であるが、好適には、ジアミン成分とテトラカルボン酸二無水物とを反応させて得られるポリアミック酸、ポリアミック酸エステル、ポリイミド、ポリウレア、ポリアミドなどが挙げられる。液晶配向剤としての使用の観点から、上記ポリアミック酸、ポリアミック酸エステルなどのポリイミド前駆体、及びそのイミド化物であるポリイミドから選ばれる少なくとも1種であるのが好ましい。
【0052】
<テトラカルボン酸二無水物>
特定重合体を得るためのテトラカルボン酸成分としては、下記式[II’]で表されるテトラカルボン酸二無水物、又はその誘導体(テトラカルボン酸、テトラカルボン酸ジハライド、テトラカルボン酸ジアルキルエステル、又はテトラカルボン酸ジアルキルエステルジハライド)(これらを総称して、特定テトラカルボン酸という。)を用いることができる。
【0053】
【化29】
(式[II’]中、Qは下記の式[II’-a]~式[II’-q]からなる群から選ばれる少なくとも1種の構造を示す。)

【化30】
【化31】
【0054】
式[II’-a]中、Q~Qは、それぞれ独立して、水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基、塩素原子又はベンゼン環を示す。式[II’-g]中、Q及びQはそれぞれ独立して、水素原子又はメチル基を示す。
式[II’]中のQのなかで、合成の容易さやポリマーを製造する際の重合反応性のし易さの点から、式[II’-a]、式[II’-c]~式[II’-g]、式[II’-k]~式[II’-m]又は式[II’-p]で示される構造のテトラカルボン酸二無水物及びそのテトラカルボン酸誘導体が好ましい。より好ましいのは、式[II’-a]、式[II’-e]~式[II’-g]、式[II’-l]、式[II’-m]又は式[II’-p]で示される構造のものである。特に好ましいのは、[II’-a]、式[II’-e]、式[II’-f]、式[II’-l]、式[II’-m]又は式[II’-p]で示される構造のテトラカルボン酸二無水物及びそのテトラカルボン酸誘導体である。
【0055】
より具体的には、下記の式[II’-a-1]又は式[II’-a-2]を用いることが好ましい。
【化32】
特定テトラカルボン酸は、すべてのテトラカルボン酸成分100モル%中、50~100モル%であることが好ましい。なかでも、70~100モル%がより好ましい。特に好ましいのは、80~100モル%である。
【0056】
特定テトラカルボン酸は、特定重合体の溶媒への溶解性や液晶配向剤の塗布性、液晶配向膜とした場合における液晶の配向性、電圧保持率、蓄積電荷などの特性に応じて、1種又は2種以上を混合して使用することもできる。
【0057】
特定重合体を得るためのテトラカルボン酸成分としては、上記特定テトラカルボン酸以外のテトラカルボン酸(以下、その他のテトラカルボン酸とも言う)又はその誘導体を含有しても良い。その他のテトラカルボン酸としては、以下に示すテトラカルボン酸化合物、或いはその誘導体(テトラカルボン酸二無水物、テトラカルボン酸ジハライド化合物、テトラカルボン酸ジアルキルエステル化合物又はテトラカルボン酸ジアルキルエステルジハライド化合物)が挙げられる。
【0058】
すなわち、その他のテトラカルボン酸としては、1,2,5,6-ナフタレンテトラカルボン酸、1,2,5,6-アントラセンテトラカルボン酸、2,3,3’,4-ビフェニルテトラカルボン酸、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)エーテル、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)スルホン、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)メタン、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)プロパン、1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロ-2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)プロパン、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)ジメチルシラン、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)ジフェニルシラン、2,3,4,5-ピリジンテトラカルボン酸、2,6-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)ピリジン、3,3’,4,4’-ジフェニルスルホンテトラカルボン酸、又は3,4,9,10-ペリレンテトラカルボン酸などが挙げられる。
その他のテトラカルボン酸は、特定重合体の溶媒への溶解性や液晶配向剤の塗布性、液晶配向膜とした場合における液晶配向性、電圧保持率、蓄積電荷などの特性に応じて、1種又は2種以上を混合して使用することもできる。
【0059】
本発明に用いるポリイミド前駆体は、ポリアミド酸、ポリアミド酸エステルが挙げられる。尚、ポリアミド酸エステルは、構成単位の全てがアミド酸エステル構造であってもよいが、一部にアミド酸構造を含んでいてもよい。
【0060】
<重合体の製造方法>
本発明の重合体は、上記説明したジアミン成分(複数種の第1ジアミン及び第2ジアミンからなるジアミン成分)と、テトラカルボン酸成分と、を反応させる方法により得られる。該方法としては、例えば、1種又は複数種のジアミンからなるジアミン成分と、テトラカルボン酸二無水物及びそのテトラカルボン酸の誘導体からなる群から選ばれる少なくとも1種のテトラカルボン酸成分と、を反応させ、ポリアミド酸を得る方法が挙げられる。具体的には、第一級又は第二級のジアミンと、テトラカルボン酸二無水物と、を重縮合させてポリアミック酸を得る方法が用いられる。
【0061】
ポリアミド酸エステルを得るためには、カルボン酸基をエステル化したテトラカルボン酸ジアルキルエステルと第一級又は第二級のジアミンとを重縮合させる方法、カルボン酸基をハロゲン化したテトラカルボン酸ジハライドと第一級又は第二級のジアミンとを重縮合させる方法、又はポリアミド酸のカルボキシ基をエステルに変換する方法が用いられる。ポリイミドを得るには、上記のポリアミド酸又はポリアミド酸エステルを閉環させてポリイミドとする方法が用いられる。
【0062】
ジアミン成分とテトラカルボン酸成分との反応は、通常、溶媒中で行う。その際に用いる溶媒としては、生成したポリイミド前駆体が溶解するものであれば特に限定されない。ここでの溶媒の例としては、N-メチル-2-ピロリドン、N-エチル-2-ピロリドン又はγ-ブチロラクトン、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド又は1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン等が挙げられる。また、ポリイミド前駆体の溶媒溶解性が高い場合、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、シクロペンタノン、4-ヒドロキシ-4-メチル-2-ペンタノン又は下記式[D-1]~[D-3]で表される溶媒等を用いることができる。
【0063】
【化33】
【0064】
式[D-1]中、Dは炭素数1~3のアルキル基を表す。式[D-2]中、Dは炭素数1~3のアルキル基を表す。式[D-3]中、Dは炭素数1~4のアルキル基を表す。
【0065】
これらの溶媒は、1種単独又は2種以上混合して用いることができる。ポリイミド前駆体を溶解させない溶媒であっても、生成したポリイミド前駆体が析出しない範囲であれば、上記溶媒に混合して使用してもよい。また、溶媒中の水分は、重合反応を阻害し、更には、生成したポリイミド前駆体を加水分解させる原因となるので、溶媒は脱水乾燥させたものを用いることが好ましい。
【0066】
ジアミン成分とテトラカルボン酸成分とを溶媒中で反応させる際には、ジアミン成分を溶媒に分散、或いは溶解させた溶液を撹拌させ、テトラカルボン酸成分をそのまま、又は溶媒に分散、或いは溶解させて添加する方法、逆にテトラカルボン酸成分を溶媒に分散、或いは溶解させた溶液にジアミン成分を添加する方法、ジアミン成分とテトラカルボン酸成分とを交互に添加する方法等が挙げられ、これらのいずれの方法を用いてもよい。また、ジアミン成分又はテトラカルボン酸成分を、それぞれ複数種用いて反応させる場合は、あらかじめ混合した状態で反応させてもよく、個別に順次反応させてもよく、更に個別に反応させた低分子量体を混合反応させ重合体としてもよい。
【0067】
ジアミン成分とテトラカルボン酸成分とを重縮合せしめる温度は、-20~150℃の任意の温度を選択することができるが、好ましくは-5~100℃の範囲である。反応は任意の濃度で行うことができるが、上記溶媒に対するジアミン成分とテトラカルボン酸成分の濃度は、好ましくは1~50質量%、より好ましくは5~30質量%である。反応初期は高濃度で行い、その後、溶媒を追加することもできる。
【0068】
ポリイミド前駆体の重合反応においては、ジアミン成分の合計モル数とテトラカルボン酸成分との比(ジアミン成分の合計モル数/テトラカルボン酸成分の合計モル数)は、0.8~1.2であることが好ましい。通常の重縮合反応と同様に、このモル比が1.0に近いほど、生成するポリイミド前駆体の分子量は大きくなる。
【0069】
ポリイミドは、上記ポリイミド前駆体を閉環させて得られるポリイミドであり、このポリイミドにおいては、アミド酸基の閉環率(イミド化率ともいう)は、必ずしも100%である必要はなく、用途や目的に応じて任意に調整できる。ポリイミド前駆体をイミド化させる方法としては、ポリイミド前駆体の溶液をそのまま加熱する熱イミド化、又はポリイミド前駆体の溶液に触媒を添加する触媒イミド化が挙げられる。
【0070】
本発明の液晶配向剤において、一般的には、イミド化率が高いほど信頼性が高い液晶配向膜が得られるとされているが、本発明の重合体では、第1ジアミン由来のイミド環を有しているので、イミド化率を必ずしも高くする必要はない。これは溶解性やリワーク性を向上させる点で優位に働く。
【0071】
ポリイミド前駆体を溶液中で熱イミド化させる場合の温度は、100~400℃、好ましくは120~250℃であり、イミド化反応により生成する水を系外に除きながら行う方法が好ましい。ポリイミド前駆体の触媒イミド化は、ポリイミド前駆体の溶液に、塩基性触媒と酸無水物とを添加し、-20~250℃、好ましくは0~180℃で撹拌することにより行うことができる。
【0072】
塩基性触媒の量は、アミド酸基の0.5~30モル倍、好ましくは2~20モル倍であり、酸無水物の量は、アミド酸基の1~50モル倍、好ましくは3~30モル倍である。塩基性触媒としては、ピリジン、トリエチルアミン、トリメチルアミン、トリブチルアミン、トリオクチルアミン等が挙げられる。なかでも、ピリジンは、反応を進行させるのに適度な塩基性を持つので好ましい。酸無水物としては、無水酢酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸等が挙げられる。特に、無水酢酸を用いると反応終了後の精製が容易となるので好ましい。触媒イミド化によるイミド化率は、触媒量と反応温度、反応時間を調節することにより制御することができる。
【0073】
ポリイミド前駆体又はポリイミドの反応溶液から、生成したポリイミド前駆体又はポリイミドを回収する場合には、反応溶液を溶媒に投入して沈殿させればよい。沈殿に用いる溶媒としては、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、アセトン、ヘキサン、ブチルセルソルブ、ヘプタン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、トルエン、ベンゼン、水等が挙げられる。溶媒に投入して沈殿させたポリマーは、濾過して回収した後、常圧或いは減圧下で、又は常温或いは加熱して乾燥することができる。また、沈殿回収した重合体を、溶媒に再溶解させ、再沈殿回収する操作を2~10回繰り返すと、重合体中の不純物を少なくすることができる。この際の溶媒として、例えば、アルコール類、ケトン類、炭化水素等が挙げられる。これらの中から選ばれる3種以上の溶媒を用いると、より一層精製の効率が上がるので好ましい。
【0074】
<液晶配向剤>
本発明の液晶配向剤は、上記の重合体(以下、特定重合体ともいう)を含有するが、異なる構造の重合体を2種以上含有していてもよい。また、重合体に加えて、その他の重合体を含有していてもよい。重合体の形式としては、ポリアミック酸、ポリイミド、ポリアミック酸エステル、ポリエステル、ポリアミド、ポリウレア、ポリオルガノシロキサン、セルロース誘導体、ポリアセタール、ポリスチレン又はその誘導体、ポリ(スチレン-フェニルマレイミド)誘導体、ポリ(メタ)アクリレート等が挙げられる。本発明の液晶配向剤がその他の重合体を含有する場合、全重合体成分に対する特定重合体の割合は5質量%以上が好ましく、例えば5~95質量%が挙げられる。
【0075】
液晶配向剤は、均一な薄膜を形成させるという点から、一般的には塗布液の形態をとる。本発明の液晶配向剤も、上記重合体成分と、この重合体成分を溶解させる有機溶媒とを含有する塗布液であることが好ましい。その際、液晶配向剤中の重合体の濃度は、形成させようとする塗膜の厚みの設定によって適宜変更できる。均一で欠陥のない塗膜を形成させるという点からは、1質量%以上が好ましく、溶液の保存安定性の点からは、10質量%以下が好ましい。特に好ましい重合体の濃度は、2~8質量%である。
【0076】
液晶配向剤に含有される有機溶媒は、重合体成分が均一に溶解するものであれば特に限定されない。具体例を挙げるならば、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン、N-エチル-2-ピロリドン、N-(n-プロピル)-2-ピロリドン、N-イソプロピル-2-ピロリドン、N-(n-ブチル)-2-ピロリドン、N-(tert-ブチル)-2-ピロリドン、N-(n-ペンチル)-2-ピロリドン、N-メトキシプロピル-2-ピロリドン、N-エトキシエチル-2-ピロリドン、N-メトキシブチル-2-ピロリドン、N-シクロヘキシル-2-ピロリドン、3-メトキシ-N,N-ジメチルプロパンアミド、3-ブトキシ-N,N-ジメチルプロパンアミド、γ-ブチロラクタム、ジメチルスルホキシド、γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、シクロペンタノン等である。なかでも、N-メチル-2-ピロリドン、N-エチル-2-ピロリドン、又はγ-ブチロラクトンを用いることが好ましい。
【0077】
また、本発明の液晶配向剤に含有される有機溶媒は、上記溶媒に加えて、液晶配向剤を塗布する際の塗布性や塗膜の表面平滑性を向上させる溶媒を用いることもできる。かかる有機溶媒の具体例は、例えば、再公表特許公報WO2016-140328号公報の段落[0177]に記載のものを挙げることができる。好ましい具体例として、以下の溶媒が挙げられる。4-ヒドロキシ-4-メチル-2-ペンタノン、エチレングリコールモノメチルエーテル、乳酸ブチル、酢酸ブチル、3-メトキシプロピオン酸メチル、3-エトキシプロピオン酸エチル、3-メトキシプロピオン酸エチル、3-メトキシプロピオン酸プロピル、3-メトキシプロピオン酸ブチル、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコール-n-プロピルエーテル、エチレングリコール-i-プロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル(ブチルセロソルブ)、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールジアセテート、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、ジイソブチルカルビノール(2,6-ジメチル-4-ヘプタノール)、ジイソブチルケトン、イソアミルプロピオネート、イソアミルイソブチレート、ジイソペンチルエーテル、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネートなど。
【0078】
本発明の液晶配向剤は、重合体成分及び有機溶媒以外の成分を追加的に含有してもよい。このような追加成分としては、液晶配向膜と基板との密着性や、液晶配向膜とシール剤との密着性を高めるための密着助剤、液晶配向膜の強度を高めるための架橋剤、液晶配向膜の誘電率や電気抵抗を調整するための誘電体や導電物質、塗膜を焼成する際にポリイミド前駆体の加熱によるイミド化を効率よく進行させる目的のイミド化促進剤等が挙げられる。これら追加成分の具体例としては、国際公開第2015/060357号の53頁段落[0104]~60頁段落[0116]に開示される架橋性化合物或いは公知の架橋剤が挙げられる。架橋剤の好ましい具体例としては、下記式(CL-1)~(CL-11)で示される化合物が挙げられる。上記架橋剤は、液晶配向剤に含有される重合体の総量100質量部に対して0.1~30質量部が好ましく、1~20質量部がより好ましい。
【化34】
【0079】
液晶配向膜と基板との密着性を向上させる密着助剤としては、官能性シラン含有化合物やエポキシ基含有化合物が挙げられる。具体例としては、例えば、再公表特許公報WO2016-140328号公報の段落[0180]に記載のものを挙げることができる。
【0080】
<液晶配向膜>
本発明の液晶配向膜は、上記液晶配向剤から得られる。本発明の液晶配向剤の使用により、基板に対して垂直に配向している液晶分子を電界によって応答させるVA方式、特にPSAモードに特に好適であり、電圧保持率に優れ、蓄積電荷の緩和が早く、残像特性に優れる液晶配向膜や液晶表示素子を提供できる。液晶配向膜を得る方法の一例を挙げるなら、本発明の液晶配向剤を、基板に塗布した後、必要に応じて乾燥し、焼成を行うことで得られる硬化膜を、そのまま液晶配向膜として用いることもできる。また、この硬化膜をラビングしたり、偏光又は特定の波長の光等を照射したり、イオンビーム等の処理をしたり、PSA用配向膜として液晶充填後の液晶表示素子に電圧を印加した状態でUVを照射することも可能である。特に、PSA用配向膜として使用することが有用である。
【0081】
液晶配向剤を塗布する基板としては、透明性の高い基板であれば特に限定されず、ガラス基板、窒化珪素基板とともに、アクリル基板やポリカーボネート基板等のプラスチック基板等を用いることもできる。その際、液晶を駆動させるためのITO電極などが形成された基板を用いると、プロセスの簡素化の点から好ましい。また、反射型の液晶表示素子では、片側の基板のみにならば、シリコンウエハー等の不透明な物でも使用でき、この場合の電極にはアルミニウム等の光を反射する材料も使用できる。
【0082】
液晶配向剤の塗布方法は、特に限定されないが、工業的には、スクリーン印刷、オフセット印刷、フレキソ印刷、インクジェット法等が一般的である。その他の塗布方法としては、ディップ法、ロールコータ法、スリットコータ法、スピンナー法、スプレー法等があり、目的に応じてこれらを用いてもよい。液晶配向剤を基板上に塗布した後は、ホットプレート、熱循環型オーブン、IR(赤外線)型オーブン等の加熱手段により、溶媒を蒸発させ、焼成する。液晶配向剤を塗布した後の乾燥、焼成工程は、任意の温度と時間を選択できる。乾燥の工程は、必ずしも必要とされないが、塗布後から焼成までの時間が基板ごとに一定していない場合、又は塗布後ただちに焼成されない場合には、乾燥工程を行うことが好ましい。この乾燥は、基板の搬送等により塗膜形状が変形しない程度に溶媒が除去されていればよく、その乾燥手段については特に限定されない。例えば、温度40~150℃、好ましくは60~100℃のホットプレート上で、0.5~30分、好ましくは1~5分乾燥させる方法が挙げられる。
【0083】
液晶配向剤を塗布することにより形成された塗膜の焼成温度は限定されず、例えば100~350℃、好ましくは120~300℃であり、さらに好ましくは150~250℃である。焼成時間は5~240分、好ましくは10~90分であり、より好ましくは20~90分である。加熱は、通常公知の方法、例えば、ホットプレート、熱風循環炉、赤外線炉などで行うことができる。
【0084】
焼成後の液晶配向膜の厚みは、薄すぎると液晶表示素子の信頼性が低下する場合があるので、5~300nmが好ましく、10~200nmがより好ましい。本発明の液晶配向膜は、VA方式、特にPSAモードの液晶表示素子の液晶配向膜として有用である。
【0085】
<液晶表示素子及びその製造方法>
液晶表示素子は、上記の方法により、基板に液晶配向膜を形成した後、公知の方法で液晶セルを作製できる。液晶表示素子の具体例としては、対向するように配置された2枚の基板と、基板間に設けられた液晶層と、基板と液晶層との間に設けられ液晶配向剤により形成された上記液晶配向膜とを有する液晶セルを具備する垂直配向方式(VA方式)の液晶表示素子である。より好ましい具体例は、液晶配向剤を2枚の基板上に塗布して焼成することにより液晶配向膜を形成し、この液晶配向膜が対向するように2枚の基板を配置し、この2枚の基板の間に液晶で構成された液晶層を挟持し、すなわち、液晶配向膜に接触させて液晶層を設け、液晶配向膜及び液晶層に電圧を印加しながら紫外線を照射することで作製される液晶セルを具備する垂直配向方式の液晶表示素子(上記PSAモードの液晶表示素子)である。
【0086】
液晶表示素子の基板としては、透明性の高い基板であれば特に限定されないが、通常は、基板上に液晶を駆動するための透明電極が形成された基板である。具体例としては、上記液晶配向膜で記載した基板と同様のものを挙げることができる。従来の電極パターンや突起パターンが設けられた基板を用いてもよいが、液晶表示素子においては、本発明のポリイミド系重合体を含有する液晶配向剤を用いているため、片側基板に例えば1μmから10μmのライン/スリット電極パターンを形成し、対向基板にはスリットパターンや突起パターンを形成していない構造においても動作可能であり、この構造の液晶表示素子によって、製造時のプロセスを簡略化でき、高い透過率を得ることができる。
【0087】
また、TFT型の素子のような高機能素子においては、液晶駆動のための電極と基板の間にトランジスタの如き素子が形成されたものが用いられる。
【0088】
透過型の液晶表示素子の場合は、上記の如き基板を用いることが一般的であるが、反射型の液晶表示素子では、片側の基板のみにならばシリコンウエハー等の不透明な基板も用いることが可能である。その際、基板に形成された電極には、光を反射するアルミニウムの如き材料を用いることもできる。
【0089】
液晶表示素子の液晶層を構成する液晶材料は特に限定されず、従来の垂直配向方式で使用される液晶材料、例えば、メルク社製のMLC-6608やMLC-6609、MLC-3023などのネガ型の液晶を用いることができる。また、PSAモードの液晶表示素子では、液晶成分として例えば下記式で表されるような重合性化合物を使用することができる。
【0090】
【化35】
【0091】
液晶層を2枚の基板の間に挟持させる方法としては、公知の方法を挙げることができる。例えば、液晶配向膜が形成された1対の基板を用意し、一方の基板の液晶配向膜上にビーズ等のスペーサーを散布し、液晶配向膜が形成された側の面が内側になるようにしてもう一方の基板を貼り合わせ、液晶を減圧注入して封止する方法が挙げられる。また、液晶配向膜が形成された1対の基板を用意し、一方の基板の液晶配向膜上にビーズ等のスペーサーを散布した後に液晶を滴下し、その後液晶配向膜が形成された側の面が内側になるようにしてもう一方の基板を貼り合わせて封止を行う方法でも液晶セルを作製できる。上記スペーサーの厚みは、好ましくは1~30μm、より好ましくは2~10μmである。
【0092】
液晶配向膜及び液晶層に電圧を印加しながら紫外線を照射することにより液晶セルを作製する工程は、例えば基板上に設置されている電極間に電圧をかけることで液晶配向膜及び液晶層に電界を印加し、この電界を保持したまま紫外線を照射する方法が挙げられる。ここで、電極間にかける電圧としては、例えば5~30Vp-p、好ましくは5~20Vp-pである。紫外線の照射量は、例えば、1~60J/cm、好ましくは40J/cm以下であり、紫外線照射量が少ないほうが、液晶表示素子を構成する部材の破壊により生じる信頼性低下を抑制でき、かつ紫外線照射時間を減らせることで製造効率が上がるので好適である。
【0093】
上記のように、液晶配向膜及び液晶層に電圧を印加しながら紫外線を照射すると、重合性化合物が反応して重合体を形成し、この重合体により液晶分子が傾く方向が記憶されることで、得られる液晶表示素子の応答速度を速くすることができる。また、液晶配向膜及び液晶層に電圧を印加しながら紫外線を照射すると、上記式[S1]~[S3]で表される側鎖構造を有する第2ジアミン化合物などの液晶を垂直に配向させる側鎖と、上記光反応性の側鎖とを有するポリイミド前駆体、及び、このポリイミド前駆体をイミド化して得られるポリイミドから選択される少なくとも一種の重合体が有する光反応性の側鎖同士や、重合体が有する光反応性の側鎖と液晶層に含まれる重合性化合物が反応するため、得られる液晶表示素子の応答速度を速くすることができる。
【0094】
次に、偏光板の設置を行う。具体的には、2枚の基板の液晶層とは反対側の面に一対の偏光板を貼り付けることが好ましい。
【0095】
なお、本発明の液晶配向膜及び液晶表示素子は、本発明の液晶配向剤を用いている限り上記の構成や製造方法に限定されるものではなく、その他の公知の手法で作製されたものであってもよい。液晶配向剤から液晶表示素子を得るまでの工程は、例えば、特開2015-135393号公報の17頁の段落[0074]~19頁の段落[0082]等に開示されている。
【実施例
【0096】
<実施例>
以下に実施例を挙げ、本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0097】
(ジアミン化合物)
p-PDA:p-フェニレンジアミン
DA-1~DA-9:それぞれ下記式DA-1~DA-9で表される第1ジアミン(特定ジアミンともいう)。なお、DA-1~DA-6、DA-7及びDA-8は新規化合物である。
SC-1~SC-4:下記式SC-1~SC-4で表される側鎖ジアミン
【化36】
【0098】
【化37】
【0099】
(テトラカルボン酸成分)
CBDA:1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物
BODA:ビシクロ[3,3,0]オクタン-2,4,6,8-テトラカルボン酸二無水物
TCA:2,3,5-トリカルボキシペンチル酢酸二無水物
【0100】
(溶媒)
NMP:N-メチル-2-ピロリドン
BCS:ブチルセロソルブ
THF:テトラヒドロフラン
DMF:N,N-ジメチルホルムアミド
CHCl:ジクロロメタン
CHCl:クロロホルム
【0101】
H-NMRの測定>
装置:フーリエ変換型超伝導核磁気共鳴装置(FT-NMR)「AVANCE III」(BRUKER製)500MHz
溶媒:重水素化クロロホルム(CDCl)又は重水素化N,N-ジメチルスルホキシド([D]-DMSO)
標準物質:テトラメチルシラン(TMS)
【0102】
<ジアミンの合成>
(合成例1)
[DA-1]の合成:
【0103】
【化38】
【0104】
1L四つ口フラスコにN-(tert-ブトキシカルボニル)-1,4-フェニレンジアミン(39.4g、189mmol)及びNMP(394g)を仕込み、水浴中でビシクロ[3,3,0]オクタン-2,4,6,8-テトラカルボン酸二無水物(23.4g、94mmol)を添加後、60℃で6時間撹拌した。続いて、反応液にピリジン(89.2g、1128mmol)及び無水酢酸(60.5g、593mmol)を仕込み、110℃で撹拌した。反応終了後、反応系を純水(2500g)に注ぎ、析出物を濾別した。続いて、得られた粗物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶離液:酢酸エチル)にて単離することで、[DA-1-1]を40.6g得た。
【0105】
1L四つ口フラスコに[DA-1-1](33.8g、54mmol)及びCHCl(510g)を仕込み、水浴中でトリフルオロ酢酸(55.0g、539mmol)を滴下後、室温で撹拌した。反応終了後、析出物を濾別し、CHCl(300g)で洗浄した。得られた粗物に純水(700g)を加え、トリエチルアミン(50g)で中和し、析出物を濾別した。得られた粗物にDMF(50g)、メタノール(500g)を加え、室温でリパルプ洗浄することで、[DA-1](白色固体)を11.9g得た。目的物の1H-NMRの結果を以下に示す。この結果から、得られた固体が、目的の[DA-1]であることを確認した。
1H NMR (500 MHz, [D6]-DMSO):δ7.30-7.33 (m,4H), 6.52-6.58 (m,4H), 5.26 (s,2H), 5.20 (s,2H), 3.33 (s,2H), 3.26-3.28 (m,2H), 2.95-2.98 (m,2H), 2.44-2.48 (m,2H), 1.90-1.94 (m,1H), 1.67-1.73 (m,1H)
【0106】
(合成例2)
[DA-2]の合成:
【0107】
【化39】
【0108】
2L四つ口フラスコにtert-ブチル(3-アミノフェニル)カルバメート(83.4g、400mmol)及びNMP(840g)を仕込み、水浴中でビシクロ[3,3,0]オクタン-2,4,6,8-テトラカルボン酸二無水物(46.6g、186mmol)を添加後、60℃で6時間撹拌した。続いて、反応液にピリジン(178.1g、2250mmol)及び無水酢酸(115.5g、1120mmol)を仕込み、110℃で撹拌した。反応終了後、反応系を純水(5000g)に注ぎ、析出物を濾別した。続いて、得られた粗物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶離液:酢酸エチル)にて単離することで、[DA-2-1]を103.5g得た。
【0109】
2L四つ口フラスコに、上記で得られた[DA-2-1](100.5g、160mmol)及びCHCl(1500g)を仕込み、水浴中でトリフルオロ酢酸(165.7g、1620mmol)を滴下後、室温で撹拌した。反応終了後、析出物を濾別し、CHCl(600g)で洗浄した。得られた粗物に純水(2000g)を加え、トリエチルアミン(100g)で中和し、析出物を濾別した。得られた粗物にDMF(100g)、メタノール(1000g)を加え、室温でリパルプ洗浄することで、[DA-2](白色固体)を32.3g得た。目的物の1H-NMRの結果を以下に示す。この結果から、得られた固体が、目的の[DA-2]であることを確認した。
1H NMR (500 MHz, [D6]-DMSO):δ7.01-7.08 (m,2H), 6.54-6.58 (m,2H), 6.24-6.31 (m,4H), 5.24 (s,2H), 5.18 (s,2H), 3.37 (s,2H), 3.28-3.30 (m,2H), 2.96-2.97 (d,2H), 2.47-2.53 (m,2H), 1.95-1.99 (m,1H), 1.75-1.80 (m,1H)
【0110】
(合成例3)
[DA-3]の合成:
【0111】
【化40】
【0112】
1L四つ口フラスコにN-(tert-ブトキシカルボニル)-1,4-フェニレンジアミン(20.0g、96mmol)及びNMP(200g)を仕込み、水浴中で1,2,3,4-ブタンテトラカルボン酸二無水物(8.6g、43mmol)を添加後、40℃で6時間撹拌した。続いて、反応液にピリジン(20.5g、259mmol)及び無水酢酸(13.2g、130mmol)を仕込み、60℃で撹拌した。反応終了後、反応系を純水(1000g)に注ぎ、析出物を濾別した。続いて、得られた粗物にTHF(180g)及びメタノール(200g)を加えて、室温でリパルプ洗浄することで、[DA-3-1]を14.7g得た。
【0113】
1L四つ口フラスコに、上記で得られた[DA-3-1](14.7g、25mmol)及びCHCl(400g)を仕込み、水浴中でトリフルオロ酢酸(43.3g、380mmol)を滴下後、室温で撹拌した。反応終了後、反応液にヘキサン(1000g)を加え、析出物を濾過した。得られた粗物に純水(400g)を加え、ピリジン(40g)で中和し、析出物を濾別した。得られた粗物にDMF(10g)を加えて、リパルプ洗浄後、さらに、粗物に酢酸エチル(50g)を加えて、60℃でリパルプ洗浄することで、[DA-3](白色固体)を6.6g得た。目的物の1H-NMRの結果を以下に示す。この結果から、得られた固体が、目的の[DA-3]であることを確認した。
1H NMR (400 MHz, [D6]-DMSO):δ6.84-7.95 (d,4H), 6.56-6.60 (d,4H), 5.31 (s,4H), 3.52-3.55 (t,2H), 2.94-3.01 (q,2H), 2.65-2.67 (d,1H), 2.61-2.62 (d,1H)
【0114】
(合成例4)
[DA-4]の合成:
【0115】
【化41】
【0116】
1L四つ口フラスコにN-(tert-ブトキシカルボニル)-1,4-フェニレンジアミン(33.3g、160mmol)及びNMP(330g)を仕込み、水浴中で、ビシクロ[2.2.2]オクタン-2,3:5,6-テトラカルボン酸二無水物(20.0g、80mmol)を添加後、60℃で6時間撹拌した。続いて、反応液にピリジン(38.0g、480mmol)及び無水酢酸(24.5g、240mmol)を仕込み、110℃で撹拌した。反応終了後、反応系を純水(1500g)に注ぎ、析出物を濾別した。続いて、得られた粗物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶離液:酢酸エチル/ヘキサン=2/1(体積比))にて単離したのち、さらに粗物に酢酸エチル(200g)を加えて、50℃でリパルプ洗浄することで、[DA-4-1]を29.8g得た。
【0117】
1L四つ口フラスコに、上記で得られた[DA-4-1](29.8g、47mmol)及びCHCl(440g)を仕込み、水浴中でトリフルオロ酢酸(53.9g、473mmol)を滴下後、50℃で撹拌した。反応終了後、析出物を濾別し、CHCl(300g)で洗浄した。得られた粗物に純水(300g)を加え、トリエチルアミン(20g)で中和し、析出物を濾別した。得られた粗物にDMF(180g)、メタノール(180g)を加えて、室温でリパルプ洗浄することで、[DA-4](白色固体)を16.9g得た。目的物の1H-NMRの結果を以下に示す。この結果から、得られた固体が、目的の[DA-4]であることを確認した。
1H NMR (500 MHz, [D6]-DMSO):δ6.86-6.88 (d,4H), 6.60-6.62 (d,4H), 5.35 (s,4H), 3.23 (s,4H), 2.50 (s,2H), 1.40 (s,4H)
【0118】
(合成例5)
[DA-5]の合成:
【0119】
【化42】
【0120】
1L四つ口フラスコにN-(tert-ブトキシカルボニル)-1,4-フェニレンジアミン(25.0g、120mmol)、ピリジン(28.5g、360mmol)、及びNMP(250g)を仕込み、水浴中でビシクロ[2.2.2]オクト-7-エン-2,3,5,6-テトラカルボン酸二無水物(14.9g、60mmol)を添加後、80℃で撹拌した。反応終了後、反応系を純水(1500g)に注ぎ、析出物を濾別した。続いて、得られた粗物にメタノール(1500g)を加えて、室温でリパルプ洗浄することで、[DA-5-1]を30.6g得た。
【0121】
1L四つ口フラスコに[DA-5-1](30.6g、49mmol)及びCHCl(300g)を仕込み、水浴中でトリフルオロ酢酸(55.5g、487mmol)を滴下後、50℃で撹拌した。反応終了後、析出物を濾別し、CHCl(100g)で洗浄した。得られた粗物にメタノール(250g)を加え、トリエチルアミン(20g)で中和し、析出物を濾別した。得られた粗物にメタノール(100g)を加えて、室温でリパルプ洗浄することで、[DA-5](白色固体)を20.0g得た。目的物の1H-NMRの結果を以下に示す。この結果から、得られた固体が、目的の[DA-5]であることを確認した。
1H NMR (500 MHz, [D6]-DMSO):δ6.70-6.74 (d,4H), 6.55-6.58 (d,4H), 6.23-6.24 (q,2H), 5.34 (d,4H), 3.45-3.47 (s,2H), 3.30 (s,4H)
【0122】
(合成例6)
[DA-6]の合成:
【0123】
【化43】
【0124】
1L四つ口フラスコにN-(tert-ブトキシカルボニル)-1,4-フェニレンジアミン(25.0g、120mmol)及びNMP(250g)を仕込み、水浴中で1R,2S,4S,5R-シクロヘキサンテトラカルボン酸無水物(13.5g、60mmol)を添加後、50℃で6時間撹拌した。続いて、反応液にピリジン(28.5g、360mmol)及び無水酢酸(18.5g、180mmol)を仕込み、50℃で撹拌した。反応終了後、反応系を純水(1500g)に注ぎ、析出物を濾別した。続いて、得られた粗物にメタノール(150g)を加えて、室温でリパルプ洗浄することで、[DA-6-1]を15.4g得た。
【0125】
1L四つ口フラスコに、上記で得られた[DA-6-1](15.4g、26mmol)及びCHCl(154g)を仕込み、水浴中でトリフルオロ酢酸(29.1g、255mmol)を滴下後、50℃で撹拌した。反応終了後、析出物を濾別し、CHCl(50g)で洗浄した。得られた粗物に純水(200g)を加え、トリエチルアミン(10g)で中和し、析出物を濾別することで、[DA-6](白色固体)を9.9g得た。目的物の1H-NMRの結果を以下に示す。この結果から、得られた固体が目的の[DA-6]であることを確認した。
1H NMR (500 MHz, [D6]-DMSO):δ6.86-6.88 (d,4H), 6.59-6.62 (d,4H), 5.33 (s,4H), 3.04-3.06 (t,4H), 2.11 (s,4H)
【0126】
(合成例7)
[DA-7]の合成:
【0127】
【化44】
【0128】
1L四つ口フラスコにN-(tert-ブトキシカルボニル)-1,4-フェニレンジアミン(33.3g、160mmol)及びNMP(300g)を仕込み、水浴中でテトラヒドロ-3,3’-ジメチル[3,3’-ビフラン]-2,2’,5,5’-テトロン(17.2g、76mmol)を添加後、40℃で6時間撹拌した。続いて、反応液にピリジン(36.4g、460mmol)及び無水酢酸(23.5g、230mmol)を仕込み、60℃で撹拌した。反応終了後、反応系を純水(1500g)に注ぎ、析出物を濾別した。続いて、得られた粗物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶離液:酢酸エチル/ヘキサン=1/1(体積比))にて単離後、得られた粗物にメタノール(50g)を加えて、室温でリパルプ洗浄することで、[DA-7-1]を4.6g得た。
【0129】
1L四つ口フラスコに、上記で得られた[DA-7-1](4.6g、8mmol)及びCHCl(50g)を仕込み、水浴中でトリフルオロ酢酸(17.2g、152mmol)を滴下後、50℃で撹拌した。反応終了後、反応液にヘキサン(150g)を加え、析出物を濾別した。得られた粗物に純水(30g)を加え、トリエチルアミン(2g)を加えて中和し、酢酸エチル(200g)に注いだ。有機層を純水(300g)で洗浄し、濃縮した。得られた粗物にヘキサン(30g)を加え、室温でリパルプ洗浄することで、[DA-7](白色固体)を2.7g得た。目的物の1H-NMRの結果を以下に示す。この結果から、得られた固体が目的の[DA-7]であることを確認した。
1H NMR (500 MHz, [D6]-DMSO):δ6.84-6.86 (d,4H), 6.58-6.59 (d,4H), 5.31 (s,4H), 2.98-3.00 (d,2H), 2.67-2.71 (d,2H), 1.45 (s,6H)
【0130】
(合成例8)
[DA-8]の合成:
【0131】
【化45】
【0132】
2L四つ口フラスコに4,4’-(エタン-1,2-ジイルビス(オキシ))ジアニリン(109.5g、448mmol)及びDMF(850g)を仕込み、水浴中で二炭酸ジ-tert-ブチル(32.8g、151mmol)を滴下後、室温で撹拌した。反応終了後、反応液を濃縮し、得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶離液:酢酸エチル/ヘキサン=1/1(体積比))にて単離することで、[DA-8-1]を45.3g得た。
【0133】
1L四つ口フラスコに[DA-8-1](44.7g、130mmol)及びNMP(450g)を仕込み、水浴中でビシクロ[3,3,0]オクタン-2,4,6,8-テトラカルボン酸二無水物(23.4g、94mmol)を添加後、60℃で6時間撹拌した。続いて、反応液にピリジン(58.1g、735mmol)及び無水酢酸(38.2g、374mmol)を仕込み、110℃で撹拌した。反応終了後、反応系を純水(4000g)に注ぎ、析出物を濾別した。続いて、得られた粗物にDMF(250g)を加え、70℃でリパルプ洗浄することで、[DA-8-2]を36.8g得た。
【0134】
1L四つ口フラスコに[DA-8-2](36.8g、41mmol)及びCHCl(750g)を仕込み、水浴中でトリフルオロ酢酸(46.8g、410mmol)を滴下後、50℃で撹拌した。反応終了後、反応液をヘキサン(750g)に注ぎ、析出物を濾別した。得られた粗物にメタノール(1200g)を加え、トリエチルアミン(50g)を加えて中和し、析出物を濾別した。続いて、得られた粗物にメタノール(1200g)を加えて、室温でリパルプ洗浄することで、[DA-8](白色固体)を26.3g得た。目的物の1H-NMRの結果を以下に示す。この結果から、得られた固体が目的の[DA-8]であることを確認した。
1H NMR (500 MHz, [D6]-DMSO):δ7.00-7.11 (m,8H), 6.69-6.71 (d,4H), 6.51-6.53 (d,4H), 4.64 (s,4H), 4.27-4.28 (d,4H), 4.16-4.17 (d,4H), 3.40 (s,2H), 3.34 (s,2H), 3.00-3.01 (d,2H), 2.56-2.59 (d,2H), 1.94-1.97 (d,1H), 1.72-1.75 (d,1H)
【0135】
(合成例9)
[DA-9]の合成:
【0136】
【化46】
【0137】
1L四つ口フラスコにN-(tert-ブトキシカルボニル)-1,4-フェニレンジアミン(20.0g、96mmol)及びNMP(200g)を仕込み、水浴中で3-(カルボキシメチル)-1,2,4-シクロペンタントリカルボン酸1,4:2,3-二無水物を添加後、60℃で6時間撹拌した。続いて、反応液にピリジン(22.8g、288mmol)及び無水酢酸(14.7g、144mmol)を仕込み、110℃で撹拌した。反応終了後、反応系を純水(1000g)に注ぎ、析出物を濾別した。続いて、得られた粗物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶離液:酢酸エチル/ヘキサン=2/1(体積比))にて単離後、さらに、粗物にメタノール(300g)を加えて、室温でリパルプ洗浄することで、[DA-9-1]を15.6g得た。
【0138】
1L四つ口フラスコに[DA-9-1](15.6g、26mmol)及びCHCl(230g)を仕込み、水浴中で、トリフルオロ酢酸(29.3g、257mmol)を滴下後、室温で撹拌した。反応終了後、析出物を濾別し、CHCl(200g)で洗浄した。得られた粗物に純水(100g)を加え、ピリジン(5g)で中和し、析出物を濾別した。得られた粗物にDMF(30g)及びメタノール(300g)を加え、室温でリパルプ洗浄することで、[DA-9](白色固体)を8.3g得た。目的物の1H-NMRの結果を以下に示す。この結果から、得られた固体が、目的の[DA-9]であることを確認した。
1H NMR (500 MHz, [D6]-DMSO):δ6.74-6.77 (m,4H), 6.53-6.56 (d,4H), 5.21-5.22 (d,4H), 3.72-3.75 (d,1H), 3.51 (s,1H), 3.03 (s,2H), 2.91-2.99 (m,1H), 2.75-2.81 (m,1H), 2.38-2.41 (d,1H), 2.14-2.17 (m,1H)
【0139】
<液晶配向剤の調製>
(参考例1)
DA-1(4.30g、10.0mmol)をNMP(17.2g)中で溶解し、40℃で30分撹拌させたのち、CBDA(1.82g、9.3mmol)とNMP(7.3g)を加え、40℃で12時間反応させポリアミック酸溶液(A)を得た。
このポリアミック酸溶液(A)(15.0g)にNMP(25.0g)及びBCS(10.0g)を加え、室温で5時間撹拌することにより液晶配向剤(A1)を得た。
【0140】
(参考例2~参考例9)
第1ジアミンを表1に示すように変更した以外は参考例1と同様の方法で液晶配向剤B1~I1を調製した。
【0141】
(比較参考例1)
特定ジアミンをp-PDAに変更した以外は参考例1~9と同様の方法で、液晶配向剤J1を調製した。
【0142】
【表1】
【0143】
<液晶セルの作製>
(参考例10)
参考例1で得られた液晶配向剤(A1)を、3×4cmITO付きガラス基板のITO面にスピンコートし、80℃で1分30秒間ホットプレートにて焼成した後、230℃の赤外線加熱炉で20分間焼成を行い、膜厚100nmのポリイミド塗布基板を作製した。
上記方法でポリイミド塗布基板を二枚作製し、一方の基板の液晶配向膜面上に4μmのビーズスペーサーを散布した後、その上から熱硬化性シール剤(協立化学社製 XN-1500T)を印刷した。次いで、もう一方の基板の液晶配向膜が形成された側の面を内側にして、先の基板と貼り合せた後、シール剤を硬化させて空セルを作製した。この空セルにPSA用重合性化合物含有液晶MLC-3023(メルク社製商品名)を減圧注入法によって注入し、液晶セルを作製した。この液晶セルの電圧保持率を測定した。
次に、この液晶セルに15VのDC電圧を印加した状態で、この液晶セルの外側から325nmカットフィルターを通したUVを10J/cm照射(1次PSA処理とも称する)した。なお、UVの照度は、ORC社製UV-MO3Aを用いて測定した。
その後、液晶セル中に残存している未反応の重合性化合物を失活させる目的で、電圧を印加していない状態で東芝ライテック社製UV-FL照射装置を用いてUV(UVランプ:FLR40SUV32/A-1)を30分間照射(2次PSA処理と称する)した。その後、電圧保持率の測定を行った。
【0144】
<電圧保持率の評価>
上記で作製した液晶セルを用い、60℃の熱風循環オーブン中で1Vの電圧を60μs間印加し、その後1667msec後の電圧を測定し、電圧がどのくらい保持できているかを電圧保持率として計算した。電圧保持率の測定には、東陽テクニカ社製のVHR-1を使用した。
【0145】
(参考例11~15)
液晶配向剤(A1)のかわりに液晶配向剤(B1)、(C1)、(E1)、(F1)、(I1)を用いた以外は参考例10と同様の操作を行って、VHRを測定した。
【0146】
(比較参考例2)
液晶配向剤(A1)のかわりに液晶配向剤(J1)を用いた以外は参考例10と同様の操作を行って、VHRを測定した。
【0147】
以下にVHRの測定結果を示す。
【表2】
【0148】
表2に示されるように、比較参考例2ではVHRが初期から20%以下と非常に低いのに対し、参考例10~15では2次PSA処理後でも60%以上と良好な結果となった。この結果より特定ジアミンを導入した液晶配向剤は、未導入の液晶配向剤に比べ、高い駆動信頼性を確保できることが分かる。
【0149】
(実施例1)
DA-1(2.15g、5.0mmol)及びSC-1(1.90g、5.0mmol)をNMP(16.2g)中で溶解し、40℃で30分撹拌させたのち、CBDA(1.82g、9.3mmol)とNMP(7.3g)を加え、40℃で12時間反応させポリアミック酸溶液(K)を得た。
このポリアミック酸溶液(K)(15.0g)にNMP(20.0g)及びBCS(15.0g)を加え、室温で5時間撹拌することにより液晶配向剤(K1)を得た。
【0150】
(実施例2~9)
特定ジアミン(第1ジアミン)および、側鎖ジアミン(第2ジアミン)を表3に示すように変更した以外は実施例1と同様の方法で液晶配向剤L1~S1を調製した。
【0151】
(実施例10)
DA-1(3.23g、7.5mmol)及びSC-4(1.90g、2.5mmol)をNMP(20.5g)中で溶解し、40℃で30分撹拌させたのち、TCA(2.20g、9.8mmol)とNMP(8.8g)を加え、60℃で10時間反応させポリアミック酸溶液(T)を得た。
このポリアミック酸溶液(T)(15.0g)にNMP(20.0g)及びBCS(15.0g)を加え、室温で5時間撹拌することにより液晶配向剤(T1)を得た。
【0152】
(実施例11)
DA-5(2.83g、7.0mmol)及びSC-2(1.30g、3.0mmol)をNMP(16.5g)中で溶解し、40℃で30分撹拌させたのち、BODA(1.88g、7.5mmol)とNMP(7.5g)を加え、60℃で5時間時間反応させた。その後、CBDA(0.45g、2.3mmol)とNMP(1.8g)を加え40℃で12時間反応させポリアミック酸溶液(U)を得た。
このポリアミック酸溶液(U)(15.0g)にNMP(20.0g)及びBCS(15.0g)を加え、室温で5時間撹拌することにより液晶配向剤(U1)を得た。
【0153】
(実施例12、13)
特定ジアミン、側鎖ジアミン、テトラカルボン酸成分を表3に示すように変更した以外は実施例11と同様の方法で液晶配向剤V1、W1を調製した。
【0154】
【表3】
【0155】
<シール密着性評価サンプルの作製>
実施例1で得られた液晶配向剤(K1)を、孔径1.0μmのフィルターで濾過した後、透明電極付きガラス基板上にスピンコートし、80℃のホットプレート上で2分間乾燥後、230℃で20分間焼成して膜厚100nmの塗膜を得た。このようにして得られた2枚の基板を用意し、一方の基板の液晶配向膜面上に直径4μmビーズスペーサーを散布した後、シール剤(協立化学社製XN-1500T)を滴下した。次いで、他方の基板の液晶配向膜面を内側にし、基板の重なり幅が1cmになるように、貼り合わせを行った。その際、貼り合わせ後のシール剤の直径が約3mmとなるようにシール剤滴下量を調整した。貼り合わせた2枚の基板をクリップにて固定した後、120℃で1時間熱硬化させて、接着性評価用のサンプルを作製した。
【0156】
<シール密着性の測定>
作製したサンプルを島津製作所社製の卓上形精密万能試験機AGS-X500Nにて、上下基板の端の部分を固定した後、基板中央部の上部から押し込みを行い、剥離する際の圧力(N)を測定した。そして、計測したシール剤の直径で圧力(N)を規格化した値を用いて接着力の評価を実施した。
【0157】
<リワーク特性評価サンプルの作製>
(試験例1)
実施例1で得られた液晶配向剤(K1)を、孔径1.0μmのフィルターで濾過した後、3cm×4cmのITO電極付きガラス基板上にスピンコートし、80℃のホットプレート上で2分間乾燥後、230℃で30分間焼成して膜厚100nmの液晶配向膜付き基板を得た。
【0158】
<リワーク特性の評価>
NMPを15g入れた50mLビーカーに、液晶配向膜付き基板を30秒間浸漬した。この時、塗布した液晶配向膜の一部がNMPに浸っていることを確認した。30秒後、純水を用いて基板に付着したNMPを洗い流し、NMPに浸漬していた部分の液晶配向膜が残存しているかを目視で確認した。NMPに浸漬していた部分の液晶配向膜が完全に無くなっている場合をリワーク性良好、液晶配向膜が残存もしくは一部残存しているものをリワーク性不良と定義した。
【0159】
(試験例2~13)
液晶配向剤(K1)を実施例2~13の液晶配向剤に変更した以外は試験例1と同様の操作を行って、シール密着性、リワーク特性を評価した。
【0160】
(比較試験例1~10)
液晶配向剤(K1)を参考例1~9及び比較参考例1の液晶配向剤に変更した以外は実施例1と同様の操作を行って、シール密着性、リワーク特性を評価した。
【0161】
(試験例の結果)
以下にシール密着性及びリワーク特性の結果を示す。
【0162】
【表4】
【0163】
特定ジアミンのみを用いた液晶配向剤を用いて試験した比較試験例1~10に対し、特定ジアミンと共に側鎖ジアミンを導入した実施例1~13の液晶配向剤を用いて試験した試験例1~13では、リワーク特性が優れる結果となった。