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特許7572671セレン(VI)化合物の還元方法、セレンの回収方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-16
(45)【発行日】2024-10-24
(54)【発明の名称】セレン(VI)化合物の還元方法、セレンの回収方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 19/02 20060101AFI20241017BHJP
   B01J 23/46 20060101ALI20241017BHJP
   C02F 1/62 20230101ALI20241017BHJP
   C02F 1/70 20230101ALI20241017BHJP
   C22B 3/44 20060101ALI20241017BHJP
   C22B 30/04 20060101ALI20241017BHJP
   C22B 61/00 20060101ALI20241017BHJP
【FI】
C01B19/02 E
B01J23/46 311M
C02F1/62 Z
C02F1/70 A
C22B3/44 101Z
C22B30/04
C22B61/00
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020136749
(22)【出願日】2020-08-13
(65)【公開番号】P2022032693
(43)【公開日】2022-02-25
【審査請求日】2023-05-15
(73)【特許権者】
【識別番号】504145342
【氏名又は名称】国立大学法人九州大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】岸田 昌浩
(72)【発明者】
【氏名】山本 剛
(72)【発明者】
【氏名】居藤 恭吾
(72)【発明者】
【氏名】浦田 誉幸
(72)【発明者】
【氏名】浅野 聡
【審査官】末松 佳記
(56)【参考文献】
【文献】特開昭62-030826(JP,A)
【文献】特開2019-073767(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 19/02
B01J 23/40
C22B 3/44
C22B 31/04
C22B 61/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水溶液中に含まれるセレン(VI)化合物を還元する方法であって、
酸化チタン(IV)を含む担体に白金族元素を担持させてなる触媒の存在下で、前記水溶液中のセレン(VI)を、該水溶液中に共存するヒ素(III)化合物により還元し、
前記水溶液のpHを、1.2以上7.0以下の範囲に調整する、
セレン化合物の還元方法。
【請求項2】
前記セレン(VI)化合物を含有する水溶液に、前記ヒ素(III)化合物を含有する液を混合することによって、該水溶液中にヒ素(III)化合物を共存させる、
請求項1に記載のセレン化合物の還元方法。
【請求項3】
前記白金族元素は、白金、パラジウム、及びロジウムから選ばれる1種以上を含む、
請求項1又は2に記載のセレン化合物の還元方法。
【請求項4】
前記水溶液は、硫酸酸性である、
請求項1乃至3のいずれかに記載のセレン化合物の還元方法。
【請求項5】
大気中の酸素及び前記ヒ素(III)化合物以外の酸化剤を含まない条件下で還元する、
請求項1乃至4のいずれかに記載のセレン化合物の還元方法。
【請求項6】
前記触媒を使用するに先立ち、還元剤を用いて該触媒を還元処理する、
請求項1乃至のいずれかに記載のセレン化合物の還元方法。
【請求項7】
セレン(VI)化合物を含有する水溶液からセレンを回収する方法であって、
酸化チタン(IV)を含む担体に白金族元素を担持させてなる触媒の存在下で、前記水溶液中のセレン(VI)を、該水溶液中に共存するヒ素(III)化合物により還元する還元工程と、
生成したセレン単体を固液分離により回収する回収工程と、
有し、
前記還元工程では、前記水溶液のpHを、1.2以上7.0以下の範囲に調整する、
セレンの回収方法。
【請求項8】
前記還元工程では、
前記セレン(VI)化合物を含有する水溶液に、前記ヒ素(III)化合物を含有する液を混合することによって、該水溶液中にヒ素(III)化合物を共存させる、
請求項に記載のセレンの回収方法。
【請求項9】
前記回収工程の後、
前記固液分離後の水溶液中に残留するヒ酸イオンを、該水溶液への陽イオンの添加によりヒ酸塩とし、該ヒ酸塩を固液分離により回収するヒ酸塩回収工程をさらに有する、
請求項又はに記載のセレンの回収方法。
【請求項10】
前記還元工程の後、
前記水溶液中に生成したヒ酸イオンを、該水溶液への陽イオンの添加によりヒ酸塩とするヒ酸塩生成工程をさらに有し、
前記回収工程では、前記水溶液中に生成したセレン単体と前記ヒ酸塩との混合物を固液分離により回収する、
請求項又はに記載のセレンの回収方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セレン(VI)化合物の還元方法、及びその還元方法を利用したセレンの回収方法に関する。
【背景技術】
【0002】
非鉄金属を含む鉱石は大きく酸化鉱と硫化鉱とに大別されるが、硫化鉱では不純物としてヒ素、セレン等の有毒な元素を含有するため、鉱石の製錬過程ではこれらの元素を効率的に分離することが必要となる。
【0003】
ヒ素については、代表的なヒ素(V)化合物であるヒ酸の形態では多くの金属イオンと共に水への溶解度が低いヒ酸塩を形成するため、沈澱として分離することができる。また、セレンについては、セレン単体の形態であれば水に溶解せず、完全に水溶液から分離して回収することができる。したがって、これらの形態に変換することによって分離、回収、除去する方法が工業的にも広く採用されている。
【0004】
しかしながら、硫化鉱の乾式製錬で生成するヒ素化合物は、ほぼ全量がヒ素(III)化合物、例えば三酸化二ヒ素やその水和物である亜ヒ酸であり、陽イオンと反応して溶解度が低い沈澱を形成させることが困難である。セレンにおいても、乾式製錬で生成する化合物はセレン単体に還元されやすい二酸化セレン又はその水和物である亜セレン酸であるが、近年広く採用されている湿式製錬では塩素等の強酸化剤を使用してセレンを溶解するため、セレンの多くが還元されにくいセレン(VI)を含む化合物、例えばセレン酸の形態で存在している。
【0005】
ヒ素(III)化合物のヒ素(V)への酸化や、セレン(VI)化合物のセレン(0)(セレン単体)への還元は困難であるため、例えば、ヒ素(III)化合物をヒ素(V)に酸化するには高温下で長時間酸素により酸化する方法が古くから採用されている。ところが、高温にするため、エネルギー的にも、反応時間の点でも不利な方法であった。また、セレン(VI)化合物の還元では、高濃度の硫酸共存下で高温にて長時間二酸化硫黄で還元する方法が一般的であるが、やはり高温にするためのエネルギーの観点のほか、硫酸の大量使用やその中和剤コストを考慮すると、適切な方法ではなかった。
【0006】
ここで、HAsO/HAsO間の標準電極電位(@pH0)は0.560V、HSeO/HSeO 間の標準電極電位(@pH0)は1.09Vであるため、平衡論的にはヒ酸の亜ヒ酸への還元、セレン酸の亜セレン酸への還元は、容易に進行するはずである。しかしながら、実際には反応が進行しにくく、それは反応速度が小さい(活性化エネルギーが大きい)ことが原因であると考えられている。そこで、反応速度を改善するために、触媒を用いる検討が行われている。
【0007】
例えば、特許文献1には、触媒としてヨウ化物イオンを使用して、亜セレン酸イオンを二酸化硫黄によりセレン単体まで還元する方法が開示されている。また、特許文献2には、担体として酸化チタン(IV)、酸化ジルコニウム(IV)を使用し、白金粒子を担持させた触媒を用いて、水溶液中の亜ヒ酸イオンを酸素にてヒ酸イオンまで酸化する反応を促進する方法が開示されている。
【0008】
また、特許文献3には、担体として酸化チタン(IV)、酸化ジルコニウム(IV)、酸化アルミニウム、二酸化ケイ素、あるいはこれらの混合物(複合酸化物)を使用し、ロジウム、白金、パラジウム、イリジウム、ルテニウム粒子を担持させた触媒を用いて、水溶液中のセレン酸(VI)をヒドラジン一水和物によりセレン単体まで還元する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2019-73767号公報
【文献】特開2015-151289号公報
【文献】特開2016-190221号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献1に開示の方法では、触媒として使用するヨウ素が希少元素であり、価格が高額であるばかりか、触媒として機能するにもかかわらず、プロセスとしては全量が排水に放流されてしまい、再使用ができないという問題点がある。
【0011】
特許文献2に開示の方法では、特許文献1の技術とは異なり水に不溶性の固体触媒を利用するため、再利用が可能となる。しかしながら、酸化剤として酸素が必要となり、特に非鉄製錬業にて大量の水溶液を高速かつ連続的に処理する場合には、酸素を十分に供給、溶解できないケースが想定され、酸化が不十分となるおそれがある。
【0012】
また、特許文献3に開示の方法でも、水に不溶性の固体触媒を利用するため再利用が可能となる。しかしながら、別途還元剤を利用するため、還元剤コストが必要であるということに加え、その使用量が必要量よりも過剰となる場合、排水のCOD、BODが増大して、環境影響を与えるおそれがあり、それを防止するため再び酸化処理を必要とするという問題点がある。
【0013】
さらに、特許文献1~3に開示の方法における共通する問題点として、還元又は酸化に特化したプロセスであるため、製錬工程でしばしば共存するヒ素、セレンを分離・回収するためには、それぞれ別の工程を保有する必要がある。
【0014】
本発明では、このような実情に鑑みてなされたものであり、外部から酸化剤や還元剤を添加することなく、難処理化合物であるセレン(VI)化合物を効果的かつ効率的に還元して分離・回収することを可能とする方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、上述した課題を解決するために鋭意検討を重ねた。その結果、固体触媒の存在下で、処理対象のセレン(VI)化合物と、同様に難処理化合物であるヒ素(III)化合物との相互の酸化還元反応を利用して、両者を同時に処理することで、セレン(VI)化合物を効果的に還元することができ、還元して得られるセレン単体を効率的に回収できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0016】
(1)本発明の第1の発明は、水溶液中に含まれるセレン(VI)化合物を還元する方法であって、担体に白金族元素を担持させてなる触媒の存在下で、前記水溶液中のセレン(VI)を、該水溶液中に共存するヒ素(III)化合物により還元する、セレン化合物の還元方法である。
【0017】
(2)本発明の第2の発明は、第1の発明において、前記セレン(VI)化合物を含有する水溶液に、前記ヒ素(III)化合物を含有する液を混合することによって、該水溶液中にヒ素(III)化合物を共存させる、セレン化合物の還元方法である。
【0018】
(3)本発明の第3の発明は、第1又は第2の発明において、前記水溶液のpHを、1.0以上10以下の範囲に調整する、セレン化合物の還元方法である。
【0019】
(4)本発明の第4の発明は、第1乃至第3のいずれかの発明において、前記白金族元素は、白金、パラジウム、及びロジウムから選ばれる1種以上を含む、セレン化合物の還元方法である。
【0020】
(5)本発明の第5の発明は、第1乃至第4のいずれかの発明において、前記担体は、酸化チタン(IV)を含む、セレン化合物の還元方法である。
【0021】
(6)本発明の第6の発明は、第1乃至第5のいずれかの発明において、前記水溶液は、硫酸酸性である、セレン化合物の還元方法である。
【0022】
(7)本発明の第7の発明は、第1乃至第6のいずれかの発明において、大気中の酸素及び前記ヒ素(III)化合物以外の酸化剤を含まない条件下で還元する、セレン化合物の還元方法である。
【0023】
(8)本発明の第8の発明は、第1乃至7のいずれかの発明において、前記触媒を使用するに先立ち、還元剤を用いて該触媒を還元処理する、セレン化合物の還元方法である。
【0024】
(9)本発明の第9の発明は、セレン(VI)化合物を含有する水溶液からセレンを回収する方法であって、担体に白金族元素を担持させてなる触媒の存在下で、前記水溶液中のセレン(VI)を、該水溶液中に共存するヒ素(III)化合物により還元する還元工程と、生成したセレン単体を固液分離により回収する回収工程と、を有する、セレンの回収方法である。
【0025】
(10)本発明の第10の発明は、第9の発明において、前記還元工程では、前記セレン(VI)化合物を含有する水溶液に、前記ヒ素(III)化合物を含有する液を混合することによって、該水溶液中にヒ素(III)化合物を共存させる、セレンの回収方法である。
【0026】
(11)本発明の第11の発明は、第9又は第10の発明において、前記回収工程の後、前記固液分離後の水溶液中に残留するヒ酸イオンを、該水溶液への陽イオンの添加によりヒ酸塩とし、該ヒ酸塩を固液分離により回収するヒ酸塩回収工程をさらに有する、セレンの回収方法である。
【0027】
(12)本発明の第12の発明は、第9又は第10の発明において、前記還元工程の後、前記水溶液中に生成したヒ酸イオンを、該水溶液への陽イオンの添加によりヒ酸塩とするヒ酸塩生成工程をさらに有し、前記回収工程では、前記水溶液中に生成したセレン単体と前記ヒ酸塩との混合物を固液分離により回収する、セレンの回収方法である。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、外部から酸化剤や還元剤を添加することなく、難処理化合物であるセレン(VI)化合物を効果的かつ効率的に還元して分離・回収することを可能とする方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】実施例1の試験結果を示す、触媒を構成する担体の種類とセレン(VI)の還元率との関係を示すグラフである。
図2】実施例1の試験結果を示す、触媒を構成する担体の種類とヒ素(III)の酸化率との関係を示すグラフである。
図3】実施例2の試験結果を示す、pH条件とセレン(VI)の還元率との関係を示すグラフである。
図4】実施例2の試験結果を示す、pH条件とヒ素(III)の酸化率との関係を示すグラフである。
図5】実施例3の試験結果を示す、触媒に対する事前還元の前処理の有無とセレン(VI)の還元率との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の具体的な実施形態について詳細に説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されず、本発明の要旨を変更しない範囲で種々の変更が可能である。
【0031】
≪1.セレン化合物の還元方法≫
本実施の形態に係るセレン化合物の還元方法は、水溶液中に含まれるセレン(VI)化合物をセレン(0)(セレン単体)に還元する方法である。
【0032】
具体的に、この還元方法は、担体に白金族元素を担持させてなる触媒の存在下で、水溶液中のセレン(VI)化合物(セレン酸)を、その同じ水溶液中に共存しているヒ素(III)(亜ヒ酸)化合物により還元する、ことを特徴としている。すなわち、この方法では、水溶液中に共存するセレン(VI)化合物とヒ素(III)化合物との相互の酸化還元反応を利用して、両者を同時に処理することで、セレン(VI)化合物を還元する。
【0033】
このような方法によれば、水に不溶性の固体触媒を利用するため再利用が可能になるとともに、同じ水溶液中に含まれているヒ素(III)化合物を還元剤として用いているため、別途に還元剤を添加することなく、効果的にセレン(VI)化合物をセレン単体に還元することができる。また、還元剤として用いるヒ素(III)化合物もまた、難処理化合物であるが、そのヒ素(III)化合物を還元剤として用いることで、自身は有効に酸化されるようになるため、別途に酸化剤を添加することなく、そのヒ素(III)化合物についても効果的に処理(ヒ酸イオンに処理)することができる。
【0034】
例えば、銅、鉛、亜鉛、ニッケル、コバルト等の非鉄金属の硫化鉱を製錬する過程では、工程から出るプロセス液や廃液、排ガス処理工程における湿式処理を経て得られる水溶液(廃液)の中には、セレン(VI)化合物と共にヒ素(III)化合物とが含まれている。したがって、このようなプロセス液である水溶液中において、セレン(VI)化合物をヒ素(III)化合物により還元することで、セレン(VI)をセレン単体に有効に還元して回収することができる。また同時に、ヒ素(III)化合物も効果的に酸化処理(ヒ酸イオンに処理)して回収することができる。
【0035】
また、廃液処理プロセスにおいては、例えば、貴金属処理プロセスから排出されるセレン(VI)化合物を含む廃液と、ヒ素濃縮プロセスから排出されるヒ素(III)化合物を含む廃液とが混合されて供給されることがある。したがって、このような廃液の混合水溶液中においても、セレン(VI)化合物をヒ素(III)化合物により還元することで、セレン(VI)をセレン単体に有効に還元して回収でき、また同時に、ヒ素(III)化合物も効果的に酸化処理して回収することができる。
【0036】
[触媒について]
本実施の形態に係るセレン化合物の還元方法においては、固体触媒を用いる。より具体的に、担体に白金族元素の粒子を担持させてなる触媒を用いる。この還元方法において、当該固体触媒は、セレン酸(セレン(VI)化合物)を還元するための還元触媒(以下、「セレン酸還元触媒」ともいう)であるとともに、亜ヒ酸(ヒ素(III)化合物)を酸化するための酸化触媒となる。
【0037】
このように、担体に白金族元素の粒子を担持させてなる固体触媒を用いることで、水に不溶性のために再利用することが可能となり、効率的な処理を行うことできる。
【0038】
(担持物質)
触媒を構成する白金族元素の粒子(担持物質)として、白金、パラジウム、及びロジウムからなる群から選択される1種以上の金属元素の粒子が挙げられる。これらの金属元素の粒子であれば、触媒としての効果を十分に発揮するが、より優れた触媒活性を奏する観点から、ロジウムを用いることが特に好ましい。
【0039】
白金族元素の粒子(担持物質)の担持量(後述する担体に対する担持量)は、特に限定されないが、担体の乾燥質量に対して0.1質量%以上であることが好ましく、0.5質量%以上であることがより好ましく、0.8質量%以上であることがさらに好ましい。担持量が少な過ぎると、セレン酸を還元する効率(還元効率)が十分ではなくなる可能性がある。
【0040】
また、担持量の上限は、特に限定されない。ただし、担持量が多過ぎると、担持物質である白金族元素の粒子の分散度が十分でなく、担持物質の単位質量あたりの還元効率に影響を及ぼし得る。さらに、担持物質が白金族元素の粒子であって高コストな材料であることを考慮すると、見かけ上の還元効率のみならず、担持物質の単位質量あたりの還元効率についても考慮することが好ましい。この観点からすると、担持量の上限としては、担体の乾燥質量に対して20質量%以下であることが好ましく、15質量%以下であることがより好ましく、10質量%以下であることがさらに好ましい。
【0041】
白金族元素の粒子の粒径は、特に限定されないが可能な限り小さい方がよく、具体的には20nm以下であることが好ましく、10nm以下であることがより好ましく、3nm以下であることがさらに好ましい。
【0042】
(担体)
触媒を構成する担体としては、酸化アルミニウム、酸化チタン(IV)、及び二酸化ケイ素からなる群から選択される1種以上の担体であることが好ましい。一般に、セレン(VI)化合物を含有する溶液や廃液は、酸性であることが多い。そのため、担体としては、酸性領域において溶解を抑えられる材料であり、かつ、上述した担持物質の触媒効果を高めることができる材料であることが必要となる。また、経済性を考慮して、安価であって大量供給が容易な物質であることがより好ましい。
【0043】
これらの観点から、触媒を構成する担体としては、上述したように、酸化アルミニウム、酸化チタン(IV)(TiO)、二酸化ケイ素(シリカ,SiO)であることが好ましく、セレン(VI)化合物を還元する還元触媒活性をより高めることができるという点で、酸化チタン(IV)を含むことが特に好ましい。
【0044】
(触媒の製造方法)
上述した触媒の製造方法については、特に限定されず、公知の方法により製造することができる。例えば、酸化チタン(IV)等の担体に、1種以上の白金族元素を含む溶液を含浸させて乾燥し、焼成する方法が挙げられる。またそのほか、白金族元素を含む希薄溶液で繰り返し含浸する方法や、限界近い高濃度で白金族元素を含む溶液で含浸するincipinent wetness法、噴霧乾燥法等が挙げられる。
【0045】
なお、担体に対する白金族元素の粒子(担持物質)の担持量は、担体に対する白金族元素溶液の液量や、溶液中の白金族元素濃度、担体の白金族元素を含む溶液への含浸時間等によって調整できる。この観点からすると、溶液中の白金族元素濃度としては、0.5g/L以上200g/L以下であることが好ましく、1g/L以上100g/L以下であることがより好ましく、3g/L以上100g/L以下であることがさらに好ましい。
【0046】
また、白金族元素の粒子(担持物質)の分散度は、好適な範囲の担持量の触媒(セレン酸還元触媒)の分散度を測定することによってさらに調整することができ、あるいは、担体に担持物質を担持させる際の撹拌の強弱を制御することで調整することもできる。
【0047】
触媒の製造方法においては、金属原料から金属以外の成分を除去し、担体上に微粒子を形成させるために乾燥及び焼成の処理が行われる。そのうち、乾燥処理については、白金族元素を含む溶液に含まれる液体成分を蒸発できる態様であれば、特に限定されない。また、焼成処理については、適切な金属粒子径の微粒子が形成される態様であれば、焼成条件は特に限定されない。ただし、水素共存下等の還元雰囲気で焼成した場合には、その後工程となる還元前処理は省略することができる。他方で、不活性ガス雰囲気や酸化雰囲気で焼成した場合には、白金族元素を還元する処理が必要となる。なお、担持物質である白金族元素の前駆体を液相中で還元することで担体に白金族元素の粒子を析出させ固定化する触媒調製法を用いる場合には、乾燥や焼成の処理を必要としない。
【0048】
(触媒に対する前処理)
ここで、上述のように、水素共存下で焼成して得られた触媒については、焼成処理を行った直後に使用可能であるが、不活性ガス雰囲気あるいは酸化雰囲気で焼成して得られた触媒については、使用前に還元剤により還元処理(還元前処理)を施すことによって触媒活性を高めることが可能である。
【0049】
具体的に、触媒の使用に先立つ前処理としての還元処理は、触媒を構成する担持物質である白金族元素の酸化物を金属単体(粒子)に還元できる還元剤を用いて行うことが好ましい。その還元剤としては、例えば、水素、シュウ酸、クエン酸、メタノール、エタノール、ホルムアルデヒド、ヒドラジン、水素化ホウ素ナトリウムが挙げられる。
【0050】
[セレン化合物の還元方法について]
本実施の形態に係るセレン化合物の還元方法は、上述した固体触媒、すなわち担体に白金族元素を担持させてなる触媒の存在下において、水溶液中のセレン(VI)化合物(セレン酸)を、その水溶液中に共存するヒ素(III)(亜ヒ酸)化合物により還元する。つまり、水溶液中に共存するセレン(VI)化合物とヒ素(III)化合物との相互の酸化還元反応を利用して、両者を同時に処理することで、セレン(VI)化合物を還元する。これにより、セレン(VI)化合物を効果的にセレン単体に還元して回収することができる。
【0051】
ここで、この還元方法においては、セレン(VI)化合物とヒ素(III)化合物が既に共存している水溶液、例えば硫化鉱を乾式製錬する過程における排ガス処理プロセスから排出される、セレン(VI)化合物とヒ素(III)化合物とを含有する廃液を処理対象とすることに限られない。例えば、セレン(VI)化合物を含有する廃液(水溶液)に、ヒ素(III)化合物を含有する廃液を混合することによって、水溶液中にヒ素(III)化合物を共存させる態様も含む。このように、それぞれの水溶液(廃液)を混合して還元反応及び酸化反応を進行させるようにすることができ、またそのときの各水溶液の混合比率を適宜調整することによって、より効果的な酸化還元反応の進行を実現することもできる。
【0052】
6価セレンの化合物であるセレン酸イオンは、HSeO/HSeO 間の標準電極電位(pH変動時)が1.090-0.0886pH(V)であり、pHが低下するに従って平衡論的に還元され易くなる。そのため、セレン(VI)化合物の還元処理においては低pHの条件ほど有利となる。一方で、3価のヒ素化合物である亜ヒ酸イオンは、HAsO/HAsO間の標準電極電位(pH変動時)が0.560-0.0594pH(V)であり、pHが上昇するほど平衡論的に酸化され易くなる。
【0053】
なお、一般的に、オキソ酸の酸化還元反応では、平衡論的には酸化還元電位とpHの両方が関与する。実際に、還元剤単独で還元した場合には、pHが低いほどセレン酸の還元反応が進行する。ところが、この反応系では、pHが低下すると同時に、セレン酸のセレン酸イオンへの解離が抑制されて分子状のセレン酸となるため、固体触媒が作用しやすくなり、その結果還元速度が増大する。
【0054】
そのため、水溶液中のセレン(VI)化合物(セレン酸)を、その水溶液中に含まれるヒ素(III)(亜ヒ酸)化合物により還元する、つまり、セレン(VI)化合物とヒ素(III)化合物との相互の酸化還元反応を利用して両者を同時に処理しながら、セレン(VI)化合物を還元する方法においては、最適なpH範囲が存在することになる。
【0055】
具体的には、水溶液のpHを1以上10以下の酸性から弱アルカリ性の範囲に調整することが好ましく、1.5以上4.0以下の範囲に調整することがより好ましく、1.0以上3.0以下の範囲に調整することがよりさらに好ましい。水溶液のpHが1.0未満であると、亜ヒ酸イオンの酸化反応の速度が小さくなることにより、セレン(VI)化合物の還元効率が低下する可能性がある。また、水溶液のpHが10を超えると、セレン酸イオンの還元反応の速度が小さくなり、セレン(VI)化合物の還元効率が低下する可能性がある。
【0056】
水溶液のpH調整においては、酸を添加することによって行うことができる。具体的には、セレン(VI)化合物を含む水溶液に添加する酸としては、硫酸であることが特に好ましい。なお、酸を添加する場合、塩酸や硝酸等の酸によってもpH調整を行うことができるが、塩酸を用いた場合には白金族元素と錯体を形成して溶解することがあり、また、硝酸のような酸化性の酸を用いた場合にはセレン酸イオンの還元反応が妨害され、また担持物質が溶出する可能性がある。また、水溶液のpHを弱アルカリ性領域に調整する場合は、水酸化ナトリウムのような水溶性のアルカリを添加する等して調整すればよい。
【0057】
本実施の形態に係るセレン(VI)化合物の還元方法では、下記の反応式[1]に示す反応が生じる。反応式[1]に示すように、セレン(VI)はその3倍モルのヒ素(III)により還元されるため、嫌気性雰囲気では化学両論的な比率で混合することによって過不足なく反応する。ただし、工業的には大気中の酸素の混入が不可避であるため、ヒ素(III)化合物が過剰に存在する条件下の方が、過不足なく反応を進めることができる。
Se6++3As3+ → Se(0)+3As5+ ・・・[1]
【0058】
また、この還元方法においては、大気中の酸素及びヒ素(III)化合物以外の酸化剤を含まない条件下で反応を生じさせることが好ましい。大気中の酸素及びヒ素(III)化合物以外の酸化剤が存在する場合、還元触媒として用いる担体に担持した白金族元素からなる担持物質が水溶液中に溶出してしまう可能性があり、それにより触媒活性が低下することがある。
【0059】
そして、酸化還元反応が進行すると、水溶液中のセレン(VI)は還元されてセレン単体(0価)となって沈澱し、ヒ素はヒ酸イオンとなる。したがって、上記反応式[1]に示す酸化還元反応の終了後、生成した固体沈澱(セレン単体)を分離することにより、水溶液中からセレンを有効に除去することができる。
【0060】
≪2.セレンの回収方法≫
上述したように、反応式[1]に示す酸化還元反応により、セレン(VI)化合物をセレン単体に還元することで、水溶液中からセレンを有効に還元して除去することができる。
【0061】
したがって、上述したセレン化合物の還元方法を利用したセレンの回収方法を以下のように定義することができる。すなわち、本実施の形態に係るセレンの回収方法は、セレン(VI)化合物を含有する水溶液からセレンを回収する方法であって、担体に白金族元素を担持させてなる触媒の存在下で、水溶液中のセレン(VI)を、その水溶液中に共存するヒ素(III)化合物により還元する還元工程と、還元により生成したセレン単体を固液分離により回収する回収工程と、を有する。
【0062】
[還元工程]
還元工程は、水溶液中のセレン(VI)化合物を、担体に白金族元素を担持させてなる触媒の存在下で、同じ水溶液中のヒ素(III)化合物により還元する工程である。
【0063】
還元工程における具体的な処理については、セレン(VI)化合物の還元方法の内容と同じであるため、ここでの詳細な説明は省略するが、この還元工程では、水溶液中に含まれるセレン(VI)化合物とヒ素(III)化合物との相互の酸化還元反応を利用して、両者を同時に処理することで、セレン(VI)化合物を還元する。
【0064】
また、上述したように、セレン(VI)化合物とヒ素(III)化合物が既に共存している水溶液を処理対象とすることに限られず、例えば、セレン(VI)化合物を含有する廃液(水溶液)に、ヒ素(III)化合物を含有する廃液を混合することによって、水溶液中にヒ素(III)化合物を共存させる態様も含む。
【0065】
このような方法によれば、水に不溶性の固体触媒を利用するため再利用でき効率的な処理が可能になるとともに、水溶液中に共存するヒ素(III)化合物を還元剤として用いているため、別途に還元剤を添加することなく、効果的にセレン(VI)化合物をセレン単体に還元することができる。また、還元剤として用いるヒ素(III)化合物もまた、難処理化合物であるが、そのヒ素(III)化合物を還元剤として用いることで、自身は有効に酸化されるようになるため、別途に酸化剤を添加することなく、そのヒ素(III)化合物についても効果的に処理(ヒ酸イオンに処理)することができる。
【0066】
[回収工程]
回収工程は、還元により生成したセレン単体を固液分離により回収する工程である。上述したように、還元工程では水溶液中のヒ素(III)化合物の還元作用により、セレン(VI)化合物を固体のセレン単体に還元している。そのため、水溶液中に生成したセレン単体を、例えば濾過等の固液分離操作により分離することで、水溶液中からセレンを効果的に回収することができる。
【0067】
セレン単体を回収するにあたっての固液分離処理の方法は、特に限定されず、公知の方法を用いることができる。また、例示した濾過に限定されるものでもない。
【0068】
なお、還元工程での処理対象である水溶液中に、水に難溶性のセレン化物を形成する金属イオン、例えば銅イオンや銀イオン等が含まれるような場合には、その金属イオンによりセレン化物として沈澱を形成していることもある。その場合、回収工程では、それらセレン化物の固体沈澱も合わせて固液分離して回収する。
【0069】
[ヒ酸塩回収工程]
また、本実施の形態に係るセレンの回収方法では、上述したセレン単体を回収する回収工程の後に、固液分離後の水溶液中に残留するヒ酸イオンをヒ酸塩とし、そのヒ酸塩を回収するヒ酸塩回収工程をさらに有していてもよい。
【0070】
上述したように、還元工程では、水溶液中のセレン(VI)化合物を、同じ水溶液中のヒ素(III)化合物により還元することを特徴としており、この還元反応により、ヒ素(III)化合物自身は酸化される。つまり、セレン(VI)化合物とヒ素(III)化合物との相互の酸化還元反応を利用して両者を同時に処理することで、セレン(VI)化合物を還元すること特徴としている。したがって、還元工程での処理後の水溶液中には、還元により生成したセレン単体と共に、ヒ素(III)が酸化されて生成したヒ酸イオンが生成している。
【0071】
そこで、ヒ酸塩回収工程として、回収工程での固液分離後の水溶液、すなわちセレン単体を分離した後の水溶液に対して陽イオンを添加することによって難溶性のヒ酸塩を生成させ、そのヒ酸塩を固液分離して回収するヒ酸塩回収工程を設けることができる。ヒ素(III)は、セレン(VI)と同様に難処理成分である。セレン(VI)化合物の還元に伴う自身の酸化によってヒ酸イオンを生成させ、それを難溶性のヒ酸塩の形態とすることで、セレンのみならずヒ素についても効果的に回収することができる。
【0072】
ヒ酸塩の生成に際して添加する陽イオンとしては、特に限定されないが、鉄(III)イオン、カルシウム(II)イオン等を挙げることができる。また、陽イオンの添加量としては、水溶液中に生成したヒ酸イオンの量に応じて適宜設定することができる。
【0073】
また、他の実施形態として、還元工程の後、回収工程に先立って、還元工程での処理後の水溶液中に生成したヒ酸イオンを、その水溶液への陽イオンの添加によりヒ酸塩とするヒ酸塩生成工程を有するようにしてもよい。つまり、セレン単体を固液分離して回収する前段階において、水溶液中において難溶性のヒ酸塩を生成させる態様であり、したがってこの場合、回収工程では、水溶液中に生成したセレン単体とヒ酸塩との混合物を固液分離により回収する。
【0074】
このような方法では、セレン単体の固液分離の処理前にヒ酸塩の沈澱も生じさせるものであるため、回収工程では両元素を一緒に回収することができる。
【0075】
ただし、資源回収という観点からすると、セレンとヒ素とを分別回収することがより好ましい。このことから、セレン単体を固液分離して回収する回収工程の後にヒ酸塩回収工程を設け、水溶液中に残留するヒ酸イオンをヒ酸塩の形態にして分別回収する態様とすることが好ましい。
【実施例
【0076】
以下、本発明の実施例を示してより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら制限を受けるものではない。
【0077】
[実施例1:セレン(VI)化合物の還元処理及び担体種類についての試験]
(セレン酸還元触媒の合成)
担持物質であるロジウムを1.0g含有する塩化ロジウム(III)水溶液16mlに、担体である酸化チタン(IV)(製品名:P25,日本デグサ社製)9g(乾燥重量)を添加し、スターラーで撹拌しながら75℃に維持して2時間かけて水分を蒸発させた。その後、さらに80℃の温度で真空乾燥し、次いで、水素中で350℃に維持しながら2時間かけて焼成することによって、触媒(ロジウム担持触媒)を得た。得られた触媒のロジウム品位を分析したところ、ロジウムの担持量は触媒の乾燥質量に対して10質量%であった。
【0078】
また、担体として、酸化チタン(IV)の代わりに二酸化ケイ素(製品名:CARiACT-50,富士シリシア社製)を用いたロジウム担持触媒も別途製造した。
【0079】
(セレン化合物の還元)
セレン酸ナトリウムとして0.63mM、亜ヒ酸ナトリウムとして1.89mMを含有する水溶液100mlを、1M硫酸によりpH3.0に調整し、合成したロジウム担持触媒300mgと共に三口フラスコに入れた。その後、アルゴンガスで置換しながら、80℃にてスターラーで攪拌混合し、セレン酸ナトリウムを還元する処理を行った。
【0080】
図1、2は処理結果を示すグラフ図であり、図1は触媒を構成する担体の種類とセレン(VI)の還元率との関係を示すグラフであり、図2は担体の種類とヒ素(III)の酸化率との関係を示すグラフである。
【0081】
図1、2に示されるように、pH3の酸性条件において、触媒を構成する担体として酸化チタン(IV)を用いた場合には、セレンの還元とヒ素の酸化のいずれもが効果的生じた。一方で、担体として二酸化ケイ素を用いた場合、セレンの還元の抑制傾向が確認された。このことから、担体としては酸化チタンがより適していると判断できる。
【0082】
[実施例2:pH条件についての試験]
水溶液中におけるセレン(VI)とヒ素(III)のモル比を1:1とし、触媒担体として酸化チタン(IV)に限定して、窒素ガスで置換しながら還元処理を行った。このとき、水溶液のpHを1.2、2.8、4.0、7.0の4種類の条件とし、それぞれでセレンの還元及びヒ素の酸化の反応状況を確認した。なお、他の条件は実施例1と同様とした。
【0083】
図3、4は処理結果を示すグラフ図であり、図3はpH条件とセレン(VI)の還元率との関係を示すグラフであり、図4はpH条件とヒ素(III)の酸化率との関係を示すグラフである。
【0084】
図3、4に示されるように、セレン(VI)の還元率、ヒ素(III)の酸化率の双方の反応率を考慮すると、水溶液のpH条件としてはpH1.0以上4.0以下の範囲であることが好ましく、中でもpH2.8付近が至適pHであると考えられる。
【0085】
[実施例3:処理前事前還元についての試験]
触媒担体として酸化チタン(IV)に限定し、また、合成した触媒を使用するに先立ち、事前処理として水素化ホウ素ナトリウム300mgにより還元処理したこと以外は、実施例1と同様の条件で、セレンの還元及びヒ素の酸化の反応状況を確認した。
【0086】
図5は処理結果を示すグラフ図であり、触媒に対する事前還元の前処理の有無とセレン(VI)の還元率との関係を示すグラフである。
【0087】
図5に示されるように、触媒を使用する前に事前還元の前処理を行うことにより、セレン(VI)の還元率が上昇することが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0088】
本願発明に係る方法によれば、例えば非鉄製錬等で問題となる難処理化合物であるセレン(VI)化合物とヒ素(III)化合物とを同時に酸化還元処理することができ、既存工程と組み合わせることにより、いずれも効果的に無害化することができ、産業上の利用価値は極めて高い。
図1
図2
図3
図4
図5