(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-16
(45)【発行日】2024-10-24
(54)【発明の名称】μオキソダイマー錯体
(51)【国際特許分類】
C07C 31/04 20060101AFI20241017BHJP
C07C 31/08 20060101ALI20241017BHJP
C07C 49/92 20060101ALI20241017BHJP
C07D 487/04 20060101ALI20241017BHJP
C07F 9/50 20060101ALI20241017BHJP
C07D 401/04 20060101ALI20241017BHJP
C07C 67/03 20060101ALI20241017BHJP
C07C 69/76 20060101ALI20241017BHJP
B01J 31/22 20060101ALI20241017BHJP
B01J 31/24 20060101ALI20241017BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20241017BHJP
C07F 13/00 20060101ALN20241017BHJP
【FI】
C07C31/04 CSP
C07C31/08
C07C49/92
C07D487/04 147
C07F9/50
C07D401/04
C07C67/03
C07C69/76 A
B01J31/22 Z
B01J31/24 Z
C07B61/00 300
C07F13/00 A
(21)【出願番号】P 2023061561
(22)【出願日】2023-04-05
(62)【分割の表示】P 2020503636の分割
【原出願日】2019-02-28
【審査請求日】2023-04-05
(31)【優先権主張番号】P 2018035579
(32)【優先日】2018-02-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018115565
(32)【優先日】2018-06-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000169466
【氏名又は名称】高砂香料工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】真島 和志
(72)【発明者】
【氏名】長江 春樹
(72)【発明者】
【氏名】平井 崇裕
(72)【発明者】
【氏名】加藤 大樹
(72)【発明者】
【氏名】相馬 秀成
(72)【発明者】
【氏名】明比 慎也
(72)【発明者】
【氏名】秋山 翔子
(72)【発明者】
【氏名】松村 和彦
(72)【発明者】
【氏名】松嶋 義正
【審査官】水島 英一郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-037835(JP,A)
【文献】特開昭55-143935(JP,A)
【文献】国際公開第2015/146294(WO,A1)
【文献】特開平11-292824(JP,A)
【文献】特表2013-512978(JP,A)
【文献】特開2014-159546(JP,A)
【文献】特開2013-177522(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07F
CAplus(STN)
REGISTRY(STN)
CASREACT(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で示されるμオキソダイマー錯体。
【化1】
(式(1)中、
Mは、
Mnを示す。
Aは、カルボン酸残基、ベータ-ジケトネート、ベータ-ジケトイミネート又はベータ-ジケチミネートを示す。
Aがカルボン酸残基である場合、xは2を示し、Aがベータ-ジケトネート、ベータ-ジケトイミネート又はベータ-ジケチミネートである場合、xは1を示す。
Lは含窒素化合物又は含リン化合物を示
し、前記含窒素化合物は置換基を有してもよい2座配位子の含窒素複素環化合物であり、前記含リン化合物は置換基を有してもよいホスフィン化合物、置換基を有してもよいホスファイト化合物、置換基を有してもよいジホスフィン化合物、または置換基を有してもよいアミノホスフィン化合物である。
Zは、置換基を有してもよい低級アルキル基、置換基を有してもよい低級アルコキシ基、置換基を有してもよい低級アルケニル基、置換基を有してもよい低級アルキニル基、置換基を有してもよいハロ低級アルキル基、置換基を有してもよいハロ低級アルケニル基、置換基を有してもよいハロ低級アルキニル基、置換基を有してもよい環式炭化水素基又は置換基を有してもよいヘテロ環式基を示す。)
【請求項2】
請求項
1に記載の
μオキソダイマー錯体の存在下、エステル交換反応させる方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、第四周期遷移金属錯体を触媒として用い、アルコール存在下、N,N-ジアルキルアミド化合物からエステル化合物を製造する方法に関する。
また、本発明は、第四周期遷移金属錯体、μオキソダイマー錯体、アミンとカルボン酸エステルとを反応させアミド化する方法、及びエステル交換反応させる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アミド結合は、天然物・生理活性物質・機能性分子などに広くみられる。アミド結合を有する化合物は、他のカルボン酸誘導体と比較して化学的・熱的に非常に高い安定性を有していることが知られている。加えて、アミド結合は、有機合成化学において、カルボニル基の保護基や配向基としても利用可能な結合様式であり、アミド化合物の効率的な変換反応の開発が望まれている。
【0003】
生物は、細胞機能の制御やタンパク質の分解のため特定のアミド結合(ペプチド結合)の切断を行っている。この切断は、生体内のプロテアーゼを触媒とし、温和な条件(体温程度の温度、中性に近い条件)で進行が可能である。
【0004】
一方、有機合成化学の手法としては、活性化されていないアミド結合の切断は、その安定性の高さから一般的に困難であり、アミド結合の切断には強酸や強塩基、高温などの厳しい条件下で長時間反応させる必要があった。また、アミドの炭素-窒素結合を遷移金属触媒で活性化して、エステル化反応を中性条件で行うことは従来困難と考えられていた。
【0005】
近年、合成化学の手法として長周期型周期表の第四周期遷移金属(第一遷移金属、3d遷移元素)を用いたアミド化合物の変換反応が活発に研究されている
【0006】
非特許文献1では、塩化チタンを触媒として用い、2級アミド化合物をアルコール存在下200℃以上の高い温度で反応させることでエステル化合物が得られることが報告されている。
非特許文献2及び非特許文献3では、Sc(OTf)3及びCeO2を用い、第一級アミド化合物をアルコール存在下において、エステルへと変換可能であることが報告されている。
【0007】
非特許文献4では、アミド化合物のエステル化反応において、N-β-ヒドロキシエチル基を有するアミド化合物が、N,O-アシル転移を経由することで効率的にエステル化されることが報告されている。
また、非特許文献5では、ニッケル錯体Ni(dpm)2を用いて第二級アミドである8-アミノキノリンアミドからエステル化合物を得る反応が報告されている。
これらはいずれも、第一級又は第二級アミドからエステル化合物へ変換する手法であり、第三級アミドからエステル化合物への変換反応に適用することは困難であった。
【0008】
しかし、最近、非特許文献6でニッケルカルベン錯体を用いて第三級アミドのエステル交換反応が初めて報告された。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【文献】Can.J.Chem.72(1994)p.142
【文献】Tetrahedron Lett.55(2014)p.6935
【文献】RSC Adv. 4(2014)p.35803
【文献】Angew.Chem.,Int.Ed.51(2012)p.5723
【文献】ACS Catal.7(2017)p.3157
【文献】Nature 524(2015)p.79
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ただし、非特許文献6におけるエステル化合物へ変換可能な第三級アミド化合物は、N-メチル-N-フェニルアミド化合物のみであり、より嵩高く「不活性な」N,N-ジアルキルアミド化合物からエステル化合物は得られていない。また、触媒として用いているニッケルカルベン錯体は、不安定で毒性が高いため、実用性に乏しいと言わざるを得ない。
【0011】
このように「不活性な」第三級アミド化合物であるN,N-ジアルキルアミドを中性条件かつ触媒的に効率的なエステルへと変換する反応は、未だ報告されていない。
【0012】
本発明の目的は、一般的に反応に対して不活性なN,N-ジアルキルアミドからエステル化合物への中性条件かつ効率的な触媒反応、及び該反応に触媒として用いられる第四周期遷移金属を用いた金属錯体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、第四周期遷移金属を用いた金属プレカーサーと含窒素化合物又は含リン化合物を触媒として加え、アルコール存在下で触媒反応させることにより、温和な条件下でN,N-ジアルキルアミド化合物をエステル化合物へ効率的に変換できることを見出し、本発明を完成するに到った。
【0014】
すなわち、本発明は以下の[1]~[9]に関する。
[1]第四周期遷移金属を有するプレカーサー及び、含窒素化合物又は含リン化合物を反応させることにより得られる第四周期遷移金属錯体を触媒として用いる、N,N-ジアルキルアミド化合物をエステル化合物へ変換する方法。
[2]前記プレカーサーが、ベータ-ジケトネート、ベータ-ジケトイミネート及びベータ-ジケチミネートからなる群から選択される配位子を有する金属錯体、又は第四周期遷移金属のカルボン酸塩であり、
前記含窒素化合物が、二つの窒素原子を有する含窒素化合物であり、
前記含リン化合物が、二つのリン原子を有する含リン化合物である[1]に記載の方法。
[3]前記含窒素化合物が、置換基を有してもよいビピリジン又は置換基を有してもよい1,10-フェナントロリンである[1]又は[2]に記載の方法。
[4]アルコール又はアルコキシド存在下で、第四周期遷移金属を有するプレカーサー及び、含窒素化合物又は含リン化合物を反応させることにより得られる第四周期遷移金属錯体。
[5]前記プレカーサーが、ベータ-ジケトネート、ベータ-ジケトイミネート及びベータ-ジケチミネートからなる群から選択される配位子を有する金属錯体、又は第四周期遷移金属のカルボン酸塩であり、
前記含窒素化合物が、二つの窒素原子を有する含窒素化合物であり、
前記含リン化合物が、二つのリン原子を有する含リン化合物である[4]に記載の第四周期遷移金属錯体。
[6]前記含窒素化合物が、置換基を有してもよいビピリジン又は置換基を有してもよい1,10-フェナントロリンである[4]又は[5]に記載の第四周期遷移金属錯体。
[7]アルコール又はアルコキシド存在下で、
ベータ-ジケトネート、ベータ-ジケトイミネート及びベータ-ジケチミネートからなる群から選択される配位子を有する金属錯体、又は第四周期遷移金属のカルボン酸塩に、
含窒素化合物又は含リン化合物を加え反応させることにより得られる下記一般式(1)で示されるμオキソダイマー錯体。
【0015】
【0016】
(式(1)中、
Mは、第四周期遷移金属を示す。
Aは、カルボン酸残基、ベータ-ジケトネート、ベータ-ジケトイミネート又はベータ-ジケチミネートを示す。
Aがカルボン酸残基である場合、xは2を示し、Aがベータ-ジケトネート、ベータ-ジケトイミネート又はベータ-ジケチミネートである場合、xは1を示す。
Lは含窒素化合物又は含リン化合物を示す。
Zは、置換基を有してもよい低級アルキル基、置換基を有してもよい低級アルコキシ基、置換基を有してもよい低級アルケニル基、置換基を有してもよい低級アルキニル基、置換基を有してもよいハロ低級アルキル基、置換基を有してもよいハロ低級アルケニル基、置換基を有してもよいハロ低級アルキニル基、置換基を有してもよい環式炭化水素基又は置換基を有してもよいヘテロ環式基を示す。)
[8][4]~[6]のいずれか一つに記載の第四周期遷移金属錯体の存在下、アミンとカルボン酸エステルとを反応させアミド化する方法。
[9][4]~[6]のいずれか一つに記載の第四周期遷移金属錯体の存在下、エステル交換反応させる方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明は、第3級アミドであるN,N-ジアルキルアミドをエステル化合物に変換する効率的な触媒反応、及び該反応に触媒として用いられる第四周期遷移金属錯体を提供するものである。
【0018】
本発明の触媒反応を用いることにより、エステル交換反応が容易でない立体障害の大きな第三級アミド化合物もエステル化合物へと変換することができる。これにより、従来に比べて環境調和性、操作性、さらに経済性の向上が見込まれる。
【0019】
さらに、本発明の第四周期遷移金属錯体を用いることで、従来その安定性の高さから合成化学上の柔軟な利用が困難であったアミド結合を、カルボニル基の保護基や配向基としても利用することができ、医農薬中間体、機能性材料及び構造材料などの製造へ応用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】
図1は、実施例79で得られた4,7位にジメチルアミノ基を有する1,10-フェナントロリンを有するマンガン錯体のX線結晶構造解析の結果を表す。
【
図2】
図2は、実施例89において、測定間隔をΔt(=t
i-t
i-1)とし、時間t
i-1からt
iの間の2-ナフトエ酸アミド(1a)の濃度の平均値のα乗を[1a]
αとしたとき、[1a]
αとΔtの積の総和から表される横軸に対して2-ナフトエ酸エステル(2a)の濃度[2a]をプロットすることで反応速度解析した結果を表す。
【
図3】
図3は、実施例89において、横軸として、触媒濃度を用いて正規化した時間t[cat.]
T
n([cat.]
T=触媒濃度)を示し、縦軸に出発原料である2-ナフトエ酸アミド(1a)濃度[1a]の経時変化をプロットすることで反応速度解析した結果を表す。
【
図4】
図4は、実施例89において、横軸に原料2-ナフトエ酸アミド(1a)の濃度の1次と触媒濃度の0.5次を乗じた値[1a]
1・[6a]
0.5を用いて時間を正規化し、2-ナフトエ酸エステル(2a)の濃度[2a]を縦軸にプロットすることで反応速度解析した結果を表す。
【
図5】
図5は、合成例2で得られた単結晶のX線結晶構造解析の結果を表す。
【
図6】
図6は、合成例3で得られた単結晶のX線結晶構造解析の結果を表す。
【
図7】
図7は、合成例4で得られた単結晶のX線結晶構造解析の結果を表す。
【
図8】
図8は、合成例5で得られた単結晶のX線結晶構造解析の結果を表す。
【
図9】
図9は、本発明のアミド化合物をエステル化合物への変換反応の、推定反応機構を表す。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明について具体的に説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、任意に変形して実施することができる。
【0022】
なお、本明細書において、Meとはメチル基を意味し、Etとはエチル基を意味し、Buとはブチル基を意味し、Prとはプロピル基を意味し、Ph及びPhenylとはフェニル基を意味し、Tol及びTolylとはトリル基を意味し、phenとはフェナントロリンを意味する。
【0023】
本発明のN,N-ジアルキルアミド化合物をエステル化合物へ変換する方法は、第四周期遷移金属を有するプレカーサー及び、含窒素化合物又は含リン化合物を反応させることにより得られる第四周期遷移金属錯体を触媒として用いることを特徴とする。
【0024】
<第四周期遷移金属錯体>
第四周期遷移金属錯体は、後述する第四周期遷移金属を有するプレカーサー及び、含窒素化合物又は含リン化合物(以下、リガンド(L)ともいう。)から得ることができる。すなわち、適当な溶媒の存在下で第四周期遷移金属を有するプレカーサーに含窒素複素環化合物又は含リン化合物を加えることで第四周期遷移金属錯体を得ることができる。
なお、第四周期遷移金属錯体の詳細な製造方法は後述する。
【0025】
第四周期遷移金属としては、スカンジウム(Sc)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)が挙げられる。第四周期遷移金属は、内殻の3d軌道に空位の軌道を持つ金属である。第四周期遷移金属としては、好ましくは、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅が挙げられ、より好ましくは、マンガン、コバルトが挙げられ、さらに好ましくは、マンガンが挙げられる。
【0026】
<第四周期遷移金属を有するプレカーサー>
本発明の第四周期遷移金属を有するプレカーサー(以下、「金属プレカーサー」ともいう。)は、無機塩又は有機金属錯体でもよく、無水物又は水和物でもよい。
【0027】
無機塩としては、ハロゲン化物、水酸化物、硫化塩、リン酸塩、硫酸塩、硝酸塩及び過塩素酸塩などが挙げられ、好ましくは、ハロゲン化物が挙げられる。
また、有機金属錯体としては、金属アルコキシド、金属アリールオキシド、金属トリフラート、金属トシラート、金属メシラート、金属カルボキシレート(カルボン酸塩)又はそれらの水和物が挙げられる。
【0028】
また、有機金属錯体は、金属と配位することが可能な配位子を有するものであればよく、好ましくは2座配位子が挙げられ、さらに好ましくはベータ(β)-ジケトネート、ベータ(β)-ジケトイミネート、及びベータ(β)-ジケチミネートを配位子とする金属錯体が挙げられる。
【0029】
これらの中でも、効率的なエステル化合物への変換の観点から、有機金属錯体が好ましく、ベータ-ジケトネート、ベータ-ジケトイミネート及びベータ-ジケチミネートからなる群から選択される配位子有する金属錯体、又は金属カルボキシレート(カルボン酸塩)がより好ましい。
【0030】
なお、ベータ-ジケトネートは下記一般式(2)、ベータ-ジケトイミネートは下記一般式(3)、及びベータ-ジケチミネートは下記一般式(4)で表される。
【0031】
【0032】
式(2)~(4)中、R1、R2、R3及びR4は、それぞれ独立して、水素原子、置換されていてもよい炭素数1~20の飽和炭化水素基、置換されていてもよいアリール基、置換されていてもよいヘテロアリール基、又は置換されていてもよい炭素数1~20のペルフルオロアルキル基であり、置換されていてもよい炭素数1~20の飽和炭化水素基が好ましい。R1、R2、R3及びR4は、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基等の炭素数1~5の直鎖又は分枝状のアルキル基がより好ましい。
【0033】
Xは、それぞれ独立して、水素原子、置換されていてもよい炭素数1~20の飽和炭化水素基、置換されていてもよいアリール基、置換されていてもよいヘテロアリール基、又は置換されていてもよい炭素数1~20のぺルフルオロアルキル基であり、置換されていてもよい炭素数1~20の飽和炭化水素基が好ましい。Xは、水素原子、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基等の炭素数1~5の直鎖又は分枝状のアルキル基がより好ましい。Xは、水素原子がさらに好ましい。
【0034】
有機金属錯体としては、マンガン化合物が特に好ましい。
マンガン化合物の例としては、ハロゲン化マンガン、水酸化マンガン、マンガンアルコキシド、マンガンアリールオキシド、マンガントリフラート、マンガントシラート、マンガンメシラート、マンガンアセチルアセトネート、マンガン2,2,6,6-テトラメチルヘプタン-3,6-ジオネート(ジピバロイルメタネート)(dpm)、マンガンカルボキシレート又はそれらの水和物が挙げられる。好ましくは、二価又は三価のマンガン化合物である。
【0035】
二価のマンガン化合物の例としては、酢酸マンガン(Mn(CH3CO2)2)、酢酸マンガン四水和物(Mn(OAc)2・4H2O)、ギ酸マンガン(Mn(HCOO)2)、シュウ酸マンガン(MnC2O4)、酒石酸マンガン(MnC4H4O6)、オレイン酸マンガン(Mn(C17H33COO)2)、塩化マンガン(MnCl2)、臭化マンガン(MnBr2)、フッ化マンガン(MnF2)、ヨウ化マンガン(MnI2)、水酸化マンガン(Mn(OH)2)、硫化マンガン(MnS)、炭酸マンガン(MnCO3)、過塩素酸マンガン(Mn(ClO4)2)、硫酸マンガン(MnSO4)、硝酸マンガン(Mn(NO3)2)、リン酸マンガン(Mn3(PO4)2,MnHPO4,Mn(H2PO4)2)、二リン酸マンガン(Mn2P2O7)、次亜リン酸マンガン(H4MnO4P2)、メタリン酸マンガン(Mn(PO3)2)、ヒ酸マンガン(Mn3(AsO4)2)、ホウ酸マンガン(MnB4O7)、マンガンアセチルアセトネート(Mn(acac)2)、マンガンアセチルアセトネート二水和物(Mn(acac)2・2H2O)、ビス(ジピバロイルメタネート)マンガン(Mn(dpm)2)、ビス(ヘキサフルオロアセチルアセトネート)マンガン(Mn(hfac)2)、ビス(ヘキサフルオロアセチルアセトネート)マンガン二水和物(Mn(hfac)2・2H2O)などが挙げられる。
【0036】
三価のマンガン化合物の例としては、酢酸マンガン(Mn(CH3CO2)3)、酢酸マンガン二水和物(Mn(OAc)3・2H2O)、ギ酸マンガン(Mn(HCOO)3)、フッ化マンガン(MnF3)、水酸化マンガン(MnO(OH))、硫酸マンガン(Mn2(SO4)3)、リン酸マンガン(MnPO4)、二リン酸マンガン(Mn4(P2O7)3)、ヒ酸マンガン(MnAsO4)、マンガンアセチルアセトネート(Mn(acac)3)、トリス(ジピバロイルメタネート)マンガン(Mn(dpm)3)などが挙げられる。
【0037】
マンガン化合物として好ましくは有機マンガン錯体が挙げられ、より好ましくは、マンガンのカルボン酸塩(酢酸マンガン等)、又はベータ-ジケトネート、ベータ-ジケトイミネート、及びベータ-ジケチミネートからなる群から選択される配位子を有するマンガン錯体が挙げられる。
【0038】
ベータ-ジケトネートとしては、ジピバロイルメタネート(2,2,6,6‐テトラメチル‐3,5‐ヘプタンジオネート)、2,6‐ジメチル‐3,5‐ヘプタンジオネート、2,2,6,6‐テトラメチル‐3,5‐オクタンジオネート、2,2,6‐トリメチル‐3,5‐ヘプタンジオネート、6‐エチル‐2,2‐ジメチル‐3,5‐オクタンジオネートなどである。さらに好ましくは、マンガンアセチルアセトネート、マンガンジピバロイルメタネートが挙げられる。
【0039】
<含窒素化合物>
本発明において含窒素化合物としては、脂肪族アミン、芳香族アミン、含窒素複素環化合物が挙げられる。これらの含窒素化合物は、置換基を有してもよい。
【0040】
脂肪族アミンとは、アンモニア(NH3)の水素原子の代わりに脂肪族基が置換したものを意味する。脂肪族基としては、炭素数1~10の直鎖又は分岐のアルキル基あるいは脂環式基が挙げられ、より好ましくは、炭素数1~6の直鎖又は分岐のアルキル基あるいは脂環式基である。脂肪族アミンには、置換基を有してもよい。
【0041】
具体的な脂肪族アミンとしては、例えばエチレンジアミン、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、イソプロピルアミン、2-エチルヘキシルアミン、tert-ブチルアミン、ジエチルアミン、ジイソプロピルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、トリス(2,2’,2’’-アミノエチル)アミン、N,N’-ビス(2-アミノエチル)-1,3-プロパンジアミン、N,N’-ビス(3-アミノプロピル)エチレンジアミン、ビス(3-アミノプロピル)アミン、1,2-ビス(3-アミノプロピルアミノ)エタン、1,4-ビス(3-アミノプロピル)ピペリジン、シクロプロピルアミン、シクロヘキシルアミン等が挙げられる。
【0042】
好ましくは、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、トリス(2,2’,2’’-アミノエチル)アミン、N,N’-ビス(2-アミノエチル)-1,3-プロパンジアミン、N,N’-ビス(3-アミノプロピル)エチレンジアミン、ビス(3-アミノプロピル)アミン、1,2-ビス(3-アミノプロピルアミノ)エタン、1,4-ビス(3-アミノプロピル)ピペリジンなどが挙げられ、より好ましくは置換基を有するエチレンジアミン、又は置換基を有するジエチレントリアミンが挙げられる。
【0043】
芳香族アミンとは、アンモニアの水素原子の代わりに芳香族基が置換したものを意味する。芳香族基としては、芳香族性を示す単環あるいは複数の環(縮合環)からなる芳香族基が挙げられる。
【0044】
具体的な芳香族アミンとしては、アニリン、トルイジン、キシリジン、アニシジン、ナフチルアミン、ジフェニルアミン、トリフェニルアミン、ベンジジン、1,2-フェニレンジアミン、4-フルオロー1,2-フェニレンジアミン、2,3-ジアミノトルエン、3,4-ジアミノトルエン、3,3’-ジアミノベンジン、3,4-ジアミノベンゾフェノン、4,5-ジクロロ-1,2-フェニレンジアミン、3,4-ジアミノ安息香酸等が挙げられる。
【0045】
好ましくは、1,2-フェニレンジアミン、4-フルオロー1,2-フェニレンジアミン、2,3-ジアミノトルエン、3,4-ジアミノトルエン、3,3’-ジアミノベンジン、3,4-ジアミノベンゾフェノン、4,5-ジクロロ-1,2-フェニレンジアミン、3,4-ジアミノ安息香酸などが挙げられる。
【0046】
芳香族アミンは、置換基を有してもよい。好ましくは、炭素数1~10の直鎖又は分岐のアルキル基あるいは脂環式基を置換基として有してもよい。
【0047】
含窒素複素環化合物は、複素環の単環あるいは複数の環(縮合環)からなる化合物が挙げられ、置換基を有してもよい。
【0048】
具体的な置換もしくは無置換の含窒素複素単環化合物としては、ピリジン、2,2’-ビピリジン等のビピリジン、2,3-ジアミノピリジン、3,4-ジアミノピリジン、2,5-ジアミノ-5-ブロモピリジン、6,6’-ジアミノ-2,2’-ビピリジル、2,2’-ビ-4-ピコリン、6,6’-ビ-3-ピコリン、フタロシアニン、2,2’-ビキノリン、4-ジメチルアミノピリジン(DMAP)が挙げられる。
【0049】
好ましくは置換基を有するピリジンが挙げられ、さらに好ましくは、4-ジメチルアミノピリジン(DMAP)、無置換及び置換基を有してもよいビピリジンが挙げられるが、特に好ましくは、置換基として電子供与基を有するビピリジンである。
電子供与基としては、炭素数1~50のアルキル基、アルキルオキシ基、置換アミノ基が挙げられる。さらに好ましくは置換アミノ基が挙げられる。
【0050】
置換もしくは無置換の含窒素複素縮合環化合物としては、1-インドリン、2-インドリン、3-インドリン、4-インドリン、5-インドリン、6-インドリン、7-インドリン、1-イソインドリン、2-イソインドリン、3-イソインドリン、4-イソインドリン、5-イソインドリン、6-イソインドリン、7-イソインドリン、キノリン、3-キノリン、4-キノリン、5-キノリン、6-キノリン、7-キノリン、8-キノリン、1-イソキノリン、3-イソキノリン、4-イソキノリン、5-イソキノリン、6-イソキノリン、7-イソキノリン、8-イソキノリン、2-キノキサリン、5-キノキサリン、6-キノキサリン、1-カルバゾリン、2-カルバゾリン、3-カルバゾリン、4-カルバゾリン、9-カルバゾリン、1-フェナントリジン、2-フェナントリジン、3-フェナントリジン、4-フェナントリジン、6-フェナントリジン、7-フェナントリジン、8-フェナントリジン、9-フェナントリジン、10-フェナントリジン、1-アクリジン、2-アクリジン、3-アクリジン、4-アクリジン、9-アクリジン、1,7-フェナントロリン、1,8-フェナントロリン、1,9-フェナントロリン、1,10-フェナントロリン、2,9-フェナントロリン、2,8-フェナントロリン、2,7-フェナントロリン、1-フェナジン、2-フェナジン、1-フェノチアジン、2-フェノチアジン、3-フェノチアジン、4-フェノチアジン、10-フェノチアジン、1-フェノキサジン、2-フェノキサジン、3-フェノキサジン、4-フェノキサジン、10-フェノキサジン、2-メチル-1-インドリン、4-メチル-1-インドリン、2-メチル-3-インドリン、4-メチル-3-インドリン、2-tert-ブチル-1-インドリン、4-tert-ブチル-1-インドリン、2-tert-ブチル-3-インドリン、4-tert-ブチル-3-インドリン等が挙げられる。
【0051】
含窒素化合物は、第四周期遷移金属に対して配位することが可能な配位子であればよく、好ましくは2座配位子がよい。さらに含窒素化合物は、二つの窒素原子を有する含窒素化合物が好ましい。二つの窒素原子を有する含窒素化合物のなかでもより好ましい化合物として、ビピリジン、フェナントロリンが挙げられる。さらに好ましくは無置換又は置換基を有する2,2’-ビピリジン又は、1,10-フェナントロリンが挙げられる。さらに好ましくは置換基を有する1,10-フェナントロリンが挙げられるが、特に好ましくは置換基として電子供与基を有する1,10-フェナントロリンである。
【0052】
含窒素化合物が有していてもよい置換基としては、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等)、アルキル基、非縮合環アリール基及び非縮合環ヘテロアリール基、置換アミノ基、アルキルオキシ基が挙げられる。
【0053】
好ましい含窒素化合物が有していてもよい置換基としては、電子供与基が挙げられる。電子供与基としては、炭素数1~50のアルキル基、アルキルオキシ基、置換アミノ基が挙げられる。さらに好ましくは置換アミノ基が挙げられる。
【0054】
非縮合環アリール基としては前記環形成炭素数6~20の非縮合環アリール基が挙げられ、非縮合環ヘテロアリール基としては環形成原子数5~20の非縮合環ヘテロアリール基が挙げられる。
【0055】
炭素数1~50のアルキル基は、直鎖状でも分岐状でもよく、シクロアルキル基であってもよい。アルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基、2-メチルブチル基、1-メチルブチル基、n-ヘキシル基、イソヘキシル基、3-メチルペンチル基、2-メチルペンチル基、1-メチルペンチル基、ヘプチル基、オクチル基、イソオクチル基、2-エチルヘキシル基、3,7-ジメチルオクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、テトラデシル基、ヘキサデシル基、オクタデシル基、エイコシル基等の鎖状アルキル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、アダマンチル基等のシクロアルキル基が挙げられる。
アルキルオキシ基は、直鎖状でも分岐状でもよく、シクロアルキルオキシ基であってもよい。
【0056】
アルキルオキシ基は、置換基を有していてもよい。アルキルオキシ基の炭素数は、通常1~20程度であり、アルキルオキシ基の具体例としては、メトキシ基、エトキシ基、プロピルオキシ基、イソプロピルオキシ基、ブトキシ基、イソブトキシ基、tert-ブトキシ基、ペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基、ヘプチルオキシ基、オクチルオキシ基、2-エチルヘキシルオキシ基、ノニルオキシ基、デシルオキシ基、3,7-ジメチルオクチルオキシ基、ラウリルオキシ基、トリフルオロメトキシ基、ペンタフルオロエトキシ基、パーフルオロブトキシ基、パーフルオロヘキシル基、パーフルオロオクチル基、メトキシメチルオキシ基、2-メトキシエチルオキシ基が挙げられる。
好ましいアルキルオキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロピルオキシ基、イソプロピルオキシ基、ブトキシ基、イソブトキシ基、tert-ブトキシ基が挙げられる。
【0057】
置換アミノ基は、その炭素数が通常1~40程度である。置換基アミノ基の具体例としては、メチルアミノ基、ジメチルアミノ基、エチルアミノ基、ジエチルアミノ基、プロピルアミノ基、ジプロピルアミノ基、イソプロピルアミノ基、ジイソプロピルアミノ基、ブチルアミノ基、イソブチルアミノ基、tert-ブチルアミノ基、ペンチルアミノ基、ヘキシルアミノ基、シクロヘキシルアミノ基、ヘプチルアミノ基、オクチルアミノ基、2-エチルヘキシルアミノ基、ノニルアミノ基、デシルアミノ基、3,7-ジメチルオクチルアミノ基、ラウリルアミノ基、シクロペンチルアミノ基、ジシクロペンチルアミノ基、シクロヘキシルアミノ基、ジシクロヘキシルアミノ基、ピロリジル基、ピペリジル基、ジトリフルオロメチルアミノ基、フェニルアミノ基、ジフェニルアミノ基、C1~C12アルキルオキシフェニルアミノ基、ジ(C1~C12アルキルオキシフェニル)アミノ基、ジ(C1~C12アルキルフェニル)アミノ基、1-ナフチルアミノ基、2-ナフチルアミノ基、ペンタフルオロフェニルアミノ基、ピリジルアミノ基、ピリダジニルアミノ基、ピリミジルアミノ基、ピラジルアミノ基、トリアジルアミノ基、フェニル-C1~C12アルキルアミノ基、C1~C12アルキルオキシフェニル-C1~C12アルキルアミノ基、C1~C12アルキルフェニル-C1~C12アルキルアミノ基、ジ(C1~C12アルキルオキシフェニル-C1~C12アルキル)アミノ基、ジ(C1~C12アルキルフェニル-C1~C12アルキル)アミノ基、1-ナフチル-C1~C12アルキルアミノ基、2-ナフチル-C1~C12アルキルアミノ基が挙げられる。
【0058】
好ましくは、置換アミノ基としてメチルアミノ基、ジメチルアミノ基、エチルアミノ基、ジエチルアミノ基、プロピルアミノ基、ジプロピルアミノ基、イソプロピルアミノ基、ジイソプロピルアミノ基、ブチルアミノ基、イソブチルアミノ基、tert-ブチルアミノ基が挙げられる。さらに好ましくは、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ジプロピルアミノ基、ジイソプロピルアミノ基が挙げられる。
【0059】
<含リン化合物>
含窒素化合物の代わりに、含リン化合物を金属配位子として用いることができる。
含リン化合物は、一座配位子又は二座配位子でもよい。
含リン化合物は、置換基を有していてもよい。含リン化合物が有していてもよい置換基としては、アルキル基、非縮合環アリール基及び非縮合環ヘテロアリール基、置換アミノ基、アルキルオキシ基が挙げられ、これらの具体例は上記のとおりである。
【0060】
一座配位子としては、ホスフィン化合物、ホスファイト化合物が挙げられる。
二座配位子としては、ジホスフィン化合物、アミノホスフィン化合物が挙げられる。
含リン化合物の具体例としては、例えば、トリフェニルホスフィン、トリトリルホスフィン、トリメチルホスフィン、トリエチルホスフィン、メチルジフェニルホスフィン、ジメチルフェニルホスフィン、ビス(ジフェニルホスフィノ)メタン(dppm)、ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン(dppe)、ビス(ジフェニルホスフィノ)プロパン(dppp)、ビス(ジフェニルホスフィノ)ブタン(dppb)、ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン(dppf)等のホスファン化合物、トリメチルホスファイト、トリエチルホスファイト、トリフェニルホスファイト等のホスファイト化合物等が挙げられる。
【0061】
二座配位性の含リン化合物として、例えば、下記一般式(B)で表される含リン化合物が挙げられる。
RP1RP2P-Q-PRP3RP4 (B)
【0062】
(式(B)中、RP1、RP2、RP3及びRP4は、それぞれ独立して置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有していてもよいシクロアルキル基、置換基を有していてもよいアルキル基を表し、RP1とRP2とで及び/又はRP3とRP4とで環を形成してもよい。Qは置換基を有していてもよい二価のアリーレン基又は置換基を有していてもよいフェロセンジイル基を表す。)
【0063】
上記式中、RP1、RP2、RP3及びRP4で表される、置換基を有していてもよいアリール基としては、例えば炭素数6~14のアリール基が挙げられ、具体的にはフェニル基、ナフチル基、アントリル基、フェナントリル基、ビフェニル基等が挙げられる。これらアリール基は1乃至2以上の置換基を有していてもよく、該置換基としては、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、複素環基等が挙げられる。
【0064】
アリール基の置換基としてのアルキル基としては、直鎖状又は分岐状の、例えば炭素数1~15、好ましくは炭素数1~10、より好ましくは炭素数1~6のアルキル基が挙げられ、具体例としては、例えばメチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、s-ブチル基、イソブチル基及びtert-ブチル基等が挙げられる。
【0065】
アリール基の置換基としてのアルコキシ基としては、直鎖状又は分岐状の、例えば炭素数1~6のアルコキシ基が挙げられ、具体的にはメトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、イソプロポキシ基、n-ブトキシ基、s-ブトキシ基、イソブトキシ基及びtert-ブトキシ基等が挙げられる。
【0066】
アリール基の置換基としてのアリール基としては、例えば炭素数6~14のアリール基が挙げられ、具体的にはフェニル基、ナフチル基、アントリル基、フェナントリル基、ビフェニル基等が挙げられる。
【0067】
アリール基の置換基としての複素環基としては、脂肪族複素環基及び芳香族複素環基が挙げられる。
脂肪族複素環基としては、例えば炭素数2~14で、異種原子として少なくとも1個、好ましくは1~3個の例えば窒素原子、酸素原子、硫黄原子等のヘテロ原子を含んでいる、5~8員、好ましくは5又は6員の単環、それら単環からなる多環又は縮合環の脂肪族複素環基が挙げられる。
【0068】
脂肪族複素環基の具体例としては、例えば、2-オキソピロリジル基、ピペリジノ基、ピペラジニル基、モルホリノ基、テトラヒドロフリル基、テトラヒドロピラニル基、テトラヒドロチエニル基等が挙げられる。
【0069】
一方、芳香族複素環基としては、例えば炭素数2~15で、ヘテロ原子として少なくとも1個、好ましくは1~3個の窒素原子、酸素原子、硫黄原子等のヘテロ原子を含んでいる、5~8員、好ましくは5又は6員の単環、それら単環からなる多環又は縮合環のヘテロアリール基が挙げられる。
【0070】
具体的にはフリル基、チエニル基、ピリジル基、ピリミジニル基、ピラジニル基、ピリダジニル基、ピラゾリル基、イミダゾリル基、オキサゾリル基、チアゾリル基、ベンゾフリル基、ベンゾチエニル基、キノリル基、イソキノリル基、キノキサリル基、フタラジニル基、キナゾリニル基、ナフチリジニル基、シンノリニル基、ベンゾイミダゾリル基、ベンゾオキサゾリル基、ベンゾチアゾリル基等が挙げられる。
【0071】
また、RP1、RP2、RP3及びRP4で表される、置換基を有していてもよいシクロアルキル基としては、5員環又は6員環のシクロアルキル基が挙げられ、好ましいシクロアルキル基としては、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等が挙げられる。これらシクロアルキル基の環上においては、前記アリール基の置換基として挙げたようなアルキル基又はアルコキシ基等の置換基で、1乃至2以上置換されていてもよい。
【0072】
また、RP1、RP2、RP3及びRP4で表される、置換基を有していてもよいアルキル基としては、直鎖状又は分岐状の、例えば炭素数1~15、好ましくは炭素数1~10、より好ましくは炭素数1~6のアルキル基が挙げられる。具体例としては、例えばメチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、s-ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基及びヘキシル基等が挙げられる。これらアルキル基は1乃至2以上の置換基を有していてもよく、置換基としては、例えば、アルコキシ基、ハロゲン原子等が挙げられる。アルコキシ基としては、前記アリール基の置換基として記載したアルコキシ基が挙げられる。
【0073】
また、RP1とRP2及び/又はRP3とRP4とで形成してもよい環としては、RP1、RP2、RP3及びRP4が結合しているリン原子を含めた環として、四員環、五員環又は六員環の環が挙げられる。具体的な環としては、ホスフェタン環、ホスホラン環、ホスファン環、2,4-ジメチルホスフェタン環、2,4-ジエチルホスフェタン環、2,5-ジメチルホスホラン環、2,5-ジエチルホスホラン環、2,6-ジメチルホスファン環、2,6-ジエチルホスファン環等が挙げられ、これらの環は光学活性体でもよい。
【0074】
また、Qで表される、置換基を有していてもよい二価のアリーレン基としては、フェニレン基、ビフェニルジイル基、ビナフタレンジイル基等の炭素数が6~20のアリーレン基が挙げられる。
フェニレン基としては、o又はm-フェニレン基が挙げられ、該フェニレン基は、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、s-ブチル基、イソブチル基及びtert-ブチル基等の炭素数が1~4のアルキル基;メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、イソプロポキシ基、n-ブトキシ基、s-ブトキシ基、イソブトキシ基及びtert-ブトキシ基等の炭素数が1~4のアルコキシ基;水酸基、アミノ基又は置換アミノ基(置換アミノ基の置換基としては、炭素数1~4のアルキル基)等で置換されていてもよい。
【0075】
ビフェニルジイル基及びビナフタレンジイル基としては、1,1’-ビアリール-2,2’-ジイル型の構造を有するものが好ましく、該ビフェニルジイル基及びビナフタレンジイル基は、前記したようなアルキル基、アルコキシ基、例えばメチレンジオキシ基、エチレンジオキシ基、トリメチレンジオキシ基等のアルキレンジオキシ基、水酸基、アミノ基、置換アミノ基等で置換されていてもよい。
【0076】
また、フェロセンジイル基も置換基を有していてもよく、置換基としては、前記したようなアルキル基、アルコキシ基、アルキレンジオキシ基、水酸基、アミノ基、置換アミノ基等が挙げられる。
【0077】
さらに、二座配位性の含リン化合物は、その分子内に光学活性化合物となるような光学活性部位を有していてもよい。光学活性部位を有する二座配位性の含リン化合物としては、例えば、下記一般式(5)で示される光学活性二座ホスフィン配位子が挙げられる。
【0078】
【0079】
(式(5)中、R11~R14は、各々独立に、置換基を有していてもよいアリール基、炭素数3~10のシクロアルキル基を示し、また、R11とR12、R13とR14は、それぞれお互いに隣接するリン原子と一緒になって複素環を形成していてもよく;R15及びR16は、各々独立に、水素原子、炭素数1~5のアルキル基、炭素数1~5のアルコキシ基、ジ(炭素数1~5アルキル)アミノ基、5~8員の環状アミノ基又はハロゲン原子を示し;R17は、炭素数1~5のアルキル基、炭素数1~5のアルコキシ基、ジ(炭素数1~5アルキル)アミノ基、5~8員の環状アミノ基又はハロゲン原子を示し;また、R15とR16、R16とR17は、それぞれお互いに一緒になって、縮合ベンゼン環、縮合置換ベンゼン環、トリメチレン基、テトラメチレン基、ペンタメチレン基、メチレンジオキシ基、エチレンジオキシ基又はトリメチレンジオキシ基を形成してもよい。)
【0080】
また、前記含リン化合物の具体例としては、例えば、1,2-ビス(アニシルフェニルホスフィノ)エタン(DIPAMP)、1,2-ビス(アルキルメチルホスフィノ)エタン(BisP*)、2,3-ビス(ジフェニルホスフィノ)ブタン(CHIRAPHOS)、1,2-ビス(ジフェニルホスフィノ)プロパン(PROPHOS)、2,3-ビス(ジフェニルホスフィノ)-5-ノルボルネン(NORPHOS)、2,3-O-イソプロピリデン-2,3-ジヒドロキシ-1,4-ビス(ジフェニルホスフィノ)ブタン(DIOP)、1-シクロヘキシル-1,2-ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン(CYCPHOS)、1-置換-3,4-ビス(ジフェニルホスフィノ)ピロリジン(DEGPHOS)、2,4-ビス-(ジフェニルホスフィノ)ペンタン(SKEWPHOS)、1,2-ビス(置換ホスホラノ)ベンゼン(DuPHOS)、1,2-ビス(置換ホスホラノ)エタン(BPE)、1-{(置換ホスホラノ)-2-(ジフェニルホスフィノ)ベンゼン}(UCAP-Ph)、1-{ビス(3,5-ジメチルフェニル)ホスフィノ}-2-(置換ホスホラノ)ベンゼン(UCAP-DM)、1-(置換ホスホラノ)-2-[ビス{3,5-ジ(tert-ブチル)-4-メトキシフェニル}ホスフィノ]ベンゼン(UCAP-DTBM)、1-{(置換ホスホラノ)-2-(ジ-ナフタレン-1-イル-ホスフィノ)ベンゼン(UCAP-(1-Nap)}、2,2’-ビス(ジフェニルホスフィノ)-1,1’-ビシクロペンタン(BICP)、2,2’-ビス(ジフェニルホスフィノ)-1,1’-ビナフチル(BINAP)、2,2’-ビス(ジフェニルホスフィノ)-1,1’-(5,5’,6,6’,7,7’,8,8’-オクタヒドロビナフチル)(H8-BINAP)、2,2’-ビス(ジ-p-トリルホスフィノ)-1,1’-ビナフチル(TOL-BINAP)、2,2’-ビス{ジ(3,5-ジメチルフェニル)ホスフィノ}-1,1’-ビナフチル(DM-BINAP)、2,2’-ビス(ジフェニルホスフィノ)-6,6’-ジメチル-1,1’-ビフェニル(BICHEP)、(4,4’-ビ-1,3-ベンゾジオキソール)-5,5’-ジイルビス(ジフェニルホスフィン)(SEGPHOS)、(4,4’-ビ-1,3-ベンゾジオキソール)-5,5’-ジイルビス[ビス(3,5-ジメチルフェニル)ホスフィン](DM-SEGPHOS)、[(4S)-(4,4’-ビ-1,3-ベンゾジオキソール)-5,5’-ジイル]ビス[ビス{3,5-ビス(1,1-ジメチルエチル)-4-メトキシフェニル}ホスフィン](DTBM-SEGPHOS)等のジホスフィン化合物等が挙げられる。
【0081】
これらの中でも、含リン化合物は、効率的なエステル化合物への変換の観点から、第四周期遷移金属と配位を形成しやすい電子状況及び配置を有するジホスフィン化合物等の二つのリン原子を有する含リン化合物が好ましく、二つのリン原子を有する含リン化合物は、上記含リン化合物の具体例で示したものの中から適宜選択することができる。
【0082】
なお、含窒素化合物および含リン化合物は、リン原子と窒素原子を一つずつ有する二座配位性アミノホスフィン化合物であってもよい。
二座配位性アミノホスフィン化合物としては、例えば下記一般式(C)で表される光学活性アミノホスフィン化合物が挙げられる。
R6R7P-Q7-Cg(R36R37)-NR22R23 (C)
【0083】
(式(C)中、Q7はスペーサー又は結合手を示し、置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有していてもよいシクロアルキル基又は置換基を有していてもよいアルキル基をそれぞれ組み合わせてもよい。R6、R7、R22及びR23は、それぞれ独立して置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有していてもよいシクロアルキル基又は置換基を有していてもよいアルキル基を表し、R36及びR37は、それぞれ独立して、水素原子、置換基を有していてもよい炭化水素基又は置換基を有していてもよい複素環基を示す。gは0又は1を示す。R22又はR23とR36又はR37とCgとNとが結合して、炭素環や脂肪族環等の環を形成していてもよい。)
【0084】
式(C)中、置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有していてもよいシクロアルキル基としては、上記一般式(B)で用いることができるものと同様のものを用いることができる。
【0085】
また、置換基を有していてもよい炭化水素基としては、例えばアリール基、シクロアルキル基、アルキル基等が挙げられる。アルキル基としては、上記一般式(B)で用いることができるものと同様のものを用いることができる。
【0086】
置換基を有していてもよい複素環基としては、例えば脂肪族複素環基及び芳香族複素環基等が挙げられる。
脂肪族複素環基としては、例えば炭素数2~14で、異種原子として少なくとも1個、好ましくは1~3個の例えば窒素原子、酸素原子、硫黄原子等のヘテロ原子を含んでいる、5~8員、好ましくは5又は6員の単環、それら単環からなる多環又は縮合環の脂肪族複素環基が挙げられる。
芳香族複素環基としては、例えば炭素数2~15で、ヘテロ原子として少なくとも1個、好ましくは1~3個の窒素原子、酸素原子、硫黄原子等のヘテロ原子を含んでいる、5~8員、好ましくは5又は6員の単環、それら単環からなる多環又は縮合環のヘテロアリール基が挙げられる。
【0087】
なお、上記置換基としては、上記一般式(B)中のアリール基が有していてもよい置換基と同様のものを用いることができる。
【0088】
二座配位性のアミノホスフィン化合物は、光学活性化合物となるような光学活性部位をその分子内に有する下記のような化合物であってもよい。
【0089】
【0090】
また、二座配位性のアミノホスフィン化合物は、下記化合物のようにアミノホスフィン化合物でもよい。
【0091】
【0092】
<第四周期遷移金属錯体の製造方法>
本発明の第四周期遷移金属錯体は、例えば金属プレカーサーに含窒素化合物又は含リン化合物を添加することによって製造できる。
【0093】
含窒素化合物又は含リン化合物の添加量としては、金属プレカーサーに対して、含窒素化合物又は含リン化合物中の窒素原子又はリン原子の数が2つである化合物の場合は等モル以上、好ましくは1.1倍モル以上であり、含窒素化合物又は含リン化合物中の窒素原子又はリン原子の数が1つである化合物の場合は、2倍モル以上、好ましくは2.2倍モル以上である。
【0094】
含窒素化合物又は含リン化合物を添加する際に用いる溶媒としては、本発明の第四周期遷移金属錯体形成に影響しない溶媒であれば、いずれも使用可能である。また、原料として用いる金属プレカーサー及び含窒素化合物又は含リン化合物が溶解できる溶媒が好ましい。例えば、テトラヒドロフラン(THF)、ベンゼン、トルエン、キシレン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、アルコール類などを使用することが出来る。好ましくは、アルコール類又は、THFなどの溶媒が挙げられるが、アルコール類がより好ましい。
【0095】
反応温度は、原料として用いる金属プレカーサー及び含窒素化合物又は含リン化合物が溶解できる温度以上であることが好ましく、30℃~250℃、より好ましくは80℃~160℃である。
【0096】
反応時間は、特に限定されないが、通常約1~45時間、好ましくは約2~24時間程度で行うことができる。これらの条件は使用される原料等の種類及び量により適宜変更される。
上記条件で得られた本発明の第四周期遷移金属錯体は空気中で安定であるが、不活性ガス存在下で取り扱うことが好ましい。不活性ガスとしては、好ましくは窒素又はアルゴン等が挙げられる。
【0097】
本発明の第四周期遷移金属錯体を触媒として使用する場合、適当な溶媒(例えば、アルコール)の存在下において予め調製した第四周期遷移金属錯体を得た後に反応系に添加してもよい。このように金属プレカーサーに含窒素化合物又は含リン化合物を添加して反応させることで本発明の第四周期遷移金属錯体からなる触媒を得ることができる。
【0098】
アルコール存在下で反応させることにより、アルコール由来の酸素原子を第四周期遷移金属からなる金属原子二つで架橋した第四周期遷移金属錯体が得られる。本発明の第四周期遷移金属錯体がアミド化合物からエステル変換の触媒として主に働いている。
【0099】
金属プレカーサーとしては、例えば、後述の一般式(15)で表される化合物のように、第四周期遷移金属Mと、Aで示されるカルボン酸残基、ベータ(β)-ジケトネート、ベータ(β)-ジケトイミネート又はベータ(β)-ジケチミネートからなる化合物が挙げられる。
【0100】
β-ジケトンは、特に互変異性体であるエノールもしくはエノラート(ベータ(β)-ジケトネート)を形成する傾向がある。これは、別のカルボニル基と共にエノールもしくはエノラートが共役するためであると共に、錯体を(例えば、マンガンと)形成する場合、6員環を形成することにより得られる安定性に寄与する。β-ジケトンイミン、β-ジケチミンについても同様である。
【0101】
β-ジケトンとしては、アセチルアセトン、2,4-ペンタンジオン、1,3-ビス(p-メトキシフェニル)-1,3-プロパンジオン、5,5-ジメチル-1,3-シクロヘキサンジオン、2,6-ジメチル-3,5-ヘプタンジオン、1,3-ジ(2-ナフチル)-1,3-プロパンジオン、1,3-ジフェニル-1,3-プロパンジオン、2,4-ヘキサンジオン、6-メチル-2,4-ペンタンジオン、4,6-ノナンジオン、1-フェニル-1,3-ブタンジオン、1-フェニル-2,4-ペンタンジオン、2,2,6,6-テトラメチル-ヘプタン-3,5-ジオンなどが挙げられる。
【0102】
金属プレカーサーは、他の金属プレカーサーの原料(例えば、無機塩、例えばハロゲン化物など)とβ-ジケトン、β-ジケトイミン、及びβ-ジケチミンからなる群から選択される化合物を用いて反応系中で合成することができる。
【0103】
金属プレカーサーとして、下記一般式(15)で表される[M(A)(OZ)(OHZ)]4キュバン錯体のような、本発明のμオキソダイマー錯体[M(A)x(OZ)(L)]2を合成することができる化合物も挙げられる。
【0104】
式(15)中、Zは、置換基を有してもよい低級アルキル基、置換基を有してもよい低級アルコキシ基、置換基を有してもよい低級アルケニル基、置換基を有してもよい低級アルキニル基、置換基を有してもよいハロ低級アルキル基、置換基を有してもよいハロ低級アルケニル基、置換基を有してもよいハロ低級アルキニル基、置換基を有してもよい環式炭化水素基又は置換基を有してもよいヘテロ環式基を示す。
【0105】
なお、本発明において、置換基を有してもよい低級アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、2,2-ジメチルプロピル基、1-エチルプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、イソペンチル基、ペンチル基、ヘキシル基等の炭素数1~6の直鎖又は分枝鎖状アルキル基を挙げることができる。
置換基を有してもよい低級アルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、tert-ブトキシ基、ペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基等の炭素数1~6の直鎖又は分枝鎖状アルコキシ基を挙げることができる。
【0106】
置換基を有してもよい低級アルケニル基としては、例えば、ビニル基、1-プロペニル基、2-プロペニル基、2-ブテニル基、1-ブテニル基、3-ブテニル基、2-ペンテニル基、1-ペンテニル基、3-ペンテニル基、4-ペンテニル基、1,3-ブタジエニル基、1,3-ペンタジエニル基、2-ペンテン-4-イニル基、2-ヘキセニル基、1-ヘキセニル基、5-へキセニル基、3-ヘキセニル基、4-へキセニル基等の炭素数2~6の直鎖又は分枝鎖状アルケニル基を挙げることができる。
置換基を有してもよい低級アルキニル基としては、例えば、エチニル基、1-プロピニル基、2-プロピニル基、1-ブチニル基、2-ブチニル基、3-ブチニル基、1-ペンチニル基、2-ペンチニル基、3-ペンチニル基、4-ペンチニル基、1-ヘキシニル基、2-ヘキシニル基、3-ヘキシニル基、4-ヘキシニル基、5-ヘキシニル基等の炭素数2~6の直鎖又は分枝鎖状アルキニル基を挙げることができる。
【0107】
置換基を有してもよいハロ低級アルキル基としては、例えば、フルオロメチル基、ジフルオロメチル基、トリフルオロメチル基、クロロメチル基、ジクロロメチル基、トリクロロメチル基、2-クロロ-1,1-ジメチルエチル基等を挙げることができる。
置換基を有してもよいハロ低級アルケニル基としては、例えば、クロロビニル基、ジクロロビニル基、ブロモビニル基、フルオロビニル基、クロロプロペニル基、ブロモプロペニル基、クロロブテニル基等を挙げることができる。
置換基を有してもよいハロ低級アルキニル基としては、例えば、クロロエチニル基、クロロプロピニル基、クロロブチニル基、クロロペンチニル基、ブロモエチニル基、ブロモプロピニル基、ブロモブチニル基、ブロモペンチニル基、フルオロエチニル基等を挙げることができる。
【0108】
置換基を有してもよい環式炭化水素基としては、例えば、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロへプチル基、シクロオクチル基、シクロへキセニル基等を挙げることができる。
置換基を有してもよいヘテロ環式基としては、例えば、2-フラニル基、テトラヒドロ-2-フラニル基、フルフリル基、テトラヒドロフルフリル基、チオフルフリル基、2-ピラニル基、テトラヒドロ-2-ピラニル基、2-ピラニルメチル基、テトラヒドロ-2-ピラニルメチル基等を挙げることができる。
【0109】
なお、Zが有してもよい置換基としては、上記一般式(B)中のアリール基が有していてもよい置換基と同様のものを用いることができる。
【0110】
一般式(15)中のMは、第四周期遷移金属を示す。好ましくは、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅が挙げられる。さらに好ましくは、マンガン、コバルトが挙げられる。さらに好ましくは、マンガンが挙げられる。
一般式(15)中のA及びxは、下記一般式(1)と同様である。
【0111】
【0112】
例えば、ハロゲン化マンガンとベータ-ジケトネート、ベータ-ジケトイミネート、及びベータ-ジケチミネートからなる群から選択される配位子を加えた溶液に塩基(例えば、カリウムエトキシドなど)を加えることで、上記[Mn(A)(OZ)(OHZ)]4キュバン錯体を得ることができる。
【0113】
また、本発明の下記一般式(1)で示されるμオキソダイマー錯体は、アルコール又はアルコキシド存在下で、ベータ-ジケトネート、ベータ-ジケトイミネート及びベータ-ジケチミネートからなる群から選択される配位子を有する金属錯体、又は第四周期遷移金属のカルボン酸塩に、含窒素化合物又は含リン化合物を加え反応させることにより得られる。
【0114】
【0115】
(式(1)中、
Mは、第四周期遷移金属を示す。
Aは、カルボン酸残基、ベータ-ジケトネート、ベータ-ジケトイミネート又はベータ-ジケチミネートを示す。
Aがカルボン酸残基である場合、xは2を示し、Aがベータ-ジケトネート、ベータ-ジケトイミネート又はベータ-ジケチミネートである場合、xは1を示す。
Lは含窒素化合物又は含リン化合物を示す。
Zは、置換基を有してもよい低級アルキル基、置換基を有してもよい低級アルコキシ基、置換基を有してもよい低級アルケニル基、置換基を有してもよい低級アルキニル基、置換基を有してもよいハロ低級アルキル基、置換基を有してもよいハロ低級アルケニル基、置換基を有してもよいハロ低級アルキニル基、置換基を有してもよい環式炭化水素基又は置換基を有してもよいヘテロ環式基を示す。)
【0116】
なお、本発明の上記一般式(1)で示されるμオキソダイマー錯体を得るための製造条件は、上記<第四周期遷移金属錯体の製造方法>での条件と同様である。
【0117】
さらに金属プレカーサーとして[Mn(A)(OZ)(OHZ)]4キュバン錯体と含窒素化合物又は含リン化合物の配位子を加えトルエン中で加熱することで、ジマンガンμオキソダイマー錯体[Mn(A)(OZ)(L)]2を得ることができる(下記反応式(6)中、x、Z、A及びLは、上記一般式(1)で定義した通りであり、yは下記反応式(7)で定義した通りである。)。
【0118】
【0119】
また、第四周期遷移金属を有する他の金属プレカーサーからμオキソダイマー錯体[M(A)x(OZ)(L)]2を合成することができる。すなわち、Aが、カルボン酸残基、ベータ(β)-ジケトネート、ベータ(β)-ジケトイミネート又はベータ(β)-ジケチミネートである第四周期遷移金属錯体M(A)yと、含窒素化合物又は含リン化合物(L)を加えることで、第四周期遷移金属原子に含窒素化合物又は含リン化合物が配位したプレカーサーM(L)(A)yが形成できる。
【0120】
さらにアルコール(ZOH)又はアルコキシラート(ZO-)を添加することで、酸素原子が二つの第四周期遷移金属錯体Mで架橋した本発明のμオキソダイマー錯体[M(A)x(OZ)(L)]2が得られる。
【0121】
【0122】
上記反応式(7)中、x、M、Z、A及びLは、上記一般式(1)で定義した通りである。
Aがカルボン酸残基である場合、yは2を示し、Aが2座配位子であるベータ-ジケトネート、ベータ-ジケトイミネート又はベータ-ジケチミネートである場合、yは2または3を示す。
【0123】
第四周期遷移金属を有する二核錯体[M(A)x(OZ)(L)]2の場合、yが2の場合及びyが3の場合は、xは1を示す。
【0124】
上記μオキソダイマー錯体を用いると、アミド化合物をエステル化合物に容易に変換することができることから、本触媒が本反応に関与していることが明らかである。
【0125】
上記のように予め調製した第四周期遷移金属錯体を触媒として調製した後に、当該触媒を反応中に加えてもよい。また、原料であるアミド化合物に、エステル化合物の原料であるアルコール中金属プレカーサー及び含窒素化合物又は含リン化合物をそれぞれ適宜加えた後に反応条件の温度で攪拌しても反応を進行させることができる。
【0126】
本発明における第四周期遷移金属錯体からなる触媒の使用量は、特に限定されないが、通常、各反応の原料1モルに対して、第四周期遷移金属原子が0.001~0.9モル、より好ましくは0.001~0.3モル、さらに好ましくは0.01~0.1モルの割合である。
また、各反応における反応条件は特に限定されないが、温和な中性条件でも行うことができる。
【0127】
<アルコール>
本発明において、用いられるアルコールは特に限定されるものではなく、種々のアルコールを使用でき、第一級アルコール、第二級アルコール、第三級アルコールのいずれであってもよい。また、アルコールは1価アルコール、2価アルコール、3価以上の多価アルコールのいずれであってもよい。
【0128】
アルコールの炭素数は、例えば、1~30、好ましくは1~20、さらに好ましくは1~10である。また、アルコールは、炭素骨格に、置換基(官能基)を有していてもよい。有していてもよい置換基としては、例えば、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等)、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~4のアルコキシ基(メトキシ、エトキシ、プロポキシ基、ブトキシ基等)、アミノ基等が挙げられる。
【0129】
また、アルコールは、分子内に1又は2以上の環式骨格を有していてもよい。環式骨格を構成する環には、単環又は多環の非芳香族性又は芳香族性環が含まれる。
【0130】
単環の非芳香族性環としては、例えば、シクロペンタン環、シクロヘキサン環、シクロオクタン環、シクロデカン環などの3~15員のシクロアルカン環、あるいはシクロペンテン環、シクロヘキセン環等の3~15員のシクロアルケン環などが挙げられる。
多環の非芳香族性環としては、例えば、アダマンタン環、ノルボルナン環などが挙げられる。
単環又は多環の芳香族環としては、ベンゼン環、ナフタレン環、ピリジン環、キノリン環等の芳香族性炭素環、芳香族性複素環(例えば、酸素原子、窒素原子、硫黄原子から選択された少なくとも1種のヘテロ原子を有する芳香族性複素環等)が挙げられる。
【0131】
アルコールの代表的な例として、例えば脂肪族アルコール、脂環式アルコール、芳香族環を有するアルコールが挙げられる。
脂肪族アルコール(置換基を有するものを含む)としては、アミノアルコール、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、tert-ブチルアルコール、アミルアルコール、tert-アミルアルコール、1-ヘキサノール、2-ヘキサノール、1-オクタノール、2-エチル-1-ヘキサノール、イソデシルアルコール、ラウリルアルコール、セチルアルコール、ステアリルアルコール、エチレングリコール、1,3-ブタンジオール、トリメチロールプロパン等が挙げられる。
【0132】
脂環式アルコールとしては、シクロペンタノール、シクロヘキサノール、メチルシクロヘキサノール、ジメチルシクロヘキシルアルコール、シクロヘキセニルアルコール、アダマンタノール、アダマンタンメタノール、1-アダマンチル-1-メチルエチルアルコール、1-アダマンチル-1-メチルプロピルアルコール、2-メチル-2-アダマンタノール、2-エチル-2-アダマンタノール等が挙げられる。
【0133】
芳香族環を有するアルコール(置換基を有するものを含む)としては、ベンジルアルコール、メチルベンジルアルコール、1-フェニルエタノール、2-フェニルエタノール等が挙げられる。
【0134】
アミノアルコールとしては、ジメチルエタノールアミン、ジエチルエタノールアミン、ジプロピルエタノールアミン、6-アミノヘキサノール、trans-4-アミノシクロヘキサノール、プロリノール等が挙げられる。
【0135】
本発明においては、メタノール、エタノール、tert-ブチルアルコール、シクロヘキサノール、ベンジルアルコールが好ましい。その中でもメタノール、エタノールが好ましく、メタノールが特に好ましい。
【0136】
<アミド化合物>
本発明において、用いられる第三級アミド化合物は、特に限定されるものではなく、種々のアミド化合物を使用することができ、N,N-ジアルキルアミド化合物が特に好ましい。
アミド化合物としては、下記一般式(8)で表される化合物が挙げられる。
【0137】
【0138】
上記一般式(8)中、Zは、上記一般式(1)で定義した通りである。
【0139】
M’は、リンカー部位を示し、2価の原子団である。M’で示される2価の原子団としては、直鎖状、分岐鎖状いずれでもよい炭素数1~20のアルキレン基、炭素数3~8のシクロアルキレン基、炭素数2~20のアルケニレン基、炭素数2~20のアルキニレン基、炭素数6~20のアリーレン基、炭素数7~20のアラルキレン基、炭素数1~20のヘテロアルキレン基、炭素数2~20のヘテロアリーレン基、炭素数3~20のヘテロアラルキレン基、炭素数8~20のフェニレンビスアルキレン基、炭素数8~20のフェニレンビスビニレン基、ポリフルオレン基、ポリチオフェン基、ジアルキルシランジイル基及びその誘導体から派生された基である。
これらの2価の原子団は、置換基を有していてもよく、これらの原子団を二つ以上がそれぞれ組合せられてもよい。
pは0又は1である。
【0140】
一般式(8)中、R26及びR27はそれぞれ、下記一般式(9)
【0141】
【0142】
で表される基である。
上記一般式(9)中、M’は上記一般式(8)中のM’と同義である。
qは0又は1である。
Zは上記一般式(8)中のZと同義である。
或いは、R26及びR27は、互いに結合して隣接する窒素原子と共に含窒素ヘテロ環を形成していてもよい。
【0143】
<本発明による変換反応>
本発明の第四周期遷移金属錯体を触媒として用いることで、N,N-ジアルキルアミド化合物をエステル化合物へ変換することができる。
また、本発明の第四周期遷移金属錯体を触媒として用いることで、アミンとカルボン酸エステルとを反応させアミド化すること、及びエステル交換反応させることができる。
【0144】
触媒の添加量は、出発物質1molに対して、例えば、0.01~10mol、好ましくは0.1~5molである。
【0145】
アミンとカルボン酸エステルとのアミド化反応は公知の方法で行うことができる。例えば、アミンとカルボン酸エステルの混合物を例えば、20~250℃、好ましくは50~200℃で加熱すればよい。
【0146】
アミンとしては、例えば、上述した脂肪族アミン、芳香族アミン等が挙げられる。
カルボン酸エステルとしては、例えば、酢酸メチル、酢酸エチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、酪酸メチル、イソ酪酸メチル、トリメチル酢酸メチル等が挙げられる。
【0147】
本発明の第四周期遷移金属錯体を用いることで、アミド化合物からエステル化合物に変換する反応以外にも、アミド化合物から他のアミド化合物へ変換する反応、又はエステル化合物を他のエステル化合物へ変換する反応にも利用することが可能である。
【0148】
なお、本発明では、第一級アミド化合物又は第二級アミド化合物をエステル化合物に変換できるが、中性条件で反応の進行が困難な第三級アミド化合物でもエステル化反応が進行する。
第三級アミドアミド化合物は、アミド窒素の2つの基が、それぞれアルキル基、アリール基、またはヘテロアリール基の中から選択される基に同時に結合しているアミド化合物を指す。第三級アミドアミド化合物としては、例えば、N,N-ジアルキルアミド化合物、N-メチル-N-フェニルアミド化合物等のN-アルキル-N-アリールアミド化合物等が挙げられる。
【0149】
本発明の反応は、バッチ式、セミバッチ式、及び連続式のいずれの方法で行ってもよい。反応系中にアミド化合物及びアルコールを順に加える場合、又はアルコール及びアミドを順に加える場合のいずれの場合において、添加する成分は逐次的に添加してもよく、間欠的に添加してもよい。
【0150】
本発明の方法の反応時間は、特に限定されないが、通常約1~45時間、好ましくは約6~18時間程度で行うことができる。
【0151】
反応温度は、特に限定されないが、室温~約180℃、好ましくは50~150℃、より好ましくは80~150℃程度で行われる。これらの条件は使用される原料等の種類及び量により適宜変更される。本発明の反応は、副生するアミン、あるいは生成した目的エステルを、反応系から連続的に分離できる反応温度でも行なうことができる。
【0152】
本発明の反応に用いられる溶媒としては、本発明の第四周期遷移金属錯体に影響しない溶媒であれば、使用可能である。エステル交換反応に用いる原料のアルコールを溶媒にしてもよい。
本反応は、大気下、空気中又は窒素ガス若しくはアルゴンガス等の不活性ガス雰囲気下で行うことができるが、不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。
【0153】
副生するアミン、あるいは生成した目的エステルを、反応系から連続的に分離しつつ、反応を実施することも可能である。特に副生するアミンを分離することにより、エステル化合物への転換を促進することができる。分離の手段としては、例えば抽出、蒸留(共沸蒸留等)、精留、分子蒸留、吸着、晶析、再結晶、カラムクロマトグラフィーなどを用いることができる。これらを組合せた分離手段により、容易に分離精製できる。
【0154】
また、捕集剤(スカベンジャー)を使用することで副生するアミンを除去することができ、反応を促進することもできる。捕集剤としては、例えばアルデヒド基、イソシアネート基、又はスルホン酸を有する高分子又はシリカゲル担持物などを用いることができるが、これらに限定されるものではない
【0155】
本発明において反応後、得られたエステルをそのまま次の使用に供してもよいし、精製して用いてもよい。精製の方法としては、慣用の方法、例えば抽出、蒸留、精留、分子蒸留、吸着、晶析などを用いることができる。精製は、連続的であっても、非連続的(回分式)であってもよい。
【0156】
図9は、本発明のアミド化合物をエステル化合物への変換反応の、推定反応機構を示す。不活性なアルコキシ架橋二核錯体、すなわちμオキソダイマー錯体は、溶媒が配位して活性種である単核錯体、すなわちアルコキシド一核錯体と平衡状態にある。アミド化合物が存在する場合、単核錯体のマンガン金属原子にアミド化合物が配位し、さらにアミド化合物が開裂してマンガン錯体に配位しているアルコキシドと交換反応が起こることで、エステル化合物が生じていると推定される。ジメチルアミンが系中から排出することで、本反応は触媒的に反応が進行すると考えられる。
【実施例】
【0157】
以下、本発明を実施例及び比較例により詳細に説明するが、本発明はこれらにより何ら限定されるものではない。なお、使用した分析機器は以下の通りである。また、全ての実施例及び比較例の操作は、アルゴン雰囲気下で行なった。
【0158】
核磁気共鳴測定は、核磁気共鳴装置 Bruker AV 400を用いて、400MHz(1H-NMR)、100MHz(13C-NMR)、376MHz(19F-NMR)の条件で測定した。全ての1H-NMRのケミカルシフトは、溶媒中に残存する重水素原子のピーク7.26ppm(CDCl3)、5.32ppm(CD2Cl2)、2.50ppm(DMSO-d6)から求めた。全ての13C(1H)-NMRのケミカルシフトは、溶媒中の炭素原子のピーク77.16ppm(CDCl3)、53.84ppm(CD2Cl2)、39.52ppm(DMSO-d6)から求めた。全ての19F-NMRのケミカルシフトは、外部標準としてα,α,α-トリフロロトルエンのケミカルシフト-63.9ppmから求めた。
【0159】
ガスクロマトグラフィー(GC)測定は、ガスクロマトグラフ Shimadzu GC-2014を用い、カラムにはJ&W Scientific DB-5又はShimadzu SH-Rtx-50を用いて測定した。
【0160】
単離・精製は、シリカゲル60(0.040-0.063mm,230-400mesh ASTM)を用いたフラッシュカラムクロマトグラフィーによって行った。
【0161】
X線単結晶構造解析は、ハイブリッドピクセル検出器搭載単結晶X線回折装置 Rigaku XtaLAB P200 systemを用いてMo-Kα線(0.71075Å)を照射することで行った。結晶は、高粘度流動パラフィンと共にCryoLoop(Hampton Research Corp.)にマウントさせ113(1)Kの窒素蒸気で冷却しながら測定した。結晶構造決定はプログラムSHELXL-2013を用いて行った。
【0162】
空気及び水分に対して不安定な化合物を用いた操作は、全て通常のシュレンクテクニックを用いて、又はグローブボックス中においてアルゴン下で行った。
【0163】
[実施例1~5、比較例1~10]種々の金属プレカーサーを用いた2-ナフトエ酸アミド(1a)から2-ナフトエ酸エステル(2a)への変換反応
【0164】
【0165】
2-ナフトエ酸アミド(1a)0.50mmolと1-ブタノール0.25mLに、表1に示す種々の金属プレカーサー10mol%と2,2’‐ビピリジン〔リガンド(L1)〕10mol%を加え、副生されるジメチルアミンを反応系外に排出しながら、還流温度で18時間反応を行った。
【0166】
その際の2-ナフトエ酸エステル(2a)の収率は、ガスクロマトグラフィー(GC)を用いてドデカンを用いて内標品法で測定した。実施例1~5及び比較例1~10の反応結果を表1に示す。なお、実施例2及び4では、金属プレカーサーの添加量及びリガンド(L1)の添加量を1mol%として反応を行った。
【0167】
【0168】
金属プレカーサーとしてマンガンアセチルアセトネート〔Mn(acac)3〕を用いた場合には、定量的に2-ナフトエ酸エステル(2a)が得られた(実施例1)。
また、マンガンアセチルアセトネート〔Mn(acac)3〕と2,2’‐ビピリジン〔リガンド(L1)〕の添加量を1mol%とした場合でも90%の収率で2-ナフトエ酸エステル(2a)が得られた(実施例2)。
また、実施例1とは酸化数の異なるマンガンアセチルアセトネート〔Mn(acac)2〕を用いた場合にも定量的に2-ナフトエ酸エステル(2a)が得られた(実施例3)。
また、実施例1とは酸化数の異なるマンガンアセチルアセトネート〔Mn(acac)2〕と2,2’‐ビピリジン〔リガンド(L1)〕の添加量を1mol%にした場合でも2-ナフトエ酸エステル(2a)が85%の収率で得られた(実施例4)。
水和物のマンガンアセチルアセトネート〔Mn(acac)2〕を用いた場合にも2-ナフトエ酸エステル(2a)が84%の収率で得られた(実施例5)。
【0169】
一方、Fe(II)、Fe(III)、Co(II)、Co(III)、Ni(II)、Cu(II)、Zn(II)、Cr(III)、V(III)、及びSc(III)を用いて反応の検討を行ったが、いずれも2-ナフトエ酸エステル(2a)の収率は20%以下になった(比較例1~10)。
なお、表1中の「n.d.」は不検出を意味し、「trace」は微量を意味する。
以上のように、金属プレカーサーとしてマンガン錯体が他の金属錯体に比較して良好な結果を与えた。
【0170】
[実施例6~32]種々のリガンドを用いた2-ナフトエ酸アミド(1a)から2-ナフトエ酸エステル(2a)への変換反応
【0171】
【0172】
実施例1におけるリガンド(L1)を表2に示したリガンドに変更した以外は、実施例1と同様の方法で反応を行った。収率は、実施例1と同様に、ガスクロマトグラフィー(GC)を用いて内標品法で測定した。実施例6~32の反応結果を表2に示す。
【0173】
【0174】
【0175】
2,2’-ビピリジン誘導体〔リガンド(L2)~(L7)〕を用いた場合、電子供与基を4,4’位に有するリガンド(L2)~(L4)で高い活性が得られた。
一方、6、6’位にメチル基を有するリガンド(L6)では触媒活性が低下したことから、本反応は嵩高いリガンドを用いた場合進行しにくいと考えられる。
電子求引基を有するリガンド(L5)及び(L7)を用いた場合、触媒活性は大幅に低下し、それぞれ38%及び47%の収率で2-ナフトエ酸エステル(2a)を与えた(実施例6~11)。
【0176】
ビピリジンと類似骨格を有する1,10-フェナントロリン〔リガンド(L8)〕及びその誘導体(L9)~(L14)を用いて検討を行った結果、リガンドの電子的及び立体的な環境が活性に及ぼす影響はビピリジン誘導体と同じ傾向にあり、電子供与基を有するリガンドを用いた場合に高い活性を示した。
一方、電子吸引基であるクロロ基を有するリガンド(L13)や2,9位にメチル基を有するリガンド(L14)では活性が低下した。特に4,7位にメチル基を有する1,10-フェナントロリン〔リガンド(L9)〕及び4,7位にジアミノ基を有する1,10-フェナントロリン〔リガンド(L11〕では、定量的に反応が進行した。これにより4,7位に電子供与基を有することが反応を促進することが分かった(実施例12~18)。
【0177】
その他、ビピリジン骨格を有するリガンド(L15)や(L16)を用いたところ、電子求引基であるカルボニル基を有するため、触媒活性は極めて低い値に留まった(実施例19、20)。
【0178】
また、3座リガンドとしてターピリジン〔リガンド(L17)〕を用いたところ、収率は76%であった。単座リガンドとしてピリジン〔リガンド(L18)〕及びその誘導体リガンド(L19)~(L22)を触媒に対して2当量用いたところ、4位にジメチルアミノ基を有するDMAP(N,N-ジメチル-4-アミノピリジン)〔リガンド(L22)〕で高い活性が観測されたが、その他のリガンドを用いた場合、収率は低かった(実施例21~26)。
【0179】
二座アルキルアミンリガンド(L23)、(L24)、含リン化合物として、ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン(dppe)〔リガンド(L26)〕、ならびにビスアミノアルキルアミン三座リガンド(L27)、またアミノホスフィン化合物としてリガンド(L28)を用いた場合でも、エステル化合物を得ることが確認できた。(実施例27~32)。
【0180】
以上より4,7位に電子供与基を有する1,10-フェナントロリンがリガンドとして最も良好な結果を与えることが分かった。
【0181】
[実施例33~38]リガンド及び金属プレカーサーの添加量を変化させたときの2-ナフトエ酸アミド(1a)から2-ナフトエ酸エステル(2a)への変換反応
【0182】
【0183】
実施例1におけるリガンド(L1)、及びマンガンアセチルアセトネート〔Mn(acac)3〕とリガンドの添加量、並びにリガンドの種類を表3に示したように変更した以外は、実施例1と同様の方法で反応を行った。収率は、実施例1と同様に、ガスクロマトグラフィー(GC)を用いて内標品法で測定した。実施例33~38の反応結果を表3に示す。
【0184】
【0185】
この結果、4,7位にジアミノ基を有する1,10-フェナントロリン〔リガンド(L11)〕では、金属プレカーサーの添加量を1mol%まで下げても収率90%の結果が得られ最も良好な結果を示した。
【0186】
[実施例39~41]金属プレカーサー及びリガンドの組み合わせの検討
【0187】
【0188】
実施例1におけるマンガンアセチルアセトネート〔Mn(acac)3〕及びリガンド(L1)の組み合わせの代わりに、表4に示す、ビス(ジピバロイルメタネート)マンガン〔Mn(dpm)2〕、又はトリス(ジピバロイルメタネート)マンガン〔Mn(dpm)3〕及び1,10-フェナントロリン〔リガンド(L8)〕の組み合わせを用いた以外は、実施例1と同様の方法で反応を行った。収率は、1H-NMRを用いてフェナントレンを内標として収率を導いた。実施例39~41の反応結果、並びに副生成物の種類及び量を表4に示す。
【0189】
なお、実施例41の「Mn(dpm)2(L8)」は一つの金属錯体であり、実施例41では、「Mn(II)(dpm)2とL8」から系中で「Mn(dpm)2(L8)」を経て、さらに活性種錯体への反応が進行したことを示す。
【0190】
【0191】
[実施例42~55]金属プレカーサーの検討
【0192】
【0193】
実施例1における金属プレカーサーを表5に示したように変更し、リガンド(L1)の代わりにリガンド(L11)を用いた以外は、実施例1と同様の方法で反応を行った。収率は、実施例1と同様に、ガスクロマトグラフィー(GC)を用いて内標品法で測定した。実施例42~55の反応結果を表5に示す。なお、実施例46、48、50、53では、金属プレカーサーの添加量及びリガンド(L11)の添加量を1mol%として反応を行った。
【0194】
【0195】
[実施例56~65]原料アミドの検討
【0196】
【0197】
実施例1における原料アミド(2-ナフトエ酸アミド(1a))を表6に示した置換基Rを有する上記化合物1に変更し、リガンド(L1)の代わりにリガンド(L11)を用い、Mn(acac)3とリガンドの添加量を5mol%とした以外は、実施例1と同様の方法で反応を行った。収率は、実施例1と同様に、ガスクロマトグラフィー(GC)を用いて内標品法で測定した。実施例56~65の反応結果を表6に示す。
【0198】
【0199】
[実施例66~70]原料アミドの検討
【0200】
【0201】
実施例1における原料アミド(2-ナフトエ酸アミド(1a))を表7に示したように窒素上に種々の置換基を有する基質に変更し、Mn(acac)3及びリガンド(L11)を10mol%、炭酸ジエチルを1.0当量用いた以外は、実施例1と同様の方法で反応を行った。収率は、実施例1と同様に、ガスクロマトグラフィー(GC)を用いて内標品法で測定した。実施例66~70の結果を表6に示す。
【0202】
【0203】
[使用例1~4]アミドの脱保護への応用
【0204】
【0205】
実施例1における原料アミド(2-ナフトエ酸アミド(1a))を上記式6aの化合物に変更し、金属プレカーサー及びリガンドを表8に示したものを用いた以外は実施例1と同様の方法で反応を行い、本触媒反応のアセトアミドの脱保護への応用を検討した。上記式7aの化合物の収率は、実施例1と同様に、ガスクロマトグラフィー(GC)を用いて内標品法で測定した。使用例1~4の反応結果を表8に示す。
【0206】
【0207】
脱アシル化反応についてもMn(acac)3及びMn(dpm)2、ならびに1,10-フェナントロリン〔リガンド(L8)〕及び4,7位にジアミノ基を有する1,10-フェナントロリン〔リガンド(L11)〕の組み合わせを検討した。その結果、Mn(dpm)2と4,7位にジアミノ基を有する1,10-フェナントロリン〔リガンド(L11)〕の組み合わせが最も高い活性を示した。
【0208】
[実施例71~76]アルコールの検討
【0209】
【0210】
実施例1におけるリガンド(L1)を4,7位にジアミノ基を有する1,10-フェナントロリン〔リガンド(L11)〕に変更し、1-ブタノールを表9に示したアルコールに変えた以外は、実施例1と同様の方法で反応を行った。収率は単離収率から導いた。実施例71~76の反応結果を表9に示す。ただし、実施例73は、トルエン0.25mLを加えて反応を行った。
【0211】
【0212】
[実施例77]エステル交換反応の検討
【0213】
【0214】
マンガンアセチルアセトネートMn(acac)3及びビス(ジピバロイルメタネート)マンガンMn(dpm)2ならびに1,10-フェナントロリン〔リガンド(L8)〕を用い、安息香酸メチルを基質としてエステル交換反応の検討を行った。
【0215】
具体的には、安息香酸メチル0.500mmolと1-ブタノール0.250mLに、マンガンアセチルアセトネート〔Mn(acac)3〕10mol%、及び1,10-フェナントロリン〔リガンド(L8)〕10mol%を加え、還流温度で18時間反応を行った。
安息香酸メチルは全て消費され、93%のNMR収率で対応するエステルが得られた。
【0216】
[実施例78]エステル交換反応の検討
【0217】
【0218】
1-ブタノールをベンジルアルコールとした以外は、実施例77と同様にして反応を行った。
安息香酸メチルは全て消費され、83%のNMR収率で対応するエステルが得られた。
【0219】
[合成例1]リガンド(L11)の合成
【0220】
【0221】
4,7-ジクロロ-1,10-フェナントロリン(1.48g,5.94mmol)のN,N-ジメチルホルムアミド懸濁液(50mL)をアルゴン雰囲気下で30時間加熱還流を行った。反応混合物をゆっくりと室温まで冷ました後、溶媒を減圧下で留去した。得られた残渣を1mol/L水酸化ナトリウム水溶液(50mL)とテトラヒドロフラン(70mL)に溶解させ、ジクロロメタン(50mL)で3回抽出した。回収した有機層を1mol/L水酸化ナトリウム水溶液(50mL)による洗浄を2回行い、飽和食塩水(50mL)で洗浄し、溶媒を留去した。得られた固体を酢酸エチルで洗浄してリガンド(L11)を紫色固体として725.4mg、46%収率で得た。
【0222】
[実施例79]マンガン錯体の合成
【0223】
【0224】
マンガンアセチルアセトネート〔Mn(acac)3〕と4,7位に置換基を有する1,10-フェナントロリン〔リガンド(L11)〕をIPA(イソプロピルアルコール)中、還流温度で24時間反応させることによりマンガン錯体〔Mn(acac)2(NMe2-Phen)〕を得た。
【0225】
得られたマンガン錯体のX線単結晶構造解析を行った。得られたX線単結晶構造の結果を
図1に示す。得られたマンガン錯体は、アセチルアセトネート二分子と1,10-フェナントロリン一分子からなり、マンガン二価錯体であることが確認できた。
【0226】
[実施例80]ラジカル捕捉剤BHT添加の検討
【0227】
【0228】
実施例1におけるリガンド(L1)をリガンド(L11)に変更し、マンガン錯体〔Mn(acac)3〕及びリガンド(L11)の添加量を5mol%とし、ラジカル捕捉剤としてBHT(ジブチルヒドロキシトルエン)20mol%用いた以外は、実施例1と同様の方法で反応を行った。収率は、実施例1と同様に、ガスクロマトグラフィー(GC)を用いて内標品法で測定した結果、93%であった。ラジカル捕捉剤としてBHTを添加しても収率の低下がみられなかった。
【0229】
[合成例2]マンガンキュバン錯体の合成
(1-1)マンガンプレカーサー([Mn(acac)(OEt)(OHMe)]4 マンガンキュバン錯体)Cat1aの合成
【0230】
【0231】
リチウム(72.1mg、10.4mmol)にヘキサン(5mL)を加え、エタノール(10mL)を滴下し、リチウムが完全に溶けきるまで反応させた。溶媒を減圧留去し、再度エタノール(10mL)に溶かし、塩化マンガン(0.629g、5.00mmol)、アセチルアセトン(Hacac)(530mL、5.00mmol)のエタノール溶液(10mL)にゆっくり加えることで黄色懸濁液を得た。室温で3時間攪拌し、上澄みを除去することで得られた黄色固体をエタノール(1mL)で4回洗浄し、減圧乾燥を行うことで黄色粉末を得た(666mg、679mmol、54%収率)。再結晶はトルエン/エタノールの2層系で行った。融点282-290℃の淡黄色固体を得た。
【0232】
元素分析結果:C36H72O16Mn4
計算値 C,43.96;H,7.69
実測値 C,43.96;H,7.69
【0233】
得られた単結晶からX線結晶構造解析を行い、当該単結晶が
図5に示すキュバン錯体Cat1aであることが確認できた。
【0234】
(1-2)マンガンプレカーサー([Mn(dpm)(OMe)(MeOH)]4 マンガンキュバン錯体)Cat1bの合成
【0235】
【0236】
塩化マンガン(0.629g、5.00mmol)にメタノール(5mL)とジピバロイルメタン(Hdpm)(1.00mL、5.00mmol)を加え溶解した。この溶液に、カリウムメトキシド(KOMe)(0.701g、10.0mmol)のメタノール(MeOH)溶液(10mL)を加えたところ、黄色沈殿が生成した。
室温で3時間攪拌し、上澄みを除去することで黄色固体を得た。この固体をトルエン(11mL)で抽出を行い、メタノールを用いた2層系再結晶を行うことで黄色結晶を得た(1.234g、1.02mmol、82%収率)。
【0237】
[合成例3]アルコキシド架橋二核錯体Cat2aの単離
上記で合成したキュバン錯体Cat1aにフェナントロリン配位子を加えトルエン中100℃で18時間加熱した。その結果、アルコキシド架橋二核錯体Cat2aが生成し、Cat2aについて結晶を得ることができた。
Cat2aは、融点230‐234℃の濃赤色固体であった。
【0238】
元素分析結果:C38H40N4O6Mn2
計算値 C,60.16;H,5.31;N,7.39
実測値 C,60.10;H,5.27;N,7.14。
【0239】
得られた単結晶からX線結晶構造解析を行い、当該単結晶が
図6に示すCat2aであることが確認できた。
【0240】
【0241】
キュバン錯体Cat1a及び上記Cat2aのX線結晶構造解析について表10で示す。
【0242】
【0243】
[実施例81~88、比較例11~13]種々のマンガン錯体を用いた2-ナフトエ酸アミド(1a)から2-ナフトエ酸エステル(2a)への変換反応
【0244】
【0245】
2-ナフトエ酸アミド(1a)0.50mmolと1-ブタノール0.25mLに、表11に示す量の金属プレカーサーと表11に示す量のリガンドを加え、副生されるジメチルアミンを反応系外に排出しながら、還流温度で18時間反応を行った。
なお、比較例13では、金属プレカーサー及びリガンドを投入する代わりに1mol%NaOMeを加えた。
収率は、ドデカンを内部標準物質としたガスクロマトグラフィー(GC)分析によって決定した。81~88、比較例11~13の反応結果を表11に示す。
【0246】
【0247】
キュバン錯体Cat1a[Mn(acac)(OEt)(EtOH)]4を触媒として用いた場合、1mol%(マンガン基準)の触媒を用いた場合はGC収率99%以上で生成物が得られた。これらの活性は、金属プレカーサーとして単核錯体Mn(dpm)2を用いたときよりも高い値を示した。
【0248】
キュバン錯体Cat1a[Mn(acac)(OEt)(EtOH)]4にフェナントロリン配位子を加えなかった場合、反応が進行しなかった(比較例12)。
また、金属プレカーサー及びリガンドを投入する代わりに1mol%NaOMeを加えた反応の場合も、反応は進行しなかった(比較例13)。金属プレカーサーとしてキュバン錯体を用いたほうが、反応性が高いことわかった。
【0249】
[実施例89]単離した錯体Cat2aを用いた速度論解析
【0250】
【0251】
合成例3で得られたアルコキシド架橋二核錯体Cat2aを用いて、エステル化反応を検討した。
具体的には、2-ナフトエ酸アミド(1a)0.5mmolと1-ブタノール0.25mLに、(i)Mn(acac)3:5mol%及びMe2N-Phen:5mol%、(ii)Cat2a:5mol%、(iii)Cat2a:5mol%及びカリウム4‐トリルベンジルアルコキシド(KOCH2C6H4CH3-4):5mol%、(iv)カリウム4‐トリルベンジルアルコキシド(KOCH2C6H4CH3-4):5mol%をそれぞれ加え、副生されるジメチルアミンを反応系外に排出しながら、還流温度で3時間反応を行った。
その際の2-ナフトエ酸エステル(2a)の収率は、ガスクロマトグラフィー(GC)を用いてドデカンを用いて内標品法で測定した。(i)~(iv)の反応結果を上記化学式中に示す。
【0252】
アルコキシド架橋二核錯体Cat2aのみで反応が進行するが(ii)、さらにカリウム4‐トリルベンジルアルコキシド(KOCH2C6H4CH3-4)を添加することで収率が87%になった(iii)。ただし、カリウム4‐トリルベンジルアルコキシドのみを添加しても収率12%と低いことから(iv)、カリウム4‐トリルベンジルアルコキシドを添加する効果が見られた。
【0253】
添加剤であるカリウムアルコキシド塩を触媒に対して1当量加えたところ、触媒活性がさらに向上し、より触媒が失活しなくなることがわかった。
よって、アルコキシド架橋二核錯体Cat2aを用いて、Angew.Chem.,Int.Ed.55(2016)p.16084記載の触媒反応の速度論解析手法で行うこととした。
【0254】
2-ナフトエ酸アミド(1a)(398.5mg、2mmol、2.00mol/L)とアルコキシド架橋二核錯体Cat2a(0.06mol/L)とカリウム塩(0.06mol/L)に1-ブタノール1.0mLを加え、副生されるジメチルアミンを反応系外に排出しながら、145℃還流温度で反応を行った。その際の2-ナフトエ酸エステル(2a)の収率の経時変化を、ガスクロマトグラフィー(GC)を用いて測定した。
【0255】
原料の2-ナフトエ酸アミド(1a)の濃度が、1.00mol/L及び1.50mol/Lでも同様に反応を行った。測定間隔をΔt(=t
i-t
i-1)とし、時間t
i-1からt
iの間の2-ナフトエ酸アミド(1a)の濃度の平均値のα乗を[1a]
αとしたとき、[1a]
αとΔtの積の総和から表される横軸に対して2-ナフトエ酸エステル(2a)の濃度[2a]をプロットした。α=1のときに3つの濃度におけるプロットが重なったことから、反応速度は2-ナフトエ酸アミド(1a)の濃度の1次に比例することがわかった(
図2)。
【0256】
2-ナフトエ酸アミド(1a)(398.5mg、2mmol、2.00mol/L)とアルコキシド架橋二核錯体Cat2a(0.06mol/L)とカリウム塩に1-ブタノール1.0mLを加え、副生されるジメチルアミンを反応系外に排出しながら、145℃還流温度で反応を行った。その際の出発原料である2-ナフトエ酸アミド(1a)濃度[1a]の経時変化を、ガスクロマトグラフィー(GC)を用いて測定した。アルコキシド架橋二核錯体Cat2aの触媒量が0.10mol/L及び0.14mol/Lと添加量の異なる反応系においても同様に測定した。
【0257】
横軸として、触媒濃度を用いて正規化した時間t[cat.]
T
n([cat.]
T=触媒濃度)を示し、縦軸に出発原料である2-ナフトエ酸アミド(1a)濃度[1a]の経時変化をプロットすることで反応速度解析を行った(
図3)。その結果、n=0.5としたときに、3つの濃度におけるプロットが重なったことから、反応速度は触媒濃度の0.5次に比例することがわかった。
【0258】
上記両結果に基づき、反応速度vは、原料2-ナフトエ酸アミド(1a)の濃度[1a]と触媒の濃度[6a]によって表せることが分かった。
v=kobs[1a]1[6a]0.5
【0259】
次に上記式の速度係数kobsを求めた。
横軸に原料2-ナフトエ酸アミド(1a)の濃度の1次と触媒濃度の0.5次を乗じた値[1a]
1・[6a]
0.5を用いて時間を正規化し、2-ナフトエ酸エステル(2a)の濃度[2a]を縦軸にプロットした(
図4)。
どの反応条件においても同一の線上にプロットすることが分かった。この傾きより反応速度定数の算出したところ、速度係数kobsとして4.5×10
-1mol/L-0.5min
-1が得られた。
【0260】
なお、
図4中のR
2は、決定係数(decision coefficient)を示す。その値が1に近いほど、直線性が高いことを意味する。
また、
図4中の[1a]
0は、2-ナフトエ酸アミド(1a)の初期濃度を示す。
【0261】
上記解析結果に基づき反応メカニズムを考察した。反応速度が触媒濃度の0.5次に依存することからマンガン錯体は反応系中で不活性なμオキソダイマー錯体として存在し、μオキソダイマー錯体は活性種である単核錯体と平衡にあると考えられる。すなわち本発明の反応においてμオキソダイマー錯体が関与していることが明らかとなった。
【0262】
[実施例90~93]第3級アルコールおよびフェノール誘導体を用いたエステル交換反応
【0263】
【0264】
2-ナフトエ酸メチルエステル(0.5mmol)、1-アダマンタノール(1.2当量)、表12に示す溶媒0.25mLに、触媒としてマンガンジピバロイルメタネート(Mn(dpm)2)(10mol%)、表12に示すリガンドを加え、還流温度で18時間反応を行い、触媒的エステル交換反応の検討を行った。
【0265】
その際の生成物の収率は、ガスクロマトグラフィー(GC)を用いてドデカンを用いて内標品法で測定した。また、表12の転化率は、1H-NMRを用いてトリフェニルメタンを内標として求めた。実施例90~93の反応結果を表12に示す。
【0266】
【0267】
溶媒としてトルエンを用いた場合よりもCPME(シクロペンチルメチルエーテル)を用いた場合の方が、収率が良かった(実施例91~93)。
CPMEを溶媒とし、1,10-フェナントロリン〔リガンド(L8)〕を用いた場合2,2’-ビピリジン〔リガンド(L1)〕を用いた場合よりも若干低い収率で目的生成物が得られた(実施例92)。
電子供与能の高い4,7-ビス(ジメチルアミノ)-1,10-フェナントロリン(NMe2-Phen)〔リガンド(L11)〕を用いた場合では、原料がほぼ消費され、非常に高い収率で目的生成物が得られた(実施例93)。
【0268】
[合成例4][Ni(dpm)(OMe)(MeOH)]
4(Cat3a)の合成
シュレンクに塩化ニッケル無水物(389mg、3.00mmol)を量り取り、アルゴン下でジピバロイルメタン(0.620mL、3.00mmol)を加え、15mLのメタノールに懸濁させた。別のシュレンクにカリウムメトキシド(463mg、6.00mmol)を量り取り、5mLのメタノールに溶解させた。この溶液を塩化ニッケル懸濁液に滴下した後、アルゴン雰囲気下、室温で一晩撹拌した。その後ろ過により黄緑色沈殿を回収し、減圧乾燥させた。その後、10mLのトルエンで抽出した後、メタノールを20mL加え二層系再結晶を行い、黄緑色結晶を645mg、70%収率で得た。得られた単結晶からX線結晶構造解析を行い、当該単結晶が
図7で表されるCat3aであることが確認できた。
【0269】
[合成例5][Zn(dpm)(OMe)(MeOH)]
4(Cat4a)の合成
シュレンクにカリウムメトキシド(463mg、6.00mmol)を量り取り、5mLのメタノールに溶解させた。別のシュレンクに塩化亜鉛無水物(409mg、3.00mmol)を量り取り、アルゴン下で2,2,6,6-テトラメチル-3,5-ヘプタンジオン(0.620mL,3.00mmol)を加え、5mLのメタノールに溶解させた。この溶液をもう一方の溶液に滴下した後、アルゴン雰囲気下、室温で3時間撹拌した。その後ろ過により白色沈殿を回収し、減圧乾燥させた。その後、3mLのトルエンで抽出した後、メタノールを15mL加え二層系再結晶を行い、無色結晶を546mg、58%収率で得た。得られた単結晶からX線結晶構造解析を行い、当該単結晶が
図8で表されるCat4aであることが確認できた。
【0270】
[実施例94]2-ナフトエ酸アミド(1a)から2-ナフトエ酸エステル(2a)への変換反応
金属プレカーサーをニッケル錯体Cat3aとし、2,2’‐ビピリジン〔リガンド(L1)〕10mol%を1,10-フェナントロリン〔リガンド(L8)〕5mol%とした以外は、実施例1と同様に反応を行った。
その際の生成物の収率は、ガスクロマトグラフィー(GC)を用いてドデカンを用いて内標品法で測定した。収率は30%であった。
【0271】
[実施例95~96]2-ナフトエ酸アミド(1a)から2-ナフトエ酸エステル(2a)への変換反応
【0272】
【0273】
2-ナフトエ酸アミド(1a)0.50mmolと1-ブタノール0.25mLに、表13に示す金属錯体1mol%とリガンド(L11)5mol%を加え、副生されるジメチルアミンを反応系外に排出しながら、還流温度で18時間反応を行った。
その際の2-ナフトエ酸エステル(2a)の収率は、ガスクロマトグラフィー(GC)を用いてドデカンを用いて内標品法で測定した。実施例95~96の反応結果を表13に示す。
【0274】
【0275】
リガンド(L11)を用いた場合、触媒量を1mol%まで低減させても高い触媒活性を示した。金属プレカーサーとしてマンガンキュバン錯体Cat1bを用いた場合と同様にニッケル錯体Cat3aを用いた場合でも高い触媒活性を示した。
【0276】
[実施例97~101]2-ナフトエ酸アミド(1a)から2-ナフトエ酸エステル(2a)への変換反応
【0277】
【0278】
金属プレカーサーとしてキュバン錯体Cat1a[Mn(acac)(OEt)(EtOH)]4を1mol%(マンガン基準)用いて2-ナフトエ酸アミド(1a)から2-ナフトエ酸エステル(2a)への変換反応を行なった。
具体的には、2-ナフトエ酸アミド(1a)0.50mmolと1-ブタノール0.25mLに、1mol%のマンガンキュバン錯体Cat1aと表14に示すリガンド1mol%を加え、副生されるジメチルアミンを反応系外に排出しながら、還流温度で18時間反応を行った。
その際の2-ナフトエ酸エステル(2a)の収率は、ガスクロマトグラフィー(GC)を用いてドデカンを用いて内標品法で測定した。実施例97~101の反応結果を表14に示す。
【0279】
【0280】
[実施例102~112]アミド化合物からエステル化合物への変換反応
金属プレカーサーとしてキュバン錯体Cat1a[Mn(acac)(OEt)(EtOH)]4を2mol%(マンガン基準)用いて2-ナフトエ酸アミドから2-ナフトエ酸エステルへの変換反応を行なった。
具体的には、実施例97における原料アミド(2-ナフトエ酸アミド(1a))を表15に示した置換基Rを有する上記化合物1に変更し、金属プレカーサーをキュバン錯体Cat1aに変更し、金属プレカーサーとリガンドの添加量を2mol%とした以外は、実施例97と同様の方法で反応を行った。
その際の2-ナフトエ酸エステル(2a)の収率を測定した。実施例102~112の反応結果を表15に示す。収率は、単離収率を示す。
【0281】
【0282】
[実施例113~117]2-ナフトエ酸アミド(1a)から2-ナフトエ酸エステル(2a)への変換反応
金属プレカーサーとしてキュバン錯体Cat1a[Mn(acac)(OEt)(EtOH)]4を1mol%(マンガン基準)用いて2-ナフトエ酸アミド(1a)から2-ナフトエ酸エステルへの変換反応を行なった。
具体的には、使用したアルコールを表16に示したように変更した以外は、実施例81と同様にして2-ナフトエ酸アミド(1a)から2-ナフトエ酸エステル(2a)への変換反応を行った。
その際の2-ナフトエ酸エステル(2a)の収率を測定した。実施例113~117の反応結果を表15に示す。収率は、単離収率を示す。
【0283】
【0284】
[実施例118~124]アミド化合物から2-ナフトエ酸エステル(2a)への変換反応
【0285】
【0286】
金属プレカーサーとしてキュバン錯体Cat1a[Mn(acac)(OEt)(EtOH)]4を5mol%(マンガン基準)用いてアミド化合物から2-ナフトエ酸エステル(2a)への変換反応を行なった。
具体的には、実施例81における原料アミド(2-ナフトエ酸アミド(1a))を表17に示したように窒素上に種々の置換基を有する基質に変更した以外は、実施例81と同様にしてアミド化合物から2-ナフトエ酸エステル(2a)への変換反応を行った。
収率は、実施例1と同様に、ガスクロマトグラフィー(GC)を用いて内標品法で測定した。実施例118~124の反応結果を表17に示す。
なお、実施例118では、単離収率も測定した。
【0287】
【0288】
なお、表17中のQは、下記の置換基である。
【0289】
【0290】
[実施例125~126]2-ナフトエ酸アミド(1a)から2-ナフトエ酸エステル(2a)への変換反応
【0291】
【0292】
金属プレカーサーとしてマンガンキュバン錯体Cat1a[Mn(acac)(OEt)(EtOH)]4を2mol%(マンガン基準)用いて2-ナフトエ酸アミド(1a)から2-ナフトエ酸エステル(2a)への変換反応を行なった。
具体的には、2-ナフトエ酸アミド(1a)0.50mmolと1-ブタノール0.25mLに、1mol%のマンガンキュバン錯体Cat1a、リガンド(L11)2mol%、ラジカル捕捉剤(BHT又はTEMPO(2,2,6,6-テトラメチルピペリジン1-オキシル))10mol%を加え、副生されるジメチルアミンを反応系外に排出しながら、還流温度で18時間反応を行った。
その際の2-ナフトエ酸エステル(2a)の収率は、ガスクロマトグラフィー(GC)を用いてドデカンを用いて内標品法で測定した。
【0293】
BHTを用いた場合(実施例125)の収率は73%で、TEMPOを用いた場合(実施例126)の収率は83%であった。
ラジカル捕捉剤を添加しても収率の低下がみられなかった。この結果からも本反応がラジカル反応によるものでは無いことが明らかとなった。
【0294】
[実施例127]第3級アルコールおよびフェノール誘導体を用いたエステル交換反応
【0295】
【0296】
実施例125と同様に、2-ナフトエ酸メチルエステル0.5mmolと第3級アルコールの1-アダマンタノール0.5mmol、先に調製したマンガンプレカーサーCat1b[Mn(dpm)(OMe)(MeOH)]4mol%及び2,2’‐ビピリジン(L1)5mol%を加えて溶媒中でエステル交換反応を行なった。溶媒としては、CPME(0.25mL)を用いた。実施例1と同様に、ガスクロマトグラフィー(GC)を用いて内標品法で測定した。
【0297】
収率は51%であった。
溶媒としてトルエンを用いた場合よりもCPMEを用いた場合の方が、収率が良かった。
なお、比較として、マンガンプレカーサーを加えずに反応を行なったところ、反応がほとんど進行しなかった(収率2%)。また、マンガンプレカーサーとして塩化マンガン水和物を用いた場合でも反応はまったく反応しなかった。
【0298】
[実施例128]第3級アルコールおよびフェノール誘導体を用いたエステル交換反応
【0299】
【0300】
実施例127に準じて、2-ナフトエ酸メチルエステル0.5mmolと第3級アルコールの1-アダマンタノール0.5mmol、先に調製したマンガンプレカーサーCat1b[Mn(dpm)(OMe)(MeOH)]4Xmol%、及び下記に示す種々のリガンド(L6、L11、L12、L20、L22、L26、L30、L31又はL32)Xmol%を加えて溶媒中でエステル交換反応を行なった(溶媒:CPME)。収率は、実施例1と同様に、ガスクロマトグラフィー(GC)を用いて内標品法で測定した。
リガンドの種類、添加量(Xmol%)及び収率を下記に示す。
【0301】
【0302】
本発明を詳細にまた特定の実施態様を参照して説明したが、本発明の精神と範囲を逸脱することなく様々な変更や修正を加えることができることは当業者にとって明らかである。本出願は2018年2月28日出願の日本特許出願(特願2018-035579)及び2018年6月18日出願の日本特許出願(特願2018-115565)に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。
【産業上の利用可能性】
【0303】
本発明の第四周期遷移金属錯体を触媒として用いることで第三級アミド化合物からエステル化合物への効率的なに変換可能な反応を行うことができる。また、従来エステル交換反応が容易でなかった立体障害の大きい第三級アルコールエステルもアミド化合物から合成可能である。
これにより環境調和性、操作性、さらに経済性良く反応を行える。さらに本発明の錯体を用いる本発明の反応によりカルボニル基の保護基や、配向基に利用することで医農薬中間体、機能性材料及び構造材料などの製造方法へ応用できる。