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特許7572731光熱変換素子および、その製造方法、光熱発電装置ならびに微小物体の集積システム
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-16
(45)【発行日】2024-10-24
(54)【発明の名称】光熱変換素子および、その製造方法、光熱発電装置ならびに微小物体の集積システム
(51)【国際特許分類】
   H10N 10/13 20230101AFI20241017BHJP
   H10N 10/01 20230101ALI20241017BHJP
   H10N 10/17 20230101ALI20241017BHJP
   H02N 11/00 20060101ALI20241017BHJP
   B23K 26/00 20140101ALI20241017BHJP
【FI】
H10N10/13
H10N10/01
H10N10/17 A
H02N11/00 A
B23K26/00 G
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2021543083
(86)(22)【出願日】2020-08-28
(86)【国際出願番号】 JP2020032761
(87)【国際公開番号】W WO2021040023
(87)【国際公開日】2021-03-04
【審査請求日】2023-07-31
(31)【優先権主張番号】P 2019157187
(32)【優先日】2019-08-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度 国立研究開発法人科学技術振興機構 未来社会創造事業 「低侵襲ハイスループット光濃縮システムの開発」委託事業 産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願、平成29年度 国立研究開発法人科学技術振興機構 戦略的創造研究推進事業(さきがけ)「低温廃熱回収を目的とした熱電変換材料及びデバイスの開発」委託事業 産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】519135633
【氏名又は名称】公立大学法人大阪
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】飯田 琢也
(72)【発明者】
【氏名】小菅 厚子
(72)【発明者】
【氏名】床波 志保
【審査官】柴山 将隆
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-254940(JP,A)
【文献】国際公開第2017/195872(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/170758(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/037876(WO,A1)
【文献】特開2009-283783(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H10N 10/13
H10N 10/01
H10N 10/17
H02N 11/00
B23K 26/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体材料を準備するステップと、
前記固体材料にレーザ光を照射することで加工された加工領域を形成するステップとを備え、
前記形成するステップは、前記加工領域が黒色化するように前記固体材料を微粒子化させるステップを含み、
前記加工領域は、前記固体材料からなる集積化された複数の微粒子を含み、
前記複数の微粒子は、光照射により、前記複数の微粒子の各々の表面に局在表面プラズモン共鳴を生じさせる、光熱変換素子の製造方法。
【請求項2】
前記形成するステップは、前記加工領域に微細溝が切削されるように前記レーザ光を走査するステップを含む、請求項1に記載の光熱変換素子の製造方法。
【請求項3】
前記固体材料は、熱電効果を示す熱電材料と、金属薄膜とのうちの少なくとも一方を含む、請求項1または2に記載の光熱変換素子の製造方法。
【請求項4】
固体材料を備え、
前記固体材料は、前記固体材料からなる複数の微粒子が集積することで前記固体材料が黒色化した領域を含み、
前記複数の微粒子は、光照射により、前記複数の微粒子の各々の表面に局在表面プラズモン共鳴を生じさせる、光熱変換素子。
【請求項5】
前記固体材料は、熱電効果を示す熱電材料と、金属薄膜とのうちの少なくとも一方を含む、請求項4に記載の光熱変換素子。
【請求項6】
発電した電力を負荷に供給可能な光熱発電装置であって、
請求項4または5に記載の光熱変換素子と、
前記光熱変換素子に熱的に接続され、熱を電気に変換する熱電変換部とを備え、
前記熱電変換部は、
P型熱電素子と、
前記P型熱電素子の低温側に電気的に接続された第1電極と、
N型熱電素子と、
前記N型熱電素子の低温側に電気的に接続された第2電極とを含み、
前記第1電極と前記第2電極とは、前記負荷に接続される、光熱発電装置。
【請求項7】
前記光熱変換素子と、前記P型熱電素子および前記N型熱電素子のうちの一方とは、一体的に光熱変換熱電素子を構成する、請求項6に記載の光熱発電装置。
【請求項8】
基板と、
前記基板上に配置された金属薄膜とを備え、
前記金属薄膜は、前記金属薄膜の材料からなる複数の微粒子が分散することで前記金属薄膜が黒色化した領域を含み、
前記複数の微粒子は、光照射により、前記複数の微粒子の各々の表面に局在表面プラズモン共鳴を生じさせる、光熱変換素子。
【請求項9】
液体に含まれる複数の微小物体を集積する、微小物体の集積システムであって、
請求項8に記載の光熱変換素子を保持するように構成されたホルダと、
前記複数の微粒子の各々の表面に局在表面プラズモン共鳴を生じさせる光を発する光源とを備え、
前記光源は、前記液体が前記領域上に保持された状態における前記領域への光照射により前記液体中に対流を生じさせることによって、前記複数の微小物体を集積する、微小物体の集積システム。
【請求項10】
前記液体は、前記領域の上面に保持され、
前記光源からの光は、前記領域の下方から上方に向けて照射され、
前記金属薄膜の厚みは、前記領域が前記光源からの光に対して光透過性を有するように定められている、請求項9に記載の微小物体の集積システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、光熱変換素子、光熱変換素子の製造方法、光熱変換素子を用いた光熱発電装置、および、光熱変換素子を用いた微小物体の集積システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、太陽光などの白色光を熱に変換して、その熱を利用する光熱変換素子が注目されている。光熱変換素子の製造には、化学的処理を含む複雑な方法が用いられることが多い。そのため、より簡易な製造方法によって光熱変換素子を製造する技術が提案されている。
【0003】
たとえば特開2013-254940号公報(特許文献1)に開示された光熱変換素子は、複数の金属ナノ粒子集積構造体と、基板とを備える。複数の金属ナノ粒子集積構造体の各々は、複数の金属ナノ粒子が集積されることによって形成されている。基板は、複数の金属ナノ粒子集積構造体が固定された固定面を有する。この固定面には、複数の金属ナノ粒子集積構造体が密集した領域が形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2013-254940号公報
【文献】国際公開第2017/195872号
【文献】特開2017-202446号公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】Atsuko Kosuga, Yasuyuki Yamamoto, Moe Miyai, Mie Matsuzawa, Yushi Nishimura, Shimpei Hidaka, Kohei Yamamoto, Shin Tanaka, Yojiro Yamamoto, Shiho Tokonami and Takuya Iida, "A high performance photothermal film with spherical shell-type metallic nanocomposites for solar thermoelectric conversion", Nanoscale, 2015, 7, 7580-7584
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
光を熱に変換する光熱変換素子においては、できるだけ高効率に光を熱に変換可能であることが求められる。さらに、そのような光熱変換素子を簡易な製造方法によって製造できることが要望される。
【0007】
本開示は、上記課題を解決するためになされたものであり、本開示の目的は、高効率に光を熱に変換可能な光熱変換素子を提供することである。本開示の他の目的は、光熱変換素子の簡易な製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)本開示のある局面に従う光熱変換素子の製造方法は、固体材料を準備するステップと、固体材料にレーザ光を照射することで加工された加工領域を形成するステップとを備える。形成するステップは、加工領域が黒色化するように固体材料を微粒子化させるステップを含む。
【0009】
(2)形成するステップは、加工領域に微細溝が切削されるようにレーザ光を走査するステップを含む。
【0010】
(3)固体材料は、熱電効果を示す熱電材料と、金属薄膜とのうちの少なくとも一方を含む。
【0011】
(4)本開示の他の局面に従う光熱変換素子は、固体材料を備える。固体材料は、固体材料からなる複数の微粒子が分散することで前記固体材料が黒色化した領域を含む。複数の微粒子は、光照射により、複数の微粒子の各々の表面に局在表面プラズモン共鳴を生じさせる。
【0012】
(5)固体材料は、熱電効果を示す熱電材料、金属薄膜とのうちの少なくとも一方を含む。
【0013】
(6)本開示のさらに他の局面に従う光熱発電装置は、発電した電力を負荷に供給可能である。光熱発電装置は、光熱変換素子と、光熱変換素子に熱的に接続され、熱を電気に変換する熱電変換部とを備える。熱電変換部は、P型熱電素子と、P型熱電素子の低温側に電気的に接続された第1電極と、N型熱電素子と、N型熱電素子の低温側に電気的に接続された第2電極とを含む。第1電極と第2電極とは、負荷に接続される。
【0014】
(7)光熱変換素子と、P型熱電素子およびN型熱電素子のうちの一方とは、一体的に光熱変換熱電素子を構成する。
【0015】
(8)本開示のさらに他の局面に従う光熱変換素子は、基板と、基板上に配置された金属薄膜とを備える。金属薄膜は、金属薄膜の材料からなる複数の微粒子が集積することで金属薄膜が黒色化した領域を含む。複数の微粒子は、光照射により、複数の微粒子の各々の表面に局在表面プラズモン共鳴を生じさせる。
【0016】
(9)本開示のさらに他の局面に従う微小物体の集積システムは、液体に含まれる複数の微小物体を集積する。微小物体の集積システムは、光熱変換素子を保持するように構成されたホルダと、複数の微粒子の各々の表面に局在表面プラズモン共鳴を生じさせる光を発する光源とを備える。光源は、液体が領域上に保持された状態における領域への光照射により液体中に対流を生じさせることによって、複数の微小物体を集積する。
【0017】
(10)液体は、上記領域の上面に保持される。光源からの光は、領域の下方から上方に向けて照射される。金属薄膜の厚みは、領域が光源からの光に対して光透過性を有するように定められている。
【発明の効果】
【0018】
本開示によれば、高効率に光を熱に変換可能な光熱変換素子を提供できる。また、本開示によれば、そのような光熱変換素子を簡易に製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】実施の形態1におけるレーザ加工システムの全体構成を概略的に示す図である。
図2】実施の形態1に係る光熱変換素子の構成を示す図である。
図3】作製した光熱変換素子の写真である。
図4】実施の形態1に係る他の光熱変換素子の構成を示す図である。
図5】作製した光熱変換素子の写真である。
図6】光熱変換素子のレーザ加工条件を説明するための第1の図である。
図7】光熱変換素子のレーザ加工条件を説明するための第2の図である。
図8】実施の形態1に係る光熱変換素子の製造方法を示すフローチャートである。
図9】実施の形態1の実施例における光熱変換素子のレーザ加工条件を示す図である。
図10】実施の形態1の実施例における光熱変換素子の観察結果を示す図である。
図11】条件1Aに従って製造された光熱変換素子の吸光度スペクトルの測定結果を示す図である。
図12】条件1Bに従って製造された光熱変換素子の吸光度スペクトルの測定結果を示す図である。
図13】条件1Cに従って製造された光熱変換素子の吸光度スペクトルの測定結果を示す図である。
図14】条件1Dに従って製造された光熱変換素子の吸光度スペクトルの測定結果を示す図である。
図15】実施の形態1の実施例における別の光熱変換素子のレーザ加工条件を示す図である。
図16】実施の形態1の実施例における光熱変換素子の観察結果を示す図である。
図17】条件2A~2Eに従って製造された光熱変換素子の反射スペクトルの測定結果を示す図である。
図18】実施の形態2に係る光熱発電装置の全体構成を示す図である。
図19】光熱発電装置のより詳細な構成の一例を示す図である。
図20】光熱発電装置のより詳細な構成の他の一例を示す図である。
図21】光熱変換素子2の光発熱効果による温度上昇量のシミュレーション条件を説明するための図である。
図22】光発熱効果による光熱変換素子の温度上昇量のシミュレーション結果を示す図である。
図23】光熱発電装置における光熱変換および熱電変換による発電量のシミュレーション条件を説明するための図である。
図24】光熱発電装置における発電電力のシミュレーション結果を示す図である。
図25】実施の形態3に係る微小物体の集積システムの全体構成を示す図である。
図26】XYZ軸ステージ上に保持された光熱変換素子の拡大図である。
図27】レーザ光の照射時におけるサンプルの様子を撮影した写真である。
図28】マイクロビーズの集積メカニズムを説明するための概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中同一または相当部分には同一符号を付して、その説明は繰り返さない。
【0021】
<用語の説明>
本開示およびその実施の形態において、「熱電材料」とは、熱電効果(ゼーベック効果)を示す材料であり、より詳細には、室温(20℃)での熱起電力の絶対値が50[μV/K]以上であり、かつ、室温における電気抵抗率(比抵抗)が100[mΩ・cm]以下である材料を意味する。熱起電力の絶対値が50[μV/K]以上である材料の中には絶縁体が含まれ得るものの、絶縁体は、電気抵抗率が100[mΩ・cm]以下との条件により熱電材料から除外される。熱電材料の例としては、合金(具体的にはコンスタンタン、ホイスラー合金、ハーフホイスラー合金など)、シリサイド(鉄シリサイドなど)、金属、半導体、セラミックスなどが挙げられる。
【0022】
なお、コンスタンタンの熱起電力の絶対値は約75[μV/K]であり、コンスタンタンの電気抵抗率は約4.8×10-2[mΩ・cm]である。対比のため記載すると、金の熱起電力の絶対値は約1.94[μV/K]であり、金の電気抵抗率は約2.4×10-3[mΩ・cm]である。
【0023】
本開示およびその実施の形態において、「微粒子」とは、ナノメートルオーダーからマイクロメートルオーダーまでのサイズを有する粒子を意味する。微粒子の形状は、球形状に限定されるものではなく、楕円球形状またはロッド形状などであってもよい。微粒子の例としては、金属ナノ粒子、金属マイクロ粒子、半導体ナノ粒子、半導体マイクロ粒子、金属ナノ粒子集合体、金属ナノ粒子と金属マイクロ粒子との集合体、半導体ナノ粒子と半導体マイクロ粒子との集合体などが挙げられる。
【0024】
本開示およびその実施の形態において、「微小物体」とは、ナノメートルオーダーからマイクロメートルオーダーまでのサイズを有する物質を意味する。微小物体の形状は、球形状に限定されるものではなく、楕円球形状またはロッド形状などであってもよい。微小物体が楕円球形状である場合、楕円球の長軸方向の長さおよび短軸方向の長さの少なくとも一方がナノメートルオーダーからマイクロメートルオーダーまでの範囲内であればよい。微小物体がロッド形状である場合、ロッドの幅および長さの少なくとも一方がナノメートルオーダーからマイクロメートルオーダーまでの範囲内であればよい。微小物体の例としては、金属ナノ粒子、金属ナノ粒子集合体、金属ナノ粒子集積構造体、半導体ナノ粒子、有機ナノ粒子、樹脂ビーズ、微小粒子状物質(PM:Particulate Matter)などが挙げられる。
【0025】
「金属ナノ粒子」とは、ナノメートルオーダーのサイズを有する金属粒子である。「金属マイクロ粒子」とは、マイクロメートルオーダーのサイズを有する金属粒子である。「金属ナノ粒子集合体」とは、複数の金属ナノ粒子が凝集することによって形成された集合体である。「金属ナノ粒子集積構造体」とは、たとえば、複数の金属ナノ粒子が相互作用部位を介してビーズの表面に固定され、互いに隙間を設けて、金属ナノ粒子の直径以下の間隔で配置された構造体である。「半導体ナノ粒子」とは、ナノメートルオーダーのサイズを有する半導体粒子である。「半導体マイクロ粒子」とは、マイクロメートルオーダーのサイズを有する半導体粒子である。「有機ナノ粒子」とは、ナノメートルオーダーサイズを有する有機化合物からなる粒子である。「樹脂ビーズ」とは、ナノメートルオーダーからマイクロメートルオーダーまでのサイズを有する樹脂からなる粒子である。「PM」とは、マイクロメートルオーダーのサイズを有する粒子状物質である。
【0026】
微小物体は生体由来の物質(生体物質)であってもよい。より具体的には、微小物体は、細胞、微生物(細菌、真菌等)、生体高分子(タンパク質、核酸、脂質、多糖類等)、抗原(アレルゲン等)およびウイルスを含み得る。
【0027】
本開示およびその実施の形態において、「微細溝」とは、マイクロメートルオーダーの幅を有する溝を意味する。複数の微細溝が切削される場合、ある溝と、その溝と隣り合う溝との間の間隔もマイクロメートルオーダーであることが好ましい。微細溝の形状は、直線状に限定されるものではなく、曲線形状であってもよい。また、微細溝は、1つの溝が複数の溝に分岐する部分を含んでもよく、複数の溝が1つの溝に統合する部分を含んでもよい。微細溝は破線状であってもよい。
【0028】
本開示およびその実施の形態において、「ナノメートルオーダー」には、1nmから1,000nm(=1μm)までの範囲が含まれる。「マイクロメートルオーダー」には、1μmから1,000μm(=1mm)までの範囲が含まれる。したがって、「ナノメートルオーダーからマイクロメートルオーダーまで」には、1nmから1,000μmまでの範囲が含まれる。「ナノメートルオーダーからマイクロメートルオーダーまで」との用語は、典型的には数nm~数百μmの範囲を意味し、好ましくは100nm~100μmの範囲を意味し、より好ましくは1μm~数十μmの範囲を意味し得る。
【0029】
本開示およびその実施の形態において、「白色光」とは、紫外域~近赤外域の波長範囲(たとえば200nm~1100nmの波長範囲)を有する光を意味する。白色光は、連続光であってもよいしパルス光であってもよい。
【0030】
本開示およびその実施の形態において、「光透過性を有する」とは、物質を通過する光の強度がゼロより大きいという性質を意味する。光が物質を通過する場合、残りの光のエネルギーはその物質によって吸収、散乱または反射されてもよい。また、その光の波長領域は、紫外域、可視域、および近赤外域のいずれかの領域、これら3つの領域のうちの2つの領域にまたがる領域、3つの領域のすべての領域にまたがる領域のいずれでもよい。光透過性は、たとえば透過率の範囲によって定義できる。この場合、透過率の範囲の下限は0よりも大きければよく、特に限定されない。
【0031】
本開示およびその実施の形態において、「マイクロバブル」とは、マイクロメートルオーダーの気泡を意味する。
【0032】
[実施の形態1]
実施の形態1においては、2種類の光熱変換素子1,2および、その製造方法について説明する。実施の形態1に係る光熱変換素子1,2は、レーザ加工システムを用いて作製される。以下では、x方向およびy方向は水平方向を表す。x方向とy方向とは互いに直交する。z方向は鉛直方向を表す。重力の向きはz方向下方である。
【0033】
<レーザ加工システムの構成>
図1は、実施の形態1におけるレーザ加工システムの全体構成を概略的に示す図である。図1を参照して、レーザ加工システム100は、XYZ軸ステージ110と、レーザ発振器120と、レーザドライバ130と、対物レンズ140と、走査機構150と、制御装置160とを備える。
【0034】
XYZ軸ステージ110は、光熱変換素子1(または光熱変換素子2)を保持するように構成されている。光熱変換素子1,2の構成については図2図5にて説明する。
【0035】
レーザ発振器120は、パルスレーザ光Lを発する。たとえば、超短パルス光を発するフェムト秒レーザをレーザ発振器120として用いることができる。そのようなレーザ発振器120の具体例としてはチタンサファイアレーザが挙げられる。チタンサファイアレーザは、近赤外域に含まれる波長(650nm~1,100nmの範囲内の波長であり、たとえば中心波長1,040nm)の光を発する。
【0036】
レーザドライバ130は、レーザ発振器120に駆動電流を供給するとともに、レーザ発振器120から発せられるパルスレーザ光Lの特性(具体的にはレーザ出力、パルス幅および繰り返し周波数など)を制御装置160からの指令に従って制御する。
【0037】
対物レンズ140は、レーザ発振器120からのパルスレーザ光Lを集光する。対物レンズ140により集光された光は、XYZ軸ステージ110上に保持された、加工前または加工中の光熱変換素子1に照射される。
【0038】
走査機構150は、制御装置160からの指令に応じて、XYZ軸ステージ110のx方向、y方向およびz方向の位置を調整することが可能に構成されている。本実施の形態において、走査機構150は、まず、XYZ軸ステージ110上に保持された光熱変換素子1と対物レンズ140との間の距離(後述するパルスレーザ光Lのスポット高さH)を設定する。そして、走査機構150は、スポット高さHを一定に維持したままXYZ軸ステージ110のx方向およびy方向の位置を調整することによって、光熱変換素子1に対してパルスレーザ光Lを走査する。
【0039】
なお、図1に示す例では、パルスレーザ光Lの照射位置を固定した上で光熱変換素子1を移動させることで、光熱変換素子1へのパルスレーザ光Lの走査が実現される。しかし、反対に、固定された光熱変換素子1に対してパルスレーザ光Lの照射位置を移動させてもよい。
【0040】
制御装置160は、いずれも図示しないが、CPU(Central Processing Unit)などのプロセッサと、ROM(Read Only Memory)およびRAM(Random Access Memory)などのメモリと、入出力ポートとを含むマイクロコンピュータである。制御装置160は、レーザ加工システム100内の各機器(レーザドライバ130および走査機構150)を制御する。具体的には、制御装置160は、パルスレーザ光Lの照射条件(レーザ加工条件)を設定し、そのレーザ加工条件に従う加工を実現するための指令をレーザドライバ130に出力する。また、制御装置160は、パルスレーザ光Lを走査するための指令を走査機構150に出力する。
【0041】
図2は、実施の形態1に係る光熱変換素子1の構成を示す図である。図2を参照して、光熱変換素子1は、基板11と、基板11上に配置された金属薄膜12とを備える。
【0042】
基板11は、光熱変換および熱電変換(後述)に影響を与えず、かつ、レーザ発振器120からのパルスレーザ光L(この例では近赤外光)に対して透明な材料により形成されている。そのような材料としては、石英、シリコン、樹脂フィルムなどが挙げられる。本実施の形態では、ガラス基板(カバーガラス)が基板11として用いられる。
【0043】
金属薄膜12の材料は、金属薄膜12に照射される光の波長域(後述する例では白色光WL)における光熱変換効率が高い材料であることが好ましい。図2に示す例では、金属薄膜12は、膜厚がナノメートルオーダーの金薄膜である。金薄膜は、スパッタまたは無電解メッキなどの公知の手法を用いてガラス基板上に形成できる。
【0044】
なお、金属薄膜12は、基板11全面に形成されていなくてもよく、基板11の少なくとも一部に形成されていればよい。また、金属薄膜12の材料は、金に限定されるものではなく、光熱変換を生じ得る材料であれば銀であってもよいし、コンスタンタンなどの合金であってもよい。金属薄膜12は、本開示に係る「固体材料」の一例である。
【0045】
金属薄膜12は、金属薄膜12にパルスレーザ光Lを照射することで加工された加工領域LPを含む。詳細は後述するが、加工領域LPは、パルスレーザ光Lの照射により金属薄膜12が微粒子化することで形成された金属ナノ粒子を含み、黒色化した領域である(図10参照)。
【0046】
図3は、作製した光熱変換素子1の写真である。図3に示す例では、光熱変換素子1が2つの加工領域LP(加工領域LP1,LP2)を含む。このように加工領域LPの数は1に限定されず、2以上の任意の数とすることができる。また、加工領域LPを金属薄膜12の一部のみに形成してもよいし、金属薄膜12の全面をレーザ加工して全面に加工領域LPを形成してもよい。なお、図3において光熱変換素子1の上下左右には光熱変換素子1を固定するためのテープが張り付けられている。
【0047】
図4は、実施の形態1に係る他の光熱変換素子2の構成を示す図である。図5は、作製した光熱変換素子2の写真である。図4および図5を参照して、光熱変換素子2は、金属板であってもよい。つまり、金属薄膜12を形成するための土台としての基板11は必須ではない。この例では、光熱変換素子2の材料は銅ニッケル合金である。特に、ニッケル含有率が40%~50%程度の銅合金であるコンスタンタン(constantan)を採用できる。コンスタンタン等からなる金属板は、本開示に係る「固体材料」の他の一例である。ただだし、「固体材料」は、熱電効果を示す他の熱電材料であってもよい。
【0048】
光熱変換素子2は、金属薄膜12と同様に、金属材料にパルスレーザ光Lを照射することで形成された加工領域LPを含む。図5に示す写真では、光熱変換素子2に2つの黒色化した加工領域LP3,LP4が設けられている。
【0049】
<レーザ加工条件>
次に、適切な加工領域LPを形成するためのパルスレーザ光Lの照射条件(レーザ加工条件)について説明する。レーザ加工条件は3つのパラメータにより規定される。光熱変換素子1,2のいずれにおいても各パラメータの設定手法は共通であるため、以下では光熱変換素子1のレーザ加工条件について代表的に説明する。
【0050】
図6は、光熱変換素子1のレーザ加工条件を説明するための第1の図である。図6を参照して、レーザ加工条件を規定する第1のパラメータは、スポット高さH[μm]である。パルスレーザ光Lのスポットサイズ(パルスレーザ光Lの半径)は、ビームウエストの位置で最小となる。スポット高さHとは、ビームウエストの位置を基準(H=0)とした、ビームウエストと光熱変換素子1の上面(図6に示す例では金属薄膜12の表面)との間の光軸上の距離である。
【0051】
図7は、光熱変換素子1のレーザ加工条件を説明するための第2の図である。レーザ加工条件を規定する第2のパラメータは、パルスレーザ光Lの走査間隔D[μm]である。本実施の形態において、パルスレーザ光Lは、互いに平行な複数の直線が一定間隔で配列するように走査される。走査間隔Dとは、ある直線と、その直線に隣接する別の直線との間の距離である。なお、パルスレーザ光Lによるレーザ加工が行われる加工領域LPの大きさは、数mm四方(後述の例では6mm×6mm)である。
【0052】
レーザ加工条件を規定する第3のパラメータは、レーザ出力Pout[mW]である。レーザ出力Poutとは、対物レンズ140を透過した後(すなわち、光熱変換素子1の位置)におけるパルスレーザ光Lの出力である。
【0053】
スポット高さH、走査間隔Dおよびレーザ出力Poutの3つのパラメータを適宜組み合わせることにより、加工領域LPが示す特性(光学特性および光熱変換特性)を調整できる。加工領域LPの特性の測定結果については後に詳細に説明する。
【0054】
<光熱変換素子の製造フロー>
図8は、実施の形態1に係る光熱変換素子1の製造方法を示すフローチャートである。このフローチャートは、所定条件の成立時(たとえばユーザが図示しない開始ボタンを操作したとき)に実行される。このフローチャートに含まれる各ステップは、基本的には制御装置160によるソフトウェア処理によって実現されるが、その一部または全部が制御装置160内に作製されたハードウェア(電気回路)によって実現されてもよい。以下、ステップを「ST」と略す。
【0055】
図8を参照して、ST1において、制御装置160は、レーザ加工条件として上記3つのパラメータ(スポット高さH、走査間隔Dおよびレーザ出力Pout)の組合せを設定する。より詳細には、事前に実験を実施することで、光熱変換素子1の種類(金属薄膜12の材料および厚み)および用途等に応じて、3つのパラメータの適切な組合せを求めることができる。そのため、制御装置160は、予め準備された複数の組合せの中から、光熱変換素子1の種類および用途等に応じて適切な組合せを選択できる。あるいは、制御装置160は、上記3つのパラメータの組合せを指定するユーザ操作を図示しない入力機器(マウスまたはキーボードなど)から受け付けてもよい。
【0056】
ST2において、制御装置160は、加工前の光熱変換素子1をXYZ軸ステージ110上に設置する。この処理は、たとえば、光熱変換素子1の送り機構(図示せず)により実現できる。なお、ST2の処理は、本開示に係る「準備するステップ」に相当する。
【0057】
ST3において、制御装置160は、走査機構150に指令を出力し、XYZ軸ステージ110の高さ(z方向の位置)を制御する。これにより、制御装置160は、スポット高さHをST1にて設定された値に調整する。
【0058】
ST4において、制御装置160は、ST1にて設定されたレーザ加工条件に従うパルスレーザ光Lの照射を開始(または継続)するようにレーザドライバ130を制御する。また、制御装置160は、事前に設定した走査パターンに従ってパルスレーザ光Lが走査されるように走査機構150を制御する。ST4の処理は、本開示に係る「作製するステップ」に相当する。
【0059】
ST5において、制御装置160は、予め定められたレーザ加工の終了条件が成立したかどうかを判定する。制御装置160は、走査パターンの描画が完了した時点でレーザ加工の終了条件が成立したと判定する。終了条件が成立していない場合(ST4においてNO)には制御装置160は処理をST4に戻す。これにより、パルスレーザ光Lの照射が継続される。終了条件が成立すると(ST5においてYES)、制御装置160は、処理をST6に進める。
【0060】
ST6において、制御装置160は、パルスレーザ光Lの照射を停止するようにレーザドライバ130を制御する。そして、制御装置160は、光熱変換素子1の送り機構を制御することによって、加工後の光熱変換素子1をXYZ軸ステージ110から取り出す(ST7)。これにより、一連の処理が終了する。
【0061】
[実施の形態1の実施例]
次に、レーザ加工システム100を用いて作製した光熱変換素子1,2の観察結果およびスペクトル測定結果について説明する。まず、ガラス基板上に形成された金薄膜をレーザ加工した光熱変換素子1(図2および図3参照)の評価結果について説明する。この例では金薄膜の膜厚は100μmであった。
【0062】
図9は、実施の形態1の実施例における光熱変換素子1のレーザ加工条件を示す図である。図9を参照して、上述の光熱変換素子1に対して、図9に示す4通りの条件1A~1Dに従ってレーザ加工を行った。条件1A~1Dの間で、レーザ出力Pout=800mWおよび走査間隔D=50μmは共通である。一方、スポット高さHは条件1A~1Dの間で異なる。なお、パルスレーザ光Lのパルス幅を400fsに設定し、パルスレーザ光Lの繰り返し周波数を100kHzに設定した。
【0063】
図10は、実施の形態1の実施例における光熱変換素子1の観察結果を示す図である。図10には、図9にて説明した条件1A~1Dに従って製造された光熱変換素子1のSEM(Scanning Electron Microscope)画像が示されている。図10を参照して、倍率350倍の画像において、色が薄い領域(2本の黒線間の領域)がパルスレーザ光Lが照射された領域である。倍率2,000倍または5,000倍の画像からは、条件1A~1Dのいずれにおいても、パルスレーザ光Lの照射により形成された微細溝に微粒子化した金が確認された。多くの金粒子のサイズ(直径)は数十ナノメートルから数百ナノメートルまでの範囲であったが、一部の金粒子はマイクロメートルオーダーのサイズを有していた。
【0064】
特定の波長を有する光を金ナノ粒子(金マイクロ粒子であってもよい)に照射すると、金ナノ粒子の自由電子が表面プラズモンを形成し、共鳴光によって振動する。これにより分極が生じる。この分極のエネルギーは、自由電子と原子核との間のクーロン相互作用により格子振動のエネルギーに変換される。その結果、金ナノ粒子は熱を発生させる。以下では、この効果を「光発熱効果」とも称する。金ナノ粒子の光発熱効果を利用することで、広帯域の光を吸収して高効率に熱に変換できる(後述する図22参照)。
【0065】
図11は、条件1Aに従って製造された光熱変換素子1の吸光度スペクトルの測定結果を示す図である。図12は、条件1Bに従って製造された光熱変換素子1の吸光度スペクトルの測定結果を示す図である。図13は、条件1Cに従って製造された光熱変換素子1の吸光度スペクトルの測定結果を示す図である。図14は、条件1Dに従って製造された光熱変換素子1の吸光度スペクトルの測定結果を示す図である。
【0066】
図11図14の各図において、上段には黒線上の領域(パルスレーザ光Lの非照射領域)のスペクトルを局所的に測定した結果が示されており、下段には黒線間の領域(金ナノ粒子が観察された領域)のスペクトルを局所的に測定した結果が示されている。黒線上の領域では、未加工の金薄膜と同様に平坦なスペクトルが得られた。これに対し、黒線間の領域においては、スペクトルがブロードになることが観察されるとともに、金ナノ粒子の局在表面プラズモン由来のピークが波長530nm付近に確認された。
【0067】
このように、パルスレーザ光Lを照射した領域の吸光度スペクトルは、パルスレーザ光Lを照射していない領域の吸光度スペクトル、あるいは単一の金属ナノ粒子から得られる吸光度スペクトルと比べて、ブロード化するとともにピークシフトする。このスペクトル変化は以下のことを示している。
【0068】
パルスレーザ光Lの照射という物理的プロセス(非化学的プロセス)のみを用いることで、金ナノ粒子を高密度に集積できる。そうすると、各金ナノ粒子中の電子系(局在表面プラズモンなど)の電磁場を介した相互作用が高まり、吸光度スペクトルがブロード化する。その結果、加工前の固体材料または単一の微粒子と比べて、広帯域の光を高効率に熱に変換できるようになる(光発熱効果の増強)。光照射領域の黒色化は、光発熱効果の増強が実現されたことを外観から観察可能な変化であると言える。
【0069】
単にレーザ光の照射により固体材料から微粒子(この例では金ナノ粒子)を生成するだけでは黒色化は生じないことに留意すべきである。黒色化は、レーザ光の照射により生成した固体材料からなる微粒子が高密度に集積していること、言い換えると、微粒子が互いに近接しつつも分散していることで生じる。
【0070】
パルスレーザ光Lの照射により微細溝を切削することで、金薄膜の表面積を増大させることができる。このことは、生成した金ナノ粒子が互いに近接しつつも分散可能な領域の面積(いわば、高密度に集積した金ナノ粒子の受け皿となる面積)を大きくできることを意味している。したがって、微細溝の切削により光発熱効果を一層増強することが可能になる。
【0071】
続いて、平板上のコンスタンタンをレーザ加工した光熱変換素子2(図4および図5参照)の評価結果について説明する。光熱変換素子2の厚みは500μmであった。
【0072】
図15は、実施の形態1の実施例における別の光熱変換素子2のレーザ加工条件を示す図である。この例では、図15に示す5通りの条件2A~2Eに従ってレーザ加工を行った。
【0073】
図16は、実施の形態1の実施例における光熱変換素子2の観察結果を示す図である。図16を参照して、光熱変換素子2においてもパルスレーザ光Lの照射領域に多数の微粒化したコンスタンタンが高密度に集積していることが確認された。多くのコンスタンタン粒子のサイズは、数十ナノメートルから数百ナノメートルまでの範囲であった。
【0074】
図17は、条件2A~2Eに従って製造された光熱変換素子2の反射スペクトルの測定結果を示す図である。図17の上段には、レーザ加工前の反射スペクトル(3つのサンプルの測定結果を平均したもの)が比較のため示されている。中段には、レーザ加工後の反射スペクトルが示されている。下段には、条件2B~2Dから得られた反射スペクトルの拡大図が示されている。
【0075】
レーザ加工前の光熱変換素子2の可視域(400nm~800nmの波長域)における反射率は、おおよそ40%~50%の範囲内であった。一方、レーザ加工を行うと、条件2A~2Eのいずれにおいても可視域における光熱変換素子2の反射率が10%未満になった。その中でも、条件2Cに従ってレーザ加工された光熱変換素子2の平均反射率(可視域での平均を取った反射率)は0.42%であった。条件2Dに従ってレーザ加工された光熱変換素子2の平均反射率は0.31%であった。目視によってもレーザ加工後の光熱変換素子2が黒色化していることが観察された。金属板の反射率を低下させる手法としてメッキによる黒色化が知られている。メッキにより黒色化したコンスタンタンの平均反射率は約2%である。したがって、条件2C,2Dから得られた平均反射率は、メッキにより到達可能な平均反射率よりも大幅に低いと言える。これらの反射率の大幅な低下は、レーザ加工で生成され高密度に集積したコンスタンタン粒子の吸光度スペクトルが、単一のコンスタンタン粒子から得られる吸光度スペクトルと比べて、ブロード化するとともにピークシフトしたために生じたと考えられる。
【0076】
また、条件2Aにおけるレーザ出力Poutが400mWであるのに対して、条件2B~2Eにおけるレーザ出力Poutは800mWである(図15参照)。条件2B~2Eに従うレーザ加工後の光熱変換素子2の平均反射率の方が条件2Aに従うレーザ加工後の光熱変換素子2の平均反射率よりも低いことから、レーザ出力Poutが高いほど平均反射率が低くなる傾向があることが分かる。
【0077】
条件2C,2Dに従ってレーザ加工された光熱変換素子2の平均反射率が特に低く、0.5%未満である。条件2C,2Dでは、パルスレーザ光Lの走査間隔Dが密(D=50μm)であり、かつ、パルスレーザ光Lのスポット径が比較的大きい(スポット高さH>50μm)。このことから、コンスタンタンの微粒子化が生じた領域間の間隔が狭く、かつ、コンスタンタンの微粒子化が広範囲に亘って生じたために、平均反射率の低下が進んだと考えられる。
【0078】
以上のように、実施の形態1においては、パルスレーザ光Lを走査することで光熱変換素子1,2に加工領域LPが形成される。パルスレーザ光Lの走査は、入手が容易な一般的なレーザ加工装置を用いて実現できる。また、図8にて説明したように光熱変換素子1,2の作製手順は化学的処理を含まず、光熱変換素子1,2の作製に要する時間も10分~20分程度である。さらに、特許文献1に開示された光熱変換素子と比べても、金属ナノ粒子集積構造体の生成を要さない点において、より容易であると言える。このように、実施の形態1によれば、光熱変換素子1,2を簡易な製造方法によって作製できる。
【0079】
[実施の形態2]
実施の形態2においては、実施の形態1に係る光熱変換素子1,2を用いて発電が可能な光熱発電装置について説明する。
【0080】
図18は、実施の形態2に係る光熱発電装置の全体構成を概略的に示す図である。図18を参照して、白色光源91は、白色光WLを発する光源である。白色光源91は、たとえば太陽であるが、疑似太陽光照明、白熱電球、白色LED(Light Emitting Diode)、蛍光灯などの他の光源あってもよい。また、白色光源91に代えて、紫外域~近赤外域に含まれる波長域の光を発する単色光源を用いてもよいし、複数の波長域の光を発する光源を用いてもよい。
【0081】
光熱発電装置200は、白色光源91からの白色光WLを利用して発電し、発電した電力を電気負荷92に供給する。光熱発電装置200は、光熱変換部210と、熱電変換部220とを備える。光熱変換部210は、白色光源91からの白色光WLを受けて光発熱効果により熱を発生させる。熱電変換部220は、光熱変換部210により発生した熱エネルギーを電気エネルギーに変換する。すなわち、熱電変換部220は、光熱変換部210からの熱を用いて発電する。この電力が電気負荷92に供給される。
【0082】
電気負荷92は、電気回路またはモータ等であるが、電力を消費する機器であれば特に限定されない。また、図示しないが、電気負荷92に代えて、光熱発電装置200から供給される電力を蓄える蓄電装置(二次電池など)を光熱発電装置200に接続してもよい。電気負荷92または蓄電装置は、本開示に係る「負荷」に相当する。
【0083】
図19は、光熱発電装置200のより詳細な構成の一例を示す図である。図19を参照して、この例では、光熱変換部210は光熱変換素子1を含む。光熱変換素子1の基板11には、たとえば導電性フィルム(ITO-PENフィルムなど)を用いることができる。
【0084】
熱電変換部220は、P型熱電素子221と、N型熱電素子222と、ヒートシンク223と、電極231~234と、導電性ペースト241,242A,242B,243,244A,244Bとを含む。
【0085】
P型熱電素子221は、導電性ペースト241を介して電極231に熱的かつ電気的に接続されている。電極231は、光熱変換素子1の基板11(導電性フィルム)に熱的かつ電気的に接続されている。また、P型熱電素子221は、導電性ペースト242Aを介して電極232に熱的かつ電気的に接続されている。電極232(第1電極)は、導電性ペースト242Bを介してヒートシンク223に熱的に接続されているものの、ヒートシンク223からは電気的に絶縁されている。
【0086】
N型熱電素子222は、P型熱電素子221と同様に、導電性ペースト243を介して電極233に熱的かつ電気的に接続されている。電極233は、光熱変換素子1の基板11に熱的かつ電気的に接続されている。N型熱電素子222は、導電性ペースト244Aを介して電極234に熱的かつ電気的に接続されている。電極234(第2電極)は、導電性ペースト244Bを介してヒートシンク223に熱的に接続されているものの、ヒートシンク223からは電気的に絶縁されている。
【0087】
ヒートシンク223は、絶縁性を有する材料(たとえばアルミナ)により形成されている。
【0088】
白色光源91から発せられた白色光WLが光熱変換素子1の金属薄膜12に照射される。これにより、加工領域LPにおいて複数の微粒子(たとえば金ナノ粒子または金マイクロ粒子)の局在表面プラズモン共鳴が生じて発熱が増強される(光発熱効果)。光熱変換素子1によって発生した熱は、P型熱電素子221およびN型熱電素子222に伝達される。そうすると、P型熱電素子221およびN型熱電素子222の各々の両端の間に温度差が発生する。より詳細には、P型熱電素子221では、P型熱電素子221のうち光熱変換素子1に近い側(電極231および導電性ペースト241の側)の温度は、光熱変換素子1による加熱に伴って上昇する。一方、P型熱電素子221のうちヒートシンク223に近い側(導電性ペースト242A、電極232および導電性ペースト242Bの側)の温度は、ヒートシンク223からの放熱により低下する。N型熱電素子222についても同様である。
【0089】
以下では、P型熱電素子221またはN型熱電素子222のうち、光熱変換素子1に近い側を「高温側」とも記載し、ヒートシンク223に近い側を「低温側」とも記載する。
【0090】
P型熱電素子221の内部では、正孔が拡散して低温側に集まる。そのため、P型熱電素子221では、低温側の電位が高温側の電位よりも高くなる。一方、N型熱電素子222の内部では、電子が低温側へ拡散する。そのため、N型熱電素子222では、低温側の電位が高温側の電位よりも低くなる。その結果、P型熱電素子221の低温側とN型熱電素子222の低温側との間には電位差が生じる。よって、電極232と電極234との間に電気負荷92を接続することにより、電極232から電気負荷92へと電流を取り出すことができる。このように、光熱発電装置200は、光エネルギーを熱エネルギーに変換し、さらに、その熱エネルギーを電気エネルギーに変換することが可能に構成されている。
【0091】
なお、図19では、熱電変換部220がP型熱電素子221およびN型熱電素子222を1つずつ含む構成を示している。しかし、熱電変換部220は、P型熱電素子221とN型熱電素子222との組を複数個含んでもよい。
【0092】
図20は、光熱発電装置200のより詳細な構成の他の一例を示す図である。図20を参照して、この例では、光熱変換部210は、光熱変換素子1と光熱変換素子2(たとえばレーザ加工された平板状のコンスタンタン)とを含む。このように光熱変換素子1と光熱変換素子2とを組み合わせてもよい。また、光熱変換素子1に代えて光熱変換素子2を用いてもよい。なお、光熱変換素子2に接続された電極233は、光熱変換素子1に接続された電極231と電気的に接続されている。
【0093】
図20に示す例では、光熱変換素子2がN型熱電素子を兼ねる。すなわち、光熱変換素子2とN型熱電素子222とが一体的に構成され、それにより「光熱変換熱電素子」が実現されている。なお、この例では、光熱変換素子2とN型熱電素子222とが一体的に構成されているが、光熱変換素子2の材料によっては光熱変換素子2とP型熱電素子221とが一体的に構成されていてもよい。
【0094】
図19にて説明したように光熱変換素子1とN型熱電素子222とが別々に構成されている場合、光熱変換素子1とN型熱電素子222とは、基板11を介して熱的に接続されている。基板11の熱伝導率は、多くの金属の熱伝導率よりも低い。具体的には、コンスタンタンの熱伝導率が23[W/m・K]であるのに対し、ガラスの熱伝導率は1.0[W/m・K]であり、PET(polyethylene terephthalate)フィルムの熱伝導率は0.20~0.33[W/m・K]である。したがって、基板11を用いずに光熱変換素子2とN型熱電素子とを一体的に構成することで、光熱変換素子1とN型熱電素子222が別々に構成されている構成と比べて、より高効率に熱エネルギーを伝達できる。
【0095】
<光熱変換シミュレーション>
光熱発電装置200に白色光WL(太陽光)を照射した場合に、光熱発電装置200に含まれる光熱変換素子2の温度が室温からどの程度上昇するかを見積もった。その結果について説明する。
【0096】
図21は、光熱変換素子2の光発熱効果による温度上昇量のシミュレーション条件を説明するための図である。図21を参照して、白色光源91からの白色光WLの照射時間をt[s]とし、白色光WL(この例では太陽光)の照度をP(λ)[W/m]とする。光熱変換素子2における白色光WLの照射面の面積(加工領域LPの面積)をS[m]とする。なお、λ[m]は白色光WLの波長である。
【0097】
また、光熱変換素子2による白色光WLの吸収率をA(λ)[%]とする。吸収率Aは、反射率Rおよび透過率Tを用いてA=1-R-Tと表される。光熱変換素子2が平板状のコンスタンタンである場合には透過率T≒0であるので、吸収率A≒1-Rと近似可能である。したがって、光熱変換素子2の反射率Rの測定結果(図17参照)から吸収率Aを算出できる。
【0098】
この場合に、光熱変換素子2による吸熱量Q[J]は、下記式(1)に従って算出される。
【0099】
【数1】
【0100】
さらに、光熱変換素子2の比熱をC[J/k・g]とし、光熱変換素子2の質量をm[g]とすると、室温(25℃)を基準とした光熱変換素子2の温度上昇量Tup[K]は、下記式(2)により算出できる。
【0101】
up=Q/(C×m) ・・・(2)
本シミュレーションでは、白色光WLの照射時間t=120[s]に設定した。光熱変換素子2の照射面の面積S=3.2×10-4[m]に設定した。光熱変換素子2の比熱C=0.41[J/g・K]に設定し、光熱変換素子2の質量m=1.4[g]に設定した。
【0102】
図22は、光熱変換素子2の温度上昇量Tupのシミュレーション結果を示す図である。図22を参照して、図中左側には、未加工のコンスタンタン基板(加工領域LPが設けられていない基板)における温度上昇量を比較例のために算出した結果が約27℃であったことが示されている。これに対し、レーザ加工を行った光熱変換素子2においては、レーザ加工条件が条件2A~2E(図15参照)のいずれであっても温度上昇量Tupが45℃以上となった。
【0103】
なお、図21および図22では光熱変換素子2を用いる例について説明した。しかし、光熱変換素子2に代えて光熱変換素子1(図2および図3参照)を用いてもよい。光熱変換素子1に設けられた金属薄膜12への光照射によっても光発熱効果により高効率に熱を発生させることができる。
【0104】
<光熱電変換シミュレーション>
続いて、光熱発電装置200に白色光WL(太陽光)を照射した場合の光熱発電装置200における発電電力(出力電力)のシミュレーション結果について説明する。
【0105】
図23は、光熱発電装置200における光熱電変換(光熱変換および熱電変換)による発電量のシミュレーション条件を説明するための図である。図23を参照して、P型熱電素子221およびN型熱電素子222の材料特性を以下のように設定した。
【0106】
N型熱電素子222のゼーベック係数S(T)=-40×10-6~-36×10-6[V/K]に設定した。電気抵抗率ρ=0.44×10-6~0.46×10-6[Ω・m]に設定した。熱伝導率κ=23~27[W/m・K]に設定した。この熱伝導率κは、PETフィルムの熱伝導率(≒0.20~0.33[W/m・K])と比べて2桁高い値である。
【0107】
P型熱電素子221に関しても同様に、ゼーベック係数S(T)=1.7×10-6~2.4×10-6[V/K]に設定した。電気抵抗率ρ=17×10-9~24×10-9[Ω・m]に設定した。熱伝導率κ=400[W/m・K]に設定した。
【0108】
また、熱条件に関し、P型熱電素子221およびN型熱電素子222の各々の温度としては、図22にて説明した温度上昇量Tupを用いて算出した(温度=室温+温度上昇量Tup)。P型熱電素子221およびN型熱電素子222に入出力される熱流束は、吸熱量Q(式(1)参照)を白色光WLの照射面の面積Sで除算することで算出した。
【0109】
さらに、P型熱電素子221およびN型熱電素子222の各々を直方体形状とした。そして、直方体の断面積(=面積S)を1×3[mm]に設定し、直方体の高さを4[mm]に設定した。
【0110】
図24は、光熱発電装置200における発電量のシミュレーション結果を示す図である。図24において、横軸は、光熱発電装置200からの出力電流を表す。左側の縦軸は光熱発電装置200からの出力電圧を表し、右側の縦軸は光熱発電装置200からの出力電力を表す。図24に示すように、光熱発電装置200では、未加工のコンスタンタン基板を用いた場合(比較例)と比較して、出力電力が3倍以上になるとの結果が得られた。
【0111】
以上のように、実施の形態2に係る光熱発電装置200によれば、レーザ加工した光熱変換素子2(光熱変換素子1であってもよい)を含む光熱変換部210を用いることで、レーザ加工を行っていない比較例との比較において、光を熱に高効率に変換することが可能になり、光熱変換素子2による発熱量を増大させることができる(図22参照)。さらに、増大した熱を熱電変換部220によって電力に変換することで、発電電力を増大させることができる(図24参照)。このように、実施の形態2によれば、光を電気に高効率に変換できる。
【0112】
[実施の形態3]
実施の形態3においては、実施の形態1に係る光熱変換素子1を用いて、液体に含まれる複数の微小物体を集積する微小物体の集積システムについて説明する。以下の例では、マイクロメートルオーダーのサイズを有するビーズ(マイクロビーズ)が集積される。
【0113】
図25は、実施の形態3に係る微小物体の集積システムの全体構成を示す図である。図25を参照して、集積システム300は、XYZ軸ステージ310と、調整機構320と、レーザ光源330と、照明光源340と、光学部品350と、対物レンズ360と、カメラ370と、制御装置380とを備える。
【0114】
XYZ軸ステージ310は、光熱変換素子1を保持するように構成されている。なお、XYZ軸ステージ310は、本開示に係る「ホルダ」に相当する。
【0115】
図26は、XYZ軸ステージ310上に保持された光熱変換素子1の拡大図である。図26に示すように、光熱変換素子1上にはサンプルSPが滴下されている。サンプルSPにはマイクロビーズBが分散している。ある実施例(図27参照)では、マイクロビーズBの材料はポリスチレンであり、マイクロビーズBの直径は1μmである。サンプルSPの分散媒は純水である。
【0116】
図25に戻り、調整機構320は、制御装置380からの指令に応じて、XYZ軸ステージ310のx方向、y方向およびz方向の位置を調整する。本実施の形態では対物レンズ360の位置が固定されている。そのため、XYZ軸ステージ310の位置を調整することにより、光熱変換素子1と対物レンズ360との相対的な位置関係が調整される。調整機構320は、固定された光熱変換素子1に対して対物レンズ360の位置を調整してもよい。
【0117】
レーザ光源330は、制御装置380からの指令に応じてレーザ光L1を発する。レーザ光L1の波長は、たとえば近赤外域に含まれる波長(本実施の形態では1064nm)である。なお、レーザ光源330は、本開示に係る「光源」に相当する。
【0118】
照明光源340は、制御装置380からの指令に応じて、光熱変換素子1上のサンプルSPを照らすための白色光L2を発する。一例として、ハロゲンランプを照明光源340として用いることができる。
【0119】
光学部品350は、たとえば、ミラー、ダイクロイックミラー、プリズム、光ファイバを含む。集積システム300の光学系は、レーザ光源330からのレーザ光L1が光学部品350により対物レンズ360へと導かれるように調整されている。
【0120】
対物レンズ360は、レーザ光源330からのレーザ光L1を集光する。対物レンズ360により集光された光は、光熱変換素子1上のサンプルSPに照射される。対物レンズ360は、照明光源340から光熱変換素子1に照射された白色光L2を取り込むためにも用いられる。対物レンズ360により取り込まれた白色光L2は、光学部品350によりカメラ370へと導かれる。
【0121】
カメラ370は、制御装置380からの指令に応じて、白色光L2が照射された光熱変換素子1上のサンプルSPを撮影し、撮影された画像を制御装置380に出力する。
【0122】
制御装置380は、いずれも図示しないが、CPUなどのプロセッサと、ROMおよびRAMなどのメモリと、入出力ポートとを含むマイクロコンピュータである。制御装置380は、集積システム300内の各機器(調整機構320、レーザ光源330、照明光源340およびカメラ370)を制御する。
【0123】
金属薄膜12の厚みは、加工領域LPがレーザ光L1に対して光透過性を有するように定められている。以下の例では、金薄膜の厚みは100nmであった。このように加工領域LPに光透過性を持たせることで、図25に示すように加工領域LPの下方から上方に向けてレーザ光L1を加工領域LPに照射することが可能になるとともに、加工領域LPの様子を下方からカメラ270で観察することが可能になる。
【0124】
図27は、レーザ光L1の照射時におけるサンプルSPの様子を撮影した写真である。光熱変換素子1としては、図9および図10にて説明した4通りのレーザ加工条件で作製したものを準備した。光熱変換素子1に照射したレーザ光L1の出力Poutは50mWであった。対物レンズ360の倍率は40倍であった。レーザ光L1の照射時間は100秒であった。
【0125】
パルスレーザ光Lの照射により金ナノ粒子(金マイクロ粒子も生成され得る)が観察された黒線間の領域にレーザ光L1を照射することで、マイクロバブルMBの発生を確認できた。また、マイクロバブルMBに向けてマイクロビーズBが集積する様子が観察された。マイクロビーズBの集積メカニズムは以下のように説明される。
【0126】
図28は、マイクロビーズBの集積メカニズムを説明するための概念図である。図28を参照して、レーザ光L1の照射を開始すると、光発熱効果によりレーザスポット近傍の領域が局所的に加熱される。この加熱領域の周囲の液体(サンプルSP)の温度が上昇すると、マイクロバブルMBが発生する。マイクロバブルMBは、時間の経過とともにレーザスポット近傍で成長する。
【0127】
レーザスポットに近いほど液体の温度が高くなる。つまり、光照射により液体中に温度勾配が生じる。この温度勾配に起因して、液体中に規則的な熱対流が定常的に発生する。熱対流の方向は、矢印ARで示すように、レーザスポットに向かい、その後レーザスポットから離れる方向である。したがって、マイクロビーズBは、熱対流に乗ってレーザスポットに向けて運ばれる。
【0128】
マイクロバブルMBと金属薄膜12との間には、対流の流速がゼロとなる「よどみ領域」がリング状に生じる。熱対流がマイクロバブルMBで堰き止められることによって、レーザスポットに向けて運ばれたマイクロビーズBのうちの一部は、よどみ領域近傍に滞留する。その結果、マイクロビーズBがレーザスポット近傍に集積される。なお、マイクロビーズBの集積メカニズムの詳細については、たとえば特許文献2または特許文献3を参照できる。
【0129】
以上のように、実施の形態3においては、光熱変換素子1の光発熱効果によりマイクロバブルMBを発生させるとともに対流を発生させる。この対流により、サンプルSP中に分散した複数のマイクロビーズBがマイクロバブルMBの下部に生じるよどみ領域に集積される。このメカニズムを利用することで、多くのマイクロビーズBを高効率に集積できる。
【0130】
今回開示された実施の形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本開示の範囲は、上記した実施の形態の説明ではなくて請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0131】
1,2 光熱変換素子、11 基板、12 金属薄膜、91 白色光源、92 電気負荷、100 レーザ加工システム、110 XYZ軸ステージ、120 レーザ発振器、130 レーザドライバ、140 対物レンズ、150 走査機構、160 制御装置、200 光熱発電装置、210 光熱変換部、220 熱電変換部、221 P型熱電素子、222 N型熱電素子、223 ヒートシンク、231~234 電極、241,242A,242B,243,244A,244B 導電性ペースト、300 集積システム、310 XYZ軸ステージ、320 調整機構、330 レーザ光源、340 照明光源、350 光学部品、360 対物レンズ、370 カメラ、380 制御装置、LP,LP1~LP4 加工領域。
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