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特許7572841次亜塩素酸第四級アルキルアンモニウム溶液、その製造方法および半導体ウエハの処理方法
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  • 特許-次亜塩素酸第四級アルキルアンモニウム溶液、その製造方法および半導体ウエハの処理方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-16
(45)【発行日】2024-10-24
(54)【発明の名称】次亜塩素酸第四級アルキルアンモニウム溶液、その製造方法および半導体ウエハの処理方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/304 20060101AFI20241017BHJP
   H01L 21/308 20060101ALI20241017BHJP
   C11D 7/54 20060101ALI20241017BHJP
【FI】
H01L21/304 647Z
H01L21/304 647A
H01L21/308 F
H01L21/308 G
C11D7/54
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2020192969
(22)【出願日】2020-11-20
(65)【公開番号】P2021090051
(43)【公開日】2021-06-10
【審査請求日】2023-11-13
(31)【優先権主張番号】P 2019211879
(32)【優先日】2019-11-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003182
【氏名又は名称】株式会社トクヤマ
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】下田 享史
(72)【発明者】
【氏名】吉川 由樹
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 伴光
(72)【発明者】
【氏名】根岸 貴幸
【審査官】小池 英敏
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-227749(JP,A)
【文献】特開2014-62297(JP,A)
【文献】特開2002-161381(JP,A)
【文献】国際公開第2019/142788(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第102502510(CN,A)
【文献】独国特許出願公開第19529225(DE,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/304
H01L 21/308
C11D 7/54
B08B 1/00
B08B 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
次亜塩素酸第四級アルキルアンモニウム溶液の製造方法であって、
水酸化第四級アルキルアンモニウム溶液を準備し、該水酸化第四級アルキルアンモニウム溶液に含まれるアミンの濃度を20質量ppm以下とする準備工程と、
前記水酸化第四級アルキルアンモニウム溶液と、塩素ガスを接触させる反応工程とを含んでなり
応工程における液相部のpHが、10.5以上である、
次亜塩素酸第四級アルキルアンモニウム溶液の製造方法。
【請求項2】
前記反応工程における気相部の二酸化炭素濃度が100体積ppm以下である、請求項1に記載の次亜塩素酸第四級アルキルアンモニウム溶液の製造方法。
【請求項3】
前記反応工程における、前記液相部に含まれるアミンの濃度を100質量ppm以下に維持しながら塩素ガスを接触させる、請求項1又は2に記載の次亜塩素酸第四級アルキルアンモニウム溶液の製造方法。
【請求項4】
前記水酸化第四級アルキルアンモニウム溶液中の二酸化炭素濃度が0.001質量ppm以上500質量ppm以下である、請求項1~3のいずれか一項に記載の次亜塩素酸第四級アルキルアンモニウム溶液の製造方法。
【請求項5】
前記塩素ガスの水分量が、10体積ppm以下である、請求項1~の何れか一項に記載の次亜塩素酸第四級アルキルアンモニウム溶液の製造方法。
【請求項6】
前記反応工程において、反応温度が-35℃以上25℃以下である、請求項1~の何れか一項に記載の次亜塩素酸第四級アルキルアンモニウム溶液の製造方法。
【請求項7】
前記準備工程で準備する水酸化第四級アルキルアンモニウム溶液が、アルキル基の炭素数が1~10である水酸化第四級アルキルアンモニウムの溶液である、請求項1~の何れか一項に記載の次亜塩素酸第四級アルキルアンモニウム溶液の製造方法。
【請求項8】
前記反応工程が、水酸化第四級アルキルアンモニウム溶液と塩素ガスとを反応容器内で
接触させる工程であり、
該反応容器内の該水酸化第四級アルキルアンモニウム溶液が接触する面が、有機高分子材料からなり、且つ、該反応容器が遮光されている、請求項1~の何れか一項に記載の次亜塩素酸第四級アルキルアンモニウム溶液の製造方法。
【請求項9】
前記有機高分子材料が、フッ素樹脂である、請求項に記載の次亜塩素酸第四級アルキルアンモニウム溶液の製造方法。
【請求項10】
請求項1~のいずれか一項に記載の製造方法で次亜塩素酸第四級アルキルアンモニウム溶液を得て、
次いで得られた次亜塩素酸第四級アルキルアンモニウム溶液を濾過する、濾過工程をさらに含む、請求項1~の何れか一項に記載の次亜塩素酸第四級アルキルアンモニウム溶液の製造方法。
【請求項11】
濾過工程における次亜塩素酸第四級アルキルアンモニウム溶液の25℃におけるpHが13.5以下である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか一項に記載の製造方法で次亜塩素酸第四級アルキルアンモニウム溶液を得、
次いで遮光下、該次亜塩素酸第四級アルキルアンモニウム溶液の25℃におけるpHが12.0以上、14.0未満で保存する保存工程を含む、請求項1~11の何れか一項に記載の次亜塩素酸第四級アルキルアンモニウム溶液の製造方法。
【請求項13】
前記保存工程において、次亜塩素酸第四級アルキルアンモニウム溶液中のアミンの濃度を100質量ppm以下で保存する、請求項12に記載の次亜塩素酸第四級アルキルアンモニウム溶液の製造方法。
【請求項14】
請求項1~13の何れか一項に記載の方法により得られた次亜塩素酸第四級アルキルアンモニウム溶液により、半導体ウエハ表面を処理する、半導体ウエハの処理方法。
【請求項15】
前記半導体ウエハが、銅、タングステン、タンタル、チタン、コバルト、ルテニウム、マンガン、アルミニウム、シリコン、酸化シリコン、及びこれらの化合物よりなる群から選択される少なくとも1種を含む半導体ウエハである、請求項14に記載の処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、次亜塩素酸第四級アルキルアンモニウム溶液、およびその製造方法に関する。より具体的には、本発明は保存安定性に優れた次亜塩素酸第四級アルキルアンモニウム溶液、およびその製造方法に関する。また、本発明は、半導体ウエハ・素子の洗浄に適した、金属不純物を低減した次亜塩素酸第四級アルキルアンモニウム溶液、およびその製造方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体素子のデザインルールの微細化が進み、半導体素子製造工程における不純物管理に対する要求がより厳しくなっている。半導体素子の製造工程で発生する不純物は、製造工程毎に異なるため、製造工程毎に汚染源を特定し、さらに、その汚染源となる不純物の濃度を管理することが重要である。
【0003】
また、半導体素子の製造効率を向上させるために、300ミリを超える大口径の半導体ウエハが使用されている。大口径の半導体ウエハでは、電子デバイスが作製されない端面部や裏面部の面積が小口径の半導体ウエハと比較して大きい。そのため、金属配線を形成する工程やバリアメタルを形成する工程において、半導体素子を形成する半導体ウエハ表面部だけでなく、端面部や裏面部などにも金属配線材料やバリアメタル材料(以下、まとめて「金属材料等」とする場合もある)が付着し易くなる。その結果、大口径の半導体ウエハでは小口径のウエハに比べ、端面部や裏面部に付着する余剰の金属材料等の量が増加している。
【0004】
半導体ウエハの端面部や裏面部に付着した余剰の金属材料等は、金属配線やバリアメタル形成後の工程である酸素によるアッシング工程やプラズマによるドライエッチング工程において、金属、もしくは金属酸化物のパーティクルとして製造装置内を汚染し、クロスコンタミネーションの原因となる。そのため、端面部や裏面部に付着した金属材料等は、次工程に持ち込む前に除去する必要があった。
【0005】
これら金属材料等の中でも、白金、及びルテニウムに代表される貴金属類は、その後のエッチング工程や洗浄工程では酸化、溶解、除去され難くい。そのため、これら貴金属類は、他の金属材料よりも優先して半導体ウエハから除去することが好ましい。特に、ルテニウムは、配線材料に銅を使用した場合よりも抵抗値を低減可能という理由で、半導体素子のデザインルールが10nm以下の配線材料として多用されているため、不要な箇所から素早く除去することが望まれている。
【0006】
一般的に半導体ウエハの洗浄液として、酸化力が高い次亜塩素酸塩を利用した洗浄方法が提案されている。具体的には、次亜塩素酸ナトリウム水溶液を使用した方法が提案されている(特許文献1、2参照)。
【0007】
しかしながら、次亜塩素酸ナトリウム水溶液を洗浄液として使用する方法では、必然的に該洗浄液に含まれるナトリウムイオンが多くなる。その結果、半導体ウエハ等にナトリウムイオンが付着し易くなり、半導体の生産効率が低下するおそれがあった。
【0008】
これに対して、ナトリウムを必須成分としない次亜塩素酸溶液(特許文献3参照)、または次亜塩素酸第四級アルキルアンモニウム水溶液(特許文献4参照)を使用した洗浄液の開発も行われている。
【0009】
しかしながら、これら次亜塩素酸を使用した洗浄液(特許文献3参照)は、金属膜や金属酸化物膜を備えた基板の洗浄に使用されるものであり、特に貴金属の除去を目的としているものではない。そのため、貴金属等の金属/金属酸化物膜の洗浄には適していない。
【0010】
一方、特許文献4に記載された次亜塩素酸テトラメチルアンモニウム水溶液を含む洗浄液も、フォトレジストや残渣の洗浄のために使用される洗浄液であり、ルテニウムを含む銅やアルミニウムの金属被覆は洗浄対象としていない。具体的に実施例においては、金属膜がエッチングされ難いことが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特開2002-161381号公報
【文献】特開2009-081247号公報
【文献】特開2003-119494号公報
【文献】特開2005-227749号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
特許文献4の次亜塩素酸テトラメチルアンモニウム溶液は、保存安定性が必ずしも満足のいくものではない。すなわち、酸化作用を発揮する次亜塩素酸イオンの経時的減少によって、所望の洗浄性能が発揮されていないことが、本発明者らの検討によって明らかとなった。
【0013】
また、特許文献4には利用可能なハロゲンのレベルを維持するために、例えば、トリアゾール、チアゾール、テトラゾールおよびイミダゾールを安定化剤として、洗浄組成物に添加することが開示されている。
【0014】
しかしながら、安定化剤を添加することで、洗浄後に有機物の残渣として残存しやすく、半導体素子の歩留まり低下を引き起こす。また、安定化剤は、特定の金属、例えば、トリアゾールであれば銅に吸着しやすく、銅を洗浄する能力を低下させることもある。
【0015】
したがって、本発明の第1の目的は、安定化剤を添加せずとも、次亜塩素酸イオン濃度の経時変化が少なく、保存安定性に優れた次亜塩素酸第四級アルキルアンモニウム溶液の製造方法を提供することにある。
【0016】
また、特許文献4に記載された次亜塩素酸テトラメチルアンモニウム水溶液を含む洗浄液は、上記の通り、フォトレジスト・残渣を除去することを目的としている。このため、例えば、洗浄液中のナトリウム、アルミニウム、および/またはカリウム等の金属含量を低減することは考慮されていない。洗浄液に含まれる金属含量が少ない方が半導体素子の生産効率を向上できるものと考えられる。
【0017】
したがって、本発明の第2の目的は、半導体素子を製造する工程に使用される、次亜塩素酸第四級アルキルアンモニウム溶液において、金属含量が低減された溶液、およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明者らは、上記第1の目的を達成するために鋭意検討を行った。そして、反応中の次亜塩素酸第四級アルキルアンモニウム溶液のpHが管理されていないため、次亜塩素酸第四級アルキルアンモニウム溶液中に存在する次亜塩素酸イオン濃度が低下し、洗浄、除
去力が低下することを見出した。
【0019】
すなわち、反応工程における次亜塩素酸第四級アルキルアンモニウム溶液のpHによって、次亜塩素酸イオン濃度が大きく変化する。そこで、反応工程のpHの変動要因をさらに検討した結果、反応工程の気相部の二酸化炭素が反応液に吸収され、反応液のpHが大きく変動しており、反応工程の気相部の二酸化炭素濃度を制御することで、安定化剤を添加せずとも、保存安定性が高い次亜塩素酸第四級アルキルアンモニウム溶液を製造できることを見出した。
【0020】
また、上記知見に基づきさらに検討を続けたところ、酸化剤、洗浄剤として、好適に使用できる次亜塩素酸第四級アルキルアンモニウム溶液は、安定化剤を添加せずとも次亜塩素酸第四級アルキルアンモニウム溶液のpHを調整することによって、保存安定性のさらなる向上が図れることを見出した。
【0021】
すなわち、次亜塩素酸第四級アルキルアンモニウム溶液のpHによって、次亜塩素酸、及び次亜塩素酸イオンの不均化反応の反応速度が異なり、次亜塩素酸、及び次亜塩素酸イオンの自己分解が抑制されるpHの範囲が存在することが判明した。一般的には、次亜塩素酸ナトリウム溶液では、アルカリ性、例えば、pH11以上では、次亜塩素酸、及び次亜塩素酸イオンの不均化反応が抑制されることが知られているが、次亜塩素酸第四級アルキルアンモニウム溶液の場合、pHが12以上14未満において、特異的に、次亜塩素酸、及び次亜塩素酸イオンの不均化反応が抑制されることが判明した。
【0022】
例えば、本発明の次亜塩素酸第四級アルキルアンモニウム溶液を、金属の洗浄、除去に使用する場合、最適な次亜塩素酸第四級アルキルアンモニウム溶液のpHは、7より大きく12未満であるが、このようなpHの範囲で次亜塩素酸第四級アルキルアンモニウム溶液を調製し、保存した場合は、短時間で著しく酸化力が失われることが本発明者の検討によって、判明した。
また、本発明者らの検討により、水酸化第四級アルキルアンモニウム溶液及び/または次亜塩素酸第四級アルキルアンモニウム溶液中に存在するアンモニアやアミン類が、次亜塩素酸イオン濃度および次亜塩素酸第四級アルキルアンモニウム溶液の安定性に悪影響を及ぼしていることが判明した。さらに検討を続けたところ、準備工程、反応工程、保存工程において、水酸化第四級アルキルアンモニウム溶液及び/または次亜塩素酸第四級アルキルアンモニウム溶液に含まれるアンモニア及びアミン類を低減することで、次亜塩素酸イオンの濃度低下を抑制し、次亜塩素酸第四級アルキルアンモニウム溶液の安定性の向上が図れることを見出した。
【0023】
これらの知見から、安定化剤を添加せずとも次亜塩素酸第四級アルキルアンモニウム溶液のpHを調整すること、または、水酸化第四級アルキルアンモニウム溶液及び/または次亜塩素酸第四級アルキルアンモニウム溶液に含まれるアンモニア及びアミン類を低減することによって、次亜塩素酸イオン濃度が低下せず、次亜塩素酸第四級アルキルアンモニウム溶液の保存安定性が向上することを見出した。
【0024】
また、本発明者らは、上記第2の目的を達成するために鋭意検討を重ねた。先ず、特許文献4に記載されている次亜塩素酸第四級アルキルアンモニウム溶液に含まれる可能性がある金属不純物について詳細に検討した。
【0025】
特許文献4においては、フォトレジストの除去を目的とするため、次亜塩素酸テトラメチルアンモニウム水溶液に含まれる金属原子を低減させる必要性は考慮されていない。
【0026】
具体的には、特許文献4の実施例では、エーレンマイヤーフラスコ中で、水酸化テトラ
メチルアンモニウム水溶液と塩素ガスとを反応させて、次亜塩素酸テトラメチルアンモニウム水溶液を製造している。そして、該フラスコは何ら断りがないため、ガラス容器である蓋然性が高い。本発明者らによれば、該実施例の追試では、得られる次亜塩素酸第四級アルキルアンモニウム溶液にナトリウム等の金属原子が比較的多く含まれることが分かった。
【0027】
そのため、本発明者らは、ナトリウム等の金属原子が含まれる原因を検討した。そして、その原因の一つは、原料となる水酸化第四級アルキルアンモニウム、およびフラスコの材質に起因しているものと考えられた。すなわち、水酸化第四級アルキルアンモニウムは強いアルカリ性を示す物質であるため、フラスコの材質であるガラスから、ナトリウム等の金属原子が溶けだすことが原因であると推定した。そして、水酸化第四級アルキルアンモニウム水溶液と塩素ガスとを反応させる際に、反応容器の材質を限定することにより、上記課題を解決できることを見出した。
【0028】
すなわち、本発明の構成は以下の通りである。
項1 次亜塩素酸第四級アルキルアンモニウム溶液の製造方法であって、水酸化第四級アルキルアンモニウム溶液を準備し、該水酸化第四級アルキルアンモニウム溶液に含まれるアミンの濃度を20質量ppm以下とする準備工程と、前記水酸化第四級アルキルアンモニウム溶液と、塩素ガスを接触させる反応工程とを含んでなり、反応工程における気相部の二酸化炭素濃度が100体積ppm以下であり、反応工程における液相部のpHが、10.5以上である、次亜塩素酸第四級アルキルアンモニウム溶液の製造方法。
項2 前記反応工程における、前記液相部に含まれるアミンの濃度を100質量ppm以下に維持しながら塩素ガスを接触させる、項1に記載の次亜塩素酸第四級アルキルアンモニウム溶液の製造方法。
項3 前記水酸化第四級アルキルアンモニウム溶液中の二酸化炭素濃度が0.001質量ppm以上500質量ppm以下である、項1又は2記載の次亜塩素酸第四級アルキルアンモニウム溶液の製造方法。
項4 前記塩素ガスの水分量が、10体積ppm以下である、項1~3の何れか一項に記載の次亜塩素酸第四級アルキルアンモニウム溶液の製造方法。
項5 前記反応工程において、反応温度が-35℃以上25℃以下である、項1~4の何れか一項に記載の次亜塩素酸第四級アルキルアンモニウム溶液の製造方法。
項6 前記準備工程で準備する水酸化第四級アルキルアンモニウム溶液が、アルキル基の炭素数が1~10である水酸化第四級アルキルアンモニウムの溶液である、項1~5の何れか一項に記載の次亜塩素酸第四級アルキルアンモニウム溶液の製造方法。
項7 前記反応工程が、水酸化第四級アルキルアンモニウム溶液と塩素ガスとを反応容器内で接触させる工程であり、該反応容器内の該水酸化第四級アルキルアンモニウム溶液が接触する面が、有機高分子材料からなり、且つ、該反応容器が遮光されている、項1~6の何れか一項に記載の次亜塩素酸第四級アルキルアンモニウム溶液の製造方法。
項8 前記有機高分子材料が、フッ素樹脂である、項7に記載の次亜塩素酸第四級アルキルアンモニウム溶液の製造方法。
項9 項1~8のいずれか一項に記載の製造方法で次亜塩素酸第四級アルキルアンモニウム溶液を得て、次いで得られた次亜塩素酸第四級アルキルアンモニウム溶液を濾過する、濾過工程をさらに含む、項1~8の何れか一項に記載の次亜塩素酸第四級アルキルアンモニウム溶液の製造方法。
項10 濾過工程における次亜塩素酸第四級アルキルアンモニウム溶液の25℃におけるpHが13.5以下である、項9に記載の方法。
項11 項1~10のいずれか一項に記載の製造方法で次亜塩素酸第四級アルキルアンモニウム溶液を得、次いで得られた次亜塩素酸第四級アルキルアンモニウム溶液を、遮光下、該次亜塩素酸第四級アルキルアンモニウム溶液の25℃におけるpHが12.0以上、14.0未満で保存する保存工程を含む、項1~10の何れか一項に記載の次亜塩素酸
第四級アルキルアンモニウム溶液の製造方法。
項12 前記保存工程において、次亜塩素酸第四級アルキルアンモニウム溶液中のアミンの濃度を100質量ppm以下で保存する、項11記載の次亜塩素酸第四級アルキルアンモニウム溶液の製造方法。
項13 項1~12の何れか一項に記載の方法により得られた次亜塩素酸第四級アルキルアンモニウム溶液により、半導体ウエハ表面を処理する、半導体ウエハの処理方法。
項14 前記半導体ウエハが、銅、タングステン、タンタル、チタン、コバルト、ルテニウム、マンガン、アルミニウム、シリコン、酸化シリコン、及びこれらの化合物よりなる群から選択される少なくとも1種を含む半導体ウエハである、項13に記載の処理方法。
【発明の効果】
【0029】
上記本発明の製造方法によれば、トリアゾール、チアゾール、テトラゾールおよびイミダゾール等の安定化剤を添加せずとも、保存安定性が高い次亜塩素酸第四級アルキルアンモニウム溶液を製造することができる。また、得られる次亜塩素酸第四級アルキルアンモニウム溶液は、洗浄能力に関与しない安定化剤を添加する必要はない。したがって、本発明によって製造された次亜塩素酸第四級アルキルアンモニウム溶液を、半導体製造工程で使用すれば、歩留まりが低下しない洗浄液として好適に使用することができる。さらに、金属含量が少ない次亜塩素酸第四級アルキルアンモニウム溶液を得ることができる。そのため、半導体素子を製造する際に使用する、エッチング液、洗浄液として好適に利用できる。
【0030】
また、上記に記載の濾過工程を含むことで、次亜塩素酸第四級アルキルアンモニウム溶液に含まれる金属含量をさらに低減することができる。さらに遮光下で、保存時のpHを制御することで、さらに保存安定性を向上できる。
本発明の各実施形態により奏される作用効果は、以下においてさらに具体的に詳述する。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】第1の実施形態に係る次亜塩素酸第四級アルキルアンモニウム溶液の製造方法の一形態を表わす概略図である。
図2】第2の実施形態に係る次亜塩素酸第四級アルキルアンモニウム溶液の製造方法の一形態を表わす概略図である。
図3】次亜塩素酸第四級アルキルアンモニウム溶液の一般的な製造方法の一形態を表わす概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
(次亜塩素酸第四級アルキルアンモニウム溶液の製造方法)
本発明の次亜塩素酸第四級アルキルアンモニウム溶液の製造方法は、水酸化第四級アルキルアンモニウム溶液を準備し、該水酸化第四級アルキルアンモニウム溶液に含まれるアミンの濃度を20質量ppm以下とする準備工程と、前記水酸化第四級アルキルアンモニウム溶液と、塩素ガスを接触させる反応工程とを含んでなり、反応工程における気相部の二酸化炭素濃度が100体積ppm以下であり、反応工程における液相部のpHが、10.5以上であることを特徴とする。以下、各工程を説明する。
【0033】
(水酸化第四級アルキルアンモニウム溶液を準備する準備工程)
水酸化第四級アルキルアンモニウム溶液は、水酸化第四級アルキルアンモニウムが水に溶解した水溶液又は非水系溶媒に溶解した溶液の何れでもよい。水酸化第四級アルキルアンモニウム溶液は、水、又は非水系溶媒に水酸化第四級アルキルアンモニウムを溶解させることや市販の水酸化第四級アルキルアンモニウム溶液を所望の濃度に希釈することなど
で得ることができる。非水系溶媒としては、水酸化第四級アルキルアンモニウムを溶解できる公知の有機溶媒を挙げることができる。具体的には、アルコール、グリコールが挙げられ、特にメタノール、プロピレングリコールが好ましい。これら溶媒の中でも、工業的に入手が容易であって、かつ高純度の水酸化第四級アルキルアンモニウム溶液を入手可能であるという点から、該溶媒は水であることが好ましい。
【0034】
水酸化第四級アルキルアンモニウム溶液の濃度は、特に限定されないが、水酸化第四級アルキルアンモニウムの濃度が高濃度になると塩が析出し、固体となる。したがって、水酸化第四級アルキルアンモニウム溶液の濃度は、好ましくは0.01~30質量%、より好ましくは0.05~27.5質量%、さらに好ましくは0.1~25質量%である。
【0035】
準備する水酸化第四級アルキルアンモニウム溶液中には、通常は大気に由来する二酸化炭素が含まれている。二酸化炭素は、炭酸イオン、又は重炭酸イオンとして溶液中に存在している。二酸化炭素濃度は、特に制限されないが、炭酸イオンに換算して、0.001ppm以上500ppm以下(質量基準である)であることが好ましく、0.005ppm以上300ppm以下であることがより好ましく、0.01ppm以上100ppm以下であることがさらに好ましい。前記水酸化第四級アルキルアンモニウム溶液に含まれる二酸化炭素濃度が0.001ppm以上500ppm以下であることにより、得られる次亜塩素酸第四級アルキルアンモニウム溶液のpH変化を抑制できる。その結果、該次亜塩素酸第四級アルキルアンモニウム溶液の保存安定性を向上できる。このような二酸化炭素濃度の水酸化第四級アルキルアンモニウム溶液は、市販のものを利用できる。
【0036】
準備する水酸化第四級アルキルアンモニウム溶液中にアンモニアまたは/及びアミン類が存在すると、反応工程において生成した次亜塩素酸イオンの分解が生じる。一般に、市販されている水酸化第四級アルキルアンモニウム溶液には、アミンが含まれている。このような水酸化第四級アルキルアンモニウム溶液を用いると、反応工程において生成した次亜塩素酸イオンとアミンが反応し、次亜塩素酸イオン濃度を低下させる原因となる。
【0037】
さらに、該アミン類が三級アミンである場合には、次亜塩素酸イオンとの反応で生じた二級アミンや一級アミン、アンモニアも次亜塩素酸イオンと反応するため、次亜塩素酸イオン濃度の大きな低下を引き起こす。特に三級アミンは、次亜塩素酸イオンとの反応が急速に進行するし、微量存在しただけでも次亜塩素酸イオン濃度の大幅な低下を引き起こす。例えば、市販されている水酸化テトラメチルアンモニウム溶液には、数10~数100質量ppmのトリメチルアミンが含まれていることが知られている。トリメチルアミンは次亜塩素酸イオンと反応してジメチルアミン、モノメチルアミンを生成するため、このような水酸化テトラメチルアンモニウム溶液を用いると、次亜塩素酸イオン濃度の減少が生じ、適当ではない。
【0038】
したがって、該水酸化第四級アルキルアンモニウム溶液中に含まれるアンモニアまたは/及びアミン類は少ないほうが好ましく、具体的には、20質量ppm以下であることが好ましい。20質量ppm以下であれば、反応工程で生じる次亜塩素酸イオン濃度の低下を小さくでき、得られる次亜塩素酸第四級アンモニウム溶液の安定性を高めることができる。このため、本発明の製造方法における準備工程は、水酸化第四級アルキルアンモニウム溶液に含まれるアミンの濃度が20質量ppm以下であることを特徴とする。すなわち、該準備工程を経た水酸化第四級アルキルアンモニウム溶液に含まれるアミンの濃度は20質量ppm以下である。なお、本発明において、アミンの濃度とは、溶液に含まれる三級アミン、二級アミン、一級アミン及びアンモニアの各濃度の合計値である。溶液中のアミンの濃度は広く公知の方法、例えば、ガスクロマトグラフ法、液体クロマトグラフ法、比色法、質量分析法及びこれらを組み合わせた分析法等により求めることができる。
【0039】
水酸化第四級アルキルアンモニウム溶液中に含まれるアミンの濃度が20質量ppmを超える場合は、アミンの濃度を低減することが可能な方法を用いて、該水酸化第四級アルキルアンモニウム溶液中のアミンの濃度を20質量ppm以下にすることができる。このようにして得られた水酸化第四級アルキルアンモニウム溶液は、本発明の製造方法に好適に用いることができる。
【0040】
水酸化第四級アルキルアンモニウム溶液に含まれるアミンの濃度を低減する方法としては、例えば、水酸化テトラメチルアンモニウム溶液の加熱、蒸留、またはイオン交換によるアンモニア及び/又はアミン類の除去、減圧処理、脱気処理または不活性ガス流通処理によるアンモニア及び/又はアミン類の除去などを挙げることができるが、アミンの濃度を低減することができればどのような方法であってもよい。上記アミンの濃度を低減する方法は単独で実施してもよいし、組合せて実施してもよい。
【0041】
当然のことではあるが、アミンの濃度が20質量ppm以下である水酸化第四級アルキルアンモニウム溶液を、さらに、加熱、蒸留、イオン交換、減圧処理、脱気処理、不活性ガス流通処理等のアンモニア及び/又はアミン類の除去操作を行うことで、アミンの濃度をより低くすることができる。このようにして得られた水酸化第四級アルキルアンモニウム溶液は、本発明の製造方法にさらに好適に用いることができる。
【0042】
一般に、半導体用途の水酸化テトラメチルアンモニウム溶液に含まれるアミンの濃度は、工業的に使用される水酸化テトラメチルアンモニウム溶液に含まれるアミンの濃度に比べて低い。したがって、本発明の製造法に用いる水酸化テトラメチルアンモニウム溶液としては、半導体用途である水酸化テトラメチルアンモニウム溶液を用いることが好ましい。このような水酸化テトラメチルアンモニウム溶液を用いる場合、水酸化テトラメチルアンモニウム溶液中のアミンの濃度が20質量ppm以下であれば、アンモニア及び/又はアミン類の除去操作を行うことなく反応工程を実施することもできる。このような場合も、本発明の準備工程に含まれる。
【0043】
水酸化第四級アルキルアンモニウム溶液を準備する溶媒としては、水のみを溶媒として水溶液を準備してもよいし、有機溶媒を混合して、非水系溶液として準備してもよい。次亜塩素酸第四級アルキルアンモニウム溶液の用途、洗浄対象物に対応して、溶媒を適宜変更すればよい。例えば、洗浄対象物をルテニウムとする場合は、溶媒は水のみで十分な洗浄が可能なため、水酸化第四級アルキルアンモニウム水溶液として準備すればよい。
【0044】
本発明の製造方法において、水酸化第四級アルキルアンモニウム溶液は、アルキル基の炭素数が1~10である水酸化第四級アルキルアンモニウムの溶液であることが好ましく、炭素数1~5である水酸化第四級アルキルアンモニウムの溶液であることがより好ましい。具体的な水酸化第四級アルキルアンモニウムを例示すると、水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化テトラエチルアンモニウム、水酸化テトラプロピルアンモニウム、水酸化テトラブチルアンモニウムなどである。これらの水酸化第四級アルキルアンモニウムは1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、水酸化第四級アルキルアンモニウムに含まれる4つのアルキル基の炭素数は同一であってもよく、異なっていてもよい。
【0045】
水酸化第四級アルキルアンモニウム溶液と塩素ガスとを反応させて次亜塩素酸第四級アルキルアンモニウム溶液を製造する工程において、反応容器内で生じる該次亜塩素酸第四級アルキルアンモニウム溶液を含む溶液のpHが低下する。後述する濾過操作の条件や、水酸化第四級アルキルアンモニウムの溶解性を考慮すると、本実施形態においては、原料となる水酸化第四級アルキルアンモニウム溶液のpHの下限は10.5以上であり、上限は前記水酸化第四級アルキルアンモニウムの濃度によって決まる。
【0046】
また、本発明の製造方法において使用する水酸化第四級アルキルアンモニウム溶液は、金属、具体的には、ナトリウム、カリウム、アルミニウム、マグネシウム、鉄、ニッケル、銅、銀、カドミウム、および鉛の含有量が、それぞれ0.01ppb以上20ppb以下であることが好ましい。なお、当然のことながら、使用する水酸化第四級アルキルアンモニウム溶液に含まれる金属含量は、0.01ppb未満であってもよいが、このような水酸化第四級アルキルアンモニウム溶液を入手すること自体が困難である。
【0047】
そのため、上記金属含量が前記範囲を満足する水酸化第四級アルキルアンモニウム溶液を使用することにより、それ自体の入手が容易となり、かつ、該次亜塩素酸第四級アルキルアンモニウム溶液の製造中、および製造後における濾過操作によって該金属不純物の除去・低減が容易となる。濾過操作によって金属不純物が除去・低減できる理由は明らかではないが、ある程度の量の金属不純物が存在することによって、濾過による除去が難しいコロイド状ではなく、ある程度の大きさを有する不純物粒子が生成し、濾過による除去が可能になるためと考えられる。そのため、本実施形態で使用する水酸化第四級アルキルアンモニウム溶液は、pHが下がることにより金属不純物の固体物が濾過操作で除去・低減できるため、超高純度の水酸化第四級アルキルアンモニウム溶液ではなくとも好適に使用できる。この効果をより高め、特にアルカリ性でイオンとなっている不純物をより一層除去・低減するためには、水酸化第四級アルキルアンモニウム溶液に含まれる、ナトリウム、カリウム、アルミニウム、マグネシウム、鉄、ニッケル、銅、銀、カドミウム、および鉛の金属含量はそれぞれ、0.01ppb以上5ppb以下となることがより好ましく、0.01ppb以上2ppb以下であることがさらに好ましい。
【0048】
以上のような水酸化第四級アルキルアンモニウム溶液は、市販のものを使用することができる。中でも、電解法、および/又はイオン交換樹脂等と接触させて高純度化した、半導体素子のフォトレジスト現像液として使用されている水酸化第四級アルキルアンモニウム溶液を好適に利用できる。そして、これら市販のものを、超純水のような金属不純物が含まれない溶媒で希釈して使用することもできる。
【0049】
(水酸化第四級アルキルアンモニウム溶液と、塩素ガスを接触させる反応工程)
水酸化第四級アルキルアンモニウム溶液と塩素ガスを接触、反応させることにより、水酸化第四級アルキルアンモニウムの水酸化物イオンが、塩素ガスによって生成された次亜塩素酸イオンと置換され、次亜塩素酸第四級アルキルアンモニウム溶液が生成する。
【0050】
(塩素ガス)
本発明の製造方法において、使用する塩素ガスは、特に制限されるものではなく、市販のものを採用できる。その中でも、半導体材料のエッチング、半導体材料の原料として使用されるような高純度のガスを使用することができる。
【0051】
高純度ガスの中でも、特に水分量が少ないものが好ましく、具体的には10体積ppm以下の水分量のものを使用することが好ましい。この理由は明らかではないが以下のようなことが考えられる。例えば、次亜塩素酸第四級アルキルアンモニウム溶液を製造する際、通常、塩素ガスは配管を経由して輸送される。そのため、水が多く存在すると、塩化水素が発生して配管、および流量計等の金属部材を腐食させ、塩素ガスと共に腐食した金属不純物が系内に導入され易くなると考えられる。そのため、塩素ガスに含まれる水分量は10体積ppm以下のものを使用することが好ましい。当然のことながら、市販の塩素ガス中の水分量が10体積ppm以下であれば、そのまま使用することもできるし、反応系内に導入される直前に、乾燥材等を接触させて塩素ガスに含まれる水分量を低減させることもできる。塩素ガスに含まれる水分量の下限は、特に制限されるものではないが、工業的に入手可能なものを考えると、0.1体積ppmである。
【0052】
該塩素ガスに含まれる二酸化炭素の濃度は、特に制限されないが、0.001体積ppm以上80体積ppm以下であることが好ましく、0.005体積ppm以上50体積ppm以下であることがより好ましく、0.01体積ppm以上2体積ppm以下であることがさらに好ましい。塩素ガスに含まれる二酸化炭素濃度が0.001体積ppm以上80体積ppm以下の範囲であれば、得られる次亜塩素酸第四級アルキルアンモニウム溶液のpH変化を抑制できる。その結果、該次亜塩素酸第四級アルキルアンモニウム溶液の保存安定性を向上できる。このような二酸化炭素濃度の塩素ガスは、市販のものを利用できる。
【0053】
塩素ガスの使用量(使用する塩素ガスの全量)は、特に制限されないが、水酸化第四級アルキルアンモニウム溶液1リットルに対して、0℃、1atm換算で、10~31000mLであることが好ましい。この範囲で塩素ガスを使用することにより、反応系内の急激なpH変化を抑制し、濾過操作による金属不純物の除去・低減が容易となる。水酸化第四級アルキルアンモニウム溶液1リットルに対して、塩素ガスの使用量が0℃、1atm換算で、31000mLを越える使用量とすることもできるが、水酸化第四級アルキルアンモニウム溶液のpHの低下・変動が大きくなり、さらには未反応の塩素ガスが残留する傾向にある。一方、10mL未満の場合は、十分な次亜塩素酸イオンが生成できない傾向にある。そのため、工業的な製造を考慮すると、水酸化第四級アルキルアンモニウム溶液1リットルに対して、塩素ガスの使用量が0℃、1atm換算で、10~31000mLの範囲であることが好ましい。ただし、塩素ガスの使用量は、得られる溶液のpH、すなわち、得られる次亜塩素酸第四級アルキルアンモニウム溶液のpHにおいて決定することもできる。
【0054】
また、塩素ガスを以下の速度で反応系内に供給することが好ましい。塩素ガスの供給流量(速度)は、急激なpHの低下を生じさせない、および反応に関与しない塩素ガスを低減するという点で、水酸化第四級アルキルアンモニウム溶液、1リットルに対して、0℃、1atm換算で、0.0034Pa・m/sec以上16.9Pa・m/sec以下が好ましい。この範囲を満足することにより、反応性が十分となり、急激なpHの低下・変動がなく、次亜塩素酸第四級アルキルアンモニウム溶液を製造できる。この効果をより発揮するためには、塩素ガスの反応系内への供給量は、0.017Pa・m/sec以上5.1Pa・m/sec以下がより好ましく、0.034Pa・m/sec以上1.7Pa・m/sec以下がさらに好ましい。ただし1Pa・m/secは592sccmに相当する。
【0055】
なお、本発明の製造方法において、水酸化第四級アルキルアンモニウム溶液と塩素ガスを接触させる方法は特に制限されず、公知の方法を採用することができる。しかし、反応系への二酸化炭素の混入を避けるため、閉鎖系で反応を行うことが好ましい。簡易的には、図1に示したように、三ツ口フラスコ内に準備した水酸化第四級アルキルアンモニウム溶液に、塩素ガスを吹き込むことで、十分に反応させることができ、保存安定性に優れた次亜塩素酸第四級アルキルアンモニウム溶液を製造することができる。また、詳細は後述するが、図2に示す構成の反応装置を用いてもよい。
【0056】
さらに、水酸化第四級アルキルアンモニウム溶液と塩素ガスを接触させる工程は、遮光された反応容器を用いて行われることが好ましい。反応容器内に存在する上記塩素ガスは、光に励起され塩素ラジカルを発生することがある。塩素ラジカルが発生した場合、反応容器内に存在する、水酸化第四級アルキルアンモニウムや反応で生成する上記次亜塩素酸第四級アルキルアンモニウムに影響し、分解を生じることがあり、反応容器、付属する配管等を遮光することが望ましい態様である。
【0057】
さらに上記反応容器内の該水酸化第四級アルキルアンモニウム溶液が接触する面(以下、単に「反応容器の内面」とする場合もある)が、有機高分子材料からなることが好ましい。本発明者らの検討によれば、反応容器として、汎用のホウケイ酸ガラス製(以下、ガラス製)の反応容器を使用すると、原料として使用する水酸化第四級アルキルアンモニウム溶液が、該ガラス製に含まれる金属成分、例えば、ナトリウム、カリウム、およびアルミニウムを溶解する。これは、原料として使用する水酸化第四級アルキルアンモニウム溶液がアルカリ性を示すことに起因すると考えられる。そのため、反応容器の内面を有機高分子材料で形成することにより、上記金属を含む不純物(金属不純物)の混入を低減できる。
【0058】
本実施形態において、使用する有機高分子材料としては、塩化ビニル系樹脂(軟質・硬質塩化ビニル樹脂)、ナイロン系樹脂、シリコーン系樹脂、ポリオレフィン系樹脂(ポリエチレン、ポリプロピレン)、フッ素系樹脂等を使用できる。中でも、成型のし易さ、耐溶剤性、不純物の溶出が少ないもの等を考慮すると、フッ素系樹脂が挙げられる。
該フッ素樹脂としては、フッ素原子を含有する樹脂(ポリマー)であれば特に制限されず、公知のフッ素樹脂を用いることができる。例えば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、テトラフルオロエチレン-エチレン共重合体、クロロトリフルオロエチレン-エチレン共重合体、及びパーフルオロ(ブテニルビニルエーテル)の環化重合体等が挙げられる。中でも、反応容器自体の入手のし易さ、生産性等を考慮すると、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体を使用することが好ましい。
【0059】
本実施形態において、反応容器の内面を有機高分子材料で形成する方法としては、反応容器全体を有機高分子材料で形成する方法、ガラス製・ステンレス製の反応容器の内面のみを有機高分子材料で覆う方法などが挙げられる。
また、有機高分子材料から金属成分が溶出するのを防ぐために洗浄してから使用することもできる。具体的には、高純度硝酸・塩酸のような酸で十分に洗浄し(例えば、1mol/Lの酸濃度の溶液に12時間浸漬させて洗浄し)、超純水等でさらに洗浄することが好ましい。また、安定した反応を行うためには、水酸化第四級アルキルアンモニウム溶液と塩素ガスとを反応させる前に、前記有機高分子材料で形成された反応容器の内面を前記方法で洗浄することが好ましい。
【0060】
本実施形態においては、反応容器内の水酸化第四級アルキルアンモニウム溶液が接触する面を有機高分子材料で形成すれば、その他の部分は、ガラスであっても、ステンレス鋼であっても、不動態化処理したステンレス鋼であってもよい。ただし、影響は少ないため、必須ではないが、撹拌棒等も同じ有機高分子材料で形成することが好ましい。
本実施形態においては、溶媒に有機溶媒を使用する場合には反応装置を防爆構造とすることが好ましい。そのため、簡易な装置構成とするためには、水酸化第四級アルキルアンモニウム溶液は水を溶媒とすることが好ましい。
【0061】
(反応工程における液相部)
反応工程における液相部に含まれるアミン濃度は、100質量ppm以下に保つことが好ましい。上記(準備工程)の項で述べたように、水酸化第四級アルキルアンモニウム溶液にアミンが含まれると、反応工程で生じた次亜塩素酸イオンの濃度低下が生じる。
また、反応により生じた次亜塩素酸イオンは、高pHにおいて、第四級アルキルアンモニウムイオンと反応して三級アミンを生成するため、反応が進むにつれて液相部に含まれるアミン濃度は上昇する。すなわち、反応工程における液相部に含まれるアミン濃度は、準備工程におけるアミン濃度より高くなる傾向がある。しかしながら、反応工程における
液相部に含まれるアミン濃度を100質量ppm以下に保つことで、次亜塩素酸イオンの濃度低下を小さくし、保存安定性の高い処理液とすることができる。
【0062】
(反応工程における気相部)
反応工程における気相部の二酸化炭素濃度が100体積ppm以下であることが、本実施形態の最大の特徴である。本実施形態において、気相部とは、反応工程において、水酸化第四級アルキルアンモニウム溶液と接触する気体で占められた部分のことであり、例えば、図1に示す製造方法であれば、三ツ口フラスコ11内の気体が占める部分(上部空間)である。
【0063】
本発明の製造方法において、気相部中の二酸化炭素濃度の上限は、100体積ppmである。100体積ppmを越える二酸化炭素濃度の場合は、反応工程時に式(1)、(2)の反応によって炭酸イオン、重炭酸イオンが発生し、それに伴って次亜塩素酸第四級アルキルアンモニウム溶液のpHが低下してしまう。
CO + OH → HCO …(1)
HCO + OH → CO 2- + HO …(2)
上記の化学反応によってpHが低下すると、得られる次亜塩素酸第四級アルキルアンモニウム溶液の保存中に次亜塩素酸イオンが分解して、保存安定性が悪化すると推測している。
【0064】
なお、本発明の製造方法において、気相部中の二酸化炭素濃度が、0.001~100体積ppm、好ましくは、0.01~80体積ppmであれば、次亜塩素酸第四級アルキルアンモニウム溶液のpHを十分に制御することが可能となり、保存安定性に優れた次亜塩素酸第四級アルキルアンモニウム溶液を製造することができる。
【0065】
本実施形態における、気相部中の二酸化炭素濃度を上記範囲とするためには、二酸化炭素量が低減された水酸化第四級アルキルアンモニウム溶液、塩素ガス等を使用することが好ましい。そして、二酸化炭素量が低減された不活性ガス存在下(例えば、窒素ガス存在下)にて反応を実施することが好ましい。具体的は、前記二酸化炭素濃度の水酸化第四級アルキルアンモニウム溶液、及び前記二酸化炭素濃度の塩素ガスを用い、さらに不活性ガス存在下にて反応工程を実施することで、気相部の二酸化炭素濃度を上記範囲とすることができる。
【0066】
(反応工程のpH)
反応工程における液相部のpHの範囲は、10.5以上である。上限は特に限定はされないが、反応中のpHが過度に高いと、反応終了後に同じpHで長期間保存すると、次亜塩素酸イオンが分解され、有効塩素濃度が低下することがある。したがって、反応工程における液相部のpHは14未満であることが好ましく、13.9未満がより好ましく、11以上13.8未満がさらに好ましい。pHが前記範囲であれば、得られる次亜塩素酸第四級アルキルアンモニウム溶液の保存中に、次亜塩素酸イオンの分解が抑制され、保存安定性が向上する。なお、反応時のpHが高い場合であっても、後述するように保存時のpHを特定範囲に制御することで、保存安定性は向上する。一方、反応工程のpHが低すぎると式(3)に示す化学反応のため、保存安定性が低下する。
2HClO + ClO + 2OH
ClO + 2Cl + 2HO …(3)
【0067】
(反応工程の反応温度)
本発明の製造方法の反応工程における液相部の反応温度の範囲は、-35℃以上25℃以下が好ましく、-15℃以上25℃以下がより好ましく、0℃以上25℃以下がさらに好ましい。反応温度が前記範囲であれば、水酸化第四級アルキルアンモニウム溶液と塩素
ガスが十分に反応し、次亜塩素酸第四級アルキルアンモニウム溶液を高い生成効率で得ることができる。
【0068】
なお、反応温度が-35℃未満の場合、水酸化第四級アルキルアンモニウム溶液の凝固が始まり、塩素ガスとの反応効率が低下する傾向にある。一方、反応温度が25℃を超える場合は、水酸化第四級アルキルアンモニウム溶液中に生成した次亜塩素酸イオンが熱によって分解する傾向にある。特に反応時のpHが13.8以上では、反応温度が高くなると次亜塩素酸イオンの分解が顕著になる傾向にある。次亜塩素酸第四級アルキルアンモニウムの反応効率は、原料として供給した塩素分子のモル数に対する、生成した次亜塩素酸イオンのモル数の割合で評価できる。
【0069】
以上のように、本実施形態の製造方法によれば、保存安定性に優れた、例えば、製造後10日経過しても、洗浄、除去力を十分保つことができる次亜塩素酸第四級アルキルアンモニウム溶液を製造することができる。
【0070】
このことから明らかな通り、本実施形態の製造方法で得られた次亜塩素酸第四級アルキルアンモニウム溶液は、保存安定性に優れており、半導体素子の製造工程において好適に使用することができる。
【0071】
(反応装置)
次に、本発明の製造方法において、好適に使用できる反応装置の一例を用いて説明する。図2に反応装置31の概略図を示す。
【0072】
反応装置31において、反応容器32の水酸化第四級アルキルアンモニウム溶液33が接する面(反応容器の内面)34を前記有機高分子材料で形成する。そして、この反応装置31には、温度を確認できる温度計(熱電対)35を設けることもできる。そして、反応系内を混合できるように攪拌モーター36、撹拌棒37、撹拌羽38を備えることが好ましい。これら温度計35、撹拌棒37、撹拌羽38も、水酸化第四級アルキルアンモニウム溶液33と接する部分は、有機高分子材料で形成されることが好ましい。
【0073】
また、該反応装置31には、塩素ガスを供給する塩素ガス供給管39を備え、該供給管39を通じて、反応系内へ塩素ガスを導入するガス導入管40を経由して水酸化第四級アルキルアンモニウム溶液33と接触するようにすればよい。前記の通り、反応系内は、二酸化炭素が含まれない方が好ましいため、窒素ガス供給管41を設けることもできる。図2においては、窒素ガス供給管41が途中、塩素ガス供給管39と合流し、ガス導入管40から窒素ガスが導入される構成となっているが、ガス導入管40は、塩素ガス導入管/窒素ガス導入管のそれぞれに分別されていてもよい。そして、このガス導入管40は、水酸化第四級アルキルアンモニウム溶液33と接するため、前記有機高分子材料から形成されることが好ましい。
【0074】
また、下記に詳述するが、本実施形態においては、塩素ガスと水酸化第四級アルキルアンモニウム溶液とを接触させて次亜塩素酸第四級アルキルアンモニウム溶液を製造する際、反応系内のpHが低下し、金属成分を含む固体物が析出する場合がある。本実施形態においては、この固体物を濾過により除去・低減するために、濾過装置を備えることもできる。この濾過装置は、反応液移送管42、ポンプ43、濾過フィルター44、反応液返送管45を備える。これら濾過装置における各部材は、次亜塩素酸第四級アルキルアンモニウムを含む反応溶液と接触するため、前記有機高分子材料で形成されることが好ましい。
【0075】
ポンプ43は、ケミカルダイヤフラムポンプ、チューブポンプ、マグネットポンプ等が利用できる。中でも、金属成分による汚染防止のため、接液部が前記フッ素樹脂からなる
ポンプを使用することが好ましく、その中でも入手のし易さを考慮すると、マグネットポンプを使用することが好ましい。
【0076】
また、濾過フィルター44は、下記に詳述する材質、形態のものを使用することが好ましい。図2では、1つの濾過フィルター44を設けた例を示したが、複数の濾過フィルター44をその使用目的(除去を目的とする不純物)に応じて直列、および/又は並列に配置することもできる。
【0077】
以上のような濾過装置を設けることにより、反応途中に濾過操作を行うこともできる。また、塩素ガスの供給を止めて、反応後にポンプ43により、次亜塩素酸第四級アルキルアンモニウムを含む溶液を循環させ、濾過フィルター44により、含まれる金属成分を含む固体物を除去・低減することもできる。なお、図2には、反応装置と濾過装置とが一体となった構成を示したが、反応後に濾過を行うのであれば、反応装置と濾過装置とは別々に設置してもよい。
【0078】
また、供給された未反応の塩素ガスを逃がすための塩素ガス排出管46、塩素ガストラップ47を設けることもできる。塩素ガストラップ47には、例えば5質量%程度の水酸化ナトリウム水溶液を入れておけばよい。
【0079】
さらに、反応容器32の周囲には、反応温度を制御するための反応浴48を設けることもできる。
【0080】
そして、温度計35、撹拌棒37、ガス導入管40、反応液移送管42、反応液返送管45および塩素ガス排出管46は、ハーフジョイント49等により、反応容器32と接続できる。
【0081】
このような反応装置31を使用することにより、本実施形態の方法を容易に行うことができ、純度の高い次亜塩素酸第四級アルキルアンモニウム溶液を製造できる。
【0082】
(濾過工程)
水酸化第四級アルキルアンモニウム溶液と塩素ガスとが接触して、次亜塩素酸第四級アルキルアンモニウム溶液を生成してくると、反応系内の溶液のpHが低下する。その際、金属不純物を含む固体物が析出する場合がある。従って、これらの固体物を除去・低減するために、得られた次亜塩素酸第四級アルキルアンモニウム溶液を濾過する、濾過工程をさらに含むことが好ましい。さらに、光による次亜塩素酸イオンの分解を防ぐため、該濾過工程は遮光下で行われることが好ましい。なお、濾過工程は、後述する保存工程あるいは希釈の後に行ってもよい。
【0083】
濾過工程においては、次亜塩素酸第四級アルキルアンモニウム溶液のpHに応じて、濾取される金属成分が異なることがある。具体的には、次亜塩素酸第四級アルキルアンモニウム溶液のpHが13.5以下とした場合、好ましくは該溶液のpHが12.5を超え13.5以下の場合には、マグネシウム、鉄、カドミウム等の水酸化物、ニッケル、銀の酸化物が固体化するため、濾過操作を行うことにより、これら不純物も除去・低減できる。
【0084】
また、次亜塩素酸第四級アルキルアンモニウム溶液のpHが12.5以下とした場合、好ましくは該溶液のpHが9.0以上12.5以下の場合には、前記不純物に加えて、銅、鉛の酸化物が固体化するため、濾過操作を行うことにより、これら不純物も除去・低減できる。なお、溶液のpHは温度に依存し変動することがある。上記のpHは25℃での値を目安とする。実際に濾過工程を実施する際の液温は25℃に限定はされないが、好ましくは20~28℃、さらに好ましくは23℃~25℃で行う。
【0085】
このような金属不純物の固体物は、原料とする水酸化第四級アルキルアンモニウム溶液、および塩素ガスの純度を高めても生成する。特に、反応容器の内面を有機高分子材料で形成した場合にも、該固体物が生成される場合がある。この原因は明らかではないが、塩素ガスという腐食性の高いガスを使用しているため、反応装置内のどこからか金属不純物が反応系内に含まれるためと推定している。
【0086】
濾過操作は、除去・低減を目的とする金属類が固体化されるpHで実施すればよい。そのため、1回のみの実施であってもよいし、各pHで複数回実施することもできる。その際、各pHで孔径の異なる濾過フィルターを複数準備し、孔径の大きな濾過フィルターから順に濾過することでより濾過効率が向上する。具体的には1段階目に粗大粒子を、2段階目で微粒子を除去することで実施可能である。なお、金属成分を含む固体物、例えば、単なる金属の不純物、金属酸化物、金属水酸化物、および/又はコロイド状物の内、1μm以上100μm以下の粒子のことを、以下、単に「粗大粒子」とする場合がある。一方、0.01μm以上1μm未満の粒子のことを、以下、単に「微粒子」ということがある。なお、固体物の粒径はレーザー回折による円相当径をいう。
【0087】
前記濾過操作は、特に制限されるものではなく、公知の濾過装置、濾過フィルターを使用して実施することができる。ただし、不要な金属成分を増加させないためには、濾過装置において、次亜塩素酸第四級アルキルアンモニウム溶液が接触する可能性のある面は、有機高分子材料で形成されることが好ましい。この有機高分子は、前記に例示したものと同じものが使用できる。
【0088】
具体的な濾過フィルターとして、有機高分子材料あるいは無機材料からなる濾過フィルターを使用することが好ましい。例えば、ポリオレフィン製(ポリプロピレン製、ポリエチレン製、超高分子量ポリエチレン製)、ポリスルフォン製、酢酸セルロース製、ポリイミド製、ポリスチレン、前記フッ素系樹脂、および/又は石英繊維製からなる濾過フィルターを挙げることができる。また、濾過フィルターは正に帯電している膜と負に帯電している膜とを組み合わせて使用することが好ましい。この理由は、多くの金属酸化物や金属水酸化物がアルカリ性雰囲気下で負に帯電しており、静電吸着によって正に帯電した濾過フィルターにより効果的に金属成分を除去することが可能となるためである。また一部の金属成分はカチオンの状態で存在していて正に帯電している。このため、負に帯電している濾過フィルターには静電吸着によって効果的にイオン化した金属成分を除去することが可能となる。
【0089】
濾過フィルターの孔径は、特に制限されるものではないが、粗大粒子の除去には孔径が1μm以上の濾過フィルター、あるいは精密濾過フィルターを使用することができる。一方、微粒子の除去には孔径が0.01μm以上1μm未満の精密濾過フィルター、限外濾過フィルター、あるいはナノフィルトレーション膜を使用することができる。
【0090】
以上のような濾過フィルターは、市販のものを使用できる。具体的には、日本インテグリス社製のポリテトラフルオロエチレン製「フロロガードATXフィルター(孔径0.05μm)」、「クイックチェンジATEフィルター(孔径0.03μm)」、「トレントATEフィルター(孔径0.02μm)」、「クイックチェンジATEフィルター(孔径0.03μm)」、「フロロラインP-1500(孔径0.05μm、0.1μm)」を使用できる。
【0091】
以上の濾過操作は、次亜塩素酸第四級アルキルアンモニウム溶液のpHを、その用途に適した範囲に調整する前に実施することができる。この場合、一旦濾過操作を行った後、再度、塩素ガスと混合して目的とするpHの次亜塩素酸第四級アルキルアンモニウム溶液
とすることができる。また、水、塩化水素等の酸、および/又は水酸化第四級テトラメチルアンモニウム水溶液等のアルカリを混合して目的とするpHの次亜塩素酸第四級アルキルアンモニウム溶液とすることもできる。一方、製造した次亜塩素酸第四級アルキルアンモニウム溶液のpHが洗浄液として適したpHである場合には、該溶液を濾過して、そのまま半導体素子を製造する際に使用する洗浄液とすればよい。
【0092】
このような濾過操作を行うことにより、特に、マグネシウム、鉄、ニッケル、銅、銀、カドミウム、および鉛等の金属成分を低減することができる。具体的には、マグネシウム、鉄、ニッケル、銅、銀、カドミウム、および鉛の含有量をそれぞれ1ppb(質量基準)未満とすることができる。これら金属成分の含有量も、実施例に示す誘導結合プラズマ質量分析法によって測定した値である。なお、次亜塩素酸第四級アルキルアンモニウム溶液中における金属成分の形態は特に限定はされず、金属原子あるいはイオンとして含まれていてもよく、また酸化物や水酸化物といった微粒子、錯体などの形態が含まれ得る。
【0093】
(保存工程)
本発明の製造方法では、上記反応工程後、あるいは上記濾過工程の後の次亜塩素酸第四級アルキルアンモニウム溶液は、そのまま洗浄液等の所定の用途に使用できるが、一般には、保存工程(貯蔵、輸送を含む)の後に、使用される。次亜塩素酸第四級アルキルアンモニウム溶液は単体では保存安定性が悪く、例えば特許文献4に記載されている安定化剤の添加が必要とされていた。しかし、安定化剤は有機物残渣の原因となることがあり、改善が求められていたが、本発明の製造方法で得られた次亜塩素酸第四級アルキルアンモニウム溶液は、安定化剤不含でも保存安定性に優れた次亜塩素酸第四級アルキルアンモニウム溶液である。
【0094】
さらに、本発明の製造方法で得られた次亜塩素酸第四級アルキルアンモニウム溶液の保存は、該次亜塩素酸第四級アルキルアンモニウム溶液の25℃におけるpHが12.0以上、14.0未満で、かつ遮光して保存する方法(保存工程)であることが好ましい。本発明の保存工程によれば、保存期間が30日でも、好ましくは60日でも、さらに好ましくは90日でも、保存中の次亜塩素酸第四級アルキルアンモニウム溶液の酸化力は、ほとんど変化しない。したがって、保存後、使用する条件に応じて、次亜塩素酸第四級アルキルアンモニウム溶液を希釈するのみで、様々な用途に使用することができる。保存期間が長期間になればなるほど、生産性向上の効果を期待することができる。以下、本発明の保存工程について説明する。
【0095】
保存対象である次亜塩素酸第四級アルキルアンモニウム溶液の濃度は、特に制限されないが、工業的な製造を考慮すると、所定のpHにおける次亜塩素酸イオンが0.001~20質量%、第四級アルキルアンモニウムイオンが0.001~50質量%、含まれている次亜塩素酸第四級アルキルアンモニウム溶液であることが好ましい。なお、「所定のpH」とは、保存工程におけるpHとして選択された12.0以上、14.0未満の何れかのpHをいう。ここで「保存」とは、次亜塩素酸第四級アルキルアンモニウム溶液が25℃におけるpHを12.0以上14.0未満の状態で保存を開始してから、次亜塩素酸第四級アルキルアンモニウム溶液の濃度、及び/またはpHを調整するまでを意味する。なお、pHを調整した後の溶液のpHが12.0以上14.0未満である場合、該溶液をさらに保存すれば、それはやはり本発明の保存に該当する。次亜塩素酸第四級アルキルアンモニウム溶液のpHが最初から12.0以上14.0未満であればそのまま保存すればよく、pHが12.0未満又は14.0以上である場合にはpHを12.0以上14.0未満の範囲に調整した後保存すればよい。
【0096】
保存工程におけるpHが12.0未満の場合は、次亜塩素酸イオンの不均化反応が進行し、次亜塩素酸イオンが分解され、次亜塩素酸第四級アルキルアンモニウム溶液の酸化力
が低下する傾向がある。一方、pHが14.0以上の場合は、カチオンである有機イオンが分解する傾向があると推定される。その結果、有機イオンの嵩高さによって阻害されていた次亜塩素酸イオンの不均化反応が再び進行し、次亜塩素酸イオンが分解すると推定される。25℃におけるpHが12.0以上13.9未満の次亜塩素酸第四級アルキルアンモニウム溶液として保存することが好ましく、25℃におけるpHが12.0以上13.8未満で保存することがより好ましい。
【0097】
なお、溶液のpHは温度に依存し変動することがある。上記のpHは25℃での値を目安とする。実際に溶液を保存する際の液温は25℃に限定はされない。したがって、保存時の条件は、特に限定されることはないが、一般的な保存条件、すなわち、-25~50℃で公知の容器、キャニスター缶や樹脂製の保存容器に保存するのが好ましく、-20~40℃で、遮光できる保存容器、キャニスター缶等の輸送容器や樹脂製の保存容器に不活性ガスを充填して、暗所で保存することが、さらに好ましい。保存する温度が前記範囲を超える場合、長期間の保存の間に次亜塩素酸イオンが熱分解によって酸素分子を形成して容器が膨張し、破損することもある。
【0098】
また、本発明の保存方法において、次亜塩素酸第四級アルキルアンモニウム溶液に含まれるアミンの濃度は100質量ppm以下であることが好ましい。アミンの濃度が100質量ppm以下であれば、アミンによる次亜塩素酸第四級アルキルアンモニウムの分解を抑制し、安定して保存することができる。
【0099】
(次亜塩素酸第四級アルキルアンモニウム溶液の希釈)
次亜塩素酸第四級アルキルアンモニウム溶液は、その用途に応じて適宜に希釈して用いればよい。次亜塩素酸第四級アルキルアンモニウム溶液の希釈方法は、次亜塩素酸第四級アルキルアンモニウム溶液に含まれる水素イオン濃度を相対的に上昇させることができればよく、水で次亜塩素酸第四級アルキルアンモニウム溶液を希釈してもよいし、酸を含む溶液で希釈してもよいし、保存時の次亜塩素酸第四級アルキルアンモニウム溶液のpHよりも低いpHの溶液で希釈してもよい。例えば、本発明の保存方法で保存された次亜塩素酸第四級アルキルアンモニウム溶液より低いpHの溶液の例として、アルカリ性の溶液、例えば、pH12未満の水酸化第四級アルキルアンモニウム溶液を挙げることができる。
【0100】
また、前記次亜塩素酸第四級アルキルアンモニウム溶液を希釈するために加えられる溶液に、次亜塩素酸第四級アルキルアンモニウムが含まれていてもよいし、含まれていなくてもよい。例えば、次亜塩素酸第四級アルキルアンモニウムを含む溶液で希釈する場合は、pHを調整するだけでなく、次亜塩素酸第四級アルキルアンモニウム溶液濃度を任意に調整することができる。
【0101】
なお、本発明において、前記次亜塩素酸第四級アルキルアンモニウム溶液を希釈するために加えられる溶液は、pHが0より大きく7以下である溶液で希釈することが好ましい。酸性溶液を使用することで、pH調整にともなう次亜塩素酸第四級アルキルアンモニウムの濃度低下を小さくできる。pHが0より大きく7以下である溶液の具体例として、例えば、無機酸であれば、塩酸、硝酸、硫酸、リン酸、ホウ酸、フッ酸、臭素酸、塩素酸、過塩素酸、ヨウ素酸、過ヨウ素酸、炭酸等を挙げることができ、有機酸であれば、ギ酸、酢酸、氷酢酸、プロピオン酸、クエン酸、シュウ酸、リンゴ酸、乳酸、安息香酸等を挙げることができる。
【0102】
その他、希釈するために使用する溶液の不純物濃度が高い場合、得られた希釈液の用途が限定されることから、希釈するために使用する溶液の不純物が少ない方が好ましい。例えば、次亜塩素酸第四級アルキルアンモニウム溶液を半導体ウエハの処理液として使用する場合、高純度であることが求められるため、高純度な次亜塩素酸第四級アルキルアンモ
ニウム溶液に対して、工業的に容易に高純度化可能な塩酸、硫酸などで、希釈することが好ましい。
【0103】
次亜塩素酸第四級アルキルアンモニウム溶液の希釈方法としては、特に制限されず、公知の方法で希釈すればよい。例えば、容器の2つの供給口から、それぞれ次亜塩素酸第四級アルキルアンモニウム溶液と希釈するために使用する溶液とを供給し、プロペラや回転子を用いて撹拌を行うことで混合する方法を用いてもよいし、ポンプを用いて液を循環することで混合する方法などを採用してもよい。また、次亜塩素酸第四級アルキルアンモニウム溶液が保存された容器に、希釈するために使用する溶液を供給して希釈してもよい。
【0104】
別の希釈方法としては、次亜塩素酸第四級アルキルアンモニウム溶液含有組成物を使用する場所において、次亜塩素酸第四級アルキルアンモニウム溶液と、希釈するために使用する溶液とを混合することで、次亜塩素酸第四級アルキルアンモニウム溶液を希釈することもできる。例えば、2つのノズルから、それぞれ次亜塩素酸第四級アルキルアンモニウム溶液と希釈するために使用する溶液をユースポイントに供給すれば、ユースポイントで希釈を行うことができる。この方法は、半導体ウエハを処理する時に特に有効である。
【0105】
その他、希釈液を半導体洗浄用に使用する場合には、次亜塩素酸第四級アルキルアンモニウム溶液に無機酸または有機酸を加えて希釈する方法を採用することができる。次亜塩素酸第四級アルキルアンモニウム溶液を供給する配管と無機酸または有機酸を供給する配管とを途中で合流させて混合することで希釈を行い、得られた希釈液を被洗浄面である半導体ウエハに供給する方法がある。この混合は、圧力を付した状態で狭い通路を通して液同士を衝突混合する方法;配管中にガラス管などの充填物を詰め液体の流れを分流分離、合流させることを繰り返し行う方法;配管中に動力で回転する羽根を設ける方法など、公知の方法を採用することができる。
【0106】
以上の通り、本発明の製造方法で得られた次亜塩素酸第四級アルキルアンモニウム溶液は、保存工程にて保存した後、使用時に希釈して使用することにより、使用時のpHで次亜塩素酸第四級アルキルアンモニウム溶液を保存した場合に比べ、酸化力を安定に保持した希釈液を利用することが可能となる。一般に次亜塩素酸第四級アルキルアンモニウム溶液を洗浄液等として使用する場合には、pHを8~12程度に希釈するが、このpHで次亜塩素酸第四級アルキルアンモニウム溶液を保存すると、次亜塩素酸イオン濃度が低下し、洗浄性は低下する。しかし、上記保存工程を経て保存した後に、上記の希釈工程を経ることで、次亜塩素酸イオン濃度の高い希釈液(洗浄液)が得られる。
【0107】
(半導体ウエハの処理方法)
本発明の処理方法は、半導体ウエハにダメージを与えることなく、半導体ウエハに存在する種々の金属およびその化合物をエッチング、洗浄、除去できる処理方法である。ただし、処理の対象物がこれに限定される訳ではなく、当然のことながら、表面に金属類を有さない半導体ウエハの洗浄にも利用できるし、金属のウェットエッチングなどにも使用することができる。
【0108】
本発明の処理方法の対象は、銅、タングステン、タンタル、チタン、コバルト、ルテニウム、マンガン、アルミニウム、シリコン、酸化シリコン、及びこれらの化合物よりなる群から選択される少なくとも1種を含む化合物を有する半導体ウエハであることが好ましい。本発明は、次亜塩素酸イオンの強力な酸化作用を有効に発揮することができるため、前記の金属の中でも容易に酸化されない貴金属類の処理に好適に使用することができる。したがって、本発明の処理方法は、貴金属類、特に、ルテニウムを洗浄、除去する場合に、好適に使用することができる。例えば、ルテニウムを洗浄、除去する場合であれば、公知の洗浄方法を採用すればよい。
【0109】
(次亜塩素酸第四級アルキルアンモニウム溶液)
本発明の製造方法により、トリアゾール、チアゾール、テトラゾールおよびイミダゾール等の安定化剤を添加せずとも、保存安定性が高く、且つ金属成分の含有量が低減された次亜塩素酸第四級アルキルアンモニウム溶液を製造できる。そのため、半導体素子を製造する際に使用する、エッチング液、洗浄液として好適に利用できる。なお、当然のことながら、次亜塩素酸第四級アルキルアンモニウム溶液の溶媒は、原料である水酸化第四級アルキルアンモニウム溶液の溶媒と同じであるが、本発明の効果を阻害しない範囲で他の溶媒を加えることもできる。ただし、操作性、取り扱い易さ、汎用性等を考慮すると、次亜塩素酸第四級アルキルアンモニウム溶液の溶媒は、水であることが好ましい。また、得られる次亜塩素酸第四級アルキルアンモニウム溶液のpHは、特に制限されるものではなく、使用する用途に応じて、適宜決定すればよい。例えば、pHが12.5を超えるものである場合には、フォトレジスト除去剤(現像液)として使用することもできるし、半導体素子を形成する際の貴金属層の平坦化に使用することもできる。
【0110】
中でも、pHを9.0以上12.5以下とすることにより、得られる次亜塩素酸第四級アルキルアンモニウム溶液は、貴金属類のエッチング処理に使用することもできる。この場合、高いpHの水酸化第四級アルキルアンモニウム溶液に塩素ガスを供給しながら、pHを9.0以上12.5以下とすることができるため、製造も容易である。加えて、製造中、あるいは製造後に、濾過操作を行うことにより、より金属成分の含有量を低減することも可能となる。
【0111】
また、本発明で得られる次亜塩素酸第四級アルキルアンモニウム溶液は、特許文献4に安定化剤として記載されている、トリアゾール、チアゾール、テトラゾールおよびイミダゾールを実質的に含まなくてもよく、含まない方が好ましい。実質的に含まないとは、本発明で得られる次亜塩素酸第四級アルキルアンモニウム溶液において、これらが検出限界以下であることをいう。
【0112】
その他、次亜塩素酸第四級アルキルアンモニウム溶液には、その用途に応じて所望により各種の添加剤を配合してもよい。例えば、添加剤として、金属キレート化剤、錯体化剤、金属溶解促進剤、金属腐食阻害剤、界面活性剤、酸、アルカリなどを加えることができる。これらの添加剤を加えることにより半導体ウエハ処理時に金属溶解の促進または抑制、表面ラフネスの改善、処理速度の向上、パーティクル付着の低減などが期待できるため、これら添加剤を含む洗浄液は半導体ウエハ処理に好適に利用できる。さらに別の添加剤として、ベンゾフェノン類、オキザニリド類、その他、サリシレート類等の公知の添加剤を次亜塩素酸第四級アルキルアンモニウム溶液に配合することもできる。これらの添加剤を添加することにより、保存安定性が良好となる。
【実施例
【0113】
以下、実施例によって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に制限されるものではない。
(pH測定方法)
実施例及び比較例で調製した処理液10mLを、卓上型pHメーター(LAQUA F―73、堀場製作所社製)を用いてpH測定した。pH測定は、処理液を調製し、25℃で安定した後に、実施した。
(アミン濃度の測定方法)
準備工程前、準備工程後、反応工程中、製造直後、保存工程後において、水酸化第四級アルキルアンモニウム溶液と次亜塩素酸第四級アルキルアンモニウム溶液とを、それぞれ10mL秤量し、1mol/Lのチオ硫酸ナトリウム溶液10mLと混合して溶液中の次亜塩素酸イオンを失活した。次に、該溶液中のアミン類をジエチルエーテルを用いて抽出
し、ガスクロマトグラフ質量分析計(アジレントテクノロジー社製、Agilent 7890B/5977B)を用いて測定した。標準添加法により予め検量線を作成し、アミン濃度を定量した。
(次亜塩素酸イオン濃度の評価方法)
100mL三角フラスコに、実施例および比較例で調製した次亜塩素酸第四級アルキルアンモニウム溶液0.5mL、ヨウ化カリウム(富士フイルム和光純薬社製、試薬特級)2g、10%酢酸8mL、超純水10mLを加え、固形物が溶解するまで撹拌し、褐色溶液を得た。
調製した褐色溶液は、0.02Mチオ硫酸ナトリウム溶液(富士フイルム和光純薬社製、容量分析用)を用いて溶液の色が褐色から極薄い黄色になるまで酸化還元滴定し、次いで、でんぷん溶液を加え薄紫色の溶液を得た。
この溶液に、更に0.02Mチオ硫酸ナトリウム溶液を続けて加え、無色透明になった点を終点として次亜塩素酸イオン濃度を算出した。
(反応効率の算出方法)
供給した塩素分子のモル数に対する生成した次亜塩素酸イオンのモル数の割合(%)から反応効率を求めた。加えた塩素ガスが全量反応した場合(分解が起こっていない)は、反応効率は100%となる。反応中に次亜塩素酸イオンが分解した場合は反応効率が低下する。
(気相部の二酸化炭素濃度の算出方法)
反応工程における気相部の二酸化炭素濃度は、COモニター(CUSTOM社製、CO-M1)を用いて測定した。
(水酸化第四級アルキルアンモニウム溶液中の二酸化炭素濃度の算出方法)
水酸化第四級アルキルアンモニウム溶液中の二酸化炭素は全て炭酸イオンの形態を採っている。その濃度はイオンクロマトグラフィー分析装置(DIONEX INTEGRION HPLC、Thermo SCIENTIFIC社製)を用いて分析した。溶離液としてKOHを用い、1.2mL/min.の流量で通液した。カラムとして水酸化物系溶離液用陰イオン分析カラム(AS15、Thermo SCIENTIFIC社製)を用い、カラム温度は30℃とした。サプレッサーによりバックグラウンドノイズを取り除いたのち、電気伝導度検出器により炭酸イオン濃度を定量し、そこから二酸化炭素濃度として算出した。
【0114】
<保存安定性の評価方法>
次亜塩素酸第四級アルキルアンモニウム溶液をグローブバッグ内に移し、グローブバッグ内の二酸化炭素濃度が1体積ppm以下になった後、PFA製容器に移し替え、密閉した。保存時に遮光する場合はクリーンルーム用暗幕でPFA製容器を覆い、遮光しない場合はPFA製容器をそのまま保存した。次に、25℃、蛍光灯を点灯させた環境で10日間保存後、PFA製容器内の次亜塩素酸第四級アルキルアンモニウム溶液の次亜塩素酸イオン濃度を測定した。次亜塩素酸イオン濃度比(10日後濃度/初期濃度×100(単位%))が60%以上100%以下を優、30%以上60%未満を良とし、30%未満を不可とした。
【0115】
<ルテニウムのエッチング速度の算出方法>
シリコンウエハ上にバッチ式熱酸化炉を用いて酸化膜を形成し、その上にスパッタ法を用いてルテニウムを1200Å(±10%)成膜した。四探針抵抗測定器(ロレスタ‐GP、三菱ケミカルアナリテック社製)によりシート抵抗を測定して膜厚に換算した。得られた次亜塩素酸テトラメチルアンモニウム溶液を30ml、ビーカーに準備し、次いで、pHが12超である次亜塩素酸テトラメチルアンモニウム溶液については無機酸、有機酸で所望のpHとなるように希釈し、測定溶液を得た。この測定溶液に10×20mmにカットしたルテニウム付きウエハの各サンプル片を、1分間浸漬し、処理前後の膜厚変化量を浸漬した時間で除した値をエッチング速度として算出し、ルテニウムエッチング速度と
して評価した。しかしエッチング速度はpHが大きい程遅くなることが分かっていた。したがって各pHにおいて実用上使用が可能な範囲を次のように決めた。pH9.1のときはルテニウムエッチング速度300Å/分以上を良好とし、300Å/分未満を不良と評価した。pH9.5のときは100Å/分以上を良好とし、100Å/分未満を不良と評価した。pH10.5のときは20Å/分以上を良好とし、20Å/分未満を不良と評価した。pH11.0のときは5Å/分以上を良好とし、5Å/分未満を不良と評価した。
【0116】
<次亜塩素酸第四級アルキルアンモニウム溶液中の金属濃度測定方法>
次亜塩素酸第四級アルキルアンモニウム溶液中の金属濃度測定には、高分解能誘導結合プラズマ質量分析を用いた。
【0117】
25mLのパーフルオロアルコキシアルカン(PFA)製メスフラスコ(AsOne製
、PFAメスフラスコ)に、超純水と1.25mLの高純度硝酸(関東化学社製、Ultrapure-100硝酸)を加えた。次いで、ピペット(AsOne社製、ピペットマンP1000)とフッ素樹脂製ピペットチップ(AsOne製、フッ素樹脂ピペットチップ)を用いて次亜塩素酸第四級アルキルアンモニウム溶液0.25mLを採取し、PFAメスフラスコに加えて撹拌した。次いで、超純水でメスアップし、100倍希釈した測定試料を準備した。さらに、高分解能誘導結合プラズマ質量分析装置(ThermoFisher Scientific社製、Element2)を使用し、検量線法で金属量を定量した。なお、マトリックスによる感度増減を確認するため、測定溶液に2ppbとなるよう不純物を添加したものも測定した。なお、測定条件は、RF出力が1500W、アルゴンガス流量はプラズマガスが15L/分、補助ガスが1.0L/分、ネブライザーガスが0.7L/分であった。
【0118】
<実施例1>
(次亜塩素酸テトラメチルアンモニウム溶液の製造)
(準備工程)
2Lのガラス製四ツ口フラスコ(コスモスビード社製)に25質量%の水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液702.2g、超純水397.8gを混合して、16.0質量%の水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液1100.0gを得た。該溶液中の二酸化炭素濃度を測定したところ、1質量ppm以下であった。さらに、該溶液から50g抜取り、アミン濃度の測定を行ったところ、アミン濃度が150質量ppmであったため、次の通り、アミン類の除去操作を行った。四ツ口フラスコに、上記16.0質量%に調製した水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液と、回転子(AsOne社製、全長30mm×径8mm)を入れ、一つの開口部に温度計保護管(コスモスビード社製、底封じ型)と温度計を投入し、もう一つの開口部に塩素ガスボンベ、および窒素ガスボンベに接続され、任意で塩素ガス/窒素ガスの切換えが可能な状態にしたPFA製チューブ(フロン工業株式会社製、F-8011-02)の先端を該溶液底部に浸漬させ、さらに一つの開口部は5質量%の水酸化ナトリウム水溶液で満たしたガス洗浄瓶(AsOne社製、ガス洗浄瓶、型番2450/500)に接続し、残りの一つの開口部はPTFE栓に内径5mmの穴をあけ、外径5mmのPTFEチューブを取り付けたシリンジ(モノタロウ社製、シリンジディスポ、10mL用)に接続した。
次に、ウォーターバス内に四ツ口フラスコとマグネットスターラー(AsOne社製、C-MAGHS10)を設置し、40℃に加温しながら300rpmで回転、撹拌し、窒素ガスをPFA製チューブから、0.289Pa・m/秒(0℃換算時)で20分間流すことで液中のアミン類を除去した後、水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液に含まれるアミン濃度を測定したところ、アミン濃度は5質量ppmであった。
(反応工程)
その後、四ツ口フラスコをクリーンルーム用暗幕(タニムラ社製、クリーン導電性PVCシート/遮光・暗幕 TW-CPF-BK)で覆い、ウォーターバス内を氷水で満たし
、四ツ口フラスコ外周部を冷却しながら、塩素ガス(ADEKA社製、仕様純度99.999%、水分量1体積ppm以下)を0.088Pa・m/秒(0℃換算時)で120分間、供給した後、シリンジを用いて25g抜き出し、反応工程中の処理液を得た。反応工程中における気相部の二酸化炭素濃度は1体積ppm以下であった。さらに、反応工程中の液相部のpHは14.0であり、反応工程中にpH10.5を下回ることはなかった。その後さらに、120分間、塩素ガスを供給し、反応工程を終了した。反応工程中の温度は11℃で一定であった。製造直後の処理液のpHは13.8、アミン濃度は5質量ppm、次亜塩素酸イオン濃度は2.86質量%、反応効率は99%であった。
(保存工程)
反応工程が終了した後、製造直後の処理液として四ツ口フラスコから1LのPFA製容器に移し替え、クリーンルーム用暗幕で覆って室温で10日間保存することで、保存後の処理液を得た。
(評価)
10日間保存後の処理液のpH、アミン濃度、次亜塩素酸イオン濃度、保存安定性を評価した。結果を表2に示した。保存安定性は上記「保存安定性の評価方法」により行い、次亜塩素酸イオンの濃度比が100%であったことから優であった。
【0119】
<実施例2~6、比較例1~4>
実施例2~6は、(A)水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)溶液の質量濃度と(B)濃度調整後のTMAH溶液のpH、(C)アミン除去温度、(D)窒素流量、(E)アミン除去時間、(F)塩素ガスの供給量と(G)塩素ガスの流量、(H)反応時温度、(I)反応時間、(J)反応工程中の気相部の二酸化炭素濃度、(K)反応時の遮光、(L)保存時の遮光、が、表1に示した条件となるように調整した他は、実施例1と同様の方法で次亜塩素酸テトラメチルアンモニウム溶液を製造、保存し、評価を行った。また、比較例1~4も反応前のアミン類の除去操作を行うことなく塩素ガスを供給した。評価結果を表2に示した。実施例2~7、比較例1~4の反応工程中のpHは、反応直後の
pHを下回ることはなかった。また、反応工程中のアミン濃度は実施例2~7で100質
量ppm以下に抑えられ、比較例1~4では100質量ppmを超えていた。反応工程中のアミン濃度が100質量ppmを超えると反応効率の低下がみられたのに対し、100質量ppm以下だと反応効率が高かった(95%以上)。
【0120】
<実施例7>
アミン濃度が15質量ppmである水酸化テトラメチルアンモニウム溶液を用い、アミン除去操作を行わなかった以外は実施例1と同じ条件とした。
【0121】
アミン濃度が低い場合は反応工程で生成した次亜塩素酸イオンの分解を抑制できたため、反応効率が高くなった。また、アミンによる次亜塩素酸イオンの分解を抑制したことにより、次亜塩素酸イオン濃度比(10日後濃度/初期濃度×100(単位%))が高くなった。また、製造時及び保存時の遮光により、次亜塩素酸イオンの分解抑制に寄与していることが分かった。
【0122】
【表1】
【0123】
【表2】
【0124】
<実施例8>
<次亜塩素酸テトラメチルアンモニウム溶液の製造>
2Lのガラス製四ツ口フラスコ(コスモスビード社製)にCO含有量が2質量ppm、アミン濃度が5質量ppm以下である25質量%の水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)水溶液253g、イオン交換水747gを混合して、CO含有量が0.5質量ppmであり、6.3質量%のTMAH水溶液を得た。このときのpHは13.8であった。なお、実験室内のCO濃度は350体積ppmであった。
【0125】
次いで、実施例1と同様の方法で図1に示すように、四ツ口フラスコ11の内に回転子14(AsOne社製、全長30mm×径8mm)を入れ、一つの開口部に温度計保護管12(コスモスビード社製、底封じ型)と熱電対13を投入し、もう一つの開口部に塩素ガスボンベ、および窒素ガスボンベに接続され、任意で塩素ガス/窒素ガスの切換えが可能な状態にしたPFA製チューブ15(フロン工業株式会社製、F-8011-02)の先端を該溶液底部に浸漬させ、一つの開口部は5質量%の水酸化ナトリウム水溶液17で満たしたガス洗浄瓶16(AsOne社製、ガス洗浄瓶、型番2450/500)に接続し、残りの一つの開口部はPTFE栓に内径5mmの穴をあけ、外径5mmのPTFEチューブを取り付けたシリンジ(モノタロウ社製、シリンジディスポ、10mL用)に接続した。
次に、ウォーターバス内に四ツ口フラスコとマグネットスターラー(AsOne社製、C-MAGHS10)を設置し、300rpmで回転、撹拌しながら窒素ガスをPFA製チューブから、0.289Pa・m/秒(0℃換算時)で20分間流すことで、気相部のCOを追い出した。このとき、フラスコ内の気相部のCO濃度は1体積ppm以下であった。次いで、四ツ口フラスコをクリーンルーム用暗幕(タニムラ社製、クリーン導電性PVCシート/遮光・暗幕 TW-CPF-BK)で覆い、ウォーターバス内を氷水で満たし、四ツ口フラスコ外周部を冷却しながら、塩素ガス(ADEKA社製、仕様純度99.999%、水分量1体積ppm以下)を0.088Pa・m/秒(0℃換算時)で90分間、供給し、その際にシリンジを用いて25g抜取り、反応工程中の処理液を得た。その後さらに、90分間、塩素ガスを供給し、反応工程を終了した。反応工程中の液温は11℃であった。反応工程終了後、製造直後の処理液として四ツ口フラスコから処理液を25g抜き出した。処理液の入った四ツ口フラスコを大気と接触しないようにして、二酸化炭素濃度が1ppm以下であるグローブバッグ内に入れた。後1LのPFA製容器に移し替え、クリーンルーム用暗幕で覆って室温で10日間保存することで、保存後の処理液を得た。
【0126】
<評価>
10日間保存前後の次亜塩素酸イオン濃度、pHを比較し、保存安定性の評価結果が優
であることが分かった。
【0127】
<実施例9~14>
実施例9~14は、(A)TMAH溶液の質量濃度と(B)TMAH溶液のpH、(F)塩素ガスの供給量と(G)供給速度、(H)反応温度、(J)気相中の二酸化炭素濃度が、表3に示した条件となるように調製した他は、実施例8と同様の方法で次亜塩素酸テトラメチルアンモニウム溶液を調製し、評価を行った。なお、実施例14では反応工程の冷却は行わず、反応温度は25℃から35℃に上昇した。また、水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液はアミン濃度が20質量ppm以下のものを用いた。
【0128】
<比較例5>
2Lのガラスビーカー(AsOne社製)にCO含有量が2質量ppmである25質量%のTMAH水溶液233g、イオン交換水767gを混合して5.8質量%のTMAH水溶液を得た。このときのpHは13.8であった。次いで、図3に示すようにガラスビーカー21内に回転子24(AsOne社製、全長30mm×径8mm)を入れ、次いで温度計保護管22(コスモスビード社製、底封じ型)と熱電対23を投入し、塩素ガスボンベに接続されたPFAチューブ25(フロン工業株式会社製、F-8011-02)の先端を該溶液底部に浸漬させた。この時、気相部の二酸化炭素濃度は、350体積ppmであった。
【0129】
その後、マグネットスターラー(AsOne社製、C-MAG HS10)をガラスビーカー下部に設置して300rpmで回転させながら、ガラスビーカー外周部を氷水28で冷却しながら塩素ガス(ADEKA社製、仕様純度99.999%、水分量1体積ppm以下)を0.064Pa・m/秒(0℃換算時)で180分間、供給し、次亜塩素酸テトラメチルアンモニウム溶液を得た。この時、反応中の液温は11℃であった。
【0130】
得られた溶液は大気と接触しないように二酸化炭素濃度が1体積ppm以下であるグローブバッグ内に入れた後、1LのPFA製容器に移し替え、クリーンルーム用暗幕で覆って室温で10日間保存することで、保存後の処理液を得た。10日間保存前後の次亜塩素酸イオン濃度、pHを比較し、保存安定性を評価した。
【0131】
<比較例6、7>
比較例6、7は、(A)水酸化テトラメチルアンモニウム溶液の質量濃度と(B)水酸化テトラメチルアンモニウム溶液のpH、(F)塩素ガスの供給量と(G)供給速度、(H)反応温度、(J)気相中の二酸化炭素濃度が、表3に示した条件となるように調製した他は、比較例5と同様の方法で次亜塩素酸テトラメチルアンモニウム溶液を調製し、評価を行った。ただし、比較例7は水酸化テトラメチルアンモニウム溶液中の二酸化炭素濃度が771質量ppmである溶液を用いた。
【0132】
評価結果を表4に示した。二酸化炭素を除去したことにより反応工程におけるpHを1
0.5以上に保つことができ、保存安定性に優れた薬液を得ることができた。
【0133】
【表3】
【0134】
【表4】
【0135】
<実施例15>
<次亜塩素酸テトラメチルアンモニウム溶液の製造>
(準備工程)
図2に示すように、容量2Lのポリテトラフルオロエチレン製の反応容器(AsOne社製、反応用円筒型容器C型2000cc)にポリテトラフルオロエチレン製ハーフジョイント49(AsOne社製、ハーフメスジョイントI型6φ)を複数接続できるように加工した反応容器32を準備し、該反応容器32に25質量%の水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液253g、超純水747gを混合して、6.3質量%、CO含有量が5質量ppm、pH13.8(25℃)の水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液を得た。
この水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液に含まれるナトリウム、カリウム、アルミニ
ウム、マグネシウム、鉄、ニッケル、銅、銀、カドミウム、および鉛の含有量はそれぞれ1ppb未満、アミン濃度は5質量ppmであった。
【0136】
(反応工程)
該反応容器32の中心に撹拌棒37(AsOne社製、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)製 撹拌棒・攪拌羽付き、全長450mm×径8mm)を設置し、上部を撹拌モーター36(新東科学社製、スリーワンモーターBLh600)で固定した。反応中の温度をモニタリングできるように、反応容器32に温度計35をセットした。
【0137】
塩素ガス(塩素ガス導入管39)/窒素ガス(窒素ガス供給管41)の切換えが可能な状態にしたテトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体製のガス導入管40(フロン工業社製、PFAチューブ)の先端を該溶液底部(水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液33)に浸漬させた。
【0138】
また、一つのハーフジョイントは、塩素ガス排出管46を介して、5質量%の水酸化ナトリウム水溶液で満たした塩素ガストラップ47(AsOne社製、ガス洗浄瓶)に接続した。
【0139】
また、一つのハーフジョイントとマグネットポンプ43(AsOne社製、テフロン(登録商標)で表面を被覆したマグネットポンプ)の入口側を反応液移送管42である、テトラフルオロエチレンパーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体製チューブ(フロン工業社製、PFAチューブ)で接続し、次いで出口側を濾過フィルター44(日本インテグリス社製、フロロガードAT、孔径0.1μm)、および反応液移送管42と同じ材質からなる反応液返送管45で接続した。
【0140】
また、一つのハーフジョイントは外径6mmのPTFEチューブを取り付けたシリンジ(モノタロウ社製、シリンジディスポ、10mL用)に接続し、チューブ先端は反応容器
32の底面に位置するように調整した。
【0141】
次に、二酸化炭素濃度が1体積ppm未満の窒素ガスを、窒素ガス供給管41、ガス供給管40(テトラフルオロエチレンパーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体製チューブ(フロン工業社製、PFAチューブ))を介して、0.29Pa・m/secで20分間流すことにより、反応容器32内における気相部の二酸化炭素を追い出した。
【0142】
その後、前記撹拌モーター36を300rpmで回転し、反応容器32の外周部を反応浴48(氷水)で冷却しながら、塩素ガス(ADEKA社製、仕様純度99.999%、水分量1体積ppm以下)を0.064Pa・m/secで供給した。その際、反応工程中における気相部の二酸化炭素濃度は1体積ppm以下であった。塩素ガスを供給しながら反応を行う際に、ポンプ43を起動し、濾過操作を行いながら次亜塩素酸テトラメチルアンモニウム水溶液を製造した(反応溶液のpH(25℃)が13.5より高くなった場合においても、濾過操作を実施した。)。また、90分間、塩素ガスを供給した後、シリンジを用いて25g抜き出し、反応工程中の処理液を得た。反応工程中の液相部のpH
は13.4であり、反応工程中にpH10.5を下回ることはなかった。その後さらに、
90分間、ガスを供給し、反応工程を終了した。反応工程中の温度は11℃で一定であった。また製造直後(反応工程終了時)の処理液のpHは13.0、アミン濃度は5質量p
pb以下、次亜塩素酸イオン濃度は1.59質量%、金属量はいずれも1質量ppb未満であった。
【0143】
(保存工程)
得られた溶液は大気と接触しないように二酸化炭素濃度が1体積ppm以下であるグロ
ーブバッグ内で、1LのPFA製容器に移し替え、クリーンルーム用暗幕で覆って室温で10日間保存することで、保存後の処理液を得た。10日間保存前後の次亜塩素酸イオン濃度、pHを比較し、保存安定性を評価した。
【0144】
(評価)
10日間保存後の処理液のpH、アミン濃度、次亜塩素酸イオン濃度、保存安定性を評価した。結果を表6に示した。次亜塩素酸イオン濃度比が100%であったことから保存安定性は優であった。
【0145】
<実施例16~18>
実施例16~18は、(A)TMAH水溶液の質量濃度(ただし、ナトリウム、カリウム、アルミニウム、マグネシウム、鉄、ニッケル、銅、銀、カドミウム、および鉛の含有量が1質量ppb未満であり、二酸化炭素濃度は2質量ppmのものを使用した。)が、表5に示した条件となるように調製した他は実施例15と同様にして、次亜塩素酸テトラメチルアンモニウム水溶液を製造し、その金属含有量を調べた。
【0146】
ただし、実施例16においては、全塩素ガスを供給した後、塩素ガスの供給を止めてからポンプ43を起動して濾過操作を180分間行った。全塩素ガス供給が終了した時点のpHは12.0、濾過後のpHは12.0であった。実施例17においては、該濾過操作を
行わなかった。また、実施例18においては処理液のpHが13.8から13.6の間に
濾過操作を行った。結果を表6に示した。
【0147】
<実施例19、20、比較例8>
反応容器32として、1000mLのガラス製反応容器(柴田科学社製、1Lセパラブル反応容器)に摺合わせサイズ19/38mmのガラス製側管を加工した物を使用した以外は、表5に示す条件で次亜塩素酸テトラメチルアンモニウム水溶液を製造した。結果を表6に示した。
【0148】
ただし、実施例19においては塩素ガスを供給している間、ポンプ43を起動して濾過操作を行った。また、実施例20においては、該濾過操作を行わなかった。比較例8においては、全塩素ガスを供給した後、塩素ガスの供給を止めてからポンプ43を起動して濾過操作を180分間行った。結果を表6に示した。
【0149】
ポリテトラフルオロエチレン製の反応容器を用いた場合、反応容器からの溶出を抑制できるため、ナトリウム、カリウム、アルミニウムのような金属不純物濃度を低減することができた。また、反応工程中、あるいは反応直後において、pH13.5以下の次亜塩素
酸テトラメチルアンモニウム水溶液を濾過することで、マグネシウム、鉄、ニッケル、銅、銀、カドミウム、鉛が除去できることが分かった。
【0150】
【表5】

【表6】
【0151】
<実施例21>
実施例8で得られた次亜塩素酸テトラメチルアンモニウム水溶液100mLをPFA製容器に入れ、遮光し、25℃の環境で30日間保存した。保存30日後の次亜塩素酸テトラメチルアンモニウム水溶液のpHは13.0であった。また、製造直後と保存30日後
の次亜塩素酸イオン濃度比が100%であったことから保存安定性は優であった。また、アミン濃度は5質量ppm以下であった。保存30日後の次亜塩素酸テトラメチルアンモニウム水溶液に、35.0質量%の高純度塩酸を8.8mL加え、pH(25℃)を9.5に希釈した(PFA製の容器内で調製した。)。希釈によって得られた次亜塩素酸テトラメチルアンモニウム水溶液は、ナトリウム、カリウム、アルミニウム、マグネシウム、鉄、ニッケル、銅、銀、カドミウム、および鉛の含有量は、それぞれ1ppb未満であった。
【0152】
希釈によって得られたpH9.5の次亜塩素酸テトラメチルアンモニウム水溶液30mLをビーカー(PFA製のビーカー)に入れ、ルテニウムのエッチング速度を、上記「ルテニウムのエッチング速度の算出方法」により評価した結果、エッチング速度は345Å/分で良好だった。
【0153】
<実施例22~28、比較例9>
実施例22~28、比較例9においては、(A)水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)溶液の質量濃度、(B)調製後のpH、(F)塩素ガスの供給量、(G)塩素ガスの流量、(H)反応温度、(O)希釈する溶液、(P)希釈する溶液の濃度、(Q)希釈する溶液の添加量が表7に示した条件となるように変更した以外は、実施例8と同様の方法で次亜塩素酸テトラメチルアンモニウム溶液を製造し、評価を行った。実施例28で得た製造直後の次亜塩素酸テトラメチルアンモニウム水溶液はpH14.0以上だったため、pH13.0となるまで35.0質量%の高純度塩酸を加えた後、30日間保存した。比較
例9で得た次亜塩素酸テトラメチルアンモニウム水溶液は保存30日経過後のpHが10
以下であったため、該次亜塩素酸テトラメチルアンモニウム水溶液の希釈を行わなかった。結果を表8に示した。
【0154】
pH12.0未満あるいはpH14.0以上で次亜塩素酸テトラメチルアンモニウム水溶液を保存すると、次亜塩素酸イオンの分解が促進され、保存安定性が低下することが分かった。特にpH14.0以上では保存中にアミン濃度が増加しやすく、次亜塩素酸イオンの分解を促進することが分かった。そのため、製造直後の次亜塩素酸テトラメチルアンモニウム水溶液のpHが14.0以上だった場合、pHを14.0未満に調製することで保存中のアミン濃度の増加を抑制でき、次亜塩素酸イオンの分解が抑制され、保存安定性が良好となることが分かった。その結果、安定したRuエッチング速度を得られることが分かった。
【0155】
【表7】
【0156】
【表8】
【符号の説明】
【0157】
10 氷水
11 三ツ口フラスコ
12 温度計保護管
13 熱電対
14 回転子
15 PFA製チューブ
16 ガス洗浄瓶
17 5質量%水酸化ナトリウム水溶液
18 流量計
19 ウォーターバス
21 ガラスビーカー
22 温度計保護管
23 熱電対
24 回転子
25 PFA製チューブ
26 流量計
27 ウォーターバス
28 氷水
31 反応装置
32 反応容器
33 水酸化第四級アルキルアンモニウム溶液(反応前)
34 反応容器の内面
35 温度計
36 攪拌モーター
37 撹拌棒
38 撹拌羽
39 塩素ガス供給管
40 ガス導入管
41 窒素ガス供給管
42 反応液移送管
43 ポンプ
44 濾過フィルター
45 反応液返送管
46 塩素ガス排出管
47 塩素ガストラップ
48 反応浴
49 ハーフジョイント
図1
図2
図3