(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-16
(45)【発行日】2024-10-24
(54)【発明の名称】プラズマ成膜装置及びプラズマ成膜方法
(51)【国際特許分類】
C23C 16/455 20060101AFI20241017BHJP
【FI】
C23C16/455
(21)【出願番号】P 2020195065
(22)【出願日】2020-11-25
【審査請求日】2023-09-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000231464
【氏名又は名称】株式会社アルバック
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 有希子
(72)【発明者】
【氏名】太田 淳
【審査官】山本 一郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-072424(JP,A)
【文献】特開平08-088184(JP,A)
【文献】特開平08-250441(JP,A)
【文献】特開2003-309075(JP,A)
【文献】特開2001-049442(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 16/455
H01L 21/205
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラズマ成膜装置であって、
開閉可能なチャンバと、
前記チャンバの内部を減圧して前記チャンバの内部を真空雰囲気に維持する排気部と、
前記チャンバの内部に配置され、被処理基板を支持するとともに前記被処理基板を加熱する基板ホルダと、
前記チャンバの内部に配置され、高周波電源に電気的に接続され、ガス供給源からガスが供給される電極枠と、
前記基板ホルダに対向するガス放出面を有し、前記ガス放出面から前記ガスを前記被処理基板に向けて放出し、前記電極枠に脱着可能に取り付けられたシャワープレートと、
分散板と孔埋め部材とで構成されているとともに前記電極枠の内部に固定された温度分布調整部と、
を備え、
前記分散板は、前記ガスを前記シャワープレートに供給する複数の貫通孔を有するとともに前記ガス放出面とは反対側の前記シャワープレートの面に対向
しており、
前記孔埋め部材は、複数の前記貫通孔の各々を閉塞可能であり
、複数の前記貫通孔を通じて前記分散板から前記シャワープレートに向けて前記ガスを供給する位置を変更する
ように用いられ、
前記温度分布調整部は、前記孔埋め部材を用いて前記ガスを供給する位置を変更することで、前記シャワープレートの温度分布を調整可能
である、
プラズマ成膜装置。
【請求項2】
プラズマ成膜方法であって、
前記プラズマ成膜方法においては、プラズマ成膜装置が使用され、
前記プラズマ成膜装置は、
開閉可能なチャンバと、
前記チャンバの内部を減圧して前記チャンバの内部を真空雰囲気に維持する排気部と、
前記チャンバの内部において被処理基板を支持するとともに前記被処理基板を加熱する基板ホルダと、
前記チャンバの内部に配置されかつ高周波電源に電気的に接続されるとともにガス供給源からガスが供給される電極枠と、
前記基板ホルダに対向するガス放出面を有しかつ前記ガス放出面から前記ガスを前記被処理基板に向けて放出するとともに前記電極枠に脱着可能に取り付けられたシャワープレートと、
分散板と孔埋め部材とで構成されているとともに前記電極枠の内部に固定された温度分布調整部と、
を備え、
前記分散板は、前記ガスを前記シャワープレートに供給する複数の貫通孔を有するとともに前記ガス放出面とは反対側の前記シャワープレートの面に対向
しており、
前記孔埋め部材は、複数の前記貫通孔の各々を閉塞可能であり
、複数の前記貫通孔を通じて前記分散板から前記シャワープレートに向けて前記ガスを供給する位置を変更する
ように用いられ、
前記温度分布調整部は、前記孔埋め部材を用いて前記ガスを供給する位置を変更することで、前記シャワープレートの温度分布を調整可能であり、
前記プラズマ成膜方法は、
前記プラズマ成膜装置を準備し、
前記シャワープレートの前記ガス放出面上の複数の位置における温度を測定することで、前記シャワープレートの測定温度分布を得て、
前記測定温度分布に基づき、複数の前記貫通孔のうちいずれかの貫通孔に前記孔埋め部材を配置して前記貫通孔を閉塞することによって、または、複数の前記貫通孔のうち前記孔埋め部材が予め配置されている貫通孔から前記孔埋め部材を取り外すことによって、複数の前記貫通孔に前記孔埋め部材が配置される配置パターンを調整し、
前記シャワープレートの温度分布を調整する、
プラズマ成膜方法。
【請求項3】
前記シャワープレートに要求される目標温度範囲を決定し、
前記測定温度分布における前記ガス放出面上の複数の前記位置における温度と、前記目標温度範囲とを比較し、
前記目標温度範囲の下限値よりも低い温度を示す低温位置が前記ガス放出面上に存在すると判断した場合には、前記シャワープレートの鉛直方向から見て、複数の前記貫通孔のうち前記低温位置に対応する貫通孔に前記孔埋め部材を配置しないことにより前記貫通孔を開口させる、
請求項2に記載のプラズマ成膜方法。
【請求項4】
前記シャワープレートに要求される目標温度範囲を決定し、
前記測定温度分布における前記ガス放出面上の複数の前記位置における温度と、前記目標温度範囲とを比較し、
前記目標温度範囲の上限値よりも高い温度を示す高温位置が前記ガス放出面上に存在すると判断した場合には、前記シャワープレートの鉛直方向から見て、複数の前記貫通孔のうち前記高温位置に対応する貫通孔に前記孔埋め部材を配置することにより前記貫通孔を閉塞する、
請求項2に記載のプラズマ成膜方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマ成膜装置及びプラズマ成膜方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ガラス基板等の被処理基板に対して成膜処理を施すプラズマ成膜装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
プラズマ成膜装置の構造としては、被処理基板を支持して加熱する基板ホルダと、基板ホルダに対向するシャワープレートとを備えた構造が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような構造を有するプラズマ成膜装置においては、被処理基板の面内において成膜される膜の厚さや膜質を均一するために、シャワープレートの面内での温度のばらつきを抑えることが求められている。
【0005】
しかしながら、シャワープレートの温度分布を均一するには、プラズマ成膜装置の構造が複雑になるという問題がある。さらには、成膜プロセスに使用される条件(ガスの種類や流量、基板ホルダの温度等)によりシャワープレートの温度分布も変動してしまうという問題もある。簡単な装置構成によって、シャワープレートの温度分布を均一にすることは難しかった。
【0006】
本発明は、このような事情を考慮してなされたもので、簡単な装置構成によって、シャワープレートの温度分布を均一にすることができ、被処理基板の面内において成膜される膜の厚さや膜質を均一することがプラズマ成膜装置及びプラズマ成膜方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を鋭意検討した結果、次の知見(1)~(4)を得た。
(1)シャワープレートの温度分布を均一にする構造として、シャワープレートの内部にヒータ線を設けることが考えられるが、シャワー孔を有するシャワープレートの構造上、ヒータ線を内部に設けることは現実的ではない。
(2)被処理基板を加熱する基板ホルダから発生する輻射熱により、シャワープレートが加熱されるため、これを考慮する必要がある。
(3)シャワープレートに供給されるガスは、シャワープレートの熱収支に影響を及ぼす。
(4)シャワープレートの温度分布は、成膜プロセスに使用される条件(ガスの種類や流量、基板ホルダの温度等)より変動する。このため、成膜プロセスの種類に応じて、調整可能な装置構造が求められる。
上記の知見に基づき、本発明者らは、以下の態様を有するプラズマ成膜装置とプラズマ成膜方法に想到した。
【0008】
本発明の一態様に係るプラズマ成膜装置は、開閉可能なチャンバと、前記チャンバの内部を減圧して前記チャンバの内部を真空雰囲気に維持する排気部と、前記チャンバの内部に配置され、被処理基板を支持するとともに前記被処理基板を加熱する基板ホルダと、前記チャンバの内部に配置され、高周波電源に電気的に接続され、ガス供給源からガスが供給される電極枠と、前記基板ホルダに対向するガス放出面を有し、前記ガス放出面から前記ガスを前記被処理基板に向けて放出し、前記電極枠に脱着可能に取り付けられたシャワープレートと、分散板と孔埋め部材(複数の孔埋め部材)とで構成されているとともに前記電極枠の内部に固定された温度分布調整部とを備える。前記分散板は、前記ガスを前記シャワープレートに供給する複数の貫通孔を有するとともに前記ガス放出面とは反対側の前記シャワープレートの面に対向している。前記孔埋め部材は、複数の前記貫通孔の各々を閉塞可能であり、複数の前記貫通孔を通じて前記分散板から前記シャワープレートに向けて前記ガスを供給する位置を変更するように用いられる。前記温度分布調整部は、前記孔埋め部材を用いて前記ガスを供給する位置を変更することで、前記シャワープレートの温度分布を調整可能である。
【0009】
本発明の一態様に係るプラズマ成膜方法においては、プラズマ成膜装置が使用される。前記プラズマ成膜装置は、開閉可能なチャンバと、前記チャンバの内部を減圧して前記チャンバの内部を真空雰囲気に維持する排気部と、前記チャンバの内部において被処理基板を支持するとともに前記被処理基板を加熱する基板ホルダと、前記チャンバの内部に配置されかつ高周波電源に電気的に接続されるとともにガス供給源からガスが供給される電極枠と、前記基板ホルダに対向するガス放出面を有しかつ前記ガス放出面から前記ガスを前記被処理基板に向けて放出するとともに前記電極枠に脱着可能に取り付けられたシャワープレートと、分散板と孔埋め部材(複数の孔埋め部材)とで構成されているとともに前記電極枠の内部に固定された温度分布調整部とを備える。前記分散板は、前記ガスを前記シャワープレートに供給する複数の貫通孔を有するとともに前記ガス放出面とは反対側の前記シャワープレートの面に対向している。前記孔埋め部材は、複数の前記貫通孔の各々を閉塞可能であり複数の前記貫通孔を通じて前記分散板から前記シャワープレートに向けて前記ガスを供給する位置を変更するように用いられる。前記温度分布調整部は、前記孔埋め部材を用いて前記ガスを供給する位置を変更することで、前記シャワープレートの温度分布を調整可能である。前記プラズマ成膜方法は、前記プラズマ成膜装置を準備し、前記シャワープレートの前記ガス放出面上の複数の位置における温度を測定することで、前記シャワープレートの測定温度分布を得て、前記測定温度分布に基づき、複数の前記貫通孔のうちいずれかの貫通孔に前記孔埋め部材を配置して前記貫通孔を閉塞することによって、または、複数の前記貫通孔のうち前記孔埋め部材が予め配置されている貫通孔から前記孔埋め部材を取り外すことによって、複数の前記貫通孔に前記孔埋め部材が配置される配置パターンを調整し、前記シャワープレートの温度分布を調整する。
【0010】
本発明の一態様に係るプラズマ成膜方法においては、前記シャワープレートに要求される目標温度範囲を決定し、前記測定温度分布における前記ガス放出面上の複数の前記位置における温度と前記目標温度範囲とを比較し、前記目標温度範囲の下限値よりも低い温度を示す低温位置が前記ガス放出面上に存在すると判断した場合には、前記シャワープレートの鉛直方向から見て、複数の前記貫通孔のうち前記低温位置に対応する貫通孔に前記孔埋め部材を配置しないことにより前記貫通孔を開口させてもよい。
【0011】
本発明の一態様に係るプラズマ成膜方法においては、前記シャワープレートに要求される目標温度範囲を決定し、前記測定温度分布における前記ガス放出面上の複数の前記位置における温度と前記目標温度範囲とを比較し、前記目標温度範囲の上限値よりも高い温度を示す高温位置が前記ガス放出面上に存在あるすると判断した場合には、前記シャワープレートの鉛直方向から見て、複数の前記貫通孔のうち前記高温位置に対応する貫通孔に前記孔埋め部材を配置することにより前記貫通孔を閉塞してもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明の上記態様に係るプラズマ成膜装置及びプラズマ成膜方法は、シャワープレートの温度分布を調整することが可能な温度分布調整部を用いる。温度分布調整部は、複数の貫通孔を有する分散板と、複数の貫通孔の各々を閉塞可能な孔埋め部材とによって構成されている。温度分布調整部は、極めて簡単な構造を有する。したがって、本発明の上記態様に係るプラズマ成膜装置及びプラズマ成膜方法によれば、簡単な装置構成によって、シャワープレートの温度分布を均一にすることができ、被処理基板の面内において成膜される膜の厚さや膜質を均一することができる。
【0013】
さらに、本発明の上記態様に係るプラズマ成膜方法によれば、シャワープレートのガス放出面上の複数の位置における温度を測定することで、シャワープレートの測定温度分布を得ている。得られた測定温度分布に基づき、複数の貫通孔のうちいずれかの貫通孔に孔埋め部材を配置して貫通孔を閉塞している。これによって、孔埋め部材が配置される配置パターンを調整し、シャワープレートの温度分布を調整する。これにより、シャワープレートの温度分布を均一にすることができ、被処理基板の面内において成膜される膜の厚さや膜質を均一することができる。
【0014】
本発明の上記態様に係るプラズマ成膜方法においては、測定温度分布と目標温度範囲とを比較した結果、目標温度範囲の下限値よりも低い温度を示す低温位置がガス放出面上に存在すると判断した場合には、低温位置におけるシャワープレートの温度を上げる必要がある。この場合においては、低温位置に対応する貫通孔に孔埋め部材を配置しないことにより貫通孔を開口させる。すると、孔埋め部材によって貫通孔が閉塞されていない開口部分(孔埋め部材が配置されていない部分)を通じて分散板からシャワープレートに向けてガスが供給される。ガスは、開口部分だけでなく、開口部分の周囲に位置するとともに開口状態にある貫通孔を通じて、ガスはシャワープレートに供給され、ガス放出面からガスが放出される。この結果、孔埋め部材の配置を調整する前では低温であったシャワープレートの箇所(低温位置)でのガス流量が増加し(ガス濃度が増加)、ガスを熱媒体とする基板ホルダからシャワープレートへの熱移動が促進される。つまり、孔埋め部材の配置を調整する前においてはシャワープレートが部分的に低温であった箇所において、孔埋め部材の配置を調整した後には温度が上昇する。したがって、シャワープレートの温度分布を調整することができる。
【0015】
一方、本発明の一態様に係るプラズマ成膜方法においては、測定温度分布と目標温度範囲とを比較した結果、目標温度範囲の上限値よりも高い温度を示す高温位置がガス放出面上に存在あるすると判断した場合には、高温位置におけるシャワープレートの温度を下げる必要がある。この場合においては、高温位置に対応する貫通孔に孔埋め部材を配置することにより貫通孔を閉塞する。すると、孔埋め部材によって貫通孔が閉塞された閉塞部分(孔埋め部材が配置されている部分)を通じて分散板からシャワープレートに向けてガスは供給されない。なお、閉塞部分の周囲に位置するとともに開口状態にある貫通孔を流れたガスは、シャワープレートに供給されてガス放出面からガスが放出されるが、閉塞部分に対応するガス放出面からのガス流量が減少する。この結果、孔埋め部材の配置を調整する前では高温であったシャワープレートの箇所(高温位置)でのガス流量が減少し(ガス濃度が低下)、ガスを熱媒体とする基板ホルダからシャワープレートへの熱移動が生じ難くなる。つまり、孔埋め部材の配置を調整する前においてはシャワープレートが部分的に高温であった箇所において、孔埋め部材の配置を調整した後には温度が低下する。したがって、シャワープレートの温度分布を調整することができる。
【0016】
したがって、本発明の上記態様に係るプラズマ成膜方法によれば、温度分布調整部を用いて、孔埋め部材の配置パターンを調整することで、つまり、基板ホルダからシャワープレートへの熱移動を促進させたり、抑制させたりすることで、基板ホルダからシャワープレートへの熱移動の促進の程度を部分的に調整することができる。この結果、シャワープレートの温度分布を均一にすることができ、被処理基板の面内において成膜される膜の厚さや膜質を均一することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の実施形態に係るプラズマ成膜装置を示す模式断面図である。
【
図2】本発明の実施形態に係るプラズマ成膜装置を構成する温度分布調整部を示す模式斜視図であって、温度分布調整部を構成する分散板の下面を示す図である。
【
図3】本発明の実施形態に係るプラズマ成膜装置の一部を示す図であって、温度分布調整部を用いてシャワープレートの温度分布を調整する方法を説明する模式断面図である。
【
図4】本発明の実施形態に係るプラズマ成膜装置の一部を示す図であって、温度分布調整部を用いてシャワープレートの温度分布を調整する方法を説明する模式断面図である。
【
図5】本発明の実施形態に係るプラズマ成膜装置の一部を示す図であって、温度分布調整部を用いてシャワープレートの温度分布を調整する方法を説明する模式断面図である。
【
図6】本発明の実施例を説明する図であって、比較例の分散板を示す模式平面図である。
【
図7】本発明の実施例を説明する図であって、実施例の分散板を示す模式平面図である。
【
図8】本発明の実施例を説明する図であって、比較例及び実施例におけるシャワープレートの温度測定箇所を示す平面図である。
【
図9】本発明の実施例を説明する図であって、比較例の実験結果を示す図である。
【
図10】本発明の実施例を説明する図であって、実施例の実験結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の実施形態に係るプラズマ成膜装置について、図面を参照しながら説明する。本実施形態の説明に用いる各図面では、各部材を認識可能な大きさとするため、各部材の縮尺を適宜変更している。
以下の説明において、「上下方向」とは、シャワープレートの面(ガス放出面)に鉛直な方向、すなわち、シャワープレートの鉛直方向を意味しており、重力方向と同義である。「上方」とは、上下方向における上向きの方向を意味する。「下方」とは、上下方向における下向きの方向を意味する。
【0019】
(プラズマ成膜装置)
図1に示すように、本実施形態に係るプラズマ成膜装置1は、プラズマCVD法(Chemical Vapor Deposition)による被処理基板に成膜を行う装置である。プラズマ成膜装置1は、真空チャンバ2(チャンバ)と、排気装置3(排気部)と、ガス供給源4と、高周波電源5と、電極枠6と、基板ホルダ7と、シャワープレート8、温度分布調整部9とを備える。
【0020】
(真空チャンバ)
真空チャンバ2は、真空チャンバ2の上下方向において接続されている上部チャンバ2Uと、下部チャンバ2Bとを有する。真空チャンバ2は、例えば、アルミニウムやアルミニウム合金等の導電性材料で形成されている。真空チャンバ2は、不図示の開口部と排気口とを有する。開口部には開閉可能なゲートバルブ(不図示)が接続されている。
【0021】
プラズマ成膜装置1によってプラズマCVD処理が施される基板S(被処理基板)の搬送は、開口部を介在して、搬送チャンバ(不図示)と真空チャンバ2との間で行われる。排気口は、下部チャンバ2Bに形成されており、排気配管を通じて、排気装置3に接続されている。
【0022】
真空チャンバ2は、上部チャンバ2Uと下部チャンバ2Bとが互いに離間したり接続したりすることで、開閉可能である。真空チャンバ2が開状態にあるときは、真空チャンバ2の内部に配置される部材、すなわち、電極枠6、基板ホルダ7、シャワープレート8、及び温度分布調整部9のメンテナンス作業を行うことが可能である。一方、真空チャンバ2が閉状態にあるときは、真空チャンバ2の内部に気密空間が形成され、排気装置3の駆動により真空チャンバ2の内部に真空雰囲気を生成することが可能である。
【0023】
(排気装置、ガス供給源、高周波電源)
排気装置3は、真空ポンプや圧力調整バルブ等を含み、真空チャンバ2の内部を減圧して真空チャンバ2の内部を真空雰囲気に維持する。
ガス供給源4は、成膜に用いられるガスGを電極枠6の内部に供給する。
高周波電源5は、電極枠6に高周波電力を供給し、基板S(基板ホルダ7)とシャワープレート8との間の成膜空間Pに、ガスGのプラズマを発生する。
【0024】
(基板ホルダ)
基板ホルダ7は、真空チャンバ2の内部に配置されている。基板ホルダ7は、基板Sを支持する構成を有する。基板ホルダ7の内部にはヒータ(不図示)が内蔵されており、ヒータの発熱により、基板ホルダ7は基板Sを加熱し、基板Sの温度を制御することができる。基板ホルダ7は、プラズマ成膜装置1の下部電極として機能する。さらに、基板ホルダ7には、基板支持ピン(不図示)が貫通するピン孔(不図示)が形成されている。基板支持ピンは、搬送ロボットアーム(不図示)と基板ホルダ7との間で基板Sの搬送が行われる際に用いられる。
【0025】
(電極枠、シャワープレート)
電極枠6は、チャンバの内部に配置され、高周波電源5に電気的に接続されている。電極枠6の内部には、ガス供給源4からガスGが供給される。電極枠6は、シャワープレート8と電極枠6とが接続固定される接続部6Cを有する。接続部6Cは、シャワープレート8の外周部8Cを囲むように形成されている。
【0026】
シャワープレート8は、基板ホルダ7に対向するガス放出面8Bと、ガス放出面8Bとは反対側の上面8Uと、上面8Uからガス放出面8Bに向けてシャワープレート8を貫通する複数のシャワー孔8Hを有する。ガス放出面8Bは、ガスGを基板Sに向けて放出する。シャワープレート8は、電極枠6の接続部6Cに脱着可能に取り付けられている。
【0027】
(温度分布調整部)
図2に示すように、温度分布調整部9は、分散板9Aと、孔埋め部材9Bとで構成されている。温度分布調整部9は、電極枠6の内部に固定されている。
分散板9A及び孔埋め部材9Bの材料としては、同じ材料が用いられることが好ましく、例えば、アルミニウムやアルミニウム合金等が採用される。
【0028】
(分散板)
分散板9Aは、電極枠6の内側上面6Uに対向する上面9Uと、シャワープレート8の上面8Uに対向する下面9Lと、上面9Uから下面9Lに向けて分散板9Aを貫通する複数の貫通孔9Cを有する。分散板9Aの厚さは、例えば、3mm~5mmであり、プラズマ成膜装置1の仕様に応じて適宜決定される。
【0029】
(貫通孔)
複数の貫通孔9Cは、電極枠6の内部に供給されたガスGをシャワープレート8の上面8Uに向けて放出し、上面8Uと下面9Lとの間の空間8Sに供給する。分散板9Aの面(上面9U、下面9L)において、複数の貫通孔9Cは、分散板9Aの全面にマトリクス状に配列されている。貫通孔9Cは、ネジ穴であり、具体的には、貫通孔9Cと孔埋め部材9Bとが螺合するための雌ネジが貫通孔9Cの内表面に形成されている。貫通孔9Cの直径は、例えば、2mmから10mmであり、プラズマ成膜装置1の仕様に応じて適宜決定される。
【0030】
(孔埋め部材)
孔埋め部材9Bは、貫通孔9Cに螺合可能なセットスクリュー(イモネジ)である。これにより、分散板9Aに対する孔埋め部材9Bの脱着を容易にすることが可能となる。つまり、孔埋め部材9Bは、複数の貫通孔の各々を閉塞可能である。
【0031】
孔埋め部材9Bの長さは、分散板9Aの厚さに略等しいか、分散板9Aの厚さよりも小さいことが好ましい。貫通孔9Cに孔埋め部材9Bが螺合されている状態では、孔埋め部材9Bの一部が分散板9Aの表面(上面9U、下面9L)から突起していないことが好ましい。このような螺合状態では、貫通孔9Cに対して凹むように孔埋め部材9Bが固定されてもよい。
【0032】
なお、
図2に示す例では、1つの孔埋め部材9Bのみが示されているが、実際には複数の孔埋め部材9Bが予め用意されており、必要に応じて、各孔埋め部材9Bが貫通孔9Cに固定される。
【0033】
孔埋め部材9Bは、複数の貫通孔9Cを通じて分散板9Aからシャワープレート8に向けてガスGを供給する位置を変更するように用いられる。これによって、分散板9Aからシャワープレート8に向けて供給されるガスGの流れを調整することが可能である。複数の貫通孔に対して孔埋め部材9Bが固定される箇所、つまり、貫通孔9Cが閉塞された閉塞部分は、後述するように、シャワープレートの温度測定によって得られた温度分布に応じて決定される。
【0034】
このように温度分布調整部9は、複数の貫通孔9Cを備える分散板9Aと、複数の貫通孔9Cの各々に螺合可能な孔埋め部材9Bとによって構成されているので、温度分布調整部9は、シャワープレート8の温度分布を調整することが可能である。
【0035】
(プラズマ成膜装置1の作用効果)
次に、プラズマ成膜装置1によって得られる作用効果について説明する。
まず、基板ホルダ7上に基板Sが配置されかつ基板ホルダ7によって基板Sが加熱されている状態で、プラズマCVDによる成膜処理が基板Sに対して施される。具体的には、排気装置3によって真空チャンバ2の内部が真空雰囲気に維持された状態で、ガス供給源4はガスGを電極枠6の内部に供給する。
【0036】
電極枠6の内部においては、温度分布調整部9の分散板9AによってガスGが拡散され、ガスGは、孔埋め部材9Bによって閉塞されていない貫通孔9Cを通じて、空間8Sに供給される。一方、孔埋め部材9Bによって閉塞されている貫通孔9CにガスGは流通しないため、閉塞状態にある貫通孔9Cを避けるようにガスGは流動し、ガスGは閉塞されていない開口状態にある貫通孔9Cを通じて、空間8Sに供給される。さらに、ガスGは、シャワープレート8を通じて、成膜空間Pに供給される。
【0037】
この状態で、高周波電源5が高周波電力をシャワープレート8と基板ホルダ7との間に供給する。成膜空間Pにおいてプラズマが発生し、プラズマCVDによる成膜処理が基板Sに対して施される。
【0038】
このようなプラズマ成膜装置1においては、シャワープレート8の温度分布を調整することが可能な温度分布調整部9が用いられている。さらに、温度分布調整部9は、複数の貫通孔9Cを有する分散板9Aと、複数の貫通孔9Cの各々を閉塞可能な孔埋め部材9Bとによって構成されているので、温度分布調整部9は、極めて簡単な構造を有する。したがって、本実施形態に係るプラズマ成膜装置1によれば、簡単な装置構成によって、シャワープレート8の温度分布を均一にすることができ、基板Sの面内において成膜される膜の厚さや膜質を均一することができる。
【0039】
(シャワープレートの温度分布の調整方法)
次に、
図1、
図3~
図5を参照し、上述した構成を有するプラズマ成膜装置1におけるシャワープレート8の温度分布を調整する方法を説明する。シャワープレート8の温度分布の調整方法は、プラズマ成膜装置1が実際の成膜処理に使用されていないメンテナンス作業の際において、作業者によって行われる。
【0040】
(シャワープレートに要求される目標温度範囲の決定)
まず、プラズマ成膜装置1の使用条件(基板Sの表面に成膜される膜の種類、プロセス条件、又は真空チャンバ2の内部の温度条件等)に基づいて、作業者は、シャワープレートに要求される目標温度範囲を決定する。目標温度範囲とは、基準温度から±数%のバラツキを有する範囲である。基準温度とは、平均値であってもよいし、上限値と下限値との間の中央値であってもよい。
【0041】
作業者は、シャワープレートに要求される温度の全体のバランスを考慮し、基準温度、バラツキ(±数%)、上限値、及び下限値を決定する。これらの値は、プラズマ成膜装置1の使用条件によって異なり、作業者の判断により選択的に決定される。以下の説明では、一例として、作業者が、基準温度として200℃に決定し、バラツキを±5%に決定した場合、つまり、目標温度範囲が210℃(上限値)~190℃(下限値)である場合を説明する。
【0042】
(孔埋め部材の配置調整を行う前におけるシャワープレートの温度測定)
次に、シャワープレート8の温度測定を測定するために、複数の熱電対を含む温度測定装置を準備する。次に、熱電対をシャワープレート8のガス放出面8B上における複数の箇所に貼り付ける。ここで、複数の箇所とは、ガス放出面8Bの中央位置と、ガス放出面8Bのコーナー位置と、中央部からコーナー部に向けた方向における等間隔の位置であることが好ましい。
【0043】
熱電対がガス放出面8Bに貼り付けられた状態で、
図1に示すプラズマ成膜装置1を準備する。これにより、真空チャンバ2の内部における真空雰囲気内において、ガス放出面8Bの温度を測定することが可能になる。
【0044】
次に、排気装置3によって真空チャンバ2の内部が真空雰囲気に維持された状態を維持しつつ、基板ホルダ7による基板Sの加熱を行い、ガス供給源4が窒素ガス(N2)等のガスを温度分布調整部9に供給する。
この状態で、温度測定装置を用いて、複数の熱電対が貼り付けられているガス放出面8B上における複数の位置における温度を測定する。これによって、シャワープレート8の測定温度分布が得られる。
【0045】
ここで、測定温度分布は、ガス放出面8B上における複数の位置と、複数の位置における温度値とが対応付けられた温度分布データである。温度分布データは、作業者が温度測定装置のディスプレイに表示された表示値を読み取ってコンピュータに入力して保存されたデータであってもよいし、作業者が温度測定装置の表示値を読み取って紙等の媒体に書き込まれたデータであってもよい。また、作業者による読み取り作業を行わずに、温度測定装置からコンピュータに転送されたデータであってもよい。
【0046】
(測定温度分布と目標温度範囲との比較)
次に、測定温度分布におけるガス放出面8B上の複数の位置における温度と、目標温度範囲とを比較する。比較の結果、作業者は、ガス放出面8B上の複数の位置において、目標温度範囲の上限値(210℃)を超える高温位置が存在するか否かを判断し、かつ、目標温度範囲の下限値(190℃)を下回る低温位置が存在するか否かを判断する。
【0047】
(真空チャンバの大気開放)
次に、不図示の駆動装置等を用いることで、真空チャンバ2を構成する上部チャンバ2Uと下部チャンバ2Bと互いに分離し、下部チャンバ2Bを180度回転させる。これにより、
図3に示すように、ガス放出面8Bが上方を向いた状態が得られる。
【0048】
(シャワープレートの取り外し)
次に、
図4に示すように、作業者は、電極枠6からシャワープレート8を取り外す。これによって、分散板9Aの下面9Lが上方を向いた状態が得られる。分散板9Aは、貫通孔9Cが孔埋め部材9Bによって閉塞されている箇所(閉塞部分)と、貫通孔9Cが孔埋め部材9Bによって閉塞されていない箇所(開口部分)と、を有する。
【0049】
(孔埋め部材の脱着)
図5に示すように、作業者は、シャワープレート8の温度測定によって得られた測定温度分布(温度分布データ)に基づき、複数の貫通孔9Cのうちいずれかの貫通孔に孔埋め部材9Bを配置して貫通孔を閉塞することによって、または、複数の貫通孔9Cのうち孔埋め部材9Bが予め配置されている貫通孔9Cから孔埋め部材9Bを取り外すことによって、複数の貫通孔9Cに孔埋め部材9Bが配置される配置パターンを調整する。
【0050】
(孔埋め部材の配置パターンの調整)
孔埋め部材9Bの配置パターンを調整する方法としては、例えば、以下の2つの方法が挙げられる。
【0051】
(第1の調整方法)
第1の調整方法は、測定温度分布と目標温度範囲との比較結果に基づき、ガス放出面8B上の複数の位置において、下限値(190℃)よりも低い温度を示す低温位置が存在すると判断した場合に適用される。この場合、シャワープレート8の鉛直方向から見て、複数の貫通孔9Cのうち低温位置に対応する貫通孔9Cに孔埋め部材9Bを配置しないことにより貫通孔9Cを開口させる。
【0052】
(第2の調整方法)
第2の調整方法は、測定温度分布と目標温度範囲との比較結果に基づき、ガス放出面8B上の複数の位置において、上限値(210℃)よりも高い温度を示す高温位置が存在すると判断した場合に適用される。この場合、シャワープレート8の鉛直方向から見て、複数の貫通孔9Cのうち高温位置に対応する貫通孔9Cに孔埋め部材9Bを配置することにより貫通孔9Cを閉塞する。
【0053】
(孔埋め部材の配置調整を行った後におけるシャワープレートの温度測定)
図4においてシャワープレート8を電極枠6に取り付け、下部チャンバ2Bを上部チャンバ2Uに取り付けて、
図1に示すプラズマ成膜装置1を得る。この状態では、熱電対がガス放出面8Bに貼り付けられている。
その後、排気装置3によって真空チャンバ2の内部が真空雰囲気に維持された状態を維持しつつ、基板ホルダ7による基板Sの加熱を行い、ガス供給源4が窒素ガス等のガスを温度分布調整部9に供給する。
この状態で、温度測定装置を用いて、複数の熱電対が貼り付けられているガス放出面8B上における複数の位置における温度を測定する。これによって、孔埋め部材の配置調整を行った後におけるシャワープレート8の測定温度分布が得られる。これにより、シャワープレート8の温度分布が調整されたことを確認する。
【0054】
(プラズマ成膜方法の作用効果)
上述したシャワープレート8の温度分布を調整する方法は、本実施形態に係るプラズマ成膜方法に適用されている。このプラズマ成膜方法によれば、シャワープレート8のガス放出面8B上の複数の位置における温度を測定することで、シャワープレート8の測定温度分布を得ている。得られた測定温度分布に基づき、複数の貫通孔9Cのうちいずれかの貫通孔9Cに孔埋め部材9Bを配置して貫通孔9Cを閉塞している。これによって、孔埋め部材9Bが配置される配置パターンを調整し、シャワープレート8の温度分布を調整する。これにより、シャワープレート8の温度分布を均一にすることができ、基板Sの面内において成膜される膜の厚さや膜質を均一することができる。
また、シャワープレート8の温度分布を調整する方法は、基板ホルダ7から生じる熱(輻射熱)がガスGを介在してシャワープレート8に向けて移動(熱移動)が生じことを考慮している。以下に具体的に述べる。
【0055】
ガス放出面8Bから放出されたガスGは、基板Sに達する。基板ホルダ7は、基板Sを支持するとともに基板Sを加熱しているため、基板ホルダ7から発生する熱(輻射熱)は、ガス放出面8Bから放出されたガスGを介して、シャワープレート8に達する。すなわち、シャワープレート8から放出されたガスGが熱媒体として機能し、基板ホルダ7から発生した熱がシャワープレート8へ向けて移動する熱移動が発生する。これによって、シャワープレート8が加熱される。この結果、シャワープレート8の温度が上昇する。
【0056】
このような基板ホルダ7からシャワープレート8への熱移動を鑑みて、第1の調整方法及び第2の調整方法が用いられている。
【0057】
第1の調整方法によれば、複数の貫通孔9Cのうち、低温位置に対応する貫通孔9Cに孔埋め部材9Bを配置しないことにより貫通孔9Cを開口させている。すると、孔埋め部材9Bによって貫通孔9Cが閉塞されていない開口部分(孔埋め部材9Bが配置されていない部分)を通じて分散板9Aからシャワープレート8に向けてガスGが供給される。ガスGは、開口部分だけでなく、開口部分の周囲に位置するとともに開口状態にある貫通孔9Cを通じて、ガスGはシャワープレート8に供給され、ガス放出面8BからガスGが放出される。
【0058】
したがって、分散板9Aにおける閉塞部分に対応するガス放出面8Bの位置でのガス放出量よりも、分散板9Aにおける開口部分に対応するガス放出面8Bの位置でのガス放出量が増加する。開口部分に対応するガス放出面8Bの位置、すなわち、ガス放出量が多い領域では、ガスGの濃度が高くなる。このため、ガスGが熱媒体として機能し、基板ホルダ7からシャワープレート8への熱移動が促進される。
【0059】
この結果、孔埋め部材9Bの配置を調整する前では低温であったシャワープレート8の箇所(低温位置)でのガス流量が増加し(ガス濃度が増加)、ガスを熱媒体とする基板ホルダ7からシャワープレート8への熱移動が促進される。つまり、孔埋め部材9Bの配置を調整する前においてはシャワープレート8が部分的に低温であった箇所において、孔埋め部材9Bの配置を調整した後には温度が上昇する。これにより、シャワープレート8の温度を局所的に高める効果が得られ、シャワープレート8の全体の温度の均一化に寄与する。
【0060】
特に、第1の調整方法は、シャワープレート8と電極枠6とが接続固定される接続部6Cに近い位置における貫通孔9Cに適用することが好ましい。
シャワープレート8に比べて電極枠6の温度は低いことから、接続部6Cにおいては、シャワープレート8の外周部8Cから電極枠6に向けた熱移動(熱逃げ)が生じやすい。つまり、シャワープレート8の中央領域8Mよりも、シャワープレート8の外周部8Cでは、シャワープレート8の温度が下がりやすい。一方、シャワープレート8の中央領域8Mでは熱が逃げ難い。このため、シャワープレート8の外周部8Cと中央領域8Mとの間では温度差が生じやすい。
【0061】
そこで、シャワープレート8の外周部8Cに対応する貫通孔9Cに孔埋め部材9Bを配置しないことにより貫通孔9Cを開口させる。この結果、外周部8Cにおいては、ガスGが熱媒体として機能し、熱移動が促進され、シャワープレート8の温度を局所的に高める効果が得られ、シャワープレート8の全体の温度の均一化に寄与する。
【0062】
第2の調整方法によれば、複数の貫通孔9Cのうち高温位置に対応する貫通孔9Cに孔埋め部材9Bを配置することにより貫通孔9Cを閉塞する。すると、孔埋め部材9Bによって貫通孔9Cが閉塞された閉塞部分(孔埋め部材9Bが配置されている部分)ではシャワープレート8に向けてガスGは供給されない。一方、閉塞部分の周囲に位置するとともに開口状態にある貫通孔9Cを通ったガスGは、シャワープレート8に供給されてガス放出面8BからガスGが放出されるが、開口部分を含む領域に比べると、ガスGの流量は減少する。
【0063】
したがって、分散板9Aにおける閉塞部分に対応するガス放出面8Bの位置、すなわち、ガス放出量が少ない領域では、分散板9Aにおける開口部分に対応するガス放出面8Bの位置よりも、ガスGの濃度が低くなる。このため、開口部分に対応するガス放出面8Bの位置に比べて、ガスGを介在した基板ホルダ7からシャワープレート8への熱移動が促進され難くなる。
【0064】
この結果、孔埋め部材9Bの配置を調整する前では高温であったシャワープレート8の箇所(高温位置)でのガス流量が減少し(ガス濃度が低下)、ガスを熱媒体とする基板ホルダ7からシャワープレート8への熱移動が生じ難くなる。つまり、孔埋め部材9Bの配置を調整する前においてはシャワープレート8が部分的に高温であった箇所において、孔埋め部材9Bの配置を調整した後には温度が低下する。これにより、シャワープレート8の温度を局所的に下げる効果が得られ、シャワープレート8の全体の温度の均一化に寄与する。
【0065】
以上、本発明の好ましい実施形態を説明し、上記で説明してきたが、これらは本発明の例示的なものであり、限定するものとして考慮されるべきではないことを理解すべきである。追加、省略、置換、およびその他の変更は、本発明の範囲から逸脱することなく行うことができる。従って、本発明は、前述の説明によって限定されていると見なされるべきではなく、請求の範囲によって制限されている。
【0066】
上述した実施形態では、電極枠6の内部に配置される分散板9Aの枚数は1枚であったが、複数の分散板9Aが電極枠6の内部に配置されてもよい。この場合、複数枚の場合、シャワープレート8に対向する分散板に本発明の温度分布調整部の構造を適用することが好ましい。
【実施例】
【0067】
次に、実施例を参照して、本発明を具体的に説明する。
図6は、比較例の分散板を示す模式平面図である。
図7は、実施例の分散板を示す模式平面図である。
図6及び
図7において、白抜きの円(記号「〇」)は、貫通孔の位置を示しており、かつ、貫通孔に孔埋め部材が配置されていないこと(開口部分、貫通状態)を意味する。一方、黒塗りの円(記号「●」)で示された部位は、貫通孔の位置を示しており、かつ、貫通孔に孔埋め部材が配置されたこと(閉塞部分、閉塞状態)を意味する。
【0068】
図6に示すように、比較例の分散板では、分散板の外周辺(4つの辺)の各々に最も近い貫通孔の4列のみにおいて、孔埋め部材が部分的に配置され、かつ、孔埋め部材が部分的に配置されていないという配置パターン(2つの閉塞部分の間に開口部分が配置されたパターン)が採用されている。さらに、比較例の分散板では、この4列よりも内側に位置する複数の貫通孔には全て孔埋め部材が配置されている。
【0069】
図7に示すように、実施例の分散板は、比較例とは異なり、分散板の外周辺(4つの辺)の各々に最も近い貫通孔の4列だけでなく、この4列よりも内側に位置する複数の貫通孔に対しても、孔埋め部材が部分的に配置され、かつ、孔埋め部材が部分的に配置されていないという配置パターンが採用されている。
【0070】
図8は、比較例及び実施例におけるシャワープレートの温度測定箇所を示す平面図である。
図8において、符号CH1~CH5は、シャワープレートにおける温度測定箇所を示す。X方向及びY方向におけるCH1~CH5の各々の座標(位置)は、次の通りである(単位:mm)。なお、シャワープレートの中央位置を示すCH1の座標は、(X,Y)=(0,0)としている。
CH1:(X,Y)=(0,0)
CH2:(X,Y)=(75,100)
CH3:(X,Y)=(100,150)
CH4:(X,Y)=(150,200)
CH5:(X,Y)=(180,230)
【0071】
図9は、比較例の実験結果を示す図である。
図10は、実施例の実験結果を示す図である。
図9及び
図10の各々は、基板ホルダに内蔵されているヒータの温度(ヒータ設定温度)を150℃、200℃、250℃、300℃、及び350℃に設定した場合において、CH1~CH5の位置における温度を測定している。
項目「CH1」~項目「CH5」は、
図8に示す温度測定箇所において得られた温度である。
また、項目「Ave.」はCH1~CH5の温度の平均値を示し、項目「Max.」はCH1~CH5の温度の最高値を示し、項目「Min.」は、CH1~CH5の温度の最低値を示している。項目「Δ」は、「Max.」の値と「Min.」の値との差分を示している。
【0072】
測定に用いられる装置としては、
図1に示す構造を有するプラズマ成膜装置が用いられる。測定条件は、次の通りである。
N
2ガスの流量:1000sccm
真空チャンバの内部圧力:200Pa
シャワープレートと基板との間の距離(ギャップ):17mm
真空チャンバの壁部の温度(チラー温度):80℃
【0073】
図9及び
図10に示す結果から次の点が明らかとなった。
[1]比較例における差分Δは、ヒータ設定温度150℃、200℃、250℃、300℃、及び350℃に対して、8.3℃、13.1℃、17.2℃、21℃、24.5℃となった。一方、実施例における差分Δは、ヒータ設定温度150℃、200℃、250℃、300℃、及び350℃に対して、4.3℃、9.3℃、13.2℃、16.1℃、19.7℃となった。このことから、比較例よりも、実施例では、シャワープレートの温度の均一化を図ることができることが明らかとなった。
[2]特に、実施例では、上記の5つのヒータ設定温度のいずれにおいても、差分Δを20℃以下にすることができることが明らかとなった。
[3]換言すると、複数の貫通孔に対して、孔埋め部材を部分的に配置したり、孔埋め部材を部分的に配置しなかったりというように、孔埋め部材の配置パターンを調整することで、シャワープレートの温度分布の調整を実現できることが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明は、簡単な装置構成によって、シャワープレートの温度分布を均一にすることができ、被処理基板の面内において成膜される膜の厚さや膜質を均一することがプラズマ成膜装置及びプラズマ成膜方法に広く適用可能である。
【符号の説明】
【0075】
1 プラズマ成膜装置、2 真空チャンバ(チャンバ)、2B 下部チャンバ、2U 上部チャンバ、3 排気装置(排気部)、4 ガス供給源、5 高周波電源、6 電極枠、6C 接続部、6U 内側上面、7 基板ホルダ、8 シャワープレート、8B ガス放出面、8C 外周部、8H シャワー孔、8M 中央領域、8S 空間、8U 上面、9 温度分布調整部、9A 分散板、9B 孔埋め部材、9C 貫通孔、9L 下面、9U 上面、G ガス、P 成膜空間、S 基板(被処理基板)。