(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-16
(45)【発行日】2024-10-24
(54)【発明の名称】耐油膜、耐油基材及び耐油紙
(51)【国際特許分類】
D21H 21/14 20060101AFI20241017BHJP
C08L 33/06 20060101ALI20241017BHJP
D21H 19/20 20060101ALI20241017BHJP
D21H 21/54 20060101ALI20241017BHJP
C08L 29/04 20060101ALI20241017BHJP
C08L 53/02 20060101ALI20241017BHJP
【FI】
D21H21/14 Z
C08L33/06
D21H19/20 B
D21H21/54
C08L29/04 B
C08L53/02
(21)【出願番号】P 2020561541
(86)(22)【出願日】2019-12-20
(86)【国際出願番号】 JP2019050071
(87)【国際公開番号】W WO2020130131
(87)【国際公開日】2020-06-25
【審査請求日】2022-11-21
(31)【優先権主張番号】P 2018240326
(32)【優先日】2018-12-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019168774
(32)【優先日】2019-09-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】俊成 謙太
(72)【発明者】
【氏名】藤井 結稀
(72)【発明者】
【氏名】稲富 敦
(72)【発明者】
【氏名】藤田 明士
【審査官】渡辺 陽子
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-328581(JP,A)
【文献】特開昭60-248763(JP,A)
【文献】特開2016-135932(JP,A)
【文献】特開2015-193944(JP,A)
【文献】国際公開第2013/015185(WO,A1)
【文献】特開2014-025163(JP,A)
【文献】特開2006-183221(JP,A)
【文献】特開2014-141750(JP,A)
【文献】特開2004-066054(JP,A)
【文献】国際公開第2016/104745(WO,A1)
【文献】特開2000-328048(JP,A)
【文献】特開2011-208134(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L
D21H19、21
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリビニルアルコール系重合体(A)及びガラス転移温度-65~-35℃の重合体を含有する重合体粒子(B)を含み、前記重合体粒子(B)が(メタ)アクリル酸エステル系重合体粒子又は芳香族ビニル系化合物-共役ジエン系化合物共重合体粒子であり、
且つ、前記重合体粒子(B)がイオン性基を含む分散剤を含有し、前記イオン性基が、アニオン性基及びアニオン性基の塩からなる基からなる群から選択される少なくとも1種であり、該重合体粒子(B)の含有量がポリビニルアルコール系重合体(A)100質量部に対して1質量部以上100質量部未満であって、ポリアルキレンエーテルユニットを有する重合体を含有しない、耐油膜。
【請求項2】
前記重合体粒子(B)の数平均分子量が5,000以上である、請求項1に記載の耐油膜。
【請求項3】
前記重合体粒子(B)の平均粒子径が10~500nmである、請求項1又は2に記載の耐油膜。
【請求項4】
前記重合体粒子(B)が(メタ)アクリル酸エステル系重合体粒子である、請求項1~3のいずれか1項に記載の耐油膜。
【請求項5】
前記重合体粒子(B)が(メタ)アクリル酸エステル系単独重合体粒子である、請求項1~4のいずれか1項に記載の耐油膜。
【請求項6】
前記重合体粒子(B)が芳香族ビニル系化合物-共役ジエン系化合物共重合体粒子である、請求項1~3のいずれか1項に記載の耐油膜。
【請求項7】
前記ポリビニルアルコール系重合体(A)が、未変性ポリビニルアルコール又は変性ポリビニルアルコールである、請求項1~
6のいずれか1項に記載の耐油膜。
【請求項8】
前記ポリビニルアルコール系重合体(A)がエチレン-ビニルアルコール共重合体であり、エチレン-ビニルアルコール共重合体中のエチレン単位の含有量が全構造単位に対して0.5~19モル%である、請求項1~
7のいずれか1項に記載の耐油膜。
【請求項9】
前記耐油膜が海島構造の相分離構造を有しており、ポリビニルアルコール系重合体(A)が海相を構成し、前記重合体粒子(B)が島相を構成する、請求項1~
8のいずれか1項に記載の耐油膜。
【請求項10】
厚みが0.1~50μmである、請求項1~
9のいずれか1項に記載の耐油膜。
【請求項11】
基材上に請求項1~
10のいずれか1項に記載の耐油膜を有する耐油基材。
【請求項12】
紙上に請求項1~
10のいずれか1項に記載の耐油膜を有する耐油紙。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐油膜、耐油基材及び耐油紙に関する。
【背景技術】
【0002】
フライドポテト及びフライドチキン等の油分が多い食品を提供する際に使用する包装体、バター等を包むための包装シート、並びに、パン又はケーキ等を焼く際に用いられるクッキングペーパー等の包装体には、それらの食品から出る油分を外へ漏らさない機能を有することが求められる。食品等の包装材料においては、食品に含まれる油分が包装体に浸透して外へ漏れると、包装体の表面に油しみができて外観を損ねたり、包装体の表面の印刷部位が油しみでにじんだり、バーコード及びQRコード(登録商標)等のOCR適性が低下するおそれなどがある。また、衣類又は肌に油が転移し、汚染を引き起こす等の問題もある。このような問題を解決するために、ポリエチレンラミネート紙等のポリラミネート紙を包装体に用いることが知られている。しかしながら、透湿性が低く蒸気を通さないために、温かい食品を包んだ場合は蒸れてふやけてしまう問題等がある。また、紙リサイクルのためには、ポリエチレンフィルムを取り除く装置(粉砕機等)を用いる必要があるが、ポリエチレンが装置に付着して取り除くことが困難であること、該装置の価格が高いことなどから、リサイクル紙の価格も高くなり、市場でのリサイクル紙の利用促進の障害になっている。そのため、あとで取り除く必要のないコート剤を使用した包装体の検討がされており、例えば、フッ素化合物を含有するフッ素系耐油剤(例えば特許文献1参照)を包装体の表面又は内部へ付着する方法が提案されている。
【0003】
フッ素化合物を含有するフッ素系耐油剤が包装体に利用されている場合、該包装体を焼却すると、フッ化水素ガス等の腐食性の強いガス及び炭化水素からなる樹脂とは異なる有機ガスが発生することがある。また、フッ素化合物及び該フッ素化合物の燃焼によって発生する含フッ素有機化合物は一般的に難分解性であり、環境負荷及び健康被害が懸念されている。さらに、フッ素化合物はそもそも高価である。そのため、例えば食品用に使用される包装体に利用されている耐油剤としては、フッ素系耐油剤以外の耐油剤、つまり非フッ素系耐油剤が望まれる。
【0004】
これまでに、非フッ素系耐油剤に関する発明として、アクリル系樹脂と、造膜剤と、水不溶性セルロースと、を有し、前記アクリル系樹脂と前記造膜剤とが、重量比で、アクリル系樹脂/造膜剤=90/10~40/60の割合で含まれており、前記水溶性セルロースが、前記アクリル系樹脂と前記造膜剤との合計100重量部に対して、0.5~5重量部含まれる耐油吸水性組成物(特許文献2参照)などが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2009-120996号公報
【文献】特開2016-124898号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、従来の非フッ素系耐油剤を利用した包装体では、平面部における耐油性がある程度良好であるものの、必ずしも十分とは言えなかった。また、折り曲げ部において耐油膜にひびが入ってそこから油分が浸透し易くなり、その結果、折り曲げ部に油しみができて外観を損ねたり、衣服又は肌に油が転移して汚染してしまったりするといった問題が発生することが判明した。特に、耐油剤の塗工量が少ない場合には当該問題が発生し易くなる傾向があるため、食品用包装体に求められる透湿性を優れたものとするために塗工量を少なくしながら前記問題を回避することはより一層困難であった。
一方で、グリセリン等の可塑剤を造膜剤に含有させることによって柔軟性を付与し、折り曲げ部においても耐油膜にひびが入りにくくする方法が考えられるが、耐油膜が可塑化(低弾性率化)してしまうために、折り曲げ部で耐油膜が薄くなり易く、油分が浸透し易くなったり、耐油膜から可塑剤がブリードアウトし易くなったりするために、これが衣服又は肌の汚染の原因となり得る。
【0007】
そこで、本発明の目的は、包装体の平面部と共に折り曲げ部においても耐油性に優れた耐油基材が得られる耐油膜を提供すること、並びに、該耐油膜を有する耐油基材及び該耐油膜を有する耐油紙を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは鋭意検討を行った結果、ポリビニルアルコール系重合体及びガラス転移温度が所定値以下の重合体を含有する重合体粒子をそれぞれ所定量含む耐油膜であれば上記課題を解決し得ることを見出し、当該知見に基づいてさらに検討を重ねて本発明を完成させた。
すなわち、本発明は下記の通りである。
【0009】
[1]ポリビニルアルコール系重合体(A)及びガラス転移温度40℃以下の重合体を含有する重合体粒子(B)を含み、該重合体粒子(B)の含有量がポリビニルアルコール系重合体(A)100質量部に対して1質量部以上150質量部未満である、耐油膜。
[2]前記重合体粒子(B)の数平均分子量が5,000以上である、上記[1]に記載の耐油膜。
[3]前記重合体粒子(B)の平均粒子径が10~500nmである、上記[1]又は[2]に記載の耐油膜。
[4]前記重合体粒子(B)が(メタ)アクリル酸エステル系重合体粒子である、上記[1]~[3]のいずれかに記載の耐油膜。
[5]前記重合体粒子(B)が(メタ)アクリル酸エステル系単独重合体粒子である、上記[1]~[4]のいずれかに記載の耐油膜。
[6]前記重合体粒子(B)がイオン性基を含む分散剤を含有する、上記[1]~[5]のいずれかに記載の耐油膜。
[7]前記イオン性基が、アニオン性基及びアニオン性基の塩からなる基からなる群から選択される少なくとも1種である、上記[6]に記載の耐油膜。
[8]前記重合体粒子(B)が芳香族ビニル系化合物-共役ジエン系化合物共重合体粒子及び酢酸ビニル系重合体粒子からなる群から選択される少なくとも1種である、上記[1]~[3]のいずれかに記載の耐油膜。
[9]前記ポリビニルアルコール系重合体(A)が、未変性ポリビニルアルコール又は変性ポリビニルアルコールである、上記[1]~[8]のいずれかに記載の耐油膜。
[10]前記ポリビニルアルコール系重合体(A)がエチレン-ビニルアルコール共重合体であり、エチレン-ビニルアルコール共重合体中のエチレン単位の含有量が全構造単位に対して0.5~19モル%である、上記[1]~[9]のいずれかに記載の耐油膜。
[11]前記耐油膜が海島構造の相分離構造を有しており、ポリビニルアルコール系重合体(A)が海相を構成し、前記重合体粒子(B)が島相を構成する、上記[1]~[10]のいずれかに記載の耐油膜。
[12]厚みが0.1~50μmである、上記[1]~[11]のいずれかに記載の耐油膜。
[13]基材上に上記[1]~[12]のいずれかに記載の耐油膜を有する耐油基材。
[14]紙上に上記[1]~[12]のいずれかに記載の耐油膜を有する耐油紙。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、包装体の平面部と共に折り曲げ部においても耐油性に優れた耐油基材が得られる耐油膜を提供すること、並びに、該耐油膜を有する耐油基材及び該耐油膜を有する耐油紙を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施例1で作製した耐油膜を有する耐油紙を折り曲げる前の、耐油紙断面の走査型電子顕微鏡(SEM)による写真である。
【
図2】実施例1で作製した耐油膜を有する耐油紙を折り曲げてから元に戻した後の、耐油紙断面の走査型電子顕微鏡(SEM)による写真である。
【
図3】実施例1において、相分離構造の観察のために別途作製したキャストフィルムの透過型電子顕微鏡(TEM)による写真(直接倍率:1万倍)である。
【
図4】実施例1において、相分離構造の観察のために別途作製したキャストフィルムの透過型電子顕微鏡(TEM)による写真(直接倍率:5万倍)である。
【
図5】比較例1で作製した耐油膜を有する比較用耐油紙を折り曲げる前の、耐油紙断面の走査型電子顕微鏡(SEM)による写真である。
【
図6】比較例1で作製した耐油膜を有する比較用耐油紙を折り曲げてから元に戻した後の、耐油紙断面の走査型電子顕微鏡(SEM)による写真である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の耐油膜は、ポリビニルアルコール系重合体(A)及びガラス転移温度(Tg)40℃以下の重合体を含有する重合体粒子(B)をそれぞれ所定量含む。該耐油膜を利用することによって、包装体の平面部と共に折り曲げ部においても耐油性に優れた耐油基材が得られる。なお、本明細書中において、「ポリビニルアルコール」を「PVA」と称することがあり、「ポリビニルアルコール系重合体」を「PVA系重合体」と称することがある。
本発明の耐油膜中におけるポリビニルアルコール系重合体(A)及びガラス転移温度40℃以下の重合体を含有する重合体粒子(B)の合計含有量は、本発明の効果の観点から、50質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることがさらに好ましく、実質的に100質量%であってもよい。
なお、本明細書において「室温」とは25℃を指す。
以下、該耐油膜が含む各成分について順に詳述する。
【0013】
<ポリビニルアルコール系重合体(A)>
ポリビニルアルコール系重合体(A)[以下、「PVA系重合体(A)」と称することがある。]は、ビニルアルコール単位を有する重合体であり、場合によっては、ビニルアルコール単位とビニルアルコール誘導体単位を有する重合体である。本明細書において、「~~単位を有する」とは、「~~に由来する構造単位を有する」の意味である。ビニルアルコール単位は、ビニル基部位にて連結し、水酸基を側鎖として有する構造単位である。ビニルアルコール誘導体単位とは、特に制限されるものではないが、例えば、(1)前記ビニルアルコール単位が有する水酸基がアセトキシ基に変換された構造単位、(2)前記ビニルアルコール単位2つをアセタール化した構造単位等が挙げられる。なお、ビニルアルコール誘導体単位は、その構造単位がビニルアルコール単位から誘導し得るものであるか、又は該誘導体単位の方からビニルアルコールへ変換可能であればよく、必ずしもビニルアルコールから誘導されたものでなければならないことを意味するものではない。
なお、特に制限されるものではないが、PVA系重合体(A)はアイオノマーであってもよい。アイオノマーとは、一般的な定義と同様に定義され、つまり、イオンによる分子間の架橋構造又は分子の凝集構造を有する重合体のことである。前記イオンとしては、特に制限されるものではないが、アルカリ金属の陽イオン;アルカリ土類金属の陽イオン;亜鉛等の遷移金属の陽イオン;アンモニウムイオン等の有機陽イオン;ハロゲン化物イオン等の陰イオン等が挙げられる。
【0014】
PVA系重合体(A)としては、未変性PVA、変性PVAが挙げられる。ここで、「未変性PVA」は、ビニルエステルの単独重合体をけん化して得られるもの及び2種以上のビニルエステルの共重合体をけん化して得られるものを指す。また、「変性PVA」は、前記未変性PVAの分子末端、主鎖及び側鎖の少なくとも1部を反応性基等で置換(架橋を含む)したPVA、及びビニルエステルと他のエチレン性不飽和単量体との共重合体をけん化して得られるPVA、又は、その両方に該当するPVAを指す。
【0015】
前記変性PVAとしては、前述の通り、ビニルエステルと他のエチレン性不飽和単量体との共重合体をけん化して得られるPVAが含まれるが、このPVAの場合、ビニルアルコール単位と共に、後述する「PVA系重合体(A)の製造方法」において記載されている「他のエチレン性不飽和単量体」単位を少なくとも1種含有するPVAとなる。それらの中でも、エチレン変性PVA、カルボキシ基又はその塩変性PVA、ケイ素変性PVA、アセトアセチル基変性PVA、ジアセトン基変性PVA、無水マレイン酸変性PVA、ヒドロキシ基変性PVA等が好ましく、エチレン変性PVAがより好ましい。PVA系重合体(A)は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
PVA系重合体(A)としては、前記例示の中でも、耐油性の観点から、未変性PVA、エチレン変性PVAが好ましく、未変性PVAとエチレン変性PVAのいずれであってもよいが、耐油性及び耐水性の観点から、エチレン変性PVAがより好ましい。
【0016】
(エチレン変性PVA)
前記エチレン変性PVAとしては、耐油性及び耐水性の観点から、エチレン-ビニルアルコール共重合体が好ましく、さらに、耐油性及び耐水性並びに水溶液もしくは水分散液の調製のし易さの観点から、該エチレン-ビニルアルコール共重合体中のエチレン単位の含有量が全構造単位に対して0.5~19モル%であることが好ましい。0.5モル%以上であれば、耐油膜の耐水性が良好となる傾向にあり、19モル%以下であれば、エチレン-ビニルアルコール共重合体の水溶液又は水分散液の調製が容易になる傾向にある。
同様の観点から、エチレン-ビニルアルコール共重合体中のエチレン単位の含有量は、全構造単位に対して1.5~15モル%であることがより好ましく、2.0~12モル%であることがさらに好ましく、4.0~8.0モル%であることが特に好ましい。
以下、エチレン変性PVAに関する説明は、エチレン-ビニルアルコール共重合体に関する説明と読み替えることができる。
【0017】
エチレン変性PVAにおけるエチレン単位の含有量は、1H-NMR測定によって求めることができる。例えば、エチレン変性PVAの前駆体又は再酢化物であるエチレン単位を含有するビニルエステル系共重合体の1H-NMR測定から求める。より詳細には、ビニルエステル系共重合体を、n-ヘキサン及びアセトンの混合液で再沈精製を3回以上行った後、80℃で3日間減圧乾燥することによって、分析用のビニルエステル系共重合体を得る。これをDMSO-d6に溶解し、1H-NMR測定装置(例えば500MHz)を用いて80℃で測定する。ビニルエステルの主鎖メチンに由来するピーク(4.7~5.2ppm)と、エチレン、ビニルエステル及び第三成分の主鎖メチレンに由来するピーク(0.8~1.6ppm)を用いてエチレン単位の含有量を算出する。
【0018】
エチレン変性PVAは、ビニルアルコール単位及びエチレン単位を含有しており、場合によってはビニルエステル単位を含有している。エチレン変性PVAは、さらにその他の単量体単位を含有していてもよいし、含有していなくてもよい。その他の単量体単位を構成する化合物としては、特に制限されるものではないが、例えば、プロピレン、1-ブテン、イソブテン、1-ヘキセン等のα-オレフィン;アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸等の不飽和酸もしくはその塩、又は前記不飽和酸のモノアルキルエステルもしくはジアルキルエステル;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n-プロピルビニルエーテル、イソプロピルビニルエーテル、n-ブチルビニルエーテル等のビニルエーテル;エチレングリコールビニルエーテル、1,3-プロパンジオールビニルエーテル、1,4-ブタンジオールビニルエーテル等のヒドロキシ基含有のビニルエーテル;アリルアセテート、プロピルアリルエーテル、ブチルアリルエーテル、ヘキシルアリルエーテル等のアリルエーテル;オキシアルキレン基を有する化合物;ビニルトリメトキシシラン等のビニルシリル化合物;酢酸イソプロペニル;3-ブテン-1-オール、4-ペンテン-1-オール、5-ヘキセン-1-オール、7-オクテン-1-オール、9-デセン-1-オール、3-メチル-3-ブテン-1-オール等のヒドロキシ基含有のα-オレフィン;エチレンスルホン酸、アリルスルホン酸、メタアリルスルホン酸、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸等に由来するスルホン酸基を有する化合物又はその塩;ビニロキシエチルトリメチルアンモニウムクロライド、ビニロキシブチルトリメチルアンモニウムクロライド、ビニロキシエチルジメチルアミン、ビニロキシメチルジエチルアミン、N-アクリルアミドメチルトリメチルアンモニウムクロライド、3-(N-メタクリルアミド)プロピルトリメチルアンモニウムクロライド、N-アクリルアミドエチルトリメチルアンモニウムクロライド、N-アクリルアミドジメチルアミン、アリルトリメチルアンモニウムクロライド、メタアリルトリメチルアンモニウムクロライド、ジメチルアリルアミン、アリルエチルアミン等に由来するカチオン基を有する化合物が挙げられる。
エチレン変性PVAがその他の単量体単位を含有する場合、その含有量は、20モル%以下が好ましく、5モル%以下であってもよく、1モル%以下であってもよく、0.5モル%以下であってもよい。
【0019】
(粘度平均重合度)
PVA系重合体(A)の粘度平均重合度[以下、「重合度」と略称することがある。]は、200~18,000が好ましい。PVA系重合体(A)の重合度は300~15,000がより好ましく、300~10,000がさらに好ましく、300~5,000がよりさらに好ましく、300~3,000が特に好ましく、500~2,000が最も好ましい。PVA系重合体(A)の重合度が前記下限値以上である場合、耐油膜としての強度が低下したり、塗工時に基材へ浸透し易くなることを抑制し、その結果、耐油性が向上する傾向にあり、一方、重合度が前記上限値以下である場合、溶液粘度が高くなることを抑制し、成形性が向上する傾向にある。
PVA系重合体(A)の重合度は、JIS K6726(1994年)の「3.7 平均重合度」に記載の方法によって測定した値である。
【0020】
(けん化度)
PVA系重合体(A)のけん化度は50モル%以上が好ましく、70モル%以上がより好ましく、85モル%以上がさらに好ましく、95モル%以上が特に好ましく、98モル%以上が最も好ましい。PVA系重合体(A)のけん化度の上限は特に限定されず、100モル%であってもよいし、99.8モル%であってもよい。けん化度が50モル%以上であれば、水への溶解性が良好となり、PVA系重合体(A)の水溶液又は水分散液を調製し易くなる傾向にある。なお、該けん化度を高くすることにより、PVA系重合体(A)の透湿性が高くなる傾向にある。
けん化度は、JIS K6726(1994年)の「3.5 けん化度」に記載の方法によって測定した値である。
【0021】
(PVA系重合体(A)の製造方法)
PVA系重合体(A)の製造方法に特に制限はなく、一般的な製造方法を採用でき、例えば、ポリビニルエステルをけん化することによって製造できる。
前記ポリビニルエステルとしては、例えば、(i)ビニルエステルの単独重合体、(ii)2種以上のビニルエステルの共重合体、(iii)ビニルエステルと他のエチレン性不飽和単量体との共重合体、等が挙げられる。
前記ビニルエステルとしては、例えば、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バーサチック酸ビニル、ピバリン酸ビニル等が挙げられる。これらの中でも、製造コストの観点から、酢酸ビニルが好ましい。
前記他のエチレン性不飽和単量体としては、ビニルエステルと共重合可能なものであれば特に制限はなく、例えば、エチレン、α-オレフィン、ハロゲン含有単量体、カルボン酸含有単量体及びその無水物又はそのエステル、(メタ)アクリル酸エステル、ビニルエーテル、スルホン酸基含有単量体、アミド基含有単量体、アミノ基含有単量体、第4級アンモニウム塩基含有単量体、シリル基含有単量体、水酸基含有単量体、アセチル基含有単量体等が挙げられる。これらの中でも、他のエチレン性不飽和単量体としては、エチレンが好ましい。
【0022】
また、PVA系重合体(A)は、さらに他の単量体と共重合を行ったものであってもよいし、連鎖移動剤を使用して重合体の末端を修飾したものであってもよい。前記連鎖移動剤としては、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ブチルアルデヒド、ベンズアルデヒド等のアルデヒド;アセトン、メチルエチルケトン、ヘキサノン、シクロヘキサノン等のケトン;2-ヒドロキシエタンチオール等のメルカプタン;チオ酢酸等のチオカルボン酸;トリクロロエチレン、パークロロエチレン等のハロゲン化炭化水素などが挙げられる。これらの中でも、アルデヒド、ケトンが好ましい。連鎖移動剤を使用する場合、その使用量は、使用する連鎖移動剤の連鎖移動係数及び目的とするPVA系重合体(A)の重合度に応じて決定することができ、特に制限されるものではないが、ビニルエステル100質量部に対して0.1~10質量部が好ましい。
【0023】
前記ポリビニルエステルの製造の際の重合方法としては、塊状重合法、溶液重合法、懸濁重合法、乳化重合法、分散重合法等の公知の方法が挙げられる。これらの中でも、工業的観点から、溶液重合法、乳化重合法、分散重合法が好ましい。重合操作にあたっては、回分法、半回分法及び連続法のいずれの方式も採用できる。
重合温度に特に制限はないが、0~150℃が好ましく、20~150℃がより好ましく、30~80℃がさらに好ましい。
こうして得られるポリビニルエステルを、水酸化ナトリウム等のけん化触媒を用いてけん化し、必要に応じて粉砕工程、乾燥工程等の工程を経ることによって、PVA系重合体(A)が得られる。
なお、PVA系重合体(A)は、水等に溶解させた溶液の状態で使用してもよいし、分散させた分散液の状態で使用してもよいし、又はその両方が混在した状態で使用してもよい。
【0024】
<ガラス転移温度(Tg)が40℃以下の重合体を含有する重合体粒子(B)>
本発明の耐油膜は、前記PVA系重合体(A)と共に、Tgが40℃以下の重合体を含有する重合体粒子(B)[以下、単に「重合体粒子(B)」と称することがある。]を含む。重合体粒子(B)は、Tgが40℃以下の重合体そのものであってもよい。重合体粒子(B)は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。但し、該重合体粒子(B)は、前記PVA系重合体(A)そのものではないものとする。
なお、重合体粒子(B)は単層型の重合体粒子(単一粒子)であってもよいし、コア及び該コアの少なくとも一部を被覆するシェルからなるコアシェル型の重合体粒子であってもよい。コアシェル粒子の場合、コア又はシェルの少なくとも一方においてTgが40℃以下の重合体を含有していればよい。また、重合体粒子(B)はアイオノマーであってもよい。アイオノマーについては前述の通りである。
Tgが40℃以下の重合体を含有する重合体粒子(B)は、柔軟性に富んでいることを意味しており、当該重合体粒子(B)を含むことにより、耐油膜に対して生じる応力が分散され、包装体の折り曲げ部において耐油膜にひびが入りにくくなり、ひいては耐油性が向上する。また、前記PVA系重合体(A)に該重合体粒子(B)を配合することによって、得られる耐油膜の破断伸び率が向上する傾向にある。包装体の折り曲げ部における耐油性の向上効果の観点から、重合体粒子(B)は、Tgが-100~40℃の重合体を含有することが好ましく、Tgが-100~35℃の重合体を含有することがより好ましく、Tgが-70~20℃の重合体を含有することがさらに好ましく、Tgが-70~0℃の重合体を含有することがよりさらに好ましく、Tgが-70~-10℃の重合体を含有することがよりさらに好ましく、Tgが-65~-35℃の重合体を含有することが特に好ましく、Tgが-60~-50℃の重合体を含有することが最も好ましい。
ここで、本発明において、Tgは実施例に記載の方法に従って求めた値である。
【0025】
(平均粒子径)
重合体粒子(B)の平均粒子径は、特に制限されるものではないが、重合安定性と重合速度のバランスの観点及び耐油性の観点から、10~500nmが好ましく、50~400nmがより好ましく、100~350nmがさらに好ましく、200~300nmがさらに好ましい。該平均粒子径は、10~150nmであってもよく、20~120nmであってもよく、50~100nmであってもよく、50~80nmであってもよく、又は、50~300nmであってもよく、80~300nmであってもよく、130~280nmであってもよく、150~280nmであってもよく、200~280nmであってもよく、200~250nmであってもよい。該平均粒子径は、実施例に記載の方法に従って動的光散乱測定装置によって、水分散液中に存在する重合体粒子(B)を測定して求められるメジアン径である。但し、実施例に記載の方法に従って透過型電子顕微鏡(TEM)で観察することによって求められる、耐油膜中に存在する重合体粒子(B)の平均粒子径も、動的光散乱測定装置によって測定した平均粒子径とほぼ同様の値となる傾向にあるため、この場合の平均粒子径も上記範囲であることが好ましい。
なお、前記平均粒子径は、重合体粒子(B)の一次粒子径を指すが、膜中で重合体粒子(B)が凝集して二次粒子を形成している場合は、その凝集粒子の二次粒子径は、20~15,000nmであってもよく、40~10,000nmであってもよく、100~8,000nmであってもよく、160~7,500nmであってもよい。但し、耐油性の観点から、重合体粒子(B)は凝集していない態様が好ましい。
【0026】
(数平均分子量(Mn))
重合体粒子(B)の数平均分子量は、包装体の折り曲げ部における耐油性の向上効果の観点から、好ましくは5,000以上であり、より好ましくは5,000~150,000、さらに好ましくは8,000~120,000、よりさらに好ましくは10,000~100,000、特に好ましくは15,000~100,000である。同様の観点から、数平均分子量は5,000~50,000であってもよく、10,000~50,000であってもよく、15,000~50,000であってもよく、15,000~35,000であってもよいし、又は、35,000~150,000であってもよく、45,000~120,000であってもよく、70,000~100,000であってもよい。
ここで、数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法により測定した標準ポリスチレン換算の値であり、詳細には実施例に記載の測定方法に従って測定した値である。
【0027】
重合体粒子(B)は、1種の単量体単位からなる単独重合体でもよいし、複数種の単量体単位からなる共重合体でもよい。
重合体粒子(B)は、包装体の折り曲げ部における耐油性の向上効果の観点から、エチレン性不飽和単量体(b1)単位を含む重合体(B1)を含有することが好ましく、エチレン性不飽和単量体(b1)単位を含む重合体(B1)を50質量%以上含有することがより好ましく、エチレン性不飽和単量体(b1)単位を含む重合体(B1)を80質量%以上含有することがさらに好ましく、エチレン性不飽和単量体(b1)単位を含む重合体(B1)を90質量%以上含有することが特に好ましく、エチレン性不飽和単量体(b1)単位を含む重合体(B1)を実質的に100質量%含有する、すなわち、実質的に、エチレン性不飽和単量体(b1)単位を含む重合体(B1)であることが最も好ましい。
なお、重合体(B1)中に含まれるエチレン性不飽和単量体(b1)単位の割合は、50質量%以上が好ましく、60質量%以上がより好ましく、80質量%以上がさらに好ましく、90質量%以上がよりさらに好ましく、95質量%以上が特に好ましい。
【0028】
また、重合体粒子(B)は、必要に応じて重合体(B1)以外の他の重合体を含有してもよい。かかる他の重合体としては、PVA系重合体(A)が挙げられ、好ましいものも前記PVA系重合体(A)における説明と同様である。重合体粒子(B)が他の重合体を含有する場合、その含有量は50質量%以下が好ましく、40質量%以下がより好ましく、20質量%以下がさらに好ましく、10質量%以下がよりさらに好ましく、5質量%以下が特に好ましい。なお、重合体粒子(B)にPVA系重合体が含まれていないことも好ましい一態様である。
【0029】
以下、「エチレン性不飽和単量体(b1)」を単に「単量体(b1)」と称することがある。また、「エチレン性不飽和単量体(b1)単位を含む重合体(B1)」を単に「重合体(B1)」と称することがある。
また、本明細書中において、「(メタ)アクリル」とは、「アクリル」及び「メタクリル」から選ばれる1種又は2種を意味する。また、「(N-アルキル)(メタ)アクリルアミド」とは、「(メタ)アクリルアミド」及び「N-アルキル(メタ)アクリルアミド」から選ばれる1種又は2種以上を意味し、換言すると、(メタ)アクリルアミドの窒素原子にアルキル基が置換した化合物とアルキル基が置換していない化合物の総称である。
【0030】
〈エチレン性不飽和単量体(b1)〉
単量体(b1)としては、例えば、(メタ)アクリル酸及びその塩;(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸t-ブチル、(メタ)アクリル酸トリシクロデカニル、(メタ)アクリル酸2-フェノキシエチル、(メタ)アクリル酸3-(トリメトキシシリル)プロピル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステル、(メタ)アクリル酸N,N’-ジアルキルアミノアルキルエステル、トリ(メタ)アクリル酸エステル[例えば、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート]、テトラ(メタ)アクリル酸エステル[例えば、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート]等の(メタ)アクリル酸エステル;(メタ)アクリルアミド、N-メチル(メタ)アクリルアミド、N-エチル(メタ)アクリルアミド等の(N-アルキル)(メタ)アクリルアミド;スチレン、α-メチルスチレン、1-ビニルナフタレン、3-メチルスチレン、4-プロピルスチレン、4-シクロヘキシルスチレン、4-ドデシルスチレン、2-エチル-4-ベンジルスチレン、4-(フェニルブチル)スチレン、ハロゲン化スチレン等の芳香族ビニル系化合物;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のシアン化ビニル系化合物;ブタジエン、イソプレン、2,3-ジメチルブタジエン、2-メチル-3-エチルブタジエン、1,3-ペンタジエン、3-メチル-1,3-ペンタジエン、2-エチル-1,3-ペンタジエン、1,3-ヘキサジエン、2-メチル-1,3-ヘキサジエン、3,4-ジメチル-1,3-ヘキサジエン、1,3-ヘプタジエン、3-メチル-1,3-ヘプタジエン、1,3-オクタジエン、シクロペンタジエン、クロロプレン、ミルセン、ファルネセン等の共役ジエン系化合物;エチレン、イソブチレン等の脂肪族ビニル系化合物;(メタ)アクリル酸アリル、(メタ)アクリル酸メタリル、桂皮酸アリル、桂皮酸メタリル、マレイン酸ジアリル、フタル酸ジアリル、テレフタル酸ジアリル、イソフタル酸ジアリル等の不飽和モノカルボン酸と不飽和アルコールとのエステル;エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート等の不飽和モノカルボン酸とグリコールとのジエステル;ジビニルベンゼン等の多官能芳香族ビニル;ビニルアセテート等の酢酸ビニルなどが挙げられる。
単量体(b1)としては、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0031】
前記単量体(b1)の例示の中でも、包装体の折り曲げ部における耐油性の向上効果の観点からは、(メタ)アクリル酸エステル、芳香族ビニル系化合物、共役ジエン系化合物、脂肪族ビニル系化合物、酢酸ビニルが好ましく、メタクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸t-ブチル、メタクリル酸アリル、アクリル酸2-フェノキシエチル、トリメタクリル酸エステル、メタクリル酸3-(トリメトキシシリル)プロピル、スチレン、ブタジエン、イソプレン、ファルネセン、エチレン、イソブチレン、ビニルアセテートがより好ましく、メタクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸t-ブチル、メタクリル酸アリル、アクリル酸2-フェノキシエチル、トリメタクリル酸エステル(好ましくはトリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート)、メタクリル酸3-(トリメトキシシリル)プロピル、スチレン、ブタジエン、エチレン、ビニルアセテートがさらに好ましい。
単量体(b1)としては、包装体の折り曲げ部における耐油性の向上効果の観点から、アクリル酸n-ブチルを単独で使用する態様(i)も好ましく、アクリル酸n-ブチル、メタクリル酸アリル及びトリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレートを併用する態様(ii)も好ましく、アクリル酸n-ブチル、メタクリル酸メチル及びメタクリル酸3-(トリメトキシシリル)プロピルを併用する態様(iii)も好ましく、アクリル酸n-ブチル及びメタクリル酸メチルを併用する態様(iv)も好ましく、アクリル酸n-ブチル及びメタクリル酸3-(トリメトキシシリル)プロピルを併用する態様(v)も好ましい。また、単量体(b1)としては、芳香族ビニル系化合物と共役ジエン系化合物を併用する態様(vi)も好ましく、芳香族ビニル系化合物と(メタ)アクリル酸エステルを併用する態様(vii)も好ましく、脂肪族ビニル系化合物と酢酸ビニルを併用する態様(viii)も好ましい。
ここで、単量体(b1)が(メタ)アクリル酸エステルであるとき、重合体粒子(B)を(メタ)アクリル酸エステル系重合体粒子と称し、特に(メタ)アクリル酸エステルが1種のとき、重合体粒子(B)を(メタ)アクリル酸エステル系単独重合体粒子と称する。
【0032】
重合体粒子(B)としては、包装体の平面部の耐油性及び折り曲げ部における耐油性の向上効果の観点、特に、包装体の折り曲げ部における耐油性の向上効果の観点から、(メタ)アクリル酸エステル系重合体粒子[芳香族ビニル系化合物-(メタ)アクリル酸エステル共重合体粒子を含む。]であることも好ましく、(メタ)アクリル酸エステル系単独重合体粒子であることも好ましい。また、包装体の平面部の耐油性及び折り曲げ部における耐油性の向上効果の観点から、重合体粒子(B)が芳香族ビニル系化合物-共役ジエン系化合物共重合体粒子及び酢酸ビニル系重合体粒子(より好ましくは脂肪族ビニル系化合物-酢酸ビニル共重合体粒子)からなる群から選択される少なくとも1種であることも好ましい。
【0033】
重合体粒子(B)は、包装体の折り曲げ部における耐油性の向上効果の観点から、単層の重合体粒子であることが好ましい。該重合体粒子(B)は製造の際に使用する分散剤を含有していてもよく、より詳細には、該分散剤によって、重合体粒子(B)の少なくとも一部が被覆されていてもよく、全部が被覆されていてもよい。なお、重合体粒子(B)が単層の場合は、前述のように分散剤を含んだ状態であっても単層とみなす。
分散剤としては、後述するように、耐油性の観点、特に包装体の折り曲げ部における耐油性の向上効果の観点及びエマルションの分散性の観点から、イオン性基を含む分散剤であることが好ましく、該イオン性基はアニオン性基及びアニオン性基の塩からなる基からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましく、そのため、分散剤はアニオン系界面活性剤であることがより好ましい。前記アニオン性基としては、例えば、スルホン酸基、カルボキシル基等が挙げられる。また、前記塩としては、例えば、ナトリウム塩等が挙げられる。
特に、PVA系重合体(A)がエチレン変性PVAである場合に、前記分散剤がイオン性基を含む分散剤であると、重合体粒子(B)の凝集が効果的に抑制された耐油膜を形成することができ、耐油性の向上、特に包装体の折り曲げ部における耐油性の向上につながる傾向にある。
【0034】
(重合体粒子(B)の含有量)
重合体粒子(B)の含有量は、包装体の折り曲げ部における耐油性の向上効果の観点から、PVA系重合体(A)100質量部に対して1質量部以上150質量部未満である。また、同様の観点から、重合体粒子(B)の含有量は、PVA系重合体(A)100質量部に対して1質量部以上100質量部未満であることが好ましく、1~50質量部であることがより好ましく、2~50質量部であることがさらに好ましく、3~40質量部であることが特に好ましく、20~35質量部であることが最も好ましい。
【0035】
(相分離構造)
本発明の耐油膜は、海島構造の相分離構造を有する傾向にある。具体的には、PVA系重合体(A)が海相を構成し、前記重合体粒子(B)が島相を構成する海島構造となる傾向にある。当該相分離構造をとることが、包装体の平面部の耐油性、さらには折り曲げ部における耐油性が向上することの一因になっているものと推察する。
【0036】
<重合体粒子(B)の製造方法>
重合体粒子(B)は市販品を使用することもできるし、製造することもできる。
重合体粒子(B)の製造方法に特に制限はなく、例えば、乳化重合法を利用して製造することができる。重合反応に供する単量体としては、前記エチレン性不飽和単量体(b1)等が挙げられる。
乳化重合法は、例えば、分散剤を含有する水を攪拌しながら加熱し、重合開始剤と単量体を加えることなどによって実施することができる。
【0037】
(分散剤)
分散剤としては、特に制限されるものではないが、例えば、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンラウリルエーテル酢酸、ポリオキシエチレンラウリルエーテル酢酸ナトリウム、ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシアルキレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム、ジ-2-エチルヘキシルスルホコハク酸ナトリウム、高級脂肪酸ナトリウム、ロジン系ソープ等のアニオン系界面活性剤;ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ノニルフェノールエトキシレート等のノニオン系界面活性剤;塩化ジステアリルジメチルアンモニウム、塩化ベンザルコニウム等のカチオン系界面活性剤;コカミドプロピルベタイン、コカミドプロピルヒドロキシスルタイン等の両性界面活性剤などが挙げられる。
また、PVA系重合体、酸変性ポリオレフィン、β-ナフタレンスルフォン酸ホルマリン縮合物塩、(メタ)アクリル酸エチルコポリマー等の高分子界面活性剤を分散剤として用いることも可能である。該PVA系重合体としては、前記PVA系重合体(A)を使用することができ、重合安定性及び製造コストの観点から、特に、未変性PVAを好ましく使用できる。
本発明においては、耐油性、特に包装体の折り曲げ部における耐油性の向上効果の観点から、分散剤として、イオン性基を含む分散剤であることが好ましく、該イオン性基はアニオン性基又はその塩からなる基であることが好ましく、前記アニオン系界面活性剤が代表的に挙げられる。
分散剤は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
分散剤の使用量は、分散媒に対して0.01~40質量%が好ましく、0.05~30質量%がより好ましい。
【0038】
(重合開始剤)
前記乳化重合法においては、重合開始剤としてラジカル重合開始剤を用いることが好ましい。
ラジカル重合開始剤としては、例えば、過硫酸塩系重合開始剤、過酸化物系重合開始剤、水溶性アゾ系重合開始剤、油溶性アゾ系重合開始剤等が挙げられる。また、ラジカル重合開始剤としてレドックス系重合開始剤を用いてもよい。これらの中でも、過硫酸塩系重合開始剤、過酸化物系重合開始剤が好ましい。前記過硫酸塩系重合開始剤としては、例えば、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム等が挙げられる。前記過酸化物系重合開始剤としては、例えば、過酸化水素、t-ブチルパーオキシド、メチルエチルケトンパーオキシド等が挙げられる。
重合開始剤は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
なお、水溶性の重合開始剤を用いる場合は水溶液として添加すればよいが、水に難溶な重合開始剤を用いる場合は、水及び分散剤を用いてラジカル重合開始剤の分散液を予め調製し、これを添加することが好ましい。この場合、使用する分散剤は乳化重合で用いるものと同じでもよいし、異なっていてもよい。
重合開始剤の使用量は、分散媒に対して0.0001~1質量%が好ましく、0.001~0.5質量%がより好ましく、0.001~0.1質量%がさらに好ましい。
【0039】
また前記乳化重合法において、生産性の観点から、レドックス系重合開始剤を用いてもよい。該レドックス系重合開始剤としては、有機過酸化物と遷移金属塩の併用が好ましい。
前記有機過酸化物としては、例えば、過酸化ベンゾイル、n-プロピルパーオキシカーボネート、t-ブチルパーオキシド、メチルエチルケトンパーオキシド等が挙げられる。
前記有機過酸化物と併用する前記遷移金属塩としては、例えば、硫酸鉄(II)、チオ硫酸鉄(II)、炭酸鉄(II)、塩化鉄(II)、臭化鉄(II)、ヨウ化鉄(II)、水酸化鉄(II)、酸化鉄(II)等の鉄化合物;硫酸銅(I)、チオ硫酸銅(I)、炭酸銅(I)、塩化銅(I)、臭化銅(I)、ヨウ化銅(I)、水酸化銅(I)、酸化銅(I)等の銅化合物、又はそれらの水和物などが挙げられる。
【0040】
(還元剤)
また、前記ラジカル重合開始剤と共に還元剤を用いてもよい。かかる還元剤としては、塩化第一鉄、硫酸第一鉄等の鉄化合物;硫酸水素ナトリウム、重亜硫酸ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、炭酸水素ナトリウム等のナトリウム塩;アスコルビン酸、ロンガリット、亜ジオチン酸ナトリウム、トリエタノールアミン、グルコース、フルクトース、グリセルアルデヒド、ラクトース、アラビノース、マルトース等の有機系還元剤などが挙げられる。これらのうち、鉄化合物と有機系還元剤とを併用してもよい。
前記還元剤の使用量は、分散媒に対して0.0001~1質量%が好ましく、0.001~0.5質量%がより好ましく、0.005~0.1質量%がさらに好ましい。
【0041】
(架橋剤)
乳化重合法では、必要に応じて、架橋剤を添加してもよい。前記単量体(b1)であっても、架橋化性能を有するものを架橋剤と称することがある。
架橋剤には、重合基を2つ有する2官能単量体が好適に使用されるが、3官能以上の多官能単量体を使用して重合体内の架橋密度の粗密の幅を大きくし、力学物性等を調整することも可能である。なお、ブタジエン及びイソプレン等の共役ジエン系化合物を単量体(b1)の全部又は一部に用いる場合には、重合後に不飽和二重結合が残存するため、これを架橋部とすることができる。
架橋剤としては、例えば、アクリル酸アリル、メタクリル酸アリル、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAジグリシジルエーテルの両末端(メタ)アクリル酸付加体、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ポリエステルジ(メタ)アクリレート、トリス(2-ヒドロキシエチル)イソシアヌレートトリ(メタ)アクリレート、トリス(2-(2,3-ジヒドロキシプロポキシ)エチル)イソシアヌレートトリ(メタ)アクリレート、トリス(2-ヒドロキシエチル)イソシアヌレートジ(メタ)アクリレート、シクロヘキサンジメタノールジ(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジメタノールジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAのエチレンオキサイド又はプロピレンオキサイドの付加体であるジオールのジ(メタ)アクリレート、水添ビスフェノールAのエチレンオキサイド又はプロピレンオキサイドの付加体であるジオールのジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリオキシエチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらの中でも、メタクリル酸アリル、トリメチロールプロパントリメタクリレートが好ましい。
架橋剤は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0042】
(グラフト化剤)
乳化重合法では、必要に応じて、グラフト化剤を添加してもよい。なお、前記単量体(b1)であっても、グラフト化性能を有するものをグラフト化剤と称することがある。
グラフト化剤としては、例えば、マレイン酸、無水マレイン酸、マレイン酸モノエチルエステルの金属塩、フマル酸、フマル酸モノエチルエステルの金属塩、イタコン酸、ビニル安息香酸、ビニルフタル酸、メタクリル酸、メタクリル酸3-(トリメトキシシリル)プロピル;マレイン酸、フマル酸又はイタコン酸のモノエステル又はジエステル等が挙げられる。前記モノエステル及びジエステルとしては、例えば、メチルモノエステル、メチルジエステル、プロピルモノエステル、プロピルジエステル、イソプロピルモノエステル、イソプロピルジエステル、ブチルモノエステル、ブチルジエステル、イソブチルモノエステル、イソブチルジエステル、ヘキシルモノエステル、ヘキシルジエステル、シクロヘキシルモノエステル、シクロヘキシルジエステル、オクチルモノエステル、オクチルジエステル、2-エチルヘキシルモノエステル、2-エチルヘキシルジエステル、デシルモノエステル、デシルジエステル、ステアリルモノエステル、ステアリルジエステル、メトキシエチルモノエステル、メトキシエチルジエステル、エトキシエチルモノエステル、エトキシエチルジエステル、ヒドロキシモノエステル、ヒドロキシジエステル、エチルモノエステル、エチルジエステル等が挙げられる。
グラフト化剤としては、上記の中でも、メタクリル酸3-(トリメトキシシリル)プロピルが好ましい。
【0043】
(金属イオンキレート剤)
乳化重合法では、必要に応じて、金属イオンキレート剤を添加してもよい。具体的には、エチレンジアミン四酢酸二水素二ナトリウム等の金属イオンキレート剤が挙げられる。
【0044】
(増粘抑制剤)
乳化重合法では、必要に応じて、乳化重合の系内に増粘抑制剤として電解質を添加してもよい。具体的には、塩化ナトリウム、硫酸ナトリウム、リン酸三ナトリウム等の電解質が挙げられる。
【0045】
分散剤と増粘抑制剤とを併用する場合、増粘抑制剤の使用量は、特に制限されるものではないが、分散液中のミセルの安定性の観点から、分散剤に対して20質量%以下が好ましく、10質量%以下がより好ましく、5質量%以下がさらに好ましい。
前記還元剤、金属イオンキレート剤及び電解質は、それらを使用する場合、重合反応の途中で添加してもよいが、乳化重合当初から水中に添加しておくことが好ましい。
【0046】
(連鎖移動剤)
乳化重合法では、必要に応じて、連鎖移動剤を添加してもよい。特に本発明においては、連鎖移動剤を添加することによって、重合度を調整することができる。前記連鎖移動剤としては、例えば、n-オクチルメルカプタン、n-ドデシルメルカプタン、t-ドデシルメルカプタン、ヘキサデシルメルカプタン、n-オクタデシルメルカプタン等の炭化水素系メルカプタン;メルカプト酢酸、メルカプト酢酸2-エチルヘキシル、メルカプト酢酸3-メトキシブチル、β-メルカプトプロピオン酸、β-メルカプトプロピオン酸メチル、β-メルカプトプロピオン酸2-エチルヘキシル、β-メルカプトプロピオン酸3-メトキシブチル、2-メルカプトエタノール、3-メルカプト-1,2-プロパンジオール等のチオール類(前記炭化水素系メルカプタンを除く。);α-メチルスチレンダイマー等の連鎖移動定数の大きい炭化水素化合物などを使用できる。
これらの中でも、炭化水素系メルカプタンが好ましく、n-ドデシルメルカプタン、t-ドデシルメルカプタンがより好ましい。
連鎖移動剤は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
連鎖移動剤を使用する場合、その使用量は、特に制限されるものではないが、重合体粒子(B)の製造に用いる単量体(b1)の仕込み量に対して、0.01~10質量%であることが好ましく、0.1~2質量%であることがより好ましい。
【0047】
(分散媒)
分散媒は、水を主成分とする水性媒体であることが好ましい。水を主成分とする水性媒体には、水と任意の割合で可溶な水溶性の有機溶媒(アルコール類、ケトン類等)を含んでいてもよい。ここで、「水を主成分とする水性媒体」とは水を50質量%以上含有する分散媒のことである。製造コスト及び環境負荷の観点から、分散媒は、水を90質量%以上含有する水性媒体であることが好ましく、水であることがより好ましい。
前記乳化重合法で用いる分散媒の量は、エマルションの粘度及び安定性の観点から、重合体粒子(B)の製造に用いる単量体(b1)の総量100質量部に対して、50~2,000質量部であることが好ましく、80~1,500質量部であることがより好ましく、100~1,200質量部であることがさらに好ましい。
【0048】
(老化防止剤)
本発明において、重合体粒子(B)の劣化を抑制する観点から、乳化重合後の分散液、又は回収処理後や精製処理後の重合体粒子(B)に老化防止剤を添加してもよい。老化防止剤は、重合反応後の重合体粒子(B)の回収処理や精製処理における劣化を抑制する観点からは、乳化重合後の分散液に老化防止剤を添加した後、重合体粒子(B)を回収処理又は精製処理をしてもよい。
【0049】
前記老化防止剤としては、一般的な材料を使用することができる。
老化防止剤として具体的には、ヒドロキノン、ヒドロキノンモノメチルエーテル、2,5-ジ-t-ブチルフェノール、2,6-ジ(t-ブチル)-4-メチルフェノール、モノ(又はジ、又はトリ)(α-メチルベンジル)フェノール等のフェノール系化合物;2,2’-メチレンビス(4-エチル-6-t-ブチルフェノール)、4,4’-ブチリデンビス(3-メチル-6-t-ブチルフェノール)、4,4’-チオビス(3-メチル-6-t-ブチルフェノール)等のビスフェノール系化合物;2-メルカプトベンズイミダゾール、2-メルカプトメチルベンズイミダゾール等のベンズイミダゾール系化合物;6-エトキシ-1,2-ジヒドロ-2,2,4-トリメチルキノリン、ジフェニルアミンとアセトンの反応物、2,2,4-トリメチル-1,2-ジヒドロキノリン重合体等のアミン-ケトン系化合物;N-フェニル-1-ナフチルアミン、アルキル化ジフェニルアミン、オクチル化ジフェニルアミン、4,4’-ビス(α,α-ジメチルベンジル)ジフェニルアミン、p-(p-トルエンスルホニルアミド)ジフェニルアミン、N,N’-ジフェニル-p-フェニレンジアミン等の芳香族二級アミン系化合物;1,3-ビス(ジメチルアミノプロピル)-2-チオ尿素、トリブチルチオ尿素等のチオウレア系化合物などが使用できる。
老化防止剤は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0050】
(重合温度)
重合温度は、通常0~110℃が好ましく、重合率を高める観点から、20~100℃がより好ましく、60~100℃がさらに好ましい。
【0051】
<PVA系重合体(A)及び重合体粒子(B)以外のその他の成分>
本発明の耐油膜は、本発明の効果を損なわない限りにおいて、前記PVA系重合体(A)及び前記重合体粒子(B)以外のその他の成分を含んでいてもよい。その他の成分としては、前記PVA系重合体(A)及び前記重合体粒子(B)には該当しない重合体(C)、及び添加剤(D)等が挙げられる。
前記重合体(C)としては、熱可塑性樹脂、熱可塑性エラストマー等が挙げられ、より具体的には、アイオノマー、ポリエステル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、アクリル系樹脂、エチレン-アクリル酸共重合体、エチレン-アクリル酸エステル共重合体、エチレン-メタクリル酸共重合体、エチレン-メタクリル酸エステル共重合体、エチレン-ビニルアセテート系共重合体、ポリ塩化ビニリデン、ビニルエステル系樹脂、ポリエステル系エラストマー、ポリウレタン系エラストマー、塩素化ポリオレフィン等が挙げられる。但し、いずれも前記PVA系重合体(A)及び前記重合体粒子(B)に該当しないものに制限される。
前記添加剤(D)としては、例えば、可塑剤、酸素吸収剤、熱安定剤、光安定剤、紫外線吸収剤、着色剤、帯電防止剤、界面活性剤、抗菌剤、アンチブロッキング剤、充填材、防腐剤等が挙げられる。該添加剤(D)は、前記PVA系重合体(A)及び前記重合体粒子(B)とは別個に添加されることによって耐油膜中に含有されているものであってもよいし、前記PVA系重合体(A)又は前記重合体粒子(B)の製造の際に使用されて、その結果、耐油膜に含有されているものであってもよい。
本発明の耐油膜が前記その他の成分を含んでいる場合、本発明の効果を損なわないようにすることが好ましく、その含有量(ここでは、前記PVA系重合体(A)又は前記重合体粒子(B)の製造の際に使用した添加剤の含有量を除く。)は、それぞれ、好ましくは50質量%以下、より好ましくは30質量%以下、さらに好ましくは10質量%以下、特に好ましくは5質量%以下である。当該含有量の下限値に特に制限はないが、例えば、1質量%であってもよく、3質量%であってもよい。
【0052】
(PVA系重合体(A)及びTg40℃以下の重合体を含有する重合体粒子(B)を含むエマルションの調製方法)
重合体粒子(B)を含む分散液をPVA系重合体(A)の水溶液に分散させることでエマルションが得られる。このとき、前記その他の成分を、必要に応じて分散液の状態にしてから一緒に混合することによって、前記エマルションを調製してもよい。
エマルション中の固形分量は、1~60質量%が好ましく、2~30質量%がより好ましく、3~15質量%がさらに好ましい。ここで、エマルション中の「固形分量」とはエマルションを構成する成分のうち、分散媒を除く成分の合計質量を意味する。
【0053】
<耐油膜及び耐油基材の製造方法>
本発明の耐油膜の製造方法に特に制限はないが、重合体粒子(B)を含む分散液をPVA系重合体(A)の水溶液に分散させることで得られるエマルションを、必要に応じて塗工機等を用いて基材へ塗布し、乾燥させることによって、基材上に耐油膜を形成することができ、そのようにして耐油基材を製造できる[塗布法]。また、前記エマルションを支持体上に塗布して乾燥させ、耐油フィルムを形成し、これを基材にラミネートすることによっても耐油膜を有する耐油基材を製造することもできる[ラミネート法]。
本発明の耐油膜は無延伸であってもよいし、一軸延伸されていてもよいし、二軸延伸されていてもよいが、包装体の平面部と折り曲げ部における耐油性の観点から、無延伸であることが好ましい。
なお、耐油膜は、基材の必要部位、つまり耐油性を付与すべき部位に設ければよく、必ずしも基材の全ての面に設ける必要はない。例えば、基材にておいて、食品等の内容物に接しない部位(例えば包装体の外面、及び内容物に触れない内面の一部等)には、耐油膜を有していなくてもよいし、有していてもよい。
【0054】
前記塗布法及びラミネート法における乾燥時の乾燥条件に特に制限はないが、熱風、赤外線、加熱シリンダー及びこれらを組み合わせた方法により、60~140℃で1~10分乾燥することが好ましく、80~120℃で3~8分乾燥することがより好ましい。塗工機としては、特に制限されるものではないが、例えば、サイズプレス、シムサイザー、ゲートロールコーター、バーコーター、カーテンコーター等の装置が挙げられる。
また、乾燥後の当該耐油基材は、調湿及びカレンダー処理することにより、耐油性及び耐水性をさらに向上させることができる。カレンダー処理条件としては、特に制限されるものではないが、ロール温度は常温(25℃)~100℃、ロール線圧は20~300kg/cmで実施することができる。
【0055】
前記塗布法において、乾燥後の耐油膜の塗工量としては、特に制限されるものではなく、0.1~50g/m2であってもよく、0.5~30g/m2であってもよく、1.0~15g/m2であってもよい。なお、0.1~15g/m2であることが好ましく、0.5~10g/m2であることがより好ましく、1.0~8.0g/m2であることがさらに好ましく、2.0~8.0g/m2であることがよりさらに好ましく、2.5~6.5g/m2であることが特に好ましく、3.5~6.0g/m2であることが最も好ましい。0.1g/m2以上であれば、包装体の平面部での耐油性に優れると共に、包装体の折り曲げ部における耐油性も向上する傾向にある。耐油膜の塗工量が50g/m2以下であれば、食品用包装体に求められる透湿性が優れる傾向にある。透湿性の観点から耐油膜の塗工量を50g/m2以下にしたとしても、包装体の平面部及び折り曲げ部の耐油性に優れるという点で、工業的に非常に有用である。
【0056】
前記ラミネート法において、耐油フィルムの厚みに特に制限はなく、0.1~50μmであってもよく、0.5~30μmであってもよく、1.0~15μmであってもよく、5.5~7.5μmであってもよい。なお、0.1~15μmが好ましく、0.5~10μmがより好ましく、1.0~8.0μmであることがさらに好ましく、3.5~8.0μmであることが特に好ましく、4.5~5.5μmであることが最も好ましい。耐油フィルムの厚みが0.1μm以上であれば、包装体の平面部での耐油性に優れると共に、包装体の折り曲げ部における耐油性も向上する傾向にある。耐油フィルムの厚みを50μm以下にしたとしても、包装体の平面部及び折り曲げ部の耐油性に優れる点で、工業的に非常に有用である。
なお、上記厚みは、本発明の耐油膜の厚みと考えることができる。つまり、本発明の耐油膜の厚みは、0.1~50μmであってもよく、0.5~30μmであってもよく、1.0~15μmであってもよく、3.5~8μmであってもよく、4.5~5.5μmであってもよく、これらの範囲のいずれかであると好ましい。但し、耐油膜の一部が基材へ浸透していることがあってもよく、その場合、基材上に残っている耐油膜の厚みは、前記厚みよりも薄くなることがある。
【0057】
[耐油基材及び耐油紙]
上述の通り、前記エマルションを基材へ塗布して乾燥することにより、基材上に耐油膜を有する耐油基材が得られる。基材としては、例えば、紙、ゴム、不織布等が挙げられる。紙としては、上質紙、中質紙、微塗工紙、塗工紙、片艶紙、晒もしくは未晒クラフト紙(酸性紙又は中性紙)、又は、段ボール用、建材用、白ボ-ル用、チップボ-ル用等の用途に用いられる板紙もしくは白板紙等を用いることができる。基材の坪量に特に制限はないが、包装紙の場合、好ましくは20~150g/m2、より好ましくは30~90g/m2であり、さらに好ましくは55~75g/m2であり、箱等の成型容器の場合、好ましくは150~500g/m2である。
性能としては、耐油性だけではなく、耐溶剤性、耐薬品性、並びに酸素バリア性及び水蒸気バリア性等のガスバリア性等においても、折り曲げ部の性能を改善させることができる。
基材がゴムである場合としては、例えば、ゴム手袋等が挙げられる。ゴム手袋においては、作業中に使用するオイル等がゴム手袋の内部へ浸透してしまうと、手が汚染されるおそれ及び荒れるおそれなどがあり、本発明の耐油膜によって、ゴム手袋の前記問題を解決することができる。
食品用包装体の場合は基材が紙であることが多く、この場合、紙上に耐油膜を有する耐油紙が得られる。
【実施例】
【0058】
以下、本発明を実施例及び比較例により具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
なお、各例で使用したイオン交換水は、いずれも電気伝導率0.08×10-4S/m以下のイオン交換水である。
【0059】
各例における各種分析条件又は評価方法を以下に示す。
(1.ガラス転移温度(Tg))
重合体粒子に含まれる重合体のガラス転移温度(以下、Tgと略すことがある)は、Polymer Hand Book(John Wiley & Sons Inc)に記載されている各重合体成分の値を用いた。
なお、重合体粒子に含まれる重合体が多元共重合体の場合、又はPolymer Hand Book(John Wiley & Sons Inc)に記載されていない重合体成分を用いる場合は、得られた重合体粒子を含む溶液から固形分を取り出し、十分乾燥させた後、JIS K6240(2011年)に記載の方法で、示差走査熱量計によりTgを求めた。
装置;示差走査熱量分析装置「DSC822」(メトラー・トレド(株)製)
測定条件;昇温速度10℃/min
【0060】
(2.重合体粒子の数平均分子量)
各例で得られた重合体粒子の分散液を乾枯し、次いで、得られた固形分をテトラヒドロフラン(THF)で溶解して固形分量10mg/mLとした後、不溶分をメンブレンフィルター(13JP020AN、東洋濾紙(株)製)でろ過した溶液について、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法により下記条件で測定し、標準ポリスチレン換算で数平均分子量を算出した。
装置:CO-8020、東ソー(株)製
溶離液:THF
カラム:TSKguardcolumn HHR-H(46mmI.D.×4cm)、東ソー(株)製を1本、TSKgel GMHHR-M(7.8mmI.D.×30cm)、東ソー(株)製を2本、TSKgel G2000HHR(7.8mmI.D.×30cm)、東ソー(株)製を1本の計4本を直列で接続
カラム温度:40℃
検出器:RI
送液量:1.0mL/min
【0061】
(3.重合体粒子の平均粒子径)
各例で得られた分散液0.1mLとイオン交換水10mLの混合液を動的光散乱測定装置(装置名:SZ-100、(株)堀場製作所製)を用いて粒子の粒度分布を体積基準で測定し、得られたメジアン径を重合体粒子の平均粒子径とした。
【0062】
(4.分散性)
実施例又は比較例において、しんとう機を用いて混合を行って得られたエマルションについて、室温にて2時間静置した後の様子を目視によって観察し、下記評価基準に従って評価した。
A:沈殿物の発生がなく、分散性に優れている。
B:沈殿物が発生しており、分散性に乏しい。
【0063】
(5.平面部の耐油性)
実施例又は比較例で作製した耐油紙について、TAPPI UM-557法(キット法)によって塗工面の測定を行い、一番低い値を耐油度(KIT値)とし、耐油性の指標とした。
なお、現在市販に供されているフッ素樹脂を用いた耐油紙の耐油度(KIT値)はほとんどが5級以上であることから、一般的な使用において問題とならない耐油度は5級以上であるため、5級以上であることが好ましく、より高い耐油性が求められる用途においては7級以上が好ましい。
【0064】
(6.折り曲げ部の耐油性)
実施例又は比較例で作製した耐油紙について、塗工面が内面となるようにして該評価用試料を2つに折り曲げ、その折り曲げ部分上にゴムローラー(ロール巾45mm、ロール直径92mm、ロール質量2kg、ゴム硬度80Hs)を1往復転がして折り目を付けた。
その後、折り目を広げて元に戻し、折り目部分の耐油度(KIT値)をTAPPI UM-557法(キット法)によって測定した。折り曲げ部についても問題とならない耐油度は5級以上であるため、5級以上であることが好ましく、より高い耐油度を求められる用途においては7級以上が好ましく、8級以上がより好ましく、10級以上がさらに好ましく、11級以上が特に好ましい。
【0065】
[製造例1](エチレン変性PVA-1の製造;エチレン-ビニルアルコール共重合体)
攪拌機、窒素導入口、エチレン導入口及び開始剤添加口を備えた加圧反応槽に酢酸ビニル110.5g及びメタノール39.1gを仕込み、60℃に昇温した後、30分間窒素バブリングにより系中を窒素置換した。次いで反応槽圧力が0.14MPaとなるようにエチレンを導入した。重合開始剤として2,2’-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)[以下、「AMV」と称することがある。]をメタノールに溶解した濃度0.33g/L溶液を調製し、窒素ガスによるバブリングを行って窒素置換した。上記の反応槽内温を60℃に調整した後、上記の開始剤溶液635.7mLを注入し、重合を開始した。
重合中はエチレンを導入して反応槽圧力を0.61MPaに、そして重合温度を60℃に維持し、上記の開始剤溶液を用いて2.0L/hrでAMVを連続添加して重合した。5時間後に重合率が35%となったところで、ソルビン酸を2.22g投入後、冷却して重合を停止した。
反応槽を開放してエチレンを除去した後、さらに窒素ガスをバブリングした。次いで減圧下に未反応酢酸ビニルモノマーを除去し、エチレン変性ポリ酢酸ビニル[以下、ポリ酢酸ビニルを「PVAc」と称することがある。]のメタノール溶液とした。得られたエチレン変性PVAcのメタノール溶液にさらにメタノールを加え、濃度が25質量%となるように調整したエチレン変性PVAcのメタノール溶液400g(溶液中のエチレン変性PVAc100g)に、93.0gのアルカリ溶液(水酸化ナトリウムを10質量%含有するメタノール溶液;エチレン変性PVAc中の酢酸ビニル単位に対するモル比0.20)を添加して、60℃でけん化反応を行った。アルカリ添加後、ゲル化したものを粉砕器にて粉砕し、合計1時間、けん化反応を行った後、酢酸メチル1,000gを加えて残存するアルカリを中和した。フェノールフタレイン指示薬を用いて中和の終了を確認後、濾別して得られた白色固体のエチレン変性PVAにメタノール1,000gを加えて室温で3時間放置洗浄した。上記洗浄操作を3回繰り返した後、遠心脱液して得られたエチレン変性PVAを乾燥機中70℃で2日間放置して乾燥することで、下記測定方法によって求めたエチレン単位の含有量が6モル%であり、重合度が1,000、けん化度が99.0~99.4mol%、Tgが70℃である、エチレン-ビニルアルコール共重合体(エチレン変性PVA-1と称する。)を得た。
なお、前記重合度は、JIS K6726(1994年)の「3.7 平均重合度」に記載の方法によって測定した。
【0066】
(エチレン単位の含有量の測定方法)
エチレン変性PVA-1の前駆体であるエチレン変性PVAcの1H-NMR測定から求めた。より詳細には、エチレン変性PVAcを、n-ヘキサン及びアセトンの混合液で再沈精製を3回以上行った後、80℃で3日間減圧乾燥することによって、分析用のエチレン変性PVAcを得、これをDMSO-d6に溶解し、1H-NMR測定装置(500MHz)を用いて80℃で測定した。ビニルエステルの主鎖メチンに由来するピーク(4.7~5.2ppm)と、エチレン、ビニルエステル及び第三成分の主鎖メチレンに由来するピーク(0.8~1.6ppm)を用いて、エチレン単位の含有量を求めた。
【0067】
[製造例2](PVA-2の製造;未変性PVA)
攪拌機、窒素導入口及び開始剤添加口を備えた反応槽に酢酸ビニル0.59kg、メタノール1.0kgを仕込み、60℃に昇温した後30分間窒素バブリングにより系中を窒素置換した。次いで重合開始剤として2,2’-アゾビス(イソブチロニトリル)(AIBN)をメタノールに溶解した濃度10質量%溶液を調製し、窒素ガスによるバブリングを行って窒素置換した。上記の反応槽内温を60℃に調整した後、上記の開始剤溶液10mLを注入し、重合を開始した。
3時間後に重合率が50%となったところで、2,4-ジフェニル-4-メチル-1-ペンテンを0.1g添加後、冷却して重合を停止した。未反応酢酸ビニルモノマーを除去し、PVAcのメタノール溶液とした。得られたPVAcのメタノール溶液にさらにメタノールを加え、濃度が40質量%となるように調整したPVAcのメタノール溶液400g(溶液中のPVAc160g)に、7.44gのアルカリ溶液(水酸化ナトリウムを10質量%含有するメタノール溶液;PVAc中の酢酸ビニル単位に対するモル比0.01)を添加して、40℃でけん化反応を行った。アルカリ添加後、ゲル化したものを粉砕器にて粉砕し、合計1時間、けん化反応を行った後、酢酸メチル1,000gを加えて残存するアルカリを中和した。フェノールフタレイン指示薬を用いて中和の終了を確認後、濾別して得られた白色固体のPVAにメタノール1,000gを加えて室温で3時間放置洗浄した。上記洗浄操作を3回繰り返した後、遠心脱液して得られたPVAを乾燥機中70℃で2日間放置して乾燥することで、重合度が1,750、けん化度が88.4mol%、未変性PVA(PVA-2と称する。)を得た。
【0068】
[製造例3](分散剤Iの製造)
「カオーアキポ(アキポは登録商標)RLM100」(主成分:ポリオキシエチレンラウリルエーテル酢酸、花王(株)製)3.73質量部とイオン交換水41.7質量部を容器に入れ、攪拌しながら炭酸ナトリウム0.44質量部を仕込み、室温で十分に攪拌し、分散剤Iを得た。
【0069】
[製造例4](分散剤IIの製造)
製造例3において、「カオーアキポ(アキポは登録商標)RLM100」の仕込み量を50質量部とし、イオン交換水の仕込み量を100質量部とし、さらに炭酸ナトリウムを水酸化ナトリウムに変更してその仕込み量を5.5質量部としたこと以外は同様の操作を行うことにより、分散剤IIを得た。
【0070】
[製造例5](重合体粒子1を含む分散液1の製造)
製造例3で得た分散剤Iを還流管付の反応容器に入れた後、イオン交換水255質量部を添加し、内容物を室温で30分間窒素ガスにてバブリングすることで脱酸素処理を行った後、70℃に昇温した。その後、予め別の容器でイオン交換水30質量部に過硫酸カリウム(重合開始剤)0.1質量部を溶解させて前記同様の方法で脱酸素処理を行った過硫酸カリウム水溶液3.01質量部を添加した。
次いで、アクリル酸n-ブチル(単量体(b1))とt-ドデシルメルカプタン(連鎖移動剤)とを混合した溶液(脱酸素処理済み)を、フィードポンプを用いて85分かけて連続添加した。添加終了後、1時間保持し、さらに90℃に昇温して2時間加熱し、重合体粒子1を含む分散液1を得た。
各試薬の使用量を表1にまとめた。また、前記方法に従って、重合体粒子1の数平均分子量、平均粒子径及びTgを求めた。結果を表1に示す。
【0071】
[製造例6~14](重合体粒子2~10を含む分散液2~10の製造)
製造例5において、各成分の種類及び使用量を表1に示す通りに変更したこと以外は同様の操作を行い、重合体粒子2~10それぞれを含む分散液2~10を得た。
得られた重合体粒子2~10の数平均分子量、平均粒子径及びTgを表1に示す。
【0072】
[製造例15](重合体粒子11を含む分散液11の製造)
ペレックスOT-P(成分;ジ-2-エチルヘキシルスルホコハク酸ナトリウム、花王(株)製)0.1714質量部を還流管付の反応容器に入れた後、イオン交換水174質量部を添加し、内容物を室温で30分間窒素ガスにてバブリングすることで脱酸素処理を行った後、70℃に昇温した。その後、予め別の容器でイオン交換水10質量部に過硫酸カリウム(重合開始剤)0.1質量部を溶解させることによって調製した過硫酸カリウム水溶液(脱酸素処理済み)のうち0.303質量部をそこへ添加した。
次いで、アクリル酸n-ブチル(単量体(b1))120質量部とn-ドデシルメルカプタン(連鎖移動剤)0.8質量部、及び前記処理を行ったペレックスOT-P1.715質量部とを混合した溶液(脱酸素処理済み)のうち6.126質量部を、フィードポンプを用いて30分かけて連続添加し、添加終了後、30分保持した。そこへ、前記で調製した過硫酸カリウム水溶液のうち5.76質量部を添加し、さらに、アクリル酸n-ブチルとn-ドデシルメルカプタンの混合溶液(脱酸素処理済み)116.389質量部を、フィードポンプを用いて4時間かけて連続添加し、添加終了後、1時間保持した。さらに90℃に昇温して2時間加熱し、重合体粒子11を含む分散液11を得た。
各試薬の使用量、得られた重合体粒子11の数平均分子量、平均粒子径及びTgを表1に示す。
【0073】
[製造例16](重合体粒子12を含む分散液12の製造)
(工程1)
還流菅付きの反応容器に、イオン交換水395質量部、PVA205(商品名、(株)クラレ製、ポリビニルアルコール系重合体、分散剤)30質量部を添加した後、内容物を攪拌しながら30分間窒素ガスにてバブリングすることで脱酸素処理を行った。内容物を70℃に昇温してPVA系樹脂を溶解し、PVA系樹脂の水溶液を得た。該水溶液中に、過硫酸カリウム(重合開始剤)0.05質量部をイオン交換水5質量部に溶解させた水溶液と、メタクリル酸メチル(単量体(b1))10質量部を一括添加した。
(工程2)
前記工程1で加えた単量体(b1)の転化率が99質量%を超えたことを確認した時点で、前記工程1で得られた分散液に、アクリル酸n-ブチル(単量体(b1))30質量部及びメタクリル酸3-(トリメトキシシリル)プロピル(単量体(b1);グラフト化剤)0.3質量部からなる単量体混合物(脱酸素処理済み)を17分かけて連続添加した。総単量体転化率が99質量%を超えたことを確認した時点で、重合槽を25℃まで冷却して、コアシェル型の重合体粒子12を含む分散液12を得た。
得られた重合体粒子12の数平均分子量、平均粒子径及びTgを表1に示す。
【0074】
[製造例17](重合体粒子13を含む分散液13の製造)
製造例16において、工程1において使用するメタクリル酸メチル(単量体(b1))をアクリル酸n-ブチル(単量体(b1))に変更したこと以外は同様の操作を行うことにより、コアシェル型の重合体粒子13を含む分散液13を得た。
各試薬の使用量、得られた重合体粒子13の数平均分子量、平均粒子径及びTgを表1に示す。
【0075】
[製造例18](重合体粒子14を含む分散液14の製造)
製造例4で得た分散剤IIを還流管付の反応容器に入れた後、イオン交換水192質量部を添加し、内容物を室温で30分間窒素ガスにてバブリングすることで脱酸素処理を行った後、70℃に昇温した。その後、予め別の容器でイオン交換水30質量部に過硫酸カリウム(重合開始剤)0.1質量部を溶解させることによって調製した過硫酸カリウム水溶液(脱酸素処理済み)2.1質量部を添加した。
そこへ、アクリル酸n-ブチル(単量体(b1))50質量部とn-ドデシルメルカプタン(連鎖移動剤)0.33質量部とを混合した溶液(脱酸素処理済み)を、フィードポンプを用いて42分かけて連続添加し、添加終了後1時間保持した。続いて、メタクリル酸メチル(単量体(b1))(脱酸素処理済み)50質量部を、フィードポンプを用いて80分かけて連続添加し、添加終了後2時間保持した。さらに90℃に昇温して2時間加熱し、重合体粒子14を含む分散液14を得た。
各試薬の使用量、得られた重合体粒子14の数平均分子量、平均粒子径及びTgを表1に示す。
【0076】
[製造例19](重合体粒子15を含む分散液15の製造)
製造例15において、n-ドデシルメルカプタン(連鎖移動剤)を使用しなかったこと以外は同様の操作を行い、重合体粒子15を含む分散液15を得た。
得られた重合体粒子15の数平均分子量、平均粒子径及びTgを表1に示す。
【0077】
[製造例20](重合体粒子16を含む分散液16の製造)
製造例5において、使用する各成分及び使用量を表1に示す通りに変更したこと以外は同様の操作を行い、重合体粒子16を含む分散液16を得た。
得られた重合体粒子16の数平均分子量、平均粒子径及びTgを表1に示す。
【0078】
【0079】
ここで、表1に記載の各成分について以下に説明する。
(分散剤)
・分散剤I:製造例3で調製した分散剤I、固形分量8.1質量%
・分散剤II:製造例4で調製した分散剤II、固形分量32.2質量%
・RLM100NV:「カオーアキポ(アキポは登録商標)RLM100NV」(商品名、花王(株)製)、ポリオキシエチレンラウリルエーテル酢酸ナトリウム、固形分量24質量%
・エマール(登録商標)2FG:商品名、花王(株)製、ラウリル硫酸ナトリウム
・ラテムル(登録商標)E-108MB:商品名、花王(株)製、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム、固形分量22質量%
・ペレックス(登録商標)OT-P:商品名、花王(株)製、ジ-2-エチルヘキシルスルホコハク酸ナトリウム、固形分量70質量%
・PVA205:クラレポバール(登録商標)PVA205、(株)クラレ製、重合度500、けん化度88.2モル%
(連鎖移動剤)
・t-ドデシルメルカプタン:東京化成工業(株)製
・n-ドデシルメルカプタン:東京化成工業(株)製
(単量体(b1))
・アクリル酸n-ブチル:日本触媒(株)製
・アクリル酸エチル:日本触媒(株)製
・メタクリル酸アリル:東京化成工業(株)製
・メタクリル酸メチル:(株)クラレ製
・メタクリル酸3-(トリメトキシシリル)プロピル:グラフト化剤、東京化成工業(株)製
・トリメチロールプロパントリメタクリレート:架橋剤、東京化成工業(株)製
(重合開始剤)
・過硫酸カリウム:和光純薬工業(株)製、ラジカル重合開始剤
(分散媒)
・イオン交換水:電気伝導率0.08×10-4S/m以下のイオン交換水
【0080】
[製造例21](エチレン変性PVA水溶液1の製造)
イオン交換水604.5質量部を還流管付きの容器に入れ、攪拌機を用いて回転数400rpmで攪拌しながら90℃に昇温した。次いで、製造例1で得たエチレン変性PVA-1を45.5質量部添加して120分攪拌した後、室温まで放冷することで、エチレン変性PVA水溶液1を得た。
【0081】
[製造例22](PVA水溶液2の製造)
エチレン変性PVA-1をPVA-2に変更したこと以外は、製造例21と同様の操作を行い、PVA水溶液2を得た。
【0082】
[実施例1]エマルションの調製並びに耐油膜及び耐油紙の作製
(エマルションの調製)
表2に記載の配合量にて、製造例21で調製したエチレン変性PVA水溶液1と製造例5で調製した分散液1とを容器に入れ、しんとう機を用いて回転数200rpmで15分間、室温で混合した後、自転・公転ミキサーを用いて8分間脱泡を行い、エマルションを得た。
(耐油膜及び耐油紙の作製)
塗工機「Kコントロールコーター」(松尾産業(株)製)にPETフィルムを置き、さらにその上にA4サイズの紙を重ねた。さらにその上に、15cm×29.7cmのサイズに切り取ってから質量を測定したOKプリンス上質紙(王子製紙(株)製、坪量:64g/m
2)を重ねた。その後、該OKプリンス上質紙の長辺上部8cmの箇所にカバーPETフィルムを重ね、クリップで固定した。その後、ワイヤーバーNo.30を塗工機にセットし、カバーPETフィルム上に上記方法で調製したエマルションを流した。次いで、1m/minの速度で前記ワイヤーバーを動かすことで、OKプリンス上質紙の上にエマルションを塗工し、ここで、塗工されたOKプリンス上質紙の質量を測定し、乾燥後の塗工量を算出した。結果を表2に示す。
塗工終了してから1.5分後に、塗工されたOKプリンス上質紙を熱風乾燥機に入れ、100℃で5分間乾燥することで、耐油膜を有する耐油紙1を得た。
また、得られた耐油紙1について、前記方法に従って耐油性を評価した。結果を表2に示す。また、折り曲げる前の耐油紙1の断面の走査型電子顕微鏡(SEM)写真を
図1に示し、折り曲げてから元に戻した後の耐油紙1の断面の走査型電子顕微鏡(SEM)写真を
図2に示した。
耐油紙1の耐油膜の相分離構造を確認するために、別途、前記エマルションを必要に応じて水を添加する等によって固形分量を4質量%に調整してからキャストフィルムを作製し、これを透過型電子顕微鏡(TEM)で観察した。その透過型電子顕微鏡(TEM)写真を
図3及び
図4に示した。PVA系重合体(A)が海相となり、重合体粒子(B)が島相となっている様子が観察された。なお、当該TEM写真図から、耐油膜中の重合体粒子(B)の粒子径を測定することができ、必要に応じて複数(例えば任意の20個)の粒子の粒子径の平均値を算出することによって平均粒子径を求めることもできる。
【0083】
[実施例2~28]エマルションの調製並びに耐油膜及び耐油紙の作製
使用するPVA水溶液及び分散液並びにそれらの使用量、さらにはワイヤーバーの種類及び塗工量を表2~表4に示す通りに変更したこと以外は、実施例1と同様の操作を行い、エマルションを調製し、耐油膜を有する耐油紙2~28を作製した。
得られた耐油紙2~28について、前記方法に従って耐油性を評価した。結果を表2~表4に示す。
【0084】
[比較例1~4]エマルションの調製並びに耐油膜及び耐油紙の作製
使用するPVA水溶液及び分散液並びにそれらの使用量、さらにはワイヤーバーの種類及び塗工量を表5に示す通りに変更したこと以外は、実施例1と同様の操作を行い、エマルションを調製し、耐油膜を有する比較用耐油紙1~4を作製した。
得られた比較用耐油紙1~4について、前記方法に従って耐油性を評価した。結果を表5に示す。また、折り曲げる前の比較用耐油紙1の断面の走査型電子顕微鏡(SEM)を
図5に示し、折り曲げてから元に戻した後の比較用耐油紙1の断面の走査型電子顕微鏡(SEM)を
図6に示した。
【0085】
[比較例5]耐油膜及び耐油紙の作製
エマルションをAG-E060(フッ素系耐油加工剤、AGC(株)製)に変更し、ワイヤーバーの種類及び塗工量を表5に示す通りに変更したこと以外は、実施例1と同様の操作を行い、耐油膜を有する比較用耐油紙5を得た。
得られた比較用耐油紙5について、前記方法に従って耐油性を評価した。結果を表5に示す。
【0086】
【0087】
【0088】
【0089】
【0090】
ここで、表2~5に記載の各成分について以下に説明する。
(PVA水溶液)
・エチレン変性PVA水溶液1:製造例21で調製したエチレン変性PVA水溶液1
・PVA水溶液2:製造例22で調製したPVA水溶液2
(分散液)
・分散液1~16:それぞれ製造例5~20で調製した分散液1~16
・A6160水分散液:スチレン-ブタジエン共重合体粒子(Tg:33℃)、旭化成(株)製、48.3質量%水分散液として使用した。
・A7141水分散液:スチレン-ブタジエン共重合体粒子(Tg:-61℃)、旭化成(株)製、50.2質量%水分散液として使用した。
・ハービル(登録商標)C-3:スチレン-アクリル酸エステル共重合体粒子(Tg:-9℃、19℃)、(株)第一塗料製造所製、56.0質量%水分散液。
・ハービル(登録商標)B-7:(メタ)アクリル酸エステル系重合体粒子(Tg:-6℃、16℃)、(株)第一塗料製造所製、42.0質量%水分散液。
・OM-4200NT:エチレン-ビニルアセテート系共重合体粒子(Tg:5℃)、(株)クラレ製、55質量%水分散液。
・AG-E060:フッ素系耐油加工剤、AGC(株)製、8.6質量%水分散液として使用した。
【0091】
表2~5より、実施例で作製した耐油紙は、比較例で作製した耐油紙に比べて、平面部における耐油性と共に、折り曲げ部における耐油性にも優れていることが分かる。これは、
図1及び
図2が示すように、実施例で作製した耐油紙は、折り曲げ後においても耐油膜の折り曲げ部の状態が良好であり、ひび等が入っていないため、折り曲げ部の耐油性に優れる結果となったものと推察する。また、実施例で作製した耐油紙では、平面部よりも折り曲げ部の方が耐油性に優れる場合があるが、これは折り曲げても耐油膜にひび等が入らないために、折り曲げ部を平面に戻したときに耐油膜が収縮して厚くなったことが要因と推察する。
一方、表5より、重合体粒子を使用しなかった比較例1及び2の耐油紙、Tg40℃以下の重合体を含有していない重合体粒子を含むエマルションを用いた比較例3、及びフッ素系樹脂を使用した比較例5の耐油紙は、平面部の耐油性は良好なものの、折り曲げ部の耐油性に乏しかった。これは、
図5及び
図6が示すように、比較例1~3及び5で作製した耐油紙は、折り曲げ後において耐油膜の折り曲げ部にひびが入り、そこから油分が浸透し易くなったためと推察する。また、重合体粒子の含有量がポリビニルアルコール系重合体(A)100質量部に対して150質量部以上である比較例4の耐油紙は、平面部における耐油性と折り曲げ部における耐油性が共に低い。これは、比較例4で作製した耐油紙では、ポリビニルアルコール系重合体(A)よりも油分との親和性が高い重合体粒子が耐油膜中に多く含有されているために、油分が耐油膜中を浸透し易くなったためと推察する。
【産業上の利用可能性】
【0092】
本発明の耐油膜は、包装体の平面部のみならず折り曲げ部においても優れた耐油性を示す。そのため、フライドポテト及びフライドチキン等の油分が多い食品を提供する際に使用する包装体、バター等を包むための包装シート、並びに、パン又はケーキ等を焼く際に用いられるクッキングペーパー等の包装体、並びにゴム手袋などの幅広い用途に有用である。