(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-16
(45)【発行日】2024-10-24
(54)【発明の名称】測定装置及び測定方法
(51)【国際特許分類】
G01S 17/34 20200101AFI20241017BHJP
G01B 11/00 20060101ALI20241017BHJP
G01C 3/06 20060101ALI20241017BHJP
【FI】
G01S17/34
G01B11/00 B
G01C3/06 120Z
(21)【出願番号】P 2021027060
(22)【出願日】2021-02-24
【審査請求日】2024-01-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000137694
【氏名又は名称】株式会社ミツトヨ
(74)【代理人】
【識別番号】110004222
【氏名又は名称】弁理士法人創光国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100166006
【氏名又は名称】泉 通博
(74)【代理人】
【識別番号】100154070
【氏名又は名称】久恒 京範
(74)【代理人】
【識別番号】100153280
【氏名又は名称】寺川 賢祐
(72)【発明者】
【氏名】氏原 大希
【審査官】佐藤 宙子
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-012069(JP,A)
【文献】特開2020-197451(JP,A)
【文献】特開2020-193910(JP,A)
【文献】特表2022-504605(JP,A)
【文献】特開2014-202716(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/48- 7/51
G01S 17/00-17/95
G01C 3/00- 3/32
G01B 11/00-11/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
周波数シフタをレーザ共振器内に有し、メインローブの複数のモードの周波数変調レーザ光を出力するレーザ装置と、
前記レーザ装置が出力する前記周波数変調レーザ光を参照光、測定光、及びモニタ光として分岐させる分岐部と、
前記測定光を計測対象物に照射して反射された反射光と、前記参照光とを混合してビート信号を発生させるビート信号発生部と、
前記モニタ光を変換することによって生成した電気信号から前記メインローブに基づく複数の自己ビート信号を含む信号成分を抽出する抽出部と、
前記抽出部が抽出した信号成分に基づき、前記レーザ共振器の共振器周波数を特定する特定部と、
前記特定部が特定した前記レーザ共振器の共振器周波数と前記ビート信号とに基づき、前記参照光と前記測定光との伝搬距離の差を算出する算出部と
を備える、測定装置。
【請求項2】
前記抽出部は、
前記モニタ光を前記電気信号に変換する光電変換部と、
前記電気信号のうち前記レーザ共振器の共振器周波数の2倍以上の周波数を含む信号成分を通過させるフィルタ部と
を有する、請求項1に記載の測定装置。
【請求項3】
サイドローブを発生させる光SSB変調器である周波数シフタをレーザ共振器内に有し、メインローブ及び前記サイドローブの複数のモードの周波数変調レーザ光を出力するレーザ装置と、
前記レーザ装置が出力する前記周波数変調レーザ光を参照光、測定光、及びモニタ光として分岐させる分岐部と、
前記測定光を計測対象物に照射して反射された反射光と、前記参照光とを混合してビート信号を発生させるビート信号発生部と、
前記モニタ光を変換することによって生成した電気信号から前記サイドローブに基づく自己ビート信号を含む信号成分を抽出する抽出部と、
前記抽出部が抽出した信号成分に基づき、前記レーザ共振器の共振器周波数を特定する特定部と、
前記特定部が特定した前記レーザ共振器の共振器周波数と前記ビート信号とに基づき、前記参照光と前記測定光との伝搬距離の差を算出する算出部と
を備える、測定装置。
【請求項4】
前記抽出部は、
前記モニタ光を前記電気信号に変換する光電変換部と、
前記電気信号のうち前記レーザ共振器の共振器周波数未満の信号成分を通過させるフィルタ部と
を有する、請求項3に記載の測定装置。
【請求項5】
前記特定部は、前記レーザ共振器の共振器周波数をν
c、前記周波数シフタのシフト周波数をν
s、前記メインローブに基づく自己ビート信号の次数をn
c、前記周波数シフタのシフト次数をn
s、前記抽出部が抽出した信号成分に含まれているピーク周波数をν
cs(n
s,n
c)とすると、次式を用いて前記レーザ共振器の共振器周波数ν
cを特定する、
請求項1から4のいずれか一項に記載の測定装置。
【請求項6】
前記メインローブに基づく自己ビート信号の次数n
cの絶対値は、2以上である、請求項5に記載の測定装置。
【請求項7】
前記算出部は、前記ビート信号を周波数解析することにより得られた前記ビート信号の周波数ν
B(m、d)を用いて、前記参照光と前記測定光との伝搬距離の差dを次式により算出し、
ここで、cは光速、mは前記周波数変調レーザ光の縦モード番号の間隔である、
請求項1から6のいずれか一項に記載の測定装置。
【請求項8】
周波数シフタをレーザ共振器内に有するレーザ装置から、メインローブの複数のモードの周波数変調レーザ光を出力するステップと、
前記周波数変調レーザ光を参照光、測定光、及びモニタ光として分岐させるステップと、
前記測定光を計測対象物に照射して反射された反射光と、前記参照光とを混合してビート信号を発生させるステップと、
前記モニタ光を電気信号に変換するステップと、
前記電気信号から前記メインローブに基づく複数の自己ビート信号を含む信号成分を抽出するステップと、
抽出した信号成分に基づき、前記レーザ共振器の共振器周波数を特定するステップと、
特定した前記レーザ共振器の共振器周波数と前記ビート信号とに基づき、前記参照光と前記測定光との伝搬距離の差を算出するステップと
を備える、測定方法。
【請求項9】
サイドローブを発生させる光SSB変調器である周波数シフタをレーザ共振器内に有するレーザ装置から、メインローブ及び前記サイドローブの複数のモードの周波数変調レーザ光を出力するステップと、
前記周波数変調レーザ光を参照光、測定光、及びモニタ光として分岐させるステップと、
前記測定光を計測対象物に照射して反射された反射光と、前記参照光とを混合してビート信号を発生させるステップと、
前記モニタ光を電気信号に変換するステップと、
前記電気信号から前記サイドローブに基づく自己ビート信号を含む信号成分を抽出するステップと、
抽出した信号成分に基づき、前記レーザ共振器の共振器周波数を特定するステップと、
特定した前記レーザ共振器の共振器周波数と前記ビート信号とに基づき、前記参照光と前記測定光との伝搬距離の差を算出するステップと
を備える、測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、測定装置及び測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
共振器内に周波数シフタが設けられ、時間の経過とともに発振周波数が線形に変化する複数の縦モードレーザを出力する周波数シフト帰還レーザ(FSFL:Frequency Shifted Feedback Laser)が知られている。また、このような周波数シフト帰還レーザを用いた光学式の距離計が知られている(例えば、特許文献1及び非特許文献1を参照)。また、周波数シフタとして、光SSB(Single Side Band)変調器が知られている(例えば、特許文献2及び3を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第3583906号明細書
【文献】特許第3867148号明細書
【文献】特許第4524482号明細書
【非特許文献】
【0004】
【文献】原武文,「FSFレーザによる距離センシングとその応用」,オプトニューズ,Vol.7,No.3,2012年,pp.25-31
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
周波数シフト帰還レーザを用いた光学式距離計は、非接触で大量の三次元情報を取得可能であり、例えば、設計及び生産現場等で用いられてきた。周波数シフト帰還レーザは、温度等の環境変動によって共振器長が変動することがあるので、光学式距離計の測定精度を低減させてしまうことがあった。測定精度の低減を防止すべく、共振器周波数を複数回測定することが考えられるが、この場合、測定時間が長くなるのでスループットが低下してしまうことになる。
【0006】
そこで、本発明はこれらの点に鑑みてなされたものであり、光学式距離計においてスループットの低減を抑制しつつ、高精度な距離測定をできるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の態様においては、周波数シフタをレーザ共振器内に有し、メインローブの複数のモードの周波数変調レーザ光を出力するレーザ装置と、前記レーザ装置が出力する前記周波数変調レーザ光を参照光、測定光、及びモニタ光として分岐させる分岐部と、前記測定光を計測対象物に照射して反射された反射光と、前記参照光とを混合してビート信号を発生させるビート信号発生部と、前記モニタ光を変換することによって生成した電気信号から前記メインローブに基づく複数の自己ビート信号を含む信号成分を抽出する抽出部と、前記抽出部が抽出した信号成分に基づき、前記レーザ共振器の共振器周波数を特定する特定部と、前記特定部が特定した前記レーザ共振器の共振器周波数と前記ビート信号とに基づき、前記参照光と前記測定光との伝搬距離の差を算出する算出部とを備える、測定装置を提供する。
【0008】
前記抽出部は、前記モニタ光を前記電気信号に変換する光電変換部と、前記電気信号のうち前記レーザ共振器の共振器周波数の2倍以上の周波数を含む信号成分を通過させるフィルタ部とを有してもよい。
【0009】
本発明の第2の態様においては、サイドローブを発生させる光SSB変調器である周波数シフタをレーザ共振器内に有し、メインローブ及び前記サイドローブの複数のモードの周波数変調レーザ光を出力するレーザ装置と、前記レーザ装置が出力する前記周波数変調レーザ光を参照光、測定光、及びモニタ光として分岐させる分岐部と、前記測定光を計測対象物に照射して反射された反射光と、前記参照光とを混合してビート信号を発生させるビート信号発生部と、前記モニタ光を変換することによって生成した電気信号から前記サイドローブに基づく自己ビート信号を含む信号成分を抽出する抽出部と、前記抽出部が抽出した信号成分に基づき、前記レーザ共振器の共振器周波数を特定する特定部と、前記特定部が特定した前記レーザ共振器の共振器周波数と前記ビート信号とに基づき、前記参照光と前記測定光との伝搬距離の差を算出する算出部とを備える、測定装置を提供する。
【0010】
前記抽出部は、前記モニタ光を前記電気信号に変換する光電変換部と、前記電気信号のうち前記レーザ共振器の共振器周波数未満の信号成分を通過させるフィルタ部とを有してもよい。
【0011】
前記特定部は、前記レーザ共振器の共振器周波数をν
c、前記周波数シフタのシフト周波数をν
s、前記メインローブに基づく自己ビート信号の次数をn
c、前記周波数シフタのシフト次数をn
s、前記抽出部が抽出した信号成分に含まれているピーク周波数をν
cs(n
s,n
c)とすると、次式を用いて前記レーザ共振器の共振器周波数ν
cを特定してもよい。
【0012】
前記メインローブに基づく自己ビート信号の次数ncの絶対値は、2以上であってもよい。
【0013】
前記算出部は、前記ビート信号を周波数解析することにより得られた前記ビート信号の周波数ν
B(m、d)を用いて、前記参照光と前記測定光との伝搬距離の差dを次式により算出してもよく、
ここで、cは光速、mは前記周波数変調レーザ光の縦モード番号の間隔である。
【0014】
本発明の第3の態様においては、周波数シフタをレーザ共振器内に有するレーザ装置から、メインローブの複数のモードの周波数変調レーザ光を出力するステップと、前記周波数変調レーザ光を参照光、測定光、及びモニタ光として分岐させるステップと、前記測定光を計測対象物に照射して反射された反射光と、前記参照光とを混合してビート信号を発生させるステップと、前記モニタ光を電気信号に変換するステップと、前記電気信号から前記メインローブに基づく複数の自己ビート信号を含む信号成分を抽出するステップと、抽出した信号成分に基づき、前記レーザ共振器の共振器周波数を特定するステップと、特定した前記レーザ共振器の共振器周波数と前記ビート信号とに基づき、前記参照光と前記測定光との伝搬距離の差を算出するステップとを備える、測定方法を提供する。
【0015】
本発明の第4の態様においては、サイドローブを発生させる光SSB変調器である周波数シフタをレーザ共振器内に有するレーザ装置から、メインローブ及び前記サイドローブの複数のモードの周波数変調レーザ光を出力するステップと、前記周波数変調レーザ光を参照光、測定光、及びモニタ光として分岐させるステップと、前記測定光を計測対象物に照射して反射された反射光と、前記参照光とを混合してビート信号を発生させるステップと、前記モニタ光を電気信号に変換するステップと、前記電気信号から前記サイドローブに基づく自己ビート信号を含む信号成分を抽出するステップと、抽出した信号成分に基づき、前記レーザ共振器の共振器周波数を特定するステップと、特定した前記レーザ共振器の共振器周波数と前記ビート信号とに基づき、前記参照光と前記測定光との伝搬距離の差を算出するステップとを備える、測定方法を提供する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、光学式距離計においてスループットの低減を抑制しつつ、高精度な距離測定をできるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本実施形態に係る測定装置100の構成例を計測対象物10と共に示す。
【
図2】本実施形態に係るレーザ装置110の構成例を示す。
【
図3】本実施形態に係るレーザ装置110が出力するレーザ光の一例を示す。
【
図4】本実施形態に係る測定装置100が検出するビート信号の周波数と、光ヘッド部140及び計測対象物10の間の距離dとの関係の一例を示す。
【
図5】本実施形態に係るビート信号発生部150及び変換部160の構成例を示す。
【
図6】本実施形態に係るビート信号発生部150及び変換部160の直交検波の概略の一例を示す。
【
図7】本実施形態に係る共振器周波数抽出部170の構成例を示す。
【
図8】本実施形態に係る測定装置300の構成例を計測対象物10と共に示す。
【
図9】本実施形態に係る抽出部310及び特定部320の構成例を示す。
【
図10】本実施形態に係る光SSB変調器30と制御部50の構成例を示す。
【
図11】本実施形態に係る光SSB変調器30が出力する光スペクトルの一例を示す。
【
図12】
図10に示す光SSB変調器30を有するレーザ装置110が出力するレーザ光の一例を示す。
【
図13】
図10に示す光SSB変調器30を有するレーザ装置110が出力するレーザ光の自己ビートスペクトルの第1例を示す。
【
図14】
図10に示す光SSB変調器30を有するレーザ装置110が出力するレーザ光の自己ビートスペクトルの第2例を示す。
【
図15】
図10に示す光SSB変調器30を有するレーザ装置110が出力するレーザ光の自己ビートスペクトルの第3例を示す。
【
図16】n
cの絶対値が2以上となるn
sの条件の一例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
[測定装置100の構成例]
図1は、本実施形態に係る測定装置100の構成例を計測対象物10と共に示す図である。測定装置100は、当該測定装置100及び計測対象物10の間の距離を光学的に測定する。また、測定装置100は、計測対象物10に照射するレーザ光の位置を走査して、計測対象物10の三次元的な形状を計測してもよい。測定装置100は、レーザ装置110と、分岐部120と、光サーキュレータ130と、光ヘッド部140と、ビート信号発生部150と、変換部160と、共振器周波数抽出部170と、算出部180と、表示部190とを備える。
【0019】
レーザ装置110は、レーザ共振器を有し、複数のモードの周波数変調レーザ光を出力する。レーザ装置110は、共振器内に周波数シフタが設けられ、時間の経過とともに発振周波数が線形に変化する複数の縦モードレーザを出力する。レーザ装置110は、一例として、周波数シフト帰還レーザである。周波数シフト帰還レーザについては後述する。
【0020】
分岐部120は、レーザ装置110が出力する周波数変調レーザ光の一部を参照光とし、残りの少なくとも一部を測定光として分岐させる。分岐部120は、例えば、レーザ装置110が出力する周波数変調レーザ光を参照光、測定光、及びモニタ光として分岐させる。分岐部120は、一例として、1入力3出力の光ファイバ型の光カプラである。
図1の例において、分岐部120は、測定光を光サーキュレータ130に供給し、参照光をビート信号発生部150に供給し、モニタ光を共振器周波数抽出部170に供給する。
図1は、分岐部120が1入力3出力の光カプラである例を示したが、これに代えて、分岐部120は、2つの1入力2出力の光カプラの組み合わせであってもよい。
【0021】
光サーキュレータ130は、複数の入出力ポートを有する。光サーキュレータ130は、例えば、一のポートに入力した光を次のポートから出力させ、当該次のポートから入力する光を更に次のポートから出力させる。
図1は、光サーキュレータ130が3つの入出力ポートを有する例を示す。この場合、光サーキュレータ130は、分岐部120から供給される測定光を光ヘッド部140に出力する。また、光サーキュレータ130は、光ヘッド部140から入力する光をビート信号発生部150へと出力する。
【0022】
光ヘッド部140は、光サーキュレータ130から入力する光を計測対象物10に向けて照射する。光ヘッド部140は、一例として、コリメータレンズを有する。この場合、光ヘッド部140は、光ファイバを介して光サーキュレータ130から入力する光をコリメータレンズでビーム状に調節してから出力する。
【0023】
また、光ヘッド部140は、計測対象物10に照射した測定光の反射光を受光する。光ヘッド部140は、受光した反射光をコリメータレンズで光ファイバに集光して光サーキュレータ130に供給する。この場合、光ヘッド部140は、共通の1つのコリメータレンズを有し、当該コリメータレンズで、測定光を計測対象物10に照射し、また、計測対象物10からの反射光を受光してよい。なお、光ヘッド部140及び計測対象物10の間の距離をdとする。
【0024】
これに代えて、光ヘッド部140は、集光レンズを有してもよい。この場合、光ヘッド部140は、光ファイバを介して光サーキュレータ130から入力する光を計測対象物10の表面に集光する。そして、光ヘッド部140は、計測対象物10の表面で反射した反射光の少なくとも一部を受光する。光ヘッド部140は、受光した反射光を集光レンズで光ファイバに集光して光サーキュレータ130に供給する。この場合においても、光ヘッド部140は、共通の1つの集光レンズを有し、当該集光レンズで、測定光を計測対象物10に照射し、また、計測対象物10からの反射光を受光してよい。
【0025】
ビート信号発生部150は、測定光を計測対象物10に照射して反射された反射光を光サーキュレータ130から受けとる。また、ビート信号発生部150は、分岐部120から参照光を受けとる。ビート信号発生部150は、反射光及び参照光を混合してビート信号を発生させる。ビート信号発生部150は、例えば、光電変換素子を有し、ビート信号を電気信号に変換して出力する。
【0026】
ここで、反射光は、光ヘッド部140から計測対象物10までの距離を往復しているので、参照光と比較して少なくとも距離2dに応じた伝搬距離の差が生じることになる。レーザ装置110が出力する光は、時間の経過とともに発振周波数が線形に変化するので、参照光及び反射光の発振周波数は、当該伝搬距離の差に対応する伝搬遅延に応じた周波数差が生じる。ビート信号発生部150は、このような周波数差に対応するビート信号を発生させる。
【0027】
変換部160は、ビート信号発生部150が発生させたビート信号を周波数解析して、当該ビート信号の周波数を検出する。ここで、ビート信号の周波数をνBとする。
【0028】
共振器周波数抽出部170は、レーザ装置110が出力する周波数変調レーザ光に重畳されている、レーザ共振器の共振器周波数に対応する信号成分を抽出する。例えば、共振器周波数抽出部170は、モニタ光に基づき、周波数変調レーザ光に含まれる信号成分のうち、レーザ装置110の共振器長に対応する共振器周波数に等しい周波数の信号成分を抽出する。ここで、共振器周波数をνcとする。
【0029】
算出部180は、変換部160の検出結果及び共振器周波数抽出部170の抽出結果に基づき、参照光と測定光との伝搬距離の差を算出する。例えば、算出部180は、ビート信号の周波数νB及び共振器周波数νcに基づき、光ヘッド部140から計測対象物10までの距離dを算出する。
【0030】
表示部190は、算出部180の算出結果を表示する。表示部190は、ディスプレイ等を有し、算出結果を表示してよい。また、表示部190は、記憶部等に算出結果を記憶させてもよい。表示部190は、ネットワーク等を介して外部に算出結果を供給してもよい。
【0031】
以上の測定装置100は、計測対象物10に照射した測定光の反射光と、参照光との間の周波数差を解析することにより、測定装置100及び計測対象物10の間の距離dを測定可能とする。即ち、測定装置100は、非接触及び非破壊の光学式距離計を構成できる。測定装置100のより詳細な構成について次に説明する。
【0032】
[レーザ装置110の構成例]
図2は、本実施形態に係るレーザ装置110の構成例を示す。
図2のレーザ装置110は、周波数シフト帰還レーザの一例を示す。レーザ装置110は、レーザ共振器内に周波数シフタを有し、当該レーザ共振器内でレーザ光を発振させる。レーザ装置110は、周波数シフタ112と、増幅媒体114と、WDMカプラ116と、ポンプ光源117、出力カプラ118とを有する。
【0033】
周波数シフタ112は、入力する光の周波数を略一定の周波数だけシフトする。周波数シフタ112は、一例として、音響光学素子を有するAOFS(Acousto-Optic Frequency Shifter)である。ここで、周波数シフタ112による周波数シフト量を+νsとする。即ち、周波数シフタ112は、共振器を周回する光の周波数を、1周回毎にνsだけ周波数が増加するようにシフトさせる。
【0034】
増幅媒体114は、ポンプ光が供給され、入力光を増幅する。増幅媒体114は、一例として、不純物が添加された光ファイバである。不純物は、例えば、エルビウム、ネオジウム、イッテルビウム、テルビウム、ツリウム等の希土類元素である。また、増幅媒体114は、WDMカプラ116を介してポンプ光源117からポンプ光が供給される。出力カプラ118は、共振器内でレーザ発振した光の一部を外部に出力する。
【0035】
即ち、
図2に示すレーザ装置110は、共振器内に周波数シフタ112を有するファイバリングレーザを構成する。レーザ装置110は、共振器内にアイソレータを更に有することが望ましい。また、レーザ装置110は、予め定められた波長帯域の光を通過させる光バンドパスフィルタを共振器内に有してもよい。このようなレーザ装置110が出力するレーザ光の周波数特性について次に説明する。
【0036】
図3は、本実施形態に係るレーザ装置110が出力するレーザ光の一例を示す。
図3に示すレーザ装置110が出力するレーザ光をメインローブと呼ぶ。
図3は、時刻t
0においてレーザ装置110が出力するレーザ光の光スペクトルを左側に示す。当該光スペクトルにおいては、横軸が光強度、縦軸が光の周波数を示す。また、光スペクトルの複数の縦モードを番号qで示す。複数のメインローブの縦モードの周波数は、略一定の周波数間隔で並ぶ。ここで、光が共振器を1周する時間をτ
RT(=1/ν
c)とすると、複数のメインローブの縦モードは、次式のように1/τ
RT(=ν
c)間隔で並ぶことになる。なお、ν
0は、時刻t
0における光スペクトルの初期周波数とする。
【数1】
【0037】
図3は、レーザ装置110が出力する複数のメインローブの縦モードの時間経過にともなう周波数の変化を右側に示す。
図3の右側においては、横軸が時間、縦軸が周波数を示す。即ち、
図3は、レーザ装置110が出力するメインローブの周波数の時間的な変化を右側に示し、当該レーザ光の時刻t
0における瞬時周波数を左側に示したものである。
【0038】
レーザ装置110は、共振器内の光が共振器を1周する毎に、周波数シフタ112が周回する光の周波数をν
sだけ増加させる。即ち、時間がτ
RT経過する毎に、各モードの周波数はν
sだけ増加するので、周波数の時間変化dν/dtは、ν
s/τ
RTと略等しくなる。したがって、(数1)式で示した複数のメインローブの縦モードは、時間tの経過に伴って、次式のように変化する。
【数2】
【0039】
[距離測定処理の詳細]
本実施形態に係る測定装置100は、(数2)式で示すような周波数成分を出力するレーザ装置110を用いて、光ヘッド部140及び計測対象物10の間の距離dを測定する。ここで、参照光及び反射光の間の光路差が、距離dを往復した距離2dだけであり、距離2dに対応する伝搬遅延をΔtとする。即ち、時刻tにおいて、測定光が計測対象物10から反射して戻ってきた場合、戻ってきた反射光は、時刻tよりも時間Δtだけ過去の周波数と略一致するので、次式で示すことができる。
【数3】
【0040】
一方、時刻tにおける参照光は、(数2)式と同様に次式で示すことができる。ここで、参照光をν
q’(t)とした。
【数4】
【0041】
ビート信号発生部150は、このような反射光及び参照光を重畳させるので、(数3)式の複数の縦モードと(数4)式で示す複数の縦モードとの間の複数のビート信号が発生することになる。このようなビート信号の周波数をν
B(m,d)とすると、ν
B(m,d)は、(数3)式及び(数4)式より次式で示すことができる。なお、mを縦モード番号の間隔(=q-q’)とし、Δt=2d/cとした。
【数5】
【0042】
(数5)式より、距離dは、次式のように示される。ここで、1/τ
RT=ν
cとした。
【数6】
【0043】
(数6)式より、縦モード番号の間隔mを判別すれば、ビート信号の周波数観測結果から距離dを算出できることがわかる。なお、間隔mは、レーザ装置110の周波数シフト量νsを変化させた場合のビート信号の変化を検出することで、判別することができる。このような間隔mの判別方法は、特許文献1等に記載されているように既知であるから、ここでは詳細な説明を省略する。
【0044】
観測されるビート信号は常に正の周波数であるから、計算上、負の周波数側に発生するビート信号は、正側に折り返され、イメージ信号として観測される。このようなイメージ信号の発生について、次に説明する。
【0045】
図4は、本実施形態に係る測定装置100が検出するビート信号の周波数と、光ヘッド部140及び計測対象物10の間の距離dとの関係の一例を示す。
図4の横軸は距離dを示し、縦軸はビート信号の周波数ν
B(m,d)を示す。
図4の実線で示す複数の直線は、(数5)式に示したように、距離dに対するビート信号の周波数ν
B(m,d)の関係を、複数のm毎に示したグラフである。
【0046】
図4のように、mの値に応じた複数のビート信号が発生する。しかしながら、反射光及び参照光のそれぞれに含まれる複数の縦モードは、略一定の周波数間隔ν
cで並ぶので、mの値が等しい複数のビート信号は周波数軸上では略同一の周波数に重畳されることになる。例えば、周波数0からν
cの間の周波数帯域を観測した場合、複数のビート信号は略同一の周波数に重畳されて、1本の線スペクトルとして観測される。
【0047】
これに加えて、0よりも小さい負の領域のビート信号の周波数ν
B(m,d)は、周波数の絶対値がイメージ信号として更に観測される。即ち、
図4の縦軸が0よりも小さい領域のグラフは、周波数0を境界として折り返される。
図4は、折り返されたイメージ信号を、複数の点線で示す。折り返された複数のイメージ信号は、正負が反転するだけなので、観測される周波数軸上では折り返される前の周波数の絶対値と同一の周波数に重畳される。例えば、周波数0からν
cの間の周波数帯域を観測した場合、このようなビート信号及びイメージ信号は、周波数がそれぞれν
c/2にならない限り、それぞれ異なる周波数に位置する。
【0048】
このように、周波数0からνcの間の観測帯域においては、ビート信号νB(m,d)と、ビート信号νB(m,d)とはmの値が異なるイメージ信号νB(m’,d)の2本の線スペクトルが発生する。ここで、一例として、m’=m+1である。この場合、ビート信号発生部150が直交検波を用いることで、このようなイメージ信号をキャンセルできる。そこで直交検波を用いたビート信号発生部150及び変換部160について、次に説明する。
【0049】
[ビート信号発生部150及び変換部160の構成例]
図5は、本実施形態に係るビート信号発生部150及び変換部160の構成例を示す。ビート信号発生部150は、反射光及び参照光を直交検波する。ビート信号発生部150は、光90度ハイブリッド152と、第1光電変換部154と、第2光電変換部156とを有する。
【0050】
光90度ハイブリッド152は、入力する反射光及び参照光をそれぞれ2つに分岐させる。光90度ハイブリッド152は、分岐した一方の反射光と、分岐した一方の参照光とを光カプラ等で合波して第1ビート信号を発生させる。また、光90度ハイブリッド152は、分岐した他方の反射光と、分岐した他方の参照光とを光カプラ等で合波して第2ビート信号を発生させる。ここで、光90度ハイブリッド152は、分岐した2つの参照光の間に90度の位相差を生じさせてから、ビート信号を発生させる。光90度ハイブリッド152は、例えば、分岐した2つの参照光のうちいずれか一方に、π/2波長板を介してから反射光とそれぞれ合波させる。
【0051】
第1光電変換部154及び第2光電変換部156は、合波した反射光及び参照光を受光して電気信号に変換する。第1光電変換部154及び第2光電変換部156のそれぞれは、フォトダイオード等でよい。第1光電変換部154及び第2光電変換部156のそれぞれは、一例として、バランス型フォトダイオードである。
図5において、第1光電変換部154が第1ビート信号を発生させ、第2光電変換部156が第2ビート信号を発生させるものとする。以上のように、ビート信号発生部150は、位相を90度異ならせた2つの参照光と反射光とをそれぞれ合波させて直交検波し、2つのビート信号を変換部160に出力する。
【0052】
変換部160は、2つのビート信号を周波数解析する。ここでは、変換部160が、第1ビート信号をI信号とし、第2ビート信号をQ信号として周波数解析する例を説明する。変換部160は、第1フィルタ部162、第2フィルタ部164、第1AD変換器202、第2AD変換器204、第1クロック信号供給部210、及び周波数解析部220を有する。
【0053】
第1フィルタ部162及び第2フィルタ部164は、ユーザ等が周波数解析したい周波数帯域とは異なる周波数帯域の信号成分を低減させる。ここで、ユーザ等が周波数解析したい周波数帯域を0からνcとする。第1フィルタ部162及び第2フィルタ部164は、例えば、周波数νc以下の信号成分を通過させるローパスフィルタである。この場合、第1フィルタ部162は、周波数νcよりも高い周波数の信号成分を低減させた第1ビート信号を第1AD変換器202に供給する。また、第2フィルタ部164は、周波数νcよりも高い周波数の信号成分を低減させた第2ビート信号を第2AD変換器204に供給する。
【0054】
第1AD変換器202及び第2AD変換器204は、入力するアナログ信号をデジタル信号に変換する。例えば、第1AD変換器202は第1ビート信号をデジタル信号に変換し、第2AD変換器204は第2ビート信号をデジタル信号に変換する。第1クロック信号供給部210は、第1AD変換器202及び第2AD変換器204に第1クロック信号を供給する。これにより、第1AD変換器202及び第2AD変換器204は、受け取った第1クロック信号のクロック周波数と略同一の第1サンプリングレートでアナログ信号をデジタル信号に変換する。
【0055】
ここで、観測帯域を0からνcとすると、ビート信号の周波数は、最大でもレーザ共振器の共振器周波数νcである。したがって、第1クロック信号供給部210が、レーザ共振器の共振器周波数νcの2倍以上の周波数の第1クロック信号を、第1AD変換器202及び第2AD変換器204に供給することで、ビート信号を観測することができる。
【0056】
周波数解析部220は、第1ビート信号及び第2ビート信号を周波数データに変換する。周波数解析部220は、一例として、第1ビート信号及び第2ビート信号をそれぞれデジタルフーリエ変換(DFT)する。周波数解析部220は、周波数データに変換した第1ビート信号を実部、周波数データに変換した第2ビート信号を虚部として加算し、イメージ信号を相殺する。このように、変換部160は、ビート信号を第1サンプリングレートでデジタル信号に変換してから、当該デジタル信号を周波数解析する。なお、変換部160は、ビート信号がデジタル信号に変換された後は、集積回路等で周波数解析部220を構成してよい。以上のビート信号発生部150における直交検波と変換部160における周波数解析について、次に述べる。
【0057】
[直交検波の概略]
図6は、本実施形態に係るビート信号発生部150及び変換部160の直交検波の概略の一例を示す。
図6の横軸はビート信号の周波数、縦軸は信号強度を示す。
図6は、I信号及びQ信号のいずれか一方の周波数スペクトルを示す。I信号及びQ信号のいずれの周波数スペクトルも、
図6の上側に示すように、略同一のスペクトル形状となる。I信号及びQ信号は、例えば、周波数0からν
cの間の周波数帯域に、ビート信号ν
B(m,d)及びイメージ信号ν
B(m+1,d)が観測される。この場合、I信号及びQ信号は、負側の周波数0から-ν
cの間の周波数帯域に、ビート信号-ν
B(m,d)及びイメージ信号の元のビート信号-ν
B(m+1,d)が存在する。
【0058】
ここで、I信号及びQ信号は、ビート信号発生部150が直交検波した信号成分なので、スペクトル形状が同一であっても、異なる位相情報を含む。例えば、正側の周波数0からνcの間の周波数帯域において、I信号のイメージ信号νB(m+1,d)とQ信号のイメージ信号νB(m+1,d)とは、互いに位相が反転する。同様に、負側の周波数0から-νcの間の周波数帯域において、I信号のビート信号-νB(m,d)とQ信号のビート信号-νB(m,d)とは、互いに位相が反転する。
【0059】
したがって、
図6の下側に示すように、周波数解析部220がI信号及びQ信号を用いてI+jQを算出すると、周波数0からν
cの間の周波数帯域において、周波数ν
B(m,d)のビート信号が強め合い、周波数ν
B(m+1,d)のイメージ信号が相殺される。同様に、周波数0から-ν
cの間の周波数帯域において、周波数-ν
B(m+1,d)のビート信号が強め合い、周波数-ν
B(m,d)のビート信号が相殺される。
【0060】
このような周波数解析部220の周波数解析結果により、周波数0からνcの間の周波数帯域には1つのビート信号が周波数νB(m,d)に観測されることになる。測定装置100は、このようにして、イメージ信号をキャンセルできるので、ビート信号の周波数νB(m,d)を検出することができる。例えば、周波数解析部220は、変換した周波数信号の信号強度が最も高くなる周波数をビート信号の周波数νB(m,d)として出力する。
【0061】
ここで、測定装置100が測定する距離dは、(数6)式で示されている。(数6)式より、νc、νs、及びνB(m,d)の3つの周波数を用いることで、距離dが算出できることがわかる。3つの周波数のうち、νB(m,d)は、以上のように、検出できることがわかる。また、νc及びνsは、レーザ装置110の部材によって定まる周波数なので、固定値となることが理想的である。ここで、νsは、周波数シフタ112による周波数シフト量なので、安定なシフト量を有するデバイスを周波数シフタ112として用いることで、実質的にほぼ固定値とみなすことができる。
【0062】
その一方で、ν
cは、レーザ装置110の共振器の光学長に対応するので、温度等の環境変動によって変化してしまうことがある。例えば、レーザ装置110が
図2で説明したようなファイバリングレーザであり、共振器が光ファイバで構成されている場合、環境温度が1℃変動すると、共振器長は10ppm程度変化することがある。なお、レーザ装置110が半導体レーザ等のように固体レーザであっても、このような環境変動によって共振器長が変化してしまうことがある。そこで、共振器周波数抽出部170は、このような共振器長の変化をモニタするために、共振器長に対応する共振器周波数を抽出する。このような共振器周波数抽出部170について次に説明する。
【0063】
[共振器周波数抽出部170の構成例]
図7は、本実施形態に係る共振器周波数抽出部170の構成例を示す。共振器周波数抽出部170は、光電変換部を有し、当該光電変換部が変換した電気信号からレーザ共振器の共振器周波数に対応する信号成分を抽出する。共振器周波数抽出部170は、第3光電変換部172と、第3フィルタ部174と、第3AD変換器176と、共振器周波数出力部178を有する。
【0064】
第3光電変換部172は、モニタ光を電気信号に変換する。第3光電変換部172は、フォトダイオード等でよい。レーザ装置110は、
図3で説明したように、共振器周波数ν
cに略一致する周波数間隔で並ぶ複数の縦モードを有する周波数変調レーザ光を出力する。したがって、第3光電変換部172が当該周波数変調レーザ光を光電変換すると、共振器周波数ν
cを含む電気信号を出力することになる。
【0065】
第3フィルタ部174は、第3光電変換部172が変換した電気信号のうちレーザ共振器の共振器周波数ν
cを有する信号成分を通過させる。第3フィルタ部174は、例えば、ハイパスフィルタ、ローパスフィルタ、バンドパスフィルタ、及びバンドリジェクションフィルタのうち、少なくとも1つのフィルタを有する。
図7は、第3フィルタ部174がバンドパスフィルタである例を示す。
【0066】
第3AD変換器176は、入力するアナログ信号をデジタル信号に変換する。第3AD変換器176は、共振器周波数νcの2倍以上の周波数のクロック信号に同期して、アナログ信号をデジタル信号に変換する。第3AD変換器176は、一例として、第1クロック信号供給部210からクロック信号を受け取って動作する。
【0067】
共振器周波数出力部178は、第3フィルタ部174を通過した信号成分を周波数解析する。共振器周波数出力部178は、まず、第3AD変換器176から出力されるデジタル信号を周波数データに変換する。共振器周波数出力部178は、一例として、デジタル信号をデジタルフーリエ変換(DFT)する。そして、共振器周波数出力部178は、周波数データを解析して、共振器周波数νcを出力する。共振器周波数出力部178は、例えば、周波数データの信号強度が最も大きくなっている周波数を、共振器周波数νcとして出力する。
【0068】
以上のように、
図7に示す共振器周波数抽出部170は、モニタ光から共振器周波数ν
cを抽出して出力する。したがって、環境温度の変動によりレーザ装置110の共振器長が変化しても、共振器周波数抽出部170は、当該変化に応じた共振器周波数ν
cを抽出して出力できる。算出部180は、固定値のν
sと、以上のように検出されたν
B(m,d)及び共振器周波数ν
cとを用いるので、環境温度の変動に対応した距離dを算出できる。
【0069】
このように、測定装置100は、環境変動が生じても、当該環境変動に応じた共振器周波数νcをモニタして距離dの算出に反映させるので、測定精度の低減を抑制できる。これに代えて、又は、これに加えて、レーザ装置110を恒温槽等の温度安定化制御されたチャンバの中に入れて環境変動の影響を低減させ、測定装置100の測定精度の低減を抑制してもよい。
【0070】
しかしながら、温度安定化制御した測定装置100は、装置の規模が大きくなってしまい、コスト、回路調整等の手間、及び設置面積等が増大してしまうという問題が生じることがあった。また、共振器長の変動に対応する共振器周波数の観測結果を距離測定に用いると、共振器周波数の測定ばらつきが距離測定ばらつきに重畳され、距離測定ばらつきが大きくなってしまうことがあった。ここで、共振器周波数の測定ばらつきをΔνcとする。
【0071】
この場合、共振器周波数νcを複数回観測して平均化することにより、測定ばらつきΔνcを低減することができるが、複数回の観測によって測定時間が長くなり、測定装置100のスループットが低下してしまう。そこで、本実施形態に係る測定装置は、このようなスループットの低減を抑制しつつ共振器周波数の測定ばらつきΔνcを低減させて、高精度な距離測定をできるようにする。このような測定装置について、次に説明する。
【0072】
[測定装置300の構成例]
図8は、本実施形態に係る測定装置300の構成例を計測対象物10と共に示す。
図8に示す測定装置300において、
図1に示された本実施形態に係る測定装置100の動作と略同一のものには同一の符号を付け、説明を省略する。測定装置300は、測定装置100の共振器周波数抽出部170に代えて、抽出部310及び特定部320を更に備える。
【0073】
抽出部310及び特定部320は、共振器周波数抽出部170と同様に、レーザ装置110の共振器周波数νcを特定する。ここで、抽出部310及び特定部320は、測定ばらつきΔνcを低減させつつ、共振器周波数νcを速やかに特定する。このような抽出部310及び特定部320のより詳細な構成を次に説明する。
【0074】
[抽出部310及び特定部320の構成例]
図9は、本実施形態に係る抽出部310及び特定部320の構成例を示す。抽出部310は、モニタ光を変換することによって生成した電気信号からメインローブに基づく複数の自己ビート信号を含む信号成分を抽出する。抽出部310は、第4光電変換部312と、第4フィルタ部314と、第4AD変換器316とを有する。
【0075】
第4光電変換部312は、モニタ光を電気信号に変換する。第4光電変換部312は、第3光電変換部172と同様に、フォトダイオード等でよい。レーザ装置110は、
図3で説明したように、共振器周波数ν
cに略一致する周波数間隔で並ぶ複数のメインローブの縦モードを有する周波数変調レーザ光を出力する。言い換えると、第4光電変換部312が出力する電気信号は、レーザ光のメインローブに基づく複数の自己ビート信号を含む。
【0076】
メインローブに基づく複数の自己ビート信号は、レーザ光のメインローブと同様に、共振器周波数ν
cに略一致する周波数間隔で並ぶ。ここで、n
c番目の自己ビート信号のピーク周波数をν
c(n
c)とすると、ν
c(n
c)=n
c・ν
cより、次式が成立する。ここで、n
cをメインローブに基づく自己ビート信号の次数とする。
【数7】
【0077】
ここで、自己ビート信号νc(nc)の測定結果には測定ばらつきΔνcが含まれるので、(数7)式の理想的なνc(nc)は、実際にはνc(nc)+Δνcとなる。したがって、ncが大きい高次の自己ビート信号νc(nc)を測定して共振器周波数νcを算出すると、測定結果に含まれる測定ばらつきΔνcは、1/ncの値程度に減少することがわかる。言い換えると、抽出部310及び特定部320が2以上の次数ncの自己ビート信号を1回測定するだけで、測定ばらつきΔνcを1/ncに低減させることができる。
【0078】
そこで、第4フィルタ部314及び第4AD変換器316は、複数の自己ビート信号のうち、高次の自己ビート信号を抽出してデジタル信号に変換する。第4フィルタ部314は、第4光電変換部312が変換した電気信号のうちレーザ共振器の共振器周波数νcの2倍以上の周波数を含む信号成分を通過させる。
【0079】
第4フィルタ部314は、例えば、ハイパスフィルタ、ローパスフィルタ、バンドパスフィルタ、及びバンドリジェクションフィルタのうち、少なくとも1つのフィルタを有する。
図9は、第4フィルタ部314がローパスフィルタである例を示す。例えば、第4フィルタ部314は、第4AD変換器316のクロック周波数の1/2程度の周波数を含む信号成分を通過させる。これにより、第4フィルタ部314は、第4AD変換器316が動作する範囲で最も高次の自己ビート信号を抽出できる。
【0080】
第4AD変換器316は、入力するアナログ信号をデジタル信号に変換する。第4AD変換器316は、例えば、共振器周波数νcの2nc倍以上の周波数のクロック信号に同期して、アナログ信号をデジタル信号に変換する。
【0081】
特定部320は、抽出部310が抽出した信号成分に基づき、レーザ共振器の共振器周波数νcを特定する。特定部320は、第4AD変換器316から出力されるデジタル信号を周波数データに変換する。特定部320は、一例として、デジタル信号をデジタルフーリエ変換(DFT)する。そして、特定部320は、周波数データを解析して、自己ビート信号の周波数nc・νcを特定する。
【0082】
特定部320は、例えば、周波数データの信号強度のピーク検出をして、ピークに対応する周波数を、自己ビート信号の周波数nc・νcとして特定する。なお、特定部320は、周波数データに複数のピークが存在する場合、予め定められた周波数近辺のピークを探索して自己ビート信号の周波数nc・νcを特定してよい。ncの値は、第4フィルタ部314の通過帯域の設計時点で定められることが望ましく、この場合、測定対象の自己ビート信号の周波数近辺の値は、設計値のnc・νcの概算により予め定めることができる。
【0083】
そして、特定部320は、特定した周波数nc・νcをncで除算することで、レーザ共振器の共振器周波数νcを特定する。なお、ncの値は、記憶部等に予め記憶されていることが望ましい。特定部320は、特定した共振器周波数νcを算出部180に供給する。
【0084】
以上のように、本実施形態に係る抽出部310及び特定部320は、モニタ光を1回測定することにより、測定ばらつきΔνcを1/ncに低減させて測定した共振器周波数νcを出力する。なお、抽出部310及び特定部320がk回(k≧1)の測定を行うことにより、測定ばらつきΔνcを1/(k・nc)に低減させることもできる。
【0085】
このように、抽出部310及び特定部320は、環境温度の変動によりレーザ装置110の共振器長が変化しても、精度の高い共振器周波数νcを速やかに測定して出力できる。そして、算出部180は、特定部320が特定したレーザ共振器の共振器周波数νcとビート信号とに基づき、参照光と測定光との伝搬距離の差を算出する。算出部180は、固定値のνsと、検出されたνB(m,d)、及び高精度に測定された共振器周波数νcとを用いるので、環境温度の変動に対応した距離dを算出できる。
【0086】
以上のように、本実施形態に係る測定装置300は、複数のメインローブに基づく複数の自己ビート信号のうち、高次の自己ビート信号を用いることで、スループットの低減を抑制しつつ、高精度な距離測定をできるが、これに限定されることはない。測定装置300は、例えば、レーザ装置110がサイドローブを出力する場合、サイドローブに基づく自己ビート信号を用いてもよい。このような測定装置300について、次に説明する。
【0087】
図2において、レーザ装置110は、共振器内に周波数シフタ112を有することを説明した。周波数シフタ112としては、上述のAOFSが知られている。AOFSを用いたレーザ装置110は、
図3で説明した様に、複数のメインローブを出力する。このようなAOFSに代えて、周波数シフタ112として、光SSB変調器を用いてもよい。
【0088】
[光SSB変調器30の構成例]
図10は、本実施形態に係る光SSB変調器30と制御部50の構成例を示す。光SSB変調器30は、基板31、メインマッハツェンダ導波路32、第1サブマッハツェンダ導波路33、第2サブマッハツェンダ導波路34、メインDC電極35、第1サブDC電極36、第2サブDC電極37、第1RF電極38、及び第2RF電極39を備える。
【0089】
基板31は、少なくとも一部が電気光学結晶で形成されている基板であり、例えば、LiNbO3結晶を有する。このような基板31の表面に、導波路及び基板が形成されている。メインマッハツェンダ導波路32は、光SSB変調器30に入力した光を2つに分岐させ、分岐させた光を再び合波させてから出力する。メインマッハツェンダ導波路32は、2つに分岐させた光をそれぞれ通過させる第1アーム導波路41及び第2アーム導波路42を有する。
【0090】
第1アーム導波路41には、第1サブマッハツェンダ導波路33が設けられている。第1サブマッハツェンダ導波路33は、第1アーム導波路41が通過させた光を2つに分岐させ、分岐させた光を再び合波させてから第1アーム導波路41へと出力する。第1サブマッハツェンダ導波路33は、入力した光をそれぞれ通過させる第1サブアーム導波路43及び第2サブアーム導波路44を有する。
【0091】
第2アーム導波路42には、第2サブマッハツェンダ導波路34が設けられている。第2サブマッハツェンダ導波路34は、第2アーム導波路42が通過させた光を2つに分岐させ、分岐させた光を再び合波させてから第2アーム導波路42へと出力する。第2サブマッハツェンダ導波路34は、入力した光をそれぞれ通過させる第3サブアーム導波路45及び第4サブアーム導波路46を有する。
【0092】
メインDC電極35は、一例として、メインマッハツェンダ導波路32の第1アーム導波路41及び第2アーム導波路42のそれぞれから略同一の距離だけ離れた位置に設けられている。メインDC電極35は、制御部50から直流電圧が供給される。
【0093】
第1サブDC電極36及び第1RF電極38は、一例として、第1サブマッハツェンダ導波路33の第1サブアーム導波路43及び第2サブアーム導波路44のそれぞれから略同一の距離だけ離れた位置に設けられている。第1サブDC電極36及び第1RF電極38は、別個の電極であってもよく、共通の1つの電極であってもよい。
【0094】
同様に、第2サブDC電極37及び第2RF電極39は、一例として、第2サブマッハツェンダ導波路34の第3サブアーム導波路45及び第4サブアーム導波路46のそれぞれから略同一の距離だけ離れた位置に設けられている。第2サブDC電極37及び第2RF電極39は、別個の電極であってもよく、共通の1つの電極であってもよい。
【0095】
第1サブDC電極36及び第2サブDC電極37には、制御部50から直流電圧がそれぞれ供給される。第1RF電極38及び第2RF電極39には、制御部50からRF信号がそれぞれ供給される。RF信号は、例えば、数GHzから数十GHzの高周波信号である。
【0096】
このように、入力する光を通過させる導波路の近傍に設けられている電極に電圧を加えることにより、導波路の屈折率を変化させる電気光学効果(ポッケルス効果)が発生する。電気光学効果が発生している導波路を通過する光の振幅強度レベル及び位相には、加えた電圧に対応する変調、オフセット等が生じることになる。このような電気光学効果による屈折率の変化は、電場の印加方向に対応するので、例えば、電極に印加する電圧の正負を変更するだけで、位相の変化方向を切り換えることができる。
【0097】
制御部50は、光SSB変調器30の複数の電極に直流電圧及びRF信号を供給して、導波路を通過する光の位相を調節する。制御部50は、直流電圧生成部52と、RF信号生成部54とを有する。直流電圧生成部52は、直流電圧を生成してメインDC電極35、第1サブDC電極36、及び第2サブDC電極37に供給する。RF信号生成部54は、RF信号を生成して第1RF電極38及び第2RF電極39に供給する。
【0098】
制御部50は、直流電圧生成部52及びRF信号生成部54を制御して、光SSB変調器30に直流電圧及びRF信号を供給し、周波数シフト方向及び周波数シフト量を調節する。例えば、制御部50は、光SSB変調器30に入力する光の周波数をRF信号の周波数だけシフトさせる。制御部50は、RF信号の周波数を変更して光SSB変調器30の周波数シフト量を更に設定してもよい。
【0099】
また、制御部50は、メインマッハツェンダ導波路32、第1サブマッハツェンダ導波路33、及び第2サブマッハツェンダ導波路34に対応して基板31に設けられているメインDC電極35、第1サブDC電極36、及び第2サブDC電極37に、予め定められた値の直流電圧を供給して周波数シフト方向を切り換える。このような光SSB変調器30の周波数シフト及びシフト方向の切換等については、既知の特許文献2及び特許文献3等に記載されているので、ここでは詳細な説明を省略する。
【0100】
本実施形態に係るレーザ装置110は、以上の光SSB変調器30を周波数シフタ112として用いてもよい。そして、制御部50は、光SSB変調器30に供給するRF信号の周波数を設定することで、光SSB変調器30の周波数シフト量を設定可能とする。また、制御部50は、光SSB変調器30に供給する電圧を切り換えることで、光SSB変調器30の周波数シフト方向を正側又は負側のいずれか一方に切り換え可能としてもよい。
【0101】
[光SSB変調器30が出力する光スペクトルの一例]
図11は、本実施形態に係る光SSB変調器30が出力する光スペクトルの一例を示す。
図11は、横軸が光の周波数、縦軸が光強度を示す。
図11は、光SSB変調器30に周波数ν
0の光が入力し、当該光SSB変調器30が入力した光の周波数をν
sだけシフトさせて周波数ν
0+ν
sの光を出力した例を示す。ここで、周波数ν
0+ν
sの出力光をメインローブと呼ぶ。
【0102】
光SSB変調器30は、メインローブに加えて、メインローブの周波数からν
sずつ離れた周波数の位置に複数のサイドローブを発生させる。言い換えると、メインローブの周波数ν
0+ν
sからシフト周波数ν
sごとに並ぶ出力光をサイドローブと呼ぶ。
図11は、メインローブの負側に発生したν
0-3ν
sからν
0までの周波数のサイドローブと、メインローブの正側に発生したν
0+2ν
s及びν
0+3ν
sの周波数のサイドローブとを示す。以上のように、サイドローブを発生させる周波数シフタ112を共振器内に有するレーザ装置110について、次に述べる。
【0103】
[レーザ装置110が出力するレーザ光の一例]
図12は、
図10に示す光SSB変調器30を有するレーザ装置110が出力するレーザ光の一例を示す。
図12は、横軸が時間、縦軸が光の周波数を示す。
図12は、レーザ装置110が出力するメインローブ及びサイドローブの周波数の時間的な変化を示す。メインローブの周波数の時間的な変化は、
図3で説明したメインローブの変化と同様である。したがって、このようなレーザ装置110を用いても、光ヘッド部140及び計測対象物10の間の距離dは、(数6)式を用いて算出することができる。
【0104】
サイドローブは、メインローブと同様に、共振器を1周する毎に周波数シフタ112によって周波数がν
sだけ変化する。したがって、サイドローブの周波数の時間的な変化も、メインローブの変化と同様である。光SSB変調器30を有するレーザ装置110を用いた場合、
図12に示すような光スペクトルのモニタ光が抽出部310に入力する。そして、第4光電変換部312は、モニタ光を電気信号に変換する。第4光電変換部312が出力する電気信号は、レーザ光のメインローブ及びサイドローブに基づく複数の自己ビート信号が発生する。
【0105】
[自己ビートスペクトルの第1例]
図13は、
図10に示す光SSB変調器30を有するレーザ装置110が出力するレーザ光の自己ビートスペクトルの第1例を示す。言い換えると、
図13は、第4光電変換部312が出力する電気信号の一例を示す。
図13は、横軸が周波数、縦軸が光強度を示す。メインローブに基づく複数の自己ビート信号は、共振器周波数ν
cに略一致する周波数間隔で並ぶ。また、サイドローブは、メインローブを中心としてシフト周波数ν
sに略一致する周波数間隔で並ぶ。
【0106】
このような自己ビート信号のピーク周波数をν
cs(n
s,n
c)とすると、ν
cs(n
s,n
c)は、次式で示される。ここで、n
cはメインローブに基づく自己ビート信号の次数を示し、n
sはサイドローブに基づく自己ビート信号の次数であり、周波数シフタのシフト次数を示す。
【数8】
【0107】
(数8)式において、n
cは絶対値が1以上の整数であり、n
sは整数である。なお、n
s=0の場合、ν
cs(n
s,n
c)は、メインローブに基づく自己ビート信号のピーク周波数を示す。例えば、ν
cs(0,2)は、2ν
cであり、ν
cs(-2,4)は、4ν
c-2ν
sである。(数8)式より、共振器周波数ν
cは、次式のように算出される。
【数9】
【0108】
(数9)式の右辺第2項は定数なので、(数7)式の説明と同様に、ncが大きい高次の自己ビート信号νcs(ns,nc)を測定して共振器周波数νcを算出すると、測定結果に含まれる測定ばらつきは、1/ncの値程度に減少することがわかる。なお、測定する自己ビート信号νcs(ns,nc)がメインローブ(ns=0)、サイドローブ(ns≠0)のどちらであっても、測定ばらつきを減少させることができる。ここで、サイドローブを用いた共振器周波数νcの測定であっても、測定装置300のスループットの低減を抑制する条件は、メインローブに基づく自己ビート信号の次数ncの絶対値を2以上にすることであることがわかる。
【0109】
言い換えると、サイドローブを発生させる光SSB変調器30を周波数シフタ112としてレーザ共振器内に有し、メインローブ及びサイドローブの複数のモードの周波数変調レーザ光を出力するレーザ装置110を用いても、
図8に示す測定装置300は、スループットの低減を抑制しつつ、高精度な距離測定をできる。測定装置300がメインローブに基づく自己ビート信号を用いる場合、上述と同様に抽出部310及び特定部320が動作すればよい。
【0110】
一方、測定装置300がサイドローブに基づく自己ビート信号を用いる場合、抽出部310は、モニタ光を変換することによって生成した電気信号からサイドローブに基づく自己ビート信号νcs(ns,nc)を含む信号成分を抽出する(ns≠0)。そして、特定部320は、抽出部310が抽出した信号成分に含まれているピーク周波数νcs(ns,nc)から、(数9)式を用いてレーザ共振器の共振器周波数νcを特定する。
【0111】
nc及びnsは、予め設計できるパラメータである。したがって、特定部320は、上述のように、抽出部310が抽出した信号成分に基づき、レーザ共振器の共振器周波数νcを特定できる。これにより、算出部180は、レーザ共振器の共振器周波数νcとビート信号とに基づき、参照光と測定光との伝搬距離の差を精度よく算出できる。
【0112】
以上の本実施形態に係る測定装置300において、抽出部310及び特定部320がモニタ光の自己ビート信号ν
cs(n
s,n
c)の周波数を測定し、測定結果からレーザ共振器の共振器周波数ν
cを特定する例を説明した。そして、抽出部310及び特定部320が測定する自己ビート信号ν
cs(n
s,n
c)の例を
図13に示したが、これに限定されることはない。
【0113】
図13に示す自己ビート信号ν
cs(n
s,n
c)の例は、ν
s<ν
cの場合の例を示す。一般的には、光SSB変調器30のシフト周波数ν
sは、数GHz~数十GHz程度であり、また、レーザ装置110の共振器周波数ν
cは数十MHzから数百MHz程度である。測定装置300は、このように、ν
s>ν
cとなる場合の自己ビート信号ν
cs(n
s,n
c)を用いてもよい。
【0114】
[自己ビートスペクトルの第2例及び第3例]
図14は、
図10に示す光SSB変調器30を有するレーザ装置110が出力するレーザ光の自己ビートスペクトルの第2例を示す。第2例の自己ビートスペクトルは、ν
c<ν
s<2ν
cの場合の周波数スペクトルを示す。また、
図15は、
図10に示す光SSB変調器30を有するレーザ装置110が出力するレーザ光の自己ビートスペクトルの第3例を示す。第3例の自己ビートスペクトルは、ν
sが100ν
c程度の場合の周波数スペクトルを示す。
【0115】
図14及び
図15より、ν
s>ν
cとなる場合の複数の自己ビート信号ν
cs(n
s,n
c)のうち、|n
c|≧2で、かつ、共振器周波数ν
cよりも周波数が小さくなっている自己ビート信号が発生していることがわかる。例えば、
図14においてはサイドモードに基づく自己ビート信号ν
cs(-2,4)、
図15においてはサイドモードに基づく自己ビート信号ν
cs(-1,100)の周波数が共振器周波数ν
cよりも小さい。
【0116】
自己ビート信号νcs(ns,nc)を測定する際に、より低い周波数で処理できる場合、抽出部310及び特定部320の電気回路等の設計、製造等が容易になる。したがって、抽出部310及び特定部320は、0<νcs(ns,nc)<νcとなる自己ビート信号を測定することが望ましい。この場合、抽出部310の第4フィルタ部314は、第4光電変換部312が変換した電気信号のうちレーザ共振器の共振器周波数νc未満の信号成分を通過させるフィルタである。
【0117】
なお、0<ν
cs(n
s,n
c)<ν
cの不等式を(数8)式に代入することにより、次式を得る。
【数10】
【0118】
(数10)式より、n
cは次式のように表される。ここで、ceil()は、正方向の丸め(切り上げ)を表す関数である。
【数11】
【0119】
[n
sの条件]
このようなn
cの絶対値が2以上となるn
sの条件を、ν
sの範囲ごとにまとめた結果を
図16に示す。例えば、ν
s=1GHz、ν
c=90MHz、n
s=1、n
c=-11の場合、自己ビート信号ν
cs(1,-11)の周波数は10MHzとなる。抽出部310及び特定部320は、10MHz程度の電気信号を測定することにより、従来よりも測定ばらつきを1/11程度に低減でき、言い換えると、略11倍の感度で共振器周波数ν
cを測定することができる。
【0120】
なお、抽出部310及び特定部320が測定対象とする自己ビート信号νcs(ns,nc)は、他の自己ビート信号とは周波数が離れていることが望ましい。例えば、測定対象とする自己ビート信号νcs(ns,nc)が他の自己ビート信号と分離できない程度に周波数が重なってしまうと、特定部320による特定結果に誤差が生じてしまう。したがって、例えば、光SSB変調器30の設計時に、適切なシフト周波数νsを設定することが望ましい。
【0121】
また、測定装置300は、光SSB変調器30のシフト周波数νsを適切に調節可能であることが望ましい。例えば、特定部320は、制御部50にRF信号の周波数を変更するための制御信号を送信して、光SSB変調器30の周波数シフト量を変更可能に構成されていてもよい。
【0122】
この場合、例えば、特定部320は、抽出部310が抽出した信号成分を周波数データに変換し、変換した周波数データのピーク検出結果と、光SSB変調器30の周波数シフト量を変更した後のピーク検出結果とを比較する。特定部320は、周波数シフト量の変更と変更した後のピーク検出結果の動作を複数回繰り返してもよい。これにより、特定部320は、測定対象とする自己ビート信号νcs(ns,nc)が、他の自己ビート信号と閾値以上に周波数が離れていることを特定することができる。
【0123】
以上の本実施形態に係る測定装置100及び測定装置300の制御部50、変換部160、共振器周波数出力部178、算出部180、及び特定部320の少なくとも一部は、例えば、集積回路等で構成されている。例えば、制御部50、変換部160、共振器周波数出力部178、算出部180、及び特定部320は、FPGA(Field Programmable Gate Array)、DSP(Digital Signal Processor)、及び/又はCPU(Central Processing Unit)を含む。
【0124】
制御部50、変換部160、共振器周波数出力部178、算出部180、及び特定部320の少なくとも一部をコンピュータ等で構成する場合、測定装置100及び測定装置300は、記憶部を含む。記憶部は、一例として、制御部50、変換部160、共振器周波数出力部178、算出部180、及び特定部320を実現するコンピュータ等のBIOS(Basic Input Output System)等を格納するROM(Read Only Memory)、及び作業領域となるRAM(Random Access Memory)を含む。また、記憶部は、OS(Operating System)、アプリケーションプログラム、及び/又は当該アプリケーションプログラムの実行時に参照されるデータベースを含む種々の情報を格納してよい。即ち、記憶部は、HDD(Hard Disk Drive)及び/又はSSD(Solid State Drive)等の大容量記憶装置を含んでよい。
【0125】
コンピュータ等は、CPU等のプロセッサを含み、記憶部に記憶されたプログラムを実行することによって制御部50、変換部160、共振器周波数出力部178、算出部180、及び特定部320の少なくとも一部として機能する。コンピュータ等は、GPU(Graphics Processing Unit)等を含んでもよい。
【0126】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されず、その要旨の範囲内で種々の変形及び変更が可能である。例えば、装置の全部又は一部は、任意の単位で機能的又は物理的に分散・統合して構成することができる。また、複数の実施の形態の任意の組み合わせによって生じる新たな実施の形態も、本発明の実施の形態に含まれる。組み合わせによって生じる新たな実施の形態の効果は、もとの実施の形態の効果を併せ持つ。
【符号の説明】
【0127】
10 計測対象物
30 光SSB変調器
31 基板
32 メインマッハツェンダ導波路
33 第1サブマッハツェンダ導波路
34 第2サブマッハツェンダ導波路
35 メインDC電極
36 第1サブDC電極
37 第2サブDC電極
38 第1RF電極
39 第2RF電極
41 第1アーム導波路
42 第2アーム導波路
43 第1サブアーム導波路
44 第2サブアーム導波路
45 第3サブアーム導波路
46 第4サブアーム導波路
50 制御部
52 直流電圧生成部
54 RF信号生成部
100 測定装置
110 レーザ装置
112 周波数シフタ
114 増幅媒体
116 WDMカプラ
117 ポンプ光源
118 出力カプラ
120 分岐部
130 光サーキュレータ
140 光ヘッド部
150 ビート信号発生部
152 光90度ハイブリッド
154 第1光電変換部
156 第2光電変換部
160 変換部
162 第1フィルタ部
164 第2フィルタ部
170 共振器周波数抽出部
172 第3光電変換部
174 第3フィルタ部
176 第3AD変換器
178 共振器周波数出力部
180 算出部
190 表示部
300 測定装置
310 抽出部
312 第4光電変換部
314 第4フィルタ部
316 第4AD変換器
320 特定部