(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-16
(45)【発行日】2024-10-24
(54)【発明の名称】ポリシラザン含有組成物、硬化膜、および物品
(51)【国際特許分類】
C08L 83/16 20060101AFI20241017BHJP
G03F 7/075 20060101ALI20241017BHJP
G03F 7/004 20060101ALI20241017BHJP
C09D 183/16 20060101ALI20241017BHJP
【FI】
C08L83/16
G03F7/075 521
G03F7/004 501
C09D183/16
(21)【出願番号】P 2022004341
(22)【出願日】2022-01-14
【審査請求日】2023-12-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102532
【氏名又は名称】好宮 幹夫
(74)【代理人】
【識別番号】100194881
【氏名又は名称】小林 俊弘
(74)【代理人】
【識別番号】100215142
【氏名又は名称】大塚 徹
(72)【発明者】
【氏名】齊川 誠
(72)【発明者】
【氏名】兼子 達朗
【審査官】中川 裕文
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-233716(JP,A)
【文献】特開2012-181334(JP,A)
【文献】特開2022-064372(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08K 3/00- 13/08
C08L 1/00-101/14
G03F 7/075
G03F 7/004
C09D 1/00- 10/00
101/00-201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A-1)下記式(a-1)で示されるペルヒドロポリシラザン、
【化1】
(A-2)下記式(a-2)で示される変性ポリシラザン、
【化2】
(式中、R
1、R
2は互いに独立して、水素原子、炭素数1~10の脂肪族炭化水素基、炭素数6~12の芳香族炭化水素基または炭素数1~10のアルコキシ基であり、R
3は水素原子またはメチル基である。ただし、R
1とR
2は同時に水素原子でない。)
(B)有機溶剤、
を含むポリシラザン含有組成物であって、
前記(A-1)成分の配合量が、前記(A-1)成分と前記(A-2)成分の合計100質量部に対して、30~95質量部であり、
ゲルパーミエーションクロマトグラフィによって求められる、前記(A-1)成分の重量平均分子量をw
1、前記(A-2)成分の重量平均分子量をw
2としたとき、w
1>2w
2、
となるものであることを特徴とするポリシラザン含有組成物。
【請求項2】
前記(A-2)成分は、前記式(a-2)のR
1とR
2のどちらか一方が水素原子であり、かつ、R
3が水素原子である変性ポリシラザンであることを特徴とする請求項1に記載のポリシラザン含有組成物。
【請求項3】
前記(B)成分がジ-n-ブチルエーテルであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のポリシラザン含有組成物。
【請求項4】
前記ポリシラザン含有組成物は、25℃における前記(B)成分1gへの溶解度が1mg以上である(C)光塩基発生剤をさらに含むものであることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のポリシラザン含有組成物。
【請求項5】
前記(C)成分の配合量が、前記(A-1)成分と前記(A-2)成分の合計100質量部に対して、2~15質量部であることを特徴とする請求項4に記載のポリシラザン含有組成物。
【請求項6】
前記(C)成分が下記式(c-1)~(c-4)から選ばれる少なくとも1種の光塩基発生剤であることを特徴とする請求項4または請求項5に記載のポリシラザン含有組成物。
【化3】
【化4】
【化5】
【化6】
(式中、R
4は、炭素数1~20のアミノ基である。)
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれか1項に記載のポリシラザン含有組成物の硬化物であることを特徴とする硬化膜。
【請求項8】
基材と、該基材の表面に形成された請求項7に記載の硬化膜を含むものであることを特徴とする物品。
【請求項9】
前記物品に含まれる前記硬化膜は、前記物品の一部分だけに形成されたものであることを特徴とする請求項8に記載の物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリシラザン含有組成物、該組成物より形成された硬化膜、および該硬化膜を含む物品に関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器の小型化や電子部品の高集積化に伴い、電子部品の小型化が進んでいる。電子機器の高性能化のためには長時間使用時でも性能が劣化しにくい高い耐久性が求められている。電子部品の特性を劣化させる要因として腐食性ガスや水分の影響がある。腐食性ガスや水分の影響を低減させる1つの方法としては、電子部品に保護材を適用することが挙げられる。特許文献1では、電子部品間や電子部品と封止樹脂間に含浸することで電極部の腐食を抑制する電子部品用ポリイミドシリコーン含浸材が報告されている。
【0003】
ポリシラザン化合物は硬化により良質なガラス質の硬化膜を形成することから、優れたガスバリア性や耐熱性、絶縁性を示す。電子部品は高温環境下での使用において高い信頼性が求められる。そこで、上記硬化膜は電子部品への水分や腐食性ガスの侵入を防ぐコーティングとして有用である。特許文献2では、有機EL素子の封止を目的とした樹脂シートの表面にポリシラザン化合物を塗布してガラス質硬化膜を形成させることで、樹脂シートの水蒸気透過量を低くできることが報告されている。
【0004】
上記の背景から、ポリシラザン化合物によるガスバリアコーティングを一例とする機能性コーティングは、電子部品の性能を向上させるものである。しかし、表面実装型の電子部品をコーティングする場合には問題が発生する。その問題とは、素体だけでなく電極部もコーティングで覆われた状態で半田実装を試みると、回路基板への固着強度の著しい低下や導通不良が引き起こされうることである。そこで特許文献3では、水溶性ポリマーまたは脂肪族塩をマスク剤として用いることで、基材の所望の箇所にポリシラザン硬化被膜をパターニングする方法が報告されている。この方法を用いれば表面実装型の電子部品において電極部以外をコーティングで覆うことが可能である。
【0005】
しかしながら、電気電子工学分野における近年のさらなる技術開発により、電子部品では一辺の長さがミリメートルオーダー未満の大きさの製品加工、半導体回路ではナノメートルオーダーでのパターン形成が行われている。このような微細加工において、物理的な接触によるハンドリングには限界があるために、特許文献3の技術を適用することが困難になる場合がある。
【0006】
半導体回路のパターン形成においては、フォトマスクを用いた感光性樹脂への露光による微細パターン形成の技術が開発され、今日では広く普及している。特許文献4では、ポリシラザンと光酸発生剤を含む感光性組成物を用いて、基板上にパターンを形成する方法が報告されている。しかし、この感光性組成物から発生した酸の影響により、保護される電子部品や実装後の周囲部材が腐食される懸念がある。
【0007】
特許文献2で述べられているようにガスバリアコーティングとしての用途ではペルヒドロポリシラザンを使用することが好ましい。特許文献5では、パターン形成に好適な変性ポリシルセスキアザンの構造が報告されているが、ペルヒドロポリシラザンを含む場合の最適な組成が検討されているとは言い難い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2004-335124号公報
【文献】国際公開第2018/174116号
【文献】特開2020-175345号公報
【文献】特開2006-85029号公報
【文献】特開2001-288270号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
以上のことから、硬化時に酸を発生せず、光線照射を経る硬化膜のパターニング性に優れ、基材の所望の箇所および所望の形にて硬化膜を作製することができる技術の開発が求められている。
【0010】
本発明は、上記問題を解決するためになされたものであり、硬化時に酸を発生せず、光線照射を経る硬化膜のパターニング性に優れ、基材の所望の箇所および所望の形にて硬化膜を作製することができるポリシラザン含有組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明では、
(A-1)下記式(a-1)で示されるペルヒドロポリシラザン、
【化1】
(A-2)下記式(a-2)で示される変性ポリシラザン、
【化2】
(式中、R
1、R
2は互いに独立して、水素原子、炭素数1~10の脂肪族炭化水素基、炭素数6~12の芳香族炭化水素基または炭素数1~10のアルコキシ基であり、R
3は水素原子またはメチル基である。ただし、R
1とR
2は同時に水素原子でない。)
(B)有機溶剤、
を含むポリシラザン含有組成物であって、
前記(A-1)成分の配合量が、前記(A-1)成分と前記(A-2)成分の合計100質量部に対して、30~95質量部であり、
ゲルパーミエーションクロマトグラフィによって求められる、前記(A-1)成分の重量平均分子量をw
1、前記(A-2)成分の重量平均分子量をw
2としたとき、w
1>2w
2、となるものであるポリシラザン含有組成物
を提供する。
【0012】
このようなポリシラザン含有組成物であれば、硬化時に酸を発生せず、光線照射を経る硬化膜のパターニング性に優れ、基材の所望の箇所・所望の形にて硬化膜を作製することができるポリシラザン含有組成物となる。
【0013】
また、本発明では、前記(A-2)成分は、前記式(a-2)のR1とR2のどちらか一方が水素原子であり、かつ、R3が水素原子である変性ポリシラザンであることが好ましい。
【0014】
このようなポリシラザン含有組成物であれば、本発明の効果を向上させることができる。
【0015】
また、本発明では、前記(B)成分がジ-n-ブチルエーテルであることが好ましい。
【0016】
このようなポリシラザン含有組成物であれば、組成物の安定性とハンドリング性を向上させることができる。
【0017】
また、本発明では、前記ポリシラザン含有組成物は、25℃における前記(B)成分1gへの溶解度が1mg以上である(C)光塩基発生剤をさらに含むものであることが好ましい。
【0018】
このようなポリシラザン含有組成物であれば、硬化時に酸が発生せず、透明な組成物溶液が得られ、(A-1)成分および(A-2)成分の硬化反応が促進され、硬化時の成分揮発による炉内や周辺基板の汚染や硬化物の膜減りを低減することができる。
【0019】
また、本発明では、前記(C)成分の配合量が、前記(A-1)成分と前記(A-2)成分の合計100質量部に対して、2~15質量部であることが好ましい。
【0020】
このようなポリシラザン含有組成物であれば、本発明の効果を向上させることができる。
【0021】
また、本発明では、前記(C)成分が下記式(c-1)~(c-4)から選ばれる少なくとも1種の光塩基発生剤であることが好ましい。
【化3】
【化4】
【化5】
【化6】
(式中、R
4は互いに独立して、炭素数1~20のアミノ基である。)
【0022】
このようなポリシラザン含有組成物であれば、より確実に本発明の効果を向上させることができる。
【0023】
また、本発明では、前記ポリシラザン含有組成物の硬化物である硬化膜を提供する。
【0024】
このような硬化膜であれば、基材の所望の箇所に所望の形で緻密なガラス膜を提供することができる。
【0025】
また、本発明では、基材と、該基材の表面に形成された硬化膜を含む物品を提供する。
【0026】
このような物品であれば、基材の所望の箇所に所望の形で緻密なガラス膜が形成された物品を提供できる。
【0027】
また、本発明では、前記物品に含まれる前記硬化膜は、前記物品の一部分だけに形成されることが好ましい。
【0028】
このような物品であれば、基材の所望の箇所に所望の形で緻密なガラス膜が形成された物品を提供できる。
【発明の効果】
【0029】
以上のように、本発明によれば、ペルヒドロポリシラザンと、好ましい構造を有する変性ポリシラザンを適切に組み合わせ、場合により光塩基発生剤を加えたポリシラザン含有組成物は、光線照射を含む工程を経て作製される硬化膜のパターニング性に優れ、基材の所望の箇所、所望の形にて硬化膜を作製することができる。さらに本発明であれば、光酸発生剤を含む必要がないので、硬化時に酸を発生させることがなく、周辺部材の腐食を抑制できる。
【発明を実施するための形態】
【0030】
上述のように、パターニング性に優れる硬化膜を提供することができるポリシラザン含有組成物の開発が求められていた。
特に、上述のようなガラス質膜の特徴を最大限に発揮させるには、硬化時に酸を発生せず、光線照射を経る硬化膜のパターニング性に優れ、基材の所望の箇所および所望の形にて硬化膜を作製できる必要がある。そこで本発明者らは、ペルヒドロポリシラザンに、変性ポリシラザンおよび場合により光塩基発生剤を添加した配合組成を探索することに想到した。
【0031】
本発明者らは、上記課題について鋭意検討を重ねた結果、適切な構造を有するポリシラザンの組み合わせからなるポリシラザン含有組成物は、光照射によって活性化されることで未照射部位よりも熱硬化速度が向上し、パターニング性に優れることを見出し、本発明を完成させた。
【0032】
即ち、本発明は、
(A-1)下記式(a-1)で示されるペルヒドロポリシラザン、
【化7】
(A-2)下記式(a-2)で示される変性ポリシラザン、
【化8】
(式中、R
1、R
2は互いに独立して、水素原子、炭素数1~10の脂肪族炭化水素基、炭素数6~12の芳香族炭化水素基または炭素数1~10のアルコキシ基であり、R
3は水素原子またはメチル基である。ただし、R
1とR
2は同時に水素原子でない。)
(B)有機溶剤、
を含むポリシラザン含有組成物であって、
前記(A-1)成分の配合量が、前記(A-1)成分と前記(A-2)成分の合計100質量部に対して、30~95質量部であり、
ゲルパーミエーションクロマトグラフィによって求められる、前記(A-1)成分の重量平均分子量をw
1、前記(A-2)成分の重量平均分子量をw
2としたとき、w
1>2w
2、となるものであるポリシラザン含有組成物
である。
【0033】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明するが、これは例示的に示されるもので、本発明はこれらに限定されず種々の変形が可能なことは言うまでもない。
【0034】
<ポリシラザン含有組成物>
<(A)ポリシラザン>
本発明のポリシラザン含有組成物を構成する(A)ポリシラザンは、硬化することによってガラス質の硬化膜を形成するものである。なお、本明細書におけるガラス質の定義は、Si-O結合を有し、硬化すると流動せず固体状である状態である。
【0035】
本発明を構成する(A)ポリシラザンは、(A-1)ペルヒドロポリシラザン、(A-2)変性ポリシラザンを含む。
【0036】
本発明におけるポリシラザン含有組成物では、(A-1)ペルヒドロポリシラザンの非常に高い硬化反応性を調節することによる優れたパターニング性の発現のために、(A-1)成分に対して(A-2)成分を添加した2種類以上の構造を持つポリシラザンを含む。
【0037】
また、(A)ポリシラザン((A-1)成分と(A-2)成分)は(B)成分である有機溶剤への溶解性や塗布時の作業性の観点から、重量平均分子量が100~1,000,000であることが好ましく、300~100,000であることがより好ましく、500~50,000の範囲内であることがさらに好ましい。重量平均分子量が100以上だと揮発性が低く、有機溶剤の揮発および硬化工程時にポリシラザンそのものが揮発することで塗膜の膜質が劣化する恐れがないため好ましく、1,000,000以下だと、有機溶剤に対する溶解性が高いため好ましい。
【0038】
なお、本明細書中で言及する重量平均分子量は、下記条件で測定したゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)によるポリスチレンを標準物質として得られた値を指す。
[測定条件]
展開溶媒:テトラヒドロフラン(THF)
流量:0.35mL/min
検出器:示差屈折率検出器
カラム:TSKguardcolumn SuperMP(HZ)-M
TSKgel SuperMultipore HZ-M
(4.6mmI.D.×15cm,4μm×4)
(いずれも東ソー社製)
カラム温度:40℃
試料注入量:20μL(濃度0.5質量%のTHF溶液)
【0039】
(A)ポリシラザンのうち、(A-1)成分のポリシラザンは、下記式(a-1)で示されるペルヒドロポリシラザンである。
【化9】
また、(A)ポリシラザンのうち、(A-2)成分のポリシラザンは、下記式(a-2)で示される変性ポリシラザンである。
【化10】
(式中、R
1、R
2は互いに独立して、水素原子、炭素数1~10の脂肪族炭化水素基、炭素数6~12の芳香族炭化水素基または炭素数1~10のアルコキシ基であり、R
3は水素原子またはメチル基である。ただし、R
1とR
2は同時に水素原子でない。)
【0040】
(A-1)成分
(A-1)成分はペルヒドロポリシラザンであることから、(A-2)成分よりも架橋密度が高く緻密なガラス膜を形成することから、本発明における硬化膜の物性を支配する主骨格を形成する。
【0041】
前記(A-1)成分は、1種単独、もしくは同様のポリシラザン骨格を有する重量平均分子量が異なる2種以上の中から選定されたペルヒドロポリシラザン混合物から任意に選択して使用できる。
【0042】
(A-2)成分
(A-2)成分は上記式(a-2)で示されるポリシラザンのうち、R1とR2が同時に水素原子でない変性ポリシラザンである。なお、本明細書における変性の定義は、上記式(a-2)の置換基が全て同時に水素原子ではなく、少なくとも1つは有機置換基であることである。
【0043】
上記式(a-2)中、R1、R2の前記脂肪族炭化水素基は、炭素数1~10、好ましくは炭素数1~4であり、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、t-ブチル基、n-ペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、ノニル基、デシル基などのアルキル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、ノルボルニル基、アダマンチル基などのシクロアルキル基、ビニル基、アリル基、7-オクテニル基などのアルケニル基が挙げられ、中でもメチル基、ビニル基が好ましく、メチル基がより好ましい。
【0044】
上記式(a-2)中、R1、R2の前記芳香族炭化水素基は、炭素数6~12、好ましくは炭素数6~7であり、例えば、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基などのアリール基、ベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基、p-ビニルベンジルなどのアラルキル基などが挙げられ、中でもフェニル基が好ましい。
【0045】
上記式(a-2)中、R1、R2の前記アルコキシ基は、炭素数1~10、好ましくは炭素数1~4であり、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、ペントキシ基、ヘキソキシ基、ヘプトキシ基、オクトキシ基、ノノキシ基、デコキシ基などが挙げられ、中でもメトキシ基、エトキシ基が好ましく、メトキシ基がより好ましい。
【0046】
上記式(a-2)中、R3は水素原子またはメチル基であり、水素原子が好ましい。
【0047】
中でも(A-2)成分は、上記式(a-2)のR1とR2のどちらか一方が水素原子であり、かつ、R3が水素原子である変性ポリシラザンであることが好ましい。
【0048】
(A-2)成分は(A-1)成分よりも立体障害が大きいこと等を理由として硬化反応速度が遅いことから、(A-1)成分に(A-2)成分を添加することで硬化反応速度を好適に調節することができる。
【0049】
上記の理由から前記(A-1)成分の配合量は、前記(A-1)成分と(A-2)成分の合計100質量部に対して、30~95質量部であり、50~90質量部であることがより好ましい。配合量が95質量部よりも多いと、硬化反応速度が速すぎることで、パターニング時の仮硬化工程において露光部が十分に硬化するのみならず未露光部の硬化も進みすぎるために、未露光部を洗浄除去してパターンを現像することが困難になる。配合量が30質量部よりも少ないと、硬化速度が遅すぎることで、短時間の仮硬化工程では露光部の仮硬化が満足に進行しない。そのために現像工程によって未露光部だけでなく露光部も洗浄されてしまい、硬化膜のパターンが崩れてしまう。
【0050】
本発明では、反応性の高い(A-1)成分を用いるので、(A-1)成分と(A-2)成分の上記組成での組み合わせにより十分な硬化速度が得られる。従って、硬化反応を促進するために光酸発生剤を含む必要はない。
【0051】
前記(A-2)成分のポリシラザンは、1種単独、もしくは2種以上の中から選定されたポリシラザン混合物、あるいは2種以上のポリシラザン構造からなるポリシラザン共重合体から任意に選択して使用できる。
【0052】
前記(A-1)成分で緻密なガラス質硬化膜を形成するが、その隙間に前記(A-2)成分が入り込むことによって現像工程の後に精度の高いパターンを形成することができる。このことから、ゲルパーミエーションクロマトグラフィによって求められる、前記(A-1)成分の重量平均分子量をw1、前記(A-2)成分の重量平均分子量をw2としたとき、w1>2w2であり、組成物への相溶性を考慮した場合、200w2>w1>3w2であることがより好ましく、100w2>w1>4w2であることがさらに好ましい。
【0053】
<(B)有機溶剤>
本発明で用いる前記(A)ポリシラザンは、塗布時の作業性や保存安定性を改善することを目的として、(B)有機溶剤で希釈して用いられる。前記有機溶剤としては、前記(A-1)成分および前記(A-2)成分を溶解する有機溶剤であれば特に限定されない。例えば、n-ペンタン、イソペンタン、n-ヘキサン、イソヘキサン、n-ヘプタン、イソヘプタン、n-オクタン、イソオクタン、n-ノナン、イソノナン、n-デカン、イソデカンなどの飽和脂肪族炭化水素、1-オクテン、1-ノネン、1-デセン、1-ドデセン、β-ミルセンなどの不飽和脂肪族炭化水素、シクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ジメチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、デカヒドロナフタレンなどの飽和脂環式炭化水素、シクロヘキセンなどの不飽和脂環式炭化水素、p-メンタン、d-リモネン、l-リモネン、ジペンテンなどのテルペン化合物、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、ジエチルベンゼン、トリメチルベンゼン、トリエチルベンゼン、テトラヒドロナフタレンなどの芳香族炭化水素、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジ-n-ブチルケトン、ジイソブチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、ダイアセトンアルコールなどのケトン化合物、酢酸n-プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸n-ブチル、酢酸イソブチル、酢酸イソアミル、アセト酢酸エチル、カプロン酸エチルなどのエステル化合物、ジエチルエーテル、ジ-n-プロピルエーテル、ジ-n-ブチルエーテル、ジ-n-ペンチルエーテル、ジ-n-ヘキシルエーテル、tert-ブチルメチルエーテルなどのアルキルエーテル化合物、アニソール、ジフェニルエーテルなどのアリールエーテル化合物、ビス(2-メトキシエチル)エーテル、ビス(2-エトキシエチル)エーテル、ビス(2-ブトキシエチル)エーテルなどのグリコールエーテル化合物などが挙げられる。
【0054】
塗布時の作業性やポリシラザンの保存安定性の観点から、希釈比率は(A-1)成分と(A-2)成分のポリシラザンの合計100質量部に対して(B)成分が100~100,000質量部の範囲内であることが好ましく、400~10,000質量部であることがより好ましい。
【0055】
上述したように、塗布時の作業性や、比較的吸湿しにくく保存安定性を向上できるという観点から、(B)成分としてはジ-n-ブチルエーテルが好ましい。
【0056】
本発明のポリシラザン含有組成物に含まれる水分量は500ppm以下であることが好ましく、300ppm以下であることがより好ましい。水分量が500ppm以下であれば、ポリシラザンと含有水分とが反応しないため、発熱したり、水素ガスやアンモニアガスが発生したりする恐れがなく、また、増粘、ゲル化などを引き起こす恐れもないので好ましい。従って、(B)成分中の水分量は、本発明のポリシラザン含有組成物に含まれる水分量が上記範囲となるように制御されていることが好ましい。
【0057】
また、本発明のポリシラザン含有組成物は光酸発生剤を使用しないため、硬化時に酸を発生せず、電子部品の保護剤として使用する際に、保護される電子部品や実装後の周囲部材の腐食を回避することができる。
【0058】
<(C)光塩基発生剤>
(C)成分の光塩基発生剤は、特定波長の光線を吸収することで有機塩基を放出する化合物である。光吸収によって発生した有機塩基によって、(A-1)成分および(A-2)成分の硬化反応が促進され、硬化時に(A-1)成分および(A-2)成分の一部が揮発することによる、硬化反応炉内や周辺基板の汚染や硬化物の膜減りを低減することができる。また、本発明のポリシラザン含有組成物に(C)成分の光塩基発生剤を使用すれば、本発明のポリシラザン含有組成物の硬化時に酸を発生しないため、電子部品の保護剤として使用する際に、保護される電子部品や実装後の周囲部材の腐食を回避することができる。
【0059】
また、(C)成分は、特定波長の光線を吸収することに伴う電子励起を引き金として有機塩基を放出することから、照射される光線の波長は200~1,000nmの範囲内であることが好ましい。さらに、400~700nmの波長の光線を用いて(C)成分を電子励起する場合、(C)成分はその時に照射される光線の波長の吸収を持つため、400~700nmは可視領域の波長域であることを勘案すると、硬化膜が着色する恐れがある。このことから、照射される光線の波長は200~400nmまたは700~1000nmであることがより好ましく、200~400nmであることがさらに好ましい。
【0060】
(C)成分が(A)成分と(B)成分を含む溶液に溶解していない場合、基材への塗工時に(C)成分の存在箇所に偏りが生じ、最終的に硬化膜の膜質が不均一になることが懸念される。(C)成分は、本発明における組成物への溶解性の観点から、25℃における(B)成分の有機溶剤1gへの溶解度が1mg以上であることが好ましい。
【0061】
(C)成分は光線吸収によって塩基を放出する化合物であればその構造は特に制限がないが、上述したような(B)成分への溶解性の観点から、非イオン性化合物であることが好ましい。
【0062】
(C)成分は、光吸収による塩基発生効率に優れる観点から、下記式(c-1)アントリル基含有カルバメート化合物、(c-2)アントラキニル基含有カルバメート化合物、(c-3)ニトロフェニル基含有カルバメート化合物または(c-4)ヒドロキシフェニル基含有アミド化合物から選ばれる構造であることがより好ましい。
【0063】
【化11】
【化12】
【化13】
【化14】
(式中、R
4は互いに独立して、炭素数1~20のアミノ基である。)
【0064】
中でも、365nmにおける光吸収強度が大きいことから、(c-1)アントリル基含有カルバメート化合物がより好ましい。
【0065】
上記式(c-1)、(c-2)、(c-3)または(c-4)中のR4で表されるアミノ基として、例えば、メチルアミノ基、ジメチルアミノ基、エチルアミノ基、ジエチルアミノ基、n-プロピルアミノ基、イソプロピルアミノ基、ジ-n-プロピルアミノ基、ジイソプロピルアミノ基、n-ブチルアミノ基、sec-ブチルアミノ基、イソブチルアミノ基、tert-ブチルアミノ基、ジ-n-ブチルアミノ基、ジ-sec-ブチルアミノ基、ジイソブチルアミノ基、ジ-tert-ブチルアミノ基、n-ペンチルアミノ基、2-ペンチルアミノ基、3-ペンチルアミノ基、イソペンチルアミノ基、ネオペンチルアミノ基、ジ-n-ペンチルアミノ基、ジイソペンチルアミノ基、ジネオペンチルアミノ基、n-ヘキシルアミノ基、ジ-n-ヘキシルアミノ基、n-ヘプチルアミノ基、ジ-n-ヘプチルアミノ基、n-オクチルアミノ基、ジ-n-オクチルアミノ基、n-ノニルアミノ基、ジ-n-ノニルアミノ基、n-デシルアミノ基、ジ-n-デシルアミノ基、シクロヘキシルアミノ基、ジシクロヘキシルアミノ基、ビシクロ[2.2.1]ヘプチルアミノ基、ビシクロ[2.2.2]ヘキシルアミノ基などのアルキルアミノ基、ピペリジニル基、ヒドロキシピペリジニル基、メタクリロイルオキシピペリジニル基、イミダゾール基、メチルイミダゾール基、エチルイミダゾール基、ベンゾイミダゾール基などの環状アミノ基などが挙げられ、中でも、ジエチルアミノ基またはジシクロヘキシル基が好ましい。
【0066】
(C)成分の配合量は、前記(A-1)成分と(A-2)成分の合計100質量部に対して、2~15質量部であることが好ましく、5~10質量部であることがより好ましい。
【0067】
(C)成分はそれぞれ単独で用いてもよく、2種以上を併用して用いてもよい。
【0068】
<ポリシラザン含有組成物の製造方法>
本発明のポリシラザン含有組成物は、その製造方法に制限はなく、例えば、(A-1)成分、(A-2)成分、および(B)成分を混合した溶液に、場合により(C)成分を加えて、超音波を当てながら撹拌することで得ることができる。
【0069】
その他、本発明の組成物には目的に応じ、これら以外の添加剤を添加することができる。
【0070】
<硬化膜>
本発明の硬化膜は、ポリシラザン含有組成物の硬化物である硬化膜である。
このような硬化膜であれば、基材の所望の箇所に所望の形で緻密なガラス膜を提供することができる。
【0071】
<硬化膜を含む物品>
本発明の物品は、基材と、該基材の表面に形成されたポリシラザン含有組成物の硬化物である硬化膜を含む物品である。
【0072】
また、本発明の物品は、基材と、該基材の表面に形成されたポリシラザン含有組成物の硬化物である硬化膜を含む物品の一部分だけに形成された硬化膜を含む物品である。
このような物品であれば、基材の所望の箇所に所望の形で緻密なガラス膜が形成された物品を提供できる。
【0073】
<パターニングされた硬化膜の形成方法>
本発明のポリシラザン含有組成物を用いてパターニングされた硬化膜を形成する方法としては、特に制限はなく、例えば、下記の工程を含む:
(i)前記ポリシラザン含有組成物を基材上に塗布してポリシラザン含有塗膜を形成させる塗布工程、
(ii)ポリシラザン含有塗膜を像様露光する露光工程、
(iii)ポリシラザン含有塗膜の露光部をゲル化させる仮硬化工程、
(iv)ポリシラザン含有塗膜の未露光部分を除去して現像する現像工程、
(v)現像された露光部を硬化させる本硬化工程。
【0074】
(i)塗布工程
基材に対して本発明のポリシラザン含有組成物を塗布する方法としては、例えば、ダイレクトグラビアコータ、チャンバードクターコータ、オフセットグラビアコータ、リバースキスコータ、リバースロールコータ、スロットダイ、リップコータ、エアードクターコータ、一本ロールキスコータ、正回転ロールコータ、ブレードコータ、含浸コータ、MBコータ、MBリバースコータ、ナイフコータ、バーコータなどのロールコート法やスピンコート法、ディスペンス法、ディップ法、スプレー法、転写法、スリットコート法などが挙げられる。
【0075】
塗膜の厚さは硬化膜の使用目的などにより異なるが、硬化膜厚で10~100,000nmであることが好ましく、50~10,000nmであることがより好ましい。
【0076】
ポリシラザン含有組成物を塗布する前に基材に対して表面改質処理を行っても良い。表面改質処理は主に基材とポリシラザンとの密着性を向上させる目的で行われ、基材表面に付着した有機物の分解除去や、基材表面に化学反応点を形成することで実現される。表面改質処理方法としては例えば、アルゴンプラズマ処理、酸素プラズマ処理、オゾン処理、UV照射処理、キセノンエキシマ光照射処理などが挙げられ、基材の種類などにより使い分けられる。
【0077】
(ii)露光工程
ポリシラザン含有塗膜に光線を照射することで像様するための光線の光源としては、例えば、メタルハライドランプ、LED、高圧水銀灯、低圧水銀灯、エキシマレーザー、電子線などが挙げられる。照射エネルギーは、5~5000mJ/cm2が好ましく、10~2000mJ/cm2がより好ましく、50~1000mJ/cm2がさらに好ましい。照射エネルギーが5mJ/cm2より小さいと、当該ポリシラザン含有塗膜が十分に活性化されず、露光部と未露光部で硬化速度に差が生じないために、現像後にパターンが形成されない恐れがある。照射エネルギーが5000mJ/cm2より大きいと、露光過多となり、ハレーションが発生する恐れがある。
【0078】
当該ポリシラザン含有塗膜は、空気中の水分と反応することで硬化反応が進行するために、硬化反応が活性化された露光部のみならず、未露光部のポリシラザン含有塗膜も経時で硬化が進行する。その理由から、精度の高いパターンを得るためには、露光工程は短時間で行う必要があり、5分以内が好ましく、1分以内がより好ましい。
【0079】
像様露光するために、塗膜上で露光部と未露光部を区別する方法としては、例えば、フォトマスクの利用、光線の走査露光などが挙げられ、様々な光源への汎用性の高さから、フォトマスクの利用が好ましい。
【0080】
(iii)仮硬化工程
仮硬化工程は、光線照射によって加熱硬化反応に対して活性化された露光部を、次工程の現像工程で除去されない程度まで硬化反応を進行させる目的で行う。
【0081】
仮硬化の方法は硬化反応が進行する方法であれば特に制約はないが、露光部は加熱硬化に対する活性が高まっていることから、基材を変質させない温度範囲での加熱処理を行ってもよい。
【0082】
前記仮硬化温度は20~200℃で行うことが好ましく、50~150℃がより好ましく、80~120℃で行うことがさらに好ましい。仮硬化温度が20℃以上であれば、露光により熱硬化に対する活性が高まっている露光部と未露光部の熱硬化速度に有意差が得られ、現像によるパターンの形成が可能になる。200℃以下であれば、未露光部がすぐに加熱硬化しないため、現像によるパターンの形成ができる。
【0083】
上記の理由により、本発明で用いる(B)有機溶剤の沸点は、大気圧下(1013hPa)において20~200℃であることが好ましく、25~150℃であることがより好ましい。この範囲内であれば、有機溶剤が仮硬化膜内に残存することもなく、パターンの精度に悪影響を与えない。
【0084】
当該ポリシラザン含有塗膜は、(A-1)ペルヒドロポリシラザンを含むことから、空気中の水分と反応することで硬化反応が進行するために、露光部だけでなく未露光部のポリシラザン塗膜も仮硬化工程で部分的に硬化が進行しうる。その理由から、精度の高いパターンを得るためには、仮硬化は短時間で行う必要があり、30分以内が好ましく、15分以内がさらに好ましい。
【0085】
前記露光工程において使用される光源によっては、光源が発熱することで、露光時に基材および塗膜が加熱される場合がある。この場合は、露光と同時に熱による仮硬化も進行するため、必ずしも仮硬化工程を行う必要はない。
【0086】
(iv)現像工程
未露光部は上記仮硬化工程において硬化が進行しない、あるいは露光部と比較して硬化度が極めて低い。このことから、現像工程により未露光部の塗膜を除去し露光部のみを残存させることでネガ型のパターニングをすることができる。
【0087】
現像方法は、後述する洗浄剤と塗膜を接触させ、未露光部の塗膜を除去する方法であれば特に制限がないが、例えば、塗膜を浸漬させ、必要に応じて洗浄剤の液を撹拌する、あるいは洗浄剤を塗膜にかけ流してリンスする方法が挙げられる。
【0088】
洗浄剤は、未露光部のポリシラザンを溶解しやすく、露光部の仮硬化した塗膜を溶解しないものであれば特に制限がないが、例えば、n-ペンタン、イソペンタン、n-ヘキサン、イソヘキサン、n-ヘプタン、イソヘプタン、n-オクタン、イソオクタン、n-ノナン、イソノナン、n-デカン、イソデカンなどの飽和脂肪族炭化水素、1-オクテン、1-ノネン、1-デセン、1-ドデセン、β-ミルセンなどの不飽和脂肪族炭化水素、シクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ジメチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、デカヒドロナフタレンなどの飽和脂環式炭化水素、シクロヘキセンなどの不飽和脂環式炭化水素、p-メンタン、d-リモネン、l-リモネン、ジペンテンなどのテルペン化合物、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、ジエチルベンゼン、トリメチルベンゼン、トリエチルベンゼン、テトラヒドロナフタレンなどの芳香族炭化水素、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジ-n-ブチルケトン、ジイソブチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、ダイアセトンアルコールなどのケトン化合物、酢酸n-プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸n-ブチル、酢酸イソブチル、酢酸イソアミル、アセト酢酸エチル、カプロン酸エチルなどのエステル化合物、ジエチルエーテル、ジ-n-プロピルエーテル、ジ-n-ブチルエーテル、ジ-n-ペンチルエーテル、ジ-n-ヘキシルエーテル、tert-ブチルメチルエーテルなどのアルキルエーテル化合物、アニソール、ジフェニルエーテルなどのアリールエーテル化合物、ビス(2-メトキシエチル)エーテル、ビス(2-エトキシエチル)エーテル、ビス(2-ブトキシエチル)エーテルなどのグリコールエーテル化合物が挙げられ、トルエン、キシレン、またはジ-n-ブチルエーテルが好ましい。
【0089】
現像工程において、洗浄剤に含まれる水分により、未露光部のポリシラザンがゲル化することを防ぐために、洗浄剤中の水分量は500ppm以下であることが好ましく、300ppm以下であることがより好ましい。
【0090】
(v)本硬化工程
本硬化のための硬化処理は硬化反応が進行する方法であれば特に制約はないが、基材を変質させない方法より適宜選択される必要がある。硬化処理方法としては例えば、加熱処理、水蒸気加熱処理、大気圧プラズマ処理、低温プラズマ処理、UV処理、エキシマ光処理などが挙げられる。
【実施例】
【0091】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明をより詳細に説明するが、本発明は下記実施例によって限定されるものではない。なお、重量平均分子量は、上記条件でGPCにより測定した値である。
【0092】
(A)ポリシラザン
(合成例)
(A-1)ペルヒドロポリシラザンの合成
窒素雰囲気下で脱水ピリジン(4,500g)を-10℃まで冷却し、ジクロロシラン(64L)を吹き込んだ後-10℃で1時間撹拌した。アンモニア(216L)を吹き込み、25℃に戻しながら12時間撹拌した。生じた固体をろ別し、ろ液にジ-n-ブチルエーテル(1,000g)を加えた。液中のピリジンをジ-n-ブチルエーテルと共沸させながら減圧留去し、留出液が4,500gに達した時点で、ジ-n-ブチルエーテル(1,000g)をさらに加えた。続けてピリジンをジ-n-ブチルエーテルと共沸させながら減圧留去することでペルヒドロポリシラザンのジ-n-ブチルエーテル溶液を得た。なお、このペルヒドロポリシラザンの重量平均分子量は6,100であった。その後、溶液全体を100質量部としたときにポリシラザンが20質量部となるようにジ-n-ブチルエーテルを添加した。以下の実施例、比較例では、この溶液を(A-1)成分としてペルヒドロポリシラザン20質量部、(B)成分としてジ-n-ブチルエーテル80質量部を含有するものとみなして使用した。
【0093】
(A-1)′ペルヒドロポリシラザン(低分子量)の合成
窒素雰囲気下で脱水ピリジン(4,500g)を-10℃まで冷却し、ジクロロシラン(16L)を吹き込んだ後-10℃で1時間撹拌した。アンモニア(54L)を吹き込み、25℃に戻しながら12時間撹拌した。生じた固体をろ別し、ろ液にジ-n-ブチルエーテル(1,000g)を加えた。液中のピリジンをジ-n-ブチルエーテルと共沸させながら減圧留去し、留出液が4,500gに達した時点で、ジ-n-ブチルエーテル(1,000g)をさらに加えた。続けてピリジンをジ-n-ブチルエーテルと共沸させながら減圧留去することでペルヒドロポリシラザンのジ-n-ブチルエーテル溶液を得た。なお、このペルヒドロポリシラザンの重量平均分子量は1,800であった。その後、溶液全体を100質量部としたときにポリシラザンが20質量部となるようにジ-n-ブチルエーテルを添加した。以下の実施例、比較例では、この溶液を(A-1)′成分としてペルヒドロポリシラザン20質量部、(B)成分としてジ-n-ブチルエーテル80質量部を含有するものとみなして使用した。
【0094】
(A-2)メチルヒドロポリシラザンの合成
窒素雰囲気下で脱水ピリジン(4,000g)を-10℃まで冷却し、ジクロロメチルシラン(873g)を滴下し、-10℃で1時間撹拌した。アンモニア(510L)を吹き込み、25℃に戻しながら12時間撹拌した。ろ過し、ろ液にジ-n-ブチルエーテル(1,000g)を加えた。液中のピリジンをジ-n-ブチルエーテルと共沸させながら減圧留去し、留出液が4,000gに達した時点で、ジ-n-ブチルエーテル(1,000g)をさらに加えた。続けてピリジンをジ-n-ブチルエーテルと共沸させながら減圧留去することでメチルヒドロポリシラザンのジ-n-ブチルエーテル溶液を得た。なお、このメチルヒドロポリシラザンの重量平均分子量は1,200であった。その後、溶液全体を100質量部としたときにポリシラザンが20質量部となるようにジ-n-ブチルエーテルを添加した。以下の実施例、比較例では、この溶液を(A-2)成分としメチルヒドロポリシラザン20質量部、(B)成分としてジ-n-ブチルエーテル80質量部を含有するものとみなして使用した。
【0095】
(B)有機溶剤
(B-1)ジ-n-ブチルエーテル(関東化学製)
【0096】
(C)光塩基発生剤
(C-1)N,N-ジシクロヘキシルカルバミン酸9-アントリルメチル(富士フィルム和光純薬製)
(C-2)N,N-ジエチルカルバミン酸9-アントリルメチル(富士フィルム和光純薬製)
【0097】
なお、(C-1)成分、(C-2)成分のいずれも、25℃における(B)ジ-n-ブチルエーテル1gへの溶解度が1mg以上であった。
【0098】
[実施例1~14、比較例1~3]
(1)溶液外観の評価
表1、2に示す割合で、前記合成例で調製した(A-1)成分、(A-1)’成分、(A-2)成分、および(B)成分を混合した溶液に、場合により(C)成分を加えて、超音波洗浄機を用いて超音波(38kHz)を当てながら5分間撹拌することでポリシラザン含有組成物の調製を行った。得られたポリシラザン含有組成物の外観を目視にて観察したとき、透明だったものは〇、沈殿が生じていたものは×を表1、2に示した。
【0099】
(2)パターニング性の評価
(i)塗布工程
(1)の評価が○だったポリシラザン含有組成物を、Siウエハーにスピンコート(回転速度1000rpm、回転時間30秒)した。
【0100】
(ii)露光工程
上記工程(i)で作製した塗膜上にフォトマスク(露光部は線幅100μmかつ線間隔500μm)を載せ、メタルハライドランプ(アイグラフィックス製)を用いて、波長365nmの光線について照射エネルギーが800mJ/cm2となるように光線照射した。
【0101】
(iii)仮硬化工程
上記工程(ii)で露光した塗膜について、フォトマスクを除去した後、100℃の乾燥機で10分間加熱することで、塗膜を仮硬化した。
【0102】
(iv)現像工程
上記工程(iii)で加熱した塗膜を、トルエン20mLを用いてリンスした。
【0103】
(v)本硬化工程
上記工程(iv)で現像した仮硬化膜を、150℃の乾燥機で3時間加熱することでSiウエハー上にパターニングされた硬化膜を作製した。
【0104】
上記(i)~(v)の工程を経て作製した、硬化膜のパターンをデジタルマイクロスコープ(KEYENCE製VHX-7000)を用いて観察し、線幅100μmかつ線間隔500μmのパターンが作製できたものは〇、未露光部が洗浄しきれていない、または、露光部が過剰に溶解したためにパターンが途切れたものは×を表1、2に示した。
【0105】
(3)膜厚の評価
顕微分光膜厚計(大塚電子製OPTM-A1)を用いて、上記(2)の評価にて作製したパターン膜の膜厚を測定し、その値を表1、2に示した。
【0106】
【0107】
【0108】
実施例1~5は(C)成分を含まないものの、パターニング性は良好であり、膜厚も十分であった。実施例1~14の中で、(A-1)成分と(A-2)成分の配合量がそれぞれ同じでも(C)成分を含有している実施例6~14(例えば、実施例1と実施例6を比較)は、有機塩基によって露光部の塗膜の硬化が促進されたために、現像時の硬化物の膜減りが低減され、得られたパターンの膜厚が大きくなった。また、(C)成分を含まない実施例1~5は当然に酸を発生せず、(C)成分を含む実施例6~14は酸を発生しない光塩基発生剤を使用したため、実施例1~14において、硬化時に酸が発生することはない。
【0109】
一方、比較例1および2は、本発明における(A-1)成分と(A-2)成分の合計に対する(A-1)成分の配合量が本発明の範囲を逸脱しているために、硬化膜のパターニングができなかった。比較例2は実施例1~14と比較して、(A-1)成分と(A-2)成分の合計に対する(A-1)成分の配合量が本発明の範囲より少ないために、塗膜の硬化が遅く、加熱時の成分揮発量と現像時の塗膜溶解量が多かった。その結果、硬化膜の膜厚が小さくなった。比較例3は実施例1~14と比較して、w1>2w2を満たしていないために、現像工程時に溶出する(A-1)成分が増加した。その結果、硬化膜の膜厚が小さくなった。
【0110】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【0111】
[産業上の利用可能性]
本発明のポリシラザン含有組成物は、光線照射を含む工程を経て作製される硬化膜のパターニング性に優れることから、基材上の所望の微細箇所上にガラス質硬化膜を形成できる。これを利用して、例えば、微小な電子部品の電気的、力学的性能を損なうことなく、長期使用時の信頼性を向上させる保護コーティングとして有用である。