(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-16
(45)【発行日】2024-10-24
(54)【発明の名称】真空処理装置及び真空処理方法
(51)【国際特許分類】
C23C 14/54 20060101AFI20241017BHJP
C23C 14/56 20060101ALI20241017BHJP
【FI】
C23C14/54 D
C23C14/56 D
(21)【出願番号】P 2022133319
(22)【出願日】2022-08-24
【審査請求日】2023-07-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000231464
【氏名又は名称】株式会社アルバック
(74)【代理人】
【識別番号】110003339
【氏名又は名称】弁理士法人南青山国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】福田 義朗
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 俊介
(72)【発明者】
【氏名】木本 孝仁
(72)【発明者】
【氏名】杉村 道成
【審査官】神▲崎▼ 賢一
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-202248(JP,A)
【文献】特開2004-346386(JP,A)
【文献】国際公開第2007/148539(WO,A1)
【文献】特開2000-348971(JP,A)
【文献】特開2008-150636(JP,A)
【文献】特開2014-051429(JP,A)
【文献】特開昭62-247073(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/54
C23C 14/56
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
成膜面と前記成膜面とは反対側の非成膜面とを有する基材を繰り出す巻出ローラと、
前記基材を巻き取る巻取ローラと、
前記基材が搬送される搬送方向において前記巻出ローラと前記巻取ローラとの間に設けられ、前記非成膜面に当接する外周面を有し、前記基材を巻回搬送する主ローラと、
前記非成膜面に当接する前記主ローラの前記外周面に対向する成膜源と、
前記搬送方向において、前記巻出ローラと前記主ローラとの間及び前記巻取ローラと前記主ローラとの間の少なくともいずれかに設けられ、前記基材の搬送をガイドし、前記主ローラによって巻回搬送される前記基材の張力を調整する補助ローラと、
前記主ローラによって巻回搬送される前記基材の温度を計測する温度計と、
前記主ローラにバイアス電位を供給する電源と、
前記主ローラの温度を調節する温調機構と、
前記補助ローラ、前記温度計、前記電源、及び前記温調機構を制御する制御装置と
を具備し、
前記制御装置は、
前記主ローラによって巻回搬送される前記基材の温度を検知し、
前記基材の温度が成膜温度範囲に収まった場合に前記基材に成膜材料を形成する成膜を開始し、
前記基材への成膜開始後、前記基材の温度が閾値範囲を外れた場合、前記基材の温度が前記閾値範囲に収まるように前記主ローラの温度を調節するとともに前記主ローラと前記基材との間の密着力を
前記補助ローラによって前記主ローラによって巻回搬送される前記基材の張力、または、前記電源によって前記主ローラと前記基材との間に働く静電力によって調節し、
前記基材の温度が前記閾値範囲に収まった後に前記主ローラの温度が安定したと判断した場合には、前記基材の温度を前記主ローラの温度調節及び前記主ローラと前記基材との間の密着力とによって調節する制御から前記主ローラの温度によって調節する制御に切り替え、
前記基材の温度が成膜温度範囲で前記基材への前記成膜材料の成膜を継続する
真空処理装置。
【請求項2】
請求項
1に記載された真空処理装置であって、
前記制御装置は、前記密着力を前記主ローラによって巻回搬送される前記基材の張力または前記主ローラと前記基材との間に働く静電力によって制御する
真空処理装置。
【請求項3】
成膜面と前記成膜面とは反対側の非成膜面とを有する基材を繰り出す巻出ローラと、
前記基材を巻き取る巻取ローラと、
前記基材が搬送される搬送方向において前記巻出ローラと前記巻取ローラとの間に設けられ、前記非成膜面に当接する外周面を有し、前記基材を巻回搬送する主ローラと、
前記非成膜面に当接する前記主ローラの前記外周面に対向する成膜源と、
前記搬送方向において、前記巻出ローラと前記主ローラとの間及び前記巻取ローラと前記主ローラとの間の少なくともいずれかに設けられ、前記基材の搬送をガイドし、前記主ローラによって巻回搬送される前記基材の張力を調整する補助ローラと、
前記主ローラによって巻回搬送される前記基材の温度を計測する温度計と、
前記主ローラにバイアス電位を供給する電源と、
前記主ローラの温度を調節する温調機構とを具備する真空処理装置を用いて、
前記主ローラによって巻回搬送される前記基材の温度を検知し、
前記基材の温度が成膜温度範囲に収まった場合に前記基材に成膜材料を形成する成膜を開始し、
前記基材への成膜開始後、前記基材の温度が閾値範囲を外れた場合、前記基材の温度が前記閾値範囲に収まるように前記主ローラの温度を調節するとともに前記主ローラと前記基材との間の密着力を
前記補助ローラによって前記主ローラによって巻回搬送される前記基材の張力、または、前記電源によって前記主ローラと前記基材との間に働く静電力によって調節し、
前記基材の温度が前記閾値範囲に収まった後に前記主ローラの温度が安定した場合には、前記基材の温度を前記主ローラの温度調節及び前記主ローラと前記基材との間の密着力とによって調節する制御から前記主ローラの温度によって調節する制御に切り替え、
前記基材の温度が成膜温度範囲で前記基材への前記成膜材料の成膜を継続する
真空処理方法。
【請求項4】
請求項
3に記載された真空処理方法であって、
前記密着力を前記主ローラによって巻回搬送される前記基材の張力または前記主ローラと前記基材との間に働く静電力によって制御する
真空処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空処理装置及び真空処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
長尺状の成膜用基材(帯状フィルム、以下、基材とする)を減圧雰囲気で主ローラに巻回しながら、この成膜用基材に被膜を形成するロール・トゥ・ロール方式の成膜装置がある。このような成膜装置では、主ローラによって巻回搬送される基材に成膜源を対向させて、成膜源から放出される成膜材料を基材に堆積させる(例えば、特許文献1参照)。これにより、主ローラによって巻回搬送される基材に被膜が形成される。また、このような成膜装置では、温度制御された媒体が供給されることによって主ローラが一定温度に保たれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、何らかの外的要因によって主ローラに巻回搬送される基材の温度が変化した場合、主ローラに供給される媒体の温度のみによって主ローラの温度を制御しようとすると、媒体と主ローラとの熱容量の違いによって媒体の温度を所定の温度に設定しても主ローラの温度が、その温度にただちに追従しないことがある。これにより、主ローラが目的温度に達すまでに所定の時間がかかり、主ローラによって巻回搬送される基材が変形(例えば、皺発生)する場合がある。
【0005】
以上のような事情に鑑み、本発明の目的は、主ローラに巻回搬送される基材の温度が変化した場合、主ローラに巻回搬送される基材の変形を抑え、信頼性の高い被膜が形成された基材を形成する真空処理装置及び真空処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明の一形態に係る真空処理装置は、巻出ローラと、巻取ローラと、主ローラと、成膜源と、補助ローラと、温度計と、電源と、温調機構と、制御装置とを具備する。
上記巻出ローラは、成膜面と上記成膜面とは反対側の非成膜面とを有する基材を繰り出す。
上記巻取ローラは、上記基材を巻き取る。
上記主ローラは、上記基材が搬送される搬送方向において上記巻出ローラと上記巻取ローラとの間に設けられ、上記非成膜面に当接する外周面を有し、上記基材を巻回搬送する。
上記成膜源は、上記非成膜面に当接する上記主ローラの上記外周面に対向する。
上記補助ローラは、上記搬送方向において、上記巻出ローラと上記主ローラとの間及び上記巻取ローラと上記主ローラとの間の少なくともいずれかに設けられ、上記基材の搬送をガイドし、上記主ローラによって巻回搬送される上記基材の張力を調整する。
上記温度計は、上記主ローラによって巻回搬送される上記基材の温度を計測する。
上記電源は、上記主ローラにバイアス電位を供給する。
上記温調機構は、上記主ローラの温度を調節する。
上記制御装置は、上記補助ローラ、上記温度計、上記電源、及び上記温調機構を制御する。
上記制御装置は、
上記主ローラによって巻回搬送される上記基材の温度を検知し、
上記基材の温度が成膜温度範囲に収まった場合に上記基材に成膜材料を形成する成膜を開始し、
上記基材への成膜開始後、上記基材の温度が閾値範囲を外れた場合、上記基材の温度が上記閾値範囲に収まるように上記主ローラの温度を調節するとともに上記主ローラと上記基材との間の密着力を調節し、
上記基材の温度が成膜温度範囲で上記基材への上記成膜材料の成膜を継続する。
【0007】
このような真空処理装置によれば、主ローラに巻回搬送される基材の温度が変化した場合、より主ローラに巻回搬送される基材の変形が抑えられ、信頼性の高い被膜が形成された基材が形成される。
【0008】
上記の真空処理装置において、上記制御装置は、上記基材の温度が上記閾値範囲に収まった後に上記主ローラの温度が安定したと判断した場合には、上記基材の温度を上記主ローラの温度調節及び上記主ローラと上記基材との間の密着力とによって調節する制御から上記主ローラの温度によって調節する制御に切り替えてもよい。
【0009】
このような真空処理装置によれば、主ローラに巻回搬送される基材の温度が変化した場合、より主ローラに巻回搬送される基材の変形が抑えられ、信頼性の高い被膜が形成された基材が形成される。
【0010】
上記の真空処理装置において、上記制御装置は、上記密着力を上記主ローラによって巻回搬送される上記基材の張力または上記主ローラと上記基材との間に働く静電力によって制御してもよい。
【0011】
このような真空処理装置によれば、主ローラに巻回搬送される基材の温度が変化した場合、主ローラに巻回搬送される基材の変形が抑えられ、信頼性の高い被膜が形成された基材が形成される。
【0012】
上記目的を達成するため、本発明の一形態に係る真空処理方法では、上記真空処理装置を用いて、
上記主ローラによって巻回搬送される上記基材の温度が検知され、
上記基材の温度が成膜温度範囲に収まった場合に上記基材に成膜材料を形成する成膜が開始され、
上記基材への成膜開始後、上記基材の温度が閾値範囲を外れた場合、上記基材の温度が上記閾値範囲に収まるように上記主ローラの温度を調節するとともに上記主ローラと上記基材との間の密着力が調節され、
上記基材の温度が成膜温度範囲で上記基材への上記成膜材料の成膜が継続される。
【0013】
このような真空処理方法によれば、主ローラに巻回搬送される基材の温度が変化した場合、主ローラに巻回搬送される基材の変形が抑えられ、信頼性の高い被膜が形成された基材が形成される。
【0014】
上記の真空処理方法においては、上記基材の温度が上記閾値範囲に収まった後に上記主ローラの温度が安定した場合には、上記基材の温度を上記主ローラの温度調節及び上記主ローラと上記基材との間の密着力とによって調節する制御から上記主ローラの温度によって調節する制御に切り替えてもよい。
【0015】
このような真空処理方法によれば、主ローラに巻回搬送される基材の温度が変化した場合、より主ローラに巻回搬送される基材の変形が抑えられ、信頼性の高い被膜が形成された基材が形成される。
【0016】
上記の真空処理方法においては、上記密着力を上記主ローラによって巻回搬送される上記基材の張力または上記主ローラと上記基材との間に働く静電力によって制御してもよい。
【0017】
このような真空処理方法によれば、主ローラに巻回搬送される基材の温度が変化した場合、より主ローラに巻回搬送される基材の変形が抑えられ、信頼性の高い被膜が形成された基材が形成される。
【発明の効果】
【0018】
以上述べたように、本発明によれば、主ローラに巻回搬送される基材の温度が変化した場合、主ローラに巻回搬送される基材の変形を抑え、信頼性の高い被膜が形成された基材を形成する真空処理装置及び真空処理方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本実施形態に係る真空処理装置の一例を示す模式図である。
【
図2】本実施形態の真空処理方法の一例を示すフローチャート図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。また、同一の部材または同一の機能を有する部材には同一の符号を付す場合があり、その部材を説明した後には適宜説明を省略する場合がある。また、以下に示す数値は例示であり、この例に限らない。
【0021】
図1は、本実施形態に係る真空処理装置の一例を示す模式図である。
図1に例示された真空処理装置1は、大気圧未満の減圧雰囲気の条件下で長尺状の基材90に被膜を形成するロール・トゥ・ロール方式の真空処理装置である。
図1では、主ローラ40の中心軸40cの方向がY軸方向とされ、成膜源20から主ローラ40に向かう方向がZ軸方向とされる。Y軸方向とZ軸方向とに直交する方向がX軸方向とされる。
【0022】
真空処理装置1は、真空槽10と、成膜源20と、主ローラ40と、巻出ローラ41と、巻取ローラ42と、補助ローラ45と、補助ローラ46と、補助ローラ47と、補助ローラ48と、バイアス電源50と、温度計51と、温調機構52と、制御装置60と、排気機構70とを具備する。真空処理装置1は、基材90に発生する皺を検知する画像処理装置を備えてもよい。また、補助ローラは、ガイドローラと称してもよい。
【0023】
真空処理装置1は、主ローラ40、巻出ローラ41、巻取ローラ42のそれぞれを回転する回転駆動機構(不図示)を備える。回転駆動機構は、必要に応じて補助ローラに設けてもよい。真空処理装置1は、補助ローラ43を矢印430の方向に移動させる移動機構(不図示)を備え、補助ローラ44を矢印440の方向に移動させる移動機構(不図示)を備える。また、真空処理装置1は、真空槽10にガスを供給するガス供給機構を備えてもよい。
【0024】
真空処理装置1において、基材90は、成膜用基材である。基材90は、真空槽10内で巻出ローラ41から、補助ローラ45と補助ローラ43と補助ローラ47とを介して主ローラ40に搬送され、さらに、主ローラ40から、補助ローラ48と補助ローラ44と補助ローラ46とを介して巻取ローラ42に所定の搬送速度で搬送される。例えば、基材90は、巻出ローラ41に巻かれ、巻出ローラ41から補助ローラ45と補助ローラ43と補助ローラ47とを介して主ローラ40に繰り出される。巻出ローラ41から主ローラ40に繰り出された基材90は、主ローラ40によって巻回搬送され、補助ローラ48と補助ローラ44と補助ローラ46とを介して巻取ローラ42によって巻き取られる。主ローラ40によって巻回搬送された基材90には、成膜源20から放出された成膜材料が堆積して、基材90に被膜が形成される。本実施形態では、基材90が搬送される方向に沿った方向を搬送方向とする。
【0025】
真空槽10は、密閉構造を有する。真空槽10は、真空ポンプP1を有する排気機構70によって、所定の減圧雰囲気に維持可能となる。真空処理装置1は、例えば、成膜室11と、処理室12とを有する。成膜室11と処理室12とは、仕切壁13によって区分けされる。真空槽10は、
図1の例では、成膜源20と、主ローラ40と、巻出ローラ41と、巻取ローラ42と、補助ローラ48と、補助ローラ44と、補助ローラ46と、補助ローラ48と、補助ローラ44と、補助ローラ46と、温度計51とを収容する。
【0026】
仕切壁13には、主ローラ40が仕切壁13に接触せずに処理室12から、主ローラ40の一部が成膜室11に入り込めるように開口14が設けられている。また、仕切壁13に開口14が設けられることによって、主ローラ40と仕切壁13との間に隙間が形成される。主ローラ40に巻回搬送された基材90は、この隙間を通じて、処理室12と成膜室11との間を通過する。
【0027】
成膜源20は、成膜室11に設けられる。成膜源20は、例えば、蒸発源を含む。成膜源20は、主ローラ40の外周面403に対向する。成膜源20は、抵抗加熱式蒸発源、誘導加熱式蒸発源、または電子ビーム加熱式蒸発源等で構成される。成膜源20からは、例えば、アルカリ金属、アルカリ土類金属等の成膜材料が主ローラ40に向けて蒸発する。成膜材料は、例えば、Li、Na等のアルカリ金属、Mg、Ca等のアルカリ土類金属等を含む。基材90に形成される被膜の厚みは、20μm以下である。この被膜がLi膜の場合、この被膜は、例えば、リチウム電池の負極に適用される。
【0028】
成膜室11は、排気機構70に接続される。成膜室11は、排気機構70によって減圧状態を維持する。処理室12は、開口14を介して成膜室11と連通する。成膜室11が排気されると、開口14を介して処理室12が排気される。
図1の例では、処理室12には排気機構70に接続されていない。これにより、成膜室11が排気されると成膜室11よりも処理室12の方が高圧となる圧力差が生じる。この圧力差によって、成膜源20からの蒸気流21(成膜材料)が開口14を通じて処理室12に侵入することが抑制される。なお、必要に応じて、処理室12を排気機構で排気してもよい。
【0029】
主ローラ40は、基材90が搬送される方向において、巻出ローラ41と巻取ローラ42との間に設けられる。主ローラ40の一部は、成膜室11に配置され、残りの部分が処理室12に配置される。主ローラ40は、成膜源20に対向する。主ローラ40は、基材90の非成膜面(裏面)90rに当接する外周面403を有する。
図1の例では、主ローラ40は、反時計回りに回転する。本実施形態では、主ローラ40が回転する方向を回転方向Rとする。
【0030】
主ローラ40は、ステンレス鋼、鉄、アルミニウム等の金属材料を含み、筒状に構成される。主ローラ40の内部には、例えば、温調機構(不図示)が設けられてもよい。主ローラ40の中心軸40cの方向の幅は、基材90の幅よりも大きく設定される。主ローラ40は、巻出ローラ41によって巻き出された基材90を巻回搬送し、被膜が形成された基材90を巻取ローラ42に向けて繰り出す。
【0031】
巻出ローラ41は、処理室12に設けられる。巻出ローラ41には、基材90が予め巻回される。巻出ローラ41は、その中心軸周りに所定の回転速度で矢印方向に回転する。巻出ローラ41は、基材90を主ローラ40に向けて繰り出す。
【0032】
巻取ローラ42は、処理室12に設けられる。巻取ローラ42は、その中心軸周りに所定の回転速度で矢印方向に回転する。巻取ローラ42は、主ローラ40によって巻回搬送され、成膜材料が堆積した基材90を巻き取る。
【0033】
搬送方向において、巻出ローラ41と主ローラ40との間には、補助ローラ45、43、47の組が設けられる。補助ローラ45は、搬送方向において巻出ローラ41と補助ローラ43との間に設けられ、基材90の搬送をガイドする。補助ローラ43は、搬送方向において補助ローラ45と補助ローラ47との間に設けられ、基材90の搬送をガイドする。補助ローラ47は、搬送方向において補助ローラ43と主ローラ40との間に設けられ、基材90の搬送をガイドする。
【0034】
補助ローラ45、43、47の中、補助ローラ43は、移動機構によって矢印430の方向に移動することができる。これにより、主ローラ40によって巻回搬送される基材90の張力を調整することができる。例えば、補助ローラ43が成膜室11の側に近づいた場合には、主ローラ40によって巻回搬送される基材90に引張力が働くことから、主ローラ40によって巻回搬送される基材90の張力が増加する。換言すれば、補助ローラ43が成膜室11の側に近づいた場合には、基材90と主ローラ40との間の密着力が増加し、基材90と主ローラ40との間の熱伝導性が向上する。
【0035】
一方、補助ローラ43が成膜室11の側から離れた場合には、主ローラ40によって巻回搬送される基材90の張力が緩むことから、主ローラ40によって巻回搬送される基材90の張力が減少する。換言すれば、補助ローラ43が成膜室11の側から離れた場合には、基材90と主ローラ40との間の密着力が減少し、基材90と主ローラ40との間の熱伝導性が低下する。補助ローラ43は、ガイドローラと称するほか、張力制御ローラと称してもよい。
【0036】
また、搬送方向において、巻取ローラ42と主ローラ40との間には、補助ローラ48、44、46の組が設けられる。補助ローラ48は、搬送方向において主ローラ40と補助ローラ44との間に設けられ、基材90の搬送をガイドする。補助ローラ44は、搬送方向において補助ローラ48と補助ローラ46との間に設けられ、基材90の搬送をガイドする。補助ローラ46は、搬送方向において補助ローラ44と巻取ローラ42との間に設けられ、基材90の搬送をガイドする。
【0037】
補助ローラ48、44、46の中、補助ローラ44は、移動機構によって矢印440の方向に移動することができる。これにより、補助ローラ44によっても、主ローラ40によって巻回搬送される基材90の張力を調整することができる。例えば、補助ローラ44が成膜室11の側に近づいた場合には、主ローラ40によって巻回搬送される基材90に引張力が働くことから、主ローラ40によって巻回搬送される基材90の張力が増加する。換言すれば、補助ローラ44が成膜室11の側に近づいた場合には、基材90と主ローラ40との間の密着力が増加し、基材90と主ローラ40との間の熱伝導性が向上する。
【0038】
一方、補助ローラ44が成膜室11の側から離れた場合には、主ローラ40によって巻回搬送される基材90の張力が緩むことから、主ローラ40によって巻回搬送される基材90の張力が減少する。換言すれば、補助ローラ44が成膜室11の側から離れた場合には、基材90と主ローラ40との間の密着力が減少し、基材90と主ローラ40との間の熱伝導性が低下する。補助ローラ44は、ガイドローラと称するほか、張力制御ローラと称してもよい。
【0039】
真空処理装置1において、補助ローラ43、45、47の組及び補助ローラ44、46、48の組のいずれかは適宜取り除いてもよい。すなわち、真空処理装置1においては、搬送方向において、巻出ローラ41と主ローラ40との間及び巻取ローラ42と主ローラ40との間の少なくともいずれかに、移動機構によって制御される補助ローラが設けられる。
【0040】
基材90は、成膜面90dと、成膜面90dとは反対側の非成膜面90rとを有する。成膜面90dは、成膜源20に対向する。成膜面90dには、成膜源20から放出される蒸気流21が堆積して、主ローラ40上で基材90の成膜面90dに被膜が形成される。非成膜面90rは、主ローラ40の外周面403に当接する。
【0041】
基材90は、シート状且つ長尺状のフィルムである(厚み:50μm以下)。基材90は、可撓性を有する。例えば、基材90は、OPP(延伸ポリプロピレン)樹脂、PET(ポリエチレンテレフタレート)樹脂、PPS(ポリフェニレンサルファイト)樹脂、PI(ポリイミド)樹脂等の帯状のフィルムである。基材90は、Cu、Al、Ni、SUS鋼等の帯状の金属箔であってもよい。
【0042】
バイアス電源50は、主ローラ40にバイアス電位(例えば、正電位)を供給する。バイアス電源50は、真空槽10の外部に設けられる。主ローラ40にバイアス電位を供給することにより、基材90と主ローラとの間に静電力が働く。これにより、主ローラ40によって基材90を巻回搬送しているとき、主ローラ40と基材90との間に静電密着力(以下、単に密着力とする)が働いて、主ローラ40上での基材90のずれ、皺が抑制される。
【0043】
また、バイアス電源50によって主ローラ40に供給するバイアス電位を調整することにより、基材90と主ローラ40との間の密着力を変更することができる。これにより、基材90と主ローラ40との間の熱伝導性を調整することができる。例えば、基材90と主ローラ40との間の密着力を増加させれば、基材90と主ローラ40との間の熱伝導性が向上し、基材90と主ローラ40との間の密着力を低下させれば、基材90と主ローラ40との間の熱伝導性が低下する。なお、真空槽10、巻出ローラ41、巻取ローラ42、補助ローラ45、43、47、及び補助ローラ48、44、46は、接地電位となっている。
【0044】
温度計51は、主ローラ40によって巻回搬送される基材90の温度を計測する。温度計51は、主ローラ40に接触した後の基材90の温度を計測する。温度計51は、基材90に対して非接触型の温度計であり、例えば、赤外線センサを含む。温度計51は、真空槽10の外部に設置されてよい。この場合、温度計51は、真空槽10に設けられた窓を介して基材90の温度を計測する。主ローラ40の温度と基材90の温度の検量線は、成膜開始前に予め求められている。この検量線は、制御装置60に格納されている。
【0045】
温調機構52は、媒体によって主ローラ40の温度を調節する。温調機構52は、真空槽10の外部に設けられる。例えば、所定の温度に設定された媒体が温調機構52から配管(不図示)を通じて主ローラ40に供給されて、主ローラ40から媒体が別の配管(不図示)を通じて温調機構52に還元される。この動作が繰り返されて、主ローラ40の温度が所定の温度に調整される。主ローラ40の外周面403の温度と媒体の温度の検量線は、成膜開始前に予め求められている。この検量線は、制御装置60に格納されている。主ローラ40の温度と基材90の温度の検量線と、主ローラ40の外周面403の温度と媒体の温度の検量線とを組み合わせることにより、媒体の設定温度によって主ローラ40に接触した基材90の温度を設定することができる。
【0046】
制御装置60は、成膜源20、主ローラ40、巻出ローラ41、巻取ローラ41、補助ローラ43、44、温度計51、バイアス電源50、及び温調機構52を制御する。制御装置60は、真空槽10の外部に設けられる。例えば、制御装置60は、成膜源20を制御して、基材90に成膜を行うか否かを制御する。制御装置60は、主ローラ40、巻出ローラ41、及び巻取ローラ41を制御して、基材90の搬送速度を制御する。制御装置60は、移動機構を介して補助ローラ43、44のそれぞれの位置を制御して、基材90と主ローラ40との間の密着力を制御する。また、制御装置60は、バイアス電源50を介して主ローラ40に供給するバイアス電位を制御して、基材90と主ローラ40との間の密着力を制御する。また、制御装置60は、温調機構52を介して主ローラ40に供給する媒体の温度を制御して、主ローラ40の温度または基材90の温度を制御する。また、制御装置60は、温度計51から基材90の温度を検知して、補助ローラ43、44、バイアス電源50、及び温調機構52のそれぞれを制御する。
【0047】
真空処理装置1を用いて、基材90の成膜面90dに成膜源20の成膜材料を成膜する成膜方法について説明する。以下に示す成膜方法は、制御装置60によって自動的に行われる。
【0048】
例えば、制御装置60は、主ローラ40によって巻回搬送される基材90の温度を温度計51によって検知する。制御装置60は、基材90の温度が成膜温度範囲に収まった場合に基材90に成膜材料を形成する成膜を開始する。制御装置60は、基材90への成膜開始後、基材90の温度が閾値範囲(閾値範囲<成膜温度範囲)から外れた場合、基材90の温度が閾値範囲に収まるように主ローラ40の温度を調節するとともに主ローラ40と基材90との間の密着力を調節する。制御装置60は、基材90の温度が成膜温度範囲で基材90への成膜材料の成膜を継続する。
【0049】
ここで、制御装置60は、基材90の温度が閾値範囲に収まった後に主ローラ40の温度が安定したと判断した場合には、基材90の温度を主ローラ40の温度調節及び主ローラ40と基材90との間の密着力とによって調節する制御から主ローラ40の温度によって調節する制御に切り替える。制御装置60は、密着力を主ローラ40によって巻回搬送される基材90の張力または主ローラ40と基材90との間に働く静電力によって制御する。
【0050】
図2は、本実施形態の真空処理方法の一例を示すフローチャート図である。
図2に示すフローに従って成膜方法を具体的に説明する。このフローは、制御装置60によって自動的に行われる。
【0051】
先ず、成膜開始前に、主ローラ40の温度調節が行われる(ステップS10)。例えば、上記の検量線が用いられ、温度計51によって検知される基材90の温度が所望の成膜温度となるように、温調機構52から主ローラ40に供給される媒体の温度が目的とする温度に設定される。
【0052】
次に、基材90の温度が成膜温度範囲(ΔTd)にあるか否かの判断がなされる(ステップS20)。例えば、温度計51によって検知された基材90の温度が制御装置60に送信される。基材90の温度が成膜温度範囲であるならば(Yes)、次のステップS30に進む。一方、基材90の温度が成膜温度範囲でないならば(No)、引き続き主ローラ40の温度調節が行われる。
【0053】
次に、基材90の温度が成膜温度範囲である場合、成膜が開始される(ステップS30)。例えば、成膜源20から放出される蒸気流21が基材90に堆積して、基材90に被膜が形成される。
【0054】
次に、成膜開始後、蒸発源などの熱源による輻射、成膜膜厚調整のための搬送速度変更等の外的要因が発生したか否かが判断される(ステップS40)。ここで、温度計51によって検知される基材90の温度に成膜温度からの変動(±Δ5℃)があった場合には、外的要因が発生したとみなし(Yes)、次のステップS50に進む。一方、温度計51によって検知される基材90の温度に変動がない場合には、外的要因が発生ないとみなし(No)、引き続き成膜が継続される。なお、外的要因とは、例えば、蒸発源などの熱源による輻射、成膜膜厚調整のための搬送速度変更等である。
【0055】
次に、成膜開始後、外的要因が発生したと判断された場合、基材90の温度が閾値温度範囲(ΔTα)であるか否かが判断される(ステップS50)。ここで、基材90の温度が閾値温度範囲でない場合には(No)、次のステップS60に進む。一方、基材90の温度が閾値温度範囲である場合には(Yes)、引き続き成膜が継続されながら、基材90の温度が閾値温度範囲であるか否かが判断される。
【0056】
次に、基材90の温度が閾値温度範囲でない場合、温調機構52によって媒体の温度が調節される(ステップS60)。例えば、温度計51によって検知される基材90の温度が閾値温度範囲となるように、温調機構52から主ローラ40に供給される媒体の温度が所定の温度に設定される。
【0057】
例えば、基材90の温度が閾値温度範囲の上限(Tmax)を超えたならば、温調機構52から主ローラ40に供給される媒体の温度を低下させる。一方、基材90の温度が閾値温度範囲の下限(Tmin)よりも低くなったならば、温調機構52から主ローラ40に供給される媒体の温度を上昇させる。
【0058】
但し、主ローラ40に供給される媒体の温度のみによって主ローラ40の温度を制御しようとすると、媒体と主ローラ40との熱容量の違いによって主ローラ40の温度が所望の温度に暫くの間、追従しないことがある。従って、本実施形態では、主ローラ40の温度が所望の温度に到達するまでの時間を短縮するために、媒体の温度を所定の温度に設定しながら、基材90と主ローラ40との間の密着力を増加させ(ステップS70)、基材90と主ローラ40との間の熱伝導性を向上させて、基材90の温度が閾値温度範囲となるように制御される。
【0059】
基材90と主ローラ40との間の密着力は、移動機構を介して補助ローラ43、44の少なくともいずれかの位置を制御したり、主ローラ40に供給するバイアス電位を制御したりすることによって調整される。例えば、基材90の温度が閾値温度範囲の上限(Tmax)を超えたり、下限(Tmin)よりも低くなったりした場合には、基材90と主ローラ40との間の密着力を増加させる。すなわち、基材90と主ローラ40との熱伝導性を向上させることによって、基材90の温度が迅速に閾値温度範囲に収束するように制御される。
【0060】
次に、基材90と主ローラ40との間の密着力を増加させた後においては、基材90の温度が閾値温度範囲(ΔTα)であるか否かが判断される(ステップS80)。ここで、基材90の温度が閾値温度範囲である場合には(Yes)、次のステップS90に進む。一方、基材90の温度が閾値温度範囲でない場合には(No)、引き続き成膜が継続されながら、基材90の温度が閾値温度範囲であるか否かが判断される。
【0061】
次に、基材90の温度が閾値温度範囲である場合、温調機構52による媒体温度の調節による媒体温度が安定しているか否かの判断がなされる(ステップS90)。ここで、温調機構52の媒体温度が安定している場合には(Yes)、次のステップS100に進む。一方、温調機構52の媒体温度が安定していない場合には(No)、引き続き成膜が継続されながら、温調機構52の媒体温度が安定しているか否かの判断がなされる。温調機構52の媒体温度が安定しているか否かは、媒体温度Tmの単位時間当たりの温度変化量ΔTm/Δt(tは時間(分))が所望の範囲にあるか否かによって判断される。
【0062】
次に、温調機構52の媒体温度が安定した場合、基材90と主ローラ40との間の密着力を減少させる(ステップS100)。この理由は、基材90と主ローラ40との間の密着力を増加させたまま成膜を継続させると、基材90に過剰な負荷がかかった状態で成膜が継続されてしまうからである。例えば、張力を増加させた場合には、基材90に強い張力がかかったままの状態で成膜が継続され、静電密着力を増加させた場合には、強い密着力によって主ローラ40に密着した基材90が主ローラ40から剥がれることになる。また、これらの負荷は、基材90だけでなく、基材90に形成された被膜にも悪影響を及ぼす可能性がある。
【0063】
このため、本実施形態では、温調機構52の媒体温度が安定した後においては、基材90と主ローラ40との間の密着力を減少させる。例えば、補助ローラ43、44の位置が元の位置(成膜を開始したときの位置)に戻されたり、主ローラ40に供給するバイアス電位が元のバイアス電位(成膜を開始したときのバイアス電位)に戻されたりする。
【0064】
これにより、基材90の温度を主ローラ40の温度調節及び主ローラ40と基材90との間の密着力とによって調節する制御から、主ローラ40の温度によって調節する制御に切り替えられる(ステップS110)。
【0065】
この後、基材90の温度が閾値温度範囲(ΔTα)であるか否かが判断される(ステップS120)。ここで、基材90の温度が閾値温度範囲である場合には(Yes)、成膜が継続される。すなわち、基材90への負荷が解除された状態で成膜が継続される。一方、基材90の温度が閾値温度範囲でない場合には(No)、ステップS60に戻り、ステップS60からステップS120までのルーチンが繰り返される。
【0066】
なお、基材90がPET樹脂である場合には、基材90の成膜温度範囲は、-50℃~100℃の範囲に設定される。閾値温度範囲は主ローラの設定温度に対して±10℃の範囲に設定される。また、基材90が金属である場合には、基材90の成膜温度範囲は、-50℃~180℃の範囲に設定される。閾値温度範囲は主ローラの設定温度に対して±10℃の範囲に設定される。また、ΔTm/Δtは、1℃/min以下とされる。
【0067】
また、密着力の調整については、例えば、基材90が金属材料である場合に、補助ローラ43、44による張力調整に張力の上限値を設けてもよい。例えば、基材90が金属材料のとき、基材90にかかる張力が閾値(上限値)を超えると、基材90に亀裂が生じる虞がある。このため、補助ローラ43、44による張力調整には、張力の上限値を設けてもよい。例えば、その上限値は、0.06N/mm基材幅/μm厚みとする。制御装置60は、張力が上限値を超えると判断した場合、張力による基材90の密着力調整から静電密着力による基材90の密着力調整に切り替えることができる。
【0068】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態にのみ限定されるものではなく種々変更を加え得ることは勿論である。各実施形態は、独立の形態とは限らず、技術的に可能な限り複合することができる。
【符号の説明】
【0069】
1…真空処理装置
10…真空槽
11…成膜室
12…処理室
13…仕切壁
14…開口
20…成膜源
21…蒸気流
40…主ローラ
40c…中心軸
41…巻出ローラ
42…巻取ローラ
43、44、45、46、47、48…補助ローラ
50…バイアス電源
51…温度計
52…温調機構
60…制御装置
70…排気機構
90…基材
90d…成膜面
90r…非成膜面
403…外周面