(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-16
(45)【発行日】2024-10-24
(54)【発明の名称】排ガス分析装置、排ガス分析方法及び排ガス分析装置用プログラム記憶媒体
(51)【国際特許分類】
G01N 1/22 20060101AFI20241017BHJP
G01N 21/3504 20140101ALI20241017BHJP
G01N 21/61 20060101ALI20241017BHJP
【FI】
G01N1/22 G
G01N21/3504
G01N21/61
(21)【出願番号】P 2022553867
(86)(22)【出願日】2021-09-22
(86)【国際出願番号】 JP2021034823
(87)【国際公開番号】W WO2022071066
(87)【国際公開日】2022-04-07
【審査請求日】2023-12-25
(31)【優先権主張番号】P 2020167674
(32)【優先日】2020-10-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2020185255
(32)【優先日】2020-11-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000155023
【氏名又は名称】株式会社堀場製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100121441
【氏名又は名称】西村 竜平
(74)【代理人】
【識別番号】100154704
【氏名又は名称】齊藤 真大
(74)【代理人】
【識別番号】100206151
【氏名又は名称】中村 惇志
(74)【代理人】
【識別番号】100218187
【氏名又は名称】前田 治子
(74)【代理人】
【識別番号】100227673
【氏名又は名称】福田 光起
(72)【発明者】
【氏名】石▲崎▼ 智彦
(72)【発明者】
【氏名】吉村 友志
【審査官】佐野 浩樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-275801(JP,A)
【文献】特開2010-223702(JP,A)
【文献】特開平11-230869(JP,A)
【文献】特開2001-099781(JP,A)
【文献】特開平10-267885(JP,A)
【文献】特開2014-174054(JP,A)
【文献】米国特許第07414726(US,B1)
【文献】米国特許第06230103(US,B1)
【文献】米国特許出願公開第2008/0147295(US,A1)
【文献】特開平08-043288(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0245193(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M15/00-15/14
G01N1/00-1/44
21/00-21/01
21/17-21/61
21/75-21/83
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料を燃焼して生じた排ガスを分析する排ガス分析装置であって、
前記排ガス中の測定対象成分の濃度を計測する第1分析計と、
前記排ガス中のCO
2
濃度を計測する第2分析計と、
前記燃料を構成する水素と炭素の比である水炭比を記憶する記憶部又は前記水炭比の入力を受け付ける入力受付部と、
測定された前記CO
2濃度と前記燃料の水炭比とに基づいて、前記排ガス中の水分濃度を推定する水分濃度推定部と、
推定された前記水分濃度
と、前記水分濃度と前記第1分析計の感度との関係を示す感度係数と、に基づいて、測定された前記測定対象成分の濃度
に対する水分の影響を補正する補正部と
を有する排ガス分析装置。
【請求項2】
前記第1分析計がウェット計測により前記測定対象成分の濃度を計測し、
前記第2分析計がドライ計測により前記CO
2
濃度を計測するものである請求項1に記載の排ガス分析装置。
【請求項3】
前記水分濃度推定部が、ドライ計測された前記CO
2濃度をウェット計測値に換算したウェットCO
2濃度に対して前記水炭比を乗じることにより、又はこれと等価な演算により前記排ガス中の水分濃度を推定する請求項2に記載の排ガス分析装置。
【請求項4】
前記第2分析計によりドライ計測された前記CO
2濃度を、前記水炭比に基づいてウェット計測値に換算するCO
2濃度換算部を更に有し、
前記補正部が、前記水分濃度推定部が推定した前記水分濃度と、前記CO
2濃度換算部が換算したCO
2濃度とを用いて、前記測定対象成分の濃度を補正する請求項2又は3に記載の排ガス分析装置。
【請求項5】
前記水分濃度推定部が、測定された前記CO
2濃度と、前記燃料の水炭比と、大気中の水分濃度と、前記排ガスにおけるCO
2成分の分圧と、前記排ガスにおけるH
2O成分の分圧とに基づいて前記排ガス中の水分濃度を推定する請求項1~4の何れか一項に記載の排ガス分析装置。
【請求項6】
前記CO
2濃度換算部が、前記燃料の水炭比と、前記排ガスにおけるCO
2成分の分圧とに基づいて、前記第2分析計によりドライ計測された前記CO
2濃度をウェット計測値に換算する請求項4を引用する請求項5に記載の排ガス分析装置。
【請求項7】
前記燃料の組成と前記燃料の完全燃焼式とに少なくとも基づいて、前記排ガスにおけるCO
2成分及びH
2O成分のそれぞれの分圧を算出する算出部を更に備える請求項5又は6に記載の排ガス分析装置。
【請求項8】
前記第1分析計がウェット計測により前記測定対象成分の濃度を計測し、
前記第2分析計がウェット計測により前記CO
2
濃度を計測するものである請求項1に記載の排ガス分析装置。
【請求項9】
前記測定対象成分がNO
xである請求項1~
8のいずれか一項に記載の排ガス分析装置。
【請求項10】
前記第1分析計がCLD検出器である請求項
9に記載の排ガス分析装置。
【請求項11】
燃料を燃焼して生じた排ガスを分析する排ガス分析方法であって、
前記排ガス中の測定対象成分の濃度を
第1分析計で計測し、
前記排ガス中のCO
2
濃度を
第2分析計で計測し、
測定した前記CO
2濃度と前記燃料を構成する水素と炭素の比である水炭比とに基づいて、前記排ガス中の水分濃度を推定し、
推定した前記水分濃度
と、前記水分濃度と前記第1分析計の感度との関係を示す感度係数と、に基づいて、測定した前記測定対象成分の濃度
に対する水分の影響を補正する排ガス分析方法。
【請求項12】
燃料を燃焼して生じた排ガスを分析するものであり、前記排ガス中の測定対象成分の濃度を計測する第1分析計と、前記排ガス中のCO
2
濃度を計測する第2分析計とを備える排ガス分析装置用のプログラムを記憶する排ガス分析装置用プログラム記憶媒体であって、
前記燃料を構成する水素と炭素の比である水炭比を記憶する記憶部と、
測定された前記CO
2濃度と前記燃料の水炭比とに基づいて、前記排ガス中の水分濃度を推定する水分濃度推定部と、
推定された前記水分濃度
と、前記水分濃度と前記第1分析計の感度との関係を示す感度係数と、に基づいて、測定された前記測定対象成分の濃度
に対する水分の影響を補正する補正部としての機能をコンピュータに発揮させる排ガス分析装置用プログラムを記憶する排ガス分析装置用プログラム記憶媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排ガスを分析する排ガス分析装置、排ガス分析方法及び排ガス分析装置用プログラム記憶媒体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば自動車の車両等から排出される排ガスの分析のため、種々のガス分析計を用いてNOx等の測定対象成分の濃度が測定されている。この排ガス中には例えば燃料の燃焼により生じる水分が含まれており、排ガス中のNOx等の測定対象成分の濃度をガス分析計を用いて測定すると、その測定値には水分の干渉による測定誤差が含まれることが知られている。そのため従来、例えば水分濃度計を用いて排ガス中の水分濃度を測定し、この測定した水分濃度に応じて、排ガス中の測定対象成分の濃度を補正することが行われている(例えば特許文献1)。
【0003】
しかしながら、この水分濃度計では、校正を行う際に種々の水分濃度のガスを準備する必要があるが、狙った水分濃度のガスを精度よく生成するのが難しく、そのため校正が難しいという問題がある。また、省スペース化やコスト削減の観点から、水分濃度計を別途設けたくないという要求もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上述した問題に鑑みてなされたものであり、水分濃度計を用いることなく、排ガス中の測定対象成分への水分影響を補正することができる排ガス分析装置を提供することを主たる課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち、本発明に係る排ガス分析装置は、燃料を燃焼して生じた排ガスを分析する排ガス分析装置であって、前記排ガス中の測定対象成分の濃度を計測する第1分析計と、前記排ガス中のCO2の濃度を計測する第2分析計と、前記燃料を構成する水素と炭素の比である水炭比を記憶する記憶部又は前記水炭比の入力を受け付ける入力受付部(すなわち、記憶部と入力受付部の少なくとも一方)と、測定された前記CO2濃度と前記燃料の水炭比とに基づいて、前記排ガス中の水分濃度を推定する水分濃度推定部と、推定された前記水分濃度に基づいて、測定された前記測定対象成分の濃度を補正する補正部とを有することを特徴とする。
【0007】
このようなものであれば、排ガス中のCO2濃度と燃料の水炭比とを用いて、排ガス中の水分濃度を理論的に推定する水分濃度推定部を備えるので、水分濃度計を用いて水分濃度を直接測定することなく、測定対象成分への水分影響を補正することができる。
【0008】
本発明の効果を顕著に奏する前記排ガス分析装置の態様として、前記第1分析計がウェット計測により前記測定対象成分の濃度を計測し、前記第2分析計がドライ計測により前記CO2の濃度を計測するものが挙げられる。
【0009】
前記水分濃度推定部の具体的態様として、ドライ計測された前記CO2濃度をウェット計測値に換算したウェットCO2濃度に対して前記水炭比を乗じることにより、又はこれと等価な演算により前記排ガス中の水分濃度を推定するものが挙げられる。
【0010】
前記排ガス分析装置の具体的態様として、前記第2分析計によりドライ計測された前記CO2濃度を、前記水炭比に基づいてウェット計測値に換算するCO2濃度換算部を更に有し、前記補正部が、前記水分濃度推定部が推定した前記水分濃度と、前記CO2濃度換算部が換算したCO2濃度とを用いて、前記測定対象成分の濃度を補正するものが挙げられる。
【0011】
前記排ガス中の水分濃度をさらに精度よく推定するには、前記水分濃度推定部は、測定された前記CO2濃度と、前記燃料の水炭比と、大気中の水分濃度と、前記排ガスにおけるCO2成分の分圧と、前記排ガスにおけるH2O成分の分圧とに基づいて前記排ガス中の水分濃度を推定するように構成されるのが好ましい。
【0012】
ウェットCO2濃度をより精度よく算出するには、前記CO2濃度換算部が、前記燃料の水炭比と、前記排ガスにおけるCO2成分の分圧とに基づいて、前記第2分析計によりドライ計測された前記CO2濃度をウェット計測値に換算するようにするのが好ましい。
【0013】
また前記排ガス分析装置は、前記燃料の組成と前記燃料の完全燃焼式とに少なくとも基づいて、前記排ガスにおけるCO2成分及びH2O成分のそれぞれの分圧を算出する算出部を更に備えるのが好ましい。
【0014】
前記測定対象成分の具体的な態様としてはNOxが挙げられる。また、前記第1分析計の具体的な態様としてはCLD検出器が挙げられる。
【0015】
また本発明の排ガス分析方法は、燃料を燃焼して生じた排ガスを分析する方法であって、前記排ガス中の測定対象成分の濃度を計測し、前記排ガス中のCO2の濃度を計測し、測定した前記CO2濃度と前記燃料を構成する水素と炭素の比である水炭比とに基づいて、前記排ガス中の水分濃度を推定し、推定した前記水分濃度に基づいて、測定した前記測定対象成分の濃度を補正することを特徴とする。
【0016】
また本発明の排ガス分析装置用プログラム記憶媒体は、燃料を燃焼して生じた排ガスを分析し、前記排ガス中の測定対象成分の濃度を計測する第1分析計と、前記排ガス中のCO2の濃度を計測する第2分析計とを備える排ガス分析装置用のプログラムを記憶するものであって、前記燃料を構成する水素と炭素の比である水炭比を記憶する記憶部と、測定された前記CO2濃度と前記燃料の水炭比とに基づいて、前記排ガス中の水分濃度を推定する水分濃度推定部と、推定された前記水分濃度に基づいて、測定された前記測定対象成分の濃度を補正する補正部としての機能をコンピュータに発揮させるプログラムを記憶することを特徴とする。
【0017】
このような排ガス分析方法や排ガス分析装置用プログラム記憶媒体であれば、上述した排ガス分析装置により得られる作用効果と同様の作用効果を奏し得る。
【発明の効果】
【0018】
このように構成した本発明によれば、水分濃度計を用いることなく、排ガス中の測定対象成分への水分影響を補正することができる排ガス分析装置を提供することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本実施形態の排ガス分析システムの構成を模式的に示す図。
【
図2】同実施形態の排ガス分析装置の機能を示す機能ブロック図。
【
図3】同実施形態の排ガス分析装置が記憶する各燃料の水炭比の一例。
【
図4】同実施形態の排ガス分析装置を用いた排ガス分析を説明するフローチャート。
【
図5】他の実施形態の排ガス分析装置の機能を示す機能ブロック図。
【
図6】他の実施形態の排ガス分析装置の機能を示す機能ブロック図。
【
図7】他の実施形態の排ガス分析装置が記憶する燃料組成情報の一例。
【
図8】他の実施形態の排ガス分析装置の機能を示す機能ブロック図。
【符号の説明】
【0020】
2 ・・・排ガス分析装置
21 ・・・第1分析計
22 ・・・第2分析計
232・・・補正部
233・・・記憶部
235・・・水分濃度推定部
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に本発明に係る排ガス分析装置を備える排ガス分析システムの一実施形態について図面を参照して説明する。
【0022】
本実施形態の排ガス分析システム100は、例えばエンジン等の内燃機関で燃料(例えばガソリン等)を燃焼して排出される排ガス中の測定対象成分の濃度を測定するために用いられるものである。
【0023】
具体的に、この排ガス分析システム100は、
図1に示すように、シャシ試験装置を用いて行われる車両のモード運転試験(WLTPモード、JC08モード等)において、エンジンから排出される排ガス中の測定対象成分の濃度を測定するものである。より具体的には、排ガスを全量サンプリングするとともに、全量サンプリングした排ガスに希釈ガスを混合して希釈排ガスを生成し、該希釈排ガスの流量が一定になるように構成した定容量サンプリング(CVS)装置1と、希釈排ガスをサンプリングして収容するサンプリングバッグMと、希釈排ガスサンプリングバッグに収容された希釈排ガスを分析して、該希釈排ガス中の測定対象成分の濃度を測定し、その測定結果に基づいて排ガス中の測定対象成分の濃度を算出する排ガス分析装置2とを備えている。
【0024】
CVS装置1は、
図1に示すように、内燃機関101の排気管102から排出される排ガスが流れるメイン流路MLと、メイン流路MLに合流するとともに、排ガスを希釈する希釈ガスが流れる希釈ガス流路DLと、メイン流路MLと希釈ガス流路DLとの合流点より下流側に設けられ、希釈ガスにより希釈された希釈排ガスの流量を一定に制御する流量制御部12とを備えるものである。
【0025】
流量制御部12は、
図1に示すように、臨界流量ベンチュリCFV及び吸引ポンプPとからなる臨界流量ベンチュリ方式のものである。本実施形態では1つの臨界流量ベンチュリCFVを設けてあるが、複数の臨界流量ベンチュリCFVを並列に設け、例えば開閉弁等を用いて希釈排ガスを流す臨界流量ベンチュリCFVを変更することで、希釈排ガスの流量を変更できるように構成してもよい。
【0026】
上述したCVS装置1により、排ガスと希釈ガスとの総流量、すなわち希釈排ガスの流量が一定になった状態において、希釈排ガスの一部は希釈排ガスサンプリング流路SLを経てサンプリングバッグMへ収容される。
【0027】
サンプリングバッグMに収容された希釈排ガス(以下において、サンプルガスともいう)は排ガス分析装置2へ供給され、該排ガス分析装置2によって、排ガス中の測定対象成分の濃度が算出される。
【0028】
排ガス分析装置2は、
図2に示すように、サンプリングバッグMから供給されたサンプルガス中の測定対象成分の濃度を測定する第1分析計21と、同サンプルガス中のCO
2の濃度を測定する第2分析計22と、第1分析計21が測定した測定対象成分の濃度値を補正する演算装置23とを具備するものである。
なお、本実施形態では測定対象成分はNO
x(NO及びNO
2)である。
【0029】
第1分析計21は、具体的にはCLD(化学発光法)検出器であり、本実施形態では、サンプルガス中のNOxをウェット計測するように構成されている。具体的には、第1分析計21にサンプルガスを導入する第1導入流路L1には、流れるサンプルガスを例えば露点温度以上の所定温度に加熱する加熱部(加熱ブロック)Hが設けられている。
【0030】
第2分析計22は、CO2濃度を測定できるものであれば任意のものでよく、例えば、NDIR(非分散赤外吸収法)検出器、FTIR(フーリエ変換赤外分光法)検出器等が挙げられる。
【0031】
この第2分析計22は、本実施形態ではサンプルガス中のCO2濃度をドライ計測するように構成されている。具体的には、第1導入流路L1から分岐しており、サンプルガスを第2分析計22に導入する第2導入流路L2には、サンプルガス中の水分濃度を調整する水分濃度調整部Dが設けられている。この水分濃度調整部Dは、サンプルガスの温度を変更して水分濃度を一定に保つことで、サンプルガスに含まれる水分濃度を予め設定された設定濃度まで下げるものである。具体的にこの水分濃度調整部Dは、例えば第2分析計22に導入されるサンプルガスを露点温度以下まで冷却して除湿する除湿器を利用したものである。
【0032】
演算装置23は、測定対象成分であるNO
xに対する他の成分の干渉影響を補正するものであり、CPU、メモリ、AD変換機等を備えた専用乃至汎用のコンピュータである。そして演算装置23は、
図2に示すように、メモリに記憶された分析プログラムに従って前記CPUやその周辺機器が協働することにより、感度係数記憶部231と、補正部232としての機能を少なくとも発揮するものである。
【0033】
感度係数記憶部231は、前記メモリの所定領域に形成されており、NOxに対する他の干渉成分の影響を補正するための感度係数を記憶するものである。この感度係数を示す感度係数データは、製品出荷前や製品稼働前に予め感度係数記憶部231に格納される。
【0034】
具体的にこの感度係数は、第1分析計21の感度に対する各干渉成分の影響を表すものであり、より具体的には、各干渉成分の濃度と、当該濃度における第1分析計21の感度の相対誤差との関係を示すものである。本実施形態では、干渉成分とはサンプルガス中に主として含まれるNOx以外の成分であり、具体的にはCO2及びH2O(以下、水分ともいう)である。感度係数記憶部231は、CO2濃度に対する第1分析計21の感度係数KCO2と、水分濃度に対する第1分析計21の感度係数KH2Oとを記憶している。
【0035】
補正部232は、第1分析計21に導入されるサンプルガス中の各干渉成分の濃度と、各干渉成分に対する第1分析計21の感度係数とを用いて、第1分析計21が測定したサンプルガス中のNOx濃度を補正するものである。補正部232は、第1分析計21に導入されるサンプルガス中のCO2濃度及び水分濃度と、感度係数KCO2、KH2Oとを用いて、以下の式(1)又はこれと等価な演算により、第1分析計21が測定したNOx濃度を補正する。
【0036】
ここで、
NO
x_a:補正前のNO
x濃度(第1分析計21が測定したNO
x濃度値)[ppm
]
NO
x_b:補正後のNO
x濃度[ppm]
CO
2:第1分析計21に導入されるサンプルガス中のCO
2濃度であり、ここではウェット計測値[ppm]
C
H2O:第1分析計21に導入されるサンプルガス中の水分濃度[ppm]
である。
【0037】
しかして本実施形態の排ガス分析装置2は、水分濃度計を用いることなく第1分析計21に導入されるサンプルガス中の水分濃度を算出すべく、
図2に示すように、演算装置23が、入力受付部230と、水炭比記憶部233と、CO
2濃度換算部234と、水分濃度推定部235としての機能を更に備えている。
【0038】
入力受付部230は、使用される燃料に関する情報(例えば、燃料種類、水炭比等)の入力を受付け、これをCO2濃度換算部234及び水分濃度推定部235に出力する。本実施形態の入力受付部230は、使用される燃料種類に関する情報の入力を受け付ける。なお、これらの情報は、例えばマウスやキーボード等の所定の入力手段を用いてユーザにより入力される。
【0039】
水炭比記憶部233は、前記メモリの所定領域に形成されており、内燃機関に使用される燃料を構成する水素と炭素の比である水炭比を、燃料の種類と関連付けて記憶するものである。本実施形態の水炭比記憶部233には、複数種類の燃料に対応する水炭比を示す水炭比データが、製品出荷前や製品稼働前に予め格納される。この水炭比データは、例えばルックアップテーブル等の表形式等で保存されてよい。
【0040】
具体的にこの水炭比データが示す各燃料の水炭比は、
図3の表に示すように、各燃料を構成する炭素原子(C)の原子数に対する水素原子(H)の原子数の比率H/Cや、各燃料が完全燃焼すると仮定した際に生じるCO
2の分子数に対する水分子(H
2O)の分子数の比率F
H2Oである。
【0041】
CO2濃度換算部234は、第2分析計22によりドライ計測されたCO2濃度をウェット計測値に換算したウェットCO2濃度を算出するものである。具体的にこのCO2濃度換算部234は、第2分析計22によりドライ計測されたCO2濃度と水炭比記憶部233が記憶する水炭比とを用いて、以下の式(2)又はこれと等価な演算を行うことによりウェットCO2濃度を算出する。なおここでは、CO2濃度換算部234は、入力受付部230から受け付けた燃料種類に関する情報に基づき、使用された燃料の水炭比を水炭比記憶部233から取得するように構成されている。
【0042】
ここで、
CO
2(wet):ウェットCO
2濃度[ppm]、
CO
2(dry):第2分析計22がドライ計測したCO
2濃度[ppm]、
F
H2O:使用した燃料の水炭比
である。
【0043】
水分濃度推定部235は、第1分析計21に導入されるサンプルガス中の水分濃度を推定する(以下、この推定した濃度を推定水分濃度ともいう)ものである。具体的にこの水分濃度推定部235は、第2分析計22が測定したCO2濃度と、水炭比記憶部233が記憶する水炭比とを用いて、以下の式(3)又はこれと等価な演算を行うことにより推定水分濃度を算出する。なおここでは、水分濃度推定部235は、入力受付部230から受け付けた燃料種類に関する情報に基づき、使用された燃料の水炭比を水炭比記憶部233から取得するように構成されている。
【0044】
ここで、
C
H2O(esti):推定水分濃度[ppm]、
CO
2(dry):第2分析計22がドライ計測したCO
2濃度[ppm]、
F
H2O:使用した燃料の水炭比
である。
【0045】
なお、上記した式(2)及び式(3)は、燃料の水炭比と、当該燃料を燃焼させて得られるサンプルガス中の水分濃度とCO2濃度との関係を示す以下の式(4)と、ドライ計測値であるCO2濃度を水分濃度に基づいてウェット計測値に換算する以下の式(5)とを解くことにより、導出されるものである。
【0046】
【0047】
そして補正部232は、水分濃度推定部235が算出した推定水分濃度と、CO2濃度換算部234が算出したウェットCO2濃度とを用いて、第1分析計21により測定されたNOx濃度を補正する。すなわち、補正部232は、式(1)における水分濃度として推定水分濃度CH2O(esti)を用い、CO2濃度としてウェットCO2濃度CO2(
wet)を用いてNOx濃度を補正する。
【0048】
次に、本実施形態の排ガス分析装置2の動作について、
図4のフローチャートを参照して説明する。
ユーザはまず車両試験に用いられる燃料に関する情報(燃料種類)を入力する(ステップS11)。そして、サンプリングバッグMに収容されているサンプルガスを第1分析計21及び第2分析計22で分析し、サンプルガス中のNO
x濃度及びCO
2濃度(ドライ測定値)を測定する(ステップS12)。水分濃度推定部235は、第2分析計22が測定したCO
2濃度(ドライ測定値)と、入力された燃料種類に対応する水炭比とに基づいて、第1分析計21に導入されたサンプルガスに含まれる推定水分濃度を算出する。またCO
2濃度換算部は、第2分析計22が測定したCO
2濃度(ドライ測定値)と、入力された燃料種類に対応する水炭比とに基づいて、ドライ測定値をウェット測定値に換算したCO
2濃度(ウェット)を算出する(ステップS13)。そして、補正部232は、算出された推定水分濃度と、CO
2濃度(ウェット)と、感度係数とに基づいて、第1分析計21が算出したNO
x濃度を補正する(ステップS14)。
【0049】
このように構成された本実施形態の排ガス分析装置2によれば、排ガス中のCO2濃度と燃料の水炭比とを用いて、排ガス中の水分濃度を理論的に推定する水分濃度推定部235を備えるので、水分濃度計を用いて水分濃度を直接測定することなく、CLD検出器21で測定されるNOxの濃度への水分影響を補正することができる。
【0050】
なお、本発明は前記実施形態に限られるものではない。
【0051】
例えば、他の実施形態の排ガス分析装置2は、
図5に示すように、第1分析計21と第2分析計22がいずれもウェット計測を行うように構成されてもよい。この場合、排ガス分析装置2はCO
2濃度換算部234としての機能を備えていなくてもよい。この場合、水分濃度推定部235は、第2分析計22が測定したCO
2濃度と、水炭比記憶部233が記憶する水炭比とを用いて、以下の式(6)又はこれと等価な演算を行うことにより、推定水分濃度を算出するように構成されてよい。
【0052】
ここで、
C
H2O(esti):推定水分濃度[ppm]、
CO
2(wet):第2分析計22がウェット計測したCO
2濃度[ppm]、
F
H2O:使用した燃料の水炭比
である。
【0053】
そしてこの場合、補正部232は、水分濃度推定部235が算出した推定水分濃度と、第2分析計22がウェット測定したCO2濃度とを用いて、第1分析計21により測定されたNOx濃度を補正する。
【0054】
また前記実施形態の入力受付部230は、燃料種類に関する情報の入力を受け付けるものであったが、他の実施形態では燃料の水炭比(H/C、FH2O)に関する情報の入力を受け付けるように構成されてもよい。この場合、入力受付部230は、水炭比に関する情報を受け付けると、これを水炭比記憶部233に格納し、CO2濃度換算部234及び水分濃度推定部235は、水炭比記憶部233に格納された水炭比を参照して上記演算を行うようにしてもよい。
【0055】
前記実施形態では第1分析計21はCLD検出器であったが、NDIR検出器、FID検出器、FTIR検出器、QCL-IR検出器等、他の原理を用いた検出器を用いてもよい。
【0056】
前記実施形態では、測定対象成分がNOxであったが、これに限らずCO、HC及びTHC等の炭素化合物や、SO2、H2S等の硫黄化合物等の他の成分を測定対象成分としてもよい。
【0057】
前記実施形態では、排ガス分析システム100は排ガスを全量サンプリングして希釈するものであったがこれに限定されない。他の実施形態では、排ガスの一部をサンプリングして希釈するものであってもよい。
【0058】
また前記実施形態の排ガス分析装置2は、排ガスを希釈した希釈排ガスを分析するものであったが、これに限らない。他の実施形態の排ガス分析装置2は、希釈されていない排ガスそのものを分析するように構成されてもよい。
【0059】
前記実施形態では、排ガス分析システム100は、シャシ試験装置を用いた試験で排出される排ガス中の測定対象成分を測定するものであったが、これに限定されない。他の実施形態では、エンジン試験装置やパワートレイン等の駆動試験装置を用いた試験において排出される排ガス中の測定対象成分を測定するものであってもよい。
【0060】
前記実施形態では、排ガス分析システム100は、エンジン等の内燃機関から排出される排ガス中の測定対象成分を測定するものであったがこれに限定されない。他の実施形態では、火力発電所等の外燃機関や工場等から排出される排ガス中の測定対象成分を測定するものであってもよい。
【0061】
また他の実施形態の排ガス分析システム100は、車両試験が行われる試験環境(例えば車両試験室)における大気(以下、試験大気ともいう)に含まれる少なくともH
2O濃度及びCO
2濃度を測定するガスセンサ(図示しない)を備えており、排ガス分析装置2は、
図6に示すように、測定された試験大気中のH
2O濃度及びCO
2濃度に関する情報(大気ガス情報)を取得し、当該大気ガス情報を加味して測定対象成分の濃度を補正するように構成されてもよい。
【0062】
この場合、演算装置23は、燃料組成記憶部236及び分圧補正係数算出部(特許請求の範囲でいう算出部)237としての機能をさらに発揮するようにしてもよい。
【0063】
燃料組成記憶部236は、内燃機関に使用される燃料の組成に関する情報(単に組成情報ともいう)を燃料の種類と関連付けて記憶するものである。具体的にこの組成情報は、
図7の表に示すように、元素Cの数で規格化した各燃料の化学式における各元素の数(ここでは、H元素の数n、O元素の数m)を示すものである。この燃料組成記憶部236には、複数種類の燃料に対応する燃料の組成を示す燃料組成データが、製品出荷前や製品稼働前に予め格納される。この燃料組成データは、例えばルックアップテーブル等の表形式等で保存されてよい。
【0064】
分圧補正係数算出部237は、分析計やセンサを用いて測定された各種ガス濃度の測定値を、その分圧に基づいて補正(単に分圧補正ともいう)するための分圧補正係数を算出するものである。本実施形態の分圧補正係数算出部237は、第2分析計22が測定したサンプルガス中のCO2濃度を分圧補正するための第1分圧補正係数αと、水分濃度計が測定した試験大気中のH2O濃度を分圧補正するための第2分圧補正係数βとを算出する。
【0065】
分圧補正係数は、試験大気の圧力(具体的には大気圧)に対する、サンプルガス中における補正対象ガスの分圧の割合であり、第1分圧補正係数α及び第2分圧補正係数βは以下の式(7)及び(8)によりそれぞれ表される。
α=サンプルガス中のCO2の分圧/大気圧 (7)
β=サンプルガス中のH2Oの分圧/大気圧 (8)
この“サンプルガス中のCO2の分圧”とは、サンプルガス中における、“試験大気中に存在するCO2に由来する分圧”と“燃料の燃焼により生じるCO2に由来する分圧”との和を意味する。“サンプルガス中のH2Oの分圧”についても同様である。
【0066】
ここで分圧補正係数算出部237は、入力受付部230が受け付けた燃料種類に関する情報と、燃料組成記憶部236が記憶する組成情報と、大気中のガス成分を考慮した燃料(その組成をCH
nO
mとする)の完全燃焼式(9)とに少なくとも基づいて、サンプルガス中のCO
2及びH
2Oのそれぞれの分圧を算出して、上記各分圧補正係数α及びβを算出する。
ここで、
CH
nO
m:燃料、
H
2O
(air):試験大気中のH
2O成分、
CO
2(air):試験大気中のCO
2成分、
CO
2(cоmb):燃焼により生じるCO
2成分
H
2O
(cоmb):燃焼により生じるH
2O成分
である。
【0067】
そしてこの実施形態では、CO2濃度換算部234は、第2分析計22によりドライ計測されたCO2濃度と水炭比記憶部233が記憶する水炭比とに加えて、分圧補正係数算出部237が算出した第1分圧補正係数αを更に用いて、以下の式(10)又はこれと等価な演算を行うことによりウェットCO2濃度を算出するようにしてよい。
【0068】
ここで、
CO
2(wet):ウェットCO
2濃度[ppm]、
CO
2(dry):第2分析計22がドライ計測したCO
2濃度[ppm]、
F
H2O:使用した燃料の水炭比、
α:第1分圧補正係数
である。
【0069】
またこの実施形態では、水分濃度推定部235は、第2分析計22が測定したCO2濃度と水炭比記憶部233が記憶する水炭比とに加えて更に、測定した試験大気中のH2O濃度と、分圧補正係数算出部237が算出した第1分圧補正係数α及び第2分圧補正係数βとを用いて、以下の式(11)又はこれと等価な演算を行うことにより推定水分濃度を算出するようにしてよい。
【0070】
ここで、
C
H2O(esti):推定水分濃度[ppm]、
CO
2(dry):第2分析計22がドライ計測したCO
2濃度[ppm]、
F
H2O:使用した燃料の水炭比、
H:試験大気中のH
2O濃度[ppm]、
α:第1分圧補正係数、
β:第2分圧補正係数
である。
【0071】
そして補正部232は、このようにして算出されたウェットCO2濃度及び推定水分濃度を用いて、第1分析計21が測定したサンプルガス中のNOx濃度を補正するようにしてよい。
【0072】
また他の実施形態では、試験車両がEGR(Exhaust Gas Recirculation、排ガス再循
環)システムを搭載している場合には、排ガス分析装置2は、試験車両のECUからEGR率に関する情報を取得し、分圧補正係数算出部237は当該取得したEGR率に関する情報を用いて第1分圧補正係数α及び第2分圧補正係数βを算出するようにしてもよい。
【0073】
また前記実施形態の排ガス分析装置2は、感度係数記憶部231、水炭比記憶部233及び燃料組成記憶部236としての機能を備えていたがこれに限らない。他の実施形態の排ガス分析装置2は、
図8に示すようにこれらの記憶部としての機能を備えていなくてもよい。この場合、入力受付部230が、感度係数、水炭比及び燃料組成に関する情報の入力を受け付け、これらの情報を補正部232、CO
2濃度換算部234、水分濃度推定部235及び分圧補正係数算出部237に出力するように構成してもよい。
【0074】
その他、本発明は前記実施形態に限られず、その趣旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能であるのは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明の排ガス分析装置によれば、水分濃度計を用いることなく、排ガス中の測定対象成分への水分影響を補正することができる。