(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-16
(45)【発行日】2024-10-24
(54)【発明の名称】細菌捕集方法および装置
(51)【国際特許分類】
G01N 33/48 20060101AFI20241017BHJP
G01N 1/10 20060101ALI20241017BHJP
B04B 5/02 20060101ALI20241017BHJP
【FI】
G01N33/48 C
G01N1/10 H
B04B5/02 A
(21)【出願番号】P 2023509999
(86)(22)【出願日】2021-03-31
(86)【国際出願番号】 JP2021013764
(87)【国際公開番号】W WO2022208703
(87)【国際公開日】2022-10-06
【審査請求日】2023-08-10
(73)【特許権者】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテク
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】杉山 清隆
(72)【発明者】
【氏名】藤田 浩子
(72)【発明者】
【氏名】曽根原 剛志
【審査官】海野 佳子
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2018/0036728(US,A1)
【文献】登録実用新案第3193194(JP,U)
【文献】特開2005-279507(JP,A)
【文献】特開2010-127708(JP,A)
【文献】特開昭49-110822(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48-33/98
G01N 1/10
B04B 5/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
側面に少なくとも1つの貫通孔を有する第1の容器に試料を導入する工程と
、
第1の容器と第2の容器とを第1の遠心力にて遠心し、前記試料を微生物を含む溶液と血球を含む溶液とに分離させる第1の分離工程と、
前記微生物を含む溶液を前記貫通孔から第2の容器に排出させ、第2の容器に前記微生物を含む溶液を捕集する第2の分離工程と
を含
み、
第2の容器は、第1の分離工程及び第2の分離工程の際に、第1の容器を内包し、第2の容器の内部が前記貫通孔を介して第1の容器の内部に連通するように配置され、
第2の分離工程が、第1の遠心力よりも大きい第2の遠心力にて第1の容器と第2の容器とを遠心すること、又は第2の容器内部の圧力を減圧することを含み、それにより、前記微生物を含む溶液を前記貫通孔から第2の容器に排出させる、微生物捕集方法。
【請求項2】
前記貫通孔が、
(a)直径10~200μmを有する、および/または
(b)第1の容器の高さの1/5以上の高さに設けられている、
請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記試料が血液試料である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記微生物が、細菌、真菌および放線菌から選択される少なくとも1つの微生物を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
第2の容器が試薬を含み、
第2の分離工程において、捕集された前記微生物を含む溶液に混入する血球を前記試薬により破壊することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記試薬が少なくとも1種の界面活性剤を含む、請求項
5に記載の方法。
【請求項7】
請求項1に記載の方法により試料に含まれる微生物を捕集する工程と、
前記捕集された微生物を用いて目的の濃度の微生物液を調製する工程と、
前記微生物液を用いて微生物の増殖度判定を行う工程と
を含む、試料に含まれる微生物の増殖度判定方法。
【請求項8】
側面に少なくとも1つの貫通孔を有し、試料が導入される第1の容器と、
試薬が導入される部分を備えた第2の容器と
を含み、第1の容器
が第2の容器に内包
され、第2の容器の内部が前記貫通孔を介して第1の容器の内部に連通されることを特徴とする、微生物の捕集に使用するためのキット。
【請求項9】
前記試薬が導入される部分に試薬が予め導入されている、請求項
8に記載のキット。
【請求項10】
前記貫通孔が、
(a)直径10~200μmを有する、および/または
(b)第1の容器の高さの1/5以上の高さに設けられている、
請求項
8に記載のキット。
【請求項11】
第1の容器が、遠心力が印加される方向に対して第2の容器よりも内側に配置される、請求項
8に記載のキット。
【請求項12】
第1の容器と第2の容器とを一緒に遠心するように構成された遠心機と、
前記遠心機の遠心力を制御するように構成された制御部と
を備え、
第1の容器は、側面に少なくとも1つの貫通孔を有し、試料が導入されるものであり、
第2の容器は、第1の容
器を内包
し、第2の容器の内部が前記貫通孔を介して第1の容器の内部に連通するように構成され、
前記制御部は、
第1の容器に導入された前記試料を、微生物を含む溶液と血球を含む溶液に分離させる、第1の遠心力を用いた第1の分離と、
第1の分離に引き続き、前記微生物を含む溶液を第1の容器の前記貫通孔から第2の容器に排出させる、第1の遠心力よりも大きい第2の遠心力を用いた第2の分離と
を行うように前記遠心機の遠心力を制御する
ことを特徴とする微生物捕集装置。
【請求項13】
第2の容器が試薬を備えるものであり、
前記微生物を含む溶液が第2の容器に排出された後に、前記微生物を含む溶液に混入する血球が前記試薬により破壊される、請求項
12に記載の装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細菌検査の前処理のための方法、キットおよび装置に関する。より具体的には、血球細胞などの不純物が含まれる試料からの血球と細菌の分離、血球の破壊、および細菌の捕集を連続的に行うための方法、キットおよび装置に関する。
【背景技術】
【0002】
敗血症は致死率の高い感染症であり、適切な治療を迅速に行うことが重要である。通常敗血症の判定には血液培養検査が行われ、無菌試料である血液中に細菌が存在するかどうかの判定が行われる。一般的にはその後に塗抹検査を行い、血液培養陽性の試料を分離培養し、得られたコロニーに対して細菌の種類を特定する同定検査、その細菌の抗菌薬に対する感受性を測定する感受性検査が行われる。以上の一連の検査は、血液培養試験に1日、分離培養に1日、さらに感受性検査に1日を要するため全体で2~3日の検査時間を要する。従って、適切な抗菌薬による治療が実施できているかどうか判明するまでには、現状2~3日を要し、効果の無い抗菌薬が投与されていた場合には、致死率は極めて高くなる。
【0003】
はじめに血液培養試験では、敗血症の場合に含まれる10CFU/mL(CFU:コロニー形成単位)程度と極めて少ない細菌を培養ボトル中で増殖させる。一般的には8時間~一晩程度の培養を行い、細菌の発育によって生成されたガス成分等が検出可能なレベルになるまで増殖を行う。従って、血液培養が陽性となった培養ボトルの中には106~1010CFU/mLの細菌が含まれることが知られている。血液培養陽性時の細菌の濃度は患者の血液の状態や菌種、血液培養試験装置などによっても異なるため前述のような幅広い範囲をとる。血液培養ボトル中の細菌以外の主要な成分は血球成分、培地および抗生物質を吸着するレジン、ビーズ、活性炭などである。中でも血液中に存在する赤血球や白血球の濃度は高く、それぞれ109個/mLおよび107個/mL程度と細菌の濃度と同等かそれ以上である。
【0004】
次に行う分離培養では、血液培養陽性となった試料を寒天培地に塗布しコロニーを発育させる。コロニーから菌液を調製することで、細菌以外の不純物がなく感受性検査に必要な細菌濃度(一般的には105~106CFU/mL)を有する試料を得ることができる。
【0005】
最後の感受性検査では、一般的には、細菌が含まれる菌液中に一定濃度の抗菌薬を導入し、抗菌薬の濃度に応じた細菌の増殖度合いを判定する。感受性試験の結果が変動してしまうため、一定の細菌濃度の菌液を事前に調製しておくことが重要である。以上が感受性検査の一連の流れであり、感受性検査に関しては検査終了までの時間を迅速化する研究が現在進んでいる。現状のゴールデンスタンダートの方式は濁度の変化により細菌の増殖度合いを検出するものであり、検査に一昼夜を要する。現在、レーザ光を用いて濁度変化をより迅速に判定する方法や、顕微鏡により個々の細菌の増殖度合いを迅速に判定する方法、ATP発光により細菌の増殖度合いを迅速に定量する方法などが開発されつつあり、感受性検査に要する時間は数時間程度まで短縮される可能性がある。一方で菌液を調製するための工程は、1日を要する分離培養を行い、コロニーを液体中に希釈する方法が依然として用いられている。
【0006】
ここで、分離培養の工程を行わず、血液培養陽性試料から細菌以外の例えば血球成分や培地に含まれる不純物を除去し、105~106CFU/mLのある一定濃度の菌液を作製することが短時間でできれば、分離培養は不要となり感受性検査に要する時間はさらに短縮される。
【0007】
このような課題に対して、特許文献1では、血球細胞に対してプロテアーゼによる分解および低張液による膨張処理を行い、界面活性剤を用いて血球成分だけを選択的に破壊する手法が開示されている。この一連の処理によると、血球成分を十分に破壊、除去することが可能である。しかし、繰り返しの遠心分離工程や溶液置換による洗浄工程が多く含まれ処理に30分~1時間程度を要するため、大量の検体を高いスループットで検査することは難しい。
【0008】
また非特許文献1では、遠心分離の加速度を変化させることによって血液試料から細菌を捕集する方法が開示されている。具体的には、初めに低い遠心加速度で遠心分離し血球成分と細菌を含む血漿成分を分離させ分注を行った後に、高い遠心加速度で遠心分離し細菌を捕集するための分注を行う。特許文献1と比較すると、非特許文献1の方法は大幅に簡略されているが、実際には低い遠心加速度で1回遠心分離しただけでは血球成分を完全に除去することは難しく、実運用上では複数回の洗浄が必要になる場合が多い。また、遠心と分注操作は作業者もしくは装置によって1ステップずつ実施されるため、現実的には遠心、容器の開栓、分注、吐出、閉栓、遠心、容器の開栓、分注のように不連続の多数の手順が必要になるため、不規則な間隔で計測が求められる大量の検体を並列に高いスループットで検査することはやはり難しい。
【0009】
特許文献2では、複数の薬剤を用いて遠心分離することにより、血液中から細菌を回収する方法およびその容器が開示されている。特許文献2に開示された容器は、遠心の方向に沿って異なる薬剤が含有された複数の容器が容器よりも幅の狭い流路で接続された構造をとり、遠心によって細菌が沈殿する間に血球成分が連続的に破壊される。そのため、特許文献2の方法では特許文献1および非特許文献1と比較すると効率的な検査が可能である。一方、試料中の血球を破壊するのに複数の薬剤を用いるため、細菌の発育に影響を及ぼす可能性が高いほか、破壊された血球の中身の成分(例えばヘモグロビンなど)の特定波長の光を吸収する物質を除外することは困難であり、光学的な手法を用いて菌液の濃度調整を行う際には別途洗浄工程が必要となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】米国特許出願公開2020/0355588号(WO 2019/097752)
【文献】特開2015-17850号公報
【非特許文献】
【0011】
【文献】Bashir, L. et al., Journal of Advances in Microbiology Vol.20, pp.48-60, 2020年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
特許文献1および非特許文献1に開示された方法では、血液試料から細菌を捕集する方法が開示されているが、複数回の遠心分離や洗浄を繰り返すことによる不連続な処理が必要であり、処理に30分以上の時間を要すことや大量の検体を高いスループットで検査することは困難といった課題がある。特許文献2に開示された方法では、血液試料を連続的に処理することによって細菌を捕集する方法が開示されているが、細菌の発育性や操作性のさらなる改善の要望があった。
【0013】
本発明は、簡便で安定的な方法により、血液試料からの血球と細菌の分離、血球の破壊、および細菌の捕集を連続的に行う方法および装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するために、本発明者らが鋭意研究を行った結果、側壁に微小な貫通孔が設けられ血液試料を含む第1の容器と、この貫通孔を内包し試薬(界面活性剤)を含む第2の容器とを一緒に遠心分離に供し、第1の容器内で血球と細菌とを分離した後、貫通孔を通して第2の容器へ細菌を放出させることにより、迅速かつ簡便に、血液試料からの血球と細菌の分離、血球の破壊、および細菌の捕集を連続的に行えることを見出した。特に、最初に遠心分離を行った後、遠心加速度を段階的に変化させることで第2の容器へ細菌を放出させることにより、より簡便に、血液試料からの血球と細菌の分離、血球の破壊、および細菌の捕集を連続的に行えることを見出した。
【0015】
すなわち、本発明は、第1の態様において、
側面に少なくとも1つの貫通孔を有する第1の容器に試料を導入する工程と、
第2の容器に第1の容器の前記貫通孔を内包接続させる工程と、
第1の容器と第2の容器とを第1の遠心力にて遠心し、前記試料を微生物を含む溶液と血球を含む溶液とに分離させる第1の分離工程と、
前記微生物を含む溶液を前記貫通孔から第2の容器に排出させ、第2の容器に前記微生物を含む溶液を捕集する第2の分離工程と
を含む、微生物捕集方法を提供する。
【0016】
第2の態様において、本発明は、
前記方法により試料に含まれる微生物を捕集する工程と、
前記捕集された微生物を用いて目的の濃度の微生物液を調製する工程と、
前記微生物液を用いて微生物の増殖度判定を行う工程と
を含む、試料に含まれる微生物の増殖度判定方法を提供する。
【0017】
第3の態様において、本発明は、
側面に少なくとも1つの貫通孔を有し、試料が導入される第1の容器と、
試薬が導入される部分を備えた第2の容器と
を含み、第1の容器の前記貫通孔が第2の容器に内包接続されることを特徴とするキット(例えば、微生物の捕集に使用するためのキット)を提供する。
【0018】
第4の態様において、本発明は、
第1の容器と第2の容器とを一緒に遠心するように構成された遠心機と、
前記遠心機の遠心力を制御するように構成された制御部と
を備え、
第1の容器は、側面に少なくとも1つの貫通孔を有し、試料が導入されるものであり、
第2の容器は、第1の容器の前記貫通孔を内包接続するように構成され、
前記制御部は、
第1の容器に導入された前記試料を、微生物を含む溶液と血球を含む溶液に分離させる、第1の遠心力を用いた第1の分離と、
第1の分離に引き続き、前記微生物を含む溶液を第1の容器の前記貫通孔から第2の容器に排出させる、第1の遠心力よりも大きい第2の遠心力を用いた第2の分離と
を行うように前記遠心機の遠心力を制御する
ことを特徴とする微生物捕集装置を提供する。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、細菌、血液成分、培地成分などが混在する試料(例えば血液培養陽性試料)からの血球の分離、血球の破壊、および細菌成分の捕集を連続して行うことができ、その後目的の濃度の細菌試料を調製して、増殖判定を行うことが可能である。
【0020】
本発明では、容器に血液試料を導入した後、決められた遠心加速度で一連の遠心分離操作を1回行えば細菌成分が捕集される。ユーザや別の装置による試薬での洗浄や分注は不必要であり、大量の検体を並列に高いスループットで迅速に検査することができる。また、遠心分離による試薬を用いない方法で血球と細菌を分離するため、試薬による細菌の発育への影響が少ないほか、気泡などによる影響も受けず安定な捕集と、ヘモグロビンなどの影響も抑えることで光学的手法による濃度調整を正しく行うことができ、増殖判定が可能である。
【0021】
本発明に関連するさらなる特徴は、本明細書の記述、添付図面から明らかになるものである。また、上記した以外の、課題、構成および効果は、以下の実施の形態の説明により明らかにされる。本発明の記述は典型的な例示に過ぎず、特許請求の範囲または適用例をいかなる意味においても限定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】微小な貫通孔をもつ容器の一例の断面図である。
【
図2】微小な貫通孔をもつ容器を遠心分離した場合に貫通孔から純水が漏洩する容量と遠心加速度に関する結果を示すグラフである。
【
図3】微小な貫通孔をもつ容器を遠心分離した場合に貫通孔から血液が漏洩する容量と遠心加速度に関する結果を示すグラフである。
【
図4】微小な貫通孔から液体がバーストする臨界遠心加速度と貫通孔直径の関係を示すグラフである。
【
図5】血液を一定時間遠心分離した場合に分離された液体成分の界面の高さを示すグラフである。
【
図6】血球と細菌の分離、血球の破壊、および細菌の捕集を連続的に行うための容器構成の一例の断面図である。
【
図7】血球と細菌の分離、血球の破壊、および細菌の捕集を連続的に行い菌液の濃度調整を行う手順の例を示す図である。
【
図8】実施例2により血液試料から調製した細菌の濃度調整を行った結果を示す図である。
【
図9】血液試料から細菌を捕集し増殖判定を行う手順の例を示す図である。
【
図10】実施例3により血液試料から細菌を捕集し増殖判定を行った結果を示すグラフである。
【
図12】容器の特徴の一例の側面図(A)および上面図(B)である。
【
図13】容器の別の特徴を示す側面図(A)および上面図(B)である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明は、血液などの血球を含む試料から微生物を捕集するための方法、キットおよび装置に関する。具体的には、側面に貫通孔を有する第1の容器を、第1の容器の貫通孔を内包している第2の容器と共に遠心分離に供し、第1の容器内で試料中の血球成分と微生物を含む成分とを分離した後、微生物を含む成分を貫通孔を介して第2の容器に放出させることにより、微生物を第2の容器に集める。この構成により、血球を含む試料から微生物を簡便かつ迅速に捕集することが可能になる。以下、具体的に説明する。
【0024】
本発明は、一態様において、微生物捕集方法であって、
側面に少なくとも1つの貫通孔を有する第1の容器に試料を導入する工程と、
第2の容器に第1の容器の前記貫通孔を内包接続させる工程と、
第1の容器と第2の容器とを第1の遠心力にて遠心し、前記試料を微生物を含む溶液と血球を含む溶液とに分離させる第1の分離工程と、
前記微生物を含む溶液を前記貫通孔から第2の容器に排出させ、第2の容器に前記微生物を含む溶液を捕集する第2の分離工程と
を含む方法を提供する。
【0025】
捕集の対象となる「微生物」とは、細菌、放線菌、真菌などを含む様々な種類の微生物をいう。但し、微生物にウイルスは含まれない。具体的には、薬局方において無菌試験法により検出対象となっている微生物、病院の検査室などで検査対象となる病原性細菌や病原性真菌などの微生物などである。例えば、大腸菌属(Escherichia)(具体例として、大腸菌)、ブドウ球菌属(Staphylococcus)(具体例として、黄色ブドウ球菌、表皮ブドウ球菌)、プロピオニバクテリウム属(Propionibacterium)(具体例として、プロプリオノバクター・アクネス(Proprionobacter acnes))、ミクロコッカス属(Micrococcus)、レンサ球菌属(Streptococcus)(具体例として、化膿性レンサ球菌、肺炎球菌)、エンテロコッカス属(Enterococcus)(具体例として、エンテロコッカス・フェシウム、エンテロコッカス・フェカリス)、ナイセリア属(Neisseria)(具体例として、りん菌、髄膜炎菌)、モラクセラ属(Moraxella)、赤痢菌属(Shigella)(具体例として、赤痢菌)、サルモネラ属(Salmonella)(具体例として、チフス菌、パラチフスA菌、腸炎菌)、シトロバクター属(Citrobacter)、クレブシエラ属(Klebsiella)(具体例として、肺炎桿菌)、エンテロバクター属(Enterobacter)、セラチア属(Serratia)(具体例として、セラチア・マルセッセンス)、プロテウス属(Proteus)、プロビデンシア属(Providencia)、モルガネラ属(Morganella)、エルシニア属(Yersinia)(具体例として、ペスト菌)、ビブリオ属(Vibrio)(具体例として、コレラ菌、腸炎ビブリオ、ビブリオ・バルニフィカス、ビブリオ・ミミカス)、エロモナス属(Aeromonas)、シュードモナス属(Pseudomonas)(具体例として、緑膿菌)、アシネトバクター属(Acinetobacter)(具体例として、アシネトバクター・バウマニイ)、アルカリゲネス属(Alcaligenes)、アグロバクテリウム属(Agrobacterium)、フラボバクテリウム属(Flavobacterium)、ヘモフィルス属(Haemophilus)(具体例として、インフルエンザ菌)、パスツレラ属(Pasteurella)、フランシセラ属(Francisella)、ボルデテラ属(Bordetella)(具体例として、百日咳菌)、エイケネラ属(Eikenella)、ブルセラ属(Brucella)、ストレプトバチラス属(Streptobacillus)、アクチノバチラス属(Actinobacillus)、レジオネラ属(Legionella)(具体例として、レジオネラ・ニューモフィラ)、バシラス属(Bacillus)(具体例として、枯草菌、炭疽菌、セレウス菌)、コリネバクテリウム属(Corynebacterium)(具体例として、ジフテリア菌)、ラクトバシラス属(Lactobacillus)、リステリア属(Listeria)、エリジペロスリックス属(Erysipelothrix)、ノカルジア属(Nocardia)、放線菌属(Actinomyces)、クロストリジウム属(Clostridium)(具体例として、クロストリジウム・パーフリンジェンス、クロストリジウム・スポロゲネス)、バクテロイデス属(Bacteroides)(具体例として、バクテオリデス・フラジリス)、フソバクテリウム属(Fusobacterium)、マイコバクテリウム属(Mycobacterium)(具体例として、結核菌)、カンピロバクター属(Campylobacter)、ヘリコバクター属(Helicobacter)(具体例として、ピロリ菌)、スピリルム属(Spirillum)、トレポネーマ属(Treponema)、ボレリア属(Borrelia)、レプトスピラ属(Leptospira)、マイコプラズマ属(Mycoplasma)(具体例として、肺炎マイコプラズマ)、アスペルギルス属(Aspergillus)(具体例として、クロコウジカビ、アスペルギルス・ブラジリエンシス(Aspergillus brasiliensis))、酵母(具体例として、カンジダ・アルビカンス)などの細菌および真菌が含まれるが、これら以外の微生物も検出対象となりうる。
【0026】
試料は、血球を含む試料であれば特に限定されるものではない。特に、生体に由来する生体試料、微生物による汚染が疑われる試料などが含まれる。例えば、血液、尿、骨髄液、母乳、羊水、生検組織、細胞培養液、細胞培養上清などの様々な試料とすることができる。また、試料の由来も特に限定されるものではなく、任意の生物種に由来するものとすることができる。例えば、動物、植物、昆虫などの様々な種類の生物の少なくとも1種に由来する試料を被検試料とする。試料が液体試料である場合には、そのまま、または溶媒で希釈もしくは濃縮して使用することができる。固体試料である場合には、溶媒に懸濁するか、粉砕機などによりホモジナイズするか、あるいは溶媒と共に攪拌して得られる上清を使用してもよい。試料は、適当な培地、生理食塩水により希釈されてもよいし、または前処理などが施されてもよい。
【0027】
「捕集」とは、血球を含む試料から微生物を分離すること、試料に含まれる微生物を濃縮することなどを意味する。試料に含まれる可能性のある微生物の濃度は、特に限定されるものではない。
【0028】
本発明では、側面に少なくとも1つの貫通孔を有する第1の容器と、第1の容器の貫通孔を内包することができる第2の容器とを組み合わせて使用する。第2の容器は、貫通孔を介して第1の容器と接続することになる。本発明において、「内包接続」とは、第2の容器が第1の容器の貫通孔を内包し、第1の容器に設けられた貫通孔を介して、第2の容器の内部が第1の容器の内部と連通していることを意味する。内包は、第2の容器が貫通孔を含む第1の容器全体を内包するような様式でもよいし、あるいは第1の容器の貫通孔の部分を覆うように第1の容器の一部を内包するような様式でもよい。
【0029】
第1の容器は、試料を導入して遠心分離に供することができる任意の容器を使用することができる。例えば、容器の体積は、1~10mL、好ましくは3~5mLとすることができる。また、容器の材質は、遠心分離などの操作に適した材質であれば特に限定されるものではない。例えば、容器は疎水性の材質で作製されていることが好ましい。これは容器と試料の親和性が良好な場合には、表面張力により試料が遠心分離前に微小な貫通孔から放出される可能性があるためである。例えば、容器として、アクリル系樹脂、ABS樹脂、ポリプロピレン、ポリスチレンまたはポリエチレンなどにより、3Dプリンタや射出成型を利用して作製されたものが挙げられる。他にも、アルミやステンレスを用いて切削加工により容器を作製してもよい。疎水性にするために微小な試料や容器全体に化学処理を行い、表面改質を行ってもよい。なお、容器は不透明であってもよいが、透明の場合には、内部の状態を視認もしくは装置による光学測定、撮像が容易で、液量の過不足検知のほか詰まりや試料中の異物の検出が可能となるため、容器は透明であることが好ましい。
【0030】
第1の容器の形状は、その貫通孔が第2の容器に内包される形状であれば特に限定されるものではなく、一般的には円柱、多角柱(四角柱、六角柱など)が採用される。
【0031】
第1の容器は、側面に少なくとも1つの貫通孔を有する。貫通孔の大きさ、位置および数は、対象の試料の種類および量、採用する遠心加速度(第1の分離工程)、第2の分離工程で遠心分離を行うか否か(行う場合にはその遠心加速度)などの条件に応じて、当業者であれば本明細書の記載および技術常識に基づいて決定することができる。
【0032】
貫通孔の大きさは、例えば直径10~200μm、好ましくは直径10~100μmで設定することができる。貫通孔の形状は限定されるものではないが、丸形、楕円形、四角形などが好ましい。微生物を含む成分が通ることができる大きさおよび形状で、上述したように使用する試料、遠心加速度などと併せて適当な大きさおよび形状を設定することができる。なお、試料中には赤血球や白血球、血小板が含まれ、そのうち大きさが最大のものは白血球で直径は6~30μmとなる。貫通孔の直径がこれよりも小さい場合には血球が貫通孔を詰まらせることによって液体が放出されない場合もあるため注意が必要である。
【0033】
貫通孔の位置に関して、貫通孔は、容器の底面から、容器の高さの1/5以上の高さに設けられることが好ましい。貫通孔が容器の上側にあるほど分離は高速に実施されるが、回収できる微生物量も減ってしまうため、現実的には貫通孔は底面から1/5~2/3の高さに設けられることが好ましい。具体的な位置は、上述したように使用する試料、遠心加速度などと併せて適当な位置を設定することができる。例えば試料として血液培養試料を使用する場合、通常、血液培養試料中には血液以外に、培地、薬剤吸着用のレジンなどが含まれることがある。血液培養試料は注射針を用いてボトルから採取するため採取後の試料にレジンは含まれず、試料の70~80%は培地でそれ以外が血液由来の成分となる。血液中の血球成分は性別や健康状態にもよるが、30~55%程度であることが多い。すなわち、血液培養試料中のうち血球成分の比率は最大でも15~20%程度である。そのため、貫通孔は容器の底面から1/5以上の高さにあることが望ましい。
【0034】
貫通孔は、1つの容器に1つ設けられてもよいし、同じ高さに同一直径の貫通孔が複数個設けられてもよいし、あるいは異なる高さに同じまたは異なる直径の貫通孔が複数個設けられてもよい。異なる高さに異なる直径の貫通孔が複数個設けられる場合には、貫通孔の設置高さが低下するに従って直径の小さい貫通孔を設けることが好ましい。すなわち、貫通孔の大きさ(直径)は、遠心分離の加速度が印可される方向に従って小さくなるようにしてもよい。このような構成にすることにより、遠心分離の加速度を数段階で変化させれば、上に設けられた貫通孔から順に試料が放出されるため、貫通孔が1つの場合と比較して効率的に分離および排出が行われ、迅速な検査が可能である。
【0035】
また、貫通孔の長さは、第1の容器の厚さによって変わる。第1の容器の厚さに関しては次のように規定できる。現実的な貫通孔直径の最適値は10~100μmの範囲となり、貫通孔を空けることを考えると第1の容器の厚さをあまり厚くはできない。例えば、ドリルで切削により貫通孔を空ける場合には、容器の厚さは貫通孔直径の10倍までの厚さにすることが好ましい。従って、容器の厚さはおよそ100~1000μmの範囲が好ましい。
【0036】
貫通孔は、第1の容器の側面方向に対して垂直に設けられることが好ましい。これにより、キャピラリーバルブの効果は最大となり最も高速に分離を行うことができる。しかしながら、貫通孔は、側面方向に対して垂直から上方向または下方向に向いていても、本発明の効果を達成することが可能である。
【0037】
第2の容器は、第1の容器の貫通孔を内包することができる大きさ、形状および材質である。材質は第1の容器についての説明と同様である。また、第2の容器の大きさおよび形状は、当業者であれば、第1の容器の大きさおよび形状に応じて、適宜設定することが可能である。
【0038】
第1の容器と第2の容器は、互いに着脱することができる機能を備えていることが好ましい。例えば、ねじによって第1の容器と第2の容器とを固定し、互いに着脱できるようにする。これにより、第2の容器が第1の容器の貫通孔を内包した状態で遠心分離に供しても、2つの容器が安定して保たれることになる。
【0039】
第1の容器および/または第2の容器は密閉されてもよい。例えば、シール栓、ゴム栓を利用して容器を密封することができる。好ましい実施形態では、少なくとも第1の容器が、シールによって密閉される。
【0040】
第1の容器および/または第2の容器は、第1の容器の貫通孔以外からの第2の容器への試料の混入を防ぐためのガードを備えていてもよい。ガードは、第1の容器に予め設けられていてもよいし、第2の容器に予め設けられていてもよいし、あるいは第2の容器に第1の容器を内包させた後に設けられてもよい。試料への試薬の混入を防ぐためのガードとして、シールによる密閉を利用してもよい。
【0041】
本発明に係る方法では、第1の容器に試料を導入する工程と、第2の容器に第1の容器の貫通孔を内包接続させる工程を行う。これらの工程の順序は、特に限定されるものではない。例えば、第1の容器に試料を導入した後に、第2の容器内に試料の入った第1の容器を接続させてもよいし、あるいは、第2の容器内に第1の容器を接続させた後に、第1の容器に試料を導入してもよい。試料は、第1の容器の体積、採用する遠心加速度などに応じて、適当な量を導入する。
【0042】
続いて、第1の容器と第2の容器とを第1の遠心力にて遠心する。第1の遠心力は、第1の容器の貫通孔から液体が漏洩しない遠心加速度により印加される。微小な貫通孔内部において液体の表面張力と重力による外力が釣り合うことにより貫通孔から液体は漏洩しない(キャピラリーバルブ効果)。このような第1の遠心力は、使用する試料の種類(容器との親和性)、貫通孔の大きさおよび位置などに応じて、適宜設定される(例えば、実施例1)。本発明では、第1の遠心力による遠心を低加速度遠心ともいう。例えば試料として血液試料を使用する場合、第1の遠心力は、およそ10G以上で、100G以下(貫通孔の直径が50μmの場合)、200G以下(貫通孔の直径が40μmの場合)、400G以下(貫通孔の直径が30μmの場合)程度の遠心加速度により印加される。このような遠心分離により、赤血球、白血球などの血球は大きいため速く沈降する一方、微生物(細菌)、血小板、その他の成分は上澄み相に含まれることになる。したがって、第1の分離工程により、試料を微生物を含む溶液と血球を含む溶液とに分離させることができる。
【0043】
その後、微生物を含む溶液を貫通孔から第2の容器に排出させ、第2の容器に微生物を含む溶液を捕集する(第2の分離工程)。第2の分離工程は、例えば以下の2つの方法により行うことができる。一実施形態において、第2の分離工程は、第1の遠心力よりも大きい第2の遠心力にて、第1の容器と第2の容器とを遠心することを含む。第2の遠心力は、キャピラリーバルブがバーストする臨界の加速度以上の高い遠心加速度により印加される。第2の遠心力もまた、使用する試料の種類(容器との親和性)、貫通孔の大きさおよび位置などに応じて、適宜設定される(例えば、実施例2)。本発明では、第2の遠心力による遠心を高加速度遠心ともいう。例えば試料として血液試料を使用する場合、第2の遠心力は、100G超(貫通孔の直径が50μmの場合)、200G超(貫通孔の直径が40μmの場合)、400G超(貫通孔の直径が30μmの場合)程度の遠心加速度により印加される(最大およそ3000G)。
【0044】
別の実施形態において、第2の分離工程は、第2の容器内部の圧力を減圧することを含む。例えば、真空ポンプにより第2の容器内部を減圧することによって、微生物を含む溶液を第1の容器の貫通孔から第2の容器へ排出させる。
【0045】
以上のようにして、血球を含む試料からの血球の分離および微生物の捕集を行うことができる。ユーザや別の装置による試薬での洗浄や分注は不必要であり、簡便かつ迅速に微生物を捕集することができる。
【0046】
一部の実施形態において、第2の容器は試薬を含んでもよい。この実施形態において、本発明の方法は、第2の分離工程において、捕集された微生物を含む溶液に混入する血球を試薬により破壊することを含む。これにより、上述のように捕集した微生物に血球などが混入したとしても、確実に血球成分を破壊し除去することができる。
【0047】
試薬は、微生物の発育に影響を与えずに血球を破壊することができる試薬であれば特に限定されるものではない。例えば試薬は少なくとも1種の界面活性剤を含む。界面活性剤としては、限定されるものではないが、例えば親水性および疎水性部分を有し前記疎水性部分が鎖状炭化水素である陰イオン性界面活性剤、または親水性および疎水性部分を有し前記疎水性部分が環状炭化水素を有する界面活性剤、あるいは両者の組み合わせが挙げられる。具体的には、前者として、ドデシル硫酸ナトリウム、ドデシル硫酸リチウム、およびN-ラウロイルサルコシンナトリウムが挙げられ、後者として、サポニン、コール酸ナトリウム、デオキシコール酸ナトリウム、3-[(3-コラミドプロピル)ジメチルアンモニオ]-1-プロパンスルホナート、および3-[(3-コラミドプロピル)ジメチルアンモニオ]-2-ヒドロキシ-1-プロパンスルホナートが挙げられる。
【0048】
以上のようにして、血球を含む試料からの血球の分離、血球の破壊および微生物の捕集を連続して行うことができる。
【0049】
別の態様において、本発明は、
前記方法により試料に含まれる微生物を捕集する工程と、
前記捕集された微生物を用いて目的の濃度の微生物液を調製する工程と、
前記微生物液を用いて微生物の増殖度判定を行う工程と
を含む、試料に含まれる微生物の増殖度判定方法に関する。
【0050】
前記方法により試料に含まれる微生物を捕集した後、目的の濃度の微生物液(菌液)を調製する。微生物は、第2の容器のまま使用してもよいし、または第2の容器から別の容器に分取して使用してもよい。分取は、当技術分野で慣用的に行われている方法および手段を使用して行うことができ、例えば、微生物のペレットを直接シリンジで取得する方法、微生物のペレットの上清をシリンジ等で取り除き回収する方法、フィルタ(例えば孔径約0.1~1μmのフィルタ)を用いる方法などを採用することができる。捕集した微生物は、生理食塩水、培地などの液体(試料の種類や含まれ得る微生物種に応じて選択される)中に導入して微生物液(菌液)を調製し、必要があれば攪拌する。
【0051】
微生物液の濃度を計測し、必要に応じて所望の値に濃度の調整を行う。微生物の濃度は、当技術分野で慣用的な方法および手段を用いて計測することができ、例えば濁度の計測によって行うことができる。濃度が所望の値以上の場合には、生理食塩水、培地などの液体を追加する。
【0052】
続いて、微生物液を用いて微生物の増殖度判定を行う。微生物の増殖度判定もまた当技術分野で慣用的な方法および手段を使用して行うことができる。例えば、光学的に微生物の数の増加を判定し、増殖の程度を検出する方法、微生物の散乱による吸光度変化を計測する方法(例えばランプ、LED、レーザ光源などを使用する)、顕微鏡を用いて微生物を直接観察し、顕微鏡画像中の微生物数をカウントする方法などが挙げられる。
【0053】
増殖度判定の一例として、感受性試験の場合には、ある濃度に調整された微生物液と様々な濃度の薬剤(例えば抗生物質)とを混合し、微生物の増殖度を判定することで、その微生物に対する薬剤の有効性を判定することができる。本発明の方法により、従来必要であった複数回の分離、破壊および遠心分離を、連続的に実施することができ、微生物の増殖度判定および薬剤感受性試験に要する時間の短縮が可能となる。
【0054】
本発明はまた別の態様において、
側面に少なくとも1つの貫通孔を有し、試料が導入される第1の容器と、
試薬が導入される部分を備えた第2の容器と
を含み、第1の容器の貫通孔が第2の容器に内包接続されることを特徴とするキット、特に微生物の捕集に使用するためのキットに関する。
【0055】
第1の容器および第2の容器の詳細は上述の通りである。例えば、第1の容器の貫通孔は、(a)直径10~200μmを有する、および/または(b)第1の容器の高さの1/5以上の高さに設けられている。
【0056】
第1の容器は、遠心力が印加される方向に対して第2の容器よりも内側に配置されることが好ましい。
【0057】
第2の容器の試薬が導入される部分には、試薬が予め導入されていてもよい。この場合、ユーザーは第1の容器に試料を導入するだけでよく、簡便かつ迅速にキットを使用することができる。
【0058】
本発明のキットは、例えば、血球を含む試料中の微生物の捕集に使用するためのキット、上述した本発明の方法を実施するためのキットなどとして使用することができる。
【0059】
さらに、第4の態様において、本発明は、微生物捕集装置であって、
第1の容器と第2の容器とを一緒に遠心するように構成された遠心機と、
前記遠心機の遠心力を制御するように構成された制御部と
を備え、
第1の容器は、側面に少なくとも1つの貫通孔を有し、試料が導入されるものであり、
第2の容器は、第1の容器の前記貫通孔を内包接続するように構成され、
前記制御部は、
第1の容器に導入された前記試料を、微生物を含む溶液と血球を含む溶液に分離させる、第1の遠心力を用いた第1の分離と、
第1の分離に引き続き、前記微生物を含む溶液を第1の容器の前記貫通孔から第2の容器に排出させる、第1の遠心力よりも大きい第2の遠心力を用いた第2の分離と
を行うように前記遠心機の遠心力を制御する
ことを特徴とする微生物捕集装置に関する。
【0060】
本発明の微生物捕集装置は、少なくとも、遠心機および制御部を備える。遠心機は、第1の容器と第1の容器の貫通孔を内包接続する第2の容器とを一緒に遠心することができる遠心機であれば、任意の遠心機を使用することができる。遠心機は、制御部によって、第1の遠心力を用いた第1の分離と、第2の遠心力を用いた第2の分離とを行うように、その遠心力が制御される。第1の遠心力および第2の遠心力の詳細は、上述の通りである。
【0061】
第1の容器および第2の容器の詳細、第1の容器に試料が導入されること、第2の容器が試薬を備えていてもよいこともまた上述の通りである。
【0062】
本発明の装置はさらに、
微生物を分取するように構成された分取装置を備えていてもよく、制御部は、第2の容器に排出された微生物を分取するように分取装置を制御する;ならびに/あるいは
微生物の濃度を計測するように構成された光計測装置を備えていてもよく、制御部は、第2の容器に排出された微生物の濃度および/または別の容器に分取された微生物の濃度などを計測するように光計測装置を制御する;ならびに/あるいは
撮像装置を備えていてもよく、制御部は、第2の容器内の微生物および/または別の容器に分取された微生物および/または別の容器内で増殖させた微生物などを撮像するように制御する;ならびに/あるいは
表示部を備えていてもよく、制御部は、前記分取の完了の有無、計測した微生物の濃度、前記撮像の結果などを表示するように制御する。
【0063】
本発明のキットおよび/または装置を使用することにより、上述した本発明の微生物捕集方法および微生物の増殖度判定方法を、より簡便かつ迅速に実施することが可能となる。
【実施例】
【0064】
以下、図面を参照して本発明の具体的な実施の形態について説明する。
添付図面は本発明の原理に基づいて具体的な実施の形態を示しているが、これらは本発明の理解のためのものであり、本発明を限定的に解釈するために用いられるものではない。なお、実施の形態および実施の形態を説明するための全図において、同一機能を有するものは同一符号を付け、その繰り返しの説明は省略する。
【0065】
以下の実施例では、試料として血液試料から、微生物として細菌を捕集するための方法、容器および装置について説明する。
【0066】
[実施例1]
本実施例では、微小な貫通孔を持つ容器を用いて試料の遠心分離を行い、血球と液体成分の分離および排出を連続的に行う方法を示す。
【0067】
実施例1では、
図1に示すような容器を用いた。第1の容器11は、本実施例では六角柱としたが、円柱や他の多角柱のような形状であり得る。1つの側面に1つの微小な貫通孔12を設けている。容器の体積は約6mLであり、厚みの最も薄い部分は0.3mmであり、直径の異なる3種類の条件(Φ=30、40、50μm)の貫通孔を容器の半分の高さの位置に設けた。容器11に試料を入れて、試料の遠心分離を行った。なお遠心分離装置は汎用的なものを用い、本実施例では回転半径は75mmで固定値となるように設定した。
【0068】
図2に、試料として純水6mLを用い、異なる遠心加速度で5分間遠心分離(20G、30G、40G、60G、100Gおよび200G)を行った結果を示す。はじめに、貫通孔の大きさが例えば200μm以下の場合には、遠心分離を行わず重力下で静置させた場合に貫通孔から純水は漏れ出なかった。これは微小な貫通孔内部において液体の表面張力と重力による外力が釣り合うことで微小な貫通孔から液体は漏洩しない。本効果はキャピラリーバルブと呼ばれる。
【0069】
貫通孔の大きさが50μmの場合には、遠心加速度が20~40Gでは液体は微小な貫通孔から漏洩しなかった。しかし、それ以上に遠心加速度を増加させた場合(60G以上)には液体が漏洩し始め、その排出量は遠心加速度に比例して増加した。これは遠心加速度が60Gの場合に、液体の表面張力と重力および遠心による外力が釣り合わず、バルブとして機能しなくなり、これをバーストした状態だと表す。貫通孔の直径が変わった場合であっても傾向は同じであるが、バーストする遠心加速度と孔の直径は半比例の関係を示す。
【0070】
図3に、試料として血液試料6mLを用い、異なる遠心加速度(20G、30G、40G、60G、100G、200G、400Gおよび800G)で5分間遠心分離を行った結果を示す。なお、血液試料は血液培養の試料を想定しており、試料中には血液以外にも培地成分や細菌成分が含まれる。結果の傾向は試料に純水を用いた場合と同様であるが、バーストする遠心加速度が純水の場合と比較して高くなる。これは、純水と血液では今回用いた容器との親和性が異なるためである。
【0071】
図4に、微小な貫通孔から液体がバーストする臨界遠心加速度と貫通孔直径の関係を示す。試料が純水の場合には、ハッチングで示した液体がバーストしない条件の範囲41を満たす遠心加速度および貫通孔径の場合に、液体は容器内に保持される。試料が血液の場合には、線形近似により、臨界遠心加速度G
C[g]と貫通孔直径d[μm]の関係式はGc=-15d+833となる(図中、Gcをy、dをXで表している)。この関係式の計数は、容器と試料との親和性、容器の形状および/または容積、貫通孔の数および/または位置(高さ)などによって変わるため、事前の実験により係数を求められれば貫通孔直径に応じて遠心加速度が求まる。
【0072】
試料が容器内に保持された状態であっても、試料には遠心力が作用することで試料中の比重の大きい物体は容器の底に移動する。
図5に、低い遠心加速度(20G、30Gおよび40G)で血液試料6mLを5分間遠心分離した場合に得られた液体成分の高さを示す。遠心分離によって赤血球や白血球はより速い速度で沈降するため、比重の軽い血漿や培地、細菌や血小板はこの液体成分中に含まれる。このように、低加速度で遠心分離を行うと試料は貫通孔から漏れ出ず、分離のみが実施され血球と細菌を含む液体成分とに分離される。その後連続して高加速度で遠心分離を行うと試料を放出させることができ、工程を中断せずに次の処理を実施することができる。
【0073】
ここで、微小な貫通孔12の最適値や遠心分離の最適値について検討する。血液中には赤血球や白血球、血小板が含まれ、その内大きさが最大のものは白血球で直径は6~30μmとなる。貫通孔の直径がこれよりも小さい場合にはキャピラリーバルブの効果でなく、血球が貫通孔を詰まらせることによって液体が放出されない場合もあるため注意が必要である。従って、試料と容器の表面親和性にもよるが、血球と液体成分の分離および排出を連続的に行う上で、現実的な貫通孔直径の最適値の範囲は10~100μmとなる。また、液体がバーストする遠心加速度の臨界値も
図4のグラフに示したような関係から自動的に決まる。例えば、貫通孔直径が50μmの場合には100Gで遠心分離を行えば、試料を容器外に放出させない条件で最も高速に血球と液体成分との分離が可能である。
【0074】
なお、本説明では微小な貫通孔12が1つのみ設けられた条件で説明を行ったが、複数個の貫通孔を設けた場合であっても同等の効果が得られ、試料の排出を行う場合にはより高速に実施できるほか、不純物などによって貫通孔がふさがれた場合であっても安定した分離および排出が連続的に実施できる。また、遠心分離方向に対して貫通孔が垂直方向に設けられた場合に、キャピラリーバルブの効果は最大となり最も高速に分離を行うことができるが、垂直でなく斜めの場合であっても同様の効果は得られる。
【0075】
[実施例2]
本実施例では、微小な貫通孔が設けられた容器と、この容器または貫通孔を内包する界面活性剤を含む容器を組み合わせ、貫通孔が設けられた容器に血液試料を入れて遠心分離を行い、遠心加速度を段階的に変化させることで血液試料からの血球と細菌の分離、血球の破壊、細菌の捕集を連続的に行い、捕集された細菌から目的の濃度の菌液を調整する方法を示す。
【0076】
実施例2では、
図6に示すような容器を用いた。この容器は微小な貫通孔12をもつ第1の容器11と、それを内包する第2の容器61から構成される。2つの容器を一緒に遠心分離を行うため、第2の容器61には第1の容器11を水平に支えるための支持部62があることが望ましい。また、微小な貫通孔12から排出された試料を導入するために第1の容器11と第2の容器61の間には空間63があることが望ましい。
【0077】
実施例1の結果に基づいた条件に従い、血液試料からの血球と細菌の分離、血球の破壊、細菌の捕集を連続的に行い、細菌の濃度を調整した。
図7に手順を示す。初めに第2の容器61に血球を破壊するための界面活性剤72を入れる。第1の容器11には血液試料71を6mL入れ、2つの容器を重ねて遠心分離装置に投入する。なお本実施例2では貫通孔12の直径を50μmとし、第1の容器11の高さの半分の位置に貫通孔を1つ設けた。第1の容器の体積は約6mLである。
【0078】
次に低加速度で試料を含む容器を遠心分離させる。具体的には微小な貫通孔から試料を放出させない遠心加速度である100gで遠心分離を行う。これにより、血液試料71は、血球成分73と細菌を含む血漿および培地成分74に分離される。低加速度での遠心分離は、血球成分と細菌を含む血漿および培地成分との界面位置が微小な貫通孔12の位置よりも下になるまで行うことが好ましく、例えば5分間遠心分離を行う。
【0079】
低加速度の遠心分離に引き続き、細菌を含む血漿および培地成分74の分離を行う。本実施例では、高加速度の遠心分離を行う場合について説明する。キャピラリーバルブがバーストする臨界の加速度以上、例えば1500gで遠心分離を行うことで細菌を含む血漿および培地成分74を貫通孔12から第1の容器11外に放出することができる。放出された試料は遠心分離によって第2の容器61の底方向に移動し、界面活性剤72と混合される。放出された試料中には、遠心分離で完全には除去されなかった赤血球や白血球および血小板が含まれるが、それらは界面活性剤により破壊される。そして高加速度での遠心分離によって、捕集された細菌75は容器の底面でペレット状に固まり、この細菌を用いて菌液の濃度調整が可能である。なお高加速度の遠心分離は、微小な貫通孔の位置まで血液試料が排出されるまで実施されるのが好ましく、例えば7分間遠心分離を行う。以上の血球分離、排出、血球破壊の一連工程は装置の遠心分離加速度を変更するだけで連続的に行われるため、手間を省き迅速な検査が可能となる。
【0080】
最後に、分離された血球を含んだ第1の容器11を取り外し、菌液の作製に必要な培地もしくは生理食塩水などの液体76が含まれた第3の容器77に細菌を導入することで、血球などの不純物が少ない菌液を得ることができる。この菌液中には、ヘモグロビンなど特定波長の光に吸収をもつ物質はほとんど存在しないため、光計測により細菌の濃度を調整することができ、例えばマクファーランド比濁法により菌液の濃度を調整することができる。
【0081】
図8に、実施例2の方法およびマクファーランド比濁法を用いて血液試料から細菌の濃度調整を行った結果を示す。血液試料中に含まれる細菌は、大腸菌(E.coli)および黄色ブドウ球菌(S.aureus)を使用した。血液培養陽性の検体を考えると、通常血液試料中には10
6~10
10CFU/mLの範囲の細菌が含まれる場合がある。
図8の結果は、血液試料中に含まれる細菌濃度が異なる場合(
図8の横軸)であっても正しく菌液の濃度を調整することができ(
図8の縦軸)、かつ大腸菌もしくは黄色ブドウ球菌など菌種の異なる細菌であっても問題なく濃度調整できることを表す。一般に感受性検査に用いる菌液は、その濃度を5×10
5CFU/mL±60%の範囲で調整する必要があるが、実施例2の結果は本範囲に収まり、調整した菌液が感受性試験に使用可能であることを意味している。
【0082】
以上の方法によって、血液試料から血球と細菌の分離、血球の破壊、細菌の捕集を連続的に行い、迅速に目的の濃度の菌液を調整することができる。実施例2で説明した一連の工程は遠心分離の加速度を変更するだけで実施されるため、繰り返しの洗浄や分注が不要で迅速な検査が可能となる。具体的には特許文献1や非特許文献1の方法では処理に25分以上の時間を要することが多いが、実施例2の方法では12分で処理が完了する。複数の異なる試料が導入された複数の容器を同時に処理することも可能であり、並列に処理を実施すればさらに高いスループットでの検査が可能となる。
【0083】
ここで、血球と液体成分を分離するための遠心分離の加速度は、
図4に示したような関係式から微小な貫通孔の直径が決まると自動的に決まる。貫通孔の直径が30~50μmの範囲だとすると、血球と液体成分を分離するための最適な遠心分離加速度は400~100gとなる。液体を排出、破壊および捕集する際の遠心分離の加速度はなるべく高い方がより高速に処理が可能とある。しかし、細菌の発育に影響が出る可能性があることも考慮して10
4g以下の範囲でできる限り高い遠心加速度とすることが好ましい。
【0084】
なお、本実施例では遠心加速度を増加させることによって、試料に働く外力を増加させて微小な貫通孔から第2の容器への試料の排出を行っていた。この外力の印可は必ずしも遠心分離によるものでなくてもよい。例えば、真空ポンプにより第2の容器内部を減圧することによって、第1の容器から第2の容器へ試料を排出した場合であっても、本実施例と同等の効果が得られる。この場合には、第1の容器での試料の遠心分離に必要な加速度を数十~数百Gまで抑制することが可能で、遠心分離機に必要な性能を抑え、装置の小型化が期待できる。
【0085】
また、血球を破壊するための試薬の一例として界面活性剤として説明を行ったが、必ずしも界面活性剤である必要はなく、細菌の発育に影響を与えず血球を破壊することができるような試薬であればよい。
【0086】
[実施例3]
実施例3では、実施例2の前処理を用いて血液試料から菌液を調製し、増殖判定を行う方法と装置に関して説明する。
【0087】
図9は、血液試料から菌液を調製し増殖判定を行う方法を記載したフローチャートである。初めに、作業者は第1の容器に血液試料を導入する。実施例2と同様に、予め第1の容器と第2の容器は重ねられており第2の容器には界面活性剤が事前に導入されていることが好ましい。なお、試料によっては血球や細菌が凝集することによって正しく前処理が行われない場合もあり、試料の導入前に、例えばボルテックスや超音波処理により、試料をよく攪拌しておくことが好ましいこともある。
【0088】
この試料が含まれた容器が遠心装置に設置され、順次処理が実施される。ステップS91では低遠心加速度で遠心を行うことにより、第1の容器内で血球分離が行われる。
【0089】
その後ステップS92では高い遠心加速度で遠心を行うことにより、微小な貫通孔を介して試料が排出され、その後界面活性剤と反応することで血球が破壊され、第2の容器の底に細菌のペレットが形成される。
【0090】
ステップS93では細菌のペレットのみを回収(分取)する。これは、処理終了後の細菌の上部には液体が残っており、液体中には血漿や培地の他に界面活性剤やヘモグロビンなどが含まれているためである。不純物の少ない菌液の調製時にはこれらの液体は不必要であり、細菌のみを回収する必要がある。簡易的には、細菌ペレットを直接シリンジで取得する方法や、細菌ペレットの上清をシリンジ等で取り除き回収する方法が考えられる。細菌を回収する別の方法は、フィルタを用いる方法が考えられる。例えば孔径が0.1~1μmのフィルタを用いることで、液体成分は除去しながら細菌のみを回収することができる。この方法では、検体毎にシリンジを洗浄することやシリンジのチップを交換する必要がない。回収した細菌は生理食塩水や培地などの液体中に導入し攪拌する。
【0091】
ステップS94では菌液の濃度を計測し、必要に応じて所望の値に濃度の調整を行う。菌の濃度は例えば濁度の計測によって行い、波長400~600nmの吸光度計測の結果を用い、予め測定された濁度と菌数の関係を示す検量線により濃度を計測する。例えば、光計測装置を用いてそのような調整を行うことができる。濃度が所望の値以上の場合には、生理食塩水や培地などの液体を追加する。
【0092】
最後のステップS95では調製した菌液を用いて増殖度の判定を行う。例えば感受性試験の場合には、ある濃度に調整された菌液と様々な濃度の薬剤とを混合させ増殖度を判定することで、その細菌に対する薬剤の有効性を判定することができる。増殖度の判定には種々の方法があるが、光学的に細菌の数がどの程度増えているか判定を行い、増殖の程度を検出する方法が一般的である。例えばランプ、LEDやレーザ光源を用いることで、細菌の散乱による吸光度変化を計測する方法がある。他には、顕微鏡を用いて細菌を直接観察し、顕微鏡画像中の細菌数を数える方法もあり、この方法は吸光度変化を計測する方法よりも比較的迅速に増殖の判定が可能である。この場合には、増殖度判定に撮像装置を使用する。
【0093】
図10に、実施例3の処理を行い、血液試料から菌液を調製し顕微鏡観察により増殖判定を行った結果の一例を示す。本結果は大腸菌を用いて実施した結果であり、分離培養により一晩培養することで形成された単一コロニーから調製された菌液(
図10における分離培養)と、血液試料から前処理により調製された菌液(
図10における実施例3)とを用いた結果を比較した。なお、顕微鏡観察は、96穴プレートの1つのウェルに菌液と培地を導入しておき35℃で培養をしながら、30分毎に画像を取得した。その後、画像中に存在する細菌の数を表す細菌の面積値を、画像処理によって機械的に算出し、増殖度を求めた。分離培養を行って調製された菌と、本発明の前処理によって調製された菌の増殖度はほぼ一致している。すなわち、本発明の方法により、従来の分離培養を行う方法と同等の結果が得られることを表している。現在ゴールデンスタンダードとなっている感受性検査では分離培養を行う方法が用いられ、血液培養が陽性になった後一昼夜の分離培養を行い、その後増殖判定を行う。本発明の方法では一昼夜の分離培養を10分程度の前処理に置き換えることが可能であり、感受性検査の迅速化に繋がる。
【0094】
図11に、本発明の装置の一構成例を示す。装置は遠心機111、分取装置112、光計測装置114、撮像装置115から構成される。各装置は信号線117によって接続され、制御PC116によって機構が制御される。遠心機では、血球の分離用もしくは試料の排出、破壊、回収用に設定された少なくとも2つの遠心分離加速度により連続的に前処理が行われ、検体は処理後に搬送機構118を介して分取装置に送られる。分取装置では例えばシリンジ113を用いて細菌を回収する。その後光計測装置で菌液の濃度を計測する。このように遠心機と分取装置と光計測装置とを兼ね備えたものが前処理装置119として構成される。
【0095】
前処理装置119にて計測した濃度値は制御PCに付随される表示器などに表示しユーザに知らせてもよい。濃度値が目標値以上となる場合には例えばユーザに通知し、ユーザが濃度を目標値に調整してもよく、検査の信頼性を保つことができる。また、濃度が目標値以下の場合にはエラーのフラグを表示し、再度前処理を実施しなおすことや菌液を追加で培養した後に検査に使用する方法をとってもよい。
【0096】
一般には前処理装置119により処理された検体は一度ユーザに返却され、必要に応じて上記の追加の処理工程などを行った後、96穴プレートなどに分注が行われ撮像装置115により増殖判定が行われる。例えば、撮像装置115には光学系や顕微鏡撮像系の他に細菌を培養させるのに必要なインキュベータが搭載され、35℃に温調されていることが好ましい。増殖度の判定の進行状況や判定結果は制御PC116に付随の表示に表示され、ユーザに結果を通知する。その他に、制御PC116では検体の種類に応じて、遠心分離の加速度や時間、細菌の濃度の目標値などの各装置のパラメータを入力し、その値に応じて処理内容を変更できるようにすることが好ましい。
【0097】
[実施例4]
実施例4では、血液試料から細菌を捕集する前処理をより信頼性高く行うための容器の形状や貫通孔の位置に関する特徴に関して説明する。
【0098】
図12に容器の特徴の一例の側面図(A)および上面図(B)を示す。容器には遠心分離中において液体が漏れ出すことによって、他の試料へのコンタミネーションを防止させるような蓋121があることが好ましい。例えば、この蓋はゴムやフィルム製のシール栓であってもよい。シール栓の場合にはチップや注射針を挿入することで試料を注入することが可能で、分注時に開栓や閉栓をする必要がなく簡便に扱うことができる。
【0099】
また、血液試料混入防止用のガード122があることが好ましい。これは第1の容器11に血液試料を導入する場合に、誤って第2の容器61に混入することを防ぐための機構であり、微小な貫通孔よりも上側に設置される。仮に、血液試料が第2の容器61に混入した場合には、分離されていない血球成分が混入することになり、細菌の濃度調整が正しく行われなくなる可能性がある。
図12では血液試料混入防止用のガード122は第1の容器11に設けられているが、第2の容器61側に設けられていても同等の効果が得られるため問題ない。また、第2の容器61の内側の底面形状は容器の中心に向かって湾曲した形状であれば、中心に細菌が溜まりやすく捕集された細菌をより効率的に捕捉できる。
【0100】
また
図12の上面図(B)に示したように、微小な貫通孔が存在する位置には、容器支持部の存在しない空間123を設けることが好ましい。これは貫通孔から排出された試料がスムーズに第2の容器61の底方向に流れるためであり、支持部や容器の壁面などが存在する場合には、そこに細菌が捕捉される可能性がある。これは微小な貫通孔が複数個ある場合であっても同様である。
【0101】
第1の容器11と第2の容器61を固定するための容器指示部に関して、これは2つの容器を保持できる機構であればよいが、ねじ山が設けることによるねじによる容器支持部124であることが好ましい。例えば、第1の容器11の底面側におねじが、第2の容器61の内側にめねじが設けられた場合には、回転機構を用いることで第1の容器11と第2の容器61を着脱することが可能で、装置により自動化を行う際に適した構造となる。
【0102】
[実施例5]
実施例5では、血液試料から細菌を捕集する前処理をより簡便に行うための容器の形状に関する特徴に関して説明する。
【0103】
図13に容器の特徴の一例の側面図(A)および上面図(B)を示す。この容器の特徴は第2の容器が半径方向に非対称な部分である。このような形状の容器では、第1の容器への試料導入部131と、第2の容器の試料回収部132が異なる位置に設けられている。そのため、試料を回収する際には第1の容器を外す工程が不要で、そのまま細菌を回収することができ、効率的な前処理が可能である。
【0104】
実施例4と同様に、試料導入部131と試料回収部132にはそれぞれ個別に蓋121がされることが好ましく、ゴム栓やシール栓が用いられてよい。また、第2の容器61の内側の底面形状は試料回収部の中心に向かって湾曲した形状であれば、中心に細菌が溜まりやすく捕集された細菌をより効率的に捕捉できる。
【0105】
以上を総括すると次の通りである。本発明によれば、微小な貫通孔をもつ第1の容器と界面活性剤の入った第2の容器を内包接続して一緒に遠心分離することで、血液培養陽性試料などの細菌、血液成分、培地成分などが混在する試料からの血球と細菌の分離、血球の破壊、細菌の捕集を連続的に行うことができる。その後、菌液の濃度を調整し、増殖判定を行うことができる。この結果、通常一昼夜程度を要する分離培養によるコロニーからの菌液調製と同等の試料調製を10分程度で実現可能である。公知の方法では、複数回の分離や破壊処理および洗浄工程により繰り返しの遠心分離が必要であったが、本発明では一連の工程が連続的に実施されることで検査時間の短縮が可能となる。
【符号の説明】
【0106】
11…第1の容器
12…微小な貫通孔
41…液体が微小な貫通孔から排出されない条件の範囲
61…第2の容器
62…支持部
63…空間
71…血液試料
72…界面活性剤
73…血球成分
74…細菌を含む血漿および培地成分
75…細菌
76…液体
77…第3の容器
111…遠心機
112…分取装置
113…シリンジ
114…光計測装置
115…撮像装置
116…制御PC
117…信号線
118…搬送機構
119…前処理装置
121…蓋
122…血液試料混入防止用ガード
123…容器支持部の存在しない空間
124…ねじによる容器支持部
131…試料導入部
132…試料回収部