(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-16
(45)【発行日】2024-10-24
(54)【発明の名称】マイクロホン信号変換モジュール及びマイクロホンモジュール
(51)【国際特許分類】
H04R 3/00 20060101AFI20241017BHJP
【FI】
H04R3/00 320
(21)【出願番号】P 2024531384
(86)(22)【出願日】2023-06-29
(86)【国際出願番号】 JP2023024235
【審査請求日】2024-05-24
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000191238
【氏名又は名称】日清紡マイクロデバイス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001896
【氏名又は名称】弁理士法人朝日奈特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】本木 直幸
【審査官】渡邊 正宏
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-530024(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0157017(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03F 1/00- 3/45
H03F 3/50- 3/52
H03F 3/62- 3/64
H03F 3/68- 3/72
H03G 1/00- 3/34
H04R 3/00- 3/14
H04R 25/00-25/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トランスデューサから入力される第1アナログ信号について第1ゲインでレベル変換を行って、前記レベル変換によって得られる第2アナログ信号を出力するバッファ回路と、
前記第2アナログ信号のレベルを第2ゲインでディジタル値に変換するアナログ-ディジタル変換回路と、
前記第1ゲイン及び前記第2ゲインを制御する制御回路と、
を備える、マイクロホン信号変換モジュールであって、
前記第2アナログ信号が前記制御回路に入力され、
前記制御回路は、前記第2アナログ信号のレベルに基づいて、前記第1ゲイン及び前記第2ゲインそれぞれの大きさを互いに反対方向へと制御するように構成されており、
前記制御回路は、
前記第2アナログ信号のレベルを所定の上限閾値及び所定の下限閾値と比較する比較回路と、
前記第2アナログ信号のレベルと前記第2アナログ信号の最大振幅の中点電位との大小関係の反転を検出する検出器と、
前記比較回路によって前記第2アナログ信号のレベルが前記下限閾値から前記上限閾値までの範囲外であることが検出されるとインクリメントされ、前記検出器によって前記反転が検出されるとデクリメントされるカウンタと、
を含み、
前記制御回路は、前記カウンタのカウント値に応じて前記第1ゲイン及び前記第2ゲインを制御するように構成されている、マイクロホン信号変換モジュール。
【請求項2】
前記バッファ回路は、
前記第1アナログ信号を受ける反転入力端子を有する演算増幅器と、
前記演算増幅器の出力端子と前記反転入力端子との間に配置されている複数のキャパシタと、
前記複数のキャパシタの一部と前記反転入力端子とを接続又は分離するスイッチと、
を含み、
前記制御回路は、前記スイッチを開閉することによって前記第1ゲインを制御するように構成されている、請求項1記載のマイクロホン信号変換モジュール。
【請求項3】
前記複数のキャパシタの前記一部は、前記スイッチによって前記反転入力端子と分離されるときに放電するように構成されている、請求項2記載のマイクロホン信号変換モジュール。
【請求項4】
前記バッファ回路は、
容量型トランスデューサから送られる前記第1アナログ信号を受ける入力端子を有する非反転バッファと、
前記入力端子と所定の定電位との間にそれぞれ配置される複数のキャパシタと、
前記複数のキャパシタそれぞれと前記入力端子とを接続又は分離するスイッチと、
を含み、
前記制御回路は、前記スイッチを開閉することによって前記第1ゲインを制御するように構成されている、請求項1記載のマイクロホン信号変換モジュール。
【請求項5】
前記複数のキャパシタは、前記スイッチによって前記入力端子と分離されるときに放電するように構成されている、請求項4記載のマイクロホン信号変換モジュール
。
【請求項6】
前記制御回路は、さらに、前記検出器による前記反転の検出から所定の時間が経過するとパルスを出力するパルス発生回路を含み、
前記カウンタは前記パルスが出力されるたびに前記カウント値をデクリメントするように構成されている、請求項1記載のマイクロホン信号変換モジュール。
【請求項7】
トランスデューサから入力される第1アナログ信号について第1ゲインでレベル変換を行って、前記レベル変換によって得られる第2アナログ信号を出力するバッファ回路と、
前記第2アナログ信号のレベルを第2ゲインでディジタル値に変換するアナログ-ディジタル変換回路と、
前記第1ゲイン及び前記第2ゲインを制御する制御回路と、
を備える、マイクロホン信号変換モジュールであって、
前記第2アナログ信号が前記制御回路に入力され、
前記制御回路は、前記第2アナログ信号のレベルに基づいて、前記第1ゲイン及び前記第2ゲインそれぞれの大きさを互いに反対方向へと制御するように構成されており、
前記アナログ-ディジタル変換回路は、ディジタル-アナログ変換器によって構成される帰還回路を有するデルタシグマ型アナログ-ディジタル変換回路であり、
前記制御回路は、前記帰還回路の帰還量を増減させることによって前記第2ゲインを制御するように構成されており、
前記アナログ-ディジタル変換回路は、さらに、前記バッファ回路に接続されるトランスデューサのキャパシタンスと、前記バッファ回路の入力キャパシタンスとの比率に応じて設定される帰還量を有する第2の帰還回路を含んでいる、マイクロホン信号変換モジュール。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載のマイクロホン信号変換モジュールと、
前記第1アナログ信号を発生させるMEMSトランスデューサと、
を含むマイクロホンモジュール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロホン信号変換モジュール及びマイクロホンモジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、各種のエネルギーを異種のエネルギーに変換するトランスデューサが、産業用や民生用などの用途を問わず広く用いられている。このようなトランスデューサの一態様としてマイクロホンが存在する。近年の自然言語処理技術や音声認識技術の飛躍的な進歩に伴う対話型機器の発展に伴って、マイクロホン機器の有用性及びマイクロホンの需要が増大している。マイクロホンとして機能するトランスデューサは、音を感知してアナログの電気信号に変換する。そのため、多くの用途においてマイクロホンが生成する電気信号は、例えば特許文献1に示されるマイクロホン装置のように、ディジタル信号に変換されてマイコンなどの信号処理装置に入力される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
音声信号のようなアナログの電気信号をディジタル信号に変換する特許文献1に開示されるような装置では、マイクロホンなどから入力される電気信号が、その変換の前に、アナログ-ディジタル変換器(AD変換器)に適したレベルに増幅される。このようなアナログ信号のレベルや形態などの変換を行う電子モジュールには、マイクロホンで感知された信号が変換誤差などのノイズに埋没しないように、十分な信号雑音比(SN比)の確保が求められる。
【0005】
一方、例えばMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)マイクのような、小型のトランスデューサの信号の増幅及び変換などを行う電子モジュールには、しばしば、低電圧且つ低消費電流での動作が求められる。また、マイクロホンを備える各種機器に対する継続的な小型化の要求に応えるべく、マイクロホン用の電子モジュール自体に対する小型化の要求も恒常的に存在する。このようなマイクロホンからの信号の増幅や変換などを行う、低電圧、低消費電流、及び小型の電子モジュールでは、十分なSN比の確保が理論上困難なことがある。
【0006】
SN比を向上させる一つの手段として、例えば
図8Aに示すようなマイクアンプ900では、AD変換器910の前段の増幅器(プリアンプ)901の利得を大きくすることが考えられる。AD変換器910は、一般的なデルタシグマ型AD変換器であり、減算器902と、積分器903と、量子化器904と、1ビットのDA変換器905と、を含んでいる。
【0007】
プリアンプ901の利得を大きくすることによって、AD変換器910に入力する信号を大きくして見かけ上のSN比を大きくすることができる。しかし、そのようにプリアンプ901の利得が大きくされると、入力信号Viの振幅が大きいときには、出力信号Voが、
図8Bに示される信号Voaのように飽和してしまうことがある。なお、
図8Bに示される信号Voaは、AD変換器910の出力信号Voを適切なローパスフィルタに通すことによって得られるアナログ信号である(以下で順次参照される
図6A、
図9、及び、
図10それぞれに示される出力信号So及び出力信号Voaも、同様に、ローパスフィルタ通過後の出力信号である)。
【0008】
すなわち、
図8Bにおいて、AD変換器910に入力される信号Viaが、入力信号Viの振幅の極値付近(
図8BのP部内)で飽和している。その結果、デルタシグマ型のAD変換器910において適切な変換動作が行われず、信号Voaが入力信号Viを再現できていない。このように、SN比の向上の為にAD変換器の前段の増幅器の利得を単に大きくするとダイナミックレンジが低下することがある。従って、マイクロホン信号を扱う電子モジュールには、SN比及びダイナミックレンジの両方において、求められる性能を十分に備えることが難しい、という問題がある。
【0009】
本発明は、このような問題に鑑み、ダイナミックレンジを犠牲にすることなく、しかも良好なSN比で、トランスデューサからのアナログ信号のディジタル値への変換を可能にすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一実施形態のマイクロホン信号変換モジュールは、トランスデューサから入力される第1アナログ信号について第1ゲインでレベル変換を行って、前記レベル変換によって得られる第2アナログ信号を出力するバッファ回路と、前記第2アナログ信号のレベルを第2ゲインでディジタル値に変換するアナログ-ディジタル変換回路と、前記第1ゲイン及び前記第2ゲインを制御する制御回路と、を備える。前記第2アナログ信号が前記制御回路に入力され、前記制御回路は、前記第2アナログ信号のレベルに基づいて、前記第1ゲイン及び前記第2ゲインそれぞれの大きさを互いに反対方向へと制御するように構成されている。
【0011】
本発明の一実施形態のマイクロホンモジュールは、上記マイクロホン信号変換モジュールと、前記第1アナログ信号を発生させるMEMSトランスデューサと、を含んでいる。
【発明の効果】
【0012】
本発明のマイクロホン信号変換モジュール及びマイクロホンモジュールによれば、トランスデューサからのアナログ信号を、ダイナミックレンジを犠牲にすることなく、良好なSN比でディジタル値に変換することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の一実施形態のマイクロホン信号変換モジュール及びマイクロホンモジュールの一例を概略的に示すブロック図である。
【
図2A】本発明の一実施形態におけるバッファ回路の一例を示す回路図である。
【
図2B】
図2Aの例のさらに具体的な構成の例を示す回路図である。
【
図3A】本発明の一実施形態におけるバッファ回路の他の例を示す回路図である。
【
図3B】
図3Aの例のさらに具体的な構成の例を示す回路図である。
【
図4】本発明の一実施形態における制御回路の一例を示すブロック図である。
【
図5A】本発明の一実施形態におけるAD変換回路の一例を示すブロック図である。
【
図5B】
図5Aの例のさらに具体的な構成の例を示すブロック図である。
【
図6A】本発明の一実施形態のマイクロホン信号変換モジュールにおける各信号波形の一例を示す図である。
【
図6B】
図6AのVIB部を拡大してゲイン及びカウント値の変化と共に示す図である。
【
図7】本発明の一実施形態におけるAD変換回路の他の例を示すブロック図である。
【
図8A】従来のマイクアンプの一例を示す回路図である。
【
図8B】
図8Aの従来のマイクアンプにおける各部の信号波形を示す図である。
【
図9】従来のマイクアンプにおいてプリアンプの利得の増減がディジタル処理で補われるときの各部の信号波形の一例を示す図である。
【
図10】従来のマイクアンプにおいてプリアンプの利得の増減がディジタル処理で補われるときの各部の信号波形の他の例を示す図である。
【
図11A】実施形態のマイクロホン信号変換モジュールのバッファ回路に対する比較例を示す回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図面を参照しながら、本発明のマイクロホン信号変換モジュール及びマイクロホンモジュールの実施形態を説明する。なお、以下に説明される実施形態は、本発明のマイクロホン信号変換モジュール及びマイクロホンモジュールが取り得る態様のうちの幾つかを示しているに過ぎない。本発明のマイクロホン信号変換モジュール及びマイクロホンモジュールは、以下に説明される実施形態に限定されない。
【0015】
<全体構成及び作用>
図1には、一実施形態のマイクロホン信号変換モジュールの一例であるマイクロホン信号変換モジュール1、及び、一実施形態のマイクロホンモジュールの一例であって、マイクロホン信号変換モジュール1を含むマイクロホンモジュール10が示されている。なお、以下に説明される実施形態のマイクロホン信号変換モジュールは、単に「マイク信号モジュール」とも称される。
【0016】
図1に示されるように、本実施形態のマイク信号モジュール1は、アナログ信号のレベル変換を行って出力するバッファ回路2と、アナログ信号のレベルをディジタル値に変換するアナログ-ディジタル変換回路(AD変換回路)3と、制御回路4と、を備えている。また、
図1の例において実施形態のマイクロホンモジュール10は、マイク信号モジュール1とマイクロホン11と、を含んでいる。
【0017】
図1のマイク信号モジュール1は、さらに、定電圧源5及び出力バッファ6を備えている。定電圧源5は、マイクロホン11を動作させるバイアス電圧として定電圧Vcを生成してマイクロホン11に提供する。定電圧源5は、一例として、低ドロップアウト(LDO)レギュレータなどのリニアレギュレータや、スイッチングレギュレータなどで構成される。出力バッファ6には、AD変換回路3からディジタル信号Sd1が入力される。出力バッファ6は、ディジタル信号Sd1を、マイク信号モジュール1の出力端子Soutに接続される外部機器(図示せず)に求められる出力インピーダンス及び駆動能力で出力する。出力バッファ6は、例えば、非反転型のインバータや、トランジスタの複合回路によって構成される。
【0018】
バッファ回路2は、マイクロホン11から入力される第1アナログ信号Sa1について第1ゲインG1でレベル変換を行って、そのレベル変換によって得られる第2アナログ信号Sa2を出力する。AD変換回路3は、第2アナログ信号Sa2のレベルを第2ゲインG2でディジタル値に変換して、その変換後の信号であるディジタル信号Sd1を出力する。制御回路4には、バッファ回路2から第2アナログ信号Sa2が入力される。制御回路4は、第2アナログ信号Sa2のレベルに基づいて制御信号Sc1、Sc2を出力することによって、バッファ回路2の第1ゲインG1及びAD変換回路3の第2ゲインG2を制御する。すなわち、バッファ回路2は、第1ゲインG1の制御、すなわち調整が、バッファ回路2の外部から可能なように構成されている。そして、AD変換回路3は、第2ゲインG2の制御、すなわち調整が、AD変換回路3の外部から可能なように構成されている。
【0019】
なお、バッファ回路2の第1ゲインG1は、一般に用いられている通り、入力信号のレベル(絶対値)に対する、その入力信号に基づいて出力される出力信号のレベル(絶対値)の比率である。一方、AD変換回路3の第2ゲインG2は、入力されるアナログ信号のレベルの単位変化量に対して適用される出力のディジタル値の変化量を示している。例えば第2ゲインG2が0dBである場合、AD変換回路3の出力信号をアナログ信号に変換することによって、AD変換回路3に入力されるアナログ信号の電圧振幅の1倍の電圧振幅を有するアナログ信号が得られる。他の例において第2ゲインG2が20dBである場合、AD変換回路3の出力信号を同様にアナログ信号に変換することによって入力アナログ信号の電圧振幅の10倍の電圧振幅のアナログ信号が得られる。
【0020】
制御回路4は、具体的には、第2アナログ信号Sa2のレベルに基づいて、第1ゲインG1及び第2ゲインG2それぞれの大きさを互いに反対方向へと制御するように構成されている。すなわち、制御回路4は、第2アナログ信号Sa2のレベルに基づいて、第1ゲインG1を大きくするときには、第2ゲインG2を小さくし、一方、第1ゲインG1を小さくするときには、第2ゲインG2を大きくする。そのように第1ゲインG1及び第2ゲインG2を制御することによって、マイク信号モジュール1の入力信号に対する出力信号のリニアリティを一定に保つことができる。
【0021】
このように構成される制御回路4を含む実施形態のマイク信号モジュール1では、一例として、デフォルト状態(基本状態、初期状態、又は工場出荷状態)での第1ゲインG1が比較的大きな値に設定される。そうすることによって、入力信号(第1アナログ信号Sa1)の振幅が小さいときでも第2アナログ信号Sa2の振幅を大きくすることができる。従ってSN比を高めることができる。なお、第2ゲインG2は、その比較的大きな第1ゲインG1に応じた比較的小さな値に設定される。従って、AD変換回路3の出力として、第1アナログ信号Sa1のレベルに応じた大きさのディジタル信号Sd1が得られる。
【0022】
一方、第1アナログ信号Sa1の振幅が、ある程度以上に大きく、そのためマイク信号モジュール1内で信号の飽和が生じるようなときには、制御回路4によって第1ゲインG1を小さくして第2アナログ信号Sa2の振幅が小さくされる(圧縮される)。そうすることによって、マイク信号モジュール1内の信号の飽和を防止することができる。従ってダイナミックレンジの低下を回避することができる。
【0023】
そして、制御回路4は、このように第1ゲインG1を小さくするときには、第2ゲインG2を大きくする。すなわち、第2アナログ信号Sa2からディジタル信号Sd1への変換において信号が伸長される。そのため、第1ゲインG1を小さくしたことによる出力信号(ディジタル信号Sd1)の減衰を補うことができる。従って、入力信号(第1アナログ信号Sa1)の比較的大きな振幅を忠実に再現し得る出力信号(ディジタル信号Sd1)を得ることができる。すなわち、ダイナミックレンジの低下を防止、又は少なくとも抑制することができる。
【0024】
また、マイク信号モジュール1全体のゲイン(感度)を入力信号の小さい振幅から大きい振幅まで、一定に保つことができる。しかも、入力信号の振幅が小さいときでも、良好なSN比を確保することができる。従って本実施形態によれば、ダイナミックレンジを犠牲にすることなく、マイクロホン11のようなトランスデューサからのアナログ信号を、良好なSN比でディジタル値に変換することができる。
【0025】
なお、本実施形態のマイク信号モジュール1は、マイクロホン11に限らず、音を電気信号に変換し得る任意の方式及び構造のトランスデューサから入力信号(第1アナログ信号Sa1)を受けることができる。すなわち、マイク信号モジュール1に入力信号を入力するトランスデューサは、マイクロホンとしての利用を意図されたものでなくてもよい。マイク信号モジュール1は、可聴領域に限らず任意の周波数における空気の振動を電気信号に変換し得る任意のトランスデューサからの信号を第1アナログ信号Sa1として受けることができる。
【0026】
特に、マイク信号モジュール1には、MEMS技術を空気の振動の検出機構として用いたMEMSトランスデューサで生成された信号が、第1アナログ信号Sa1として入力されてもよい。従って、
図1の例におけるマイクロホン11は、MEMSマイクロホンであってもよい。同様に、実施形態のマイクロホンモジュール10は、マイク信号モジュール1と、第1アナログ信号Sa1を発生させるMEMSトランスデューサと、を含んでいてもよい。
図1の例のマイクロホンモジュール10が含むマイクロホン11は、MEMSマイクロホンであってもよい。MEMSマイクロホンを含むことで、例えば小型、及び高耐熱性などの良好な性能を有するマイクロホンモジュール10が得られると考えられる。
【0027】
以下、バッファ回路2、制御回路4、及びAD変換回路3、それぞれの一例及び一部の変形例を説明する。なお、以下に説明される各回路の構成は、それぞれの回路の単なる例に過ぎず、各回路の構成は以下に説明される構成に限定されない。
【0028】
<バッファ回路の一例(反転型)>
図2Aには、本実施形態のマイク信号モジュールのバッファ回路2が取り得る構成の一例が示されている。
図2Aに示されるように、バッファ回路2は、演算増幅器21と、複数のキャパシタ(キャパシタ22及びキャパシタ23)と、を含んでいる。演算増幅器21は、マイクロホン11のようなトランスデューサからの第1アナログ信号Sa1を受ける反転入力端子と、参照電位Vrefが印加される非反転入力端子とを有している。キャパシタ22及びキャパシタ23は、互いに並列に、演算増幅器21の出力端子と反転入力端子との間に配置されている。
図2Aにおいてキャパシタ22のキャパシタンスは固定であり、一方、キャパシタ23は、キャパシタンスの調整が可能な可変容量キャパシタである。
【0029】
参照電位Vrefは、例えば
図1の定電圧源5とは別の電圧源(図示せず)によって定電圧Vcとは独立して生成される。参照電位Vrefは、例えば、第1アナログ信号Sa1の最大振幅の中点電位、又は、演算増幅器21の正負電源間(単電源の場合は電源とグランドとの間)の中点の電位であり得る。
【0030】
マイクロホン11は、容量型MEMSマイクロホンのような容量型のトランスデューサの場合、固有のキャパシタンスを有している。従って、第1アナログ信号Sa1の交流成分に対するバッファ回路2の第1ゲインG1は、次の(式1)で表される。
G1=C11/(C22+C23) (式1)
ここでC11、C22、C23は、それぞれ、マイクロホン11、キャパシタ22、キャパシタ23のキャパシタンスである。従って、制御回路4(
図1参照)は、キャパシタ23のキャパシタンスを調整することによって、第1ゲインG1を調整することができる。
【0031】
図2Bには、
図2Aのバッファ回路2の一例のさらに具体的な構成の例が示されている。
図2Bは、キャパシタンスの調整が可能なキャパシタ23をさらに具体化して示している。
図2Bに示されるように、キャパシタ23は、キャパシタ231、232、233、・・・23nまでの複数の第1ゲインG1調整用のキャパシタによって構成されている。このようにバッファ回路2は、演算増幅器21の出力端子と反転入力端子との間に配置されている複数のキャパシタを含んでいる。
【0032】
さらに、バッファ回路2は、複数のスイッチ24及び複数のスイッチ25を含んでいる。各スイッチ25は、演算増幅器21の出力端子と反転入力端子との間の複数のキャパシタの一部であるキャパシタ231~23nいずれかの一端と演算増幅器21の反転入力端子との間に配置されている。各スイッチ25は、各スイッチ25が接続されているキャパシタ231~23nのいずれかと演算増幅器21の反転入力端子とを接続又は分離する。一方、各スイッチ24は、キャパシタ231~23nのいずれかと並列に接続されている。各スイッチ24が閉じることによって、キャパシタ231~23nのうちの、閉じているスイッチ24と並列に接続されているキャパシタが放電する。
【0033】
図2Bのように構成されているバッファ回路2では、所望の数のスイッチ25を閉じることによって、キャパシタ22とキャパシタ23の合成キャパシタンスを調整することができる。すなわち、第1ゲインG1を調整することができる。上記の(式1)によれば、スイッチ25を閉じることによって、スイッチ25を介して演算増幅器21に接続されるキャパシタンス231~23nを多くして第1ゲインG1を小さくすることができる。従って、制御回路4は、スイッチ25を開閉することによって第1ゲインG1を制御するように構成されていてもよい。制御回路4(
図1参照)は、例えば第1アナログ信号Sa1の振幅が大きいときには、スイッチ25を閉じることによって、第2アナログ信号Sa2を減衰させることができる。
【0034】
また、
図2Bの例では、スイッチ24を閉じることによって、キャパシタ231~23nのうちの、第1ゲインG1の調整に寄与していない、すなわち、スイッチ25を介して演算増幅器21に接続されていないキャパシタを放電させることができる。制御回路4は、スイッチ24を閉じることによって、キャパシタ23を構成する各キャパシタのうちの、第1ゲインG1の設定に寄与していないキャパシタを放電させるように構成される。
【0035】
キャパシタ231~23nは、好ましくは、上記の通り、スイッチ25によって演算増幅器21の反転入力端子と分離されるときに放電するように構成される。このようにキャパシタ231~23nを放電しておくことで、それら分離されているキャパシタを演算増幅器21に接続して第1ゲインG1を切り替えるときに、演算増幅器21の入出力端子間に蓄えられている電荷量が正しく維持される。そのため、理論的には第1ゲインG1の切り替えに起因する第2アナログ信号Sa2のDCオフセットが生じない。従って、第1アナログ信号Sa1のゼロクロス時(又は中点電位クロス時)でなくても、第1ゲインG1を切り替えることができる。
【0036】
前述したように、第2アナログ信号Sa2を減衰させるときには、スイッチ25が閉じられる。一方、スイッチ25が全て開放され、スイッチ24が全て閉じられている状態が、マイク信号モジュールのデフォルト状態であってよい。そのようにスイッチ25が全て開放されている状態では、上記(式1)から明らかなように、第1ゲインG1は、キャパシタ22のキャパシタンスとマイクロホン11のキャパシタンスとの比率によって決定される。このデフォルト状態に限らず第1ゲインG1は、(式1)が示すようにマイクロホン11のようなトランスデューサのキャパシタンスに依存する。
【0037】
しかし、スイッチ25を閉じることによる第1ゲインG1の変化量(例えば一つのスイッチ25を閉じることによる第2アナログ信号Sa2の減衰量)は、上記(式1)の分母にあるC22とC23との比率で決定される。すなわちキャパシタ23のキャパシタンスの調整による第1ゲインG1の減衰率∂G1は、次の(式2)で表される。
∂G1=1+(C22/C23) (式2)
一例として実施形態のマイク信号モジュールが半導体基板上で構成される場合、キャパシタ22及びキャパシタ23は半導体基板上に形成される。そのような場合、キャパシタ22のキャパシタンスと、キャパシタ231~23nそれぞれのキャパシタンスとの比率を正確に作り込むことは比較的容易である。そのため、スイッチ25を閉じることによる第1ゲインG1の変化量を正しく構成することは比較的容易なことがある。
【0038】
従って、第2ゲインG2を決定する素子も、キャパシタ22、23と同様に半導体基板上で構成することによって、マイクロホン11のキャパシタンスがばらついても、マイク信号モジュールの良好なリニアリティを容易に確保できることがある。このように、
図2A及び
図2Bに例示の反転型のバッファ回路2では、第1ゲインG1はマイクロホン11のようなトランスデューサのキャパシタンスのばらつきに依存する。しかし、各ゲインの制御を伴うマイク信号モジュールの信号変換におけるリニアリティの確保は、比較的容易であると考えられる。なお、トランスデューサのキャパシタンスのばらつきによる第1ゲインG1の変動は、従来から行われている調整方法で補償可能である。
【0039】
<バッファ回路の他の例(正転型)>
図3Aには、本実施形態のマイク信号モジュールのバッファ回路2が取り得る構成の他の例が示されている。
図3Aに示される例では、バッファ回路2は、非反転バッファ26と、キャパシタ27と、を含んでいる。非反転バッファ26は、マイクロホン11から送られる第1アナログ信号Sa1を受ける入力端子を有している。非反転バッファ26は、一例として、ボルテージフォロワを構成するように反転入力端子と出力端子とが接続された演算増幅器である。その演算増幅器の非反転入力端子が、
図3Aの非反転バッファ26の入力端子であってもよい。
図3Aの例においてマイクロホン11は、容量型MEMSマイクロホンのような容量型トランスデューサである。キャパシタ27は、非反転バッファ26の入力端子と所定の定電位である参照電位Vrefとの間に配置されている。キャパシタ27は、キャパシタンスの調整が可能な可変容量キャパシタである。
【0040】
参照電位Vrefは、例えば
図1の定電圧源5とは別の電圧源(図示せず)によって定電圧Vcとは独立して生成される。参照電位Vrefは、例えば、第1アナログ信号Sa1の最大振幅の中点電位、又は、演算増幅器21の正負電源間(単電源の場合は電源とグランドとの間)の中点の電位であり得る。
【0041】
容量型のトランスデューサであるマイクロホン11は、固有のキャパシタンスを有している。従って、第1アナログ信号Sa1の交流成分に対するバッファ回路2の第1ゲインG1は、次の(式3)で表される。
G1=C11/(C11+C27) (式3)
ここでC11、C27は、それぞれ、マイクロホン11、キャパシタ27のキャパシタンスである。従って、制御回路4(
図1参照)は、キャパシタ27のキャパシタンスを調整することによって、第1ゲインG1を調整することができる。
【0042】
図3Bには、
図3Aのバッファ回路2の一例のさらに具体的な構成例が示されている。
図3Bは、キャパシタンスの調整が可能なキャパシタ27をさらに具体化して示している。
図3Bに示されるように、キャパシタ27は、キャパシタ271、272、273、・・・27nまでの複数の第1ゲインG1調整用のキャパシタによって構成されている。すなわちバッファ回路2は、非反転バッファ26の入力端子と、所定の定電位である参照電位Vrefとの間にそれぞれ配置されている複数のキャパシタを含んでいる。
【0043】
さらに、バッファ回路2は、複数のスイッチ28及び複数のスイッチ29を含んでいる。各スイッチ29は、非反転バッファ26の入力端子と、キャパシタ271~27nいずれかの一端との間に配置されている。スイッチ29は、複数のキャパシタ271~27nと非反転バッファ26の入力端子とを接続又は分離する。一方、各スイッチ28は、キャパシタ271~27nのいずれかと並列に接続されている。各スイッチ28が閉じることによって、キャパシタ271~27nのうちの、閉じているスイッチ28と並列に接続されているキャパシタが放電する。
【0044】
図3Bのように構成されるバッファ回路2では、所望の数のスイッチ29を閉じることによって、キャパシタ27のキャシタンスを調整して第1ゲインG1を調整することができる。上記の(式3)によれば、スイッチ29を閉じることによって、非反転バッファ26に接続されるキャパシタンス271~27nを多くして第1ゲインG1を小さくすることができる。従って、制御回路4は、スイッチ29を開閉することによって第1ゲインG1を制御するように構成されていてもよい。制御回路4(
図1参照)は、例えば第1アナログ信号Sa1の振幅が大きいときには、スイッチ29を閉じることによって、第2アナログ信号Sa2を減衰させることができる。
【0045】
また、
図3Bの例では、キャパシタ271~27nのうちのスイッチ29を介して非反転バッファ26に接続されていないキャパシタを、スイッチ28を閉じることによって放電させることができる。制御回路4は、スイッチ28を閉じることによって、キャパシタ27を構成する各キャパシタのうちの、第1ゲインG1の設定に寄与していないキャパシタを放電させるように構成される。
【0046】
キャパシタ271~27nは、好ましくは、上記のようにスイッチ29によって非反転バッファ26の入力端子と分離されるときに放電するように構成される。このようにキャパシタ271~27nを放電しておくことで、それら分離されているキャパシタを非反転バッファ26に接続して第1ゲインG1を切り替えるときに、非反転バッファ26に接続されているキャパシタに蓄えられている電荷量が正しく維持される。そのため、理論的には第1ゲインG1の切り替えに起因する第2アナログ信号Sa2のDCオフセットを生じない。従って、第1アナログ信号Sa1のゼロクロス時(又は中点電位クロス時)でなくても、第1ゲインG1を切り替えることができる。
【0047】
前述したように第2アナログ信号Sa2を減衰させるときには、スイッチ29が閉じられる。一方、スイッチ29が全て開放され、スイッチ28が全て閉じられている状態が、マイク信号モジュールのデフォルト状態であってよい。そのようにスイッチ29が全て開放されている状態では、上記(式3)から明らかなように、第1ゲインG1は1倍(0dB)である。従って、
図3Bの例では、デフォルト状態での第1ゲインG1のばらつきは少ないと考えられる。
【0048】
一方、スイッチ29を閉じることによる第1ゲインG1の変化量(例えば一つのスイッチ29を閉じることによる第2アナログ信号Sa2の減衰量)は、上記(式3)の分母にあるC11とC27との比率で決定される。すなわちキャパシタ27のキャパシタンスの調整による第1ゲインG1の減衰率∂G1は、次の(式4)で表される。
∂G1=1+(C11/C27) (式4)
従って、第1ゲインG1の変化量は、容量型トランスデューサのキャパシタンスC11のばらつきに依存する。
【0049】
キャパシタンスC11は、キャパシタ27のキャパシタンスC27から独立してばらつくため、キャパシタンスC27の調整量に対する第1ゲインG1の変化量が、キャパシタンスC11のばらつきに応じてばらつくことになる。そのため、スイッチ29のいずれかを閉じて第2アナログ信号Sa2を減衰させるような動作領域では、トランスデューサのキャパシタンスのばらつき次第で、バッファ回路2の入力と、AD変換回路3(
図1参照)の出力との間のリニアリティが維持されないこととなる。例えば、これら入力と出力を横軸と縦軸にとるプロット図において、両者の関係が、小さい入力値の領域では直線で示されるが、一定値以上の入力値の領域では、傾きが徐々に増加又は減少する曲線で示されることになる。そこで、このトランスデューサのキャパシタンスのばらつきを補正するために、好ましくは、AD変換回路3(
図1参照)内の帰還量の調整が行われる。この調整は後に
図7を参照して詳述される。
【0050】
図2Bのキャパシタ231~23n及び
図3Bのキャパシタ271~27nは、第1ゲインG1に求められる設定値の数に応じた数で配置される。そして、キャパシタ231~23nの数と同数のスイッチ24及びスイッチ25それぞれが設けられる。同様に、キャパシタ271~27nの数と同数のスイッチ28及びスイッチ29それぞれが設けられる。n個のキャパシタ231~23n又はn個のキャパシタ271~27nを設けることによって、第1ゲインG1を、デフォルト状態における値以外のn個の値に設定することができる。
【0051】
<制御回路>
図4には、本実施形態のマイク信号モジュールの制御回路4が取り得る構成の一例がブロック図で示されている。
図4に例示される制御回路4は、比較回路40と、ORゲート43と、カウンタ44と、検出器45と、エッジ検出回路46と、パルス発生回路47と、ORゲート48と、を含んでいる。パルス発生回路47は、タイマ471及びパルス発生器472を含んでいる。比較回路40は、第2アナログ信号Sa2のレベルを所定の上限閾値Vth+及び所定の下限閾値Vth-と比較する。
図4の例において比較回路40は、比較器41と比較器42と、を含んでいる。
【0052】
比較器41の反転入力端子には上限閾値Vth+が入力され、比較器42の非反転入力端子には下限閾値Vth-が入力される。比較器41の非反転入力端子及び比較器42の反転入力端子は、バッファ回路2(
図1参照)の出力端子に接続されている。従って比較器41の非反転入力端子及び比較器42の反転入力端子には、第2アナログ信号Sa2が入力される。比較器41は、所定の上限閾値Vth+と第2アナログ信号Sa2とを比較する。比較器42は、所定の下限閾値Vth-と第2アナログ信号Sa2とを比較する。比較器41及び比較器42それぞれの出力電圧はORゲート43の各入力端子に入力される。比較器41及び比較器42によって、下限閾値Vth-から上限閾値Vth+までの範囲を比較対象として有するウィンドコンパレータが構成されている。
【0053】
カウンタ44は、インクリメント入力端子441と、デクリメント端子442と、出力端子443と、を有している。カウンタ44は、インクリメント入力端子への立ち上がりエッジ又は立下りエッジのいずれかの入力によってカウント値を1ずつ増加させ、デクリメント入力端子への立ち上がりエッジ又は立下りエッジのいずれかの入力によってカウント値を1ずつ減少させる。カウンタ44は、内部に保有しているカウント値を、1又は複数の出力端子443から、シリアル又はパラレルに出力する。
【0054】
ORゲート43からは、比較器41の出力電圧の論理値と比較器42の出力電圧の論理値との論理和が、カウンタ44のインクリメント入力端子441へと出力される。従って、カウンタ44のカウント値は、第2アナログ信号Sa2が上限閾値Vth+を上回るたびにインクリメントされ、さらに、第2アナログ信号Sa2が下限閾値Vth-を下回るたびにインクリメントされる。
【0055】
検出器45は比較器によって構成されている。検出器45の反転入力端子は、バッファ回路2の出力端子に接続されている。検出器45の反転入力端子には第2アナログ信号Sa2が入力され、非反転入力端子には、第2アナログ信号Sa2の最大振幅の中点電位Vcomが入力される。従って、検出器45は、第2アナログ信号Sa2のレベルと中点電位Vcomとの大小関係の反転(時系列上での第2アナログ信号Sa2と中点電位Vcomとの交差であって、中点電位Vcomが0Vの場合はゼロクロス)を検出する。その反転の検出のたびに、検出器45の出力電圧の論理は、「正(“1”)」(ハイレベル電位)から「負(“0”)」(ロウレベル電位)に、又は「負」から「正」に、変化する。
【0056】
具体的には、
図4の例において第2アナログ信号Sa2のレベルが中点電位Vcomよりも低い側から中点電位Vcomに達するか又は中点電位Vcomを上回ると、検出器45の出力電圧の論理は「正」から「負」へと変化する。一方、第2アナログ信号Sa2のレベルが中点電位Vcomよりも高い側から中点電位Vcomに達するか又は中点電位Vcomを下回ると、検出器45の出力電圧の論理は「負」から「正」へと変化する。なお、
図4と異なり、検出器45の非反転入力端子に第2アナログ信号Sa2が入力され、反転入力端子に中点電位Vcomが入力されてもよい。
【0057】
エッジ検出回路46は、検出器45の出力電圧の立ち上がりエッジを検出すると共に、検出器45の出力電圧の立ち下がりエッジを検出する。エッジ検出回路46は、これら両エッジいずれかの検出の度にORゲート48にパルスを出力する。ORゲート48の二つの入力端子のうちの一方にはエッジ検出回路46の出力端子が接続されており、他方にはパルス発生器472の出力端子が接続されている。ORゲート48の出力端子はカウンタ44のデクリメント入力端子442に接続されている。ORゲート48は、パルス発生器472からロウレベルが入力されている状態では、エッジ検出回路46からパルスが入力されるたびに、その入力パルスと略同じパルスをカウンタ44のデクリメント入力端子442に出力する。従って、カウンタ44のカウント値は、第2アナログ信号Sa2のレベルと中点電位Vcomとの大小関係の反転が検出されるたびにデクリメントされる。
【0058】
すなわち、カウンタ44は、第2アナログ信号Sa2のレベルが下限閾値Vth-から上限閾値Vth+までの範囲外であることが比較回路40によって検出されるとインクリメントされ、検出器45によって第2アナログ信号Sa2のレベルと中点電位Vcomとの大小関係の反転が検出されるとデクリメントされる。一例として、上限閾値Vth+、及び、下限閾値Vth-は、それぞれ、AD変換回路3の最大入力電圧範囲の最大値及び最小値に応じて選択される。一例として、上限閾値Vth+は、AD変換回路3の最大入力電圧範囲の最大値よりも所定の電圧幅だけ低い電圧値である。同様に、下限閾値Vth-は、AD変換回路3の最大入力電圧範囲の最小値よりも所定の電圧幅だけ高い電圧値であってもよい。
【0059】
上記の通りカウント値が増減されるので、第2アナログ信号Sa2のレベルが、一例としてAD変換回路3の最大入力電圧範囲の最大値又は最小値に近付いたり最大入力電圧範囲を超えたりすることが続くと、カウンタ44のカウント値は徐々に増加する。一方、第2アナログ信号Sa2のレベルが、AD変換回路3の最大入力電圧範囲の最大値又は最小値の近傍の値に達することなく中点電位Vcomを横切ることを繰り返すと、カウンタ44のカウント値は徐々に減少する。
【0060】
従って、カウンタ44のカウント値に応じて第1ゲインG1を調整することによって、例えばAD変換回路3の最大入力電圧範囲を超えるような第2アナログ信号Sa2の生成を抑制することができる。すなわち、マイク信号モジュール内で信号の飽和を防止することができる。さらに、第1ゲインG1と同様にカウンタ44のカウント値に応じて第2ゲインG2を調整することによって、第1ゲインG1を小さくしたことによるAD変換回路3(
図1参照)の出力信号の減衰を補うことができる。従って、
図4の例のように構成される制御回路4は、カウンタ44のカウント値に応じて第1ゲインG1及び第2ゲインG2を制御するように構成されていてもよい。
【0061】
カウンタ44の出力端子443からシリアル又はパラレルに出力されるカウント値は、第1ゲインG1を制御する制御信号Sc1としてバッファ回路2へと出力されてよく、第2ゲインG2を制御する制御信号Sc2としてAD変換回路3へと出力されてよい。或いは、制御回路4は、カウント値の情報を含むカウンタ44からの出力信号に対して適切な信号処理回路(図示せず)で加工や分配などの必要な信号処理を行ってもよい。そして制御回路4は、その処理後の信号を制御信号Sc1、Sc2として、バッファ回路2、AD変換回路3それぞれへと出力してもよい。
【0062】
図4の例の制御回路4において、第2アナログ信号Sa2のレベルと中点電位Vcomとの大小関係の反転が検出されると、エッジ検出回路46からタイマ471にリセット信号Rstが入力される。タイマ471は、リセット信号Rstが入力されるたびに、その時点までの計時状態をリセットして、その後の経過時間を計時する。そしてタイマ471は、予め設定された所定の時間が経過すると、イネーブル信号Enをパルス発生器472に出力し、内部の計時状態をリセットして計時を繰り返す。パルス発生器472は、イネーブル信号Enが入力されると、予め設定された所定の時間毎にパルスPrを出力する。
【0063】
このように、パルス発生回路47は、検出器45による第2アナログ信号Sa2のレベルと中点電位Vcomとの大小関係の反転の検出から次の反転の検出までに所定の時間が経過すると、パルスPrをカウンタ44に向けて出力する。
図4の例のパルス発生回路47は、具体的には、ORゲート48にパルスPrを出力する。ORゲート48は、エッジ検出回路46からロウレベルが入力されている状態では、パルス発生回路47からパルスPrが入力されるたびに、カウンタ44のデクリメント入力端子442にパルスPrを出力する。すなわち、カウンタ44はパルスPrが出力されるたびにカウント値をデクリメントするように構成されている。そのため、カウンタ44のカウント値は、第2アナログ信号Sa2のレベルと中点電位Vcomとの大小関係の反転が検出されてから次の反転が検出されるまでの間に、タイマ471に設定されている所定の時間が経過するたびに、デクリメントされる。
【0064】
パルス発生回路47を含む
図4の制御回路4では、所定の時間の経過に基づいてパルス発生器472を作動させることによって強制的にカウンタ44のカウント値をデクリメントすることができる。このような構成により、第2アナログ信号Sa2が、検出器45によって検出され得ないような小信号若しくは無信号のときに、カウンタ44のカウント値をデクリメントすることができる。或いは、小振幅の第2アナログ信号Sa2が、若干の中点電位Vcomからのオフセットのために、中点電位Vcomを横切る変化をしないときに、カウンタ44のカウント値をデクリメントすることができる。そのようにカウント値を強制的にデクリメントすることによって、第1ゲインG1及び第2ゲインG2を適切な値に制御できることがある。
【0065】
タイマ471に設定される所定の時間は、一例として、50m秒以上である。このような時間がタイマ471に設定されると、小信号若しくは無信号となった場合でも初期状態に戻すことができる。なお、カウント値が0のときに第2アナログ信号Sa2のレベルと中点電位Vcomとの大小関係が反転しても、カウンタ44のデクリメント入力端子442に入力されるパルスPrは無視される。従ってカウント値は変化しない。
【0066】
<AD変換回路>
図5Aには、本実施形態のマイク信号モジュールのAD変換回路3が取り得る構成の一例がブロック図で示されている。
図5Aに例示されるAD変換回路3は、入力信号に対してデルタシグマ変調を行うデルタシグマ型AD変換回路である(「デルタシグマ型AD変換回路」は「シグマデルタ型AD変換回路」とも称される)。従ってAD変換回路3は、減算器31、積分器32、量子化器33、及び、1ビットのディジタル-アナログ変換器(DA変換器)34を含んでいる。主にDA変換器34によって、AD変換回路3の出力端Vadoから入力端VadiへとAD変換回路3の出力値を帰還させる帰還回路FBが構成されている。
【0067】
減算器31は、DA変換器34が出力する正又は負の基準電圧(+Vr又は-Vr)を第2アナログ信号Sa2から差し引いて積分器32へと出力する。積分器32は、減算器31の出力を累積加算して量子化器33に出力する。量子化器33は、積分器32から入力される電圧が基準値以上であれば「正(“1”)」(ハイレベル電位)のディジタル値を出力し、基準値以下であれば「負(“0”)」(ロウレベル電位)のディジタル値を出力する。DA変換器34は、量子化器33の出力が「正」であれば正の基準電圧+Vrを減算器31へと出力し、量子化器33の出力が「負」であれば負の基準電圧(-Vr)を減算器31へと出力する。このようなデルタシグマ変調を第2アナログ信号Sa2について行うことによって、第2アナログ信号Sa2の大きさに応じたPDM(パルス密度変調)形式のディジタル出力値が得られる。このように動作するAD変換回路3は、
図2A及び
図2Bに例示の反転型のバッファ回路2との組み合わせに適している。
【0068】
図5Aに示されるAD変換回路3では、帰還回路FBの帰還量が調整可能なように構成されている。「帰還量」は、量子化器33の出力に基づいてAD変換回路3の入力側に与えられる電圧の大きさを意味している。より具体的には、
図5Aの例において「帰還量」は、量子化器33の正負それぞれの出力に基づいて減算器31に入力される正又は負の基準電圧Vrの大きさを意味する。帰還量が大きくなると、減算器31による減算処理毎の減算結果の変化量が大きくなるので、入力される第2アナログ信号Sa2に対して量子化器33から出力されるディジタル値が小さくなり、第2ゲインG2は小さくなる。逆に、帰還量が小さくなると、入力される第2アナログ信号Sa2に対して出力されるディジタル値は大きくなり、第2ゲインG2は大きくなる。すなわち、帰還回路FBの帰還量を増減させることによって、AD変換回路3の第2ゲインG2を制御することができる。従って、制御回路4(
図1参照)は、帰還回路FBの帰還量を増減させることによって第2ゲインG2を制御するように構成されていてもよい。そのような構成は、第2ゲインG2の制御を容易にすると考えられる。
【0069】
図5Bには、
図5AのAD変換回路3の一例のさらに具体的な構成例が示されている。
図5Bは、帰還量の調整が可能な帰還回路FBをさらに具体化して示している。
図5Bに示されるように、帰還回路FBは、帰還回路FB0、FB1、FB2、FB3、・・・FBnまでの複数の帰還回路によって構成されている。帰還回路FB0は、主にDA変換器340によって構成されている。同様に、帰還回路FB1、FB2、FB3、・・・FBnは、それぞれ、主にDA変換器341、342、343、・・・34nによって構成されている。このようにAD変換回路3は、それぞれがDA変換器によって構成される任意の複数の帰還回路を有していてもよい。
【0070】
さらに、
図5BのAD変換回路3は、複数のスイッチ35を含んでいる。各スイッチ35は、帰還回路FB1~FBnそれぞれに設けられている。各スイッチ35は、DA変換器341~34nそれぞれの出力と減算器31との間に配置されており、DA変換器341~34nそれぞれの出力と減算器31とを接続、又は分離する。
【0071】
DA変換器340、341~34nは、それぞれ、前述したように量子化器33の出力の論理に応じて、正又は負の基準電圧Vrを出力する。そのため、DA変換器341~34nのうちのスイッチ35によって減算器31と接続されるDA変換器の数が多ければ多いほど、帰還回路FB全体の帰還量は大きくなる。逆に、接続されるDA変換器の数が少なければ少ないほど帰還量は小さくなる。すなわち、各スイッチ35の開閉を制御することによって、帰還回路FBの帰還量を調整することができる。従って、制御回路4(
図1参照)は、スイッチ35を開閉することによって第2ゲインG2を制御するように構成されていてもよい。
【0072】
一例として、スイッチ35が全て閉じている状態が、マイク信号モジュール1のデフォルト状態であってよい。その状態では、DA変換器340~340nにより帰還回路FBが構成される。そして、スイッチ35が一つ開放されるごとに、その開放されるスイッチ35に接続されているDA変換器341~34nのいずれかが出力する基準電圧Vrだけ、帰還回路FBの帰還量が減少する。その帰還量の減少に応じて第2ゲインG2が増大する。なお、DA変換器340、341~34nそれぞれが出力する基準電圧Vrは、全て同じであってもよく、異なっていてもよい。
【0073】
帰還回路FB1~FBnは、第2ゲインG2に求められる設定値の数に応じた数だけ設けられる。そして、帰還回路FB1~FBnの数と同数のスイッチ35それぞれが設けられる。n個の帰還回路FB1~FBnを設けることによって、第2ゲインG2を、デフォルト状態における値以外のn個の値に設定することができる。
【0074】
AD変換回路3は、好ましくは、スイッチ35の一つを閉じることによる第2ゲインG2の変化率が、
図2Bの例のバッファ回路2においてスイッチ25の一つを閉じることによる第1ゲインG1の変化率と略同じになるように構成される。スイッチ35の一つを閉じることによる第2ゲインG2の変化率は、
図3Bの例のバッファ回路2においてスイッチ29の一つを閉じることによる第1ゲインG1の変化率と略同じであってもよく、好ましくは略同じである。さらに、第1ゲインG1と第2ゲインG2とは、デシベル表示において、互いの反数(絶対値が略同じで正負が逆の数)であってもよい。そのようにAD変換回路3及びバッファ回路2が構成されると、第1ゲインG1及び第2ゲインG2の制御において、マイク信号モジュールのリニアリティの維持が容易なことがある。
【0075】
一例として、制御回路4(
図1参照)は、
図2Bの複数のスイッチ24及び複数のスイッチ25それぞれに対する制御信号を含む複数の制御信号を出力してもよい。他の例として、制御回路4は、
図3Bの例の複数のスイッチ28及び複数のスイッチ29それぞれに対する制御信号を含む複数の制御信号を出力してもよい。さらに、制御回路4は、
図5Bの例の複数のスイッチ35それぞれに対する制御信号を含む複数の制御信号を出力してもよい。そしてその複数の制御信号のそれぞれが、スイッチ24及びスイッチ25、スイッチ28及びスイッチ29、又は、スイッチ35それぞれにおいてその開閉を制御する制御端子に入力されてもよい。或いは、制御回路4から出力される制御信号が、適切なマルチプレクサ(図示せず)を介して、各スイッチ24及び各スイッチ25、又は、各スイッチ28及び各スイッチ29の制御端子へと分配されると共に、各スイッチ35の制御端子へと分配されてもよい。
【0076】
<各信号の波形例>
図6Aには、本実施形態のマイク信号モジュール1(
図1参照)における、第1アナログ信号Sa1、及び、その第1アナログ信号Sa1の入力によって生成される第2アナログ信号Sa2それぞれの波形の一観察例が示されている。
図6Aには、さらに、
図6Aの第1アナログ信号Sa1に対してAD変換回路3(
図1参照)から得られる出力信号Soの波形の一観察例が示されている。なお、
図6Aの出力信号Soは、
図8Bに関して前述したように、AD変換回路3から出力されるディジタル信号Sd1(
図1参照)をローパスフィルタに通すことによって得られる信号の波形である。
図6AのVIB部の第1アナログ信号Sa1及び第2アナログ信号Sa2が、拡大して
図6Bに示されている。
図6Bには、さらに制御回路4に含まれるカウンタ44(
図4参照)のカウント値Nc、第1ゲインG1、及び第2ゲインG2の変化の一例が示されている。
【0077】
図6Aに示されるように、時点T1よりも前の時間領域では、第1アナログ信号Sa1の振幅が比較的小さいので、第1アナログ信号Sa1を第1ゲインG1で増幅することによって、第1アナログ信号Sa1の振幅よりも大きい振幅を有する第2アナログ信号Sa2が生成されている。大きな振幅の第2アナログ信号Sa2を生成することによって、SN比が向上すると考えられる。このときの第1ゲインG1は、例えば、
図2Aに関して前述された上記(式1)に基づいて、C11/C22であり得る。ここでC11は、マイクロホン11(
図2A参照)のようなトランスデューサのキャパシタンスであり、C22は
図2Aのバッファ回路2の入出力間のキャパシタンスである。
【0078】
時点T1までの時間領域において、AD変換回路3(
図5B参照)は、第1ゲインG1に応じた第2ゲインG2で第2アナログ信号Sa2のレベルをディジタル値に変換している。その結果、出力信号Soにおいて、第1アナログ信号Sa1が略忠実に再現されている。
【0079】
時点T1以降では、第1アナログ信号Sa1の振幅が大きくなるため、第1ゲインG1が、時点T1の前の時間領域の値よりも小さくされる。すなわち、
図6Bに示されるように、時点T11で第2アナログ信号Sa2が下限閾値Vth-に達するためカウント値Ncがインクリメントされる。そのため、第1ゲインG1が、時点T11までの値よりも小さくされる。その結果、第2アナログ信号Sa2の振幅が第1ゲインG1の減少に応じた量だけ小さくなるため、AD変換回路3において信号の飽和が生じない。加えて、カウント値Ncのインクリメントに応じて第2ゲインG2が大きくされるので、第2アナログ信号Sa2は適切な大きさのディジタル値に変換される。
【0080】
時点T11後も第1アナログ信号Sa1のレベルが増大するので、時点T12において再び第2アナログ信号Sa2が下限閾値Vth-に達する。そのため、カウント値Ncがさらにインクリメントされ、第1ゲインG1が小さくされると共に第2ゲインG2が大きくされる。従って、第2アナログ信号Sa2は、飽和することなく、引き続き適切な大きさのディジタル値に変換される。時点T12後も、第2アナログ信号Sa2が下限閾値Vth-に達する度に、カウント値Ncがインクリメントされ、それに応じて第1ゲインG1が小さくされると共に第2ゲインG2が大きくされる。
【0081】
その後、時点T2で第2アナログ信号Sa2が中点電位Vcomに達すると、カウント値Ncがデクリメントされ、それに応じて第1ゲインG1が大きくされると共に第2ゲインG2が小さくされる。その後、時点T3で第2アナログ信号Sa2が上限閾値Vth+に達すると、再度、カウント値Ncがインクリメントされ、それに応じて第1ゲインG1が小さくされると共に第2ゲインG2が大きくされる。
【0082】
このように、第1ゲインG1及び第2ゲインG2が制御されるので、
図6Aに示されるように、時点T1以降も、出力信号Soにおいて、第1アナログ信号Sa1が略忠実に再現される。このように本実施形態によれば、良好なリニアリティで十分なダイナミックレンジを確保しながら、入力信号(第1アナログ信号Sa1)の小振幅時の十分なSN比も確保することができる。
【0083】
<AD変換回路の他の例>
図7には、本実施形態のマイク信号モジュールにおけるAD変換回路の他の例であるAD変換回路3xが示されている。AD変換回路3xは、
図5AのAD変換回路3に加えて、第2の帰還回路FBxを有している。第2の帰還回路FBxは、主に、バッファ回路2(
図3A及び
図3B参照)の入力端子に接続されるマイクロホン11のようなトランスデューサのキャパシタンスのばらつきを補正するために付加される。AD変換回路3xは、
図3A及び
図3Bに例示の正転型のバッファ回路2との組み合わせに適している。
【0084】
バッファ回路2が正転型の場合、反転型と異なり、参照電位Vref(
図3A参照)に対する極性として第1アナログ信号Sa1(
図3A参照)の極性と同じ極性を有する第2アナログ信号Sa2がバッファ回路2からAD変換回路3xに出力される。そのため、
図7のAD変換回路3x内のDA変換器34は、量子化器33の出力が「正」であれば負の基準電圧-Vrを減算器31へと出力し、量子化器33の出力が「負」であれば正の基準電圧(+Vr)を減算器31へと出力する。従って、減算器31において実質的には、量子化器33の出力が「正」のときには絶対値Vrが加算され、量子化器33の出力が「負」のときには絶対値Vrが減算される。DA変換器34がそのように動作することによって、正転型のバッファ回路2からの第2アナログ信号Sa2に対する適切なデルタシグマ変調動作が実現される。なお、
図7の例においてもDA変換器34が
図5Aの例と同様に動作してもよく、その場合、減算器31は、DA変換器34からの出力に対する加算器としての機能を有していてもよい。
【0085】
一方、第2の帰還回路FBxは、主に、
図5AのDA変換器34と同様に動作するDA変換器34xによって構成されている。すなわち、DA変換器34xは、量子化器33の出力が「正」であれば正の基準電圧+Vrxを減算器31へと出力し、量子化器33の出力が「負」であれば負の基準電圧-Vrxを減算器31へと出力する。DA変換器34xが出力する正又は負の基準電圧(+Vrx又は-Vrx)は、DA変換器34から出力される基準電圧(+Vr又は-Vr)と共に、減算器31によって第2アナログ信号Sa2から差し引かれる。
【0086】
第2の帰還回路FBxは、帰還回路FBと同様に、帰還量の調整が可能なように構成されている。従って、第2の帰還回路FBxは、
図5Bの帰還回路FBと同様に、それぞれスイッチとDA変換器とを含む複数の帰還回路によって構成されてもよい。そのスイッチの開閉によって第2の帰還回路FBxの帰還量を調整することができる。第2の帰還回路FBxの帰還量は、バッファ回路2(
図3A及び
図3B参照)に接続されるマイクロホン11のようなトランスデューサのキャパシタンスと、バッファ回路2の入力キャパシタンスとの比率に応じて設定される。「バッファ回路2の入力キャパシタンス」は、バッファ回路2の入力端子に接続されている、マイクロホン11などのトランスデューザ以外の(例えば
図3A及び
図3Bのキャパシタ27のような)容量性素子のキャパシタンスである。
【0087】
前述したように、
図3A及び
図3Bのバッファ回路2においてスイッチ29を閉じることによる第1ゲインG1の変化量は、上記(式4)によれば、C27とC11との比率によって決定される。C11は、バッファ回路2に接続されるマイクロホン11のようなトランスデューサのキャパシタンスである。C27は、
図3A及び
図3Bのキャパシタ27のキャパシタンスであってバッファ回路2の入力キャパシタンスである。従って、第2アナログ信号Sa2を精度よくディジタル信号に変換するには、バッファ回路2に接続されるトランスデューサのキャパシタンスとバッファ回路2の入力キャパシタンスとの比率のばらつきを補正する必要がある。
【0088】
この点に関して、
図7の例では、前述したように、第2の帰還回路FBxは、バッファ回路2に接続されるトランスデューサのキャパシタンスとバッファ回路2の入力キャパシタンスとの比率に応じて設定される帰還量を有している。そのため、第2の帰還回路FBxによって、第1ゲインG1のばらつきを補正することができる。従って入力のアナログ信号を正確にディジタル信号に変換することができると考えられる。
【0089】
一例として、
図5Bの帰還回路FBのスイッチ35及びDA変換器341~34nのような複数組のスイッチ及びDA変換器を第2の帰還回路FBxが含んでいる場合、そのスイッチの開閉の制御によって、第2の帰還回路FBxの帰還量を調整することができる。すなわち、第1ゲインG1のばらつきを補正することができる。第2の帰還回路FBxの帰還量は、一例として、バッファ回路2に接続されるトランスデューサのキャパシタンス及びバッファ回路2の入力インピーダンスを、既知のアナログ信号を用いて測定することによって決定される。そして決定された帰還量が実現されるように、例えば、第2の帰還回路FBxのDA変換器34xに対して
図5Bのスイッチ35のような機能を果たすスイッチの開閉が制御される。なお、第2の帰還回路FBxの帰還量は、第2の帰還回路FBx内のキャパシタンスの調整以外の手段で基準電圧Vrxを調整することによって調整されてもよい。
【0090】
なお、AD変換回路3xの第2ゲインG2は、第2の帰還回路FBxの帰還量にも依存する。従って、
図7の例において第1ゲインG1と第2ゲインG2とは、デシベル表示において互いの反数でなくてもよい。例えば、第1ゲインG1と第2ゲインG2とは、倍率表示において、バッファ回路2に接続されるトランスデューサのキャパシタンスとバッファ回路2の入力キャパシタンスとの比率と略同じ比率で、異なっていてもよい。
【0091】
<実施形態以外の構成との対比>
図1~
図7を参照する上記説明のように、本実施形態のマイク信号モジュールでは、制御によるバッファ回路2の第1ゲインG1の増減を補ってリニアリティを維持すべく、AD変換回路3の第2ゲインG2が制御される。このような本実施形態の構成に対して、DSP(ディジタル・シグナル・プロセッサ)などを用いて、AD変換後のディジタル信号に対して伸長/圧縮などの処理を行うことによってリニアリティを維持することも考えられる。
【0092】
しかし、DSPなどを用いた、AD変換後のディジタル領域での信号処理では、DCオフセットによるノイズ回避又はDSPでの信号処理時間確保のため、入力されるアナログ信号のゼロクロス時にゲインの切り替えが行われる。そのため、
図9に示されるP1部の出力信号Voaのように、入力信号の振幅増大直後の第1波がクリップ(欠損)してしまうことがある。なお、
図9は、
図8Aの従来のマイクアンプ900において、プリアンプ901の利得の制御を行うと共に、その制御によるプリアンプ901の利得の増減をAD変換器910の出力信号のディジタル処理によって補った場合の各信号の波形を示している。
図9において、信号Vi、Via、Voaは、
図8Bと同様に、それぞれ、
図8Aのプリアンプ901の入力信号、AD変換器910の入力信号、AD変換器910の出力信号(適切なローパスフィルタ通過後のアナログ信号)の一観察例である。
図9では、出力信号Voaにおいて、プリアンプの利得切り替え後にDCオフセットVofも生じている。
【0093】
さらに、
図10には、
図9と同様に、
図8Aのマイクアンプ900においてプリアンプ901の利得の増減を補うディジタル処理が行われた場合の入力信号Vi及び出力信号Voaの他の観察例が示されている。
図10の例においても、P2部に示されるように、出力信号Voaの第1波がクリップしている。P2部以降の時間領域においても、DCオフセットによるAD変換器910の入力電圧範囲の超過のためにP3部に示されるように、出力信号Voaにクリップが生じている。さらに、入力信号Viと出力信号Voaとの間には、遅延tdが生じている。
図9及び
図10に示される不具合は、DCオフセットなどのキャンセル回路を設けることによって回避されるが、そのような回路の付加は、
図8Aのマイクアンプ900を大型化させることになる。
【0094】
一方、本実施形態では、制御によるバッファ回路2の第1ゲインG1の増減は、AD変換回路3の第2ゲインG2の制御によって、アナログ領域で補われる。第1ゲインG1及び第2ゲインG2共にアナログ領域で制御されるので、第1ゲインG1及び第2ゲインG2を略リアルタイム、又は音声信号に対して数MHzと非常に高い頻度で制御する事が可能である。そのため信号遅延が生じ難く、よって信号遅延によるクリップなどの波形の歪みも生じ難い。さらに、DSPを使用しないため回路規模を削減でき、且つ、動作時の消費電流も節約できる。これらの利点を備えながら、DSP使用時と同等又はそれ以上の性能を得ることが可能なこともある。
【0095】
<バッファ回路の他の構成との対比>
図11Aには、
図2B及び
図3Bに例示のバッファ回路2とは異なる構成を有するバッファ回路92が、比較例として示されている。そして
図11Bには、バッファ回路92を
図2Bのバッファ回路2の代わりに実施形態のマイク信号モジュールに用いたときの第1アナログ信号Sa1と第2アナログ信号Sa2の一例が示されている。バッファ回路92は、演算増幅器921、キャパシタ922、923、複数のスイッチ924、及び複数のスイッチ925を含んでいる。演算増幅器921、キャパシタ922、923(キャパシタ9231~923n)、及びスイッチ925は、それぞれ、
図2Bのバッファ回路2の演算増幅器21、キャパシタ22、23、及びスイッチ25と同様に機能する。一方、各スイッチ924は、キャパシタ9231~923nのいずれかと、参照電位Vrefが印加される演算増幅器921の非反転入力端子とを接続又は分離する。バッファ回路92においても、各スイッチ925の開閉を切り替えることによって、バッファ回路92のゲインを制御することができる。
【0096】
また、バッファ回路92では、キャパシタ9231~923nのうちの、スイッチ925によって演算増幅器921の反転入力端子と分離されているキャパシタが、スイッチ924を閉じることによって充電される。そうすることでゲインの切り替え時におけるバッファ回路92の出力信号の急激な変動が抑制されるので、所謂ポップノイズを小さくすることができる。しかし、ゲインの切り替え時に演算増幅器921の出力端子と反転入力端子間に蓄えられている電荷量が変化してしまうため、
図11Bに示されるように、第2アナログ信号Sa2にDCオフセットVofが生じてしまう。なお、
図11Bの第2アナログ信号Sa2におけるDCオフセット発生後の振幅の顕著な減衰は、DCオフセットを有する第2アナログ信号Sa2が、制御回路4(
図1参照)によって大振幅信号と誤認されたことによるものである。このようなDCオフセットは、例えば第2アナログ信号Sa2のゼロクロス時にゲインを切り替えることによって防止することができる。しかし、そのようにゲイン切り替え時期に制約があると、切り換えの遅延によって前述したような信号のクリップが生じることがある。
【0097】
これに対して、
図2Bや
図3Bに示されるバッファ回路2では、第1ゲインG1の切り替え時期がDCオフセット抑制のための制限を受けないため、切り換えの遅延や、それに伴う信号のクリップの発生を抑制することができる。
【符号の説明】
【0098】
1 マイクロホン信号変換モジュール(マイク信号モジュール)
10 マイクロホンモジュール
11 マイクロホン
2 バッファ回路
21 演算増幅器
22 キャパシタ
23 可変容量キャパシタ
24、25 スイッチ
26 非反転バッファ
27 可変容量キャパシタ
28、29 スイッチ
3、3x AD変換回路
34、34x、340、341~34n DA変換器
4 制御回路
40 比較回路
44 カウンタ
45 検出器(比較器)
47 パルス発生回路
471 タイマ
472 パルス発生器
FB 帰還回路
FBx 第2の帰還回路
G1 第1ゲイン
G2 第2ゲイン
Sa1 第1アナログ信号
Sa2 第2アナログ信号
Pr パルス
Vcom 中点電位
Vth+ 上限閾値
Vth- 下限閾値
【要約】
マイクロホン信号変換モジュール(1)は、トランスデューサから入力される第1アナログ信号(Sa1)について第1ゲイン(G1)でレベル変換を行って得られる第2アナログ信号(Sa2)を出力するバッファ回路(2)と、第2アナログ信号(Sa2)のレベルを第2ゲイン(G2)でディジタル値に変換するアナログ-ディジタル変換回路(3)と、第1ゲイン(G1)及び第2ゲイン(G2)を制御する制御回路(4)と、を備える。第2アナログ信号(Sa2)が制御回路(4)に入力され、制御回路(4)は、第2アナログ信号(Sa2)のレベルに基づいて、第1ゲイン(G1)及び第2ゲイン(G2)それぞれの大きさを互いに反対方向へと制御するように構成されている。