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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-17
(45)【発行日】2024-10-25
(54)【発明の名称】アッセイ装置及びアッセイ方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 35/08 20060101AFI20241018BHJP
   G01N 37/00 20060101ALI20241018BHJP
   G01N 33/543 20060101ALI20241018BHJP
【FI】
G01N35/08 A
G01N37/00 101
G01N33/543 595
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2022551955
(86)(22)【出願日】2021-09-17
(86)【国際出願番号】 JP2021034332
(87)【国際公開番号】W WO2022065236
(87)【国際公開日】2022-03-31
【審査請求日】2023-03-24
(31)【優先権主張番号】P 2020158605
(32)【優先日】2020-09-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000229519
【氏名又は名称】日本ハム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 尚一
(74)【代理人】
【識別番号】100125380
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 綾子
(74)【代理人】
【識別番号】100142996
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 聡二
(74)【代理人】
【識別番号】100166268
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 祐
(74)【代理人】
【識別番号】100169018
【弁理士】
【氏名又は名称】網屋 美湖
(72)【発明者】
【氏名】渕脇 雄介
(72)【発明者】
【氏名】田中 正人
(72)【発明者】
【氏名】山村 昌平
(72)【発明者】
【氏名】森下 直樹
(72)【発明者】
【氏名】神谷 久美子
(72)【発明者】
【氏名】松▲崎▼ 誠一郎
【審査官】鴨志田 健太
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/045551(WO,A1)
【文献】特開2011-214862(JP,A)
【文献】特開2017-166911(JP,A)
【文献】特開2015-230248(JP,A)
【文献】特開2020-125994(JP,A)
【文献】特開2015-007604(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 35/08
G01N 37/00
G01N 33/543
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のアッセイ部を備えるアッセイ装置であって、
当該アッセイ部が、
液体を流すことができるように構成されるマイクロ流路と、
前記液体の流れ方向の一方側に位置する前記マイクロ流路の一端部と間隔を空けて配置される吸収用多孔質媒体と、
前記マイクロ流路の一端部及び前記吸収用多孔質媒体間に配置される分離空間と
を備え、
前記マイクロ流路が、目的物質と特異的に反応可能な物質を固定化した検出部と、内部標準物質を固定化した内部標準部とを当該流路内に備え、前記内部標準部が、前記検出部に対して流れ方向の上流または下流に、前記検出部と離間して設けられ、前記内部標準部と前記検出部の間隔は、前記マイクロ流路の流路幅と同じかそれより大きく、
前記マイクロ流路と連通するように前記マイクロ流路に対して、前記流れ方向に直交する幅方向の両側にそれぞれ隣接し、かつ空気を流通可能とする2つの側方通気路を備える、
アッセイ装置。
【請求項2】
前記内部標準部が、前記検出部に対して流れ方向の上流に設けられる、請求項1に記載のアッセイ装置。
【請求項3】
前記アッセイ部が、
前記流れ方向の他方側に位置する前記マイクロ流路の他端部に配置され、かつ前記マイクロ流路に前記液体を注入可能とする注入口と、
前記2つの側方通気路を連結すると共に前記注入口の周囲で延び、かつ空気を流通可能とする連結通気路と
をさらに備えている請求項1または2に記載のアッセイ装置。
【請求項4】
前記アッセイ部が、
前記吸収用多孔質媒体を収容する収容空間と、
前記分離空間を前記吸収用多孔質媒体と一緒に画定する分離空間壁と
を備え、
前記分離空間壁が、前記流れ方向及び前記幅方向に直交する高さ方向の両側にて、それぞれ前記分離空間を画定する頂部及び底部を有し、
前記収容空間内にて前記分離空間壁の頂部又は底部から前記流れ方向の一方側に突出するガイド壁とを備え、
前記ガイド壁が前記高さ方向にて前記吸収用多孔質媒体に当接し、
前記分離空間壁の頂部又は底部と前記ガイド壁とが、前記流れ方向の他方側から前記流れ方向の一方側に向かうに従って、前記マイクロ流路から前記高さ方向にて離れるように形成されている、請求項1~3のいずれか1項に記載のアッセイ装置。
【請求項5】
請求項に記載のアッセイ装置を用いるアッセイ方法であって、
(a)試料を前記注入口から前記マイクロ流路に適用する工程と、
(b)洗浄液を前記注入口から前記マイクロ流路に適用する工程と、
(c)目的物質に特異的に結合可能な第1の標識と、前記内部標準物質に特異的に結合可能な第2の標識とを含む液体を、前記マイクロ流路に適用する工程とを順に含む、アッセイ方法。
【請求項6】
(d)前記検出部における第1の標識のシグナルと、前記内部標準部における第2の標識のシグナルとを測定する工程をさらに含む、請求項に記載のアッセイ方法。
【請求項7】
前記第1の標識と前記第2の標識が同一である、請求項に記載の方法。
【請求項8】
前記第1の標識と前記第2の標識が異なり、
(e)予め得られた内部標準物質の検量線と、前記工程(d)で得られた前記第2の標識のシグナルに基づき、前記内部標準物質の検量線からの乖離率を求める工程と、
(f)前記乖離率と、前記工程(d)で得られた前記第1の標識のシグナルと、予め得られた目的物質の検量線とに基づき、補正された目的物質の濃度を得る工程とをさらに含む、請求項に記載のアッセイ方法。
【請求項9】
(g)前記工程(d)で得られた前記第2の標識のシグナルに基づき、各アッセイ部の不良を判断する工程をさらに含む、請求項6~8のいずれか1項に記載のアッセイ方法。
【請求項10】
前記工程(d)が、前記検出部における第1の標識のシグナルを経時的に測定する工程と、経時的なシグナル変化に基づき、検出不良を判断する工程とをさらに含む、請求項6~9のいずれか1項に記載のアッセイ方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アッセイ装置及びアッセイ方法に関する。本発明は、特には目的物質の検出反応の精度を管理、保証することが可能となるアッセイ装置及びアッセイ方法に関する。
【背景技術】
【0002】
主に生物学、化学等の分野において、マイクロリットルオーダーの微量の試薬、処理薬等の液体を用いて検査、実験、アッセイ等を行う場合、マイクロ流路を含むアッセイ装置が利用されている。中でも、ラテラルフロー型アッセイ装置は、特に、ELISA(Enzyme-Linked Immuno Sorbent Assay、酵素免疫アッセイ)法、イムノクロマトグラフィー法等によって、試料中に含まれる抗体又は抗原の濃度を検出又は定量する際に用いられている。
【0003】
本発明者らにより、検体や試薬を滴下するとマイクロ流路内で液が入れ替わるアッセイ装置が報告されている(例えば、特許文献1を参照)。
【0004】
測定対象液を充填するための凹部の隙間を形成した検査器具を用い、かつ測定対象液に粘度を増加させる流動低減物質を混合させることにより、測定対象となる粒子状物質がブラウン運動によって生じる測定誤差の影響を回避する方法が知られている(例えば、特許文献2を参照)。
【0005】
イムノクロマトの多孔質体による目詰まりを解決するため、毛管力によって自動的に液が流動していく長い流路状の空間を設けて、標識物質による視認性シグナル強度を効果的に向上させる方法も知られている(例えば、特許文献3を参照)。
【0006】
マイクロチップ内部に形成された空間からなる流体回路を備え、遠心力印加時に液体保持部から試薬を良好に排出可能な、液体試薬内蔵型マイクロチップもまた知られている(例えば、特許文献4を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】国際公開WO2020/045551
【文献】国際公開WO2016/017591
【文献】特開2017-78664号公報
【文献】特開2013-92384号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来のアッセイ装置においては、通常、反応の有無を毎回保証するために、テストラインとは別にコントロールラインを設け、テストライン上でのシグナルの確度を担保することが行われている。一方で、流路状の空間で行う生化学反応は、流路内の液体の流れを操作・制御する必要があり、また、同一空間内の生化学反応の程度を担保するには内部標準物質を混合させておく等の対応が必要である。特に同一空間内では、試薬間の交差反応性の回避や、試薬の拡散による汚染を考慮する必要がある。このため、逐次的な反応を内部標準物質でも実現させるには、測定対象物質の反応場とは別に内部標準物質の反応場を設ける必要があり、容易ではなかった。
【0009】
特許文献2に開示されるような、マイクロ流路空間の層流による支配下では、物質の拡散のみが混合に寄与するため、拡散時間は拡散距離の2乗に比例して決まる。そのため反応時間は短くなり、測定対象物質のブラウン運動による測定誤差は発生し難い。また、生化学反応が進む反応空間内では、ブラウン運動による測定誤差以外に、たくさんの測定誤差が生じる要因が存在しているが、それらを解決する方法については具体的に明示されていない。
【0010】
特許文献3に開示された技術は、流路内で確実に反応が行われたことや測定誤差の発生やその程度を確認するためには不十分であった。また、マイクロ流路は流路長が長くなるにつれて、流路表面への吸着や内圧も高くなるため、流路毎に毎回同じ程度の反応を保証することは困難になる。特許文献3の方法では煩雑な精度管理を行う技術が必要であった。
【0011】
特許文献4は、遠心力によって流体回路内に存在する液体を所望の位置に移動させる方式であるため、生化学反応を行うには空気を導入する空気孔や、内圧を正確にコントロールする必要があり、煩雑である。また、液体試薬内蔵型であることから、試薬の保存安定性や反応毎に遠心による回転数をコントロールする必要があり、流路内での反応を管理することは容易ではない。加えて、多様なプロトコルを有する生化学反応を管理するには、特許文献4の方法は流動させる液体の種類や数に制限がかかるため、汎用のアッセイへの展開は制限される。
【0012】
このように、従来技術では、マイクロ流路空間内での生化学反応の程度を保証するための信頼性の高い方法が確立されていない。また、マイクロ流路の流路長が長い場合は内圧が高くなることやマイクロ流路表面への非特異吸着も多くなることから、内部標準物質による反応の程度を毎回調整することは容易ではない。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは鋭意検討の結果、マイクロ流路内に、検出の目的物質を捕捉し、反応する物質とは別に、内部標準物質を配置し、同じマイクロ流路空間内で進む目的物質の反応の有無及びその精度を管理できる技術を開発し、本発明を解決するに至った。
【0014】
すなわち、本発明は一実施形態によれば、複数のアッセイ部を備えるアッセイ装置であって、
当該アッセイ部が、
液体を流すことができるように構成されるマイクロ流路と、
前記液体の流れ方向の一方側に位置する前記マイクロ流路の一端部と間隔を空けて配置される吸収用多孔質媒体と、
前記マイクロ流路の一端部及び前記吸収用多孔質媒体間に配置される分離空間と
を備え、
前記マイクロ流路が、目的物質と特異的に反応可能な物質を固定化した検出部と、内部標準物質を固定化した内部標準部とを当該流路内に備え、
前記マイクロ流路と連通するように前記マイクロ流路に対して、前記流れ方向に直交する幅方向の両側にそれぞれ隣接し、かつ空気を流通可能とする2つの側方通気路を備える、
アッセイ装置に関する。
【0015】
本発明は別の実施形態によれば、上記のアッセイ装置を用いるアッセイ方法であって、
(a)試料を前記マイクロ流路に適用する工程と、
(b)洗浄液を前記マイクロ流路に適用する工程と、
(c)目的物質に特異的に結合可能な第1の標識と、前記内部標準物質に特異的に結合可能な第2の標識とを含む液体を、前記マイクロ流路に適用する工程とを順に含む、アッセイ方法に関する。
【発明の効果】
【0016】
本発明のアッセイ装置及びアッセイ方法によれば、検出の目的物質の反応の精度を内部標準物質により確認、管理することができ、簡便な方法により信頼性の高いアッセイが可能となる。特には、本発明のアッセイ装置においては、マイクロ流路空間で、ストップ・アンド・フローで検体や試薬を流動させ、反応中は液の流れが止まって流路の空間内に液が留まる。そのため、目的物質の反応場の近くに、内部標準物質の反応場を設けても、試薬の拡散によって双方の反応場に与える影響は極めて低い。また従来技術と異なり、マイクロ流路の長さが比較的短く、構造もシンプルであることから、流動させる試薬の数や種類に制限が殆ど発生しない。そのため、同一のマイクロ流路空間にあって、イムノクロマト法によるコントロールラインによるシグナル判定と同じように、目的物質による反応の有無を、アッセイ装置により精度保証することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は、本発明の一実施形態に係る方法において使用することができる、アッセイ装置を説明する平面図である。
図2図2は、図1に示すアッセイ装置の一つのマイクロ流路に相当するアッセイ部を概略的に示す分解斜視図である。
図3図3は、図2に示すアッセイ装置を概略的に示す平面図である。
図4図4は、図3のA-A線断面図である。
図5図5は、図3のB-B線断面図である。
図6図6は、図3のC-C線断面図である。
図7図7は、本発明の一実施形態におけるアッセイ方法において、マイクロ流路中の物質の状態を概略的に示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、本発明の実施の形態を説明する。ただし、本発明は、以下に説明する実施の形態によって限定されるものではない。
【0019】
第1実施形態に係るアッセイ装置及び第2実施形態に係るアッセイ方法について以下に説明する。なお、図1において、アッセイ装置の外形を実線によって示し、アッセイ装置に含まれるアッセイ部の外形を隠れ線(すなわち、破線)によって示す。図3においては、アッセイ部の外形を仮想線(すなわち、二点鎖線)によって示し、かつアッセイ部内部の構成要素を実線及び隠れ線(すなわち、破線)によって示す。
【0020】
第1実施形態に係るアッセイ装置は、マイクロ流路に液体を流すことができ、第2実施形態に係るアッセイ方法において用いられる。第2実施形態に係るアッセイ方法は、試料中に含まれうる目的物質を検出し、定量し、または半定量することを目的として行う。試料は、検出の目的物質を含みうる親水性を有する液体である。このような液体は生体から採取した液体であってもよく、生体から採取した物質を適当な溶媒に溶解させた液体であってもよい。好ましい液体としては、ヒト又は動物の全血、血清、血漿、尿、糞便希釈液、唾液、又は脳脊髄液等の生体由来の液体試料が挙げられる。この場合、アッセイ装置においては、妊娠検査、尿検査、便検査、成人病検査、アレルギー検査、感染症検査、薬物検査、がん検査等の用途にて、液体試料中の診断上有効な検体を測定し得る。また、別の好ましい液体としては、食品の懸濁液、食品の抽出液、食品製造工場等のラインの洗浄水、ふき取り液、飲用水、河川の水、土壌懸濁物等も挙げられる。この場合、アッセイ装置において、食品や飲用水の中のアレルゲンや病原体を測定し得るか、又は河川の水の中や土壌中の汚染物質を測定し得る。また、第1実施形態に係るアッセイ装置には、アッセイ方法において、試料のほかに、アッセイに用いられる試薬、例えば生化学一般試薬、免疫化学関連試薬、抗体関連試薬、ペプチド溶液、タンパク質・酵素関連試薬、細胞関連試薬等、脂質関連試薬、天然物・有機化合物関連試薬、糖質関連試薬等の種々の液体を適用して用いることができるが、これらに限定されるものではない。
【0021】
本願明細書において、「目的物質」は、検出又は測定される物質を指す。例えば、「目的物質」は、糖類(例えば、グルコース)、タンパク質若しくはペプチド(例えば、血清タンパク質、ホルモン、酵素、免疫調節因子、リンホカイン、モノカイン、サイトカイン、糖タンパク質、ワクチン抗原、抗体、成長因子、若しくは増殖因子)、脂肪、アミノ酸、核酸、ステロイド、ビタミン、病原体若しくはその抗原、天然物質若しくは合成化学物質、汚染物質、治療目的の薬物若しくは違法な薬物、又はこれらの物質の代謝物、その断片若しくは抗体を含むものであるとよい。
【0022】
本願明細書において、「ラテラルフロー」は、重力沈降が駆動力となることによって移動する液体の流れを指す。ラテラルフローに基づく液体の移動は、重力沈降による液体の駆動力が支配的(優位)に作用する液体の移動を指す。これに対して、毛管力(毛細管現象)に基づく液体の移動は、界面張力が支配的(優位)に作用する液体の移動を指す。ラテラルフローに基づく液体の移動と毛管力に基づく液体の移動とは異なるものである。
【0023】
本願明細書において、「マイクロ流路」は、μL(マイクロリットル)オーダー、すなわち、約1μL以上かつ約1ml(ミリリットル)未満の微量な液体を用いて検体を検出又は測定するためか、又はかかる微量な液体を秤量するために、アッセイ装置内にて液体を流すように構成される流路を指す。
【0024】
本願明細書において、「フィルム」は、約200μm(マイクロメートル)以下の厚さを有する膜状物体又は板状物体を指し、かつ「シート」は、約200μmを超える厚さを有する膜状物体又は板状物体を指す。
【0025】
本願明細書において、「プラスチック」は、重合し得る材料又はポリマー材料を必須成分として使用するように重合又は成形したものを指す。プラスチックは、2種類以上のポリマーを組み合わせたポリマーアロイもまた含む。
【0026】
本願明細書において、「多孔質媒体」は、複数かつ多数の微細孔を有し、かつ液体を吸引かつ通過可能とする部材であって、紙、セルロース膜、不織布、プラスチック等を含む部材を指す。例えば、「多孔質媒体」は、液体が親水性である場合には親水性を有するとよく、かつ液体が疎水性である場合には疎水性であるとよい。特に、「多孔質媒体」は、親水性を有するとよく、かつ紙であるとよい。さらに、「多孔質媒体」は、セルロース、ニトロセルロース、セルロースアセテート、濾紙、ティッシュペーパー、トイレットペーパー、ペーパータオル、布地、又は水を透過する親水性多孔質ポリマーのうちの1つとすることができる。
【0027】
[第1実施形態:アッセイ装置]
本発明は、一実施形態によれば、アッセイ装置に関する。本実施形態によるアッセイ装置は、複数のアッセイ部を備え、
当該アッセイ部が、
液体を流すことができるように構成されるマイクロ流路と、
前記液体の流れ方向の一方側に位置する前記マイクロ流路の一端部と間隔を空けて配置される吸収用多孔質媒体と、
前記マイクロ流路の一端部及び前記吸収用多孔質媒体間に配置される分離空間と
を備え、
前記マイクロ流路が、目的物質と特異的に反応可能な物質を固定化した検出部と、内部標準物質を固定化した内部標準部とを当該流路内に備え、
前記マイクロ流路と連通するように前記マイクロ流路に対して、前記流れ方向に直交する幅方向の両側にそれぞれ隣接し、かつ空気を流通可能とする2つの側方通気路を備える。
【0028】
[アッセイ装置の概略的な構成について]
最初に、図1図6を参照して、本実施形態に係るアッセイ装置の概略的な構成について説明する。図1に示すように、アッセイ装置は、2以上のアッセイ部100から構成される。各アッセイ部100は、試料及び洗浄液を含む液体を注入可能な注入口5と、当該液体を流すことができるように構成されるマイクロ流路(図1では示さず)を有し、マイクロ流路中に外部から視認可能な検出部14並びに内部標準部54を備えている。以下、各アッセイ部の概略的な構成について、図2~6を参照して説明する。以下において、このようなマイクロ流路1内における液体の流れに沿った方向(矢印Fにより示す)を「流れ方向」と呼ぶ。なお、本実施形態においては、液体が、マイクロ流路1の他方側から一方側に向かって流れる。そのため、流れ方向の一方側を下流側と定義し、かつ流れ方向の他方側を上流側と定義する。
【0029】
アッセイ部100は、流れ方向の一方側(すなわち、下流側)に位置するマイクロ流路1の一端部1aと間隔を空けて配置される第1吸収用多孔質媒体2を有する。アッセイ部100はまた、マイクロ流路1の一端部1aと第1吸収用多孔質媒体2との間に配置される分離空間3を有する。分離空間3はアッセイ部100内の空洞となっている。第1吸収用多孔質媒体2は、マイクロ流路1の一端部1aからの液体を吸収可能とするように構成されている。アッセイ部100は、第1吸収用多孔質媒体2を収容可能とする収容空間4を有する。収容空間4は、流れ方向にて分離空間3と連続するように形成されている。
【0030】
アッセイ部100はまた、流れ方向の他方側(すなわち、上流側)に位置するマイクロ流路1の他端部1bに配置される注入口5を有する。注入口5は、マイクロ流路1に液体を供給可能とするように構成されている。注入口5から注入された液体は、マイクロ流路1の他端部1bから、一端部1a及び他端部1b間のマイクロ流路1の中間部1cを通って、マイクロ流路1の一端部1aに流れる。
【0031】
アッセイ部100は、マイクロ流路1に対して、流れ方向に実質的に直交する幅方向(矢印Wにより示す)の両側でそれぞれ隣接する2つの側方通気路6を有する。各側方通気路6は、空気を流通可能とするように構成されている。マイクロ流路1は、幅方向にて2つの側方通気路6と連通する。各側方通気路6は流れ方向に沿って延びる。特に、2つの側方通気路6は、それぞれマイクロ流路1の幅方向の両側方縁1dに沿って延びるとよい。
【0032】
アッセイ部100は、2つの側方通気路6を連結し、かつ注入口5の周囲で延びる連結通気路7をさらに有する。連結通気路7もまた、空気を流通可能とするように構成されている。そして、空気は、一連に連なった2つの側方通気路6及び連結通気路7を流通するようになっている。流れ方向の他方側に位置する2つの側方通気路6の他端部は、それぞれ、連結通気路7に連結されるとよい。なお、アッセイ部100は、連結通気路を有さない構成とすることもできる。
【0033】
アッセイ部100は、マイクロ流路1を画定するマイクロ流路壁8を有する。マイクロ流路壁8は、それぞれ、流れ方向及び幅方向に実質的に直交する高さ方向(矢印Hにより示す)の頂上側及び底側に位置する頂部8a及び底部8bを有する。マイクロ流路壁8の頂部8a及び底部8bは、高さ方向にて互いに間隔を空けた状態で維持される。これらの頂部8a及び底部8b間の高さ方向の距離は、液体がマイクロ流路1を流れるときに側方通気路6に漏れることを防止するような液体の界面張力を発生させるように定められる。マイクロ流路1は、その幅方向の両側にて2つの側方通気路6に向けて開口する。
【0034】
アッセイ部100は、第1吸収用多孔質媒体2と一緒に分離空間3を画定する分離空間壁9を有する。なお、分離空間は、第1吸収用多孔質媒体及び分離空間壁に加えて、さらなる構成要素によって画定されてもよい。分離空間壁9は、それぞれ、高さ方向の頂上側及び底側に位置する頂部9a及び底部9bを有する。
【0035】
アッセイ部100は、収容空間4内にて分離空間壁9の底部9bから流れ方向の一方側に突出するガイド壁10を有する。ガイド壁10は、高さ方向にて第1吸収用多孔質媒体2に当接する。分離空間壁9の底部9bとガイド壁10とは、流れ方向の他方側からその一方側に向かうに従って、マイクロ流路1から高さ方向に離れるように傾いている。なお、図4においては、分離空間壁9の底部9bの傾きは、ガイド壁10の傾きと比較して小さくなる傾向にあるので、明確に図示されていないことに留意されたい。しかしながら、ガイド壁は、収容空間内にて分離空間壁の頂部から流れ方向の一方側に突出してもよい。この場合、分離空間壁の頂部とガイド壁とは、流れ方向の他方側からその一方側に向かうに従って、マイクロ流路から高さ方向に離れるように形成されるとよい。
【0036】
アッセイ部100は、収容空間4を画定する収容空間壁11を有する。アッセイ部100は、それぞれ2つの側方通気路6を画定する2つの側方通気路壁12を有する。アッセイ部100はまた、連結通気路7を画定する連結通気路壁13を有する。
【0037】
アッセイ部100は、マイクロ流路1の中間部1cに配置される検出部14を有する。検出部14は、試料に含まれうる目的物質と特異的に反応可能な物質が固定化された部分である。目的物質は、アッセイ方法の目的により適宜決定され、特定の物質には限定されない。目的物質と特異的に反応可能に構成される物質は、目的物質との関係で決定される。目的物質が抗原の場合は、当該抗原に特異的に結合する抗体であってよく、目的物質が抗体の場合は、当該抗体に特異的に結原する抗原であってもよい。以下、本明細書の説明において、目的物質と特異的に反応可能に構成される物質を、検出抗体と指称する場合があるが、本発明において、当該物質は抗体には限定されない。
【0038】
検出抗体は、マイクロ流路1に直接固定化されていてもよく、マイクロ流路1に配置された反応用多孔質媒体に固定化されていてもよく、それらの両方に結合されていてもよい。反応用多孔質媒体は、一例として、抗体や抗原を担持したセルロース等であってよいが、特定の多孔質媒体には限定されない。いずれの場合であっても、当該検出抗体に結合した目的物質に起因するシグナルが、アッセイ部100の外部から観察可能な態様で固定化されることが好ましい。ある態様においては、検出抗体が、マイクロ流路1の底部8bに位置する態様にて固定化されることが好ましい。別の態様においては、検出抗体が、マイクロ流路1の頂部8aに位置する態様にて固定化されることが好ましい。頂部8aに位置する検出抗体は、頂部を透明な材料で作成することにより外部から観察することができる。検出部14が設けられる領域の形状および面積は、目的物質に起因するシグナルを視認し、または検出可能な程度であればよく、特には限定されない。例えば、マイクロ流路1の幅と同じ長さの辺をもつ四角形の領域に検出抗体を固定し、検出部14とすることができる。後述する窓部22が設けられる場合には、少なくとも窓部の形状および面積に対応するマイクロ流路1の底部8bあるいは頂部8a領域に検出抗体を固定し、検出部14とすることができる。
【0039】
図示するアッセイ部100は、1つの検出部14を有するが、アッセイ部100は、2以上の検出部を備えていてもよい。例えば、第1検出部と第2検出部とを備える場合、第1検出部には第1検出抗体を備え、第2検出部には第1検出抗体とは異なる第2検出抗体を備えることができる。これにより、第1検出抗体と特異的に結合する第1目的物質と、第2検出抗体と特異的に結合する第2目的物質を同時に検出することができる。
【0040】
アッセイ部100はまた、マイクロ流路1の中間部1cに配置される内部標準部54を有する。内部標準部54には、内部標準物質が固定化される。内部標準物質は、目的物質の存在や目的物質量の影響を受けることなく、当該マイクロ流路での所定の反応進行の指標を提供する物質として機能する。したがって、内部標準物質は、目的物質とは反応せず、かつ標識と特異的に反応可能な物質であってよい。あるいは内部標準物質は、目的物質とは反応せず、かつ目的物質の反応を阻害しない物質と特異的に反応可能な物質であってよい。目的物質の反応を阻害しない物質を、非阻害物質ともいう。ここで、標識とは、目的物質及び内部標準物質に特異的に結合して、目的物質及び内部標準物質に基づくシグナルを生成可能な物質をいう。シグナルを生成可能な物質には、単独でシグナルを生成する物質のみならず、基質等他の物質の添加によりシグナルを生成する物質を含む。したがって、標識は、特異的な結合に関与する部分と、シグナルに関与する部分とを併せ持つ分子である。標識の例としては、色素、蛍光物質、酵素などが結合された抗体や抗原が挙げられる。一方、非阻害物質は、pH指示薬や、色素等でありうる。内部標準物質は、目的物質や標識、非阻害物質との関係で決定することができるが、抗体、抗原、動物抗体に対する二次抗体、pH指示薬、色素等であってよい。なお、標識及び非阻害物質は、アッセイ部を構成するものではなく、後述するアッセイ方法においてマイクロ流路1に適用して用いられる。標識は1種類であってもよく、種類の異なる第1の標識と第2の標識を用いることもできる。詳細は後述する。
【0041】
内部標準物質もまた、マイクロ流路1に直接固定化されていてもよく、マイクロ流路1に配置された反応用多孔質媒体に固定化されていてもよく、それらの両方に結合されていてもよい。いずれの場合であっても、当該内部標準物質に起因するシグナルが窓部52から観察可能な態様で固定化されることが好ましい。したがって、内部標準物質が、マイクロ流路1の底部8bあるいは頂部8aに位置する態様にて固定化されることが好ましい。頂部8aに位置する内部標準物質は、頂部8aを透明な材料で作成することにより外部から観察することができる。内部標準部54が設けられる領域の形状および面積は、検出部14と同様の態様とすることができる。内部標準部54が設けられる領域の形状および面積は、検出部14と同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0042】
図1~4において、内部標準部54は、検出部14と流れ方向に離間して、マイクロ流路1の下流側に設けられている。内部標準部54と検出部14との間隔は、マイクロ流路1の流路幅と同程度かそれより大きいことが好ましい。内部標準部54と検出部14が近いと、アッセイ方法において、内部標準部54からのシグナルと、検出部14からのシグナルが明確に識別されなくなるおそれがあるためである。なお、図示はしないが、内部標準部と検出部の位置関係は逆であってもよい。すなわち、内部標準部が、注入口5に近いマイクロ流路1の上流側に設けられていてもよい。この場合も、内部標準部54と検出部14との間隔は、マイクロ流路1の流路幅と同程度かそれより大きいことが好ましい。高濃度の目的物質を含みうる試料を測定する場合には、内部標準部が、注入口5に近いマイクロ流路1の上流側に設けられることが好ましい場合がある。上流にある内部標準部のシグナルが、下流にある検出部のシグナルの影響を受けにくいためである。高濃度は、目的物質により異なり、特には限定されない。2以上の検出部を備えるアッセイ装置においては、2以上の検出部の下流側または上流側に内部標準部が設けられてもよく、2以上の検出部の中間に内部標準部が設けられてもよい。
【0043】
目的物質と特異的に反応可能に構成される物質(検出抗体)、内部標準物質、標識の組み合わせは、目的物質や、検出の態様によって異なりうる。また、標識は、目的物質に特異的に反応可能な第1の標識と、内部標準物質に反応可能な第2の標識とが別個である場合もあり、同一である場合もある。目的物質がアレルゲンの場合は、目的物質と特異的に反応可能に構成される物質が抗アレルゲン抗体であり、内部標準物質が、動物種で作出した抗体であってよい。動物種は、ヒト、ブタ、ヤギ、マウス、ラット、ウサギ等の哺乳類、ニワトリ等の鳥類が挙げられるが、特定の動物種には限定されない。例えば、内部標準物質が抗マウスIgG抗体である場合、標識は、ホースラディッシュ・ペルオキシダーゼ(HRP)標識抗アレルゲン抗体(マウス由来)であってよい。別の例として、目的物質がアレルゲンの場合は、目的物質と特異的に反応可能に構成される物質が抗アレルゲン抗体であり、内部標準物質が動物種で作出した抗体であってよい。この場合、標識は第1の標識と第2の標識を用い、第1の標識がHRP標識抗アレルゲン抗体(内部標準物質とは異なる動物種で作出した抗体)、第2の標識がHRP標識動物抗体(内部標準物質と同一の動物種で作出した抗体)であってもよい。例えば、内部標準物質が抗ウサギIgG抗体である場合、第1の標識がウサギ以外の動物種で作出したHRP標識抗アレルゲン抗体であり、第2の標識がHRP標識ウサギ抗体であってよい。その他に、目的物質、目的物質と特異的に反応可能に構成される物質、内部標準物質、標識の組み合わせとしては、例えば、核酸プローブやアプタマーの組み合わせが挙げられる。また、特に内部標準物質としては、pH指示薬を固定化することができ、希釈液や洗浄液の所定の溶液が通過すると、そのpHにより色が変化する機構を利用することもできる。しかし、本発明において用いるこれらの物質の組み合わせはこれらには限定されない。
【0044】
[アッセイ部の詳細な構成について]
図2図6を参照して、本実施形態に係るアッセイ装置の詳細な構成について説明する。かかるアッセイ装置は、さらに次のようになっているとよい。なお、アッセイ部100は、その使用状態では、高さ方向を鉛直方向に向けるように配置されるとよく、この場合、アッセイ部100の頂上及び底はそれぞれ鉛直方向の上方及び下方を向く。
【0045】
マイクロ流路1は実質的に直線状に形成される。しかしながら、本発明においては、マイクロ流路を湾曲又は屈曲するように形成することもできる。マイクロ流路1の他端部1bは、マイクロ流路壁8の他端部8cによって画定されている。マイクロ流路壁8の他端部8cはマイクロ流路1と連結通気路7との間に位置する。
【0046】
例えば、マイクロ流路1の高さ、すなわち、マイクロ流路壁8における頂部8a及び底部8b間の高さ方向の距離は、約1μm以上かつ約1000μm(すなわち、約1mm(ミリメートル))以下であるとよい。例えば、マイクロ流路1の幅dは、約100μm以上かつ約10000μm(すなわち、約1cm(センチメートル))以下であるとよい。例えば、マイクロ流路1の流れ方向の長さは、約10μm以上かつ約10cm以下であるとよい。例えば、マイクロ流路1の容積Pは、約0.1μL以上かつ約1000μL以下であるとよく、より好ましくは、約1μL以上かつ約500μL未満であるとよい。しかしながら、マイクロ流路の各寸法及び容積は、これらに限定されない。
【0047】
第1吸収用多孔質媒体2の高さはマイクロ流路1の高さよりも高くなっている。かかる第1吸収用多孔質媒体2は、マイクロ流路1よりも高さ方向の底側に突出する。しかしながら、ガイド壁が収容空間内にて分離空間壁の頂部から流れ方向の一方側に突出する場合は、第1吸収用多孔質媒体は、マイクロ流路よりも高さ方向の頂上側に突出するとよい。
【0048】
流れ方向の下流側に位置する分離空間3の下流部3aは、第1吸収用多孔質媒体2によって塞がれている。分離空間3は、流れ方向にてマイクロ流路1及び2つの側方通気路6と連通する。具体的には、流れ方向の下流側に位置する分離空間3の上流部3bが、流れ方向にてマイクロ流路1及び2つの側方通気路6と連通する。分離空間壁9の頂部9aには、2つの通気空間3cが形成される。
【0049】
2つの通気空間3cは、それぞれ、流れ方向の上流側にて2つの側方通気路6と連通する。マイクロ流路壁8及び分離空間壁9の頂部8a,9aは流れ方向に沿って連続するように直線状に延びるとよい。通気空間3cは、空気を分離空間3と側方通気路6との間で連通可能とするようになっている。2つの通気空間3cは、幅方向にてマイクロ流路1の外側に位置する。2つの通気空間3c間における幅方向の距離は、マイクロ流路1の幅と略一致するとよい。2つの通気空間3cは、幅方向にて、それぞれ2つの側方通気路6に対応するように配置されるとよい。2つの通気空間3cはまた収容空間4と連通するとよい。特に、2つの通気空間3cは、流れ方向の下流側にて、収容空間4の頂部と高さ方向にて連通するように延びるとよい。
【0050】
分離空間3の容積Qは、約0.001μL以上かつ約10000μL以下であるとよい。マイクロ流路1の容積Pに対する分離空間3の容積Qの比率Q/Pは、約0.01以上であるとよい。しかしながら、分離空間の容積、及びマイクロ流路の容積に対する分離空間の容積の比率は、これらに限定されない。また、分離空間3の容積Qはマイクロ流路1の容積Pはよりも大きいとよい。しかしながら、分離空間の容積はマイクロ流路の容積以下とすることもできる。
【0051】
さらに、液体に接するマイクロ流路壁8及び分離空間壁9の表面は親水処理されるとよい。かかる親水処理は、プラズマ等の光学的処理、若しくは液体中に非特異的結合体が含まれる場合において、非特異的結合体がこれらの表面に吸着することを防ぐことを可能にするブロッキング剤を用いた処理であるか、又はこれらの処理のうち少なくとも一方を含む。ブロッキング剤としては、Block Ace等の市販のブロッキング剤、ウシ血清アルブミン、カゼイン、スキムミルク、ゼラチン、界面活性剤、ポリビニルアルコール、グロブリン、血清(例えば、ウシ胎仔血清又は正常ウサギ血清)、エタノール、MPCポリマー等が挙げられる。かかるブロッキング剤は、単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0052】
注入口5は、マイクロ流路壁8の頂部8aを高さ方向に貫通するように形成される。各側方通気路6は、マイクロ流路1に対して高さ方向の頂上側及び底側に凹むように形成される。連結通気路7は、マイクロ流路1に対して高さ方向の底側に凹むように形成される。高さ方向の頂上側に位置する連結通気路壁13の頂部13aは、高さ方向にてマイクロ流路壁8の頂部8aと略一致するように配置される。2つの側方通気路6と連結通気路7とは、略U字形状に連続するように延びるとよい。
【0053】
ガイド壁10は、高さ方向にて第1吸収用多孔質媒体2と、後述する第2吸収用多孔質媒体15との間に配置される。ガイド壁10は、流れ方向の下流側から上流側に向かって先細るように形成されるとよい。しかしながら、ガイド壁の形状は、これに限定されない。
【0054】
アッセイ部100は、第1吸収用多孔質媒体2に加えて、第2吸収用多孔質媒体15を有する。第2吸収用多孔質媒体15は、第1吸収用多孔質媒体2に対して高さ方向の底側に位置する。しかしながら、ガイド壁が収容空間内にて分離空間壁の頂部から流れ方向の一方側に突出する場合は、第2吸収用多孔質媒体15は第1吸収用多孔質媒体に対して高さ方向の頂上側に位置するとよい。第1及び第2吸収用多孔質媒体2,15は、これらの間にガイド壁10を介在させながら、高さ方向にて互いに接触する。液体は、第1吸収用多孔質媒体2を通って第2吸収用多孔質媒体15に送られるようになっている。収容空間4は、第1吸収用多孔質媒体2に加えて、第2吸収用多孔質媒体15を収容するように構成される。
【0055】
アッセイ部100は、2つの側方通気路6のそれぞれとアッセイ部100の外部とを連通する2つの通気路用通気口16を有する。通気路用通気口16は、2つの側方通気路壁12の一方により画定される側方通気路6にアッセイ部100の外部から空気を流通可能とするように形成される。特に、通気路用通気口16は、高さ方向の頂上側に位置する2つの側方通気路壁12の一方における頂部12aを貫通するように形成されるとよい。また、通気路用通気口16は、第1吸収用多孔質媒体2の鉛直方向上方に設けることが好ましい。しかしながら、通気路用通気口は、これに限定されない。例えば、通気路用通気口は、2つの側方通気路壁の一方に1つだけ設けることもできる。あるいは、3以上の通気路用通気口を設けることもできる。
【0056】
また、アッセイ部100は、収容空間4とアッセイ部100の外部とを連通する収容空間用通気口17を有する。収容空間用通気口17は、収容空間壁11を貫通するように形成される。収容空間用通気口17は、収容空間4に対して流れ方向の一方側に位置するとよい。
【0057】
マイクロ流路壁8の頂部8aに対して高さ方向の頂上側には、流路頂上側空洞18が形成される。マイクロ流路壁8の底部8bに対して高さ方向の底側には、流路底側空洞19が形成される。分離空間壁9の頂部9aに対して高さ方向の頂上側には、分離空間頂上側空洞20が形成される。収納空間壁11の頂部11aに対して高さ方向の頂上側には、収納空間頂上側空洞21が形成される。
【0058】
流れ方向の一方側に位置する流路頂上側空洞18の一端部は、分離空間頂上側空洞20と連通する。流れ方向の他方側に位置する流路頂上側空洞18の他端部は、注入口5と間隔を空けて位置する。流路頂上側空洞18は、幅方向にて2つの側方通気路6と連通する。流路底側空洞19は、高さ方向で見てマイクロ流路1に対応して形成される。流路底側空洞19は、幅方向にて2つの側方通気路6と連通する。流路底側空洞19はまた、流れ方向にて連結通気路7と連通する。分離空間頂上側空洞20は、高さ方向で見て分離空間壁9の頂部9aに対応して形成される。収納空間頂上側空洞21は、流れ方向にて分離空間頂上側空洞20と間隔を空けて配置される。分離空間頂上側空洞20は、幅方向にて2つの通気空間3cと連通する。収納空間頂上側空洞21は、高さ方向にて2つの通気空間3cと連通する。
【0059】
アッセイ部は、マイクロ流路1内の検出部14に特異的に結合する物質に起因するシグナルをアッセイ部の外部から視認可能とするように構成される窓部22を有する。窓部22はシグナルを透過可能に構成することができ、好ましくは可視光の波長領域にて透明である。窓部22は、流路頂上側空洞18に対して高さ方向の頂部側に位置する。さらに、窓部22は、マイクロ流路1の中間部1c、特に、検出部14に対応して位置するとよい。また、アッセイ部は、マイクロ流路1内の内部標準部54に特異的に結合する物質に起因するシグナルをアッセイ部の外部から視認可能とするように構成される窓部54を有する。窓部52もシグナルを透過可能に構成することができ、好ましくは可視光の波長領域にて透明であり、流路頂上側空洞18に対して高さ方向の頂部側に位置する。そして、マイクロ流路1の中間部1c、特に、内部標準部54に対応して位置するとよい。図示する実施形態においては、注入口5に近い上流側に検出部14を設け、多孔質媒体2に近い下流側に内部標準部54を設けているが、注入口5に近い上流側に内部標準部54を、多孔質媒体2に近い下流側に検出部14を設けることもできる。この際には、それぞれの部位に対応する窓部22、52を設けることができる。
【0060】
[アッセイ部100の積層構造について]
図2を参照して、アッセイ部100の積層構造について説明する。すなわち、本実施形態に係るアッセイ部100は、一例として、次のような積層構造を用いて作製されるとよい。なお、アッセイ部100は、勿論、この積層構造以外を用いて作製されることもできる。
【0061】
かかるアッセイ部100は、その頂上から底に向かって順に並ぶ頂上側筐体層S1、頂上側空洞層S2、頂上側コア層S3、中間コア層S4、底側コア層S5、底側空洞層S6、中間スペーサ層S7、中間接着層S8、底側スペーサ層S9、底側接着層S10、及び底側筐体層S11を有する。頂上側筐体層S1、頂上側コア層S3、底側コア層S5、中間スペーサ層S7、底側スペーサ層S9、及び底側筐体層S11は、液体を透過させないような素材を用いて構成される。頂上側コア層S3及び底側コア層S5の接触角は90度よりも小さいとよい。頂上側コア層S3及び底側コア層S5は透明であるとよい。しかしながら、頂上側コア層及び底側コア層の少なくとも一方を半透明又は不透明とすることもできる。頂上側コア層S3及び底側コア層S5の少なくとも一方は、アッセイ部100に液体を通過させたときに液体の圧力により弾性変形可能となっている。
【0062】
さらに、頂上側筐体層S1、頂上側コア層S3、底側コア層S5、中間スペーサ層S7、底側スペーサ層S9、及び底側筐体層S11のそれぞれは、プラスチックを用いて作製されるとよい。さらに、頂上側筐体層S1、頂上側コア層S3、底側コア層S5、中間スペーサ層S7、底側スペーサ層S9、及び底側筐体層S11のそれぞれの素材は、プラスチック製のシート又はフィルムであるとよい。例えば、このようなプラスチックとしては、ポリエチレン(PE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、ポリプロピレン(PP)等のポリオレフィン(PO)、ABS樹脂(ABS)、AS樹脂(SAN)、ポリ塩化ビニリデン(PVDC)、ポリスチレン(PS)、ポリエチレンテレフタラート(PET)、ポリ塩化ビニール(PVC)、ナイロン、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、シクロオレフィンコポリマー(COC)、シクロオレフィンポリマー(COP)、ポリカーボネート(PC)、ポリジメチルシロキサン(PDMS)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリ乳酸(PLA)等の生分解性プラスチック若しくはその他のポリマー又はそれらの組み合わせが挙げられる。しかしながら、頂上側筐体層、頂上側コア層、底側コア層、スペーサ層、及び底側筐体層の少なくとも1つが、流体が浸透しない材料であれば、プラスチック以外の材料を用いて作製することもでき、このようなプラスチック以外の材料は、樹脂、ガラス、金属等とすることもできる。このような頂上側筐体層S1、頂上側コア層S3、底側コア層S5、中間スペーサ層S7、底側スペーサ層S9、及び底側筐体層S11に用いられる材料又は素材は同一であっても異なっていてもよい。
【0063】
頂上側空洞層S2、中間コア層S4、底側空洞層S6、中間接着層S8、及び底側接着層S10は両面接着テープとなっているか又は両面接着テープを含む層となっている。これらの層S2,S4,S6,S8,S10の頂面及び底面は接着性を有する。頂上側空洞層S2の頂面及び底面は、それぞれ、頂上側筐体層S1の底面及び頂上側コア層S3の頂面に接合される。中間コア層S4の頂面及び底面は、それぞれ、頂上側コア層S3の底面及び底側コア層S5の頂面に接合される。底側空洞層S6の頂面及び底面は、それぞれ、底側コア層S5の底面及び中間スペーサ層S7の頂面に接合される。中間接着層S8の頂面及び底面は、それぞれ、中間スペーサ層S7の底面及び底側スペーサ層S9の頂面に接合される。底側接着層S10の頂面及び底面は、それぞれ、底側スペーサ層S9の底面及び底側筐体層S11の頂面に接合される。
【0064】
しかしながら、頂上側空洞層、中間コア層、底側空洞層、中間接着層、及び底側接着層の少なくとも1つは、上述のように頂上側筐体層、頂上側コア層、底側コア層、スペーサ層、底側スペーサ層、及び底側筐体層に用いられ得る材料又は素材として示したものを用いて作製することもできる。この場合、隣接する層同士は、接着剤、溶着等の接合手段を用いて互いに接合されるとよく、頂上側空洞層、中間コア層、底側空洞層、中間接着層、及び底側接着層の少なくとも1つに用いられる材料又は素材は、それに隣接する層に用いられるものと同一であっても異なっていてもよい。
【0065】
[アッセイ部の構成要素と積層構造との関係について]
図2及び図4図6を参照して、本実施形態に係るアッセイ部100が上述のような積層構造を用いて作製される場合において、アッセイ部100の構成要素と積層構造との関係について説明する。マイクロ流路1は、中間コア層S4を高さ方向に貫通するように形成される。マイクロ流路壁8の頂部8a及び底部8bは、それぞれ、頂上側コア層S3及び底側コア層S5に形成される。
【0066】
分離空間3は、中間コア層S4を高さ方向に貫通するように形成される。通気空間3cは、頂上側コア層S3を高さ方向に貫通するように形成される。分離空間壁9の頂部9aは、頂上側コア層S3に形成される。分離空間壁9の底部9bは、底側コア層S5に形成される。収容空間4は、それぞれ中間コア層S4、底側コア層S5、底側空洞層S6、中間スペーサ層S7、中間接着層S8、底側スペーサ層S9、及び底側接着層S10を高さ方向に貫通する7つの貫通部分4a,4b,4c,4d,4e,4f,4gを有するように形成される。収容空間壁11の頂部11a及び底部11bは、それぞれ、頂上側コア層S3及び底側筐体層S11に形成される。
【0067】
収容空間4を形成する7つの貫通部分4a~4gのうち頂上側4つの貫通部分4a~4dは、第1吸収用多孔質媒体2を収容可能とするように形成される。同底部側3つの貫通部分4e~4gは、第2吸収用多孔質媒体15を収容可能とするように形成される。そして、第2吸収用多孔質媒体15は、第1吸収用多孔質媒体2よりも大きいとよい。特に、第2吸収用多孔質媒体15の流れ方向の長さが、第1吸収用多孔質媒体2の流れ方向の長さよりも長いとよい。
【0068】
注入口5は、それぞれ頂上側筐体層S1、頂上側空洞層S2、及び頂上側コア層S3を高さ方向に貫通する3つの貫通部分5a,5b,5cを有するように形成される。ガイド壁10は、底側コア層S5に形成される。側方通気路6は、それぞれ頂上側空洞層S2、頂上側コア層S3、中間コア層S4、底側コア層S5、及び底側空洞層S6を高さ方向に貫通する5つの貫通部分6a,6b,6c,6d,6eを有するように形成される。側方通気路壁12の頂部12a及び底部12bは、それぞれ、頂上側筐体層S1及び中間スペーサ層S7に形成される。連結通気路7は、それぞれ底側コア層S5及び底側空洞層S6を高さ方向に貫通する2つの貫通部分7a,7bを有するように形成される。連結通気路壁13の頂部13a及び底部13bは、それぞれ、中間コア層S4及び中間スペーサ層S7に形成される。
【0069】
通気路用通気口16は、1つのアッセイ部に2つ設けられる。通気路用通気口16は、それぞれ頂上側筐体層S1を高さ方向に貫通すると共に側方通気路6とアッセイ部100の外部とを連通するように形成される。通気路用通気口16は、第1吸収用多孔質媒体2の鉛直方向上方に位置し、吸収用多孔質媒体2に吸収された液体の気化を促進するための通気路としても機能する。収容空間用通気口17は、底側筐体層S11を高さ方向に貫通すると共に収容空間4とアッセイ部100の外部とを連通するように形成される。
【0070】
流路頂上側空洞18、分離空間頂上側空洞20、及び収容空間頂上側空洞21は、頂上側空洞層S2を高さ方向に貫通するように形成される。流路頂上側空洞18、分離空間頂上側空洞20、及び収容空間頂上側空洞21は、高さ方向にて頂上側筐体層S1及び頂上側コア層S3間に位置する。流路底側空洞19は、底側空洞層S6を高さ方向に貫通するように形成される。流路底側空洞19は、高さ方向にて底側コア層S5及び中間スペーサ層S7間に位置する。窓部22は、頂上側筐体層S1に形成される。
【0071】
本発明のアッセイ装置は、上記において説明したアッセイ部100を2以上備えている。アッセイ装置においては、複数のアッセイ部100が、マイクロ流路1が平行になるように配置されることが好ましい。さらに、隣り合うアッセイ部において、注入口5、検出用窓部22、及び内部標準窓部52のそれぞれが、一直線上に配置されることが好ましい。アッセイ装置に含まれるアッセイ部の数は、特には限定されず、2、3、4、5、6、7、8またはそれ以上であってもよい。後述するアッセイ方法において、検出部14及び内部標準部54からのシグナルを読み取る機器に適合するように、任意の数のアッセイ部を、一つのアッセイ装置に含めることができる。
【0072】
アッセイ装置に含まれる複数のアッセイ部100は、同一の構造を備えていることが好ましい。しかしながら、例えば、1つのアッセイ装置に含まれる複数のアッセイ部100間で構成が異なっていてもよい。例えば、あるマイクロ流路1の検出部14に固定化される検出抗体等、及び内部標準部54に固定化される内部標準物質が、他のマイクロ流路の検出抗体等及び内部標準物質と異なっていてもよい。
【0073】
アッセイ装置の製造においては、S1からS11の各層を積層し、貼り合わせる前に、底側コア層S5を構成するマイクロ流路壁8の底部8bの所定の領域に、検出部14と、内部標準部54を形成することが好ましい。検出部14は、底部8bまたは頂部8aに直接、あるいは底部に配置される反応用多孔質媒体に、目的物質と特異的に反応可能に構成される物質(検出抗体)を所定量含侵することにより形成する。内部標準部54もまた、底部8bに直接、あるいは底部に配置される反応用多孔質媒体に、内部標準物質を所定量含侵することにより形成する。次いで、ブロッキング、乾燥の操作を行うことができる。なお、図2は、単一のアッセイ部の積層について模式的に説明しているが、S1からS11の各層に、複数のアッセイ部に対応させた空洞や貫通部分を並べて形成し、積層することにより、複数のアッセイ部を備えるアッセイ装置を製造することができる。あるいは、図2と同様にアッセイ部を、幅方向に並べ、第1及び第2吸収用多孔質媒体を幅方向にて連結させて構成することもできる。
【0074】
第1実施形態によるアッセイ装置は、上記の態様には限定されず、本発明者らによる特許文献1(国際公開WO2020/045551)に含まれるほかの構成を備えていてもよい。例えば、アッセイ装置は、注入口からマイクロ流路に液体を供給したときに、マイクロ流路の注入口に近い端部にて、マイクロ流路壁の頂部及び底部が、高さ方向に互いに当接した状態から、高さ方向に互いに間隔を空けた状態に変化可能な構成を備えていてもよい。アッセイ装置は、マイクロ流路は、注入口に近い端部からその一方側に向かうに従ってマイクロ流路の幅を減少させるように形成されていてもよい。特許文献1に説明された構造を備えることにより、マイクロ流路内において、液体の流動の精度をより高くすることができる。このため、検出部における反応が内部標準部における反応に影響を与えることなく、内部標準部により、検出部の反応の精度保証が可能となる。
【0075】
[第2実施形態:アッセイ方法]
本発明は、第2実施形態によればアッセイ方法に関する。当該アッセイ方法は、上記アッセイ装置を用い、
(a)試料を前記マイクロ流路に適用する工程と、
(b)洗浄液を前記マイクロ流路に適用する工程と、
(c)目的物質に特異的に結合可能な第1の標識と、前記内部標準物質に特異的に結合可能な第2の標識とを含む液体を、前記マイクロ流路に適用する工程とを順に含む。
【0076】
本発明に係るアッセイ方法を、図7を参照して以下に詳細に説明する。図7は、1種類の目的物質である抗原Aの検出を目的とするアッセイ方法を例示して説明する。しかしながら、本発明は特定の抗原Aの検出を目的とする場合に限定されない。また、目的物質が一種類である場合に限定されず、2種以上の目的物質の検出にも用いることができる。図7は、本実施形態のアッセイ方法における、図2~6のアッセイ装置中の、1つのアッセイ部100におけるマイクロ流路1中での物質の移動を、時系列に沿って模式的に示した図である。(a-1)を参照すると、図7中、左端が注入口5に対応しており、右端が第1吸収用多孔質媒体2に対応する。マイクロ流路には、液体の流れ方向上流側に検出部14、下流側に内部標準部54が設けられている。検出部14は、マイクロ流路の底部8bに固定化された抗体61の存在する領域である。抗体61は、抗原Aを特異的に認識する検出抗体である。内部標準部54は、マイクロ流路の底部8bに固定化された内部標準物質である抗体62の存在する領域である。抗体62は、抗原Aを認識せず、標識抗体66を特異的に認識する抗体である。
【0077】
[アッセイ装置を用いた操作工程]
工程(a)では、マイクロ流路の注入口5に試料を適用する。適用は、注入口5に、1滴あたり数十μL程度の試料液滴を滴下することにより行うことができる。滴下の操作は、1回であってもよいし、複数回繰り返して実施することもできる。アッセイ方法に必要な量な試料を適用する。複数回繰り返す場合には、複数の液滴を連続して滴下することもできる。あるいは、滴下の間隔を、例えば、3分毎や、5分毎など、任意の時間間隔として滴下することもできる。試料は、アッセイの目的物質である抗原A63と、その他の抗原64、65が含まれる液体である。試料が注入口5に適用された状態を図7(a-1)に示し、液体の流れを矢印Faにて示す。
【0078】
これらの抗原63、64、65は、ラテラルフローに基づく液体の移動によりマイクロ流路中を流動する。液体がマイクロ流路を流動して、第1吸収用多孔質媒体2に到達した状態を図7(a-2)に示す。試料中の抗原A63は抗体61に特異的に反応して結合し、その他の抗原64、65は、非特異的な相互作用や物理的な作用等によりマイクロ流路内に留まるものもあり、液体とともに第1吸収用多孔質媒体2に運ばれるものもある。
【0079】
アッセイ装置に含まれる他のアッセイ部についても、工程(a)を順次行うことができる。以下の工程についても、特には言及しないが、複数のアッセイ部で同様の操作を順次行うことが好ましい。
【0080】
次に、工程(b)では、洗浄液を前記マイクロ流路に適用する。洗浄液は、抗原A63と抗体61との特異的な結合状態に影響を与えず、流路内に留まる抗原を流路からマイクロから除去することができるものであればよい。洗浄液としては、例えば、界面活性剤等を使用することができるが、特には限定されない。洗浄液の適用は、注入口5に、1滴あたり数十μL程度の洗浄液の液滴を滴下することにより行うことができる。滴下の操作は、1回であってもよいし、複数回繰り返して実施することもできる。複数回繰り返す場合には、液滴を連続して滴下することもできる。連続的な添加により、マイクロ流路内の固定化されていない物質を完全に洗浄することができる利点がある。あるいは、任意の時間間隔にて逐次的に滴下することもできる。洗浄液の流れを矢印Fbにて示す。洗浄後の流路の状態を図7(b)に示す。図7(a-2)において流路に存在した抗原64、65が除去されている。
【0081】
次に、工程(c)では、目的物質に特異的に結合可能な第1の標識と、内部標準物質に特異的に結合可能な第2の標識とを含む液体を、前記マイクロ流路に適用する。本態様においては、目的物質である抗原A63に特異的に結合可能な第1の標識と、内部標準物質である抗体62に特異的に結合可能な第2の標識は同一であり、いずれも標識抗体66である。したがって、本工程では、標識抗体66を含む液体をマイクロ流路に適用する。標識抗体66の適用もまた、注入口5に、1滴が数十μL程度の液滴を滴下することにより行うことができる。この操作は、1回であってもよいし、複数回繰り返して実施することもできる。所望のシグナルを得るために必要な量の標識抗体66を、適宜、滴下することが好ましい。標識抗体66を含む液体の濃度は、工程(c)において液体をマイクロ流路1に適用した場合に、標識抗体66が、抗体61に結合した抗原A63と内部標準物質である抗体62に十分に結合可能な量で存在する濃度とすることができる。標識抗体66を含む液体はマイクロ流路1を流動しながら、標識抗体66の一部が、抗原A63及び抗体62にそれぞれ特異的に反応して結合する。結合しなかった標識抗体66は、液体とともに第1吸収用多孔質媒体2に流動する。液体の流れを矢印Fcにて示す。工程(c)の終了後の流路の状態を図7(c)に示す。
【0082】
なお、図示しない別の態様において、内部標準物質が抗原の場合は、標識は、当該抗原に対する抗体部分を含む分子であってよく、内部標準物質の種類に応じた標識を、当業者が適宜選択することができる。また、第1の標識と第2の標識が異なる種類の物質であってもよい。第1の標識と第2の標識が異なる態様については後述する。
【0083】
工程(c)の完了後は、必要に応じて、洗浄液を適用する工程をさらに設けてもよい。未反応の標識抗体66を完全にマイクロ流路から除去するためである。工程(a)から(c)により、検出部14と、内部標準部54との両方において、標識抗体66のシグナルを検出可能な状態となる。
【0084】
標識抗体66自体が、検出可能なシグナルを生成する物質である場合は、工程(c)の完了後、後述するシグナルの測定の工程(工程(d))を実施することができる。標識抗体66が検出可能なシグナルを生成する物質でない場合は、標識抗体66に対しシグナル生成能を付与する物質をマイクロ流路に適用する工程をさらに設けることができる。検出可能なシグナルは、可視光、蛍光、化学発光、電気化学、電気化学発光、プラズモン等であってよい。シグナル生成能を付与する物質は、これらのシグナルに対応した物質、例えば発色剤であってよい。標識のシグナル生成に関与する部分の例としては、先に例示したHRP以外に、AP(アルカリホスファターゼ)、Rhodamine(ローダミン)、Biotin(ビオチン)、FITC(フルオレセイン)、PE(フィコエリスリン)、Cy(シアニン)、APC(アロフィコシアニン)、Alexa(アレキサ)、DyLightなどがあるが、これらには限定されない。また、比色ELISAのHRP用基質としては、TMB(3,3’,5,5’-テトラメチルベンジジン)、OPD(o-フェニレンジアミン二塩酸塩)、ABTS(2,2’-アジノビス[3-エチルベンゾチアゾリン-6-スルホン酸]-ジアンモニウム塩)がある。AP用基質としては、PNPP(p-ニトロフェニルリン酸、ジナトリウム塩)などがあるが、これらには限定されない。
【0085】
[シグナルの測定及び定量]
本実施形態によるアッセイ方法は、上記工程(a)から(c)の後にさらに以下の工程を含んでもよい。
(d)前記検出部における第1の標識のシグナルと、前記内部標準部における第2の標識のシグナルとを測定する工程
シグナルの測定方法は、シグナルの種類によって異なり、当業者であれば所定のシグナルに適した測定方法を実施し、シグナルを定量することができる。例えば、検出部14と、内部標準部54からの可視光シグナルを測定する場合には、各部の吸光度または輝度を測定することができる。可視光以外の検出可能なシグナルについても、従来公知の方法により適宜測定することができる。
【0086】
可視光シグナルの定量方法の一例である吸光度の測定は、分光光度計を用いて行うことができる。測定波長は、シグナルを発生する物質が持つ吸収波長によって適宜決定することができる。例えば、青色光シグナルを定量する場合は波長652nmの吸収を測定することができる。あるいは、検出部14及び内部標準部54のデジタルカラー画像を得て、当該画像の輝度に基づいて吸光度を得ることもできる。より具体的には、スマートフォンやデジタルカメラにより、検出部14や内部標準部54などの測定箇所と、基準箇所のデジタルカラー画像を撮像する。基準箇所は、例えばアッセイ装置の筐体や、色見本などの白色部とすることができる。次いで、得られたデジタルカラー画像を、赤(R)、緑(G)、青(B)の三原色に分解し、各成分の輝度を得る。輝度は、国際照明委員会による定義 CIE 1931色空間に基づいて、対象物の色をRed(波長700.0nm)、Green(波長546.1nm)、Blue(波長435.8nm)の混色で表した際のR、GまたはB成分の大きさをいう。例えば、青色光シグナルを定量する場合は、測定箇所及び白色部の赤(R)成分の輝度を得て、以下の式に基づいて吸光度を得ることができる。
吸光度=-log(測定箇所R輝度/白色部R輝度)
青色以外のシグナルを定量する場合にも同様に、シグナルを発生する物質が持つ吸収波長に応じて、R、G、Bのいずれか、またはそれらの2以上の組み合わせにより、吸収の大きさを数値化することができる。
【0087】
工程(d)により測定し、得られた検出部における第1の標識のシグナルは、測定値をそのままで、あるいは測定値に対して適当な演算を行うことにより、目的物質の定量あるいは半定量に用いることができる。適当な演算としては、予め得られたマスター検量線に基づき、シグナルの測定値を濃度に変換する方法が挙げられる。マスター検量線は、目的物質の濃度が既知の試料から得ることができる。
【0088】
マスター検量線に基づく演算を行う場合は、マスター検量線からの乖離率を得て、マスター検量線を補正する演算を併せて行うことができる。マスター検量線の補正は、アッセイ装置ごとに、目的物質濃度が既知の試料であるポジティブコントロールをマイクロ流路に流すことにより行う。例えば、図1に示すアッセイ装置を用い、シグナルの吸光度を測定する場合、工程(a)において、少なくとも1つのアッセイ部のマイクロ流路にポジティブコントロールを適用し、それ以外のアッセイ部のマイクロ流路には測定対象となる試料を流す。工程(d)において、ポジティブコントロールを適用したアッセイ部の検出部14からの吸光度を、マスター検量線の対応する目的物質濃度における吸光度で割ることにより、マスター検量線からの乖離率を得ることができる。正確な乖離率を得るためには、ポジティブコントロールは、高濃度ポジティブコントロールと、低濃度ポジティブコントロールの2種を用い、2つの濃度における乖離率を得て、その平均値を当該アッセイ装置固有の乖離率(乖離定数)とすることが好ましい。そして、測定対象となる目的物質濃度未知の試料について、工程(d)において得られた吸光度に乖離定数を乗じる、あるいは乖離定数の逆数を乗じる等の演算を行って補正し、補正後の吸光度をマスター検量線にあてはめて各試料中の目的物質の濃度を得ることができる。
【0089】
[内部標準部シグナルによる反応保証]
本実施形態に係るアッセイ方法は、ある態様においては、以下の工程を含んでもよい。
(g)前記工程(d)で得られた前記第2の標識のシグナルに基づき、各アッセイ部の不良を判断する工程
工程(d)により測定し、得られた内部標準部における第2の標識のシグナルは、検出部14における反応の保証に用いることができる。すなわち、第2の標識のシグナルが特定の閾値以下、または閾値以上である場合に、検出部の反応が正常に行われなかったと判断することができる。閾値は、内部標準物質の濃度、内部標準物質が固相化されている箇所(流路の頂部か底部か両方か)、マイクロ流路の厚み(S3とS5との間隔)、目的物質の種類(交差反応性の考慮)、ブロッキング剤の種類に依存する。また、反応のプロトコル、例えば、反応時間、洗浄液の種類・濃度等にも依存する。したがって、閾値は、アッセイ装置の構成や反応のプロトコルを考慮し、当業者が予備実験により決定することができる。上記(a)~(c)の工程が正常に進行すれば、目的物質の存在量にかかわらず、原理上、第2の標識からは一定のシグナルが得られる。しかし、第2の標識のシグナルが閾値以下、あるいは閾値以上である場合には、不良が疑われる。特に、閾値以下の場合には、装置に起因する異常が疑われ、閾値以上の場合には、標識の洗浄が不十分などの理由で異常発色する場合が考えられる。
【0090】
閾値は、第2の標識の濃度と、シグナルとの関係を示す検量線を作成することにより決定することができる。検量線は、使用される第2の標識の種類、アッセイ装置に固相化された内部標準物質の種類及び濃度、アッセイ装置のマイクロ流路の厚みなどによって異なる場合があり、それぞれの系について検量線を作成することで、閾値の決定が可能となる。第2の標識が、例えば、HRP抗体とTMBである場合に、このような方法による閾値の決定が特に有効である。
【0091】
[内部標準部シグナルによる、検出部シグナルの補正]
工程(c)においてマイクロ流路に適用した第1の標識と第2の標識が異なる場合、ある態様においては、上記工程(d)の後にさらに以下の演算を行う工程を含んでもよい。
(e)予め得られた内部標準物質の検量線と、前記工程(d)で得られた前記第2の標識のシグナルに基づき、前記内部標準物質の検量線からの乖離率を求める工程と、
(f)前記乖離率と、前記工程(d)で得られた前記第1の標識のシグナルと、予め得られた目的物質の検量線とに基づき、補正された目的物質の濃度を得る工程
本態様は、工程(c)においてマイクロ流路に適用した第1の標識と前記第2の標識が異なる場合に実施可能である。目的物質がアレルゲンであり、内部標準物質が特定の動物種で作出した抗体であり、第1の標識がHRP標識抗アレルゲン抗体(内部標準物質とは異なる動物種で作出した抗体)であり、第2の標識がHRP標識動物抗体(内部標準物質と同一の動物種で作出した抗体)である場合が挙げられるが、特定の場合には限定されない。例えば、第1の標識がウサギ以外の動物で作出したHRP標識抗アレルゲン抗体、内部標準物質が抗ウサギIgG抗体、第2の標識がHRP標識ウサギ抗体であってよい。工程(d)の後に、工程(e)及び(f)による演算を行うことで、先に説明したポジティブコントロールをマイクロ流路に流すことなく、内部標準部のシグナルから目的物質のマスター検量線を補正することができる。
【0092】
具体的には、予め、既知濃度の目的物質について、目的物質のマスター検量線を作成する。また、第2の標識の濃度を変えて、内部標準物質のマスター検量線を作成する。次いで、工程(a)~(d)を行う。例えば、図1に示すアッセイ装置を用い、シグナルの吸光度を測定する場合、工程(a)において、ポジティブコントロールは使用せずに、6つのアッセイ部の全てのマイクロ流路に、測定対象となる試料を適用することができる。本態様の工程(e)では、工程(d)において得られた各アッセイ部の内部標準部54の吸光度を、内部標準物質のマスター検量線の対応する濃度(固定化量)の内部標準物質における吸光度で割ることにより、内部標準物質のマスター検量線からの乖離率を得ることができる。続く工程(f)では、工程(d)において得られた各アッセイ部の検出部54の吸光度に、工程(e)で得られた乖離率を乗じて、補正後の検出部54の吸光度を得る。最後に、補正後の検出部54の吸光度を目的物質のマスター検量線にあてはめて、各試料中の目的物質の濃度を得ることができる。
【0093】
本態様によれば、マイクロ流路ごとに乖離率を得ることができるため、ポジティブコントロールを使用する必要がなくなる。そのため、1つのアッセイ装置の全てのマイクロ流路を試料測定に用いることができ、内部標準物質により目的物質の濃度を補正可能となり、より簡便かつ正確な精度管理が可能となる。
【0094】
[シグナルの目視検出]
本発明の一実施態様によれば、工程(c)で得られたシグナルを、使用者が目視で確認することも可能である。例えば、食品に含まれるアレルギー物質の有無などの簡易アッセイを目的とする場合に、このような検出態様が可能である。本態様においては、主として、検出部14におけるシグナルの有無により、試料中の目的物質の有無を判断する。そして、検出部14におけるシグナルの有無にかかわらず、内部標準部54のシグナルを確認することにより、当該検出部14におけるアッセイ反応が正常に進行していることが保証される。また、アッセイ装置に色見本を含め、検出部14のシグナルと色見本を比較することにより、シグナルの目視による半定量も可能である。色見本は、アッセイ装置の上部に印刷により設けるなど、アッセイ装置と一体化して設ける態様であってもよく、アッセイ装置の本体と分離された態様としてもよい。
【0095】
[複数の目的物質の検出]
第1実施形態によるアッセイ装置において、2以上の検出部を備えることで、複数の目的物質を同時検出する態様も可能である。より具体的には、検出部及びこれに対応する窓部を複数設け、複数の検出部が、それぞれ複数の目的物質に特異的に結合可能な異なる検出抗体等を固定化したアッセイ装置を製造することができる。そして、アッセイ方法においては、工程(c)において、複数の目的物質にそれぞれ特異的な標識を含む液体をマイクロ流路に適用することができる。例えば、2種類の異なる目的物質を検出する場合、工程(c)に代えて、工程(c’)第1の目的物質に特異的に結合可能な第1の標識と、前記内部標準部に固定化された物質に特異的に結合可能な第2の標識と、第2の目的物質に特異的に結合可能な第3の標識とを含む液体を、前記マイクロ流路に適用する工程を含むことができる。あるいは、複数の異なる検出抗体等に対し、異なる蛍光シグナルを生成可能な第1から第3の標識を適用することができる。これらの操作により、複数の目的物質を同時に測定することも可能となる。
【0096】
[飽和検出]
本発明の一実施態様によれば、工程(d)が、前記検出部における第1の標識のシグナルを経時的に測定する工程と、経時的なシグナル変化に基づき、検出不良を判断する工程とをさらに含んでいてもよい。
【0097】
シグナルを生成する物質によっては、目的物質の濃度が高い領域で、目的物質の正確な定量を不可能にする好ましくないシグナル変化を生じる場合がある。工程(d)におけるシグナルの測定を、シグナルを発生する物質(例えば発色剤)を添加する時点を0として、経時的に、複数回にわたって行うことで、好ましくないシグナル変化が得られた場合には、検出不良とすることができる。
【0098】
一例として、好ましく用いられる発色剤であるTMBは、試料中の目的物質の濃度の上昇とともに、目視可能なシグナルが、白、青、黄の順に変化する。シグナルが白から青へ変化すると吸光度は増加し、赤(R)成分の輝度は低下する。シグナルが青から黄へ変化すると吸光度は減少し、R輝度は増加する。本発明のアッセイ方法において、TMBを用いて工程(d)の測定を行い、目的物質の定量を行う場合には、シグナルが白から青へ変化する領域における吸光度もしくはR輝度の変化を利用することが好ましい。しかし、目的物質の濃度によっては、シグナルが青から黄へ変化する反応を生じる場合がある。これを、好ましくないシグナル、すなわち過飽和を示すシグナルとして捉えることができる。このようなシグナル変化が得られた場合には、検出不良と判断して、反応を終了することができる。
【0099】
より具体的な例としては、例えば、TMBの滴下時点を0として、所定の間隔で検出部の吸光度またはR輝度を測定する。所定の間隔は、発色剤の種類にもよるが、例えば、10秒から1分程度とすることができる。また、滴下時点から、10分から20分経過の時点まで測定することが好ましい。そして、例えば、経時的な測定において、検出部の吸光度が2回連続で減少した場合、あるいは、検出部のR輝度が2回連続で増加した場合には、「好ましくないシグナル変化」と捉え、検出不良と判断することができる。TMBと同様の発色変化がある物質の例としては、o-フェニレンジアミン(OPD)が挙げられる。
【0100】
飽和検出のための工程を設けることで、特に高濃度の目的物質を含む試料における誤検出を防止し、目的物質の正確な定量が可能となる。
【0101】
本発明の第2実施形態によるアッセイ方法によれば、検出部での目的物質の反応に基づくシグナルに加え、内部標準部に基づくシグナルを得ることができ、検出部での目的物質の反応の精度保障が可能となる。
【0102】
[第3実施形態:評価用試薬によるアッセイ装置の選別方法]
本発明のアッセイ装置において、評価用試薬をマイクロ流路に流すことによる、アッセイ装置の選別方法、すなわちアッセイ装置の作製精度の評価方法を実施することができる。具体的には、アッセイの終了後に、アッセイ装置の複数のアッセイ部のそれぞれのマイクロ流路に評価用試薬溶液を適用し、検出部14におけるシグナルと、内部標準部54におけるシグナルを測定することにより、マイクロ流路の厚みを得ることができる。シグナルとしては、吸光度、輝度等が挙げられるが、これらには限定されない。以下、シグナルの例として、吸光度を挙げて説明する。
【0103】
評価用試薬としては、マイクロ流路内にある液体の量を吸光度、輝度、あるいはその他のシグナルにより定量可能とするものを用いることができる。具体的な薬剤としては、メチレンブルー、硫酸銅水溶液が挙げられるが、これらには限定されない。このような評価用試薬の数十mLを1滴として滴下し、アッセイ装置に含まれる複数のマイクロ流路1に適用することができる。
【0104】
次いで、検出部14における評価用試薬の吸光度と、内部標準部54における評価用試薬の吸光度を測定する。この操作を、2つ以上、好ましくは5つ程度のアッセイ装置について行い、変動係数(CV)を算出する。そして、変動係数(CV)が所定の数値範囲内、例えば5%以下程度であることにより、アッセイ装置に含まれる複数のアッセイ部間の特性の相違が適正範囲内であること、すなわちアッセイ装置の作製の精度が所定の基準以上であることを確認することができる。そして、その結果に基づいて良品を選別することができる。すなわち、マイクロ流路中を液体が流動したか否か、マイクロ流路の厚み(図2中のS3とS5の間隔)が検出部14と内部標準部54で一定の範囲内に入っているかを確認することができる。マイクロ流路の厚みは、予め作成した検量線から得ることができる。より具体的には、例えば、三次元形状測定装置を用いてマイクロ流路の厚みを測定し、各マイクロ流路の厚みに対する評価用試薬の吸光度の検量線を作成し、この検量線に基づいてマイクロ流路の厚みを得ることができる。
【0105】
なお、本実施形態による選別方法においては、アッセイを行った後の全てのマイクロ流路に評価用試薬溶液を流して、全てのマイクロ流路について個別に精度評価を行い、良品を選別することもできる。この評価方法は、アッセイ部(マイクロ流路)ごとに特性が異なると考えられる態様において有利である。あるいは、同一のロットで作製したアッセイ装置では、アッセイ装置間の差は無いと見なせる場合であれば、同一ロットのアッセイ装置から一つを選んで評価用試薬を流して確認することにより、同一ロットのアッセイ装置、並びにこれに含まれるアッセイ部(マイクロ流路)の全てについて一定の精度を担保できていると評価することもできる。
【実施例
【0106】
以下、実施例により、本発明をより詳細に説明する。しかし、以下の実施例は本発明を限定するものではない。
【0107】
(1)アッセイ装置の製造
図1に示す、アッセイ部を6つ有するアッセイ装置を製造し、アッセイ方法を行うための動作確認を行った。アッセイ装置の製造においては、マイクロ流路壁8の底部8bを構成する底側コア層S5の検出部14に、検出抗体等として、5.175μg/mLの抗アレルゲン抗体(小麦グリアジンに対する抗体)を20μL固相化し、内部標準部54に内部標準物質として、5μg/mLの抗マウスIgG抗体を20μL固相化した。また、アッセイ装置の頂上側筐体層S1としては、装置外部から視認可能な部分が白色のABS樹脂を用いた。次いで、図2に示すとおりに、アッセイ装置を構成する層S1からS11及びその他の構成部材を貼り合わせてアッセイ装置を製造した。装置の製造及び以下の実験操作はすべて常温で行った。
【0108】
(2)内部標準部のシグナル確認
製造されたアッセイ装置の各マイクロ流路に、洗浄液(界面活性剤を含むリン酸緩衝液)約40μLを1滴として、4滴適用して、マイクロ流路の洗浄を行った。洗浄後、各マイクロ流路に、ブロッキング剤(保護タンパク質と糖を含むリン酸緩衝液)約20μLを1滴として、2滴適用し、60分にわたってブロッキングを行った。次いで、吸引を行い、室温で30分乾燥し、洗浄液約40μLを1滴として、5滴適用して、マイクロ流路の洗浄を行った。
【0109】
6つのアッセイ部に、標識抗体として、ホースラディッシュ・ペルオキシダーゼ(Horseradish peroxidase;HRP)標識抗体を含む液体を適用した。図1に示すアッセイ装置において、左側から流路番号(アッセイ部番号)を流路1~6とする。流路1~6にそれぞれ、0μg/mL、0.03125μg/mL、0.0625μg/mL、0.125μg/mL、0.25μg/mL、0.5μg/mLのHRP標識抗体約40μLを1滴として、2滴適用した。5分後に、洗浄液約40μLを1滴として、8滴適用して、各マイクロ流路の洗浄を行った。最後に、発色剤(テトラメチルベンジジン;TMB)約40μLを1滴適用した。
【0110】
発色剤の添加前(TMB 0min)、5分後(TMB 5min)、10分後(TMB 10min)に流路1~6の内部標準部54の吸光度を得た。本実施例において、吸光度は、以下の式により得た。
吸光度=-log(測定箇所R輝度/白色部R輝度)
測定箇所は、検出部または内部標準部とし、白色部は、筐体の白色部とした。R輝度は、スマートフォンにより測定箇所または白色部を撮像することにより得たカラー画像を、赤(R)、緑(G)、青(B)の三原色に分解した際の、赤色成分の輝度とした。本実施例においては、青色の発色剤TMBを用いたため、赤色成分の輝度の減少幅により、発色を定量した。吸光度×10、平均値、標準偏差(SD)及び変動係数(CV)を下記表1~3に示す。なお、以下の実施例において、表中には、吸光度の実測値に代えて、「吸光度×10」の値を示した。これは、実測値が小さいため、データ取り扱いの利便性のためである。本発明は、「吸光度×10」の値で評価することには限定されず、同じ基準で各データを比較することができればよい。
【0111】
【表1】
【表2】
表2の結果に基づき、HRP標識抗体濃度をX軸、吸光度×10をY軸として得られた検量線は、Y=5.722X+0.7778(決定係数R=0.7698)であった。
【表3】
表3の結果に基づき、HRP標識抗体濃度をX軸、吸光度×10をY軸として得られた検量線は、Y=5.1177X+1.1365(決定係数R=0.602)であった。
【0112】
発色剤の添加前と添加10分後のアッセイ装置の内部標準部54のシグナルを目視にて観察した。添加前の内部標準部54は流路1~6のいずれにおいても白色であったのに対し、10分後の流路1~6では、適用した液体中のHRP標識抗体の濃度が大きいほど、青色が濃いシグナルが確認できた(図示せず)。
【0113】
(3)濃度既知の目的物質のアッセイ
次に、予め濃度を設定したアレルゲンを目的物質として含む試料をアッセイ装置に適用して、検出部及び内部標準部の吸光度を得た。試料としては、小麦を0ng/mL、2.5ng/mL、12.5ng/mL、25ng/mL及び50ng/mL含む小麦標準液を用いた。アッセイ装置の製造は(1)と同様にして行い、(2)において、吸引とそれに続く洗浄の後に、試料約40μLを1滴として、2滴適用した。5分後に、洗浄液約40μLを1滴として、5滴適用して、各マイクロ流路の洗浄を行った。その後、HRP標識抗体、洗浄液、及び発色剤の適用は、(2)と同様に行った。本実験では、同一濃度のアレルゲンを含む試料を、1つのアッセイ装置の6つの流路に適用して、検出部、及び内部標準部の吸光度を得た。結果を下記表4~9に示す。
【0114】
【表4】
【表5】
【表6】
【表7】
【表8】
【表9】
【0115】
これらの検出部14及び内部標準部54のシグナルを目視にて観察した結果、内部標準部のシグナルはいずれも概ね同程度の青色の濃さであった。検出部のシグナルは、アレルゲンの濃度が大きいほど、青色が濃いシグナルが確認できた(図示せず)。
【0116】
(4)食品アレルゲンのアッセイ
食品に含まれるアレルゲンの検出を目的としてアッセイを行った。試料は、先の(3)で用いた25ng/mLの小麦を含む小麦標準液、鶏肉団子由来の試料、スイートポテト由来の試料を用いた。小麦タンパク質が最終濃度で10μg/gになるように、小麦粉末を原材料に添加し、鶏肉団子並びにスイートポテトを作製した。これらの食品を20倍量の抽出液で抽出し、遠心分離後の上清をろ過し、そのろ液を20倍量の希釈液で希釈して、測定試料とした。
【0117】
上記試料を用いた以外は、先の(3)と同様にアッセイを行い、吸光度を得た。結果を下記表10に示す。
【表10】
【0118】
表10の結果から示されるように、実試料の測定として、スイートポテトと鶏肉団子から抽出された測定試料を用いて、小麦の測定を行うことができた。また内部標準部の発色についても阻害されることなく一定の発色を得ることができた。
【0119】
(5)不良品の検出
検出抗体等として、20.7μg/mLの抗アレルゲン抗体を20μL固相化し、内部標準部に内部標準物質として、20μg/mLの抗マウスIgG抗体を20μL固相化した以外は(1)と同様にして、図2に示すとおりに、アッセイ装置を構成する層S2からS11及びその他の構成部材を貼り合わせた。次に、(2)と同様にして、ブロッキング、吸引を行った後、白色のABS樹脂からなる頂上側筐体層S1を貼り合わせた。貼り合わせ後の洗浄と、試料、HRP標識抗体、染色剤の適用は、(1)と同様の手順で行った。試料としては、小麦を0ng/mL、2.5ng/mL、12.5ng/mL、25ng/mL及び50ng/mL含む小麦標準液を用い、HRP標識抗体の濃度は、0.25μg/mLとした。
【0120】
6本の流路を備えたアッセイ装置を6つ準備し、それぞれのアッセイ装置について、流路1~5に、0ng/mL、2.5ng/mL、12.5ng/mL、25ng/mL及び50ng/mLの小麦標準液をこの順で適用し、検出部及び内部標準部の吸光度を得た。吸光度は、先の(2)と同様の方法により得た。予め作成した内部標準部の検量線から、アッセイ装置とHRP標識抗体が正常なときに得られる値の最小検出値が2.0であったため、ここでは、内部標準部の吸光度×10が2.0の場合を閾値とした。2.0以下となる場合はエラーであり、不正常なアッセイと判断した。
【0121】
[正常なアッセイ結果]
6つのアッセイ装置のうち、1枚を用いた場合の、検出部の吸光度、平均値、標準偏差(SD)及び変動係数(CV)、並びに内部標準部の吸光度、平均値(Ave.)、標準偏差(SD)及び変動係数(CV)を下記表11に示す。
【表11】
【0122】
表11に示すアッセイ装置を用いた場合は、内部標準部の吸光度×10が、閾値である2.0を超えていた。これにより、表11に示す検出部の吸光度は信頼性がある値であることが保証された。
【0123】
[不正常なアッセイ結果]
別のアッセイ装置のうち、2枚を用いた場合の、検出部の吸光度、平均値、標準偏差(SD)及び変動係数(CV)を下記表12に、内部標準部の吸光度、平均値(Ave.)、標準偏差(SD)及び変動係数(CV)を下記表13に示す。内部標準物質の濃度は、0.25μg/mLとした。
【表12】
【表13】
【0124】
表12、13に示すアッセイ装置を用いた場合は、1枚目、2枚目のアッセイ装置のそれぞれについて、内部標準部の吸光度×10が、閾値である2.0を下回っていた。これにより、表12で示す検出部の吸光度は、信頼性がある値とはいえず、これらのアッセイ装置は不良品であると判別できた。不良の原因には、HRP標識抗体やブロッキング剤の劣化、検出抗体及び内部標準物質の固相化条件、チップの精度等が挙げられる。
【0125】
(6)検出部と内部標準部の位置関係の検討
(a)上流側に内部標準部
各アッセイ部において、内部標準部を上流側に、検出部を下流側に設けた以外は(5)と同様にして3枚のアッセイ装置を製造し、(5)と同様の手順でアッセイを行った。試料及びHRP標識抗体の条件も(5)と同様とし、吸光度を得た。検出部の吸光度、平均値(Ave.)、標準偏差(SD)及び変動係数(CV)を下記表14に、内部標準部の吸光度、平均値、標準偏差(SD)及び変動係数(CV)を下記表15に示す。内部標準部の吸光度×10が1.5以下の場合を不良とした。表14右下の数値8.4%は、CVの平均値を表す。
【表14】
【表15】
【0126】
表14、15の結果から、検出部と内部標準部の位置関係が逆であっても、目的物質の定量が可能であることが確認できた。
【0127】
次に、測定終了後の流路に、メチレンブルー染色液を流して検出部及び内部標準部の吸光度を得て、流路間の作製精度の差異の確認を行った。検出部の吸光度、平均値(Ave.)、標準偏差(SD)及び変動係数(CV)を下記表16に、内部標準部の吸光度、平均値、標準偏差(SD)及び変動係数(CV)を下記表17に示す。予め行った実験の結果に基づき、吸光度×10が1.5以下、あるいはCVが5.0%以上の時は、作製したアッセイ装置は不良品とした。
【表16】
【表17】
【0128】
表16、表17の結果から、流路1~5の流路間差において何れもCVが5.0%以下であり、1枚目と2枚目と3枚目のアッセイ装置間においてもCVは何れも5%以下であった。このことから、表16と表17で使用したアッセイ装置の各マイクロ流路は適切な厚みを保持した状態で正常に測定が行われたことを示す。なお、高濃度試料を用いたアッセイを行う場合、検出部が上流に、内部標準部が下流に位置するアッセイ装置を用いると、内部標準部の発色に影響を及ぼす場合があったが、内部標準部を上流に配置することで、試料の小麦が高濃度になっても、内部標準部に変動が見られないことが確認された(データの詳細は示さず)。
【0129】
(b)下流側に内部標準部
各アッセイ部において、内部標準部を下流側に、検出部を上流側に設けた以外は(a)と同様にしてアッセイ装置を製造し、(a)と同様の条件及び手順でアッセイを行った。検出部の吸光度、平均値(Ave.)、標準偏差(SD)及び変動係数(CV)を下記表18に、内部標準部の吸光度、平均値(Ave.)、標準偏差(SD)及び変動係数(CV)を下記表19に示す。内部標準部の吸光度が1.5以下の場合を不良とした。表18右下の数値6.9%は、CVの平均値を表す。
【0130】
【表18】
【表19】
【0131】
次に、(b)の測定終了後の各流路について、(a)と同様の条件及び手順でメチレンブルー染色液の吸光度解析及び流路間の作製精度の差の評価を行った。検出部の吸光度、平均値(Ave.)、標準偏差(SD)及び変動係数(CV)を下記表20に、内部標準部の吸光度、平均値(Ave.)、標準偏差(SD)及び変動係数(CV)を下記表21に示す。不良品の判断基準は、(a)と同様とした。
【0132】
【表20】
【表21】
【0133】
表20、表21の結果から、同様に、何れの系においても吸光度は1.5以上で、CVが5%以下であることから、アッセイ装置の各流路は適切な厚みを保持した状態で正常に測定が行われたことを示す。
【0134】
上記(a)、(b)の結果から、本発明のアッセイ装置によれば、内部標準部が上流側にある場合でも、下流側にある場合でも、正確なアッセイが可能であることが確認できた。従来の装置では、内部標準部が上流側にある場合、免疫測定の一般常識からは、内部標準部で抗体が先に取られてしまうため、検出部での抗体濃度がわからなくなり、系の制御ができないという問題があった。本発明の装置は、イムノクロマト法の移動相中での反応とは異なり、ストップ&フローの原理で液がマイクロ流路内でストップして留まっているときに主に反応が進行する。また、イムノクロマト法と異なり、抗体等の分子認識素子はマイクロ流路の表面にのみ2次元的に固相化されていることから、液が流動中に抗原と抗体が結合する頻度は低い。このため、上流側に内部標準部があっても、従来のような問題が生じること無く測定を行うことができる。また下流側に内部標準部がある場合と比較しても、測定の精度は変わらなかった。
【0135】
(7)内部標準物質の検討
測定試料と反応しない内部標準物質を検討した。使用するアッセイ装置は、(1)と同様にして製造した。本実施例で使用したアッセイ装置は、図1に示す、検出部が上流側に、内部標準部が下流側に位置する構成であった。内部標準物質として、抗ウサギIgGヤギ抗体について試験を行った。アッセイ装置の検出部14に、検出抗体として、20.7μg/mLの抗アレルゲン抗体(小麦グリアジンに対する抗体)を20μL固相化し、内部標準部54に、内部標準物質として、20μg/mLの抗ウサギIgGヤギ抗体を20μL固相化した。試料には、0ng/mLまたは2.5ng/mLの小麦標準液を用い、それぞれ、約40μLを2滴連続して適用した。標識抗体は、HRP標識抗アレルゲン抗体と0.016μg/mLのHRP標識ウサギIgG抗体を用い、約40μLを2滴連続して適用した。(2)(3)と同様にしてアッセイ装置に試料及び標識抗体を適用した。発色剤は、約40μLのTMBを3滴連続して適用した。検出部14及び内部標準部54について、吸光度解析を行って最小検出感度を検討した。検出限界を確認するために、2SD法を用いた。2SD法では、ある濃度の吸光度+2SDとそれよりも高い濃度の吸光度-2SDが重ならない場合、これらの濃度間に有意差があると判断することができる。
【0136】
検出部の吸光度、標準偏差(SD)、変動係数(CV)、平均値(Ave.)-2SD、Ave.+2SDを、小麦0ng/mLの試料については下記表22に、小麦2.5ng/mLの試料については下記表23に示す。
【0137】
【表22】
【表23】
【0138】
内部標準部の吸光度、標準偏差(SD)、変動係数(CV)を、小麦0ng/mLの試料については下記表24に、小麦2.5ng/mLの試料については下記表25に示す。
【0139】
【表24】
【表25】
【0140】
抗ウサギIgGヤギ抗体との対比の目的で、内部標準部54に、内部標準物質として、10μg/mLの抗マウスIgG抗体を20μL固相化した。標識抗体は、0.125μg/mLのHRP標識抗アレルゲン抗体(小麦グリアジンに対する抗体)を用いた。(3)と同様にしてアッセイ装置に試料及び標識抗体を適用し、検出部14及び内部標準部54について、吸光度解析を行って最小検出感度を検討した。
【0141】
検出部の吸光度、標準偏差(SD)、変動係数(CV)、平均値(Ave.)-2SD、Ave.+2SDを、小麦0ng/mLの試料については下記表26に、小麦2.5ng/mLの試料については下記表27に示す。
【0142】
【表26】
【表27】
【0143】
内部標準部の吸光度、標準偏差(SD)、変動係数(CV)を、小麦0ng/mLの試料については下記表28に、小麦2.5ng/mLの試料については下記表29に示す。
【0144】
【表28】
【表29】
【0145】
以上の結果より、抗ウサギIgGヤギ抗体を用いたアッセイでは、抗マウスIgG抗体を用いたアッセイと比較して、CVの値が小さくなることが確認された。この結果より、内部標準物質としては、検出対象物質と反応する抗マウスIgG抗体と比較して、検出対象物質と反応しない抗ウサギIgGヤギ抗体がより適していることがわかった。
【0146】
(8)HRP標識ウサギIgG抗体(0.016μg/mL)での標準曲線の作成
検出部が上流側に、内部標準部が下流側に位置するアッセイ装置を、(7)と同様にして製造した。検出部14に、検出抗体として、20.7μg/mLの抗アレルゲン抗体(小麦グリアジンに対する抗体)10μLを固相化し、内部標準部54に、内部標準物質として、20μg/mLの抗ウサギIgGヤギ抗体10μLを固相化した。試料には、0ng/mL、2.5ng/mL、12.5ng/mL、25ng/mL、及び50ng/mLの小麦標準液を用い、それぞれ、約40μLを2滴連続して適用した。標識抗体は、0.016μg/mLのHRP標識ウサギIgG抗体を用い、約40μLを2滴連続して適用した。(2)(3)と同様にしてアッセイ装置に試料及び標識抗体を適用した。発色剤は、約40μLのTMBを3滴連続して適用した。本実験は2回繰り返して行った。
【0147】
1回目の検出部のR輝度、標準偏差(SD)、変動係数(CV)、平均値(Ave.)-2SD、Ave.+2SDを、下記表30に、1日目の内部標準部のR輝度、標準偏差(SD)、変動係数(CV)を、下記表31に示す。
【0148】
【表30】
【0149】
【表31】
【0150】
表31から、小麦標準液濃度をX軸、R輝度をY軸として、以下の式で表される標準曲線を得ることができた。
Y=d+(a-d)/(1+(X/c)^b)
a=202.60686、b=2.27938、c=16.09755、d=94.87495、R=0.9965
【0151】
2回目も同様にして、小麦標準液を適用した検出部、内部標準部のR輝度、標準偏差(SD)、変動係数(CV)、平均値(Ave.)-2SD、Ave.+2SDを求めた(データは示さず)。その結果、1回目と同様の精度で標準曲線を得ることができた。
【0152】
(9)ポジティブコントロールを用いたマスター検量線の補正
アッセイ装置の流路のうちの2つにポジティブコントロールを適用し、マスター検量線の補正を行うアッセイを行った。本実施例で使用したアッセイ装置は、内部標準部が上流側に、検出部が下流側に位置する構成とし、(1)と同様にして製造した。検出部に、検出抗体として、20.7μg/mLの抗アレルゲン抗体(小麦グリアジンに対する抗体)を20μL固相化し、内部標準部に、内部標準物質として、20μg/mLの抗ウサギIgGヤギ抗体を20μL固相化した。試料には、0、2.5、12.5、25または50ng/mLの小麦標準液を用い、それぞれ、約40μLを1滴として2滴連続して適用した。標識抗体は、0.125μg/mLのHRP標識抗アレルゲン抗体と0.016μg/mLのHRP標識ウサギIgG抗体を用い、それぞれ、約40μLを1滴として2滴連続して適用した。(2)(3)と同様にしてアッセイ装置に試料及び標識抗体を適用した。発色剤は、約40μLのTMBを3滴連続して適用した。検量線作成用のアッセイ装置と、実サンプル測定用のアッセイ装置は、同じ構成とし、同日に作製した。また、小麦標準液、HRP標識抗アレルゲン抗体、HRP標識ウサギIgG抗体は、全て同日に調製して、同日に実験に使用した。
【0153】
まず、アッセイ装置に、0、2.5、12.5、25または50ng/mLの小麦標準液を適用して吸光度を測定し検量線を作成した。吸光度の測定結果は省略するが、検出部の検出限界は2SD法により有意差が確認された。吸光度の測定結果より、小麦濃度をX軸、吸光度×10をY軸として、以下の式で表される検量線が得られた。
Y=d+(a-d)/(1+(X/c)^b)
a=0.69037、b=1.68536、c=24.78798、d=4.74334、R=0.99981
【0154】
次に、アッセイ装置を用いて、食品抽出液の小麦濃度のアッセイを行った。アッセイ装置の5本の流路のうち、流路1には第1のポジティブコントロール(2.5ng/mLの小麦標準液)、流路2には第2のポジティブコントロール(25ng/mLの小麦標準液)を流した。流路3~5には、小麦濃度既知の食品抽出液を実サンプルとして流した。1つのアッセイ装置の流路3~5には、同じ濃度の実サンプルを流した。小麦濃度が0ng/mL、2.5ng/mL、25ng/mLの3種類の実サンプルについて、それぞれ別個のアッセイ装置に適用して、試験を行った。
【0155】
流路1~5の検出部の吸光度を測定し、先に得られたマスター検量線に基づいて乖離率を計算した。また、乖離率から乖離定数を計算し、乖離定数に基づいて補正吸光度を計算した。本実施例では、乖離率、補正吸光度は以下で定義される。乖離定数は、第1、第2のポジティブコントロールの測定結果により得られた乖離率の平均値とした。
乖離率=吸光度(ポジティブコントロール)/吸光度(検量線)
補正吸光度=実サンプル吸光度/乖離定数
本実験では、実サンプル吸光度は、流路3~5の吸光度の平均値とした。そして、補正吸光度と、マスター検量線から、補正された小麦濃度を計算した。
【0156】
小麦濃度が2.5ng/mLの実サンプルについての、測定、計算結果を下記表32に、小麦濃度が25ng/mLの実サンプルについての、測定、計算結果を下記表33に示す。本実験でも、吸光度は、「吸光度×10」の値で表示する。同じ実験を2回繰り返し、それぞれを、食品抽出液1、食品抽出液2とした。表中、回収率は、以下で定義される。
回収率=補正された小麦濃度/実サンプルにおける小麦濃度
【0157】
【表32】
【表33】
【0158】
(10)飽和検出
発色剤TMBの添加後、吸光度を経時的に測定することにより、目的物質の飽和検出ができることを確認した。検出部が上流側に、内部標準部が下流側に位置するアッセイ装置を、(1)と同様にして製造した。検出部14に、検出抗体として、20.7μg/mLの抗アレルゲン抗体(小麦グリアジンに対する抗体)10μLを固相化し、内部標準部54に、内部標準物質として、20μg/mLの抗ウサギIgGヤギ抗体10μLを固相化した。試料には、1/100,000倍から1/10倍の濃度の小麦試料を用い、標識抗体は、0.016μg/mLのHRP標識ウサギIgG抗体を用いた。ここでの倍率は、小麦の抽出原液に対する希釈倍率をいう。(2)(3)と同様にしてアッセイ装置に試料及び標識抗体を適用した。発色剤は、約40μLのTMBを3滴連続して適用した。発色剤の滴下完了の時点を0とし、1分毎のR輝度を測定した。小麦濃度1/10,000倍の場合の輝度の経時変化を下記表34に、小麦濃度1/1,000倍の場合の輝度の経時変化を下記表35に、小麦濃度1/100倍の場合の輝度の経時変化を下記表36に示す。
【0159】
【表34】
【0160】
【表35】
【0161】
【表36】
【0162】
小麦濃度1/10,000倍の試料測定結果から、流路1~5のいずれも、吸光度は反応開始後10分に至るまで単調に増加し、減少はみられなかった。小麦濃度1/1,000倍の試料測定結果から、流路1~5のいずれも、反応開始後に吸光度が増加した後、流路1、2では5分経過後に吸光度が減少し、流路3、5では6分経過後に吸光度が減少し、流路4では4分経過後に吸光度が減少したことが確認された。小麦濃度1/100倍の試料測定結果から、流路1~5のいずれも、反応開始後に吸光度が増加した後、流路1、3、5では3分経過後に吸光度が減少し、流路2、4では6分経過後に吸光度が減少したことが確認された。これらの結果から、小麦濃度1/10,000倍の試料では過飽和は生じず、小麦濃度1/1,000倍、1/100倍の試料では、過飽和が生じていることが確認できた。詳細なデータは示さないが、小麦濃度1/100,000倍の試料では過飽和は生じず、小麦濃度1/10倍の試料では、過飽和が生じていることが確認できた。これらの結果から、反応開始後1分から10分に至るまで単調に増加した場合は正常であり、途中2回連続で吸光度が減少した場合は過飽和であるという判別を行うことにより、小麦濃度1/10,000倍の試料では過飽和は生じず、小麦濃度1/1,000倍、1/100倍の試料では、過飽和が生じていることが確認できた。
【符号の説明】
【0163】
1…マイクロ流路、1a…一端部、1b…他端部、2…第1吸収用多孔質媒体、3…分離空間、4…収容空間、5…注入口、6…側方通気路、7…連結通気路、8…マイクロ流路壁、8a…頂部、8b…底部、9…分離空間壁、9a…頂部、9b…底部、10…ガイド壁、14…検出部、54…内部標準部、100…アッセイ部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7