(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-17
(45)【発行日】2024-10-25
(54)【発明の名称】気泡又は介在物もしくは双方の除去装置及び除去方法
(51)【国際特許分類】
B22D 11/11 20060101AFI20241018BHJP
B22D 11/04 20060101ALI20241018BHJP
B22D 1/00 20060101ALI20241018BHJP
B22D 27/02 20060101ALI20241018BHJP
B22D 27/20 20060101ALI20241018BHJP
【FI】
B22D11/11 D
B22D11/04 311J
B22D11/11 C
B22D11/11 B
B22D1/00 K
B22D27/02 U
B22D27/20 D
(21)【出願番号】P 2020150503
(22)【出願日】2020-09-08
【審査請求日】2023-07-19
(73)【特許権者】
【識別番号】504174135
【氏名又は名称】国立大学法人九州工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】100120086
【氏名又は名称】▲高▼津 一也
(74)【代理人】
【識別番号】100090697
【氏名又は名称】中前 富士男
(74)【代理人】
【識別番号】100176142
【氏名又は名称】清井 洋平
(74)【代理人】
【氏名又は名称】来田 義弘
(72)【発明者】
【氏名】河野 晴彦
【審査官】祢屋 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-010917(JP,A)
【文献】特開2017-213600(JP,A)
【文献】特開2021-137875(JP,A)
【文献】特開平04-274849(JP,A)
【文献】実開昭62-067649(JP,U)
【文献】特開2010-051985(JP,A)
【文献】特開2008-200732(JP,A)
【文献】特開平03-142049(JP,A)
【文献】特開2003-164947(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22D 11/00
B22D 1/00
B22D 27/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
収容体に入れられて流れが生じている導電性流体から気泡及び介在物の一方又は双方を取り除く除去装置であって、
前記収容体を間に挟んで鉛直方向に非平行な向きに間隔を空けて配された対となる印加部を有し、該対となる印加部の一方から他方に向けた直流磁場を発生させて、前記導電性流体中に該導電性流体の流れを抑制するブレーキ領域を設けるブレーキ発生手段が異なる高さに少なくとも2つ配置され、
各該ブレーキ発生手段について、前記ブレーキ領域を設けるオン状態と該ブレーキ領域を設けないオフ状態とを切り替える制御手段が設けられ
、
前記制御手段は、前記導電性流体の前記収容体への供給によって該収容体内の前記導電性流体に流れが生じている状態で、前記各ブレーキ発生手段の前記オン状態と前記オフ状態の切り替えを繰り返し行うことを特徴とする気泡又は介在物もしくは双方の除去装置。
【請求項2】
請求項1記載の気泡又は介在物もしくは双方の除去装置において、
前記制御手段は、少なくとも一つの前記ブレーキ発生手段
が前記オン状態で、残りの前記ブレーキ発生手段が前記オフ状態となる制御を、前記オン状態にする前記ブレーキ発生手段を変えて繰り返し行うことを特徴とする気泡又は介在物もしくは双方の除去装置。
【請求項3】
請求項1又は2記載の気泡又は介在物もしくは双方の除去装置において、前記
ブレーキ発生手段は、2つあって、
前記制御手段は、一方の前記ブレーキ発生手段を前記オン状態とし、他方の前記ブレーキ発生手段を前記オフ状態とした状態と、前記一方のブレーキ発生手段を前記オフ状態とし、前記他方のブレーキ発生手段を前記オン状態とした状態とを交互に繰り返すことを特徴とする気泡又は介在物もしくは双方の除去装置。
【請求項4】
請求項1又は2記載の気泡又は介在物もしくは双方の除去装置において、前記ブレーキ発生手段は、3つあって、
前記制御手段は、最も低い位置に配された前記ブレーキ発生手段を前記オン状態にし、他の2つの前記ブレーキ発生手段を前記オフ状態にした後、真ん中の前記ブレーキ発生手段を前記オン状態にし、他の2つの前記ブレーキ発生手段を前記オフ状態にし、次に、最も高い位置に配された前記ブレーキ発生手段を前記オン状態にし、他の2つの前記ブレーキ発生手段を前記オフ状態にする処理を繰り返すことを特徴とする気泡又は介在物もしくは双方の除去装置。
【請求項5】
収容体に入れられて流れが生じている導電性流体から気泡及び介在物の一方又は双方を取り除く除去方法であって、
前記収容体を間に挟んで鉛直方向に非平行な向きに間隔を空けて配された対となる印加部を有し、該対となる印加部の一方から他方に向けた直流磁場を発生させて、前記導電性流体中に該導電性流体の流れを抑制するブレーキ領域を設けるブレーキ発生手段を、異なる高さに少なくとも2つ配置し、
前記導電性流体の前記収容体への供給によって該収容体内の前記導電性流体に流れが生じている状態で、各前記ブレーキ発生手段について、前記ブレーキ領域を設けるオン状態と該ブレーキ領域を設けないオフ状態とを
繰り返し切り替えることを特徴とする気泡又は介在物もしくは双方の除去方法。
【請求項6】
請求
項5記載の気泡又は介在物もしくは双方の除去方法において、
少なくとも一つの前記ブレーキ発生手段が前記オン状態で、残りの前記ブレーキ発生手段が前記オフ状態となる制御を、前記オン状態にする前記ブレーキ発生手段を変えて繰り返し行うことを特徴とする気泡又は介在物もしくは双方の除去方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性流体から気泡及び/又は介在物を取り除く除去装置及び除去方法に関する。
【背景技術】
【0002】
溶鋼から鋳片を生産する技術において、各メーカーは生産性の向上及び品質レベルの向上にしのぎを削っている。一般的に生産性の向上と品質レベルの向上はトレードオフの関係にあり、その2つを同時に達成することは容易ではない。
連続鋳造工程では、鋳型に注がれた溶鋼が温度の低下によって凝固し始めるため、高品質な製品を生産する点においては、鋳型内の溶鋼の流れを制御することが重要である。
【0003】
溶鋼の流れの制御には電磁ブレーキを利用することができ、その具体例が、特許文献1~6に記載されている。
例えば、特許文献1には、直流磁場印加装置を設けて鋳型内の溶鋼に電磁ブレーキを生じさせ、鋳型の下方に交流移動磁場装置を設けて鋳型内に溶鋼の上昇流を生じさせる技術が記載されている。
【0004】
また、溶鋼の制御についての解析結果が非特許文献1、2に開示されている。非特許文献1には、鋳型内の溶鋼の下降流に対して静磁場を作用させることにより流れが抑制される効果をシミュレーションによって評価した結果が記載されている。そして、非特許文献2には、浸漬ノズルから注入される溶鋼の流れ及び電磁攪拌流を考慮したメニスカスの流動制御についてのシミュレーション結果が報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2011-212723号公報
【文献】特開2000-273581号公報
【文献】特開2001-47195号公報
【文献】特開2002-45955号公報
【文献】特開2002-239691号公報
【文献】特開平8-224643号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】森下雅史、外3名、「スラブ幅方向に静磁場を印加した連続鋳造機内の溶鋼流動挙動に関する基礎検討」、鉄と鋼 Vol.87(2001)No.4、p167-174
【文献】中島潤二、外1名、「連続鋳造鋳片品質向上のための非金属介在物低減技術の開発」、新日鉄技報 第394号(2012)、p42-47
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、溶鋼の流れを計算する従来のシミュレーションは、その大半が溶鋼を単一の流体と見なして行ったものであり、溶鋼に含まれる気泡や介在物の除去に資する研究例は極めて少ない。気泡や介在物については、浮力による上昇により溶鋼の自由表面から除去されることから、溶鋼の下降を抑制する電磁ブレーキによって、効果的に溶鋼から除去されているものと考えられていた。
【0008】
しかしながら、本発明者らによる検証により、直流磁場を利用した電磁ブレーキを用いることで、溶鋼の流れと共に気泡及び介在物の上昇が著しく抑制され、その上昇の抑制は、密度が同じであれば、気泡又は介在物が微細であるほど顕著となることが明らかになった。従って、微細な気泡や介在物を含んだ状態で溶鋼が固化するという課題が存在する。
そして、近年求められているスループットの増加により、溶鋼の下降速度は速まる傾向がある。従って、溶鋼の下降の速さに対する気泡及び介在物の上昇の速さの相対値は低下していることとなり、上記課題はより顕在化するものと考えられる。
【0009】
また、上記課題は、溶鋼に限ったものではなく、導電性流体全般に共通するものである。
本発明は、かかる事情に鑑みてなされるもので、電磁ブレーキを作用させた導電性流体から気泡及び介在物の一方又は双方を安定的に取り除く除去装置及び除去方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記目的に沿う第1の発明に係る気泡又は介在物もしくは双方の除去装置は、収容体に入れられて流れが生じている導電性流体から気泡及び介在物の一方又は双方を取り除く除去装置であって、前記収容体を間に挟んで鉛直方向に非平行な向きに間隔を空けて配された対となる印加部を有し、該対となる印加部の一方から他方に向けた直流磁場を発生させて、前記導電性流体中に該導電性流体の流れを抑制するブレーキ領域を設けるブレーキ発生手段が異なる高さに少なくとも2つ配置され、各該ブレーキ発生手段について、前記ブレーキ領域を設けるオン状態と該ブレーキ領域を設けないオフ状態とを切り替える制御手段が設けられ、前記制御手段は、前記導電性流体の前記収容体への供給によって該収容体内の前記導電性流体に流れが生じている状態で、前記各ブレーキ発生手段の前記オン状態と前記オフ状態の切り替えを繰り返し行う。ここで、収容体とは導電性流体が内側に入れられているものであり、収容体には底が有るタイプ及び底が無いタイプが存在し、これは以下の発明においても同様である。また、「介在物」とは、導電性流体より単位体積当たりの質量(以下、「密度」とも言う)が小さい介在物、即ち、導電性流体中で浮力により上昇する介在物を意味し、これは以下の発明においても同様である。なお、以下、単に「介在物」と記載する際には、導電性流体より密度が小さい介在物を意味するものとする。
【0011】
前記目的に沿う第2の発明に係る気泡又は介在物もしくは双方の除去方法は、収容体に入れられて流れが生じている導電性流体から気泡及び介在物の一方又は双方を取り除く除去方法であって、前記収容体を間に挟んで鉛直方向に非平行な向きに間隔を空けて配された対となる印加部を有し、該対となる印加部の一方から他方に向けた直流磁場を発生させて、前記導電性流体中に該導電性流体の流れを抑制するブレーキ領域を設けるブレーキ発生手段を、異なる高さに少なくとも2つ配置し、前記導電性流体の前記収容体への供給によって該収容体内の前記導電性流体に流れが生じている状態で、各前記ブレーキ発生手段について、前記ブレーキ領域を設けるオン状態と該ブレーキ領域を設けないオフ状態とを繰り返し切り替える。
【0012】
本発明者は、電磁場下における導電性流体の流れと気泡の相互作用を計算可能な数値解析コード(数値解析実行ファイル)を開発し(以下、当該数値解析コードを、単に「解析コード」とも言う)、解析コードを用いて、導電性流体中の気泡の動きを解析した。解析コードによる解析スキームは、流れ場及び電磁場の式の離散化に有限要素法を適用し、変形する自由表面の形状をレベルセット法を用いて計算するものである。本解析スキームで用いた流れ場及び電磁場の支配方程式を以下に示す。
【0013】
【0014】
【0015】
【0016】
【0017】
【0018】
上記の式1及び式2はそれぞれ非圧縮性流体の運動方程式及び非圧縮性流体の連続の式であり、式3は電荷保存則を示し、式4はオームの法則を示す。式5はレベルセット関数Fの移流方程式であり、気液界面(自由表面)の運動学的条件を表す。なお、式1~式5において、物理量には無次元化を適用し、v、p、Ψ、J、Bはそれぞれ、速度、圧力、電位、電流密度及び磁束密度であり、無次元数G、Γ、Haはそれぞれ、ガリレイ数、表面張力数及びハルトマン数である。そして、ρH、μH、σHは、位置に依存する値で、それぞれ密度、粘性係数及び電気伝導率の比を表わし、ezはz軸の正方向の基本ベクトルを意味し、nは気相から液相へ向かう界面上の外向き単位法線ベクトルを意味し、κはnの界面上における発散値を意味し、δεは近似デルタ関数を意味する。また、式1のHa2J×Bの直前のμに類似の文字は気体の粘性係数に対する流体の粘性係数の割合を意味する。なお、式1はレイノルズ数を1として導出されたものである。
【0019】
また、解析コードによって解析する解析モデルMは、
図1に示すように、気泡Pを含む導電性流体Qからなり、気泡Pの初期形状を球形とし、気泡Pの代表長さLを気泡Pの直径と定める。解析モデルMは5L×5L×10Lの寸法を有し、等分割直交格子により形成されているものとし、直流磁場は水平方向(y方向)に印加されているとする。
解析コードによる解析によって、ハルトマン数(Ha)が0、25、50である3つの解析モデルMを対象に、所定時間経過した際の気泡Pの高さ位置及び気泡Pの形状を求めた結果を
図2に示す。
【0020】
図2に示す結果より、ハルトマン数の増加に伴い、気泡Pの上昇が遅くなり、気泡Pが球形に近づくことが分かる。気泡Pの上昇がハルトマン数の増加に伴い遅くなるのは、導電性流体Qの流れを抑制する電磁ブレーキ(v×B×B)が、気泡Pの浮力による上向きの流れ場と逆向き(下向き)に作用すること、並びに、電磁ブレーキによる導電性流体Qの流れの抑制度がHa
2の大きさに応じて大きくなること(式1参照)に起因する。そして、気泡Pがハルトマン数の増加に伴い球形に近くなるのは、気泡Pの上昇の抑制によって、気泡Pに作用する表面張力の影響が大きくなることが要因である。
【0021】
そして、一様な磁場において、大きさの異なる2つの気泡P1、P2(気泡P1、P2の半径rはそれぞれ0.5L、0.25L)が導電性流体Q内で上昇する様子を解析コードでシミュレーションした結果(2つの気泡P1、P2の重心位置の時間的変化)を
図3に示す。
図3に示す結果より、気泡P1は気泡P2に比べ速く上昇することが確認できる。気泡P1、P2は、大きいほど大きい浮力が作用して、速く上昇することが分かる。このため、導電性流体Qの自由表面に到達するまでに要する時間は、小さい気泡P2が大きい気泡P1に比べて長くなる。
【0022】
図2、
図3に示す結果より、直流磁場の印加によって導電性流体の流れを制御する場合、導電性流体中で直流磁場により流れが抑制される領域(以下、「ブレーキ領域」とも言う)においては、ブレーキ領域に位置する気泡の上昇が大きく抑制され、特に、微細な気泡はブレーキ領域内に留まる時間が長くなることが確認できた。なお、これは介在物についても同様であり、密度が同じ介在物であれば、小さいものが大きいものに比べ、ブレーキ領域内に留まる時間が長くなる。
以上の結果を踏まえ、上述した第1の発明に係る気泡又は介在物もしくは双方の除去装置及び第2の発明に係る気泡又は介在物もしくは双方の除去方法によって、直流磁場による電磁ブレーキの効果を維持しつつ気泡及び介在物を安定的に除去できることを、
図4に示す気泡・介在物除去装置10を例に説明する。
【0023】
気泡・介在物除去装置10を用いて気泡P’が取り除かれる導電性流体Q’は、
図4に示すように、複数の気泡P’を含んで、収容体11に入れられている。
気泡・介在物除去装置10は、収容体11の近傍の異なる高さに配置されたブレーキ発生手段12、13と、ブレーキ発生手段12、13の動作を制御する図示しない制御手段とを備えている。本例においては、ブレーキ発生手段12がブレーキ発生手段13より低い位置に配されている。
【0024】
ブレーキ発生手段12は収容体11を間に挟んで間隔を空けて配された対となるコイル(印加部の一例)14、15を有し、ブレーキ発生手段13は収容体11を間に挟んで間隔を空けて配された対となるコイル(印加部の一例)16、17を有する。制御手段はブレーキ発生手段12、13に印加可能であり、ブレーキ発生手段12は、制御手段により印加されてコイル14からコイル15に向けた直流磁場Sを発生させて、導電性流体Q’中に導電性流体Q’の流れを抑制するブレーキ領域を設ける。
【0025】
ブレーキ発生手段13も、
図5(A)に示すように、制御手段により印加されてコイル16からコイル17に向けた直流磁場Sを発生させて、導電性流体Q’中に導電性流体Q’の流れを抑制するブレーキ領域を設ける。ここで、ブレーキ領域とは、導電性流体Q’において、直流磁場Sが生じている領域である。なお、本例において、コイル14、15は同一高さに配置され水平方向の直流磁場Sを発生させ、コイル16、17は同一高さに配置され水平方向の直流磁場Sを発生させる。
【0026】
図4に示すように、ブレーキ発生手段13がブレーキ領域を設けておらず、ブレーキ発生手段12がブレーキ領域を設けている状態で、コイル14、15が設けられた高さ位置、即ち、ブレーキ発生手段12によって設けられたブレーキ領域に在る気泡P’は、浮力による上昇が抑制されている。以下、ブレーキ発生手段12、13が、ブレーキ領域を設けている状態(直流磁場Sを生じさせている状態)をオン状態と言い、ブレーキ領域を設けていない状態(直流磁場Sを生じさせていない状態)をオフ状態と言う。
【0027】
ブレーキ発生手段12、13がそれぞれオン状態及びオフ状態である状況から、
図5(A)に示すように、ブレーキ発生手段12、13がそれぞれオフ状態及びオン状態に切り替えられることによって、コイル14、15が設けられた高さ位置で上昇が抑制されていた気泡P’は上昇の抑制が解除され浮力により上昇する。上昇した気泡P’は、
図5(B)に示すように、コイル16、17が配された高さ位置まで上昇し、コイル16、17の配置高さで、ブレーキ発生手段13により設けられたブレーキ領域によって上昇速度が低下する。
【0028】
そして、ブレーキ発生手段12、13がそれぞれ、
図5(C)に示すように、オン状態及びオフ状態に切り替えられると、コイル16、17の配置高さに在った気泡P’は、上昇の抑制が解除されて上昇する。このように、ブレーキ発生手段12、13は一方がオン状態、他方がオフ状態となるように、それぞれオン状態及びオフ状態が切り替えられる。
その結果、気泡・介在物除去装置10は、気泡P’をブレーキ領域で留める時間を低減して、導電性流体Q’から気泡P’を安定的に取り除くことが可能である。
【0029】
また、気泡・介在物除去装置10において、収容体11内の導電性流体Q’中に介在物が存在している場合、気泡・介在物除去装置10は、ブレーキ発生手段12、13のオン状態及びオフ状態の切り替えによって、介在物をブレーキ領域で留めた時間を短縮し、介在物を導電性流体Q’の表面まで効率的に浮上させることができる。導電性流体Q’の表面に浮上した介在物は容易に取り除くことができるため、気泡・介在物除去装置10は、導電性流体から介在物を安定的に取り除くことを可能とする。
【発明の効果】
【0030】
第1の発明に係る気泡又は介在物もしくは双方の除去装置及び第2の発明に係る気泡又は介在物もしくは双方の除去方法は、ブレーキ発生手段が異なる高さに少なくとも2つ配置され、各ブレーキ発生手段について、オン状態とオフ状態とを切り替えるので、電磁ブレーキを作用させた導電性流体から気泡及び介在物の一方又は双方を安定的に取り除くことが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】気泡の移動が解析される解析モデルの説明図である。
【
図2】ハルトマン数が異なる同解析モデルの解析結果を示す説明図である。
【
図3】大きさが異なる気泡の上昇のシミュレーション結果を示す説明図である。
【
図4】本発明の気泡又は介在物もしくは双方の除去装置を示す説明図である。
【
図5】(A)~(C)は、同除去装置によって気泡を上昇させる様子を示す説明図である。
【
図6】本発明の一実施の形態に係る気泡又は介在物もしくは双方の除去装置が用いられる連続鋳造設備の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
続いて、添付した図面を参照しつつ、本発明を具体化した実施の形態につき説明し、本発明の理解に供する。
図6、
図7に示すように、本発明の一実施の形態に係る気泡又は介在物もしくは双方の除去装置(以下、「気泡・介在物除去装置30」という)は、連続鋳造設備31に設けられた鋳型(収容体の一例)32を間に挟んで水平方向(鉛直方向に非平行な向きの一例)に間隔を空けて配された対となるコイル(印加部)14、15を有するブレーキ発生手段12と、鋳型32を間に挟んで水平方向に間隔を空けて配された対となるコイル(印加部)16、17を有するブレーキ発生手段13と、ブレーキ発生手段12、13を制御する制御手段33とを備えている。コイル14、15、16、17は図示しない支持部材に固定されている。
【0033】
なお、気泡・介在物除去装置30において、気泡・介在物除去装置10と同様の構成については、同じ符号を付して詳細な説明は省略する。
連続鋳造設備31は、溶鋼Q’’(導電性流体の一例)の流れに沿って鋳型32の上流側に設けられた取鍋34及びタンディッシュ35と、鋳型32から送り出された凝固する工程を経た溶鋼Q’’を所定の経路に沿って搬送する複数のロール36を備えている。
【0034】
鋳型32には、タンディッシュ35から浸漬ノズル37を介して溶鋼Q’’が供給され、鋳型32内の溶鋼Q’’に流れを生じさせている。浸漬ノズル37は、溶鋼Q’’と共に不活性ガスを鋳型32内に注入するため、鋳型32内の溶鋼Q’’は、気泡P’’を含んだ状態にある。溶鋼Q’’内には、溶鋼Q’’中で浮力により上昇する介在物(例えば、スラグ、Al2O3、SiO2)Tが存在している。
【0035】
ブレーキ発生手段12は、同一高さ位置に配されたコイル14、15が、印加されてコイル14からコイル15に向けた水平方向の直流磁場Sを発生させ、溶鋼Q’’中にブレーキ領域を設けて、鋳型32内の溶鋼Q’’の流れを抑制する。ブレーキ発生手段12より高い位置に配されたブレーキ発生手段13は、同一高さに配されたコイル16、17が、印加されてコイル16からコイル17に向けた水平方向の直流磁場Sを発生させ、溶鋼Q’’中にブレーキ領域を設けて、鋳型32内の溶鋼Q’’の流れを抑制する。
従って、本実施の形態では、溶鋼Q’’中に溶鋼Q’’の流れを抑制するブレーキ領域を設けるブレーキ発生手段12、13が異なる高さに2つ配置されていることとなる。
【0036】
コイル14、15(即ち、ブレーキ発生手段12)及びコイル16、17(即ち、ブレーキ発生手段13)は、
図7に示すように、制御手段33に接続されている。制御手段33は、例えば電気回路によって構成でき、ブレーキ発生手段12、13それぞれに電圧を印加すること、及び、印加する電圧の大きさを調整することができる。ブレーキ発生手段12、13はそれぞれ、制御手段33に印加されて溶鋼Q’’中にブレーキ領域を設けるオン状態となり、制御手段33から印加されないことにより溶鋼Q’’中にブレーキ領域を設けないオフ状態となる。よって、制御手段33は、ブレーキ発生手段12、13についてオン状態とオフ状態とを切り替えることとなる。
【0037】
制御手段33は、ブレーキ発生手段12、13をそれぞれオン状態及びオフ状態として、鋳型32のコイル14、15の高さ位置にブレーキ領域を設けた状態と、ブレーキ発生手段12、13をそれぞれオフ状態及びオン状態として、鋳型32のコイル16、17の高さ位置にブレーキ領域を設けた状態とを交互に繰り返す。これによって、溶鋼Q’’中の気泡P’’及び介在物Tを溶鋼Q’’の表面まで効率的に浮上させ、気泡P’’及び介在物Tを溶鋼Q’’から安定的に取り除けるようにする。
ここで、気泡・介在物除去装置30は、実質的に介在物が無い溶鋼に対しては、溶鋼から気泡のみを取り除き、実質的に気泡が無い溶鋼に対しては、溶鋼から介在物のみを取り除く。
【0038】
また、気泡・介在物除去装置30を用いて溶鋼Q’’から気泡P’’ 及び介在物Tの一方もしくは双方を取り除く除去方法は以下に記すものとなる。即ち、当該除去方法は、鋳型32を間に挟んで鉛直方向に非平行な向き(例えば、水平方向)に間隔を空けて配された対となるコイル14、15を有し、対となるコイル14、15の一方から他方に向けた直流磁場Sを発生させて溶鋼Q’’中にブレーキ領域を設けるブレーキ発生手段12と、鋳型32を間に挟んで鉛直方向に非平行な向き(例えば、水平方向)に間隔を空けて配された対となるコイル16、17を有し、対となるコイル16、17の一方から他方に向けた直流磁場Sを発生させて溶鋼Q’’中にブレーキ領域を設けるブレーキ発生手段13とを異なる高さに配置し、各ブレーキ発生手段12、13について、オン状態とオフ状態とを切り替える。
【0039】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、本発明は、上記した形態に限定されるものでなく、要旨を逸脱しない条件の変更等は全て本発明の適用範囲である。
例えば、異なる高さに配置されたブレーキ発生手段を3つ以上設けてもよい。3つのブレーキ発生手段を設ける場合、例えば、最も低い位置に配されたブレーキ発生手段のみをオン状態とした後に、真ん中のブレーキ発生手段のみをオン状態とし、その後、最も高い位置に配されたブレーキ発生手段のみをオン状態とする処理を繰り返すことで、導電性流体中の気泡及び介在物を安定的に取り除くことができる。
【0040】
また、直流磁場は、鉛直方向のものでなければ、水平方向のものである必要はなく、例えば、水平方向に対して傾斜した方向のものであってもよい。
そして、気泡又は介在物もしくは双方の除去装置は、連続鋳造設備以外の設備に設けてもよい。連続鋳造設備以外で当該除去装置を設けることができる例として、チョクラルスキー法によってシリコンの単結晶インゴットを製造する設備が挙げられる。当該設備においては、導電性流体にシリコン融液が採用され、収容体としてシリコン融液を収容する坩堝が採用される。
【符号の説明】
【0041】
10:気泡・介在物除去装置、11:収容体、12、13:ブレーキ発生手段、14、15、16、17:コイル、30:気泡・介在物除去装置、31:連続鋳造設備、32:鋳型、33:制御手段、34:取鍋、35:タンディッシュ、36:ロール、37:浸漬ノズル、M:解析モデル、P、P1、P2、P’、P’’:気泡、Q、Q’:導電性流体、Q’’:溶鋼、S:直流磁場、T:介在物