(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-17
(45)【発行日】2024-10-25
(54)【発明の名称】酸素発生(OER)電極触媒用材料およびその利用
(51)【国際特許分類】
C01G 51/00 20060101AFI20241018BHJP
B01J 23/75 20060101ALI20241018BHJP
B01J 23/755 20060101ALI20241018BHJP
B01J 37/34 20060101ALI20241018BHJP
C01G 49/00 20060101ALI20241018BHJP
C01G 51/04 20060101ALI20241018BHJP
C01G 53/00 20060101ALI20241018BHJP
C25B 9/00 20210101ALI20241018BHJP
C25B 11/052 20210101ALI20241018BHJP
C25B 11/054 20210101ALI20241018BHJP
C25B 11/077 20210101ALI20241018BHJP
H01M 4/88 20060101ALI20241018BHJP
H01M 4/90 20060101ALI20241018BHJP
H01M 12/08 20060101ALI20241018BHJP
【FI】
C01G51/00 A
B01J23/75 M
B01J23/755 M
B01J37/34
C01G49/00 A
C01G51/00 B
C01G51/04
C01G53/00 A
C25B9/00 A
C25B11/052
C25B11/054
C25B11/077
H01M4/88 K
H01M4/90 X
H01M12/08 K
(21)【出願番号】P 2020555609
(86)(22)【出願日】2019-11-08
(86)【国際出願番号】 JP2019043779
(87)【国際公開番号】W WO2020096022
(87)【国際公開日】2020-05-14
【審査請求日】2022-10-25
(31)【優先権主張番号】P 2018210890
(32)【優先日】2018-11-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成28年度 国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「革新型蓄電池実用化促進基盤技術開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受けるもの
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】504173471
【氏名又は名称】国立大学法人北海道大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】青木 芳尚
(72)【発明者】
【氏名】コヴァルスキー ダミアン
(72)【発明者】
【氏名】幅▲ざき▼ 浩樹
【審査官】宮脇 直也
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/093441(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/115592(WO,A1)
【文献】特開2018-165396(JP,A)
【文献】SINGHAL, A. et al.,Enhanced oxygen evolution activity of Co3-xNix04 compared to Co304 by low Ni doping,JOURNAL OF ELECTROANALYTICAL CHEMISTRY,823,NL,Elsevier,2018年06月30日,482 - 491,10.1016/j.jelechem.2018.06.051
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 23/78
C01G 51/00-51/12
53/00-53/12
C25B 9/00- 9/77
H01M 4/86- 4/98
12/08
JSTPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
γ-CoOOH型の原子配列構造と同一又は類似する原子配列構造を有し、かつ酸素欠陥を有するCo酸化物ナノクラスターであって、ナノクラスター中のCoの一部がFe及び/又はNiで置換されていてもよい、Co酸化物材料
(但し、
下記A群から選ばれる1種又は2種以上の元素、B群から選ばれる1種又は2種以上の元素及びコバルトを含む非晶質の酸素非欠損型又は酸素欠損型の遷移金属酸化物であり、
但し、A群は、Ca、Sr、Ba及び希土類元素(RE)からなり、
B群は、Co以外の3d遷移元素からなり、
かつ高分解能透過電子顕微鏡観察において粒径が0.1~10nmの範囲のクラスター構造が見られる酸化物であって、前記クラスター構造部はγ-CoOOH型の元素配列構造又はこれに類似する元素配列構造を有する、遷移金属酸化物である場合を除く)。
【請求項2】
前記Co酸化物ナノクラスターは、粒子径が10nm以下である、請求項
1に記載の材料。
【請求項3】
CoO
6八面体が陵共有により二次元的に連結して形成する[CoO
x]平面単分子層に、電荷補償のためのプロトンが配位した[CoO
xH
y]平面単分子層がn層積層してできる[CoO
xH
y]
n分子層シート状物質のナノクラスターを含有するCo酸化物材料であって、xは1.5~2.0の範囲であり、yは0.01~1の範囲であり、nは平面単分子層の分子層平面に垂直な方向(c軸方向)への積層数であり、1~25の範囲であり、[CoO
xH
y]平面単分子層中のCoの一部がFe及び/又はNiで置換されていてもよい、またCoO
6八面体の酸素の一部が欠損していても良い前記材料(但し、
下記A群から選ばれる1種又は2種以上の元素、B群から選ばれる1種又は2種以上の元素及びコバルトを含む非晶質の酸素非欠損型又は酸素欠損型の遷移金属酸化物であり、
但し、A群は、Ca、Sr、Ba及び希土類元素(RE)からなり、
B群は、Co以外の3d遷移元素からなり、
かつ高分解能透過電子顕微鏡観察において粒径が0.1~10nmの範囲のクラスター構造が見られる酸化物であって、前記クラスター構造部はγ-CoOOH型の元素配列構造又はこれに類似する元素配列構造を有する、遷移金属酸化物である場合を除く)。
【請求項4】
前記[CoO
xH
y]平面単分子層の一辺が10nm以下である、請求項
3に記載の材料。
【請求項5】
TEM像において観察されるナノクラスターの最大外径は0.3~10nmの範囲である、請求項1~
4のいずれかに記載の材料。
【請求項6】
ナノクラスター中のCoの一部がFe及び/又はNiで置換されている、請求項1~
5のいずれかに記載の材料。
【請求項7】
CoのFe及び/又はNiへの置換量は、オージェ分光スペクトル解析により得られるCo:Fe及び/又はNi原子比、又はICP分析による元素分析により得られるCo:Fe原子比が100:0.1~10の範囲である請求項
6に記載の材料。
【請求項8】
OER触媒用である請求項1~
7のいずれかに記載の材料。
【請求項9】
Fe塩及び/又はNi塩並びにCo塩を含有する水溶液にアルカリを添加して、Fe及び/又はNi並びにCoを含有する水酸化物を沈澱させ、沈殿物を回収する工程、前記Fe及び/又はNi並びにCoを含有する水酸化物の沈殿物を酸素含有雰囲気中で焼成して、Fe及び/又はNi並びにCoを含有するオキシ水酸化物を得ることを含む請求項1~7のいずれかに記載の材料の製造方法。
【請求項10】
前記Fe塩、Ni塩及びCo塩は、それぞれ硝酸塩であり、前記アルカリは、アルカリ金属水酸化物である請求項
9に記載の製造方法。
【請求項11】
請求項1~
7のいずれかに記載の材料を含む空気極用触媒。
【請求項12】
請求項1~
7のいずれかに記載の材料を含む水電解陽極用触媒。
【請求項13】
請求項
11又は12に記載の触媒を含む金属空気二次電池用空気極。
【請求項14】
前記材料は酸素発生用触媒として含有され、酸素還元用触媒をさらに含む請求項
13に記載の空気極。
【請求項15】
請求項
13又は14に記載の空気極と、負極活物質を含有する負極と、前記空気極と前記負極との間に介在する電解質とを有する金属空気二次電池。
【請求項16】
酸素還元用触媒を含む酸素還元用空気極をさらに含む請求項
15に記載の金属空気二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸素発生(OER)電極触媒用材料およびその利用に関する。
関連出願の相互参照
本出願は、2018年11月8日出願の日本特願2018-210890号の優先権を主張し、その全記載は、ここに特に開示として援用される。
【背景技術】
【0002】
酸素発生(OER)電極触媒は、アルカリ電解クリーン水素生成のアノード、および金属空気電池の空気極として重要である。これまでに、様々な結晶性Co系酸化物が酸素発生電極触媒として検討されてきており(非特許文献1-3)、またその表面活性種の同定も進んでいる。最近では高酸化活性触媒として知られるBa0.5Sr0.5Co0.4Fe0.6O3がアルカリ溶液中酸素発生電位以上になるとアモルファス化し、これが活性種となることが報告されている(非特許文献4)。また更に最近では非晶質Fe1-xCoxOy固溶体が,高い酸素発生電極触媒活性を示すことが報告されている(非特許文献5)。
【0003】
さらに、これまで酸素発生触媒として注目されてこなかったブラウンミラーライト型遷移金属酸化物A2B2O5を用いることによりOER反応に対してPt触媒に匹敵する活性を示し、中でも2種類の遷移金属を含むものを用いることにより、貴金属触媒を凌ぐ活性を示すことが報告されている(特許文献1)。
【0004】
また、新たな構造を有するOER触媒の例として、CoOOHナノシート構造を有する材料が報告されている(非特許文献6)。この材料は、α-Co(OH)2シートをClアニオン及び水の存在下で超音波処理することで、層の剥離を行い次いで、NaClOを用いて酸化処理することで調製され、Fig.1bのTEM像及び1cのAFMM像によれば、200~300nmの粒子サイズを有する。さらに、Fig.1dのXRDの結果によれば、結晶性を有する。
【0005】
特許文献1:WO2015/115592
【0006】
非特許文献1:T. Maiyalagan, et al., Nature Commun., 5, 3949 (2014).
非特許文献2:A. Grimoud et al, Nature Chem., 9, 457 (2017).
非特許文献3:Y. Matsumoto et al, J. Electrochem. Soc., 127, 811 (1980).
非特許文献4:K. J. May et al, J. Phys. Chem. Lett., 3, 3264 (2012).
非特許文献5:L. Wei et al., Adv. Mater., 10.1002/adma.201701410
非特許文献6:J.Huang, et al., Angewandte_Chemie_International_Edition 2015, 54, 8722-8727
特許文献1及び非特許文献1~6の全記載は、ここに特に開示として援用される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載されている2種類の遷移金属を含むブラウンミラーライト型遷移金属酸化物A2B2O5は、貴金属触媒を凌ぐOER活性を示すものである。しかし、実用に供することを鑑みれば、OER活性がより高く、かつ長期間安定した活性を示す触媒の開発が必要とされている。また、非特許文献3に記載の材料は製造方法が複雑であり、OER活性も高くないことからさらに改善の余地がある。
【0008】
そこで本発明の目的は、OER活性がより高い新たな遷移金属酸化物触媒を開発し、さらにこの触媒を用いた空気極用触媒や水電解陽極用触媒、空気極及び空気二次電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は以下の通りである。
[1]
γ-CoOOH型の原子配列構造と同一又は類似する原子配列構造を有し、かつ酸素欠陥を有するCo酸化物ナノクラスターであって、ナノクラスター中のCoの一部がFe及び/又はNiで置換されていてもよい、Co酸化物材料。
[2]
前記Co酸化物ナノクラスターは、粒子径が10nm以下である、[1]に記載の材料。
[3]
CoO6八面体が陵共有により二次元的に連結して形成する[CoOx]平面単分子層に、電荷補償のためのプロトンが配位した[CoOxHy]平面単分子層がn層積層してできる[CoOxHy]n分子層シート状物質のナノクラスターを含有するCo酸化物材料であって、xは1.5~2.0の範囲であり、yは0.01~1の範囲であり、nは平面単分子層の分子層平面に垂直な方向(c軸方向)への積層数であり、1~25の範囲であり、[CoOxHy]平面単分子層中のCoの一部がFe及び/又はNiで置換されていてもよい、またCoO6八面体の酸素の一部が欠損していても良い前記材料。
[4]
前記[CoOxHy]平面単分子層の一辺が10nm以下である、[3]に記載の材料。
[5]
TEM像において観察されるナノクラスターの最大外径は0.3~10nmの範囲である、[1]~[4]のいずれかに記載の材料。
[6]
ナノクラスター中のCoの一部がFe及び/又はNiで置換されている、[1]~[5]のいずれかに記載の材料。
[7]
CoのFe及び/又はNiへの置換量は、オージェ分光スペクトル解析により得られるCo:Fe原子比又はICP分析による元素分析により得られるCo:Fe原子比が100:0.1~10の範囲である[6]に記載の材料。
[8]
OER触媒用である[1]~[7]のいずれかに記載の材料。
[9]
Ca2CoFeO5及び/又はCa2CoNiO5を含有する原料をアノード分極下に置くか、又はアルカリ水溶液に浸漬することを含む、[1]~[7]のいずれかに記載の材料の製造方法。
[10]
アノード分極は、RHEに対して1.5~2.0Vの範囲の電圧になる電流密度で行い、アルカリ水溶液への浸漬は、1M以上の濃度のアルカリ水溶液に1日以上行う、[9]に記載の製造方法。
[11]
Fe塩及び/又はNi塩並びにCo塩を含有する水溶液にアルカリを添加して、Fe及び/又はNi並びにCoを含有する水酸化物を沈澱させ、沈殿物を回収する工程、前記Fe及び/又はNi並びにCoを含有する水酸化物の沈殿物を酸素含有雰囲気中で焼成して、Fe及び/又はNi並びにCoを含有するオキシ水酸化物を得ることを含む[1]~[7]のいずれかに記載の材料の製造方法。
[12]
前記Fe塩、Ni塩及びCo塩は、それぞれ硝酸塩であり、前記アルカリは、アルカリ金属水酸化物である[11]に記載の製造方法。
[13]
[1]~[7]のいずれかに記載の材料又は[9]~[12]のいずれかに記載の方法で製造された材料を含む空気極用触媒。
[14]
[1]~[7]のいずれかに記載の材料又は[9]~[12]のいずれかに記載の方法で製造された材料を含む水電解陽極用触媒。
[15]
[13]又は[14]に記載の触媒を含む金属空気二次電池用空気極。
[16]
前記材料は酸素発生用触媒として含有され、酸素還元用触媒をさらに含む[15]に記載の空気極。
[17]
[15]又は[16]に記載の空気極と、負極活物質を含有する負極と、前記空気極と前記負極との間に介在する電解質とを有する金属空気二次電池。
[18]
酸素還元用触媒を含む酸素還元用空気極をさらに含む[17]に記載の金属空気二次電池。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、OER活性が高くかつその活性が長期間安定している、OER触媒として有用な新たな材料を提供する。さらにこの材料を用いて、長期間優れたOER活性を示す空気極用触媒や水電解陽極用触媒を提供でき、従来品に比べて優れた空気極及び空気二次電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】は、(a)ブラウンミラー型Ca
2FeCoO
5+δ(OER分極前)、および(b)1.6 V vs RHE にて1時間OER分極後のCa
2FeCoO
5+δの高分解能TEM像である。(a)における格子縞はブラウンミラー相の110面間隔に対応する。(b)において、いくつかの周期構造を有するナノクラスターを黄色破線囲んでいる。また内挿図はTEM像中央付近で測定した電子回折像を示している。
【
図2】は、カーボンシート上に担持したCa
2FeCoO
5(CFCと略記することがある)を、40 mA cm
-2定電流で2hアノード分極し、その後15分開回路電位で保持するOER分極サイクルを一か月繰り返した時の電流-時間曲線である。
【
図3】は、作製直後(as-prepared)、1時間(1h)および1か月間(1 month)OER分極後(1 month)でのCFC担持カーボン電極のXRDパターンを示す。参照にCFC粉末のXRDパターンも併せて示した。▼および〇は、それぞれカーボンシートおよびNafion由来のピークを示している。
【
図4】は、一か月OER分極前後のCFC粒子のオージェ分光スペクトルを示す。
【
図5】は、作製直後(As prepared)および20 mA cm
-2定電流条件で1時間(1h)および1月(1 month)アノード分極したCa
2FeCoO
5の(a) Co K吸収端および(b) Fe K吸収端近傍X線吸収スペクトル(XANES)。広域X線吸収微細構造(EXAFS)より決定したCo原子((c), (e))およびFe原子((d), (f))周囲の動径分布。(c)および(d)はAs preparedおよび1h試料の比較、また(e)および(f)はAs preparedおよび1 month試料の比較を示している。また(c)および(d)にはγ-CoOOH構造モデル(
図6)を用いたFitting結果(点線)を併せて示した。
【
図6】は、γ-CoOOH(六方晶)の結晶構造モデルを示す。赤球(小)、青球(大)および白球(小、層の間に孤立)は、それぞれ酸素原子、コバルト原子および水素原子を示している。
【
図7】は、一か月OER分極前後のCFCのOER同電位分極曲線である。併せて熱分解法により調製したγ-CoOOHの結果も示した。
【
図8】は、実施例2で調製したFe
0.05Co
0.95O
xH
y、Fe
0.1Co
0.9O
xH
yおよびNi
0.1Co
0.95O
xH
yのXRDパターンを示す。併せてγ-CoOOHのXRDパターンも示す。
【
図9】は、実施例2で調製したFe
0.05Co
0.95O
xH
y、Fe
0.1Co
0.9O
xH
yおよびNi
0.1Co
0.95O
xH
yのOER分極曲線を示す。CFCのOER分極曲線も示す。
【
図10】は、実施例3で調製したKOH処理前の試料(CFC)及びKOH処理品のXRDを示す。
【
図11】は、実施例3で調製したKOH処理前の試料(CFC)及びKOH処理品のOER分極曲線を示す。
【
図12】は、本発明の金属空気二次電池の一構成例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<本発明のCo酸化物材料>
本発明のCo酸化物材料は、γ-CoOOH型の原子配列構造と同一又は類似する原子配列構造を有し、かつ酸素欠陥を有する、Co酸化物ナノクラスターであって、ナノクラスター中のCoの一部がFe及び/又はNiで置換されていてもよい、Co酸化物材料である。
【0013】
本発明のCo酸化物材料は、Co酸化物ナノクラスターであって、Co酸化物ナノクラスターは、下記の(1)~(3)により特徴付けられる。
(1)γ-CoOOH型の原子配列構造と同一又は類似する原子配列構造を有しかつ酸素欠陥を有する:
γ-CoOOH型の原子配列構造とは、γ-CoOOH(六方晶)の結晶構造モデルが有する原子配列構造であり、
図6にγ-CoOOH(六方晶)の結晶構造モデルを示す。図中の赤球(小)、青球(大)および白球(小、層の間に孤立)は、それぞれ酸素原子、コバルト原子および水素原子を示している。γ-CoOOHは、CoO
6八面体の陵共有によって形成する[CoO
2]平面分子層が、プロトンを介した水素結合によってc軸上積層した層状構造をもつ。本発明のCo酸化物材料は、
図6に示すγ-CoOOH(六方晶)の結晶構造モデルと同一又は類似する原子配列構造を有する。本発明のCo酸化物材料は、[CoO
2]平面分子層単層の場合は、γ-CoOOH(六方晶)の結晶構造モデルと同一の原子配列構造を有し、それ以外の場合は、γ-CoOOH(六方晶)の結晶構造モデルと類似する原子配列構造を有することになる。このような原子構造は、製造方法において後述するが、OER分極により原子の再配列が起り、酸化物マトリクス中にCoリッチな酸化物部分が形成され、それがγ-CoOOHによく似た配列構造を形成したものと推察される。
図1に高分解能TEMにより観測された本発明のCo酸化物におけるナノクラスターを示すが、このナノクラスターは、γ-CoOOH型の原子配列構造と同一又は類似する原子配列構造もつナノクラスターである。尚、本発明のナノクラスターは酸素欠損を有することから、酸素欠損がある部分はγ-CoOOH型の原子配列構造と同一ではなく、γ-CoOOH型の原子配列構造と類似する原子配列構造を有する、と定義する。
【0014】
本発明のCo酸化物材料は酸素欠損を有する。酸素欠損の程度(化学量論比より少ない程度)には特に制限はないが、例えば、酸素以外の元素の価数の総量の0を超え25%以下であることができる。但し、これより多い酸素欠損が有ってもよい。
【0015】
(2)Co酸化物ナノクラスター:
Co酸化物ナノクラスターは、その製造方法や条件により直径が相違するが、例えば、下記の試験例や実施例における製造方法においては、直径が20nm以下であることができ、Co酸化物ナノクラスターの直径は10nm以下であることもできる。
図1に、試験例1において、高分解能TEMにより観測されたCa
2CoFeO
5(CFC)を含有する原料から調製した本発明のCo酸化物におけるナノクラスターを示す。このナノクラスターは、上述のようにγ-CoOOH型配列構造の原子配列構造と同一又は類似する原子配列構造をもつナノクラスターである。このナノクラスターは、
図1に示す高分解能TEM像により、直径10nm以下のクラスターが確認され、具体的には、0.5-2nm程度のナノクラスターである。また、本発明のCo酸化物のXRDパターンにおいて、観察できて当然な分子構造由来のピークが確認できないことは、クラスター直径が10nm以下であることを支持する。
【0016】
図8に、実施例2の(5)において示した、Fe
0.05Co
0.95O
xH
y、Fe
0.1Co
0.9O
xH
yおよびNi
0.1Co
0.95O
xH
yのXRDパターンは非常にブロードであり、結晶子のサイズは20°付近の002ピーク半値幅から、約8-15 nm程度であると推測され、共沈法により調製された原料から調製した本発明のCo酸化物におけるナノクラスターは、直径20nm以下、好ましくは5nm以上、15nm以下のクラスターであることができる。
【0017】
本発明のCo酸化物は、少なくともこれら粒径及びXRDによって結晶による回折ピークが観察されない、または観察されても非常にブロードであることから、明瞭なXピークが現れる非特許文献6に記載の材料とは明らかに異なる材料である。
【0018】
(3)ナノクラスター中のCoの一部がFe及び/又はNiで置換されていてもよい、Co酸化物材料:
実施例1で調製した本発明のCo酸化物材料は、オージェ分光法によって組成分析の結果から、ナノクラスター中のCoの一部がFeで置換されたものであることが分かる。CoのFeへの置換量は、オージェ分光スペクトル解析により得られるCo:Fe原子比が例えば、上限の置換範囲で、100:10以下、好ましくは、100:5以下の範囲である。また、下限の範囲で、100:0.1以上、好ましくは100:1以上の範囲である。100:0.1~10の範囲が好ましく、100:1~5の範囲がより好ましい。
【0019】
実施例2で調製した本発明のCo酸化物材料は、ICPによる元素分析の結果、ナノクラスター中のCoの一部がFe及び/又はNiで置換されたものであることが分かる。CoのFe及び/又はNiへの置換量は、ICPによるCo:Fe及び/又はNi原子比が例えば、上限の置換範囲で、100:10以下、好ましくは、100:5以下の範囲である。また、下限の範囲で、100:0.1以上、好ましくは100:1以上の範囲である。100:0.1~10の範囲が好ましく、100:1~5の範囲がより好ましい。
【0020】
本発明のCo酸化物材料は、より具体的には、[CoOx]平面単分子層に電荷補償のためのプロトンが配位した[CoOxHy]平面単分子層が、水素結合を介してn層平面垂直方向に積層してできる[CoOxHy]n分子層シート状物質のナノクラスターを含有するCo酸化物材料であって、xは1.5~2.0の範囲であり、yは0.01~1の範囲であり、nは平面単分子層の分子層平面に垂直な方向(c軸方向)への積層数であり、1~25の範囲であり、[CoOxHy]平面単分子層中のCoの一部がFe及び/又はNiで置換されていてもよい、前記材料である。
【0021】
本発明のCo酸化物材料のナノクラスターは、[CoO
x]平面単分子層に電荷補償のためのプロトンが配位した[CoO
xH
y]平面単分子層が平面垂直方向にn層積層してできる[CoO
xH
y]
n分子層シート状物質のナノクラスターである。実施例1に示すEXAFSフィッティング結果より、Co周りの酸素配位数は1時間分極の場合5.1であり、1か月分極の場合が5.3程度であった(表2)。一方、酸素欠損が全くない[CoO
2]
n分子層シートにおけるCo配位数は6となる。従って、実験例で示した本発明のCo酸化物材料のナノクラスターは、酸素欠損を有する[CoO
xH
y]
n分子層シートを基本骨格にもつ材料であると考えられる。一方、
図3に示すXRDの結果より本発明のCo酸化物材料にはγ-CoOOHのXRDピークが現れないことから、このナノクラスターはc軸方向への積層は、存在はするが発達はしていないと考えられる。従って、本発明のCo酸化物材料のナノクラスターは平面垂直方向の積層が存在はするが発達はしていない、[CoO
XH
y]
n分子層シート状物質であると同定された。このような[CoO
XH
y]
n分子層シート状物質の原子配列構造は、γ-CoOOH型の原子配列構造と同一ではなく、γ-CoOOH型の原子配列構造と類似する原子配列構造を有する、と言える。
【0022】
[CoOXHy]n分子層シートにおけるxは1.5~2.0の範囲、好ましくは1.6~1.9の範囲であり、yは0.01~1の範囲、好ましくは0.05~0.5の範囲であり、nは1~25の範囲である。本発明のCo酸化物材料のナノクラスターは、TEM像において観察されるナノクラスターの最大外径は0.3~10nmの範囲であり、好ましくは0.6~7nmの範囲、より好ましくは0.9~5nmである。CoO6八面体の直径は約0.29 nm(ほぼ0.3nm)であり、また[CoOXHy]単分子層の層間距離は0.4 nm程度である。最大直径10nmのクラスターを想定するとこの粒子径のクラスターを構成するためには、[CoOXHy]単分子層内のCoOXHy八面体分子の数は、10/0.29 x 10/0.29(約1200)であり、最大直径7nmの範囲の場合は7/0.29 x 7/0.29(約580)であり、最大直径5nmの範囲の場合は5/0.29 x 5/0.29(約300)である。
【0023】
上記のように本発明のCo酸化物材料のナノクラスターは平面垂直方向の積層が存在はするが発達はしていない[CoOXHy]n分子層シート状物質であり、nは平面単分子層の分子層平面に垂直な方向(c軸方向)への積層数である。最大直径0.3~10nmのクラスターを想定するとnは1~10/0.4(約25)である。従って、上記nは1~25の範囲である。さらに、直径0.6~7nmの範囲の場合、nは2~7/0.4(約18)であり、直径0.9~5nmの範囲の場合、nは2または3~5/0.4(約12)である。
【0024】
本発明のCo酸化物材料は、OER触媒用として極めて有用である。触媒については後述する。
【0025】
<本発明のCo酸化物材料の製造方法>
本発明のCo酸化物材料は、例えば、(a)Ca2CoFeO5及び/又はCa2CoNiO5を含有する原料をアノード分極下に置くか、若しくはアルカリ水溶液に浸漬することを含む方法、又は(b)Fe塩及び/又はNi塩並びにCo塩を含有する水溶液にアルカリを添加して、Fe及び/又はNi並びにCoを含有する水酸化物を沈澱させ、沈殿物を回収する工程、前記Fe及び/又はNi並びにCoを含有する水酸化物の沈殿物を酸素含有雰囲気中で焼成して、Fe及び/又はNi並びにCoを含有するオキシ水酸化物を得ることを含む方法で、製造することができる。
【0026】
製造方法(a)
Ca2CoFeO5及びCa2CoNiO5はブラウンミラーライト型遷移金属酸化物の一種であり、特許文献1に記載されている方法を参照してそれぞれの金属酸化物を原料として固相反応法により調製することができる。固相反応法に加えて、液相反応法を用いても合成することができる。液相反応法には、それぞれの金属酸化物の原料としてそれぞれの金属の塩、例えば、硝酸塩、酢酸塩、クエン酸塩等を用いる。例えば、Ca塩(例えば、Ca(NO3)2)、Fe塩(例えば、Fe(NO3)3)・9H2O)、又はNi塩(例えば、Ni(NO3)3)・9H2O)、Co塩(例えば、Co(NO3)2)・6H2O)を用い、かつゲル化剤としてクエン酸を添加した混合物を溶媒として、例えば、水(蒸留水またはイオン交換水)等を用いて混合する。各金属塩の比率は、目的とする金属酸化物の組成を考慮して適宜決定する。ゲル化剤として用いるクエン酸の量は、金属塩100質量部に対して、例えば、10~1000質量部の範囲とすることができる。ゲル化剤としてはクエン酸以外に、例えば、EDTA(エチレンジアミン四酢酸)やグリシン等を用いることもできる。上記混合物を、例えば、50~90℃に加熱して溶媒を除去することで混合物をゲル化させる。このゲル化物を、例えば、空気中、300~500℃(例えば、450℃)で10分~6時間(例えば、1時間)仮焼成して前駆体を合成する。次にこの前駆体を、例えば、大気中、600~800℃で1~24時間焼成することで、ブラウンミラーライト型のCa2FeCoO5又はCa2CoNiO5を合成することができる。焼成条件は、例えば、600℃で所定時間(1~12時間)焼成した後、温度を上げて、例えば、800℃で所定時間(6~12時間)焼成することもできる。
【0027】
(1)アノード分極法
アノード分極は、Ca2CoFeO5(CFC) 及び/又はCa2CoNiO5(CNC)を含有する原料を電極として、RHEに対して例えば、1.5~2.0Vの範囲の電圧になる電流密度で、所定以上の電気量を通電することが実施することが適当である。所定以上の電気量は、アルカリ水溶液の組成及び濃度、温度、原料を電極とした電極の構造などに応じて、所望のナノクラスターが生成する電気量から適宜選択することができる。実施例においては、アノード電極への塗布量はCFC量が10mg cm-2となるようにし、カーボンシート電極を電極基材として用い、白金板を対極(カソード)とし、さらにアノード電極用の参照電極を用いる三電極系にて、KOH水溶液中、アルゴン不活性雰囲気下で40mA cm-2の一定酸化電流条件で2時間OER分極を電流ゼロの時間をはさみ繰返し行っている。この場合のアノード分極に用いた電気量は、1回2時間OER分極で、1cm2当たり288クーロンである。CFCをアノード電極に塗布して分極処理する場合には、この電気量を目安として、分極条件を選択することができる。
【0028】
アルカリ水溶液中での分極に電解液として用いる、アルカリ水溶液は、例えば、0.1M~10Mの範囲のアルカリ水溶液であることができ、好ましくは1M~6Mの範囲のアルカリ水溶液である。
【0029】
分極処理後に、アノード電極から本発明のナノクラスター材料を回収することもできるが、本発明のナノクラスター材料を形成したアノード電極をそのまま、製品として利用することもできる。
【0030】
(2)アルカリ水溶液浸漬法
アルカリ水溶液浸漬は、Ca2CoFeO5(CFC) 及び/又はCa2CoNiO5(CNC)を含有する原料を例えば、アルカリ金属水酸化物、アルカリ土類金属水酸化物の水溶液に、例えば、0~100℃の温度範囲で浸漬することで実施できる。温度は好ましくは60~90℃範囲である。アルカリ水溶液の濃度は特に限定はないが、例えば、0.1M~10Mの範囲、好ましくは1M~6Mの範囲とすることができる。浸漬時間は、原料の種類、浸漬温度、アルカリ水溶液濃度等を考慮して、所望のナノクラスターが生成するまでの時間を、適宜決定できる。アルカリ水溶液への浸漬は、例えば、温度が80℃の場合、1M以上の濃度のアルカリ水溶液に1日以上行うことが、所望のナノクラスターを生成させるとうい観点から好ましい。
【0031】
アルカリ水溶液浸漬後は、浸漬品を回収し、水洗などをして、本発明のナノクラスター材料を得ることができる。
【0032】
製造方法(b)
この製造方法では、Fe塩及び/又はNi塩並びにCo塩を含有する水溶液にアルカリを添加して、Fe及び/又はNi並びにCoを含有する水酸化物を沈澱させ、沈殿物を回収する共沈法により原料を調製し、得られたFe及び/又はNi並びにCoを含有する水酸化物の沈殿物を酸素含有雰囲気中で焼成して、Fe及び/又はNi並びにCoを含有するオキシ水酸化物を得る。
【0033】
Fe塩、Ni塩及びCo塩は、各塩が水溶性であれば特に制限はなく、例えば、硝酸塩であることができ、硝酸塩以外に、塩化物を用いることもできる。アルカリは、水溶性であれば特に制限はなく、例えば、アルカリ金属水酸化物であることができ、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどを用いることができる。含む方法で、製造することができる。共沈法は、室温で行うことができるが、冷却下、または加温下で行うこともできる。Fe塩及び/又はNi塩並びにCo塩を含有する水溶液へのアルカリの添加は、アルカリ水溶液を用いることが適当である。Fe塩及び/又はNi塩並びにCo塩を含有する水溶液の塩濃度、アルカリ水溶液のアルカリ濃度は適宜決定することができる。
【0034】
共沈法により調製したFe及び/又はNi並びにCoを含有する水酸化物の沈殿物は、酸素含有雰囲気中で焼成する。酸素含有雰囲気は、酸素を含有すれば良く、純粋酸素であっても、酸素含有雰囲気である空気を用いても良いが、オキシ水酸化物が容易に得られるという観点からは酸素雰囲気であることが好ましい。焼成温度は、オキシ水酸化物が得られる温度であればよく、例えば、50~200℃の範囲、好ましくは80~150℃の範囲であることができる。加熱時間は、加熱温度及びオキシ水酸化物の生成物の度合等を考慮して適宜決定できる。この焼成により、Fe及び/又はNi並びにCoを含有するオキシ水酸化物が得られ、共沈法により得られた原料を用いることで、本発明のCo酸化物材料を得ることができる。
【0035】
<電極用触媒>
本発明は、本発明の材料を含む空気極用触媒を包含する。
さらに本発明は、本発明の材料を含む水電解陽極用触媒を包含する。本発明の空気極用触媒及び水電解陽極用触媒は、本発明の材料に加えて、原料である上記CFCを含有することもできる。
【0036】
本発明の材料を含む空気極用触媒及び水電解陽極用触媒は、表面積が例えば、1~100m2/gの範囲であることができ、好ましくは、10~100m2/gの範囲である。但し、この範囲に限定される意図ではない。
【0037】
本発明の材料は、空気極用として極めて有用であり、光水分解による水素製造や、次世代型高容量二次電池として期待されている金属空気二次電池の空気極として極めて有望である。
【0038】
水電解の陽極における反応は、下記の反応式で表される。
H2O→O2+4H++4e-(中性から酸性)
4OH-→O2+2H2O+4e-(塩基性)
いずれの反応も、酸素発生反応(OER)である。本発明の材料は優れたOER活性を有する物であり、水電解陽極用触媒として、極めて有用である。
【0039】
<空気極>
空気極は、通常、多孔質構造を有し、酸素反応触媒の他、導電性材料を含む。また、空気極は、必要に応じて、酸素還元(ORR)触媒、バインダー等を含んでいてもよい。二次電池における空気極には、充電時の機能としてOER触媒活性と、放電時の機能としてORR触媒活性を有することを要する。本発明の触媒はOER触媒であるので、空気極には、この触媒に加えて、ORR触媒を含有させることもできる。空気極における充電及び放電時の化学式を以下に示す。
【化1】
【0040】
空気極における本発明の触媒(OER触媒)の含有量は、特に限定されないが、空気極の酸素反応性能を高める観点から、例えば、1~90質量%であることが好ましく、特に10~60質量%であることが好ましく、30~50質量%であることがより好ましい。
【0041】
ORR触媒の例としては、特に制限はないが、例えば、PtまたはPt系材料(例えば、PtCo、PtCoCr、Pt-W2C、Pt-RuOxなど)、Pd系材料(例えば、PdTi、PdCr、PdCo、PdCoAuなど)、金属酸化物(例えば、ZrO2-x、TiOx、TaNxOy、IrMOxなど)、錯体系(Co-ポルフィリン錯体)、その他(PtMoRuSeOx、RuSeなど)を挙げることができる。さらに、Suntivichらが高活性と報告しているLaNiO3( Nat. Chem. 3, 546 (2011))、Liらが報告しているCoO/N-doped CNT(Nat. Commun. 4, 1805 (2013)) なども例示できる。但し、これらに限定される意図ではない。また、各触媒の性能や性質を考慮して複数の触媒を組み合わせて用いることもできる。さらに上記触媒には、助触媒(例えば、TiOx、RuO2、SnO2など)を組み合わせて用いる事もできる。ORR触媒を併用する場合の含有量は、ORR触媒の種類や触媒活性等を考慮して適宜決定することができ、例えば、1~90質量%であることができる。但し、この数値範囲に限定される意図ではない。
【0042】
導電性材料としては、特に限定されず、導電助剤として一般的に使用可能なものであればよいが、好適なものとして導電性カーボンが挙げられる。具体的には、メソポーラスカーボン、グラファイト、アセチレンブラック、カーボンナノチューブ、カーボンファイバー等が挙げられる。空気極において多くの反応場を提供することから、比表面積が大きい導電性カーボンが好ましい。具体的には、比表面積が1~3000m2/g、特に500~1500m2/gである導電性カーボンが好ましい。空気極の触媒は、導電性材料に担持させてもよい。
【0043】
空気極における導電性材料の含有量は、特に限定されないが、放電容量を高める観点から、例えば、10~99質量%であることが好ましく、特に20~80質量%であることが好ましく、20~50質量%であることがより好ましい。
【0044】
空気極にバインダーを含有させることで、触媒や導電性材料を固定化し、電池のサイクル特性を向上させることができる。バインダーとしては特に限定されず、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)及びその共重合体、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)及びその共重合体、スチレンブタジエンゴム(SBR)等が挙げられる。空気極におけるバインダーの含有量は、特に限定されないが、カーボン(導電性材料)と触媒との結着力の観点から、例えば、1~40質量%であることが好ましく、特に5~35質量%であることが好ましく、10~35質量%であることがより好ましい。
【0045】
空気極は、例えば、上記した空気極構成材料を適当な溶媒に分散させて調製したスラリーを基材上に塗布、乾燥することで形成することができる。溶媒としては、特に限定されず、例えば、アセトン、N,N-ジメチルホルムアミド、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)等が挙げられる。空気極構成材料と溶媒との混合は、通常、3時間以上、好ましくは4時間行うことが好ましい。混合方法は特に限定されず、一般的な方法を採用することができる。
【0046】
スラリーを塗布する基材は、特に限定されず、ガラス板、テフロン(登録商標)板等が挙げられる。これら基材は、スラリーの乾燥後、得られた空気極から剥離される。或いは、空気極の集電体や、固体電解質層を、上記基材として扱うこともできる。この場合、基材は剥離せずに、金属空気二次電池の構成部材としてそのまま利用する。
【0047】
スラリーの塗布方法、乾燥方法は、特に限定されず、一般的な方法を採用することができる。例えば、スプレー法、ドクターブレード法、グラビア印刷法等の塗布方法、加熱乾燥、減圧乾燥等の乾燥方法を採用することができる。
【0048】
空気極の厚さは、特に限定されず、金属空気二次電池の用途等に応じて適宜設定すればよいが、通常、5~100μm、10~60μm、特に20~50μmであることが好ましい。
【0049】
空気極には、通常、空気極の集電を行う空気極集電体が接続される。空気極集電体の材料、形状は特に限定されない。空気極集電体の材料としては、例えば、ステンレス、アルミニウム、鉄、ニッケル、チタン、炭素(カーボン)等が挙げられる。また、空気極集電体の形状としては、箔状、板状、メッシュ(グリッド状)、繊維状等が挙げられ、中でもメッシュ状等の多孔質形状であることが好ましい。多孔質形状の集電体は、空気極への酸素供給効率に優れているからである。
【0050】
<金属空気二次電池>
本発明の金属空気二次電池は、上記本発明の材料を含む触媒を含有する空気極と、負極活物質を含有する負極と、空気極と負極との間に介在する電解質と、を有する。本発明の金属空気二次電池の空気極には、本発明の材料を含む触媒が含有され、この触媒は優れたOER触媒特性を示す。従って、この触媒を用いた空気極を用いることで、本発明の金属空気二次電池は、充電速度及び充電電圧に優れたものとなる。
【0051】
また、空気極は前記のようにORR触媒活性を有する触媒を共存させることもできる。あるいは、本発明の材料を含む触媒を含有する酸素発生(OER)用の空気極とは別に、ORR触媒活性を有する触媒を含む酸素還元(ORR)用の空気極を設けることもできる。この場合、金属空気二次電池は、酸素還元用の空気極と酸素発生用の空気極とを有することになる(3電極方式)。放電時には酸素還元用の空気極が用いられ、充電時には酸素発生用の空気極が用いられる。ORR触媒活性を有する触媒は前述の通りであり、この触媒と上記空気極の説明で記載した導電性材料及びバインダー等を用いて酸素発生用の空気極を得ることができる。
【0052】
以下、本発明の金属空気二次電池の一構成例について説明する。尚、本発明の金属空気二次電池は、以下の構成に限定されるものではない。
図12は、本発明の金属空気二次電池の一形態例を示す断面図である。金属空気二次電池1は、酸素を活物質とする空気極2、負極活物質を含有する負極3、空気極2及び負極3の間でイオン伝導を担う電解質4、空気極2の集電を行う空気極集電体5、及び負極3の集電を行う負極集電体6からなり、これらが図示しない電池ケースに収容されている。空気極2には、該空気極2の集電を行う空気極集電体5が電気的に接続され、空気極集電体5は、空気極2への酸素供給が可能な多孔質構造を有している。負極3には、該負極3の集電を行う負極集電体6が電気的に接続され、空気極集電体5及び負極集電体6の端部のうち一方は、電池ケースから突出している。それぞれ、正極端子(図示せず)、負極端子(図示せず)として機能する。
【0053】
(負極)
負極は、負極活物質を含有する。負極活物質としては、一般的な空気電池の負極活物質を用いることができ、特に限定されるものではない。負極活物質は、通常、金属イオンを吸蔵・放出することができるものである。具体的な負極活物質としては、例えば、Li、Na、K、Mg、Ca、Zn、Al、及びFe等の金属、これら金属の合金、酸化物及び窒化物、並びに炭素材料等が挙げられる。
【0054】
中でも、亜鉛-空気二次電池は安全面において優れており、次世代の二次電池として期待されている。尚、高電圧高出力という観点からはリチウム-空気二次電池及びマグネシウム空気二次電池が有望である。
亜鉛-空気二次電池の例を以下に説明すると、反応式は以下の通りである。
【0055】
本発明の亜鉛-空気二次電池において、負極としては、亜鉛イオンを吸蔵・放出可能な材料を用いる。このような負極としては、金属亜鉛のほかに、亜鉛合金を用いることもできる。亜鉛合金としては、例えば、アルミニウム、インジウム、マグネシウム、スズ、チタン、銅、から選択される一種または二種以上の元素を含有する亜鉛合金を挙げることができる。
【0056】
リチウム-空気二次電池の負極活物質としては、例えば金属リチウム;リチウムアルミニウム合金、リチウムスズ合金、リチウム鉛合金、リチウムケイ素合金等のリチウム合金;スズ酸化物、ケイ素酸化物、リチウムチタン酸化物、ニオブ酸化物、タングステン酸化物等の金属酸化物;スズ硫化物、チタン硫化物等の金属硫化物;リチウムコバルト窒化物、リチウム鉄窒化物、リチウムマンガン窒化物等の金属窒化物;並びにグラファイト等の炭素材料等を挙げることができ、中でも金属リチウムが好ましい。
【0057】
さらに、マグネシウム-空気二次電池の負極活物質としては、マグネシウムイオンを吸蔵・放出可能な材料を用いる。このような負極としては、金属マグネシウムのほかに、マグネシウムアルミニウム、マグネシウムシリコン、マグネシウムガリウムなどのマグネシウム合金などを用いることができる。
【0058】
箔状や板状の金属や合金等を負極活物質として用いる場合には、該箔状や板状の負極活物質を負極そのものとして使用することができる。
【0059】
負極は、少なくとも負極活物質を含有してればよいが、必要に応じて、負極活物質を固定化する結着材を含有していてもよい。結着材の種類、使用量等については、上述した空気極と同様であるため、ここでの説明は省略する。
【0060】
負極には、通常、負極の集電を行う負極集電体が接続される。負極集電体の材料、形状は特に限定されない。負極集電体の材料としては、例えば、ステンレス、銅、ニッケル等が挙げられる。また、負極集電体の形状としては、箔状、板状、メッシュ(グリッド状)等が挙げられる。
【0061】
(電解質)
電解質は、空気極と負極との間に配置される。電解質を介して、負極と空気極との間の金属イオン伝導が行われる。電解質の形態は、特に限定されるものではなく、液体電解質、ゲル電解質、固体電解質等を挙げることができる。
【0062】
電解液は、負極が亜鉛又はその合金の場合を例に挙げれば、酸化亜鉛を含む水酸化カリウム水溶液や水酸化ナトリウム水溶液などのアルカリ水溶液を用いてもよいし、塩化亜鉛や過塩素酸亜鉛を含む水溶液を用いてもよいし、過塩素酸亜鉛を含む非水系溶媒や亜鉛ビス(トリフルオロメチルスルフォニル)イミドを含む非水系溶媒を用いてもよい。また、負極がマグネシウム又はその合金の場合を例に挙げれば、過塩素酸マグネシウムやマグネシウムビス(トリフルオロメチルスルフォニル)イミドを含む非水系溶媒を用いてもよい。ここで、非水系溶媒としては、例えば、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、γ-ブチロラクトン(γ-BL)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)など従来の二次電池やキャパシタに使われる有機溶媒が挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、複数を混合して用いてもよい。あるいは、N,N-ジエチル-N-メチル-N-(2-メトキシエチル)アンモニウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド(am)などのイオン性液体を用いることもできる。
【0063】
本発明の二次電池において、電解液は、デンドライト生成防止剤を含むことが好ましい。デンドライト生成防止剤は、充電時に負極表面に吸着して結晶面間のエネルギー差を小さくし、優先配向を防ぐことによりデンドライトの発生を抑制すると考えられる。デンドライト生成防止剤については特に限定はないが、例えば、ポリアルキレンイミン類、ポリアリルアミン類及び非対称ジアルキルスルフォン類からなる群より選ばれた少なくとも1種のものであることができる(例えば、特開2009-93983号公報参照)。また、デンドライト生成防止剤の使用量は、特に限定されるものではないが、例えば常温常圧で電解液に飽和する量だけ用いてもよいし、溶媒として用いてもよい。
【0064】
リチウムイオン伝導性を有する液体電解質は、通常、リチウム塩及び非水溶媒を含有する非水電解液である。上記リチウム塩としては、例えばLiPF6、LiBF4、LiClO4及びLiAsF6等の無機リチウム塩;並びにLiCF3SO3、LiN(CF3SO2)2、LiN(C2F5SO2)2、LiC(CF3SO2)3等の有機リチウム塩等を挙げることができる。
【0065】
上記非水溶媒としては、例えばエチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ブチレンカーボネート、γ-ブチロラクトン、スルホラン、アセトニトリル、1,2-ジメトキシメタン、1,3-ジメトキシプロパン、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン及びこれらの混合物等を挙げることができる。非水溶媒としては、イオン液体を用いることもできる。
【0066】
非水電解液におけるリチウム塩の濃度は、特に限定されないが、例えば0.1mol/L~3mol/Lの範囲内であることが好ましく、好ましくは1mol/Lである。尚、本発明においては、非水電解液として、例えばイオン性液体等の低揮発性液体を用いてもよい。
【0067】
リチウムイオン伝導性を有するゲル電解質は、例えば、上記非水電解液にポリマーを添加してゲル化することで得ることができる。具体的には、上記非水電解液に、ポリエチレンオキシド(PEO)、ポリビニリデンフルオライド(PVDF、Arkema社製商品名Kynarなど)ポリアクリロニトリル(PAN)またはポリメチルメタクリレート(PMMA)等のポリマーを添加することにより、ゲル化を行うことができる。
【0068】
リチウムイオン伝導性を有する固体電解質としては、特に限定されず、リチウム金属空気二次電池で使用可能な一般的な固体電解質を用いることができる。例えば、Li1.5Al0.5Ge1.5(PO4)3等の酸化物固体電解質;Li2S-P2S5化合物、Li2S-SiS2化合物、Li2S-GeS2化合物等硫化物固体電解質;を挙げることができる。
【0069】
電解質の厚さは、電池の構成によって大きく異なるものであるが、例えば10μm~5000μmの範囲内であることが好ましい。
【0070】
(付属構成)
本発明の金属空気二次電池において、空気極と負極との間には、これら電極間の電気的絶縁を確実に行うために、セパレータが配置されることが好ましい。セパレータは、空気極と負極との間の電気的絶縁が確保可能であると共に、空気極と負極との間に電解質が介在することが可能な構造を有していれば特に限定されない。
【0071】
セパレータとしては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、セルロース、ポリフッ化ビニリデン、ガラスセラミックス等の多孔膜;及び樹脂不織布、ガラス繊維不織布等の不織布等を挙げることができる。中でも、ガラスセラミックス製のセパレータが好ましい。
【0072】
また、金属空気二次電池を収納する電池ケースとしては、一般的な金属空気二次電池の電池ケースを用いることができる。電池ケースの形状としては、上述した空気極、負極、及び電解質を保持することができれば特に限定されるものではないが、具体的にはコイン型、平板型、円筒型、ラミネート型等を挙げることができる。
【0073】
本発明の金属空気二次電池は、空気極に活物質である酸素が供給されることにより、放電が可能となる。酸素供給源としては、空気の他、酸素ガス等が挙げられ、好ましくは酸素ガスである。供給する空気又は酸素ガスの圧力は特に限定されず、適宜設定すればよい。
【0074】
本発明の材料を含む空気極用触媒は、金属空気二次電池に有用であることに加えて、それ以外のOER電極触媒が用いられる分野においても有用である。OER電極触媒は古くからさまざまな電気化学反応の対極反応として研究あるいは利用されており、アルカリ金属メッキや電解脱脂、電気防食技術への転用が可能である。また、最近では太陽電池や光触媒と組み合わせることで、高効率でクリーンな水素製造技術への応用も期待される。
【実施例】
【0075】
以下、本発明を実施例に基づいて更に詳細に説明する。但し、実施例は本発明の例示であって、本発明は実施例に限定される意図ではない。
【0076】
実施例1
実験方法
Ca2CoFeO5+δ(CFC)は次の方法で作製した。Ca(NO3)2水和物, Co(NO3)2水和物およびFe(NO3)2水和物をCa:Co:Feのモル比が2:1:1となるよう純水に溶解し、更にクエン酸を適量加えた後、120℃で蒸発乾固させた後、500℃で焼成した。最後に焼成した粉末を酸素中800℃で8時間焼成することにより作製した。
作製したCFCとアセチレンブラック (AB)、およびNafion溶液をエタノール中に重量比でCFC : AB : Nafion = 5: 1 : 1となるよう分散させて触媒インクとし、これをGCディスク(5mmφ)またはカーボンシート(15 mm x 5 mm,膜厚0.2mm)上に塗布し電極とした。尚インクの塗布量はCFC触媒量が10 mg cm-2となるよう調節した。またカーボンシートには東海カーボン製耐水カーボンシートを使用した。
【0077】
Co酸化物材料の調製
1時間OER分極及び一か月OER分極によるCo酸化物材料の調製は、カーボンシート電極を用い、Hg/HgO/4 mol dm-3KOH を参照電極,白金板を対極とする三電極系にて、4 mol dm-3 KOH水溶液中、アルゴン不活性雰囲気下で行った。まず40 mA cm-2の一定酸化電流条件で2時間OER分極を行い、続いて0電流条件で15分静置した。以上の2つのステップを交互に一か月繰り返すOER分極を行い、その後、分極した材料を回収することで、一か月OER分極によるCo酸化物材料を得た。1時間OER分極は、上記と同様の一定酸化電流条件で1時間OER分極を行い、分極した材料を回収することでCo酸化物材料を得た。
【0078】
また一か月OER分極前後のCFC電極についてOER電流-電圧曲線を測定し、OER活性評価を行った。分極測定は,Hg/HgO/4 mol dm-3KOHを参照電極、白金板を対極とする三電極系にて、4 mol dm-3 KOH水溶液中で行った。またORR分極測定は酸素飽和雰囲気下、およびOER分極測定はアルゴン飽和雰囲気下で行った。
【0079】
比較例1
比較実験のためにγ-CoOOHを触媒として用いて実験を行った。γ-CoOOH は市販のCo(OH)2を125℃で6時間焼成することにより作成した。γ-CoOOHとAB、およびNafion溶液をエタノール中に重量比でγ-CoOOH : AB : Nafion = 5: 1 : 1となるよう分散させて触媒インクとし、これをGCディスク(5mmφ)上に塗布し電極とした。尚インクの塗布量はγ-CoOOH触媒量が10 mg cm-2となるよう調節した。この電極を用いてOERおよびORR分極曲線を測定し、活性評価を行った。分極測定は,Hg/HgO/4 mol dm-3 KOH を参照電極、白金板を対極とする三電極系にて、4 mol dm-3 KOH水溶液中で行った。またORR分極測定は酸素飽和雰囲気下、およびOER分極測定はアルゴン飽和雰囲気下で行った。
【0080】
試験例1
一か月OER分極前後のCFC電極について、CFC粒子の組成分析をオージェ分光法に依って行った。分光測定にはJEOL-2000Aを用いて行い、電子線のプローブ系を10 nm程度まで絞り、電極表面に露出したCFC単一粒子を評価した。また得られたスペクトルについて、各元素のX線発光効率と発光エネルギーを基にフィッティングを行い、表面組成を決定した。
【0081】
また一か月OER分極前後のCFC電極について、スプリング8のBL28XUラインにてEXAFS測定を行った。測定は透過法によって行った。
【0082】
(1)高分解能TEM像(Co酸化物ナノクラスターの形成と粒子径)
図1に、GC電極上に塗布したCFCを1.6 V vs RHEにて1時間OER分極した際の、分極前後のCFC触媒の高分解能TEM像を示す。分極前の試料にはブラウンミラー型相の110面間隔に相当するきれいな格子縞が観察され、また電子線回折にもブラウンミラー型構造に一致するスポットが現れたことから、高結晶性の試料が得られていることがわかる。一方1時間分極した試料は、明らかにバルクの結晶構造が崩れ、アモルファス相へ転移していることがわかる。定電位分極の結果と合わせると、CFCのOER活性は、出発物質であるブラウンミラー相ではなく、アノード分極中に形成するアモルファス相によって発現していることが確認された。TEM像から、このアモルファス相は明らかに不均一な構造を有し、アモルファスマトリクス中に、0.5‐2 nm程度のナノクラスターが分散して形成していることがわかる。さらにこのナノクラスターは秩序構造の特徴を示し、この制限視野電子線回折にも、アモルファスに由来したハローに加え、明瞭なリングが観察された。
【0083】
(2)電圧-時間曲線(Co酸化物ナノクラスターの安定性)
図2に一か月間定電流繰返分極した際の、電圧-時間曲線を示す。電流開始後20時間まで電位が1.6 から1.8 V vs RHEまで徐々に上昇するが、その後は一カ月間一定となった。この初期の電位上昇は、AB粒子が酸化消耗したため、CFCへの導通が悪くなったための過電圧上昇であることが確認された。従ってナノクラスター化したCFCは一か月連続してOER反応を行っても、OER活性は劣化しないことが確認され、耐久性に優れていることが分かる。
【0084】
(3)XRDパターン
図3に1時間及び一か月分極後のXRDパターンを示す。分極前の試料(As prepared)に現れているブラウンミラー型構造のピークは、1時間及び一か月の分極後には完全に消失し、カーボンシート以外のピークは現れなかった。従って、1時間及び一か月アノード分極後のナノクラスター化したCFCは、基本的にアモルファス相であり、XRDピークを示すと予想されるような10 nmを超えるの結晶粒子を含んでいないことが確認された。
【0085】
(4)オージェ分光法(Co酸化物ナノクラスターの化学組成と構造)
表1に一か月OER分極前後の試料粒子をオージェ分光法によって組成分析した結果を示す。どちらにも240 eV付近にNafionに由来したCシグナルが見られる。一か月電解により、明らかに300 eV付近のCaシグナルが消失し、また600eV付近のFeシグナルも非常に弱くなっている。一方640-800eVにかけ、F, CoおよびFeの混合シグナルが現れるが、その強度はほとんど変化していないように見える。ここでFシグナルはNafion由来と思われる。更に一か月試験後Kシグナルの増大が観察されるが、これはNafionのプロトンがイオン交換した際に導入されたものとみなされる。各スペクトルへのフィッティングによりOER分極前後の物質粒子の組成を求めた。その結果を表1にまとめた。
【0086】
【0087】
一か月OER分極前のCFC粒子は、出発物質であるブラウンミラー型相のCa/Fe/Co比、すなわち2/1/1に近い組成を示した。一方、一か月OER分極により調製した本発明のCo酸化物材料は、Caがほぼ消失し、Feもほぼなくなっていることがわかる。つまりCFCは分極中に、CaおよびFeが溶出し、ほぼCoを主成分とした酸化物または水和酸化物に変化していることが示された。
【0088】
なお、この化学組成はアモルファスマトリクスが消失し、ナノクラスター単独となった際に得られた組成であり、アモルファスマトリクスが混在する際の影響が排除されている。生成直後(分極1時間後)のCo酸化物ナノクラスター化学組成についても、電圧-時間曲線の結果、EXAFSフィッティング結果およびOER電流-電圧曲線から、この組成と同様であることが考えられる。
【0089】
(5)EXAFS測定
1時間OER分極により調製したCo酸化物材料及び一か月OER分極により調製したCo酸化物材料のアモルファス相の構造を更に詳しく調べるために、Spring8のBL28XUにてOER分極前後の試料のEXAFSを測定し、FeおよびCo周囲局所構造を調べた。その結果を図 5に示す。一か月分極により、FeおよびCo周りの動径分布関数が大きく変化しており、TEM同様にバルク構造が変化することがわかる。分極によってFe局所構造の周期性は低下しており、最近接酸素に相当する配位圏(1.6Å)のみがみられた。一方Co局所構造の対称性は、分極後むしろ向上しており、2.4Å付近に第二配位圏の形成を示す新たなピーク出現した。従ってOER反応中のアモルファス化により、周期構造を有するCo酸化物クラスターが生成することを示唆している。
【0090】
そこで様々なCo酸化物、水酸化物およびオキシ水酸化物の結晶データを基に、EXAFSへのフィッティングを行ったところ、分極後試料のEXAFS振動は、γ-CoOOHの結晶モデルでよくフィットできることがわかった。フィッティング結果を
図5(d)および表2に示した。γ-CoOOHは、CoO
6八面体の陵共有によって形成する[CoO
2]平面単分子層が、プロトンを介した水素結合によってc軸上積層した層状構造をもつ(
図6)。従って、本発明のCo酸化物材料はOERにより原子の再配列を起こし、酸化物マトリクス中にCoリッチな酸化物部分が形成され、それがγ-CoOOHによく似た配列構造を形成していることが示された。つまり
図1の高分解能TEMにより観測されたナノクラスターは、このγ-CoOOH型配列構造またそれに類似する配列構造をもつナノクラスターであると決定された。
【0091】
さらにEXAFSフィッティング結果より、Co周りの酸素配位数は1時間分極の場合5.1であり、1か月分極の場合が5.3程度である(表2)。一方、酸素欠損が全くない[CoO
2]平面単分子層におけるCo配位数は6となる。従って本発明のCo酸化物材料中に形成されるナノクラスターは、酸素欠損を有する[CoO
1.8]平面単分子層を基本骨格にもつ材料であると考えられる。一方、
図3の結果よりγ-CoOOHのXRDピークが現れないことから、このナノクラスターはc軸方向への積層は、TEM像で観察される粒子径から推察してある程度あるが、発達はしていないと考えられる。従って、本発明のCo酸化物材料中に形成されるナノクラスターは、は平面垂直方向に多少の積層はあるが、この積層はそれほど発達していない、[CoO
1.8]平面単分子層と電荷補償のためのプロトンが配位した[CoO
1.8H
y]
n分子層シート状物質であると同定された。
【0092】
γ-CoOOH 型構造に基づくと、Co原子の第二配位圏には、およそ2.8Åの位置に6個のCo原子が存在する。一方EXAFSフィッティング結果より(表2)、Coの第二配位圏の配位数はおよそ4であり、従ってCoの一部が異種元素置換または欠損しているγ-CoOOH型平面分子層同士が水素結合を介して積層して形成されるナノクラスターを生成する。以上の結果と合わせると、この[CoO1.8Hy]n分子層シートのCoが一部Feで置換されていることが示唆された。
【0093】
【0094】
(6)OER電流―電圧曲線(Co酸化物ナノクラスターの特性)
図7に一か月OER反応前後のCFC試料とγ-CoOOH粉末のOER電流―電圧曲線を示す。一か月分極前後で、ほぼ同じ曲線を示し、よってOER活性は全く変化していないことが確認された。さらに5 mA cm
-2電流時をOERの開始電位と規定すると、一か月分極後のナノクラスター化したCFCおよびγ-CoOOH粉末の開始電位は、それぞれ1.47 V vs RHEおよび1.58 V vs RHEとなり、また1.6 V vs RHEにおけるOER電流値はそれぞれ100 mA cm
-2および12 mA cm
-2となった。従ってナノクラスター化したCFCのほうがγ-CoOOHよりもはるかに高い活性を示した。以上から、γ-CoOOH型構造を有するだけでは高い活性は得られず、そのサイズが数nm程度であることが高い活性を示すためには重要であることが示唆される。さらに、Coの一部がFeで置換されていることも有効であることが示唆される。
【0095】
実施例2
(1)Fe-またはNi-dope CoOOHの調製
Fe-dope CoOOHの作製およびNi-dope CoOOHの作製は共沈法により行った。Co(NO3)3・6H2OおよびFe(NO3)3・6H2OまたはNi(NO3)3・6H2Oを所定のモル比で純水に混合溶解して金属イオン(Co+FeまたはCo+Ni)が0.2 Mとなる溶液を50 cm3調製した。続いてこの混合溶液を200rpmで攪拌しながら2M KOH水溶液50 cm3に静かに添加し、水酸化物の沈殿を得た。ろ過後、20 cm3の純水で2回洗浄したのち、室温で一晩減圧放乾燥した。最後にO2気流中120℃で6h焼成し、CoがFeで置換したγCoOOHであるオキシ水酸化物Fe0.05Co0.95OxHy、Fe0.1Co0.9OxHyおよびNi0.1Co0.95OxHyを得た(以降、Fe-dope CoOOHまたはNi-dope CoOOHと記載する。
【0096】
(2)元素分析
得られた粉末のFe/CoまたはNi/Co比を調べるために、粉末を0.1M KCl溶液に溶かし、それをICPにより分析した。その結果いずれの金属組成比も、仕込みの値と一致した。
【0097】
(3)BET比表面積
得られた粉末のBET比表面積を測定したところ、Fe0.05Co0.95OxHy、Fe0.1Co0.9OxHyおよびNi0.1Co0.95OxHyはそれぞれ86、75、61 m2g-1であった。これらのBET比表面積ば、通常のマイクロメーターサイズ粒子のセラミックスの値より一桁高い値であった。このことから、得られた粉末はナノ粒状の物質であると推察した。
【0098】
(4)Fe-dope CoOOH電極およびNi-dope CoOOH電極のOER活性
実施例1と同様の方法でカーボン混合電極を調製し、4M KOH中で測定した。即ち、アセチレンブラック (AB)、およびNafion溶液をエタノール中に重量比でFe-dope CoOOHまたはNi-dope CoOOH : AB : Nafion = 5: 1 : 1となるよう分散させて触媒インクとし、これをGCディスク(5mmφ)またはカーボンシート(15 mm x 5 mm、膜厚0.2mm)上に塗布し電極とした。尚、インクの塗布量はFe-dope CoOOHまたはNi-dope CoOOH 量が10 mg cm
-2となるよう調節した。
(5)XRD
上記(1)で調製したFe
0.05Co
0.95O
xH
y、Fe
0.1Co
0.9O
xH
yおよびNi
0.1Co
0.95O
xH
yのXRDを測定し、結果を
図8に示す。あわせてγ-CoOOHのXRDパターンも示す。Fe
0.05Co
0.95O
xH
y、Fe
0.1Co
0.9O
xH
yおよびNi
0.1Co
0.95O
xH
yはいずれもγ-CoOOHと同じXRDパターンを示したので、γ-CoOOH型層状構造を有していることが確認された。3つのオキシ水酸化物のXRDパターンは非常にブロードであり、従って結晶子のサイズは20°付近の002ピーク半値幅から、約8-15 nm程度である。
(5)OER
上記(1)で調製したFe
0.05Co
0.95O
xH
y、Fe
0.1Co
0.9O
xH
yおよびNi
0.1Co
0.95O
xH
yのOER分極曲線を
図9に示す。いずれも1.45 V vs RHEから電流が立ち上がり、それぞれ1.47,1.46および1.49 V vs RHEにて5mA cm
-2の電流値に達した。またいずれも1.6 V vs RHEにて120 mA cm
-2以上の電流を示した。
(6)
以上のように、本実施例において共沈法で作製したFe-またはNi-dopeγ-CoOOH型ナノ結晶材料は、実施例1に示したCFCと同等の構造および活性を示した。
【0099】
実施例3
実施例1と同様にCa
2CoFeO
5+δ(CFC)を作製し、作製したCFCを4M KOHに浸漬し、50℃で3日間、気密Arバブリングした。その後Milli-Q水でよく洗浄し、
濾過して試料を得た。KOH処理品のCa/Fe/Co (ICP発光分析)は 0.03/0.21/0.76であった。KOH処理前に測定したBETは2.92 m
2 g
-1であったのに対してKOH処理後は230と約80倍に増大した。KOH処理前の試料(CFC)及びKOH処理品のXRDを
図10に示し、OER分極曲線を
図11に示す。KOH処理品のEXAFSは、実施例1の
図5の1時間OER分極品と同様であった。
【0100】
EXAFSフィッティングの結果を以下の表3に示す。この表の結果からKOH処理品もγ-CoOOH 型構造またそれに類似する配列構造をもつナノクラスターであることが分かる。
【0101】
【産業上の利用可能性】
【0102】
本発明は、二次電池、次世代型高容量二次電池として期待されている金属空気二次電池や、水電解、光水分解による水素製造の分野において有用である。