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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-17
(45)【発行日】2024-10-25
(54)【発明の名称】傷検出装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/88 20060101AFI20241018BHJP
   G01N 21/64 20060101ALI20241018BHJP
【FI】
G01N21/88 K
G01N21/64 Z
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2021096625
(22)【出願日】2021-06-09
(65)【公開番号】P2022188521
(43)【公開日】2022-12-21
【審査請求日】2023-12-15
(73)【特許権者】
【識別番号】501203344
【氏名又は名称】国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】110004370
【氏名又は名称】弁理士法人片山特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中山 真義
(72)【発明者】
【氏名】渋谷 健市
(72)【発明者】
【氏名】東出 忠桐
【審査官】井上 徹
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-208745(JP,A)
【文献】特開2007-089525(JP,A)
【文献】特開昭60-257361(JP,A)
【文献】増田 健二,植物葉の蛍光リモートセンシング計測システムの開発とストレス障害,静岡大学技術部,2015年
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/00-21/958
G01N 33/00-33/46
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
Science Direct
IEEE Xplore
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナス科トウガラシ属に属する果実を転がしながら搬送する搬送装置と、
前記搬送装置によって搬送されている前記果実の表皮に紫外光を照射する紫外光照射部と、
前記紫外光の照射によって前記表皮から出る蛍光の蛍光画像を取得する画像取得部と、
表皮において蛍光を発する組織であるクチクラ層の欠損によって生じる前記蛍光画像において周囲よりも暗い一部領域を傷として検出する検出部と、
を有する傷検出装置。
【請求項2】
前記蛍光の波長は可視光域にあることを特徴とする請求項に記載の傷検出装置。
【請求項3】
前記紫外光照射部は、前記表皮に前記紫外光を照射するブラックライトを含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の傷検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は傷検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
果実についた傷は、それ自体が果実の商品価値を低下させるだけでなく、一緒に梱包される他の個体の鮮度の劣化を誘導する場合もある。これを防ぐために、果実の生産者は、出荷前の選果作業において、果実に傷がついているかを目視で確認し、傷がついた果実を取り除いている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開昭60-257362号公報
【文献】特開平06-129987号公報
【文献】特開平08-184563号公報
【文献】特開平08-327555号公報
【文献】特開2002-286647号公報
【文献】特開2002-296190号公報
【文献】特開2002-365219号公報
【文献】特開2003-014650号公報
【文献】特開2013-231668号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、表皮と果肉部分の色彩が類似している果実においては、表皮についた浅い傷とその周囲との間に明確なコントラスト差が生じにくく、目視で傷を検出するのは難しい。
【0005】
本発明は、果実についた傷を容易に検出することができ傷検出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の傷検出装置は、ナス科トウガラシ属に属する果実を転がしながら搬送する搬送装置と、前記搬送装置によって搬送されている前記果実の表皮に紫外光を照射する紫外光照射部と、前記紫外光の照射によって前記表皮から出る蛍光の蛍光画像を取得する画像取得部と、表皮において蛍光を発する組織であるクチクラ層の欠損によって生じる前記蛍光画像において周囲よりも暗い一部領域を傷として検出する検出部と、を有する装置である。
【発明の効果】
【0008】
本発明傷検出装置は、果実についた傷を容易に検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1(a)~(c)は、それぞれ緑色ピーマン、赤色パプリカ、及び黄色パプリカの可視光下と紫外光下での断面画像である。
図2図2(a)、(b)は、それぞれ緑色ピーマンの断面の可視光下と紫外光下での拡大断面画像である。
図3図3(a)、(b)はそれぞれ緑色ピーマンの表皮の可視光下と紫外光下での顕微鏡画像である。
図4図4(a)は、傷がついた緑色ピーマンの可視光下での画像であり、図4(b)は、図4(a)と同じ緑色ピーマンの紫外光下での画像である。
図5図5(a)は、傷がついた赤色パプリカの可視光下での画像であり、図5(b)は、図5(a)と同じ赤色パプリカの紫外光下での画像である。
図6図6(a)は、傷がついた黄色パプリカの可視光下での画像であり、図6(b)は、図6(a)と同じ黄色パプリカの紫外光下での画像である。
図7図7(a)は、調査に使用した緑色ピーマンの可視光下における画像であり、図7(b)は、暗所に静置した三つの緑色ピーマンに紫外光を照射したときの画像である。
図8図8は、緑色ピーマンの表皮から発せられた蛍光の波長と、当該蛍光の強度との関係を示す図である。
図9図9は、本実施形態に係る傷検出装置の構成図である。
図10図10は、本実施形態に係る傷検出方法のフローチャートである。
図11図11(a)、(b)は、それぞれ可視光下と紫外光下におけるシシトウガラシの画像である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本願発明者は、ナス科トウガラシ属に属する果実に紫外光を照射すると、果実の表皮から青白色の蛍光が発せられることを見出した。これについて以下に説明する。
【0011】
図1(a)~(c)は、それぞれ緑色ピーマン、赤色パプリカ、及び黄色パプリカの可視光下と紫外光下での断面画像である。なお、紫外光下の画像は、暗所に静置した各果実にブラックライトの365nm付近の紫外光を照射することで得た。
【0012】
図1(a)~(c)に示すように、紫外光下ではいずれの果実においても表皮から青白色の蛍光が発せられることが明らかとなった。この蛍光が果実のどの部分に由来するのかを特定するため、本願発明者は果実の拡大断面についても同様の調査を行った。その結果を図2(a)、(b)に示す。
【0013】
図2(a)、(b)は、それぞれ緑色ピーマンの断面の可視光下と紫外光下での拡大断面画像である。
【0014】
図2(a)に示すように、可視光下においては果実の表皮細胞の外側に形成された厚さが約10μmのクチクラ層が確認できる。
【0015】
また、図2(b)に示すように、紫外光下においてはそのクチクラ層が青白色に発光しており、クチクラ層から特異的に蛍光が発せられることが確認できる。よって、紫外光下で蛍光を発する物質はナス科トウガラシ属に属する果実のクチクラ層に存在すると推定される。
【0016】
図3(a)、(b)はそれぞれ緑色ピーマンの表皮の可視光下と紫外光下での顕微鏡画像である。
【0017】
図3(a)に示すように可視光下では隣接する表皮細胞の隙間が暗く映るのに対し、図3(b)に示すように紫外光下では表皮細胞の隙間の蛍光の強度が他の部位よりも増す。これは、表皮細胞の隙間におけるクチクラ層の厚さが他の部位よりも厚く、クチクラ層から多くの蛍光が発せられているためと考えられる。
【0018】
前述のように、クチクラ層は厚さが約10μm程度と薄いため果実に傷がつくと容易に欠損する。そのため、表皮においてクチクラ層の欠損をもたらす傷がついた部分の蛍光の強度は、傷がない部分と比べて弱くなる。これを利用すれば、以下のように蛍光を利用して傷を検出することができる。
【0019】
図4(a)は、傷がついた緑色ピーマンの可視光下での画像である。図4(a)に示すように、可視光下では傷が判然としない。これは、ナス科トウガラシ属に属する果実は、可視光下において表皮と果肉の色彩が類似しており、傷によって果肉が露出しても果肉とその周囲の表皮との間に明確なコントラスト差が生じないためである。
【0020】
一方、図4(b)は、図4(a)と同じ緑色ピーマンの紫外光下での画像である。なお、ここでは暗所に静置された果実に紫外光を照射した。
【0021】
図4(b)に示すように、紫外光下においては傷がない部分の表皮が蛍光を発して明るく映るのに対し、傷がある部分は周囲よりも暗く映る。これは、前述のように蛍光を発生する原因物質が薄いクチクラ層に存在し、傷によってクチクラ層が欠損すると傷の部分から発する蛍光の強度が大幅に低下するためである。紫外光を利用すると、このようにナス科トウガラシ属に属する果実の表皮の傷を容易に検出することができる。
【0022】
なお、図4(a)、(b)では緑色ピーマンについて説明したが、紫外光を利用すれば以下のように果実の色の如何を問わずに傷を検出することができる。
【0023】
図5(a)は、傷がついた赤色パプリカの可視光下での画像である。緑色ピーマンの場合(図4(a)参照)と同様に、可視光下では傷が判然としない。
【0024】
一方、図5(b)は、図5(a)と同じ赤色パプリカの紫外光下での画像である。図5(b)に示すように、紫外光下においては、表皮においてクチクラ層の欠損をもたらす傷がついた部分の蛍光の強度は、傷がない部分と比べて弱くなることで、容易に傷を検出することができる。
【0025】
図6(a)は、傷がついた黄色パプリカの可視光下での画像である。緑色ピーマンの場合(図4(a)参照)と同様に、可視光下では傷が判然としない。
【0026】
一方、図6(b)は、図6(a)と同じ黄色パプリカの紫外光下での画像である。この場合も傷が周囲よりも暗く映り、容易にクチクラ層の欠損をもたらす傷を検出することができる。
【0027】
本願発明者は、ナス科トウガラシ属に属する果実の表皮から出る蛍光の波長分布について調査した。
【0028】
図7(a)は、その調査に使用した緑色ピーマンの可視光下における画像である。この調査では、「A」、「B」、「C」の三つの緑色ピーマンを使用した。
【0029】
一方、図7(b)は、暗所に静置した「A」、「B」、「C」の三つの緑色ピーマンに紫外光を照射したときの画像である。「A」、「B」、「C」の各ピーマンの蛍光の波長を調査したところ図8の結果が得られた。
【0030】
図8は、各緑色ピーマンの表皮から発せられた蛍光の波長と、当該蛍光の強度との関係を示す図である。
【0031】
図8における「D」の波長分布は、「A」と「C」のそれぞれの緑色ピーマンの波長分布を加算した分布である。
【0032】
図8に示すように、各ピーマンから発せられた蛍光は、波長が360nm~600nm程度の可視光領域に属する。また、「A」、「B」、「C」のいずれの緑色ピーマンにおいても、450nm未満の任意の波長の蛍光の強度が、450nm以上の任意の波長の蛍光の強度よりも強い。このように蛍光の波長分布が450nm未満の短波長側に偏っているため、緑色ピーマンの蛍光画像は青白色となる。
【0033】
更に、この例では「A」と「C」のピーマンの波長分布を加算した「D」の波長分布が、「B」のピーマンの波長分布と類似することも明らかとなった。この結果から、「A」と「C」の各ピーマンはそれぞれ異なる蛍光物質を含んでいること、及び「B」のピーマンはこれらの蛍光物質をそれぞれ「A」と「C」の各ピーマンと同程度の量で含んでいることが推測される。
【0034】
次に、本実施形態に係る傷検出装置について説明する。
図9は、本実施形態に係る傷検出装置の構成図である。
【0035】
この傷検出装置10は、ナス科トウガラシ属に属する果実11の表皮についた傷を検出する装置であって、果実11を載置する上面12aを有する載置台12を備える。
【0036】
載置台12の上方には、紫外光照射部13と画像取得部14とが設けられる。紫外光照射部13は、果実11に紫外光Uを照射する光源であり、本実施形態では安価で入手が容易なブラックライトを紫外光照射部13として使用する。ブラックライトが発する紫外光Uの波長は365nm程度であり、この波長であれば果実11のクチクラ層から十分な強度の蛍光Lが発せられる。
【0037】
画像取得部14は、蛍光Lを集光することにより果実11の蛍光画像20を取得するデジタルカメラやビデオカメラである。また、画像取得部14は、取得した蛍光画像20の画像データを傷検出部15に転送する。
【0038】
傷検出部15は、転送された画像データから蛍光画像20を生成し、その蛍光画像20に基づいて果実11の傷を検出するPC(Personal Computer)等のコンピュータである。一例として、傷検出部15は、蛍光画像20において周囲よりも暗い一部領域20aを特定し、その一部領域20aを傷として検出する。一部領域20aの特定方法も特に限定されない。例えば、様々な大きさや形状の傷が存在する複数の蛍光画像20を教師データとする機械学習により傷検出部15が学習を行い、傷検出部15が一部領域20aを特定してもよい。
【0039】
なお、明所では一部領域20aがその周囲の表皮と同程度に明るくなってしまうため、可視光が十分に減光された暗所に果実11を置くのが好ましい。一例として、一部領域20aに当たる可視光の最大強度が、一部領域20aの周囲の表皮から発せられる蛍光Lの最大強度よりも低くなるような暗所に果実11を置くのが好ましい。これにより、一部領域20aとその周囲の表皮との間に明度の差が表れるため、傷検出部15や肉眼で一部領域20aを特定することができる。
【0040】
図10は、本実施形態に係る傷検出方法のフローチャートである。
まず、紫外光照射部13が、果実11の表皮に紫外光Uを照射することにより表皮に蛍光を放射させる(ステップS11)。
【0041】
次に、傷検出部15が、表皮において蛍光の強度が周囲よりも弱い一部領域を傷として検出する(ステップS12)。例えば、傷検出部15は、図9に示したように蛍光画像20において周囲よりも暗い一部領域20aを特定し、その一部領域20aを傷として検出する。
【0042】
なお、この例では載置台12に果実11を載置したが、ベルトコンベヤの上を転がりながら搬送されている果実11に紫外光を照射することにより、果実11の全表面の傷を検出してもよい。
【0043】
以上により、本実施形態に係る傷検出方法の基本的な処理を終える。なお、この例では画像取得部14が取得した蛍光画像を用いて傷検出部15が自動で傷を検出したが、蛍光Lを発している果実11の表皮を人間が目視し、その表皮において蛍光の強度が周囲よりも弱い一部領域を人間が傷として検出してもよい。前述のように蛍光Lは可視光領域にあるため、人間でも簡単に傷を検出することができる。更に、蛍光画像20を人間が目視することにより、人間が果実11に傷がついているかを判断してもよい。
【0044】
以上説明した本実施形態によれば、果実11の表皮において蛍光Lの強度が周囲よりも弱い一部領域20aを傷として検出する。蛍光Lはクチクラ層で発生するため、傷によってクチクラ層が欠損した一部領域20aは周囲よりも暗くなり、傷を容易に検出することができる。
【0045】
これにより選果作業の省力化が図られると共に、選果作業において傷を見落とす可能性が減るため、傷によって商品価値が低下した果実11を誤って出荷するリスクを低減できる。
【0046】
しかも、本実施形態ではクチクラ層の欠損を利用して傷を検出しており、傷からの分泌物が発する蛍光を利用していない。分泌物を利用する方法では、傷の程度や経時変化によって分泌物の量が変動して蛍光強度が変化するため安定して傷を検出できないが、クチクラ層は一度欠損すると元に戻らないため安定して傷を検出できる。
【0047】
上述した実施形態は本発明の好適な実施の例である。但し、これに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変形実施可能である。
【0048】
例えば、上記ではナス科トウガラシ属に属する果実として緑色ピーマン、黄色パプリカ、及び赤色パプリカについて例示したが、同じナス科トウガラシ属に属するシシトウガラシに紫外光を照射して傷を検出してもよい。
【0049】
図11(a)、(b)は、それぞれ可視光下と紫外光下におけるシシトウガラシの画像である。図11(b)に示すように、シシトウガラシも紫外光下で表皮から蛍光が発するため、表皮についた傷を検出することができる。
【符号の説明】
【0050】
10…傷検出装置、11…果実、12…載置台、13…紫外光照射部、14…画像取得部、15…傷検出部、20…蛍光画像、20a…一部領域、L…蛍光、U…紫外光。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11