(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-17
(45)【発行日】2024-10-25
(54)【発明の名称】処理タイミング推定方法、及び処理タイミング推定プログラム
(51)【国際特許分類】
G06Q 50/02 20240101AFI20241018BHJP
A01G 22/05 20180101ALI20241018BHJP
A01G 7/00 20060101ALI20241018BHJP
【FI】
G06Q50/02
A01G22/05 B
A01G7/00 603
A01G7/00 601Z
(21)【出願番号】P 2022035137
(22)【出願日】2022-03-08
【審査請求日】2024-09-03
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】501203344
【氏名又は名称】国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】110004370
【氏名又は名称】弁理士法人片山特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】礒▲崎▼ 真英
(72)【発明者】
【氏名】杉山 智美
(72)【発明者】
【氏名】小田 篤
(72)【発明者】
【氏名】今西 俊介
(72)【発明者】
【氏名】東出 忠桐
【審査官】岩橋 龍太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-128770(JP,A)
【文献】特開2019-024416(JP,A)
【文献】特開平07-322759(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06Q 10/00-99/00
A01G 7/00
A01G 22/05
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
イチゴの育苗開始時の苗の乾物重を取得、又は播種日からの日平均気温のデータに基づいて前記育苗開始時の苗の乾物重を推定する第1処理と、
育苗開始からn日目(nは自然数)における前記苗の乾物重からn日目の苗の葉面積指数を求め、求めた葉面積指数と、n日目の日積算日射量のデータと、に基づいてn日目の日受光量を求め、求めた前記日受光量に基づいてn日目の日乾物生産量を計算するとともに、n日目の苗の乾物重にn日目の日乾物生産量を加算することで、(n+1)日目の苗の乾物重を計算する処理を、nの値を大きくしつつ繰り返す第2処理と、
前記苗の乾物重の計算結果が所定の閾値を超える日を、前記苗の花芽分化を促進するための処理を行うべきタイミングと判断し、出力する第3処理と、
をコンピュータが実行することを特徴とする処理タイミング推定方法。
【請求項2】
前記第2処理において、前記n日目の前記苗の画像データが入力された場合には、前記n日目の前記苗の画像データを用いて前記n日目の葉面積指数を求める、ことを特徴とする請求項1に記載の処理タイミング推定方法。
【請求項3】
イチゴの育苗開始時の苗の画像データから葉面積を計算するとともに、計算した前記葉面積から前記育苗開始時の苗の乾物重を推定する、又は播種日からの日平均気温のデータに基づいて前記育苗開始時の苗の乾物重を推定する第1処理と、
育苗開始からn日目(nは自然数)における前記苗の画像データからn日目の苗の葉面積指数を求め、求めた葉面積指数と、n日目の日積算日射量のデータと、に基づいてn日目の日受光量を求め、求めた前記日受光量に基づいてn日目の日乾物生産量を計算するとともに、n日目の苗の乾物重にn日目の日乾物生産量を加算することで、(n+1)日目の苗の乾物重を計算する処理を、nの値を大きくしつつ繰り返す第2処理と、
前記苗の乾物重の計算結果が所定の閾値を超える日を、前記苗の花芽分化を促進するための処理を行うべきタイミングと判断し、出力する第3処理と、
をコンピュータが実行することを特徴とする処理タイミング推定方法。
【請求項4】
前記第2処理において、前記n日目の前記苗の画像データが存在しない場合には、前記n日目における前記苗の乾物重から前記n日目の葉面積指数を求める、ことを特徴とする請求項3に記載の処理タイミング推定方法。
【請求項5】
前記閾値は、前記イチゴの品種ごとに定められた値であることを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載の処理タイミング推定方法。
【請求項6】
イチゴの育苗開始時の苗の乾物重を取得、又は播種日からの日平均気温のデータに基づいて前記育苗開始時の苗の乾物重を推定する第1処理と、
育苗開始からn日目(nは自然数)における前記苗の乾物重からn日目の苗の葉面積指数を求め、求めた葉面積指数と、n日目の日積算日射量のデータと、に基づいてn日目の日受光量を求め、求めた前記日受光量に基づいてn日目の日乾物生産量を計算するとともに、n日目の苗の乾物重にn日目の日乾物生産量を加算することで、(n+1)日目の苗の乾物重を計算する処理を、nの値を大きくしつつ繰り返す第2処理と、
前記苗の乾物重の計算結果が所定の閾値を超える日を、前記苗の花芽分化を促進するための処理を行うべきタイミングと判断し、出力する第3処理と、
をコンピュータに実行させることを特徴とする処理タイミング推定プログラム。
【請求項7】
イチゴの育苗開始時の苗の画像データから葉面積を計算するとともに、計算した前記葉面積から前記育苗開始時の苗の乾物重を推定する、又は播種日からの日平均気温のデータに基づいて前記育苗開始時の苗の乾物重を推定する第1処理と、
育苗開始からn日目(nは自然数)における前記苗の画像データからn日目の苗の葉面積指数を求め、求めた葉面積指数と、n日目の日積算日射量のデータと、に基づいてn日目の日受光量を求め、求めた前記日受光量に基づいてn日目の日乾物生産量を計算するとともに、n日目の苗の乾物重にn日目の日乾物生産量を加算することで、(n+1)日目の苗の乾物重を計算する処理を、nの値を大きくしつつ繰り返す第2処理と、
前記苗の乾物重の計算結果が所定の閾値を超える日を、前記苗の花芽分化を促進するための処理を行うべきタイミングと判断し、出力する第3処理と、
をコンピュータに実行させることを特徴とする処理タイミング推定プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、処理タイミング推定方法、及び処理タイミング推定プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
11~5月に出荷される促成および半促成栽培のイチゴを定植する場合、花芽分化していることを確認してから定植タイミングを決定するため、苗準備時期に花芽分化が予定通り進んでいるかを確認又は推定する必要がある。また、花芽分化を促進するための処理として、夜冷処理や、日長調節などを実施することがある。夜冷処理や、日長調節などの処理は、花芽分化可能な時期になった段階で実行する必要があるが、花芽分化可能な時期になったことの確認が遅れると、適切な時期に定植ができず、開花が遅延し、ひいては収穫が遅延して、収益減につながるおそれがある。
【0003】
イチゴの花芽分化を確認又は推定する方法としては、各圃場単位で数個体の破壊による植物体の窒素含量調査を行う方法や、検鏡により花芽形成を確認する方法などが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2008-142005号公報
【文献】特開2013-034438号公報
【文献】特開2017-163956号公報
【文献】特開2019-024416号公報
【文献】特開2019-219704号公報
【文献】特開2016-208877号公報
【文献】特開2007-171033号公報
【文献】特開2020-156431号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、窒素含量調査を行う方法では、誤差が大きいため、花芽分化可能な時期を精度よく推定することが難しい。また、検鏡により花芽形成を確認する方法では、既に花芽分化が始まったことしか確認できないため、定植の準備が遅れ、定植作業が遅れるなど、栽培に支障をきたすおそれがある。
【0006】
本発明は、イチゴの苗の花芽分化を促進するための処理を行うべきタイミングの情報を出力することが可能な処理タイミング推定方法、及び処理タイミング推定プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の処理タイミング推定方法は、イチゴの育苗開始時の苗の乾物重を取得、又は播種日からの日平均気温のデータに基づいて前記育苗開始時の苗の乾物重を推定する第1処理と、育苗開始からn日目(nは自然数)における前記苗の乾物重からn日目の苗の葉面積指数を求め、求めた葉面積指数と、n日目の日積算日射量のデータと、に基づいてn日目の日受光量を求め、求めた前記日受光量に基づいてn日目の日乾物生産量を計算するとともに、n日目の苗の乾物重にn日目の日乾物生産量を加算することで、(n+1)日目の苗の乾物重を計算する処理を、nの値を大きくしつつ繰り返す第2処理と、前記苗の乾物重の計算結果が所定の閾値を超える日を、前記苗の花芽分化を促進するための処理を行うべきタイミングと判断し、出力する第3処理と、をコンピュータが実行する処理タイミング推定方法である。
【発明の効果】
【0008】
本発明の処理タイミング推定方法、及び処理タイミング推定プログラムは、イチゴの苗の花芽分化を促進するための処理を行うべきタイミングの情報を出力することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】第1の実施形態に係る農業システムの構成を示す図である。
【
図2】
図2(a)は、
図1のサーバのハードウェア構成を示す図であり、
図2(b)は、
図1の利用者端末のハードウェア構成を示す図である。
【
図4】イチゴの苗の育苗日数と乾物重の関係及び閾値を示すグラフである。
【
図5】第1の実施形態に係るサーバの処理を示すフローチャートである。
【
図6】第1の実施形態の変形例に係るサーバの処理を示すフローチャートである。
【
図7】
図7(a)は、苗の画像の一例を示す図であり、
図7(b)は、
図7(a)から生成される二値化画像の一例を示す図である。
【
図8】第2の実施形態に係るサーバの処理を示すフローチャートである。
【
図9】第2の実施形態の変形例に係るサーバの処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
《第1の実施形態》
以下、農業システムの第1の実施形態について、
図1~
図5に基づいて詳細に説明する。
図1には、第1の実施形態に係る農業システム100の構成が概略的に示されている。本実施形態の農業システム100は、イチゴを栽培する農家や農業法人等(以下、「利用者」と呼ぶ)に対し、栽培するイチゴの苗が花芽分化可能な時期(花芽分化を促進するための処理を行うタイミング)になったことや、いつ頃花芽分化可能になるかを示す情報を提供するためのシステムである。
【0011】
農業システム100は、
図1に示すように、サーバ10と、利用者端末70と、を備える。利用者端末70は、利用者が利用するPC(Personal Computer)等の端末である。サーバ10と利用者端末70は、インターネットなどのネットワーク80に接続されており、各装置間において情報のやり取りが可能となっている。
【0012】
サーバ10は、利用者に対して、イチゴの苗の花芽分化可能時期(花芽分化を促進するための処理を行うタイミング)の情報を提供する情報処理装置である。サーバ10は、利用者端末70から、播種日の情報や、育苗開始時の苗の乾物重のデータ、イチゴの栽培環境データ(日平均気温や日積算日射量)を取得すると、取得した情報に基づいて、花芽分化可能時期(花芽分化を促進するための処理を行うタイミング)を推定し、利用者端末70に対して出力する。
【0013】
図2(a)には、サーバ10のハードウェア構成が概略的に示されている。
図2(a)に示すように、サーバ10は、CPU90、ROM92、RAM94、記憶部(例えば、HDDやSSDなど)96、ネットワークインタフェース97、及び可搬型記憶媒体用ドライブ99等を備えている。これらサーバ10の構成各部は、バス98に接続されている。サーバ10では、ROM92あるいは記憶部96に格納されているプログラム(処理タイミング推定プログラムを含む)、或いは可搬型記憶媒体用ドライブ99が可搬型記憶媒体91から読み取ったプログラム(処理タイミング推定プログラムを含む)をCPU90が実行することにより、
図3に示す各部の機能が実現される。なお、
図3の各部の機能は、例えば、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)やFPGA(Field Programmable Gate Array)等の集積回路により実現されてもよい。
【0014】
図3には、サーバ10の機能ブロック図が示されている。サーバ10においては、CPU90がプログラムを実行することにより、
図3に示すように、乾物重特定部30、葉面積指数算出部32、日受光量算出部34、日乾物生産量算出部36、花芽分化可能時期判定部38、出力部40としての機能が実現されている。なお、サーバ10においては、利用者端末70から播種後の環境データ(日平均気温や日積算日射量のデータ)を取得しているものとする。ここで、サーバ10は、花芽分化可能時期を推定する際に、将来における環境データを利用する場合がある。例えば、閉鎖系育苗のように環境データが固定値の環境で苗が栽培される場合には、サーバ10は、将来の環境データとして当該固定値を用いればよい。また、雨除けハウスなど、天候に影響される環境で苗が栽培される場合には、サーバ10は、将来の環境データとして平年値を用いるなどすればよい。
【0015】
乾物重特定部30は、育苗開始時の苗の乾物重(初期値)を特定する。具体的には、利用者端末70から育苗開始時の苗の乾物重の情報が入力された場合には、入力された乾物重の情報を初期値とする。また、利用者が播種日の情報(年月日)を入力した場合には、播種から葉が展開するまでの生育を日平均気温のデータから計算するとともに、育苗開始時の乾物重を推定し、推定された乾物重を初期値とする。
葉面積指数算出部32は、育苗開始からn日目(nは自然数)における乾物重からn日目の苗の葉面積指数を算出する。なお、n日目=1日目の場合、育苗開始時を意味するので、乾物重特定部30が特定した乾物重の初期値を用いて、1日目の苗の葉面積指数を算出する。なお、葉面積指数は、比葉面積及び栽植密度の値を用いて、次式(1)より算出することができる。
葉面積指数=苗の乾物重×比葉面積×栽植密度 …(1)
【0016】
日受光量算出部34は、葉面積指数算出部32が算出したn日目の葉面積指数と、n日目の日積算日射量のデータと、に基づいてn日目の日受光量を算出する。具体的には、日積算日射量をI、吸光係数をk、LAIを葉面積指数とすると、次式(2)よりn日目の日受光量を算出することができる。
日受光量=I×0.5×(1-e-k・LAI) …(2)
【0017】
日乾物生産量算出部36は、日受光量算出部34が算出したn日目の日受光量に基づいて、n日目の日乾物生産量を算出する。具体的には、次式(3)から日乾物生産量を算出することができる。
日乾物生産量=日受光量×光利用効率 …(3)
【0018】
なお、乾物重特定部30は、乾物重の初期値と、(n-1)日目までに得られた日乾物生産量の合計値とを加算した値(n日目の乾物重(n日目の午前0時の乾物重))に、日乾物生産量算出部36が算出したn日目の日乾物生産量を加算することで、「(n+1)日目の乾物重」を特定することができる。
【0019】
花芽分化可能時期判定部38は、乾物重特定部30が特定した(n+1)日目の乾物重が所定の閾値を超えているか否かを判断することにより、(n+1)日目が花芽分化可能時期であるかを判定する。花芽分化可能時期は、花芽分化を促進するための処理を行うべきタイミングを意味する。なお、閾値は、品種ごとに定められている。例えば、実験の結果、ある品種において、
図4に示すような育苗結果が得られたとする。
図4のグラフは、横軸を育苗日数、縦軸をイチゴの苗の乾物重として、ある品種の育苗結果をプロットしたものであり、花芽が未分化の場合を△、分化している場合を〇で示している。
図4の例では、花芽分化可能時期を判断するための閾値として、4.0を用いることができる。
【0020】
出力部40は、花芽分化可能時期判定部38の判定結果に基づいて、利用者端末70に情報を出力する。例えば、花芽分化可能時期判定部38は、(n+1)日目に花芽分化可能時期(花芽分化を促進するための処理を行うべきタイミング)になる旨の情報を利用者端末70に出力する。利用者端末70では、花芽分化可能時期判定部38から受信した情報を表示するなどして、利用者に提供する。
【0021】
図1に戻り、利用者端末70は、イチゴの苗の情報や栽培環境データなどをサーバ10に送信したり、サーバ10の推定結果を表示する端末である。利用者端末70は、
図2(b)に示すようなハードウェア構成を有する。利用者端末70は、
図2(b)に示すように、CPU190、ROM192、RAM194、記憶部196、ネットワークインタフェース197、表示部193、入力部195、及び可搬型記憶媒体191に格納されたデータ等を読み取り可能な可搬型記憶媒体用ドライブ199等を備えている。これら利用者端末70の構成各部は、バス198に接続されている。表示部193は、液晶ディスプレイ等を含み、入力部195は、キーボードやマウス、タッチパネル等を含む。利用者端末70には、利用者から、播種日の情報や、育苗開始時の苗の乾物重の情報が入力される。また、利用者端末70には、イチゴの苗を栽培している環境下に設置されたセンサから、イチゴの栽培環境データ(日平均気温や日積算日射量)が入力される。なお、イチゴの栽培環境データについては、利用者が利用者端末70に手入力してもよい。
【0022】
利用者端末70は、利用者からイチゴの苗の花芽分化可能時期(花芽分化を促進するための処理を行うべきタイミング)を確認したい旨の要求が入力されると、サーバ10に対して、利用者が入力した情報や、栽培環境データを送信する。
【0023】
(サーバ10の処理について)
次に、サーバ10の処理について、
図5のフローチャートに沿って、その他図面を適宜参照しつつ詳細に説明する。
図5の処理は、利用者が、イチゴの苗の花芽分化可能時期(花芽分化を促進するための処理を行うタイミング)を確認したい旨の要求を利用者端末70に入力し、利用者端末70から、利用者が入力した情報や、栽培環境データがサーバ10に送信されてきた段階で、開始される。
【0024】
図5の処理が開始されると、まずステップS10において、乾物重特定部30が、苗の乾物重の初期値(1日目の乾物重)を推定又は取得する。例えば、利用者端末70から播種日の情報が入力された場合には、播種から葉が展開するまでの生育を日平均気温のデータから計算するとともに、育苗開始時の乾物重を推定し、初期値とする。また、例えば、利用者端末70から育苗開始時の苗の乾物重が入力された場合には、その値を乾物重の初期値とする。
【0025】
次いで、ステップS12では、葉面積指数算出部32が、育苗開始からの日数を示すパラメータnを1に設定する(n=1)。
【0026】
次いで、ステップS14では、葉面積指数算出部32が、乾物重からn日目(1日目)の葉面積指数を算出する。この場合、葉面積指数算出部32は、n日目(1日目)の苗の乾物重を用いて、上式(1)からn日目(1日目)の葉面積指数を算出する。
【0027】
次いで、ステップS16では、日受光量算出部34が、n日目の日積算日射量を取得又は推定する。利用者端末70からn日目の日積算日射量のデータが入力されている場合には、日受光量算出部34は、そのデータを取得する。また、n日目が将来の日である場合には、日受光量算出部34は、前述したように、固定値(閉鎖系育苗などの場合)や平年値(雨除けハウスなどの場合)をn日目の日積算日射量と推定する。
【0028】
次いで、ステップS18では、日受光量算出部34が、n日目の日受光量を算出する。この場合、日受光量算出部34は、ステップS14で算出した葉面積指数と、ステップS16で取得又は推定した日積算日射量を用い、上式(2)に基づいて、n日目の日受光量を算出する。
【0029】
次いで、ステップS20では、日乾物生産量算出部36が、n日目の日乾物生産量を算出する。この場合、日受光量算出部34は、ステップS18で算出した日受光量を用いて、上式(3)に基づいて、n日目の日乾物生産量を算出する。
【0030】
ステップS22では、乾物重特定部30が、(n+1)日目の苗の乾物重を推定する。例えば、乾物重特定部30は、ステップS20において1日目の日乾物生産量が算出された場合、乾物重の初期値と1日目の日乾物生産量を合計した値を2日目の乾物重(2日目午前0時の乾物重)と推定する。また、ステップS20において10日目の日乾物生産量が算出された場合、10日目の乾物重と10日目の日乾物生産量を合計した値を11日目の日乾物生産量(11日目午前0時の乾物重)とする。
【0031】
次いで、ステップS24では、花芽分化可能時期判定部38が、(n+1)日目の苗の乾物重が閾値を超えたか否かを判断する。このステップS24の判断が否定された場合には、ステップS26に移行し、葉面積指数算出部32が、nを1インクリメントする(n=n+1)。その後は、ステップS14に戻り、ステップS24の判断が肯定されるまで、ステップS14~S26の処理・判断を繰り返し実行する。
【0032】
一方、ステップS24の判断が肯定された場合には、ステップS28に移行する。ステップS28に移行すると、出力部40が、(n+1)日目が花芽分化可能時期(花芽分化を促進するための処理を行うべきタイミング)であることを出力する。例えば、(n+1)日目が将来の日である場合には、出力部40は、「〇月〇日に花芽分化可能時期になりますので、花芽分化を促進するための処理(夜冷や日長調整など)の準備を行ってください。」などのメッセージを利用者端末70の表示部193上に表示する。利用者は、メッセージを確認することで、適切なタイミングで、適切な作業(夜冷処理、日長調整、移植準備など)を行うことができる。
【0033】
なお、上記第1の実施形態では、ステップS10の処理が、第1処理に相当し、ステップS14~S26の処理が、第2処理に相当し、ステップS28の処理が、第3処理に相当する。
【0034】
以上、詳細に説明したように、本第1の実施形態によると、乾物重特定部30は、イチゴの育苗開始時の苗の乾物重を取得、又は播種日からの日平均気温のデータに基づいて前記育苗開始時の苗の乾物重を推定して、乾物重の初期値とする(S10)。また、葉面積指数算出部32がn日目の苗の葉面積指数を算出し(S14)、日受光量算出部34がn日目の日受光量を算出し(S18)、日乾物生産量算出部36がn日目の日乾物生産量を算出し(S20)、乾物重特定部30が(n+1)日目の苗の乾物重を計算する(S22)という処理を、nの値を大きくしつつ繰り返し実行する。そして、花芽分化可能時期判定部38は、(n+1)日目の苗の乾物重の計算結果が閾値を超えた場合に(S24:肯定)、苗の花芽分化が可能になると判定し、出力部40は、その旨を出力する(S28)。これにより、本第1の実施形態では、破壊調査による植物体の窒素含量調査を行ったり、技能を必要とする検鏡による花芽形成確認を行ったりしなくても、花芽分化可能時期(花芽分化を促進するための処理を行うべきタイミング)を推定することができる。したがって、窒素含量調査よりも高精度に花芽分化を促進するための処理を行うべきタイミングを推定することができる。また、検鏡とは異なり、花芽分化を促進するための処理を行うべきタイミングを事前に推定することができるため、定植の準備を早い段階で行うことができる。これにより、開花の遅延、ひいては収穫の遅延が生じるのを抑制することができる。
【0035】
また、花芽分化可能時期を精度よく推定できるため、当該花芽分化可能時期の情報を用いることで、開花日や収穫日を精度よく予測することができるようになる。
【0036】
(第1の実施形態の変形例)
次に、第1の実施形態の変形例について説明する。
図6には、第1の実施形態の変形例におけるサーバ10の処理内容がフローチャートにて示されている。本変形例では、
図5のフローチャート(第1の実施形態)に加えて、ステップS13、S15の処理が行われるようになっている。以下、
図6の処理について説明する。
【0037】
図6の処理が開始されると、ステップS10、S12が上記第1の実施形態と同様に行われる。ステップS12の後は、ステップS13に移行し、葉面積指数算出部32が、n日目の苗の画像データがあるか否かを判断する。このステップS13の判断が否定された場合には、第1の実施形態と同様、ステップS14及びステップS16以降の処理が実行される。
【0038】
一方、n日目の苗の画像データがある場合には、葉面積指数算出部32は、ステップS13の判断が肯定されてステップS15に移行する。ここで、苗の画像データは、
図7(a)に示すような苗を上方から撮影した画像であるものとする。なお、利用者は、利用者端末70が備えるカメラを用いて
図7(a)に示すような画像を撮影して、サーバ10に送信してもよい。また、例えば、圃場(苗の上方)に設置したカメラを用いて撮影された画像を利用者端末70が受信し、サーバ10に送信してもよい。
【0039】
ステップS15に移行すると、葉面積指数算出部32は、例えば、
図7(a)の画像の緑色部分を抽出して、緑色部分とそれ以外の部分とに二値化することで、
図7(b)に示すような二値化画像を生成する。そして、葉面積指数算出部32は、二値化画像を用いて、葉面積指数を算出する。なお、葉面積指数は、画像に含まれる所定数の苗が有する葉の総面積を、所定数の苗に割当てられた領域の面積で割ることで求めることができる。
【0040】
ステップS15の後は、ステップS16以降の処理が、上記第1の実施形態と同様に実行される。
【0041】
以上のように、本変形例によれば、苗の画像データが存在する場合に、画像データを用いて苗の葉面積指数を求めることとしているので、精度よく葉面積指数を求めることができる。これにより、(n+1)日目の乾物重を精度よく推定することができるため、花芽分化可能時期(花芽分化を促進するための処理を行うべきタイミング)についても精度よく推定することができる。
【0042】
《第2の実施形態》
次に、第2の実施形態について説明する。
図8には、本第2の実施形態におけるサーバ10の処理がフローチャートにて示されている。
【0043】
図8に示すように、本第2の実施形態では、第1の実施形態(
図5)の処理に含まれるステップS10、S14に代えて、ステップS10’、S14’の処理が実行されるようになっている。なお、本第2の実施形態の処理は、サーバ10が、利用者端末70から各日の苗の画像データを取得できる場合の処理である。
【0044】
図8のステップS10’においては、乾物重特定部30が、乾物重の初期値を推定する。例えば、利用者端末70から播種日の情報が入力された場合には、播種から葉が展開するまでの生育を日平均気温のデータから計算し、そのときの乾物重を初期値として推定する。また、乾物重特定部30は、利用者端末70から育苗開始時の苗の画像データが入力された場合には、当該画像データを用いて乾物重(初期値)を推定する。具体的には、乾物重特定部30は、次式(4)に従って、育苗開始時の乾物重を推定する。
育苗開始時の乾物重=画像データから求めた葉面積÷比葉面積 …(4)
【0045】
ステップS10’の後、ステップS12を経て、ステップS14’に移行すると、葉面積指数算出部32は、n日目の画像データから葉面積指数を算出する。このステップS14’の処理は、上記第1の実施形態の変形例で説明したステップS15と同様であるので、説明は省略する。
【0046】
その後は、ステップS16以降の処理が、上記第1の実施形態と同様に実行される。
【0047】
以上説明したように、本第2の実施形態によると、乾物重特定部30は、乾物重の初期値を苗の画像データや播種日の情報に基づいて推定する(S10’)。また、葉面積指数算出部32がn日目の苗の画像データに基づいてn日目の苗の葉面積指数を算出し(S14)、日受光量算出部34がn日目の日受光量を算出し(S18)、日乾物生産量算出部36がn日目の日乾物生産量を算出し(S20)、乾物重特定部30が(n+1)日目の苗の乾物重を算出する(S22)という処理を、nの値を大きくしつつ繰り返し実行する。そして、花芽分化可能時期判定部38は、(n+1)日目の苗の乾物重の計算結果が閾値を超えた場合に(S24:肯定)、苗の花芽分化が可能になると判定し、出力部40は、その旨を出力する(S28)。これにより、本第2の実施形態では、第1の実施形態と同様、破壊調査による植物体の窒素含量調査を行ったり、技能を必要とする検鏡による花芽形成確認を行ったりしなくても、花芽分化可能時期(花芽分化を促進するための処理を行うべきタイミング)を推定することができる。したがって、窒素含量調査よりも高精度に花芽分化を促進するための処理を行うべきタイミングを推定することができる。また、検鏡とは異なり、花芽分化を促進するための処理を行うべきタイミングを事前に推定することができるため、定植の準備を早い段階で行うことができる。これにより、開花の遅延、ひいては収穫の遅延が生じるのを抑制することができる。また、苗を撮影した画像データを用いて葉面積指数を算出することで、乾物重を精度よく推定できるとともに、花芽分化可能時期を精度よく推定することができる。
【0048】
(第2の実施形態の変形例)
次に、第2の実施形態の変形例について説明する。
図9には、第2の実施形態の変形例におけるサーバ10の処理内容がフローチャートにて示されている。本変形例では、
図8のフローチャート(第2の実施形態)に加えて、ステップS13’、S15’の処理が行われるようになっている。以下、
図9の処理について説明する。
【0049】
図9の処理が開始されると、ステップS10’、S12が上記第2の実施形態と同様に行われる。ステップS12の後は、ステップS13’に移行し、葉面積指数算出部32が、n日目の苗の画像データがあるか否かを判断する。このステップS13’の判断が肯定された場合には、第2の実施形態と同様、ステップS14’及びステップS16以降の処理が実行される。
【0050】
一方、n日目の苗の画像データがない場合、すなわちカメラの故障や通信障害などにより苗の画像データが取得できなかった場合には、ステップS13’の判断が否定されてステップS15’に移行する。ステップS15’に移行すると、葉面積指数算出部32は、第1の実施形態のステップS14と同様、n日目の乾物重から、葉面積指数を算出する。
【0051】
ステップS15’の後は、ステップS16以降の処理が、上記第2の実施形態と同様に実行される。
【0052】
以上のように、本変形例によれば、苗の画像データが取得できなかった場合であっても、乾物重から苗の葉面積指数を求めることとしているので、カメラの故障や通信障害などが発生しても、精度よく葉面積指数を求めることができる。これにより、(n+1)日目の乾物重を精度よく推定することができるため、花芽分化可能時期についても精度よく推定することができる。
【0053】
なお、上記の処理機能は、コンピュータによって実現することができる。その場合、処理装置が有すべき機能の処理内容を記述したプログラムが提供される。そのプログラムをコンピュータで実行することにより、上記処理機能がコンピュータ上で実現される。処理内容を記述したプログラムは、コンピュータで読み取り可能な記憶媒体(ただし、搬送波は除く)に記録しておくことができる。
【0054】
プログラムを流通させる場合には、例えば、そのプログラムが記録されたDVD(Digital Versatile Disc)、CD-ROM(Compact Disc Read Only Memory)などの可搬型記憶媒体の形態で販売される。また、プログラムをサーバコンピュータの記憶装置に格納しておき、ネットワークを介して、サーバコンピュータから他のコンピュータにそのプログラムを転送することもできる。
【0055】
プログラムを実行するコンピュータは、例えば、可搬型記憶媒体に記録されたプログラムもしくはサーバコンピュータから転送されたプログラムを、自己の記憶装置に格納する。そして、コンピュータは、自己の記憶装置からプログラムを読み取り、プログラムに従った処理を実行する。なお、コンピュータは、可搬型記憶媒体から直接プログラムを読み取り、そのプログラムに従った処理を実行することもできる。また、コンピュータは、サーバコンピュータからプログラムが転送されるごとに、逐次、受け取ったプログラムに従った処理を実行することもできる。
【0056】
上述した実施形態は本発明の好適な実施の例である。但し、これに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変形実施可能である。
【符号の説明】
【0057】
10 サーバ
30 乾物重特定部
32 葉面積指数算出部
34 日受光量算出部
36 日乾物生産量算出部
38 花芽分化可能時期判定部
40 出力部
70 利用者端末