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特許7573470炭化ケイ素粉末スラリー及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-17
(45)【発行日】2024-10-25
(54)【発明の名称】炭化ケイ素粉末スラリー及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 32/956 20170101AFI20241018BHJP
【FI】
C01B32/956
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021057431
(22)【出願日】2021-03-30
(65)【公開番号】P2022154404
(43)【公開日】2022-10-13
【審査請求日】2023-11-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000236702
【氏名又は名称】株式会社フジミインコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100103850
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 秀▲てつ▼
(74)【代理人】
【識別番号】100115679
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 勇毅
(74)【代理人】
【識別番号】100066980
【弁理士】
【氏名又は名称】森 哲也
(72)【発明者】
【氏名】増田 祐司
(72)【発明者】
【氏名】牛田 尚幹
(72)【発明者】
【氏名】諌山 拓弥
(72)【発明者】
【氏名】牧野 祐介
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 未那
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 昌明
(72)【発明者】
【氏名】坪田 翔吾
【審査官】廣野 知子
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-157140(JP,A)
【文献】国際公開第2014/132445(WO,A1)
【文献】特開平08-169709(JP,A)
【文献】特開平09-208213(JP,A)
【文献】特開2014-080361(JP,A)
【文献】特開2020-121894(JP,A)
【文献】特開平05-319931(JP,A)
【文献】特開平11-157943(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 32/00-32/991
C04B 35/56-35/58
B01J 21/00-37/36
C01B 33/00-33/193
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶系がα型である炭化ケイ素の粉末が分散媒に分散したスラリーであって、B型粘度計を用いて25℃で測定した粘度が50mPa・s以上200mPa・s以下であり、前記炭化ケイ素の粉末の含有率が10質量%以上30質量%以下であり、前記分散媒に分散している前記炭化ケイ素の粉末の平均分散粒子径は、体積基準の積算粒子径分布において小粒径側からの積算粒子体積が全粒子体積の50%となる粒子径D50として、300nm以下である炭化ケイ素粉末スラリー。
【請求項2】
前記炭化ケイ素の粉末の含有率が20質量%以上30質量%以下である請求項1に記載の炭化ケイ素粉末スラリー。
【請求項3】
前記分散媒が有機溶剤である請求項1又は請求項2に記載の炭化ケイ素粉末スラリー。
【請求項4】
前記分散媒が、同一圧力において水よりも沸点が高い有機溶剤である請求項1又は請求項2に記載の炭化ケイ素粉末スラリー。
【請求項5】
水の含有率が3質量%以下である請求項3又は請求項4に記載の炭化ケイ素粉末スラリー。
【請求項6】
請求項3~5のいずれか一項に記載の炭化ケイ素粉末スラリーを製造する方法であって、前記炭化ケイ素の粉末が水に分散した水系スラリーに前記有機溶剤を添加して、前記炭化ケイ素の粉末と前記水と前記有機溶剤とを含有する混合物とし、この混合物から水を留去して、前記有機溶剤を前記分散媒とする前記炭化ケイ素粉末スラリーを得る分散媒置換工程を備える炭化ケイ素粉末スラリーの製造方法。
【請求項7】
前記水系スラリーは、結晶系がα型である炭化ケイ素の塊状物を水中で湿式粉砕することにより得られるものである請求項6に記載の炭化ケイ素粉末スラリーの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭化ケイ素粉末スラリー及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
結晶系がα型である炭化ケイ素(以下、「α型炭化ケイ素」と記すこともある)の粉末は、アチソン法によって合成されたα型炭化ケイ素の塊状物を粉砕することによって製造することができる。α型炭化ケイ素の塊状物の粉砕は、例えば湿式ビーズミルを用いて行われる。湿式ビーズミルによる粉砕においては、無害な水が液状媒体として用いられることが多いので、α型炭化ケイ素の塊状物を粉砕した結果、α型炭化ケイ素粉末が水に分散したスラリーが得られ易い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2006-83041号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、水に対する炭化ケイ素粉末の分散性が低いため、微粒な炭化ケイ素粉末が水に分散したスラリーは、高粘度となりやすく流動性が低かった。そのため、炭化ケイ素粉末が水に分散したスラリーは、ハンドリング性が低く、例えば、炭化ケイ素が有する耐熱性、熱伝導性、耐摩耗性等の特性を付与するための塗膜を形成する塗料の原料や、上記特性を付与するための機能性付与剤の原料としては、不向きであった。
本発明は、結晶系がα型である炭化ケイ素の粉末が分散媒に高度に分散しており、低粘度で流動性が高い炭化ケイ素粉末スラリー及びその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一態様に係る炭化ケイ素粉末スラリーは、結晶系がα型である炭化ケイ素の粉末が分散媒に分散したスラリーであって、B型粘度計を用いて25℃で測定した粘度が200mPa・s以下であり、分散媒に分散している炭化ケイ素の粉末の平均分散粒子径は、体積基準の積算粒子径分布において小粒径側からの積算粒子体積が全粒子体積の50%となる粒子径D50として、300nm以下であることを要旨とする。
【0006】
本発明の他の態様に係る炭化ケイ素粉末スラリーの製造方法は、上記一態様に係る炭化ケイ素粉末スラリーを製造する方法であって、炭化ケイ素の粉末が水に分散した水系スラリーに有機溶剤を添加して、炭化ケイ素の粉末と水と有機溶剤とを含有する混合物とし、この混合物から水を留去して、有機溶剤を分散媒とする炭化ケイ素粉末スラリーを得る分散媒置換工程を備えることを要旨とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、結晶系がα型である炭化ケイ素の粉末が分散媒に高度に分散しており、低粘度で流動性が高い炭化ケイ素粉末スラリーを得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の一実施形態について詳細に説明する。なお、以下の実施形態は本発明の一例を示したものであって、本発明は本実施形態に限定されるものではない。また、以下の実施形態には種々の変更又は改良を加えることが可能であり、その様な変更又は改良を加えた形態も本発明に含まれ得る。
【0009】
本実施形態に係る炭化ケイ素粉末スラリーは、結晶系がα型である炭化ケイ素(SiC)の粉末が分散媒に分散したスラリーであり、B型粘度計を用いて25℃で測定した粘度が200mPa・s以下である。そして、分散媒に分散している炭化ケイ素の粉末の平均分散粒子径は、300nm以下である。この平均分散粒子径とは、体積基準の積算粒子径分布において小粒径側からの積算粒子体積が全粒子体積の50%となる粒子径D50を意味する。炭化ケイ素粉末のD50の測定方法は特に限定されるものではないが、例えば、レーザー回折法によって測定することができる。
【0010】
本実施形態に係る炭化ケイ素粉末スラリーは、上記のように、炭化ケイ素の粉末が分散媒に高度に分散しており、低粘度で流動性が高い。よって、本実施形態に係る炭化ケイ素粉末スラリーは、ハンドリング性が高く、例えば、炭化ケイ素が有する耐熱性、熱伝導性、耐摩耗性等の特性を付与するための塗膜を形成する塗料の原料や、上記特性を付与するための機能性付与剤の原料として、好適に使用可能である。
【0011】
例えば、本実施形態に係る炭化ケイ素粉末スラリーを原料として含有する塗料を、基材の表面に塗布して塗膜を形成すれば、基材に耐熱性、熱伝導性、耐摩耗性等の特性を付与することができる。また、本実施形態に係る炭化ケイ素粉末スラリーを原料として含有する機能性付与剤を、樹脂組成物等の組成物に添加すれば、組成物に耐熱性、熱伝導性、耐摩耗性等の特性を付与することができる。
【0012】
ハンドリング性をより良好なものとするためには、本実施形態に係る炭化ケイ素粉末スラリーの上記粘度は、150mPa・s以下であることがより好ましい。また、粘度が低すぎるとハンドリング性が低下する場合があるので、本実施形態に係る炭化ケイ素粉末スラリーの上記粘度は、50mPa・s以上であることがより好ましく、100mPa・s以上であることがさらに好ましい。
【0013】
本実施形態に係る炭化ケイ素粉末スラリーにおいては、炭化ケイ素の粉末の含有率は10質量%以上30質量%以下であることが好ましく、20質量%以上25質量%以下であることがより好ましい。炭化ケイ素の粉末の含有率が10質量%以上であれば、炭化ケイ素粉末スラリーにおける微粒な炭化ケイ素粉末の濃度が高濃度と言える。よって、本実施形態に係る炭化ケイ素粉末スラリーが、炭化ケイ素が有する耐熱性、熱伝導性、耐摩耗性等の特性を付与するための塗膜を形成する塗料の原料や、上記特性を付与するための機能性付与剤の原料として、より好適となる。一方、炭化ケイ素の粉末の含有率が30質量%以下であれば、炭化ケイ素の粉末が凝集しにくい。
【0014】
また、本実施形態に係る炭化ケイ素粉末スラリーにおいては、水を分散媒とすることができるが、有機溶剤を分散媒とすることもできる。有機溶剤を分散媒とすれば、炭化ケイ素の粉末が分散媒に高度に分散していて低粘度で流動性が高い炭化ケイ素粉末スラリーが得られやすい。なお、水と有機溶剤の混合溶剤を分散媒とすることも可能である。
【0015】
分散媒として使用できる有機溶剤としては、例えば、ブタノール、ヘキサノール、シクロヘキサノール、エチレングリコール等のアルコールや、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶剤や、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素や、モノクロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素や、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)等のアミド系溶剤や、ジメチルスルホキシド(DMSO)が挙げられる。
【0016】
さらに、本実施形態に係る炭化ケイ素粉末スラリーにおいては、分散媒を、同一圧力において水よりも沸点が高い有機溶剤とすることができる。後述する本実施形態に係る炭化ケイ素粉末スラリーの製造方法で炭化ケイ素粉末スラリーを製造する場合においては、同一圧力において水よりも沸点が高い有機溶剤を分散媒として用いた方が、炭化ケイ素粉末スラリーの製造が容易である。
同一圧力(例えば大気圧)において水よりも沸点が高い有機溶剤の具体例としては1-ブタノール(C410O)が挙げられるが、同一圧力において水よりも沸点が高ければ、前述の各種有機溶剤のいずれも使用することができる。
【0017】
さらに、本実施形態に係る炭化ケイ素粉末スラリーにおいては、分散媒が有機溶剤である場合には、水の含有率は3質量%以下であることが好ましく、1質量%以下であることがより好ましく、0.5質量%以下であることがさらに好ましい。水の含有率が低い方が、低粘度で流動性が高い炭化ケイ素粉末スラリーが得られやすい。
【0018】
本実施形態に係る炭化ケイ素粉末スラリーを製造する方法(本実施形態に係る炭化ケイ素粉末スラリーの製造方法)は特に限定されるものではなく、例えば、炭化ケイ素の粉末と分散媒を混合することによって製造することができるが、有機溶剤を分散媒として用いた炭化ケイ素粉末スラリーの場合は、例えば以下の方法で製造することができる。
【0019】
すなわち、炭化ケイ素の粉末が水に分散した水系スラリーに有機溶剤を添加して、炭化ケイ素の粉末と水と有機溶剤とを含有する混合物とし、この混合物から水を留去して、有機溶剤を分散媒とする炭化ケイ素粉末スラリーを得る分散媒置換工程を備える方法によって、炭化ケイ素の粉末が有機溶剤に分散した炭化ケイ素粉末スラリーを製造することができる。
【0020】
分散媒置換工程においては、添加すべき全量の有機溶剤を水系スラリーに添加した混合物から水の留去を行ってもよいし、添加すべき有機溶剤のうち一部を水系スラリーに添加した混合物から水を留去した後に、水を留去した混合物に残部の有機溶剤を添加してもよい。あるいは、水系スラリーに有機溶剤を少しずつ添加しながら、同時に水の留去を行ってもよい。
【0021】
ここで、上記水系スラリーとしては、結晶系がα型である炭化ケイ素の塊状物を水中で湿式粉砕することにより得られるものを用いることができる。例えば、アチソン法によって合成されたα型炭化ケイ素の塊状物を、水を液状媒体として用いて湿式ビーズミルで粉砕することにより得られるものを用いることができる。アチソン法は、ケイ石又はケイ砂とコークス等の炭素との混合物をアチソン炉(電気抵抗炉)で加熱して炭化ケイ素を製造する方法である。
【0022】
なお、ビーズミルとは、ビーズ状のメディアと原料と液状媒体とを混合して撹拌することにより、原料にメディアを衝突させて、原料を粉砕し粉末とする粉砕機である。平均粒子径が小さい炭化ケイ素粉末を得るためには、湿式粉砕とし、さらに直径の小さいメディアを用いて粉砕を行う必要がある。D50が300nm以下である炭化ケイ素粉末を得るためには、メディアの直径は1mm以下であることが好ましく、0.5mm以下であることがより好ましく、300μm以下であることがさらに好ましい。
【0023】
メディアの材質は特に限定されるものではないが、鉄等の金属よりもアルミナ、ジルコニア、窒化ケイ素等のセラミックを採用することが好ましい。セラミック製のメディアを用いれば、粉砕時に金属等の不純物が炭化ケイ素粉末中に混入しにくい。
水は有機溶剤に比べて無害で取り扱いやすく且つ環境負荷も低いので、α型炭化ケイ素の塊状物を粉砕する際に用いる液状媒体として非常に好適である。ただし、炭化ケイ素粉末の水系スラリーは、粘度が高く流動性が低い場合がある。
【0024】
水系スラリーを乾燥させてα型炭化ケイ素粉末を得て、このα型炭化ケイ素粉末を有機溶剤に分散させることによって、α型炭化ケイ素粉末が有機溶剤に分散した炭化ケイ素粉末スラリーを製造することも可能であるが、水系スラリーを乾燥させると、乾燥の際に炭化ケイ素粉末の凝集が生じるおそれがある(すなわち、炭化ケイ素粉末の一次粒子が凝集して二次粒子になるおそれがある。)。例えば、水に分散している炭化ケイ素粉末の平均分散粒子径(D50)が88nmである水系スラリーを乾燥させると、得られた炭化ケイ素粉末のD50は54μmとなる。凝集により炭化ケイ素粉末の一次粒子が二次粒子になると、一次粒子への再分散は容易ではない。
【0025】
そこで、乾燥することなく水系スラリーから水を取り除いて、α型炭化ケイ素粉末が有機溶剤に分散した炭化ケイ素粉末スラリーを製造する方法を見出した。すなわち、本実施形態に係る炭化ケイ素粉末スラリーの製造方法においては、スラリー状態を保ったまま、蒸留法により分散媒を水から有機溶剤に置換した。これにより、乾燥による炭化ケイ素粉末の凝集を抑制しながら、炭化ケイ素粉末が有機溶剤に高度に分散した、低粘度で流動性が高い炭化ケイ素粉末スラリーを製造することができる。
【0026】
なお、水系スラリーを乾燥させて製造した凝集した炭化ケイ素粉末と有機溶剤とを混合することによって、炭化ケイ素粉末が有機溶剤に高度に分散した炭化ケイ素粉末スラリーを製造することも可能である。すなわち、有機溶剤と接触することによって、凝集した炭化ケイ素粉末が再分散して有機溶剤に高度に分散した炭化ケイ素粉末スラリーが得られることが期待できる。
【0027】
〔実施例〕
以下に実施例及び比較例を示し、本発明をさらに具体的に説明する。
(比較例1)
アチソン法によって合成されたα型炭化ケイ素の塊状物を、ビーズをメディアとして使用し水を液状媒体として使用する湿式ビーズミルで粉砕し、α型炭化ケイ素粉末が水に分散した水系スラリーを得た。α型炭化ケイ素粉末の平均分散粒子径(D50)は、88nmであった。なお、D50の測定方法はレーザー回折・散乱式であり、株式会社堀場製作所製のレーザー回折・散乱式粒子径分布測定装置LA-960を用いて測定した。
【0028】
得られた比較例1の水系スラリーにおけるα型炭化ケイ素粉末の含有率を、株式会社エー・アンド・デイ製の加熱乾燥式水分計MX-50を用いて測定したところ、19.9質量%であった。比較例1の水系スラリーの粘度を、東機産業株式会社製のB型粘度計であるTVB10形粘度計を用いて測定したところ、666.7mPa・s以上であった。なお、粘度の測定温度は25℃である。B型粘度計の測定治具であるロータの種類はH2であり、ロータの回転速度は60min-1である。
【0029】
(実施例1)
比較例1の水系スラリーに対して、回転速度4000min-1の条件で遠心分離処理を20分間行うことによりα型炭化ケイ素粉末を沈降させた後に、α型炭化ケイ素粉末を含有しない上澄み液(水)を除去した。このように、含有される水の量を低減して水系スラリーを濃縮することによって、後述する分散媒の置換に要する時間を短縮することができる。
【0030】
次に、濃縮した水系スラリーに、有機溶剤として1-ブタノール(1気圧における沸点は117.7℃)を添加して、α型炭化ケイ素粉末と水と1-ブタノールとを含有する混合物とした。このとき、この混合物におけるα型炭化ケイ素粉末の含有率は、最終的に製造すべき1-ブタノールを分散媒とする炭化ケイ素粉末スラリーにおけるα型炭化ケイ素粉末の含有率よりも低くした。濃縮した水系スラリーは高粘度であったが、1-ブタノールを添加することによって低粘度化した。この低粘度化により、小さな撹拌力でも混合物を十分に撹拌することが可能となった。
【0031】
こうして得られた2Lの混合物を容量5Lのフラスコに投入し、混合物の撹拌と1-ブタノールの滴下を行いながら1気圧下で加熱することにより水を留去して、分散媒の置換を行った。撹拌速度は350min-1とした。水と1-ブタノールは92.7℃で共沸するので、上記の1-ブタノールの滴下は、水と1-ブタノールが留去しても混合物の液面が一定に保たれるように行った。
【0032】
なお、混合物の撹拌は、水の留去の際に加熱によるα型炭化ケイ素粉末の凝集が抑制されるように、十分な撹拌力で行うことが好ましい。1-ブタノールを添加することによって混合物が低粘度化されているので、撹拌が行いやすくなっている。また、混合物の量に対して、容量が十分に大きいフラスコを用いて水の留去を行うことにより、分散媒の置換に要する時間を短縮することができる。
【0033】
水がほとんど留去されて混合物中の水の含有率が低くなり、1-ブタノールが117.7℃で留去するようになったら、フラスコの加熱を中止し、α型炭化ケイ素粉末の含有率が所望の値となるように1-ブタノールを添加した。そして、α型炭化ケイ素粉末の凝集が抑制されるように十分な撹拌力で撹拌しながら室温まで冷却し、1-ブタノールを分散媒とする炭化ケイ素粉末スラリーを得た。
【0034】
得られた実施例1の炭化ケイ素粉末スラリーにおけるα型炭化ケイ素粉末の含有率を、株式会社エー・アンド・デイ製の加熱乾燥式水分計MX-50を用いて測定したところ、23.4質量%であった。実施例1の炭化ケイ素粉末スラリーにおける水の含有率を、株式会社HIRANUMA製の微量水分測定装置AQ-2200(カールフィッシャー法、電量法)を用いて測定したところ、0.31質量%であった。実施例1の炭化ケイ素粉末スラリーの粘度を測定したところ、130.7mPa・sであった。なお、粘度の測定方法は、比較例1と同様である。
【0035】
実施例1と比較例1の対比から分かるように、実施例1の炭化ケイ素粉末スラリーは、粘度が低く流動性が高かった。このことから、実施例1の炭化ケイ素粉末スラリーは、比較例1の水系スラリーに比べて、α型炭化ケイ素粉末が分散媒に高度に分散していると考えられる。