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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-17
(45)【発行日】2024-10-25
(54)【発明の名称】インキ充填済みカートリッジ
(51)【国際特許分類】
   B05C 5/00 20060101AFI20241018BHJP
   B05C 17/01 20060101ALI20241018BHJP
   B65D 83/76 20060101ALI20241018BHJP
   B05D 3/00 20060101ALI20241018BHJP
【FI】
B05C5/00 101
B05C17/01
B65D83/76 110
B05D3/00 Z
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2023511374
(86)(22)【出願日】2022-03-29
(86)【国際出願番号】 JP2022015422
(87)【国際公開番号】W WO2022210704
(87)【国際公開日】2022-10-06
【審査請求日】2023-09-28
(31)【優先権主張番号】P 2021056109
(32)【優先日】2021-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】591021305
【氏名又は名称】太陽ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【弁理士】
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100120617
【弁理士】
【氏名又は名称】浅野 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100152423
【弁理士】
【氏名又は名称】小島 一真
(72)【発明者】
【氏名】中島 孝典
(72)【発明者】
【氏名】高橋 千夏
(72)【発明者】
【氏名】金沢 康代
(72)【発明者】
【氏名】野口 智崇
【審査官】清水 晋治
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-246887(JP,A)
【文献】特開2020-127919(JP,A)
【文献】国際公開第2020/202782(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05C 5/00-5/04
B05D 1/00-7/26
C09D 11/00-11/54
B65D 83/76
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一端に注出ノズルを備え、他端に開口部を備える円筒状のシリンジ、および前記シリンジの開口部から摺動させてシリンジ内の充填容積を規定するプランジャーを備えるカートリッジと、
前記カートリッジのシリンジ内の規定された空間に充填されたインキと、
を備えるインキ充填済みカートリッジにおいて、
前記インキは、JIS K8803:2011の10 円すい-平板形回転粘度計による粘度測定方法に準拠して、コーンプレート型粘度計を用いて25℃、5rpm、30秒値にて測定した25℃での粘度が、50~2000dPa・sであり、
前記シリンジ内のインキ中に、直径0.1mm以上、0.3mm以下の気泡が少なくとも1個以上含まれており、
シリンジの円筒軸方向において、前記注出ノズルの下端からプランジャーまでの距離をLとした場合に、
前記注出ノズルの下端を始点(S)、L/2の距離にある点(M)、プランジャーを終点(F)として、始点(S)から点(M)までの距離にあるシリンジ内の全気泡体積A(cm)と、点(M)から終点(F)までの距離にあるシリンジ内の全気泡体積B(cm)とが、下記関係式:
0≦A/B<1.0
を満たす、インキ充填済みカートリッジ。
【請求項2】
シリンジの円筒軸方向において、始点(S)から0.9Lの距離にある点(M’)までの距離にあるシリンジ内の全気泡体積A’(cm)と、点(M’)から終点(F)までの距離にあるシリンジ内の全気泡体積B’(cm)とが、下記関係式:
0≦A’/B’<1.0
を満たす、請求項1に記載のインキ充填済みカートリッジ。
【請求項3】
前記始点(S)から点(M’)までの距離にあるシリンジ内に存在する気泡の直径が0.1~0.3mmである、請求項2に記載のインキ充填済みカートリッジ。
【請求項4】
前記点(M)から終点(F)までの距離にあるシリンジ内に充填されているインキの体積をC(cm)とした場合に、前記インキの体積Cに対する前記全気泡体積Bの比率が、下記関係式:
0≦B/C≦1.0×10―1
を満たす、請求項1に記載のインキ充填済みカートリッジ。
【請求項5】
充填された前記インキが10℃以下となるような環境下で保存される、請求項1または2に記載のインキ充填済みカートリッジ。
【請求項6】
前記インキは、熱硬化性樹脂と硬化剤とフィラーとを少なくとも含む、請求項1または2に記載のインキ充填済みカートリッジ。
【請求項7】
前記インキは、プリント配線板の穴埋め用充填インキである、請求項1または2に記載のインキ充填済みカートリッジ。
【請求項8】
前記注出ノズルの上端にチップキャップを備える、請求項1または2に記載のインキ充填済みカートリッジ。
【請求項9】
請求項1または2に記載のインキ充填済みカートリッジの使用方法であって、
10℃以下となるような環境下で保存した前記インキ充填済みカートリッジを、室温環境下にてカートリッジを使用する際に、前記注出ノズル側が下、前記プランジャー側が上となるようにして、10℃以下の環境下から室温となるまで保持する、ことを含む方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インキ充填済みカートリッジに関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器の小型化・高機能化に伴い、プリント配線板のパターンの微細化、実装面積の縮小化、部品実装の高密度化が要求されている。そのため、異なる配線層同士を電気的に接続するための層間接続を形成する貫通孔、すなわちスルーホールが設けられた両面基板や、コア材上に絶縁層、導体回路が順次形成され、ビアホールなどで層間接続されて多層化されたビルドアップ配線板などの多層基板が用いられる。
【0003】
このようなプリント配線板において、表面の導体回路間の凹部や、内壁面に配線層が形成されたスルーホール、ビアホールなどの穴部には、硬化性樹脂充填材により穴埋め加工処理がされる場合がある。このような穴埋め加工処理は、硬化性樹脂充填材からなる穴埋めインキを穴部や凹部に充填してインキを硬化させることにより行われる。インキによる穴埋めは、ディスペンサー等の塗布装置を用いてインキカートリッジから所定量のインキを吐出して行われることがある。
【0004】
上記のようなインキカートリッジを用いてインキを吐出する場合、カートリッジのシリンジに充填されているインキ中に気泡が混入していると、インキを吐出する際に間欠的な吐出となったり、吐出量に変動が生じることがあるため、穴埋め処理された配線基板に不具合が発生する場合がある。そのため、インキカートリッジに充填されているインキには気泡が混入していないことが望ましいといえる。そのため、インキカートリッジのインキを充填する際には、真空脱泡や遠心分離による脱泡処理が行われるのが通常である。しかしながら、上記した硬化性樹脂充填材のようなインキは、樹脂成分やフィラー成分を多く含むことから一般的に粘度が高く、上記した脱泡処理ではインキ中に含まれる微量の気泡を完全に除去することが困難である。
【0005】
上記のような問題に対して、例えば特許文献1には、ボイド(気泡)の混入を抑え、シリンジに充填されている樹脂組成物中のボイドの占める割合が1.0体積ppm~520体積ppmであり、ボイドの最大径が2,500μm以下とした、樹脂組成物充填済みシリンジが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2020-127919号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記した硬化性樹脂充填材からなるインキは、使用前にシリンジ内で樹脂の硬化反応が進まないように冷凍保存されているのが一般的である。そのため、保存時にインキ中に混入していた極微量の気泡であっても、インキを解凍して使用する際の温度変化に伴って気泡体積が増加する。そのため、特許文献1に開示されているような樹脂組成物充填済みシリンジであっても、インキ使用時に、シリンジから間欠的に吐出される場合があった。
【0008】
本発明はこのような課題のもとになされたものであり、その目的は、気泡の混入が少なく、間欠的な吐出を抑制することができるインキ充填済みカートリッジを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
シリンジにインキを充填する際に不可避的に混入する気泡量を少なくするだけでは、インキの間欠的な吐出を完全には防止することができないと考えられる。本発明者らは、シリンジ内に充填されたインキ中に含有される気泡の位置に着目し、たとえ微量な気泡がインキ中に混入していたとしても、気泡がシリンジ内の所定の位置に偏在していれば、インキを使用する際の間欠的な吐出を抑制できるとの考えに至った。本発明は係る知見によるものである。
【0010】
即ち、本発明の要旨は以下のとおりである。
[1] 一端に注出ノズルを備え、他端に開口部を備える円筒状のシリンジ、および前記シリンジの開口部から摺動させてシリンジ内の充填容積を規定するプランジャーを備えるカートリッジと、
前記カートリッジのシリンジ内の規定された空間に充填されたインキと、
を備えるインキ充填済みカートリッジにおいて、
前記インキは、JIS K8803:2011の10 円すい-平板形回転粘度計による粘度測定方法に準拠して、コーンプレート型粘度計を用いて25℃、5rpm、30秒値にて測定した25℃での粘度が、50~2000dPa・sであり、
前記シリンジ内のインキ中に、直径0.1mm以上の気泡が少なくとも1個以上含まれており、
シリンジの円筒軸方向において、前記注出ノズルの下端からプランジャーまでの距離をLとした場合に、
前記注出ノズルの下端を始点(S)、L/2の距離にある点(M)、プランジャーを終点(F)として、始点(S)から点(M)までの距離にあるシリンジ内の全気泡体積A(cm)と、点(M)から終点(F)までの距離にあるシリンジ内の全気泡体積B(cm)とが、下記関係式:
0≦A/B<1.0
を満たす、インキ充填済みカートリッジ。
[2] シリンジの円筒軸方向において、始点(S)から0.9Lの距離にある点(M’)までの距離にあるシリンジ内の全気泡体積A’(cm)と、点(M’)から終点(F)までの距離にあるシリンジ内の全気泡体積B’(cm)とが、下記関係式:
0≦A’/B’<1.0
を満たす、[1]に記載のインキ充填済みカートリッジ。
[3]前記始点(S)から点(M’)までの距離にあるシリンジ内に存在する気泡の直径が0.3mm以下である、[2]に記載のインキ充填済みカートリッジ。
[4] 前記点(M)から終点(F)までの距離にあるシリンジ内に充填されているインキの体積をC(cm)とした場合に、前記インキの体積Cに対する前記全気泡体積Bの比率が、下記関係式:
0≦B/C≦1.0×10―1
を満たす、[1]に記載のインキ充填済みカートリッジ。
[5] 充填された前記インキが10℃以下となるような環境下で保存される、[1]または[2]に記載のインキ充填済みカートリッジ。
[6] 前記インキは、熱硬化性樹脂と硬化剤とフィラーとを少なくとも含む、[1]または[2]に記載のインキ充填済みカートリッジ。
[7] 前記インキは、プリント配線板の穴埋め用充填インキである、[1]または[2]に記載のインキ充填済みカートリッジ。
[8] 前記注出ノズルの上端にチップキャップを備える、[1]または[2]に記載のインキ充填済みカートリッジ。
[9] [1]または[2]に記載のインキ充填済みカートリッジの使用方法であって、
10℃以下となるような環境下で保存した前記インキ充填済みカートリッジを、室温環境下にてカートリッジを使用する際に、前記注出ノズル側が下、前記プランジャー側が上となるようにして、10℃以下の環境下から室温となるまで保持する、ことを含む方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明のインキ充填済みカートリッジによれば、インキの粘度が高く、インキ中の気泡を完全には脱泡できない場合であっても、間欠的な吐出を抑制することができるインキ充填済みカートリッジとすることができる。そのため、比較的粘度の高いプリント配線板穴埋め用充填インキであっても、本発明のインキ充填済みカートリッジを適用すれば、穴埋め加工処理に不具合を来さず、高品位な配線板を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の一実施形態によるインキ充填済みカートリッジの断面図。
図2】本発明の他の実施形態によるインキ充填済みカートリッジの断面図。
図3】カートリッジへのインキの充填操作を説明する断面図。
図4図3のE-E’およびF-F’断面図。
図5】インキ充填が完了したカートリッジを脱泡処理した後のインキ充填済みカートリッジの断面図。
図6図5のG-G’およびH-H’断面図。
図7】カートリッジを自転および公転させる工程を説明する概略図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して本発明の一実施の形態について説明する。なお、本件明細書に添付する図面においては、図示と理解のしやすさの便宜上、適宜縮尺および縦横の寸法比等を、実物のそれらから変更し誇張してある。
【0014】
なお、本明細書において用いる、形状や幾何学的条件ならびにそれらの程度を特定する、例えば、「端部」、「始点」、「終点」等の用語や長さや角度の値等については、厳密な意味に縛られることなく、同様の機能を期待し得る程度の範囲を含めて解釈することとする。
また、本発明において、粘度は、JIS Z 8803:2011の10「円すい-平板形回転粘度計による粘度測定方法」に準拠して測定した粘度を意味し、具体的には、コーンプレート型粘度計(TVE-33H、東機産業株式会社製)を用いて、25℃、5rpm、30秒値の条件にて測定した値をいうものとする。
【0015】
図1は、本発明の一実施形態によるインキ充填済みカートリッジの断面図である。インキ充填済みカートリッジ1は、カートリッジ2内にインキ3が充填されたものである。カートリッジ2は、図1に示されているように、シリンジ10とプランジャー20とを備えている。シリンジ10には、一端に注出ノズル30を備えるとともに、他端に開口部40を備えている。また、シリンジ10は円筒形状を有しており、プランジャー20は、シリンジ10の開口部40から、シリンジの内壁を摺動させてシリンジ10内の充填容積を規定するともに、インキ充填済みカートリッジ1の使用時には、シリンジ内を注出ノズル30側に摺動させることで、シリンジ10内のインキ3を注出ノズル30から吐出することができる。
【0016】
注出ノズル30側のシリンジの端部は、カートリッジの使用時にインキが残らず使用できるよう、図1に示すように円錐形状を有していてもよい。また、シリンジの端部が円錐形状である場合は、プランジャー20の一方の端部が円錐形状を有していることが好ましい。
【0017】
また、本発明の実施形態によれば、カートリッジ2は、注出ノズル30の上端にチップキャップ50を備えていてもよい。チップキャップ50により、注出ノズル30の開口を閉塞することで、シリンジ10内に充填したインキ3が注出ノズル30の上端(注出口)から漏るのを防止できる。チップキャップ50の注出ノズル30への密栓方法としては、スクリュー式、スナップ式等の公知の方法を採用することができる。
【0018】
シリンジ10の開口部40は、全面開口されているよりは、プランジャー20を摺動させる治具(図示せず)が挿入できる程度の大きさで開口している方が好ましい。その場合、シリンジ10の端部に、中心部が所定の大きさで開口したフリンジ(図示せず)が設けられていてもよい。さらに、シリンジ10の上端には、シリンジ10内の充填したインキ3が漏れ出ないようにヘッドキャップ60が設けられていてもよく、ヘッドキャップ60によりシリンジの開口部40を閉塞する。なお、インキ充填済みカートリッジ1の使用時には、チップキャップ50およびヘッドキャップ60を取り外す必要があることから、チップキャップ50およびヘッドキャップ60は着脱可能にシリンジ10に設けられることが好ましい。チップキャップ50およびヘッドキャップ60の着脱可能な密栓方法としては、スクリュー式、スナップ式等の公知の方法を採用することができる。
【0019】
上記したように、インキ充填済みカートリッジ1は、カートリッジ2のシリンジ10内にインキ3が充填されたものであるが、インキ3中には、直径0.1mm以上の気泡70が少なくとも1個以上含まれおり、気泡全体がインキ3中に偏在している。すなわち、シリンジ10の円筒軸方向において、注出ノズル30の下端からプランジャー20までの距離をLとした場合に、注出ノズル30の下端を始点(S)、始点(S)からL/2の距離にある点を点(M)、プランジャーを終点(F)として、始点(S)から点(M)までの距離にあるシリンジ内の全気泡体積A(cm)と、点(M)から終点(F)までの距離にあるシリンジ内の全気泡体積B(cm)とが、下記関係式:
0≦A/B<1.0
を満たしている。
【0020】
本発明のインキ充填済みカートリッジは、カートリッジ2内のインキ3中に含まれる気泡70が、上記関係式を満たすように偏在しているため、ディスペンサー装置等を用いてインキ充填済みカートリッジからインキを吐出する際に気泡による間欠等の吐出不良を抑制することができる。そのため、比較的粘度の高いプリント配線板の穴埋め用充填インキであっても、本発明のインキ充填済みカートリッジを適用すれば、穴埋め加工処理に不具合を来さず、高品位な配線板を製造することができる。本発明の効果の観点においては、0≦A/B<7.0×10―1であることが好ましく、0≦A/B<5.0×10―1であることがより好ましい。
【0021】
また、本発明のインキ充填済みカートリッジの好ましい実施形態においては、図2に示すように、シリンジ10の円筒軸方向において、始点(S)から0.9Lの距離にある点(M’)までの距離にあるシリンジ内の全気泡体積A’(cm)と、点(M’)から終点(F)までの距離にあるシリンジ内の全気泡体積B’(cm)とが、下記関係式:
0≦A’/B’<1.0
を満たす。上記関係式を充足するようにインキがシリンジ内に充填されていることで、吐出不良がより改善さる。本発明の効果の観点においては、0≦A’/B’<7.0×10―1であることが好ましく、0≦A’/B’<5.0×10―1であることがより好ましい。
【0022】
また、1つの気泡の大きさは小さい程好ましいと言えるが、後記で詳述するように、25℃での粘度が、50~2000dPa・sであるような粘度が高いインキをカートリッジに充填する際には不可避的に気泡が混入し、減圧脱泡や遠心分離による脱泡処理を施しても完全にはインキ中から気泡を除去することはできない。本発明においては、カートリッジへのインキ充填時に不可避的に取り込まれてしまうインキ中の気泡を集積してある程度の大きさ(直径0.1mm以上)とし、カートリッジのシリンジ内に偏在させることで、インキ充填済みカートリッジ使用時の間欠的な吐出を抑制しようとするものである。なお、カートリッジのシリンジ内のインキ内には、直径0.1mm以上の気泡が少なくとも1個以上が含まれるが、直径0.1mm未満の小さい気泡が含まれることを排除するものでないことは言うまでもない。また、直径が0.3mm以下程度の極小の気泡であれば、インキの吐出性能には実質的には影響しない。
【0023】
本発明の一実施形態においては、カートリッジ2において、始点(S)から点(M)までの距離にあるシリンジ内に充填されているインキの体積をD(cm)とした場合に、インキの体積Dに対する全気泡体積Aの比率が、下記関係式:
0≦A/D≦1.0×10―2
を満たすことが好ましく、0≦A/D≦1.0×10―3を満たすことがより好ましく、0≦A/D≦1.0×10―4を満たすことがさらにより好ましい。
また、始点(S)から点(M’)までの距離にあるシリンジ内に充填されているインキの体積をD’(cm)とした場合に、インキの体積D’に対する全気泡体積A’の比率が、下記関係式:
0≦A’/D’≦5.0×10―3
を満たすことがさらに好ましく、0≦A’/D’≦5.0×10―4でを満たすことが特に好ましく、0≦A’/D’≦5.0×10―5が特により好ましい。カートリッジの注出ノズルに近い側のインキ中に含まれる気泡が少ないほど、より一層、間欠的な吐出を抑制することができる。
【0024】
本発明の一実施形態においては、カートリッジ2において、点(M)から終点(F)までの距離にあるシリンジ内に充填されているインキの体積をC(cm)とした場合に、インキの体積Cに対する全気泡体積Bの比率が、下記関係式:
0≦B/C≦1.0×10―1を満たすことが好ましく、0≦B/C≦1.0×10―2を満たすことがより好ましく、0≦B/C≦1.0×10―3を満たすことがさらに好ましい。
【0025】
また、点(M’)から終点(F)までの距離にあるシリンジ内に充填されているインキの体積をC’(cm)とした場合に、インキの体積C’に対する全気泡体積B’の比率が、下記関係式:
0≦B’/C’≦5.0×10―1
を満たすことが好ましく、0≦B’/C’≦5.0×10―2を満たすことがより好ましく、0≦B’/C’≦5.0×10―3がさらに好ましい。偏在した気泡が、上記した関係式を満たす程度でインキ中に含まれることにより、より一層、間欠的な吐出を抑制することができる。
【0026】
カートリッジに充填されたインキ中に存在する気泡の体積は、産業用X線CT装置(例えば、株式会社アールエフ、商品名:NAOMi-CT 3D-L)を用いて測定することができる。測定方法としては、前記産業用X線CT装置を用いて、シリンジ内部の全体を、例えば撮影分解能0.083mmで3Dスキャンし、得られた3Dスキャン画像から、円筒状シリンジの軸方向に対する垂直断面を軸方向に連続的に観察しながら、観察された各気泡の数をカウントし、各気泡の最大径(R)を測定し、その最大径から下記式を用いて、気泡部分の体積(V)を算出することができる。なお、式中のVは気泡体積を表し、Rは気泡の最大径を表す。
V=(πR)/6
また、シリンジに充填したインキ中の全気泡体積は、産業用X線CT装置を用いて測定した各気泡の体積を合計することにより算出することができる。インキ体積は、比重と重量を測定し、体積換算することで算出することができる。
【0027】
シリンジの容積は特に制限されるものではなく、使用用途によって適宜容積を調整してよいが、取扱性の観点から、100~1000cmであることが好ましく、より好ましくは200~800cmであり、さらに好ましくは300~600cmである。また、シリンジの内径は、2~6cm程度であることが好ましく、シリンジ長さは、10~40cm程度である。
【0028】
カートリッジに充填されるインキは、その調製時に定法に従って脱泡処理が施されるが、調製したインキ中に気泡がほとんど含まれていない状態であっても、インキの粘度が高い場合には、カートリッジにインキを充填する際に不可避的に気泡がインキ中に混入する。図3は、カートリッジへのインキの充填操作を説明する断面図である。図3に示すように、インキはカートリッジ2の注出ノズル30側から充填され、インキの充填とともにプランジャーがシリンジの上端側(開口部が設けられている側)に摺動する(図3中の左側)。インキが粘度の高い液体である場合は、充填時に空気を巻き込みながらカートリッジのシリンジ内にインキが充填されていくため、インキの充填が完了した状態(図3中の右側)では、インキ中に均一に微細な気泡(直径1~5mm程度)が含有されている。このような微量な気泡は重力のみでは上方(図3中のプランジャー側)に移動することができない。また、図示はしないが、注出ノズル30の開口を閉塞しておき、プランジャーをシリンジに挿入する前にシリンジの開口部側からインキを充填することもできるが、この場合であっても、インキが高粘稠な液体であると上記と同様に不可避的に気泡がインキ内に混入する。また、シリンジの開口部側からインキを充填した場合には、開口部近傍だけでなく、注出ノズル近傍にも不可避的に気泡が混入する。
【0029】
図4は、図3のE-E’断面およびF-F’断面を示したものである。また、図5および図6は、インキ充填が完了したカートリッジを脱泡処理した後のインキ充填済みカートリッジの円筒軸方向の断面図およびG-G’断面およびH-H’断面を示したものである。インキ充填時(図4の左側)およびインキ充填完了時(図4の右側)のいずれにおいても、インキ中に微小な気泡が偏在せずに含有している。一方、本発明のインキ充填済みカートリッジでは、0≦A/B<1.0を満たすように、好ましくは0≦A’/B’<1.0を満たすようにインキが充填されているため、図5に示すように、注出ノズル30に近い側のインキには、吐出に影響を与えるような大きさの気泡は含まれておらず、プランジャー側に近い側に一定の大きさ(直径0.1mm以上)となった気泡が偏在している。気泡の偏在は、シリンジの円筒軸方向のみならず、円筒断面方向においても偏在していることが好ましい。この場合、気泡がシリンジ内壁近傍に存在することが好ましい。
【0030】
カートリッジを構成するシリンジは、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリエステル等の種々の樹脂製のものを使用することができる。後記するように、インキの保存安定性を考慮してインキは、カートリッジに充填された後に、10℃以下の温度で保存され、特に0℃以下の温度で凍結保存されることが好ましく、そのためシリンジには耐寒性の高い樹脂であるポリプロピレンまたはポリエチレン製であることがより好ましい。
【0031】
プランジャーは、シリンジの内壁を摺動するため、弾性材料から構成されていることが好ましい。例えば、天然ゴム、ブチルゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、スチレン-ブタジエンゴム、シリコーンゴム等の各種ゴム材料や、ポリエチレン、ポリウレタン、ポリエステル、ポリアミド等の熱可塑性エラストマー等の弾性材料が挙げられる。
【0032】
上記した本発明のインキ充填済みカートリッジを製造する方法について説明する。カートリッジに充填されるインキは、後記するように種々の成分を含むものであり、各成分を所定の配合割合にて配合撹拌し、公知慣用の方法にて製造することができる。特に本発明においては、真空攪拌処理を施すこともできる。真空攪拌処理によって、インキを撹拌する際に取り込まれた気泡や水および低沸点の不純物等を除去することができる。このようにして得られたインキは、25℃での粘度が50~2000dPa・sであり、好ましい粘度は150~1000dPa・sであり、より好ましくは300~600dPa・sである。粘度が50dPa・s未満の比較的低粘度のインキでは、特別の操作を行わずともインキ充填時に不可避的に混入した気泡は、注出ノズルが下側となるようにカートリッジを立てておけば、経時的に気泡が上方に移動する。一方、粘度が2000dPa・sを超えるような粘度の高いインキでは、0≦A/B<1.0となるように、カートリッジ内の気泡を集積させて偏在させることが困難である。とりわけ、0≦A’/B’<1.0となるようにフランジ内の気泡を集積させて偏在させることは困難である。なお、インキの粘度は、後記するように、熱硬化性樹脂の種類や、フィラーの含有量、さらには任意に添加される添加剤等によって調整することができる。
【0033】
次に、調整されたインキをカートリッジに充填する。インキは、カートリッジ1のシリンジ10の注出ノズル30から充填してもよいし、注出ノズル30をチップキャップ50により閉塞しておき、シリンジ10の上端の開口部40から充填してもよい。なお、注出ノズル30からインキを充填する場合は、プランジャー20を注出ノズル30側に摺動させておき、インキを注出ノズル30から加圧充填し、プランジャー20を上方に摺動させ(図3の左側の状態)、インキ充填を完了させてもよい(図3の右側の状態)。勿論、プランジャーを装着しない状態でシリンジ10にインキを常圧にて充填し、充填が完了した後にプランジャー20を打栓してもよい。その後、注出ノズル30をチップキャップ50により閉塞し、シリンジ10の開口部40をヘッドキャップ60により閉塞することにより、インキ充填されたカートリッジを密封する。
【0034】
上記のようにインキをカートリッジに充填した直後は、図3に示したように、インキ中に均一に微細な気泡(直径1~5mm程度)が含有されている。25℃での粘度が、50~2000dPa・sのインキでは、このような微量な気泡は重力のみでは上方(図3中のプランジャー側)に移動することができない。本発明においては、インキ充填されたカートリッジを公転、または自転かつ公転させることにより、インキ中に分散している微小な気泡を所定の位置に集積させ、0≦A/B<1.0となるように、好ましくは0≦A’/B’<1.0となるように気泡を偏在させる。本発明の効果の観点からは、自転かつ公転させることが好ましい。なお、カートリッジを自転かつ公転させる場合は、自転と公転とを同時に行ってもよいし、別々に行ってもよい。
【0035】
カートリッジに充填されたインキ中の気泡を破泡させるとともに小さい気泡を集合させてある程度の大きさとし、さらには気泡をカートリッジのプランジャー側に移動させて偏在させるために、自転公転型の遠心分離装置を使用することができる。
【0036】
図7は、インキを充填したカートリッジを自転かつ公転させる工程を説明する概略図である。インキを充填したカートリッジを自転させながら公転させる。この場合、図7に示すように、カートリッジの注出ノズル側が下側(重力方向)となるように配置する。カートリッジの自転軸は、公転軸と並行(図中のθ=0°)としてもよいが、θが30~60°となるように傾斜させながら公転させることが好ましい。この傾斜角(θ)は、45°である。
【0037】
自転および公転の速度は、インキの粘度によって適宜調整することができるが、本発明で使用するインキの粘度範囲(25℃での粘度が、50~2000dPa・s)においては、自転速度の好ましい範囲は150~450rpmであり、より好ましい範囲は250~350rpmである。また、公転速度の好ましい範囲は500~900rpmであり、より好ましい範囲は650~850rpmである。
【0038】
次に、本発明のカートリッジに充填されるインキについて説明する。インキは25℃での粘度が50~2000dPa・sのものであれば、本発明のカートリッジに適用することができるが、一例としてプリント配線板等の穴埋め加工処理に使用される充填インキについて説明する。充填インキは、熱硬化性樹脂と硬化剤とフィラーとを少なくとも含むことが好ましい。以下、各成分について説明する。
【0039】
充填インキに含まれる熱硬化性樹脂としては、熱により硬化し得るものであれば特に制限なく使用することができるが、エポキシ樹脂を好適に使用することができる。エポキシ樹脂としては、1分子中に2個以上のエポキシ基を有するものであれば制限なく使用することができる。例えば、後記するビスフェノール型骨格を有するエポキシ樹脂、後記するフェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールAのノボラック型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ナフトール型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、トリフェニルメタン型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、脂肪族鎖状エポキシ樹脂、リン含有エポキシ樹脂、アントラセン型エポキシ樹脂、ノルボルネン型エポキシ樹脂、アダマンタン型エポキシ樹脂、フルオレン型エポキシ樹脂、後記するアミノフェノール型エポキシ樹脂、アミノクレゾール型エポキシ樹脂、アルキルフェノール型エポキシ樹脂等を挙げることができる。上記したエポキシ樹脂は1種または2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0040】
また、充填インキには、ビスフェノール型骨格を有するエポキシ樹脂を含むこともできる。ビスフェノール型骨格を有するエポキシ樹脂としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールE(AD)型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂等が挙げられるが、これらのなかでも、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールE(AD)型エポキシ樹脂が好ましい。また、ビスフェノール型骨格を有するエポキシ樹脂は液状、半固形、固形のいずれも用いられるが、なかでも、充填性の観点から液状であることが好ましい。なお、液状とは、20℃または45℃で流動性を有する液体状態にあることをいうものとする。
【0041】
これらビスフェノール型骨格を有するエポキシ樹脂は1種類を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよいが、特にビスフェノールA型エポキシ樹脂とビスフェノールF型エポキシ樹脂の2種を併用して用いることが好ましい。これらの市販品としては、三菱ケミカル株式会社製jER 828、同jER 834、同jER 1001(ビスフェノールA型エポキシ樹脂)、同jER 807、同jER 4004P(ビスフェノールF型エポキシ樹脂)、エア・ウォーター社製R710(ビスフェノールE型エポキシ樹脂)等が挙げられる。
【0042】
また、充填インキには、多官能エポキシ樹脂が含まれていてもよい。多官能エポキシ樹脂としては、ヒドロキシベンゾフェノン型エポキシ樹脂である株式会社ADEKA製のEP-3300E等、アミノフェノール型エポキシ樹脂(パラアミノフェノール型液状エポキシ樹脂)である三菱ケミカル株式会社製のjER 630、住友化学株式会社製のELM-100等、グリシジルアミン型エポキシ樹脂である三菱ケミカル株式会社製のjER
604、日鉄ケミカル&マテリアル株式会社製のエポトートYH-434、住友化学株式会社製のスミ-エポキシELM-120、フェノールノボラック型エポキシ樹脂であるダウ・ケミカル社製のDEN-431等が挙げられる。これら多官能エポキシ樹脂は1種または2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0043】
充填インキに熱硬化性樹脂が含まれる場合は、熱硬化性樹脂を硬化させるための硬化剤を含むことが好ましい。硬化剤としては、熱硬化性樹脂を硬化させるために一般的に使用されている公知の硬化剤を使用することができ、例えばアミン類、イミダゾール類、多官能フェノール類、酸無水物、イソシアネート類、およびこれらの官能基を含むポリマー類があり、必要に応じてこれらを複数用いても良い。アミン類としては、ジシアンジアミド、ジアミノジフェニルメタン等がある。イミダゾール類としては、アルキル置換イミダゾール、ベンゾイミダゾール等がある。また、イミダゾール化合物はイミダゾールアダクト体等のイミダゾール潜在性硬化剤であってもよい。多官能フェノール類としては、ヒドロキノン、レゾルシノール、ビスフェノールAおよびそのハロゲン化合物、さらに、これにアルデヒドとの縮合物であるノボラック、レゾール樹脂等がある。酸無水物としては、無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、無水メチルナジック酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸等がある。イソシアネート類としては、トリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート等があり、このイソシアネートをフェノール類等でマスクしたものを使用しても良い。これら硬化剤は1種類を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0044】
上記した硬化剤のなかでも、アミン類やイミダゾール類を導電部および絶縁部との密着性、保存安定性、耐熱性の観点から好適に使用することができる。炭素数2~6のアルキレンジアミン、炭素数2~6のポリアルキレンポリアミン、炭素数8~15である芳香環含有脂肪族ポリアミンなどの脂肪族ポリアミンのアダクト化合物、またはイソホロンジアミン、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサンなどの脂環式ポリアミンのアダクト化合物、または上記脂肪族ポリアミンのアダクト化合物と上記脂環式ポリアミンのアダクト化合物との混合物を主成分とするものが好ましい。特に、キシリレンジアミンまたはイソホロンジアミンのアダクト化合物を主成分とする硬化剤が好ましい。
【0045】
上記脂肪族ポリアミンのアダクト化合物としては、当該脂肪族ポリアミンにアリールグリシジルエーテル(特にフェニルグリシジルエーテルまたはトリルグリシジルエーテル)またはアルキルグリシジルエーテルを付加反応させて得られるものが好ましい。また、上記脂環式ポリアミンのアダクト化合物としては、当該脂環式ポリアミンにn-ブチルグリシジルエーテル、ビスフェノールAジグリシジルエーテル等を付加反応させて得られるものが好ましい。
【0046】
脂肪族ポリアミンとしては、エチレンジアミン、プロピレンジアミンなど炭素数2~6のアルキレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレントリアミンなど炭素数2~6のポリアルキレンポリアミン、キシリレンジアミンなど炭素数8~15の芳香環含有脂肪族ポリアミンなどが挙げられる。変性脂肪族ポリアミンの市販品の例としては、例えばFXR-1020、フジキュアFXR-1030、フジキュアFXR-1080(株式会社T&K TOKA製)、アンカミン2089K、サンマイドP-117、サンマイドX-4150、アンカミン2422、サーウェットR、サンマイドA-100(エボニックジャパン株式会社製)等が挙げられる。
【0047】
脂環式ポリアミンとしては、イソホロンジアミン、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、ビス(4-アミノシクロヘキシル)メタン、ノルボルネンジアミン、1,2-ジアミノシクロヘキサン、ラロミン等を例示することができる。変性脂環式ポリアミンの市販品としては、例えばアンカミン1693、アンカミン2074、アンカミン2596、アンカミン2199、サンマイドIM-544、サンマイドI-544、アンカミン2075、アンカミン2280、アンカミン2228(エボニックジャパン株式会社製)、ダイトクラールF-5197、ダイトクラールB-1616(大都産業株式会社製)、フジキュアFXD-821-F(株式会社T&K TOKA製)、jERキュア113(三菱ケミカル株式会社製)、ラロミンC-260(BASFジャパン社製)等が挙げられる。その他、ポリアミン型硬化剤として、EH-5015S(株式会社ADEKA製)等が挙げられる。
【0048】
上記した硬化剤のなかでも、充填インキの保存安定性を維持できる観点からは、上記した硬化剤を少なくとも2種以上含み、その1種がイミダゾール類であることが好ましい。イミダゾール類としては、例えば、エポキシ樹脂とイミダゾールの反応物等を言う。例えば、2-メチルイミダゾール、4-メチル-2-エチルイミダゾール、2-フェニルイミダゾール、4-メチル-2-フェニルイミダゾール、1-ベンジル-2-メチルイミダゾール、2-エチルイミダゾール、2-イソプロピルイミダゾール、1-シアノエチル-2-メチルイミダゾール、1-シアノエチル-2-エチル-4-メチルイミダゾール、1-シアノエチル-2-ウンデシルイミダゾール等を挙げることができる。イミダゾール化合物の市販品としては、例えば、2E4MZ、C11Z、C17Z、2PZ等のイミダゾール類や、2MZ-A、2E4MZ-A等のイミダゾールのAZINE(アジン)化合物、2MZ-OK、2PZ-OK等のイミダゾールのイソシアヌル酸塩、2PHZ、2P4MHZ等のイミダゾールヒドロキシメチル体(これらはいずれも四国化成工業株式会社製)等を挙げることができる。イミダゾール型潜在性硬化剤の市販品としては、例えば、キュアアダクトP-0505(四国化成工業株式会社製)等を挙げることができる。またイミダゾール類と併用する硬化剤としては、変性脂肪族ポリアミン、ポリアミン型硬化剤、イミダゾール型潜在性硬化剤であることが好ましい。
【0049】
インキ中に熱硬化性樹脂が含まれる場合の硬化剤の配合量は、硬化性樹脂組成物の保存安定性や硬化速度、硬化性樹脂組成物の硬化物における耐熱性や密着性などの特性の観点から、熱硬化性樹脂100質量部に対して、固形分換算で0.1~30質量部であることが好ましく、より好ましくは1~20質量部である。また、イミダゾール類とそれ以外の硬化剤とを併用する場合には、イミダゾール類とその他の硬化剤との配合割合は、質量基準において1:99~99:1であることが好ましく、より好ましくは10:90~90:10である。
【0050】
充填インキは、プリント配線板のスルーホール等の貫通孔や凹部の穴埋め充填材として使用されるものであるが、充填材の硬化収縮による応力緩和や線膨張係数の調整のため無機フィラーを含むことが好ましい。無機フィラーとしては、通常の樹脂組成物に用いられる公知の無機フィラーを用いることができる。具体的には、例えば、シリカ、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、窒化ケイ素、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、アルミナ、酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、酸化チタン、マイカ、タルク、クレー、カオリン、有機ベントナイトなどの非金属フィラーや、銅、金、銀、パラジウム、シリコーンなどの金属フィラーが挙げられる。これら無機フィラーは1種類を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0051】
これらの無機フィラーのなかでも、低吸湿性、低体積膨張性に優れるシリカや炭酸カルシウム、硫酸バリウム、酸化アルミニウムが好適に用いられ、なかでもシリカおよび炭酸カルシウムがより好適に用いられる。シリカとしては、非晶質、結晶のいずれであってもよく、これらの混合物でもよい。特に非晶質(溶融)シリカが好ましい。また、炭酸カルシウムとしては、天然の重質炭酸カルシウム、合成の沈降炭酸カルシウムのいずれであってもよい。
【0052】
無機フィラーの形状は、特に制限されるものではなく、球状、針状、板状、鱗片状、中空状、不定形状、六角状、キュービック状、薄片状など挙げられるが、無機フィラーの高配合の観点から球状が好ましい。
【0053】
また、これら無機フィラーの平均粒径は、無機フィラーの分散性、穴部への充填性、穴埋めした部分に配線層を形成した際の平滑性等を考慮すると、0.1μm~25μm、好ましくは0.1μm~15μmの範囲が適当である。より好ましくは、1μm~10μmである。なお、平均粒径とは平均一次粒径を意味し、平均粒径(D50)は、レーザー回折/散乱法により測定することができる。
【0054】
無機フィラーの配合割合は、硬化物とした際の熱膨張係数、研磨性、密着性と、印刷性や穴埋め充填性とを両立させる観点から、インキ中に熱硬化性樹脂が含まれる場合、固形分換算で、熱硬化性樹脂100質量部に対して、10~1000質量部であることが好ましく、20~500質量部であることがより好ましく、特に30~400質量部であることがより好ましい。
【0055】
充填インキには、チキソ性を付与するために脂肪酸で処理したフィラー、または有機ベントナイト、タルクなどの不定形フィラーを添加することができる。
【0056】
上記脂肪酸としては、一般式:(R1COO)-R2(置換基R1は炭素数が5以上の炭化水素、置換基R2は水素または金属アルコキシド、金属であり、nが1~4である)で表される化合物を用いることができる。当該脂肪酸は、置換基R1の炭素数が5以上のとき、チキソ性付与の効果を発現させることができる。より好ましくはnが7以上である。
【0057】
脂肪酸としては、炭素鎖中に二重結合あるいは三重結合を有する不飽和脂肪酸であってもよいし、それらを含まない飽和脂肪酸であってもよい。例えば、ステアリン酸(炭素数と不飽和結合の数および括弧内はその位置による数値表現とする。18:0)、ヘキサン酸(6:0)、オレイン酸(18:1(9))、イコサン酸(20:0)、ドコサン酸(22:0)、メリシン酸(30:0)などが挙げられる。これら脂肪酸の置換基R1の炭素数は5~30が好ましい。より好ましくは、炭素数5~20である。また、例えば、置換基R2を、アルコキシル基でキャッピングされたチタネート系の置換基とした金属アルコキシドなど、カップリング剤系の構造で長い(炭素数が5以上の)脂肪鎖を有する骨格のものであってもよい。例えば、商品名KR-TTS(味の素ファインテクノ株式会社製)などを用いることができる。その他、ステアリン酸アルミニウム、ステアリン酸バリウム(それぞれ川村化成工業株式会社製)など金属石鹸を用いることができる。その他の金属石鹸の元素としては、Ca、Zn、Li、Mg,Naなどがある。
【0058】
脂肪酸の配合割合は、チキソ性、埋め込み性、消泡性等の観点から、インキ中に無機フィラーが含まれる場合、無機フィラー100質量部に対して0.1~2質量部の割合が適当である。
【0059】
脂肪酸は、予め脂肪酸で表面処理をした無機フィラーを用いることにより配合されてもよく、より効果的に充填インキにチキソ性を付与することが可能となる。この場合、脂肪酸の配合割合は、未処理フィラーを用いた場合より低減することができ、インキ中に無機フィラーが含まれ、当該無機フィラーを全て脂肪酸処理フィラーとした場合、脂肪酸の配合割合は、無機フィラー100質量部に対して0.1~1質量部とすることが好ましい。
【0060】
また、充填インキには、シラン系カップリング剤が含まれていてもよい。シラン系カップリング剤を配合することにより、無機フィラーとエポキシ樹脂との密着性を向上させ、その硬化物におけるクラックの発生を抑えることが可能となる。
【0061】
シラン系カップリング剤としては、例えば、エポキシシラン、ビニルシラン、イミダゾールシラン、メルカプトシラン、メタクリロキシシラン、アミノシラン、スチリルシラン、イソシアネートシラン、スルフィドシラン、ウレイドシランなどが挙げられる。また、シラン系カップリング剤は、予めシラン系カップリング剤で表面処理をした無機フィラーを用いることにより配合されてもよい。
【0062】
シラン系カップリング剤の配合割合は、無機フィラーとエポキシ樹脂との密着性と消泡性とを両立させる観点から、インキ中に無機フィラーが含まれる場合、無機フィラー100質量部に対して0.05~2.5質量部とすることが好ましい。
【0063】
充填インキには、その他必要に応じて、フェノール化合物、ホルマリンおよび第一級アミンを反応させて得られるオキサジン環を有するオキサジン化合物を配合してもよい。オキサジン化合物を含有することにより、プリント配線板の穴部に充填された充填インキを硬化した後、形成された硬化物上に無電解めっきを行なう際、過マンガン酸カリウム水溶液などによる硬化物の粗化を容易にし、めっきとのピール強度を向上させることができる。
【0064】
また、通常のスクリーン印刷用レジストインキに使用されているフタロシアニン・ブルー、フタロシアニン・グリーン、ジスアゾイエロー、カーボンブラック、ナフタレンブラックなどの公知の着色剤を添加してもよい。
【0065】
また、保管時の保存安定性を付与するために、ハイドロキノン、ハイドロキノンモノメチルエーテル、tert-ブチルカテコール、ピロガロール、フェノチアジンなどの公知の熱重合禁止剤や、粘度などの調整のために、モンモリロナイトなどの公知の増粘剤、チキソトロピー剤を添加することができる。その他、シリコーン系、フッ素系、高分子系などの消泡剤やレベリング剤、チアゾール系やトリアゾール系のシランカップリング剤などの密着性付与剤等の公知の添加剤を配合することができる。特に、有機ベントナイトを用いた場合、穴部表面からはみ出した部分が研磨・除去し易い突出した状態に形成され易く、研磨性に優れたものとなるので好ましい。
【0066】
充填インキは、特に制限なく種々の用途に使用することができるが、特にプリント配線板における、ソルダーレジスト、層間絶縁材、マーキングインキ、カバーレイ、ソルダーダム、プリント配線板のスルーホールやビアホールの貫通孔や凹部の穴部を穴埋めするための充填材として使用することができる。これらのなかでも、プリント配線板のスルーホールやビアホールの貫通孔や凹部の穴部を穴埋めするための充填インキとして好適である。特に、本発明のインキ充填済みカートリッジを使用する場合には、穴部の開口径が大きいプリント配線板の穴埋めに使用された場合であっても液ダレやブリードが発生しにくく、とりわけ、スルーホール等の穴部内壁に導電部と絶縁部とを備える多層プリント配線板の穴埋めに使用された場合であっても、気泡の混入がないため、クラックの発生を抑制することができる。
【0067】
上記したようなインキをカートリッジに充填した後は、充填済みインキカートリッジを、インキが10℃以下となるような温度で保存しておくことが好ましく、より好ましくは、-40℃以上、0℃以下の状態で凍結保存しておくことが好ましい。インキ充填済みカートリッジを保管中にインキの反応を抑制し、保存安定性を高めることができる。
【0068】
本発明のインキ充填済みカートリッジは、専用の印刷装置(例えば、I.T.C. I
ntercurcuit Elactronic社製のTHP35等)に装着し、所定量
のインキをカートリッジの注出ノズルから吐出して使用される。上記のようにインキ充填済みカートリッジは10℃以下となるような温度で保存しておくことが好ましいが、インキの温度が室温となるまで静置してから使用することが好ましい。室温環境下にてカートリッジを使用する際には、注出ノズル側が下、プランジャー側が上となるようにして、10℃以下の環境下から室温となるまで保持することが好ましい。
【実施例
【0069】
次に実施例を挙げて、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、これら実施例に限定されるものではない。なお、以下において「部」および「%」とあるのは、特に断りのない限り全て質量基準である。
【0070】
<インキの調製>
下記表1に示す種々の成分を各表に示す割合(質量部)にて配合し、攪拌機にて混合し、実施例1~4および比較例1~5の各インキを調製した。なお、表1に示した各成分の詳細は下記のとおりである。
*1:ビスフェノールA型エポキシ樹脂(EP-4100HF、ADEKA株式会社製)*2:グリシジルアミン型エポキシ樹脂(EP-3950S、ADEKA株式会社製)
*3:グリシジルアミン系エポキシ樹脂(GOT、日本化薬株式会社製)
*4:イミダゾール系硬化剤(キュアゾール 2MZA-PW、四国化成株式会社製)
*5:炭酸カルシウム(ソフトン1800、備北粉化工業株式会社)
*6:非晶質シリカ(SO-C6、株式会社アドマテックス製)
*7:ヒュームドシリカ(AEROSIL R972、日本アエロジル株式会社製)
【0071】
<インキカートリッジへのインキの充填>
上記のようにして得られた各インキを、真空攪拌装置を用いて120分間撹拌処理を行った。続いて、一端に注出ノズルを備え、他端に開口部を備える円筒状のシリンジ、およびシリンジの開口部から摺動させてシリンジ内の充填容積を規定するプランジャーを備える図1に示したようなカートリッジに、真空撹拌処理した各インキを注出ノズルから充填し、注出ノズルからインキが溢れる直前までインキを充満させて、注出ノズルにチップキャップを取り付けて閉塞した。なお、比較例5のカートリッジについては、インキの真空撹拌処理を行わずに充填した。
【0072】
インキを充填したカートリッジを、自転公転型の装置を用いて、表1に示す条件にて遠心分離処理を行った。なお、実施例2および比較例1のカートリッジについては遠心分離処理を行わなかった。
【0073】
<気泡混入度合いの評価>
充填されたインキ中に含まれる気泡の体積は、X線産業コンピューター断層撮影装置(株式会社アールエフ、NAOMi-CT―3D―L)を用いて、撮影分解能0.083mmにてシリンジを3Dスキャンした。得られた3Dスキャン画像から、円筒状シリンジの軸方向に対する垂直断面を軸方向に連続的に観察しながら、確認された各気泡の数をカウントし、その最大径Rから、下記式により気泡体積(V)を算出した。
V=(πR)/6
(式中、V=気泡体積、R=気泡の最大径)
次に、シリンジに充填したインキ中の全気泡体積を、上記で算出した各気泡体積を合計することにより算出した。算出した値を表1に示す。なお、表1中の気泡体積の数値は小数点以下2桁を切り捨てた値である。
同様にして、注出ノズル部分、プランジャー部分のそれぞれについても気泡体積を算出した。なお、スキャン画像から、観察できた最も小さい気泡の直径は0.2mmであった。
【0074】
上記のようして、注出ノズルの下端からプランジャーまでの距離の中間点(L/2)として、注出ノズルから中間点までに存在する気泡の数(An)とその全気泡体積(A)、および中間点からプランジャーまでに存在する気泡の数(Bn)とその全気泡体積(B)を算出した。
また、注出ノズルの下端からプランジャーまでの距離をLとして、注出ノズルの下端から0.9Lの距離にある点までに存在する気泡の数(A’n)とその全気泡体積(A’)、および0.9Lの距離にある点からプランジャーまでに存在する気泡の数(B’n)とその全気泡体積(B’)を算出した。また、気泡の数(A’nおよびB’n)を数える際に、各気泡の直径(A’RおよびB’R)を測定したところ、A’Rの平均値は、0.5mm程度であり、B’Rの平均値は0.6mm程度であった。
各カートリッジにおける気泡の数および全気泡体積は表1に示されるとおりであった。
【0075】
<インキ中の気泡の評価>
上記したインキ充填済みのカートリッジを、-20℃で7日間保管した後、注出ノズル側が下、プランジャー側が上となるようにしてカートリッジを載置し、充填されたインキが室温(23±1℃)になるまで6時間かけて解凍した。
続いて、カートリッジのプランジャーを摺動させて注出ノズルからインキを透明なポリエステルフィルム表面に吐出した。インキが吐出されなくなるまでプランジャーを摺動させた。なお、カーリッジの構造上、吐出されたインキは、シリンジに充填した全インキの9割程度である。
PETフィルム上に吐出されたインキを目視にて観察し、インキ中に含まれている気泡の数を調べた。気泡の数によって、気泡の混入度合いを評価した。評価基準は以下のとおりとした。
○:0個
△:1~3個
×:4個以上
評価結果は表1に示されるとおりであった。
【0076】
<ボイドおよびクラックの評価>
カートリッジ専用の穴埋め印刷装置(I.T.C. Intercurcuit Elactronic社製、THP35)を用いて、ガラスエポキシ基板(パネルめっきにより導体層が形成されたスルーホールを有する厚さ1.6mm/スルーホール径0.35mm(めっき後)/ピッチ1mmのガラスエポキシ基板)のスルーホール内に、インキを充填したカートリッジからインキを充填した。
インキ充填後、基板を熱風循環式乾燥炉にて、110℃、60分間加熱し、続いて150℃、60分間の加熱によりインキを硬化させて評価基板を得た。
得られた評価基板を、スルーホール中心で切断されるように精密切断機で裁断し、切断面を研磨した後、切断面の表面状態を光学顕微鏡により観察した。スルーホール100穴について観察し、ボイドとクラックの数を調べた。評価基準は以下のとおりとした。
◎:0個
○:1~5個
△:6~10個
×:11個以上
評価結果は表1に示されるとおりであった。
【0077】
【表1】
【0078】
表1からも明らかなように、粘度が50~2000dPa・sの範囲にあるインキを充填したインクカートリッジであって、0≦A/B<1.0の範囲にあるインクカートリッジ(実施例1~4)は何れも、カートリッジからインキを吐出した際のインキ中の気泡が少なく、スルーホール等の穴埋めに使用した場合であってもボイドやクラックが発生しないことがわかる。
一方、A/B≦1.0であるインクカートリッジ(比較例1~5)は何れも、カートリッジからインキを吐出した際のインキ中の気泡が含まれ、スルーホール等の穴埋めに使用した場合にボイドやクラックが発生することがわかる。
【符号の説明】
【0079】
1: インキ充填済みカートリッジ
2: カートリッジ
3: インキ
10: シリンジ
20: プランジャー
30: 注出ノズル
40: 開口部
50: チップキャップ
60: ヘッドキャップ
70: 気泡
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7