(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-18
(45)【発行日】2024-10-28
(54)【発明の名称】水底生物採集ロボットおよび水底生物採集システム
(51)【国際特許分類】
A01K 80/00 20060101AFI20241021BHJP
B63C 11/48 20060101ALI20241021BHJP
B63G 8/16 20060101ALI20241021BHJP
【FI】
A01K80/00
B63C11/48 D
B63G8/16
(21)【出願番号】P 2020110605
(22)【出願日】2020-06-26
【審査請求日】2023-06-21
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 1.公開日 令和元年7月24日 2.公開場所 インテックス大阪 3.公開者名 田原 淳一郎 〔刊行物等〕 1.公開日 令和元年10月14日 2.公開場所 ウェブサイト(https://talk.yumenavi.info/archives/2615?site=p) 3.公開者名 株式会社 フロムページ 〔刊行物等〕 1.公開日 令和元年11月19日 2.公開場所 2019年度 海洋理工学会 秋季大会 3.公開者名 田原 淳一郎 〔刊行物等〕 1.公開日 令和元年11月20日 2.公開場所 2019年度 海洋理工学会 秋季大会 3.公開者名 川村 大和、Son Munseong、齋藤 幹大、伊藤 魁、加藤 哲、田原 淳一郎、和泉 充 〔刊行物等〕 1.公開日 令和元年12月20日 2.公開場所 ウェブサイト(https://www.mirai-kougaku.jp/eco/pages/191220.php) 3.公開者名 田原 淳一郎 〔刊行物等〕 1.公開日 令和2年1月22日 2.公開場所 第73回海洋技術連絡会 3.公開者名 伊藤 魁 〔刊行物等〕 1.公開日 令和2年2月4日 2.公開場所 ウェブサイト(https://www3.nhk.or.jp/news/html/20200204/k10012271821000.html) 3.公開者名 日本放送協会(NHK)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成31年度農林水産省「異常発生したウニの効率的駆除及び有効利用に関する実証研究」委託事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】504196300
【氏名又は名称】国立大学法人東京海洋大学
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100103263
【氏名又は名称】川崎 康
(74)【代理人】
【識別番号】100152205
【氏名又は名称】吉田 昌司
(72)【発明者】
【氏名】田原 淳一郎
(72)【発明者】
【氏名】孫 ▲文▼成
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 幹大
(72)【発明者】
【氏名】川村 大和
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 魁
【審査官】星野 浩一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2011/019290(WO,A1)
【文献】特開2016-184344(JP,A)
【文献】特開2014-125754(JP,A)
【文献】特開2013-140449(JP,A)
【文献】特開2012-180024(JP,A)
【文献】特開平08-136291(JP,A)
【文献】実開昭64-039198(JP,U)
【文献】国際公開第2019/083375(WO,A1)
【文献】登録実用新案第3220737(JP,U)
【文献】特開2004-138824(JP,A)
【文献】東地拓生,沖縄の深海を探る,うみうし通信 ,第106号,日本,公益財団法人 水産無脊椎動物研究所,2020年03月,第4-6頁,https://www.rimi.or.jp/publication/tsushin106/
【文献】田中省伍,自律型ロボット「Tuna-Sand2」が海底生物の捕獲に成功 - 機体が公開,マイナビニュース,日本,2018年04月24日,第1-4頁,https://news.mynavi.jp/techplus/article/20180424-621637/
【文献】8基のスラスターを搭載した水中ドローン『CHASING M2』 日本初登場!漁業・水中・海洋土木など、水中ビジネスの必須アイテム!,プレスリリース,日本,株式会社スペースワン,2020年06月10日,第1-3頁,https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000029.000045277.html
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01K 80/00
B63C 11/48
B63G 8/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水中に浮遊した状態で水底の生物を吸引して採捕する水底生物採集ロボットであって、
本体と、
水底生物を発見するための水中カメラと、
前記水底生物を吸引するための吸入管と、
前記本体が水平方向に移動するための推力を発生する水平スラスターと、
前記本体が垂直方向に移動するための推力を発生する垂直スラスターと、
前記吸入管の吸入口を前記水底生物に近づけるように前記本体を傾けるための推力を発生するチルトスラスターと、
を備え、
前記水底生物採集ロボットの重心は
前記水底生物採集ロボットの側面視で前記垂直スラスターに位置し、
前記チルトスラスターは、前記本体の側面視で前記垂直スラスターを挟んで前記吸入管の吸入口の反対側に設けられ、前記水中カメラにより水底生物が発見され前記水底生物採集ロボットが前記水底生物に近づけられた後に垂直方向の推力を発生することにより、前記重心を略中心として前記水底生物採集ロボットを回転させて前記吸入管の吸入口を前記水底生物に近づけることを特徴とする水底生物採集ロボット。
【請求項2】
前記吸入管の吸入口は前記本体の前方に設けられ、前記チルトスラスターは前記本体の後方に設けられていることを特徴とする請求項1に記載の水底生物採集ロボット。
【請求項3】
前記チルトスラスターは、前記本体の上面視で左右対称に複数台設けられていることを特徴とする請求項1または2に記載の水底生物採集ロボット。
【請求項4】
前記水中カメラは、前記本体の側面視で前記垂直スラスターを挟んで前記チルトスラスターの反対側に設けられていることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の水底生物採集ロボット。
【請求項5】
前記吸入管は、先端部分が前記水中カメラの前方に配置された直管状の採捕ノズル部で構成されていることを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載の水底生物採集ロボット。
【請求項6】
前記採捕ノズル部の長手方向が水底生物のいる水底面と略垂直になるように前記チルトスラスターで前記本体を傾けて前記水底生物を吸引することを特徴とする請求項5に記載の水底生物採集ロボット。
【請求項7】
吸引ポンプと、
前記吸引ポンプに接続管を介して接続された回収籠と、
前記吸入管の基端が前記回収籠に接続された請求項1~6のいずれかに記載の水底生物採集ロボットと、
前記水底生物採集ロボットに通信接続され、前記水中カメラで撮像された画像を表示する制御端末と、
を備えることを特徴とする水底生物採集システム。
【請求項8】
前記制御端末は、前記水中カメラで撮像された画像データに基づいて採捕対象の水底生物をリアルタイムで認識する処理を行い、他の水底生物と区別可能に表示することを特徴とする請求項7に記載の水底生物採集システム。
【請求項9】
前記制御端末は、前記水中カメラで撮像された画像データに基づいて採捕対象の水底生物のサイズを算出し、前記算出したサイズを表示することを特徴とする請求項7または8に記載の水底生物採集システム。
【請求項10】
前記制御端末は、前記水中カメラで撮像された画像データに基づいて採捕対象の水底生物までの距離を算出し、前記算出した距離を表示することを特徴とする請求項7~9のいずれかに記載の水底生物採集システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水底生物採集ロボットおよび水底生物採集システム、より詳しくは、水底に生息する生物を吸引して採捕する水底生物採集ロボット、および当該水底生物採集ロボットを有する水底生物採集システムに関する。
【背景技術】
【0002】
宮城県南三陸町の志津川湾の野島周辺はウニやアワビなどのとれる豊かな漁場であったが、東日本大震災以降、大量発生したウニが海藻類を食い荒らす磯焼けが問題となっている。大量発生したウニは実入りが悪く、漁労者も捕らないため、これらのウニを駆除することが求められている。
【0003】
このようなウニの駆除等、水底に生息する生物(水底生物)を効率良く採捕するための装置が求められているが、少子高齢化の進展や一次産業の就業者数の減少を考慮すると、ROV(Remotely Operated Vehicle)等の水中ロボットを活用することが望ましい。水中ロボットは、今まで主に科学調査やエネルギー開発(石油掘削等)のツールとして1,000m以上の深海で利用され発展してきた。その一方、我々の生活になじみの深い水産業では未だに水中ロボットを直接活用することは実現されていない。
【0004】
なお、特許文献1には、作業船とともに前進する橇と鋤簾で貝類を捕捉し、捕捉された貝類をポンプで吸引して回収する貝類の吸引採取装置が記載されている。
【0005】
また、特許文献2には、推進器ユニット、おもり、浮力材を利用して姿勢制御を行い、ダムの壁面を撮影する水中ロボットが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2013-078282号公報
【文献】国際公開第2017/010060号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者らは、水底生物を採捕する際における漁労者の負担を軽減し、長時間の採捕を可能とするために、水中ロボットを利用してウニ等の水底生物を採捕するシステムの研究開発を鋭意進めていた。水中ロボットの場合、着底せずに水底生物の採捕を行うことが可能であるため、潮流の早い浅瀬に生息する水底生物の採集に有利という利点もある。
【0008】
また、採捕した水底生物の畜養を考慮すると、採捕するときに水底生物の損傷をできるだけ抑えることが求められる。このためには、ポンプで水底生物を吸引して採捕することが望ましい。しかしながら、本発明者らが行った実証実験において、岩場等の凹凸のある場所や斜面にいる水底生物を吸引することが難しく、採捕効率が低いことが分かった。加えて、ウニの場合、平坦な砂場よりも岩場の方が、生息密度が高いことが判明した。
【0009】
本発明は、上記の認識に基づいてなされたものであり、水底生物の採捕能力を向上させることができる水底生物採集ロボットおよび水底生物採集システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る水底生物採集ロボットは、
水中に浮遊した状態で水底の生物を吸引して採捕する水底生物採集ロボットであって、
本体と、
水底生物を発見するための水中カメラと、
前記水底生物を吸引するための吸入管と、
前記本体が水平方向に移動するための推力を発生する水平スラスターと、
前記本体が垂直方向に移動するための推力を発生する垂直スラスターと、
前記吸入管の吸入口を前記水底生物に近づけるように前記本体を傾けるための推力を発生するチルトスラスターと、
を備えることを特徴とする。
【0011】
また、前記水底生物採集ロボットにおいて、
前記チルトスラスターは、前記本体の側面視で前記垂直スラスターを挟んで前記吸入管の吸入口の反対側に設けられているようにしてもよい。
【0012】
また、前記水底生物採集ロボットにおいて、
前記吸入管の吸入口は前記本体の前方に設けられ、前記チルトスラスターは前記本体の後方に設けられているようにしてもよい。
【0013】
また、前記水底生物採集ロボットにおいて、
前記チルトスラスターは、前記本体の上面視で左右対称に複数台設けられてもよい。
【0014】
また、前記水底生物採集ロボットにおいて、
前記チルトスラスターは、垂直方向の推力を発生するようにしてもよい。
【0015】
また、前記水底生物採集ロボットにおいて、
前記水中カメラは、前記本体の側面視で前記垂直スラスターを挟んで前記チルトスラスターの反対側に設けられているようにしてもよい。
【0016】
また、前記水底生物採集ロボットにおいて、
前記吸入管は、先端部分が前記水中カメラの前方に配置された直管状の採捕ノズル部で構成されてもよい
また、前記水底生物採集ロボットにおいて、
前記採捕ノズル部の長手方向が水底生物のいる水底面と略垂直になるように前記チルトスラスターで前記本体を傾けて前記水底生物を吸引してもよい。
【0017】
本発明に係る水底生物採集システムは、
吸引ポンプと、
前記吸引ポンプに接続管を介して接続された回収籠と、
前記吸入管の基端が前記回収籠に接続された請求項1~7のいずれかに記載の水底生物採集ロボットと、
前記水底生物採集ロボットに通信接続され、前記水中カメラで撮像された画像を表示する制御端末と、
を備えることを特徴とする。
【0018】
また、前記水底生物採集システムにおいて、
前記制御端末は、前記水中カメラで撮像された画像データに基づいて採捕対象の水底生物をリアルタイムで認識する処理を行い、他の水底生物と区別可能に表示してもよい。
【0019】
また、前記水底生物採集システムにおいて、
前記制御端末は、前記水中カメラで撮像された画像データに基づいて採捕対象の水底生物のサイズを算出し、前記算出したサイズを表示してもよい。
【0020】
また、前記水底生物採集システムにおいて、
前記制御端末は、前記水中カメラで撮像された画像データに基づいて採捕対象の水底生物までの距離を算出し、前記算出した距離を表示してもよい。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、水底生物の採捕能力を向上させることができる水底生物採集ロボットおよび水底生物採集システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】実施形態に係る水底生物採集システムの概略的な構成を示す図である。
【
図2】実施形態に係る水底生物採集ロボットの概略的な構成を示す側面図である。
【
図3】実施形態に係る水底生物採集ロボットの概略的な構成を示す上面図である。
【
図4】実施形態に係る水底生物採集ロボットのチルト制御について説明するための図である。
【
図5】実施形態に係る水底生物採集システムによるウニの採捕方法を説明するためのフローチャートである。
【
図6】制御端末のディスプレイに表示された岩礁にいるウニのリアルタイム映像の一例を示す図である。
【
図7】採捕対象のウニに接近したときの制御端末の画面の一例を示す図である。
【
図8】チルト動作前の水底生物採集ロボットと、岩礁斜面にいるウニとを示す図である。
【
図9】チルト動作後の水底生物採集ロボットと、岩礁斜面にいるウニとを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明に係る実施形態について図面を参照しながら説明する。
【0024】
<水底生物採集システム>
図1を参照して、本実施形態に係る水底生物採集システム100について説明する。水底生物採集システム100は、採捕対象の水底生物を効率良く採集するためのシステムである。本願において水底生物とは、海、湖、池、沼、河川等の水底に生息する生物のことであり、岩礁に生息する生物も含む。
【0025】
なお、本実施形態において採捕対象の水底生物はウニであるが、採捕対象の水底生物はこれに限られず、たとえば、アワビ、ナマコ、タコ、ヒトデ、貝、海藻等であってもよい。
【0026】
図1に示すように、水底生物採集システム100は、水底生物採集ロボット1と、吸引ポンプ11と、回収籠12と、制御端末13と、接続管14と、船15と、を備えている。
【0027】
水底生物採集ロボット1は、後ほど詳しく説明するように、水底生物を採捕するように構成された水中ロボット(ROV)である。この水底生物採集ロボット1は、水中に浮遊した状態で(すなわち、水底に着底せずに)、水底生物を吸引して採捕する。水底生物を吸引する方式を採ることで、ロボットアーム等を用いる場合と比べて、水底生物への損傷を抑えることができる。これにより、採捕した水底生物を畜養することができる。
【0028】
吸引ポンプ11は、船15に配置されており、接続管14を介して水底生物採集ロボット1(より詳しくは吸入管4)に接続されている。吸引ポンプ11により水底生物採集ロボット1の吸入管4の吸入口Pから水が吸い上げられることで、水底生物が吸引される。なお、吸引ポンプ11は、船15に配置される場合に限られず、水中ポンプとして構成され、水底生物採集ロボット1に搭載されてもよい。
【0029】
回収籠12は、
図1に示すように、水底生物採集ロボット1と吸引ポンプ11との間に設けられており、水底生物採集ロボット1が吸引した水底生物が内部に収容される。詳しくは、回収籠12は、船上の吸引ポンプ11と回収籠12を繋ぐ可撓性のホースである接続管14を介して吸引ポンプ11に接続されている。本実施形態では水底生物として海底のウニを採取するので、回収籠12はウニ籠とも呼ばれる。
【0030】
なお、回収籠12の容量は、採捕する水底生物のサイズや数量に応じて決められる。また、回収籠12は水底生物採集ロボット1に搭載されてもよい。
【0031】
制御端末13は、船15の上に設けられ、オペレータにより操作される。この制御端末13は、通信ケーブル(図示せず)を介して水底生物採集ロボット1と通信可能に接続されている。
【0032】
制御端末13は、オペレータの操作に応じて、水底生物採集ロボット1のスラスター(後述の水平スラスター5、垂直スラスター6およびチルトスラスター7)を制御する。また、制御端末13は、後述の水中カメラ3で撮像された画像をディスプレイに表示する。オペレータは、制御端末13のディスプレイに表示される水中の映像を見ながら水底生物採集ロボット1を制御することができる。
【0033】
なお、オペレータの操作性を向上させるために、制御端末13にジョイスティック(図示せず)等の操作デバイスが接続されてもよい。
【0034】
本実施形態では、制御端末13は、水底生物採集ロボット1から受信した画像データを処理して、採捕対象の水底生物を識別する。水底生物の識別は、ディープラーニング、Open CV等の機械学習を利用した画像認識によって行ってもよい。
【0035】
このように、制御端末13は、水底生物採集ロボット1の水中カメラ3(後述)で撮像された画像データに基づいて採捕対象の水底生物をリアルタイムで認識する処理を行い、他の水底生物と区別可能に表示する。この際、制御端末13は、識別された採捕対象の水底生物を赤い枠で囲うなどして強調表示してもよい(
図6参照)。これにより、オペレータは、採捕対象の水底生物の位置や数を容易に把握することができる。その結果、オペレータは水底生物採集ロボット1の操作に集中することができ、疲労度を減少させることができる。
【0036】
なお、制御端末13は、水底生物採集ロボット1の水中カメラ3で撮像された画像データに基づいて採捕対象の水底生物のサイズ(ウニの直径など)を算出し、算出したサイズを表示してもよい(
図7参照)。これにより、採捕したいサイズの水底生物(たとえば直径35mm~40mmのウニ)のみを狙って採取することができる。
【0037】
水底生物のサイズの算出は、たとえばレーザー光を用いて行う。この場合、たとえば、レーザー光源と、互いに平行な複数のスリット(開口)を有するスリット板とを有するレーザーモジュールを水底生物採集ロボット1に搭載しておく。
【0038】
船15には、前述のように吸引ポンプ11や制御端末13が搭載される。その他、水底生物採集ロボット1に電力を供給する発電機が船15に搭載される。なお、船15を用いない場合は、吸引ポンプ11や制御端末13等は陸上に設けられてもよい。
【0039】
<水底生物採集ロボット1>
次に、
図2および
図3を参照して、実施形態に係る水底生物採集ロボット1の構成について詳しく説明する。
図2は、水底生物採集ロボット1の概略的な構成を示す側面図である。
図3は水底生物採集ロボット1の概略的な構成を示す上面図である(ただし、吸入管4については採捕ノズル部4aの断面のみを図示している)。
【0040】
以下に説明するように、水底生物採集ロボット1は、水底に着底せずに、水中に浮遊した状態で、ウニ等の水底生物を吸引して採捕するように構成されている。たとえば水底生物採集ロボット1は、中型のROVである広和株式会社製のVEGAをベースとして作製され、水深約5~10メートルの海底に生息するウニを採捕する。
【0041】
図2および
図3に示すように、水底生物採集ロボット1は、本体2と、水中カメラ3と、吸入管4と、水平スラスター5と、垂直スラスター6と、チルトスラスター7と、を備えている。
【0042】
なお、図示しないが、水底生物採集ロボット1は、水底からの距離を計測するための高度計、水中で測位するための測位器(ピンガー)、姿勢制御用の慣性計測装置(IMU)、軽作業用のロボットアーム、水底生物のサイズを計測するためのレーザーモジュール、濁度計および航海灯などをさらに備えてもよい。
【0043】
図2および
図3において符号Gは、水底生物採集ロボット1の重心を示している。本実施形態では、水底生物採集ロボット1を側面視したとき、垂直スラスター6に重心Gが位置する。
【0044】
本体2には、水中カメラ3、吸入管4、水平スラスター5、垂直スラスター6およびチルトスラスター7が固定されている。本体2は、たとえば、枠状体として構成されている。
【0045】
水中カメラ3は、水底生物を発見するためのカメラであり、水中を撮影するように構成されている。本実施形態では、
図2に示すように、水中カメラ3は本体2の前部に設けられている。水中カメラ3は、本体2の側面視で垂直スラスター6を挟んでチルトスラスター7の反対側に設けられている。このように水中カメラ3とチルトスラスター7を離間させて設けることで、チルトスラスター7の水流で舞い上がった砂塵等によって水中カメラ3の視界が遮られることを防止できる。
【0046】
水中カメラ3は、制御端末13に通信可能に接続されており、水中の画像データを制御端末13に送信する。これにより、船15上のオペレータは、制御端末13のディスプレイに表示される水中の画像をリアルタイムで見ることができる。なお、採捕対象の水底生物を画像認識する処理は、制御端末13に限らず、水中カメラ3で行ってもよい。
【0047】
吸入管4は、吸引ポンプ11の吸引力を用いて水底生物を吸引し採捕するための管である。吸入管4の一端(基端)は、
図1に示すように、回収籠12および接続管14を介して吸引ポンプ11に接続されている。
【0048】
図2に示すように、吸入管4は、その一部が本体2の上部に固定されている。たとえば、吸入管4は、可撓性を有しない管状部材と、可撓性を有する管状部材を交互に接続したものとして構成される。
【0049】
なお、吸入管4の径は、採捕対象の水底生物のサイズを考慮して決定される。たとえば、吸入管4の径は採捕対象のウニの直径よりも大きくする。
【0050】
本実施形態では、
図2に示すように、吸入管4の先端部分は、水中カメラ3の前方に配置された直管状の採捕ノズル部4aで構成されている。採捕ノズル部4aは、垂直方向に延びるように設けられている。なお、これに限らず、斜め方向に延びるように採捕ノズル部4aが設けられてもよい。
【0051】
オペレータの視界を確保するために、採捕ノズル部4aは透明材料(透明プラスチック等)から構成されてもよい。
【0052】
水中を移動する際に採捕ノズル部4aの位置および方向が安定するように、支持部材(図示せず)で採捕ノズル部4aを本体2に直接固定してもよい。
【0053】
水平スラスター5は、本体2が水平方向に移動するための推力を発生する。垂直スラスター6は、本体2が垂直方向に移動するための推力を発生する。
図3に示すように、本実施形態では、水平スラスター5と垂直スラスター6は、本体2の左右にそれぞれ1つずつ設けられている。
【0054】
なお、本実施形態では、水平スラスター5と垂直スラスター6は、本体2の外側に設けられているが、これに限られず、本体2の内側に設けられてもよい。また、水平スラスター5と垂直スラスター6は一体的に構成されてもよい。
【0055】
水平スラスター5と垂直スラスター6は、オペレータの操作により、回転数(推力)が制御される。これにより、水底生物採集ロボット1は、水中で水平方向または垂直方向に移動する。なお、左右の水平スラスター5は、それぞれ独立に回転数を制御可能としてもよい。また、左右の垂直スラスター6は、それぞれ独立に回転数を制御可能としてもよい。
【0056】
チルトスラスター7は、本体2の後方に設けられており、垂直方向の推力を発生する。このチルトスラスター7は、水底生物を吸引採捕する際、吸入管4の吸入口Pを水底生物に近づけるように本体2を傾けるための推力を発生する。なお、チルトスラスター7の推力発生方向は、垂直方向に限らず、本体2の側面視で斜め方向であってもよい。
【0057】
チルトスラスター7は、本体2の上面視で左右対称に複数台設けられる。本実施形態では、
図3に示すように、チルトスラスター7は、本体2の左右にそれぞれ1台ずつ設けられている。これにより、チルトスラスター7の動作に伴って本体2が回転(ローリング)することを抑制し、安定したチルト動作を行うことができる。
【0058】
図2に示すように、チルトスラスター7は、本体2の側面視で、重心Gが位置する垂直スラスター6を挟んで吸入管4の吸入口P(採捕ノズル部4aの下端)の反対側に設けられている。これにより、チルトスラスター7の推力が比較的小さくとも、梃子の原理により、重心Gを略中心に水底生物採集ロボット1を回転させて、吸入管4の吸入口Pを水底に近づけることができる。このため、チルトスラスター7としては、水平スラスター5や垂直スラスター6よりも小型のものを使用可能である。
【0059】
さらに、チルトスラスター7を採捕ノズル部4a(水中カメラ3)側と反対の位置に設けることで、チルトスラスター7の水流で水底の砂塵等が舞い上がって水中カメラ3の視界が遮られることを防止できるという効果も得られる。
【0060】
なお、本実施形態では、チルトスラスター7は、本体2の外側に設けられているが、これに限られず、本体2の内側に設けられてもよい。
【0061】
また、水底生物採集ロボット1に設けられる各種スラスター(水平スラスター5、垂直スラスター6、チルトスラスター7)の数は、
図2および
図3に示す数に限られるものではなく、所要の推力等に応じて適宜決めてよい。
【0062】
<水底生物採集ロボット1のチルト動作>
次に、
図4を参照して、上記の水底生物採集ロボット1のチルト動作について説明する。
図4は水底生物採集ロボット1のチルト制御を示している。
【0063】
2台のチルトスラスター7が下方に向けて同じ強さの水流を発生させると、
図4に示すように、水底生物採集ロボット1は後部が持ち上がり、重心Gを略中心に回転する。その結果、吸入管4の吸入口Pは下方に移動する。このようなチルト動作により、吸入管4の吸入口Pを岩場の凹所や斜面にいる水底生物に近づけることができる。
【0064】
水底生物を吸引採捕する際は、チルトスラスター7で本体2を傾けて、採捕ノズル部4aの長手方向が水底生物のいる水底面と略垂直になるようにすることが好ましい。これにより、最大の吸引力で水底生物を吸引することができ、採捕効率を向上させることができる。
【0065】
<水底生物採集ロボット1による水底生物の採捕方法>
次に、
図5~
図9を参照して、水底生物採集ロボット1による水底生物の採捕方法の一例について説明する。
図5は、本採捕方法を説明するためのフローチャートを示している。
図6は、制御端末13のディスプレイに表示された水底にいるウニのリアルタイム映像の一例を示している。
図7は、採捕対象のウニに接近したときの制御端末13の画面の一例を示している。
図8は、チルト動作前の水底生物採集ロボット1と、岩礁斜面RSにいるウニUとを示している。
図9は、チルト動作後の水底生物採集ロボット1と、岩礁斜面RSのウニUとを示している。
【0066】
水底生物採集ロボット1を移動させる(ステップS1)。本ステップでは、まず、採捕対象の水底生物(ここではウニ)が生息する海域に船15で移動し、水底生物採集ロボット1を海中に投入する。そして、オペレータが制御端末13に表示される水中の映像を見ながら水平スラスター5および垂直スラスター6を制御することにより、水底生物採集ロボット1を移動させる。
【0067】
ステップS1の後、オペレータがウニを発見すると(ステップS2:Yes)、オペレータは水平スラスター5と垂直スラスター6を制御して、水底生物採集ロボット1をウニに近づける。
図6は、制御端末13のディスプレイに表示された水底にいるウニUのリアルタイム映像の一例を示している。
図6に示すように、機械学習等を利用した画像認識により、採捕対象のウニUが自動で識別され、四角い枠で囲われた態様で表示されている。これにより、オペレータは、採捕対象の水底生物の数や位置を容易に把握することができる。その結果、水底生物の採集効率が向上するとともに、採捕対象以外の水底生物を採捕すること(混獲)を抑制できる。
【0068】
図7は、水底生物採集ロボット1が採捕対象のウニUに近づいたときの、制御端末13のディスプレイに表示される画像を示している。この例では、水底生物採集ロボット1のスリット板を通過した互いに平行な5本のレーザー光LがウニUに照射されている。ディスプレイには、ウニのサイズ(直径)が表示されている。これにより、オペレータはウニを採捕するかどうかを容易に判断することができる。
【0069】
ここで、水底生物のサイズの算出について説明する。水底生物を採捕する際に、
図7に示すように、スリット板を通過した複数本のレーザー光を採捕対象の水底生物に照射する。そして、水中カメラ3で撮像された画像におけるレーザー光の間隔と、水底生物採集ロボット1に搭載されたセンサー(IMU、高度計)から得られる水底生物採集ロボット1の姿勢情報および水底からの高さとに基づいて、水底生物のサイズを算出する。なお、照射するレーザー光はグリッド状であってもよい。
【0070】
別のサイズ算出方法として、ToF(Time Of Flight)方式を用いてもよい。この場合、水底生物採集ロボット1にToFセンサーを搭載しておき、ToFセンサーから投光された光が水底生物で反射して当該センサーに戻ってくるまでの時間を計測し、計測された時間に基づいて水底生物採集ロボット1から水底生物までの距離を求める。そして、求められた距離と、画像における水底生物の大きさとに基づいて水底生物のサイズを算出する。
【0071】
なお、
図7に示すように、制御端末13は、上記のようにして算出された水底生物採集ロボット1から水底生物までの距離を表示してもよい。これにより、オペレータは、水底生物採集ロボット1を水底生物に近づけるための操作を容易に行うことができるようになる。
【0072】
また、制御端末13は、水底生物のサイズや水底生物までの距離は、当該水底生物の画像と関連づけてディスプレイに表示してもよい。たとえば、水底生物の画像に吹き出しを付けて、その中にサイズ、距離を表示してもよい。これにより、
図6のように複数の水底生物がディスプレイに表示される場合であっても、オペレータは各水底生物のサイズや距離を容易に把握することができる。
【0073】
上記のようにして水底生物採集ロボット1をウニに近づけた後、チルトスラスター7を動作させ、水底生物採集ロボット1を傾けてウニを採捕する(ステップS4)。
図8および
図9に示すように、ウニが岩礁斜面RSにいる場合であっても、チルトスラスター7によるチルト動作を行うことにより吸入管4の吸入口PがウニUに近づくため、効率良く採捕することができる。
【0074】
ステップS4において、
図9に示すように、採捕ノズル部4aの長手方向が岩礁の斜面RS(すなわち、水底生物のいる水底面)と略垂直になるようにチルトスラスター7で本体2を傾けるようにしてもよい。これにより、最大の吸引力Fで水底生物を吸引することができ、採捕効率を向上させることができる。
【0075】
水底生物を採捕した後、チルトスラスター7を逆方向に駆動して水底生物採集ロボット1を元の姿勢に戻し、他のウニのいる場所に移動する。
【0076】
以上説明したように、本実施形態に係る水底生物採集ロボット1では、水底生物を採捕する際、チルトスラスター7の推力により本体2を傾けて、吸入管4の吸入口Pを水底生物に近づける。これにより、水底の斜面や凹所にいる水底生物を吸引しやすくすることができる。その結果、たとえば、岩場に生息するウニを効率良く採捕することができる。
【0077】
上記のように、本実施形態によれば、水底生物の採捕能力を向上させることができる。たとえば、磯焼けの原因となっているウニを効率良く駆除することができる。ウニの駆除によって磯焼けが解消されれば藻場が生まれ、豊かな海を再生し、アワビ等の漁獲が増えることが期待される。また、回収籠12に回収されたウニは損傷が少ないことから、畜養して水産資源として利用することも可能である。
【0078】
上述した実施形態では、船上のオペレータが水底生物採集ロボット1の移動やチルト動作を行ったが、これに限らず、AUV(Autonomous Underwater Vehicle)等をベースにして、水底生物採集ロボット1が自立的に水中を移動し画像認識を行って、自動的に採捕対象の水底生物を採捕するようにしてもよい。
【0079】
なお、上述の実施形態では、チルトスラスター7は本体2の上面視で左右対称に複数台設けられていたが、本発明はこれに限定されるものでない。たとえば、本体2の前後に走る中心軸上に1つのチルトスラスターを設ける構成も想定される。また、上述の実施形態では、チルトスラスター7は本体2の後方に設けられていたが、本発明はこれに限定されるものではない。重心Gからみて吸入管4の吸入口Pと同じ側にチルトスラスター7を設けることも想定される
上記の記載に基づいて、当業者であれば、本発明の追加の効果や種々の変形を想到できるかもしれないが、本発明の態様は、上述した実施形態に限定されるものではない。特許請求の範囲に規定された内容およびその均等物から導き出される本発明の概念的な思想と趣旨を逸脱しない範囲で種々の追加、変更および部分的削除が可能である。
【符号の説明】
【0080】
1 水底生物採集ロボット
2 本体
3 水中カメラ
4 吸入管
4a 採捕ノズル部
5 水平スラスター
6 垂直スラスター
7 チルトスラスター
11 吸引ポンプ
12 回収籠
13 制御端末
14 接続管
15 船
100 水底生物採集システム
F 吸引力
L レーザー光
P 吸入口
R 岩礁
RS 岩礁斜面
U ウニ