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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-18
(45)【発行日】2024-10-28
(54)【発明の名称】プラズマ殺菌装置
(51)【国際特許分類】
   A61L 2/14 20060101AFI20241021BHJP
   A61L 2/20 20060101ALI20241021BHJP
   H05H 1/24 20060101ALI20241021BHJP
【FI】
A61L2/14
A61L2/20 100
H05H1/24
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2020170542
(22)【出願日】2020-10-08
(65)【公開番号】P2022062495
(43)【公開日】2022-04-20
【審査請求日】2023-09-22
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(72)【発明者】
【氏名】瀬川 武彦
(72)【発明者】
【氏名】島 佳希
【審査官】渡邉 洋
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-302198(JP,A)
【文献】特開2012-024385(JP,A)
【文献】特開2017-018267(JP,A)
【文献】特開2020-006261(JP,A)
【文献】特開2015-182004(JP,A)
【文献】特開2008-183025(JP,A)
【文献】特開2018-201701(JP,A)
【文献】特開2019-209170(JP,A)
【文献】特開2013-089285(JP,A)
【文献】特表2017-501791(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2018-0027446(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L 2/00- 2/28
A61L 9/00
H05H 1/00- 1/54
C01B13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象物の表面を殺菌するためのプラズマ殺菌装置であって、
底面部と該底面部の周囲を囲む側壁部とにより画成され前記対象物の表面に対向する開口部内に設けられ、誘電体材料を介して配置された2つの電極を有するプラズマを生成可能な誘電体バリア放電部を備え、
前記誘電体バリア放電部は、前記2つの電極に交流電圧またはパルス状電圧を印加してプラズマを発生させてオゾンを生成するオゾン生成機能と、前記2つの電極の配置によって前記開口部と前記対象物の表面とにより画成された空間に誘起流れを生成して該空間に対流を生じさせて前記対象物の表面にオゾンを作用させることが可能な誘起流れ生成機能とを合わせ有し、
前記2つの電極は、前記側壁部の内壁面に設けられ、該内壁面の表面に前記開口部に露出する第1の電極および該内壁面に埋め込まれ誘電体材料で被覆された第2の電極であり、
前記第1および第2の電極の配置によって前記誘起流れを該側壁部の内壁面に沿って生成させ、互いに対向する前記第1および第2の電極によって生成された誘起流れが衝突して前記対象物の表面に到達するように前記対流を生じさせるように構成された、前記プラズマ殺菌装置。
【請求項2】
前記第2の電極は、前記内壁面に前記開口部を囲むように配置されてなる、請求項1記載のプラズマ殺菌装置。
【請求項3】
前記第2の電極は、導電線が誘電体材料に被覆された被覆導線であり、
前記被覆導線と前記第1の電極との間に前記交流電圧またはパルス状電圧を印加して前記内壁面に沿って前記開口部内にプラズマを発生させる、請求項1または2記載のプラズマ殺菌装置。
【請求項4】
前記第2の電極は、前記誘電体材料に覆われ前記内壁面に埋め込まれた裏面電極であり、
前記裏面電極と前記第1の電極との間に前記交流電圧またはパルス状電圧を印加して前記内壁面に沿って前記開口部内にプラズマを発生させる、請求項1または2記載のプラズマ殺菌装置。
【請求項5】
前記内壁面の表面に設けられた前記第1の電極の代わりに、前記底面部は、導電性材料からなり、前記第1の電極として機能する、請求項1~4のうちいずれか1項記載のプラズマ殺菌装置。
【請求項6】
対象物の表面を殺菌するためのプラズマ殺菌装置であって、
底面部と該底面部の周囲を囲む側壁部とにより画成され前記対象物の表面に対向する開口部内に設けられ、誘電体材料を介して配置された2つの電極を有するプラズマを生成可能な誘電体バリア放電部を備え、
前記誘電体バリア放電部は、前記2つの電極に交流電圧またはパルス状電圧を印加してプラズマを発生させてオゾンを生成するオゾン生成機能と、前記2つの電極の配置によって前記開口部と前記対象物の表面とにより形成された空間に誘起流れを生成して該空間に対流を生じさせて前記対象物の表面にオゾンを作用させることが可能な誘起流れ生成機能とを合わせ有し、
前記誘電体バリア放電部は、前記底面部上に前記対象物の表面に対向するように設けられ、
前記2つの電極は、前記対象物の表面を覆うように設けられた第3の電極および該底面部上に誘電体部材で覆われた第4の電極であり、
前記第3の電極と該第4の電極との間に交流電圧またはパルス状電圧が印加され、前記プラズマを生成する、前記プラズマ殺菌装置。
【請求項7】
前記第4の電極は、導電線が誘電体部材で被覆された被覆導線であり、
前記被覆導線と前記第3の電極との間に前記交流電圧またはパルス状電圧を印加して前記開口部内にプラズマを発生させる、請求項6記載のプラズマ殺菌装置。
【請求項8】
前記第4の電極は、前記被覆導線が前記底面部上に渦巻き状、ジグザグ状またはアレイ状に2次元配置されてなる、請求項7記載のプラズマ殺菌装置。
【請求項9】
前記第4の電極は、前記底面部上に誘電体部材で覆われた裏面電極であり、
前記裏面電極と前記第3の電極との間に前記交流電圧またはパルス状電圧を印加して前記誘電体部材の表面と前記第3の電極との間および該第3の電極よりも外方にプラズマを発生させる、請求項6記載のプラズマ殺菌装置。
【請求項10】
前記第3の電極は前記第4の電極と所定の距離をもって延在するメッシュ状に形成される、請求項6~9のうちいずれか1項記載のプラズマ殺菌装置。
【請求項11】
前記対象物の表面が導電性材料の場合に前記第3の電極の代わりに該対象物の表面を電極として用いるための接続端子をさらに備え、
前記接続端子を前記対象物の表面に接触させて、前記接続端子と前記第4の電極との間に前記交流電圧またはパルス状電圧を印加して前記対象物の表面と前記第4の電極を覆う誘電体部材の表面との間にプラズマを発生させる、請求項6~9のうちいずれか1項記載のプラズマ殺菌装置。
【請求項12】
前記底面部を加熱して、前記対象物の表面の温度を上昇させる加熱部をさらに備える、請求項1~11のうちいずれか1項記載のプラズマ殺菌装置。
【請求項13】
少なくとも水を含む液体の蒸気を前記対象物の表面に向かって噴出する噴出孔をさらに備え、
前記プラズマと前記蒸気とにより生成されたOHラジカルを前記対象物の表面に作用させる、請求項12記載のプラズマ殺菌装置。
【請求項14】
前記加熱部は前記少なくとも水を含む液体の蒸気を加熱して、該加熱された蒸気を前記対象物の表面に作用させる、請求項13記載のプラズマ殺菌装置。
【請求項15】
前記蒸気を形成するために前記少なくとも水を含む液体を供給する給水部と、
前記噴出した蒸気を前記給水部に還流する還流路と、をさらに備える、請求項13または14記載のプラズマ殺菌装置。
【請求項16】
前記還流路に前記蒸気または凝縮した水に含まれるオゾンを除去するフィルタ部をさらに備える、請求項15記載のプラズマ殺菌装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘電体バリア放電による殺菌技術に関し、特に、誘電体バリア放電が生成するプラズマおよびOHラジカルにより対象物表面を殺菌する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
誘電体バリア放電は,絶縁体の表面に一方の電極を配置し、絶縁体の裏面に他方の電極を配置して、両方の電極間に交流高電圧を印加することでプラズマが発生する。本願発明者は、電極の一つを被覆導線として対象物の3次元の表面に自在に配置して、プラズマを発生させる技術を開発した(特許文献1および非特許文献1参照。)。
【0003】
重症急性呼吸器症候群(SARS)や、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)等の新型ウイルスによる感染症は、ワクチン、治療薬の開発には時間を要する。感染を迅速および効果的に防ぐには、無害化つまり殺菌することが早道である。水蒸気プラズマによる滅菌効果が報告されている(例えば、非特許文献2参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第6213985号明細書
【非特許文献】
【0005】
【文献】瀬川武彦等、ながれ 2012、31、pp479-482
【文献】佐藤岳彦等、日本機械学会流体工学部門講演会講演論文集、2010、pp595-596
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、対象物の表面に付着する微生物の殺菌が可能なプラズマ殺菌装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様によれば、対象物の表面を殺菌するためのプラズマ殺菌装置であって、底面部とその底面部の周囲を囲む側壁部とにより画成され上記対象物の表面に対向する開口部内に設けられたプラズマを生成可能な誘電体バリア放電部を備え、上記誘電体バリア放電部に交流電圧またはパルス状電圧を印加してプラズマを発生させてオゾンおよび誘起流れを生成し、上記開口部と前記対象物の表面とにより形成された空間のオゾン濃度を増加するとともに上記誘起流れによってその空間に対流を生じさせて上記対象物の表面にオゾンを作用させることが可能な、上記プラズマ殺菌装置が提供される。
【0008】
上記態様によれば、プラズマ殺菌装置の筐体の開口部に誘電体バリア放電部を設け、誘電体バリア放電部によりオゾンを発生させて開口部内に充満させて対象物の表面にオゾンを作用させることで、対象物の表面を殺菌できる。また、対象物の表面が複雑な形状、例えば、隙間内や凹部の表面は手が直接入らないので拭き取りによる殺菌がし難く、紫外光も遮られるので紫外光による殺菌もし難い。これに対して、上記態様のプラズマ殺菌装置では、誘起された流れによってオゾンを隙間内や凹部に供給できるので殺菌が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】第1の実施形態に係るプラズマ殺菌装置の概略構成を示す断面図である。
図2】第2の実施形態に係るプラズマ殺菌装置の概略構成を示す断面図である。
図3】第3の実施形態に係るプラズマ殺菌装置の概略構成を示す断面図である。
図4】第4の実施形態に係るプラズマ殺菌装置の概略構成を示す断面図である。
図5】第5の実施形態に係るプラズマ殺菌装置の概略構成を示す断面図である。
図6】第6の実施形態に係るプラズマ殺菌装置の概略構成を示す断面図である。
図7】第7の実施形態に係るプラズマ殺菌装置の概略構成を示す断面図である。
図8】第8の実施形態に係るプラズマ殺菌装置の概略構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面に基づいて本発明の一実施形態を説明する。なお、図面間において共通する要素については同じ符号を付し、その要素の詳細な説明の繰り返しを省略する。
【0011】
図1は、第1の実施形態に係るプラズマ殺菌装置の概略構成を示す断面図である。図1を参照するに、プラズマ殺菌装置10は、筐体11の底面側に殺菌対象物の表面TSに対向する開口部11aを有する。開口部11aは、ベース部12の底面12aと、ベース部12の周囲を囲むように設けられた側壁部13の内壁面13aにより画成される。開口部11aには、プラズマを発生する誘電体バリア放電部14を有する。プラズマ殺菌装置10は、殺菌対象物の表面TSを覆うように側壁部の下端13bを密着させることで、殺菌対象物の表面によって開口部11aを閉じた空間として、殺菌効果を向上する。
【0012】
プラズマ殺菌装置10は、側壁部13の開口部11aを臨む内壁面13aに誘電体バリア放電部14が設けられる。誘電体バリア放電部14は、内壁面13aに開口部11aに露出するとともに開口部11aを囲むように延在する表面電極15と、表面電極15の下部の内壁面13aに埋め込まれ、表面電極15と平行に開口部11aを囲むように延在する被覆導線16とを有する。表面電極15は接地され、被覆導線16は高電圧高周波電源18に電気的に接続される。高電圧高周波電源18により表面電極15と被覆導線16との間に高周波またはパルス状の高電圧を印加することで、表面電極15からそれに対向する被覆導線16の開口部11a側の表面に沿って開口部11a内に誘電体バリア放電によるプラズマPLが発生する。プラズマPLによりオゾンが発生する。さらに、プラズマPLの発生に伴って内壁面13aに沿って開口部11a内に表面電極15から被覆導線16の方向に誘起流(矢印IFで示す。)が発生する。誘起流IFは、開口部11aが殺菌対象物の表面TSにより塞がれることで形成される閉空間において、表面電極15の方向に戻る回流を形成する。その誘起流IFに誘導されて、開口部11a内に大きな対流AFが発生し、プラズマPLによって発生したオゾンが殺菌対象物の表面TSに到達する。開口部11a内はオゾンが高濃度に充満し、このオゾンによって、殺菌対象物の表面TSの微生物、例えば、細菌、ウイルス等を殺菌することができる。
【0013】
被覆導線16は、内壁面13aに沿って表面電極15から下方に3本が配列されている。3本の被覆導線16は互いに電気的に接続されている。被覆導線16の本数に制限はなく、1本または2本または4本以上でもよい。1本の被覆導線が2重または3重または4重以上に周回するようにしてもよい。被覆導線16は、内壁面13aに沿ってより多く(多数本あるいは多重)に配置することで、プラズマPLを表面電極15から下方に内壁面13aに沿ってより長く形成できる。これにより、誘起流IFによる回流の範囲が広くなり、対流AFをより形成し易くできる。なお、変形例として、被覆導線16は、内壁面13aに沿って周回せずに、内壁面13aの一部に設けてもよい。
【0014】
被覆導線16は、内壁面13aに埋め込まれることが誘起流IFの流れを円滑にする点で好ましい。さらに、被覆導線16は、内壁面13aにフラッシュマウント化されて開口部11aに臨む表面が平坦であることが、誘起流IFの流れを極めて円滑にする点で好ましい。フラッシュマウント化には、例えば、レジスト、シリコーンゴム、ポリイミド、PTFE樹脂(例えばテフロン(登録商標))などのコーティング・封止材料を用いることができる。
【0015】
表面電極15は、薄帯状の導電性材料、例えば、銅、アルミニウム、金、銀等の金属材料、酸化インジウムスズ(ITO)等の導電性酸化物を用いてもよい。被覆導線16は、誘電体材料の被覆部材に覆われた導電線からなる。
【0016】
高電圧高周波電源18は、高周波あるいはパルス状の高電圧信号を供給可能な電源であれば特に限定されない。この高電圧信号は、高周波あるいはパルス状であり、周波数が、電源の装置コストを考慮した実用的な観点から、0.05kHz~1000kHzに設定されることが好ましく、電圧が0.1kV~100kVに設定されることが好ましい。
【0017】
高電圧高周波電源18は、プラズマ殺菌装置10に電気ケーブルによって接続するようにしてもよく、プラズマ殺菌装置10に内蔵するように設けてもよい。
【0018】
側壁部13は、その下端13bに、シール部材(不図示)、例えば、可撓性を有する薄板のプラスチック板を設けてもよい。シール部材は、下端13bに沿って開口部11aを包囲するように配置して、開口部11aの密閉性を向上することができる。
【0019】
プラズマ殺菌装置10は、ベース部12にヒータ19を設けてもよい。ヒータ19は電源(不図示)から電力が供給され発熱し、ベース部12を介して底面12aから開口部11a内を加熱し、さらに殺菌対象物の表面TSを加熱することができる。対流AFによって、殺菌対象物の表面TSの温度を上昇させることで、オゾンとの相乗効果により殺菌効果を向上することができる。ベース部12は、熱伝導が良好な材料が好ましい。
【0020】
なお、プラズマ殺菌装置10は、開口部11a内の高濃度のオゾンを回収するためのフィルタを設けてもよく、次の第2の実施形態に係るプラズマ殺菌装置の給水タンクのように、オゾンを水に溶解する回収機構を設けてもよい。
【0021】
[第2の実施形態]
第2の実施形態に係るプラズマ殺菌装置は、第1の実施形態に係るプラズマ殺菌装置に、蒸気噴出機構およびオゾン回収機構を追加したものである。第2の実施形態に係るプラズマ殺菌装置において、第1の実施形態に係るプラズマ殺菌装置と共通する要素について同じ符号を付し、その詳細な説明を省略する。
【0022】
図2は、第2の実施形態に係るプラズマ殺菌装置の概略構成を示す断面図である。図2を参照するに、プラズマ殺菌装置50は、誘電体バリア放電部14に加えて、蒸気噴出機構を有する。具体的には、プラズマ殺菌装置50は、側壁部13において開口部11aを臨む内壁面13aに誘電体バリア放電部14と、ベース部12に設けられたヒータ19と、ヒータ19で加熱された水蒸気を殺菌対象物の表面TSに向かって噴出する噴出孔58aを有する。
【0023】
プラズマ殺菌装置50には、水蒸気を発生させるために、給水タンク52が設けられる。変形例としては、外部から随時給水できるようにしてもよく、給水タンク52をカセット式にして取り外し自在としてもよい。給水タンク52の水は、タンク筐体53および筐体11を貫通する流路54を介して接続された噴射ノズル55から気化室56内に水蒸気となって噴出される。気化室56には、その上部のベース部12に埋め込まれたヒータ19からの熱が伝導される。これによって、気化室56内の水蒸気が加熱される。加熱された水蒸気は、気化室56の下部の板状部材58に設けられた噴出孔58aから殺菌対象物の表面TSに噴出される。
【0024】
プラズマ殺菌装置50は、誘電体バリア放電部14のプラズマPLによりオゾンが発生する。さらに、プラズマPLは、噴出孔58aから噴出された水蒸気と反応してOHラジカルを発生する。オゾンおよびOHラジカルは、殺菌対象物の表面TSに直接接触して殺菌効果を奏するとともに、オゾンの一部は水蒸気に溶解し、過酸化水素水となって殺菌対象物の表面TSの殺菌効果を奏する。また、開口部11a内を高温多湿化することで、殺菌対象物の表面TSの殺菌効果をさらに向上することができる。
【0025】
プラズマ殺菌装置50は、板状部材58の周辺部に開口部11a内のオゾンを排出する排出孔58bを設けてもよい。排出孔58bは流路59を介して給水タンク52に接続される。開口部11a内の過分のオゾンを給水タンク52に還流させて内の給水タンク52内の水に溶解させることで、プラズマ殺菌装置50から外部に漏れるオゾン量を低減する。
【0026】
[第3の実施形態]
第3の実施形態に係るプラズマ殺菌装置は、第2の実施形態に係るプラズマ殺菌装置の変形例である、第2の実施形態に係るプラズマ殺菌装置と共通する要素についての詳細な説明を省略する。
【0027】
図3は、第3の実施形態に係るプラズマ殺菌装置の概略構成を示す断面図である。図3を参照するに、プラズマ殺菌装置100は、水蒸気の噴出孔が設けられた板状部材58が導電性材料からなり、板状部材58は高電圧高周波電源18の接地側に電気的に接続され接地される。板状部材58は、導電性材料、例えば金属材料を用いることができる。板状部材58は、例えば、クロムメッキ等の耐食性の高いメッキを表面に形成した銅、アルミニウムおよびこれらの合金、ステンレス等を用いることが耐食性に優れる点で好ましい。板状部材58が誘電体バリア放電部14の表面電極を兼ねる。高電圧高周波電源18により板状部材58(表面電極)と被覆導線16との間に高周波の高電圧を印加することで、板状部材58の端部58cから被覆導線16の開口部11a側の表面に沿って開口部11a内に誘電体バリア放電によるプラズマPLが発生する。これにより、プラズマ殺菌装置100は、第2の実施形態に係るプラズマ殺菌装置50と同様の殺菌対象物の表面TSの殺菌効果を奏する。
【0028】
[第4の実施形態]
第4の実施形態に係るプラズマ殺菌装置は、第2の実施形態に係るプラズマ殺菌装置の変形例である、第2の実施形態に係るプラズマ殺菌装置と共通する要素についての詳細な説明を省略する。
【0029】
図4は、第4の実施形態に係るプラズマ殺菌装置の概略構成を示す断面図である。図4を参照するに、プラズマ殺菌装置150は、誘電体バリア放電部151が被覆導線16の代わりに誘電体層152に埋め込まれた裏面電極153を有する。裏面電極153は、表面電極15と同様の導電性材料からなる。誘電体層152は、例えば、レジスト、アクリル樹脂、シリコーンゴム、シリコーン樹脂、アルミナセラミックス、サファイア(高純度アルミナセラミックス)、ポリイミド、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)樹脂(例えばテフロン(登録商標))、ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂、パイレックス(登録商標)ガラス、石英ガラス、PEEK、各種油脂などを用いることができる。
【0030】
裏面電極153は、高電圧高周波電源18に接続される。高電圧高周波電源18により表面電極15と裏面電極との間に高周波またはパルス状の高電圧を印加することで、表面電極15からそれに対向する裏面電極153を覆う誘電体層152の開口部11a側の表面に沿って開口部11a内に誘電体バリア放電によるプラズマPLが発生する。これにより、プラズマ殺菌装置150は、第2の実施形態に係るプラズマ殺菌装置50と同様の殺菌効果を奏する。
【0031】
なお、変形例として、表面電極15の代わりに、図3に示した第3の実施形態のように導電性材料からなる板状部材58を用いて、高電圧高周波電源18の接地側を接続してもよい。
【0032】
[第5の実施形態]
第5の実施形態に係るプラズマ殺菌装置は、誘電体バリア放電部を開口部に殺菌対象物の表面TSに対向するように配置した例である。
【0033】
図5は、第5の実施形態に係るプラズマ殺菌装置の概略構成を示す断面図である。図5を参照するに、プラズマ殺菌装置200は、開口部11a内に誘電体バリア放電部201を有する。プラズマ殺菌装置200は、開口部11aを臨む板状部材58の底面58d上に、底面全体に亘って延在する被覆導線216と、被覆導線216よりも外方(殺菌対象物の表面TS側)に設けられ被覆導線216と離隔して覆うように配置されたメッシュ状電極215とを有する。被覆導線216は、板状部材58の底面に固定されることが好ましい。
【0034】
被覆導線216およびメッシュ状電極215は、高電圧高周波電源18に電気的に接続される。被覆導線216は高電圧高周波電源18の出力側に電気的に接続され、メッシュ状電極215は高電圧高周波電源18の接地側に電気的に接続され接地されることが好ましい。これにより、使用者がメッシュ状電極215に誤って触れたとしても感電することを防止できる。
【0035】
被覆導線216は、板状部材58の底面上のほぼ全面に配置することが好ましい。被覆導線216は、殺菌対象物の表面TS側から視た場合、例えば、渦巻き状、ジグザグ状、アレイ状に配置することが好ましい。被覆導線216は、例えば、渦巻き状またはジグザグ状に1本で配置してもよく、複数本で配置してもよい。被覆導線216は、互いに隣合う間隔が、3mm~10mmの間隔に設定することが、噴出孔58aからの蒸気の流れを妨げ難い点、およびプラズマの発生箇所を適度に確保するとともに消費電力を過度に増加させない点で好ましい。
【0036】
被覆導線216は、板状部材58に設けられた噴出孔58aの出口を塞がないように、例えば、隣合う被覆導線の間に噴出孔58aの出口がくるように配置されることが好ましい。
【0037】
メッシュ状電極215は、被覆導線216が延在する平面とほぼ平行に、所定の距離だけ離隔して配置される。メッシュ状電極215は、例えば、互いに直角な2つの方向(図におけるX方向およびY方向)に導線が延在する。メッシュ状電極215の導電線の間隔は、0.2mm~5mmの間隔に設定することが好ましい。間隔を0.2mmよりも小さくするとメッシュ状電極215による圧力損失が高くなり、また、消費電力が増加する。間隔を5mmよりも大きくすると、プラズマの発生箇所が減少する。
【0038】
このような構成により、高電圧高周波電源18によりメッシュ状電極215と被覆導線216との間に高周波またはパルス状の高電圧を印加することで、メッシュ状電極215と被覆導線216とが近接する領域でプラズマPLが発生する。プラズマPLによって発生したオゾンによって殺菌対象物の表面TSの微生物、例えば、細菌、ウイルス等を殺菌することができる。さらにプラズマPLによって誘起された誘起流により開口部11a内にオゾンを含む流れを形成することで、殺菌効果を高めることができる。
【0039】
さらに、メッシュ状電極215を殺菌対象物の表面TSに近接できるように、例えば、メッシュ状電極215から側壁部の下端を短くするように構成することで、プラズマPLを表面TSに接触させることで殺菌効果を向上することができる。
【0040】
また、プラズマ殺菌装置200は、先の第2の実施形態に係るプラズマ殺菌装置50と同様に、噴出孔58aから蒸気を噴出することで、発生したOHラジカルによる殺菌効果、およびヒータ19による加熱効果も同様に奏することができる。
【0041】
[第6の実施形態]
第6の実施形態に係るプラズマ殺菌装置は、殺菌対象物の表面TSが導電性材料の場合に効果的に使用可能なプラズマ殺菌装置であり、第5の実施形態に係るプラズマ殺菌装置の変形例である。
【0042】
図6は、第6の実施形態に係るプラズマ殺菌装置の概略構成を示す断面図である。図6を参照するに、プラズマ殺菌装置250は、被覆導線216が、図5の第5の実施形態に係るプラズマ殺菌装置と同様に配置され、メッシュ状電極215を省略して、その代わりに導電性材料からなる殺菌対象物の表面TSに電気的に接触する接続端子251を有する。接続端子251は、高電圧高周波電源18の接地側に電気的に接続され接地される。
【0043】
このような構成により、高電圧高周波電源18により接続端子251と被覆導線216との間に高周波またはパルス状の高電圧を印加することで、殺菌対象物の表面TSと被覆導線216との間にプラズマPLが発生する。プラズマPLによって発生したオゾンによって殺菌対象物の表面TSの微生物、例えば、細菌、ウイルス等を殺菌することができる。さらに、プラズマPLが殺菌対象物の表面TSに容易に接触させることができ殺菌効果を極めて向上することができる。なお、他の殺菌効果は、第5の実施形態に係るプラズマ殺菌装置200と同様である。
【0044】
[第7の実施形態]
第7の実施形態に係るプラズマ殺菌装置は、第5の実施形態に係るプラズマ殺菌装置の変形例であり、被覆導線の代わりに裏面電極を適用した例である。
【0045】
図7は、第7の実施形態に係るプラズマ殺菌装置の概略構成を示す断面図である。図7を参照するに、プラズマ殺菌装置300は、板状部材58の底面上に底面全体に亘って延在する裏面電極316と、裏面電極316および板状部材58の底面を覆う誘電体層301と、誘電体層301の表面よりも外方(殺菌対象物の表面TS側)に設けられたメッシュ状電極215とを有する。水蒸気の噴出孔301aは、板状部材58および誘電体層301を貫通するように設けられる。
【0046】
裏面電極316は高電圧高周波電源18の出力側に電気的に接続され、メッシュ状電極215は高電圧高周波電源18の接地側に電気的に接続され接地されることが感電防止の観点から好ましい。
【0047】
裏面電極316は、第5の実施形態に係るプラズマ殺菌装置の被覆導線216と同様に、板状部材58の底面上に、例えば、渦巻き状、ジグザグ状、アレイ状に配置することが好ましい。
【0048】
このような構成により、高電圧高周波電源18によりメッシュ状電極215と裏面電極316との間に高周波またはパルス状の高電圧を印加することで、メッシュ状電極215と裏面電極316とが近接する領域にプラズマPLが発生する。具体的には、メッシュ状電極215と誘電体層301の表面との間およびメッシュ状電極215の殺菌対象物の表面TS側にプラズマPLが発生する。これにより、プラズマ殺菌装置300は、図5に示した第5の実施形態に係るプラズマ殺菌装置200と同様の効果を奏する。
【0049】
[第8の実施形態]
第8の実施形態に係るプラズマ殺菌装置は、第7の実施形態に係るプラズマ殺菌装置の変形例であり、殺菌対象物の表面TSが導電性材料の場合に効果的に使用可能なプラズマ殺菌装置であり、第7の実施形態に係るプラズマ殺菌装置の変形例である。
【0050】
図8は、第8の実施形態に係るプラズマ殺菌装置の概略構成を示す断面図である。図8を参照するに、プラズマ殺菌装置350は、裏面電極316および誘電体層301が、図7の第7の実施形態に係るプラズマ殺菌装置300と同様に配置され、メッシュ状電極215を省略して、その代わりに導電性材料からなる殺菌対象物の表面TSに電気的に接触する接続端子251を有する。接続端子251は、高電圧高周波電源18の接地側に電気的に接続され接地される。
【0051】
このような構成により、高電圧高周波電源18により接続端子251と裏面電極316との間に高周波またはパルス状の高電圧を印加することで、殺菌対象物の表面TSと誘電体層301の表面との間にプラズマPLが発生する。プラズマPLによって発生したオゾンによって殺菌対象物の表面TSの微生物、例えば、細菌、ウイルス等を殺菌することができる。さらに、プラズマPLが殺菌対象物の表面TSに容易に接触させることができ殺菌効果を極めて向上することができる。なお、プラズマ殺菌装置350の他の殺菌効果は、第7の実施形態に係るプラズマ殺菌装置300と同様である。
【0052】
以上、本発明の好ましい実施形態について詳述したが、本発明は係る特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。例えば、実施形態同士を互いに組み合わせてもよく、各実施形態の誘電体バリア放電部の少なくとも一部を互いに組み合わせてもよい。また、各実施形態のプラズマ殺菌装置は、携帯型であるが、据置き型でもよい。
【符号の説明】
【0053】
10,50,100,150,200,250,300,350 プラズマ殺菌装置
11 筐体
11a 開口部
13 側壁部
13a 内壁面
14,151,201 誘電体バリア放電部
15 表面電極
16,216 被覆導線
18 高電圧高周波電源
19 ヒータ
52 給水タンク
58 板状部材
58a 噴出孔
153,316 裏面電極
215 メッシュ状電極

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8