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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-18
(45)【発行日】2024-10-28
(54)【発明の名称】加工食品生地および加工食品
(51)【国際特許分類】
   A23J 3/00 20060101AFI20241021BHJP
   A23L 13/40 20230101ALI20241021BHJP
   A23J 3/14 20060101ALI20241021BHJP
   A23L 35/00 20160101ALN20241021BHJP
【FI】
A23J3/00 505
A23L13/40
A23J3/14
A23L35/00
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020049142
(22)【出願日】2020-03-19
(65)【公開番号】P2021145614
(43)【公開日】2021-09-27
【審査請求日】2022-12-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000227009
【氏名又は名称】日清オイリオグループ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】徳永 邦彦
(72)【発明者】
【氏名】室賀 香織
(72)【発明者】
【氏名】柑本 雅司
(72)【発明者】
【氏名】岡崎 敏樹
【審査官】関根 崇
(56)【参考文献】
【文献】特開平01-179667(JP,A)
【文献】特開2016-182107(JP,A)
【文献】特開2018-000091(JP,A)
【文献】国際公開第2019/240239(WO,A1)
【文献】特開2002-000231(JP,A)
【文献】特開2019-083790(JP,A)
【文献】特開平06-105667(JP,A)
【文献】特公昭55-026811(JP,B2)
【文献】特開昭62-198370(JP,A)
【文献】特開2002-238501(JP,A)
【文献】特開2012-249568(JP,A)
【文献】特開2019-170248(JP,A)
【文献】特開2018-057282(JP,A)
【文献】特開2015-073464(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23J 3/
A23L 13/
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
7~24質量%の油脂と3~30質量%の粉末状分離大豆蛋白を含む水中油型エマルションを10~20質量%含む、挽肉または挽肉様の加工食品生地であって、前記エマルションが、0.05~3質量%のHLBが7以下である非蛋白系乳化剤含む、前記加工食品生地。
【請求項2】
前記非蛋白系乳化剤が、2種類以上の非蛋白系乳化剤の組合せである、請求項に記載の加工食品生地。
【請求項3】
前記水中油型エマルションが、目開き4000μm篩下の粒度を有する多孔質素材を含む、請求項1または2に記載の加工食品生地。
【請求項4】
蛋白の全含有量に占める植物性蛋白の割合が5質量%以上である、請求項1~の何れか1項に記載の加工食品生地。
【請求項5】
前記粉末状分離大豆蛋白を含む水中油型エマルションに、非蛋白系乳化剤を添加分散させる工程を含む、請求項1~の何れか1項に記載の加工食品生地の製造方法。
【請求項6】
請求項1~の何れか1項に記載の加工食品生地が加熱調理された状態にある、加工食品。
【請求項7】
請求項1~の何れか1項に記載の加工食品生地を加熱調理する、加工食品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、挽肉または挽肉様の加工食品生地および加工食品に関する。
【背景技術】
【0002】
植物性蛋白をエクストルーダーで処理して得られる組織状植物性蛋白は、弾力のある食感を有するので、肉様蛋白食品の原材料に適している。肉様蛋白食品は、味や風味を改良するために、組織状大豆蛋白の原料に、調味成分を吸着させた微粒シリカゲルを添加する方法が開発されている(特許文献1)。また、調味成分を包接させたサイクロデキストリンを添加する方法が開発されている(特許文献2)。しかしながら、特許文献1、2においては、肉様蛋白食品の味の改良は行われているものの、挽肉加工食品が有しているようなジューシー感やソフト感、ほぐれ感を、肉様蛋白食品に付与することついては何ら検討されていなかった。
【0003】
また、挽肉加工食品の食感に、ソフト感、ジュージー感を付与し、さらに加熱時のドリップを低減させる方法として、分離大豆蛋白を使用したエマルションカード法が挙げられる(例えば、特許文献3)。しかしながら、エマルションカードの使用量が増えると、練り製品様の食感や均一感が出やすく、特に、組織状植物性蛋白を主原料にした挽肉様の加工食品に添加すると、挽肉様の食感、ジューシー感が損なわれる問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平6-98685号公報
【文献】特開平6-98686号公報
【文献】特開平6-245710号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって、食感、ジューシー感が改善された挽肉または挽肉様の加工食品の開発が望まれていた。
【0006】
本発明の課題は、食感、ジュージー感が改善された挽肉または挽肉様の加工食品、当該加工食品を得るための加工食品生地を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を達成するために鋭意検討した。その結果、粉末状植物性蛋白を使用したエマルションに、特定量の非蛋白系乳化剤を含ませることにより、挽肉または挽肉様の加工食品の食感、ジューシー感が改善できることを見出した。これにより、本発明は完成に至った。
【0008】
すなわち、本発明は以下の態様をとり得る。
[1]粉末状植物性蛋白を含むエマルションを含む、加工食品生地であって、前記エマルションが、0.05~3質量%の非蛋白系乳化剤含む、前記加工食品生地。
[2]前記非蛋白系乳化剤のHLBが7以下である、[1]の加工食品生地。
[3]前記非蛋白系乳化剤が、2種類以上の非蛋白系乳化剤の組合せである、[1]または[2]の加工食品生地。
[4]前記エマルションが、目開き4000μm篩下の粒度を有する多孔質素材を含む、[1]~[3]の何れか1つの加工食品生地。
[5]蛋白の全含有量に占める植物性蛋白の割合が5質量%以上である、[1]~[4]の何れか1つの加工食品生地。
[6]粉末状植物性蛋白を含むエマルションに、非蛋白系乳化剤を添加分散させる工程を含む、[1]~[5]の何れか1つの加工食品生地の製造方法。
[7][1]~[5]の何れか1つの加工食品生地が加熱調理された状態にある、加工食品。
[8][1]~[5]の何れか1つの加工食品生地を加熱調理する、加工食品の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、食感、ジュージー感が改善された挽肉または挽肉様の加工食品、当該加工食品を得るための加工食品生地を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を実施するための態様について詳細に説明する。
なお、本発明において、A~Bは、A以上B以下を意味する。例えば、A~B質量%は、A質量%以上B質量%以下を意味する。
【0011】
挽肉加工食品は、原料に挽肉を使用した加工食品である。挽肉加工食品としては、例えば、ハンバーグ、バーガーパティ、ミートボール(肉団子)、つくね、ミートローフ、メンチカツ、ロールキャベツ等が挙げられる。本発明の態様によれば、加工食品は、食品に含まれる蛋白の全量に占める植物性蛋白の割合が、好ましくは5質量%以上、より好ましくは15質量%以上、さらに好ましくは50質量%以上、ことさらに好ましくは80質量%以上の食品であり得る。なお、本発明においては、挽肉加工食品と挽肉様加工食品は、必要に応じて、食品に含まれる蛋白の全量に占める植物性蛋白の割合が50質量%未満である場合、挽肉加工食品とし、50質量%以上である場合、挽肉様加工食品とすることで、便宜上区別し得る。挽肉様加工食品は、食品に含まれる蛋白の構成を除いては、上記の挽肉加工食品に準じる食品である。
【0012】
本発明の態様によれば、加工食品生地は、挽肉または挽肉様の加工食品を得るために調製された、加熱調理前の原材料の調製物である。すなわち、本発明の態様の1つである加工食品は、加工食品生地を加熱調理することにより得られる。加工食品生地は、原材料から調製後、そのまま加熱調理されてもよいし、一旦冷凍して、加熱調理に供されるまで、冷凍状態で流通ないし保管されてもよい。冷凍状態の加工食品生地の温度は、好ましくは-10℃以下、より好ましくは-15℃以下に保持される。
【0013】
本発明の態様によれば、加工食品生地は、粉末状植物性蛋白を含むエマルションを含有する。エマルションに含まれる粉末状植物性蛋白は、分離大豆蛋白であり得る。分離大豆蛋白は、大豆から分離した水溶性蛋白を主成分として含み、水分のない乾物状態(乾物ベース)で90質量%以上の蛋白を含有し得る(分離大豆蛋白は、通常3~7質量%の水を含有する)。分離大豆蛋白は、公知の方法により製造してもよく、市販品を入手してもよい。分離大豆蛋白の市販品としては、例えば、粉末状分離大豆蛋白(商品名「ソルピー4000H」、日清オイリオグループ株式会社製)が挙げられる。本発明の態様の1つによれば、エマルションに含まれる粉末状植物性蛋白の含有量は、好ましくは3~30質量%であり、より好ましくは7~24質量%であり、さらに好ましくは11~20質量%である。
【0014】
本発明の態様によれば、粉末状植物性蛋白を含むエマルションは、0.05~3質量%の非蛋白系乳化剤を含む。ここで、非蛋白系乳化剤は、乳化作用を有する蛋白質および蛋白質分解物(ペプチドを含む)、を除く乳化剤である。非蛋白系乳化剤は食品用であれば特に限定されない。本発明に適用できる非蛋白系乳化剤としては、例えば、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、グリセリン有機酸脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステルなどの合成乳化剤や、レシチン(大豆レシチン、卵黄レシチンなど)、リゾレシチン(大豆リゾレシチン、卵黄リゾレシチンなど)、サポニン、植物ステロール類などの合成乳化剤でない乳化剤が挙げられる。非蛋白系乳化剤は、好ましくは、ソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、レシチンである。非蛋白系乳化剤は、2種以上が併用されてもよい。粉末状植物性蛋白を含むエマルションに含まれる非蛋白系乳化剤の含有量は、好ましくは0.2~2質量%であり、より好ましくは0.3~1.5質量%であり、さらに好ましくは、0.4~1質量%である。
【0015】
本発明の態様の1つによれば、合成乳化剤のHLBは、好ましくは7以下である。ここで、HLBは、親水性疎水性バランス(Hydrophile Lipophile Balance)の略であって、合成乳化剤が親水性か親油性かを知る指標となる。HLBは、0~20の値をとり、HLB値が小さい程、親油性が強いことを示す。本発明において、HLB値の算出はアトラス法の算出法を用いる。アトラス法の算出法は、
HLB=20×(1-S/A)
S:ケン化価
A:エステル中の脂肪酸の中和価
からHLB値を算出する方法を言う。
HLBが異なる2種類以上の合成乳化剤が使用される場合、使用される各合成乳化剤のHLBと合成乳化剤全量に占める割合とから、加重平均により、使用される合成乳化剤全体のHLBを算出してもよい。合成乳化剤のHLBは、より好ましくは1~6であり、さらに好ましくは2~5である。
【0016】
本発明の態様の1つによれば、粉末状植物性蛋白を含むエマルションは、油脂を含み得る。エマルションに含まれる油脂は、食用に適する限り特に限定されない。エマルションに含まれる油脂としては、例えば、大豆油、菜種油、パーム油、コーン油、焙煎ゴマ油、ゴマサラダ油、シソ油、亜麻仁油、落花生油、紅花油、ひまわり油、綿実油、ブドウ種油、マカデミアナッツ油、ヘーゼルナッツ油、カボチャ種子油、クルミ油、椿油、茶実油、エゴマ油、ボラージ油、オリーブ油、米糠油、小麦胚芽油、ヤシ油、ココアバター、豚脂、牛脂などの動植物性油脂、及びこれらの混合油、分別油、硬化油、エステル交換油などが挙げられる。上記油脂は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。本発明の態様の1つによれば、エマルションに含まれる油脂の含有量は、好ましくは3~30質量%であり、より好ましくは7~24質量%であり、さらに好ましくは11~20質量%である。
【0017】
本発明の態様の1つによれば、粉末状植物性蛋白を含むエマルションは、水を含み得る。エマルションに含まれる水は、飲食用に適する限り特に限定されない。例えば、水道水(上水)、湧き水、井戸水、イオン交換水、蒸留水などが挙げられる。上記水は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。本発明の態様の1つによれば、エマルションに含まれる水の量は、粉末状植物性蛋白などの原料に含まれる水を除いて(水として配合される量として)、好ましくは40~90質量%であり、より好ましくは50~80質量%であり、さらに好ましくは55~75質量%である。
【0018】
本発明の態様の1つによれば、粉末状植物性蛋白を含むエマルションは、目開き4000μm(ASTM5メッシュ、Tyler5メッシュ)篩下の粒度を有する多孔質素材を含み得る。前記多孔質素材の粒度は、好ましくは目開き2380μm(ASTM8メッシュ、Tyler8メッシュ)篩下の粒度を有し、より好ましくは目開き2000μm(ASTM10メッシュ、Tyler9メッシュ)篩下の粒度を有する。また、前記多孔質素材の粒度は、好ましくは目開き350μm(ASTM45メッシュ、Tyler42)篩上の粒度を有し、より好ましくは目開き840μm(ASTM20メッシュ、Tyler20メッシュ)篩上の粒度を有する。目開きの大きさの上限と下限は任意に組み合わせられる。ここで、目開きXμmの篩上または篩下とは、水あるいは調味液で戻す前の状態(水分10質量%以下、好ましくは4~9質量%の状態)の多孔質素材を目開きXμmの篩を使用して篩掛けした時に、篩を通過する部分をXμm篩下、篩の網上に残る部分をXμm篩上と呼ぶ。篩の目開きは、JIS Z8801-1を適用すればよいが、対応するASTMあるいはTylerの篩を使用してもよい。規格による篩の差異は極めて微小であり、本発明には影響しない。また、ここで、例えば、目開き4000μm篩下かつ目開き350μm篩上の粒度を有する多孔質素材とは、多孔性素材に占める当該画分の割合が、好ましくは50質量%以上、より好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは80質量%以上である多孔質素材である。
【0019】
本発明の態様の1つによれば、粉末状植物性蛋白を含むエマルションに含まれる目開き4000μm篩下の粒度を有する多孔質素材は、食材であれば特に限定されない。多孔質素材としては、例えば、おから粉、高野豆腐粉砕物、組織状大豆蛋白、およびこれらの組合せなどが挙げられる。多孔質素材は、好ましくは組織状大豆蛋白である。本発明の態様の1つによれば、粉末状植物性蛋白を含むエマルションに含まれる目開き4000μm篩下の粒度を有する多孔質素材の含有量は、水あるいは調味液で戻す前の状態(水分10質量%以下、好ましくは4~9質量%の状態)で、好ましくは0.1~3質量%であり、より好ましくは0.2~2質量%であり、さらに好ましくは0.3~1質量%である。また、本発明の態様の1つによれば、多孔質素材のゆるめ嵩密度は、好ましくは0.1~0.5g/cmであり、より好ましくは0.15~0.45g/cmであり、さらに好ましくは0.2~0.4g/cmである。ゆるめ嵩密度(g/cm)の測定は、例えば、内径15mm×25mLのメスシリンダーに、当該メスシリンダーの上部開口端から2cm程度上方から多孔質素材の適量を落下させて疎充填し、充填された質量(g)の測定と容量(mL)の読み取りを行い、mL(cm)当たりの多孔質素材の質量(g)を算出することで求められる。
【0020】
本発明の態様の1つによれば、粉末状植物性蛋白を含むエマルションは、通常のエマルションの調製方法により、調製され得る。例えば、粉末状植物性蛋白と約半量の水とを、フードプロセッサ、ミキサーなどにより、攪拌混合して均質化する。残りの水を攪拌しながら加えた後、(必要に応じて加熱融解された)液状の油脂を少量ずつ攪拌しながら加える。その後必要に応じて、目開き4000篩下の粒度を有する多孔質素材(例えば、組織状大豆蛋白)およびその他の副素材、を加えて攪拌、均一化することでエマルションを得る。非蛋白系乳化剤は上記の任意の段階で添加され得る。しかし、好ましくは、水溶性の非蛋白系乳化剤は予め水に分散溶解され、油溶性の非蛋白系乳化剤は予め油脂に分散溶解される。多孔質素材は、水や調味液で戻した状態で、または、水や調味液で戻すことなくそのままの状態(水分10質量%以下、好ましくは4~9質量%の状態)で、加えられてもよい。しかし、多孔質素材は、好ましくは水や調味液で戻すことなくそのままの状態で加えられる。
【0021】
本発明の態様の1つによれば、加工食品生地に含まれる粉末状植物性蛋白を含むエマルションの含有量は、当該エマルションを加工食品生地の原材料の1つとした原材料配合ベースで、好ましくは5~50質量%であり、より好ましくは10~30質量%であり、さらに好ましくは15~20質量%である。
【0022】
本発明の態様の1つによれば、加工食品生地は、上記エマルション以外の原材料として、組織状植物性蛋白を含有し得る。組織状植物性蛋白は、例えば、エクストルーダーに植物性蛋白を含む原料を供給し、加圧・加熱しながら混合・混練することにより製造される。エクストルーダー処理により、蛋白質が膨化し、多孔質な組織が形成される。エクストルーダーとしては、例えば、二軸エクストルーダーが使用できる。植物性蛋白としては、例えば、脱脂大豆、分離大豆蛋白、小麦グルテン等が使用できる。植物性蛋白に、澱粉、食用油脂等を混合して、組織状植物性蛋白の原料が得られる。組織状植物性蛋白は、大豆由来の蛋白を使用して製造されたものを、組織状大豆蛋白といい、小麦由来の蛋白を使用して製造されたものを、組織状小麦蛋白という。組織状植物性蛋白は、粉砕され、用途に応じて篩掛け等により粒度が調整され得る。組織状植物性蛋白に占める蛋白の割合は、実質的に水分を含まない乾物ベース(水分1質量%未満、好ましくは0.5質量%未満)で、好ましくは40~60質量%であり、より好ましくは45~55質量%であり、さらに好ましくは50~55質量%である。食品や食品原材料に含まれる蛋白の含有量は、例えば、当分野で常用されるケルダール法により、粗蛋白質量として求められる。
【0023】
本発明の態様の1つによれば、加工食品生地に上記エマルション以外の原材料として含まれる組織状植物性蛋白は、植物性蛋白として脱脂大豆を使用した組織状大豆蛋白であり得る。脱脂大豆は、大豆から大豆油を除去して残った固形分である。脱脂大豆を得るための大豆の品種や産地は特に限定されない。脱脂大豆は、圧搾又は抽出により、大豆から大豆油を除去することにより得られる。脱脂大豆の製造方法は特に限定されない。公知の方法が適用され得る。脱脂大豆は、例えば、n-ヘキサンを抽出溶剤として、60~80℃の低温で、大豆から大豆油を抽出することにより得られる。脱脂大豆は、市販品であってもよい。市販品としては、例えば、低変性脱脂大豆(商品名「ソーヤフラワーA」、日清オイリオグループ株式会社販売)が挙げられる。組織状大豆蛋白の水分は、通常10質量%以下であり、4~9質量%であり得る。水の含有量(水分)は、当分野で常用される方法(常圧加熱乾燥法など)により求められる。
【0024】
本発明の態様の1つによれば、加工食品生地に上記エマルション以外の原材料として含まれる組織状植物性蛋白は、水あるいは調味液で戻す前の状態(水分10質量%以下、好ましくは4~9質量%の状態)で、好ましくは目開き5600μm(ASTM3.5メッシュ、Tyler3.5メッシュ)篩上の画分を実質的に含有しない。また、好ましくは目開き840μm篩上の粒度を有し、篩下の画分を実質的に含有しない。すなわち、目開き5600μm篩上画分の含有量、および/または、目開き840μm篩下画分の含有量は、好ましくは5質量%以下であり、より好ましくは3質量%以下であり、さらに好ましくは2質量%以下である。また、本発明の態様の1つによれば、加工食品生地に上記エマルション以外の原材料として含まれる組織状植物性蛋白は、水あるいは調味液で戻す前の状態(水分10質量%以下、好ましくは4~9質量%の状態)で、目開き4000μm篩下の粒度を有し得る、また、目開き2000μm篩上または目開き2380μm篩上の粒度を有し得る。目開きの大きさの上限と下限は任意に組み合わせられる。ここで、目開きXμmの篩上または篩下とは、上記多孔質素材の場合と同様である。
【0025】
本発明の態様の1つによれば、本発明で使用する組織状植物性蛋白は、市販品を使用してもよい。組織状植物性蛋白である組織状大豆蛋白の市販品としては、例えば、日清オイリオグループ株式会社製の商品、ニューソイミーS10、ニューソイミーS11、ニューソイミーS20F、ニューソイミーS21F、ニューソイミーS21MKJ、ニューソイミーS22F、ニューソイミーS31B、ニューソイミーS50、ニューコミテックスA-301、ニューコミテックスA-302、ニューコミテックスA-318、ニューコミテックスA-320、ニューコミテックスA-321S、ニューコミテックスA-400、ニューソイミーF2010、ニューソイミーF3010など、が挙げられる。市販の組織状植物性蛋白を、粉砕、篩掛けなどを施し、上記粒度特性を有する画分を調製すればよい。
【0026】
本発明の態様の1つによれば、加工食品生地に上記エマルション以外の原材料として含まれる組織状植物性蛋白の含有量は、原材料の配合ベース(組織状植物性蛋白が水分10質量%以下の状態として)で、好ましくは0.1~20質量%であり、より好ましくは1~17質量%であり、さらに好ましくは3~10質量%である。
【0027】
本発明の態様の1つによれば、加工食品生地に上記エマルション以外の原材料として含まれる組織状植物性蛋白は、予め、水および/または調味液で膨潤させてもよい。水は、例えば、水道水、地下水、イオン交換水、純水等であってもよい。調味液は、ビーフエキス、ボークエキス、チキンエキス等の畜肉系エキス、ジンジャーエキス、ニンジンエキス、トマトエキス等の野菜エキス、エビエキス、カニエキス、牡蠣エキス、ホタテエキス等の魚介エキス、酵母エキス、砂糖、塩、お酢、醤油、味噌、みりん、コンソメ、グルタミン酸ソーダ等の調味料、こしょう等の香辛料、等の調味材料を水で希釈した水溶液であってもよい。膨潤させる水および/または調味液の量は、加工食品生地に上記エマルション以外の原材料として含まれる組織状植物性蛋白(水分10質量%以下の状態、好ましくは4~9質量%の状態)100質量部に対して、好ましくは10~1000質量部であり、より好ましくは50~500質量部であり、さらに好ましくは100~300質量部である。
【0028】
本発明の態様の1つによれば、加工食品生地に上記エマルション以外の原材料として含まれる組織状植物性蛋白は、予め、水および/または調味液で膨潤させる以外に、そのままの状態(水分10質量%以下、好ましくは4~9質量%の状態)で、生地に加えられる部分があってもよい。そのままの状態で生地に加えられる組織状植物性蛋白は、原材料の配合ベースで(原材料に占める割合で)、好ましくは0.5~8質量%、より好ましくは1~6質量%、さらに好ましくは2~5質量%であり得る。
【0029】
本発明の態様の1つによれば、加工食品生地の原材料に占める(原材料ベースにおける)、加工食品生地に上記エマルション以外の原材料として含まれる組織状植物性蛋白(水分10質量%以下、好ましくは4~9質量%の状態)の量に対する、上記エマルションに含まれる多孔質素材(水分10質量%以下、好ましくは4~9質量%の状態)の量の比(質量比)は、好ましくは0.002~2である。当該比は、より好ましくは0.005~1であり、さらに好ましくは0.01~0.1であり、ことさらに好ましくは0.01~0.05である。
【0030】
本発明の態様の1つによれば、加工食品生地は、上記の、粉末状植物性蛋白を含むエマルションおよびエマルション以外の原材料として含まれる組織状植物性蛋白、以外に、一般に挽肉加工食品に使用される原材料を含有してもよい。例えば、卵白、デンプン、パン粉などの結着性素材、タマネギ、ネギ、ニンジンなどの野菜、食用油脂、調味材料、乳化剤、酸化防止剤、pH調整剤、香料、着色料、保存料などが挙げられる。本発明の態様の1つによれば、加工食品生地は、粉末状植物性蛋白を除く、パン粉、卵白、デンプン、デキストリン、マッシュポテトなどの澱粉類、キサンタンガム、カラギーナン、グルコマンナン、カードランなどの増粘多糖類、焼成カルシウムなどのカルシウム塩、トランスグルタミナーゼなどの酵素類、などの結着性素材を含み得る。加工食品生地に含まれる粉末状植物性蛋白を除く結着性素材の含有量は、原材料配合ベースで、好ましくは1~40質量%であり、より好ましくは3~30質量%であり、さらに好ましくは5~20質量%である。
【0031】
本発明の態様の1つによれば、粉末状植物性蛋白を含むエマルションを含む加工食品生地は、通常の挽肉加工食品生地と同様の調製方法により、調製され得る。例えば、ミキサーに粉末状植物性蛋白を含むエマルションを取り、軽く攪拌する。その後、必要に応じて、挽肉、水および/または調味液で戻した組織状植物性蛋白、を加えて、さらに攪拌する。さらに、結着性素材、調味料、タマネギ等を加えて、練り物状態になるまで攪拌することで、生地は調製され得る。生地は、適当な大きさ、形状に成型されてもよい。例えば、ハンバーグ類似の加工食品の場合、生地は、縦50~100cm、横30~60cm、厚さ8~12mmの楕円形に成型されてもよい。調製された加工食品生地は、好ましくは-18℃以下、より好ましくは-25~-40℃の急速冷凍機を用いて冷凍し、冷凍生地としてもよい。冷凍は、生地調製後、好ましくは60分以内、より好ましくは30分以内、さらに好ましくは15分以内に行われ得る。本発明の態様の1つによれば、加工食品生地は、粉末状植物性蛋白を含むエマルションに、多孔質素材を添加分散させる工程から、好ましくは60分以内、より好ましくは30分以内に製造される。
【0032】
本発明の態様によれば、加工食品は、加工食品生地を、加熱調理することにより製造できる。加熱調理は、焼く、蒸す、揚げる、煮る、電子レンジで加熱する等、公知の加熱調理方法を適用できる。加熱調理は、加工食品生地の調製後、好ましくは60分以内、より好ましくは30分以内、さらに好ましくは15分以内に行われ得る。加工食品生地が冷凍状態である場合は、好ましくは解凍されることなく速やかに加熱調理される。加工食品生地が加熱調理された加工食品は、保存、流通のために、冷凍し、調理済みの冷凍加工食品としてもよい。冷凍は、好ましくは-18℃以下、より好ましくは-25~-40℃の急速冷凍機を用いて行われてもよい。冷凍状態の加工食品の温度は、好ましくは-10℃以下、より好ましくは-15℃以下に保持される。
【実施例
【0033】
次に、実施例を示して本発明をさらに詳細に説明する。しかし、本発明は以下の実施例に限定されない。
【0034】
<非蛋白系乳化剤>
以下の非蛋白系乳化剤を準備した。
・プロピレングリコールモノステアレート(商品名:リケマールPS-100、略称:PS-100、HLB3.7、理研ビタミン株式会社製)
・モノステアリン酸グリセリン(商品名:エキセルVS-95、略称:VS-95、HLB3.8、花王株式会社製)
・ソルビタンモノステアレート(商品名:エマゾールS-10V、略称:S-10V、HLB4.7、花王株式会社製)
・レシチン(商品名:レシチンDX、略称:DX、レシチン含有量65質量%、日清オイリオグループ株式会社製)
【0035】
<組織状植物性蛋白の粒度調製>
市販の組織状大豆蛋白(商品名:ニューソイミーN50C、日清オイリオグループ株式会社製、水分8質量%、乾物ベースの粗蛋白質含量54質量%)を粉砕し、目開きが異なる篩で篩分けすることにより、目開き5600μm篩上の含有量が0.1質量%、目開き5600μm篩下かつ目開き840μm篩上の含有量が99.4質量%、目開き5600μm篩下かつ目開き2000μm篩上の含有量が81.3質量%、目開き5600μm篩下かつ目開き2380μm篩上の含有量が72.8質量%、目開き4000μm篩下の含有量が80.7質量%である、組織状大豆蛋白L(略称:TSPL、ゆるめ嵩密度0.25g/cm)を得た。また、目開き2000μm篩下かつ目開き350μm篩上の含有量が95.1質量%であり、目開き2000μm篩下かつ目開き840μm篩上の含有量が86.1質量%である組織状大豆蛋白S(略称:TSPS、ゆるめ嵩密度0.38g/cm)を得た。
【0036】
<粉末状植物性蛋白を含むエマルションの調製>
表1、2の原材料配合にしたがって、エマルション1~14(E1~14)を調製した。すなわち、ミキサー(フードプロセッサー)に粉末状大豆蛋白と水(冷水)とを1:2の割合で採り、均一になるまで攪拌混合した。残りの水を攪拌しながら徐々に加え、均一な状態にした後、菜種油を少量ずつ加えて均一になるまで攪拌し、エマルション1(E1)を得た。E2~14については、非蛋白系乳化剤を予め溶解させた菜種油を用いた。E13、14については、菜種油を添加し終えたエマルションに、さらに水分8質量%の組織状大豆蛋白SまたはLを加えて均一になるまで攪拌した。
【0037】
【表1】

【0038】
【表2】

【0039】
<ハンバーグ生地の調製>
表3の原材料配合にしたがって、エマルション1~14(E1~14)をそれぞれ使用した、ハンバーグ生地1~14(HM1~14)を調製した。すなわち、縦型ミキサーに挽肉とエマルションを取り、低速で軽く攪拌した。その後、ハンバーグミックスと水を混合して加えて、低速で均一になるように軽く攪拌した。さらに、炒めタマネギベースを加えた後、それぞれ低速で均一になるように軽く攪拌して、生地を仕上げた。ハンバーグ生地HM1~14に含まれる蛋白の全量に占める植物性蛋白の割合は、20質量%であった。
【0040】
【表3】

【0041】
<ハンバーグの調製および評価>
上記で調製された72gのハンバーグ生地1~14を、それぞれ成形型に入れて略楕円状に成型した。成型生地を180℃に加熱したプレート上で両面に焼き色を付けた後、92℃で12分間蒸して、ハンバーグ1~14(HB1~14)を調製した。ハンバーグ1(HB1)を対照として、ハンバーグ2~14(HB2~14)のそれぞれに対しての食感およびジューシー感の評価を、以下の評価基準にしたがって、食品の風味評価に熟練したパネラー5名が行った。評点の合計により、HB2~14の食感およびジューシー感を総合評価した。結果を表4、5に示した。
【0042】
(ハンバーグの評価基準)

食感
評価基準 評点
対照と比較してソフト感、ほぐれ感に優れている 2点
対照と比較してソフト感、ほぐれ感がよい 1点
対照とソフト感、ほぐれ感が変わらない 0点
対照よりも硬い -1点

ジューシー感
評価基準 評点
対照と比較してジューシー感に優れている 2点
対照と比較してジューシー感がある 1点
対照とジューシー感が変わらない 0点
対照よりもジューシー感がない -1点

総合評価
◎◎:10点 特に優れている
◎:8点以上9点以下 たいへん優れている
〇:5点以上7点以下 優れている
△:2点以上4点以下 対照と差異はあるが、分かりにくい
×:1点以下 対照と差異がないか、劣っている
【0043】
【表4】

【0044】
【表5】