(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-18
(45)【発行日】2024-10-28
(54)【発明の名称】演算増幅器
(51)【国際特許分類】
H03F 1/26 20060101AFI20241021BHJP
H03F 3/45 20060101ALI20241021BHJP
H03F 1/30 20060101ALN20241021BHJP
【FI】
H03F1/26
H03F3/45 210
H03F1/30 220
(21)【出願番号】P 2020132591
(22)【出願日】2020-08-04
【審査請求日】2023-07-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000191238
【氏名又は名称】日清紡マイクロデバイス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099818
【氏名又は名称】安孫子 勉
(72)【発明者】
【氏名】小川 正訓
(72)【発明者】
【氏名】境 要典
【審査官】工藤 一光
(56)【参考文献】
【文献】特公昭60-40206(JP,B2)
【文献】国際公開第2019/039245(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/147397(WO,A1)
【文献】特開平10-65474(JP,A)
【文献】特開昭50-97260(JP,A)
【文献】特開2001-230639(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03F1/00-3/72
H03H7/01-7/13
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
非反転入力端子と反転入力端子間に印加された入力信号の差動増幅可能に構成されてなる演算増幅器であって、
正電源端子と負電源端子との間にローパスフィルタが設けられ、
前記ローパスフィルタは、フィルタ用抵抗器と、フィルタ用ダイオードと、フィルタ用コンデンサとを有してなり、
前記フィルタ用抵抗器の一端は、前記正電源端子に接続される一方、他端は、前記フィルタ用ダイオードのアノードに接続され、前記フィルタ用ダイオードのカソードは、前記負電源端子に接続され、前記フィルタ用コンデンサは、前記フィルタ用ダイオードのアノードと前記正電源端子との間に接続され、
前記フィルタ用コンデンサの容量値CX1は、
不等式(CX1×CbX1)/(CX1+CbX1)>〔1/{(2πfc)
2×L1}-Cb0〕を満たし、
前記不等式におけるCbX1は、前記フィルタ用ダイオードのアノードとカソードとの間の寄生容量の容量値であって、さらに、
前記不等式におけるfcは、前記ローパスフィルタの遮断周波数、前記不等式におけるL1は、前記正電源端子に接続される電源と前記正電源端子の間の配線の寄生インダクタンス、前記不等式におけるCb0は、前記正電源端子と前記負電源端子の間の寄生容量の容量値であって、
前記フィルタ用ダイオードの遮断周波数は、高周波外来ノイズの周波数よりも低いことを特徴とする演算増幅器。
【請求項2】
非反転入力端子と反転入力端子間に印加された入力信号の差動増幅可能に構成されてなる演算増幅器であって、
正電源端子と負電源端子との間にローパスフィルタが設けられ、
前記ローパスフィルタは、フィルタ用抵抗器と、フィルタ用ダイオードと、フィルタ用コンデンサとを有してなり、
前記フィルタ用抵抗器の一端は、前記負電源端子に接続される一方、他端は、前記フィルタ用ダイオードのカソードに接続され、前記フィルタ用ダイオードのアノードは、前記正電源端子に接続され、前記フィルタ用コンデンサは、前記フィルタ用ダイオードのカソードと前記負電源端子との間に接続され、
前記フィルタ用コンデンサの容量値CX1は、
不等式{(CX1+CbX2)×CbX1}/(CX1+CbX2+CbX1)>〔1/{(2πfc)
2×L1}-Cb0〕を満たし、
前記不等式におけるCbX1は、前記フィルタ用ダイオードのアノードとカソードとの間の寄生容量の容量値であって、
前記不等式におけるCbX2は、前記フィルタ用ダイオードのカソードと負電源端子との間の寄生容量の容量値であって、さらに、
前記不等式におけるfcは、前記ローパスフィルタの遮断周波数、前記不等式におけるL1は、前記正電源端子に接続される電源と前記正電源端子の間の配線の寄生インダクタンス、前記不等式におけるCb0は、前記正電源端子と前記負電源端子の間の寄生容量の容量値であって、
前記フィルタ用ダイオードの遮断周波数は、高周波外来ノイズの周波数より低いことを特徴とする演算増幅器。
【請求項3】
前記演算増幅器は、電流源回路を有すると共に、電源電圧が印加された際に前記電流源回路を起動せしめる起動回路を有し、
前記起動回路は、前記正電源端子と負電源端子との間に、前記正電源端子側から起動用抵抗器と起動用ダイオードが直列接続されて設けられ、前記起動用ダイオードは、そのアノードが前記起動用抵抗器に、カソードが前記負電源端子に、それぞれ接続され、
前記起動用ダイオードのアノードには、前記電流源回路の初段に起動電流を流すための起動用トランジスタのベースが接続されてなり、
前記起動用抵抗器は前記フィルタ用抵抗器を兼ねる一方、前記起動用ダイオードは前記フィルタ用ダイオードを兼ねることを特徴とする請求項1記載の演算増幅器。
【請求項4】
前記演算増幅器は、電流源回路を有すると共に、電源電圧が印加された際に前記電流源回路を起動せしめる起動回路を有し、
前記起動回路は、前記正電源端子と負電源端子との間に、前記正電源端子側から起動用ダイオードと起動用抵抗器が直列接続されて設けられ、前記起動用ダイオードは、そのカソードが前記起動用抵抗器の一端に、前記起動用抵抗器の他端が前記負電源端子に、それぞれ接続され、
前記起動用ダイオードのカソードには、前記電流源回路の初段に起動電流を流すための起動用トランジスタのベースが接続されてなり、
前記起動用抵抗器は前記フィルタ用抵抗器を兼ねる一方、前記起動用ダイオードは前記フィルタ用ダイオードを兼ねることを特徴とする請求項
2記載の演算増幅器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、演算増幅器に係り、特に、高周波外来ノイズに起因する出力特性の劣化防止、動作の安定性確保等を図ったものに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、演算増幅器における高周波外来ノイズに対する方策としては、ノイズが入力端子に混入することに着目して対策を施したものが多い。例えば、特許文献1等には、入力に混入する高周波外来ノイズをコンデンサと抵抗器で構成されるローパスフィルタ(LPF)で軽減するものが提案されている。
【0003】
特許文献1においては、同文献で開示されたローパスフィルタによる高周波外来ノイズ対策は、
図12に示された回路を用いて高周波外来ノイズの混入について検証した結果を反映したものである旨が述べられている。
図12に示された検証回路は、演算増幅器OP1を用いた増幅回路であって、その回路構成は従来から良く知られているものであるので、ここでの詳細な説明は省略する。
【0004】
また、
図13には、演算増幅器OP1の具体的な回路構成例が示されている。
この
図13に示された回路は、特許文献1において演算増幅器OP1の従来回路として開示されているものと基本的に同一構成のものであるが、
図13においては、電流分配用のカレントミラー回路の具体回路構成も示されたものとなっている。
この電流分配用のカレントミラー回路は、カレントミラー元であるトランジスタQ109と電流源CS1とを用いて構成されており、トランジスタQ109に電流源CS1が接続されて、この電流源CS1の電流がトランジスタQ110~Q117にミラーされている。
【0005】
図14には、
図12に示された検証回路において、AC電圧源RFによりAC電圧を演算増幅器OP1に印加した場合の出力電圧Voutの変化の測定結果が示されている。なお、AC電圧源RFの電圧振幅は0.2Vppである。
同図によれば、出力電圧Voutは、周波数が低い領域では0V付近で安定しているが、周波数が高くなるにつれて変動することが確認できる。この出力電圧Voutの変動は、演算増幅器の後段の回路において誤動作を招く原因となる。
【0006】
かかる出力電圧Voutの変動対策として、特許文献1においては、
図15に示されたように、反転入力端子INMとトランジスタQ1のベースとの間に抵抗器Rin1を、非反転入力端子INPとトランジスタQ2のベースとの間に抵抗器Rin2を挿入した構成が開示されている。
上述の構成において、トランジスタQ1、Q2のベースと負電源端子VEEとの間には、寄生容量Cin1、Cin2が存在する。
その結果、抵抗器Rin1、Rin2と寄生容量Cin1、Cin2とでローパスフィルタ(LPF)が構成され、それによる高周波外来ノイズの低減によって出力電圧Voutの変動抑制が可能となっている。
【0007】
本願発明者は、実際に
図15の構成における高周波外来ノイズの低減効果の検証を行った。
図16には、その検証結果である入力周波数変化に対する出力電圧Voutの変化特性が示されている。すなわち、同図において、実線の特性線は、
図15に示された回路構成における入力周波数変化に対する出力電圧Voutの変化特性であり、対策がない場合(点線の特性線)に比して、高周波外来ノイズに対する一定の低減効果が確認できる。
【0008】
ところが、高周波外来ノイズが混入するのは入力端子だけとは限らず、例えば、電源ラインに混入する可能性を否定できない。特に、近年の車載半導体においては、電源ラインにおける高周波外来ノイズに対する高い耐性が求められる場合が増加している。
本願発明者は、かかる観点から、先の
図15に示された演算増幅器における電源ラインへの高周波外来ノイズ混入の際の出力電圧Voutの挙動を検証した。
【0009】
図17には、検証に用いた回路例が示されており、同図を参照しつつ検証内容について説明する。
まず、
図17に示された回路例において、演算増幅器OP1は、先の
図15の回路構成のものである。演算増幅器OP1の端子にはインダクタンスL1~L5が付加されているが、これらは、パッケージングされた演算増幅器OP1に用いられている金線のインダクタンスを等価的に表したものである。
【0010】
図17に示された回路例は、演算増幅器OP1によりボルテージフォロア回路が構成されており、反転入力端子INMは寄生インダクタンスL2、L5を介して出力端子OUTに接続されている。
一方、非反転入力端子INPは、寄生インダクタンスL3を介してDC電圧源V2=6Vに接続されている。
【0011】
また、負電源端子VEEは、寄生インダクタンスL4を介してグランドに接続されている。
正電源端子VCCは、インダクタLA1及び寄生インダクタンスL1を介してDC電圧源V1=12Vに接続されると共に、DCカット用コンデンサCA1を介してAC電圧源RFに接続されている。インダクタLA1はDC電圧源V1への高周波信号を遮断する。
AC電圧源RFは、高周波外来ノイズを模しており、出力はPin(dBm)である。
【0012】
ここで、DC電圧源V1=12Vと、DCカットコンデンサCA1と、寄生インダクタンスL1とが電気的に導通状態とされるノードを、以下、説明の便宜上”電源ライン”と称する。
以下、この電源ラインにおける高周波外来ノイズの混入に対する演算増幅器OP1への影響に関する検証について説明する。
【0013】
かかる検証は、AC電圧源RFからの入力電力を増加した場合の出力電圧VoutのDCレベルを計測することで行う。
例えば、
図17の回路において、AC電圧源RFからの入力電圧が無い場合、出力電圧Voutが6Vとなることは自明である。しかし、AC電圧源RFからの入力電力Pinが増加すると、演算増幅器OP1は何等かの影響を受け、出力電圧Voutは変動を来す。
【0014】
図18には、
図17の回路における検証結果として、電源ラインへのAC入力電力Pinの変化に対する出力電圧Voutの変化特性が点線の特性線により示されている。
この検証結果は、入力電力Pinを変化させた際の、出力電圧Voutの変化を計測した結果である。
なお、AC電圧源RFの周波数は0.5GHzである。
【0015】
演算増幅器OP1は、先に
図15に示されたように入力端子に対する高周波外来ノイズに対する対策が施されたものであるが、
図18に示された検証結果においては、AC電圧源RFの入力電力Pinが30dBm付近になると、出力電圧Voutは大きく変動し始めていることが確認できる。
これは、高周波外来ノイズが電源ラインに混入すると、出力電圧Voutが変動することを意味するものである。
【0016】
このような出力電圧Voutの変動は、実使用において誤動作を招く原因となる。なお、このようにAC電源などを用いて、特定の端子に高周波外来ノイズを印加する実験は、Direct Power Injectionと称され、DPIと略称されることもある。
本願発明者は、さらに、
図15に示された回路構成の演算増幅器において出力電圧Voutが変動するメカニズムの解析を試みた結果、次述するような知見を得るに至った。
【0017】
以下、本願発明者が得た知見について、
図19を参照しつつ説明する。
まず、
図19は、先に
図15に示された回路構成の演算増幅器を、
図17に示された検証回路で高周波外来ノイズに対する検証を行った場合において注目すべき主要な電流を
図15に示された回路構成例に書き加えた回路図である。
この検証においては、正電源端子VCCに振幅VCAの高周波のAC電圧を重畳し、回路各部に生ずる電流等について解析を行った。
【0018】
すなわち、正電源端子VCCに振幅VCAの高周波のAC電圧を重畳させると、トランジスタQ15のコレクタ・ベース間の寄生容量Cb1を流れるAC電流ICB15が発生する(
図19参照)。このAC電流ICB15の一部は、位相補償容量C1に流れるAC電流IXCとなる。AC電流IXCは、トランジスタQ8のベース・エミッタ間の寄生容量Cb2を介して、トランジスタQ8のベースからエミッタに流れる。
【0019】
ここで、トランジスタQ8は、PNP型のトランジスタであるため、遮断周波数が低く、そのため、高周波信号に対してトランジスタ動作しない。その結果、トランジスタQ8のベース・エミッタ容量を介して、AC電流IXCがトランジスタQ8のベースからエミッタに流れることになる。その後、AC電流IXCは、トランジスタQ114のコレクタ電流IC114の一部と共にトランジスタQ9のベース電流となる。結果として、トランジスタQ9のエミッタから流れ出る電流が増加し、トランジスタQ10のベース電流IB10が増加し、それと共に、トランジスタQ10のコレクタ電流IC10も増加する。
【0020】
一方、トランジスタQ10のコレクタに供給される電流は、トランジスタQ117のコレクタ電流IC117の一部である電流IXと、トランジスタQ17のベース電流IB17である。
ここで、電流IXの元となるコレクタ電流IC117は増やすことができない。それは、トランジスタQ117がトランジスタQ109とカレントミラーを構成しており、ミラー元となるトランジスタQ109のコレクタ電流となる電流源CS1の出力電流が一定であるためである。
【0021】
したがって、トランジスタQ10のコレクタ電流IC10の増加分は、トランジスタQ17のベース電流IB17を増加させることで対応することとなる。したがって、トランジスタQ17は、ON状態となる。
ここで、出力電圧Voutに注目すると、出力電圧Voutは、トランジスタQ10のコレクタ電位にトランジスタQ17のベース・エミッタ間電圧Vbeを加えた大きさとなる。
【0022】
トランジスタQ10のベース電流IB10が増加することで、コレクタ電流IC10が増加する場合、トランジスタQ10は飽和領域に近づいてゆくのでコレクタ電位は低下する。したがって、演算増幅器の出力電圧Voutも低下する方向に変動することとなる。その結果、
図18に示されたように、電源ラインへのAC入力電力が増加し、ある大きさを越えると、この検証回路ではそれまで6V付近で一定を保っていた出力電圧Voutが低下する方向に変動することが確認された。
【0023】
上述のように、電源ラインに高周波外来ノイズが混入し、正電源端子VCCに高周波のAC電圧が重畳されると、AC電流IXCが発生し、この電流IXCが回路後段に伝わることで出力電圧Voutの変動が生じる。
かかる検証結果に基づいて、本願発明者は、AC電流IXCを減らすことができれば、出力電圧Voutの変動を抑制することができるという結論を得るに至った。
【0024】
ここで、AC電流IXCは、下記の式1に示された相関式で表すことができる。
【0025】
IXC∝VCA/{(1/2πf)×(1/C1+1/Cb1+1/Cb2)}・・・式1
【0026】
ここで、VCAは、正電源端子VCCノードにおける高周波AC電圧の振幅、fは、高周波AC電圧の周波数、C1は、位相補償容量C1の容量値、Cb1は、トランジスタQ15のコレクタ・ベース間の寄生容量値、Cb2は、トランジスタQ8のベース・エミッタ間の寄生容量値である。
【0027】
式1の分子VCAは、正電源端子VCCにおける高周波AC電圧の振幅であり、例えば、
図17や
図19において模式的に示された如くのものである。
この電圧VCAを、AC電流IXCが通るトランジスタQ15の寄生容量Cb1、位相補償容量C1、トランジスタQ8の寄生容量Cb2のインピーダンスで除した値がAC電流IXCと相関を有するものとなる。
先に述べたように、AC電流IXCを減らせば出力電圧Voutの変動を抑制することが可能となるが、そのためには、正電源端子VCCの高周波AC電圧の振幅VCAを減少させる必要がある。
【0028】
この高周波AC電圧の振幅VCAを減少させる方策として、例えば、正電源端子VCCと負電源端子VEEとの間にコンデンサを挿入する方法が一般的に良く知られている。
これは、いわゆる電源間のパスコンと称されるもので、具体的には、
図20に示されたように、演算増幅器の正電源端子VCCと負電源端子VEEとの間に、コンデンサCX1を挿入する方法である。
一方、演算増幅器の正電源端子VCCには、先に
図17に示されたように金線の寄生インダクタンスL1が存在する。したがって、上述のコンデンサCX1と寄生インダクタンスL1とでローパスフィルタを構成することができる。
【0029】
そして、このローパスフィルタによって正電源端子VCCの電源ラインにおける高周波AC電圧の振幅VCAを低下させることができ、演算増幅器の電源ラインに高周波外来ノイズが混入しても誤動作の抑制が可能となる。
図21には、上述のコンデンサCX1=10pFとし、0.5GHzのAC電圧源RFの入力電力を変化させた場合の出力電圧Voutの変化特性例が示されており、以下、同図について説明する。
【0030】
図21において、縦軸は出力電圧Voutを、横軸は電源ラインにおけるAC入力電力を、それぞれ示している。
しかして、
図21において、実線の特性線は、コンデンサCX1を設けた演算増幅器におけるAC入力電力に対する出力電圧Voutの変化特性を示している。一方、同図において、点線の特性線は、コンデンサCX1が設けられていない
図15に示された従来の演算増幅器のAC入力電力に対する出力電圧Voutの変化特性を示している。
【0031】
同図によれば、コンデンサCX1が設けられていない従来回路にあっては、入力電力が30dBmで出力電圧Voutは正常値6Vからの低下が発生していたのに対して、10pFのコンデンサCX1を設けた場合には、入力電力が30dBmの箇所でも出力電圧Voutは正常値6Vを維持できており、コンデンサCX1が高周波外来ノイズに対して有効であることが確認できるものとなっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0032】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0033】
しかしながら、
図20に示されたように電源間にコンデンサCX1を半導体プロセスで形成すると、ESD(Electro Static Discharge)のサージに対して脆弱になるという問題がある。すなわち、電源端子間に数千V程度のサージが入った場合、コンデンサCX1の両端にはこのサージが直接印加されるため、薄い絶縁膜で形成されたコンデンサCX1はサージに耐え得ずに破損する可能性がある。
【0034】
このようなコンデンサCX1のサージによる破損を防ぐ方策としては、例えば、薄い絶縁膜でコンデンサCX1を形成することに代えて、PN接合容量で代用する比較的良く知られた方法がある。
具体的には、
図22に示されたように、ダイオード構造を有する素子DX1を、そのカソードが演算増幅器の正電源端子VCCに、また、アノードが負電源端子VEEに、それぞれ接続して設け、この素子DX1の寄生容量CbX1を先のコンデンサCX1の代替として用いるものである。
【0035】
但し、この方法は、寄生容量CbX1の容量値を大きくしようとした場合、大きな面積のPN接合を必要とする。さらに、大きな面積のPN接合は、カソードからアノードへのリーク電流の増加を招くという問題がある。したがって、低消費電流を特徴とする演算増幅器にあっては、
図22に示された構成を採ることは低消費電流特性を損なうという問題を招くこととなる。
【0036】
本発明は、上記実状に鑑みてなされたもので、消費電流の増加を招くことなく電源ラインに高周波外来ノイズが混入しても安定した出力特性を得ることのできる演算増幅器を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0037】
上記本発明の目的を達成するため、本発明に係る演算増幅器は、
非反転入力端子と反転入力端子間に印加された入力信号の差動増幅可能に構成されてなる演算増幅器であって、
正電源端子と負電源端子との間にローパスフィルタが設けられ、
前記ローパスフィルタは、フィルタ用抵抗器と、フィルタ用ダイオードと、フィルタ用コンデンサとを有してなり、
前記フィルタ用抵抗器の一端は、前記正電源端子に接続される一方、他端は、前記フィルタ用ダイオードのアノードに接続され、前記フィルタ用ダイオードのカソードは、前記負電源端子に接続され、前記フィルタ用コンデンサは、前記フィルタ用ダイオードのアノードと前記正電源端子との間に接続され、
前記フィルタ用コンデンサの容量値CX1は、
不等式(CX1×CbX1)/(CX1+CbX1)>〔1/{(2πfc)
2
×L1}-Cb0〕を満たし、
前記不等式におけるCbX1は、前記フィルタ用ダイオードのアノードとカソードとの間の寄生容量の容量値であって、さらに、
前記不等式におけるfcは、前記ローパスフィルタの遮断周波数、前記不等式におけるL1は、前記正電源端子に接続される電源と前記正電源端子の間の配線の寄生インダクタンス、前記不等式におけるCb0は、前記正電源端子と前記負電源端子の間の寄生容量の容量値であって、
前記フィルタ用ダイオードの遮断周波数は、高周波外来ノイズの周波数よりも低いものが用いられてなるものである。
【発明の効果】
【0038】
本発明によれば、フィルタ用コンデンサをフィルタ用ダイオードと直列接続状態で設けるよう構成されたローパスフィルタを正電源と負電源との間に設けるようにしたので、フィルタ用コンデンサの両端にESDによるサージ電圧が印加されることがなく、ESD耐性を損なうことなく電源ラインに混入した高周波外来ノイズによる誤動作を確実に抑圧することができる。
また、フィルタ用ダイオードは、順方向となるように設けることで、定常的に動作状態となるため、カソードからアノードへのリーク電流の発生を回避することができる。そのため、低消費電流を特徴とする演算増幅器においても、ESD耐性を損なうことなく電源ラインに混入した高周波外来ノイズによる誤動作を確実に抑圧することができる。
さらに、上述のローパスフィルタに加えて、位相補償容量と直列に適宜な値の抵抗器を設けることで、出力電圧の変動要因となるAC電流の低減が可能となり、その結果、ESD耐性の劣化やリーク電流の増加を招くことなく、電源ラインに混入した高周波外来ノイズによる誤動作を確実に抑圧することができるという効果を奏するものである。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【
図1】本発明の実施の形態における演算増幅器の第1の回路構成例を示す回路図である。
【
図2】本発明の実施の形態における演算増幅器の第2の回路構成例を示す回路図である。
【
図3】本発明の実施の形態における演算増幅器の第3の回路構成例を示す回路図である。
【
図4】本発明の実施の形態における演算増幅器における寄生容量を説明するため演算増幅器に用いられるダイオードの断面構造を模式的に示した模式図である。
【
図5】本発明の実施の形態における演算増幅器の第4の回路構成例を示す回路図である。
【
図6】本発明の実施の形態における演算増幅器の第5の回路構成例を示す回路図である。
【
図7】本発明の実施の形態における演算増幅器の第6の回路構成例を示す回路図である。
【
図8】
図7に示された演算増幅器の具体的な回路構成例を示す回路図である。
【
図9】第1の回路構成例における高周波外来ノイズの周波数変化に対する正電源端子における高周波AC電圧の振幅VCAの変化特性を示した特性線図である。
【
図10】第1の回路構成例における高周波外来ノイズの入力電力変化に対する出力電圧の変化特性例を示した特性線図である。
【
図11】第6の回路構成例における高周波外来ノイズの入力電力変化に対する出力電圧の変化特性例を示した特性線図である。
【
図12】演算増幅器の入力端子に混入する高周波外来ノイズの出力電圧の影響を検証するための検証回路の回路構成例を示す回路図である。
【
図13】
図12に示された検証回路に用いられた従来の演算増幅器の具体的な回路構成例を示す回路図である。
【
図14】
図12に示された回路におけるAC電圧源RFの周波数変化に対する演算増幅器OP1の出力電圧Voutの変化特性例を示す特性線図である。
【
図15】高周波外来ノイズに対する出力電圧の変動対策を施した従来の演算増幅器の回路構成例を示す回路図である。
【
図16】
図15に示された従来回路における高周波外来ノイズの周波数変化に対する出力電圧の変化特性を示す特性線図である。
【
図17】
図15に示された演算増幅器における電源ラインへの高周波外来ノイズ混入の際の出力電圧の変化を検証するために用いた検証回路の構成を示す構成図である。
【
図18】
図17に示された検証回路を用いた検証結果である電源ラインへのAC入力電力の変化に対する出力電圧の変化特性を示す特性線図である。
【
図19】
図15に示された演算増幅器に高周波外来ノイズが混入した場合における主要部の電流の流れを示した回路図である。
【
図20】
図15に示された従来の演算増幅器において高周波AC電圧の振幅を減らす方策を施した場合の回路構成を示す回路図である。
【
図21】
図20に示された演算回路におけるAC電圧源の入力電力の変化に対する出力電圧の変化特性を示す特性線図である。
【
図22】
図20に示された演算回路にダイオード構造を有する素子をコンデンサとして正電源端子と負電源端子間に設けた場合の回路を示す回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0040】
以下、本発明の実施の形態について、
図1乃至
図11を参照しつつ説明する。
なお、以下に説明する部材、配置等は本発明を限定するものではなく、本発明の趣旨の範囲内で種々改変することができるものである。
最初に、第1の回路構成例について、
図1を参照しつつ説明する。
第1の回路構成例における演算増幅器は、差動増幅回路110と、第1及び第2のレベルシフト回路111,112と、第3及び第4のレベルシフト回路113,114と、高利得増幅回路115と、出力回路116と、電流制限回路117と、電流源回路118と、ローパスフィルタ119とに大別されて構成されたものとなっている。
【0041】
本発明の実施の形態における演算増幅器は、ローパスフィルタ119が設けられた点を除けば、基本的に従来の演算増幅器の構成と同様の構成を有するものであるが、
図1に示された構成に限定される必要はなく、他の構成を有してなる演算増幅器であっても良いことは勿論である。
以下、本発明の実施の形態における演算増幅器の具体的な構成について説明する。
まず、差動増幅回路110は、差動対を構成する第3及び第4のトランジスタ(
図1においては、それぞれ「Q3」、「Q4」と表記)3,4と、アクティブ負荷を構成する第5及び第6のトランジスタ(
図1においては、それぞれ「Q5」、「Q6」と表記)5,6を主たる構成要素として構成されている。
なお、本発明の実施の形態においては、第3及び第4のトランジスタ3,4にPNP型バイポーラトランジスタが、第5及び第6のトランジスタ5,6には、NPN型バイポーラトランジスタが、それぞれ用いられている。
【0042】
第3及び第4のトランジスタ3,4は、エミッタが相互に接続されると共に、PNP型バイポーラトランジスタを用いた第112のトランジスタ(
図1においては「Q112」と表記)32のコレクタに接続されている。そして、この第112のトランジスタ32のエミッタには、正電源電圧VCCが印加されるようになっている。
【0043】
一方、第5及び第6のトランジスタ5,6は、カレントミラー接続されて設けられている。
すなわち、第5及び第6のトランジスタ5,6は、ベースが相互に接続されると共に、第5のトランジスタ5のコレクタと接続されて、第5のトランジスタ5は、いわゆるダイオード接続されて設けられている。
第5のトランジスタ5のコレクタには、第3のトランジスタ3のコレクタが、第6のトランジスタ6のコレクタには、第4のトランジスタ4のコレクタが、それぞれ接続される一方、第5及び第6のトランジスタ5,6のエミッタには、負電源電圧VEEが印加されるようになっている。
【0044】
次に、第1及び第2のレベルシフト回路111,112は、反転入力端子(
図1においては「INM」と表記)61と非反転入力端子(
図1においては「INP」と表記)62に入力される入力信号のダイナミックレンジの下限レベルを負電源端子の電位以下に拡大する機能を果たすものである。
第1のレベルシフト回路111は、第1のトランジスタ(
図1においては「Q1」と表記)1と、第111のトランジスタ(
図1においては「Q111」と表記)31と、第1の入力抵抗器(
図1においては「Rin1」と表記)41とを有して構成されている。また、第2のレベルシフト回路112は、第2のトランジスタ(
図1においては「Q2と表記)2と、第113のトランジスタ(
図1においては「Q113」と表記)33と、第2の入力抵抗器(
図1においては「Rin2」と表記)42とを有して構成されている。いずれのレベルシフト回路111,112も基本的構成は同一である。
【0045】
なお、本発明の実施の形態においては、第1及び第2のトランジスタ1,2、並びに、第111及び第113のトランジスタ31,33には、PNP型バイポーラトランジスタが用いられている。
【0046】
第1のトランジスタ1のエミッタは、第3のトランジスタ3のベースに接続されると共に、第111のトランジスタ31のコレクタに接続されている。そして、第111のトランジスタ31のエミッタには、正電源電圧VCCが印加されるようになっている。
また、第1のトランジスタ1のコレクタは、負電源電圧VEEが印加される一方、ベースは、第1の入力抵抗器41を介して反転入力端子61に接続されている。
【0047】
第2のトランジスタ2のエミッタは、第4のトランジスタ4のベースに接続されると共に、第113のトランジスタ33のコレクタに接続されている。そして、第113のトランジスタ33のエミッタには、正電源電圧VCCが印加されるようになっている。
また、第2のトランジスタ2のコレクタは、負電源電圧VEEが印加される一方、ベースは、第2の入力抵抗器42を介して非反転入力端子62に接続されている。
【0048】
第3のレベルシフト回路113は、第7のトランジスタ(
図1においては「Q7」と表記)7と第110のトランジスタ(
図1においては「Q110」と表記)30とを有して構成されている。この第3のレベルシフト回路113は、第5及び第6のトランジスタ5,6により構成されたアクティブ負荷に流れる電流の誤差をなくすために設けられたダミー回路である。
なお、本発明の実施の形態においては、第7のトランジスタ7及び第110のトランジスタ30に、PNP型バイポーラトランジスタが用いられている。
【0049】
第7のトランジスタ7のエミッタは、第110のトランジスタ110のコレクタに接続され、第110のトランジスタ30のエミッタには、正電源電圧VCCが印加されるようになっている。
また、第7のトランジスタ7のコレクタには、負電源電圧VEEが印加される一方、ベースは第5のトランジスタ5のコレクタに接続されている。
【0050】
第4のレベルシフト回路114は、第8のトランジスタ(
図1においては「Q8」と表記)8と第114のトランジスタ34とを有して構成されている。
なお、本発明の実施の形態において、第8のトランジスタ8及び第114のトランジスタ34には、PNP型バイポーラトランジスタが用いられている。
第8のトランジスタ8のエミッタは、第114のトランジスタ34のコレクタに接続され、第114のトランジスタ34のエミッタには、正電源電圧VCCが印加されるようになっている。
【0051】
この第4のレベルシフト回路114は、アクティブ負荷となる第6のトランジスタ6のコレクタ・エミッタ電圧を、第5のトランジスタ5のコレクタ・エミッタ間電圧Vce(=Vbe:ベース・エミッタ間電圧)と同一電位にバイアスする機能を果たす。
【0052】
高利得増幅回路115は、ダーリントン接続された第9及び第10のトランジスタ(
図1においては、それぞれ「Q9」、「Q10」と表記)9,10と、第115及び第117のトランジスタ(
図1においては、それぞれ「Q115」、「Q117」と表記)35,37とを有して構成されている。
本発明に実施の形態において、第9及び第10のトランジスタ9,10には、NPN型バイポーラトランジスタが、第115及び第117のトランジスタ35,37には、PNP型バイポーラトランジスタが、それぞれ用いられている。
【0053】
第9のトランジスタ9のベースは、第8のトランジスタ8のエミッタに接続される一方、エミッタは、第10のトランジスタ10のベースに接続されている。 また、第9のトランジスタ9のコレクタは、第115のトランジスタ35のコレクタに接続されており、この第115のトランジスタ35のエミッタには、正電源電圧VCCが印加されるようになっている。
【0054】
一方、第10のトランジスタ10のコレクタは、第117のトランジスタ37のコレクタに接続されており、この第117のトランジスタ37のエミッタには、正電源電圧VCCが印加されるようになっている。
また、第10のトランジスタ10のエミッタは、負電源電圧VEEが印加されるようになっている。
そして、第10のトランジスタ10のコレクタは、次述する出力回路116の入力段に接続されている。
【0055】
出力回路116は、第15乃至第17のトランジスタ(
図1においては、それぞれ「Q15」、「Q16」、「Q17」と表記)15~17と、第1及び第2の抵抗器(
図1においては、それぞれ「R1」、「R2」と表記)43,44とを有して構成されている。
本発明の実施の形態において、第15及び第16のトランジスタ15,16には、NPN型バイポーラトランジスタが、第17のトランジスタ17には、PNP型バイポーラトランジスタが、それぞれ用いられている。
【0056】
正電源電圧VCCと負電源電圧VEEとの間に、正電源電圧VCC側から、第16のトランジスタ16、第2の抵抗器44、及び、第17のトランジスタ17が直列接続されて設けられている。
第16のトランジスタ16のベースには、この第16のトランジスタ16とダーリントン回路を構成する第15のトランジスタ15のエミッタが接続されると共に、第1の抵抗器43を介して第16のトランジスタ16のエミッタが接続されている。
【0057】
第15のトランジスタ15のコレクタには、正電源電圧VCCが印加されるようになっている一方、ベースは、高利得増幅回路115の第10のトランジスタ10のコレクタに接続されている。
なお、第15のトランジスタ15のベースと第6のトランジスタ6のコレクタとの間には、位相調整用の第1のコンデンサ(
図1においては「C1」と表記)51が接続されている。
【0058】
電流制限回路117は、第11乃至第14のトランジスタ(
図1においては、それぞれ「Q11」、「Q12」、「Q13」、「Q14」と表記)11~14と、第116のトランジスタ(
図1においては「Q116」と表記)36とを有して構成されている。かかる電流制限回路117は、出力回路116の第16のトランジスタ16に流れる電流の抑圧と、第9のトランジスタ9のコレクタ電流の制限を行うものである。
本発明の実施の形態において、第11及び第116のトランジスタ11,36には、PNP型バイポーラトランジスタが、第12乃至第14のトランジスタ12~14には、NPN型バイポーラトランジスタが、それぞれ用いられている。
【0059】
第12及び第13のトランジスタ12,13は、カレントミラー回路を構成している。
すなわち、第12及び第13のトランジスタ12,13のベースは相互に接続されると共に、第12のトランジスタ12のコレクタに接続されている一方、各々のエミッタには、負電源電圧VEEが印加されるようになっている。
【0060】
また、第12のトランジスタ12のコレクタは、第116のトランジスタ36のコレクタに接続され、第116のトランジスタ36のエミッタには、正電源電圧VCCが印加されるようになっている。さらに、第12のトランジスタ12のコレクタには、第11のトランジスタ11のベースが接続されている。
第11のトランジスタ11のエミッタは、第9のトランジスタ9のコレクタに接続される一方、第11のトランジスタ11のコレクタには、負電源電圧VEEが印加されるようになっている。
【0061】
また、第13のトランジスタ13のコレクタは、第14のトランジスタ14のベースと共に第16のトランジスタ16のエミッタに接続されている。
そして、第14のトランジスタ14のコレクタは、第15のトランジスタ15のベースに接続される一方、第14のトランジスタ14のエミッタは、第17のトランジスタ17のエミッタと共に出力端子63に接続されている。
【0062】
電流源回路118は、第109乃至第117のトランジスタ(
図1においては、それぞれ「Q109」、「Q110」、「Q111」、「Q112」、「Q113」、「Q114」、「Q115」、「Q116」、「Q117」と表記)29~37と、定電流源(
図1においては「CS1」と表記)120とを有して構成されている。
本発明の実施の形態において、第109乃至第117のトランジスタ29~37には、PNP型バイポーラトランジスタが用いられている。
【0063】
第109のトランジスタ29と、第110乃至第117のトランジスタ30~37は、カレントミラー回路を構成しており、入力段を構成する第109のトランジスタ29側から出力段となる第110乃至第117のトランジスタ30~37の各トランジスタに電流出力が得られるようになっている。
すなわち、第109のトランジスタ29のエミッタには、正電源電圧VCCが印加されるようになっている一方、ベースとコレクタとは相互に接続されて、その接続点と負電源電圧VEEとの間に定電流源120が設けられている。
そして、第109のトランジスタ29のベースは、第110乃至第117のトランジスタ30~37の各ベースと相互に接続されている。
【0064】
ローパスフィルタ119は、フィルタ用抵抗器(
図1においては「RX1」と表記)45と、フィルタ用ダイオード(
図1においては「DX1」と表記)40と、フィルタ用コンデンサ(
図1においては「CX1」と表記)52とを有して構成されている。
フィルタ用抵抗器45の一端には、正電源電圧VCCが印加されるようになっている一方、フィルタ用抵抗器45の他端はフィルタ用ダイオード40のアノードに接続されている。そして、フィルタ用ダイオード40のカソードには、負電源電圧VEEが印加されるようになっている。
【0065】
また、フィルタ用抵抗器45とフィルタ用ダイオード40のアノードの接続点には、フィルタ用コンデンサ52の一端が接続され、フィルタ用コンデンサ52の他端には、正電源電圧VCCが印加されるようになっている。
さらに、
図1においては、正電源と負電源間の寄生容量を、”Cb0”と表記して示している。
この寄生容量(以下、説明の便宜上「電源間寄生容量」と称する)Cb0は、例えば、第109乃至第117のトランジスタ29~37のエミッタから負電源端子65に至るまでの経路に発生するPN接合容量と、第15及び第16のトランジスタ15,16のコレクタから負電源端子65に至る経路において発生するPN接合容量との和であり、合計で数十pF程度である。
【0066】
本発明の実施の形態においては、従来回路(
図20参照)と異なり、フィルタ用コンデンサ52をフィルタ用ダイオード40との直列接続状態で正電源端子64と負電源端子65との間に設けることで、フィルタ用コンデンサ52の両端にESDサージが直接印加されることを回避し、それによってESD耐性の劣化防止が図られている。
【0067】
また、本発明の実施の形態においては、従来と異なり、抵抗器に代えてフィルタ用ダイオード40をフィルタ用コンデンサ52と直列接続したことで、次述するようにフィルタ用コンデンサ52の機能を損なうことなくローパスフィルタの動作効率の向上が図られる。
すなわち、フィルタ用コンデンサ52と直列接続する素子を抵抗器とする場合、ESD耐性を考慮し、百Ω程度のものを用いる必要がある。一方、フィルタ用コンデンサ52の容量値は数十pFである。例えば、フィルタ用コンデンサ52の容量値が20pFであるとすると、周波数0.5GHzにおけるインピーダンスは16Ω程度しかない。そのため、かかるフィルタ用コンデンサ52と直列に百Ω程度の抵抗器を接続するとローパスフィルタの主要部をなすフィルタ用コンデンサ52の本来の機能を損ない、効果的なローパスフィルタとしての動作を確保できなくなるという問題を招く。
【0068】
これに対して、本発明の実施の形態のように、フィルタ用コンデンサ52と直列接続されるフィルタ用ダイオード40は、周波数応答が速く、遮断周波数が1GHzを越えるものも一般的である。そのため、フィルタ用コンデンサ52とフィルタ用ダイオード40とを直列接続しても、フィルタ用ダイオード40は高周波での動作が可能なため、上述のようにフィルタ用コンデンサ52の機能を損なうことなく、ローパスフィルタの効率的な動作が確保されることとなる。
【0069】
なお、フィルタ用ダイオード40の高い遮断周波数が得られるのは、フィルタ用ダイオード40がオン状態にある場合である。したがって、高い遮断周波数を確保するためには、常に、フィルタ用ダイオード40に直流電圧を印加し、電流が流れている状態を確保する必要がある。
そこで、本発明の実施の形態においては、フィルタ用ダイオード40のアノードをフィルタ用抵抗器45を介して正電源電圧VCCにプルアップする構成を採っている。
【0070】
また、フィルタ用コンデンサ52の容量値は、次述する観点から選定するのが好適である。
まず、一般に良く知られているコイルとコンデンサにより構成されるローパスフィルタの遮断周波数fcを求める式を基に、フィルタ用コンデンサ52の容量値を求めると、下記する式2の不等式を満たす大きさでなければ、ローパスフィルタの効果を得ることができない。
【0071】
CX1>1/{(2πfc)2×L1}-Cb0・・・式2
【0072】
ここで、CX1は、フィルタ用コンデンサ52の容量値、fcは、ローパスフィルタ119の遮断周波数、L1は、先に、
図17で説明した検証回路において演算増幅器の正電源端子側に存在する寄生インダクタンス、Cb0は、先に説明した電源間寄生容量の寄生容量である。
【0073】
図9には、上述のようにフィルタ用コンデンサ52の容量値を選定した場合の正電源端子64における高周波AC電圧の振幅VCAの周波数依存性を示す特性例が示されており、以下、同図について説明する。
この特性例は、フィルタ用コンデンサ52の容量値を20pFとして、
図17に示された従来の検証回路を用いてAC電圧源RFの周波数を変化させた場合の、電源ラインにおける電圧振幅VCAの変化例を示すものである。
【0074】
図9において横軸はAC電圧源RFの周波数を、縦軸は電圧振幅VCAを、それぞれ示している。
同図において、実線の特性線は、本発明の実施の形態における演算増幅器の特性を、点線の特性線は、
図15に示された従来回路の特性を、それぞれ示している。
図9によれば、本発明の実施の形態における演算増幅器は、従来よりも低い周波数で電源ラインにおける電圧振幅VCAが低下しており、ローパスフィルタ119が確実に機能していることが確認できる。
【0075】
図10には、AC電圧源RFの周波数を0.5GHzとして入力電力Pinを変化させた場合の出力電圧Voutの変化例が示されており、以下、同図について説明する。
図10において、横軸は入力電力Pinを、縦軸は出力電圧Voutを、それぞれ示している。
また、同図において、実線の特性線は、本発明の実施の形態における演算増幅器の特性を、点線の特性線は、
図15に示された従来回路の特性を、それぞれ示している。
【0076】
図10によれば、従来回路では、入力電力Pin=30dBmで出力電圧Voutが、正常値の6Vよりも大きく低下していることが確認できる。
これに対して、本発明の実施の形態における演算増幅器の場合、入力電力Pin=30dBmを越えても、出力電圧Voutは正常値の6Vを維持していることが確認できる。すなわち、演算増幅器の電源ラインへの高周波外来ノイズ混入に対する耐性が向上したことを意味する。
【0077】
本発明の実施の形態における演算増幅器においては、先に説明したようにフィルタ用コンデンサ52の両端にESDのサージ電圧が印加されないようにフィルタ用ダイオード40を直列接続したので、ESD耐性を損なうことなく、電源ラインに混入する高周波外来ノイズに起因する出力電圧Voutの変動を抑えることができる。
【0078】
さらに、フィルタ用ダイオード40は、順方向で定常的に動作しているので、カソードからアノードへのリーク電流が発生しない。そのため、低消費電流の演算増幅器にも本発明の実施の形態のローパスフィルタ119を同様に適用することで、電源ラインへの高周波外来ノイズの混入に起因する出力電圧Voutの変動を抑えることができる。
【0079】
次に、第2の回路構成例について、
図2を参照しつつ説明する。
なお、
図1に示された構成要素と同一の構成要素については、同一の符号を付して、その詳細な説明を省略し、以下、異なる点を中心に説明する。
この第2の回路構成例は、フィルタ用ダイオード40のアノードとカソード間のPN接合容量により形成される寄生容量(以下、説明の便宜上「第1の寄生容量」と称する)CbX1をローパスフィルタ119Aの構成要素として考慮した点が、第1の回路構成例と異なるものである。
【0080】
第1の回路構成例は、高周波外来ノイズの周波数がフィルタ用ダイオード40の遮断周波数より低いという前提であった。
これに対して、この第2の回路構成例は、高周波外来ノイズの周波数がフィルタ用ダイオード40の遮断周波数より高い場合を想定しており、それ故、フィルタ用ダイオード40の第1の寄生容量CbX1を無視することができないものとなっている。
【0081】
具体的は、フィルタ用コンデンサ52の選定は、下記する式3の不等式に基づく必要がある。
【0082】
(CX1×CbX1)/(CX1+CbX1)>〔1/{(2πfc)2×L1}-Cb0〕・・・式3
【0083】
ここで、CX1は、フィルタ用コンデンサ52の容量値、CbX1は、フィルタ用ダイオード40のアノードとカソードとの間の第1の寄生容量の容量値、fcは、ローパスフィルタ119Aの遮断周波数、L1は、先に、
図17で説明した検証回路において演算増幅器の正電源端子側に存在する寄生インダクタンス、Cb0は、先に説明した電源間寄生容量の容量値である。
【0084】
先の第1の回路構成例では式2に示されたように左辺はフィルタ用コンデンサ52の容量CX1のみであったのに対して、式3の左辺は、CX1とCbX1の直列接合容量となる。したがって、フィルタ用コンデンサ52だけでなく、寄生コンデンサCbX1も第1の回路構成例よりも大きな容量であることが必要となる。
すなわち、フィルタ用ダイオード40には、PN接合部分の面積が第1の回路構成例よりも大きなものが必要とされる。
この第2の回路構成例の特性も、先に
図10に示された特性と同様の傾向を示すものとなっている。
【0085】
したがって、この第2の回路構成例においても、第1の回路構成例と同様、演算増幅器の電源ラインへの高周波外来ノイズの混入に対する耐性向上が確保される。
この第2の回路構成例は、フィルタ用ダイオード40の遮断周波数が高周波外来ノイズの周波数よりも低くてもノイズ耐性の確保が可能である。
第1の回路構成例では、フィルタ用ダイオード40の遮断周波数が高周波外来ノイズの周波数よりも高いことを前提としていたが、高周波外来ノイズの周波数よりも高い遮断周波数のダイオードを設けることが困難な場合に、この第2の回路構成例は有効である。
【0086】
第2の回路構成例においても、第1の回路構成例同様、ESD耐性を損なうことなく、電源ラインに混入する高周波外来ノイズに起因する出力電圧Voutの変動を抑えることができる(
図10参照)。
また、第1の回路構成例同様、低消費電流の演算増幅器にも適用でき、電源ラインへの高周波外来ノイズの混入に起因する出力電圧Voutの変動を抑えることができる。
【0087】
次に、第3の回路構成例について、
図3を参照しつつ説明する。
なお、
図1に示された構成要素と同一の構成要素については、同一の符号を付して、その詳細な説明を省略し、以下、異なる点を中心に説明する。
この第3の回路構成例は、次述するように、ローパスフィルタ119Bを構成する回路素子の接続が、第1、第2の回路構成例と異なるものである。
【0088】
まず、フィルタ用ダイオード40のアノードは、正電源端子64に接続され、カソードは、フィルタ用抵抗器45を介して負電源端子65に接続されている。
また、フィルタ用コンデンサ52がフィルタ用抵抗器45と並列接続されて設けられている。
さらに、
図3においては、フィルタ用ダイオード40のカソードと負電源端子65の間に生ずる第2の寄生容量CbX2がローパスフィルタ119Bの構成要素の一つとして考慮されたものとなっている。
またさらに、演算増幅器の電源間寄生容量を、”Cb0”と表記して示している。
【0089】
この電源間寄生容量Cb0は、例えば、第109乃至第117のトランジスタ29~37のエミッタから負電源端子65に至る経路において発生するPN接合容量と、第15及び第16のトランジスタ15,16のコレクタから負電源端子65に至る経路において発生するPN接合容量との和であり、合計で数十pF程度である。
この第3の回路構成例においては、フィルタ用コンデンサ52に対して第2の寄生容量CbX2が並列接続された状態となるため、ローパスフィルタ119Bの主要部をなす容量値が増加する。したがって、この第3の回路構成例の場合、フィルタ用コンデンサ52の面積が第1の回路構成例よりも小さいものであっても、第1の回路構成例と同様の作用、効果を得ることができる。
【0090】
図4には、第2の寄生容量CbX2の形成状態を説明する模式図が示されており、以下、同図を参照しつつ、第2の寄生容量CbX2について説明する。
図4は、第2の寄生容量CbX2の断面を模式的に示したものである。
回路基板19がP拡散で構成されているため、フィルタ用ダイオード40のN拡散層20と回路基板19のP拡散との間に第2の寄生容量CbX2が生ずる(
図4参照)。
【0091】
この第3の回路構成例では、フィルタ用ダイオード40の遮断周波数が高周波外来ノイズより高い場合を想定している。
したがって、フィルタ用コンデンサ52の選定は、下記する式4の不等式に基づく必要がある。
【0092】
CX1>1/{(2πfc)2×L1}-Cb0-CbX2・・・式4
【0093】
ここで、CX1は、フィルタ用コンデンサ52の容量値、CbX2は、フィルタ用ダイオード40のカソードと負電源端子65との間の第2の寄生容量の容量値、fcは、ローパスフィルタ119Bの遮断周波数、L1は、先に、
図17で説明した検証回路において演算増幅器の正電源端子側に存在する寄生インダクタンス、Cb0は、先に説明した電源間寄生容量の容量値である。
【0094】
上述の式4と第1の回路構成例における式2を比べると、この第3の回路構成例の方が、第2の寄生容量CbX2が差し引かれている分、フィルタ用コンデンサ52の容量を小さくできるものとなっていることが確認できる。すなわち、第3の回路構成例は、フィルタ用コンデンサ52のチップ面積を小さくできるという長所を有している。
【0095】
第3の回路構成例においても、第1の回路構成例同様、ESD耐性を損なうことなく、電源ラインに混入する高周波外来ノイズに起因する出力電圧Voutの変動を抑えることができる(
図10参照)。
また、第1の回路構成例同様、低消費電流の演算増幅器にも適用でき、電源ラインへの高周波外来ノイズの混入に起因する出力電圧Voutの変動を抑えることができる。
【0096】
次に、第4の回路構成例について、
図5を参照しつつ説明する。
なお、
図1、又は、
図3に示された構成要素と同一の構成要素については、同一の符号を付して、その詳細な説明を省略し、以下、異なる点を中心に説明する。
この第4の回路構成例は、第3の回路構成例に、ローパスフィルタ119Cの構成要素として、フィルタ用ダイオード40のアノードとカソードとの間のPN接合容量により形成される第1の寄生容量CbX1を加えた構成を有するものである。
【0097】
第1の寄生容量CbX1は、
図4に示された模式図にあるように、フィルタ用ダイオード40のアノードとカソードとの間のPN接合容量により形成されるものである。
先の第3の回路構成例においては、高周波外来ノイズの周波数がフィルタ用ダイオード40の遮断周波数より低い場合を想定したものであったのに対して、この第4の回路構成例は、高周波外来ノイズの周波数がフィルタ用ダイオード40の遮断周波数よりも高い場合を想定したものとなっている。
【0098】
したがって、フィルタ用コンデンサ52の選定基準は、第3の回路構成例の場合と異なり、下記する式5の不等式に基づくものとなる。
【0099】
{(CX1+CbX2)×CbX1}/(CX1+CbX2+CbX1)>〔1/{(2πfc)2×L1}-Cb0〕・・・式5
【0100】
ここで、CX1は、フィルタ用コンデンサ52の容量値、CbX1は、フィルタ用ダイオード40のアノードとカソードとの間のPN接合容量により形成される第1の寄生容量、CbX2は、フィルタ用ダイオード40のカソードと負電源端子65との間の第2の寄生容量の容量値、fcは、ローパスフィルタ119Cの遮断周波数、L1は、先に、
図17で説明した検証回路において演算増幅器の正電源端子側に存在する寄生インダクタンス、Cb0は、先に説明した電源間寄生容量の容量値である。
【0101】
第3の回路構成例における式4の場合、左辺はCX1のみであったが、この第4の回路構成例における式5では、先に示された式3同様、左辺は(CX1+CbX2)とCbX1の直列接合容量となる。
したがって、フィルタ用コンデンサ52だけでなく、第2の寄生容量CbX2も第3の回路構成例よりも大きな容量のものとする必要がある。すなわち、フィルタ用ダイオード40には、PN接合部分の面積が第3の回路構成例より大きなものが必要とされる。
【0102】
第4の回路構成例においても、第1の回路構成例同様、ESD耐性を損なうことなく、電源ラインに混入する高周波外来ノイズに起因する出力電圧Voutの変動を抑えることができる(
図10参照)。
この第4の回路構成例は、フィルタ用ダイオード40の遮断周波数が高周波外来ノイズの周波数よりも低くてもノイズ耐性の確保が可能である。
【0103】
先の第3の回路構成例では、フィルタ用ダイオード40の遮断周波数が高周波外来ノイズの周波数よりも高いことを前提としていたが、高周波外来ノイズの周波数よりも高い遮断周波数のダイオードを設けることが困難な場合に、この第4の回路構成例は有効である。
【0104】
また、この第4の回路構成例は、第1の回路構成例同様、低消費電流の演算増幅器にも適用でき、電源ラインへの高周波外来ノイズの混入に起因する出力電圧Voutの変動を抑えることができる。
【0105】
次に、第5の回路構成例について、
図6を参照しつつ説明する。
なお、
図1に示された構成要素と同一の構成要素については、同一の符号を付して、その詳細な説明を省略し、以下、異なる点を中心に説明する。
この第5の回路構成例は、従来の起動回路121の一部をローパスフィルタ119の構成要素として流用する構成を有するものである。
また、第5の回路構成例においては、定電流源120(
図1参照)の具体回路例が示されたものとなっている。
【0106】
以下、起動回路121、ローパスフィルタ119、及び、定電流源120について具体的に説明する。
起動回路121は、起動用ダイオード(フィルタ用ダイオード)55と、起動用抵抗器(フィルタ用抵抗器)56と、第102のトランジスタ(
図6においては「Q102」と表記)22とを有して構成されている。
起動用ダイオード55のアノードは、起動用抵抗器56を介して正電源端子64に接続される一方、カソードは、負電源端子65に接続されている。
また、起動用ダイオード55のアノードには、第102のトランジスタ(起動用トランジスタ)22のベースが接続されている。
なお、第102のトランジスタ22には、NPN型バイポーラトランジスタが用いられている。
【0107】
ローパスフィルタ119は、フィルタ用抵抗器を兼ねる起動用抵抗器56と、フィルタ用ダイオードを兼ねる起動用ダイオード55と、フィルタ用コンデンサ52とを有して構成されており、起動回路121の起動用抵抗器56と起動用ダイオード55を流用する構成となっている。
【0108】
定電流源120は、第103乃至第108のトランジスタ(
図6においては、それぞれ「Q103」、「Q104」、「Q105」、「Q106」、「Q107」、「Q108」と表記)23~28と、電流源用第1乃至第3の抵抗器(
図6においては、それぞれ「R101」、「R102」、「R103」と表記)46~48を有して構成されている。
【0109】
この第5の回路構成例において、第103及び第104のトランジスタ23,24、並びに第107及び第108のトランジスタ27,28には、NPN型バイポーラトランジスタが、第105及び第106のトランジスタ25,26には、PNP型バイポーラトランジスタが、それぞれ用いられている。
【0110】
第103のトランジスタ23は、第102のトランジスタ22と相互のコレクタ同士、相互のエミッタ同士が、それぞれ接続されており、エミッタ同士の接続点と負電源端子65との間には電流源用第2の抵抗器47が接続されている。
第102及び第103のトランジスタ22,23のコレクタ同士の接続点は、第105のトランジスタ25のベースに接続されると共に、電流源用第1の抵抗器46を介して第105のトランジスタ25のコレクタ及び第106のトランジスタ26のベースに接続されている。
【0111】
第105及び第106のトランジスタ25,26のエミッタは、共に正電源端子64に接続されている。
また、第103のトランジスタ23のベースは、第104のトランジスタ24のベースと相互に接続されると共に、第104のトランジスタ24のコレクタに接続されており、第103のトランジスタ23と第104のトランジスタ24は、カレントミラー回路を構成している。
【0112】
第104のトランジスタ24のコレクタは、第106のトランジスタ26のコレクタに接続される一方、第104のトランジスタ24のエミッタは、電流源用第3の抵抗器48を介して第107のトランジスタ27のコレクタに接続されている。
また、第107のトランジスタ27のベースは、第104のトランジスタ24のエミッタに接続され、第107のトランジスタ27のコレクタには、第108のトランジスタ28のベースが接続されている。
【0113】
第107及び第108のトランジスタ27,28のエミッタは、共に負電源端子65に接続される一方、第108のトランジスタ28のコレクタは、第109のトランジスタ29のコレクタ及びベースに接続されている。
第109のトランジスタ29のエミッタは、正電源端子64に接続されている。
第109のトランジスタ29は、先に
図1で説明したように、第110乃至第117のトランジスタ30~37と共にカレントミラー回路を構成している。
【0114】
次に、起動回路121の動作を説明する。
正電源端子64に正電源電圧VCCが印加されると、起動用抵抗器56を介して第102のトランジスタ22にベース電流が流れ、それに伴いコレクタ電流も流れる。この第102のトランジスタ22に流れるコレクタ電流は、定電流源120の第105及び第106のトランジスタ25,26のベース電流となるため、第105及び第106のトランジスタ25,26にもコレクタ電流が流れる。
【0115】
第106のトランジスタ26のコレクタ電流は、第103及び第104のトランジスタ23,24のベース電流となり、第103のトランジスタ23にコレクタ電流が流れる。
その結果、第103のトランジスタ23はオン状態となるため、エミッタから電流源用第2の抵抗器47方向に電流が流れ、この電流源用第2の抵抗器47に電圧降下が生ずる。それによって、第103のトランジスタ23のエミッタ電位が上昇すると共に、エミッタ同士が同電位である第102のトランジスタ22のエミッタ電位も上昇する。
【0116】
一方、第102のトランジスタ22のベースは、起動用ダイオード55のアノード電位で固定されている。このように、第102のトランジスタ22のエミッタ電位が上昇する一方で、ベース電位は変わらないので、第102のトランジスタ22はオフ状態となり、コレクタ電流は停止する。
その一方で、第103乃至第106のトランジスタ23~26は、オン状態となるので、第102のトランジスタ22がオフ状態となっても定電流源120は動作状態を維持することとなる。しかして、第102のトランジスタ22は、定電流源120の初段にいわゆる起動電流を流す機能を果たすものとなっている。
このようにして定電流源120は、電源電圧の印加の際に起動回路121によって起動されるようになっている。
【0117】
上述のように定電流源120が一旦動作すると、第102のトランジスタ22は、オフ状態となる。そのため、起動用抵抗器56と起動用ダイオード55は、定電流源120と電気的に切り離された状態となる。したがって、フィルタ用抵抗器を兼ねる起動用抵抗器56の両端にフィルタ用コンデンサ52が接続された構成としても定電流源120の動作に何ら影響を及ぼすことはない。
【0118】
第5の回路構成例においても、第1の回路構成例同様、ESD耐性を損なうことなく、電源ラインに混入する高周波外来ノイズに起因する出力電圧Voutの変動を抑えることができる(
図10参照)。
また、先に述べたように、この第5の回路構成例は、起動用抵抗器56と起動用ダイオード55を、ローパスフィルタ119のフィルタ用抵抗器とフィルタ用ダイオードとして流用することで、それぞれ別個に専用の素子を設ける必要がなくなるので、素子面積の削減、回路の簡素化が可能となる。
【0119】
また、この第5の回路構成例は、第1の回路構成例同様、低消費電流の演算増幅器にも適用でき、電源ラインへの高周波外来ノイズの混入に起因する出力電圧Voutの変動を抑えることができる。
【0120】
次に、第6の回路構成例について、
図7を参照しつつ説明する。
なお、
図1に示された構成要素と同一の構成要素については、同一の符号を付して、その詳細な説明を省略し、以下、異なる点を中心に説明する。
この第6の回路構成例は、位相調整用の第1のコンデンサ51にインピーダンス素子(
図7においては「ZX1」と表記)50を直列接続することで、高周波外来ノイズの混入に起因して生ずるAC電流IXCを低減すると共に、第1の回路構成例(
図1参照)、第5の回路構成例(
図6)に示されたローパスフィルタ119の併用によるAC電流IXCのさらなる低減を可能としたものである。
【0121】
図7に示された回路構成は、
図1に示された回路構成を次述するようにブロック化したもので、この回路自体は、
図1に示された回路と本質的に同一である。
図7において、差動増幅回路(
図7においては「DIF1」と表記)210は、
図1における第1及び第2の入力抵抗器41,42、第1乃至第7のトランジスタ1~7、電流源回路118の第109乃至第113のトランジスタ29~33及び定電流源120で構成される部分に相当する。
【0122】
また、
図7において、レベルシフト回路(
図7においては「LS1」と表記)211は、
図1における第8のトランジスタ8及び電流源としての第114のトランジスタ24により構成されて、レベルシフト機能を果たす部分に相当する。
またさらに、
図7において、増幅回路(
図7においては「GM1」と表記)212は、
図1における第9及び第10のトランジスタ9,10並びに電流源としての第115のトランジスタ25により構成されたダーリントン接続の増幅回路に相当するものである。
【0123】
また、
図7において、出力回路(
図7においては「OS1」と表記)213は、
図1における第11乃至第17のトランジスタ11~17、第116及び第117のトランジスタ36,37、第1及び第2の抵抗器43,44により構成された出力回路116に相当する。
そして、
図7において、フィルタ回路(
図7においては「FLT1」と表記)214は、
図1におけるローパスフィルタ119に相当するものである。
【0124】
差動増幅回路210の出力は、レベルシフト回路211の入力段に接続され、レベルシフト回路211の出力は、増幅回路212の入力段に接続されている。
そして、増幅回路212の出力は、出力回路213の入力段に接続されている。
また、増幅回路212の出力は、インピーダンス素子50及び位相調整用の第1のコンデンサ51を介してレベルシフト回路211の入力へフィードバックされている。
【0125】
かかる回路構成においては、先に述べたように電源間寄生容量Cb0に加えて、正電源端子と出力回路213の入力との間に生ずる寄生容量(以下、説明の便宜上「第1の素子寄生容量」と称する)Cb1が存在する。
また、レベルシフト回路211の入出力間には、第2の素子寄生容量Cb2が存在し、増幅回路212の出力と出力回路213の入力の接続点と負電源端子との間には、第3の素子寄生容量Cb3が存在する。
【0126】
第1の素子寄生容量Cb1は、
図1における第15のトランジスタ15のコレクタ・ベース間に生ずる寄生容量であり、第2の素子寄生容量Cb2は、
図1における第8のトランジスタ8のベース・エミッタ間に生ずる寄生容量であり、第3の素子寄生容量Cb3は、第17のトランジスタ17のコレクタ・ベース間に生ずる寄生容量である。
【0127】
図8には、
図7に示されたブロック化された各回路の具体的な回路構成例が示されており、以下、同図について説明する。
図8に示された具体回路例は、
図6に示された回路構成例に、先の電源間寄生容量Cb0、第1乃至第3の素子寄生容量Cb1~Cb3を付加すると共に、
図7におけるインピーダンス素子50の具体例を示したものである。
なお、
図6に示された回路構成例の構成要素と同一の構成要素については、同一の符号を付して、その詳細な説明を省略し、以下、異なる点を中心に説明する。
図8の具体回路例において、
図7に示されたインピーダンス素子50は、抵抗器(
図8においては「RX11」と表記)49を用いて実現された構成となっている。
【0128】
次に、
図11には、
図7及び
図8に示された構成例における電源ラインへのAC入力電力Pinの変化に対する出力電圧Voutの変化例が示されており、以下、同図について説明する。
この
図11に示された特性例は、フィルタ用コンデンサ52の容量値を20pF、インピーダンス素子50である抵抗器49の抵抗値を1000Ωとして、AC電圧源RFの周波数0.5GHzで得られた特性である。
同図によれば、従来回路ではAC入力電力が大凡27dBm付近で出力電圧Voutが低下するのに対して、本発明の実施の形態における演算増幅器においては、AC入力電力が大凡35dBm付近まで低下せず、電源ラインへの高周波外来ノイズ混入に対する耐性が向上したことが確認できる。
【0129】
第1の回路構成例の場合、
図10に示されたように、電源ラインへのAC入力電力が35dBmに達すると出力電圧Voutが1V以上変動を生ずるものであった。これに対して、
図7及び
図8に示された回路構成例の場合、
図11に示されたようにAC入力電力が大凡35dBmに達しても出力電圧Voutの変動は第1の回路構成例よりも小さく、第1の回路構成例よりも電源ラインへ混入する高周波外来ノイズに対する耐性が大きく向上することが確認できる。
【0130】
このように、
図7、
図8に示された回路構成例が、本発明の実施の形態における他の回路構成例よりも高周波外来ノイズに対する大きな耐性が得られる理由は、以下の通りである。
【0131】
まず、
図7、
図8に示された回路構成例において、位相補償用の第1のコンデンサ51に流れるAC電流IXCは下記する式6で表される。
【0132】
IXC∝VCA/〔(RX11)2+{(1/2πf)×(1/C1+1/Cb1+1/Cb2)}2〕1/2・・・式6
【0133】
この
図7、
図8の回路構成例においては、AC電流IXCを減らす要素が、式6の分母と分子の双方にあるため、先に説明した回路構成例に比して出力電圧Voutの変動をより小さくすることが可能となっている。
すなわち、式6の分子のVCAは、正電源端子64における高周波AC電圧の振幅であるが、先に述べたように、ファイル用抵抗器45、フィルタ用ダイオード40及びフィルタ用コンデンサ52を用いたローパスフィルタによって抑圧可能となっている。
さらに、式6の分母のRX11は、抵抗器49の抵抗値であるが、この抵抗器49が位相補償用の第1のコンデンサ51と直列に接続されることで、AC電流IXCを減らすことができる。
【0134】
このように、第1及び第5の回路構成例に第6の回路構成例(
図7及び
図8)を組み合わせることで、演算増幅器の電源ラインへ混入する高周波外来ノイズに対するより高い耐性を確保できるものとなる。
【0135】
なお、上述した本発明の実施の形態におけるフィルタ用抵抗器45は、例えば、ピンチ抵抗の構造となるJFET素子を用いても良い。さらに、フィルタ用ダイオード40に代えて、ベースとコレクタが短絡状態とされたトランジスタを用いても良い。
またさらに、フィルタ用コンデンサ52として、PN接合容量を用いても良い。
【産業上の利用可能性】
【0136】
本発明は、消費電流の増加を招くことなく電源ラインへの高周波外来ノイズの混入に対して安定した出力特性が所望される演算増幅器に適用できる。
【符号の説明】
【0137】
40…フィルタ用ダイオード
45…フィルタ用抵抗器
42…フィルタ用コンデンサ
119…ローパスフィルタ