(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-18
(45)【発行日】2024-10-28
(54)【発明の名称】真空処理装置
(51)【国際特許分類】
C23C 14/00 20060101AFI20241021BHJP
C23C 16/44 20060101ALI20241021BHJP
【FI】
C23C14/00 B
C23C16/44 J
(21)【出願番号】P 2023535127
(86)(22)【出願日】2022-03-18
(86)【国際出願番号】 JP2022012560
(87)【国際公開番号】W WO2023286369
(87)【国際公開日】2023-01-19
【審査請求日】2023-06-09
(31)【優先権主張番号】P 2021117747
(32)【優先日】2021-07-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000231464
【氏名又は名称】株式会社アルバック
(74)【代理人】
【識別番号】110000305
【氏名又は名称】弁理士法人青莪
(72)【発明者】
【氏名】阪上 弘敏
(72)【発明者】
【氏名】北沢 僚也
(72)【発明者】
【氏名】磯部 辰徳
【審査官】若土 雅之
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-347393(JP,A)
【文献】特開2020-010001(JP,A)
【文献】特開2006-253629(JP,A)
【文献】特開2004-332117(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/00-16/56
H01L 21/205
21/31
21/365
21/469
21/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空雰囲気中で被処理基板に対して所定の処理を施す処理ユニットが設置される真空チャンバを有し、真空チャンバにその内部を真空排気する真空ポンプが接続されると共に真空チャンバ内に被処理基板がセットされるステージが設けられ、ステージにセットされた被処理基板が処理ユニットに対峙して所定の処理が施されるステージの姿勢を第1姿勢、所定の処理を施すとき以外のステージの姿勢を第2姿勢とし、第1姿勢と第2姿勢との間でステージを回転軸線回りに揺動する揺動手段を備える真空処理装置において、
真空チャンバ内にステージに向けて不活性ガスを吹き付ける吹付手段を更に備え、吹付手段が、真空チャンバ内を所定圧力の真空雰囲気とした状態でステージ及び被処理基板の少なくとも一方に付着したパーティクルの吹き飛ばしを可能とする第1流量と、吹き飛ばしにより真空チャンバ内に拡散したパーティクルの真空ポンプへの移送を可能とする第2流量との間で流量の切り換えが可能に構成され
、
前記吹付手段は、前記真空チャンバ内で前記ステージ上方に前記回転軸線と平行に配置されると共に当該回転軸線に沿うステージの幅と同等以上の長さを持つ吹付ノズルを備え、ステージが第1姿勢と第2姿勢との間で揺動される間、吹付ノズルから第1流量の不活性ガスをライン状に吹き付けることを特徴とする真空処理装置。
【請求項2】
真空雰囲気中で被処理基板に対して所定の処理を施す処理ユニットが設置される真空チャンバを有し、真空チャンバにその内部を真空排気する真空ポンプが接続されると共に真空チャンバ内に被処理基板がセットされるステージが設けられ、ステージにセットされた被処理基板が処理ユニットに対峙して所定の処理が施されるステージの姿勢を第1姿勢、所定の処理を施すとき以外のステージの姿勢を第2姿勢とし、第1姿勢と第2姿勢との間でステージを回転軸線回りに揺動する揺動手段を備える真空処理装置において、
真空チャンバ内にステージに向けて不活性ガスを吹き付ける吹付手段を更に備え、吹付手段が、真空チャンバ内を所定圧力の真空雰囲気とした状態でステージ及び被処理基板の少なくとも一方に付着したパーティクルの吹き飛ばしを可能とする第1流量と、吹き飛ばしにより真空チャンバ内に拡散したパーティクルの真空ポンプへの移送を可能とする第2流量との間で流量の切り換えが可能に構成され、
前記吹付手段は、前記真空チャンバ内で前記ステージ上方に前記回転軸線と平行に配置されると共に当該回転軸線に沿うステージの幅と同等以上の長さを持つ吹付ノズルを備え、吹付ノズルのノズル孔を前記回転軸線に平行な他の回転軸線回りに揺動させる駆動源を有することを特徴とす
る真空処理装置。
【請求項3】
前記真空ポンプからの排気管が接続される前記真空チャンバの排気口が前記ステージの下方に位置させて開設されることを特徴とする請求項
1または請求項2記載の真空処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空処理装置に関し、より詳しくは、真空雰囲気中で被処理基板に対して所定の処理を施すためのものに関する。
【背景技術】
【0002】
この種の真空処理装置は、真空雰囲気中で被処理基板に対してスパッタリング法、真空蒸着法またはCVD法による成膜処理、ドライエッチング処理、イオン注入処理や熱処理といった各種の真空処理を施すために用いられる。例えば、フラットディスプレイパネルの製造工程にて大面積のガラス基板に対してスパッタリング法により成膜処理を実施するスパッタリング装置は、真空チャンバを備え、真空チャンバには、その内部を真空排気する真空ポンプが接続されると共に真空チャンバ内に被処理基板がセットされるステージが設けられている。ステージには、回転軸が設けられ、被処理基板がセットされるステージの主面が鉛直方向上方を向く水平姿勢(第1姿勢)と、被処理基板がセットされたステージの主面が水平方向を向く起立姿勢(第2姿勢)との間でステージが回転軸線回りに揺動自在に構成されている。そして、起立姿勢のステージの主面に対峙させて真空チャンバの壁面には、処理ユニットとしてのスパッタリングカソードユニットが配置される(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
ところで、上記各種の真空処理装置は、成膜材料の補充、ターゲット材の交換や、真空チャンバ内壁面への成膜材料の付着を防止する防着板の交換といったメンテメンスが作業者の手作業で定期的に実施される。このとき、所定の空気清浄度を持つクリーンルーム内に真空チャンバが設置されていたとしても、クリーンルーム内に浮遊するパーティクルが真空チャンバ内に持ち込まれて、ステージの主面などに付着する場合がある。このようなパーティクルは、良好な真空処理を阻害する虞があるため、メンテナンス終了後には、持ち込まれたパーティクルを排除することが望ましい(例えば、フラットディスプレイパネルの製造工程で利用される真空処理装置には、近年の高精細化、高機能化に伴い、所定サイズ以下のパーティクル数を可及的に少なくすることが求められている)。
【0004】
パーティクルを排除する方法の一つとして、真空チャンバ内を大気雰囲気と所定圧力の真空雰囲気とを交互に複数回繰り返す所謂サイクルベントが一般に知られている。これによれば、真空雰囲気の真空チャンバ内に窒素ガスやアルゴンガスといったベントガスを導入する際に、ステージの主面などに付着したパーティクルが舞い上げられ、次に、真空ポンプにより真空チャンバ内を真空排気するときに、舞い上げられたパーティクルが真空ポンプへと移送されることで、パーティクルを可及的に排除することができる。このようなサイクルベントは、例えば、半導体装置の製造工程で利用される真空処理装置のように、被処理基板(シリコンウエハ)のサイズが比較的小さいことで真空チャンバ内の容積を然程大きくする必要のないものには有効である。然し、フラットディスプレイパネルの製造工程で利用される真空処理装置のように、被処理基板のサイズが比較的大きいことで、真空チャンバ内の容積を大きくせざるを得ないような場合には、効果的にパーティクルを排除することができない。しかも、真空チャンバ内の容積が大きいと、真空チャンバ内を大気雰囲気に戻すベント処理や、所定圧力の真空雰囲気を形成するための排気処理に多大な時間を要し、これでは、生産性が損なわれるという問題が生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、以上の点に鑑み、真空雰囲気を維持した状態で、持ち込まれたパーティクルを可及的に排除することができるようにした真空処理装置を提供することをその課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の真空処理装置は、真空雰囲気中で被処理基板に対して所定の処理を施す処理ユニットが設置される真空チャンバを有し、真空チャンバにその内部を真空排気する真空ポンプが接続されると共に真空チャンバ内に被処理基板がセットされるステージが設けられ、ステージにセットされた被処理基板が処理ユニットに対峙して所定の処理が施されるステージの姿勢を第1姿勢、所定の処理を施すとき以外のステージの姿勢を第2姿勢とし、第1姿勢と第2姿勢との間でステージを回転軸線回りに揺動する揺動手段を備え、真空チャンバ内にステージに向けて不活性ガスを吹き付ける吹付手段を更に備え、吹付手段が、真空チャンバ内を所定圧力の真空雰囲気とした状態でステージ及び被処理基板の少なくとも一方に付着したパーティクルの吹き飛ばしを可能とする第1流量と、吹き飛ばしにより真空チャンバ内に拡散したパーティクルの真空ポンプへの移送を可能とする第2流量との間で流量の切り換えが可能に構成されることを特徴とする。
【0008】
本発明によれば、成膜材料の補充、ターゲット材の交換や、真空チャンバ内壁面への成膜材料の付着を防止する防着板の交換といったメンテメンスを作業者が実施した後、真空ポンプにより真空チャンバ内を粘性流領域の所定の圧力範囲(例えば、5Pa~1000Paの範囲)まで真空排気する。所定の圧力範囲まで真空排気されると、ステージを第2姿勢とした状態で吹付手段によって窒素ガスやアルゴンガスといった不活性ガスを第1流量でステージに吹き付ける。第1流量は、例えば、1SLM~100SLMの範囲、好ましくは、10SLM以上の流量に設定され、このとき、真空チャンバ内が上記圧力範囲内に維持されるように真空ポンプの実効排気速度が適宜設定される。不活性ガスの第1流量での吹付時間は、例えば、予め実験的に求め、または、シミュレーションで算出することができる。なお、第1流量での不活性ガスのステージへの吹き付けは、真空ポンプにより真空チャンバ内を高真空(例えば、10-5Pa)まで真空排気した後に実施することができ、また、被処理基板に対して真空処理を施すためにステージに被処理基板がセットされた状態で実施することもできる。これにより、ステージや被処理基板に付着したパーティクルが吹き飛ばされて舞い上げられ、真空チャンバ内に拡散した状態となる(パーティクルの舞上工程)。
【0009】
次に、ステージや被処理基板に付着したパーティクルの舞い上げが終了すると、吹付手段は、第1流量から第2流量に切り換えて不活性ガスを真空チャンバに導入する。第2流量は、舞い上げられたパーティクルのサイズなどに応じて、例えば、300sccm~1000sccmの範囲の流量に設定され、このとき、上記同様、真空チャンバ内が上記圧力範囲内に維持されるように真空ポンプの実効排気速度が適宜設定される。これにより、真空チャンバ内に拡散したパーティクルが真空ポンプに通じる真空チャンバの排気口へと導かれ、真空ポンプへと移送される(パーティクルの移送工程)。不活性ガスの第2流量での吹付時間は、上記同様、例えば、予め実験的に求め、または、シミュレーションで算出することができる。なお、舞上工程と移送工程とを順次複数回繰り返すようにしてもよい。
【0010】
このように本発明では、真空チャンバ内を真空雰囲気とした状態で、比較的多量(第1流量)の不活性ガスを吹き付けてステージなどに付着したパーティクルを舞い上げ、この舞い上げられたパーティクルが更にステージなどに付着しないように、比較的少量(第2流量)の不活性ガスを導入して排気口へと導くことで、真空チャンバ内の真空雰囲気を維持したまま、持ち込まれたパーティクルを可及的に排除することができる。しかも、真空チャンバ内を大気雰囲気に戻すベント処理と排気処理とを繰り返す必要がないため、パーティクルの排除のための時間は少なくて済み、真空チャンバ内の容積が大きい場合に、有利である。その上、不活性ガスを利用するため、第2姿勢でステージに被処理基板をセットし、この状態でステージを揺動させて第1姿勢とし、真空処理を実施する際に、真空処理に先立ってパーティクルを排除することもできる。
【0011】
本発明において、前記吹付手段は、前記真空チャンバ内で前記ステージ上方に前記回転軸線と平行に配置されると共に当該回転軸線に沿うステージの幅と同等以上の長さを持つ吹付ノズルを備え、ステージが第1姿勢と第2姿勢との間で揺動される間、吹付ノズルから第1流量の不活性ガスをライン状に吹き付ける構成を採用してもよい。これによれば、ステージの揺動を利用して、被処理基板がセットされるステージの主面全体に亘って不活性ガスを吹き付けることができ、ステージなどに付着したパーティクルを確実に舞い上げることができる。
【0012】
また、本発明において、前記吹付手段は、前記真空チャンバ内で前記ステージ上方に前記回転軸線と平行に配置されると共に当該回転軸線に沿うステージの幅と同等以上の長さを持つ吹付ノズルを備え、吹付ノズルのノズル孔を前記回転軸線に平行な他の回転軸線回りに揺動させる駆動源を有する構成を採用してもよい。これにより、例えば、ステージを揺動させない状態でも、被処理基板がセットされるステージの主面全体に亘って不活性ガスを吹き付けることができ、しかも、第2流量で不活性ガスを吹き出す際に、吹付ノズルのノズル孔を揺動させることで、舞い上げられたパーティクルを排気口へとより確実に導くことができ、有利である。なお、前記真空ポンプからの排気管が接続される前記真空チャンバの排気口が前記ステージの下方に位置させて開設されていれば、重力も加わって、より一層確実に舞い上げられたパーティクルを排気口へと導くことがでる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本実施形態の真空処理装置(スパッタリング装置)の模式断面図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して、真空雰囲気中での処理をスパッタリング法による成膜処理、処理ユニットをスパッタリングカソード、被処理基板をガラス基板(以下、「基板Sw」という)とし、真空雰囲気中の真空チャンバ内にて基板Swの一方の面に所定の薄膜を成膜する場合を例に本発明の真空処理装置の実施形態を説明する。以下において、上、下といった方向を示す用語は、真空処理装置の設置姿勢で示す
図1を基準にする。
【0015】
図1を参照して、真空処理装置(スパッタリング装置)VMは、略箱状のメインチャンバ1を備える。鉛直方向上方に位置するメインチャンバ1の上壁部は、後述のステージの揺動を許容しつつその容積を可及的に小さくするため、ステージの揺動に対応する湾曲した形状を有する。また、メインチャンバ1の一側壁部(
図1中、左側壁部)には、補助チャンバ2が連設され、メインチャンバ1の一側壁部に設けた開口11を通して互いに連通可能としている。メインチャンバ1の他側壁部(
図1中、右側壁部)には、シャッタ板12で開閉自在な基板搬送用の開口13が設けられ、開口13を介してメインチャンバ1内に基板Swが出し入れ自在となっている。また、鉛直方向下方に位置するメインチャンバ1の底壁部には排気口14が形成され、排気口14には、真空ポンプ15からの排気管15aが接続され、メインチャンバ1内を大気圧から高真空領域まで真空排気することができる。本実施形態では、後述の吹付ノズルの下方に位置させて排気口14が設けられ、また、排気管15aには、真空ポンプ15の実効排気速度を調整できるようにコンダクタンスバルブ15bが介設されている。
【0016】
メインチャンバ1内には、基板Swを保持した状態で揺動自在なステージ3が設けられている。ステージ3は、基板Swより一回り大きな面積を有して基板Swを保持する機能部品を持つ支持板部31を備える。機能部品としては、特に図示して説明しないが、支持板部31の上面外周縁に設けた爪部やメカクランプなど公知の部品を利用することができる。補助チャンバ2側に位置する支持板部31の下面一側端には、斜め下方に延びるアーム部32が取り付けられ、アーム部32の下端が、水平方向にのびるようにメインチャンバ1内に軸支される回転軸部33に連結されている。回転軸部33の一端(
図1中、奥行き方向)は、駆動手段としてのモータ34の出力軸に連結されている。これにより、基板Swを保持するステージ3の支持板部31の主面(基板Swが保持される面)が鉛直方向上方を向く第1姿勢と、支持板部31の外周縁部が開口11の外周縁部に位置するメインチャンバ1の一側壁部内面に当接する第2姿勢との間でステージ3が揺動自在となる。
【0017】
補助チャンバ2内には、処理ユニットとしてのスパッタリングカソード4が設けられている。スパッタリングカソード4は、第2姿勢をとるステージ3に正対配置されるターゲット41を備え、ターゲット41の一方の面に接合されるバッキングプレート42を介して補助チャンバ2内に設置される。なお、特に図示して説明しないが、補助チャンバ2にもまた真空ポンプが接続され、また、真空チャンバ1にプラズマを形成する際に導入されるアルゴンガス等の希ガスや、反応性スパッタリングの際の反応ガスが導入できるようになっている。そして、図外のスパッタ電源からターゲット41に、ターゲット種に応じて負の電位を持つ所定電力や交流電力を投入し、補助チャンバ2内にプラズマを形成してターゲット41をスパッタリングして基板Sw表面に所定の薄膜を成膜することができる。
【0018】
ところで、上記真空処理装置VMに対しては、ターゲット41や防着板(図示せず)の交換といったメンテメンスが作業者の手作業で定期的に実施される。このとき、所定の空気清浄度を持つクリーンルーム内にメインチャンバ1が設置されていたとしても、クリーンルーム内に浮遊するパーティクルがメインチャンバ1にも持ち込まれて、ステージ3の支持板部31などに付着する場合がある。このようなパーティクルは基板Swへの成膜に悪影響を及ぼすため、成膜処理に先立って所定サイズ以下のパーティクル数を可及的に少なくする必要がある。本実施形態では、ステージ3に向けて不活性ガスを吹き付ける吹付手段5を設けることとした。
【0019】
図2も参照して、吹付手段5は、メインチャンバ1の上壁部内面に設けた吹付ノズル51を備える。吹付ノズル51は、ステージ3の支持板部31の幅(
図1中、奥行き方向の幅)より長い金属製の筒体で構成され、その外周面には、一方向に間隔を存して複数のノズル孔51aが列設され、各ノズル孔51aからライン状に不活性ガスを吹き出すことができる。また、吹付ノズル51には、メインチャンバ1の上壁部を貫通してその内部に突出するガス配管52が接続されている。この場合、特に図示して説明しないが、吹付ノズル51内に拡散板を配置し、ガス配管52を通じて供給される不活性ガスを拡散して各ノズル孔51aから略均等に不活性ガスが吹き出すようにしてもよい。そして、ガス配管52が、流量制御弁53を介して図外のガス源に連通している。不活性ガスとしては、窒素ガスやアルゴンガスなどの希ガスが利用され、また、流量制御弁53は、ステージ3や基板Swに付着したパーティクルの吹き飛ばしを可能とする第1流量と、舞い上げられたパーティクルをメインチャンバ1内で拡散させて排気口14へ送ることができる第2流量とを切り換えて不活性ガスを吹付ノズル51に供給できるようにしている。吹付ノズル51にはまた、その軸線(回転軸線)回りに回転させる駆動源としてのモータ54の回転軸が接続され、吹付ノズル51を所定の角度範囲で往復するように回転させることで、各ノズル孔51aを軸線回りに所定の角度範囲内で往復するように揺動させることができる。以下に、メンテメンス実施後のパーティクルの排除手順を説明する。
【0020】
メンテメンス実施後には、ステージ3を第2姿勢とした状態で真空ポンプ15によりメインチャンバ1及び補助チャンバ2内を粘性流領域の所定の圧力範囲(例えば、5Pa~1000Paの範囲)まで真空排気する。所定の圧力範囲まで真空排気されると、流量制御弁53が制御されて不活性ガスが第1流量で吹付ノズル51に供給され、各ノズル孔51aから不活性ガスを第1流量でライン状に吹き出す。第1流量は、例えば、1SLM~100SLMの範囲、好ましくは、10SLM以上の流量に設定され、また、メインチャンバ1内が上記圧力範囲内に維持されるようにコンダクタンスバルブ15bの開度が適宜調整される。これに併せて、モータ54により吹付ノズル51を所定の角度範囲内で往復するように回転させると共に、第1姿勢に達するまでステージ3を揺動させる。不活性ガスの第1流量での吹付時間は、例えば、予め実験的に求め、または、シミュレーションで算出することができ、これに応じてステージ3の揺動速度が設定される。なお、第1流量での不活性ガスのステージ3への吹き付けは、真空ポンプ15によりメインチャンバ1及び補助チャンバ2内を高真空(例えば、10-5Pa)まで真空排気した後に実施することができ、また、基板Swに対して成膜するためにステージ3に基板Swがセットされた状態で実施することもできる。これにより、支持板部31の主面全面を含むステージ3にライン状の不活性ガスが吹き付けられ、ステージ3や基板Swに付着したパーティクルが吹き飛ばされて舞い上げられ、メインチャンバ1内に拡散した状態となる(パーティクルの舞上工程)。
【0021】
次に、ステージ3が第1姿勢となり、ステージ3や基板Swに付着したパーティクルの舞い上げが終了すると、ステージ3の第1姿勢を維持する(つまり、メインチャンバ1と補助チャンバ2とが互いに隔絶された状態を維持する)と共に、吹付ノズル51の回転をそのまま維持した状態で、流量制御弁53が制御されて不活性ガスが第2流量で吹付ノズル51に供給され、各ノズル孔51aから不活性ガスを第2流量でライン状に吹き出す。第2流量は、舞い上げられたパーティクルのサイズなどに応じて、例えば、300sccm~1000sccmの範囲の流量に設定され、このとき、上記同様、メインチャンバ1内が上記圧力範囲内に維持されるようにコンダクタンスバルブ15bの開度が適宜調整される。これにより、メインチャンバ1内に拡散したパーティクルは、重力も加わって排気口14へと導かれ、真空ポンプ15へと移送される(パーティクルの移送工程)。不活性ガスの第2流量での吹付時間は、上記同様、例えば、予め実験的に求め、または、シミュレーションで算出することができる。また、このような舞上工程と移送工程とを順次複数回繰り返すことができ、パーティクルの舞上工程では、第1姿勢から第2姿勢までステージ3を揺動させるとき、第1流量で不活性ガスを吹き付けるようにしてもよい。
【0022】
以上の実施形態によれば、比較的多量(第1流量)の不活性ガスを吹き付けてステージ3などの付着したパーティクルを舞い上げ、この舞い上げられたパーティクルが更にステージ3などに付着しないように、比較的少量(第2流量)の不活性ガスを導入して排気口14へと導くことで、メインチャンバ1内の真空雰囲気を維持したまま、持ち込まれたパーティクルを可及的に排出することができる。しかも、メインチャンバ1内を大気雰囲気に戻すベント処理と排気処理とを繰り返す必要がないため、パーティクルの排除のための時間は少なくて済み、メインチャンバ1内の容積が大きい場合に、有利である。その上、不活性ガスを利用するため、第2姿勢でステージ3に基板Swをセットし、この状態でステージ3を揺動させて第1姿勢とし、成膜する際に、これに先立ってパーティクルを排除することもできる。
【0023】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明の技術思想の範囲を逸脱しない限り、種々の変形が可能である。上記実施形態では、メインチャンバ1の上壁部内側に吹付ノズル51を備えるものを例に吹付手段5を説明したが、少なくとも真空処理時に最も影響を与える可能性がある支持板部31の主面全面に亘って第1流量の不活性ガスを吹き付けられるのであれば、その形態や配置はこれに限定されるものではない。例えば、本実施形態のようにステージ3が揺動されるものであれば、吹付ノズル51を回転させる必要はない。また、上記実施形態では、排気口14をメインチャンバ1の底壁部に設けたものを例に説明したが、メインチャンバ1内に拡散したパーティクルが導かれる位置であれば、これに限定されるものではない。更に、上記実施形態では、スパッタリング装置を例に説明したが、揺動するステージを利用するものであれば、真空蒸着法やCVD法による成膜処理装置、ドライエッチング処理装置やイオン注入処理装置といった他の真空処理装置にも本発明は適用することができる。
【符号の説明】
【0024】
VM…真空処理装置、Sw…基板(被処理基板)、1…メインチャンバ(真空チャンバ)、2…補助チャンバ(真空チャンバ)、3…ステージ、4…スパッタリングカソード(処理ユニット)、5…吹付手段、51…吹付ノズル、14…排気口、15…真空ポンプ、15a…排気管、54…モータ(駆動源)。