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特許7574577厚膜抵抗体用組成物、厚膜抵抗体用ペースト、厚膜抵抗体、厚膜抵抗体用組成物の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-21
(45)【発行日】2024-10-29
(54)【発明の名称】厚膜抵抗体用組成物、厚膜抵抗体用ペースト、厚膜抵抗体、厚膜抵抗体用組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01C 7/00 20060101AFI20241022BHJP
   B22F 1/14 20220101ALI20241022BHJP
   B22F 1/00 20220101ALI20241022BHJP
【FI】
H01C7/00 322
B22F1/14 500
B22F1/00 K
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020143490
(22)【出願日】2020-08-27
(65)【公開番号】P2022038818
(43)【公開日】2022-03-10
【審査請求日】2023-04-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】植田 貴広
【審査官】鈴木 駿平
(56)【参考文献】
【文献】特開平04-206602(JP,A)
【文献】特開2005-183144(JP,A)
【文献】特開2018-055767(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01C 7/00
H01C 17/00-17/30
H01B 1/00-1/24
B22F 1/00
B22F 1/052
B22F 1/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
厚膜抵抗体用組成物であって、
前記厚膜抵抗体用組成物は、平均粒径が0.5μm以上7.0μm以下の銀粒子、およびパラジウム粒子を含む導電性粉末と、
軟化点が750℃以上900℃以下であり、CaO、MgO、BaOから選択された1種類以上を含むアルミノホウケイ酸ガラスと、を含み、
前記パラジウム粒子は平均粒径が0.05μm以上0.15μm以下の第1粒子と、平均粒径が0.25μm以上0.55μm以下の第2粒子とを含み、
前記パラジウム粒子は、前記第1粒子を5質量%以上60質量%以下の割合で含有し、
前記導電性粉末は、前記銀粒子と前記パラジウム粒子との含有量の合計を100質量%とした場合に、前記銀粒子を44質量%以上48質量%以下の割合で含む厚膜抵抗体用組成物。
【請求項2】
前記パラジウム粒子は、前記第1粒子を10質量%以上20質量%以下の割合で含有する請求項1に記載の厚膜抵抗体用組成物。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の厚膜抵抗体用組成物と、有機ビヒクルとを含む厚膜抵抗体用ペースト。
【請求項4】
請求項1または請求項2に記載の厚膜抵抗体用組成物を含有する厚膜抵抗体。
【請求項5】
平均粒径が0.5μm以上7.0μm以下の銀粒子、およびパラジウム粒子を含む導電性粉末と、
軟化点が750℃以上900℃以下であり、CaO、MgO、BaOから選択された1種類以上を含むアルミノホウケイ酸ガラスと、を混合する混合工程を有し、
前記パラジウム粒子は平均粒径が0.05μm以上0.15μm以下の第1粒子と、平均粒径が0.25μm以上0.55μm以下の第2粒子とを含み、
前記パラジウム粒子は、前記第1粒子を5質量%以上60質量%以下の割合で含有し、
前記導電性粉末は、前記銀粒子と前記パラジウム粒子との含有量の合計を100質量%とした場合に、前記銀粒子を44質量%以上48質量%以下の割合で含む厚膜抵抗体用組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、厚膜抵抗体用組成物、厚膜抵抗体用ペースト、厚膜抵抗体、厚膜抵抗体用組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般にチップ抵抗器、ハイブリットIC、または、抵抗ネットワーク等の厚膜抵抗体は、セラミック基板に厚膜抵抗体用ペーストを印刷して焼成することによって形成されている。
【0003】
厚膜抵抗体用ペーストに用いる厚膜抵抗体用組成物は、抵抗値領域に合わせて酸化ルテニウムを代表とするルテニウム系酸化物や、Ag、Pd、Cu金属粒子またはこれらを含む合金粉末といった導電性粒子とガラス粉末とを主成分として含むことが一般的である。厚膜抵抗体用組成物にはさらに、抵抗値やその他の特性の微調整のための金属酸化物を添加剤として添加することもなされている。
【0004】
例えば、特許文献1では絶縁基板上に印刷し焼成して該基板上に印刷抵抗体を形成するための厚膜抵抗組成物に関し、シート抵抗値が0.1~30Ω/□/10μmで、TCRが±50ppmを有する印刷抵抗体を形成するための厚膜抵抗組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平04-206602号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
厚膜抵抗体用組成物の材料は、例えば10Ω未満の抵抗値領域では、比抵抗が小さい銀粒子、パラジウム粒子や、これらの金属を含む合金粒子といった導電性粒子と、軟化点が焼成温度程度である高い軟化点のアルミノホウケイ酸ガラスが適しているとされている。また、厚膜抵抗体用組成物は、必要に応じてさらに添加剤としてTiO2またはAl23といった金属酸化物を使用することなされている。
【0007】
しかしながら、従来の厚膜抵抗体用組成物を用いて、銀を含む電極上に厚膜抵抗体を製造した場合に、電極と厚膜抵抗体との接合面に空隙が生じるという問題があった。
【0008】
上記従来技術の問題に鑑み、本発明の一側面では、電極上に厚膜抵抗体を作製した場合に、電極と厚膜抵抗体との間の空隙の発生を抑制できる厚膜抵抗体用組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため本発明は、
厚膜抵抗体用組成物であって、
前記厚膜抵抗体用組成物は、平均粒径が0.5μm以上7.0μm以下の銀粒子、およびパラジウム粒子を含む導電性粉末と、
軟化点が750℃以上900℃以下であり、CaO、MgO、BaOから選択された1種類以上を含むアルミノホウケイ酸ガラスと、を含み、
前記パラジウム粒子は平均粒径が0.05μm以上0.15μm以下の第1粒子と、平均粒径が0.25μm以上0.55μm以下の第2粒子とを含み、
前記パラジウム粒子は、前記第1粒子を5質量%以上60質量%以下の割合で含有し、
前記導電性粉末は、前記銀粒子と前記パラジウム粒子との含有量の合計を100質量%とした場合に、前記銀粒子を44質量%以上48質量%以下の割合で含む厚膜抵抗体用組成物を提供する。

【発明の効果】
【0010】
本発明の一側面によれば、電極上に厚膜抵抗体を作製した場合に、電極と厚膜抵抗体との間の空隙の発生を抑制できる厚膜抵抗体用組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施例1の厚膜抵抗体の断面のSEM画像。
図2】実施例2の厚膜抵抗体の断面のSEM画像。
図3】実施例3の厚膜抵抗体の断面のSEM画像。
図4】実施例4の厚膜抵抗体の断面のSEM画像。
図5】比較例1の厚膜抵抗体の断面のSEM画像。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の厚膜抵抗体用組成物、厚膜抵抗体用組成物の製造方法、厚膜抵抗体用ペースト、厚膜抵抗体の一実施形態について説明する。
[厚膜抵抗体用組成物]
以下、本実施形態の厚膜抵抗体用組成物について、図面等を参照しながら説明する。
【0013】
本実施形態の厚膜抵抗体用組成物は、導電性粉末と、アルミノホウケイ酸ガラスと、を含む。以下、本実施形態の厚膜抵抗体用組成物が含有する成分について説明する。
【0014】
(1)導電性粉末
本発明の発明者は、電極上に厚膜抵抗体を作製した場合に、電極と厚膜抵抗体との間の空隙の発生を抑制できる厚膜抵抗体用組成物について、検討を行った。
【0015】
既述のように抵抗値が10Ω未満の厚膜抵抗体を目的とした厚膜抵抗体用組成物では、導電性粉末として、比抵抗が小さい銀粒子、およびパラジウム粒子を用いることができる。
【0016】
銀粒子とパラジウム粒子とを含む導電性粒子、およびガラスを含有する厚膜抵抗体用組成物を用いて厚膜抵抗体を製造する場合、例えば以下の手順により製造できる。まず、銀を含む電極が形成されたアルミナ(酸化アルミニウム)基板の上記電極上に、上記厚膜抵抗体用組成物を含むペースト等を塗布する。次いで、係るペースト等を乾燥し、焼成する。焼成を行う際、銀はパラジウムより融点が低いため、銀粒子とパラジウム粒子とでは溶融時間の差が大きくなる。また、銀はパラジウムより拡散速度が大きい。このため、従来の厚膜抵抗体用組成物では、パラジウム粒子が完全に溶融するまで加熱すると、電極の銀が厚膜抵抗体に拡散し、焼成前に存在していた電極の銀を含有していた部分に空隙が生じる。また、上述のように電極の銀が厚膜抵抗体側へ拡散し、電極が痩せる電極食われ等の現象が発生していた。なお、加熱時間を短くした場合、空隙は抑制できると推認されるが、加熱時に導電性粒子の一部が十分に溶解していないため、得られる厚膜抵抗体について、脆くなる等の問題が生じると考えられる。
【0017】
そこでさらなる検討を行い、パラジウム粒子について平均粒径の異なる2種類の粒子の混合物とし、銀粒子とパラジウム粒子との溶融時間差を制御することで、厚膜抵抗体を作製する際の焼成による電極と抵抗体の銀とパラジウムの分配を制御できることを見出した。その結果、電極と厚膜抵抗体との間の空隙の発生を抑制できることを見出し、本発明を完成させた。
【0018】
本実施形態の厚膜抵抗体用組成物が含有する導電性粉末は、銀粒子およびパラジウム粒子を含有できる。以下に各粒子について説明する。
【0019】
(1-1)パラジウム粒子
導電性粉末が有するパラジウム粒子は、上述のように、平均粒径の異なる第1粒子と、第2粒子とを含むことができる。パラジウム粉末は、第1粒子と、第2粒子とのみから構成することもできるが、この場合でも不可避不純物を含有することを排除するものではない。
【0020】
パラジウム粉末の第1粒子は、平均粒径が0.05μm以上0.15μm以下とすることができる。また、第2粒子は、平均粒径が0.25μm以上0.55μm以下とすることができる。
【0021】
このようにパラジウム粒子が、平均粒径が異なる第1粒子と第2粒子とを含むことで、既述のように電極上に厚膜抵抗体を作製した場合に、電極と厚膜抵抗体との間の空隙の発生を抑制できる。
【0022】
本明細書において平均粒径は体積平均粒径を意味する。体積平均粒径は、粒子体積で重み付けした平均粒径であり、粒子の集合において、個々の粒子の直径にその粒子の体積を乗じたものの総和を粒子の総体積で割ったものである。体積平均粒径は、例えば、レーザー回折式粒度分布計を用いたレーザー回折散乱法によって、測定することが可能である。
【0023】
パラジウム粒子における、第1粒子の含有割合は特に限定されないが、パラジウム粒子は第1粒子を5質量%以上60質量%以下の割合で含有することが好ましく、10質量%以上20質量%以下の割合で含有することがより好ましい。なお、ここでのパラジウム粒子における第1粒子の含有割合は、パラジウム粒子を100質量%とした場合の第1粒子の含有割合を意味する。
【0024】
パラジウム粒子が第1粒子を上記範囲で含有することで、電極上に厚膜抵抗体を作製した場合に、電極と厚膜抵抗体との間の空隙の発生や、電極が痩せる電極食われの発生をより確実に抑制できる。
【0025】
(1-2)銀粒子
銀粒子の粒径等は特に限定されないが、平均粒径が0.5μm以上7.0μm以下であることが好ましく、1.0μm以上3.0μm以下であることがより好ましい。
【0026】
銀粒子の平均粒径を上記範囲とすることで、既述のパラジウム粒子と組み合わせて用いた場合、該導電性粒子を含む厚膜抵抗体用組成物を用いて電極上に厚膜抵抗体を作製した際に電極と厚膜抵抗体との間の空隙の発生等を特に抑制できる。
【0027】
(1-3)混合割合
導電性粒子が含有するパラジウム粒子と、銀粒子との混合割合は特に限定されないが、例えば銀粒子とパラジウム粒子との含有量の合計を100質量%とした場合に、銀粒子を44質量%以上48質量%以下の割合で含むことが好ましい。
【0028】
なお、この場合、導電性粒子におけるパラジウム粒子の含有割合は残部、すなわち52質量%以上56質量%以下とすることができる。
【0029】
これは、銀粒子の含有割合を上記範囲とすることで、該導電性粒子を含む厚膜抵抗体用組成物を用いて作製した厚膜抵抗体の抵抗温度係数を抑制できるからである。
【0030】
(2)ガラス
ガラスの組成等は特に限定されないが、ガラスの軟化点が750℃以上900℃以下であることが好ましく、800℃以上860℃以下であることがより好ましい。
【0031】
ガラスとしては、例えば、CaO、MgO、BaOから選択された1種類以上を含むアルミノホウケイ酸ガラスを好適に用いることができる。
【0032】
ガラスとしては、例えばCaO、MgOを含んだアルミノホウケイ酸ガラスであって、SiOを55質量%以上65質量%以下、Alを10質量%以上15質量%以下、Bを3質量%以上7質量%以下、MgOを0.5質量%以上1.5質量%以下、CaOを15質量%以上25質量%以下、軟化点が800℃以上860℃以下であるガラスを特に好適に用いることができる。係るガラスは、軟化点が高く、CaOとMgOを含んでいるため静電気負荷特性(ESD)の結果が特に優れているため好適に用いることができる。
【0033】
本実施形態の厚膜抵抗体用組成物に用いるガラスの平均粒径は特に限定されないが、0.8μm以上3.0μm以下であることが好ましく、1.0μm以上1.8μm以下がより好ましい。厚膜抵抗体用組成物に含まれるガラスの平均粒径を3.0μm以下とすることで、厚膜抵抗体とした場合のノイズ特性を特に高めることができる。一方、ガラスの平均粒径を過度に小さくすると、生産性が低くなり、不純物等の混入も増える恐れがある。このため、ガラスの平均粒径は0.1μm以上であることが好ましい。ガラスの平均粒径についても、レーザー回折式粒度分布計を用いたレーザー回折散乱法によって測定、算出することができる。
【0034】
例えばAl23を添加剤として加えた場合、抵抗体を一素子ずつ測定しながらカットする、レーザートリミング前のプリコート工程前後での抵抗値変化が大きくなることがある。しかし、ガラスの平均粒径を1.0μm以上1.8μm以下とすることで、Al23とガラスとの接触面積を増やすことが可能になるため、抵抗値の変化を抑制できる。このため、係る観点からもガラスの平均粒径は上記範囲であることが好ましい。
【0035】
本実施形態の厚膜抵抗体用組成物は、導電性粉末、ガラス以外に任意の成分を含有することもできる、例えば以下に説明する添加剤を含有することもできる。
(添加剤)
本実施形態の厚膜抵抗体用組成物は、抵抗体の抵抗値や抵抗温度係数や負荷特性、トリミング性の改善、調整を目的として一般に使用される添加剤を含有することもできる。添加剤としては、Al23、SiO2、TiO2、Nb25、Mn34、CuOといった酸化物を挙げることができる。添加剤の平均粒径は特に限定されないが、添加剤の平均粒径は0.5μm以下であることが好ましく、0.1μm以下であることがより好ましい。これは添加剤の平均粒径が0.5μm以下の場合に特に添加剤の添加効果が得られやすく、特に平均粒径が0.1μm以下だと少量で顕著な効果が得られやすいからである。
【0036】
添加する添加剤の種類は特に限定されず、改善したい特性等に応じて選択できる。例えば、静電気負荷(ESD)に関しては、添加剤としてAl23とTiO2を添加した場合、負荷をかけた前後での抵抗値変化を小さくでき、特にAl23とTiO2を複合して添加するとさらに抵抗値変化が小さくできる。
【0037】
また、Al23、SiO2、TiO2、Nb25、Mn34、CuOといったどの酸化物についても焼成後の厚膜抵抗体に生じやすいボイドを抑制する効果がある。中でもAl23は厚膜抵抗体のボイド発生を特に抑制できるために係る目的で特に好適に用いることができる。係る効果は、添加剤を添加することで、例えば厚膜抵抗体の焼成時にガラスフリットや導電性粉末の間に存在する小さい気泡の集積が抑制されるために得られていると考えられる。
【0038】
添加剤を添加する量は、添加剤の種類や、添加する目的等によって調整されるが、導電性粉末とガラス粉末との含有量の合計を100質量部とした場合に、添加剤の添加量は合計で0以上20質量部以下とすることが好ましい。
[厚膜抵抗体用組成物の製造方法]
厚膜抵抗体用組成物の製造方法によれば、既述の厚膜抵抗体用組成物を製造できる。このため、厚膜抵抗体用組成物で説明した事項については説明を一部省略する。
【0039】
本実施形態の厚膜抵抗体用組成物の製造方法は特に限定されず、既述の厚膜抵抗体用組成物が含有する成分を混合することで製造できる。このため、本実施形態の厚膜抵抗体用組成物の製造方法は例えば以下の混合工程を有することができる。
【0040】
平均粒径が0.5μm以上7.0μm以下の銀粒子、およびパラジウム粒子を含む導電性粉末と、
軟化点が750℃以上900℃以下であり、CaO、MgO、BaOから選択された1種類以上を含むアルミノホウケイ酸ガラスと、を混合する混合工程。
【0041】
そして、上記パラジウム粒子は平均粒径が0.05μm以上0.15μm以下の第1粒子と、平均粒径が0.25μm以上0.55μm以下の第2粒子とを含むことができる。
【0042】
また、導電性粉末は、銀粒子と、パラジウム粒子との含有量を100質量%とした場合に、銀粒子を44質量%以上48質量%以下の割合で含むことができる。
【0043】
なお、例えばパラジウム粒子が含有する第1粒子と、第2粒子とは予め混合してから他の成分と混合してもよく、上記混合工程に第1粒子、第2粒子を添加し、混合工程において第1粒子と第2粒子とを混合してもよい。導電性粒子に関しても同様に、銀粒子とパラジウム粒子とを予め混合してから他の成分と混合してもよく、上記混合工程に銀粒子、パラジウム粒子を添加し、混合工程において銀粒子とパラジウム粒子とを混合してもよい。
【0044】
厚膜抵抗体用組成物を製造する混合工程において、後述する厚膜抵抗体用ペーストに用いる有機ビヒクルをあわせて添加し、厚膜抵抗体用ペーストを製造する際に、厚膜抵抗体用組成物をあわせて製造することもできる。
[厚膜抵抗体用ペースト]
本実施形態の厚膜抵抗体用ペーストの一構成例について説明する。
【0045】
本実施形態の厚膜抵抗体用ペーストは、既述の厚膜抵抗体用組成物と、有機ビヒクルとを含むことができる。そして、本実施形態の厚膜抵抗体用組成物は、既述の厚膜抵抗体用組成物を有機ビヒクル中に分散した構成を有することができる。
【0046】
有機ビヒクルについては特に制限はなく、溶剤に樹脂を溶解した溶液を用いることができる。溶剤としては、ターピネオール、ブチルカルビトール、ブチルカルビトールアセテート等から選択された1種類以上が挙げられる。また、樹脂としては、エチルセルロース、アクリル酸エステル、メタアクリル酸エステル、ロジン、マレイン酸エステル等から選択された1種類以上が挙げられる。
【0047】
また、厚膜抵抗体用ペーストには、必要に応じて分散剤や可塑剤など加えることもできる。
【0048】
既述の厚膜抵抗体用組成物や、添加剤等を有機ビヒクルに分散させる際の分散方法も特に制限されないが、微細な粒子を分散させる3本ロールミルやビーズミル、遊星ミル等から選択された1種類以上の方法を用いることができる。有機ビヒクルの配合比率は印刷方法や塗布方法によって適宣調整されるが、厚膜抵抗体用組成物を100質量部とした場合に、有機ビヒクルが20質量部以上200質量部以下となるように混練、調製することが好ましい。
【0049】
厚膜抵抗体用ペーストは、特に以下の組成を充足することが好ましい。
【0050】
厚膜抵抗体用ペーストは、有機ビヒクルを5質量%以上30質量%以下、アルミノホウケイ酸ガラスを3質量%以上30質量%以下、パラジウム粒子を20質量%以上45質量%以下、銀粒子を15質量%以上35質量%以下の割合で含有することが好ましい。また、厚膜抵抗体用ペーストは、添加剤として、TiO、Alを含有することが好ましく、例えばTiOを1質量%以上10質量%以下、Alを0.1質量%以上5質量%以下の割合で含有することが好ましい。
【0051】
また、厚膜抵抗体用ペーストは、導電性粉末と、アルミノホウケイ酸ガラスとの総量に対して、添加剤であるAl23を0.01質量%以上10質量%以下の割合で、TiO2を0.01質量%以上10質量%以下の割合で含有することが好ましい。
【0052】
パラジウム粒子は、既述のように第1粒子と、第2粒子とを含有でき、第1粒子を5質量%以上60質量%以下の割合で含有することが好ましく、10質量%以上20質量%以下の割合で含有することがより好ましい。
【0053】
さらに、銀粒子と、パラジウム粒子の含有割合の合計を100質量%とした場合、銀粒子を44質量%以上48質量%以下の割合で含有することが好ましい。この場合、パラジウム粒子は残部、すなわち52質量%以上56質量%以下の割合で含有することが好ましい。
【0054】
厚膜抵抗体用ペーストは、既述の厚膜抵抗体用組成物と有機ビヒクルとを混練することで製造できる。なお、既述の厚膜抵抗体用組成物の原料と、有機ビヒクルとをあわせて混合、混練し、厚膜抵抗体用組成物とともに厚膜抵抗体用ペーストを製造することもできる。
[厚膜抵抗体]
本実施形態の厚膜抵抗体は、既述の厚膜抵抗体用組成物を含有することができる。
【0055】
本実施形態の厚膜抵抗体の製造方法は特に限定されないが、例えば既述の厚膜抵抗体用組成物を、セラミック基板上に配置し、焼成して形成することができる。また、既述の厚膜抵抗体用ペーストを、セラミック基板に塗布した後、焼成して形成することもできる。
【0056】
本実施形態の厚膜抵抗体は、既述の厚膜抵抗体用組成物や、厚膜抵抗体用ペーストを用いて製造することができる。このため、本実施形態の厚膜抵抗体は、上述のように既述の厚膜抵抗体用組成物を含むことができ、既述の導電性粉末と、アルミノホウケイ酸ガラスとを含むことができる。
【0057】
本実施形態の厚膜抵抗体の特性は特に限定されないが、シート抵抗値が0.1Ω/□以上10Ω/□以下であることが好ましい。
【0058】
また、本実施形態の厚膜抵抗体の、抵抗温度係数は絶対値が100ppm/℃以下であることが好ましい。抵抗温度係数は、後述する実施例の中で説明するようにCOLD-TCRと、HOT-TCRとがあるが、ともに上記範囲を充足することが好ましい。
【実施例
【0059】
以下に具体的な実施例、比較例等を挙げて説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
(評価方法)
以下の実施例、比較例で作製した厚膜抵抗体の評価方法について説明する。
(1)抵抗値測定
膜厚は、各実施例、比較例で同じ条件で作製した5個の厚膜抵抗体について、触針の厚さ粗さ計(東京精密社製 型番:サーフコム480B)により膜厚を測定し、測定した値を平均することで算出した。
【0060】
製造した5個の厚膜抵抗体について、デジタルマルチメーター(KEITHLEY社製、2001番)により抵抗値を測定し、得られた抵抗値を、厚膜抵抗体の厚さが7μmの場合に換算した。そして、換算後の5個の厚膜抵抗体の抵抗値の平均を該厚膜抵抗体の抵抗値とした。
(2)抵抗温度係数
抵抗温度係数は次の手順で算出した。
【0061】
以下の各実施例、比較例で同じ条件で1mm幅の50mm配線の厚膜抵抗体を5個作製し、各厚膜抵抗体を-55℃、25℃、125℃にそれぞれ15分保持してから抵抗値を測定した。各厚膜抵抗体の各温度での抵抗値はR-55、R25、R125とする。例えばR-55は、-55℃での抵抗値を意味する。
【0062】
次に各厚膜抵抗体について以下の式(A)、式(B)によって低温側の抵抗温度係数COLD-TCRと、高温側の抵抗温度係数HOT-TCRとを算出し、5個の厚膜抵抗体の平均を各実施例、比較例の厚膜抵抗体の抵抗温度係数(COLD-TCR、HOT-TCR)とした。
COLD-TCR(ppm/℃)=(R-55-R25)/R25/(-80)×10・・・(A)
HOT-TCR(ppm/℃)=(R125-R25)/R25/(100)×10・・・(B)
なお、抵抗温度係数は0に近いことが望ましく、-100ppm/℃≦抵抗温度係数≦100ppm/℃であることが優れた抵抗体の目安とされている。
(3)静電気負荷試験ESD
静電気負荷試験は、各実施例、比較例において同様にして作製した5個の厚膜抵抗体について、200pFのコンデンサを用いて2kVで1秒間の放電を5回行って、その負荷前後の抵抗体の抵抗値の差分をとって、5個平均することで算出した。
(4)電極と厚膜抵抗体との間の空隙の発生、および電極食われの有無について
以下の実施例、比較例でアルミナ基板および電極上に形成した厚膜抵抗体について、アルミナ基板、厚膜抵抗体、および電極の、隣接する部材の接触界面付近のSEMによる断面画像を撮像した。
【0063】
電極が形成されたアルミナ基板に厚膜抵抗体を形成すると、電極と厚膜抵抗体が重なり電極部分よりも厚い部分が発生する。このため、厚さが変化する部分が界面付近であることが分かる。
【0064】
具体的には例えば、図1図5中、基板11上に形成した電極12および厚膜抵抗体13の上面のうち、ほぼ平坦で、他の部分よりも低い部分に沿って直線L1を引く。また、電極12および厚膜抵抗体13の上面のうち、電極12および厚膜抵抗体13の厚さが大きく変化する部分に沿って直線L2を引く。この場合、直線L1と、直線L2との交点が、上記厚さが変化する部分であり、電極12と厚膜抵抗体13との界面付近となる。
【0065】
そして、厚膜抵抗体13と電極12との界面全体に空隙が存在している場合には空隙が非常に多く生じていることになるので「多」と評価し、その他の場合には空隙がほとんど生じていないため、「少」と評価した。
【0066】
また、上記SEMによる断面画像から、厚膜抵抗体を形成する前と比較して、厚膜抵抗体を形成した後で電極が痩せ、小さくなっていた場合には電極食われが「有り」と評価し、ほとんど変化がない場合には「無し」と評価した。
[実施例1]
エチルセルロースをターピネオールに溶解した有機ビヒクル20質量%と、アルミノホウケイ酸ガラス4質量%と、銀粒子34.2質量%と、第1粒子2.09質量%と、第2粒子39.71質量%とを混合(混合工程)して三本ロールにてペースト化した。
【0067】
なお、アルミノホウケイ酸ガラスとしては、組成がSiO:57.0質量%、Al:14.5質量%、B:6.0質量%、CaO:22.0質量%、MgO:0.5質量%であって、平均粒径が1.5μmであり軟化点が850℃であるものを用いた。また、銀粒子は平均粒径が3μmであった。
【0068】
第1粒子、第2粒子はパラジウム粒子であり、第1粒子は平均粒径が0.1μm、第2粒子は平均粒径が0.3μmであった。パラジウム粒子は、第1粒子と第2粒子とを質量比で第1粒子:第2粒子=5:95の割合で含有しており、パラジウム粒子の第1粒子の含有割合は5質量%になる。
【0069】
なお、平均粒径は既述のように体積平均粒径であり、レーザー光回折散乱式粒度分析計(マイクロトラック・ベル株式会社製、マイクロトラックMT3300EXII)による測定結果から算出した。
【0070】
銀を含む電極が形成されたアルミナ基板に、このペーストを印刷、乾燥、焼成して抵抗体を得た後に、既述の抵抗値、抵抗温度係数、ESD特性を評価し、厚膜抵抗体と電極の接触界面付近を断面加工してSEM像を得た。結果を表1および図1に示す。
[実施例2~実施例4]
第1粒子と、第2粒子との混合割合を変更した点以外は実施例1と同様にして厚膜抵抗体用ペースト、および厚膜抵抗体を作製し、評価を行った。
【0071】
実施例2では、第1粒子と第2粒子とを質量比で10:90の割合で混合し、パラジウム粒子の第1粒子の含有割合は10質量%となる。なお、厚膜抵抗体用ペースト全体では第1粒子を4.18質量%、第2粒子を37.62質量%の割合で含有することになる。
【0072】
実施例3では、第1粒子と第2粒子とを質量比で30:70の割合で混合し、パラジウム粒子の第1粒子の含有割合は30質量%となる。なお、厚膜抵抗体用ペースト全体では第1粒子を12.54質量%、第2粒子を29.26質量%の割合で含有することになる。
【0073】
実施例4では、第1粒子と第2粒子とを質量比で60:40の割合で混合し、パラジウム粒子の第1粒子の含有割合は60質量%含有となる。なお、厚膜抵抗体用ペースト全体では第1粒子を25.08質量%、第2粒子を16.72質量%の割合で含有することになる。
【0074】
評価結果を表1、図2図4に示す。図2図4は順に実施例2~実施例4の厚膜抵抗体と電極の接触界面付近のSEMによる断面画像になる。
[比較例1]
第1粒子と、第2粒子との混合割合を変更した点以外は実施例1と同様にして厚膜抵抗体用ペースト、および厚膜抵抗体を作製し、評価を行った。
【0075】
比較例1ではパラジウム粒子に第1粒子を添加せず、第2粒子のみから構成した。従って、パラジウム粒子の第1粒子の含有割合は0である。なお、厚膜抵抗体用ペースト全体では、第1粒子を0、第2粒子を41.8質量%の割合で含有することになる。
【0076】
評価結果を表1、図5に示す。図5は厚膜抵抗体と電極の接触界面付近のSEMによる断面画像になる。
【0077】
【表1】
表1に示したように、実施例1~実施例4で作製した厚膜抵抗体用ペーストは、比較例1で作製した厚膜抵抗体用ペーストと比較して、電極上に厚膜抵抗体を作製した場合に、電極と厚膜抵抗体との間の空隙の発生を抑制できることを確認できた。
【0078】
このことは、図1図5に示した電極近傍の断面SEM像から確認できる。いずれもアルミナ製の基板11上に電極12が設けられている。そして電極12上に厚膜抵抗体13が形成されている。点線で示した領域Aが電極12と厚膜抵抗体13との界面周辺、すなわち電極と厚膜抵抗体との間の領域となる。図5に示した比較例1の場合、電極12と、厚膜抵抗体13との界面周辺の領域に空隙14が多く形成されていることを確認できる。また、比較例1では、電極12や厚膜抵抗体13と、アルミナ製の基板11との間の点線で示した領域B内についても空隙の発生は確認された。
【0079】
なお、図1図4に示した実施例1~実施例4においても、電極12や厚膜抵抗体13と、アルミナ製の基板11との間の点線で示した領域B内に空隙の発生は確認された。しかし、実施例1~実施例4では、上述のように電極12と厚膜抵抗体13との界面周辺では空隙14の発生を抑制できていることを確認できた。
【0080】
また、実施例1~実施例5で作製した厚膜抵抗体は、抵抗温度係数が、COLD-TCR、HOT-TCRともに絶対値が100ppm/℃以下であることを確認できた。さらに、実施例1~実施例5で作製した厚膜抵抗体は、比較例1で作製した厚膜抵抗体と比較して、ESD特性が良好で負荷前後の抵抗値変化が小さいことを確認できた。
【符号の説明】
【0081】
11 基板
12 電極
13 厚膜抵抗体
14 空隙
A 領域
図1
図2
図3
図4
図5