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特許7574602磁心ユニットと、それを用いたノイズフィルタ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-21
(45)【発行日】2024-10-29
(54)【発明の名称】磁心ユニットと、それを用いたノイズフィルタ
(51)【国際特許分類】
   H01F 27/26 20060101AFI20241022BHJP
   H01F 17/06 20060101ALI20241022BHJP
   H01F 37/00 20060101ALI20241022BHJP
   H03H 7/01 20060101ALI20241022BHJP
【FI】
H01F27/26 160
H01F27/26 130S
H01F27/26 130W
H01F17/06 K
H01F17/06 F
H01F17/06 A
H01F37/00 N
H03H7/01 Z
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020171607
(22)【出願日】2020-10-12
(65)【公開番号】P2022063373
(43)【公開日】2022-04-22
【審査請求日】2023-09-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】株式会社プロテリアル
(72)【発明者】
【氏名】中田 二友
【審査官】井上 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-152549(JP,A)
【文献】実開平07-029814(JP,U)
【文献】特開2019-009040(JP,A)
【文献】特開2017-118491(JP,A)
【文献】特開平08-339932(JP,A)
【文献】特開2000-306742(JP,A)
【文献】特開2018-006460(JP,A)
【文献】特開2004-304064(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 27/26
H01F 17/06
H01F 37/00
H03H 7/01
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のケース部材を組み合わせて構成され、同じ軸線方向に配置された複数の環状空間部を有する樹脂ケースと、前記樹脂ケースの環状空間部のそれぞれに収容される環状磁心とを有し、
前記ケース部材のそれぞれに、前記環状空間部にて前記軸線方向へ突き出る複数の突起部を備え、
前記環状磁心は、Fe基アモルファス合金薄帯又はFe基ナノ結晶合金薄帯を巻回した、内周と外周と対向する端面とを有する巻回体であり、
前記ケース部材の突起部が形成された面と、前記環状磁心の端面とが向かい合うように、前記環状磁心と前記樹脂ケースとが接着固定され、
少なくとも2つの前記環状磁心が並んで配置され、
前記樹脂ケースの前記軸線方向の両端側をハニカム構造部とした、磁心ユニット。
【請求項2】
請求項1に記載の磁心ユニットであって、
前記環状磁心の内周側に貫通孔を有し、
前記貫通孔が、複数のケース部材によって形成された仕切り部で前記軸線方向に仕切られた、磁心ユニット。
【請求項3】
請求項1または2に記載の磁心ユニットであって、
前記樹脂ケースは第1ケース部材と第2ケース部材を含み、
前記第1ケース部材と前記第2ケース部材のそれぞれは、前記軸線方向に切断した断面形状が溝形の開口部を有し、
前記第1ケース部材は、前記軸線方向に開口する1つの溝形の開口部を有し、
前記第2ケース部材は、前記軸線方向に開口するとともに、互いに逆方向に開口する2つの溝形の開口部を有し、
前記第2ケース部材に2つの前記第1ケース部材を組み合わせ、前記第1ケース部材の溝形の開口部と前記第2ケース部材の溝形の開口部とを組み合わせて、2つの環状収容部を構成した、磁心ユニット。
【請求項4】
請求項1からのいずれかに記載の磁心ユニットと、複数のバスバーで構成された、ノイズフィルタ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂ケースで覆われた複数の環状磁心を備えた磁心ユニットと、それを用いたチョークコイル等のノイズフィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
ハイブリッド自動車や電気自動車の車載充電回路と外部電源との間や、交流モータと電力供給回路との間など、100Aを超えるような比較的大きな電流が流れる経路にはバスバー(棒状の厚板銅板)が使用されている。バスバーに流れる電流はノイズの発生源となるため、周辺の電子機器への影響を考慮し、電流経路に磁心を配置し、それにバスバーを通してノイズフィルタを構成することが行われる。このようなノイズフィルタでは、バスバーと磁心、あるいは他の部材との絶縁を図るように、磁心の周囲を樹脂部材で覆った磁心ユニットが用いられる。
【0003】
磁心ユニットの形態は様々だが、特許文献1では円環状の磁心を同軸に重ねたコアケース構造のノイズフィルタを開示している。図17に示すように、上側コアケース510、下側コアケース530、中間コアケース520及び連結部材700からなる樹脂ケースと、樹脂ケースに形成された環状収納部に収容される複数の磁心610,620で構成されている。上側コアケース510と下側コアケース530の内周側にはスリット溝が設けられていて、そこに連結部材700を嵌合して中間コアケース520とともに連結し、環状収納部に磁心610,620を収容したコアケース構造としている。前記環状収納部の深さは磁心610,620の厚さに対応していて、上側コアケース510と下側コアケース530と中間コアケース520とにより磁心610,620を挟持して全体が固定されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-152549号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
比較的大きな電流が流れる経路では、ノイズフィルタに使用される磁心の磁性材料として、フェライトよりも飽和磁束密度が大きい金属系の磁性材料が選択される。例えば、Fe基アモルファス合金やFe基ナノ結晶合金を用いる場合が多い。Fe基アモルファス合金又はFe基ナノ結晶合金の薄帯(以下、合金薄帯と呼ぶ場合がある)を環状に巻回した環状磁心を用いたノイズフィルタは、数kHz~数MHzの幅広い周波数領域で高いインピーダンスが得られ易く、複数の電子制御装置の間でのデータ通信を車載LAN(Local Area Network)により行う車両制御システムが採用された自動車において、ノイズによる車載電子機器の誤動作を防ぐのに好適である。
【0006】
一方でFe基アモルファス合金やFe基ナノ結晶合金の磁性材料は、磁歪が大きく、衝撃や応力に敏感であり、その薄帯は脆いといった特徴がある。そのため、従来のノイズフィルタのように環状収納部の磁心をコアケースで押さえて保持する方法では、保磁力の増加や透磁率の低下といった磁気特性の劣化が生じる場合がある。また押さえる力が不足すると、環状収納部内において磁心が動いて、コアケースとの衝突により磁心自体が破損する恐れがあった。
【0007】
そこで、前記環状収納部を磁心の厚さとほぼ同じか、もしくは厚くなるようにしてコアケースと磁心を接着固定することが行われている。しかしながら、接着により磁心の固定を行う場合も、接着剤の硬化による収縮によって磁心に応力が加わり、程度の差こそあれ磁気特性が劣化する問題が依然として残っている。詳細は後述するが、特に特許文献1で示された従来のノイズフィルタのような複数の磁心を使用する構造では、その問題が顕著となる場合があった。
【0008】
そこで本発明は、接着剤によりケース内での磁心の固定力を得ながら、接着剤硬化時の収縮に起因する応力による磁気特性の低下を抑えることが可能な磁心ユニットと、それを用いたノイズフィルタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
第1の発明は、複数のケース部材を組み合わせて構成され、同じ軸線方向に配置された複数の環状空間部を有する樹脂ケースと、前記樹脂ケースの環状空間部のそれぞれに収容される環状磁心とを有し、 前記ケース部材のそれぞれに、前記環状空間部にて前記軸線方向へ突き出る複数の突起部を備え、前記環状磁心は、Fe基アモルファス合金薄帯又はFe基ナノ結晶合金薄帯を巻回した、内周と外周と対向する端面とを有する巻回体であり、前記ケース部材の突起部が形成された面と、前記環状磁心の端面とが向かい合うように、前記環状磁心と前記樹脂ケースとが接着固定され、少なくとも2つの前記環状磁心が並んで配置された、磁心ユニットである。
【0010】
本発明の磁心ユニットでは、前記環状磁心の内周側に貫通孔を有し、前記貫通孔が、複数のケース部材によって形成された仕切り部で前記軸線方向に仕切られているのが好ましい。
【0011】
本発明の磁心ユニットでは、前記樹脂ケースは第1ケース部材と第2ケース部材を含み、前記第1ケース部材と前記第2ケース部材のそれぞれは、前記軸線方向に切断した断面形状が溝形の開口部を有し、前記第1ケース部材は、前記軸線方向に開口する1つの溝形の開口部を有し、前記第2ケース部材は、前記軸線方向に開口するとともに、互いに逆方向に開口する2つの溝形の開口部を有し、前記第2ケース部材に2つの前記第1ケース部材を組み合わせ、前記第1ケース部材の溝形の開口部と前記第2ケース部材の溝形の開口部とを組み合わせて、2つの環状収容部を構成するのが好ましい。
【0012】
本発明の磁心ユニットでは、前記樹脂ケースの前記軸線方向の両端側をハニカム構造部とするのが好ましい。
【0013】
また第2の発明は、第1の発明の磁心ユニットと、複数のバスバーで構成されたノイズフィルタであって、前記磁心ユニットの貫通孔にバスバーが通された、ノイズフィルタである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、接着剤によりケース内での磁心の固定力を得ながら、接着剤硬化時の収縮に起因する応力による磁気特性の低下を抑えることが可能な磁心ユニットと、それを用いたノイズフィルタを提供することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の一実施形態に係る磁心ユニットの斜視図である。
図2図1に示した磁心ユニットの分解斜視図である。
図3図1に示した磁心ユニットを用いたノイズフィルタの斜視図である。
図4】本発明の一実施形態に係る磁心ユニットに用いる第1ケース部材の正面図である。
図5図4に示した第1ケース部材の下面のb-b’線一部断面図である。
図6図4に示した第1ケース部材の背面図である。
図7図4に示した第1ケース部材の右側面のb-b’線一部断面図である。
図8図7に示した第1ケース部材のA部拡大図である。
図9】本発明の一実施形態に係る磁心ユニットに用いる第2ケース部材の正面図である。
図10図9に示した第2ケース部材の下面のc-c’線一部断面図である。
図11図9に示した第2ケース部材の右側面のc-c’線一部断面図である。
図12図11に示した第2ケース部材のB部拡大図である。
図13】本発明の一実施形態に係る磁心ユニットに用いる環状磁心の斜視図である。
図14】本発明の一実施形態に係る磁心ユニットの正面図である。
図15図14に示した磁心ユニットの下面のa-a’線一部断面図である。
図16図14に示した磁心ユニットの右側面のa-a’線一部断面図である。
図17】従来のノイズフィルタの分解斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。ただし、本発明はこれに限定されるものではない。なお、本明細書では構造の説明において相対的な位置関係として、図面を参照して一方の方向を上側、その逆方向を下側として説明する場合があるが、それは図面間で共通の位置関係や方向を示すものではない。また、図の一部又は全部において、説明に不要な構造部分は省略し、また説明を容易にするために拡大等して図示した部分がある。説明において示される形状等は、特に断わりのない限りは、それらの説明、図面等のみに限定されない。さらに説明においては、同一の名称、符号については同一又は同質の部材を示していて、図示していても詳細説明を省略する場合がある。
【0017】
図1は磁心ユニットの一実施形態を示す斜視図であり、図2はその分解斜視図である。図示するように、本実施形態の磁心ユニット1は、側面にz軸方向に対向する平面と、x軸方向に対向する曲面を備えた長円(オーバル)柱形となっている。このような形状とすることで、磁心ユニット1の平面をxy面と対面するように配置することで、z軸方向に低背なノイズフィルタとすることが出来る。磁心ユニット1のy軸方向に2つの第1ケース部材10が並び、前記第1ケース部材10の間には第2ケース部材20が配置されている。第1ケース部材10と第2ケース部材20のそれぞれは、樹脂材料で射出成形法などの公知の方法で形成されている。図示した例では、磁心ユニット1の両端側に位置する第1ケース部材10は同一の構造としているが異なっていても良い。
【0018】
前記第2ケース部材20のy軸方向の両側には環状磁心5が配置されている。詳細は後述するが、環状磁心5は、第1ケース部材10と第2ケース部材20とを組み合わせて形成される環状空間部に収容され、それぞれ第1ケース部材10及び第2ケース部材20と接着剤によって接着固定される。第1ケース部材10及び第2ケース部材20は、環状空間部にて内側に突き出る突起部を備える構造としている。
【0019】
環状磁心5を構成する合金薄帯は、幅広で作成されたものほどうねりが大きくて、そのような合金薄帯を使用した磁心の占積率は低下し易い傾向がある。占積率の低下はノイズフィルタのインピーダンス特性に影響を与えることが知られている。そこで本実施形態の磁心ユニットでは、幅広の合金薄帯を切断して得られたうねりが小さい合金薄帯を使用した複数の環状磁心5を使用することで、磁路断面積を確保するとともに磁心の占積率の低下を防ぎ、所定の周波数で高いインピーダンスが得られない等の、ノイズフィルタの特性劣化を防いでいる。
【0020】
各部材を組み合わせて構成された磁心ユニット1では、第1ケース部材10及び第2ケース部材20により環状空間部が閉じられ、外観上、環状空間部に収容される環状磁心5は表面に現れない。磁心ユニット1のy軸方向の両端は、第1ケース部材10に形成された複数の有底孔111、112による孔列の集合体として構成されたハニカム構造部110となっている。ここでハニカム構造における孔形状は六角形状に限らない。また磁心ユニット1は、環状磁心5の内周側に仕切り部141で仕切られたバスバーを通す2つの貫通孔131、132が形成されている。
【0021】
図3は本発明の一実施形態のノイズフィルタの外観斜視図である。ノイズフィルタは磁心ユニット1とバスバー101、102とを含む。バスバー101、102はそれぞれ磁心ユニット1の仕切り部141により仕切られた貫通孔131、132内を、面方向が同じとなるように通されている。磁心ユニット1の貫通孔131、132により、バスバー101、102を容易に位置決めして配置することが出来る。またバスバー101、102間の空間距離は仕切り部141によって確定されるので、電気的絶縁を容易に確保することが出来る。また、環状磁心5は第1ケース部材10及び第2ケース部材20によって閉じられた環状空間部に配置されるので、バスバー101、102と環状磁心5との電気的絶縁の確保も容易である。
【0022】
図示したノイズフィルタでは、バスバー101、102の両端が等間隔に並んで直線状に伸びている。バスバー101、102の形態はそれに限定されず、磁心ユニット1の貫通孔131、132を通過可能であれば種々の形態に変形可能である。例えば、バスバー101、102の端部を曲げても良く、例えばL字状に形成して、磁心ユニット1の少なくとも一方端側でバスバー101、102の間隔が広がるようにしても良い。
【0023】
ノイズフィルタが配置される空間は限定される場合が多くて、常にノイズフィルタを小型に構成する要求がある。ノイズフィルタを小型に構成しようとすると、磁心ユニット1とバスバー101、102とが自ずと近接する。バスバー101、102に通電され大電流が流れると、バスバーは抵抗による銅損のため発熱し高温となるため、バスバー101、102と近接する磁心ユニット1も高温となり易くなる。
磁心ユニット1が著しく高温になれば第1ケース部材10及び第2ケース部材20が熱損傷する場合がある。また各ケース部材10、20、環状磁心5、そしてそれらを固定する接着剤では線膨張係数に差があり、温度変化にともない線膨張係数差による寸法変化で、環状磁心5に加わる応力が変化して磁気特性が劣化する場合がある。更に環状磁心5の接着固定が解かれて、環状磁心5が環状空間部内で脱落する場合もある。このような問題に対して本実施形態の磁心ユニット1は、端部をハニカム構造部として表面積を大きくし、放熱性が高めている。それによって温度上昇を抑制することが出来て、ケース部材の損傷や磁気特性の劣化を防ぐことが出来る。
【0024】
図1及び図2に示すように、本実施形態の磁心ユニットは、第1ケース部材と第2ケース部材の2種類のケース部材と環状磁心で構成される。それぞれの構造や材質について詳細に説明する。
【0025】
(第1ケース部材の構造)
図4は第1ケース部材の正面図であり、図5はその下面のb-b’線一部断面図であり、図6はその背面図であり、図7はその右側面のb-b’線一部断面図であり、図8は第1ケース部材に設けられた突起部の部分拡大図である。
第1ケース部材10には、その中央に設けられた仕切り部51を介して並んだ2つの貫通孔55、56が形成されている。貫通孔55、56の形状はバスバーを通すのに阻害なければ特に限定はされないが、バスバー101、102の断面は矩形であるので、図示した例では、一方の円弧部が切られた片円弧の長円形となっている。
【0026】
第1ケース部材10を上面側から見ると、貫通孔55、56の周囲に環状底板部53が現れる。その内側縁部と外側縁部には、図4及び図5に示すように、上方に向かって同心状に延びる内側筒状壁及び外側筒状壁を有していて、上端側は開口している。前記内側筒状壁は第1ケース部材10の内側壁部81の一部を構成し、前記外側筒状壁は外側壁部91の一部を構成している。内側壁部81(内側筒状壁)、外側壁部91(外側筒状壁)及び環状底板部53とで有底環状空間63(開口部)が形成される。図5図7に示すように、有底環状空間63は、貫通孔55、56の貫通方向に切断した断面にて現れる断面形状が溝形となっている。その深さは環状磁心5の厚み(高さ)に応じて設定され、少なくとも環状磁心5の高さ方向の一部を収容可能としている。図示した例では、仕切り部51の上端は内側壁部81や外側壁部91と同じ高さで、平坦に形成されているが、異なる高さとしても良い。
【0027】
また有底環状空間63の環状底板部53には、開口側に向かって突出した複数の突起部71が設けられている。前記突起部71により、有底環状空間63に収容される環状磁心の端面8が環状底板部53の一面と直接当接することなく、少なくとも突起部71の高さ分の間隔をもって対向させることが出来る。突起部71の形状は、円形、多角形等、特に限定は無い。図4図8に示した例では、突起部71は上端側が平坦である円板状であるが、環状磁心5の端面8と接する面積を少なくするのであれば半球形状や切頭錐体形状として先細りに形成しても良い。また上面側から見える形状をリング状や、複数に分割された形態としても良い。図示した例では4か所の位置に軸対称で突起部71を設けているが、少なくとも2か所以上で、環状磁心を安定して配置可能な位置に所定の間隔をもって形成すれば良い。
【0028】
第1ケース部材10の下面側にはハニカム構造部110が形成されている。ハニカム構造部110は有底環状空間63の下部であって、貫通孔55、56の周囲に多層に設けられた複数の有底孔111、112を含んでいる。有底孔111、112の形状は特に限定されるものではない。貫通孔55、56と隣り合う有底孔111と、それを囲う有底孔112は、内側壁部81や外側壁部91と繋がる放射状の壁部や、有底孔111、112の間に設けられた壁部により区画されていて、それにより表面積を増加させるとともに強度を確保している。
【0029】
(第2ケース部材の構造)
図9は第2ケース部材の正面図であり、図10はその下面のc-c’線一部断面図であり、図11はその右側面のc-c’線一部断面図であり、図12は第2ケース部材に設けられた突起部の部分拡大図である。第2ケース部材の背面は正面図と同様に現れるので省略する。
第2ケース部材20には、その中央に設けられた仕切り部52を介して並んだ2つの貫通孔57、58が形成されている。貫通孔57、58の形態は第1ケース部材10の貫通孔55、56と同様であり、バスバーを通すのに阻害なければ形状等に限定はない。
【0030】
第2ケース部材20を上面側から見ると、貫通孔57、58の周囲に環状底板部54が現れる。その内側縁部と外側縁部には、図10に示すように、上方に向かって同心状に延びる内側筒状壁及び外側筒状壁とを有していて、上端側は開口している。前記内側筒状壁は第2ケース部材20の内側壁部82の一部を構成し、前記外側筒状壁は外側壁部92の一部を構成している。内側壁部82(内側筒状壁)、外側壁部92(外側筒状壁)及び環状底板部53とで有底環状空間64(開口部)が形成される。図10図11に示すように、有底環状空間64は貫通孔57、58の貫通方向の断面にて断面形状が溝形となっている。その深さは環状磁心5の厚み(高さ)に応じて設定されていて、少なくとも環状磁心5の高さ方向の一部を収容可能としている。図示した例では環状磁心の高さとほぼ同じ深さとしている。
【0031】
内側壁部82と外側壁部92の上端側に全周にわたって段差32が設けられ、第1ケース部材10の内側壁部82と外側壁部92の上端側を受ける形状となっている。図示した例では、仕切り部52の上端は内側壁部82や外側壁部92よりも低い位置にあって、平坦に形成され、段差32の下端と同じ高さとなっている。なお第1ケース部材10の構造にあわせて段差32の下端とは異なる位置としても良い。
【0032】
図11及び図12に示すように、有底環状空間64の環状底板部54には、開口側に向かって突出した突起部72が複数設けられている。前記突起部72により、有底環状空間64に収容される環状磁心の端面8が環状底板部54と直接当接することなく、少なくとも突起部72の高さ分の間隔をもって対向させることが出来る。突起部72の形態は第1ケース部材10の突起部71と同様である。なお形成数や位置、寸法等について、突起部71と同じとしても良いし異ならせても良い。
【0033】
図示しないが、第2ケース部材20の背面は、正面側から見た場合と同様に、貫通孔57、58の周囲に環状底板部54が現れる。背面側から見た構造は、正面側と同様なので説明は省略する。第2ケース部材20は、貫通孔57、58の貫通方向にて逆方向に開口する2つの溝形の有底環状空間64を有して、有底環状空間64は仕切壁59を介して同じ方向に並列に形成された構造となっている。射出成形で形成された第2ケース部材20では、有底環状空間64側で内側壁に0.5~2°程度の抜き勾配が設けられる。それによって、有底環状空間64は開口側で広く環状底板部54側で狭くなり、深さが深くなる程にその差は大きくなって、第2ケース部材20の外形は大きくなり易い。本実施形態の磁心ユニットでは、第2ケース部材20の有底環状空間64を複数として、夫々の深さを浅くしている。それにより抜き勾配による外形寸法への影響を低減するとともに、有底環状空間64において環状磁心5を収容するのに有効な体積比率を増すことが出来る。
【0034】
第1ケース部材10や第2ケース部材20は、優れた絶縁性、耐熱性、及び成形性を有する樹脂により形成するのが好ましく、具体的にはポリフェニレンサルファイド、液晶ポリマー、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ナイロン66等が好ましい。
【0035】
(環状磁心)
図13は、環状磁心の外観を示す斜視図である。Fe基アモルファス合金薄帯又はFe基ナノ結晶合金薄帯を巻回した、内周面6と外周面7と対向する端面8を有する巻回体であり、環状磁心5の端面8は薄帯が積み重なって現れた積層面となっている。Fe基アモルファス合金薄帯として、1.4 T以上の飽和磁束密度Bsを有するのが好ましい。例えば、Metglas(登録商標)2605SA1材に代表されるFe-Si-B系等のFe基アモルファス合金薄帯を用いることができる。さらに他の元素を含むFe-Si-B-C系、Fe-Si-B-C-Cr系等の組成を採用することもできる。Feの一部をCo、Ni等で置換してもよい。本発明の実施形態に用いるFe基アモルファス合金薄帯の合金組成の一例としては、FeSi(但し、MはCr、Mo、Mn、Zr及びHfからなる群から選ばれた少なくとも1種の元素であり、原子%で、50≦a≦90、2≦b≦15、5≦c≦30、0≦d≦3、0≦e≦10、a+b+c+d+e=100)で表されるものが好ましい。合金組成はこれを特に限定するものではなく、必要とされる特性に応じて選定することができる。
【0036】
Fe基ナノ結晶合金薄帯は、1.2T以上の飽和磁束密度Bsを有するものが好ましい。具体的には、例えば、Fe-Si-B-Cu-Nb系、Fe-Cu-Si-B系、Fe-Cu-B系、Fe-Ni-Cu-Si-B系等のFe基ナノ結晶合金用のアモルファス合金薄帯を用いることができる。これらの元素の一部を置換した合金、及び他の元素を添加した合金を用いてもよい。本発明の実施形態に用いる合金組成の一例としては、Fe100-x-y(ただし、AはCu及び/又はAu、XはB、Si、S、C、P、Al、Ge、B、Sn、Nb、Mo及びCrからなる群から選ばれた少なくとも一種類の元素)で表され、原子%で、0<x≦5、10≦y≦24により表されるものが好ましい。またFeの一部をNiやCoで置換しても良く、その置換量は原子%で5以下であるのが好ましい。なおナノ結晶とは、粒径が100nm以下の微結晶組織である。
【0037】
(磁心ユニット)
図14は第1ケース部材と第2ケース部材を組み合わせた状態を示す正面図であり、図15はその下面のa-a’線一部断面図であり、図16はその右側面のa-a’線一部断面図である。なお図14に示した構成は、図6で示した第1ケース部材10の背面と同様なので説明を省略する。また環状磁心も各図から省略していて、各部材の位置関係等は、図1図2等も参考にしながら説明する。
【0038】
図15に示すように、第2ケース部材20を中央に、第1ケース部材10をその上下に位置するように組み合わせる。第2ケース部材20の段差32に、第1ケース部材10の内側筒状壁と外側筒状壁を嵌入するので、磁心ユニット1の内周151や外周152を実質的に段差なく形成することが出来る。
【0039】
第1ケース部材10と第2ケース部材20を組み合わせると、貫通孔55、57と貫通孔56、58が連通して、磁心ユニット1の貫通孔131,132を構成する。また第1ケース部材10の仕切り部51と第2ケース部材20の仕切り部52とが繋がって、磁心ユニット1の仕切り部141を構成する。また各ケース部材の有底環状空間63と有底環状空間64により同じ軸線方向に並んだ複数の環状空間部161が形成され、それぞれには、図2に示すように環状磁心5が配置される。
【0040】
環状磁心5の端部8と対向するように、環状空間部161には突起部71、72が突き出ている。第1ケース部材10と第2ケース部材20を組み合わせた状態で、突起部71、72の上端で決まる間隔wは環状磁心5の高さhよりも広く(w>h)、環状磁心5を押さえ付けないようにしている。また組み立て時においては、突起部71、72により環状空間部161内での環状磁心5の移動を制限するが、突起部71、72の間隔wを環状磁心5の高さhに対して+0.5mm(0<w-h≦0.5)を上限とすれば、環状磁心5の移動量を一層制限することができて好ましい。
【0041】
(磁心ユニットの作製方法)
次に磁心ユニット1の作製方法の一例を説明する。まず第2ケース部材20を、その有底環状空間64が上下に現れるように縦置きする。次いで、その環状底板部54の面上に所定量の接着剤を塗布した後、環状磁心5を有底環状空間64に収納する。更に、環状磁心5を上方から覆うように、所定量の接着剤が環状底板部53に塗布された第1ケース部材10を組み合わせる(第1の工程)。続けて、組み立て途中の磁心ユニットの天地を逆転させ、第2ケース部材20のもう一方の環状底板部54に所定量の接着剤を塗布した後、もう一つの環状磁心5を有底環状空間64に収納する。そして環状磁心5を上方から覆うように、所定量の接着剤が環状底板部53に塗布されたもう一つの第1ケース部材10を組み合わせる(第2の工程)。次いで接着剤を硬化して、各ケース部材10、20と環状磁心5とを接着固定し(第3の工程)、磁心ユニット1を完成する。接着剤は各部材を接着出来れば特に限定されないが、熱硬化性接着剤を使用することが出来、その中でも垂直面でもたれ難い粘度をもったシリコン接着剤やエポキシ系接着剤等が好ましい。
【0042】
組み立て途中の段階では接着剤が未硬化であるため、環状磁心5は容易に移動できて、縦置き状態では自重により環状空間部161内で沈み込む。例えば、第2の工程が終わった状態では、上方の環状空間部161内の環状磁心5は、第2ケース部材20の環状底板部54側に片寄り、下方の環状空間部161内の環状磁心5は、第1ケース部材10の環状底板部53側に片寄る場合ある。環状空間部161に突き出る突起部71、72を設けない場合、環状磁心5の端面8の一方は、環状底板部53や環状底板部54の一面と当接し、介在する接着剤が環状磁心5の端面8に薄くぬれ広がった状態となり易い。他方の端面8側では環状底板部53や環状底板部54との間隔が広がって、接着面積が不十分となり易い。このような状態では、接着剤を硬化した後、環状磁心5は接着剤の硬化時の収縮に起因した応力の影響を受け易く、磁気特性が劣化したり、接着が不十分で固定力が確実に得られなかったりする場合がある。
【0043】
一方、環状空間部161内に突き出る突起部71、72を設けることで、組み立て時に環状空間部161内での環状磁心5が片寄っても、環状磁心5の端面8と環状底板部53や環状底板部54との間に空間が確保され、環状磁心5の端面8が環状底板部53や環状底板部54と当接することが無い。塗布された接着剤は前記空間に溜まるので、突起部71、72間で環状磁心5の移動があっても、接着剤が無用に環状磁心5の端面8にぬれ広がるのを防ぐことが出来る。また突起部71、72間で環状磁心5の移動量を制限することで、環状磁心5の端面8の接着面積が不足するのを防ぐことが出来る。それによって環状磁心5と各ケース部材10、20間での固定力を確実に得ながら、接着剤硬化時の収縮に起因した応力による磁気特性の低下を抑えることができる。
【0044】
また、環状磁心5の移動量を制限し、接着後に環状磁心5の固定が解かれてしまった場合でも環状磁心5に与えられる移動エネルギーを少なくすることで、環状磁心5が環状空間部161内のケース内壁と衝突して破損するのを防ぐことが出来る。
【符号の説明】
【0045】
1 磁心ユニット
5 環状磁心
10 第1ケース部材
20 第2ケース部材
71、72 突起部
161 環状空間部
101、102 バスバー

図1
図2
図3
図4
図5
図6
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図9
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図12
図13
図14
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図16
図17