(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-21
(45)【発行日】2024-10-29
(54)【発明の名称】銅合金線、めっき線、電線、およびケーブル
(51)【国際特許分類】
C22C 9/00 20060101AFI20241022BHJP
C22F 1/08 20060101ALN20241022BHJP
C22F 1/00 20060101ALN20241022BHJP
【FI】
C22C9/00
C22F1/08 C
C22F1/00 613
C22F1/00 625
C22F1/00 627
C22F1/00 630A
C22F1/00 661A
C22F1/00 675
C22F1/00 681
C22F1/00 682
C22F1/00 683
C22F1/00 685Z
C22F1/00 686B
C22F1/00 691B
(21)【出願番号】P 2020205438
(22)【出願日】2020-12-11
【審査請求日】2023-07-14
(31)【優先権主張番号】P 2020018774
(32)【優先日】2020-02-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】株式会社プロテリアル
(72)【発明者】
【氏名】黒田 洋光
(72)【発明者】
【氏名】早坂 孝
(72)【発明者】
【氏名】黄 得天
(72)【発明者】
【氏名】岡田 良平
(72)【発明者】
【氏名】櫻井 保
【審査官】河野 一夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-363668(JP,A)
【文献】特開2010-018848(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0283159(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 9/00
C22F 1/08
C22F 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅合金によって構成される銅合金線であって、
前記銅合金は、0.3質量%以上0.45質量%以下のインジウム
と、0.02質量%以上0.1質量%未満の錫を含有し、前記インジウムおよび前記錫の合計の含有率が0.45質量%以下であり、残部が銅及び不可避的不純物から成る組成を有し、
引張強さが、800MPa以上であり、
導電率は、80%IACS以上である、銅合金線。
【請求項2】
銅合金線から成る導体と、
前記導体の周囲を被覆する絶縁体と、を備え、
前記銅合金線は、0.3質量%以上0.45質量%以下のインジウム
と、0.02質量%以上0.1質量%未満の錫を含有し、前記インジウムおよび前記錫の合計の含有率が0.45質量%以下であり、残部が銅及び不可避的不純物から成る組成を有する銅合金によって構成され、
前記銅合金線の引張強さが、800MPa以上であり、
前記銅合金線の導電率が、80%IACS以上である、電線。
【請求項3】
請求項
2に記載の電線において、
前記導体は、複数本の前記銅合金線を撚り合わせしたものから成る、電線。
【請求項4】
銅合金線から成る導体、および前記導体の周囲を被覆する絶縁体を備えた複数本の芯線と、
前記複数本の芯線の周囲を一括して被覆するシースと、
を有するケーブルであって、
前記銅合金線は、0.3質量%以上0.45質量%以下のインジウム
と、0.02質量%以上0.1質量%未満の錫を含有し、前記インジウムおよび前記錫の合計の含有率が0.45質量%以下であり、残部が銅及び不可避的不純物から成る組成を有する銅合金によって構成され、
前記銅合金線の引張強さが、800MPa以上であり、
前記銅合金線の導電率が、80%IACS以上である、ケーブル。
【請求項5】
銅合金線と、前記銅合金線の周囲に設けられためっき層と、を備え、
前記銅合金線は、0.3質量%以上0.45質量%以下のインジウム
と、0.02質量%以上0.1質量%未満の錫を含有し、前記インジウムおよび前記錫の合計の含有率が0.45質量%以下であり、残部が銅及び不可避的不純物から成る組成を有する銅合金によって構成され、
引張強さが750MPa以上、導電率が78%IACS以上、伸びが3%以下である、めっき線。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銅合金線、めっき線、これを用いた電線、およびケーブル、に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1(特開平5-311285号公報)には、Cuの他、InおよびSnを含む銅合金線が記載されている。特許文献2(特開2014-159609号公報)には、伸線前の銅合金体として、Ag、In、Mg及びSnからなる群より選択される少なくとも1種の元素を0.01原子%以上含有する銅合金体が記載されている。特許文献3(国際公開第2014/007259号)には、銅合金材の製造工程において、複数の冷間加工の間に、中間熱処理を行うことが記載されている。特許文献4(特開2015-4118号公報)には、引抜銅線の製造工程において、引抜加工後に焼鈍し、その後、仕上引抜加工を行うことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平5-311285号公報
【文献】特開2014-159609号公報
【文献】国際公開第2014/007259号
【文献】特開2015-4118号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
銅合金から成る金属線は、様々な用途に用いられる。例えば、電子機器の配線部品で利用される導体やケーブルを構成する金属線において細線化の需要がある。このような用途では、細線化された金属線の強度向上、および導電率の向上が要求される。
【0005】
本発明の目的は、金属線の強度向上および導電率向上を両立させる技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
一実施の形態である銅合金線は、銅合金によって構成される銅合金線であって、前記銅合金は、0.3質量%以上0.45質量%以下のインジウムを含有する。前記銅合金線の引張強さが800MPa以上であり、導電率は、80%IACS以上である。
【0007】
例えば、前記銅合金は、0.02質量%以上0.1質量%未満の錫を含有し、前記インジウムおよび前記錫の合計の含有率は、0.45質量%以下である。
【0008】
他の実施の形態である電線は、銅合金線から成る導体と、前記導体の周囲を被覆する絶縁体と、を備える。前記銅合金線は、0.3質量%以上0.45質量%以下のインジウムを含有する銅合金によって構成される。前記銅合金線の引張強さが、800MPa以上であり、前記銅合金線の導電率が、80%IACS以上である。
【0009】
例えば、前記電線における前記銅合金は、0.02質量%以上0.1質量%未満の錫を含有し、前記インジウムおよび前記錫の合計の含有率は、0.45質量%以下である。
【0010】
例えば、前記導体は、複数本の前記銅合金線を撚り合わせしたものから成る。
【0011】
他の実施の形態であるめっき線は、銅合金線と、前記銅合金線の周囲に設けられためっき層と、を備え、前記銅合金線は、0.3質量%以上0.45質量%以下のインジウムを含有する銅合金によって構成され、引張強さが750MPa以上、導電率が78%IACS以上、伸びが3%以下である。
【0012】
他の実施の形態であるケーブルは、銅合金線から成る導体、および前記導体の周囲を被覆する絶縁体を備えた複数本の芯線と、前記複数本の芯線の周囲を一括して被覆するシースと、を有する。前記銅合金線は、0.3質量%以上0.45質量%以下のインジウムを含有する銅合金によって構成される。前記銅合金線の引張強さは、800MPa以上であり、前記銅合金線の導電率は、80%IACS以上である。
【0013】
例えば、前記ケーブルにおける前記銅合金は、0.02質量%以上0.1質量%未満の錫を含有し、前記インジウムおよび前記錫の合計の含有率は、0.45質量%以下である。
【発明の効果】
【0014】
本発明の代表的な実施の形態によれば、金属線の強度向上および導電率向上を両立させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】一実施の形態である金属線の斜視断面図である。
【
図2】
図1に示す金属線の製造工程の一例を示すフロー図である。
【
図3】
図1に示す金属線を含むケーブルの断面図である。
【
図4】
図3に示すケーブルが有する複数の電線のうちの1本の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、本発明の実施の形態について、図面を参照しつつ説明する。以下の説明では、線径(外径)が100μm以下の銅合金からなる金属線を銅合金線と呼ぶ。また、銅合金線に伸線加工される前のものを荒引き線と呼ぶ。また、銅合金線の周囲にめっき層を有するものをめっき線と呼ぶ。
【0017】
また、以下の説明において、導電率の評価指標として、「IACS(International Annealed Copper Standard)」という指標を用いる。IACSを用いた導電率は、焼鈍標準軟銅(体積抵抗率:1.7241×10-2μΩm)の導電率を、100%IACSと規定し、この焼鈍標準軟銅の導電率に対する割合を「○○%IACS」と記載する。以下で説明する導電率は、日本工業規格(JIS C 3002:1992)に規定される電気用銅線の試験方法に則って試験片の電気抵抗および直径を測定し、測定結果に基づいて算出される。
【0018】
また、以下の説明において、金属線の「引張強さ」および「伸び」について説明する場合、日本工業規格(JIS C 3002:1992)に規定される電気用銅線の試験方法に則って試験片の引張試験を行い、その測定結果から算出される値を、「引張強さ」および「伸び」とする。
【0019】
<金属線の構造>
図1は、本実施の形態の金属線の斜視断面図である。
図1に示す銅合金線10は、銅合金11によって構成される銅合金線であって、銅合金11は、0.3質量%以上、かつ、0.45質量%以下のインジウム(In)を含有する。銅合金11は、その残部に不可避的不純物が含まれている。また、銅合金線10の引張強さは、800MPa以上(好ましくは、800MPa以上900MPa以下)であり、銅合金線10の導電率は、80%IACS以上(好ましくは、80%IACS以上85%IACS以下)である。
【0020】
銅合金11に含まれる不可避的不純物としては、例えばアルミニウム(Al)、珪素(Si)、リン(P)、硫黄(S)、クロム(Cr)、鉄(Fe)、ニッケル(Ni)、ヒ素(As)、セレン(Se)、銀(Ag)、アンチモン(Sb)、鉛(Pb)、あるいはビスマス(Bi)などが挙げられる。銅合金11に含まれる不可避的不純物は、例えば20質量ppm以上30質量ppm以下の範囲で含有する。
【0021】
上記した銅合金11を有する銅合金線10は、引張強さおよび導電率のそれぞれを、高い水準で両立させることができる。詳細は実施例として後述するが、本願発明者が確認した結果、0.3質量%以上、かつ、0.45質量%以下のインジウム(In)を含有し、残部が銅(Cu)および不可避的不純物からなる銅合金11を有する銅合金線10は、80%IACS以上の導電率を備える。また、銅合金線10の引張強さは、872MPa以上であった。銅合金線10の引張強さの値は、製造条件によりバラつく場合があるが、製造条件によるバラつきを考慮しても、少なくとも800MPa以上の値は得られる。
【0022】
電気を伝送する導電線(以下、単に電線と記載する)は、電力の伝送路、あるいは電気信号の伝送路を構成する部材であって、様々な分野に広く利用される。電線における導体には、様々な種類の純金属、合金、あるいは複合材などの導電性材料が使用される。本実施の形態では、電線における導体として、高い導電性を有する銅合金11で構成される銅合金線10を取り上げて説明する。
【0023】
電線における導体として利用される銅線は、上記したように様々な分野に利用されるが、利用される分野によっては、線径が細い銅線が求められる場合がある。例えば、携帯用端末などの電子機器では、その内部配線部品として、銅線からなる導体を備えた電線が使用される。この場合、1本の銅線の線径は、100μm以下のサイズが要求される場合がある。また、医療分野で利用されるプローブケーブルの場合、患者の体内に挿入される用途で利用される場合もあり、更に細い線径の銅線が要求される。本実施の形態では、極細線の一例として、80μmの線径10Dを備える銅合金線10を取り上げて説明する。
【0024】
銅合金11から構成される銅合金線10の引張強さは、銅合金11にひずみを生じさせることにより向上させることができる。銅合金11にひずみを生じさせる方法としては、銅合金11に含まれる銅以外の金属元素の含有率を高くする方法、および、伸線加工などを施す方法である。ところが、これらの方法により、銅合金線10にひずみを生じさせると、導電性部材としての銅合金11の抵抗率が上昇するため、銅合金線10の導電率が低下する。つまり、銅合金線10の引張強さを大きくすること、および銅合金線10の導電率を大きくすることは、トレードオフの関係になっている。
【0025】
そこで、本願発明者は、固溶強化型の銅合金11において、導電率および引張強さの特性を向上させる構成を見出すため、複数種類の金属元素について、銅合金11内に固溶化させた時に、銅合金11の導電率低下に与える影響、および引張強さの強化に寄与する程度に着目した。すなわち、銅合金線10の引張強さの強化への寄与の程度については、金属元素の種類により違いがあり、かつ銅に固溶される元素の含有率が大きくなれば、これに比例して引張強さが大きくなる。錫(Sn)およびインジウム(In)は、アルミニウム(Al)、ニッケル(Ni)、あるいはマグネシウム(Mg)などの金属と比較すると、銅に固溶させた時に、引張強さを大きくする影響が大きいため、有効な添加元素である。
【0026】
一方、導電率の低下に与える影響については、金属元素の種類によって、影響の程度が大きく異なる。詳しくは、銀(Ag)、インジウム(In)、あるいはマグネシウム(Mg)の場合、ニッケル(Ni)、錫(Sn)、アルミニウム(Al)などの金属と比較して、銅に固溶される濃度が大きくなっても、導電率の低下を抑制することができる。例えば、無酸素銅に固溶される上記金属元素の濃度(質量濃度)が、900ppmである場合で比較すると、錫(Sn)の場合、純銅の導電率を100%(百分率)としたときに対して、92%程度まで低下するが、インジウム(In)の場合、98%程度までの低下で済む。また、銀(Ag)の場合、純銅の導電率を100%(百分率)としたときに対して99%程度までの低下で済む。
【0027】
上記した特性から、銅にインジウムを固溶させることにより得られる銅合金11は、導電率および引張強さの特性を高い水準で備えている。なお、銅に銀(Ag)を固溶させた銅合金の場合、本実施の形態の銅合金線10よりもさらに高い導電率が得られる。ただし、同じ濃度の場合、銀はインジウムと比べて引張強さを大きくする効果が小さいため、銀の含有量を増加させると、銅合金線10の原料コストが増大するので、インジウムを固溶させることが好ましい。
【0028】
また、銅合金11の引張強さを向上させるため、銅合金に含まれる酸素の含有率は少ないことが好ましい。本実施の形態の場合、銅合金11に含まれる酸素は、0.002質量%以下である。銅合金11に含まれる酸素が0.002質量%以下であれば、酸素に起因して銅合金11の引張強さが低下することを抑制できる。
【0029】
図1に示す銅合金線10の変形例として、銅合金11が、0.3質量%以上、かつ、0.43質量%より少ないインジウム(In)と、0.02質量%以上、かつ、0.1質量%未満の錫(Sn)と、を含有し、残部が銅(Cu)および不可避的不純物からなる場合がある。ただし、銅合金11に含まれるインジウムおよび錫の合計の含有率は、0.45質量%以下である。
【0030】
銅合金線10の変形例の場合、銅合金11が固溶化された錫を含んでいるため、上記した錫を含まない銅合金線10と比較すると、導電率は相対的に低い。ただし、錫の含有率を0.1質量%未満とし、かつ、0.3質量%以上のインジウムを含有させることにより、80%IACS以上の導電率を維持することができる。ただし、銅合金11に含まれるインジウムおよび錫の合計の含有率は、0.45質量%以下であることが望ましい。後述する実験結果によれば、上記した条件の範囲内であれば、銅合金線10の変形例の引張強さは、872MPa以上であった。このように、銅合金線10の変形例の場合、錫を固溶化させることにより、80%IACS以上の導電率を維持しつつ、かつ、銅合金線10の原料コストを低減させることができる。
【0031】
<金属線の製造方法>
次に、
図1に示す銅合金線10の製造方法について説明する。上記した銅合金線10は、銅合金中に錫を含有する場合と含有しない場合とがあるが、製造方法は、同様である。
図2は、
図1に示す金属線の製造工程の一例を示すフロー図である。
【0032】
以下では、金属線の製造方法として、連続鋳造圧延法により、線径がある程度の太さ(例えば8mm~12mm程度)の荒引き線を製造した後、荒引き線に伸線加工を施すことにより金属線を製造する方法を取り上げて説明する。連続鋳造圧延法は、例えば、SCR方式(Southwire Continuous Rod system)と呼ばれる連続鋳造圧延法を用いることができる。
【0033】
まず、
図2に示す原料準備工程として、原料を準備する。原料は銅を主成分とする金属である。原料は、銅の他、上記したように、不可避的に混入された不純物元素を含んでいる場合がある。また、原料には、インジウムを含む添加元素が含まれる。また、
図1に示す銅合金線10の変形例として説明した金属線の製造方法では、添加元素は、インジウムおよび錫である。これらの添加元素は、上記した含有率の条件を満たす範囲内で、銅を主成分とする原料に添加される。
【0034】
次に、
図2に示す溶解工程として、図示しない溶解炉内で原料を溶解させる。溶解炉は、原料を連続的に溶解させることが可能な加熱炉であって、溶解炉内で溶解した溶銅は、図示しない保温炉に順次移動する。
【0035】
次に、
図2に示す鋳造工程として、保温炉内の溶銅を図示しない鋳型に流し込んだ後、冷却することで凝固させる。凝固した鋳造物は、鋳型から取り外され、圧延装置に順次送り出される。
図2に示す溶解工程から鋳造工程までは、不活性ガス雰囲気中(例えば窒素雰囲気中)で実施される。不活性ガス雰囲気中には酸素は殆ど存在せず、少なくとも、酸素濃度(体積濃度)は、10ppm以下である。このように、酸素濃度が極めて低い不活性ガス雰囲気中で荒引き線の製造を行うことで、鋳造工程中における銅への酸素の含有を抑制できる。
【0036】
次に、
図2に示す圧延工程として、鋳造物を圧延し、線径が8mm~12mm程度の荒引き線を形成する。圧延工程では、複数回に分けて圧延処理を行う場合がある。なお、鋳造工程で得られた鋳造物を、そのまま荒引き線として用いる場合には、この圧延工程は省略することができる。
【0037】
次に、
図2に示す巻取工程として、図示しない巻取装置により巻き取られ、荒引き線が得られる。なお、巻取装置によって巻き取られた荒引き線は、引張強さが250MPa以上300MPa程度であり、導電率が85%IACSよりも大きく90%IACS以下程度である。
【0038】
次に、
図2に示す伸線加工工程として、線径が100μm以下(例えば、50μm~80μm程度)になるまで荒引き線を引き延ばし、
図1に示す銅合金線10を得る。伸線加工工程は、常温(例えば25℃)で行う、所謂、冷間加工として実施される。伸線加工工程では、荒引き線を延在方向に伸長させるが、伸線加工工程を複数(第1の伸線加工工程および第2の伸線加工工程)に分け、伸線加工工程の間に熱処理工程(焼鈍工程と呼ぶ場合もある)として、伸線加工中の伸線材に熱処理を施す。なお、第1の伸線加工工程は、1回の伸線加工工程によって荒引き線(例えば、線径が8mm~12mm程度)を所望の線径(例えば、0.5mm以上3.0mm以下の線径)まで伸線することがよい。このような伸線加工を行うことは、熱処理工程後における金属線の導電率、引張強さおよび伸びを所望の範囲にし、第2の伸線加工工程を経て得られる銅合金線10が80%IACS以上の導電率と800MPa以上の引張強さとを有することに有効である。
【0039】
伸線加工中は、金属線に歪が生じることにより、金属線の引張強さを大きくすることができるが、金属線の導電率は、低下する。伸線加工の途中で熱処理(焼鈍処理と呼ぶ場合もある)を施すと、金属線中の歪みが低減する。このため、熱処理された金属線の引張強さは低下するが、導電率は上昇する。本願発明者の検討によれば、伸線工程の途中(第1の伸線加工工程と第2の伸線加工工程との間)に実施する熱処理工程を以下の条件を満たすように実施することで、最終的に得られる硬質の金属線(銅合金線10)の引張強さと導電率を高い状態に維持できることが判った。なお、ここでいう硬質の銅合金線とは、伸びが0.5%以上3%以下の金属線である。
【0040】
熱処理前(熱処理直前の伸線加工工程後)の金属線の引張強さをA、熱処理後(熱処理直後)の金属線の引張強さをBとし、C=B/Aとすると、引っ張り強さの比Cの値が0.5以上0.8以下になるように熱処理を行う。また、熱処理前(熱処理直前の伸線加工工程後)の金属線の伸びをD、熱処理後(熱処理直後)の金属線の伸びをEとし、F=E/Dとすると、伸びの比Fの値が10以上50以下になるように熱処理を行う。なお、
図2に示すように、熱処理工程の後でさらに伸線加工を施すため、熱処理工程では、熱処理工程直後の金属線の導電率が86%IACS以上(好ましくは88%IACS以上)になるように熱処理を行うことが好ましい。また、熱処理工程直後の金属線の引張強さは200MPa以上300MPaであり、熱処理工程直後の金属線の伸びは20%以上40%以下であることが好ましい。これにより、熱処理工程に続いて行われる伸線加工工程(第2の伸線加工工程)を行った後の導電率を80%IACS以上にすることができる。なお、熱処理工程では、例えば400℃以上900℃以下の温度で熱処理を行うことがよい。
【0041】
なお、
図2では、荒引き線を伸線加工工程(第1の伸線加工工程)によって所望の線径(例えば、0.5mm以上3.0mm以下の線径)まで伸線した後に、上述した条件によって金属線を熱処理する熱処理工程を行い、さらに伸線加工工程(第2の伸線加工工程)によって所望の線径(例えば、0.1mm以下の線径)まで伸線する実施態様を説明したが、種々の変形例を適用可能である。例えば、第2の伸線加工工程は、複数回の伸線加工工程に分かれており、複数回の伸線加工工程における各工程によって所望の線径まで段階的に金属線を伸線することでもよい。第2の伸線加工工程は、複数回の伸線加工工程によって金属線を段階的に伸線することにより、第2の伸線加工工程が1回の伸線加工工程から構成される場合に比べて、上述した硬質の金属線(銅合金線10)を安定して得ることができる。なお、第2の伸線加工工程を複数回の伸線加工工程によって構成する場合には、必要に応じて、複数回の伸線加工工程の間に上述した熱処理工程を設けてもよい。また、第2回目の伸線加工工程の後には、金属線が硬質の状態を維持するようにして熱処理を行うことでもよい。
【0042】
<合金組成と特性の評価>
次に、
図1に示す銅合金線10が有する合金の組成と、特性との関係について、実験した結果を説明する。表1は、金属線が有する合金の組成と特性との関係を示す表である。
【0043】
【0044】
表1において、試料No.1~7は、上記した銅合金線10の条件に適合する実施例、試料No.8~14は、上記した銅合金線10の条件に適合しない比較例である。試料No.1~14のそれぞれは、
図2を用いて説明した製造方法により製造した。また、表1において、引張強さの試験および伸びの試験に供した試料は、約80μmの線径になるように加工した金属線である。試料No.1~14で使用した銅合金線は、表1に示す含有量からなるインジウム(In)、すず(Sn)を含有し、残部が銅(Cu)および不可避的不純物からなる銅合金で構成される。また、引張速度は、20mm/minとし、伸びを測定する際の標点距離は100mmとした。引張強さは、最大点破断荷重値を試料の断面積で除した値とした。試料の断面積は、マイクロメータで1/1000mmまで測定した線径から真円の面積として算出した。伸びの値は、破断時の全伸び(伸び計の弾性伸びと塑性伸びとを合わせたもの)で,伸び計標点距離に対する百分率で表したものである。また、表1では記載を省略したが、試料No.1~14のそれぞれは、酸素が混入し難い環境下で調整され、各試料の銅合金に含まれる酸素は、0.002質量%以下である。
【0045】
表1において、試料No.1、5、6、8、11および12を比較して判るように、インジウムの含有率が0.30質量%以上であれば、試料の引張強さを、800MPa以上、かつ、導電率を、80%IACS以上にすることができる。また、試料No.3、4、および10を比較して判るように、添加元素として錫が添加されていない場合、インジウムの含有率が0.45質量%以下であれば、試料の引張強さを、800MPa以上、かつ、導電率を、80%IACS以上にすることができる。
【0046】
また、表1において、試料No.5、8、9、および14を比較して判るように、銅合金にインジウムおよび錫を添加する場合、錫の含有率が、0.02質量%以上、かつ、0.1質量%未満であれば、試料の引張強さを、800MPa以上、かつ、導電率を、80%IACS以上にすることができる。ただし、試料No.7、13を比較して判るように、インジウムおよび錫の合計の含有率は、0.45質量%以下であることが好ましい。
【0047】
<銅合金線の適用例>
次に、
図1に示す銅合金線10の適用例について説明する。
図3は、
図1に示す銅合金線10を含むケーブルの断面図である。
図4は、
図3に示すケーブルが有する複数の電線のうちの1本の断面図である。
【0048】
図3に示すケーブル60は、複数の電線(芯線)70と、複数の電線70の周囲を一括して被覆するシース61と、を有する。ケーブル60は、例えば、携帯型電子装置あるいは産業用ロボット等で用いられるケーブルである。ケーブル60の外径は、例えば約4.8mmである。ケーブル60は、複数の電線70を備えており、複数の電線70のそれぞれの外径は小さい。例えば、
図3および
図4に示す例では、電線70の外径は、例えば約0.86mm(860μm)である。
【0049】
図4に示すように、電線70は、互いに撚り合わされた複数の銅合金線10から成る中心導体71と、中心導体71を被覆する絶縁体72と、を有する。中心導体71を構成する複数の銅合金線10のそれぞれは、
図1を用いて説明した銅合金11からなる。この銅合金線10を構成する銅合金11は、0.3質量%以上0.45質量%以下のインジウム、およびインジウムとの合計の含有率が0.45質量%以下である錫を含有している。複数の銅合金線10のそれぞれの線径は、例えば0.08mm(80μm)である。
【0050】
このように、複数の銅合金線10を用いた電線70およびこれを用いたケーブル60は、携帯型電子機器内での電気信号、あるいは電源の伝送特性を向上させることができる。あるいは、極細線である多数の銅合金線10を用いた電線70およびこれを用いたケーブル60は、線径を細くすることができるので、携帯型電子機器の筐体のサイズを小型化することや産業ロボット等を小型化することができる。
【0051】
なお、
図4では、電線70を例示的に示したが、
図1に示す銅合金線10が適用された電線には種々の変形例がある。例えば、1本の銅合金線10から成る導体と、導体の周囲を被覆する絶縁体と、から成る電線に適用できる。また、
図3および
図4では、電線70の中心導体71として複数の銅合金線10を撚り合わせしたもので例示したが、これに限定されず、後述するめっき線から成る中心導体71としてもよい。
【0052】
<めっき線>
めっき線は、
図1に示す銅合金線10の周囲(外面)にめっき層を有するもので構成される。そして、めっき線は、引張強さが750MPa以上、導電率が78%IACS以上、伸びが3%以下である。すなわち、めっき線は、
図1に示す銅合金線10の周囲にめっき層が設けられた状態において、引張強さが750MPa以上(好ましくは、750MPa以上900MPa以下)、導電率が78%IACS以上(好ましくは、78%IACS以上85%IACS以下)、伸びが3%以下(好ましくは、0.5%以上3%以下)である。なお、めっき線30は、硬質の線材である。
【0053】
銅合金線10は、上述したように、0.3質量%以上、かつ、0.45質量%以下のインジウム(In)を含有する銅合金からなる。特に、銅合金線10は、0.3質量%以上、かつ、0.45質量%以下のインジウム(In)を含有し、残部が銅(Cu)および不可避的不純物からなる銅合金で構成されることがよい。
【0054】
めっき層は、銅合金線10の周囲であって、銅合金線の外面に接触するように設けられている。めっき層の厚さは、例えば、0.1μm以上1.5μm以下である。めっき層は、例えば、すず(Sn)、銀(Ag)、ニッケル(Ni)などからなる。
【0055】
<めっき線の製造方法>
めっき線は、
図2に示す銅合金線10の製造方法によって得られた銅合金線10に対して、めっき層を形成することで得られる。めっき層を形成する前の銅合金線10は、引張強さが800MPa以上、導電率が80%IACS以上である硬質の状態の金属線である。この銅合金線10を、所定の温度(例えば、250℃以上300℃以下)からなる溶融しためっき材(例えば、Sn)が貯留されためっき槽に浸漬させる。これにより、銅合金線10の外面全周にわたって溶融めっきを塗布する。その後、溶融めっきが塗布された状態の銅合金線10をめっきダイスに通すことにより、銅合金線10の表面に塗布された溶融めっきの厚さを調整し、所定の厚さを有するめっき層を形成する。特に、銅合金線10の表面に溶融めっきを塗布するときの条件としては、線速度100m/min以上で溶融めっきへの浸漬時間0.1秒以上1.0秒以下の条件で行うことがよい。このようにしてめっき層が形成されためっき線は、硬質の状態が維持されており、めっき線の伸びは0.5%以上3.0%以下である。なお、銅合金線10の表面に溶融めっきを塗布する前に、所定の温度(例えば、300℃以上500℃以下)で銅合金線10を熱処理してもよい。銅合金線10を熱処理するときの熱処理時間は、例えば、0.1秒以上1.0秒以下とし、銅合金線10が硬質の状態を維持したまま次工程の溶融めっきに浸漬されることがよい。また、この熱処理は、めっき層を形成する工程と同一の製造ラインで行ってもよいし、めっき層を形成する工程とは別の製造ラインで行ってもよい。
【0056】
<めっき線の特性>
次に、めっき線が有する特性について実験した結果を説明する。表2は、めっき線を構成する銅合金線の合金組成とめっき線の特性との関係を示す表である。
【0057】
【0058】
表2において、試料No.15~20は、上記しためっき線の条件に適合する実施例である。試料No.15~20のそれぞれは、
図2を用いて説明した製造方法により製造した銅合金線の周囲にめっき層を形成したものである。具体的には、
図2を用いて説明した製造方法によって製造した銅合金線を溶融したSn(温度:250℃以上300℃以下)が貯留されためっき槽に浸漬させ、その後溶融めっきが塗布された状態の銅合金線をめっきダイスに通すことにより、銅合金線の表面に塗布された溶融めっきの厚さを調整し、所定の厚さを有するめっき層を形成した。また、表2において、めっき線の引張強さの試験および伸びの試験に供した試料は、約80μm(試料No.15~17)、または約50μm(試料No.18~20)の線径になるように加工した銅合金線の周囲にめっき層(厚さ:約0.5μm)を設けたものである。試料No.15~20で使用した銅合金線は、表2に示す含有量からなるインジウム(In)、すず(Sn)を含有し、残部が銅(Cu)および不可避的不純物からなる銅合金で構成される。また、引張速度は、20mm/minとし、伸びを測定する際の標点距離は100mmとした。引張強さは、最大点破断荷重値を試料の断面積で除した値とした。試料の断面積は、マイクロメータで1/1000mmまで測定した線径から真円の面積として算出した。伸びの値は、破断時の全伸び(伸び計の弾性伸びと塑性伸びとを合わせたもの)で,伸び計標点距離に対する百分率で表したものである。また、表2では記載を省略したが、試料No.15~20のそれぞれは、酸素が混入し難い環境下で調整され、各試料の銅合金線に含まれる酸素は、0.002質量%以下である。
【0059】
表2において、試料No.15~20を比較して判るように、インジウムの含有率が0.30質量%以上であれば、試料の引張強さを、750MPa以上、かつ、導電率を、78%IACS以上にすることができる。また、試料No.15および16を比較して判るように、添加元素として錫が添加されている場合であっても、錫が添加されていない場合と同様に試料の引張強さを、750MPa以上、かつ、導電率を、78%IACS以上にすることができる。なお、銅合金線を構成する銅合金に含有するインジウムの含有率は、0.30質量%以上、かつ、0.45質量%以下であることが好ましい。また、銅合金線を構成する銅合金にインジウムおよび錫を添加する場合、錫の含有率が、0.02質量%以上、かつ、0.1質量%未満であれば、試料の引張強さを、750MPa以上、かつ、導電率を、78%IACS以上にすることができる。
【0060】
<めっき線の適用例>
めっき線は、上記したように、電線やケーブルを構成する中心導体として適用することができる。具体的には、互いに撚り合わされた複数のめっき線から成る中心導体と、中心導体を被覆する絶縁体と、を有する電線である。また、この電線の周囲にシールド層やシースを設けたケーブルとしてもよい。
【0061】
本発明は前記実施の形態および実施例に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。
【0062】
前記実施の形態は、以下の形態を含む。
【0063】
[付記1]
(a)銅および銅以外の添加元素を含む原料を準備する工程と、
(b)前記原料を溶解させた後、鋳造することで荒引き線を形成する工程と、
(c)前記荒引き線を伸線加工して金属線とする工程と、
(d)前記(c)工程の後、伸線加工された前記金属線に熱処理を施す工程と、
(e)前記(d)工程の後、前記熱処理を施された前記金属線を更に伸線加工し、0.1mm以下になるまで引き延ばす工程と、
を含み、
前記荒引き線は、銅合金によって構成され、0.3質量%以上、かつ、0.45質量%以下のインジウム、および前記インジウムとの合計の含有率が0.45質量%以下である錫を含有する、銅合金線の製造方法。
【0064】
[付記2]
付記1において、
前記銅合金は、0.02質量%以上、かつ、0.1質量%未満の錫を含有する、銅合金線の製造方法。
【0065】
[付記3]
付記1または2において、
前記(d)工程では、
前記(c)工程後の伸線加工された前記金属線の引張強さをA、前記(d)工程後の熱処理を施された前記金属線の引張強さをB、引張強さの比をC=B/Aとすると、Cの値が0.5以上0.8以下になるように熱処理が行われ、
前記(c)工程後の伸線加工された前記金属線の伸びをD、前記(d)工程後の熱処理を施された前記金属線の引張強さをE、伸びの比F=E/Dとすると、Fの値が10以上50以下になるように熱処理が行われる、銅合金線の製造方法。
【0066】
[付記4]
付記3において、前記(d)工程では、前記(d)工程で熱処理を施した直後の前記金属線の導電率が、86%IACS以上になるように熱処理を行う、銅合金線の製造方法。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明は、小型電子機器(例えば、デジカメ、監視カメラ、パソコン、スマートフォン等)の内部配線用ケーブル(例えば、極細同軸ケーブルなど)、産業用ロボットや医療機器(例えば、胃カメラ、超音波診断装置等)に使用される耐屈曲ケーブル(例えば、内視鏡ケーブル、プローブケーブルなど)の導体に適用される銅合金線に利用可能である。
【符号の説明】
【0068】
10 銅合金線
10D 線径
11 銅合金
60 ケーブル
61,74 シース(絶縁体)
70 電線(芯線、同軸ケーブル)
71 中心導体
72 絶縁体
73 外部導体