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特許7574736希土類焼結磁石及び希土類焼結磁石の製造方法
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  • 特許-希土類焼結磁石及び希土類焼結磁石の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-21
(45)【発行日】2024-10-29
(54)【発明の名称】希土類焼結磁石及び希土類焼結磁石の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01F 1/057 20060101AFI20241022BHJP
   H01F 41/02 20060101ALI20241022BHJP
   B22F 1/00 20220101ALI20241022BHJP
   B22F 3/00 20210101ALI20241022BHJP
   B22F 3/02 20060101ALI20241022BHJP
【FI】
H01F1/057 170
H01F41/02 G
B22F1/00 W
B22F3/00 F
B22F3/02 M
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2021080801
(22)【出願日】2021-05-12
(65)【公開番号】P2022174820
(43)【公開日】2022-11-25
【審査請求日】2023-04-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002240
【氏名又は名称】弁理士法人英明国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉成 彰裕
(72)【発明者】
【氏名】廣田 晃一
【審査官】木下 直哉
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-031145(JP,A)
【文献】特開2018-093202(JP,A)
【文献】特開2002-285208(JP,A)
【文献】国際公開第2013/146781(WO,A1)
【文献】特開昭59-143002(JP,A)
【文献】特開2003-068551(JP,A)
【文献】特開2007-227466(JP,A)
【文献】特開2007-134353(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 1/057
H01F 41/02
B22F 1/00
B22F 3/00
B22F 3/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
R(Rは希土類元素から選ばれる1種以上の元素であり、Ndを必須とする),Fe,Bを含む希土類焼結磁石であって、炭素濃度が800~1400ppm、酸素濃度が1000ppm以下、窒素濃度が800ppm以下で、かつ磁化方向に対して平行な面における、結晶粒の円相当径の面積平均である平均結晶粒径D50(μm)が4.5μm以下であり、更に当該D50と、残留磁束密度Brと飽和磁束密度4πIsによって下記式(1)で定義される配向度Or(%)とが、下記式(2)の関係を満たすことを特徴とする希土類焼結磁石。
Or=(Br/4πIs)×100 ・・・(1)
Or>0.7×D50+95 ・・・(2)
【請求項2】
更に、X(XはTi、Zr、Hf、Nb、V、Taから選ばれる1種以上の元素)を0.05~0.5原子%含有し、B、Xの原子百分率をそれぞれ[B]、[X]としたとき、下記式(3)の関係を満たす請求項1記載の希土類焼結磁石。
4.3<[B]―2[X]<5.5 ・・・(3)
【請求項3】
上記Rの含有率が12.5~15.0原子%である請求項1又は2記載の希土類焼結磁石。
【請求項4】
上記Rとして、Dy、Tb、Gd,Hoから選ばれる1種以上の元素を、0を超え1質量%以下の範囲で含有する請求項1~3のいずれか1項記載の希土類焼結磁石。
【請求項5】
上記Rの一部として、焼結後の磁石に粒界拡散により導入されたR元素を含む請求項1~4のいずれか1項記載の希土類焼結磁石。
【請求項6】
R,Fe,Bを含む合金の粗粉砕粉末を微粉砕して微粉末を得る微粉砕工程と、圧縮成形機を用い前記微粉末を磁場中で圧粉成形して成形体を得る成形工程と、前記成形体を熱処理して焼結体を得る熱処理工程とを有する希土類焼結磁石の製造方法であって、
前記微粉砕工程において、前記粗粉砕粉末に極性官能基とシクロヘキサン骨格とを有する化合物を添加することによって得られる原料粉末を、不活性ガス雰囲気中で、レーザー回折・散乱法によって測定された体積基準の粒度分布におけるメジアン径である平均粒径が0.5~3.5μmとなるように微粉砕し、かつ前記成形工程において、密度が2.8~3.6g/cm 3 の成形体を得ることを特徴とする希土類焼結磁石の製造方法。
【請求項7】
前記極性官能基とシクロヘキサン骨格を有する化合物が、分子量250以下の化合物である請求項6記載の希土類焼結磁石の製造方法。
【請求項8】
前記極性官能基とシクロヘキサン骨格を有する化合物の添加量が、前記粗粉砕粉末100質量部に対して0.08~0.3質量部である請求項6又は7記載の希土類焼結磁石の製造方法。
【請求項9】
得られる希土類焼結磁石の酸素濃度が1000ppm以下である請求項6~8のいずれか1項記載の希土類焼結磁石の製造方法。
【請求項10】
得られる希土類焼結磁石の窒素濃度が800ppm以下である請求項6~9のいずれか1項記載の希土類焼結磁石の製造方法。
【請求項11】
前記極性官能基とシクロヘキサン骨格を有する化合物の極性官能基が、OH基、COOH基、CH3COO基、NH2基のいずれかである請求項6~10のいずれか1項記載の希土類焼結磁石の製造方法。
【請求項12】
前記成形体に対してプッシュプルゲージを押し当てクラックが発生したときの該プッシュプルゲージにかかる力を測定した成形体強度が20N以上である請求項6~11のいずれか1項記載の希土類焼結磁石の製造方法。
【請求項13】
前記極性官能基とシクロヘキサン骨格を有する化合物の25℃での蒸気圧が15Pa以下である請求項6~12のいずれか1項記載の希土類焼結磁石の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高い残留磁束密度と安定した保磁力を有する希土類焼結磁石、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
R-Fe-B系焼結磁石(以下、Nd磁石という場合がある。)は、省エネや高機能化に必要不可欠な機能性材料として、その応用範囲と生産量は年々拡大している。例えば、ハイブリッド自動車や電気自動車における駆動用モータや電動パワーステアリング用モータ、エアコンのコンプレッサー用モータ、ハードディスクドライブのボイスコイルモータ(VCM)などに用いられている。これら種々の用途においては、R-Fe-B系焼結磁石の高い残留磁束密度(以下、Brと称する。)が大きな利点となっているが、例えばモータを更に小型化するために、更なるBrの向上が求められている。
【0003】
R-Fe-B系焼結磁石のBrを高める手法としては、焼結磁石中のR2Fe14B相の割合を増加させるために酸素、炭素、窒素に代表される不純物を低減しつつ、Rの含有量を減らす方法や、R2Fe14B相の配向度を向上させる方法が知られている。
【0004】
主相であるR2Fe14B相の配向度を向上させる方法として、微粉砕時に添加する潤滑剤の添加量を増やす方法が知られており、この方法によって窒化も抑制できることが知られている。しかしながら、潤滑剤を多量に添加した場合には成形性の低下や、焼結後に残留する炭素量が増えることによる保磁力(以下、HcJと称することもある。)の低下が起こるため、潤滑剤には限られた添加量の中で配向性や成形性に対して高い効果を発揮することが求められ、これまでにも有機化合物を中心に種々の物質を潤滑剤として用いる手法が提案されている。
【0005】
例えば、特開平4-214804号公報(特許文献1)には、固形パラフィン、ショウノウのうちの少なくとも1種を潤滑剤として用いて優れた潤滑性を付与し、成形時にダイス面及び成形体の摩擦を低減して成形体表面の傷、剥がれ、割れ等を抑制する手法が提案されている。
【0006】
また、特開2002-285208号公報(特許文献2)には、室温で昇華性を有する固体を潤滑剤として用い、原料合金粗粉に添加して微粉砕することで潤滑剤が微粉粒子を被覆し、酸化膜の形成を抑制しつつ、流動性に優れた微粉が得られることが記載されている。
【0007】
更に、特開2020-31145号公報(特許文献3)には、特定の組織、組成を有し、結晶粒径が3.5μm以下の微細な組織を有し、かつ配向度の高い焼結磁石、並びにその製造方法として原料粉末を窒化させ、さらに圧縮成形工程を省略することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開平4-214804号公報
【文献】特開2002-285208号公報
【文献】特開2020-31145号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1や特許文献2では、上記のとおり、潤滑剤の選択について提案されているが、いずれもBrへの影響についての言及はない。
【0010】
特許文献1では、成型体の抜き圧低下による成形体の割れ欠け抑制と製品歩留まりの向上を目的に潤滑剤の選択を行っているが、圧粉密度が4.4g/cm3以上と高く、成形圧力が高く配向の乱れが生じていると予想され、高いBrを得ることとは目的が反する。
【0011】
また、特許文献2では、昇華性潤滑剤で微粉表面を被覆することにより微粉の酸化を抑制する効果を得るものであり、酸素含有量に対する規定は存在するものの、低酸素、低水分下における微粉砕による窒素濃度の影響については言及がなく、高いBrとHcJを両立することと目的が反する。また、昇華性を有する室温固体の化合物を潤滑剤としてジェットミル系内に添加した場合、連続した製造過程で潤滑剤の系内濃度が上昇し、配管の低温部に潤滑剤が析出して閉塞させてしまうリスクや、意図せずに炭素濃度が上昇してしまうリスクがあるため、系内の潤滑剤ガス濃度を監視するなどの設備的な対策が必要となり、製造コストがかかる。
【0012】
一方、特許文献3では、高い配向度と微細な結晶粒を両立するために、原料粉末を窒素ガス中に一定時間分散させることで窒化させる方法をとっているが、高いBrを得るためには、Rを低減しつつRを有効に粒界に配置させるために、Rと化合物相を形成する不純物である窒素を極力低減してHcJを確保する必要があるという点で課題がある。
【0013】
なお、磁石中に含まれる酸素、炭素、窒素に代表される不純物を低減しつつ、Rの含有量を減らすことで高いBrを得る方法においては、酸素濃度の低下に伴い窒素濃度が上昇して保磁力の低下が起こってしまい、一方でBrを高めるためにRの含有量を減らすことで低下するHcJを結晶粒の微細化によって補おうとするとより窒化が進行し、さらに配向度も悪化してしまうという課題があった。
【0014】
本発明は、上記課題を鑑みてなされたものであり、微細な結晶粒を有するR-Fe-B系希土類焼結磁石について、低酸素濃度においても低い窒素濃度と高い配向を備え、高いBrと安定したHcJを有する高品質のR-Fe-B系希土類焼結磁石を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討を行った結果、炭素濃度、酸素濃度、窒素濃度を特定値に調整すると共に、磁化方向に対して平行な面における平均結晶粒径D50、及び当該D50と配向度Orとの関係を適正化することにより、高いBrとHcJを有する希土類焼結磁石とすることができること、また、R,Fe,Bを含む合金の粗粉砕粉末を微粉砕して磁石成形用の微粉末を得る際に、潤滑剤種と粉砕される微粉の平均粒径を適正化することにより、高いBrとHcJを有する当該希土類焼結磁石を製造し得ることを見出し、本発明を完成したものである。
【0016】
すなわち、本発明は、以下の希土類磁石、及びその製造方法を提供するものである。
1.R(Rは希土類元素から選ばれる1種以上の元素であり、Ndを必須とする),Fe,Bを含む希土類焼結磁石であって、炭素濃度が800~1400ppm、酸素濃度が1000ppm以下、窒素濃度が800ppm以下で、かつ磁化方向に対して平行な面における、結晶粒の円相当径の面積平均である平均結晶粒径D50(μm)が4.5μm以下であり、更に当該D50と、残留磁束密度Brと飽和磁束密度4πIsによって下記式(1)で定義される配向度Or(%)とが、下記式(2)の関係を満たすことを特徴とする希土類焼結磁石。
Or=(Br/4πIs)×100 ・・・(1)
Or>0.7×D50+95 ・・・(2)
2. 更に、X(XはTi、Zr、Hf、Nb、V、Taから選ばれる1種以上の元素)を0.05~0.5原子%含有し、B、Xの原子百分率をそれぞれ[B]、[X]としたとき、下記式(3)の関係を満たす1の希土類焼結磁石。
4.3<[B]―2[X]<5.5 ・・・(3)
3. 上記Rの含有率が12.5~15.0原子%である1又は2の希土類焼結磁石。
4. 上記Rとして、Dy、Tb、Gd,Hoから選ばれる1種以上の元素を、0を超え1質量%以下の範囲で含有する1~3のいずれかの希土類焼結磁石。
5. 上記Rの一部として、焼結後の磁石に粒界拡散により導入されたR元素を含む1~4のいずれかの希土類焼結磁石。
6. R,Fe,Bを含む合金の粗粉砕粉末を微粉砕して微粉末を得る微粉砕工程と、圧縮成形機を用い前記微粉末を磁場中で圧粉成形して成形体を得る成形工程と、前記成形体を熱処理して焼結体を得る熱処理工程とを有する希土類焼結磁石の製造方法であって、
前記微粉砕工程において、前記粗粉砕粉末に極性官能基とシクロヘキサン骨格とを有する化合物を添加することによって得られる原料粉末を、不活性ガス雰囲気中で、レーザー回折・散乱法によって測定された体積基準の粒度分布におけるメジアン径である平均粒径が0.5~3.5μmとなるように微粉砕し、かつ前記成形工程において、密度が2.8~3.6g/cm 3 の成形体を得ることを特徴とする希土類焼結磁石の製造方法。
7. 前記極性官能基とシクロヘキサン骨格を有する化合物が、分子量250以下の化合物である6の希土類焼結磁石の製造方法。
8.前記極性官能基とシクロヘキサン骨格を有する化合物の添加量が、前記粗粉砕粉末100質量部に対して0.08~0.3質量部である6又は7の希土類焼結磁石の製造方法。
9. 得られる希土類焼結磁石の酸素濃度が1000ppm以下である6~8のいずれかの希土類焼結磁石の製造方法。
10. 得られる希土類焼結磁石の窒素濃度が800ppm以下である6~9のいずれかの希土類焼結磁石の製造方法。
11. 前記極性官能基とシクロヘキサン骨格を有する化合物の極性官能基が、OH基、COOH基、CH3COO基、NH2基のいずれかである6~10のいずれかの希土類焼結磁石の製造方法。
12. 前記成形体に対してプッシュプルゲージを押し当てクラックが発生したときの該プッシュプルゲージにかかる力を測定した成形体強度が20N以上である6~11のいずれかの希土類焼結磁石の製造方法。
13. 前記極性官能基とシクロヘキサン骨格を有する化合物の25℃での蒸気圧が15Pa以下である6~12のいずれかの希土類焼結磁石の製造方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、高いBrとHcJとを兼備した高性能な希土類焼結磁石を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】実施例1,8~10、及び比較例1,8~11の希土類焼結磁石について、極性官能基とシクロヘキサン骨格を有する化合物であるメントールと、直鎖飽和脂肪酸であるステアリン酸とを潤滑剤としてそれぞれ用いた場合における平均結晶粒径D50と配向度の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の希土類焼結磁石は、上記のとおり、R,Fe,Bを含み、炭素濃度が800~1400ppm、酸素濃度が1000ppm以下、窒素濃度が800ppm以下であり、かつ結晶粒の平均結晶粒径D50(μm)と配向度Or(%)とが特定の関係を有するものである。
【0020】
本発明の希土類焼結磁石用合金を構成する元素Rは、希土類元素から選ばれる1種以上の元素であり、希土類元素としては、Nd、Pr、La、Ce、Gd、Dy、Tb、Hoが好ましく、特にPr、Nd、Dy、Tbが好ましい。なお、このR元素一部として、焼結後の磁石に粒界拡散により導入されたR元素を含んでいてもよい。
【0021】
R元素の含有率は、製造時の原料合金においてα-Feの晶出が起こることの抑制及び緻密化を十分に行う観点から、12.5原子%以上であることが好ましく、12.7原子%以上であることがより好ましい。なお、均質化を施してもα-Feを消失させることは難しいが、上記の範囲であれば、R-Fe-B系焼結磁石のHcJや角形性が大きく低下することを抑制することが出来る。また、α-Feの晶出が起こり難いストリップキャスト法により原料合金を作製する場合でも同様である。加えて、後述する焼結過程において緻密化を促進させる役割をもつ主にR成分からなる液相量が少なくなるために焼結性が低下し、R-Fe-B系焼結磁石の緻密化が不足することを防ぐことが出来る。一方、Rの含有率が14原子%を超えると、焼結磁石中のR2Fe14B相の割合が低くなりBrが低下することを防ぐ観点から、15.0原子%以下が好ましく、14.0原子%以下がより好ましい。
【0022】
また、上記RとしてDy、Tb、Gd,Hoのいずれかから選ばれる1種以上の元素を、0を超え1質量%以下の範囲で含むことが好ましく、0.3質量%を超え0.8質量%以下の範囲で含むことがより好ましい。Dy、Tb、Gd,Hoは少ない添加量で効率的にHcJを向上させる効果があるため磁石に添加されることが好ましい。一方で、これらはNdよりも希少かつ高価であるとともに、添加によるBrの低下を抑制する観点から1質量%以下の含有率とすることが好ましい。
【0023】
更に、上記のとおり必須の元素として、Fe、Bを含有する。これらの含有率は、特に制限されるものではないが、Feは好ましくは75原子%以上、より好ましくは77原子%以上で、好ましくは83原子%以下、より好ましくは81原子%以下である。また、Bの含有率は5.0~6.0原子%であることが好ましく、より好ましくは5.3~5.7原子%である。
【0024】
また、本発明希土類焼結磁石には、Xとして、Ti、Zr、Hf、Nb、V、Taから選ばれる1種以上の元素を含有することが好ましく、その含有率は焼結過程における結晶粒の異常粒成長を抑制する効果を良好に得る観点から0.05原子%以上であることが好ましく、0.1原子%以上であることがより好ましい。また、X-B相が形成されることでR2Fe14B相を形成するためのB量が減り、R2Fe14B相比率の減少によるBr低下、ひいてはR2Fe17相が形成されることによって大幅なHcJ減少を招くリスクを低減するために、0.5原子%以下であることが好ましく、0.3原子%以下であることがより好ましい。さらに、XはBとXB2相を形成し、主相の構成元素であるBを消費するため、十分な主相量を確保して高いBr得つつ、高い配向を得るために多く添加された潤滑剤に由来し、主相中のBを一部置換可能であるCについては、高い炭素濃度を許容するために、Bの含有率は、B、Xの原子百分率をそれぞれ[B]、[X]としたとき、下記式(3)の関係を満たすことが好ましく、下記式(3’)の関係を満たすことがより好ましい。

4.3<[B]―2[X]<5.5 ・・・(3)
4.5<[B]―2[X]<5.3 ・・・(3’)
【0025】
本発明の焼結磁石では、上記のとおり、炭素濃度が800~1400ppmの範囲であり、900~1200ppmの範囲であることがより好ましい。炭素濃度が1400ppmを超えて高くなるとHcJが低下してしまい、一方800ppm未満であると十分な配向が得られ難くなる。
【0026】
本発明焼結磁石における酸素濃度は、不純物を低減しつつR添加量を減らすことで高いBrを得るという観点から、上記のとおり、1000ppm以下であり、800ppm以下であることがより好ましい。後述する製造方法でも説明するが、焼結体の酸素濃度は、原料の微粉砕工程における酸素、水分の存在に強く影響を受け、酸素濃度が1000ppmを超えている場合、微粉表面の酸化、水酸化が顕著になり、金属表面上の吸着サイトが減少し、潤滑剤の吸着量が減ることで十分な効果を発揮することができない。
【0027】
本発明焼結磁石における窒素濃度は、良好なHcJを得るという観点から、800ppm以下であり、500ppm以下であることが好ましく、400ppm以下であることがより好ましい。
【0028】
本発明の希土類焼結磁石は、上記のとおり、結晶粒の平均結晶粒径D50(μm)と配向度Or(%)とが特定の関係を有する。上記平均結晶粒径は、磁化方向に対して平行な面における結晶粒の円相当径の中央値D50(μm)として定義されるものである。本発明では、この平均結晶粒径D50(μm)が4.5μm以下とされ、好ましくは4.0μm以下、より好ましくは3.5μm以下であり、この平均結晶粒径D50が4.5μmを超える場合には十分なHcJを得ることができない。また、この平均結晶粒径D50(μm)の下限値に制限はないが、適切な潤滑剤添加量の範囲において良好な配向度を得ること等を考慮すると、好ましくは1.2μm以上、より好ましくは1.8μm以上である。
【0029】
上記平均結晶粒径D50は例えば次の手順で測定することができる。まず、焼結磁石の磁化方向に対して平行方向の断面を鏡面になるまで研磨し、例えばビレラ液(例えば、混合比がグリセリン:硝酸:塩酸=3:1:2)などのエッチング液に浸漬して断面の粒界相を選択的にエッチングし、レーザー顕微鏡で断面像を取得する。続いて、得られた断面像をもとに、画像解析にて個々の粒子の断面積を測定し、円相当径として直径を算出する。そして、平均結晶粒径は複数箇所の画像における多数の粒子の平均とすることが好ましく、例えば、特に制限されるものではないが、異なる20箇所以上の画像における合計約2000個以上の粒子の面積基準のメディアン径とするなどの方法により測定することが好ましい。
【0030】
また、上記配向度Or(%)は、残留磁束密度Brと飽和磁束密度4πIsによって下記式(1)で定義されるものであり、上記残留磁束密度Brは、焼結磁石の磁気特性をBHトレーサにて測定することにより得ることができる。

Or=(Br/4πIs)×100 ・・・(1)
【0031】
本発明の希土類焼結磁石は、上記のとおり、上記平均結晶粒径D50(μm)と上記配向度Or(%)とが、下記式(2)の関係を満たすものである。これにより、結晶粒径の微細化によるHcJの向上効果と高いBrを両立することが可能となる。

Or>0.7×D50+95 ・・・(2)
【0032】
次に、本発明の希土類焼結磁石の製造方法について説明する。
本発明の希土類焼結磁石の製造方法は、上記本発明の希土類焼結磁石を製造するものであり、上記R,Fe,Bを含む合金の粗粉砕粉末を微粉砕して微粉末を得る微粉砕工程と、前記微粉末を磁場中で成形して成形体を得る成形工程と、前記成形体を熱処理して焼結体を得る熱処理工程とを有する。
【0033】
本発明の製造方法により、R-Fe-B系希土類焼結磁石用合金を製造する際の各工程は、基本的には、通常の粉末冶金法と同様であり、特に制限されるものではないが、通常は、原料を溶解して原料合金を得る溶融工程、所定の組成を有する原料合金を粉砕して合金微粉末を調製する粉砕工程を含み、その粉砕工程に上記粗粉砕粉末を得る粗粉砕工程と上記微粉末を得る微粉砕工程が含まれる。
【0034】
まず、上記溶融工程においては、上述した本発明における所定の組成となるように各元素の原料となる金属、又は合金を秤量し、例えば、高周波溶解により原料を溶解し、冷却して原料合金を製造する。原料合金の鋳造は、平型やブックモールドに鋳込む溶解鋳造法やストリップキャスト法が一般的には採用される。また、R-Fe-B系合金の主相であるR2Fe14B化合物組成に近い合金と焼結温度で液相助剤となるRリッチな合金とを別々に作製し、粗粉砕後に秤量混合する、いわゆる二合金法も本発明には適用可能である。ただし、主相組成に近い合金は、鋳造時の冷却速度や合金組成に依存してα-Fe相が晶出しやすいことから、組織を均一化し、α-Fe相を消去する目的で必要に応じて真空あるいはAr雰囲気中で700~1200℃で1時間以上の均質化処理を施すことが好ましい。なお、主相組成に近い合金をストリップキャスト法にて作製した場合は均質化を省略することもできる。液相助剤となるRリッチな合金については上記鋳造法のほかに、いわゆる液体急冷法を採用することもできる。
【0035】
上記粉砕工程は、例えば粗粉砕工程と微粉砕工程を含む複数段階の工程とされる。粗粉砕工程では、例えば、ジョークラッシャー、ブラウンミル、ピンミルあるいは水素化粉砕が用いられ、ストリップキャストにより作製された合金の場合、通常は水素化粉砕を適用することで、例えば0.05~3mm、特に0.05~1.5mmに粗粉砕された粗粉を得ることができる。
【0036】
上記微粉砕工程においては、上記粗粉砕工程で得られた粗粉に対して潤滑剤を添加し、例えばジェットミル粉砕などの方法を用いて微粉砕する。
【0037】
本発明の製造方法では、この微粉砕工程において、極性官能基とシクロヘキサン骨格を有する化合物を潤滑剤として用い、微粉末の平均粒径が0.5~3.5μmの範囲となるように微粉砕を行う。この場合、より好ましい微粉末の平均粒径は1.0~3.0μm、更に好ましくは1.5~2.8μmである。このように、特定の化合物を潤滑剤として用い、上記範囲の平均粒径に調製された微粉末を成形し熱処理して焼結体とすることにより特に高い磁気特性を示す上記本発明の希土類焼結磁石を得ることができる。なお、粉末の平均粒径は、レーザー回折・散乱法によって測定された体積基準の粒度分布におけるメジアン径を指すものとする。また、上記のように高い磁気特性が得られる理由は必ずしも明らかではないが、次のように推測することができる。
【0038】
潤滑剤として用いる極性官能基とシクロヘキサン骨格を有する化合物は、極性官能基を有することで効果的に微粉粒子に吸着し、さらにシクロヘキサン骨格は立体的な分子構造であることから、微粉粒子同士の反発を強め、既知の潤滑剤である直鎖の脂肪酸系化合物等と比較して、微粉粒子の分散性を向上させる効果が働くものと考えられる。一方、極性官能基とシクロヘキサン骨格を有する化合物を潤滑剤として用いる場合、従来潤滑剤として用いられる長い直鎖アルキル基を有する脂肪酸等と比較して粒子間の摩擦力が高くなってしまう。特に、微粉の平均粒径が一定よりも大きな場合、すなわち微粉の粒度分布が広い場合には、希土類焼結磁石製造上の成形工程において、成形キャビティへ微粉が充填されやすいため、微粉粒子同士の接触が起こりやすく、磁場配向時に粒子間の摩擦力の影響が強く表れ、長い直鎖アルキル基を有する化合物を潤滑剤として用いた場合と比較して配向度が悪化してしまう。他方、微粉粒径が一定よりも小さな場合には、微粉の粒度分布は狭く微粉が充填されにくいため粒子同士の接触は少なく、立体的に大きな分子構造の化合物を用いることによる微粉末の分散性向上効果が粒子間の摩擦力の上昇の影響を上回り、磁場中成形での配向性が向上すると考えられる。
【0039】
この潤滑剤化合物は、上記のように、微粉末の表面に対して潤滑剤の化学的な吸着を促す目的から、極性官能基を有しており、その極性官能基としては、微粉末への吸着に有効と考えられる官能基が分子末端に独立して存在し得るOH基、NH2基、COOH基、CH3COO基であることが好ましい。
【0040】
上記潤滑剤として具体的には、特に制限されるものではないが、例えば以下の化合物が挙げられる。極性官能基とシクロヘキサン骨格を有する化合物として、シクロヘキサノール、シクロヘキシルアミン、シクロヘキサノン、シクロヘキシルカルボン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、シクロヘキサンカルボン酸メチル等が挙げられ、さらに、同じく分子内にシクロヘキサン骨格を有する環状テルペン類として、メントール、メントン、ショウノウ、カンファーキノン、ボルネオール、イソボルネオール、酢酸イソボルニル、ノルボルナノン等が挙げられ、光学異性体が存在する化合物については、その立体構造によって効果が限定されるものではない。また、所定の添加量の範囲において、これらの潤滑剤を複数種類組み合わせて用いても良い。
【0041】
潤滑剤の分子量は、一定量の潤滑剤添加量において微粉粒子を十分に被覆するのに必要な分子数の観点から、好ましくは250以下であり、より好ましくは200以下である。
【0042】
潤滑剤の性状としては、微粉砕工程において粗粉末とともにジェットミル系内に添加され連続して多量に粉砕した際におけるジェットミル系内での潤滑剤濃度上昇によって低温部で析出するリスクや、焼結磁石の炭素濃度が過度に上昇するリスクを低減する目的から、25℃における蒸気圧が15Pa以下であることが好ましく、10Pa以下であることがより好ましい。なお、潤滑剤の室温での状態は特に制限されるものではないが、微粉砕工程において潤滑剤が微粉をより均一に被覆する観点から、潤滑剤は25℃で液体であることが好ましい。
【0043】
潤滑剤の添加量は、微粉粒径が3.5μm以下と小さく配向しづらい微粉末に対して十分な配向度を得る観点から、粗粉砕粉末100質量部に対して、0.08質量部以上であることが好ましく、0.10質量部以上であることがより好ましい。また、Cの増加によるHcJの低下を抑制する観点から、0.3質量部以下であることが好ましく、0.2質量部以下であることがより好ましい。
【0044】
微粉砕工程における微粉の平均粒径は、上記のとおり、0.5~3.5μmであり、好ましくは1.0~3.0μm、より好ましくは1.5~2.8μmである。上記下限値の0.5μmは、微粉末の酸化、窒化を抑制する観点及び良好なHcJを得る観点による設定値であり、また上限値の3.5μmは、十分なHcJを得る観点による設定値である。
【0045】
このようにして調製した上記微粉末を磁場印加中で圧粉成形して成形体を得、かかる成形体を熱処理して焼結体とすることにより、焼結磁石とする。
【0046】
成形工程においては、400~1600kA/mの磁界を印加し、合金粉末を磁化容易軸方向に配向させながら、圧縮成形機で圧粉成形する。このとき、成形体密度を2.8~3.6g/cm3にすることが好ましく、3.0~3.4g/cm3にすることがより好ましい。成形体の強度を確保して良好な取扱性を得る観点から、成形体密度は2.8g/cm3以上とすることが好ましい。一方、十分な成形体強度を得つつ、加圧時の粒子の配向を良好に確保することで好適なBrを得る観点から、成形体密度は3.6g/cm3以下とすることが好ましい。このような範囲であれば、成形体強度が高い場合に圧縮成形の際に印加磁場方向に整列した微粉粒子の配向が乱れることによるBrの低下を抑制できる。また、成形は合金微粉の酸化を抑制するため、窒素ガス、Arガスなどのガス雰囲気で行うことが好ましい。
【0047】
ここで、潤滑剤として上記化合物を添加して作製した成形体は、上述のような微粉末粒子間の摩擦力の上昇により、ステアリン酸のような従来の潤滑剤を用いて作製した成形体と比較して成形体強度が高くなる効果があることが知見された。これにより、成形体のワレ、カケの減少による生産性の向上が見込まれるとともに、従来よりも低い成形圧力でも十分な強度を保ったまま成形体を作製することが可能となり、圧縮成形時の配向の乱れを抑制し、より高いBrを得ることも可能となる。
【0048】
ここで、成形体強度は一般的にはロードセルを用いた圧縮試験や抗折強度試験等の手法が用いられるが、当該圧粉体は大気中で発火する恐れがあるため、例えば、グローブボックス内に設置したプッシュプルゲージを用い、所定形状の成形体に上方からゲージを押し込み、成形体にクラックが発生した瞬間の破断圧力を測定し簡易的に評価することができる。本発明において成形体強度の測定には、アイコーエンジニアリング製デジタルフォースゲージRZ-10と電動テストスタンドMODEL-2257を用いることができる。特に制限されるものではないが、圧粉成形後にダイスから成形体を取り出す際のスプリングバックによる成形体の損壊、成形体のクランプもしくは真空吸着パッドによる把持の際の圧壊、成形体を熱処理容器に配置する際の成形体稜線部のワレやカケによる歩留まりの悪化を低減する観点から、この測定による成形体強度は20N以上であることが好ましく、30N以上であることがより好ましい。
【0049】
熱処理工程においては、成形工程で得られた成形体を高真空中又はArガスなどの非酸化性雰囲気中で焼結する。一般的に前記焼結は950℃~1200℃の温度範囲で0.5~10時間保持することで行うことが好ましい。前記焼結が終了した際の冷却はガス急冷(冷却速度:20℃/min以上)、制御冷却(冷却速度:1~20℃/min)、炉冷のいずれの方法で行っても良く、得られるR-Fe-B系焼結磁石の磁気特性は同様となる。
【0050】
焼結のための上記熱処理に続いて、特に制限されるものではないが、HcJを高めることを目的に、前記焼結温度より低い温度で熱処理を実施しても良い。この焼結後熱処理は、高温熱処理と低温熱処理の2段階の熱処理を行っても良いし、低温熱処理のみを行っても良い。この焼結後熱処理における高温熱処理では、焼結体を600~950℃の温度で熱処理することが好ましく、低温熱処理では400~600℃の温度で熱処理することが好ましい。その際の冷却もガス急冷(冷却速度:20℃/min以上)、制御冷却(冷却速度:1~20℃/min)、炉冷のいずれの方法で行っても良く、いずれの冷却方法であっても同様な磁気特性を有するR-Fe-B系焼結磁石が得られる。
【0051】
ここで、熱処理工程後に得られる焼結体の磁気特性をBHトレーサで測定することによって得られる配向度について、従来焼結体の平均結晶粒径が小さい、すなわち微粉粒径が小さい場合、成形工程において磁場配向しにくくなり配向度が低下するが、上述したように、配向度Or(%)と平均結晶粒径D50(μm)とが上記式(2)(Or>0.7×D50+95)を満たすとき、結晶粒径の微細化によるHcJの向上効果と高いBrを両立することが可能となる。特に、このとき結晶粒径の微細化の効果を得る観点から、平均結晶粒径D50は、上述のように4.5μm以下であり、4.0μm以下であることが好ましく、3.5μm以下であることがより好ましい。
【0052】
熱処理工程後に得られる焼結磁石の炭素濃度は、微粉砕時に添加する潤滑剤の量に依存するものであり、高いBrを得るために多量の潤滑剤を添加すると炭素濃度が高くなりHcJが低下してしまい、添加量が少なければ十分な配向を得ることができない。上記の観点から、焼結磁石の炭素濃度は、上述のように、800~1400ppmの範囲とされ、900~1200ppmの範囲であることがより好ましい。
【0053】
また、熱処理工程後に得られる焼結磁石の酸素濃度は、不純物を低減しつつR添加量を減らすことで高いBrを得るという観点から、上述したように、1000ppm以下とされ、800ppm以下であることがより好ましい。また、焼結体の酸素濃度は微粉砕工程における酸素、水分の存在に強く影響を受けるが、酸素濃度が1000ppmを超えている場合、微粉表面の酸化、水酸化が顕著になり、金属表面上の吸着サイトが減少し、潤滑剤の吸着量が減ることで十分な効果を発揮することができない。
【0054】
さらに、熱処理工程後に得られる焼結磁石の窒素濃度は、上述したように、良好なHcJを得るという観点から、800ppm以下とされ、500ppm以下であることが好ましく、400ppm以下であることがより好ましい。焼結磁石の窒素濃度については、微粉砕工程や成形工程において不活性ガスとして窒素を用いる場合、不活性ガス中の酸素、水分濃度が低下するのに伴い、微粉末表面に空の吸着サイトが増え、窒素の吸着が増えることによって上昇してしまうものと考えられるが、焼結磁石の窒素濃度の上昇はHcJの低下をもたらすため窒素濃度は低くあることが望ましい。また、本発明における微粉の平均粒径3.5μm以下においては、微粉末の粒径減少に伴い比表面積が急激に増大することで窒素の吸着量が多くなるものの、極性官能基とシクロヘキサン骨格を有する化合物を添加して微粉砕を行うことで、従来の潤滑剤と比較して窒素濃度を低減できることがわかった。
【0055】
また、得られた焼結磁石に対して、DyやTbを用いた粒界拡散処理を施してもよく、上記のように窒素濃度を800ppm以下に低減することで、粒界拡散後のHcJの増大量を低下させずに安定した特性が得られる。
【実施例
【0056】
以下、実施例、比較例を示し、本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記実施例に制限されるものではない。
【0057】
[実施例1~7、比較例1~4]
Nd:30.0質量%、Co:1.0質量%、B:0.9質量%、Al:0.1質量%、Cu:0.2質量%、Zr:0.2質量%、Ga:0.1質量%、Fe:残部となるように、各元素の原料をArガス雰囲気中、高周波誘導炉で溶解し、水冷銅ロール上で溶融合金を冷却するストリップキャスト法によって合金薄帯を作製した。次に、作製した合金薄帯を水素化による粗粉砕を行い粗粉末を得、続いて、得られた粗粉末に潤滑剤として、下記分子構造のメントール(実施例1)、シクロヘキサンカルボン酸(実施例2)、シクロヘキサノール(実施例3)、ショウノウ(実施例4)、ボルネオール(実施例5)、カンファーキノン(実施例6)、酢酸イソボルニル(実施例7)、ステアリン酸(比較例1)、シクロヘキサン(比較例2)、アダマンタン(比較例3)、カンフェン(比較例4)を0.15質量%加えて混合した。この粗粉末と潤滑剤の混合物を、酸素濃度、水分濃度を制御した窒素気流中のジェットミルで平均粒径2.8μmになるよう微粉砕を行った。
【0058】
【化1】
【0059】
次いで、得られた微粉末を窒素雰囲気中で電磁石を備えた成形装置の金型に充填し、15kOe(1.19MA/m)の磁界中で配向させながら、磁界に対して垂直方向に10kNの荷重で加圧成形した。得られた成形体を真空中にて1050℃で3時間焼結し、200℃以下まで冷却した後、900℃で2時間の高温熱処理を行い、500℃で3時間の低温熱処理を行って、焼結体を得た。
【0060】
得られた各焼結体の中心部を18mm×15mm×12mmのサイズの直方体形状に切出して焼結磁石を得、かかる各焼結磁石についてB-Hトレーサを用いて磁気特性を測定した。表1に実施例1~7および比較例1~4それぞれの値を示す。なお、焼結磁石の酸素濃度については不活性ガス融解赤外吸収法、窒素濃度については不活性ガス融解熱伝導法、炭素濃度については燃焼赤外吸収法により測定した。平均結晶粒径D50(μm)については、焼結磁石の磁化方向に対して平行方向の断面を鏡面になるまで研磨し、グリセリン:硝酸:塩酸=3:1:2の混合溶液に浸漬して断面の粒界相を選択的にエッチングし、レーザー顕微鏡で85×85μmの範囲の断面像を25枚取得し、得られた断面像をもとに、画像解析にて個々の粒子の断面積を測定し、円相当径として算出された各粒子の直径の面積平均として求めた。
【0061】
[比較例5]
Nd:30.0質量%、Co:1.0質量%、B:0.9質量%、Al:0.1質量%、Cu:0.2質量%、Zr:0.2質量%、Ga:0.1質量%、Fe:残部となるように、各元素の原料をArガス雰囲気中、高周波誘導炉で溶解し、水冷銅ロール上で溶融合金を冷却するストリップキャスト法によって合金薄帯を作製した。次に、作製した合金薄帯を水素化による粗粉砕を行い粗粉末を得、続いて、得られた粗粉末に潤滑剤として、メントールを0.15質量%加えて混合した。この粗粉末と潤滑剤の混合物を、酸素濃度、水分濃度を制御した窒素気流中のジェットミルで平均粒径2.8μmになるよう微粉砕を行った。このとき、ジェットミル系内の酸素濃度を調整することにより、酸素含有量が1500ppmとなるよう調整を行った。
【0062】
次に、得られた微粉末を窒素雰囲気中で電磁石を備えた成形装置の金型に充填し、15kOe(1.19MA/m)の磁界中で配向させながら、磁界に対して垂直方向に10kNの荷重で加圧成形した。得られた成形体を真空中にて1050℃で3時間焼結し、200℃以下まで冷却した後、900℃で2時間の高温熱処理を行い、500℃で3時間の低温熱処理を行って、焼結体を得た。その後、実施例1と同様の方法で磁気特性、不純物元素の含有量、平均結晶粒径の測定を行った。結果を表1に示す。
【0063】
[比較例6、7]
Nd:30.0質量%、Co:1.0質量%、B:0.9質量%、Al:0.1質量%、Cu:0.2質量%、Zr:0.2質量%、Ga:0.1wt%、Fe:残部となるように、各元素の原料をArガス雰囲気中、高周波誘導炉で溶解し、水冷銅ロール上で溶融合金を冷却するストリップキャスト法によって合金薄帯を作製した。次に、作製した合金薄帯を水素化による粗粉砕を行い粗粉末を得、続いて、得られた粗粉末に潤滑剤として、メントールを0.07質量%(比較例6)、0.32質量%(比較例7)加えて混合した。次に、粗粉末と潤滑剤の混合物を、酸素濃度、水分濃度を制御した窒素気流中のジェットミルで平均粒径2.8μmになるよう微粉砕を行った。
【0064】
次に、得られた微粉末を窒素雰囲気中で電磁石を備えた成形装置の金型に充填し、15kOe(1.19MA/m)の磁界中で配向させながら、磁界に対して垂直方向に10kNの荷重で加圧成形した。得られた成形体を真空中にて1050℃で3時間焼結し、200℃以下まで冷却した後、900℃で2時間の高温熱処理を行い、500℃で3時間の低温熱処理を行って、焼結体を得た。その後、実施例1と同様の方法で磁気特性、不純物元素の含有量、平均結晶粒径の測定を行った。結果を表1に示す。
【0065】
【表1】
【0066】
表1に示されているように、本発明の条件を満足する方法によって作製された実施例1~7の焼結磁石は、比較例1~7と比較して、結晶粒径に対する配向度が優れ、窒素濃度も低いことから高いBrとHcJが両立されている。また、比較例5では酸素濃度が1480ppmと高く、焼結性が低下したことによって緻密化が不十分となりBrの低下がみられた。潤滑剤添加量が少なく、すなわち焼結体炭素濃度が低下した比較例6では、十分な配向度が得られずにBrが低下し、潤滑剤添加量が極端に多い比較例7では炭素濃度の上昇に伴うHcJの低下がみられた。
【0067】
[実施例8~10、比較例8~11]
Nd:30.0質量%、Co:1.0質量%、B:0.9質量%、Al:0.1質量%、Cu:0.2質量%、Zr:0.2質量%、Ga:0.1質量%、Fe:残部となるように、各元素の原料をArガス雰囲気中、高周波誘導炉で溶解し、水冷銅ロール上で溶融合金を冷却するストリップキャスト法によって合金薄帯を作製した。次に、作製した合金薄帯を水素化による粗粉砕を行い粗粉末を得、続いて、得られた粗粉末に潤滑剤として、メントールを0.15質量%加えて混合した。次に、粗粉末と潤滑剤の混合物を、窒素気流中のジェットミルで分級機回転数を変更することにより、平均粒径が2.1μm(実施例8)、3.1μm(実施例9)、3.5μm(実施例10)、4.0μm(比較例8)となるように微粉砕を行った。同様にして、粗粉末に潤滑剤として、ステアリン酸を0.15質量%加えて混合し、酸素濃度、水分濃度を制御した窒素気流中のジェットミルで分級機回転数を変更することにより、平均粒径が2.1μm(比較例9)、3.5μm(比較例10)、4.0μm(比較例11)となるように微粉砕を行った。
【0068】
次に、得られた微粉末を窒素雰囲気中で電磁石を備えた成形装置の金型に充填し、15kOe(1.19MA/m)の磁界中で配向させながら、磁界に対して垂直方向に10kNの荷重で加圧成形した。得られた成形体を真空中にて1050℃で3時間焼結し、200℃以下まで冷却した後、900℃で2時間の高温熱処理を行い、500℃で3時間の低温熱処理を行って、焼結体を得た。その後、実施例1と同様の方法で磁気特性、不純物元素の含有量、平均結晶粒径の測定を行った。結果を表2に示す。また、この表2の結果に表1に示した実施例1、比較例1の結果を加え、本発明における極性官能基とシクロヘキサン骨格を有する化合物であるメントールと、直鎖飽和脂肪酸であるステアリン酸とを潤滑剤としてそれぞれ用いた場合における平均結晶粒径D50と配向度の関係を示すグラフを図1に示す。
【0069】
【表2】
【0070】
図1に示されているように、潤滑剤として、極性官能基とシクロヘキサン骨格を有する化合物であるメントールを用い、平均結晶粒径D50が4.5μm以下の時に、従来潤滑剤として用いられるステアリン酸と比べ、高い配向度を有することが確認された。一方、平均結晶粒径が4.5μmを超える時、潤滑剤としてメントールを用いた比較例8で最も高いBrが得られるものの、実施例と比較してHcJが低かった。以上の結果から、平均結晶粒径D50と配向度Orについて、D50が4.5μm以下で(Or>0.7×D50+95)の関係を満たすときに高い配向度と高いHcJを両立することが分る。
【0071】
[実施例11~13、比較例12~14]
Nd:30.0質量%、Co:1.0質量%、B:0.9質量%、Al:0.1質量%、Cu:0.2質量%、Zr:0.2質量%、Ga:0.1質量%、Fe:残部となるように、各元素の原料をArガス雰囲気中、高周波誘導炉で溶解し、水冷銅ロール上で溶融合金を冷却するストリップキャスト法によって合金薄帯を作製した。次に、作製した合金薄帯を水素化による粗粉砕を行い粗粉末を得、続いて、得られた粗粉末に潤滑剤として、メントールを0.15質量%加えて混合した。次に、粗粉末と潤滑剤の混合物を、酸素濃度、水分濃度を制御した窒素気流中のジェットミルで平均粒径が2.9μmとなるよう微粉砕を行った(実施例11~13)。同様にして、粗粉末に潤滑剤として、ラウリン酸を0.15質量%加えて混合し、酸素濃度、水分濃度を制御した窒素気流中のジェットミルで平均粒径が2.9μmとなるよう微粉砕を行った(比較例12~14)。
【0072】
次に、微粉末を窒素雰囲気中で電磁石を備えた成形装置の金型に充填し、15kOe(1.19MA/m)の磁界中で配向させながら、磁界に対して表3に示した条件で垂直方向に加圧成形した。得られた成形体の密度と成形体強度を同表に示す。なお、成形体強度はグローブボックス内に設置したプッシュプルゲージを用い、ゲージを成形体に押し込み、成形体にクラックが発生した瞬間の破断圧力とした。測定試料数は8個以上とし、同表の値は最大値と最小値を除いた点の平均値とした。成形体強度の測定には、アイコーエンジニアリング製デジタルフォースゲージRZ-10と電動テストスタンドMODEL-2257を用いた。
【0073】
また、成形体強度の測定に使用しなかった成形体を真空中にて1050℃で3時間焼結し、200℃以下まで冷却した後、900℃で2時間の高温熱処理を行い、500℃で3時間の低温熱処理を行って、焼結体を得た。
【0074】
得られた各焼結体の中心部を18mm×15mm×12mmのサイズの直方体形状に切出して焼結磁石を得、かかる各焼結磁石についてB-Hトレーサを用いて磁気特性(Br)を測定した。表3に実施例11~13および比較例12~14それぞれの値を示す。
【0075】
【表3】
【0076】
表3の実施例11~13に示されているように、潤滑剤としてメントールを用いた場合、成形体密度が低い場合でも高い成形体強度を示し、成形体ハンドリング時のワレ、カケの発生率を低減し、成形歩留まりの向上が期待されるとともに、高いBrが得られる。一方、比較例12は実施例に並ぶ高いBrが得られるものの、成形体強度が低いため成形体のハンドリングが困難であり、成形歩留りは悪化する。
図1