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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-21
(45)【発行日】2024-10-29
(54)【発明の名称】成形装置
(51)【国際特許分類】
   C03B 17/06 20060101AFI20241022BHJP
【FI】
C03B17/06
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021104796
(22)【出願日】2021-06-24
(65)【公開番号】P2023003618
(43)【公開日】2023-01-17
【審査請求日】2024-02-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】岡本 功太
(72)【発明者】
【氏名】伊賀 元一
(72)【発明者】
【氏名】中野 正徳
(72)【発明者】
【氏名】石橋 弘輝
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 隆史
【審査官】三村 潤一郎
(56)【参考文献】
【文献】特表2014-515721(JP,A)
【文献】特表2011-505319(JP,A)
【文献】特開2000-335924(JP,A)
【文献】特開2020-132469(JP,A)
【文献】特表平04-502900(JP,A)
【文献】特開2012-031053(JP,A)
【文献】国際公開第2012/114842(WO,A1)
【文献】特開平05-139766(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03B 17/00 - 17/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
収容部に収容される溶融ガラスを成形してガラスリボンを形成する成形装置であって、
本体と、
該本体の溶融ガラスと接触する部分に設置された複数の板部材と、
を有し、
各板部材は、厚さが0.5mm~100mmの範囲であり、前記溶融ガラスに対して不活性な材料で構成され、
前記収容部は、前記本体の内側側壁を有し、前記板部材の少なくとも一つは、前記内側側壁の少なくとも一部を覆い、
前記内側側壁と、該内側側壁を覆う前記板部材との間の少なくとも一部には、緩衝材が配置されている、成形装置。
【請求項2】
前記緩衝材は、耐熱性のあるフェルトを有する、請求項1に記載の成形装置。
【請求項3】
前記フェルトは、カーボンフェルト、アルミナフェルト、シリカフェルト、およびジルコニアフェルトからなる群から選定された少なくとも一つを有する、請求項2に記載の成形装置。
【請求項4】
前記本体は、前記収容部において、上面視、相互に対向する第1の内側側壁および第2の内側側壁を有し、該第1の内側側壁および該第2の内側側壁は、前記本体の長手方向に対して垂直な方向に延在し、
前記緩衝材は、前記第1の内側側壁と、該第1の内側側壁を覆う前記板部材との間、および/または前記第2の内側側壁と、該第2の内側側壁を覆う前記板部材との間に設置される、請求項3に記載の成形装置。
【請求項5】
当該成形装置は、前記本体に接続された溶融ガラスの供給管を有し、
前記第1の内側側壁は、前記第2の内側側壁に比べて、前記供給管により近く、
前記緩衝材は、前記第2の内側側壁と、該第2の内側側壁を覆う前記板部材との間に設置される、請求項4に記載の成形装置。
【請求項6】
前記本体は、該本体の室温における熱伝導率をκ(W/mK)とし、熱膨張率をρ(10-6K)としたとき、比κ/ρが1以上となる材料で構成されている、請求項1乃至5のいずれか一つに記載の成形装置。
【請求項7】
前記本体は、カーボン(C)、炭化ケイ素(SiC)、シリカ焼結体、ニッケル(Ni)、モリブデン(Mo)、およびステンレス鋼からなる群から選定された1つ以上の材料で構成される、請求項1乃至6のいずれか一つに記載の成形装置。
【請求項8】
前記板部材は、石英、ジルコニア、ムライト、ジルコン、およびマグネシアからなる群から選定された1つ以上の材料で構成される、請求項1乃至7のいずれか一つに記載の成形装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス板の製造設備用の成形装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ガラス板は、例えば、フュージョン法およびスリットダウンドロー法等のような方法を用いて、連続的に製造することができる。
【0003】
例えば、フュージョン法では、ガラス原料を溶解することにより得られた溶融ガラスが、成形用の装置(以下、「成形装置」と称する)の上部に供給される。成形装置は、断面が下向きに尖った略くさび状となっており、溶融ガラスは、この成形装置の対向する2つの側面に沿って流下される。両側面に沿って流下する溶融ガラスは、成形装置の下側端部(「合流点」ともいう)で合流、一体化され、ガラスリボンが成形される。その後、このガラスリボンは、ローラなどの牽引部材により、徐冷されながら下向きに牽引され、所定の寸法で切断される(例えば特許文献1)。
【0004】
また、スリットダウンドロー法では、溶融ガラスを収容する成形装置は、底部にスリット状の開口を有する。溶融ガラスは、この開口を介して流下された後に、ガラスリボンとなる。その後ガラスリボンが徐冷された後、切断され、ガラス板が製造される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2016-028005号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のような方法または別の方法で、ガラス板を製造する製造設備において、ガラス板の製造効率向上等の観点から、成形装置に対しては、迅速な昇温および降温に耐え得る構成が望まれている。ただし、そのためには、成形装置として、熱衝撃に強い材料を採用する必要がある。
【0007】
しかしながら、通常、そのような耐熱衝撃性を有する材料は、ガラスに対する反応性が高い場合が多く、成形装置の材料として使用することは難しいという問題がある。このため、従来の成形装置では、昇温速度および降温速度をあまり高めることができず、従って、ガラス板の製造効率を高めることが難しいという問題がある。
【0008】
本発明は、このような背景に鑑みなされたものであり、本発明では、従来に比べて、迅速な昇温および降温が可能な、ガラス板の製造設備用の成形装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明では、収容部に収容される溶融ガラスを成形してガラスリボンを形成する成形装置であって、
本体と、
該本体の溶融ガラスと接触する部分に設置された複数の板部材と、
を有し、
各板部材は、厚さが0.5mm~100mmの範囲であり、前記溶融ガラスに対して不活性な材料で構成され、
前記収容部は、前記本体の内側側壁を有し、前記板部材の少なくとも一つは、前記内側側壁の少なくとも一部を覆い、
前記内側側壁と、該内側側壁を覆う前記板部材との間の少なくとも一部には、緩衝材が配置されている、成形装置が提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明では、従来に比べて、迅速な昇温および降温が可能な、ガラス板の製造設備用の成形装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の一実施形態による成形装置を有するガラス板の製造設備の構成例を模式的に示した図である。
図2図1に示したガラス板の製造設備のA-A線に沿った断面を模式的に示した図である。
図3】成形装置の収容部の水平方向に平行な断面を模式的に示した図である。
図4】本発明の一実施形態による成形装置の一構成例の水平方向に平行な断面を模式的に示した図である。
図5】本発明の一実施形態による成形装置を有する別の製造設備の構成例を模式的に示した斜視図である。
図6図5に示した製造設備のB-B線に沿った断面を模式的に示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して、本発明の一実施形態について説明する。
【0013】
(本発明の一実施形態による成形装置を有するガラス板の製造設備)
まず、図1および図2を参照して、本発明の一実施形態による成形装置を有するガラス板の製造設備の概略について説明する。
【0014】
図1および図2には、本発明の一実施形態による成形装置を有するガラス板の製造設備(以下、「第1の製造設備」と称する)100の構成を概略的に示す。第1の製造設備100では、フュージョン法により、ガラス板を連続的に製造することができる。
【0015】
なお、図2は、図1における第1の製造設備100のA-A線に沿った断面を模式的に示した図である。
【0016】
図1および図2に示すように、第1の製造設備100は、本発明の一実施形態による成形装置110と、該成形装置110を収容する炉150と、成形装置110の下方に配置された複数のローラ160とを備える。なお、図には示されていないが、第1の製造設備100は、さらに、炉150の下方に、切断部材を有する。
【0017】
成形装置110は、溶融ガラスMGからガラスリボンGRを成形する機能を有する。成形装置110は、供給管105と接続されており、該供給管105を介して、成形装置110に溶融ガラスMGが供給される。
【0018】
成形装置110は、本体120と、板部材130とを有する。
【0019】
成形装置110の本体120は、図2に示すような断面略くさび状の形状を有する。より具体的には、本体120は、該本体120の上面121に設けられた凹部122と、相互に対向する第1の側面124aおよび第2の側面124bと、第1の側面124aと第2の側面124bの交差部である下側端部129とを有する。
【0020】
凹部122は、本体120の長手方向、すなわち図1および図2におけるX方向に沿って形成されている。
【0021】
第1の側面124aは、第1の上側面126aと、第1の下側面128aとを有する。同様に、第2の側面124bは、第2の上側面126bと、第2の下側面128bとを有する。
【0022】
第1の上側面126aおよび第2の上側面126bは、いずれも、本体120の略長手方向(X方向)および略鉛直方向(Z方向)に延在しており、従ってXZ面と略平行に配置される。一方、第1の下側面128aおよび第2の下側面128bは、鉛直方向(Z方向)に対して傾斜しており、本体120の下側端部129で相互に交差するように配置される。
【0023】
第1の下側面128aの上部は、第1の上側面126aの下部と接続され、第2の下側面128bの上部は、第2の上側面126bの下部と接続されている。
【0024】
また、成形装置110の板部材130は、本体120の露出表面のうち、少なくともガラスと直接接触する箇所に設置される。
【0025】
例えば、図2に示した例では、板部材130は、本体120の上面121、凹部122、第1の側面124a(第1の上側面126aおよび第1の下側面128a)、および第2の側面124b(第2の上側面126bおよび第2の下側面128b)を覆うように設置されている。
【0026】
なお、成形装置110は、本体120の形状と略共形の形状を有する。すなわち、成形装置110は、上面111、凹部112、第1の側面114a(第1の上側面116aおよび第1の下側面118a)、第2の側面114b(第2の上側面116bおよび第2の下側面118b)、および下側端部119を有し、これらの箇所は、いずれも本体120の対応するそれぞれの箇所と類似の形状を有する。また、これらの箇所は、いずれも板部材130の露出表面で構成される。
【0027】
各ローラ160は、ガラスリボンGRの厚さを調整しながら、ガラスリボンGRを下方に搬送する役割を有する。
【0028】
なお、本願では、成形装置110の凹部112を含む、溶融ガラスMGを収容する部分を、特に「(成形装置110の)収容部」140と称する。収容部170は、板部材130で覆われている。
【0029】
このような第1の製造設備100を用いてガラス板を製造する場合、まず、供給管105を介して、成形装置110に溶融ガラスMGが供給される。
【0030】
成形装置110に供給された溶融ガラスMGは、収容部170に収容される。ただし、収容部170の収容容積を超える溶融ガラスMGが供給されると、溶融ガラスMGは、成形装置110の第1の側面114aおよび第2の側面114bに沿って溢れ、下方に流出する。
【0031】
これにより、成形装置110の第1の上側面116aに、第1の溶融ガラス部分190aが形成され、成形装置110の第2の上側面116bに、第2の溶融ガラス部分190bが形成される。
【0032】
その後、第1の溶融ガラス部分190aは、成形装置110の第1の下側面118aに沿って、さらに下方に流出する。同様に、第2の溶融ガラス部分190bは、成形装置110の第2の下側面118bに沿って、さらに下方に流出する。
【0033】
その結果、第1の溶融ガラス部分190aおよび第2の溶融ガラス部分190bは、成形装置110の下側端部119に至り、ここで一体化される。これにより、ガラスリボンGRが形成される。
【0034】
なお、その後、ガラスリボンGRは、ローラ160により、さらに鉛直方向に下方に牽引され、その過程で徐冷される。
【0035】
その後、十分に徐冷されたガラスリボンGRは、炉150から排出され、切断手段(図示されていない)により、所定の寸法に切断される。
【0036】
以上の工程により、ガラス板を連続的に製造することができる。
【0037】
(本発明の一実施形態による成形装置)
次に、本発明の一実施形態による成形装置110の特徴について、より詳しく説明する。
【0038】
ガラス板の製造効率向上等の観点から、ガラス板の製造設備に含まれる成形装置には、迅速な昇温および降温に耐え得る構成が望まれている。
【0039】
しかしながら、従来の製造設備では、成形装置の主要部分は耐熱レンガのような材料で構成されている場合が多く、急激な昇温および降温を行うと、熱衝撃により本体が損傷する危険がある。このため、従来の製造設備では、昇温速度および降温速度をあまり高めることができないという問題がある。ここで熱衝撃による損傷とは、急激な温度変化による材料に生じる温度分布で割れる脆性破壊と、急激な温度変化による材料に生じる大きな温度分布で変形する延性変形のいずれか一方または両方を含むものである。
【0040】
なお、このような問題に対処するため、成形装置の本体の材料として、熱衝撃に強い材料を採用することが考えられる。しかしながら、一般に、良好な耐熱衝撃性を有する材料は、ガラスとの反応性が高く、成形装置の本体として使用することは難しい。
【0041】
これに対して、第1の製造設備100では、前述のように、成形装置110の主要部分は、本体120と、厚さが0.5mm~100mmの範囲の板部材130とを有する。また、この板部材130は、溶融ガラスMGに対して不活性な材料で構成され、本体120の、溶融ガラスMGと接触する場所に設置される。
【0042】
このような特徴を有する第1の製造設備100では、本体120が板部材130によって保護されているため、ガラス板の製造の際に、成形装置110の本体120が溶融ガラスMGと接触する可能性が有意に抑制される。従って、本体120に、耐熱衝撃性を有する材料を選定することができる。
【0043】
また、成形装置110の板部材130は、厚さが0.5mm~100mmの範囲であり、熱衝撃を受けても割れ難いという特徴を有する。
【0044】
以上の効果により、第1の製造設備100では、成形装置110に対して、迅速な昇温および降温を行うことができる。また、これにより、第1の製造設備100では、より効率的にガラス板を製造することが可能となる。
【0045】
ただし、単に本体120に板部材130を設置しただけでは、本体120と板部材130の間の熱膨張係数の差異により、成形装置110の収容部170に問題が生じ得る。
【0046】
以下、図3を用いて、そのような問題について説明する。
【0047】
図3は、成形装置110の収容部170をXY平面に沿って切断した際に得られる模式的な断面図である。図3では、図面の明確化のため、供給管105等、一部の部材は、省略されている。
【0048】
図3に示すように、成形装置110の収容部170は、本体120の凹部122を覆うように設置された板部材130により構成される。
【0049】
より具体的には、本体120は、相互に対向する第1の内側側壁142aおよび第2の内側側壁142bと、相互に対向する第3の内側側壁142cおよび第4の内側側壁142dとを有する。
【0050】
図3において、第1の内側側壁142aおよび第2の内壁面142bは、YZ方向に延在している。一方、第3の内側側壁142cおよび第4の内側側壁142dは、XZ方向に延在している。第3の内側側壁142cは、本体120の第1の上側面126aと対向する。また、第4の内側側壁142dは、本体120の第2の上側面126bと対向する。
【0051】
第1の内側側壁142aには、第1の板部材130Aが設置され、第2の内側側壁142bには、第2の板部材130Bが設置される。また、第3の内側側壁142cには、第3の板部材130Cが設置され、第4の内側側壁142dには、第4の板部材130Dが設置される。
【0052】
また、本体120の第1の上側面126aには、第5の板部材130Eが設置され、本体120の第2の上側面126bには、第6の板部材130Fが設置されている。
【0053】
このような収容部170の構成において、第1のケースとして、成形装置110の稼働温度(例えば1100℃)において、板部材130の熱膨張係数が本体120の熱膨張係数よりも大きい場合を想定する。
【0054】
この場合、成形装置110の稼働温度では、本体120の第1の内側側壁142a~第4の内側側壁142dの膨張よりも、第1の板部材130A~第4の板部材130Dの膨張が大きくなる。このため、第1の内側側壁142a~第4の内側側壁142dは、膨張した第1の板部材130A~第4の板部材130Dによって応力を受ける。これにより、本体120が破損するリスクが生じる。
【0055】
なお、第3の板部材130Cおよび第4の板部材130Dは、第1の板部材130Aおよび第2の板部材130Bよりも寸法が大きいため、より膨張が顕著となる。その結果、収容部170は、長手方向に対して垂直な方向(Y方向)に比べて、長手方向(X方向)に沿った方向に、より大きな力を受ける。
【0056】
また、このようなリスクを抑制するためには、稼働前(室温)の段階で、本体120の各場所(第1の内側側壁142a~第4の内側側壁142d)と板部材130の膨張差を予め予想して、板部材130A~130Dの寸法を調整しておく必要がある。しかしながら、成形装置110の稼働温度にはある程度の幅があり、そのような調整は、容易ではない。
【0057】
次に、第2のケースとして、成形装置110の稼働温度において、本体120の熱膨張係数が板部材130の熱膨張係数よりも大きい場合を想定する。
【0058】
この場合、成形装置110の稼働温度では、本体120の第1の内側側壁142a~第4の内側側壁142dが、第1の板部材130A~第4の板部材130Dよりも膨張する。そのため、本体120と板部材130の間に隙間が生じ、板部材130の位置ずれが生じたり、板部材130が支持を失い倒壊してしまう可能性が高くなる。
【0059】
このように、単に、本体120に板部材130を設置しただけでは、成形装置110の収容部170に問題が生じる場合がある。
【0060】
この点、本発明の一実施形態では、収容部に収容される溶融ガラスを成形してガラスリボンを形成する成形装置であって、
本体と、
該本体の溶融ガラスと接触する部分に設置された複数の板部材と、
を有し、
各板部材は、厚さが0.5mm~100mmの範囲であり、前記溶融ガラスに対して不活性な材料で構成され、
前記収容部は、前記本体の内側側壁を有し、前記板部材の少なくとも一つは、前記内側側壁の少なくとも一部を覆い、
前記内側側壁と、該内側側壁を覆う前記板部材との間の少なくとも一部には、緩衝材が配置されている、成形装置が提供される。
【0061】
本発明の一実施形態による成形装置では、本体の内側側壁と、該内側側壁を覆う板部材との間に、緩衝材が配置される。
【0062】
例えば、図3に示した例では、緩衝材は、本体120の第1の内側側壁142aと第1の板部材130Aとの間、第2の内側側壁142bと第2の板部材130Bとの間、第3の内側側壁142cと第3の板部材130Cとの間、および第4の内側側壁142dと第4の板部材130Dとの間、の少なくとも一つに配置される。
【0063】
また、緩衝材は、成形装置110の作動温度(例えば、1100℃)において、ある程度の弾性を有するものから選定される。
【0064】
このような緩衝材を設けることにより、板部材130と本体120との間の熱膨張挙動の差異により生じ得る前述のような問題を、有意に解消または軽減することができる。
【0065】
(本発明の一実施形態による成形装置の具体的構成例)
次に、図4を参照して、本発明の一実施形態による成形装置の具体的構成例について説明する。
【0066】
図4には、本発明の一実施形態による成形装置(以下、「第1の成形装置」と称する)の概略的な断面図を示す。
【0067】
図4に示すように、第1の成形装置210は、本体220を有する。本体220の構造は、前述の図1および図2に示した成形装置110の本体120と同様であり、ここでは詳細を省略する。
【0068】
また、第1の成形装置210は、さらに、本体220の溶融ガラスMGと接触する箇所に配置された板部材230を有する。板部材230は、複数の板部材を組み合わせて構成される。例えば、図4に示した例では、板部材230は、第1の板部材230A~第6の板部材230Fを有する。なお、各板部材230A~230Fは、それぞれ、前述の成形装置110における板部材130A~130Fに対応する。
【0069】
第1の成形装置210は、さらに、緩衝材240を有する。緩衝材240は、第1の緩衝材240A~第4の緩衝材240Dを有する。
【0070】
第1の緩衝材240Aは、上面視、本体220の第1の内側側壁242aと第1の板部材230Aとの間に配置される。また、第2の緩衝材240Bは、上面視、本体220の第2の内側側壁242bと第2の板部材230Bとの間に配置される。同様に、第3の緩衝材240Cは、上面視、本体220の第3の内側側壁242cと第3の板部材230Cとの間に配置され、第4の緩衝材240Dは、上面視、本体220の第4の内側側壁242dと第4の板部材230Dとの間に配置される。
【0071】
このような緩衝材240を設けた場合、板部材230と本体220との間の熱膨張係数の差により、一方が他方に対して膨張した場合であっても、その影響を緩和し、または抑制することができる。
【0072】
例えば、前述の第1のケースの場合(稼働温度域において、板部材230の熱膨張係数が本体220の熱膨張係数よりも大きい場合)を想定する。この場合、成形装置210の稼働中に、第1の板部材230A~第4の板部材230Dは、それぞれ、本体220の対応する内側側壁242a~242dよりも膨張する。特に、第3の板部材230Cおよび第4の板部材230Dは、寸法が大きいため、第1の成形装置210の長手方向(X方向)に沿ったこれらの膨張は、より顕著となる。
【0073】
ただし、第1の成形装置210では、例えば、第3の板部材230Cおよび第4の板部材230Dの膨張により、本体220の第1の内側側壁242aに向かうX方向に沿った応力が生じても、かかる応力は、第1の緩衝材240Aにより吸収される。
【0074】
同様に、本体220の第2の内側側壁242bに向かうX方向に沿った応力が生じても、かかる応力は、第2の緩衝材240Bにより吸収される。
【0075】
また、例えば、第1の板部材230Aおよび第2の板部材230Bの膨張により、本体220の第3の内側側壁242cおよび第4の内側側壁242dに向かうY方向に沿った応力が生じても、これらの応力は、それぞれ、第3の緩衝材240Cおよび第4の緩衝材240Dにより吸収される。
【0076】
次に、前述の第2のケースの場合(稼働温度域において、本体220の熱膨張係数が板部材230の熱膨張係数よりも大きい場合)を想定する。この場合、第1の成形装置210の稼働中に、本体220の第1の内側側壁242a~第4の内側側壁242dが、第1の板部材230A~第4の板部材230Dよりも膨張する。
【0077】
しかしながら、係る膨張が生じても、本体220の第1の内側側壁242a~第4の内側側壁242dと、第1の板部材230A~第4の板部材230Dとの間に、隙間は生じ難い。両者の間には、第1の緩衝材240A~第4の緩衝材240Dが存在するためである。
【0078】
特に、各緩衝材240を予め圧縮した状態で、本体220と板部材230との間に配置しておけば、両者の間における隙間の発生をより確実に抑制することができる。
【0079】
その結果、第2のケースにおいて、稼働中に板部材230の位置ずれが生じたり、板部材230が支持を失い倒壊したりすることを有意に回避できる。
【0080】
このように、第1の成形装置210では、いずれのケースにおいても、前述のような収容部270において生じ得る問題を有意に回避し、または軽減することができる。
【0081】
なお、第1の成形装置210では、緩衝材240は、収容部270の4箇所、すなわち本体220の第1の内側側壁242a~第4の内側側壁242dに配置されている。
【0082】
しかしながら、これは単なる一例であって、緩衝材240は、本体220の第1の内側側壁242a~第4の内側側壁242dの少なくとも一つに配置されていればよい。
【0083】
例えば、第1の成形装置210は、第1の緩衝材240Aおよび/または第2の緩衝材240Bのみを有してもよい。
【0084】
前述の第1のケースでは、板部材230の膨張は、寸法がより大きな第3の板部材230Cおよび第4の板部材230Dにおいて、より顕著となる。従って、第1の緩衝材240Aおよび/または第2の緩衝材240Bを設置することにより、これらの膨張による影響をより有効に抑制することができる。
【0085】
さらに、第1の緩衝材240Aは省略されてもよい。
【0086】
図4に示した第1の成形装置210では、第1の板部材230Aの近傍には供給管205があるが、第1の緩衝材240Aが省略された場合、供給管205、第1の板部材230A、および本体220を隙間なく配置できる。従って、常温から稼働温度域へ温度が変化した時、それぞれの部材が相互に対してずれる量を小さく抑制できる。また、これにより、第1の板部材230Aの隙間から溶融ガラスMGが漏れ出すことを有意に抑制できる。
【0087】
一方、第1の板部材230Aと対向する第2の板部材230Bと第2の内側側壁242bとの間には第2の緩衝材240Bが存在する。従って、この第2の緩衝材240Bにより、寸法が大きい第3の板部材230Cおよび第4の板部材230Dの熱膨張による寸法変化の影響を有効に抑制できる。
【0088】
(成形装置を構成する各部材)
次に、本発明の一実施形態による成形装置を構成するそれぞれの部材について、より詳しく説明する。
【0089】
ここでは、一例として、図4に示した第1の成形装置210を例に、その構成部材について説明する。従って、各部材を表す際には、図4に使用した参照符号を使用する。
【0090】
(本体220)
本体220は、熱衝撃に強い材料で構成される。
【0091】
具体的には、本体220は、室温における熱伝導率をκ(W/mK)とし、熱膨張率をρ(10-6/K)としたとき、比κ/ρが1以上となる材料で構成される。
【0092】
このような材料には、室温からガラスの成形温度(例えば500℃~1500℃)まで急激に昇温したり、ガラスの成形温度から室温まで急激に降温したりしても、損傷が生じ難いという特徴がある。
【0093】
比κ/ρが1以上となる材料としては、例えば、比κ/ρが23.5のカーボン(C)、比κ/ρが60.0の炭化ケイ素(SiC)、比κ/ρが2.7のシリカ焼結体、比κ/ρが7.3のニッケル(Ni)、比κ/ρが28.8のモリブデン(Mo)、および比κ/ρが1.2のステンレス鋼、比κ/ρが4.4のアルミナ焼結体、および比κ/ρが1.2のムライト焼結体が含まれる。前記シリカ焼結体は、通常シリカ以外の成分を焼結体全体量に対して0.2~5重量%含んでいてもよい。前記アルミナ焼結体は、通常アルミナ以外の成分を焼結体全体量に対して0.2~10重量%含んでいてもよい。前記ムライト焼結体は、通常ムライト以外の成分を焼結体全体量に対して0.5~5重量%含んでいてもよい。
【0094】
(板部材230)
板部材230、すなわち、各板部材230A~230Gは、使用されるガラスに対して不活性な材料で構成される。例えば、板部材230用の材料は、ケイ素酸化物、ジルコニウム酸化物、アルミニウム酸化物、マグネシウム酸化物等の金属酸化物が挙げられる。これら金属酸化物を1種のみからなるものでもよいが、2種以上からなるものとすることもできる。また、これら金属酸化物を構成する金属2種以上の複合酸化物を含んでいても良い。また、モリブデン等の金属を含んでいても良い。具体的には、石英、ジルコニア、ムライト、ジルコン、マグネシア、アルミナ、およびモリブデンからなる群から選定された1つ以上の材料で構成されても良い。板部材230を構成する材料に含まれる不純物は、材料全体量に対して1重量%以下であることが好ましい。
【0095】
使用されるガラスの成分組成の違いにより、ガラスに対して不活性な材料は変化する。従って、板部材230を構成する材料としては、使用されるガラスに対して反応性の低い材料、すなわち不活性な材料が適宜選択される。
【0096】
板部材230の厚さは、前述のように、0.5mm~100mmの範囲である。厚さは、0.75mm~50mmの範囲であることが好ましく、1mm~30mmの範囲であることがより好ましい。
【0097】
(緩衝材240)
緩衝材240は、前述のような効果を発現できる限り、その構成等は特に限られない。
【0098】
緩衝材240は、例えば、耐熱性のあるフェルトを有してもよい。そのようなフェルトは、例えば、カーボンフェルト、アルミナフェルト、シリカフェルト、およびジルコニアフェルトからなる群から選定された少なくとも一つを有してもよい。
【0099】
あるいは、緩衝材240は、スチールウール等を有してもよい。
【0100】
前述のように、緩衝材240は、本体220の全ての内側側壁242a~242dに設置される必要はなく、内側側壁242a~242dの少なくとも1箇所に設置されていればよい。
【0101】
(本発明の一実施形態による成形装置を有する別のガラス板の製造設備)
次に、図5および図6を参照して、本発明の一実施形態による成形装置を有する別のガラス板の製造設備について、簡単に説明する。
【0102】
図5および図6には、本発明の一実施形態による成形装置を有する別のガラス板の製造設備(以下、「第2の製造設備」と称する)300の一構成例を概略的に示す。
【0103】
図5には、第2の製造設備300の一部の概略的な斜視図を示す。また、図6には、図5に示した第2の製造設備300のB-B線に沿った概略的な断面を示す。
【0104】
第2の製造設備300では、スリットダウンドロー法により、ガラス板を連続的に製造することができる。
【0105】
第2の製造設備300は、成形装置310と、該成形装置310を収容する炉350(明確化のため、図5には示されていない)と、成形装置310の下方に配置された複数のローラ360とを備える。なお、図には示されていないが、第2の製造設備300は、さらに、炉350の下方に、切断部材を有する。
【0106】
成形装置310は、溶融ガラスMGからガラスリボンGRを成形する機能を有する。成形装置310は、供給管(図示されていない)と接続されており、該供給管を介して、成形装置310に溶融ガラスMGが供給される。
【0107】
成形装置310は、本体320を有する。
【0108】
成形装置310は、長手方向(X方向)に沿った、細長い形状を有する。特に、成形装置310の本体320は、図5および図6に示すような「箱状」の断面形状を有する。
【0109】
より具体的には、本体320は、内部側壁(第1の内部側壁321a~第4の内部側壁321d)、内部底面325、外部底面327、およびスリット329を有する。第1の内部側壁321aと第2の内部側壁321bは、相互に対向しており、第3の内部側壁321cと第2の内部側壁321dは、相互に対向している。第1の内部側壁321aおよび第2の内部側壁321bは、長手方向(X方向)に垂直に延在し、第3の内部側壁321cおよび第4の内部側壁321dは、長手方向(X方向)に平行に延在する。また、スリット329は、内部底面325から外部底面327まで貫通している。
【0110】
各ローラ360は、成形装置310から排出されるガラスリボンGRの厚さを調整しながら、ガラスリボンGRを下方に搬送する役割を有する。
【0111】
このような第2の製造設備300を用いてガラス板を製造する場合、まず、供給管(図示されていない)を介して、成形装置310に溶融ガラスMGが供給される。
【0112】
成形装置310に供給された溶融ガラスMGは、まず収容部370に収容される。
【0113】
次に、溶融ガラスMGは、本体のスリット329を介して下方に流出し、その途中で降温される。これにより、ガラスリボンGRが形成される。
【0114】
その後、ガラスリボンGRは、ローラ360により、さらに鉛直方向に下方に牽引され、その過程で徐冷される。
【0115】
その後、十分に徐冷されたガラスリボンGRは、炉350から排出され、切断手段(図示されていない)により、所定の寸法に切断される。
【0116】
第2の製造設備300では、以上の工程により、ガラス板を連続的に製造することができる。
【0117】
ここで、第2の製造設備300では、成形装置310として、本発明の一実施形態による成形装置が使用される。
【0118】
すなわち、成形装置310は、本体320と、複数の板部材330とを有する。各板部材330は、厚さが0.5mm~100mmの範囲である。また、各板部材330は、溶融ガラスMGに対して不活性な材料で構成され、本体320の、ガラスと接触する場所に設置される。
【0119】
例えば、図5および図6に示した例では、板部材330は、本体320の内部側壁(第1の内部側壁321a~第4の内部側壁321d)、内部底面325、およびスリット329を覆うように設置されている。
【0120】
成形装置310は、本体320の形状と略共形の形状を有する。例えば、成形装置310は、内部側面311、内部底面315、およびスリット319を有し、これらの箇所は、いずれも本体320の対応するそれぞれの箇所と類似の形状を有する。また、これらの箇所は、いずれも板部材330の露出表面で構成される。
【0121】
また、成形装置310は、1または2以上の緩衝材340を有する。
【0122】
例えば、図5および図6に示した例では、成形装置310は、第1の緩衝材340Aおよび第3の緩衝材340Cを有する。
【0123】
第1の緩衝材340Aは、本体320の第1の内側側壁321aと、該第1の内側側壁321aに対向して設置された板部材330との間に配置される。第3の緩衝材340Cは、本体320の第4の内側側壁321dと、該第4の内側側壁321dに対向して設置された板部材330との間に配置される。
【0124】
ただし、これは単なる一例に過ぎない。本体320において、緩衝材340が設置される内側側壁は、1つであっても、4つであってもよい。また、緩衝材340は、第1の内側側壁321a~第4の内側側壁321dのうち、いかなる内側側壁に対して設置されてもよい。
【0125】
このような特徴を有する第2の製造設備300では、本体320が板部材330によって保護されているため、ガラス板の製造の際に、成形装置310の本体320がガラスと接触する可能性が有意に抑制される。従って、本体320に、耐熱衝撃性を有する材料を選定することができる。
【0126】
また、成形装置310の板部材330は、コーティング膜のような被膜とは異なり、「板」として本体320の上に適用される。板部材330は、厚さが0.5mm~100mmの範囲である。従って、板部材330は、熱衝撃を受けても割れ難いという特徴を有する。
【0127】
また、第2の製造設備300では、緩衝材340の設置効果により、本体320の熱膨張係数と板部材330の熱膨張係数の間に差異があっても、収容部370において生じ得る前述のような問題を、有意に軽減できる。
【0128】
以上、成形装置110、210、および310を参照して、本発明の一実施形態による成形装置の構成および特徴について説明した。
【0129】
しかしながら、これらは単なる一例であって、本発明の一実施形態による成形装置が、その他の構成を有しても良いことは、本願に接した当業者には明らかである。
【0130】
例えば、本発明の一実施形態による成形装置は、フュージョン法およびスリットダウンドロー法以外の方法でガラス板を製造する製造装置に適用されてもよい。
【0131】
また、前述の記載では、緩衝材の効果を分かり易く説明するため、本体と板部材の間に、熱膨張係数に相応の差異があることを前提として、本発明の構成の特徴について説明した。しかしながら、本発明の一実施形態による成形装置において、緩衝材は、本体と板部材の間で熱膨張係数に僅かの差異しかない場合、またはほとんど差異がない場合にも、使用することが可能であることは明らかである。
【符号の説明】
【0132】
100 第1の製造設備
105 供給管
110 成形装置
111 成形装置の上面
112 成形装置の凹部
114a 成形装置の第1の側面
114b 成形装置の第2の側面
116a 成形装置の第1の上側面
116b 成形装置の第2の上側面
118a 成形装置の第1の下側面
118b 成形装置の第2の下側面
119 成形装置の下側端部
120 本体
121 本体の上面
122 本体の凹部
124a 本体の第1の側面
124b 本体の第2の側面
126a 本体の第1の上側面
126b 本体の第2の上側面
128a 本体の第1の下側面
128b 本体の第2の下側面
129 本体の下側端部
130 板部材
130A~130F 第1~第6の板部材
142a~142d 第1~第4の内側側壁
150 炉
160 ローラ
170 収容部
190a 第1の溶融ガラス部分
190b 第2の溶融ガラス部分
205 供給管
210 第1の成形装置
220 本体
230 板部材
230A~230F 第1~第6の板部材
240 緩衝材
240A~240D 第1~第4の緩衝材
242a~242d 第1の内側側壁~第4の内側側壁
270 収容部
300 第2の製造設備
310 成形装置
311 成形装置の内部側面
315 成形装置の内部底面
319 成形装置のスリット
320 本体
321a~321d 第1の内部側壁~第4の内部側壁
325 本体の内部底面
327 本体の外部底面
329 本体のスリット
330 板部材
340 緩衝材
340A 第1の緩衝材
340C 第3の緩衝材
350 炉
360 ローラ
370 収容部
GR ガラスリボン
MG 溶融ガラス
図1
図2
図3
図4
図5
図6