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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-21
(45)【発行日】2024-10-29
(54)【発明の名称】組成物、及び接着性ポリマーの洗浄方法
(51)【国際特許分類】
   C11D 7/32 20060101AFI20241022BHJP
   C11D 7/26 20060101ALI20241022BHJP
   B08B 3/08 20060101ALI20241022BHJP
   H01L 21/304 20060101ALI20241022BHJP
【FI】
C11D7/32
C11D7/26
B08B3/08 Z
H01L21/304 647
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2021542667
(86)(22)【出願日】2020-07-30
(86)【国際出願番号】 JP2020029340
(87)【国際公開番号】W WO2021039274
(87)【国際公開日】2021-03-04
【審査請求日】2023-06-06
(31)【優先権主張番号】P 2019154914
(32)【優先日】2019-08-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】株式会社レゾナック
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100146466
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 正俊
(74)【代理人】
【識別番号】100202418
【弁理士】
【氏名又は名称】河原 肇
(72)【発明者】
【氏名】林 宏太朗
【審査官】柴田 啓二
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-000969(JP,A)
【文献】特開2008-252100(JP,A)
【文献】国際公開第2014/092022(WO,A1)
【文献】特開2017-199754(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C11D
H01L 21/304
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第四級フッ化アルキルアンモニウム又は第四級フッ化アルキルアンモニウムの水和物と、非プロトン性溶媒として(A)窒素原子上に活性水素を有さないN-置換アミド化合物、及び(B)ジプロピレングリコールジメチルエーテルとを含む接着性ポリマーの分解洗浄組成物であって、前記(B)ジプロピレングリコールジメチルエーテルにおいて式(1):
【化1】
で表される構造異性体の割合が、前記(B)ジプロピレングリコールジメチルエーテル全量に対して50質量%以上である接着性ポリマーの分解洗浄組成物。
【請求項2】
式(1)で表される構造異性体の割合が、前記(B)ジプロピレングリコールジメチルエーテル全量に対して60質量%以上である、請求項1に記載の接着性ポリマーの分解洗浄組成物。
【請求項3】
前記(A)N-置換アミド化合物が式(2):
【化2】
(式(2)において、Rは炭素原子数1~4のアルキル基を表す。)
で表される2-ピロリドン誘導体化合物である、請求項1又は2のいずれかに記載の接着性ポリマーの分解洗浄組成物。
【請求項4】
前記(A)N-置換アミド化合物が、式(2)においてRがメチル基又はエチル基である2-ピロリドン誘導体化合物である、請求項3に記載の接着性ポリマーの分解洗浄組成物。
【請求項5】
前記第四級フッ化アルキルアンモニウムの含有量が、0.01~10質量%である、請求項1~4のいずれか一項に記載の接着性ポリマーの分解洗浄組成物。
【請求項6】
前記第四級フッ化アルキルアンモニウムが、Rで表されるフッ化テトラアルキルアンモニウムであり、R~Rがそれぞれ独立してメチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、及びn-ブチル基からなる群より選択されるアルキル基である、請求項1~5のいずれか一項に記載の接着性ポリマーの分解洗浄組成物。
【請求項7】
前記非プロトン性溶媒100質量%に対して、前記(A)N-置換アミド化合物の含有量が50~95質量%であり、前記(B)ジプロピレングリコールジメチルエーテルの含有量が5~50質量%である、請求項1~6のいずれか一項に記載の接着性ポリマーの分解洗浄組成物。
【請求項8】
前記接着性ポリマーがポリオルガノシロキサン化合物である、請求項1~7のいずれか一項に記載の接着性ポリマーの分解洗浄組成物。
【請求項9】
請求項1~のいずれか一項に記載の接着性ポリマーの分解洗浄組成物を用いて基材上の接着性ポリマーを洗浄する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、組成物、及び接着性ポリマーの洗浄方法に関する。特に、本開示は、半導体ウェハの薄型化プロセスにおいて、デバイスウェハ上に残留した、デバイスウェハと支持ウェハ(キャリアウェハ)との仮接着に使用される接着性ポリマーを含む接着剤を分解洗浄するために用いることのできる組成物、及び当該組成物を用いた接着性ポリマーの洗浄方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体の高密度化のための三次元実装技術においては、半導体ウェハの1枚当たりの厚さが薄くされ、シリコン貫通電極(TSV)により結線された複数の半導体ウェハが積層されている。具体的には、半導体デバイスを形成したデバイスウェハのデバイスを形成させていない面(裏面)を研磨によって薄型化した後、その裏面にTSVを含む電極形成が行われる。
【0003】
デバイスウェハの裏面の研磨工程においては、デバイスウェハに機械的強度を付与するために、キャリアウェハとも呼ばれる支持ウェハがデバイスウェハの半導体デバイス形成面に接着剤を用いて仮接着される。支持ウェハとして例えばガラスウェハ又はシリコンウェハが使用される。研磨工程後、必要に応じてデバイスウェハの研磨面(裏面)に、Al、Cu、Ni、Au等を含む金属配線若しくは電極パッド、酸化膜、窒化膜等の無機膜、又はポリイミド等を含む樹脂層が形成される。その後、デバイスウェハの裏面を、リングフレームにより固定された、アクリル粘着層を有するテープに貼り合わせることにより、デバイスウェハがテープに固定される。その後、デバイスウェハは支持ウェハから分離され(デボンディング)、デバイスウェハ上の接着剤は剥離され、デバイスウェハ上の接着剤の残留物は洗浄剤を用いて洗浄除去される。
【0004】
デバイスウェハの仮接着用途には、耐熱性の良好なポリオルガノシロキサン化合物を接着性ポリマーとして含む接着剤が使用される。特に、接着剤が架橋されたポリオルガノシロキサン化合物である場合、Si-O結合の切断及び溶剤による分解生成物の溶解の2つの作用が洗浄剤に求められる。そのような洗浄剤として、例えばテトラブチルアンモニウムフルオライド(TBAF)などのフッ素系化合物を極性の非プロトン性溶媒に溶解させたものが挙げられる。TBAFのフッ化物イオンはSi-F結合生成を介したSi-O結合の切断に関与することから、洗浄剤にエッチング性能を付与することができる。極性非プロトン性溶媒は、TBAFを溶解することができ、かつフッ化物イオンに対して水素結合を介した溶媒和を形成しないことから、フッ化物イオンの反応性を高めることができる。
【0005】
特許文献1(特開2014-133855号公報)には極性非プロトン性溶媒にテトラアルキルアンモニウムヒドロキシドを溶解させたシロキサン樹脂の洗浄液が記載されている。
【0006】
特許文献2(特表2015-505886号公報)にはTBAFをエステルまたはケトンに溶解させたポリシロキサンの洗浄液が記載されている。
【0007】
特許文献3(特開2004-000969号公報)にはTBAFをプロピレングリコールアルキルエーテルアルコエ―トに溶解させた洗浄液が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2014-133855号公報
【文献】特表2015-505886号公報
【文献】特開2004-000969号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
TBAFなどのフッ素化合物及び溶媒を含む洗浄剤における溶媒の役割は、反応性物質である極性の高いフッ素化合物を十分に溶解させ、極性の低い接着剤の表面との親和性を十分なものとして、フッ素化合物に含まれるフッ化物イオンの反応性を確保しつつ、接着剤の分解生成物を溶解することにあると考えられる。
【0010】
接着剤に含まれる接着性ポリマーには、耐熱性、剥離性などを改善する目的で置換基が導入されている場合があり、それにより接着剤の表面は様々な極性を示す場合がある。洗浄剤は、そのような様々な極性を示す接着剤の表面に対して優れた親和性を示し、それにより高いエッチング速度を達成することが望まれている。
【0011】
本開示は、接着剤表面との親和性に優れており、高いエッチング速度を達成することのできる組成物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、第四級フッ化アルキルアンモニウム又はその水和物、窒素原子上に活性水素を有さないN-置換アミド化合物、及びジプロピレングリコールジメチルエーテルを含む組成物において、ジプロピレングリコールジメチルエーテルにおける特定の異性体の割合を調整することで、高いエッチング速度が達成できることを見出した。
【0013】
即ち本発明は、次の[1]~[10]を包含する。
[1]
第四級フッ化アルキルアンモニウム又は第四級フッ化アルキルアンモニウムの水和物と、非プロトン性溶媒として(A)窒素原子上に活性水素を有さないN-置換アミド化合物、及び(B)ジプロピレングリコールジメチルエーテルとを含む組成物であって、前記(B)ジプロピレングリコールジメチルエーテルにおいて式(1):
【化1】
で表される構造異性体の割合が、前記(B)ジプロピレングリコールジメチルエーテル全量に対して50質量%以上である組成物。
[2]
式(1)で表される構造異性体の割合が、前記(B)ジプロピレングリコールジメチルエーテル全量に対して60質量%以上である、[1]に記載の組成物。
[3]
前記(A)N-置換アミド化合物が式(2):
【化2】
(式(2)において、Rは炭素原子数1~4のアルキル基を表す。)
で表される2-ピロリドン誘導体化合物である、[1]又は[2]のいずれかに記載の組成物。
[4]
前記(A)N-置換アミド化合物が、式(2)においてRがメチル基又はエチル基である2-ピロリドン誘導体化合物である、[3]に記載の組成物。
[5]
前記第四級フッ化アルキルアンモニウムの含有量が、0.01~10質量%である、[1]~[4]のいずれかに記載の組成物。
[6]
前記第四級フッ化アルキルアンモニウムが、Rで表されるフッ化テトラアルキルアンモニウムであり、R~Rがそれぞれ独立してメチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、及びn-ブチル基からなる群より選択されるアルキル基である、[1]~[5]のいずれかに記載の組成物。
[7]
前記非プロトン性溶媒100質量%に対して、前記(A)N-置換アミド化合物の含有量が50~95質量%であり、前記(B)ジプロピレングリコールジメチルエーテルの含有量が5~50質量%である、[1]~[6]のいずれかに記載の組成物。
[8]
接着性ポリマーの分解洗浄組成物である、[1]~[7]のいずれかに記載の組成物。
[9]
前記接着性ポリマーがポリオルガノシロキサン化合物である、[8]に記載の組成物。
[10]
[1]~[9]のいずれかに記載の組成物を用いて基材上の接着性ポリマーを洗浄する方法。
【発明の効果】
【0014】
本開示の組成物は、接着剤表面との親和性が高く、そのため、組成物中に比較的低濃度のフッ素化合物を用いた場合でも、高いエッチング速度を得ることができる。このことは、洗浄剤の高性能化及び低コスト化の両方に有利である。
【0015】
上述の記載は、本発明の全ての実施態様及び本発明に関する全ての利点を開示したものとみなしてはならない。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】洗浄試験1のNMP:DPGDME=0.764:0.236(質量比)に関する洗浄時間(分)に対する膜厚の変化量(mm)のグラフである。
図2】洗浄試験2のNMP:DPGDME=0.764:0.236(質量比)に関する洗浄時間(分)に対する膜厚の変化量(mm)のグラフである。
図3】洗浄試験1のNMP:DPGDME=0.600:0.400(質量比)に関する洗浄時間(分)に対する膜厚の変化量(mm)のグラフである。
図4】洗浄試験2のNMP:DPGDME=0.600:0.400(質量比)に関する洗浄時間(分)に対する膜厚の変化量(mm)のグラフである。
図5】洗浄試験1のNMP:DPGDME=0.900:0.100(質量比)に関する洗浄時間(分)に対する膜厚の変化量(mm)のグラフである。
図6】洗浄試験2のNMP:DPGDME=0.900:0.100(質量比)に関する洗浄時間(分)に対する膜厚の変化量(mm)のグラフである。
図7】洗浄試験2のNEP:DPGDME=0.764:0.236(質量比)に関する洗浄時間(分)に対する膜厚の変化量(mm)のグラフである。
図8】洗浄試験2のNEP:DPGDME=0.600:0.400(質量比)に関する洗浄時間(分)に対する膜厚の変化量(mm)のグラフである。
図9】洗浄試験2のNEP:DPGDME=0.900:0.100(質量比)に関する洗浄時間(分)に対する膜厚の変化量(mm)のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
【0018】
[組成物]
一実施態様の組成物は、第四級フッ化アルキルアンモニウム又は第四級フッ化アルキルアンモニウムの水和物と、非プロトン性溶媒として、(A)窒素原子上に活性水素を有さないN-置換アミド化合物、及び(B)ジプロピレングリコールジメチルエーテル(DPGDME)とを含む。
【0019】
<第四級フッ化アルキルアンモニウム又はその水和物>
第四級フッ化アルキルアンモニウム又はその水和物は、Si-O結合の切断に関与するフッ化物イオンを放出する。第四級アルキルアンモニウム部分は、塩である第四級フッ化アルキルアンモニウムを非プロトン性溶媒に溶解させることができる。第四級フッ化アルキルアンモニウムとしては、特に制限なく様々な化合物を使用することができる。第四級フッ化アルキルアンモニウムの水和物として、例えば三水和物、四水和物及び五水和物が挙げられる。第四級フッ化アルキルアンモニウムは、1種又は2種以上の組み合わせであってよい。
【0020】
一実施態様では、第四級フッ化アルキルアンモニウムは、Rで表されるフッ化テトラアルキルアンモニウムであり、R~Rがそれぞれ独立してメチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、及びn-ブチル基からなる群より選択されるアルキル基である。そのような第四級フッ化アルキルアンモニウムとして、テトラメチルアンモニウムフルオライド、テトラエチルアンモニウムフルオライド、テトラプロピルアンモニウムフルオライド、テトラブチルアンモニウムフルオライドなどが挙げられる。分解洗浄性能、入手容易性、価格などの観点から、第四級フッ化アルキルアンモニウムは、テトラブチルアンモニウムフルオライド(TBAF)であることが好ましい。
【0021】
組成物中の第四級フッ化アルキルアンモニウムの含有量は0.01~10質量%であることが好ましい。ここで「第四級フッ化アルキルアンモニウムの含有量」は、組成物中に第四級フッ化アルキルアンモニウムの水和物が含まれる場合には、水和の質量を除いた、第四級フッ化アルキルアンモニウムのみの質量として換算した値である。組成物中の第四級フッ化アルキルアンモニウムの含有量は、1~10質量%であることがより好ましく、3~7質量%であることがさらに好ましく、4~6質量%であることが特に好ましい。第四級フッ化アルキルアンモニウムの含有量を0.01質量%以上とすることで、接着性ポリマーを効果的に分解及び洗浄することができ、10質量%以下とすることで、デバイスウェハのデバイス形成面に含まれる金属部分の腐食を防止又は抑制することができる。
【0022】
<非プロトン性溶媒>
組成物は、非プロトン性溶媒として、(A)窒素原子上に活性水素を有さないN-置換アミド化合物、及び(B)ジプロピレングリコールジメチルエーテルを含む。
【0023】
組成物中の非プロトン性溶媒の含有量は、80~99.99質量%であることが好ましく、85~99.95質量%であることがより好ましく、90~99.9質量%であることがさらに好ましい。
【0024】
<(A)窒素原子上に活性水素を有さないN-置換アミド化合物>
(A)窒素原子上に活性水素を有さないN-置換アミド化合物(本開示において単に「(A)N-置換アミド化合物」ともいう。)は、比較的高極性の非プロトン性溶媒であり、組成物中に第四級フッ化アルキルアンモニウム及びその水和物を均一に溶解又は分散することができる。本開示において「(A)N-置換アミド化合物」は、窒素原子上に活性水素を有さない尿素化合物(カルバミド化合物)も包含する。(A)N-置換アミド化合物として、特に制限なく様々な化合物を使用することができ、例えば、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N-ジエチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジエチルアセトアミド、N,N-ジメチルプロピオンアミド、N,N-ジエチルプロピオンアミド、テトラメチル尿素などの非環式N-置換アミド;2-ピロリドン誘導体、2-ピペリドン誘導体、ε-カプロラクタム誘導体、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン(DMI)、1-メチル-3-エチル-2-イミダゾリジノン、1,3-ジエチル-2-イミダゾリジノン、1,3-ジメチル-3,4,5,6-テトラヒドロ-2(1H)-ピリミジノン(N,N’-ジメチルプロピレン尿素)などの環式N-置換アミドが挙げられる。(A)N-置換アミド化合物は、1種又は2種以上の組み合わせであってよい。
【0025】
一実施態様では、(A)N-置換アミド化合物は、式(2):
【化3】
(式(2)において、Rは炭素原子数1~4のアルキル基を表す。)
で表される2-ピロリドン誘導体化合物である。炭素原子数1~4のアルキル基として、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、t-ブチル基などが挙げられる。式(2)で表される2-ピロリドン誘導体化合物として、例えば、N-メチルピロリドン(NMP)、N-エチルピロリドン(NEP)、N-プロピルピロリドン、N-ブチルピロリドンなどが挙げられる。
【0026】
極性が比較的高く、第四級フッ化アルキルアンモニウムの溶解能力に優れており、入手が容易であることから、(A)N-置換アミド化合物は、式(2)においてRがメチル基又はエチル基である2-ピロリドン誘導体化合物であることが好ましく、式(2)においてRがメチル基である2-ピロリドン誘導体化合物、すなわちN-メチルピロリドンであることがより好ましい。
【0027】
非プロトン性溶媒中のN-置換アミド化合物の含有量は、非プロトン性溶媒を100質量%としたときに、50~95質量%であることが好ましく、60~95質量%であることがより好ましく、70~90質量%であることがさらに好ましい。
【0028】
<(B)ジプロピレングリコールジメチルエーテル>
(B)ジプロピレングリコールジメチルエーテル(DPGDME)を(A)N-置換アミド化合物と組み合わせることで、接着剤表面に対して高い親和性を示す混合溶媒系を形成することができる。そのような混合溶媒系を用いた組成物は、第四級フッ化アルキルアンモニウムの反応活性が有効に利用された高いエッチング速度を達成することができる。
【0029】
ジプロピレングリコールジメチルエーテルには、以下の3種類の構造異性体が存在する。
【化4】
【化5】
【化6】
【0030】
本開示の組成物において、ジプロピレングリコールジメチルエーテルの式(1)で表される構造異性体の割合は、ジプロピレングリコールジメチルエーテル全量に対して50質量%以上であり、好ましくは60質量%以上である。ジプロピレングリコールジメチルエーテルの式(1)で表される構造異性体の割合は、ジプロピレングリコールジメチルエーテル全量に対して50~99質量%とすることが好ましく、60~95質量%とすることがより好ましく、70~95質量%とすることがさらに好ましく、80~90質量%とすることが特に好ましい。
【0031】
式(1)で表される構造異性体を含むジプロピレングリコールジメチルエーテルは、例えば、日本乳化剤株式会社(式(1)で表される構造異性体が80質量%以上)、及びダウ・ケミカル日本株式会社(式(1)で表される構造異性体が45質量%以上)から入手することができる。
【0032】
非プロトン性溶媒中のジプロピレングリコールジメチルエーテルの含有量は、非プロトン性溶媒を100質量%としたときに、5~50質量%とすることが好ましく、5~40質量%であることがより好ましく、10~30質量%であることがさらに好ましい。
【0033】
組成物は、(A)N-置換アミド化合物及び(B)ジプロピレングリコールジメチルエーテル以外の追加の非プロトン性溶媒を含んでもよい。そのような追加の非プロトン性溶媒として、例えば、エチレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリプロピレングリコールジメチルエーテル、トリプロピレングリコールジエチルエーテル、トリプロピレングリコールジn-ブチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、テトラプロピレングリコールジメチルエーテルなどのグリコールのジアルキルエーテル;ジブチルエーテル、ジペンチルエーテル、ジヘキシルエーテル、ジヘプチルエーテル、ジオクチルエーテル、ブチルヘキシルエーテル、ブチルオクチルエーテルなどのジアルキルエーテルなどが挙げられる。
【0034】
追加の非プロトン性溶媒の引火点は21℃以上であることが好ましい。引火点が21℃以上、すなわち危険物第4類第1石油類に非該当である追加の非プロトン性溶媒を用いることで、組成物の製造及び使用における設備、作業環境等の要件を軽減することができる。例えば、ジエチレングリコールジメチルエーテル及びジブチルエーテルの引火点はそれぞれ51℃及び25℃である。なお、ジプロピレングリコールジメチルエーテルの引火点は60℃である。引火点は、タグ密閉法(JIS K 2265-1:2007)により測定される。
【0035】
非プロトン性溶媒中の追加の非プロトン性溶媒の含有量は、非プロトン性溶媒を100質量%としたときに、10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましく、1質量%以下であることがさらに好ましい。一実施態様では、非プロトン性溶媒は、追加の非プロトン性溶媒を含まない、すなわち、(A)N-置換アミド化合物及び(B)ジプロピレングリコールジメチルエーテルからなる。
【0036】
<添加剤及びその他の成分>
組成物は、本発明の効果を顕著に損なわない範囲で、任意成分として、酸化防止剤、界面活性剤、防腐剤、発泡防止剤などの添加剤を含んでもよい。
【0037】
一実施態様では、組成物は、プロトン性溶媒を実質的に含まない、又は含まない。例えば、組成物中のプロトン性溶媒の含有量を、5質量%以下、3質量%以下、又は1質量%以下とすることができる。組成物に含まれうるプロトン性溶媒は、第四級フッ化アルキルアンモニウムの水和物に由来する水であってもよい。
【0038】
一実施態様では、組成物は、ケトン及びエステルから選択される非プロトン性溶媒を実質的に含まない、又は含まない。例えば、組成物中のケトン及びエステルから選択される非プロトン性溶媒の含有量を、1質量%以下、0.5質量%以下、又は0.1質量%以下とすることができる。この実施態様では、フッ素化合物の存在下、ケトン又はエステルから生成する反応生成物(アルドール自己縮合物)又は分解生成物(アルコール及びカルボン酸)がフッ化物イオンに溶媒和することによるフッ化物イオンの失活を抑制し、エッチング速度の経時での低下を抑制することができる。
【0039】
本開示の組成物は、様々な接着剤に含まれる接着性ポリマーの分解洗浄組成物として使用することができる。接着性ポリマーは、本開示の組成物を用いて洗浄することができるものであれば特に制限されない。接着剤は接着性ポリマーに加えて、任意成分として、硬化剤、硬化促進剤、架橋剤、界面活性剤、レベリング剤、充填材などを含んでもよい。
【0040】
<接着性ポリマー>
一実施態様では、接着性ポリマーはSi-O結合を含む。接着性ポリマーは、第四級フッ化アルキルアンモニウムのフッ化物イオンによるSi-O結合の切断により低分子化し又は架橋構造を失い、非プロトン性溶媒に溶解可能となり、その結果、デバイスウェハなどの表面から接着性ポリマーを除去することができる。
【0041】
Si-O結合を含む接着性ポリマーは、ポリオルガノシロキサン化合物であることが好ましい。ポリオルガノシロキサン化合物は多数のシロキサン結合(Si-O-Si)を含むことから、組成物を用いて効果的に分解及び洗浄することができる。ポリオルガノシロキサン化合物として、例えばシリコーンエラストマー、シリコーンゲル、及びMQ樹脂などのシリコーンレジン、並びにそれらのエポキシ変性体、アクリル変性体、メタクリル変性体、アミノ変性体、メルカプト変性体などの変性体が挙げられる。ポリオルガノシロキサン化合物は、シリコーン変性ポリウレタン、シリコーン変性アクリル樹脂などのシリコーン変性ポリマーであってもよい。
【0042】
一実施態様では、接着性ポリマーは、付加硬化型のシリコーンエラストマー、シリコーンゲル、又はシリコーンレジンである。これらの付加硬化型シリコーンは、エチレン性不飽和基含有ポリオルガノシロキサン、例えばビニル末端ポリジメチルシロキサン又はビニル末端MQ樹脂と、架橋剤としてポリオルガノハイドロジェンシロキサン、例えばポリメチルハイドロジェンシロキサンとを含み、白金触媒などのヒドロシリル化触媒を用いて硬化される。
【0043】
別の実施態様では、接着性ポリマーは、アラルキル基、エポキシ基、又はフェニル基含有ポリジオルガノシロキサン、特にアラルキル基、エポキシ基、又はフェニル基含有ポリジメチルシロキサンを含む。このような接着性ポリマーを含む接着剤を、上記付加硬化型シリコーンを含む接着剤と組み合わせて仮接着に使用してもよい。
【0044】
[接着性ポリマーの洗浄方法]
シリコンウェハなどの基材上にある接着性ポリマーの洗浄は、組成物を用いて、従来知られた様々な方法で行うことができる。接着性ポリマーの洗浄方法として、例えば、スピンコータなどを用いて所定の速度で基材を回転させながら、接着性ポリマーと接触するように基材上に組成物を吐出する(スピンエッチ)、基材上の接着性ポリマーに対して組成物を噴霧する(スプレー)、組成物を入れた槽に接着性ポリマーを有する基材を浸漬する(ディッピング)、などが挙げられる。分解洗浄の温度は、基材上の接着性ポリマーの種類及び付着量によって様々であってよく、一般に20℃~90℃、好ましくは40℃~60℃である。分解洗浄の時間は、基材上の接着性ポリマーの種類及び付着量によって様々であってよく、一般に5秒~10時間、好ましくは10秒~2時間である。分解洗浄時に、組成物の浴又は基材に超音波を適用してもよい。
【0045】
分解洗浄後に、基材をイソプロピルアルコール(IPA)などのアルコール、イオン交換水(DIW)などを用いてリンスしてもよく、基材を窒素ガス、空気等の吹付け、常圧下又は減圧下での加熱などにより乾燥してもよい。
【0046】
[デバイスウェハの製造方法]
一実施態様では、デバイスウェハの製造方法は、組成物を用いてデバイスウェハ上の接着性ポリマーを洗浄することを含む。洗浄後、必要に応じてデバイスウェハをリンス又は乾燥してもよい。
【0047】
デバイスウェハの製造方法は、さらに以下の工程:シリコンウェハなどの基材上に半導体デバイスを形成してデバイスウェハを得ること、デバイスウェハの半導体デバイス形成面と支持ウェハとを対向させて、デバイスウェハと支持ウェハとを、接着性ポリマーを含む接着剤を介して仮接着すること、デバイスウェハのデバイス形成面の反対面(裏面)を研磨することによりデバイスウェハを薄型化すること、デバイスウェハから支持ウェハを分離すること、を含んでもよい。半導体デバイスの形成、デバイスウェハと支持ウェハの仮接着、デバイスウェハの裏面の研磨、及びデバイスウェハの支持ウェハからの分離は、従来知られた方法で行うことができ、特に制限されない。
【0048】
[支持ウェハの再生方法]
組成物は、デバイスウェハの製造に使用した支持ウェハの再生に使用することができる。一実施態様では、支持ウェハの再生方法は、組成物を用いて支持ウェハ上の接着性ポリマーを洗浄することを含む。洗浄後、必要に応じて支持ウェハをリンス又は乾燥してもよい。
【実施例
【0049】
以下、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明は、実施例により制限されるものではない。
【0050】
構造異性体の混合物であるジプロピレングリコールジメチルエーテル(DPGDME)として、式(1)で表される構造異性体の割合が異なるものを、以下の手順により調製した。
1.式(1)で表される構造異性体の割合86.41質量%
日本乳化剤株式会社から入手したDPGDMEを使用した。
2.式(1)で表される構造異性体の割合73.71質量%
日本乳化剤株式会社から入手したDPGDME及びダウ・ケミカル日本株式会社から入手したDPGDMEを2:1の割合で混合した。
3.式(1)で表される構造異性体の割合61.41質量%
日本乳化剤株式会社から入手したDPGDME及びダウ・ケミカル日本株式会社から入手したDPGDMEを1:2の割合で混合した。
4.式(1)で表される構造異性体の割合49.12質量%
ダウ・ケミカル日本株式会社から入手したDPGDMEを使用した。
【0051】
組成物(5質量%TBAF/混合溶媒)の調製
実施例1
125mLのポリエチレン容器に、1.167gのテトラブチルアンモニウムフルオライド・三水和物(TBAF・3HO)(関東化学株式会社、97%特級)を投入し、13.572gのN-メチル-ピロリドン(NMP)、4.197gのDPGDME(日本乳化剤株式会社)の順に投入し、混合することでTBAF・3HOを溶解させた。このようにして、DPGDME中の式(1)で表される構造異性体の割合が86.41質量%であり、NMP:DPGDMEの質量比が0.764:0.236である5質量%TBAF混合溶媒の組成物を調製した。
【0052】
実施例2~3及び比較例1
実施例1と同様の手順で、式(1)で表される構造異性体の割合が73.71質量%、61.41質量%、又は49.12質量%のDPGDMEを使用して、DPGDME中の式(1)で表される構造異性体の割合が73.71質量%(実施例2)、61.41質量%(実施例3)、49.12質量%(比較例1)であり、NMP:DPGDMEの質量比が0.764:0.236である5質量%TBAF混合溶媒の組成物を調製した。
【0053】
実施例4~9及び比較例2~3
実施例1~3及び比較例1と同様の手順で、NMP:DPGDMEの質量比が0.600:0.400(実施例4~6及び比較例2)、又は0.900:0.100(実施例7~9及び比較例3)である5質量%TBAF混合溶媒の組成物を調製した。
【0054】
実施例10~18及び比較例4~6
N-メチル-ピロリドン(NMP)の代わりにN-エチル-ピロリドン(NEP)を用いたこと以外は、実施例1~3及び比較例1と同様の手順で、NEP:DPGDMEの質量比が0.764:0.236(実施例10~12及び比較例4)、0.600:0.400(実施例13~15及び比較例5)、又は0.900:0.100(実施例16~18及び比較例6)である5質量%TBAF混合溶媒の組成物を調製した。
【0055】
実施例及び比較例の組成物の配合を表1-1及び表1-2に示す。
【0056】
【表1-1】
【0057】
【表1-2】
【0058】
洗浄試験1
12インチ(300mm)シリコンウェハ(厚さ770μm)上に、シリコーン樹脂を乾燥膜厚が110μmとなるように塗布した。その後、ホットプレート上で、140℃で15分間、190℃で10分間加熱して、シリコンウェハ上に接着剤層を形成した。接着剤層を有するシリコンウェハを1cm×1cmのサイズに分割して試験片とし、試験片の中心部の厚さをマイクロメーターを用いて測定した。
【0059】
マグネチックスターラーの上に容積50ccのスクリュー管瓶を置いた。スクリュー管瓶に15.0mLの調製直後(調製後30分以内)の組成物と撹拌子を投入した。組成物の中に試験片1枚を浸漬し、室温(25℃)で1分間、900rpmの回転数で撹拌子を回転させた。浸漬後、試験片をピンセットで取り出し、イソプロピルアルコール(IPA)の洗瓶を用いて十分にリンスした。その後、同様にして試験片をイオン交換水(DIW)の洗瓶を用いて十分にリンスした。試験片に窒素ガスを吹き付けて付着した水を乾燥させた後、試験片の中心部の厚さをマイクロメーターを用いて測定した。洗浄時間を2分間、3分間、5分間として同様の試験を行った。撹拌時間毎の浸漬前後での試験片の厚さの差、すなわちシリコーン樹脂の膜厚の変化量を算出し、それらの近似直線(切片は0)の傾きを組成物のエッチング速度(ER)とした。
【0060】
洗浄試験2
12インチ(300mm)シリコンウェハ(厚さ770μm)を、1.5cm×1.5cmのサイズに分割した。SYLGARD(登録商標)184(東レ・ダウコーニング株式会社製)の主剤2.339gと硬化剤0.2388gを混合した接着剤をパスツールピペットで吸い出し、分割したシリコンウェハ上に1滴滴下した。その後、乾燥機(125℃)で20分間加熱して、シリコンウェハ上に接着剤層を形成した。これを試験片とし、試験片の中心部の厚さをマイクロメーターを用いて測定した。
【0061】
マグネチックスターラーの上に容積50ccのスクリュー管瓶を置いた。スクリュー管瓶に15.0mLの調製直後(調製後30分以内)の組成物と撹拌子を投入した。組成物の中に試験片1枚を浸漬し、室温(25℃)で1分間、900rpmの回転数で撹拌子を回転させた。浸漬後、試験片をピンセットで取り出し、イソプロピルアルコール(IPA)の洗瓶を用いて十分にリンスした。その後、同様にして試験片をイオン交換水(DIW)の洗瓶を用いて十分にリンスした。試験片に窒素ガスを吹き付けて付着した水を乾燥させた後、試験片の中心部の厚さをマイクロメーターを用いて測定した。洗浄時間を3分間、5分間として同様の試験を行った。撹拌時間毎の浸漬前後での試験片の厚さの差、すなわちシリコーン樹脂の膜厚の変化量を算出し、それらの近似直線(切片は0)の傾きを組成物のエッチング速度(ER)とした。
【0062】
結果を表2(実施例1~3、比較例1)、表3(実施例4~6、比較例2)、表4(実施例7~9、比較例3)、表5(実施例10~12、比較例4)、表6(実施例13~15、比較例5)、及び表7(実施例16~18、比較例6)に示す。また、洗浄時間(分)に対する膜厚の変化量(mm)のグラフを近似直線と合わせて、図1(NMP:DPGDME=0.764:0.236、洗浄試験1)、図2(NMP:DPGDME=0.764:0.236、洗浄試験2)、図3(NMP:DPGDME=0.600:0.400、洗浄試験1)、図4(NMP:DPGDME=0.600:0.400、洗浄試験2)、図5(NMP:DPGDME=0.900:0.100、洗浄試験1)、図6(NMP:DPGDME=0.900:0.100、洗浄試験2)、図7(NEP:DPGDME=0.764:0.236、洗浄試験2)、図8(NEP:DPGDME=0.600:0.400、洗浄試験2)、及び図9(NEP:DPGDME=0.900:0.100、洗浄試験2)に示す。図1図9の凡例の数値は、式(1)で表される構造異性体の割合(%、「質量」の表記は省略)である。
【0063】
【表2】
【0064】
【表3】
【0065】
【表4】
【0066】
【表5】
【0067】
【表6】
【0068】
【表7】
【産業上の利用可能性】
【0069】
本開示の組成物は、半導体ウェハの薄型化プロセスで使用される接着剤、特にポリオルガノシロキサン化合物を接着性ポリマーとして含む接着剤の残留物をデバイスウェハ上から分解洗浄する用途に好適に使用することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9