(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-21
(45)【発行日】2024-10-29
(54)【発明の名称】重合体、有機電界発光素子用組成物、正孔輸送層又は正孔注入層形成用組成物、有機電界発光素子、有機EL表示装置及び有機EL照明
(51)【国際特許分類】
C08G 73/00 20060101AFI20241022BHJP
H10K 50/10 20230101ALI20241022BHJP
H10K 59/10 20230101ALI20241022BHJP
H10K 85/10 20230101ALI20241022BHJP
【FI】
C08G73/00
H10K50/10
H10K59/10
H10K85/10
(21)【出願番号】P 2021565515
(86)(22)【出願日】2020-12-09
(86)【国際出願番号】 JP2020045835
(87)【国際公開番号】W WO2021125011
(87)【国際公開日】2021-06-24
【審査請求日】2023-09-20
(31)【優先権主張番号】P 2019226582
(32)【優先日】2019-12-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2020017140
(32)【優先日】2020-02-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】李 延軍
(72)【発明者】
【氏名】安部 智宏
(72)【発明者】
【氏名】梶山 良子
【審査官】中川 裕文
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2010/041559(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/157016(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/136847(WO,A1)
【文献】特表2014-506003(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第106866941(CN,A)
【文献】国際公開第2009/104708(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/203203(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 73/00- 73/26
61/00- 61/12
H10K 50/00- 99/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される繰り返し単位を含む重合体。
【化1】
式(1)中、G
はN原子を表す。
Ar
2は、置換基を有していてもよい二価の芳香族炭化水素基、置換基を有していてもよい二価の芳香族複素環基、或いは、置換基を有していてもよい二価の芳香族炭化水素基及び置換基を有していてもよい二価の芳香族複素環基から選ばれる2以上の基が直接若しくは連結基を介して複数個連結した二価の基を表す。
Aは窒素原子を有する特定の6員複素芳香環を含む構造であって、式(1)-2で表される。
式(1)-2中、Ar
1は、置換基を有していてもよい二価の芳香族炭化水素基を表す。
Ar
3及びAr
4は、それぞれ独立に、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基、置換基を有していてもよい芳香族複素環基、或いは、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基及び置換基を有していてもよい芳香族複素環基から選ばれる2以上の基が直接若しくは連結基を介して複数個連結した一価の基を表す。
X,Yは、それぞれ独立に、C原子又はN原子を表す。X又はYが、C原子の場合は、置換基を有していてもよい。
“-*”は、式(1)中のGと結合する部位である。
【請求項2】
前記式(1)で表される繰り返し単位が、下記式(2)-1~(2)-3のいずれかで表される繰り返し単位である、請求項
1に記載の重合体。
【化2】
式(2)-1~式(2)-3中、Aは前記式(1)におけるAと同じである。
Qは、-C(R
5)(R
6)-、-N(R
7)-又は-C(R
11)(R
12)-C(R
13)(R
14)-を表す。
R
1~R
4は、各々独立に、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアルコキシ基、又は置換基を有していてもよいアラルキル基を表す。
R
5~R
7及びR
11~R
14は、各々独立に、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアルコキシ基、置換基を有していてもよいアラルキル基、又は置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基を表す。
a、bは各々独立に0~4の整数である。
c1~c5は各々独立に0~3の整数である。
但し、c3とc5の少なくとも一方は1以上である。
d1~d4は各々独立に1~4の整数である。
R
1、R
2、R
3、R
4が該繰り返し単位中に複数ある場合は、R
1、R
2、R
3、R
4は同一であっても異なっていてもよい。
【請求項3】
更に、下記(3)-1~(3)-3のいずれかで表される繰り返し単位を含む、請求項1
又は2に記載の重合体。
【化3】
式(3)-1~(3)-3中、Ar
7は、前記式(1)-2で表される構造Aである窒素原子を有する特定の6員複素芳香環を含む基を除く、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基又は置換基を有していてもよい芳香族複素環基を表す。
Qは、-C(R
5)(R
6)-、-N(R
7)-又は-C(R
11)(R
12)-C(R
13)(R
14)-を表す。
R
1~R
4は、各々独立に、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアルコキシ基、又は置換基を有していてもよいアラルキル基を表す。
R
5~R
7及びR
11~R
14は、各々独立に、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアルコキシ基、置換基を有していてもよいアラルキル基、又は置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基を表す。
a、bは各々独立に0~4の整数である。
c1~c5は各々独立に0~3の整数である。
但し、c3とc5の少なくとも一方は1以上整数である。
d1~d4は各々独立に1~4の整数である。
R
1、R
2、R
3、R
4が該繰り返し単位中に複数ある場合は、R
1、R
2、R
3、R
4は同一であっても異なっていてもよい。
【請求項4】
前記重合体が、置換基として架橋性基を有
し、
前記架橋性基が芳香族環に縮環したシクロブテン環、又は、芳香族環に結合したアルケニル基を含む基である、請求項1~
3のいずれか1項に記載の重合体。
【請求項5】
前記重合体の重量平均分子量(Mw)が10,000以上であり、且つ、分散度(Mw/Mn)が3.5以下である、請求項1~
4のいずれか1項に記載の重合体。
【請求項6】
前記式(1)-2中のAr
1が、置換基を有していてもよい二価の芳香族炭化水素基が2以上連結した基である、請求項1~
5のいずれか1項に記載の重合体。
【請求項7】
前記式(1)-2中のAr
1が、1,3位で連結したベンゼン環を少なくとも1つ含む、請求項1~
6のいずれか1項に記載の重合体。
【請求項8】
前記式(1)-2中のAr
1
が、下記スキーム2-1及び2-2から選択される、請求項1~5のいずれか1項に記載の重合体。
【化4】
【化5】
(“-*”はGと前記式(1)-2の特定の6員複素芳香環との結合部位を表す。2つの”-*”のうち、どちらがGと結合していても、特定の6員複素芳香環と結合していてもよい。)
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項に記載の重合体を含有する有機電界発光素子用組成物。
【請求項10】
請求項1~8のいずれか1項に記載の重合体を含有する正孔輸送層又は正孔注入層形成用組成物。
【請求項11】
基板上に、陽極、陰極、及び該陽極と該陰極の間に有機層を有する有機電界発光素子の製造方法であって、該有機層の少なくとも1層を、請求項9に記載の有機電界発光素子用組成物を用いて、湿式成膜法で形成する成膜ステップを含む有機電界発光素子の製造方法。
【請求項12】
前記成膜ステップで形成する有機層が、正孔注入層及び正孔輸送層のうちの少なくとも一つである、請求項11に記載の有機電界発光素子の製造方法。
【請求項13】
前記陽極と陰極の間に正孔注入層、正孔輸送層及び発光層を含み、前記成膜ステップで形成する有機層が、該正孔注入層、正孔輸送層及び発光層である、請求項11又は12に記載の有機電界発光素子の製造方法。
【請求項14】
請求項1~8のいずれか1項に記載の重合体、又は該重合体を架橋させた重合体を含有する層を含む有機電界発光素子。
【請求項15】
請求項14に記載の有機電界発光素子を備える有機EL表示装置。
【請求項16】
請求項14に記載の有機電界発光素子を備える有機EL照明。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は重合体に関する。詳しくは、本発明は、有機電界発光素子の電荷輸送性材料として有用な重合体に関する。本発明はまた、該重合体を含有する有機電界発光素子用組成物、正孔輸送層又は正孔注入層形成用組成物、該組成物を用いて形成された層を含む有機電界発光素子及びその製造方法、並びに、該有機電界発光素子を有する有機EL表示装置及び有機EL照明に関する。
【背景技術】
【0002】
有機電界発光素子における有機層の形成方法としては、真空蒸着法と湿式成膜法がある。
真空蒸着法は積層化が容易であるため、陽極及び/又は陰極からの電荷注入の改善、励起子の発光層封じ込めが容易であるという利点を有する。
一方で、湿式成膜法は真空プロセスが要らず、大面積化が容易で、様々な機能をもった複数の材料を混合した塗布液を用いることにより、容易に、様々な機能をもった複数の材料を含有する層を形成できる等の利点がある。
しかし、湿式成膜法は積層化が困難であるため、真空蒸着法による素子に比べて駆動安定性に劣り、一部を除いて実用レベルに至っていないのが現状である。
【0003】
湿式成膜法による積層化を行うために、架橋性基を有する電荷輸送性ポリマーが所望され、またその開発が行われている。例えば、特許文献1~3には、特定の繰り返し単位を有する重合体を含有し、湿式成膜法によって積層化された有機電界発光素子が開示されている。
【0004】
特許文献4及び5には、重合体の主鎖にフルオレン環又はカルバゾール環と置換基を有さないフェニレン環が結合した構造の正孔注入輸送性材料が開示されている。
【0005】
特許文献6では、sp3混成の四級炭素C4とフェニレンの繰り返し単位を有するポリマーにおいて、主鎖に非共役ユニットを含むことが好ましいことが記載されている。特許文献6には、トリアジン環をアルキレン基を介して主鎖と繋げた側鎖構造の開示がある。
【0006】
特許文献7には、主鎖にケイ素原子とカルバゾール環を含む繰り返し単位を有するポリマーにおいて、カルバゾール環の9位にアリール基を介して置換基を有するトリアジン基が連結されている化合物が開示されている。
【0007】
特許文献8には、アリールアミン構造を有するポリマーの側鎖に、ピリジン構造を有するポリマーが開示されている。
【0008】
【文献】国際公開第2009/123269号
【文献】特開2013-045986号公報
【文献】国際公開第2013/191088号
【文献】特開2016-084370号公報
【文献】特開2017-002287号公報
【文献】特表2014-506003号
【文献】中国特許公開第108383980号明細書
【文献】国際公開第2003/057762号
【0009】
特許文献6には、側鎖のトリアジン環と主鎖とをアルキレン基を介して繋げた構造が開示されている。しかし、このポリマーは、主鎖と側鎖のトリアジン環とがアルキレン基を介すことにより分子間電荷移動が阻止される構造となっている。
【0010】
特許文献7で開示されている化合物は、ケイ素原子を含むことでポリマーの主鎖は非共役になり、電荷輸送性に劣る。
【0011】
特許文献8には、主鎖に電荷輸送性が優れるフルオレニル基を有するアリールアミンポリマーが開示されている。しかし、このポリマーは、ピリジン環と主鎖にあるN原子とが直接結合することによってエキシマ形成しやすいため、素子の耐久性が不十分である。
【発明の概要】
【0012】
本発明は、正孔注入輸送能が高く、耐久性の高い重合体及び該重合体を含む有機電界発光素子用組成物を提供することを課題とする。また、本発明は、輝度が高く、駆動寿命が長い有機電界発光素子を提供することを課題とする。
【0013】
本発明者は、窒素原子を有する特定の6員複素芳香環を含む特定の構造を側鎖に有する重合体を用いることで、上記課題を解決し得ることを見出した。
本発明の要旨は、次の[1]~[16]のとおりである。
【0014】
[1] 下記式(1)で表される繰り返し単位を含む重合体。
【0015】
【0016】
式(1)中、Gは置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基、又はN原子を表す。
Ar2は、置換基を有していてもよい二価の芳香族炭化水素基、置換基を有していてもよい二価の芳香族複素環基、或いは、置換基を有していてもよい二価の芳香族炭化水素基及び置換基を有していてもよい二価の芳香族複素環基から選ばれる2以上の基が直接若しくは連結基を介して複数個連結した二価の基を表す。
Aは窒素原子を有する特定の6員複素芳香環を含む構造であって、式(1)-2で表される。
式(1)-2中、Ar1は、置換基を有していてもよい二価の芳香族炭化水素基を表す。
Ar3及びAr4は、それぞれ独立に、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基、置換基を有していてもよい芳香族複素環基、或いは、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基及び置換基を有していてもよい芳香族複素環基から選ばれる2以上の基が直接若しくは連結基を介して複数個連結した一価の基を表す。
X,Yは、それぞれ独立に、C原子又はN原子を表す。X又はYが、C原子の場合は、置換基を有していてもよい。
“-*”は、式(1)中のGと結合する部位である。
【0017】
[2] 前記GはN原子である、[1]に記載の重合体。
【0018】
[3] 前記式(1)で表される繰り返し単位が、下記式(2)-1~(2)-3のいずれかで表される繰り返し単位である、[2]に記載の重合体。
【0019】
【0020】
式(2)-1~式(2)-3中、Aは前記式(1)におけるAと同じである。
Qは、-C(R5)(R6)-、-N(R7)-又は-C(R11)(R12)-C(R13)(R14)-を表す。
R1~R4は、各々独立に、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアルコキシ基、又は置換基を有していてもよいアラルキル基を表す。
R5~R7及びR11~R14は、各々独立に、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアルコキシ基、置換基を有していてもよいアラルキル基、又は置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基を表す。
a、bは各々独立に0~4の整数である。
c1~c5は各々独立に0~3の整数である。
但し、c3とc5の少なくとも一方は1以上である。
d1~d4は各々独立に1~4の整数である。
R1、R2、R3、R4が該繰り返し単位中に複数ある場合は、R1、R2、R3、R4は同一であっても異なっていてもよい。
【0021】
[4] 更に、下記(3)-1~(3)-3のいずれかで表される繰り返し単位を含む、[1]~[3]のいずれかに記載の重合体。
【0022】
【0023】
式(3)-1~(3)-3中、Ar7は、前記式(1)-2で表される構造Aである窒素原子を有する特定の6員複素芳香環を含む基を除く、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基又は置換基を有していてもよい芳香族複素環基を表す。
Qは、-C(R5)(R6)-、-N(R7)-又は-C(R11)(R12)-C(R13)(R14)-を表す。
R1~R4は、各々独立に、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアルコキシ基、又は置換基を有していてもよいアラルキル基を表す。
R5~R7及びR11~R14は、各々独立に、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアルコキシ基、置換基を有していてもよいアラルキル基、又は置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基を表す。
a、bは各々独立に0~4の整数である。
c1~c5は各々独立に0~3の整数である。
但し、c3とc5の少なくとも一方は1以上整数である。
d1~d4は各々独立に1~4の整数である。
R1、R2、R3、R4が該繰り返し単位中に複数ある場合は、R1、R2、R3、R4は同一であっても異なっていてもよい。
【0024】
[5] 前記重合体が、置換基として架橋性基を有する、[1]~[4]のいずれかに記載の重合体。
【0025】
[6] 前記重合体の重量平均分子量(Mw)が10,000以上であり、且つ、分散度(Mw/Mn)が3.5以下である、[1]~[5]のいずれかに記載の重合体。
【0026】
[7] 前記式(1)-2中のAr1が、置換基を有していてもよい二価の芳香族炭化水素基が2以上連結した基である、[1]~[6]のいずれかに記載の重合体。
【0027】
[8] 前記式(1)-2中のAr1が、1,3位で連結したベンゼン環を少なくとも1つ含む、[1]~[7]のいずれかに記載の重合体。
【0028】
[9] [1]~[8]のいずれかに記載の重合体を含有する有機電界発光素子用組成物。
【0029】
[10] [1]~[8]のいずれかに記載の重合体を含有する正孔輸送層又は正孔注入層形成用組成物。
【0030】
[11] 基板上に、陽極、陰極、及び該陽極と該陰極の間に有機層を有する有機電界発光素子の製造方法であって、該有機層の少なくとも1層を、[9]に記載の有機電界発光素子用組成物を用いて、湿式成膜法で形成する成膜ステップを含む有機電界発光素子の製造方法。
【0031】
[12] 前記成膜ステップで形成する有機層が、正孔注入層及び正孔輸送層のうちの少なくとも一つである、[11]に記載の有機電界発光素子の製造方法。
【0032】
[13] 前記陽極と陰極の間に正孔注入層、正孔輸送層及び発光層を含み、前記成膜ステップで形成する有機層が、該正孔注入層、正孔輸送層及び発光層である、[11]又は[12]に記載の有機電界発光素子の製造方法。
【0033】
[14] [1]~[8]のいずれかに記載の重合体、又は該重合体を架橋させた重合体を含有する層を含む有機電界発光素子。
【0034】
[15] [14]に記載の有機電界発光素子を備える有機EL表示装置。
【0035】
[16] [14]に記載の有機電界発光素子を備える有機EL照明。
【発明の効果】
【0036】
本発明によれば、正孔注入輸送能が高く、耐久性の高い重合体及び該重合体を含む有機電界発光素子用組成物を提供することができる。本発明によればまた、輝度が高く、駆動寿命が長い有機電界発光素子を提供することができる。
【0037】
本発明の一実施形態である重合体が上記の効果を奏する理由は定かではないが、以下が考えられる。
側鎖に、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基を介して、置換基を有していてもよい窒素原子を有する特定の6員複素芳香環を含む特定の構造を有する正孔輸送ポリマーでは、主鎖と、窒素原子を有する特定の6員複素芳香環とが共役構造を形成する。例えばアミン構造を有する主鎖を用いたポリマー構造では、HOMOが主鎖のアミン近傍に分布し、LUMOが窒素原子を有する特定の6員複素芳香環の周辺に分布する。
主鎖のアミンと窒素原子を有する特定の6員複素芳香環との間の共役は、長いほどLUMOが窒素原子を有する特定の6員複素芳香環に分布しやすい。
【0038】
本実施形態の重合体では、主鎖と窒素原子を有する特定の6員複素芳香環との間に二価の芳香族炭化水素基であるAr1が存在することで、分子内のHOMOとLUMOが離れて局在化する。このため、LUMOが分布する電子耐久性の高い部位が電子を受けるため、電子に対する耐久性が向上し、かつ、主鎖のホール輸送性が阻害されず、ホール輸送性に優れると考えられる。
本発明における、窒素原子を有する6員複素芳香環とは、式(1)の構造Aに含まれる、X及びYを含む6員複素芳香環を指し、具体的にはピリジン、ピリミジン、又はトリアジン構造を取りうる。
【0039】
本実施形態の重合体の主鎖にはフルオレン環又はカルバゾール環が含まれることが好ましい。この場合、これらフルオレン環又はカルバゾール環の2,7-位にフェニレン基が結合することが好ましい。フルオレン環又はカルバゾール環の2,7-位にフェニレン基が結合することによって、フルオレン環又はカルバゾール環は電気的により安定となる。特に、電子耐久性が向上し、素子駆動寿命が長くなると考えられる。この時、フェニレン環がオルト位に置換基を有する場合は、置換基による立体障害のために、置換基を有するフェニレン基の面は、隣接するフルオレン環又はカルバゾール環の面に対して、よりねじれた配置となる。この場合、置換基の立体障害によって、π共役系の広がりが阻害された主鎖構造を有するため、励起一重項エネルギー準位(S1)及び励起三重項エネルギー準位(T1)が高い性質があり、発光励起子からのエネルギー移動による消光が抑制されるため発光効率に優れる。
【0040】
本実施形態の重合体の主鎖には、置換基を有するフェニレン基が含まれることが好ましい。主鎖のフェニレン基が置換基を有する場合、置換基の立体障害により、置換基を有するフェニレン基の面は、隣接するフェニレン基、2価のフルオレン基、又は2価のカルバゾール基の面に対してより捻じれた配置になるとともに、置換基による立体障害のため、結晶化が起きにくく、また、励起一重項エネルギー準位(S1)及び励起三重項エネルギー準位(T1)が高い性質があり好ましい。
【0041】
本実施形態の重合体の主鎖にフェニレン基と酸素原子と交互結合する構造を含むことにより、π共役系の広がりが阻害された主鎖構造となる。このため、励起一重項エネルギー準位(S1)及び励起三重項エネルギー準位(T1)が高い性質があり、発光励起子からのエネルギー移動による消光が抑制されるため発光効率に優れ、好ましい。
【0042】
有機電界発光素子においては各有機層間のエネルギー準位差が適正でないと、発光層へのキャリア注入が難しくなり、駆動電圧が上昇してしまう。又は、発光層から隣接層へのキャリア漏洩が起こりやすくなり、素子効率が低下すると考えられる。
これに対して、本実施形態の重合体のように発光層にある発光材料の励起子のエネルギー準位より高いエネルギー準位を有する電荷輸送材料は、発光材料の励起子を閉じ込める効果が高く好ましい。
【0043】
本実施形態の重合体を含有する有機電界発光素子用組成物を用いて湿式成膜することにより得られる層は、クラック等が生じることがなく、平坦である。その結果、該層を有する本発明の別の実施形態である有機電界発光素子は、輝度が高く、駆動寿命が長い。
【0044】
本実施形態の重合体は、電気化学的安定性に優れる。このため、該重合体を用いて形成された層を含む素子は、フラットパネル・ディスプレイ(例えばOAコンピュータ用や壁掛けテレビ)、車載表示素子、携帯電話表示、面発光体としての特徴を生かした光源(例えば、複写機の光源、液晶ディスプレイや計器類のバックライト光源)、表示板、標識灯への応用が考えられ、その技術的価値は大きい。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【
図1】
図1は、本発明の有機電界発光素子の構造例を示す断面の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0046】
以下に、本発明の一実施形態である重合体、別の実施形態である、該重合体を含有する有機電界発光素子用組成物と正孔輸送層又は正孔注入層形成用組成物、該組成物を用いて形成された層を含む有機電界発光素子及びその製造方法、並びに、該有機電界発光素子を有する有機EL表示装置及び有機EL照明の実施態様を詳細に説明する。
以下の説明は、本発明の実施態様の一例(代表例)であり、本発明は、その要旨を超えない限り、これらの内容に特定されない。
【0047】
〔重合体〕
本発明の一形態である重合体は、下記式(1)で表される繰り返し単位を含む重合体である。
【0048】
【0049】
式(1)中、Gは置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基、又はN原子を表す。
Ar2は、置換基を有していてもよい二価の芳香族炭化水素基、置換基を有していてもよい二価の芳香族複素環基、或いは、置換基を有していてもよい二価の芳香族炭化水素基及び置換基を有していてもよい二価の芳香族複素環基から選ばれる2以上の基が直接若しくは連結基を介して複数個連結した二価の基を表す。
Aは窒素原子を有する特定の6員複素芳香環を含む構造であって、式(1)-2で表される。
式(1)-2中、Ar1は、置換基を有していてもよい二価の芳香族炭化水素基を表す。
Ar3及びAr4は、それぞれ独立に、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基、置換基を有していてもよい芳香族複素環基、或いは、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基及び置換基を有していてもよい芳香族複素環基から選ばれる2以上の基が直接若しくは連結基を介して複数個連結した一価の基を表す。
X,Yは、それぞれ独立に、C原子又はN原子を表す。X又はYが、C原子の場合は、置換基を有していてもよい。
“-*”は、式(1)中のGと結合する部位である。
【0050】
<G>
式(1)で表される繰り返し単位中において、Gは、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基、又は、N原子を表す。電荷輸送性が優れる点、窒素原子を有する特定の6員複素芳香環の周辺に分布するLUMOと主鎖に分布したHOMOとが離れて局在化される観点から、Gは置換基を有していてもよいベンゼン環、置換基を有していてもよいフルオレン環、置換基を有していてもよいスピロフルオレン環が好ましく、下記スキーム1に示す構造がより好ましい。なお、下記構造は置換基を有していてもよい。“-*”はAr1との結合部位を表す。
【0051】
【0052】
Gが置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基の場合、有してもよい置換基としては、後述する置換基群Z、炭素数7~40のアラルキル基、若しくは炭素数4~37のヘテロ環のアラルキル基のいずれか、又はこれらの組み合わせを用いることが好ましい。それらの中でも、耐久性の点からは、出現する毎に同一であるか又は異なり、炭素数1~24のアルキル基、炭素数7~40のアラルキル基、炭素数3~37のヘテロ環のアラルキル基、炭素数10~24のアリールアミノ基、炭素数6~36の芳香族炭化水素基、又は、炭素数3~36の芳香族複素環基であることが好ましく、炭素数1~12のアルキル基、炭素数7~30のアラルキル基、炭素数3~27のヘテロ環のアラルキル基、炭素数6~24の芳香族炭化水素基、又は、炭素数3~24の芳香族複素環基であることがより好ましく、炭素数6~24の芳香族炭化水素基であることが更に好ましい。
電荷輸送性の観点からは、出現する毎に同一であるか又は異なり、炭素数6~24の芳香族炭化水素基、又は炭素数3~24の芳香族複素環基であることが好ましく、フェニル基、ナフチル基、フルオレニル基、カルバゾリル基、インドロカルバゾリル基、インデノカルバゾリル基、又はインデノフルオレニル基であることが更に好ましい。
特に、スピロビフルオレンやフルオレンの9位と結合すると共役を切れるため、窒素原子を有する特定の6員複素芳香環に分布のLUMOと主鎖に分布したHOMOと更に局在化される観点から、Gはフルオレニル基、インデノフルオレニル基であることが好ましい。
【0053】
電荷輸送性が優れる点、特に、正孔輸送性に優れる点からGはN原子(窒素原子)であることが好ましい。
【0054】
<Ar1及びAr2>
式(1)で表される繰り返し単位中において、Ar1は、置換基を有していてもよい二価の芳香族炭化水素基を表し、Ar2は、置換基を有していてもよい二価の芳香族炭化水素基、置換基を有していてもよい二価の芳香族複素環基、或いは、置換基を有していてもよい二価の芳香族炭化水素基及び置換基を有していてもよい二価の芳香族複素環基から選ばれる2以上の基が直接若しくは連結基を介して複数個連結した二価の基を表す。
【0055】
芳香族炭化水素基としては、炭素数が6以上、60以下が好ましく、具体的には、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、フェナントレン環、ペリレン環、テトラセン環、ピレン環、ベンズピレン環、クリセン環、トリフェニレン環、アセナフテン環、フルオランテン環、フルオレン環等の、6員環の単環若しくは2~5縮合環の二価の基又はこれらが複数連結した二価の基が挙げられる。
【0056】
芳香族複素環基としては、炭素数が3以上、60以下が好ましく、具体的には、フラン環、ベンゾフラン環、チオフェン環、ベンゾチオフェン環、ピロール環、ピラゾール環、イミダゾール環、オキサジアゾール環、インドール環、カルバゾール環、ピロロイミダゾール環、ピロロピラゾール環、ピロロピロール環、チエノピロール環、チエノチオフェン環、フロピロール環、フロフラン環、チエノフラン環、ベンゾイソオキサゾール環、ベンゾイソチアゾール環、ベンゾイミダゾール環、ピリジン環、ピラジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、トリアジン環、キノリン環、イソキノリン環、シンノリン環、キノキサリン環、フェナントリジン環、ベンゾイミダゾール環、ペリミジン環、キナゾリン環、キナゾリノン環、アズレン環等の、5~6員環の単環若しくは2~4縮合環の二価の基又はこれらが複数連結した二価の基が挙げられる。
【0057】
置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基及び置換基を有していてもよい芳香族複素環基から選ばれる2以上の基が直接若しくは連結基を介して複数個連結した二価の基としては、同じ基が複数連結した基でもよく、異なる基が複数連結した基でも構わない。
【0058】
Ar1は、式(1)-2における窒素原子を有する特定の6員複素芳香環に分布のLUMOと主鎖に分布したHOMOとを局在化される観点から、置換基を有していてもよい二価の芳香族炭化水素基1個か置換基を有していてもよい二価の芳香族炭化水素基が2~10個連結した基が好ましく、置換基を有していてもよい二価の芳香族炭化水素基1個か置換基を有していてもよい二価の芳香族炭化水素基が2~8個連結した基が更に好ましく、中でも置換基を有していてもよい二価の芳香族炭化水素基が2以上連結した基であることが好ましい。
Ar1としては、特に、置換基を有していてもよいベンゼン環が2~6個連結した基が好ましく、置換基を有していてもよいベンゼン環が4個連結したクアテルフェニレン基が最も好ましい。
【0059】
式(1)-2における窒素原子を有する特定の6員複素芳香環に分布するLUMOと主鎖に分布するHOMOとをより局在化させる観点から、Ar1は非共役部位である1,3位で連結したベンゼン環を少なくとも1つ含むことが好ましく、2以上含むことが更に好ましい。
Ar1が置換基を有していてもよい二価の芳香族炭化水素基が複数連結した基の場合、電荷輸送性又は耐久性の観点から、全て直接結合して連結していることが好ましい。
【0060】
本発明者は、式(1)-2における窒素原子を有する特定の6員複素芳香環をトリアジン環とした、以下のユニットDUL-413、DUL-414、DUL-415及びDUL-416について、汎関数にB3LYPを指定し基底関数に6―31Gを用いたDFT計算による構造適化後、Gauss View(HPCシステムズ)にてHOMO、LUMOの等電子密度面(0.02)を表示することで各ユニットのHOMOおよびLUMOの分布解析を行った。更に、マリケン分布流に定義されたフロンティア軌道(HOMO及びLUMO)分布間の重なり(内積の平方根)を計算し、その値を“HOMO-LUMO Overlap“として求めた。結果を表1に示す。
【0061】
【0062】
【0063】
【0064】
【0065】
【0066】
計算の結果より、DUL-413、DUL-414、DUL-415及びDUL-416は、トリアジン環の周りに分子のLUMOが分布することが分かった。また、アミンの窒素原子とトリアジン環の間のフェニレン基は、パラ位で連結するよりもメタ位で連結する方がHOMOとLUMOの重なりの値は小さくなっており、好ましい。さらに、アミンの窒素原子とトリアジン環との間に、メタ位で連結するフェニレン基の数が多いほど、HOMOとLUMOの重なりの値は小さくなっている。電子を受ける部位であるトリアジン環の周りのLUMOとホールを受ける部位であるトリフェニルアミンの周りのHOMOとの重なりが少ないほど、分子が化学的に安定である。
HOMO-LUMO Overlapの値は0.1以下が好ましく、0.05以下がより好ましく、0.01未満がさらに好ましい。
メタ位で連結するフェニレン基の数が3の場合よりも4である方がHOMOとLUMOの重なりは小さくなるので、HOMO-LUMO Overlapの値は0.0024未満が特に好ましい。
このため、Ar1として、Gと前記式(1)-2に示される特定の6員複素芳香環との間を繋ぐ好ましい構造は、下記のスキーム2-1及びスキーム2-2に挙げられる通りである。“-*”はGと前記式(1)-2の特定の6員複素芳香環との結合部位を表す。2つの”-*”のうち、どちらがGと結合していても、特定の6員複素芳香環と結合していてもよい。
【0067】
【0068】
【0069】
Ar2は電荷輸送性が優れる点、耐久性に優れる点から、置換基を有していてもよい二価の芳香族炭化水素基及び置換基を有していてもよい二価の芳香族複素環基から選ばれる1又は複数の基が直接又は連結基を介して結合した二価の基であることが好ましい。
【0070】
Ar2が連結基を有する場合、連結基としては、酸素原子又はカルボニル基が好ましい。
芳香族環と非共役構造を構成することで三重項レベルを高くすることができるため、環同士の間を酸素原子又はカルボニル基で連結している構造が好ましい。
【0071】
π共役系が広がることで電荷輸送性が向上し、安定性に優れる観点から、Ar2に含まれる環はベンゼン環又はフルオレン環であることが好ましい。
π共役系の広がりが阻害された主鎖構造となり、励起一重項エネルギー準位(S1)及び励起三重項エネルギー準位(T1)が高くなり、発光励起子からのエネルギー移動による消光が抑制され、発光効率に優れる観点から、フルオレン環とアルキル基を有するフェニレン基とが結合するねじれ構造が特に好ましい。その中でもモノマー中間体の合成や精製の難易度より、Ar2はメチル基を有するフェニレン基を含む構造が特に好ましい。
【0072】
Gが窒素原子の場合、正孔輸送性が向上することから、Gに直接結合するAr2の部分構造としては、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基が好ましく、置換基を有していてもよいフェニレン基又は置換基を有していてもよいフルオレニレン基が更に好ましく、置換基を有していてもよいフェニレン基が特に好ましい。
窒素原子であるGに直接結合するベンゼン環には、フルオレン環又はカルバゾール環が結合することが好ましい。Gの窒素原子に直接結合するベンゼン環と、フルオレン環又はカルバゾール環の間には、更に1又は複数のフェニレン基が連結している構造も好ましい。
【0073】
Ar1が有していてもよい置換基としては、後述する置換基群Zのいずれか又はこれらの組み合わせを用いることができる。Ar1が有していてもよい置換基の好ましい範囲は、前述のGが芳香族炭化水素基である場合に有してもよい置換基と同様である。
【0074】
Ar2が有していてもよい置換基は、前述のGが芳香族炭化水素基である場合に有してもよい置換基と同様である。
【0075】
<X及びY>
X及びYは、それぞれ独立に、C(炭素)原子又はN(窒素)原子を表す。X又はYが、C原子の場合は、置換基を有していてもよい。
窒素原子を有する特定の6員複素芳香環の周辺にLUMOをより局在化させやすい観点からX,YはいずれもN原子であることが好ましい。
【0076】
X又はYがC原子の場合に有していてもよい置換基としては、後述する置換基群Zのいずれか又はこれらの組み合わせを用いることができる。電荷輸送性の観点からは、置換基を有さないことが更に好ましい。
【0077】
<Ar3及びAr4>
Ar3及びAr4は、それぞれ独立に、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基、置換基を有していてもよい芳香族複素環基、或いは、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基及び置換基を有していてもよい芳香族複素環基から選ばれる2以上の基が直接若しくは連結基を介して複数個連結した一価の基である。
【0078】
分子のLUMOを分布させる観点から、Ar3及びAr4は、それぞれ独立に、下記スキーム3に示すa-1~a-4、b-1~b-9、c-1~c-5、d-1~d-17、及びe-1~e-4から選択される構造を有することが好ましい。
更に電子求引性基を有することにより分子のLUMOが広がることに促進する観点から、a-1~a-4、b-1~b-9、c-1~c-5、d-1~d-13、及びe-1~e-4から選択される構造が好ましい。
更に三重項レベルが高い、発光層に形成された励起子を閉じ込める効果の観点から、a-1~a-4、d-1~d-13、及びe-1~e-4から選択される構造が好ましい。
分子の凝集を防ぐため、d-1~d-13、及びe-1~e-4から選択される構造が更に好ましい、簡易に合成でき、安定性に優れる観点からAr3=Ar4=d-3のベンゼン環の構造が特に好ましい。
またこれら構造に置換基を有していてもよい。“-*”は窒素原子を有する特定の6員複素芳香環との結合部位を表す。“-*”が複数ある場合はいずれか一つが窒素原子を有する特定の6員複素芳香環と結合する部位を表す。
【0079】
【0080】
Ar3及びAr4が有していてもよい置換基としては、後述する置換基群Zのいずれか又はこれらの組み合わせを用いることができる。耐久性及び電荷輸送性の観点から、上記のAr2の置換基と同じであることが好ましい。
【0081】
<R31及びR32>
スキーム3のR31及びR32は、各々独立に、置換基を有していてもよい直鎖、分岐又は環状のアルキル基であることが好ましい。アルキル基の炭素数は特に限定されないが、重合体の溶解性を維持するために、炭素数が1以上、6以下が好ましく、3以下がより好ましく、メチル基又はエチル基であることが更に好ましい。
【0082】
R31及びR32は同一であっても異なっていてもよいが、電荷を均一的に窒素原子の周りに分布することができ、更に合成も容易であることから、全てのR31及びR32は同一の基であることが好ましい。
【0083】
[好ましい繰り返し単位構造]
式(1)で表される繰り返し単位は、下記式(2)-1~式(2)-3のいずれかで表される繰り返し単位であることが好ましい。
【0084】
【0085】
式(2)-1~式(2)-3中、Aは前記式(1)におけるAと同じである。
Qは、-C(R5)(R6)-、-N(R7)-又は-C(R11)(R12)-C(R13)(R14)-を表す。
R1~R4は、各々独立に、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアルコキシ基、又は置換基を有していてもよいアラルキル基を表す。
R5~R7及びR11~R14は、各々独立に、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアルコキシ基、置換基を有していてもよいアラルキル基、又は置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基を表す。
a、bは各々独立に0~4の整数である。
c1~c5は各々独立に0~3の整数である。
但し、c3とc5の少なくとも一方は1以上である。
d1~d4は各々独立に1~4の整数である。
R1、R2、R3、R4が該繰り返し単位中に複数ある場合は、R1、R2、R3、R4は同一であっても異なっていてもよい。
【0086】
<R1及びR2>
式(2)-1~式(2)-3で表される繰り返し単位中のR1及びR2は、各々独立に、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアルコキシ基、又は置換基を有していてもよいアラルキル基である。R1及びR2は、各々独立に、置換基を有していてもよい直鎖、分岐又は環状のアルキル基であることが好ましい。
該アルキル基の炭素数は特に限定されないが、重合体の溶解性を維持するために、炭素数が1以上、6以下が好ましく、3以下がより好ましく、メチル基又はエチル基であることが更に好ましい。
【0087】
R1及びR2が該繰り返し単位中に複数ある場合は、R1及びR2は同一であっても異なっていてもよいが、電荷を均一的に窒素原子の周りに分布することができ、更に合成も容易であることから、全てのR1及びR2は同一の基であることが好ましい。
【0088】
<R3及びR4>
式(2)-1~式(2)-3で表される繰り返し単位中のR3及びR4は、各々独立に、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアルコキシ基、又は置換基を有していてもよいアラルキル基である。R3及びR4は、各々独立に、置換基を有していてもよい直鎖、分岐又は環状のアルキル基であることが好ましい。
該アルキル基の炭素数は特に限定されないが、重合体の溶解性を維持するために、炭素数が1以上であることが好ましく、4以上がより好ましく、炭素数12以下が好ましく、更に好ましくは8以下であり、ヘキシル基であることが特に好ましい。
【0089】
<R5~R7及びR11~R14>
R5~R7及びR11~R14は、各々独立に、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアルコキシ基、置換基を有していてもよいアラルキル基、又は置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基である。R5~R7及びR11~R14は、各々独立に、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアラルキル基、又は置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基であることが好ましい。
【0090】
前記アルキル基は特に限定されないが、重合体の溶解性を向上しやすいためには長い方が好ましく、膜の安定性を向上させるため、及び電荷輸送性を向上させるためには短い方が好ましい。該アルキル基は、炭素数が1以上、24以下が好ましく、12以下がより好ましく、8以下が更に好ましく、6以下が特に好ましく、2以上がより好ましく、3以上が更に好ましく、4以上が特に好ましい。該アルキル基は直鎖、分岐又は環状のいずれの構造であってもよい。
該アルキル基としては、具体的には、メチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、n-ブチル基、i-ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ヘキシル基、n-オクチル基、シクロヘキシル基、ドデシル基等が挙げられる。
【0091】
前記アルコキシ基は特に限定されないが、重合体の溶解性を向上しやすいため、炭素数1以上、24以下が好ましく、12以下がより好ましく、8以下が更に好ましく、6以下が特に好ましく、2以上がより好ましく、3以上が更に好ましく、4以上が特に好ましい。
該アルコキシ基としては、具体的には、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、i-プロポキシ基、n-ブトキシ基、i-ブトキシ基、tert-ブトキシ基、ヘキシルオキシ基等が挙げられる。
【0092】
前記アラルキル基は特に限定されないが、重合体の溶解性を向上しやすいため、炭素数7以上、60以下が好ましく、40以下がより好ましく、8以上がより好ましく、10以上が更に好ましく、12以上が特に好ましい。
該アラルキル基としては、具体的には、1,1-ジメチル-1-フェニルメチル基、1,1-ジ(n-ブチル)-1-フェニルメチル基、1,1-ジ(n-ヘキシル)-1-フェニルメチル基、1,1-ジ(n-オクチル)-1-フェニルメチル基、フェニルメチル基、フェニルエチル基、3-フェニル-1-プロピル基、4-フェニル-1-n-ブチル基、1-メチル-1-フェニルエチル基、5-フェニル-1-n-プロピル基、6-フェニル-1-n-ヘキシル基、6-ナフチル-1-n-ヘキシル基、7-フェニル-1-n-ヘプチル基、8-フェニル-1-n-オクチル基、4-フェニルシクロヘキシル基等が挙げられる。
【0093】
前記芳香族炭化水素基としては特に限定されないが、重合体の溶解性を向上しやすいため、炭素数が6以上、60以下が好ましく、30以下がより好ましく、24以下が更に好ましく、14以下が特に好ましい。
該芳香族炭化水素基としては、具体的には、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、フェナントレン環、ペリレン環、テトラセン環、ピレン環、ベンズピレン環、クリセン環、トリフェニレン環、アセナフテン環、フルオランテン環、フルオレン環等の、6員環の単環又は2~5縮合環の1価の基、又はこれらから選ばれる環構造が2~8個連結した基が挙げられる。好ましくは単環又は2~4個連結した基である。
【0094】
電荷輸送性及び耐久性向上の観点から、R5~R7はアルキル基又は芳香族炭化水素基が好ましい。R5及びR6はアルキル基であることがより好ましい。R7は芳香族炭化水素基であることがより好ましい。これらの基の好ましい炭素数は前記の通りである。
溶解性を向上しつつ電荷輸送性に優れる点では、R5及びR6は炭素数3以上8以下のアルキル基又は炭素数9以上40以下のアラルキル基が好ましい。
【0095】
R1~R4のアルキル基、アルコキシ基、アラルキル基、R5~R7及びR11~R14のアルキル基、アルコキシ基、アラルキル基及び芳香族炭化水素基は、更に置換基を有していてもよい。更に有していてもよい置換基は、R5~R7及びR11~R14のアルキル基、アルコキシ基、アラルキル基及び芳香族炭化水素基の好ましい基として挙げた基、又は後述の架橋性基が挙げられる。
R1~R4のアルキル基、アルコキシ基、アラルキル基、R5~R7及びR11~R14のアルキル基、アルコキシ基、アラルキル基及び芳香族炭化水素基は、低電圧化の観点からは、置換基を有さないことが最も好ましい。
【0096】
R5~R7及びR11~R14が更に有してよい置換基は、本実施形態の重合体を成膜後、更に別の層を塗布成膜して積層する場合、溶媒に対する不溶性が向上する観点から、後述の架橋性基であることが好ましい。中でも、電荷輸送性を妨げにくいことから、R5、R6、及びR11~R14のいずれかが更なる置換基として後述の架橋性基を有することが好ましく、R5及びR6の少なくとも一方が更なる置換基として後述の架橋性基を有することが更に好ましい。
【0097】
<a、b、c1~c5、d1~d4>
式(2)-1~式(2)-3で表される繰り返し単位中において、a及びbは各々独立に、0~4の整数である。a及びbは、各々2以下であることが好ましく、aとbの両方が同時に0又は1であることがより好ましい。
【0098】
式(2)-1~式(2)-3で表される繰り返し単位中において、c1~c5は各々独立に0~3の整数である。但し、c3とc5の少なくとも一方は1以上である。d1~d4は各々独立に1~4の整数である。
c1~c5、d1~d4は、各々独立に2以下であることが好ましい。
c1、c2の両方が同時に0又は1であることがより好ましい。c1、c2は1以上であることがより好ましい。
c3又はc4の少なくとも一方、若しくはc3及びc4の両方は1以上であることが好ましい。c3及びc4の両方が1であることが更に好ましい。
c5は1以上であることが好ましい。
c1とc2、c3とc4、d1~d4はそれぞれ等しいことがより好ましい。c1~c5、d1~d4の全てが1又は2であることがより更に好ましい。c1~c5、d1~d4の全てが1であることが特に好ましい。
【0099】
式(2)-1で表される繰り返し単位中のc1とc2の両方が同時に1又は2であり、且つ、aとbの両方が2又は1である場合、R1とR2は、互いに対称な位置に結合していることが最も好ましい。
式(2)-2で表される繰り返し単位中のc3とc4の両方が同時に1又は2であり、且つ、aとbの両方が2又は1である場合、R1とR2は、互いに対称な位置に結合していることが最も好ましい。
【0100】
ここで、R1とR2とが互いに対称な位置に結合するということについて、式(2)-1においてQ=C、c1=c2=1、a=b=2である場合の一例を例にとり、下記式(1-1)及び(1-2)で説明する。
R1とR2とが互いに対称な位置に結合するということとは、下記式(1-1),(1-2)における主鎖のフルオレン環に対して、R1とR2の結合位置が対象であることをいう。このとき、主鎖を軸とする180度回転は同一構造とみなす。例えば、下記式(1-1)において、R1’とR2’とが対象、R1”とR2”とが対象であり、式(1-1)と式(1-2)とは同一構造とみなす。
【0101】
【0102】
<具体例>
好ましい繰り返し単位構造の具体例としては、以下の構造が挙げられる。
【0103】
【0104】
【0105】
【0106】
[置換基群Z]
置換基群Zとして、以下の置換基が挙げられる。
例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、n-ブチル基、i-ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ヘキシル基、シクロヘキシル基、ドデシル基等の、炭素数が通常1以上、好ましくは4以上であり、通常24以下、好ましくは12以下である、直鎖、分岐、又は環状のアルキル基;
例えば、ビニル基等の、炭素数が通常2以上であり、通常24以下、好ましくは12以下であるアルケニル基;
例えば、エチニル基等の、炭素数が通常2以上であり、通常24以下、好ましくは12以下であるアルキニル基;
例えば、メトキシ基、エトキシ基等の、炭素数が通常1以上であり、通常24以下、好ましくは12以下であるアルコキシ基;
例えば、フェノキシ基、ナフトキシ基、ピリジルオキシ基等の、炭素数が通常4以上、好ましくは5以上であり、通常36以下、好ましくは24であるアリールオキシ基若しくはヘテロアリールオキシ基;
例えば、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基等の、炭素数が通常2以上であり、通常24以下、好ましくは12以下であるアルコキシカルボニル基;
例えば、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基等の、炭素数が通常2以上であり、通常24以下、好ましくは12以下であるジアルキルアミノ基;
例えば、ジフェニルアミノ基、ジトリルアミノ基、N-カルバゾリル基等の、炭素数が通常10以上、好ましくは12以上であり、通常36以下、好ましくは24以下のジアリールアミノ基;
例えば、フェニルメチルアミノ基等の、炭素数が通常7以上であり、通常36以下、好ましくは24以下であるアリールアルキルアミノ基;
例えば、アセチル基、ベンゾイル基等の、炭素数が通常2以上であり、通常24以下、好ましくは12以下であるアシル基;
例えば、フッ素原子、塩素原子等のハロゲン原子;
例えば、トリフルオロメチル基等の、炭素数が通常1以上であり、通常12以下、好ましくは6以下のハロアルキル基;
例えば、メチルチオ基、エチルチオ基等の、炭素数が通常1以上であり、通常24以下、好ましくは12以下のアルキルチオ基;
例えば、フェニルチオ基、ナフチルチオ基、ピリジルチオ基等の、炭素数が通常4以上、好ましくは5以上であり、通常36以下、好ましくは24以下であるアリールチオ基若しくはヘテロアリールチオ基;
例えば、トリメチルシリル基、トリフェニルシリル基等の、炭素数が通常2以上、好ましくは3以上であり、通常36以下、好ましくは24以下であるシリル基;
例えば、トリメチルシロキシ基、トリフェニルシロキシ基等の、炭素数が通常2以上、好ましくは3以上であり、通常36以下、好ましくは24以下であるシロキシ基;
シアノ基;
例えば、フェニル基、ナフチル基等、又は、同一又は異なる単環又は縮合環の芳香族炭化水素環が複数連結した1価の基の、炭素数が通常6以上であり、通常36以下、好ましくは24以下である芳香族炭化水素基;
例えば、チエニル基等、又は、同一又は異なる単環又は縮合環の芳香族複素環が複数連結した1価の基の、炭素数が通常3以上、好ましくは5以上であり、通常36以下、好ましくは24以下である芳香族複素環基:
芳香族炭化水素環及び芳香族複素環基が連結した1価の芳香族基であって、芳香族炭化水素環又は芳香族複素環基が複数の場合それらは同一であっても異なっていてもよい、炭素数が8以上36以下、好ましくは24以下である1価の芳香族基。
【0107】
上記の置換基群Zの中でも、好ましくは、前記アルキル基、アルコキシ基、芳香族炭化水素基、窒素原子を有する特定の6員複素芳香環を含む基以外の芳香族複素環基、又は、芳香族炭化水素環及び芳香族複素環基が連結した1価の芳香族基である。電荷輸送性の観点からは、置換基を有さないか、芳香族炭化水素基、芳香族複素環基、芳香族炭化水素環及び芳香族複素環基が連結した1価の芳香族基を有することが更に好ましい。
【0108】
置換基群Zの各置換基は更に置換基を有していてもよい。それら置換基としては、上記置換基(置換基群Z)と同じのもの又は後述の架橋性基が挙げられる。好ましくは、更なる置換基は有さないか、或いは更なる置換基として炭素数6以下のアルキル基、炭素数6以下のアルコキシ基、フェニル基又は後述の架橋性基を有するものである。電荷輸送性の観点からは、更なる置換基を有さないことがより好ましい。
【0109】
[末端基]
本実施形態において、末端基とは、重合体の重合終了時に用いたエンドキャップ剤によって形成された、重合体の末端部の構造のことを指す。本実施形態の重合体の末端基は、通常炭化水素基である。炭化水素基としては、電荷輸送性の観点から、炭素数1以上60以下のものが好ましく、1以上40以下のものがより好ましく、1以上30以下のものが更に好ましい。
【0110】
この末端基としては、好ましくは、以下のものが挙げられる。
例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、n-ブチル基、i-ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ヘキシル基、シクロヘキシル基、ドデシル基等の、炭素数が通常1以上、好ましくは4以上であり、通常24以下、好ましくは12以下である、直鎖、分岐、又は環状のアルキル基。
例えば、ビニル基等の、炭素数が通常2以上であり、通常24以下、好ましくは12以下であるアルケニル基。
例えば、エチニル基等の、炭素数が通常2以上であり、通常24以下、好ましくは12以下であるアルキニル基。
例えば、フェニル基、ナフチル基等の、炭素数が通常6以上であり、通常36以下、好ましくは24以下である芳香族炭化水素環基。
【0111】
これら炭化水素基は更に置換基を有していてもよい。更に有していてもよい置換基はアルキル基又は芳香族炭化水素基が好ましく、これら更に有していてもよい置換基が複数ある場合は互いに結合して環を形成していてもよい。
末端基の炭化水素基が更に有していてもよい置換基としては、好ましくは、電荷輸送性及び耐久性の観点から、アルキル基又は芳香族炭化水素基であり、更に好ましくは芳香族炭化水素基である。
【0112】
[可溶性基]
本実施形態の重合体は、溶媒への可溶性発現のため可溶性基を有することが好ましい。本実施形態における可溶性基は、炭素数3以上24以下、好ましくは炭素数12以下の、直鎖又は分岐のアルキル基又はアルキレン基を有する基である。これらの中でも好ましくは、アルキル基、アルコキシ基、又はアラルキル基であり、例えば、n-プロピル基、2-プロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、n-ヘキシル基、n-オクチル基等である。より好ましくはn-ヘキシル基又はn-オクチル基である。可溶性基は置換基を有していてもよい。
【0113】
<可溶性基の数>
本実施形態の重合体が有する可溶性基は、湿式成膜法に利用可能な重合体溶液を得やすくなる点では、多い方が好ましい。一方で、本実施形態の重合体を用いて成膜した層の上に湿式成膜法で他の層を形成した際に下層が溶媒に溶解してしまうことによる膜厚減少が少ない点では、少ない方が好ましい。
【0114】
本実施形態の重合体が有する可溶性基の数は、重合体の1gあたりのモル数で表すことができる。
本実施形態の重合体が有する可溶性基の数を、重合体の1gあたりのモル数で表した場合、重合体1gあたり、通常4.0ミリモル以下、好ましくは3.0ミリモル以下、更に好ましくは2.0ミリモル以下であり、また通常0.1ミリモル以上、好ましくは0.5ミリモル以上である。
可溶性基の数が上記範囲内であると、重合体が溶媒に溶解しやすく、湿式成膜法に適した重合体を含む組成物が得られ易い。また、可溶性基密度が適度で、加熱溶媒乾燥後の有機溶媒に対する難溶性が十分であるため、湿式成膜法での多層積層構造が形成可能となる。
【0115】
ここで、重合体の1gあたりの可溶性基の数は、重合体からその末端基を除いて、合成時の仕込みモノマーのモル比と、構造式から算出することができる。
後述の実施例1で合成した重合体1の場合で説明すると、以下の通りである。
重合体1において、末端基を除いた繰り返し単位の分子量は平均748.4である。可溶性基であるヘキシル基は、1繰り返し単位当たり平均1.3個である。これを単純比例により計算すると、分子量1gあたりの可溶性基の数は、1.74ミリモルと算出される。
【0116】
【0117】
[架橋性基]
本実施形態の重合体は、架橋性基を有していてもよい。本実施形態の重合体における架橋性基は、前記式(1)で表される繰り返し単位中に存在していてもよく、式(1)で表される繰り返し単位とは別の繰り返し単位中に存在していてもよい。特に、側鎖として結合する芳香族炭化水素基又は芳香族複素環基に架橋性基を有することが、架橋反応が進行しやすいため好ましい。
架橋性基を有することで、熱及び/又は活性エネルギー線の照射により起こる反応(難溶化反応)の前後で、有機溶媒に対する溶解性に大きな差を生じさせることができる。
【0118】
架橋性基とは、熱及び/又は活性エネルギー線の照射により、該架橋性基の近傍に位置する他の分子を構成している基と反応して、新規な化学結合を生成する基のことをいう。この場合、反応する基は架橋性基と同一の基でも異なる基でもよい。
【0119】
架橋性基としては、芳香族環に縮環したシクロブテン環、芳香族環に結合したアルケニル基を含む基が好ましく、更に好ましくは下記架橋性基群Kから選ばれる基である。架橋性基は、前記各構造が有する置換基に更に置換した形で重合体に含まれていることが好ましい。
【0120】
<架橋性基群K>
架橋性基群Kは、以下に示す構造である。
【0121】
【0122】
架橋性基群Kにおいて、R21~R23は、各々独立に、水素原子又はアルキル基を表す。R24~R26は、各々独立に、アルキル基又はアルコキシ基を表す。pは1~4の整数、qは1~4の整数、rは1~4の整数を表す。
pが2以上のとき、複数のR24は同じであっても異なっていてもよく、隣接するR24同士が結合して環を形成してもよい。
qが2以上のとき、複数のR25は同じであっても異なっていてもよく、隣接するR25同士が結合して環を形成してもよい。
rが2以上のとき、複数のR26は同じであっても異なっていてもよく、隣接するR26同士が結合して環を形成してもよい。
Ar21、Ar22は、各々独立に、置換基を有していてもよい、芳香族炭化水素基又は芳香族複素環基を表す。
“-*”は、結合部位である。
【0123】
R21~R26のアルキル基としては、炭素数が6以下である、直鎖又は分岐の鎖状アルキル基が挙げられる。例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、2-プロピル基、n-ブチル基、イソブチル基等である。より好ましくは、メチル基又はエチル基である。R21~R26のアルキル基の炭素数が6以下であることで、架橋反応を立体的に阻害することもなく、本実施形態の重合体により形成される膜の不溶化が起こりやすいと考えられる。
【0124】
R24~R26のアルコキシ基としては、炭素数が6以下である、直鎖又は分岐の鎖状アルコキシ基が挙げられる。例えば、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、2-プロポキシ基、n-ブトキシ基等である。より好ましくは、メトキシ基又はエトキシ基である。R24~R26の炭素数が6以下であれば、架橋反応を立体的に阻害することもなく、本実施形態の重合体により形成される膜の不溶化が起こりやすいと考えられる。
【0125】
Ar21及びAr22の置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基としては、例えば、1個の遊離原子価を有する、ベンゼン環、ナフタレン環等の6員環の単環又は2~5縮合環が挙げられる。特に1個の遊離原子価を有するベンゼン環が好ましい。
Ar22は、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基を2以上結合させた基であってもよい。このような基としては、ビフェニレン基、ターフェニレン基等が挙げられ、4,4’-ビフェニレン基が好ましい。
【0126】
Ar21及びAr22の置換基を有していてもよい芳香族複素環基としては、例えば、1個の遊離原子価を有する、ピリジン環、トリアジン環等の6員環の単環又は2~5縮合環が挙げられる。特に1個の遊離原子価を有するトリアジン環が好ましい。
【0127】
Ar21、Ar22が有していてもよい置換基は前述の置換基群Zと同様である。
【0128】
架橋性基として、シンナモイル基などアリールビニルカルボニル基、1価の遊離原子価を有するベンゾシクロブテン環、1価の遊離原子価を有する1,2-ジヒドロシクロブタ〔a〕ナフタレン環等の環化付加反応する基が、素子の電気化学的安定性を更に向上させる点で好ましい。
【0129】
架橋性基の中でも、架橋後の構造が特に安定な点で、1価の遊離原子価を有する芳香族環に縮環したシクロブテン環、1価の遊離原子価を有する1,2-ジヒドロシクロブタ〔a〕ナフタレン環を含む基が好ましく、中でもベンゾシクロブテン環又は1価の遊離原子価を有する1,2-ジヒドロシクロブタ〔a〕ナフタレン環が更に好ましい。架橋反応温度が低い点で1価の遊離原子価を有する1,2-ジヒドロシクロブタ〔a〕ナフタレン環が特に好ましい。
【0130】
<架橋性基の数>
本実施形態の重合体が有する架橋性基は、架橋することにより十分に不溶化し、その上に湿式成膜法で他の層を形成しやすくなる点では、多い方が好ましい。一方で、形成された層にクラックが生じ難く、未反応架橋性基が残りにくく、有機電界発光素子が長寿命になりやすい点では、架橋性基は少ないことが好ましい。
【0131】
本実施形態の重合体における、1つのポリマー鎖の中に存在する架橋性基の数は、好ましくは1以上、より好ましくは2以上であり、好ましくは200以下、より好ましくは100以下である。
【0132】
本実施形態の重合体が有する架橋性基の数は、重合体の分子量1000あたりの数で表すことができる。
本実施形態の重合体が有する架橋性基の数を、重合体の分子量1000あたりの数で表した場合、分子量1000あたり、通常3.0個以下、好ましくは2.0個以下、更に好ましくは1.0個以下であり、通常0.01個以上、好ましくは0.05個以上である。
【0133】
架橋性基の数が上記範囲内であると、クラック等が起き難く、本実施形態の重合体から平坦な膜が得られ易い。また、架橋密度が適度であるため、架橋反応後の層内に残る未反応の架橋性基が少なく、得られる素子の寿命に影響し難い。
更に、架橋反応後の、有機溶媒に対する難溶性が十分であるため、湿式成膜法での多層積層構造が形成し易い。
【0134】
ここで、重合体の分子量1000あたりの架橋性基の数は、重合体からその末端基を除いて、合成時の仕込みモノマーのモル比と、構造式から算出することができる。
後述の実施例で合成した重合体1の場合で説明すると、以下の通りである。
重合体1において、末端基を除いた繰り返し単位の分子量は平均748.4である。架橋性基は、1繰り返し単位当たり0.15個である。これを単純比例により計算すると、分子量1000あたりの架橋性基の数は、0.20個と算出される。
【0135】
【0136】
[繰り返し単位の含有量]
本実施形態の重合体において、式(1)で表される繰り返し単位の含有量は特に制限されないが、通常重合体中に5モル%以上含まれ、10モル%以上含まれることが好ましく、15モル%以上含まれることが更に好ましく、20モル%以上含まれることが特に好ましい。
【0137】
本実施形態の重合体は、繰り返し単位が、式(1)で表される繰り返し単位のみから構成されていてもよいが、有機電界発光素子とした場合の諸性能をバランスさせる目的から、式(1)とは別の繰り返し単位を有していてもよい。その場合、重合体中の式(1)で表される繰り返し単位の含有量は、通常、99モル%以下、好ましくは95モル%以下である。
【0138】
[他に含まれていてもよい好ましい繰り返し単位]
本実施形態の重合体は、更に下記(3)-1、式(3)-2又は式(3)-3のいずれかで表される繰り返し単位を含むことも好ましい。
【0139】
【0140】
式(3)-1~(3)-3中、Ar7は、前記式(1)-2で表される構造Aである窒素原子を有する特定の6員複素芳香環を含む基を除く、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基又は置換基を有していてもよい芳香族複素環基を表す。
Qは、-C(R5)(R6)-、-N(R7)-又は-C(R11)(R12)-C(R13)(R14)-を表す。
R1~R4は、各々独立に、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアルコキシ基、又は置換基を有していてもよいアラルキル基を表す。
R5~R7及びR11~R14は、各々独立に、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアルコキシ基、置換基を有していてもよいアラルキル基、又は置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基を表す。
a、bは各々独立に0~4の整数である。
c1~c5は各々独立に0~3の整数である。
但し、c3とc5の少なくとも一方は1以上整数である。
d1~d4は各々独立に1~4の整数である。
R1、R2、R3、R4が該繰り返し単位中に複数ある場合は、R1、R2、R3、R4は同一であっても異なっていてもよい。
【0141】
<Ar7>
式(3)-1~(3)-3で表される繰り返し単位において、Ar7は、それぞれの繰り返し単位において独立に、本発明における窒素原子を有する特定の6員複素芳香環を含む基を含む式(1)-2で表される構造Aを除く、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基又は置換基を有していてもよい芳香族複素環基を表す。
【0142】
該芳香族炭化水素基としては、炭素数が6以上、60以下が好ましく、具体的には、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、フェナントレン環、ペリレン環、テトラセン環、ピレン環、ベンズピレン環、クリセン環、トリフェニレン環、アセナフテン環、フルオランテン環、フルオレン環等の、6員環の単環若しくは2~5縮合環又はこれらが複数連結した1価の基が挙げられる。
【0143】
該芳香族複素環基としては、炭素数が3以上、60以下が好ましく、具体的には、フラン環、ベンゾフラン環、チオフェン環、ベンゾチオフェン環、ピロール環、ピラゾール環、イミダゾール環、オキサジアゾール環、インドール環、カルバゾール環、ピロロイミダゾール環、ピロロピラゾール環、ピロロピロール環、チエノピロール環、チエノチオフェン環、フロピロール環、フロフラン環、チエノフラン環、ベンゾイソオキサゾール環、ベンゾイソチアゾール環、ベンゾイミダゾール環、ピラジン環、ピリダジン環、キノリン環、イソキノリン環、シンノリン環、キノキサリン環、フェナントリジン環、ベンゾイミダゾール環、ペリミジン環、キナゾリン環、キナゾリノン環、アズレン環等の、5~6員環の単環若しくは2~4縮合環又はこれらが複数連結した1価の基が挙げられる。
【0144】
Ar7は、電荷輸送性が優れる点、耐久性に優れる点から、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基が好ましい。中でも置換基を有していてもよいベンゼン環又はフルオレン環の1価の基、すなわち、置換基を有していてもよいフェニル基又はフルオレニル基がより好ましく、置換基を有していてもよいフルオレニル基が更に好ましく、置換基を有していてもよい2-フルオレニル基が特に好ましい。
【0145】
Ar7の芳香族炭化水素基が有してもよい置換基としては、本実施形態の重合体の特性を著しく低減させないものであれば、特に制限はない。好ましくは、前記置換基群Z又は前記架橋性基から選ばれる基が挙げられ、アルキル基、アルコキシ基、芳香族炭化水素基、窒素原子を有する特定の6員複素芳香環以外の芳香族複素環基又は前記架橋性基が好ましく、アルキル基がより好ましい。
【0146】
Ar7は、塗布溶媒への溶解性の点から、炭素数1~24のアルキル基で置換されたフルオレニル基が好ましく、特に、炭素数4~12のアルキル基で置換された2-フルオレニル基が好ましい。更に、2-フルオレニル基の9位にアルキル基が置換された9-アルキル-2-フルオレニル基が好ましく、特に、アルキル基が2置換された9,9’-ジアルキル-2-フルオレニル基が好ましい。
Ar7が9位及び9’位の少なくとも一方がアルキル基で置換されたフルオレニル基であることにより、溶媒に対する溶解性及びフルオレン環の耐久性が向上しやすい。更に、9位及び9’位の両方がアルキル基で置換されたフルオレニル基であることにより、溶媒に対する溶解性及びフルオレン環の耐久性が更に向上しやすい。
Ar7は前記架橋性基を含むことが、成膜後、積層塗布する際に溶媒に対する不溶性が向上するため好ましい。
【0147】
不溶化の観点からは、本実施形態の重合体は、更なる置換基として、少なくとも一つの前述の架橋性基を含む式(3)-1~式(3)-3で表される繰り返し単位を含むことが好ましく、該架橋性基が、Ar7で表される芳香族炭化水素基が有していてもよい置換基に更に置換していることが好ましい。
【0148】
<具体例>
式(3)-1~前記式(3)-3で表される繰り返し単位構造の具体例としては、以下の構造が挙げられる。
【0149】
【0150】
【0151】
【0152】
[他の繰り返し単位]
本実施形態の重合体は、電荷輸送性及び耐久性の点で、更に下記式(4)又は下記式(5)で表される繰り返し単位を含んでいてもよい。
【0153】
【0154】
式(4)中、R8及びR9は、各々独立して、水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基、又は置換基を有していてもよい芳香族複素環基を表す。
【0155】
式(5)中、Ar10は、置換基を有していてもよい二価の芳香族炭化水素基、置換基を有していてもよい芳香族複素環基、或いは、置換基を有していてもよい二価の芳香族炭化水素基及び置換基を有していてもよい二価の芳香族複素環基から選ばれる2以上の基が直接若しくは連結基を介して複数個連結した二価の基を表す。
【0156】
<R8及びR9>
R8及びR9のアルキル基、芳香族炭化水素基、芳香族複素環基としては、前記置換基群Zとして例示したアルキル基、芳香族炭化水素基、芳香族複素環基が挙げられる。これらの基が有していてもよい置換基は前記置換基群Z又は前記架橋性基と同様の基が好ましい。
【0157】
<Ar10>
Ar10の具体的な構造としては、前記式(1)のAr2と同様の二価の基が挙げられる。これらの基が有していてもよい置換基は前記置換基群Z又は前記架橋性基と同様の基が好ましい。
【0158】
[重合体の分子量]
本実施形態の重合体の重量平均分子量(Mw)は、通常3,000,000以下、好ましくは1,000,000以下、より好ましくは500,000以下、更に好ましくは200,000以下、特に好ましくは100,000以下である。本実施形態の重合体の重量平均分子量(Mw)は、通常10,000以上、好ましくは15,000以上である。
【0159】
重合体の重量平均分子量が上記上限値以下であることで、溶媒に対する溶解性が得られ、成膜性に優れる傾向にある。
重合体の重量平均分子量が上記下限値以上であることで、重合体のガラス転移温度、融点及び気化温度の低下が抑制され、耐熱性が向上する場合がある。加えて、架橋反応後の塗膜の有機溶媒に対する不溶性が十分である場合がある。
【0160】
本実施形態の重合体における数平均分子量(Mn)は、通常2,500,000以下、好ましくは750,000以下、より好ましくは400,000以下、特に好ましくは100,000以下である。本実施形態の重合体における数平均分子量(Mn)は、通常2,000以上、好ましくは4,000以上、より好ましくは8,000以上、更に好ましくは20,000以上である。
【0161】
本実施形態の重合体における分散度(Mw/Mn)は、好ましくは3.5以下であり、更に好ましくは2.5以下、特に好ましくは2.0以下である。分散度は値が小さい程よいため、下限値は理想的には1である。
該重合体の分散度が、上記上限値以下であると、精製が容易で、また溶媒に対する溶解性や電荷輸送能が良好である。
【0162】
通常、重合体の重量平均分子量及び数平均分子量はSEC(サイズ排除クロマトグラフィー)測定により決定される。SEC測定では高分子量成分ほど溶出時間が短く、低分子量成分ほど溶出時間が長くなるが、分子量既知のポリスチレン(標準試料)の溶出時間から算出した校正曲線を用いて、サンプルの溶出時間を分子量に換算することによって、重量平均分子量及び数平均分子量が算出される。
【0163】
[好ましい重合体]
本実施形態の重合体は、下記式(6a)~(6o)内のいずれかで示されることが最も好ましい。
【0164】
【0165】
【0166】
式(6a)~(6o)の各重合体において、A、Q、R1、R2、R3、R4は前記式(2)-1~式(2)-3におけると同じである。Ar7は前記式(3)-1~式(3)-3におけると同じである。各重合体中の少なくとも一つのA又はAr7は前述の架橋性基を有することが好ましい。n、mは繰り返し数を表す。
【0167】
[具体例]
以下に、後述の実施例で合成した重合体及び実施例で用いた重合体以外の本実施形態の重合体の具体例を示す。本実施形態の重合体はこれらに限定されるものではない。化学式中の数字は繰返し単位のモル比を表す。
これらの重合体は、ランダム共重合体、交互共重合体、ブロック共重合体、又はグラフト共重合体等のいずれでもよく、繰り返し単位の配列順序は限定されない。
【0168】
【0169】
【0170】
【0171】
【0172】
[重合体の製造方法]
本実施形態の重合体の製造方法は特には制限されない。例えば、Suzuki反応による重合方法、Grignard反応による重合方法、Yamamoto反応による重合方法、Ullmann反応による重合方法、Buchwald-Hartwig反応による重合方法等などによって製造できる。
【0173】
Ullmann反応による重合方法及びBuchwald-Hartwig反応による重合方法の場合、例えば、下記式(1a)で表されるジハロゲン化アリール(EはI、Br、Cl、F等のハロゲン原子を示す。)と式(1b)で表される1級アミノアリールとを反応させ、更に式(2a)で表されるジハロゲン化アリールと反応させることにより、本実施形態の重合体が合成される。
【0174】
【0175】
上記式中、A、R1~R2、Q、a、b、c1、d1は前記式(2)-1~(2)-3と同義である。n、mは繰り返し数を表す。
【0176】
前記の重合方法において、通常、N-アリール結合を形成する反応は、例えば炭酸カリウム、tert-ブトキシナトリウム、トリエチルアミン等の塩基存在下で行う。また、例えば銅やパラジウム錯体等の遷移金属触媒存在下で行うこともできる。
【0177】
[有機電界発光素子材料]
本実施形態の重合体は、有機電界発光素子材料として特に好適に用いることができる。つまり、本実施形態の重合体は有機電界発光素子材料であることが好ましい。
【0178】
本実施形態の重合体は通常、有機電界発素子における陽極と発光層の間に含まれる層の形成に好適に用いられる。すなわち、本実施形態の重合体は、正孔注入層及び正孔輸送層の少なくとも一方を形成する材料、つまり電荷輸送性材料として用いることが好ましい。本実施形態の重合体を、正孔注入層又は正孔輸送層に用いられることにより、発光層への電荷輸送性が高く、発光層から漏れた電子に対する耐久性が高い層を陽極と発光層との間に設けることができる。
電荷輸送性材料として用いる場合、本実施形態の重合体の1種類を用いてもよく、2種類以上を任意の組み合わせ及び任意の比率で用いてもよい。
【0179】
本実施形態の重合体を用いて有機電界発光素子の正孔注入層及び正孔輸送層の少なくとも一方を形成する場合、正孔注入層又は正孔輸送層中の本実施形態の重合体の含有量は、通常1~100重量%、好ましくは5~100重量%、更に好ましくは10~100重量%である。上記の範囲であると、正孔注入層又は正孔輸送層の電荷輸送性が向上し、駆動電圧が低減し、駆動安定性が向上するため好ましい。
【0180】
本実施形態の重合体の正孔注入層又は正孔輸送層中での含有量が100重量%でない場合、正孔注入層又は正孔輸送層を構成する他の成分としては後述する正孔輸送性化合物等が挙げられる。
【0181】
有機電界発光素子を簡便に製造することができることから、本実施形態の重合体は、湿式成膜法で形成される有機層に用いることが好ましい。
【0182】
〔有機電界発光素子用組成物〕
本実施形態の有機電界発光素子用組成物は、本実施形態の重合体を含有するものである。本実施形態の有機電界発光素子用組成物は、上記重合体の1種類を含有するものであってもよく、2種類以上を任意の組み合わせ及び任意の比率で含有するものであってもよい。
【0183】
[重合体の含有量]
本実施形態の有機電界発光素子用組成物中の、上記重合体の含有量は、通常0.01~70重量%、好ましくは0.1~60重量%、更に好ましくは0.5~50重量%である。
上記範囲内であると、形成した有機層に欠陥が生じ難く、また膜厚ムラが生じ難いため好ましい。
本実施形態の有機電界発光素子用組成物は、上記重合体以外に溶媒等を含むことができる。
【0184】
[溶媒]
本実施形態の有機電界発光素子用組成物は、通常、溶媒を含有する。この溶媒は、上記重合体を溶解するものが好ましい。具体的には、上記重合体を、室温で通常0.05重量%以上、好ましくは0.5重量%以上、更に好ましくは1重量%以上溶解する溶媒が好適である。
【0185】
溶媒の具体例としては、トルエン、キシレン、メシチレン、シクロヘキシルベンゼン等の芳香族系溶媒;1,2-ジクロロエタン、クロロベンゼン、o-ジクロロベンゼン等の含ハロゲン溶媒;エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコール-1-モノメチルエーテルアセタート(PGMEA)等の脂肪族エーテル、1,2-ジメトキシベンゼン、1,3-ジメトキシベンゼン、アニソール、フェネトール、2-メトキシトルエン、3-メトキシトルエン、4-メトキシトルエン、2,3-ジメチルアニソール、2,4-ジメチルアニソール等の芳香族エーテル等のエーテル系溶媒;酢酸エチル、酢酸n-ブチル、乳酸エチル、乳酸n-ブチル等の脂肪族エステル系溶媒;酢酸フェニル、プロピオン酸フェニル、安息香酸メチル、安息香酸エチル、安息香酸イソプロピル、安息香酸プロピル、安息香酸n-ブチル等の芳香族エステル等のエステル系溶媒;等の有機溶媒、その他、後述の正孔注入層形成用組成物や正孔輸送層形成用組成物に用いられる有機溶媒が挙げられる。
【0186】
溶媒は、1種類を用いてもよく、2種類以上を任意の組み合わせ及び任意の比率で併用してもよい。
【0187】
中でも、本実施形態の有機電界発光素子用組成物に含有される溶媒としては、20℃における表面張力が、通常40dyn/cm未満、好ましくは36dyn/cm以下、より好ましくは33dyn/cm以下である溶媒が好ましい。
【0188】
本実施形態の有機電界発光素子用組成物を用いて湿式成膜法により塗膜を形成し、上記重合体を架橋させて有機層を形成する場合、溶媒と下地の親和性が高いことが好ましい。これは、膜質の均一性が有機電界発光素子の発光の均一性及び安定性に大きく影響するためである。従って、湿式成膜法に用いる有機電界発光素子用組成物には、よりレベリング性が高く均一な塗膜を形成しうるように表面張力が低いことが求められる。そこで前記のような低い表面張力を有する溶媒を使用することにより、上記重合体を含有する均一な層を形成することができ、ひいては均一な架橋層を形成することができることから、好ましい。
【0189】
低表面張力の溶媒の具体例としては、前述したトルエン、キシレン、メシチレン、シクロヘキシルベンゼン等の芳香族系溶媒、安息香酸エチル等のエステル系溶媒、アニソール等のエーテル系溶媒、トリフルオロメトキシアニソール、ペンタフルオロメトキシベンゼン、3-(トリフルオロメチル)アニソール、エチル(ペンタフルオロベンゾエート)等が挙げられる。
【0190】
本実施形態の有機電界発光素子用組成物に含有される溶媒としては、25℃における蒸気圧が、通常10mmHg以下、好ましくは5mmHg以下であり、通常0.1mmHg以上であるものが好ましい。このような溶媒を使用することにより、有機電界発光素子を湿式成膜法により製造するプロセスに好適で、本実施形態の重合体の性質に適した有機電界発光素子用組成物を調製することができる。
このような溶媒の具体例としては、前述したトルエン、キシレン、メシチレン等の芳香族系溶媒、エーテル系溶媒及びエステル系溶媒が挙げられる。
【0191】
水分は有機電界発光素子の性能劣化を引き起こす可能性があり、中でも特に連続駆動時の輝度低下を促進する可能性がある。湿式成膜中に残留する水分をできる限り低減するために、前記の溶媒の中でも、25℃における水の溶解度が1重量%以下であるものが好ましく、0.1重量%以下である溶媒がより好ましい。
【0192】
本実施形態の有機電界発光素子用組成物に含有される溶媒の含有量は、通常10重量%以上、好ましくは30重量%以上、特に好ましくは50重量%以上である。溶媒の含有量が上記下限以上であることにより、形成される層の平坦さ及び均一さを良好にすることができる。
【0193】
[電子受容性化合物]
本実施形態の有機電界発光素子用組成物は、低抵抗化の観点から、更に電子受容性化合物を含有することが好ましい。特に、本実施形態の有機電界発光素子用組成物を、正孔注入層を形成するために用いる場合には電子受容性化合物を含有することが好ましい。
【0194】
電子受容性化合物としては、酸化力を有し、上記重合体から一電子受容する能力を有する化合物が好ましい。具体的には、電子親和力が4eV以上である化合物が好ましく、5eV以上である化合物が更に好ましい。
【0195】
このような電子受容性化合物としては、例えば、トリアリールホウ素化合物、ハロゲン化金属、ルイス酸、有機酸、オニウム塩、アリールアミンとハロゲン化金属との塩、及び、アリールアミンとルイス酸との塩よりなる群から選ばれる1種又は2種以上の化合物等が挙げられる。
【0196】
具体的には、4-イソプロピル-4’-メチルジフェニルヨードニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボラート、トリフェニルスルホニウムテトラフルオロボラート等の有機基の置換したオニウム塩(国際公開第2005/089024号)、(国際公開第2017/164268号);塩化鉄(III)(特開平11-251067号公報)、ペルオキソ二硫酸アンモニウム等の高原子価の無機化合物;テトラシアノエチレン等のシアノ化合物;トリス(ペンタフルオロフェニル)ボラン(特開2003-31365号公報)等の芳香族ホウ素化合物;フラーレン誘導体及びヨウ素等が挙げられる。
【0197】
本実施形態の有機電界発光素子用組成物は、上記のような電子受容性化合物の1種を単独で含んでいてもよく、2種以上を任意の組み合わせ、及び比率で含んでいてもよい。
【0198】
本実施形態の有機電界発光素子用組成物が電子受容性化合物を含む場合、電子受容性化合物の含有量は、通常0.0005重量%以上、好ましくは0.001重量%以上であり、通常20重量%以下、好ましくは10重量%以下である。有機電界発光素子用組成物中の上記重合体に対する電子受容性化合物の割合は、通常0.5重量%以上、好ましくは1重量%以上、より好ましくは3重量%以上であり、通常80重量%以下、好ましくは60重量%以下、更に好ましくは40重量%以下である。
【0199】
有機電界発光素子用組成物中の電子受容性化合物の含有量が上記下限以上であると、重合体から電子受容体が電子を受容し、形成した有機層が低抵抗化するため好ましい。有機電界発光素子用組成物中の電子受容性化合物の含有量が上記上限以下であると、形成した有機層に欠陥が生じ難く、また膜厚ムラが生じ難いため好ましい。
【0200】
[カチオンラジカル化合物]
本実施形態の有機電界発光素子用組成物は、更にカチオンラジカル化合物を含有していてもよい。
【0201】
カチオンラジカル化合物としては、正孔輸送性化合物から一電子取り除いた化学種であるカチオンラジカルと、対アニオンとからなるイオン化合物が好ましい。カチオンラジカルが正孔輸送性の高分子化合物由来である場合、カチオンラジカルは高分子化合物の繰り返し単位から一電子取り除いた構造となる。
【0202】
カチオンラジカルとしては、後述の正孔輸送性化合物から一電子取り除いた化学種であることが好ましい。正孔輸送性化合物として好ましい化合物から一電子取り除いた化学種であることが、非晶質性、可視光の透過率、耐熱性、及び溶解性等の点から好適である。
【0203】
ここで、カチオンラジカル化合物は、後述の正孔輸送性化合物と前述の電子受容性化合物を混合することにより生成させることができる。即ち、正孔輸送性化合物と電子受容性化合物とを混合することにより、正孔輸送性化合物から電子受容性化合物へと電子移動が起こり、正孔輸送性化合物のカチオンラジカルと対アニオンとからなるカチオンイオン化合物が生成する。
【0204】
本実施形態の有機電界発光素子用組成物がカチオンラジカル化合物を含む場合、有機電界発光素子用組成物中のカチオンラジカル化合物の含有量は、通常0.0005重量%以上、好ましくは0.001重量%以上であり、通常40重量%以下、好ましくは20重量%以下である。カチオンラジカル化合物の含有量が上記下限以上であると、形成した有機層が低抵抗化するため好ましい。カチオンラジカル化合物の含有量が上記上限以下であると、形成した有機層に欠陥が生じ難く、また膜厚ムラが生じ難いため好ましい。
【0205】
本実施形態の有機電界発光素子用組成物には、上記の成分以外に、後述の正孔注入層形成用組成物や正孔輸送層形成用組成物に含まれる成分を、後述の含有量で含有していてもよい。
【0206】
〔発光層材料〕
本発明の実施形態である重合体を、正孔注入層及び正孔輸送層の少なくとも一方を形成する電荷輸送性材料として用いた有機電界発光素子において、発光層は発光材料とホスト材料とを含む。
【0207】
発光材料は燐光発光材料又は蛍光発光材料を用いることができる。
【0208】
[燐光発光層]
本発明の実施形態である重合体を、正孔注入層及び正孔輸送層の少なくとも一方を形成する電荷輸送性材料として用いた有機電界発光素子において、発光層が燐光発光層である場合、燐光発光材料としては以下の材料が好ましい。
【0209】
<燐光発光材料>
燐光発光材料とは、励起三重項状態から発光を示す材料をいう。例えば、Ir、Pt、Euなどを有する金属錯体化合物がその代表例であり、材料の構造として、金属錯体を含むものが好ましい。
【0210】
金属錯体の中でも、三重項状態を経由して発光する燐光発光性有機金属錯体として、長周期型周期表(以下、特に断り書きの無い限り「周期表」という場合には、長周期型周期表を指すものとする。)第7~11族から選ばれる金属を中心金属として含むウェルナー型錯体又は有機金属錯体化合物が挙げられる。このような燐光発光材料としては、下記式(201)で表される化合物、又は後掲の式(205)で表される化合物が好ましく、より好ましくは下記式(201)で表される化合物である。
【0211】
【0212】
式(201)中、環A1は置換基を有していてもよい芳香族炭化水素環構造又は置換基を有していてもよい芳香族複素環構造を表す。
環A2は置換基を有していてもよい芳香族複素環構造を表す。
R201、R202は各々独立に式(202)で表される構造である。“*”は環A1又は環A2との結合部位を表す。R201、R202は同じであっても異なっていてもよく、R201、R202がそれぞれ複数存在する場合、それらは同じであっても異なっていてもよい。
Ar201、Ar203は、各々独立に、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素構造、又は置換基を有していてもよい芳香族複素環構造を表す。
Ar202は、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素構造、置換基を有していてもよい芳香族複素環構造、又は置換基を有していてもよい脂肪族炭化水素構造を表す。
環A1に結合する置換基どうし、環A2に結合する置換基どうし、又は環A1に結合する置換基と環A2に結合する置換基どうしは、互いに結合して環を形成してもよい。
B201-L200-B202は、アニオン性の二座配位子を表す。B201及びB202は、それぞれ独立に、炭素原子、酸素原子又は窒素原子を表し、これらの原子は環を構成する原子であってもよい。L200は、単結合、又は、B201及びB202とともに二座配位子を構成する原子団を表す。B201-L200-B202が複数存在する場合、それらは同一でも異なっていてもよい。
i1、i2はそれぞれ独立に、0以上12以下の整数を表す。
i3は、Ar202に置換可能な数を上限とする0以上の整数である。
j1は、Ar201に置換可能な数を上限とする0以上の整数である。
k1、k2はそれぞれ独立に、環A1、環A2に置換可能な数を上限とする0以上の整数である。
m1は1~3の整数である。
【0213】
特に断りのない場合、上記置換基としては、次の置換基群Z´から選ばれる基が好ましい。
【0214】
<置換基群Z´>
・アルキル基:好ましくは炭素数1~20のアルキル基、より好ましくは炭素数1~12のアルキル基、更に好ましくは炭素数1~8のアルキル基、特に好ましくは炭素数1~6のアルキル基
・アルコキシ基:好ましくは炭素数1~20のアルコキシ基、より好ましくは炭素数1~12のアルコキシ基、更に好ましくは炭素数1~6のアルコキシ基
・アリールオキシ基:好ましくは炭素数6~20のアリールオキシ基、より好ましくは炭素数6~14のアリールオキシ基、更に好ましくは炭素数6~12のアリールオキシ基、特に好ましくは炭素数6のアリールオキシ基
・ヘテロアリールオキシ基:好ましくは炭素数3~20のヘテロアリールオキシ基、より好ましくは炭素数3~12のヘテロアリールオキシ基
・アルキルアミノ基:好ましくは炭素数1~20のアルキルアミノ基、より好ましくは炭素数1~12のアルキルアミノ基
・アリールアミノ基:好ましくは炭素数6~36のアリールアミノ基、より好ましくは炭素数6~24のアリールアミノ基
・アラルキル基:好ましくは炭素数7~40のアラルキル基、より好ましくは炭素数7~18のアラルキル基、更に好ましくは炭素数7~12のアラルキル基
・ヘテロアラルキル基:好ましくは炭素数4~40のヘテロアラルキル基、より好ましくは炭素数4~18のヘテロアラルキル基
・アルケニル基:好ましくは炭素数2~20のアルケニル基、より好ましくは炭素数2~12のアルケニル基、更に好ましくは炭素数2~8のアルケニル基、特に好ましくは炭素数2~6のアルケニル基
・アルキニル基:好ましくは炭素数2~20のアルキニル基、より好ましくは炭素数2~12のアルキニル基
・アリール基:好ましくは炭素数6~30のアリール基、より好ましくは炭素数6~24のアリール基、更に好ましくは炭素数6~18のアリール基、特に好ましくは炭素数6~14のアリール基
・ヘテロアリール基:好ましくは炭素数3~30のヘテロアリール基、より好ましくは炭素数3~24のヘテロアリール基、更に好ましくは炭素数3~18のヘテロアリール基、特に好ましくは炭素数3~14のヘテロアリール基
・アルキルシリル基:好ましくはアルキル基の炭素数が1~20であるアルキルシリル基、より好ましくはアルキル基の炭素数が1~12であるアルキルシリル基
・アリールシリル基:好ましくはアリール基の炭素数が6~20であるアリールシリル基、より好ましくはアリール基の炭素数が6~14であるアリールシリル基
・アルキルカルボニル基:好ましくは炭素数2~20のアルキルカルボニル基
・アリールカルボニル基:好ましくは炭素数7~20のアリールカルボニル基
以上の置換基は一つ以上の水素原子がフッ素原子で置き換えられているか、若しくは1つ以上の水素原子が重水素原子で置き換えらえられていてもよい。
特に断りのない限り、アリール基は芳香族炭化水素基であり、ヘテロアリール基は芳香族複素環基である。
・水素原子、重水素原子、フッ素原子、シアノ基、又は、-SF5
【0215】
置換基群Z´の中の好ましい基としては、以下のものが挙げられる。
好ましくは、アルキル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アリールアミノ基、アラルキル基、アルケニル基、アリール基、ヘテロアリール基、アルキルシリル基、アリールシリル基、及びこれらの基の一つ以上の水素原子がフッ素原子で置き換えられている基、フッ素原子、シアノ基、-SF5。
より好ましくはアルキル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アリールアミノ基、アラルキル基、アルケニル基、アリール基、ヘテロアリール基、及びこれらの基の一つ以上の水素原子がフッ素原子で置き換えられている基、フッ素原子、シアノ基、-SF5。
更に好ましくは、アルキル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アリールアミノ基、アラルキル基、アルケニル基、アリール基、ヘテロアリール基。
特に好ましくはアルキル基、アリールアミノ基、アラルキル基、アルケニル基、アリール基、ヘテロアリール基。
最も好ましくはアルキル基、アリールアミノ基、アラルキル基、アリール基、ヘテロアリール基。
【0216】
これら置換基群Z´は、更に置換基群Z´から選ばれる置換基を置換基として有していてもよい。有していてもよい置換基の好ましい基、より好ましい基、更に好ましい基、特に好ましい基、最も好ましい基は置換基群Z´の中の好ましい基と同様である。
【0217】
<環A1>
環A1は置換基を有していてもよい芳香族炭化水素環構造又は置換基を有していてもよい芳香族複素環構造を表す。
【0218】
環A1の芳香族炭化水素環としては、好ましくは炭素数6~30の芳香族炭化水素環である。具体的には、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、トリフェニリル環、アセナフテン環、フルオランテン環、フルオレン環が好ましい。
環A1の芳香族複素環としては、ヘテロ原子として窒素原子、酸素原子、又は硫黄原子のいずれかを含む、炭素数3~30の芳香族複素環が好ましく、更に好ましくは、フラン環、ベンゾフラン環、チオフェン環、ベンゾチオフェン環である。
環A1としてより好ましくは、ベンゼン環、ナフタレン環、フルオレン環であり、特に好ましくはベンゼン環又はフルオレン環であり、最も好ましくはベンゼン環である。
【0219】
<環A2>
環A2は置換基を有していてもよい芳香族複素環構造を表す。
【0220】
環A2の芳香族複素環としては、好ましくはヘテロ原子として窒素原子、酸素原子、又は硫黄原子のいずれかを含む、炭素数3~30の芳香族複素環である。具体的には、ピリジン環、ピリミジン環、ピラジン環、トリアジン環、イミダゾール環、オキサゾール環、チアゾール環、ベンゾチアゾール環、ベンゾオキサゾール環、ベンゾイミダゾール環、キノリン環、イソキノリン環、キノキサリン環、キナゾリン環、ナフチリジン環、フェナントリジン環が挙げられる。より好ましくは、ピリジン環、ピラジン環、ピリミジン環、イミダゾール環、ベンゾチアゾール環、ベンゾオキサゾール環、キノリン環、イソキノリン環、キノキサリン環、キナゾリン環である。更に好ましくは、ピリジン環、イミダゾール環、ベンゾチアゾール環、キノリン環、イソキノリン環、キノキサリン環、キナゾリン環である。最も好ましくは、ピリジン環、イミダゾール環、ベンゾチアゾール環、キノリン環、キノキサリン環、キナゾリン環である。
【0221】
<環A1と環A2との組み合わせ>
環A1と環A2の好ましい組合せとしては、(環A1-環A2)と表記すると、(ベンゼン環-ピリジン環)、(ベンゼン環-キノリン環)、(ベンゼン環-キノキサリン環)、(ベンゼン環-キナゾリン環)、(ベンゼン環-イミダゾール環)、(ベンゼン環-ベンゾチアゾール環)である。
【0222】
<環A1、環A2の置換基>
環A1、環A2が有していてもよい置換基は任意に選択できるが、好ましくは前記置換基群Z´から選ばれる1種又は複数種の置換基である。
【0223】
<Ar201、Ar202、Ar203>
Ar201、Ar203は、各々独立に、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素環構造、又は置換基を有していてもよい芳香族複素環構造を表す。
【0224】
Ar202は、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素環構造、置換基を有していてもよい芳香族複素環構造、又は置換基を有していてもよい脂肪族炭化水素構造を表す。
【0225】
<Ar201、Ar202、Ar203の芳香族炭化水素環>
Ar201、Ar202、Ar203のいずれかが置換基を有していてもよい芳香族炭化水素構造である場合、該芳香族炭化水素構造は、好ましくは炭素数6~30の芳香族炭化水素環である。具体的にはベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、トリフェニリル環、アセナフテン環、フルオランテン環、フルオレン環が挙げられ、更に好ましくは、ベンゼン環、ナフタレン環、フルオレン環であり、最も好ましくはベンゼン環である。
【0226】
<フルオレンの9,9’位>
Ar201、Ar202、Ar203のいずれかが置換基を有していてもよいフルオレン環である場合、フルオレン環の9位及び9’位は、置換基を有するか又は隣接する構造と結合していることが好ましい。
【0227】
<о-、m-フェニレン>
Ar201、Ar202のいずれかが置換基を有していてもよいベンゼン環である場合、少なくとも一つのベンゼン環がオルト位又はメタ位で隣接する構造と結合していることが好ましく、少なくとも一つのベンゼン環がメタ位で隣接する構造と結合していることがより好ましい。
【0228】
<Ar201、Ar202、Ar203の芳香族複素環>
Ar201、Ar202、Ar203のいずれかが置換基を有していてもよい芳香族複素環構造である場合、該芳香族複素環構造は、好ましくはヘテロ原子として窒素原子、酸素原子、又は硫黄原子のいずれかを含む、炭素数3~30の芳香族複素環である。具体的には、ピリジン環、ピリミジン環、ピラジン環、トリアジン環、イミダゾール環、オキサゾール環、チアゾール環、ベンゾチアゾール環、ベンゾオキサゾール環、ベンゾイミダゾール環、キノリン環、イソキノリン環、キノキサリン環、キナゾリン環、ナフチリジン環、フェナントリジン環、カルバゾール環、ジベンゾフラン環、ジベンゾチオフェン環が挙げられ、更に好ましくはピリジン環、ピリミジン環、トリアジン環、カルバゾール環、ジベンゾフラン環、ジベンゾチオフェン環である。
【0229】
<カルバゾールのN位>
Ar201、Ar202、Ar203のいずれかが置換基を有していてもよいカルバゾール環である場合、カルバゾール環のN位は、置換基を有するか又は隣接する構造と結合していることが好ましい。
【0230】
<Ar202の脂肪族炭化水素>
Ar202が置換基を有していてもよい脂肪族炭化水素構造である場合、直鎖、分岐鎖、又は環状構造を有する脂肪族炭化水素構造であり、その炭素数は、好ましくは1以上24以下であり、より好ましくは1以上12以下であり、更に好ましくは1以上8以下である。
【0231】
<i1、i2、i3、j1、k1、k2>
<i1、i2の好ましい範囲>
i1は0~12の整数を表し、好ましくは1~12、より好ましくは1~8、更に好ましくは1~6の整数である。この範囲であることにより、溶解性と電荷輸送性の向上が見込まれる。
【0232】
<i3の好ましい範囲>
i3は好ましくは0~5の整数を表し、より好ましくは0~2、更に好ましくは0又は1である。
【0233】
<j1の好ましい範囲>)
j1は好ましくは0~2の整数を表し、より好ましくは0又は1である。
【0234】
<k1、k2の好ましい範囲>
k1、k2は好ましくは0~3の整数を表し、より好ましくは1~3であり、更に好ましくは1又は2であり、特に好ましくは1である。
【0235】
<Ar201、Ar202、Ar203の好ましい置換基>
Ar201、Ar202、Ar203が有していてもよい置換基は任意に選択できるが、好ましくは前記置換基群Z´から選ばれる1種又は複数種の置換基である。好ましい基も前記置換基群Z´の通りであるが、より好ましくは水素原子、アルキル基、アリール基であり、特に好ましくは水素原子、アルキル基であり、最も好ましくは無置換(水素原子)である。
【0236】
<式(201)の好ましい構造>
式(201)で表される化合物のなかでも、以下の構造を有する化合物が好ましい。
【0237】
<フェニレン連結式>)
ベンゼン環が連結した基を有する構造。
すなわち、Ar201がベンゼン環構造、i1が1~6、少なくとも一つの前記ベンゼン環がオルト位又はメタ位で隣接する構造と結合している。
この構造であることによって、溶解性が向上し、かつ電荷輸送性が向上することが期待される。
【0238】
<(フェニレン)-(アラルキル)-(アルキル)>
環A1又は環A2に、アルキル基若しくはアラルキル基が結合した芳香族炭化水素基若しくは芳香族複素環基を有する構造。
なわち、Ar201が芳香族炭化水素構造又は芳香族複素環構造、i1が1~6、Ar202が脂肪族炭化水素構造、i2が1~12、好ましくは3~8、Ar203がベンゼン環構造、i3が0又は1。
好ましくは、Ar201は前記芳香族炭化水素構造であり、更に好ましくはベンゼン環が1~5連結した構造であり、より好ましくはベンゼン環1つである。
この構造であることによって、溶解性が向上し、かつ電荷輸送性が向上することが期待される。
【0239】
<デンドロン>
環A1又は環A2に、デンドロンが結合した構造。
例えば、Ar、Ar202がベンゼン環構造、Ar203がビフェニル又はターフェニル構造、i1、i2が1~6、i3が2、jが2。
この構造であることによって、溶解性が向上し、かつ電荷輸送性が向上することが期待される。
【0240】
<B201-L200-B202>
B201-L200-B202は、アニオン性の二座配位子を表す。B201及びB202は、それぞれ独立に、炭素原子、酸素原子又は窒素原子を表し、これらの原子は環を構成する原子であってもよい。L200は、単結合、又は、B201及びB202とともに二座配位子を構成する原子団を表す。B201-L200-B202が複数存在する場合、それらは同一でも異なっていてもよい。
【0241】
B201-L200-B202で表される構造は、好ましくは下記式(203)又は(204)で表される構造である。
【0242】
【0243】
式(203)中、R211、R212、R213は置換基を表す。
【0244】
【0245】
式(204)中、環B3は、置換基を有していてもよい、窒素原子を含む芳香族複素環構造を表す。環B3は好ましくはピリジン環である。
【0246】
<好ましい式(201)で表される燐光発光材料>
式(201)で表される燐光発光材料としては特に限定はされないが、具体的には以下の構造が挙げられる。以下において「Ph」は「フェニル基」を、「Me」は「メチル基」を表す。
【0247】
【0248】
【0249】
【0250】
【0251】
【0252】
【0253】
式(205)中、M2は金属を表す。Tは炭素原子又は窒素原子を表す。R92~R95は、それぞれ独立に置換基を表す。Tが窒素原子の場合は、R94及びR95は無い。
【0254】
式(205)中、M2は金属を表す。具体例としては、周期表第7~11族から選ばれる金属が挙げられる。中でも好ましくは、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、銀、レニウム、オスミウム、イリジウム、白金又は金が挙げられ、特に好ましくは、白金、パラジウム等の2価の金属が挙げられる。
【0255】
式(205)において、R92及びR93は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アラルキル基、アルケニル基、シアノ基、アミノ基、アシル基、アルコキシカルボニル基、カルボキシル基、アルコキシ基、アルキルアミノ基、アラルキルアミノ基、ハロアルキル基、水酸基、アリールオキシ基、芳香族炭化水素基又は芳香族複素環基を表す。
【0256】
Tが炭素原子の場合、R94及びR95は、それぞれ独立に、R92及びR93と同様の例示物で表される置換基を表す。
Tが窒素原子の場合は該Tに直接結合するR94又はR95は存在しない。
【0257】
R92~R95は、更に置換基を有していてもよい。置換基としては、前記の置換基とすることができる。
R92~R95のうち任意の2つ以上の基が互いに連結して環を形成してもよい。
【0258】
<燐光発光材料の分子量>
燐光発光材料の分子量は、好ましくは5000以下、更に好ましくは4000以下、特に好ましくは3000以下である。燐光発光材料の分子量は、通常800以上、好ましくは1000以上、更に好ましくは1200以上である。この分子量範囲であることによって、燐光発光材料どうしが凝集せず電荷輸送材料と均一に混合し、発光効率の高い発光層を得ることができると考えられる。
【0259】
燐光発光材料の分子量は、Tgや融点、分解温度等が高く、燐光発光材料及び形成された発光層の耐熱性に優れる点、及び、ガス発生、再結晶化及び分子のマイグレーション等に起因する膜質の低下や材料の熱分解に伴う不純物濃度の上昇等が起こり難い点では大きいことが好ましい。一方、燐光発光材料の分子量は、有機化合物の精製が容易である点では小さいことが好ましい。
【0260】
[燐光発光層用ホスト材料]
本発明の一実施形態である重合体を、正孔注入層及び正孔輸送層の少なくとも一方を形成する電荷輸送性材料として用いた有機電界発光素子において、発光層が燐光発光材料である場合、ホスト材料としては以下の材料を含むことが好ましい。
【0261】
発光層のホスト材料は、電荷輸送性に優れる骨格を有する材料であり、電子輸送性材料、正孔輸送性材料及び電子と正孔の両方を輸送可能な両極性材料から選ばれることが好ましい。
【0262】
<電荷輸送性に優れる骨格>
電荷輸送性に優れる骨格としては、具体的には、芳香族構造、芳香族アミン構造、トリアリールアミン構造、ジベンゾフラン構造、ナフタレン構造、フェナントレン構造、フタロシアニン構造、ポルフィリン構造、チオフェン構造、ベンジルフェニル構造、フルオレン構造、キナクリドン構造、トリフェニレン構造、カルバゾール構造、ピレン構造、アントラセン構造、フェナントロリン構造、キノリン構造、ピリジン構造、ピリミジン構造、トリアジン構造、オキサジアゾール構造又はイミダゾール構造等が挙げられる。
【0263】
<電子輸送性材料>
電子輸送性材料としては、電子輸送性に優れ構造が比較的安定な材料である観点から、ピリジン構造、ピリミジン構造、トリアジン構造を有する化合物がより好ましく、ピリミジン構造、トリアジン構造を有する化合物であることが更に好ましい。
【0264】
<正孔輸送性材料>
正孔輸送性材料は、正孔輸送性に優れた構造を有する化合物である。前記電荷輸送性に優れた中心骨格の中でも、カルバゾール構造、ジベンゾフラン構造、トリアリールアミン構造、ナフタレン構造、フェナントレン構造又はピレン構造が正孔輸送性に優れた構造として好ましく、カルバゾール構造、ジベンゾフラン構造又はトリアリールアミン構造が更に好ましい。
【0265】
<3環以上の縮合環構造>
発光層のホスト材料は、3環以上の縮合環構造を有することが好ましく、3環以上の縮合環構造を2以上有する化合物又は5環以上の縮合環を少なくとも1つ有する化合物であることが更に好ましい。これらの化合物であることで、分子の剛直性が増し、熱に応答する分子運動の程度を抑制する効果が得られ易くなる。更に、3環以上の縮合環及び5環以上の縮合環は、芳香族炭化水素環又は芳香族複素環を有することが電荷輸送性及び材料の耐久性の点で好ましい。
【0266】
3環以上の縮合環構造としては、具体的には、アントラセン構造、フェナントレン構造、ピレン構造、クリセン構造、ナフタセン構造、トリフェニレン構造、フルオレン構造、ベンゾフルオレン構造、インデノフルオレン構造、インドロフルオレン構造、カルバゾール構造、インデノカルバゾール構造、インドロカルバゾール構造、ジベンゾフラン構造、ジベンゾチオフェン構造等が挙げられる。電荷輸送性ならびに溶解性の観点から、フェナントレン構造、フルオレン構造、インデノフルオレン構造、カルバゾール構造、インデノカルバゾール構造、インドロカルバゾール構造、ジベンゾフラン構造及びジベンゾチオフェン構造からなる群より選択される少なくとも1つが好ましく、電荷に対する耐久性の観点からカルバゾール構造又はインドロカルバゾール構造が更に好ましい。
【0267】
有機電界発光素子の電荷に対する耐久性の観点から、発光層のホスト材料の内、少なくとも一つはピリミジン骨格又はトリアジン骨格を有する材料であることが好ましい。
【0268】
<分子量範囲>
発光層のホスト材料は、可撓性に優れる観点では高分子材料であることが好ましい。可撓性に優れる材料を用いて形成された発光層は、フレキシブル基板上に形成された有機電界発光素子の発光層として好ましい。
発光層に含まれるホスト材料が高分子材料である場合、その分子量は、好ましくは5,000以上1,000,000以下、より好ましくは10,000以上500,000以下、更に好ましくは10,000以上100,000以下である。
【0269】
発光層のホスト材料は、合成及び精製のしやすさ、電子輸送性能及び正孔輸送性能の設計のしやすさ、溶媒に溶解した時の粘度調整のしやすさの観点から、低分子であることが好ましい。
発光層に含まれるホスト材料が低分子材料である場合、その分子量は、5,000以下が好ましく、より好ましくは4,000以下であり、特に好ましくは3,000以下であり、最も好ましくは2,000以下であり、通常300以上、好ましくは350以上、より好ましくは400以上である。
【0270】
[青蛍光発光層]
本発明の実施形態である重合体を、正孔注入層及び正孔輸送層の少なくとも一方を形成する電荷輸送性材料として用いた有機電界発光素子において、発光層が蛍光発光材料である場合、下記の青蛍光発光材料であることが好ましい。
【0271】
<青蛍光発光材料>
青蛍光発光層用発光材料としては特に限定されないが、下記式(211)で表される化合物が好ましい。
【0272】
【0273】
上記式(211)において、Ar241は置換基を有していてもよい芳香族炭化水素縮合環構造を表す。Ar242、Ar243は各々独立に置換基を有していてもよいアルキル基、芳香族炭化水素基又はこれらが結合した基を表す。n41は1~4の整数である。
【0274】
Ar241は好ましくは炭素数10~30の芳香族炭化水素縮合環構造を表す。具体的な構造としては、ナフタレン環、アセナフテン環、フルオレン環、アントラセン環、フェナトレン環、フルオランテン環、ピレン環、テトラセン環、クリセン環、ペリレン環等が挙げられる。より好ましくは炭素数12~20の芳香族炭化水素縮合環構造である。具体的な構造としては、アセナフテン環、フルオレン環、アントラセン環、フェナトレン環、フルオランテン環、ピレン環、テトラセン環、クリセン環、ペリレン環が挙げられる。更に好ましくは炭素数16~18の芳香族炭化水素縮合環構造であり、具体的な構造としては、フルオランテン環、ピレン環、クリセン環が挙げられる。
【0275】
n41は1~4の整数であり、好ましくは1~3、更に好ましくは1~2、最も好ましくは2である。
【0276】
<Ar241、Ar242、Ar243の置換基>
Ar241、Ar242、Ar243が有していてもよい置換基は、前記置換基群Z´から選ばれる基が好ましく、より好ましくは置換基群Z´に含まれる炭化水素基であり、更に好ましくは置換基群Z´として好ましい基の中の炭化水素基である。
【0277】
[青蛍光発光層用ホスト材料]
本発明の実施形態である重合体を、正孔注入層及び正孔輸送層の少なくとも一方を形成する電荷輸送性材料として用いた有機電界発光素子において、発光層が青蛍光発光材料である場合、ホスト材料としては以下の材料が好ましい。
【0278】
青蛍光発光層用ホスト材料としては特に限定されないが、下記式(212)で表される化合物が好ましい。
【0279】
【0280】
上記式(212)において、R241、R242はそれぞれ独立に以下の式(213)で表される構造である。R243は置換基を表す。R243は複数ある場合同一であっても異なっていてもよい。n43は0~8の整数である。
【0281】
【0282】
上記式(213)において、Ar244、Ar245はそれぞれ独立に、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素構造、又は置換基を有していてもよい複素芳香環構造を表す。Ar244、Ar245はそれぞれ、複数存在する場合、同一であっても異なっていてもよい。n44は1~5の整数、n45は0~5の整数である。
【0283】
Ar244は好ましくは、置換基を有していてもよい、炭素数6~30の単環又は縮合環である芳香族炭化水素構造であり、より好ましくは、置換基を有していてもよい、炭素数6~12の単環又は縮合環である芳香族炭化水素構造である。
【0284】
Ar245は好ましくは、置換基を有していてもよい、炭素数6~30の単環又は縮合環である芳香族炭化水素構造、又は、置換基を有していてもよい、炭素数6~30の縮合環である芳香族複素環構造であり、より好ましくは、置換基を有していてもよい、炭素数6~12の単環又は縮合環である芳香族炭化水素構造、又は、置換基を有していてもよい、炭素数12の縮合環である芳香族複素環構造である。
【0285】
n44は好ましくは1~3の整数であり、より好ましくは1又は2である。
n45は好ましくは0~3であり、より好ましくは0~2である。
【0286】
<(R243、Ar244、Ar245の置換基>
置換基であるR243及び、Ar244及びAr245が有していてもよい置換基は、前記置換基群Z´から選ばれる基が好ましく、より好ましくは置換基群Z´に含まれる炭化水素基であり、更に好ましくは置換基群Z´として好ましい基の中の炭化水素基である。
【0287】
<分子量>
青蛍光発光層用発光材料及びそのホスト材料の分子量は5,000以下が好ましく、より好ましくは4,000以下であり、特に好ましくは3,000以下であり、最も好ましくは2,000以下であり、通常300以上、好ましくは350以上、より好ましくは400以上である。
【0288】
〔有機電界発光素子〕
本実施形態の有機電界発光素子は、基板上に、陽極及び陰極と、該陽極と該陰極の間に有機層を有する有機電界発光素子において、該有機層が、前記重合体を含む有機電界発光素子用組成物を用いて湿式成膜法により形成された層を含むことを特徴とする。
【0289】
本実施形態の有機電界発光素子において、前記重合体を含む有機電界発光素子用組成物を用いて湿式成膜法により形成された層は、正孔注入層及び正孔輸送層の少なくとも一方であることが好ましい。特に、有機電界発光素子の有機層が正孔注入層、正孔輸送層及び発光層を備え、これら正孔注入層、正孔輸送層及び発光層の全てが前記重合体を含む有機電界発光素子用組成物を用いて湿式成膜法により形成された層であることが好ましい。
【0290】
本実施形態において湿式成膜法とは、成膜方法、即ち、塗布方法として、例えば、スピンコート法、ディップコート法、ダイコート法、バーコート法、ブレードコート法、ロールコート法、スプレーコート法、キャピラリーコート法、インクジェット法、ノズルプリンティング法、スクリーン印刷法、グラビア印刷法、フレキソ印刷法等の湿式で成膜させる方法を採用し、この塗布膜を乾燥させて膜形成を行う方法をいう。これらの成膜方法の中でも、スピンコート法、スプレーコート法、インクジェット法、ノズルプリンティング法等が好ましい。
【0291】
本実施形態の有機電界発光素子の構造の一例として、
図1に有機電界発光素子10の構造例の模式図(断面)を示す。
図1において、1は基板、2は陽極、3は正孔注入層、4は正孔輸送層、5は発光層、6は正孔阻止層、7は電子輸送層、8は電子注入層、9は陰極を各々表す。
【0292】
以下、有機電界発光素子の層構成及びその一般的形成方法等の実施の形態の一例を、
図1を参照して説明する。
【0293】
[基板]
基板1は、有機電界発光素子の支持体となるものである。基板1には、通常、石英やガラスの板、金属板や金属箔、プラスチックフィルムやシート等が用いられる。これらのうち、ガラス板や、ポリエステル、ポリメタクリレート、ポリカーボネート、ポリスルホン等の透明な合成樹脂の板が好ましい。基板は、外気による有機電界発光素子の劣化が起こり難いことからガスバリア性の高い材質とするのが好ましい。このため、特に合成樹脂製の基板等のようにガスバリア性の低い材質を用いる場合は、基板の少なくとも片面に緻密なシリコン酸化膜等を設けてガスバリア性を上げるのが好ましい。
【0294】
[陽極]
陽極2は、発光層5側の層に正孔を注入する機能を担う。
陽極2は、通常、アルミニウム、金、銀、ニッケル、パラジウム、白金等の金属;インジウム及び/又はスズの酸化物等の金属酸化物;ヨウ化銅等のハロゲン化金属;カーボンブラック及びポリ(3-メチルチオフェン)、ポリピロール、ポリアニリン等の導電性高分子等により構成される。
【0295】
陽極2の形成は、通常、スパッタリング法、真空蒸着法等の乾式法により行われることが多い。
銀等の金属微粒子、ヨウ化銅等の微粒子、カーボンブラック、導電性の金属酸化物微粒子、導電性高分子微粉末等を用いて陽極を形成する場合には、適当なバインダー樹脂溶液に分散させて、基板上に塗布することにより形成することもできる。
導電性高分子の場合は、電解重合により直接基板上に薄膜を形成したり、基板上に導電性高分子を塗布して陽極を形成することもできる(Appl.Phys.Lett.,60巻,2711頁,1992年)。
【0296】
陽極2は、通常、単層構造であるが、適宜、積層構造としてもよい。陽極2が積層構造である場合、1層目の陽極上に異なる導電材料を積層してもよい。
【0297】
陽極2の厚みは、必要とされる透明性と材質等に応じて決めればよい。特に高い透明性が必要とされる場合は、可視光の透過率が60%以上となる厚みが好ましく、80%以上となる厚みが更に好ましい。陽極2の厚みは、通常5nm以上、好ましくは10nm以上であり、通常1000nm以下、好ましくは500nm以下とするのが好ましい。
一方、透明性が不要な場合は、陽極2の厚みは必要な強度等に応じて任意に厚みとすればよい。この場合、陽極2は基板と同一の厚みでもよい。
【0298】
陽極2の表面に他の層を成膜する場合は、成膜前に、紫外線/オゾン、酸素プラズマ、アルゴンプラズマ等の処理を施すことにより、陽極2上の不純物を除去すると共に、そのイオン化ポテンシャルを調整して正孔注入性を向上させておくことが好ましい。
【0299】
[正孔注入層]
陽極2側から発光層5側に正孔を輸送する機能を担う層は、通常、正孔注入輸送層又は正孔輸送層と呼ばれる。陽極2側から発光層5側に正孔を輸送する機能を担う層が2層以上ある場合に、より陽極側に近い方の層を正孔注入層3と呼ぶことがある。正孔注入層3は、陽極2から発光層5側に正孔を輸送する機能を強化する点で、形成することが好ましい。正孔注入層3を形成する場合、通常、正孔注入層3は、陽極2上に形成される。
【0300】
正孔注入層3の膜厚は、通常1nm以上、好ましくは5nm以上、通常1000nm以下、好ましくは500nm以下である。
【0301】
正孔注入層の形成方法は、真空蒸着法でも、湿式成膜法でもよい。成膜性が優れる点では、湿式成膜法により形成することが好ましい。
【0302】
正孔注入層3は、正孔輸送性化合物を含むことが好ましく、正孔輸送性化合物と電子受容性化合物とを含むことがより好ましい。更には、正孔注入層中にカチオンラジカル化合物を含むことが好ましく、カチオンラジカル化合物と正孔輸送性化合物とを含むことが特に好ましい。
【0303】
以下に、一般的な正孔注入層の形成方法について説明する。本実施形態の有機電界発光素子において、正孔注入層は、前記有機電界発光素子用組成物を用いて湿式成膜法により形成されることが好ましい。
【0304】
<正孔輸送性化合物>
正孔注入層形成用組成物は、通常、正孔注入層3となる正孔輸送性化合物を含有する。湿式成膜法の場合は、通常、更に溶媒も含有する。正孔注入層形成用組成物は、正孔輸送性が高く、注入された正孔を効率よく輸送できるのが好ましい。このため、正孔移動度が大きく、トラップとなる不純物が製造時や使用時等に発生し難いことが好ましい。また、安定性に優れ、イオン化ポテンシャルが小さく、可視光に対する透明性が高いことが好ましい。特に、正孔注入層3が発光層5と接する場合は、発光層5からの発光を消光しないものや発光層5とエキサイプレックスを形成して、発光効率を低下させないものが好ましい。
【0305】
正孔輸送性化合物としては、陽極2から正孔注入層3への電荷注入障壁の観点から、4.5eV~6.0eVのイオン化ポテンシャルを有する化合物が好ましい。正孔輸送性化合物の例としては、芳香族アミン系化合物、フタロシアニン系化合物、ポルフィリン系化合物、オリゴチオフェン系化合物、ポリチオフェン系化合物、ベンジルフェニル系化合物、フルオレン基で3級アミンを連結した化合物、ヒドラゾン系化合物、シラザン系化合物、キナクリドン系化合物等が挙げられる。
【0306】
上述の例示化合物のうち、非晶質性及び可視光透過性の点から、芳香族アミン化合物が好ましく、芳香族三級アミン化合物が特に好ましい。ここで、芳香族三級アミン化合物とは、芳香族三級アミン構造を有する化合物であって、芳香族三級アミン由来の基を有する化合物も含む。
【0307】
芳香族三級アミン化合物の種類は、特に制限されないが、表面平滑化効果により均一な発光を得やすい点から、重量平均分子量が1000以上、1000000以下の高分子化合物(繰り返し単位が連なる重合型化合物)を用いることが好ましい。
【0308】
正孔注入層3には、正孔輸送性化合物の酸化により、正孔注入層の導電率を向上させることができるため、前述の電子受容性化合物や、前述のカチオンラジカル化合物を含有していることが好ましい。
【0309】
PEDOT/PSS(Adv.Mater.,2000年,12巻,481頁)やエメラルジン塩酸塩(J.Phys.Chem.,1990年,94巻,7716頁)等の高分子化合物由来のカチオンラジカル化合物は、酸化重合(脱水素重合)することによっても生成する。
【0310】
ここでいう酸化重合は、モノマーを酸性溶液中で、ペルオキソ二硫酸塩等を用いて化学的に、又は、電気化学的に酸化するものである。この酸化重合(脱水素重合)の場合、モノマーが酸化されることにより高分子化されるとともに、酸性溶液由来のアニオンを対アニオンとする、高分子の繰り返し単位から一電子取り除かれたカチオンラジカルが生成する。
【0311】
<湿式成膜法による正孔注入層の形成>
湿式成膜法により正孔注入層3を形成する場合、通常、正孔注入層3となる材料を可溶な溶媒(正孔注入層用溶媒)と混合して成膜用の組成物(正孔注入層形成用組成物)を調製し、この正孔注入層形成用組成物を正孔注入層3の下層に該当する層(通常は、陽極2)上に塗布して成膜し、乾燥させることにより形成する。
【0312】
正孔注入層形成用組成物中における正孔輸送性化合物の濃度は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、膜厚の均一性の点では、低い方が好ましく、正孔注入層に欠陥が生じ難い点では、高い方が好ましい。具体的には、0.01重量%以上であるのが好ましく、0.1重量%以上であるのが更に好ましく、0.5重量%以上であるのが特に好ましく、70重量%以下であるのが好ましく、60重量%以下であるのが更に好ましく、50重量%以下であるのが特に好ましい。
【0313】
溶媒としては、例えば、エーテル系溶媒、エステル系溶媒、芳香族炭化水素系溶媒、アミド系溶媒等が挙げられる。
【0314】
エーテル系溶媒としては、例えば、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコール-1-モノメチルエーテルアセタート(PGMEA)等の脂肪族エーテル及び1,2-ジメトキシベンゼン、1,3-ジメトキシベンゼン、アニソール、フェネトール、2-メトキシトルエン、3-メトキシトルエン、4-メトキシトルエン、2,3-ジメチルアニソール、2,4-ジメチルアニソール等の芳香族エーテル等が挙げられる。
【0315】
エステル系溶媒としては、例えば、酢酸フェニル、プロピオン酸フェニル、安息香酸メチル、安息香酸エチル、安息香酸プロピル、安息香酸n-ブチル等の芳香族エステル等が挙げられる。
【0316】
芳香族炭化水素系溶媒としては、例えば、トルエン、キシレン、シクロヘキシルベンゼン、3-イソプロピルビフェニル、1,2,3,4-テトラメチルベンゼン、1,4-ジイソプロピルベンゼン、シクロヘキシルベンゼン、メチルナフタレン等が挙げられる。
【0317】
アミド系溶媒としては、例えば、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド等が挙げられる。
これらの他、ジメチルスルホキシド等も用いることができる。
【0318】
正孔注入層3の湿式成膜法による形成は、通常、正孔注入層形成用組成物を調製後に、これを、正孔注入層3の下層に該当する層(通常は、陽極2)上に塗布成膜し、乾燥することにより行われる。
正孔注入層3は、通常、成膜後に、加熱や減圧乾燥等により塗布膜を乾燥させる。
【0319】
<真空蒸着法による正孔注入層の形成>
真空蒸着法により正孔注入層3を形成する場合には、通常、正孔注入層3の構成材料(前述の正孔輸送性化合物、電子受容性化合物等)の1種類又は2種類以上を真空容器内に設置された坩堝に入れ(2種類以上の材料を用いる場合は、通常各々を別々の坩堝に入れ)、真空容器内を真空ポンプで10-4Pa程度まで排気した後、坩堝を加熱して(2種類以上の材料を用いる場合は、通常各々の坩堝を加熱して)、坩堝内の材料の蒸発量を制御しながら蒸発させ(2種類以上の材料を用いる場合は、通常各々独立に蒸発量を制御しながら蒸発させ)、坩堝に向き合って置かれた基板1上の陽極2上に正孔注入層3を形成する。2種類以上の材料を用いる場合は、それらの混合物を坩堝に入れ、加熱、蒸発させて正孔注入層を形成することもできる。
【0320】
蒸着時の真空度は、本発明の効果を著しく損なわない限り限定されないが、通常0.1×10-6Torr(0.13×10-4Pa)以上、9.0×10-6Torr(12.0×10-4Pa)以下である。蒸着速度は、本発明の効果を著しく損なわない限り限定されないが、通常0.1Å/秒以上、5.0Å/秒以下である。蒸着時の成膜温度は、本発明の効果を著しく損なわない限り限定されないが、好ましくは10℃以上、50℃以下である。
正孔注入層3は、後述の正孔輸送層4と同様に架橋されていてもよい。
【0321】
[正孔輸送層]
正孔輸送層4は、陽極2側から発光層5側に正孔を輸送する機能を担う層である。正孔輸送層4は、本実施形態の有機電界発光素子では、必須の層では無いが、陽極2から発光層5に正孔を輸送する機能を強化する点では、この層を形成することが好ましい。正孔輸送層4を形成する場合、通常、正孔輸送層4は、陽極2と発光層5の間に形成される。上述の正孔注入層3がある場合は、正孔輸送層4は正孔注入層3と発光層5の間に形成される。
【0322】
正孔輸送層4の膜厚は、通常5nm以上、好ましくは10nm以上であり、通常300nm以下、好ましくは100nm以下である。
【0323】
正孔輸送層4の形成方法は、真空蒸着法でも、湿式成膜法でもよい。成膜性が優れる点では、湿式成膜法により形成することが好ましい。
【0324】
以下に一般的な正孔輸送層の形成方法について説明する。本実施形態の有機電界発光素子において、正孔輸送層は、上記有機電界発光素子用組成物を用いて湿式成膜法により形成されることが好ましい。
【0325】
正孔輸送層4は、通常、正孔輸送性化合物を含有する。正孔輸送層4に含まれる正孔輸送性化合物としては、上記本実施形態の重合体又は該重合体が架橋性基を有する場合は該重合体が架橋した重合体が好ましい。更に、上記重合体の他に、前記正孔輸送性化合物、4,4’-ビス[N-(1-ナフチル)-N-フェニルアミノ]ビフェニルで代表される、2個以上の3級アミンを含み2個以上の縮合芳香族環が窒素原子に置換した芳香族ジアミン(特開平5-234681号公報)、4,4’,4’’-トリス(1-ナフチルフェニルアミノ)トリフェニルアミン等のスターバースト構造を有する芳香族アミン化合物(J.Lumin.,72-74巻、985頁、1997年)、トリフェニルアミンの四量体から成る芳香族アミン化合物(Chem.Commun.,2175頁、1996年)、2,2’,7,7’-テトラキス-(ジフェニルアミノ)-9,9’-スピロビフルオレン等のスピロ化合物(Synth.Metals,91巻、209頁、1997年)、4,4’-N,N’-ジカルバゾールビフェニル等のカルバゾール誘導体等が好ましいものとして挙げられる。また、例えばポリビニルカルバゾール、ポリビニルトリフェニルアミン(特開平7-53953号公報)、テトラフェニルベンジジンを含有するポリアリーレンエーテルサルホン(Polym.Adv.Tech.,7巻、33頁、1996年)等を含んでもよい。
【0326】
<湿式成膜法による正孔輸送層の形成>
湿式成膜法で正孔輸送層4を形成する場合は、通常、上述の正孔注入層3を湿式成膜法で形成する場合と同様にして、正孔注入層形成用組成物の代わりに正孔輸送層形成用組成物を用いて形成させる。
【0327】
湿式成膜法で正孔輸送層4を形成する場合は、通常、正孔輸送層形成用組成物は、更に溶媒を含有する。正孔輸送層形成用組成物に用いる溶媒は、上述の正孔注入層形成用組成物で用いる溶媒と同様の溶媒を使用することができる。
正孔輸送層形成用組成物中における正孔輸送性化合物の濃度は、正孔注入層形成用組成物中における正孔輸送性化合物の濃度と同様の範囲とすることができる。
正孔輸送層4の湿式成膜法による形成は、前述の正孔注入層3の成膜法と同様に行うことができる。
【0328】
<真空蒸着法による正孔輸送層の形成>
真空蒸着法で正孔輸送層4を形成する場合についても、通常、上述の正孔注入層3を真空蒸着法で形成する場合と同様にして、正孔注入層3の構成材料の代わりに正孔輸送層4の構成材料を用いて形成することができる。蒸着時の真空度、蒸着速度及び温度等の成膜条件などは、前記正孔注入層3の真空蒸着時と同様の条件で成膜することができる。
【0329】
[発光層]
発光層5は、一対の電極間に電界が与えられた時に、陽極2から注入される正孔と陰極9から注入される電子が再結合することにより励起され、発光する機能を担う層である。発光層5は、陽極2と陰極9の間に形成される層である。発光層5は、陽極2の上に正孔注入層3がある場合は、正孔注入層3と陰極9の間に形成される。陽極2の上に正孔輸送層4がある場合は、発光層5は正孔輸送層4と陰極9の間に形成される。
【0330】
発光層5の膜厚は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、膜に欠陥が生じ難い点では厚い方が好ましく、薄い方が低駆動電圧としやすい点で好ましい。このため、発光層5の膜厚は、3nm以上であるのが好ましく、5nm以上であるのが更に好ましく、通常200nm以下であるのが好ましく、100nm以下であるのが更に好ましい。
【0331】
発光層5は、少なくとも、発光の性質を有する材料(発光材料)を含有するとともに、好ましくは、電荷輸送性を有する材料(電荷輸送性材料)を含有する。
【0332】
以下に一般的な発光材料と発光層の形成方法について説明する。本実施形態の有機電界発光素子において、発光層は、上記有機電界発光素子用組成物、特に前述の発光層材料とホスト材料を用いて湿式成膜法により形成されることが好ましい。
【0333】
<発光材料>
発光材料は、所望の発光波長で発光し、本発明の効果を損なわない限りは特に制限はなく、公知の発光材料を適用可能である。発光材料は、蛍光発光材料でも、燐光発光材料でもよいが、発光効率が良好である材料が好ましく、内部量子効率の観点から燐光発光材料が好ましい。
【0334】
蛍光発光材料としては、例えば、以下の材料が挙げられる。
【0335】
青色発光を与える蛍光発光材料(青色蛍光発光材料)としては、例えば、ナフタレン、ペリレン、ピレン、アントラセン、クマリン、クリセン、p-ビス(2-フェニルエテニル)ベンゼン及びそれらの誘導体等が挙げられる。
【0336】
緑色発光を与える蛍光発光材料(緑色蛍光発光材料)としては、例えば、キナクリドン誘導体、クマリン誘導体、Al(C9H6NO)3等のアルミニウム錯体等が挙げられる。
【0337】
黄色発光を与える蛍光発光材料(黄色蛍光発光材料)としては、例えば、ルブレン、ペリミドン誘導体等が挙げられる。
【0338】
赤色発光を与える蛍光発光材料(赤色蛍光発光材料)としては、例えば、DCM(4-(dicyanomethylene)-2-methyl-6-(p-dimethylaminostyryl)-4H-pyran)系化合物、ベンゾピラン誘導体、ローダミン誘導体、ベンゾチオキサンテン誘導体、アザベンゾチオキサンテン等が挙げられる。
【0339】
燐光発光材料としては、例えば、周期表の第7~11族から選ばれる金属を含む有機金属錯体等が挙げられる。周期表の第7~11族から選ばれる金属として、好ましくは、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、銀、レニウム、オスミウム、イリジウム、白金、金等が挙げられる。
【0340】
有機金属錯体の配位子としては、(ヘテロ)アリールピリジン配位子、(ヘテロ)アリールピラゾール配位子等の(ヘテロ)アリール基とピリジン、ピラゾール、フェナントロリン等が連結した配位子が好ましく、特にフェニルピリジン配位子、フェニルピラゾール配位子が好ましい。ここで、(ヘテロ)アリールとは、アリール基又はヘテロアリール基を表す。
【0341】
好ましい燐光発光材料として、例えば、トリス(2-フェニルピリジン)イリジウム、トリス(2-フェニルピリジン)ルテニウム、トリス(2-フェニルピリジン)パラジウム、ビス(2-フェニルピリジン)白金、トリス(2-フェニルピリジン)オスミウム、トリス(2-フェニルピリジン)レニウム等のフェニルピリジン錯体、オクタエチル白金ポルフィリン、オクタフェニル白金ポルフィリン、オクタエチルパラジウムポルフィリン、オクタフェニルパラジウムポルフィリン等のポルフィリン錯体等が挙げられる。
【0342】
高分子系の発光材料としては、ポリ(9,9-ジオクチルフルオレン-2,7-ジイル)、ポリ[(9,9-ジオクチルフルオレン-2,7-ジイル)-co-(4,4’-(N-(4-sec-ブチルフェニル))ジフェニルアミン)]、ポリ[(9,9-ジオクチルフルオレン-2,7-ジイル)-co-(1,4-ベンゾ-2{2,1’-3}-トリアゾール)]等のポリフルオレン系材料、ポリ[2-メトキシ-5-(2-ヘチルヘキシルオキシ)-1,4-フェニレンビニレン]等のポリフェニレンビニレン系材料が挙げられる。
【0343】
<電荷輸送性材料>
電荷輸送性材料は、正電荷(正孔)又は負電荷(電子)輸送性を有する材料であり、本発明の効果を損なわない限り、特に制限はなく、公知の発光材料を適用可能である。
【0344】
電荷輸送性材料は、従来、有機電界発光素子の発光層に用いられている化合物等を用いることができ、特に、発光層のホスト材料として使用されている化合物が好ましい。
【0345】
電荷輸送性材料としては、具体的には、本発明の重合体を含む芳香族アミン系化合物、フタロシアニン系化合物、ポルフィリン系化合物、オリゴチオフェン系化合物、ポリチオフェン系化合物、ベンジルフェニル系化合物、フルオレン基で3級アミンを連結した化合物、ヒドラゾン系化合物、シラザン系化合物、シラナミン系化合物、ホスファミン系化合物、キナクリドン系化合物等の正孔注入層の正孔輸送性化合物として例示した化合物等が挙げられる。その他、アントラセン系化合物、ピレン系化合物、カルバゾール系化合物、ピリジン系化合物、フェナントロリン系化合物、オキサジアゾール系化合物、シロール系化合物等の電子輸送性化合物等が挙げられる。
【0346】
例えば、4,4’-ビス[N-(1-ナフチル)-N-フェニルアミノ]ビフェニルで代表される2個以上の3級アミンを含み2個以上の縮合芳香族環が窒素原子に置換した芳香族ジアミン(特開平5-234681号公報)、4,4’,4’’-トリス(1-ナフチルフェニルアミノ)トリフェニルアミン等のスターバースト構造を有する芳香族アミン系化合物(J.Lumin.,72-74巻、985頁、1997年)、トリフェニルアミンの四量体から成る芳香族アミン系化合物(Chem.Commun.,2175頁、1996年)、2,2’,7,7’-テトラキス-(ジフェニルアミノ)-9,9’-スピロビフルオレン等のフルオレン系化合物(Synth.Metals,91巻、209頁、1997年)、4,4’-N,N’-ジカルバゾールビフェニル等のカルバゾール系化合物等の正孔輸送層の正孔輸送性化合物として例示した化合物等も好ましく用いることができる。
【0347】
この他、2-(4-ビフェニリル)-5-(p-ターシャルブチルフェニル)-1,3,4-オキサジアゾール(tBu-PBD)、2,5-ビス(1-ナフチル)-1,3,4-オキサジアゾール(BND)等のオキサジアゾール系化合物、2,5-ビス(6’-(2’,2’’-ビピリジル))-1,1-ジメチル-3,4-ジフェニルシロール(PyPySPyPy)等のシロール系化合物、バソフェナントロリン(BPhen)、2,9-ジメチル-4,7-ジフェニル-1,10-フェナントロリン(BCP、バソクプロイン)等のフェナントロリン系化合物等も挙げられる。
【0348】
<湿式成膜法による発光層の形成>
発光層2の形成方法は、真空蒸着法でも、湿式成膜法でもよいが、成膜性に優れることから、湿式成膜法が好ましく、スピンコート法及びインクジェット法が更に好ましい。
【0349】
特に、上記有機電界発光素子用組成物を用いて、発光層2の下層となる正孔注入層3又は正孔輸送層4を形成すると、湿式成膜法による積層化が容易であるため、湿式成膜法を採用することが好ましい。湿式成膜法により発光層5を形成する場合は、通常、上述の正孔注入層を湿式成膜法で形成する場合と同様にして、正孔注入層形成用組成物の代わりに、発光層5となる材料を可溶な溶媒(発光層用溶媒)と混合して調製した発光層形成用組成物を用いて形成する。
【0350】
溶媒としては、例えば、正孔注入層3の形成について挙げたエーテル系溶媒、エステル系溶媒、芳香族炭化水素系溶媒、アミド系溶媒の他、アルカン系溶媒、ハロゲン化芳香族炭化水素系溶媒、脂肪族アルコール系溶媒、脂環族アルコール系溶媒、脂肪族ケトン系溶媒及び脂環族ケトン系溶媒等が挙げられる。以下に溶媒の具体例を挙げるが、本発明の効果を損なわない限り、これらに限定されるものではない。
【0351】
例えば、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコール-1-モノメチルエーテルアセタート(PGMEA)等の脂肪族エーテル系溶媒;1,2-ジメトキシベンゼン、1,3-ジメトキシベンゼン、アニソール、フェネトール、2-メトキシトルエン、3-メトキシトルエン、4-メトキシトルエン、2,3-ジメチルアニソール、2,4-ジメチルアニソール、ジフェニルエーテル等の芳香族エーテル系溶媒;酢酸フェニル、プロピオン酸フェニル、安息香酸メチル、安息香酸エチル、安息香酸プロピル、安息香酸n-ブチル等の芳香族エステル系溶媒;トルエン、キシレン、メシチレン、シクロヘキシルベンゼン、テトラリン、3-イロプロピルビフェニル、1,2,3,4-テトラメチルベンゼン、1,4-ジイソプロピルベンゼン、シクロヘキシルベンゼン、メチルナフタレン等の芳香族炭化水素系溶媒;N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド等のアミド系溶媒;n-デカン、シクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、デカリン、ビシクロヘキサン等のアルカン系溶媒;クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼン等のハロゲン化芳香族炭化水素系溶媒;ブタノール、ヘキサノール等の脂肪族アルコール系溶媒;シクロヘキサノール、シクロオクタノール等の脂環族アルコール系溶媒;メチルエチルケトン、ジブチルケトン等の脂肪族ケトン系溶媒;シクロヘキサノン、シクロオクタノン、フェンコン等の脂環族ケトン系溶媒等が挙げられる。これらのうち、アルカン系溶媒及び芳香族炭化水素系溶媒が特に好ましい。
【0352】
より均一な膜を得るためには、成膜直後の液膜から溶媒が適当な速度で蒸発することが好ましい。このため、用いる溶媒の沸点は、前述の通り、通常80℃以上、好ましくは100℃以上、より好ましくは120℃以上で、通常270℃以下、好ましくは250℃以下、より好ましくは沸点230℃以下である。
【0353】
溶媒の使用量は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、発光層形成用組成物中の含有量で好ましくは1質量%以上、より好ましくは10質量%以上、特に好ましくは50質量%以上で、好ましくは99.99質量%以下、より好ましくは99.9質量%以下、特に好ましくは99質量%以下である。
【0354】
湿式成膜後の溶媒除去方法としては、加熱又は減圧を用いることができる。加熱方法において使用する加熱手段としては、膜全体に均等に熱を与えることから、クリーンオーブン、ホットプレートが好ましい。
【0355】
加熱工程における加熱温度は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、乾燥時間を短くする点では温度が高いほうが好ましく、材料へのダメージが少ない点では低い方が好ましい。加温温度の上限は通常250℃以下であり、好ましくは200℃以下、更に好ましくは150℃以下である。加温温度の下限は通常30℃以上であり、好ましくは50℃以上、更に好ましくは80℃以上である。加温温度が上記上限を超える温度は、通常用いられる電荷輸送性材料又は燐光発光材料の耐熱性より高く、これらが分解や結晶化する可能性があり好ましくない。加熱温度が上記下限未満では溶媒の除去に長時間を要するため、好ましくない。加熱工程における加熱時間は、発光層形成用組成物中の溶媒の沸点や蒸気圧、材料の耐熱性、及び加熱条件によって適切に決定される。
【0356】
<真空蒸着法による発光層の形成>
真空蒸着法により発光層5を形成する場合には、通常、発光層5の構成材料(前述の発光材料、電荷輸送性化合物等)の1種類又は2種類以上を真空容器内に設置された坩堝に入れ(2種類以上の材料を用いる場合は、通常各々を別々の坩堝に入れ)、真空容器内を真空ポンプで10-4Pa程度まで排気した後、坩堝を加熱して(2種類以上の材料を用いる場合は、通常各々の坩堝を加熱して)、坩堝内の材料の蒸発量を制御しながら蒸発させ(2種類以上の材料を用いる場合は、通常各々独立に蒸発量を制御しながら蒸発させ)、坩堝に向き合って置かれた正孔注入層3又は正孔輸送層4の上に発光層5を形成させる。2種類以上の材料を用いる場合は、それらの混合物を坩堝に入れ、加熱、蒸発させて発光層5を形成することもできる。
【0357】
蒸着時の真空度は、本発明の効果を著しく損なわない限り限定されないが、通常0.1×10-6Torr(0.13×10-4Pa)以上、9.0×10-6Torr(12.0×10-4Pa)以下である。蒸着速度は、本発明の効果を著しく損なわない限り限定されないが、通常0.1Å/秒以上、5.0Å/秒以下である。蒸着時の成膜温度は、本発明の効果を著しく損なわない限り限定されないが、好ましくは10℃以上、50℃以下である。
【0358】
[正孔阻止層]
発光層5と後述の電子注入層8との間に、正孔阻止層6を設けてもよい。正孔阻止層6は、発光層5の上に、発光層5の陰極9側の界面に接するように積層される層である。
【0359】
正孔阻止層6は、陽極2から移動してくる正孔を陰極9に到達するのを阻止する役割と、陰極9から注入された電子を効率よく発光層5の方向に輸送する役割とを有する。正孔阻止層6を構成する材料に求められる物性としては、電子移動度が高く正孔移動度が低いこと、エネルギーギャップ(HOMO、LUMOの差)が大きいこと、励起三重項準位(T1)が高いことが挙げられる。
【0360】
このような条件を満たす正孔阻止層6の材料としては、例えば、ビス(2-メチル-8-キノリノラト)(フェノラト)アルミニウム、ビス(2-メチル-8-キノリノラト)(トリフェニルシラノラト)アルミニウム等の混合配位子錯体、ビス(2-メチル-8-キノラト)アルミニウム-μ-オキソ-ビス-(2-メチル-8-キノリラト)アルミニウム二核金属錯体等の金属錯体、ジスチリルビフェニル誘導体等のスチリル化合物(特開平11-242996号公報)、3-(4-ビフェニルイル)-4-フェニル-5-(4-tert-ブチルフェニル)-1,2,4-トリアゾール等のトリアゾール誘導体(特開平7-41759号公報)、バソクプロイン等のフェナントロリン誘導体(特開平10-79297号公報)等が挙げられる。更に、国際公開第2005/022962号に記載の2,4,6位が置換されたピリジン環を少なくとも1個有する化合物も、正孔阻止層6の材料として好ましい。
【0361】
正孔阻止層6の形成方法に制限はない。従って、湿式成膜法、蒸着法や、その他の方法で形成できる。
【0362】
正孔阻止層6の膜厚は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常0.3nm以上、好ましくは0.5nm以上であり、また、通常100nm以下、好ましくは50nm以下である。
【0363】
[電子輸送層]
電子輸送層7は素子の電流効率を更に向上させることを目的として、発光層5と電子注入層8との間に設けられる。
【0364】
電子輸送層7は、電界を与えられた電極間において陰極9から注入された電子を効率よく発光層5の方向に輸送することができる化合物より形成される。電子輸送層7に用いられる電子輸送性化合物としては、陰極9又は電子注入層8からの電子注入効率が高く、かつ、高い電子移動度を有し、注入された電子を効率よく輸送することができる化合物であることが必要である。
【0365】
電子輸送層に用いる電子輸送性化合物としては、例えば、8-ヒドロキシキノリンのアルミニウム錯体等の金属錯体(特開昭59-194393号公報)、10-ヒドロキシベンゾ[h]キノリンの金属錯体、オキサジアゾール誘導体、ジスチリルビフェニル誘導体、シロール誘導体、3-ヒドロキシフラボン金属錯体、5-ヒドロキシフラボン金属錯体、ベンズオキサゾール金属錯体、ベンゾチアゾール金属錯体、トリスベンズイミダゾリルベンゼン(米国特許第5645948号明細書)、キノキサリン化合物(特開平6-207169号公報)、フェナントロリン誘導体(特開平5-331459号公報)、2-t-ブチル-9,10-N,N’-ジシアノアントラキノンジイミン、n型水素化非晶質炭化シリコン、n型硫化亜鉛、n型セレン化亜鉛等が挙げられる。
【0366】
電子輸送層7の膜厚は、通常1nm以上、好ましくは5nm以上であり、通常300nm以下、好ましくは100nm以下である。
【0367】
電子輸送層7は、前記と同様にして湿式成膜法、或いは真空蒸着法により正孔阻止層6上に積層することにより形成される。通常は、真空蒸着法が用いられる。
【0368】
[電子注入層]
電子注入層8は、陰極9から注入された電子を効率よく、電子輸送層7又は発光層5へ注入する役割を果たす。
【0369】
電子注入を効率よく行うには、電子注入層8を形成する材料は、仕事関数の低い金属が好ましい。例としては、ナトリウムやセシウム等のアルカリ金属、バリウムやカルシウム等のアルカリ土類金属等が用いられる。この場合、電子注入層8の膜厚は通常0.1nm以上、5nm以下が好ましい。
【0370】
電子注入層8を形成する材料としては、更に、バソフェナントロリン等の含窒素複素環化合物や8-ヒドロキシキノリンのアルミニウム錯体等の金属錯体に代表される有機電子輸送材料に、ナトリウム、カリウム、セシウム、リチウム、ルビジウム等のアルカリ金属をドープする(特開平10-270171号公報、特開2002-100478号公報、特開2002-100482号公報等に記載)ことも、電子注入・輸送性が向上し優れた膜質を両立させることが可能となるため好ましい。
この場合、電子注入層8の膜厚は、通常5nm以上、好ましくは10nm以上であり、また通常200nm以下、好ましくは100nm以下である。
【0371】
電子注入層8は、湿式成膜法或いは真空蒸着法により、発光層5又はその上の正孔阻止層6や電子輸送層7上に積層することにより形成される。
湿式成膜法の場合の詳細は、前述の発光層の場合と同様である。
【0372】
[陰極]
陰極9は、発光層5側の層(電子注入層8又は発光層5など)に電子を注入する役割を果たす。
【0373】
陰極9の材料としては、前記の陽極2に使用される材料を用いることが可能であるが、効率良く電子注入を行なう上では、仕事関数の低い金属を用いることが好ましい。陰極9の材料としては、例えば、スズ、マグネシウム、インジウム、カルシウム、アルミニウム、銀等の金属又はそれらの合金等が用いられる。具体例としては、マグネシウム-銀合金、マグネシウム-インジウム合金、アルミニウム-リチウム合金等の低仕事関数の合金電極等が挙げられる。
【0374】
素子の安定性の点では、陰極9の上に、仕事関数が高く、大気に対して安定な金属層を積層して、低仕事関数の金属からなる陰極を保護することが好ましい。積層する金属としては、例えば、アルミニウム、銀、銅、ニッケル、クロム、金、白金等の金属が挙げられる。
【0375】
陰極9の膜厚は通常、陽極2と同様である。
【0376】
[その他の層]
本実施形態の有機電界発光素子は、本発明の効果を著しく損なわなければ、更に他の層を有していてもよい。すなわち、陽極2と陰極9との間に、上述の層以外の任意の層を有していてもよい。
【0377】
[その他の素子構成]
本実施形態の有機電界発光素子は、上述の説明とは逆の構造、即ち、基板1上に陰極9、電子注入層8、電子輸送層7、正孔阻止層6、発光層5、正孔輸送層4、正孔注入層3、陽極2の順に積層することも可能である。少なくとも一方が透明性の高い2枚の基板の間に本発明の有機電界発光素子を設けることも可能である。
【0378】
本実施形態の有機電界発光素子を有機電界発光装置に適用する場合は、単一の有機電界発光素子として用いても、複数の有機電界発光素子がアレイ状に配置された構成にして用いても、陽極と陰極がX-Yマトリックス状に配置された構成にして用いてもよい。
【0379】
〔有機EL表示装置〕
本実施形態の有機EL表示装置(有機電界発光素子表示装置)は、上述の有機電界発光素子を用いたものである。本実施形態の有機EL表示装置の型式や構造については特に制限はなく、上述の有機電界発光素子を用いて常法に従って組み立てることができる。
例えば、「有機ELディスプレイ」(オーム社、平成16年8月20日発行、時任静士、安達千波矢、村田英幸著)に記載されているような方法で、本発明の有機EL表示装置を形成することができる。
【0380】
〔有機EL照明〕
本実施形態の有機EL照明(有機電界発光素子照明)は、上述の有機電界発光素子を用いたものである。本実施形態の有機EL照明の型式や構造については特に制限はなく、上述の有機電界発光素子を用いて常法に従って組み立てることができる。
【実施例】
【0381】
以下、実施例を示して本発明について更に具体的に説明する。本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、本発明はその要旨を逸脱しない限り任意に変更して実施できる。
【0382】
〔重合体製造の実施例〕
[モノマーの合成]
【0383】
【0384】
窒素気流下、1000mlのフラスコに3-ブロモ-3′-ニトロ-ビフェニル(14.1g、50.5mmol)、ビス(ピナコラト)ジボロン(17.1g、60.6mmol)、酢酸カリウム(24.8g、253.0mmol)を入れ、室温で窒素置換した。その後、200mlの1,4-ジオキサンを入れ、1,1’-ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン-パラジウム(II)ジクロリド-ジクロロメタン〔PdCl2(dppf)CH2Cl2〕(1.24g、1.52mmol)を加え、100℃で8.5時間反応した。
反応液を減圧濾過し、トルエンで希釈して活性白土により粗精製した。粗精製品をカラムクロマトグラフィー(展開液:ヘキサン/酢酸エチル=80/20)により精製し、化合物1(16.3g、収率99.5%)を得た。
【0385】
【0386】
化合物1(8.7g、26.76mmol)、1-ブロモ-3-ヨードベンゼン(7.95g、28.1mmol)、リン酸カリウム水溶液(2M、40.1ml)、トルエン(80ml)、エタノール(40ml)をフラスコに仕込み、系内を十分に窒素置換して65℃まで加温した。
ここへビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(II)ジクロリド(0.094g、0.134mmol)を加え、65℃で3時間攪拌した。反応液に水を加え、トルエンで抽出を行った。有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥して活性白土より粗精製した。粗精製品をカラムクロマトグラフィー(展開液:ヘキサン/塩化メチレン=80/20)により精製し、化合物2(8.6g、収率90.5%)を得た。
【0387】
【0388】
窒素気流下、300mlのフラスコに100mlのジメチルスルホンキシド、化合物2(8.55g、24.14mmol)、ビス(ピナコラト)ジボロン(7.36g、28.97mmol)、酢酸カリウム(7.1g、72.42mmol)を入れ、60℃で30分間攪拌した。その後、1,1’-ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン-パラジウム(II)ジクロリド-ジクロロメタン〔PdCl2(dppf)CH2Cl2〕(0.99g、1.21mmol)を加え、85℃で4.0時間反応した。
反応液を減圧濾過し、濾液をトルエンで抽出した。有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥して活性白土により粗精製した。粗精製品をカラムクロマトグラフィー(展開液:ヘキサン/酢酸エチル=90/10)により精製し、化合物3(9.3g、収率96.0%)を得た。
【0389】
【0390】
化合物3(9.3g、23.18mmol)、1-ブロモ-4-ヨードベンゼン(6.88g、24.33mmol)、リン酸カリウム水溶液(2M、34.8ml)、トルエン(80ml)、エタノール(40ml)をフラスコに仕込み、系内を十分に窒素置換して65℃まで加温した。
ここへビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(II)ジクロリド(0.081g、0.116mmol)を加え、65℃で3.5時間攪拌した。反応液に水を加え、トルエンで抽出を行った。有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥して活性白土より粗精製した。粗精製品をカラムクロマトグラフィー(展開液:ヘキサン/塩化メチレン=75/25)により精製し、化合物4(8.7g、収率87.2%)を得た。
【0391】
【0392】
窒素気流下、300mlのフラスコに100mlのジメチルスルホンキシド、化合物4(8.7g、20.22mmol)、ビス(ピナコラト)ジボロン(6.2g、24.26mmol)、酢酸カリウム(5.95g、60.66mmol)を入れ、60℃で30分間攪拌した。その後、1,1’-ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン-パラジウム(II)ジクロリド-ジクロロメタン〔PdCl2(dppf)CH2Cl2〕(0.83g、1.01mmol)を加え、85℃で3.0時間反応した。
反応液を減圧濾過し、濾液をトルエンで抽出した。有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥して活性白土により粗精製した。粗精製品をカラムクロマトグラフィー(展開液:ヘキサン/塩化メチレン=50/50)により精製し、化合物5(7.2g、収率75.0%)を得た。
【0393】
【0394】
化合物5(7.1g、14.87mmol)、市販の2-クロロ-4,6-ジフェニル-1,3,5-トリアジン(3.98g、14.87mmol)、リン酸カリウム水溶液(2M、23.0ml)、トルエン(50ml)、エタノール(25ml)をフラスコに仕込み、系内を十分に窒素置換して65℃まで加温した。
ここへテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)(0.52g、0.45mmol)を加え、85℃で4.0時間攪拌した。析出した不溶物を減圧濾過し、濾取物を50mlの塩化メチレンで懸洗して200mlのエタノールに滴下した。析出物を減圧濾過して乾燥し、化合物6(5.3g、収率61.2%)を得た。
【0395】
【0396】
窒素気流下、1000mlのフラスコに500mlのテトラヒドロフラン、50mlのエタノール、化合物6(5.3g、9.10mmol)、パラジウム/炭素(10%、約55%水湿品、0.72g)を入れ、50℃で15分間攪拌した。その後、ヒトラジン一水和物(3.1g)を滴下し、この温度で3時間反応した。
反応液を水湿のセライトで減圧濾過し、濾液を濃縮し、化合物7(4.8g、収率95.1%)を得た。
【0397】
【0398】
500mlフラスコに、化合物8(8.0g、49mmol)、1-ブロモ-1’-ヨード-3,3’-ビフェニル(17.7g、49mmol)、トルエン120ml、エタノール60ml、2Mのリン酸カリウム水溶液(62ml)を入れ、30分間窒素バブリングを行った。
ここへテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)(1.43g、1.24mmol)を加えた後、90℃で3時間加熱撹拌した。その後室温まで冷却し、水とトルエンを加え分液洗浄後、有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥した。その後溶媒を減圧下除去した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ジクロロメタン/へキサン=1/9)にて精製することにより、化合物9の15.5gを無色オイルとして得た。
【0399】
【0400】
500mlフラスコに、化合物9(15.5g、44mmol)、3-アミノフェニルボロン酸一水和物(6.4g、41mmol)、トルエン100ml、エタノール50ml、2Mのリン酸カリウム水溶液(55ml)を入れ、30分間窒素バブリングを行った。
ここへテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)(1.3g、1.15mmol)を加えた後、90℃で3.5時間加熱撹拌した。その後室温まで冷却し、水とトルエンを加え分液洗浄後、有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥した。その後溶媒を減圧下除去した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル/へキサン=2/8)にて精製することにより、化合物10の7.8gを淡黄色水あめ状として得た。
【0401】
【0402】
1Lフラスコにトルエンを270ml、エタノールを135ml、化合物11を20.0g(44.8mmol)、1-ブロモ-4-ヨードトルエンを50.72g(179.3mmol)、2Mのリン酸カリウム水溶液(191ml)を入れた溶液を真空脱気後に窒素置換した。窒素気流下に加熱し、30分間攪拌した。
その後ビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(II)ジクロリド0.63g(0.90mmol)を加え、6時間還流した。反応液に水を入れ、トルエンで抽出し、有機層を無水硫酸マグネシウム及び活性白土で処理した。トルエン溶液を加熱還流したのち不溶物を濾過し、再結晶して無色固体の化合物12を得た(収量14.2g、収率60.2%)。
【0403】
【0404】
5-ブロモ-2-ヨードトルエンに代えて1-ブロモ-4-ヨードベンゼンを用いた以外は化合物12の合成と同様の方法で、化合物14を合成した。
【0405】
[実施例I-1:重合体1の合成]
【0406】
【0407】
化合物12(2.5g、4.7mmol)、化合物13(2.134g、6.1mmol)、化合物10(0.51g、1.4mmol)、化合物7(1.04g、1.9mmol)、tert-ブトキシナトリウム(3.48g、36.2mmol)及びトルエン(71ml)を仕込み、系内を十分に窒素置換して、60℃まで加温した(溶液A1)。
別に、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム錯体(86.0mg、0.09mmol)のトルエン14ml溶液に、[4-(N,N-ジメチルアミノ)フェニル]ジ-tert-ブチルホスフィン(Amphos)(199.4mg、0.8mmol)を加え、60℃まで加温した(溶液B1)。
【0408】
窒素気流中、溶液A1に溶液B1を添加し、1.0時間、加熱還流反応した。化合物7、10及び13が消失したことを確認し、化合物14(1.78g、3.5mmol)を添加した。2時間加熱還流後、ブロモベンゼン(1.84g、11.7mmol)を添加し、1時間加熱還流反応した。反応液を放冷し、エタノール/水(370ml/70ml)溶液に滴下し、エンドキャップした粗ポリマーを得た。
このエンドキャップした粗ポリマーをトルエンに溶解し、アセトンに再沈殿し、析出したポリマーを濾別した。得られたポリマーをトルエンに溶解させ、希塩酸にて洗浄し、アンモニア含有エタノールにて再沈殿した。濾取したポリマーをカラムクロマトグラフィーにより精製し、目的物である重合体1を得た(2.5g)。得られた重合体1の分子量等は以下の通りであった。
【0409】
重量平均分子量(Mw)=20,600
数平均分子量(Mn)=15,260
分散度(Mw/Mn)=1.35
【0410】
[実施例I-2:重合体2の合成]
【0411】
【0412】
化合物12(2.5g、4.7mmol)、化合物13(1.641g、4.70mmol)、2-アミノ-9,9’-ジメチルフルオレン(0.59g、2.82mmol)、化合物7(1.04g、1.9mmol)、tert-ブトキシナトリウム(3.48g、36.2mmol)及びトルエン(71ml)を仕込み、系内を十分に窒素置換して、60℃まで加温した(溶液A2)。
トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム錯体(86.0mg、0.09mmol)のトルエン14ml溶液に、[4-(N,N-ジメチルアミノ)フェニル]ジ-tert-ブチルホスフィン(Amphos)(199.4mg、0.8mmol)を加え、60℃まで加温した(溶液B2)。
【0413】
窒素気流中、溶液A2に溶液B2を添加し、1.0時間、加熱還流反応した。市販品の2-アミノ-9,9’-ジメチルフルオレン、化合物7および化合物13が消失したことを確認し、化合物14(2.08g、4.13mmol)を添加した。2時間加熱還流後、ブロモベンゼン(0.89g、5.67mmol)を添加し、1時間加熱還流反応した。反応液を放冷し、エタノール/水(370ml/70ml)溶液に滴下し、エンドキャップした粗ポリマーを得た。
このエンドキャップした粗ポリマーをトルエンに溶解し、アセトンに再沈殿し、析出したポリマーを濾別した。得られたポリマーをトルエンに溶解させ、希塩酸にて洗浄し、アンモニア含有エタノールにて再沈殿した。濾取したポリマーをカラムクロマトグラフィーにより精製し、目的物である重合体2を得た(2.8g)。得られた重合体2の分子量等は以下の通りであった。
【0414】
重量平均分子量(Mw)=47,380
数平均分子量(Mn)=37,904
分散度(Mw/Mn)=1.25
【0415】
〔素子の実施例と比較例〕
[実施例II-1]
有機電界発光素子を以下の方法で作製した。
ガラス基板上にインジウム・スズ酸化物(ITO)透明導電膜を50nmの厚さに堆積したもの(ジオマテック社製、スパッタ成膜品)を通常のフォトリソグラフィー技術と塩酸エッチングを用いて2mm幅のストライプにパターニングして陽極を形成した。このようにITOをパターン形成した基板を、界面活性剤水溶液による超音波洗浄、超純水による水洗、超純水による超音波洗浄、超純水による水洗の順で洗浄後、圧縮空気で乾燥させ、最後に紫外線オゾン洗浄を行った。
【0416】
下記式(P-1)で表される本発明の重合体(実施例I-2で合成した重合体2)である正孔輸送性高分子化合物3.0重量%と、以下に構造を示す酸化剤(PD-1)0.6重量%とを、安息香酸エチルに溶解させて正孔注入層形成用組成物を調製した。
【0417】
【0418】
この正孔注入層形成用組成物を、大気中で上記基板上にスピンコートし、大気中ホットプレートで240℃にて30分間乾燥させ、膜厚60nmの均一な薄膜を形成し、正孔注入層とした。
【0419】
次に、下記の式(HT-1)で表される電荷輸送性高分子化合物2.0重量%を、シクロヘキシルベンゼンに溶解させた正孔輸送層形成用組成物を調製した。
この正孔輸送層形成用組成物を、上記正孔注入層を塗布成膜した基板上に窒素グローブボックス中でスピンコートし、窒素グローブボックス中のホットプレートで230℃にて30分間乾燥させ、膜厚25nmの均一な薄膜を形成し、正孔輸送層とした。
【0420】
【0421】
引続き、以下に示す発光層材料(H-1)3.0重量%と、発光層材料(H-2)3.0重量%と、発光層材料(D-1)0.9重量%とをシクロヘキシルベンゼンに溶解させ、発光層形成用組成物を調製した。
【0422】
【0423】
この発光層形成用組成物を、上記正孔輸送層を塗布成膜した基板上に窒素グローブボックス中でスピンコートし、窒素グローブボックス中のホットプレートで120℃にて20分間乾燥させ、膜厚80nmの均一な薄膜を形成し、発光層とした。
【0424】
発光層までを成膜した基板を真空蒸着装置に設置し、装置内を2×10-4Pa以下になるまで排気した。
【0425】
次に、下記の構造式(HB-1)で表される化合物と8-ヒドロキシキノリノラトリチウムを2:3の重量比で、発光層上に真空蒸着法にて共蒸着し、膜厚30nmの正孔阻止層を形成した。
【0426】
【0427】
続いて、陰極蒸着用のマスクとして2mm幅のストライプ状シャドーマスクを、陽極のITOストライプとは直交するように基板に密着させて、アルミニウムをモリブデンボートにより加熱して、膜厚80nmのアルミニウム層を真空蒸着して陰極を形成した。
【0428】
以上の様にして、2mm×2mmのサイズの発光面積部分を有する有機電界発光素子が得られた。
【0429】
[比較例II-1]
正孔注入層に用いる高分子化合物として、式(P-1)で表される重合体の代わりに下記式(P-2)で表される重合体を用いたこと以外は、実施例II-1と同様にして素子を作製した。
【0430】
【0431】
[素子の評価]
実施例II-1及び比較例II-1の有機電界発光素子にそれぞれ通電し、輝度1000cd/m2で発光させたときの電圧(V)、電流効率(cd/A)を測定した。また、素子に40mA/cm2の電流密度で通電し続けた際に、素子の輝度が初期輝度の90%まで低下する時間LT90(hr)を測定した。
【0432】
表2に、電圧差として、実施例II-1と比較例II-1の電圧差(実施例II-1の電圧-比較例II-1の電圧)を、相対電流効率として比較例II-1の電流効率を1としたときの実施例II-1の電流効率の相対値を、相対寿命として比較例II-1のLT90を1としたときの実施例II-1のLT90の相対値を記した。
【0433】
表2の結果から、本発明の有機電界発光素子では、性能が向上することが判った。
【0434】
【0435】
[実施例II-2]
下記式(P-3)で表される本発明の重合体(実施例I―1で合成した重合体1)である正孔輸送性高分子化合物3.0重量%と、酸化剤(PD-1)0.6重量%とを、安息香酸エチルに溶解させて正孔注入層形成用組成物を調製した。
【0436】
【0437】
この正孔注入層形成用組成物を、大気中で上記基板上にスピンコートし、大気中ホットプレートで240℃にて30分間乾燥させ、膜厚60nmの均一な薄膜を形成し、正孔注入層とした。
【0438】
次いで、実施例1と同様にして正孔輸送層を形成した後、発光層の材料として、(H-1)3.6重量%と、(H-2)2.4重量%と、(D-1)0.9重量%とをシクロヘキシルベンゼンに溶解させ、発光層形成用組成物を調製した。
この発光層形成用組成物を、上記正孔輸送層を塗布成膜した基板上に窒素グローブボックス中でスピンコートし、窒素グローブボックス中のホットプレートで120℃にて20分間乾燥させ、膜厚80nmの均一な薄膜を形成し、発光層とした。
【0439】
発光層を形成した後は、実施例II-1と同様にして素子を作製した。
【0440】
[比較例II-2]
正孔注入層に用いる高分子化合物として、式(P-3)で表される重合体の代わりに前記式(P-2)で表される重合体を用いたこと以外は、実施例II-2と同様にして素子を作製した。
【0441】
[素子の評価]
実施例II-2及び比較例II-2の有機電界発光素子にそれぞれ通電し、輝度1000cd/m2で発光させたときの電圧(V)、電流効率(cd/A)を測定した。また、素子に40mA/cm2の電流密度で通電し続けた際に、素子の輝度が初期輝度の90%まで低下する時間(LT90)を測定した。表3に、実施例II-1、比較例II-1と同様にして求めた、電圧差、相対電流効率、相対寿命を記した。
【0442】
表3の結果から、本発明の有機電界発光素子では、性能が向上することが判った。
【0443】
【0444】
[実施例II-3]
正孔注入層及び正孔輸送層を実施例II-2と同様にして形成した後、発光層の材料として、以下に示す発光層材料(H-3)4.0重量%と、(D-2)0.2重量%とをシクロヘキシルベンゼンに溶解させて発光層形成用組成物を調製した。
【0445】
【0446】
この発光層形成用組成物を、上記正孔輸送層を塗布成膜した基板上に窒素グローブボックス中でスピンコートし、窒素グローブボックス中のホットプレートで120℃にて20分間乾燥させ、膜厚40nmの均一な薄膜を形成し、発光層とした。
【0447】
発光層を形成した後は、実施例II-1と同様にして素子を作製した。
【0448】
[比較例II-3]
正孔注入層に用いる高分子化合物として、式(P-3)で表される重合体の代わりに前記式(P-2)で表される重合体を用いたこと以外は、実施例II-3と同様にして素子を作製した。
【0449】
[素子の評価]
実施例II-3及び比較例II-3の有機電界発光素子にそれぞれ通電し、素子に20mA/cm2の電流密度で通電し続けた際に、素子の輝度が初期輝度の90%まで低下する時間LT90(hr)を測定した。
表4に、相対寿命として比較例II-3のLT90を1としたときの実施例II-3のLT90の相対値を記した。
【0450】
表4の結果から、本発明の有機電界発光素子では、性能が向上することが判った。
【0451】
【0452】
[実施例II-4]
実施例II-1と同様にして基板を洗浄した後、正孔注入層形成用組成物として、下記式(P-4)で表される正孔輸送性高分子化合物3.0重量%と、酸化剤(PD-1)0.6重量%とを、安息香酸エチルに溶解させて正孔注入層形成用組成物を調製した。
【0453】
【0454】
この正孔注入層形成用組成物を、大気中で上記基板上にスピンコートし、大気中ホットプレートで240℃にて30分間乾燥させ、膜厚40nmの均一な薄膜を形成し、正孔注入層とした。
【0455】
次に、本発明の重合体である前記式(P-1)で表される重合体3.0重量%を、シクロヘキシルベンゼンに溶解させて正孔輸送層形成用組成物を調製した。
この正孔輸送層形成用組成物を、上記正孔注入層を塗布成膜した基板上に窒素グローブボックス中でスピンコートし、窒素グローブボックス中のホットプレートで230℃にて30分間乾燥させ、膜厚40nmの均一な薄膜を形成し、正孔輸送層とした。
【0456】
引続き、発光層の材料として、以下に示す発光層材料(H-4)5.0重量%と、前記(D-1)0.75重量%とをシクロヘキシルベンゼンに溶解させて発光層形成用組成物を調製した。
【0457】
【0458】
この発光層形成用組成物を、上記正孔輸送層を塗布成膜した基板上に窒素グローブボックス中でスピンコートし、窒素グローブボックス中のホットプレートで120℃にて20分間乾燥させ、膜厚60nmの均一な薄膜を形成し、発光層とした。
【0459】
発光層を形成した後は、実施例II-1と同様にして素子を作製した。
【0460】
[比較例II-4]
正孔輸送層に用いる高分子化合物とし、式(P-1)で表される重合体の代わりに前記式(P-2)で表される重合体を用いた以外は、実施例3と同様にして素子を作製した。
【0461】
[素子の評価]
実施例II-4及び比較例II-4の有機電界発光素子にそれぞれ通電し、素子に60mA/cm2の電流密度で通電し続けた際に、素子の輝度が初期輝度の80%まで低下する時間LT80(hr)を測定した。表5に、相対寿命として比較例II-4のLT80を1としたときの実施例II-4のLT80の相対値を記した。
【0462】
表5の結果から、本発明の有機電界発光素子では、性能が向上することが判った。
【0463】
【0464】
本発明を特定の態様を用いて詳細に説明したが、本発明の意図と範囲を離れることなく様々な変更が可能であることは当業者に明らかである。
本出願は、2019年12月16日付で出願された日本特許出願2019-226582、及び2020年2月4日付で出願された日本特許出願2020-017140に基づいており、その全体が引用により援用される。
【符号の説明】
【0465】
1 基板
2 陽極
3 正孔注入層
4 正孔輸送層
5 発光層
6 正孔阻止層
7 電子輸送層
8 電子注入層
9 陰極
10 有機電界発光素子