(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-21
(45)【発行日】2024-10-29
(54)【発明の名称】光学フィルタ
(51)【国際特許分類】
G02B 5/22 20060101AFI20241022BHJP
G02B 5/28 20060101ALI20241022BHJP
G02B 5/26 20060101ALI20241022BHJP
G02B 1/115 20150101ALI20241022BHJP
C09B 23/10 20060101ALN20241022BHJP
C09B 57/00 20060101ALN20241022BHJP
【FI】
G02B5/22
G02B5/28
G02B5/26
G02B1/115
C09B23/10
C09B57/00 F
C09B57/00 X
(21)【出願番号】P 2022540194
(86)(22)【出願日】2021-07-16
(86)【国際出願番号】 JP2021026882
(87)【国際公開番号】W WO2022024826
(87)【国際公開日】2022-02-03
【審査請求日】2024-02-09
(31)【優先権主張番号】P 2020126700
(32)【優先日】2020-07-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】塩野 和彦
(72)【発明者】
【氏名】島田 拓郎
(72)【発明者】
【氏名】折田 雄一朗
【審査官】酒井 康博
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-164349(JP,A)
【文献】国際公開第2015/099060(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/022069(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/021496(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2016/0139308(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/22
G02B 5/28
G02B 5/26
G02B 1/115
C09B 23/10
C09B 57/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、前記基材の少なくとも一方の主面側に最外層として積層された誘電体多層膜とを備える光学フィルタであって、
前記基材は、ジクロロメタン中で360~395nmに最大吸収波長を有する色素(U)と、ジクロロメタン中で600~800nmに最大吸収波長を有する色素(A)と、樹脂とを含む樹脂膜を有し、
前記光学フィルタが下記分光特性(i-1)~(i-5)を全て満たす光学フィルタ。
(i-1)波長440~480nmの分光透過率曲線における平均透過率T
440-480が86%以上
(i-2)波長350~450nmおよび入射角0度において、透過率が10%のときの波長をUV10
(0deg)、透過率が20%のときの波長をUV20
(0deg)、透過率が50%のときの波長をUV50
(0deg)とし、
波長350~450nmおよび入射角50度において、透過率が10%のときの波長をUV10
(50deg)、透過率が20%のときの波長をUV20
(50deg)、透過率が50%のときの波長をUV50
(50deg)としたとき、
UV10
(0deg)とUV10
(50deg)との差の絶対値が3nm以下、
UV20
(0deg)とUV20
(50deg)との差の絶対値が4nm以下、
UV50
(0deg)とUV50
(50deg)との差の絶対値が
3nm以下
(i-3)波長400~440nmの分光透過率曲線における平均透過率T
400-440が40%以上
(i-4)波長370~400nmおよび入射角0度での分光透過率曲線における平均透過率T
370-400(0deg)が1%以下
(i-5)波長370~400nmおよび入射角50度での分光透過率曲線における平均透過率T
370-400(50deg)が0.5%以下
【請求項2】
前記光学フィルタが下記分光特性(i-6)をさらに満たす、請求項1に記載の光学フィルタ。
(i-6)波長350~450nmおよび入射角0度において、透過率が10%のときの波長をUV10
(0deg)、透過率が70%のときの波長をUV70
(0deg)としたとき、
UV10
(0deg)とUV70
(0deg)との差の絶対値が16nm以下
【請求項3】
前記色素(U)は、アルカリガラス板上に前記色素(U)を前記樹脂に溶解して塗工した塗工膜の分光透過率曲線において、下記分光特性(ii-1)~(ii-6)を全て満たす、請求項1または2に記載の光学フィルタ。
(ii-1)波長400~440nmにおける平均透過率T
400-440が40%以上
(ii-2)波長370~400nmにおける平均透過率T
370-400が5%以下
(ii-3)波長400nmにおける透過率T
400が7%以下
(ii-4)波長390nmにおける透過率T
390が5%以下
(ii-5)波長380nmにおける透過率T
380が5%以下
(ii-6)波長370nmにおける透過率T
370が5%以下
【請求項4】
前記色素(U)は、下記分光特性(iii-1)を満たす、請求項1~3のいずれか1項に記載の光学フィル
タ。
(iii-1)最大吸収波長における透過率が10%となるように前記色素(U)をジクロロメタンに溶解して測定される分光透過率曲線において、波長350~450nmにおける透過率が10%のときの波長をUV10、透過率が70%のときの波長をUV70としたとき、
UV10とUV70との差の絶対値が25nm以下
【請求項5】
前記樹脂膜の厚さが10μm以下であり、前記樹脂膜における前記色素(U)および前記色素(A)の合計含有量と前記樹脂膜の厚さの積が100(質量%・μm)以下である、請求項1~4のいずれか1項に記載の光学フィル
タ。
【請求項6】
前記色素(U)が、ジクロロメタン中で370~385nmに最大吸収波長を有する色素(U1)であり、
前記樹脂膜が、ジクロロメタン中で385~405nmに最大吸収波長を有する色素(U2)をさらに含有し、
前記色素(U1)と前記色素(U2)の、前記樹脂中における最大吸収波長の差の絶対値が10nm以上15nm以下である、請求項1~5のいずれか1項に記載の光学フィル
タ。
【請求項7】
前記光学フィルタがさらに下記分光特
性(i-4-1)~(i-6-1)を全て満たす、請求項1~6のいずれか1項に記載の光学フィルタ。
(i-4-1)前記平均透過率T
370-400(0deg)が0.5%以下
(i-5-1)前記平均透過率T
370-400(50deg)が0.1%以下
(i-6-1)波長350~450nmおよび入射角0度において、透過率が10%のときの波長をUV10
(0deg)、透過率が70%のときの波長をUV70
(0deg)としたとき、
UV10
(0deg)とUV70
(0deg)との差の絶対値が14nm以下
【請求項8】
前記色素(U)はメロシアニン色素を含む、請求項1~7のいずれか1項に記載の光学フィル
タ。
【請求項9】
前記メロシアニン色素は、下記式(M)に示す化合物である、請求項8に記載の光学フィル
タ。
【化1】
式(M)における記号は以下のとおり。
R
1は、置換基を有してもよい炭素数1~12の1価の炭化水素基を表す。
R
2~R
5は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1~10のアルキル基、または炭素数1~10のアルコキシ基を表す。
Yは、R
6およびR
7で置換されたメチレン基または酸素原子を表す。
R
6およびR
7は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1~10のアルキル基、または炭素数1~10のアルコキシ基を表す。
Xは、下記式(X1)~(X5)で表される2価基のいずれかを表す(ただし、R
8およびR
9は、それぞれ独立に、置換基を有してもよい炭素数1~12の1価の炭化水素基を表し、R
10~R
19は、それぞれ独立に、水素原子、または、置換基を有してもよい炭素数1~12の1価の炭化水素基を表す。)。
【化2】
【請求項10】
前記色素(A)は、スクアリリウム色素、フタロシアニン色素、およびシアニン色素から選ばれる少なくとも1つの色素を含む、請求項1~9のいずれか1項に記載の光学フィル
タ。
【請求項11】
前記色素(A)は、下記式(I)に示す化合物からなるスクアリリウム色素を含む、請求項1~10のいずれか1項に記載の光学フィル
タ。
【化3】
ただし、式(I)中の記号は以下のとおりである。
R
24およびR
26は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、水酸基、炭素数1~6のアルキル基
、炭素数1~6のアルコキシ基、炭素数1~10のアシルオキシ基、-NR
27R
28(R
27およびR
28は、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1~20のアルキル基、-C(=O)-R
29(R
29は、水素原子、置換基を有してもよい炭素数1~20のアルキル基
、置換基を有してもよい炭素数6~11のアリール基または、置換基を有していてもよく、炭素原子間に酸素原子を有してもよい炭素数7~18のアルアリール基)、-NHR
30、または、-SO
2-R
30(R
30は、それぞれ1つ以上の水素原子がハロゲン原子、水酸基、カルボキシ基、スルホ基、またはシアノ基で置換されていてもよく、炭素原子間に不飽和結合、酸素原子、飽和もしくは不飽和の環構造を含んでよい炭素数1~25の炭化水素
基を示す。)、または、下記式(S)で示される基(R
41、R
42は、独立して、水素原子、ハロゲン原子、または炭素数1~10のアルキル基もしくは
炭素数1~10のアルコキシ基を示す。kは2または3である。)を示す。
【化4】
R
21とR
22、R
22とR
25、およびR
21とR
23は、互いに連結して窒素原子と共に員数が5または6のそれぞれ複素環A、複素環B、および複素環Cを形成してもよい。
複素環Aが形成される場合のR
21とR
22は、これらが結合した2価の基-Q-として、水素原子が炭素数1~6のアルキル基、炭素数6~10のアリール基または置換基を有していてもよい炭素数1~10のアシルオキシ基で置換されてもよいアルキレン基、またはアルキレンオキシ基を示す。
複素環Bが形成される場合のR
22とR
25、および複素環Cが形成される場合のR
21とR
23は、これらが結合したそれぞれ2価の基-X
1-Y
1-および-X
2-Y
2-(窒素に結合する側がX
1およびX
2)として、X
1およびX
2がそれぞれ下記式(1x)または(2x)で示される基であり、Y
1およびY
2がそれぞれ下記式(1y)~(5y)から選ばれるいずれかで示される基である。X
1およびX
2が、それぞれ下記式(2x)で示される基の場合、Y
1およびY
2はそれぞれ単結合であってもよく、その場合、炭素原子間に酸素原子を有してもよい。
【化5】
式(1x)中、4個のZは、それぞれ独立して水素原子、水酸基、炭素数1~6のアルキル基
、炭素数1~6のアルコキシ基、または-NR
38R
39(R
38およびR
39は、それぞれ独立して、水素原子または炭素数1~20のアルキル基を示す)を示す。R
31~R
36はそれぞれ独立して水素原子、炭素数1~6のアルキル基または炭素数6~10のアリール基を、R
37は炭素数1~6のアルキル基または炭素数6~10のアリール基を示す。
R
27、R
28、R
29、R
31~R
37、複素環を形成していない場合のR
21~R
23、およびR
25は、これらのうちの他のいずれかと互いに結合して5員環または6員環を形成してもよい。R
31とR
36、R
31とR
37は直接結合してもよい。
複素環を形成していない場合の、R
21およびR
22は、それぞれ独立して、水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1~6のアルキル基
、置換基を有していてもよいアリル基
、置換基を有していてもよい炭素数6~11のアリール基
、または置換基を有していてもよい炭素数6~11のアルアリール基を示す。複素環を形成していない場合の、R
23およびR
25は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子
、炭素数1~6のアルキル基もしくは
炭素数1~6のアルコキシ基を示す。
【請求項12】
前記樹脂は透明樹脂である、請求項1~11のいずれか1項に記載の光学フィル
タ。
【請求項13】
前記透明樹脂としてポリイミド樹脂を含む、請求項12に記載の光学フィル
タ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可視波長領域の光を透過し、紫外波長領域と近赤外波長領域の光を遮断する光学フィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
固体撮像素子を用いた撮像装置には、色調を良好に再現し鮮明な画像を得るため、可視域の光(以下「可視光」ともいう)を透過し、紫外波長領域の光(以下「紫外光」または「UV」ともいう)や近赤外波長領域の光(以下「近赤外光」または「NIR」ともいう)を遮断する光学フィルタが用いられる。
【0003】
このような光学フィルタは、例えば、透明基板の片面または両面に、屈折率が異なる誘電体薄膜を交互に積層(誘電体多層膜)し、光の干渉を利用して遮蔽したい光を反射する反射型のフィルタ等、様々な方式が挙げられる。ここで誘電体多層膜を有する光学フィルタは、光の入射角により誘電体多層膜の光学膜厚が変化するために、入射角による分光透過率曲線の変化や、高入射角において高反射率を得るべき紫外光が高透過率化する光抜け、誘電体多層膜が反射した紫外光によるノイズが発生することが問題である。このようなフィルタを使用すると、固体撮像素子の分光感度が入射角の影響を受けるおそれがある。したがって、可視光の透過率に略影響を及ぼすことなく、入射角依存性なく紫外光を遮断する光学フィルタが求められていた。
【0004】
これに対し、特許文献1~4には、波長370~425nmの光の入射角依存性が小さい光学フィルタとして、透明樹脂中にUV吸収色素およびNIR吸収色素を含有する吸収層と誘電体多層膜とを組み合わせた、UVカット能とNIRカット能を併せ持つ光学フィルタが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】日本国特開2019-16649号公報
【文献】日本国特許第6504176号公報
【文献】日本国特許第6020740号公報
【文献】日本国特許第6256335号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1~4に記載の光学フィルタは可視光、特に青色光の透過性と、高入射角時の紫外光の遮蔽性の点で改善の余地があった。
よって本発明は、可視光の高い透過性、近赤外光および紫外光の高い遮蔽性を有し、特に、青色光の透過性が高く、かつ高入射角における紫外光の遮蔽性の低下が抑制された光学フィルタの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下の構成を有する光学フィルタを提供する。
〔1〕基材と、前記基材の少なくとも一方の主面側に最外層として積層された誘電体多層膜とを備える光学フィルタであって、
前記基材は、ジクロロメタン中で360~395nmに最大吸収波長を有する色素(U)と、ジクロロメタン中で600~800nmに最大吸収波長を有する色素(A)と、樹脂とを含む樹脂膜を有し、
前記光学フィルタが下記分光特性(i-1)~(i-5)を全て満たす光学フィルタ。
(i-1)波長440~480nmの分光透過率曲線における平均透過率T440-480が86%以上
(i-2)波長350~450nmおよび入射角0度において、透過率が10%のときの波長をUV10(0deg)、透過率が20%のときの波長をUV20(0deg)、透過率が50%のときの波長をUV50(0deg)とし、
波長350~450nmおよび入射角50度において、透過率が10%のときの波長をUV10(50deg)、透過率が20%のときの波長をUV20(50deg)、透過率が50%のときの波長をUV50(50deg)としたとき、
UV10(0deg)とUV10(50deg)との差の絶対値が3nm以下、
UV20(0deg)とUV20(50deg)との差の絶対値が4nm以下、
UV50(0deg)とUV50(50deg)との差の絶対値が4nm以下
(i-3)波長400~440nmの分光透過率曲線における平均透過率T400-440が40%以上
(i-4)波長370~400nmおよび入射角0度での分光透過率曲線における平均透過率T370-400(0deg)が1%以下
(i-5)波長370~400nmおよび入射角50度での分光透過率曲線における平均透過率T370-400(50deg)が0.5%以下
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、可視光の高い透過性、近赤外光および紫外光の高い遮蔽性を有し、特に、青色光の透過性が高く、かつ高入射角における紫外光の遮蔽性の低下が抑制された光学フィルタが提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は一実施形態の光学フィルタの一例を概略的に示す断面図である。
【
図2】
図2は一実施形態の光学フィルタの別の一例を概略的に示す断面図である。
【
図3】
図3は一実施形態の光学フィルタの別の一例を概略的に示す断面図である。
【
図4】
図4は一実施形態の光学フィルタの別の一例を概略的に示す断面図である。
【
図5】
図5は例2-14の光学フィルタの分光透過率曲線を示す図である。
【
図6】
図6は例2-15の光学フィルタの分光透過率曲線を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
本明細書において、近赤外線吸収色素を「NIR色素」、紫外線吸収色素を「UV色素」と略記することもある。
本明細書において、式(I)で示される化合物を化合物(I)という。他の式で表される化合物も同様である。化合物(I)からなる色素を色素(I)ともいい、他の色素についても同様である。また、式(I)で表される基を基(I)とも記し、他の式で表される基も同様である。
【0011】
本明細書において、内部透過率とは、実測透過率/(100-反射率)の式で示される、実測透過率から界面反射の影響を引いて得られる透過率である。
本明細書において、基材の透過率、色素が樹脂に含有される場合を含む樹脂膜の透過率の分光は、「透過率」と記載されている場合も全て「内部透過率」である。一方、色素をジクロロメタン等の溶媒に溶解して測定される透過率、誘電体多層膜を有する光学フィルタの透過率は、実測透過率である。
【0012】
本明細書において、特定の波長域について、透過率が例えば90%以上とは、その全波長領域において透過率が90%を下回らない、すなわちその波長領域において最小透過率が90%以上であることをいう。同様に、特定の波長域について、透過率が例えば1%以下とは、その全波長領域において透過率が1%を超えない、すなわちその波長領域において最大透過率が1%以下であることをいう。内部透過率においても同様である。特定の波長域における平均透過率および平均内部透過率は、該波長域の1nm毎の透過率および内部透過率の相加平均である。
本明細書において、数値範囲を表す「~」では、上下限を含む。
【0013】
<光学フィルタ>
本発明の一実施形態の光学フィルタ(以下、「本フィルタ」ともいう)は、基材と、基材の少なくとも一方の主面側に最外層として積層された誘電体多層膜とを備え、後述する特定の分光特性を満たす光学フィルタである。ここで、基材は、ジクロロメタン中で360~395nmに最大吸収波長を有する色素(U)と、ジクロロメタン中で600~800nmに最大吸収波長を有する色素(A)と、樹脂とを含む樹脂膜を有する。
【0014】
図面を用いて本フィルタの構成例について説明する。
図1~4は、一実施形態の光学フィルタの一例を概略的に示す断面図である。
図1に示す光学フィルタ1Aは、基材10の一方の主面側に誘電体多層膜30を有する例である。なお、「基材の主面側に特定の層を有する」とは、基材の主面に接触して該層が備わる場合に限らず、基材と該層との間に、別の機能層が備わる場合も含む。
【0015】
図2に示す光学フィルタ1Bは、基材10の両方の主面側に誘電体多層膜30を有する例である。
【0016】
図3に示す光学フィルタ1Cは、基材10が、支持体11と、支持体11の一方の主面側に積層された樹脂膜12とを有する例である。光学フィルタ1Cはさらに、樹脂膜12の上と、支持体11の樹脂膜12が積層されていない主面側に、誘電体多層膜30をそれぞれ有する。
【0017】
図4に示す光学フィルタ1Dは、基材10が、支持体11と、支持体11の両方の主面側に積層された樹脂膜12とを有する例である。光学フィルタ1Dはさらに、それぞれの樹脂膜12の上に、誘電体多層膜30を有する。
【0018】
本発明の光学フィルタにおける基材は、ジクロロメタン中で360~395nmに最大吸収波長を有する色素(U)と、ジクロロメタン中で600~800nmに最大吸収波長を有する色素(A)と、樹脂とを含む。色素(U)はUV色素であり、色素(A)はNIR色素である。基材が紫外線や近赤外線を吸収する色素を含有することで、誘電体多層膜の高入射角における分光特性の低下、例えば、紫外域や近赤外域における光抜けやノイズ等の発生を、基材の吸収特性により抑制できる。各色素および樹脂については後述する。
【0019】
本発明の光学フィルタは、下記分光特性(i-1)~(i-5)を全て満たす。
(i-1)波長440~480nmの分光透過率曲線における平均透過率T440-480が86%以上
(i-2)波長350~450nmおよび入射角0度において、透過率が10%のときの波長をUV10(0deg)、透過率が20%のときの波長をUV20(0deg)、透過率が50%のときの波長をUV50(0degとし、
波長350~450nmおよび入射角50度において、透過率が10%のときの波長をUV10(50deg)、透過率が20%のときの波長をUV20(50deg)、透過率が50%のときの波長をUV50(50deg)としたとき、
UV10(0deg)とUV10(50deg)との差の絶対値が3nm以下、
UV20(0deg)とUV20(50deg)との差の絶対値が4nm以下、
UV50(0deg)とUV50(50deg)との差の絶対値が4nm以下
(i-3)波長400~440nmの分光透過率曲線における平均透過率T400-440が40%以上
(i-4)波長370~400nmおよび入射角0度での分光透過率曲線における平均透過率T370-400(0deg)が1%以下
(i-5)波長370~400nmおよび入射角50度での分光透過率曲線における平均透過率T370-400(50deg)が0.5%以下
【0020】
分光特性(i-1)~(i-5)を全て満たす本フィルタは、可視光の透過性、特には青色光の透過性を良好に維持しながら、紫外光の遮蔽性において、特に高入射角における紫外光の遮蔽性の低下が抑制された光学フィルタである。
【0021】
分光特性(i-1)を満たすことで、可視光域の透過性に優れることを意味する。分光特性(i-1)のT440-480は、好ましくは87%以上、より好ましくは89%以上である。
【0022】
分光特性(i-2)を満たすことで、波長350~450nmのUV吸収開始帯域前後において、高い入射角度でもシフトが少なく色再現性に優れることを意味する。分光特性(i-2)において、UV10(0deg)とUV10(50deg)との差の絶対値が好ましくは2.5nm以下、UV20(0deg)とUV20(50deg)との差の絶対値が好ましくは3nm以下、UV50(0deg)とUV50(50deg)との差の絶対値が好ましくは3nm以下である。
【0023】
分光特性(i-3)を満たすことで、波長400~440nmのUV吸収開始帯域前において、青色光の透過性に優れることを意味する。分光特性(i-3)のT400-440は、好ましくは45%以上、より好ましくは50%以上である。
【0024】
分光特性(i-4)を満たすことで、波長370~400nmのUV吸収帯域における遮光性が高いことを意味する。分光特性(i-4)のT370-400(0deg)は、好ましくは0.5%以下である。
【0025】
分光特性(i-5)を満たすことで、波長370~400nmのUV吸収帯域において、高い入射角度でも光抜けが生じにくく、遮光性が高いことを意味する。分光特性(i-5)のT370-400(50deg)は、好ましくは0.1%以下である。
【0026】
本発明の光学フィルタは、下記分光特性(i-6)をさらに満たすことが好ましい。
(i-6)波長350~450nmおよび入射角0度において、透過率が10%のときの波長をUV10(0deg)、透過率が70%のときの波長をUV70(0deg)としたとき、UV10(0deg)とUV70(0deg)との差の絶対値が16nm以下
【0027】
分光特性(i-6)を満たすことで、波長350~450nmのUV吸収開始帯域において、分光透過曲線の傾きが急峻であることを意味する。分光特性(i-6)における絶対値は、より好ましくは14nm以下、特に好ましくは13nm以下である。
【0028】
以下、基材および誘電体多層膜について説明する。本フィルタは、例えば、基材に紫外光および近赤外光に対する吸収能を持たせ、基材の吸収特性と誘電体多層膜の反射特性により、上記各分光特性(i-1)~(i-5)を満たすように設計される。
【0029】
<基材>
本発明の光学フィルタにおいて、基材は、色素(U)と、後述の色素(A)および樹脂を含む樹脂膜を有する。
【0030】
<UV色素>
色素(U)は、ジクロロメタン中で360~395nmに最大吸収波長を有するUV色素である。かかる色素を含有することで、紫外光を効果的にカットできる。
【0031】
色素(U)は、樹脂中において特定の分光特性を有することが好ましい。具体的には、アルカリガラス板上に色素(U)を樹脂に溶解して塗工した塗工膜の分光透過率曲線において、下記分光特性(ii-1)~(ii-6)を全て満たすことが好ましい。なお、樹脂としては基材が含有する樹脂と同一であることが好ましい。
【0032】
(ii-1)波長400~440nmにおける平均透過率T400-440が40%以上
(ii-2)波長370~400nmにおける平均透過率T370-400が5%以下
(ii-3)波長400nmにおける透過率T400が7%以下
(ii-4)波長390nmにおける透過率T390が5%以下
(ii-5)波長380nmにおける透過率T380が5%以下
(ii-6)波長370nmにおける透過率T370が5%以下
【0033】
光学特性(ii-1)を満たすことで、波長400~440nmのUV吸収開始帯域前において、青色光の透過性に優れることを意味する。光学特性(ii-1)のT400-440は、より好ましくは45%以上であり、特に好ましくは50%以上である。
【0034】
光学特性(ii-2)を満たすことで、波長370~400nmのUV吸収帯域における遮光性が高いことを意味する。光学特性(ii-2)のT370-400は、より好ましくは3%以下であり、特に好ましくは2%以下である。
【0035】
光学特性(ii-3)を満たすことで、UV吸収開始波長である400nmにおける透過率が低いことで、これより短波長側の遮光性が高いことを意味する。光学特性(ii-3)の透過率T400は、より好ましくは5%以下であり、特に好ましくは2%以下である。
【0036】
光学特性(ii-4)~(ii-6)を満たすことで、誘電体多層膜では高入射角の光を遮光しきれず光抜けが生じやすい波長370~390nmの帯域において、吸収によって遮光性を担保できることを意味する。
光学特性(ii-4)のT390は、より好ましくは3%以下であり、特に好ましくは1%以下である。
光学特性(ii-5)のT380は、より好ましくは3%以下であり、特に好ましくは1%以下である。
光学特性(ii-6)のT370は、より好ましくは3%以下であり、特に好ましくは1%以下である。
【0037】
色素(U)は、上記塗工膜の分光透過率曲線において下記分光特性(ii-7)をさらに満たすことが好ましい。
(ii-7)波長440~480nmにおける平均内部透過率T440-480が79%以上
光学特性(ii-7)を満たすことで、色素自体の吸収が可視光域の透過性を損失させないことを意味する。光学特性(ii-7)のT440-480は、より好ましくは80%以上であり、特に好ましくは81%以上である。
【0038】
また、色素(U)としては、下記分光特性(iii-1)を満たすことが好ましい。
(iii-1)最大吸収波長における透過率が10%となるように色素(U)をジクロロメタンに溶解して測定される分光透過率曲線において、波長350~450nmにおける透過率が10%のときの波長をUV10、透過率が70%のときの波長をUV70としたとき、UV10とUV70との差の絶対値が25nm以下である。
分光特性(iii-1)を満たすことで、波長350~450nmのUV吸収開始帯域において、分光透過曲線の傾きが急峻であることを意味する。これにより、必要な青色光をより多く透過し、遮光したい紫外光領域を効率的に遮光できる。
分光特性(iii-1)における絶対値としては、より好ましくは22nm以下である。
【0039】
色素(U)は、基材に1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよいが、少ない含有量で紫外光領域をより効率的に遮光できる観点から、最大吸収波長の異なる2種以上を併用することが好ましい。また、2種以上を併用する場合は、個々の化合物が色素(U)の性質を必ずしも有する必要はなく、混合物として色素(U)の性質を有すればよい。
【0040】
色素(U)としては、ジクロロメタン中で370~385nmに最大吸収波長を有する色素(U1)がより好ましい。また、基材が色素(U1)を含む場合、ジクロロメタン中で385~405nmに最大吸収波長を有する色素(U2)をさらに含むことが好ましい。色素(U1)と色素(U2)の樹脂中における最大吸収波長は異なることが好ましく、樹脂中の最大吸収波長の差の絶対値が好ましくは10nm以上15nm以下、より好ましくは10nm以上14nm以下である。
最大吸収波長の異なるUV色素を併用することで、少ない含有量で紫外光領域をより効率的に遮光できる。
【0041】
色素(U)としては、オキサゾール色素、メロシアニン色素、シアニン色素、ナフタルイミド色素、オキサジアゾール色素、オキサジン色素、オキサゾリジン色素、ナフタル酸色素、スチリル色素、アントラセン色素、環状カルボニル色素、トリアゾール色素等が挙げられる。この中でも、オキサゾール色素、メロシアニン色素が好ましく、メロシアニン色素がより好ましい。
【0042】
さらに、耐光性に優れた光学フィルタが得られる観点から、最大吸収波長の異なる2種以上のメロシアニン色素を併用することが特に好ましい。NIR色素(A)は、UV色素と併用することで劣化しやすいが、UV色素として2種以上のメロシアニン色素を併用することでこれを防ぐことができる。
【0043】
色素(U)としては、特に、下式(M)で示されるメロシアニン色素が好ましい。
【0044】
【0045】
式(M)における記号は以下のとおり。
【0046】
R1は、置換基を有してもよい炭素数1~12の1価の炭化水素基を表す。
置換基としては、アルコキシ基、アシル基、アシルオキシ基、シアノ基、ジアルキルアミノ基または塩素原子が好ましい。上記アルコキシ基、アシル基、アシルオキシ基およびジアルキルアミノ基の炭素数は1~6が好ましい。
【0047】
置換基を有しないR1として具体的には、水素原子の一部が脂肪族環、芳香族環もしくはアルケニル基で置換されていてもよい炭素数1~12のアルキル基、水素原子の一部が芳香族環、アルキル基もしくはアルケニル基で置換されていてもよい炭素数3~8のシクロアルキル基、および水素原子の一部が脂肪族環、アルキル基もしくはアルケニル基で置換されていてもよい炭素数6~12のアリール基が好ましい。
【0048】
R1が非置換のアルキル基である場合、そのアルキル基は直鎖状であっても、分岐状であってもよく、その炭素数は1~6がより好ましい。
【0049】
R1が水素原子の一部が脂肪族環、芳香族環もしくはアルケニル基で置換された炭素数1~12のアルキル基である場合、炭素数3~6のシクロアルキル基を有する炭素数1~4のアルキル基、フェニル基で置換された炭素数1~4のアルキル基がより好ましく、フェニル基で置換された炭素数1または2のアルキル基が特に好ましい。なお、アルケニル基で置換されたアルキル基とは、全体としてアルケニル基であるが1、2位間に不飽和結合を有しないものを意味し、例えばアリル基や3-ブテニル基等をいう。
【0050】
好ましいR1は、水素原子の一部がシクロアルキル基またはフェニル基で置換されていてもよい炭素数1~6のアルキル基である。特に好ましいQ1は炭素数1~6のアルキル基であり、具体的には、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、t-ブチル基等が挙げられる。
【0051】
R2~R5は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1~10のアルキル基、または炭素数1~10のアルコキシ基を表す。アルキル基およびアルコキシ基の炭素数は1~6が好ましく、1~4がより好ましい。
【0052】
R2およびR3は、少なくとも一方が、アルキル基であることが好ましく、いずれもアルキル基であることがより好ましい。R2およびR3がアルキル基でない場合は、水素原子がより好ましい。R2およびR3は、いずれも炭素数1~6のアルキル基が特に好ましい。
【0053】
R4およびR5は、少なくとも一方が、水素原子が好ましく、いずれも水素原子がより好ましい。R4またはR5が水素原子でない場合は、炭素数1~6のアルキル基が好ましい。
【0054】
Yは、R6およびR7で置換されたメチレン基または酸素原子を表す。
R6およびR7は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1~10のアルキル基、または炭素数1~10のアルコキシ基を表す。
【0055】
Xは、下記式(X1)~(X5)で表される2価基のいずれかを表す。
【0056】
【0057】
R8およびR9は、それぞれ独立に、置換基を有してもよい炭素数1~12の1価の炭化水素基を表し、R10~R19は、それぞれ独立に、水素原子、または、置換基を有してもよい炭素数1~12の1価の炭化水素基を表す。
R8~R19の置換基としては、R1における置換基と同様の置換基が挙げられ、好ましい態様も同様である。R8~R19が置換基を有しない炭化水素基である場合、置換基を有しないR1と同様の態様が挙げられる。
【0058】
式(X1)において、R8およびR9は異なる基であってもよいが、同一の基が好ましい。R8およびR9が非置換のアルキル基である場合、直鎖状であっても、分岐状であってもよく、炭素数は1~6がより好ましい。
【0059】
好ましいR8およびR9は、いずれも、水素原子の一部がシクロアルキル基またはフェニル基で置換されていてもよい炭素数1~6のアルキル基である。特に好ましいR8およびR9は、いずれも、炭素数1~6のアルキル基であり、具体的には、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、t-ブチル基等が挙げられる。
【0060】
式(X2)において、R10とR11は、いずれも、炭素数1~6のアルキル基がより好ましく、それらは同一のアルキル基が特に好ましい。
【0061】
式(X3)において、R12およびR15は、いずれも水素原子であるか、置換基を有しない炭素数1~6のアルキル基が好ましい。同じ炭素原子に結合した2つの基であるR13とR14は、いずれも水素原子であるか、いずれも炭素数1~6のアルキル基が好ましい。
【0062】
式(X4)における、同じ炭素原子に結合した2つの基R16とR17およびR18とR19は、いずれも水素原子であるか、いずれも炭素数1~6のアルキル基が好ましい。
【0063】
式(M)で表される化合物としては、Yが酸素原子であり、Xが基(X1)、基(X2)または基(X5)である化合物、および、Yが非置換のメチレン基であり、Xが基(X1)、基(X2)または基(X5)である化合物が好ましい。
【0064】
色素(U)として用いうる化合物(M)の具体例としては、以下の表に示す化合物が挙げられる。
【0065】
【0066】
【0067】
色素(U1)として用いうる化合物(M)の具体例としては、以下の表に示す化合物が挙げられる。
【0068】
【0069】
色素(U2)として用いうる化合物(M)の具体例としては、以下の表に示す化合物が挙げられる。
【0070】
【0071】
化合物(M)としては、これらの中でも、樹脂や溶媒への溶解性、可視透過性、特には光学特性(iii-1)を満足できる等の点から、化合物(1-1-2)、化合物(M-1-10)、化合物(M-1-24)、化合物(M-1-28)等が好ましい。また、最大吸収波長の異なる2種の化合物(M)を併用する場合、化合物(M-1-28)と化合物(M-1-2)の組み合わせ、化合物(M-1-28)と化合物(M-1-10)の組み合わせ、化合物(M-1-24)と化合物(M-1-2)の組み合わせ、化合物(M-1-24)と化合物(M-1-10)の組み合わせが、それぞれ好ましい。なお、化合物(M)は公知の方法で製造できる。
【0072】
樹脂膜におけるUV色素(U)の含有量は、色素(U)と色素(A)の合計含有量と樹脂膜の厚さの積が好ましくは100(質量%・μm)以下、より好ましくは80(質量%・μm)以下、さらに好ましくは70(質量%・μm)以下、特に好ましくは50(質量%・μm)以下となる範囲であることが好ましい。UV色素の添加量が多くなると樹脂特性の低下を招き、その結果誘電体多層膜との密着性が低下する。また樹脂のガラス転移温度が下がり耐熱性に懸念が生じる。色素の合計含有量と樹脂膜の厚さの積が上記範囲であればかかる問題を防ぐことができる。また、所望の分光特性を満たす観点から、当該含有量と厚さの積は好ましくは10(質量%・μm)以上、より好ましくは15(質量%・μm)以上である。
【0073】
上記範囲を満たす観点から、樹脂膜におけるUV色素(U)の含有量は、樹脂100質量部に対し好ましくは5~25質量部、より好ましくは5~20質量部である。かかる範囲であれば、樹脂特性を低下させずに上記問題を回避できる。
【0074】
<NIR色素>
本発明の光学フィルタにおいて、基材は、上記の色素(U)と、色素(A)とを含む。
色素(A)は、ジクロロメタン中で600~800nmに最大吸収波長を有するNIR色素である。かかる色素を含有することで、赤外光を効果的にカットできる。
【0075】
色素(A)としては、スクアリリウム色素、シアニン色素、フタロシアニン色素、ナフタロシアニン色素、ジチオール金属錯体色素、アゾ色素、ポリメチン色素、フタリド色素、ナフトキノン色素、アン卜ラキノン色素、インドフェノール色素、ピリリウム色素、チオピリリウム色素、ク口コニウム色素、テ卜ラデヒドオコリン色素、卜リフェニルメタン色素、アミニウム色素およびジインモニウム色素からなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましい。
【0076】
色素(A)としては、スクアリリウム色素、フタロシアニン色素、およびシアニン色素から選ばれる少なくとも1つの色素を含むことが好ましい。これらのNIR色素のうちでもスクアリリウム色素、シアニン色素が分光上の観点から好ましく、耐久性の観点からはフタロシアニン色素が好ましい。
【0077】
スクアリリウム色素としては、下記式(I)に示す化合物が好ましい。
【0078】
【0079】
ただし、式(I)中の記号は以下のとおりである。
R24およびR26は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、水酸基、炭素数1~6のアルキル基もしくはアルコキシ基、炭素数1~10のアシルオキシ基、-NR27R28(R27およびR28は、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1~20のアルキル基、-C(=O)-R29(R29は、水素原子、置換基を有してもよい炭素数1~20のアルキル基もしくは炭素数6~11のアリール基または、置換基を有していてもよく、炭素原子間に酸素原子を有してもよい炭素数7~18のアルアリール基)、-NHR30、または、-SO2-R30(R30は、それぞれ1つ以上の水素原子がハロゲン原子、水酸基、カルボキシ基、スルホ基、またはシアノ基で置換されていてもよく、炭素原子間に不飽和結合、酸素原子、飽和もしくは不飽和の環構造を含んでよい炭素数1~25の炭化水素基)を示す。)、または、下記式(S)で示される基(R41、R42は、独立して、水素原子、ハロゲン原子、または炭素数1~10のアルキル基もしくはアルコキシ基を示す。kは2または3である。)を示す。
【0080】
【0081】
R21とR22、R22とR25、およびR21とR23は、互いに連結して窒素原子と共に員数が5または6のそれぞれ複素環A、複素環B、および複素環Cを形成してもよい。
【0082】
複素環Aが形成される場合のR21とR22は、これらが結合した2価の基-Q-として、水素原子が炭素数1~6のアルキル基、炭素数6~10のアリール基または置換基を有していてもよい炭素数1~10のアシルオキシ基で置換されてもよいアルキレン基、またはアルキレンオキシ基を示す。
【0083】
複素環Bが形成される場合のR22とR25、および複素環Cが形成される場合のR21とR23は、これらが結合したそれぞれ2価の基-X1-Y1-および-X2-Y2-(窒素に結合する側がX1およびX2)として、X1およびX2がそれぞれ下記式(1x)または(2x)で示される基であり、Y1およびY2がそれぞれ下記式(1y)~(5y)から選ばれるいずれかで示される基である。X1およびX2が、それぞれ下記式(2x)で示される基の場合、Y1およびY2はそれぞれ単結合であってもよく、その場合、炭素原子間に酸素原子を有してもよい。
【0084】
【0085】
式(1x)中、4個のZは、それぞれ独立して水素原子、水酸基、炭素数1~6のアルキル基もしくはアルコキシ基、または-NR38R39(R38およびR39は、それぞれ独立して、水素原子または炭素数1~20のアルキル基を示す)を示す。R31~R36はそれぞれ独立して水素原子、炭素数1~6のアルキル基または炭素数6~10のアリール基を、R37は炭素数1~6のアルキル基または炭素数6~10のアリール基を示す。
【0086】
R27、R28、R29、R31~R37、複素環を形成していない場合のR21~R23、およびR25は、これらのうちの他のいずれかと互いに結合して5員環または6員環を形成してもよい。R31とR36、R31とR37は直接結合してもよい。
【0087】
複素環を形成していない場合の、R21およびR22は、それぞれ独立して、水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1~6のアルキル基もしくはアリル基、または置換基を有していてもよい炭素数6~11のアリール基もしくはアルアリール基を示す。複素環を形成していない場合の、R23およびR25は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、または、炭素数1~6のアルキル基もしくはアルコキシ基を示す。
【0088】
化合物(I)としては、例えば、可視光透過率を高くできる観点から式(I-1)で示される化合物が好ましい。
【0089】
【0090】
式(I-1)中の記号は、式(I)における同記号の各規定と同じであり、好ましい態様も同様である。
【0091】
化合物(I-1)において、X1としては、基(2x)が好ましく、Y1としては、単結合または基(1y)が好ましい。この場合、R31~R36としては、水素原子または炭素数1~3のアルキル基が好ましく、水素原子またはメチル基がより好ましい。なお、-Y1-X1-として、具体的には、式(11-1)~(12-3)で示される2価の有機基が挙げられる。
【0092】
-C(CH3)2-CH(CH3)- …(11-1)
-C(CH3)2-CH2- …(11-2)
-C(CH3)2-CH(C2H5)- …(11-3)
-C(CH3)2-C(CH3)(nC3H7)- …(11-4)
-C(CH3)2-CH2-CH2- …(12-1)
-C(CH3)2-CH2-CH(CH3)- …(12-2)
-C(CH3)2-CH(CH3)-CH2- …(12-3)
【0093】
また、化合物(I-1)において、R21は、溶解性、耐熱性、さらに分光透過率曲線における可視域と近赤外域の境界付近の変化の急峻性の観点から、独立して、式(4-1)または式(4-2)で示される基がより好ましい。
【0094】
【0095】
式(4-1)および式(4-2)中、R71~R75は、独立して、水素原子、ハロゲン原子、または炭素数1~4のアルキル基を示す。
【0096】
化合物(I-1)において、R24は可視光の透過率、特に波長430~550nmの光の透過率を高める観点から、-NH-SO2-R30が好ましい。
化合物(I-1)において、R24が-NH-SO2-R30の化合物を式(I-12)に示す。
【0097】
【0098】
化合物(I-12)におけるR23およびR26は、独立して、水素原子、ハロゲン原子、または炭素数1~6のアルキル基もしくは炭素数1~6のアルコキシ基が好ましく、いずれも水素原子がより好ましい。
【0099】
化合物(I-12)において、R30は耐光性の点から、独立して、分岐を有してもよい炭素数1~12のアルキル基、分岐を有してもよい炭素数1~12のアルコキシ基、または不飽和の環構造を有する炭素数6~16の炭化水素基が好ましい。不飽和の環構造としては、ベンゼン、トルエン、キシレン、フラン、ベンゾフラン等が挙げられる。R30は、独立して、分岐を有してもよい炭素数1~12のアルキル基もしくは分岐を有してもよい炭素数1~12のアルコキシ基がより好ましい。なお、R30を示す各基において、水素原子の一部または全部がハロゲン原子、特にはフッ素原子に置換されていてもよい。
【0100】
化合物(I)は、例えば米国特許第5,543,086号明細書、米国特許出願公開第2014/0061505号明細書、国際公開第2014/088063号に記載された公知の方法で製造できる。
【0101】
フタロシアニン色素としては、例えば、日本国特許第5884953号公報、国際公開第2019/168090号に記載されるフタロシアニン色素が挙げられる。
【0102】
シアニン色素としては、下記式(A1)または式(A2)で表される化合物が好ましい。
【0103】
【0104】
ただし、式(A1)および(A2)中の記号は以下のとおりである。
R101~R109およびR121~R131は、それぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、置換基を有してもよい炭素数1~15のアルキル基もしくはアルコキシ基、または、炭素数5~20のアリール基を示す。R110~114およびR132~136は、それぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、または、炭素数1~15のアルキル基もしくはアルコキシ基を示す。
X-は一価のアニオンを示す。
n1およびn2はそれぞれ独立に0または1である。-(CH2)n1-を含む炭素環、および、-(CH2)n2-を含む炭素環に結合する水素原子はハロゲン原子、置換基を有してもよい炭素数1~15のアルキル基または炭素数5~20のアリール基で置換されていてもよい。
【0105】
式(A1)、式(A2)において、R102~R105、R108、R109、R122~R127、R130およびR131はそれぞれ独立に水素原子、炭素数1~15のアルキル基もしくはアルコキシ基、または炭素数5~20のアリール基が好ましく、高い可視光透過率が得られる観点から水素原子がより好ましい。
【0106】
式(A1)、式(A2)において、R110~R114およびR132~R136はそれぞれ独立に水素原子、または炭素数1~15のアルキル基が好ましく、高い可視光透過率が得られる観点から水素原子がより好ましい。
【0107】
R106、R107、R128およびR129は、それぞれ独立に水素原子、炭素数1~15のアルキル基、または炭素数5~20のアリール基(鎖状、環状、分岐状のアルキル基を含んでもよい)が好ましく、水素原子、または炭素数1~15のアルキル基がより好ましい。また、R106とR107、R128とR129は、同じ基が好ましい。
【0108】
R101およびR121は、炭素数1~15のアルキル基、または炭素数5~20のアリール基が好ましく、透明樹脂中で溶液中と同様に高い可視光透過率を維持する観点から分岐を有する炭素数1~15のアルキル基がより好ましい。
【0109】
X-としては、I-、BF4
-、PF6
-、ClO4
-、または式(X1)もしくは(X2)で示されるアニオン等が挙げられ、好ましくは、BF4
-、またはPF6
-である。
【0110】
【0111】
以下の説明において、色素(A1)における、R101~R114を除く部分を骨格(A1)ともいう。他の色素においても同様である。
【0112】
式(A1)において、n1が1の化合物を下式(A11)に、n1が0の化合物を下式(A12)に示す。
【0113】
【0114】
式(A11)および式(A12)において、R101~R114およびX-は、式(A1)の場合と同様である。R115~R120は、それぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、置換基を有してもよい炭素数1~15のアルキル基もしくはアルコキシ基、または、炭素数5~20のアリール基を示す。R115~R120はそれぞれ独立に、水素原子、炭素数1~15のアルキル基、または炭素数5~20のアリール基(鎖状、環状、分岐状のアルキル基を含んでもよい)が好ましく、水素原子、または炭素数1~15のアルキル基がより好ましい。また、R115~R120は、同じ基であることが好ましい。
【0115】
式(A2)において、n2が1の化合物を下式(A21)に、n2が0の化合物を下式(A22)に示す。
【0116】
【0117】
式(A21)および式(A22)において、R121~R136およびX-は、式(A2)の場合と同様である。R137~R142は、それぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、置換基を有してもよい炭素数1~15のアルキル基もしくはアルコキシ基、または、炭素数5~20のアリール基を示す。R137~R142はそれぞれ独立に水素原子、炭素数1~15のアルキル基、または炭素数5~20のアリール基(鎖状、環状、分岐状のアルキル基を含んでもよい)が好ましく、水素原子、または炭素数1~15のアルキル基がより好ましい。また、R137~R142は、同じ基であることが好ましい。
【0118】
なお、色素(A1)、色素(A2)は、例えば、Dyes and pigments 73(2007) 344-352やJ.Heterocyclic chem,42,959(2005)に記載された公知の方法で製造可能である。
【0119】
基材におけるNIR色素(A)の含有量は、上記したように色素(U)と色素(A)の合計含有量と樹脂膜の厚さの積が特定の範囲であることが好ましい。
上記範囲を満たす観点から、樹脂膜におけるNIR色素(A)の含有量は、樹脂100質量部に対し好ましくは5~25質量部、より好ましくは5~20質量部である。
【0120】
<基材構成>
本フィルタにおける基材は、単層構造であっても、複層構造であってもよい。また基材の材質としては400~700nmの可視光を透過する透明性材料であれば有機材料でも無機材料でもよく、特に制限されない。
基材が単層構造の場合、樹脂とUV色素(U)およびNIR色素(A)を含む樹脂膜からなる樹脂基材であることが好ましい。
基材が複層構造の場合、支持体の少なくとも一方の主面にUV色素(U)およびNIR色素(A)を含有する樹脂膜を積層した構造であることが好ましい。このとき支持体は透明樹脂または透明性無機材料からなることが好ましい。
【0121】
樹脂としては、透明樹脂が好ましく、例えばポリエステル樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、エン・チオール樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエーテル樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリサルホン樹脂、ポリエーテルサルホン樹脂、ポリパラフェニレン樹脂、ポリアリーレンエーテルフォスフィンオキシド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリオレフィン樹脂、環状オレフィン樹脂、ポリウレタン樹脂、およびポリスチレン樹脂等が挙げられる。これらの樹脂は1種を単独で使用してもよく、2種以上を混合して使用してもよい。なかでも、可視透過率に優れ、樹脂のガラス転移温度が高いので色素の熱劣化を生じにくくする観点から、ポリイミド樹脂が好ましい。
【0122】
透明性無機材料としては、ガラスや結晶材料が好ましい。
支持体に使用できるガラスとしては、フツリン酸塩系ガラスやリン酸塩系ガラス等に銅イオンを含む吸収型のガラス(近赤外線吸収ガラス)、ソーダライムガラス、ホウケイ酸ガラス、無アルカリガラス、石英ガラス等が挙げられる。ガラスとしては、目的に応じて吸収ガラスが好ましく、赤外光を吸収する観点ではリン酸系ガラス、沸リン酸系ガラスが好ましい。赤色光(600~700nm)を多く取り込みたい際は、アルカリガラス、無アルカリガラス、石英ガラスが好ましい。なお、「リン酸塩系ガラス」は、ガラスの骨格の一部がSiO2で構成されるケイリン酸塩ガラスも含む。
【0123】
ガラスとしては、ガラス転移点以下の温度で、イオン交換により、ガラス板主面に存在するイオン半径が小さいアルカリ金属イオン(例えば、Liイオン、Naイオン)を、イオン半径のより大きいアルカリイオン(例えば、Liイオンに対してはNaイオンまたはKイオンであり、Naイオンに対してはKイオンである。)に交換して得られる化学強化ガラスを使用してもよい。
【0124】
支持体に使用できる結晶材料としては、水晶、ニオブ酸リチウム、サファイア等の複屈折性結晶が挙げられる。
【0125】
支持体としては、光学特性、機械特性等の長期にわたる信頼性に係る形状安定性の観点、フィルタ製造時のハンドリング性等から、無機材料が好ましく、特にガラス、サファイアが好ましい。
【0126】
樹脂膜は、色素(U)および色素(A)と、樹脂または樹脂の原料成分と、必要に応じて配合される各成分とを、溶媒に溶解または分散させて塗工液を調製し、これを支持体に塗工し乾燥させ、さらに必要に応じて硬化させて形成できる。上記支持体は、本フィルタに含まれる支持体でもよいし、樹脂膜を形成する際にのみ使用する剥離性の支持体でもよい。また、溶媒は、安定に分散できる分散媒または溶解できる溶媒であればよい。
【0127】
また、塗工液は、微小な泡によるボイド、異物等の付着による凹み、乾燥工程でのはじき等の改善のため界面活性剤を含んでもよい。さらに、塗工液の塗工には、例えば、浸漬コーティング法、キャストコーティング法、またはスピンコート法等を使用できる。上記塗工液を支持体上に塗工後、乾燥させることにより樹脂膜が形成される。また、塗工液が透明樹脂の原料成分を含有する場合、さらに熱硬化、光硬化等の硬化処理を行う。
【0128】
また、樹脂膜は、押出成形によりフィルム状に製造可能でもある。基材が、色素(U)および色素(A)を含む樹脂膜からなる単層構造(樹脂基材)である場合、樹脂膜をそのまま基材として用いることができる。基材が、支持体と、支持体の少なくとも一方の主面に積層した色素(U)および色素(A)を含む樹脂膜とを有する複層構造(複合基材)である場合、このフィルムを支持体に積層し熱圧着等により一体化させることにより基材を製造できる。
【0129】
樹脂膜は、光学フィルタの中に1層有してもよく、2層以上有してもよい。2層以上有する場合、各層は同じ構成であっても異なってもよい。
【0130】
樹脂膜の厚さは好ましくは10μm以下、より好ましくは5μm以下である。
また、基材が、色素(U)および色素(A)を含む樹脂膜からなる単層構造(樹脂基材)である場合、樹脂膜の厚さは、好ましくは10μm以下、より好ましくは5μm以下である。
基材が、支持体と、色素(U)および色素(A)を含有する樹脂膜とを有する複層構造(複合基材)である場合、樹脂膜の厚さは、10μm以下、より好ましくは5μm以下である。樹脂膜が複数層からなる場合、各層の合計の厚さは、好ましくは20μm以下、より好ましくは10μm以下である。
【0131】
基材の形状は特に限定されず、ブロック状、板状、フィルム状でもよい。
また基材の厚さは、誘電体多層膜を成膜した際、信頼性での変動の際に生じる反り変形、またはハンドリングの観点から好ましくは300μm以下、より好ましくは50~300μm、特に好ましくは70~300μmである。
また基材の厚さは、基材が樹脂と色素を含む樹脂基材である場合、低背化のメリットから好ましくは120μm以下であり、多層膜成膜時の反り低減の観点から50μm以上が好ましい。基材が支持体と樹脂膜を備える複合基材である場合、好ましくは70μm~110μmである。
【0132】
<誘電体多層膜>
本フィルタにおいて、誘電体多層膜は、基材の少なくとも一方の主面側に最外層として積層される。
【0133】
本フィルタにおいて、誘電体多層膜の少なくとも一方は近赤外線反射層(以下、NIR反射層とも記載する。)として設計されることが好ましい。誘電体多層膜の他方はNIR反射層、近赤外域以外の反射域を有する反射層、または反射防止層として設計されることが好ましい。
【0134】
NIR反射層は、近赤外域の光を遮蔽するように設計された誘電体多層膜である。NIR反射層としては、例えば、可視光を透過し、樹脂膜の遮光域以外の近赤外域の光を主に反射する波長選択性を有する。なお、NIR反射層の反射領域は、樹脂膜の近赤外域における遮光領域を含んでもよい。NIR反射層は、NIR反射特性に限らず、近赤外域以外の波長域の光、例えば、近紫外域をさらに遮断する仕様に適宜設計してよい。
【0135】
NIR反射層は、例えば、低屈折率の誘電体膜(低屈折率膜)と高屈折率の誘電体膜(高屈折率膜)とを交互に積層した誘電体多層膜から構成される。高屈折率膜は、好ましくは、屈折率が1.6以上であり、より好ましくは2.2~2.5である。高屈折率膜の材料としては、例えばTa2O5、TiO2、Nb2O5が挙げられる。これらのうち、成膜性、屈折率等における再現性、安定性等の点から、TiO2が好ましい。
【0136】
一方、低屈折率膜は、好ましくは、屈折率が1.6未満であり、より好ましくは1.45以上1.55未満である。低屈折率膜の材料としては、例えばSiO2、SiOxNy等が挙げられる。成膜性における再現性、安定性、経済性等の点から、SiO2が好ましい。
【0137】
さらに、NIR反射層は、透過域と遮光域の境界波長領域で透過率が急峻に変化することが好ましい。この目的のためには、反射層を構成する誘電体多層膜の合計積層数は、15層以上が好ましく、25層以上がより好ましく、30層以上がさらに好ましい。ただし、合計積層数が多くなると、反り等が発生したり、膜厚が増加したりするため、合計積層数は100層以下が好ましく、75層以下がより好ましく、60層以下がより一層好ましい。また、反射層の膜厚は、全体として2~10μmが好ましい。
【0138】
誘電体多層膜の合計積層数や膜厚が上記範囲内であれば、NIR反射層は小型化の要件を満たし、高い生産性を維持しながら入射角依存性を抑制できる。また、誘電体多層膜の形成には、例えば、CVD法、スパッタリング法、真空蒸着法等の真空成膜プロセスや、スプレー法、ディップ法等の湿式成膜プロセス等を使用できる。
【0139】
NIR反射層は、1層(1群の誘電体多層膜)で所定の光学特性を与えたり、2層で所定の光学特性を与えたりしてもよい。2層以上有する場合、各反射層は同じ構成でも異なる構成でもよい。反射層を2層以上有する場合、通常、反射帯域の異なる複数の反射層で構成される。2層の反射層を設ける場合、一方を、近赤外域のうち短波長帯の光を遮蔽する近赤外反射層とし、他方を、該近赤外域の長波長帯および近紫外域の両領域の光を遮蔽する近赤外・近紫外反射層としてもよい。
【0140】
反射防止層としては、誘電体多層膜や中間屈折率媒体、屈折率が漸次的に変化するモスアイ構造などが挙げられる。中でも光学的効率、生産性の観点から誘電体多層膜が好ましい。反射防止層は、反射層と同様に誘電体膜を交互に積層して得られる。
【0141】
本フィルタは、他の構成要素として、例えば、特定の波長域の光の透過と吸収を制御する無機微粒子等による吸収を与える構成要素(層)などを備えてもよい。無機微粒子の具体例としては、ITO(Indium Tin Oxides)、ATO(Antimony-doped Tin Oxides)、タングステン酸セシウム、ホウ化ランタン等が挙げられる。ITO微粒子、タングステン酸セシウム微粒子は、可視光の透過率が高く、かつ1200nmを超える赤外波長領域の広範囲に光吸収性を有するため、かかる赤外光の遮蔽性を必要とする場合に使用できる。
【0142】
本フィルタは、例えば、デジタルスチルカメラ等の撮像装置に使用した場合に、色再現性に優れる撮像装置を提供できる。本フィルタを用いた撮像装置は、固体撮像素子と、撮像レンズと、本フィルタとを備える。本フィルタは、例えば、撮像レンズと固体撮像素子との間に配置されたり、撮像装置の固体撮像素子、撮像レンズ等に粘着剤層を介して直接貼着されたりして使用できる。
【実施例】
【0143】
次に、本発明を実施例によりさらに具体的に説明する。
各光学特性の測定には、紫外可視分光光度計((株)日立ハイテクノロジーズ社製、UH-4150形)を用いた。
なお、入射角度が特に明記されていない場合の分光特性は入射角0度(主面に対し垂直方向)で測定した値である。
【0144】
各例で用いた色素は下記のとおりである。
なお、化合物1~17がUV色素であり、化合物18がNIR色素である。
化合物1(メロシアニン化合物):日本国特許第6504176号公報を参考に合成した。
化合物2:日本化学工業(株)製、Nikkafluor U1を用いた。
化合物3(シアニン化合物):林原化学製、SMP-416を用いた。
化合物4(シアニン化合物):林原化学製、SMP-370を用いた。
化合物5(シアニン化合物):林原化学製、SMP-471を用いた。
化合物6:日本化薬(株)製、Kayalight 408を用いた。
化合物7:日本化薬(株)製、Kayalight Bを用いた。
化合物8:日本化学工業(株)製、Nikkafluor MCTを用いた。
化合物9(メロシアニン化合物):日本国特許第6504176号公報を参考に合成した。
化合物10(メロシアニン化合物):日本国特許第6504176号公報を参考に合成した。
化合物11(ベンゾオキサゾール化合物):東京化成製、UVITEX OB
化合物12(メロシアニン化合物):日本国特許第6504176号公報を参考に合成した。
化合物13(メロシアニン化合物):日本国特許第6504176号公報を参考に合成した。
化合物14(アゾ化合物):日本国特許第6256335号公報を参考に合成した。
化合物15(メロシアニン化合物):日本国特許第6504176号公報を参考に合成した。
化合物16(トリアジン化合物):日本国特許第6256335号公報参考に合成した。
化合物17(メロシアニン化合物):日本国特許第6504176号公報を参考に合成した。
化合物18(スクアリリウム化合物):日本国特許第6197940号公報を参考に合成した。
【0145】
【0146】
【0147】
<試験A:UV色素のジクロロメタン中の分光特性>
各色素をそれぞれジクロロメタンに均一に溶解した。得られた各溶液について、分光光度計を用い、最大吸収波長(λmax)、波長350~450nmにおいて透過率が10%のときの波長UV10と透過率が70%のときの波長UV70との差の絶対値(UV70-UV10)を測定した。結果を下記表に示す。
【0148】
【0149】
<試験B:UV色素の樹脂中の分光特性>
<例1-1>
化合物1のUV色素(2.5質量%)と化合物18のNIR色素(2.3質量%)と有機溶媒(ガンマブチロラクトンとシクロヘキサノンの混合溶媒)で希釈したポリイミド樹脂(三菱ガス化学製 ポリイミドワニスC-3G30G)を混合させ、ポリイミド溶液と色素を十分に溶解させた。
得られた樹脂溶液をガラス基板(アルカリガラス、shotto製D263)にスピンコートを用いて塗工して、十分に加熱して有機溶媒を除去することで厚さ5μmの色素含有ポリイミド薄膜を作成した。
得られた薄膜について、分光光度計で波長350nm~1200nmの波長範囲で0degの入射方向における透過分光を測定した。結果を下記表に示す。
【0150】
<例1-2~例1-16>
UV色素の種類、UV色素の添加量、NIR色素の添加量、樹脂薄膜の厚さを下記表に記載の数値とした以外は例1-1と同様の方法で色素含有樹脂薄膜を作成し、透過分光を測定した。
結果を下記表に示す。
【0151】
なお、例1-2、1-5~1-11、1-15、1-16が実施例であり、例1-1、1-3、1-4、1-12~1-14が比較例である。
T440-480:波長440~480nmの分光透過率曲線における平均透過率(%)
T400-440:波長400~440nmの分光透過率曲線における平均透過率(%)
T370-400:波長370~400nmの分光透過率曲線における平均透過率(%)
T400:波長400nmの分光透過率曲線における透過率(%)
T390:波長390nmの分光透過率曲線における透過率(%)
T380:波長380nmの分光透過率曲線における透過率(%)
T370:波長370nmの分光透過率曲線における透過率(%)
【0152】
【0153】
上記結果より、ジクロロメタン中における最大吸収波長が360~395nmの範囲にあるUV色素を用いた例1-2、1-5~1-11、1-15、1-16では、青色光の透過性と紫外光の遮光性が高く、優れた分光特性を示した。2種類のUV色素を複合して用いた例1-16では分光特性が特に優れていた。例1-2は分光特性に優れるが、所望の分光特性を得るためにUV色素の含有量と樹脂膜の厚さを増大させる必要があった。
【0154】
<例2-1:光学フィルタの分光特性>
ガラス基板(アルカリガラス、shotto製D263)に400nm~700nmに透過帯域を有する紫外、赤外カット多層膜を成膜した。多層膜の上に例1-1と同様の樹脂薄膜(吸収膜)をスピンコートで作製した。その後、樹脂薄膜の上にSiO2とTiO2から構成される誘電体多層膜(反射防止膜)を蒸着により成膜し、吸収タイプの赤外線カットフィルタを作成した。得られた赤外線カットフィルタについて、分光光度計で波長350nm~1200nmの波長範囲で0deg、50degの入射方向における透過分光を測定した。結果を下記表に示す。
【0155】
<例2-2~2-15>
UV色素の種類、UV色素の添加量、NIR色素の添加量、樹脂薄膜の厚さを下記表に記載の数値とした以外は例2-1と同様の方法で赤外線カットフィルタを作成し、透過分光を測定した。
結果を下記表に示す。
【0156】
また、
図5に、例2-14の赤外線カットフィルタの分光透過率曲線を、
図6に、例2-15の赤外線カットフィルタの分光透過率曲線を、それぞれ示す。なお、実線は0degの入射方向における分光透過率曲線であり、破線は50degの入射方向における分光透過率曲線である。
【0157】
なお、例2-5、2-6、2-9、2-10、2-15が実施例であり、例2-1~2-4、2-7、2-8、2-11~2-14が比較例である。
【0158】
λmax:最大吸収波長(nm)
T440-480:波長440~480nmの分光透過率曲線における平均透過率(%)
T400-440:波長400~440nmの分光透過率曲線における平均透過率(%)
T370-400(0deg):入射角0度、波長370~400nmの分光透過率曲線における平均透過率(%)
T370-400(50deg):入射角50度、波長370~400nmの分光透過率曲線における平均透過率(%)
UV10(0deg):波長350~450nmおよび入射角0度において、透過率が10%のときの波長(nm)
UV10(50deg):波長350~450nmおよび入射角50度において、透過率が10%のときの波長(nm)
UV20(0deg):波長350~450nmおよび入射角0度において、透過率が20%のときの波長(nm)
UV20(50deg):波長350~450nmおよび入射角50度において、透過率が20%のときの波長(nm)
UV50(0deg):波長350~450nmおよび入射角0度において、透過率が50%のときの波長(nm)
UV50(50deg):波長350~450nmおよび入射角50度において、透過率が50%のときの波長(nm)
UV70(0deg):波長350~450nmおよび入射角0度において、透過率が70%のときの波長(nm)
|UV70(0deg)-UV10(0deg)|:UV10(0deg)とUV70(0deg)との差の絶対値
|UV10(50deg)-UV10(0deg)|:UV10(0deg)とUV10(50deg)との差の絶対値(nm)
|UV20(50deg)-UV20(0deg)|:UV20(0deg)とUV20
(50deg)との差の絶対値(nm)
|UV50(50deg)-UV50(0deg)|:UV50(0deg)とUV50
(50deg)との差の絶対値(nm)
【0159】
【0160】
上記結果より、ジクロロメタン中における最大吸収波長が360~395nmの範囲にあり、試験Aの溶液分光(UV70-UV10)および試験Bの樹脂中分光が所定の範囲であるUV色素を用いた例2-5、2-6、2-9、2-10および2-15の光学フィルタは、青色光の透過性が高く、また、高入射角においても紫外光の遮光性が高く、優れた分光特性を示した。2種類のUV色素を複合して用いた例2-15では分光特性が特に優れていた。
一方、最大吸収波長の範囲を満たさない例2-1、2-3、2-4、2-12、2-13、2-14の光学フィルタ、試験Aの溶液分光が所定の範囲にない例2-2、2-7、2-8、2-11の光学フィルタは、青色光の透過性または高入射角における紫外光の遮光性が低い結果となった。
【0161】
<例3-1:耐光性評価>
化合物1のUV色素(7.5質量%)と化合物13のUV色素(3.5質量%)と化合物18のNIR色素(7質量%)と有機溶媒(ガンマブチロラクトンとシクロヘキサノンの混合溶媒)で希釈したポリイミド樹脂(三菱ガス化学製 ポリイミドワニスC-3G30G)とを混合し、ポリイミド溶液と色素を十分に溶解させた。色素の添加量は樹脂に対する添加量を示す。
得られた溶液をスピンコートによりガラス基板(アルカリガラス、shotto製D263)上に塗工して、十分に加熱して有機溶媒を除去することで、厚み1.5μmの色素含有ポリイミド膜を作製した。
得られたポリイミド膜の上に例2-1と同様の反射防止膜を蒸着により成膜した。得られた光学サンプルを、スガ試験機株式会社製スーパーキセノンウエザーメーターを用いて耐光性試験を行った。なお入射面は反射防止膜面とした。
光量は300~2450nmの波長帯域で積算光量として80000J/mm2になるようにした。耐光性試験投入前後で400nm、680nmの吸光係数から、NIR色素の残存率を算出した。結果を下記表に示す。
なお、400nmにおける残存率(T400nm残存率)が85%以上、680nmにおける残存率(T680nm残存率)が75%以上であれば、耐光性に優れるとした。
【0162】
<例3-2~3-10:耐光性評価>
色素の種類、含有量を下記表に記載の数値とした以外は例3-1と同様に、耐光性試験を行った。
結果を下記表に示す。
【0163】
なお、例3-1~3-4、3-5、3-7~3-10は実施例であり、例3-6は比較例である。
【0164】
【0165】
上記結果より、例3-6と、例3-4~3-5との対比から、UV色素とNIR色素を共存させると、NIR色素が劣化する傾向にある。ここで、例3-1~3-3に示すように、UV色素として複数のメロシアニン化合物を組み合わせて用いることで、NIR色素の劣化を抑制できることが分かる。
【0166】
本発明を詳細にまた特定の実施態様を参照して説明したが、本発明の精神と範囲を逸脱することなく様々な変更や修正を加えることができることは当業者にとって明らかである。本出願は2020年7月27日出願の日本特許出願(特願2020-126700)に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。
【産業上の利用可能性】
【0167】
本発明の光学フィルタは、近赤外光の遮蔽性と可視光の透過性、特には青色光の透過性を良好に維持しながら、紫外光の遮蔽性において、特に高入射角における紫外光の遮蔽性の低下が抑制された良好な紫外光遮蔽特性を有する。近年、高性能化が進む、例えば、輸送機用のカメラやセンサ等の情報取得装置の用途に有用である。
【符号の説明】
【0168】
1A、1B、1C、1D…光学フィルタ、10…基材、11…支持体、12…樹脂膜、30…誘電体多層膜