(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-21
(45)【発行日】2024-10-29
(54)【発明の名称】EUVリソグラフィ用反射型マスクブランクおよび導電膜付き基板
(51)【国際特許分類】
G03F 1/24 20120101AFI20241022BHJP
C23C 14/06 20060101ALI20241022BHJP
【FI】
G03F1/24
C23C14/06 A
C23C14/06 C
(21)【出願番号】P 2023111174
(22)【出願日】2023-07-06
(62)【分割の表示】P 2023528204の分割
【原出願日】2022-09-16
【審査請求日】2023-07-06
(31)【優先権主張番号】P 2021157976
(32)【優先日】2021-09-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100152984
【氏名又は名称】伊東 秀明
(74)【代理人】
【識別番号】100168985
【氏名又は名称】蜂谷 浩久
(74)【代理人】
【識別番号】100148080
【氏名又は名称】三橋 史生
(74)【代理人】
【識別番号】100149401
【氏名又は名称】上西 浩史
(72)【発明者】
【氏名】小野 佑介
(72)【発明者】
【氏名】羽根川 博
(72)【発明者】
【氏名】河原 弘朋
【審査官】今井 彰
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-35848(JP,A)
【文献】特開2021-128247(JP,A)
【文献】特開2011-124612(JP,A)
【文献】特開2010-286632(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03F 1/24
C23C 14/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板の裏面側に配置される導電膜と、
前記基板の表面側に配置され、EUV光を反射する反射層と、
前記反射層上に配置され、EUV光を吸収する吸収層とを有する、EUVリソグラフィ用反射型マスクブランクであって、
前記導電膜の波長1000~1100nmにおける屈折率n
λ1000-1100nmが5.300以下であり、消衰係数k
λ1000-1100nmが5.200以下であり、
前記導電膜の波長600~700nmにおける屈折率n
λ600-700nmが4.300以下であり、消衰係数k
λ600-700nmが4.500以下であり、
前記導電膜の波長400~500nmにおける屈折率n
λ400-500nmが2.500以上であり、消衰係数k
λ400-500nmが0.440以上であり、
前記導電膜の波長1000~1100nmの光線透過率が2.0%以上であり、
前記導電膜の波長600~700nmの光線透過率が1.0%以上であり、
前記導電膜の波長400~500nmの光線透過率が1.0%未満である、EUVリソグラフィ用反射型マスクブランク。
【請求項2】
前記導電膜が、タンタル(Ta)およびクロム(Cr)のうち少なくとも一方と、窒素(N)およびホウ素(B)のいずれか一方とを含有する、請求項1に記載のEUVリソグラフィ用反射型マスクブランク。
【請求項3】
前記導電膜が、TaとNとを含有する、請求項2に記載のEUVリソグラフィ用反射型マスクブランク。
【請求項4】
前記導電膜が、Taを含有し、out of plane XRD法で観測される前記導電膜由来の回折ピーク中、Taのbcc(110)面に帰属される回折ピークの半値幅FWHMが1.5~4.0°である、請求項2または3に記載のEUVリソグラフィ用反射型マスクブランク。
【請求項5】
前記導電膜が、TaとNとを含有し、Nの含有率が15at%以上、65at%以下である、請求項2または3に記載のEUVリソグラフィ用反射型マスクブランク。
【請求項6】
前記導電膜が、TaとBとを含有し、Bの含有率が10at%以上、50at%以下である、請求項2に記載のEUVリソグラフィ用反射型マスクブランク。
【請求項7】
前記導電膜が、CrとNとを含有し、Nの含有率が3.0at%以上、20.0at%以下である、請求項2に記載のEUVリソグラフィ用反射型マスクブランク。
【請求項8】
前記導電膜のシート抵抗値が250Ω/□以下である、請求項1~3のいずれか1項に記載のEUVリソグラフィ用反射型マスクブランク。
【請求項9】
前記導電膜の表面硬度が10.0GPa以上である、請求項1~3のいずれか1項に記載のEUVリソグラフィ用反射型マスクブランク。
【請求項10】
前記導電膜の膜厚tが40~350nmである、請求項1~3のいずれか1項に記載のEUVリソグラフィ用反射型マスクブランク。
【請求項11】
前記導電膜上には更に上層が設けられ、
前記上層はクロム(Cr)と、窒素(N)および酸素(O)からなる群から選択される少なくとも1種の元素とを含有する、請求項1~3のいずれか1項に記載のEUVリソグラフィ用反射型マスクブランク。
【請求項12】
前記上層が、CrとOとを含有し、Oの含有率が5at%以上、30at%以下である、請求項11に記載のEUVリソグラフィ用反射型マスクブランク。
【請求項13】
前記導電膜の表面粗さ(Rq)は、0.600nm以下である、請求項1~3のいずれか1項に記載のEUVリソグラフィ用反射型マスクブランク。
【請求項14】
基板上に導電膜を有する、導電膜付き基板であって、
前記導電膜の波長1000~1100nmにおける屈折率n
λ1000-1100nmが5.300以下であり、消衰係数k
λ1000-1100nmが5.200以下であり、
前記導電膜の波長600~700nmにおける屈折率n
λ600-700nmが4.300以下であり、消衰係数k
λ600-700nmが4.500以下であり、
前記導電膜の波長400~500nmにおける屈折率n
λ400-500nmが2.500以上であり、消衰係数k
λ400-500nmが0.440以上であり、
前記導電膜の波長1000~1100nmの光線透過率が2.0%以上であり、
前記導電膜の波長600~700nmの光線透過率が1.0%以上であり、
前記導電膜の波長400~500nmの光線透過率が1.0%未満である、導電膜付き基板。
【請求項15】
前記導電膜が、タンタル(Ta)およびクロム(Cr)のうち少なくとも一方と、窒素(N)およびホウ素(B)のいずれか一方とを含有する、請求項14に記載の導電膜付き基板。
【請求項16】
前記導電膜が、TaとNとを含有する、請求項15に記載の導電膜付き基板。
【請求項17】
前記導電膜が、Taを含有し、out of plane XRD法で観測される前記導電膜由来の回折ピーク中、Taのbcc(110)面に帰属される回折ピークの半値幅FWHMが1.5~4.0°である、請求項15または16に記載の導電膜付き基板。
【請求項18】
前記導電膜が、TaとNとを含有し、Nの含有率が15at%以上、65at%以下である、請求項15または16に記載の導電膜付き基板。
【請求項19】
前記導電膜が、TaとBとを含有し、Bの含有率が10at%以上、50at%以下である、請求項15に記載の導電膜付き基板。
【請求項20】
前記導電膜が、CrとNとを含有し、Nの含有率が3.0at%以上、20.0at%以下である、請求項15に記載の導電膜付き基板。
【請求項21】
前記導電膜のシート抵抗値が250Ω/□以下である、請求項14~16のいずれか1項に記載の導電膜付き基板。
【請求項22】
前記導電膜の表面硬度が10.0GPa以上である、請求項14~16のいずれか1項に記載の導電膜付き基板。
【請求項23】
前記導電膜の膜厚tが40~350nmである、請求項14~16のいずれか1項に記載の導電膜付き基板。
【請求項24】
前記導電膜上には更に上層が設けられ、
前記上層はクロム(Cr)と、窒素(N)および酸素(O)からなる群から選択される少なくとも1種の元素とを含有する、請求項14~16のいずれか1項に記載の導電膜付き基板。
【請求項25】
前記上層が、CrとOとを含有し、Oの含有率が5at%以上、30at%以下である、請求項11に記載の導電膜付き基板。
【請求項26】
前記導電膜の表面粗さ(Rq)は、0.600nm以下である、請求項14~16のいずれか1項に記載の導電膜付き基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体製造等に使用されるEUV(Extreme Ultra Violet:極端紫外)リソグラフィ用反射型マスクブランク(以下、本明細書において、「EUVマスクブランク」という。)、および該EUVマスクブランクの製造に使用される導電膜付き基板に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体産業において、Si基板等に微細なパターンからなる集積回路を形成する上で必要な微細パターンの転写技術として、可視光や紫外光を用いたフォトリソグラフィ法が使用されてきた。しかし、半導体デバイスの微細化が加速する一方で、従来のフォトリソグラフィ法の限界に近づいてきた。フォトリソグラフィ法の場合、パターンの解像限界は露光波長の1/2程度である。液浸法を用いても露光波長の1/4程度と言われており、ArFレーザ(193nm)の液浸法を用いても20~30nm程度が限界と予想される。そこで20~30nm以降の露光技術として、ArFレーザよりさらに短波長のEUV光を用いた露光技術のEUVリソグラフィが有望視されている。本明細書において、EUV光とは、軟X線領域または真空紫外線領域の波長の光線を指す。具体的には波長10~20nm程度、特に13.5nm±0.3nm程度の光線を指す。
【0003】
EUV光は、あらゆる物質に対して吸収されやすく、かつこの波長で物質の屈折率が1に近い。そのため、従来の可視光または紫外光を用いたフォトリソグラフィのような屈折光学系を使用できない。このため、EUVリソグラフィでは、反射光学系、すなわち反射型フォトマスクとミラーとが使用される。
【0004】
一方で、光の短波長化とは別に、位相シフトマスクを利用した解像度向上技術が提案されている。位相シフトマスクは、マスクパターンの透過部を、隣接する透過部とは異なる物質または形状とすることにより、それらを透過した光に180度の位相差を与えるものである。したがって両透過部の間の領域では、180度位相の異なる透過回折光同士が打ち消し合い、光強度が極めて小さくなって、マスクコントラストが向上し、結果的に転写時の焦点深度が拡大するとともに転写精度が向上する。なお、位相差は原理上180度が最良であるが、実質的に175~185度程度であれば、解像度向上効果は十分得られる。
【0005】
マスクブランクは、フォトマスク製造に用いられるパターニング前の積層体である。EUVマスクブランクの場合、ガラス製等の基板上にEUV光を反射する反射層と、EUV光を吸収する吸収層とがこの順で形成された構造を有している。
反射層としては、EUV光に対して低屈折率となる低屈折率層と、EUV光に対して高屈折率となる高屈折率層とを交互に積層することで、EUV光を層表面に照射した際の光線反射率が高められた多層反射膜が通常使用される。多層反射膜の低屈折率層としては、モリブデン(Mo)層が、高屈折率層としては、ケイ素(Si)層が通常使用される。
吸収層には、EUV光に対する吸収係数の高い材料、具体的にはたとえば、クロム(Cr)やタンタル(Ta)を主成分とする材料が用いられる。
【0006】
多層反射膜および吸収層は、イオンビームスパッタリング法やマグネトロンスパッタリング法を用いてガラス基板の光学面上に成膜される。多層反射膜および吸収層を成膜する際、ガラス基板は支持手段によって保持される。ガラス基板の支持手段として、機械的チャックおよび静電チャックがあるが、発塵性の問題から、静電チャックが好ましく用いられる。また、マスクパターニングプロセス時、あるいは露光時のマスクハンドリングの際にも、ガラス基板の支持手段として静電チャックが用いられる。
【0007】
静電チャックは、半導体装置の製造プロセスにおいて、シリコン(Si)ウエハの支持手段として従来用いられている技術である。このため、ガラス基板のように、誘電率および導電率の低い基板の場合、Siウエハの場合と同程度のチャック力を得るには、高電圧を印加する必要があるため、絶縁破壊を生じる危険性がある。
そのため、基板の静電チャッキングを促進するため、基板を挟んで多層反射膜と反対側に導電膜が形成される。
【0008】
EUVマスクおよびそれに用いるEUVマスクブランクでは、反射層としての多層反射膜や、吸収層での内部応力によって発生する基板の変形が問題となる場合がある。EUVマスクやEUVマスクブランクの裏面側から、パルスレーザ光を局所的に照射して、ガラス基板を局所的に加熱することにより、多層反射膜や吸収層での内部応力による基板の変形を改善する技術が、新たに導入されつつある。
上記技術を適用するため、特許文献1は、波長400~800nmの光線透過率が高い裏面に導電膜が形成されたEUVマスクブランクを提供している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
一方、導電膜形成後の欠陥検査には波長488nmのArレーザが用いられる。導電膜がこの波長域の光線透過率が高いと欠陥検査を実施できない。そのため、導電膜は、この波長域の光線透過率が低いことが求められる。
【0011】
導電膜形成後の欠陥検査に波長488nmのArレーザを用いる場合、レーザ光を局所的に照射して、多層反射膜や吸収層での内部応力による基板の変形を改善するには、波長1064nmのNd:YAGレーザや、波長632nmのHe:Neレーザを使用し得る。これらのレーザを使用する場合、導電膜は、これらの波長域の光線透過率が高いことが求められる。
【0012】
本発明は、上記した従来技術の問題点を解決するため、導電層側から入射させた場合に、波長1000~1100nmの範囲の光および波長600~700nmの範囲の光を透過し、波長400~500nmの範囲の光の透過が抑制される、EUVマスクブランクの提供、および該EUVマスクブランクの製造に使用される導電膜付き基板の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、以下の構成により上記課題を解決できることを見出した。
(1) 基板と、
基板の裏面側に配置される導電膜と、
基板の表面側に配置され、EUV光を反射する反射層と、
反射層上に配置され、EUV光を吸収する吸収層とを有する、EUVリソグラフィ用反射型マスクブランクであって、
導電膜の波長1000~1100nmにおける屈折率nλ1000-1100nmが5.300以下であり、消衰係数kλ1000-1100nmが5.200以下であり、
導電膜の波長600~700nmにおける屈折率nλ600-700nmが4.300以下であり、消衰係数kλ600-700nmが4.500以下であり、
導電膜の波長400~500nmにおける屈折率nλ400-500nmが2.500以上であり、消衰係数kλ400-500nmが0.440以上であり、
導電膜の膜厚tが40~350nmである、EUVリソグラフィ用反射型マスクブランク。
(2) 導電膜が、タンタル(Ta)およびクロム(Cr)のうち少なくとも一方と、窒素(N)およびホウ素(B)のいずれか一方とを含有する、(1)に記載のEUVリソグラフィ用反射型マスクブランク。
(3) 導電膜が、TaとNとを含有する、(2)に記載のEUVリソグラフィ用反射型マスクブランク。
(4) 導電膜が、Taを含有し、out of plane XRD法で観測される導電膜由来の回折ピーク中、Taのbcc(110)面に帰属される回折ピークの半値幅FWHMが1.5~4.0°である、(2)または(3)に記載のEUVリソグラフィ用反射型マスクブランク。
(5) 導電膜は、波長1000~1100nmの光線透過率が1.0%以上であり、波長600~700nmの光線透過率が1.0%以上であり、波長400~500nmの光線透過率が1.0%以下である、(1)~(4)のいずれかに記載のEUVリソグラフィ用反射型マスクブランク。
(6) 導電膜のシート抵抗値が250Ω/□以下である、(1)~(5)のいずれかに記載のEUVリソグラフィ用反射型マスクブランク。
(7) 導電膜の表面硬度が10.0GPa以上である、(1)~(6)のいずれかに記載のEUVリソグラフィ用反射型マスクブランク。
(8) 導電膜上には更に上層が設けられ、
上層はクロム(Cr)と、窒素(N)および酸素(O)からなる群から選択される少なくとも1種の元素とを含有する、(1)~(7)のいずれかに記載のEUVリソグラフィ用反射型マスクブランク。
(9) 前記導電膜の表面粗さ(Rq)は、0.600nm以下である、(1)~(8)のいずれかに記載のEUVリソグラフィ用反射型マスクブランク。
(10) 基板上に導電膜を有する、導電膜付き基板であって、
前記導電膜の波長1000~1100nmにおける屈折率nλ1000-1100nmが5.300以下であり、消衰係数kλ1000-1100nmが5.200以下であり、
前記導電膜の波長600~700nmにおける屈折率nλ600-700nmが4.300以下であり、消衰係数kλ600-700nmが4.500以下であり、
前記導電膜の波長400~500nmにおける屈折率nλ400-500nmが2.500以上であり、消衰係数kλ400-500nmが0.440以上であり、
前記導電膜の膜厚tが40~350nmである、導電膜付き基板。
(11) 前記導電膜が、タンタル(Ta)およびクロム(Cr)のうち少なくとも一方と、窒素(N)およびホウ素(B)のいずれか一方とを含有する、(10)に記載の導電膜付き基板。
(12) 前記導電膜が、TaとNとを含有する、請求項11に記載の導電膜付き基板。
(13) 前記導電膜が、Taを含有し、out of plane XRD法で観測される前記導電膜由来の回折ピーク中、Taのbcc(110)面に帰属される回折ピークの半値幅FWHMが1.5~4.0°である、(11)または(12)に記載の導電膜付き基板。
(14) 前記導電膜は、波長1000~1100nmの光線透過率が1.0%以上であり、波長600~700nmの光線透過率が1.0%以上であり、波長400~500nmの光線透過率が1.0%以下である、(10)~(13)のいずれかに記載の導電膜付き基板。
(15) 前記導電膜のシート抵抗値が250Ω/□以下である、(10)~(14)のいずれかに記載の導電膜付き基板。
(16) 前記導電膜の表面硬度が10.0GPa以上である、(10)~(15)のいずれかに記載の導電膜付き基板。
(17) 前記導電膜上には更に上層が設けられ、
前記上層はクロム(Cr)と、窒素(N)および酸素(O)からなる群から選択される少なくとも1種の元素とを含有する、(10)~(16)のいずれかに記載の導電膜付き基板。
(18) 前記導電膜の表面粗さ(Rq)は、0.600nm以下である、(10)~(17)のいずれかに記載の導電膜付き基板。
【発明の効果】
【0014】
本発明のEUVマスクブランクは、導電層側から入射させた場合に、波長1000~1100nmの範囲の光および波長600~700nmの範囲の光を透過し、波長400~500nmの範囲の光の透過が抑制される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、本発明のEUVマスクブランクの1実施形態を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して本発明のEUVマスクブランクを説明する。
図1は、本発明のEUVマスクブランクの1実施形態を示す概略断面図である。
図1に示すEUVマスクブランク10は、基板11の一方の面(図中、基板11の上面)にEUV光を反射する反射層13と、EUV光を吸収する吸収層14と、が、この順に形成されている。基板11の他方の面(図中、基板11の下面)に導電膜12が形成されている。以下、本明細書において、反射層13および吸収層14が配置されている側の基板11の面を基板11の表面とし、導電膜12が配置されている側の基板11の面を基板11の裏面とする。
以下、本実施形態のEUVマスクブランク10の個々の構成要素について説明する。
【0017】
基板11は、EUVマスクブランク用の基板としての特性を満たす。そのため、基板11は、低熱膨張係数(具体的には、20℃における熱膨張係数が0±0.05×10-7/℃が好ましく、0±0.03×10-7/℃がより好ましい。)を有し、平滑性、平坦度、およびマスクブランクまたはパターン形成後のフォトマスクの洗浄等に用いる洗浄液への耐性に優れる。基板11としては、具体的には低熱膨張係数を有するガラス、例えばSiO2-TiO2系ガラス等を用いるが、これに限定されず、β石英固溶体を析出した結晶化ガラスや石英ガラスやシリコンや金属等の基板も使用できる。
基板11は、表面粗さ(Rq)が0.15nm以下の平滑な表面と100nm以下の平坦度を有すると、パターン形成後のフォトマスクにおいて高反射率および転写精度が得られるため好ましい。
基板11の大きさや厚さ等はマスクの設計値等により適宜決定される。後で示す実施例では外形6インチ(152mm)角で、厚さ0.25インチ(6.3mm)のSiO2-TiO2系ガラスを使用した。
基板11の表面に欠点が存在しないのが好ましい。しかし、欠点が存在していても、凹状欠点および/または凸状欠点によって位相欠点が生じなければよい。具体的には、凹状欠点の深さおよび凸状欠点の高さが2nm以下、かつこれら凹状欠点および凸状欠点の半値幅は60nm以下が好ましい。凹状欠点の半値幅とは、凹状欠点の深さの1/2深さ位置での幅を指す。凸状欠点の半値幅とは、凸状欠点の高さの1/2高さ位置での幅を指す。
【0018】
導電膜12は、波長1000~1100nmにおける屈折率nλ1000-1100nmが5.300以下であり、消衰係数kλ1000-1100nmが5.200以下である。
屈折率nλ1000-1100nmおよび消衰係数kλ1000-1100nmが上記範囲であると、導電膜12が、波長1000~1100nmの光線透過率が高いため、基板の変形を改善するために波長1064nmのNd:YAGレーザを用いる際に好ましい。
導電膜12の波長1000~1100nmの光線透過率は、1.0%以上が好ましく、2.0%以上がより好ましく、2.5%以上がさらに好ましい。上限は特に制限されないが、例えば3.5%以下である。
【0019】
導電膜12の屈折率nλ1000-1100nmは、5.200以下が好ましい。下限は特に制限されないが、例えば4.000以上である。
【0020】
導電膜12の消衰係数kλ1000-1100nmは、5.100以下が好ましい。下限は特に制限されないが、例えば3.000以上である。
【0021】
導電膜12は、波長600~700nmにおける屈折率nλ600-700nmが4.300以下であり、消衰係数kλ600-700nmが4.500以下である。
屈折率nλ600-700nmおよび消衰係数kλ600-700nmが上記範囲であると、導電膜12が、波長600~700nmの光線透過率が高いため、基板の変形を改善するために波長632nmのHe:Neレーザを用いる際に好ましい。
導電膜12の波長600~700nmの光線透過率は、1.0%以上が好ましく、1.5%以上がより好ましい。上限は特に制限されないが、例えば2.5%以下である。
【0022】
導電膜12の屈折率nλ600-700nmは、4.200以下が好ましい。下限は特に制限されないが、例えば3.100以上である。
【0023】
導電膜12の消衰係数kλ600-700nmは、4.400以下が好ましい。上限は特に制限されないが、例えば2.500以上である。
【0024】
導電膜12は、波長400~500nmにおける屈折率nλ400-500nmが2.500以上であり、消衰係数kλ400-500nmが0.440以上である。
屈折率nλ400-500nmおよび消衰係数kλ400-500nmが上記範囲であると、導電膜12が、波長400~500nmの光線透過率が低いため、欠陥検査に波長488nmのArレーザを用いる際に好ましい。
導電膜12の波長400~500nmの光線透過率は、1.0%以下が好ましく、1.0%未満がより好ましい。下限は特に制限されないが、例えば0.7%以上である。
【0025】
導電膜12の屈折率nλ400-500nmは、2.600以上が好ましい。上限は特に制限されないが、例えば3.300以下である。
【0026】
導電膜12の消衰係数kλ400-500nmは、0.500以上が好ましく、1.000以上がより好ましく、1.500以上がさらに好ましい。上限は特に制限されないが、例えば4.300以下である。
【0027】
導電膜12は、膜厚tが40~350nmである。
膜厚tが40nm未満だと、屈折率nλ400-500nmおよび消衰係数kλ400-500nmが上記範囲を満たしていても、波長400~500nmの光線透過率が十分低くならない。
導電膜12の膜厚tは、45nm以上が好ましく、50nm以上がより好ましい。
膜厚tが350nm超だと、屈折率nλ1000-1100nmおよび消衰係数kλ1000-1100nmが上記範囲を満たしていても、波長1000~1100nmの光線透過率が十分高くならない。また、屈折率nλ600-700nmおよび消衰係数kλ600-700nmが上記範囲を満たしていても、波長600~700nmの光線透過率が十分高くならない。
導電膜12の膜厚tは、300nm以下が好ましく、200nm以下がより好ましく、100nm以下がさらに好ましい。
【0028】
屈折率nλ1000-1100nm、屈折率nλ600-700nmおよび屈折率nλ400-500nmが上記範囲を満たし、かつ消衰係数kλ1000-1100nm、消衰係数kλ600-700nmおよび消衰係数kλ400-500nmが上記範囲を満たす導電膜12は、タンタル(Ta)およびクロム(Cr)のうち少なくとも一方と、窒素(N)およびホウ素(B)のいずれか一方とを含有することが好ましい。具体的には、TaおよびNを含有するTaN膜、TaおよびBを含有するTaB膜、CrおよびNを含有するCrN膜、CrおよびBを含有するCrB膜が挙げられる。これらの中でも、TaN膜が、膜の硬度が高く、膜応力が大きいため好ましい。
【0029】
導電膜12としてTaN膜を用いる場合、TaN膜におけるNの含有率が10at%以上であると、基板11に対するTaN膜の硬度が向上するため好ましく、15at%以上がより好ましく、20at%以上がさらに好ましく、35at%以上が特に好ましい。TaN膜におけるNの含有率が65at%以下であると、TaN膜の表面平滑性が向上し、TaN膜のシート抵抗値が低下するため好ましく、60at%以下がより好ましく、55at%以下がさらに好ましい。
【0030】
導電膜12としてTaB膜を用いる場合、TaB膜におけるBの含有率が10at%以上であると、膜密着性が向上し、表面平滑性が向上するため好ましく、15at%以上がより好ましく、20at%以上がさらに好ましい。TaB膜におけるBの含有率が50at%以下であると、硬度が向上するため好ましく、45at%以下がより好ましく、40at%以下がさらに好ましい。
【0031】
導電膜12としてCrN膜を用いる場合、CrN膜におけるNの含有率が3.0at%以上であると、基板11に対するCrN膜の硬度が向上するため好ましく、3.5at%以上がより好ましく、4.0at%以上がさらに好ましい。CrN膜におけるNの含有率が20.0at%以下であると、CrN膜の表面平滑性が向上し、CrN膜のシート抵抗値が低下するため好ましく、15.0at%以下がより好ましく、10.0at%以下がさらに好ましく、8.0at%以下が特に好ましい。
【0032】
導電膜12としてTaN膜およびCrN膜の積層膜を用いてもよい。上記構成の積層膜は、TaN膜を含有するため、膜の硬度が高く、膜応力が大きい。
上記構成の積層膜を用いる場合、基板11側からTaN膜、CrN膜の順に積層した積層膜を用いることが好ましい。なお、上記構成の積層膜を用いる場合、積層膜の合計膜厚が上記した導電膜12の膜厚を満たす。また、TaN膜におけるNの含有率、およびCrN膜におけるNの含有率は、それぞれ上記した範囲を満たす。
【0033】
また、導電膜12上には更に上層が設けられてもよい。上層はクロム(Cr)と、窒素(N)および酸素(O)からなる群から選択される少なくとも1種の元素とを含有する膜であることが好ましい。導電膜12上に更に上層が設けられることによって、機械特性の向上や、自然酸化膜形成による光学特性変化を抑制することができる。
【0034】
導電膜12の上層としてCrO膜を用いる場合、CrO膜におけるOの含有率が5at%以上であると、CrO膜の硬度が向上するため好ましく、8at%以上がより好ましく、10at%以上がさらに好ましい。CrO膜におけるOの含有率が30at%以下であると、CrO膜の表面平滑性が向上し、CrO膜のシート抵抗値が低下するため好ましく、25at%以下がより好ましく、20at%以下がさらに好ましく、15at%以下が特に好ましい。
【0035】
導電膜12がTaを含有する場合、out of plane XRD法で観測される導電膜12由来の回折ピーク中、Taのbcc(110)面に帰属される回折ピークの半値幅FWHMが1.5~4.0°であることが好ましい。半値幅FWHMが1.5°以上であると、導電膜の結晶化が抑制され、導電膜12表面の平滑性が高くなる。半値幅FWHMは、2.0°以上がより好ましく、3.0°以上がさらに好ましい。
一方、半値幅FWHMが4.0°以下であると、導電膜の結晶性が低くなりすぎないため、膜の硬度が低くならない。そのため、繰り返し使用により摩耗し、重ね合わせ精度が低下することがない。
【0036】
導電膜12は、シート抵抗値が低いと静電チャックによるチャック力が向上するため好ましい。導電膜12のシート抵抗値は、250Ω/□以下が好ましく、200Ω/□以下がより好ましく、150Ω/□以下がさらに好ましく、100Ω/□以下がなおさらに好ましく、80Ω/□以下が特に好ましい。
また、導電膜12のシート抵抗値は、0.1Ω/□以上が好ましく、0.5Ω/□以上がより好ましく、1.0Ω/□以上がさらに好ましい。
【0037】
導電膜12は、表面粗さが小さいと静電チャックとの密着性が向上するため好ましい。導電膜12の表面粗さは、Rq(二乗平均平方根高さ、JIS B0601:2013)で0.600nm以下が好ましく、0.400nm以下がより好ましく、0.200nm以下がさらに好ましく、0.150nm以下が特に好ましく、0.100nm以下が最も好ましい。導電膜12の表面粗さは、Rqで0.030nm以上が好ましく、0.050nm以上がより好ましく、0.070nm以上がさらに好ましい。なお成膜時に用いるガスのガス圧が0.3Pa以上の場合、導電膜の表面粗さは高くなる傾向がある。
【0038】
導電膜12は、表面硬度が高いと静電チャックとの擦れによるパーティクルの発生が抑制されるため好ましい。導電膜12の表面硬度は、10.0GPa以上が好ましい。
また、導電膜12の表面硬度は、16.0GPa以下が好ましく、14.0GPa以下がより好ましく、12.0GPa以下がさらに好ましい。ここで、導電膜12の表面硬度の測定方法は特に限定されず、公知の方法、具体的には例えば、ビッカース硬さ試験、ロックウェル硬さ試験、ブリネル硬さ試験、ナノインデンテーション試験等を用いることができる。これらの中でも、ナノインデンテーション試験は、薄膜の表面硬度を測定する際に広く使用される。
なお、導電膜12として、TaN膜、CrN膜、またはCrN膜およびTaN膜の積層膜を用いれば、導電膜12の表面硬度が高く、表面硬度が10.0GPa以上となる。
【0039】
図1に示すEUVマスクブランク10において、基板11の表面側に形成された反射層13および吸収層14では膜応力が発生する。基板11の裏面側に形成された導電膜12でも膜応力が発生する。EUVマスクブランクでは、基板11の表面側で発生する応力と、基板11の裏面側で発生する応力とが打ち消し合う結果、応力が加わることによって生じる基板の変形を抑制する。
EUVマスクブランクの一例として、下記構成のEUVマスクブランクにおける基板の変形を抑制する場合、基板11の裏面側に導電膜12を形成した導電膜付き基板の平坦度が500nm以下が好ましく、400nm以下がより好ましく、300nm以下がさらに好ましい
基板:SiO
2-TiO
2系ガラス基板(外形152mm角で、厚さ6.3mm)
反射層:Si/Mo多層反射膜(Si膜(4.5nm)およびMo膜(2.3nm)を交互に40周期積層(合計膜厚272nm))
吸収層:TaNH膜(膜厚60nm)
なお、導電膜12として、TaN膜、TaB膜、またはCrN膜およびTaN膜の積層膜を用いれば、導電膜12の膜応力が大きく、導電膜付き基板の平坦度が500nm以下となる。
【0040】
EUVマスクブランクからEUVマスクを作製する際には前処理として熱処理を実施する場合がある。この熱処理により、基板11の表面側に形成された反射層13や吸収層14の膜応力が、膜応力の緩和により低下する。また、基板11の裏面側に形成された導電膜12の膜応力が、膜応力の緩和により低下する。膜応力の緩和により応力が低下すると、基板11の変形が抑制できなくなり、EUVマスクブランクを用いて作製されるEUVマスクに形成されるパターンに位置ずれを生じるおそれがある。
【0041】
導電膜12は、熱処理による膜応力の緩和が少ないことが好ましい。熱処理の前後に測定した導電膜付き基板の平坦度の差を、熱処理による膜応力の緩和の指標にできる。基板11の裏面側に導電膜12を形成した導電膜付き基板を136℃で20分間熱処理した場合に、熱処理の前後に測定した導電膜付き基板の下記式で求まる平坦度(反り)の熱緩和率が15%以下が好ましく、12%以下がより好ましく、10%以下がさらに好ましい。下限は特に制限されないが、例えば1.0%以上である。
平坦度の熱緩和率(%)={(熱処理前のTaN導電膜付き基板の平坦度-熱処理後のTaN導電膜付き基板の平坦度)/熱処理前のTaN導電膜付き基板の平坦度}×100
なお、上記平坦度は、フジノン社製平坦度測定機を用いて測定する。
【0042】
導電膜12は、公知の成膜方法、例えば、マグネトロンスパッタリング法、イオンビームスパッタリング法といったスパッタリング法により形成できる。
スパッタリング法によって、例えば、導電膜12として、TaN膜を形成する場合、ヘリウム(He)、アルゴン(Ar)、ネオン(Ne)、クリプトン(Kr)、キセノン(Xe)のうち少なくともひとつを含む不活性ガスと、窒素(N2)と、を含む雰囲気中で、Taターゲットを用いてスパッタリング法を実施すればよい。マグネトロンスパッタリング法を用いる場合、具体的には以下の成膜条件で実施すればよい。
ターゲット:Taターゲット
スパッタリングガス:ArとN2の混合ガス(N2ガス濃度:好ましくは2~50vol%、より好ましくは2~40vol%、さらに好ましくは2~30vol%。ガス圧:好ましくは1×10-1Pa~3×10-1Pa、より好ましくは1×10-1Pa~2×10-1Pa、さらに好ましくは1×10-1Pa~1.5×10-1Pa。)
投入電力:好ましくは300~1500W、より好ましくは500~1000W
成膜速度:好ましくは0.010~0.200nm/sec、より好ましくは0.050~0.100nm/sec
【0043】
スパッタリング法によって、例えば、導電膜12として、TaB膜を形成する場合、ヘリウム(He)、アルゴン(Ar)、ネオン(Ne)、クリプトン(Kr)、キセノン(Xe)のうち少なくともひとつを含む不活性ガスを含む雰囲気中で、TaターゲットおよびBターゲット、またはTaB化合物ターゲットを用いてスパッタリング法を実施すればよい。マグネトロンスパッタリング法を用いる場合、具体的には以下の成膜条件で実施すればよい。
ターゲット:TaターゲットおよびBターゲット、またはTaB化合物ターゲット
スパッタリングガス:Arガス(ガス圧:好ましくは1.0×10-1Pa~5.0×10-1Pa、より好ましくは1.0×10-1Pa~4.0×10-1Pa、さらに好ましくは1.0×10-1Pa~3.0×10-1Pa。)
投入電力:好ましくは300~1500W、より好ましくは500~1000W
成膜速度:好ましくは0.010~0.200nm/sec、より好ましくは0.010~0.100nm/sec
【0044】
スパッタリング法によって、例えば、導電膜12として、CrN膜を形成する場合、ヘリウム(He)、アルゴン(Ar)、ネオン(Ne)、クリプトン(Kr)、キセノン(Xe)のうち少なくともひとつを含む不活性ガスと、窒素(N2)と、を含む雰囲気中で、Crターゲットを用いてスパッタリング法を実施すればよい。マグネトロンスパッタリング法を用いる場合、具体的には以下の成膜条件で実施すればよい。
ターゲット:Crターゲット
スパッタリングガス:ArとN2の混合ガス(N2ガス濃度:好ましくは20~60vol%、より好ましくは30~60vol%、さらに好ましくは40~60vol%。ガス圧:好ましくは1×10-1Pa~3×10-1Pa、より好ましくは1×10-1Pa~2×10-1Pa、さらに好ましくは1×10-1Pa~1.5×10-1Pa。)
投入電力:好ましくは300~2000W、より好ましくは500~2000W
成膜速度:好ましくは0.010~0.200nm/sec、より好ましくは0.050~0.200nm/sec
【0045】
スパッタリング法によって、例えば、導電膜12上に上層として、CrO膜を形成する場合、ヘリウム(He)、アルゴン(Ar)、ネオン(Ne)、クリプトン(Kr)、キセノン(Xe)のうち少なくともひとつを含む不活性ガスと、酸素(O2)と、を含む雰囲気中で、Crターゲットを用いてスパッタリング法を実施すればよい。マグネトロンスパッタリング法を用いる場合、具体的には以下の成膜条件で実施すればよい。
ターゲット:Crターゲット
スパッタリングガス:ArとO2の混合ガス(O2ガス濃度:好ましくは10~40vol%、より好ましくは20~40vol%、さらに好ましくは30~40vol%。ガス圧:好ましくは1×10-1Pa~2.0×10-1Pa、より好ましくは1×10-1Pa~1.8×10-1Pa、さらに好ましくは1×10-1Pa~1.6×10-1Pa。)
投入電力:好ましくは300~1000W、より好ましくは500~1000W
成膜速度:好ましくは0.010~0.200nm/sec、より好ましくは0.050~0.200nm/sec
【0046】
反射層13は、EUVマスクブランクの反射層として所望の特性を有する限り特に限定されない。ここで、反射層13に特に要求される特性は、高EUV光線反射率である。具体的には、EUV光の波長領域の光線を入射角6度で反射層13表面に照射した際に、波長13.5nm付近の光線反射率の最大値は、60%以上が好ましく、65%以上がより好ましい。
【0047】
反射層13としては、高EUV光線反射率を達成できるため、通常は高屈折率層と低屈折率層とを交互に複数回積層させた多層反射膜が使用される。反射層13をなす多層反射膜において、高屈折率層には、Moが広く使用され、低屈折率層にはSiが広く使用される。すなわち、Mo/Si多層反射膜が最も一般的である。但し、多層反射膜はこれに限定されず、Ru/Si多層反射膜、Mo/Be多層反射膜、Mo化合物/Si化合物多層反射膜、Si/Mo/Ru多層反射膜、Si/Mo/Ru/Mo多層反射膜、Si/Ru/Mo/Ru多層反射膜も使用できる。
【0048】
反射層13をなす多層反射膜を構成する各層の膜厚および層の繰り返し単位の数は、使用する膜材料および反射層に要求されるEUV光線反射率に応じて適宜選択できる。Mo/Si多層反射膜を例にとると、EUV光線反射率の最大値が60%以上の反射層13とするには、多層反射膜は膜厚2.3±0.1nmのMo層と、膜厚4.5±0.1nmのSi層とを繰り返し単位数が30~60になるように積層させればよい。
【0049】
なお、反射層13をなす多層反射膜を構成する各層は、マグネトロンスパッタリング法、イオンビームスパッタリング法等、周知の成膜方法を用いて所望の厚さに成膜すればよい。例えば、イオンビームスパッタリング法を用いてSi/Mo多層反射膜を形成する場合、ターゲットとしてSiターゲットを用い、スパッタガスとしてArガス(ガス圧1.3×10-2~2.7×10-2Pa)を使用して、イオン加速電圧300~1500V、成膜速度0.030~0.300nm/secで厚さ4.5nmになるようにSi膜を成膜し、次に、ターゲットとしてMoターゲットを用い、スパッタガスとしてArガス(ガス圧1.3×10-2~2.7×10-2Pa)を使用して、イオン加速電圧300V~1500V、成膜速度0.030~0.300nm/secで厚さ2.3nmになるようにMo膜を成膜するのが好ましい。これを1周期として、Si膜およびMo膜を40~50周期積層することによりSi/Mo多層反射膜が成膜される。
【0050】
吸収層14に特に要求される特性は、EUV光線反射率が極めて低いことである。具体的には、EUV光の波長領域の光線を吸収層14表面に照射した際の、波長13.5nm付近の最大光線反射率は、5%以下が好ましく、3%以下がより好ましく、1%以下がさらに好ましい。
上記の特性を達成するため、吸収層14は、EUV光の吸収係数が高い材料で構成される。EUV光の吸収係数が高い材料としては、タンタル(Ta)を主成分とする材料を用いることが好ましい。本明細書において、タンタル(Ta)を主成分とする材料と言った場合、当該材料中Taを20at%以上含有する材料を意味する。吸収層14は、30at%以上Taを含有することが好ましく、35at%以上含有することがより好ましく、40at%以上含有することがさらに好ましく、45at%以上含有することが特に好ましく、50at%以上含有することが最も好ましい。
【0051】
吸収層14に用いるTaを主成分とする材料は、Ta以外にハフニウム(Hf)、ケイ素(Si)、ジルコニウム(Zr)、ゲルマニウム(Ge)、ホウ素(B)、パラジウム(Pd)、錫(Sn)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、銀(Ag)、カドミウム(Cd)、インジウム(In)、アンチモン(Sb)、タングステン(W)、レニウム(Re)、オスミウム(Os)、イリジウム(Ir)、白金(Pt)、金(Au)、タリウム(Tl)、鉛(Pb)、ビスマス(Bi)、炭素(C)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、モリブデン(Mo)、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)、カルシウム(Ca)、マグネシウム(Mg)、アルミニウム(Al)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、ガリウム(Ga)、ヒ素(As)、セレン(Se)、テルル(Te)、水素(H)および窒素(N)のうち少なくとも1成分を含有することが好ましい。Ta以外の上記の元素を含有する材料の具体例としては、例えば、TaN、TaNH、TaHf、TaHfN、TaBSi、TaBSiN、TaB、TaBN、TaSi、TaSiN、TaGe、TaGeN、TaZr、TaZrN、TaPd、TaSn、TaPdN、TaSn、TaCr、TaMn、TaFe、TaCo、TaAg、TaCd、TaIn、TaSb、TaW等が挙げられる。
【0052】
上記した構成の吸収層14は、マグネトロンスパッタリング法やイオンビームスパッタリング法のようなスパッタリング法等の成膜方法を用いて形成できる。
例えば、吸収層14として、マグネトロンスパッタリング法を用いてTaNH膜を形成する場合、ターゲットとしてTaターゲットを用い、スパッタリングガスとして、ArとN2とH2の混合ガス(H2ガス濃度:1~30vol%、N2ガス濃度:5~75vol%、Arガス濃度:10~94vol%、ガス圧:0.5×10-1~1.0Pa)、投入電力300~2000W、成膜速度0.5~60nm/minで、厚さ20~90nmとなるように成膜することが好ましい。
【0053】
本実施形態のEUVマスクブランク10は、
図1に示す構成、すなわち、基板11、導電膜12、反射層13、および吸収層14以外の構成を有していてもよい。
【0054】
本実施形態のEUVマスクブランクにおいては、反射層13と吸収層14との間に保護層が形成されてもよい。保護層はエッチングプロセス、通常はドライエッチングプロセスにより吸収層14にパターン形成する際に、反射層13がエッチングプロセスによりダメージを受けないよう、反射層13の保護を目的として設けられる。したがって保護層の材質としては、吸収層14のエッチングプロセスによる影響を受けにくい、つまりこのエッチング速度が吸収層14よりも遅く、しかもこのエッチングプロセスによるダメージを受けにくい物質が選択される。上記の特性を満たすため、保護層は、ルテニウム(Ru)を含有する材料からなることが好ましい。Ruを含有する材料の具体例としては、RuおよびRu化合物(RuB、RuSi、RuNb、RuTi、RuY、RuZr、RuLa等)が例示される。Ruを含有する材料としては、当該材料中にRuを40.0at%以上含有する材料が好ましく、より好ましくは50.0at%以上、さらに好ましくは55.0at%以上含有する材料である。
保護層を形成する場合、その厚さは1~20nmが好ましく、1~5nmがより好ましい。
【0055】
保護層を形成する場合、マグネトロンスパッタリング法、イオンビームスパッタリング法など周知の成膜方法を用いて成膜する。マグネトロンスパッタリング法によりRu膜を成膜する場合、ターゲットとしてRuターゲットを用い、スパッタガスとしてArガス(ガス圧1.0×10-2~10×10-1Pa)を使用して投入電圧30~1500V、成膜速度0.020~1.000nm/secで厚さ2~5nmとなるように成膜するのが好ましい。
【0056】
なお、反射層13の上に保護層を設けた場合であっても、波長13.5nm付近の光線反射率の最大値は、60%以上が好ましく、63%以上がより好ましく、65%以上がさらに好ましい。
【0057】
さらに、本実施形態のEUVマスクブランクにおいては、吸収層14上にマスクパターンの検査に使用する検査光における低反射層が形成されていてもよい。
低反射層はマスクパターンの検査に使用する検査光において、低反射となるような膜で構成される。EUVマスクを作製する際、吸収層にパターンを形成した後、このパターンが設計通りに形成されているかどうか検査する。このマスクパターンの検査では、検査光として通常257nm程度の光を使用した検査機が使用される。つまり、この257nm程度の光の反射率の差、具体的には、吸収層がパターン形成により除去されて露出した面と、パターン形成により除去されずに残った吸収層表面との反射率の差によって検査される。ここで、前者は反射層表面または保護層表面であり、通常は保護層表面である。したがって、検査光の波長に対する反射層表面または保護層表面と、吸収層表面と、の反射率の差が小さいと検査時のコントラストが悪くなり、正確な検査ができないことになる。検査光の波長に対する反射層表面または保護層表面と、吸収層表面と、の反射率の差が小さい場合は、低反射層の形成により、検査時のコントラストが良好となる。吸収層上に低反射層を形成する場合、該低反射層は、検査光の波長領域の光線を低反射層表面に照射した際に、該検査光の波長の最大光線反射率は、15%以下が好ましく、10%以下がより好ましく、5%以下がさらに好ましい。
【0058】
低反射層は、上記の特性を達成するため、検査光の波長の屈折率が吸収層よりも低い材料で構成されることが好ましい。
この特性を満たす低反射層としては、タンタル(Ta)、パラジウム(Pd)、クロム(Cr)、ケイ素(Si)、ハフニウム(Hf)からなる群から選ばれる少なくともひとつと、酸素(O)および窒素(N)からなる群から選ばれる少なくともひとつと、を含有するものがある。このような低反射層の好適例としては、TaPdO層、TaPdON層、TaON層、CrO層、CrON層、SiON層、SiN層、HfO層、HfON層が挙げられる。
低反射層中のTa、Pd、Cr、Si、Hfの合計含有率は、10~55at%、特に10~50at%であると、パターン検査光の波長領域に対する光学特性を制御できるという理由で好ましい。
また、低反射層中におけるOおよびNの合計含有率が、45~90at%、特に50~90at%であると、パターン検査光の波長領域に対する光学特性を制御できるという理由で好ましい。なお、該低反射層中のTa、Pd、Cr、Si、Hf、OおよびNの合計含有率は95~100at%が好ましく、97~100at%がより好ましく、99~100at%がさらに好ましい。
【0059】
上記した構成の低反射層は、Ta、Pd、Cr、SiおよびHfのうち少なくともひとつ、を含有するターゲットを用いてスパッタリング法を行うことにより形成できる。ここで、ターゲットとしては、上記した2種類以上の金属ターゲット、および、化合物ターゲットのいずれも使用できる。
なお、2種類以上の金属ターゲットの使用は、低反射層の構成成分を調整するのに好都合である。なお、2種類以上の金属ターゲットを使用する場合、ターゲットへの投入電力を調整することによって、吸収層の構成成分を調整できる。一方、化合物ターゲットを使用する場合、形成される低反射層が所望の組成となるように、ターゲット組成をあらかじめ調整することが好ましい。
【0060】
上記のターゲットを用いたスパッタリング法は、吸収層の形成を目的とするスパッタリング法と同様、不活性ガス雰囲気中で実施できる。
但し、低反射層が酸素(O)を含有する場合、He、Ar、Ne、KrおよびXeのうち少なくともひとつと、O2と、を含む不活性ガス雰囲気中でスパッタリング法を実施する。低反射層がNを含有する場合、He、Ar、Ne、KrおよびXeのうち少なくともひとつと、N2と、を含む不活性ガス雰囲気中でスパッタリング法を実施する。低反射層がOおよびNを含有する場合、He、Ar、Ne、KrおよびXeのうち少なくともひとつと、O2およびN2と、を含む不活性ガス雰囲気中でスパッタリング法を実施する。
【0061】
具体的なスパッタリング法の実施条件は、使用するターゲットやスパッタリング法を実施する不活性ガス雰囲気の組成によっても異なるが、いずれの場合においても以下の条件でスパッタリング法を実施すればよい。
不活性ガス雰囲気がArとO2の混合ガス雰囲気の場合を例に低反射層の形成条件を以下に示す。
低反射層の形成条件
ガス圧:1.0×10-1~50×10-1Pa、好ましくは1.0×10-1~40×10-1Pa、より好ましくは1.0×10-1~30×10-1Pa。
スパッタリングガス:ArとO2の混合ガス(O2ガス濃度:3~80vol%、好ましくは5~60vol%、より好ましくは10~40vol%)
投入電力:30~1000W、好ましくは50~750W、より好ましくは80~500W
成膜速度:0.01~60nm/min、好ましくは0.05~45nm/min、より好ましくは0.1~30nm/min
なお、Ar以外の不活性ガスあるいは複数の不活性ガスを使用する場合、その不活性ガスの合計濃度が上記したArガス濃度と同じ濃度範囲にする。また、不活性ガス雰囲気がN2を含有する場合はN2濃度、不活性ガス雰囲気がN2およびO2を含有する場合、その合計濃度を上記した酸素濃度と同じ濃度範囲にする。
【0062】
なお、本実施形態のEUVマスクブランクにおいて、吸収層上に低反射層を形成することが好ましいのは、パターンの検査光の波長とEUV光の波長とが異なるからである。したがって、パターンの検査光としてEUV光(13.5nm付近)を使用する場合、吸収層上に低反射層を形成する必要はないと考えられる。検査光の波長は、パターン寸法が小さくなるに伴い短波長側にシフトする傾向があり、将来的には193nm、さらには13.5nmにシフトすることも考えられる。検査光の波長が13.5nmである場合、吸収層上に低反射層を形成する必要はないと考えられる。
【0063】
本実施形態のEUVマスクブランクにおいて、吸収層14上(吸収層上に低反射層が形成されている場合は吸収層上)に、日本国特開2009-54899号公報や日本国特開2009-21582号公報に記載のハードマスク層、すなわち、吸収層(吸収層上に低反射層が形成されている場合は吸収層および低反射層)のエッチング条件に対して耐性を有する材料の層、が形成されていてもよい。このようなハードマスク層を形成して、吸収層(吸収層上に低反射層が形成されている場合は吸収層および低反射層)のエッチング条件における吸収層(吸収層上に低反射層が形成されている場合は吸収層および低反射層)とハードマスク層とのエッチング選択比、具体的には、吸収層(吸収層上に低反射層が形成されている場合は吸収層および低反射層)のエッチング条件での吸収層のエッチングレート(吸収層上に低反射層が形成されている場合は吸収層および低反射層のエッチングレート)と、ハードマスク層のエッチングレートと、の比を高めることで、レジストを薄膜化できる。
【0064】
次に、本実施形態の導電膜付き基板について説明する。本実施形態の導電膜付き基板は、基板上に導電膜を有する。ここで、基板および導電膜は、本実施形態のEUVマスクブランクにおける基板および導電膜と同じである。すなわち、本実施形態のEUVマスクブランクは、本実施形態の導電膜付き基板の前記導電膜が設けられた面の反対側の面に反射層と吸収層を形成してなる。
【実施例】
【0065】
以下に例1~10を用いて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。なお、例1~3、5、10は実施例であり、例4、6~9は比較例である。
【0066】
<例1>
本例では、基板の一方の面に導電膜としてTaN膜を形成した。
成膜用の基板として、SiO2-TiO2系のガラス基板(外形6インチ(152mm)角、厚さが6.3mm)を使用した。このガラス基板の20℃における熱膨張係数は0.02×10-7/℃、ヤング率は67GPa、ポアソン比は0.17、比剛性は3.07×107m2/s2である。このガラス基板を研磨により、表面粗さ(Rq)が0.15nm以下の平滑な表面と100nm以下の平坦度に形成した。
【0067】
基板の一方の面側に、導電膜として、TaN膜を、マグネトロンスパッタリング法を用いて成膜した。TaN膜の成膜条件は以下のとおりである。
ターゲット:Taターゲット
スパッタリングガス:ArとN2との混合ガス(Ar:90vol%、N2:10vol%、ガス圧:0.12Pa)
投入電力:1000W
成膜速度:6nm/min
膜厚:56nm
【0068】
(TaN膜の組成分析)
TaN膜の組成を、ラザフォード後方散乱分析装置X線光電子分光装置(Rutherford Backscattering Spectrometry:RBS)を用いて測定した。TaN膜のN含有率は21.0at%であった。
【0069】
(屈折率n、消衰係数k)
形成したTaN膜について、波長1000~1100nmの屈折率nλ1000-1100nm、および消衰係数kλ1000-1100nmを分光エリプソメーター(メーカ:J.A.Woollam社製、型式:M2000-DI)を用いて求めた。TaN膜が形成されている側の面から光線を入射し、偏光状態を室温にて測定、解析を実施して、波長1000~1100nmにおける屈折率nλ1000-1100nm、および消衰係数kλ1000-1100nmを算出した。また、同様の手順で、波長600~700nmにおける屈折率nλ600-700nm、および消衰係数kλ600-700nm、ならびに波長400~500nmにおける屈折率nλ400-500nm、および消衰係数kλ400-500nmを算出した。結果を表2に示す。
【0070】
(光線透過率)
TaN膜成膜後の基板について、TaN膜が形成されている側の面から光線を垂直に入射し、175~2000nmの波長範囲で光線透過率を、分光光度計(メーカ:日立ハイテクノロジー社製、型式:U-4100)を用いて測定し、波長1000~1100nmにおける光線透過率、波長600~700nmにおける光線透過率、および波長400~500nmにおける光線透過率を求めた。波長1000~1100nmの光線透過率が1.0%以上、波長600~700nmの光線透過率が1.0%以上、および波長400~500nmの光線透過率が1.0%以下を満たす場合は〇とし、これらのうちいずれか1つでも満たさない場合は×とした。結果を表1に示す。
【0071】
(XRD 半値幅FWHM)
TaN膜に対し、out of plane XRD法による測定を実施した。TaN膜由来の回折ピーク中、Taのbcc(110)面に帰属される回折ピークのメインピーンを回折角30~40°の範囲について半値幅FWHMを測定した。結果を表1に示す。
【0072】
(表面硬度)
ナノインデンテーション試験により、TaN膜の表面硬度を測定した。表面硬度が10.0GPa以上の場合は〇とし、表面硬度が10.0GPa未満の場合は×とした。結果を表1に示す。
【0073】
(シート抵抗値)
TaN膜のシート抵抗値を四探針測定器を用いて測定した。シート抵抗値が250Ω/□以下の場合は〇とし、250Ω/□超の場合は×とした。
【0074】
(表面粗さ)
表面粗さ(二乗平均面粗さRQ)はSII社製の原子間力顕微鏡(AFM)で2μm×2μmの範囲で測定した。
【0075】
(平坦度の熱緩和率)
TaN膜形成後のTaN膜付基板の平坦度を、フジノン社製平坦度測定機を用いて測定した。次に、TaN膜付基板を136℃で20分間熱処理した後のTaN膜付基板の平坦度を、フジノン社製平坦度測定機を用いて測定した。次に、下記式により平坦度の熱緩和率を算出し、平坦度の熱緩和率が15%以下の場合は〇とし、15%超の場合は×とした。
平坦度の熱緩和率(%)={(熱処理前のTaN膜付基板の平坦度-熱処理後のTaN膜付基板の平坦度)/熱処理前のTaN膜付基板の平坦度}×100
【0076】
<例2>
本例では、基板の一方の面に導電膜として、TaN膜およびCrN膜の積層膜をマグネトロンスパッタリング法を用いて成膜した。
TaN膜およびCrN膜の成膜条件はそれぞれ以下のとおりである。
(TaN膜)
ターゲット:Taターゲット
スパッタリングガス:ArとN2の混合ガス(Ar:60vol%、N2:40vol%、ガス圧:0.11Pa)
投入電力:1000W
成膜速度:3.9nm/min
膜厚:23nm
(CrN膜)
ターゲット:Crターゲット
スパッタリングガス:ArとN2の混合ガス(Ar:53vol%、N2:47vol%、ガス圧:0.10Pa)
投入電力:1700W
成膜速度:11.4nm/min
膜厚:26nm
【0077】
(TaN膜およびCrN膜の組成分析)
TaN膜およびCrN膜の組成をRBSを用いて測定した。TaN膜のN含有率は59.0at%であり、CrN膜のN含有率は4.2at%であった。
(屈折率n、消衰係数k)
積層体の屈折率nおよび消衰係数kを例1と同様の手順で測定した。結果を表2に示す。なお、表2に記載の屈折率n、消衰係数kはTaN膜の値を示しており、CrN膜の屈折率n、消衰係数kは、例3、4および9の値と同じであった。
(光線透過率)
積層膜の光線透過率を例1と同様の手順で測定した。結果を表1に示す。
(XRD 半値幅FWHM)
TaN膜に対し、out of plane XRD法による測定を実施し、TaN膜由来の回折ピーク中、Taのbcc(110)面に帰属される回折ピークのメインピーンを回折角30~40°の範囲について半値幅FWHMを測定した。結果を表1に示す。
(表面硬度)
積層膜の表面硬度を例1と同様の手順で測定した。結果を表1に示す。
(シート抵抗値)
積層膜のシート抵抗値を四探針測定器を用いて測定した。結果を表1に示す。
(表面粗さ)
積層体の表面粗さを例1と同様の手順で測定した。結果を表1に示す。
(平坦度の熱緩和率)
積層膜付基板の平坦度の熱緩和率を例1と同様の手順で測定した。結果を表1に示す。
【0078】
<例3>
本例では、基板の一方の面に導電膜として、CrN膜をマグネトロンスパッタリング法を用いて成膜した。
CrN膜の成膜条件は以下のとおりである。
ターゲット:Crターゲット
スパッタリングガス:ArとN2の混合ガス(Ar:53vol%、N2:47vol%、ガス圧:0.10Pa)
投入電力:1700W
成膜速度:11.4nm/min
膜厚:40nm
(CrN膜の組成分析)
CrN膜の組成をRBSを用いて測定した。CrN膜のN含有率は4.2at%であった。
(屈折率n、消衰係数k)
CrN膜の屈折率nおよび消衰係数kを例1と同様の手順で測定した。結果を表2に示す。
(光線透過率)
CrN膜の光線透過率を例1と同様の手順で測定した。結果を表1に示す。
(表面硬度)
CrN膜の表面硬度を例1と同様の手順で測定した。結果を表1に示す。
(シート抵抗値)
CrN膜のシート抵抗値を四探針測定器を用いて測定した。結果を表1に示す。
(平坦度の熱緩和率)
CrN膜付基板の平坦度の熱緩和率を例1と同様の手順で測定した。結果を表1に示す。
【0079】
<例4>
本例は、CrN膜の膜厚を360nmとした以外、例3と同様の手順を実施した。
CrN膜の組成分析
CrN膜の組成をRBSを用いて測定した。CrN膜のN含有率は4.2at%であった。
(屈折率n、消衰係数k)
CrN膜の屈折率nおよび消衰係数kを例1と同様の手順で測定した。結果を表2に示す。
(光線透過率)
CrN膜の光線透過率を例1と同様の手順で測定した。結果を表1に示す。
(表面硬度)
CrN膜の表面硬度を例1と同様の手順で測定した。結果を表1に示す。
(シート抵抗値)
CrN膜のシート抵抗値を四探針測定器を用いて測定した。結果を表1に示す。
(平坦度の熱緩和率)
CrN膜付基板の平坦度の熱緩和率を例1と同様の手順で測定した。結果を表1に示す。
【0080】
<例5>
本例では、基板の一方の面に導電膜として、TaB膜をマグネトロンスパッタリング法を用いて成膜した。
TaB膜の成膜条件は以下のとおりである。
ターゲット:TaB化合物ターゲット
スパッタリングガス:Arガス(ガス圧:0.205Pa)
投入電力:1000W
成膜速度:1.67nm/min
膜厚:56nm
【0081】
(TaB膜の組成分析)
TaB膜の組成をRBSを用いて測定した。TaB膜のN含有率は0.0at%であった。
(屈折率n、消衰係数k)
TaB膜の屈折率nおよび消衰係数kを例1と同様の手順で測定した。結果を表2に示す。
(光線透過率)
積層膜の光線透過率を例1と同様の手順で測定した。結果を表1に示す。
(XRD 半値幅FWHM)
TaB膜に対し、out of plane XRD法による測定を実施し、TaB膜由来の回折ピーク中、Taのbcc(110)面に帰属される回折ピークのメインピーンを回折角30~40°の範囲について半値幅FWHMを測定した。結果を表1に示す。
(表面硬度)
TaB膜の表面硬度を例1と同様の手順で測定した。結果を表1に示す。
(シート抵抗値)
TaB膜のシート抵抗値を四探針測定器を用いて測定した。結果を表1に示す。
(表面粗さ)
TaB膜の表面粗さを例1と同様の手順で測定した。結果を表1に示す。
(平坦度の熱緩和率)
TaB膜付基板の平坦度の熱緩和率を例1と同様の手順で測定した。結果を表1に示す。
【0082】
<例6>
本例では、基板の一方の面に導電膜として、TaON膜をマグネトロンスパッタリング法を用いて成膜した。
TaON膜の成膜条件は以下のとおりである。
ターゲット:Taターゲット
スパッタリングガス:N2とO2の混合ガス(N2:88vol%、O2:12vol%、ガス圧:0.18Pa)
投入電力:1000W
成膜速度:0.9nm/min
膜厚:60nm
【0083】
(屈折率n、消衰係数k)
TaON膜の屈折率nおよび消衰係数kを例1と同様の手順で測定した。結果を表2に示す。
(光線透過率)
TaON膜の光線透過率を例1と同様の手順で測定した。結果を表1に示す。
(シート抵抗値)
TaON膜のシート抵抗値を四探針測定器を用いて測定した。結果を表1に示す。
【0084】
<例7>
本例では、基板の一方の面に導電膜として、CrON膜をマグネトロンスパッタリング法を用いて成膜した。
CrON膜の成膜条件は以下のとおりである。
ターゲット:Crターゲット
スパッタリングガス:ArとN2とO2の混合ガス(Ar:33vol%、N2:22vol%、O2:45vol%、ガス圧:0.09Pa)
投入電力:750W
成膜速度:1.86nm/min
膜厚:60nm
【0085】
(屈折率n、消衰係数k)
CrON膜の屈折率nおよび消衰係数kを例1と同様の手順で測定した。結果を表2に示す。
(光線透過率)
CrON膜の光線透過率を例1と同様の手順で測定した。結果を表1に示す。
【0086】
<例8>
本例では、TaN膜の膜厚を17nmとした以外、例1と同様の手順を実施した。
(屈折率n、消衰係数k)
TaN膜の屈折率nおよび消衰係数kを例1と同様の手順で測定した。結果を表2に示す。
(光線透過率)
TaN膜の光線透過率を例1と同様の手順で測定した。結果を表1に示す。
(平坦度の熱緩和率)
TaN膜付基板の平坦度の熱緩和率を例1と同様の手順で測定した。結果を表1に示す。
【0087】
<例9>
本例では、CrN膜の膜厚を12nmとした以外、例3と同様の手順を実施した。
(屈折率n、消衰係数k)
CrN膜の屈折率nおよび消衰係数kを例1と同様の手順で測定した。結果を表2に示す。
(光線透過率)
CrN膜の光線透過率を例1と同様の手順で測定した。結果を表1に示す。
(平坦度の熱緩和率)
CrN膜付基板の平坦度の熱緩和率を例1と同様の手順で測定した。結果を表1に示す。
【0088】
<例10>
本例では、基板の一方の面に導電膜としてTaN膜、さらに上層としてCrO膜をマグネトロンスパッタリング法を用いて成膜した。TaN膜の膜厚を変化させた以外は、例2のTaN膜と同様の成膜条件で成膜した。
TaN膜およびCrO膜の成膜条件はそれぞれ以下のとおりである。
(TaN膜)
ターゲット:Taターゲット
スパッタリングガス:ArとN2の混合ガス(Ar:60vol%、N2:40vol%、ガス圧:0.11Pa)
投入電力:1000W
成膜速度:3.9nm/min
膜厚:30nm
(CrO膜)
ターゲット:Crターゲット
スパッタリングガス:ArとO2の混合ガス(Ar:66vol%、O2:34vol%、ガス圧:0.16Pa)
投入電力:750W
成膜速度:9.0nm/min
膜厚:27nm
【0089】
(TaN膜およびCrO膜の組成分析)
TaN膜およびCrO膜の組成をRBSを用いて測定した。TaN膜のN含有率は59.0at%であり、CrO膜のO含有率は15.0at%であった。
(屈折率n、消衰係数k)
積層体の屈折率nおよび消衰係数kを例1と同様の手順で測定した。結果を表2に示す。なお、表2に記載の屈折率n、消衰係数kはCrO膜の値を示しており、TaN膜の屈折率n、消衰係数kは、例2のTaN膜の値と同じであった。
(光線透過率)
積層膜の光線透過率を例1と同様の手順で測定した。結果を表1に示す。
(表面硬度)
積層膜の表面硬度を例1と同様の手順で測定した。結果を表1に示す。
(シート抵抗値)
積層膜のシート抵抗値を四探針測定器を用いて測定した。結果を表1に示す。
(表面粗さ)
積層体の表面粗さを例1と同様の手順で測定した。結果を表1に示す。
(平坦度の熱緩和率)
積層膜付基板の平坦度の熱緩和率を例1と同様の手順で測定した。結果を表1に示す。
【0090】
【0091】
【0092】
屈折率nλ1000-1100nmが5.300以下、消衰係数kλ1000-1100nmが5.200以下、屈折率nλ600-700nmが4.300以下、消衰係数kλ600-700nmが4.500以下、屈折率nλ400-500nmが2.600以上、消衰係数kλ400-500nmが0.440以上であり、導電膜の膜厚tが40~350nmの例1、2、3、5、10は、光線透過率の評価が〇であった。
導電膜12がTaN膜の例1、CrN膜およびTaN膜の積層膜の例2、TaB膜の例5、ならびにTaN膜に上層としてCrO膜を設けた例10は、導電膜付き基板の平坦度の熱緩和率の評価が〇であった。
導電膜12がTaN膜の例1、CrN膜およびTaN膜の積層膜の例2、ならびにCrN膜の例3は、導電膜12の表面硬度が10.0GPa以上であり、表面硬度が〇であった。
屈折率nλ400-500nmが2.500未満、消衰係数kλ400-500nmが0.440未満の例6、7は、波長400~500nmの光線透過率が1.0%超と高く、光線透過率の評価が×であった。
導電膜の膜厚tが350nm超の例4は、波長1000~1100nmの光線透過率、および波長600~700nmの光線透過率がいずれも0.0%であり、光線透過率の評価が×であった。
導電膜の膜厚tが40nm未満の例8、9は、波長400~500nmの光線透過率が1.0%超と高く、光線透過率の評価が×であった。
【0093】
本発明を詳細にまた特定の実施態様を参照して説明したが、本発明の精神と範囲を逸脱することなく様々な変更や修正を加えることができることは当業者にとって明らかである。本出願は2021年9月28日出願の日本特許出願(特願2021-157976)に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。
【符号の説明】
【0094】
10:EUVマスクブランク
11:基板
12:導電膜
13:反射層(多層反射膜)
14:吸収層