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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-21
(45)【発行日】2024-10-29
(54)【発明の名称】紫外光照射システム及び紫外光照射方法
(51)【国際特許分類】
   A61L 2/10 20060101AFI20241022BHJP
【FI】
A61L2/10
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2023503268
(86)(22)【出願日】2021-03-03
(86)【国際出願番号】 JP2021008270
(87)【国際公開番号】W WO2022185458
(87)【国際公開日】2022-09-09
【審査請求日】2023-07-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100119677
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100160495
【弁理士】
【氏名又は名称】畑 雅明
(74)【代理人】
【識別番号】100115794
【弁理士】
【氏名又は名称】今下 勝博
(72)【発明者】
【氏名】谷口 友宏
(72)【発明者】
【氏名】成川 聖
(72)【発明者】
【氏名】岩城 亜弥子
(72)【発明者】
【氏名】桐原 誉人
(72)【発明者】
【氏名】中島 和秀
(72)【発明者】
【氏名】松井 隆
(72)【発明者】
【氏名】半澤 信智
(72)【発明者】
【氏名】寒河江 悠途
(72)【発明者】
【氏名】深井 千里
【審査官】葛谷 光平
(56)【参考文献】
【文献】特表2001-524354(JP,A)
【文献】特開2007-7232(JP,A)
【文献】特開2005-13723(JP,A)
【文献】特表2020-513268(JP,A)
【文献】特開2006-337399(JP,A)
【文献】特開昭56-51713(JP,A)
【文献】特開平10-257026(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L 2/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
紫外光を発生させる紫外光源部と、
前記紫外光を所望箇所に照射するN個(Nは自然数)の照射部と、
を備える紫外光照射システムであって、
前記紫外光源部と前記照射部との間に伝搬区間と供給区間があり、
前記伝搬区間では、前記紫外光源部が発生した前記紫外光を空間分割多重方式で伝搬し、
前記供給区間では、空間分割多重された前記伝搬区間の前記紫外光を合波し、合波した前記紫外光を単一コア光ファイバで前記照射部へ伝搬する
ことを特徴とする紫外光照射システム。
【請求項2】
前記紫外光源部は、
複数の光源を有し、
それぞれの前記光源から出力された前記紫外光を空間分割多重することを特徴とする請求項1に記載の紫外光照射システム。
【請求項3】
前記紫外光源部は、
前記紫外光を分岐する光分岐部を有し、
分岐されたそれぞれの前記紫外光を空間分割多重することを特徴とする請求項1に記載の紫外光照射システム。
【請求項4】
N=1である場合、前記伝搬区間と前記供給区間との間に、空間分割多重されて前記伝搬区間を伝搬された前記紫外光を全て合波する光合成部をさらに備えることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の紫外光照射システム。
【請求項5】
N>2である場合、前記伝搬区間と前記供給区間との間に、空間分割多重されて前記伝搬区間を伝搬された前記紫外光をN個のグループに分け、前記グループごとに前記紫外光を合波し、N個の前記単一コア光ファイバへ入射する光合成分配部をさらに備えることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の紫外光照射システム。
【請求項6】
前記光合成分配部が多段に接続されていることを特徴とする請求項5に記載の紫外光照射システム。
【請求項7】
前記伝搬区間は、充実コア光ファイバ、空孔アシスト光ファイバ、空孔構造光ファイバ、中空コア光ファイバ、結合コア型光ファイバ、充実コア型マルチコア光ファイバ、空孔アシスト型マルチコア光ファイバ、空孔構造型マルチコア光ファイバ、中空コア型マルチコア光ファイバ、及び結合コア型マルチコア光ファイバのいずれかを束ねた光ケーブル、又は充実コア型マルチコア光ファイバ、空孔アシスト型マルチコア光ファイバ、空孔構造型マルチコア光ファイバ、中空コア型マルチコア光ファイバ、及び結合コア型マルチコア光ファイバのいずれかであることを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載の紫外光照射システム。
【請求項8】
紫外光源部で発生した紫外光をN個(Nは自然数)の照射部から所望箇所に照射する紫外光照射方法であって、
前記紫外光源部と前記照射部との間に伝搬区間と供給区間があり、
前記伝搬区間では、前記紫外光源部が発生した前記紫外光を空間分割多重方式で伝搬し、
前記供給区間では、空間分割多重された前記伝搬区間の前記紫外光を合波し、合波した前記紫外光を単一コア光ファイバで前記照射部へ伝搬する
ことを特徴とする紫外光照射方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、紫外光を用いて殺菌およびウィルスの不活性化を行う紫外光照射システム及び除染方法に関する。
【背景技術】
【0002】
感染症予防などの目的から、紫外光を用いた紫外光を用いて殺菌およびウィルスの不活性化を行うシステムの需要が高まっている。なお、本実施形態では、「除染」の記載には、殺菌およびウィルスの不活性化が含まれるものとする。
【0003】
除染のシステムには、大きく3つのカテゴリの製品がある。
(1)移動型殺菌ロボット
移動型殺菌ロボットは、紫外光を照射する自律移動型のロボットである。移動型殺菌ロボットは、病室などの建物内において、部屋の中を移動しながら紫外光を照射することで、人手を介さず、自動で広い範囲の除染ができる。例えば、カンタム・ウシカタ株式会社ウェブサイト(https://www.kantum.co.jp/product/sakkin_robot/sakkinn_robot/UVD_robot)を参照。
(2)据え置き型空気清浄機
据え置き型空気清浄機は、天井や室内の所定の場所に設置し、室内の空気を循環させながら除染する装置である。据え置き型空気清浄機は、外部へ紫外光を照射せず、人体への影響がないため、安全性の高い除染が可能である。例えば、岩崎電気株式会社ウェブサイト(https://www.iwasaki.co.jp/optics/sterilization/air/air03.html)を参照。
(3)ポータブル型殺菌装置
ポータブル型殺菌装置は、蛍光灯や水銀ランプ、LEDの紫外光源を搭載したポータブル型の装置である。ユーザは、ポータブル型殺菌装置を除染を行いたいエリアに持って行き、紫外光を照射する。このように、ポータブル型殺菌装置は、様々な場所で使用可能である。例えば、フナコシ株式会社ウェブサイト(https://www.funakoshi.co.jp/contents/68182)を参照。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】馬場ら, 「紫外専用耐熱光ファイバの開発(2)」, 三菱電線工業時報, 第100号, pp.84-88, 2003年4月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来技術には、次のような困難性がある。
(1)移動型殺菌ロボットは、高出力の紫外光を照射するため、装置が大掛かりとなりで高価である。このため、移動型殺菌ロボットには、経済的に実現することが困難という課題がある。
(2)据え置き型空気清浄機は、循環させた室内の空気を殺菌する方法のため、衣類等の除染や保菌者から発せられる菌やウィルスの即時除染が困難という課題がある。
(3)ポータブル型殺菌装置は、照射される紫外光が比較的弱く、短時間の除染が困難という課題がある。また高出力な水銀ランプや蛍光灯を使用したとしても、これらは一般的に大型かつ短寿命であり、かつ距離の2乗に比例して光が拡散しパワーが低減するため、ポータブル型殺菌装置に適用することは難しい。
【0006】
上述した課題(1)~(3)に対して、光ファイバを用いたシステムが考えられる。細くて曲げやすい光ファイバを用いて光源からの紫外光を伝送することで、ファイバ先端から出力される紫外光をピンポイントで除染したい場所へ照射する柔軟性を備えることが可能となる。また、FTTHで用いられるようなP-MP側のシステム構成とすることで、単一の光源をシェアすることにより経済化が期待できる。
【0007】
しかしながら、光ファイバを用いたシステムでは、紫外光の伝送によるファイバの伝送特性劣化の問題がある(例えば、非特許文献1を参照。)。紫外領域の高エネルギの光を伝送することで、コアガラス内に欠陥が発生し、伝送損失特性が経時劣化し、結果として光ファイバ出力端から照射される紫外光パワーが低減するため、十分な除染効果が得られなくなる。劣化が生じた光ファイバを取り換えるという運用方法も取り得るが、使用状況によっては頻繁な取り換えが発生し、運用が煩雑になる可能性があり、効率的な対策が課題である。
つまり、従来の光ファイバを用いた除染システムには、紫外光パワーが大きい場合に伝送損失特性の経時劣化により照射される紫外光パワーが低減するという課題があった。
【0008】
そこで、本発明は、上記課題を解決するために、紫外光による光ファイバの伝送損失特性の経時劣化を低減し、照射される紫外光パワーの低下を防止できる紫外光照射システム及び紫外光照射方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明に係る紫外光照射システムは、紫外光を伝搬する一部の区間を空間分割多重方式(SDM:Space Division Multiplexing)で伝送することとした。
【0010】
具体的には、本発明に係る紫外光照射システムは、
紫外光を発生させる紫外光源部と、
前記紫外光を所望箇所に照射するN個(Nは自然数)の照射部と、
を備える紫外光照射システムであって、
前記紫外光源部と前記照射部との間に伝搬区間と供給区間があり、
前記伝搬区間では、前記紫外光源部が発生した前記紫外光を空間分割多重方式で伝搬し、
前記供給区間では、空間分割多重された前記伝搬区間の前記紫外光を合波し、合波した前記紫外光を単一コア光ファイバで前記照射部へ伝搬する
ことを特徴とする。
【0011】
また、本発明に係る紫外光照射方法は、紫外光源部で発生した紫外光をN個(Nは自然数)の照射部から所望箇所に照射する紫外光照射方法であって、
前記紫外光源部と前記照射部との間に伝搬区間と供給区間があり、
前記伝搬区間では、前記紫外光源部が発生した前記紫外光を空間分割多重方式で伝搬し、
前記供給区間では、空間分割多重された前記伝搬区間の前記紫外光を合波し、合波した前記紫外光を単一コア光ファイバで前記照射部へ伝搬する
ことを特徴とする。
【0012】
本紫外光照射システムは、紫外光源からの高いエネルギー密度の紫外光を複数ファイバ等で分散して伝送することで伝送経路へのダメージを緩和しつつ、複数ファイバ等の出力光を合成することで除染箇所に対して十分な除染パワーの紫外光を照射できる。従って、本発明は、紫外光による光ファイバの伝送損失特性の経時劣化を低減し、照射される紫外光パワーの低下を防止できる紫外光照射システム及び紫外光照射方法を提供することができる。
【0013】
本発明に係る紫外光照射システムの前記紫外光源部は、複数の光源を有し、それぞれの前記光源から出力された前記紫外光を前記伝搬区間において空間分割多重することができる。
【0014】
本発明に係る紫外光照射システムの前記紫外光源部は、前記紫外光を分岐する光分岐部を有し、分岐されたそれぞれの前記紫外光を前記伝搬区間において空間分割多重するとしてもよい。
【0015】
本発明に係る紫外光照射システムは、N=1である場合、前記伝搬区間と前記供給区間との間に、空間分割多重されて前記伝搬区間を伝搬された前記紫外光を全て合波する光合成部をさらに備えることができる。
【0016】
本発明に係る紫外光照射システムは、N>2である場合、前記伝搬区間と前記供給区間との間に、空間分割多重されて前記伝搬区間を伝搬された前記紫外光をN個のグループに分け、前記グループごとに前記紫外光を合波し、N個の前記単一コア光ファイバへ入射する光合成分配部をさらに備えることができる。
【0017】
本発明に係る紫外光照射システムは、前記光合成分配部が多段に接続されていてもよい。
【0018】
本発明に係る紫外光照射システムの前記伝搬区間は、充実コア光ファイバ、空孔アシスト光ファイバ、空孔構造光ファイバ、中空コア光ファイバ、結合コア型光ファイバ、充実コア型マルチコア光ファイバ、空孔アシスト型マルチコア光ファイバ、空孔構造型マルチコア光ファイバ、中空コア型マルチコア光ファイバ、及び結合コア型マルチコア光ファイバのいずれかを束ねた光ケーブル、又は充実コア型マルチコア光ファイバ、空孔アシスト型マルチコア光ファイバ、空孔構造型マルチコア光ファイバ、中空コア型マルチコア光ファイバ、及び結合コア型マルチコア光ファイバのいずれかであることを特徴とする。
【0019】
なお、上記各発明は、可能な限り組み合わせることができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明は、紫外光による光ファイバの伝送損失特性の経時劣化を低減し、照射される紫外光パワーの低下を防止できる紫外光照射システム及び紫外光照射方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明に係る紫外光照射システムを説明する図である。
図2】本発明に係る紫外光照射システムの伝搬区間を説明する図である。
図3】光ファイバの断面を説明する図である。
図4】本発明に係る紫外光照射システムの紫外光源部を説明する図である。
図5】本発明に係る紫外光照射システムの光合成部を説明する図である。
図6】本発明に係る紫外光照射システムを説明する図である。
図7】本発明に係る紫外光照射システムの光合成分配部を説明する図である。
図8】本発明に係る紫外光照射システムを説明する図である。
図9】本発明に係る紫外光照射方法を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
添付の図面を参照して本発明の実施形態を説明する。以下に説明する実施形態は本発明の実施例であり、本発明は、以下の実施形態に制限されるものではない。なお、本明細書及び図面において符号が同じ構成要素は、相互に同一のものを示すものとする。
【0023】
(発明の趣旨)
図1及び図6は、本発明の紫外光照射システムを説明する図である。
紫外光源部11と、除染する対象箇所Arの付近に設置する照射部13とを光合成部15もしくは光合成分配部16を介して接続する。紫外光源部11から光合成部15/光合成分配部16までの紫外線の光パワーが大きい伝搬区間50では複数の光ファイバ(単一コアもしくはマルチコア)を束ねた光ケーブル、もしくは、マルチコア光ファイバで接続する。伝搬区間50での伝送損失により紫外線の光パワーは低下する。このため、光合成部15/光合成分配部16から照射部13までの供給区間51は単一コア光ファイバで接続できる。
【0024】
ここで、光合成部15は、複数の光ファイバもしくはコアからの出力光を合成して、単一コア光ファイバに入力する(後述の実施形態1を参照。)。
また、光合成分配部16は、複数の光ファイバもしくはコアからの出力光を合成するとともに、合成した光を分配して複数の単一コアの光ファイバに入力する(後述の実施形態2を参照。)。
【0025】
この構成により、紫外線の光パワーが大きい伝搬区間50では、全体のパワーを複数の光ファイバもしくはコアに分散させて伝送することで、それぞれの光ファイバもしくはコアの特性劣化の問題を緩和して、効率的な運用が可能となる。
更に、供給区間51では、シンプルな構成でかつ細い単一コア光ファイバを用いることで、経済性に優れ、かつ、狭隘部などにも敷設可能なシステムを実現することができる。
【0026】
(実施形態1)
図1は、本実施形態の紫外光照射システム301を説明する図である。紫外光照射システム301は、
紫外光を発生させる紫外光源部11と、
前記紫外光を所望箇所Arに照射するN個(Nは自然数)の照射部13と、
を備える紫外光照射システムであって、
紫外光源部11と照射部13との間に伝搬区間50と供給区間51があり、
伝搬区間50では、紫外光源部11が発生した前記紫外光を空間分割多重方式で伝搬し、
供給区間51では、空間分割多重された伝搬区間50の前記紫外光を合波し、合波した前記紫外光を単一コア光ファイバで照射部13へ伝搬することを特徴とする。
紫外光照射システム301は、N=1の場合であり、伝搬区間50と供給区間51との間に、空間分割多重されて伝搬区間50を伝搬された前記紫外光を全て合波する光合成部15をさらに備える。
【0027】
図2は、伝搬区間50を構成する光ケーブルもしくはマルチコア光ファイバを説明する図である。図2(A)は、複数の単一コア光ファイバ21を束ねた光ケーブルである。図2(B)は、複数のコア22を有するマルチコア光ファイバである。図2(C)は、複数の複数のマルチコア光ファイバ23を束ねた光ケーブルである。
【0028】
図3は、上述した単一コア光ファイバ及びマルチコア光ファイバの断面を説明する図である。
つまり、図3に示した単一コア光ファイバ又はマルチコア光ファイバの光ケーブル、もしくはマルチコア光ファイバを伝搬区間50として使用できる。図3(1)のような一般的な添加物を用いた充実型光ファイバの他、図3(2)~(4)に記載した空孔構造を有する光ファイバ、図3(5)、(6)に記載した複数のコア領域を有するマルチコア光ファイバ、もしくはそれらを組み合わせた構造を有する光ファイバ(図3(7)~(10))であっても良い。
【0029】
(1)充実コア光ファイバ
この光ファイバは、クラッド60の中にクラッド60より高屈折率である1つの充実コア52を有する。「充実」とは「空洞ではない」という意味である。尚、充実コアは、クラッド内に円環状の低屈折率領域を形成することでも実現できる。
(2)空孔アシスト光ファイバ
この光ファイバは、クラッド60の中に充実コア52とその外周に配置された複数の空孔53を有する。空孔53の媒質は空気であり、空気の屈折率は石英系ガラスに比べ十分小さい。このため、空孔アシスト光ファイバは、曲げなどでコア52から漏れた光を再びコア52に戻す機能があり、曲げ損失が小さいという特徴がある。
(3)空孔構造光ファイバ
この光ファイバは、クラッド60の中に複数の空孔53の空孔群53aを有し、ホスト材料(ガラス等)よりも実効的に屈折率が低い。本構造は、フォトニック結晶ファイバと呼ばれる。本構造には、屈折率を変化させた高屈折率コアが存在しない構造をとることができ、空孔53に取り囲まれた領域52aを実効的なコア領域として、光を閉じ込めることができる。充実コアを有する光ファイバに比べ、フォトニック結晶ファイバは、コアの添加剤による吸収や散乱損失の影響を低減することができるとともに、曲げ損失の低減や非線形効果の制御等、充実型光ファイバでは実現し得ない光学特性を実現できる。
(4)中空コア光ファイバ
この光ファイバは、コア領域が空気で形成される。クラッド領域に複数の空孔によるフォトニックバンドギャップ構造もしくはガラス細線によるアンチレゾナント構造をとることによって光をコア領域に閉じ込めることができる。この光ファイバは、非線形効果が小さく、高出力または高エネルギーレーザ供給が可能である。
(5)結合コア型光ファイバ
この光ファイバは、クラッド60の中に複数の高屈折率である充実コア52が近接して配置される。この光ファイバは、充実コア52間で光波結合で光を導波する。結合コア型光ファイバは、コア数分だけ光を分散して送れるので、その分ハイパワー化して効率的な殺菌ができる、また、結合コア型光ファイバは、紫外線によるファイバ劣化を緩和し長寿命化できるというメリットがある。
(6)充実コア型マルチコア光ファイバ
この光ファイバは、クラッド60の中に複数の高屈折率である充実コア52が離れて配置される。この光ファイバは、充実コア52間で光波結合を十分小さくして光波結合の影響が無視できる状態で光を導波する。このため、充実コア型マルチコア光ファイバは、各コアを独立な導波路として扱えるというメリットがある。
(7)空孔アシスト型マルチコア光ファイバ
この光ファイバは、クラッド60の中に上記(2)の空孔構造およびコア領域が複数配置された構造である。
(8)空孔構造型マルチコア光ファイバ
この光ファイバは、クラッド60の中に上記(3)の空孔構造が複数配置された構造である。
(9)中空コア型マルチコア光ファイバ
この光ファイバは、クラッド60の中に上記(4)の空孔構造が複数配置された構造である。
(10)結合コア型マルチコア光ファイバ
この光ファイバは、クラッド60の中に上記(5)の結合コア構造が複数配置された構造である。
【0030】
なお、これらの光ファイバにおける伝搬モードについては、シングルモードだけではなくマルチモードでも良い。
【0031】
図4(A)は、紫外光源部11の構成の一例を説明する図である。紫外光源部11は、複数の光源11aを有し、それぞれの光源11aから出力された紫外光を伝搬区間50に空間分割多重する。
【0032】
光源11aは、レーザダイオード(LD)や発光ダイオード(LED)などの半導体光源、次の参考文献のような非線形光学を用いた光源、あるいはランプ光源である。
[参考文献]ウシオ電機株式会社ウェブサイト、https://www.ushio.co.jp/jp/technology/lightedge/200012/100236.html
【0033】
光学系11bは、例えば、レンズである。光学系11bは、それぞれの光源11aの出力光を伝搬区間50の光ファイバもしくはコアに入力する。
伝搬路50aは、光ケーブル内の1つのファイバ、もしくは、マルチコア光ファイバ内の1つのコアである。
【0034】
図4(A)のように、紫外光源部11が複数の光源11aを有する構成である場合、単一の光源の出力レベルに制限されず、トータルで高いパワーの伝送が可能であるシステムとすることができる。
【0035】
図4(B)は、紫外光源部11の構成の他の例を説明する図である。紫外光源部11は、前記紫外光を分岐する光分岐部11dを有し、分岐されたそれぞれの前記紫外光を伝搬区間50に空間分割多重する。
【0036】
本構成の場合、光源11aは一つである。光源11a、光学系11b、及び伝送路50aは、それぞれ図4(A)で説明した光源、光学系、及び伝送路と同じである。
光分岐部11dは、光源11aが出力した紫外光を分岐して複数の光学系11bに入射する。
【0037】
図4(B)のように、紫外光源部11が単一の光源11aの出力を分岐する構成である場合、単一の光源が一つであるため簡素な構成の紫外光源部11とすることができる。
【0038】
図5は、光合成部15の構成の一例を説明する図である。光合成部15は、伝送路50a毎の光学系15a、伝送路50a毎のビームコンバイナ15b、及び1つの光学系15cを有する。光学系15aは、例えばレンズであり、伝送路50aからの紫外光をコリメートしてビームコンバイナ15bに出力する。ビームコンバイナ15bは透過光と反射光とを合成する機能を持ち、各光学系15aからの紫外光を合波して光学系15cに出力する。光学系15cは、例えばレンズであり、合波された紫外光を供給区間51の単一コア光ファイバに入射する。つまり、光合成部15は、複数の光ファイバもしくはコアからの紫外光を合成して、単一コアの光ファイバに入力する。
【0039】
供給区間51は、紫外光を照射部13まで伝送する。供給区間51は単一コア光ファイバであり、シンプルな構成で経済性に優れ、かつ、細いため狭隘部などにも敷設可能である。なお、供給区間51の単一コア光ファイバとして、図3の(1)から(5)で説明した光ファイバを利用することができる。
【0040】
照射部13は、光ケーブルもしくはマルチコア光ファイバで伝送された紫外光を、所定の殺菌対象箇所Arに照射する。照射部13は、紫外領域の波長に対して設計されたレンズなどの光学系で構成される。
【0041】
紫外光照射システム301は、上述した構成により、紫外光による光ファイバの伝送損失特性の経時劣化を低減し、照射される紫外光パワーの低下を防止することができる。
【0042】
(実施形態2)
図6は、本実施形態の紫外光照射システム302を説明する図である。紫外光照射システム302は、
紫外光を発生させる紫外光源部11と、
前記紫外光を所望箇所Arに照射するN個(Nは自然数)の照射部13と、
を備える紫外光照射システムであって、
紫外光源部11と照射部13との間に伝搬区間50と供給区間51があり、
伝搬区間50では、紫外光源部11が発生した前記紫外光を空間分割多重方式で伝搬し、
供給区間51では、空間分割多重された伝搬区間50の前記紫外光を合波し、合波した前記紫外光を単一コア光ファイバで照射部13へ伝搬することを特徴とする。
紫外光照射システム301は、N>2の場合であり、伝搬区間50と供給区間51との間に、空間分割多重されて伝搬区間50を伝搬された前記紫外光をN個のグループに分け、前記グループごとに前記紫外光を合波し、N個の前記単一コア光ファイバへ入射する光合成分配部16をさらに備える。
【0043】
本実施形態では、図1で説明した紫外光照射システム301と異なる構成だけ説明する。紫外光照射システム302は、除染箇所Arが複数であるので照射部13も複数備えること、及び伝搬区間50で伝搬された紫外光を各照射部13へ分配する光合成分配部16を備えることが、紫外光照射システム301と相違する。
【0044】
図7は、光合成分配部16の構成の一例を説明する図である。光合成分配部16は、図5で説明したような光合成部15をN個有する。それぞれの光合成部15は、複数の伝送路50aからの紫外光を合波し、供給区間51にある一つの単一コア光ファイバに出力する。つまり、光合成分配部16は、複数の光ファイバもしくはコアからの出力光をグループごとに合成し、当該グループに対応する単一コア光ファイバに入力する。
【0045】
紫外光照射システム302は、上述した構成により、紫外光による光ファイバの伝送損失特性の経時劣化を低減し、照射される紫外光パワーの低下を防止することができる。また、紫外光照射システム302は、一つの紫外光源部で複数の除染箇所に紫外光を照射できるため、経済的なメリットがある。
【0046】
(実施形態3)
図8は、本実施形態の紫外光照射システム303を説明する図である。紫外光照射システム303は、光合成分配部16が多段に接続されていることが図6の紫外光照射システム302との相違点である。図8は、光合成分配部16が2段である例である。それぞれの段の光合成分配部16-1及び光合成分配部16-2は、図7で説明した光合成分配部16の構成と同じである。ただし、光合成分配部16-1及び光合成分配部16-2とは図2で説明した光ケーブルもしくはマルチコア光ファイバ(伝搬区間52)で接続されている。光合成分配部16-1は、伝搬区間50の紫外光をグループごとに合波し、それぞれを伝搬区間52の光ケーブルの光ファイバもしくはマルチコア光ファイバのコアに入力する。
【0047】
紫外光照射システム303は、上述した構成により、紫外光による光ファイバの伝送損失特性の経時劣化を低減し、照射される紫外光パワーの低下を防止することができる。また、紫外光照射システム303は、一つの紫外光源部で複数の除染箇所に紫外光を照射できるため、経済的なメリットがある。
【0048】
(実施形態4)
図9は、本実施形態の紫外光照射システム(301~303)を用いた紫外光照射方法を説明するフローチャートである。本紫外光照射方法は、紫外光源部11で発生した紫外光をN個(Nは自然数)の照射部13から所望箇所Arに照射する紫外光照射方法であって、
紫外光源部11と照射部13との間に伝搬区間50と供給区間51があり、
伝搬区間50では、紫外光源部11が発生した前記紫外光を空間分割多重方式で伝搬すること(ステップS01)、及び
供給区間51では、空間分割多重された前記伝搬区間の前記紫外光を合波し、合波した前記紫外光を単一コア光ファイバで照射部13へ伝搬すること(ステップS02)を特徴とする。
【符号の説明】
【0049】
11:紫外光源部
11a:光源
11b:光学系
11d:光分岐部
13:照射部
15:光合成部
15a:光学系
15b:ビームコンバイナ
15c:光学系
50:伝搬区間
50a:伝送路
51:供給区間
52:充実コア
52a:領域
53:空孔
53a:空孔群
60:クラッド
301~303:紫外光照射システム
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9