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特許7574914解析装置、測定システム、測定方法及びプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-21
(45)【発行日】2024-10-29
(54)【発明の名称】解析装置、測定システム、測定方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   G01D 5/353 20060101AFI20241022BHJP
【FI】
G01D5/353 B
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2023508353
(86)(22)【出願日】2021-03-25
(86)【国際出願番号】 JP2021012729
(87)【国際公開番号】W WO2022201473
(87)【国際公開日】2022-09-29
【審査請求日】2023-08-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100119677
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100160495
【弁理士】
【氏名又は名称】畑 雅明
(74)【代理人】
【識別番号】100115794
【弁理士】
【氏名又は名称】今下 勝博
(72)【発明者】
【氏名】岡本 達也
(72)【発明者】
【氏名】飯田 大輔
(72)【発明者】
【氏名】古敷谷 優介
(72)【発明者】
【氏名】本田 奈月
【審査官】櫻井 健太
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2018/0045542(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2019/0285487(US,A1)
【文献】国際公開第2014/207477(WO,A1)
【文献】特開2013-127479(JP,A)
【文献】特開2011-158330(JP,A)
【文献】特開2005-147900(JP,A)
【文献】特表2001-507446(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01D 5/353
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光ファイバに光を複数回送出して異なる時間に同一のOFDR測定器で複数回測定された複数のスペクトルデータを用いて、周波数特性の時間変化を表す光スペクトログラムを生成し、
ガウシアンフィルタを用いて光スペクトログラムに対して時間方向と周波数方向の双方のフィルタリングを行う、
解析装置。
【請求項2】
フィルタリング後の光スペクトログラムを用いてスペクトルシフトを算出する、
請求項1に記載の解析装置。
【請求項3】
OFDR測定器と、
光ファイバに光を複数回送出して異なる時間に前記OFDR測定器で測定された複数のスペクトルデータを取得する、請求項1または2に記載の解析装置と、
を備える測定システム。
【請求項4】
解析装置が、
光ファイバに光を複数回送出して異なる時間に同一のOFDR測定器で測定された複数のスペクトルデータを用いて、周波数特性の時間変化を表す光スペクトログラムを生成し、
ガウシアンフィルタを用いて光スペクトログラムに対して時間方向と周波数方向の双方のフィルタリングを行う、
測定方法。
【請求項5】
請求項1または2に記載の解析装置に備わる各機能部としてコンピュータを実現させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、光ファイバにおける後方散乱光のスペクトルを解析する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
OFDR(Optical Frequency Domain Reflectometry)を用いて光ファイバでのレイリー後方散乱光のスペクトルの時系列データ(スペクトログラム)を測定し、スペクトルシフトを解析することで、温度・歪みセンシングを行うことができる(非特許文献1,2)。しかし、OFDRのレーザに位相雑音がある場合、各時刻におけるスペクトル構造は変化し、再現性が劣化する。このため、レーザの位相雑音は、温度・歪みによるスペクトルシフト解析における雑音となる。
【0003】
非特許文献3には、温度・歪みセンシングと同時にレーザの位相雑音をモニタリングし、位相雑音を補償する技術が提案されている。しかし、非特許文献3の技術は、モニタリング用の受信チャンネルが追加されるため、受信系の複雑化、及び負荷の大きい信号処理による解析時間の長延化につながる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】Mark Froggatt, and Jason Moore. “High-spatial-resolution distributed strain measurement in optical fiber with Rayleigh scatter.” Applied Optics 37.10 (1998): 1735-1740.
【文献】D. P. Zhou, Z. Qin, W. Li, L. Chen, and X. Bao, “Distributed vibration sensing with time-resolved optical frequency-domain reflectometry,” Opt. Exp., vol. 20, no. 12, pp. 13138-13145, 2012.
【文献】Z. Zhang, X. Fan and Z. He, “Long-Range Distributed Static Strain Sensing With < 100 Nano-Strain Resolution Realized Using OFDR,” Journal of Lightwave Technology, vol. 37, no. 18, pp. 4590-4596, 15 Sept.15, 2019.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本開示は、受信系の複雑化及び解析時間の長延化を招くことなく、測定器雑音を低減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の解析装置は、
異なる時間に同一のOFDR測定器で測定された複数のスペクトルデータを用いて、周波数特性の時間変化を表す光スペクトログラムを生成し、
前記光スペクトログラムに対して時間方向と周波数方向の双方のフィルタリングを行う。
【0007】
本開示の測定システムは、OFDRと、本開示の解析装置と、を備える。
【0008】
本開示の測定方法は、
異なる時間に同一のOFDR測定器で後方散乱光を測定することで、複数のスペクトルデータを取得し、
前記複数のスペクトルデータを用いて、周波数特性の時間変化を表す光スペクトログラムを生成し、
前記光スペクトログラムに対して時間方向と周波数方向の双方のフィルタリングを行う。
【0009】
本開示のプログラムは、本開示に係る解析装置に備わる各機能部としてコンピュータを実現させるためのプログラムであり、本開示に係る解析装置が実行する方法に備わる各ステップをコンピュータに実行させるためのプログラムである。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、受信系の複雑化や解析時間の長延化を招くことなく、レーザの位相雑音によるスペクトル構造の変化を抑制することができ、測定器雑音の低減が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本開示のシステム構成の一例を示す。
図2】OFDR測定器の構成例を示す。
図3】OFDR測定器で得られるスペクトルの一例を示す。
図4】OFDR測定器で得られるスペクトルの一例を示す。
図5】フィルタリング前の光スペクトログラムの一例である。
図6】ガウシアンフィルタのフィルタプロファイルの一例を示す。
図7】フィルタリング後の光スペクトログラムの一例である。
図8】本開示のフィルタを適用した場合の光スペクトルシフトから解析された歪みの時間波形の一例を示す。
図9】フィルタを適用しない場合の歪みの時間波形の一例を示す。
図10】歪みのスペクトル密度の一例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本開示の実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、本開示は、以下に示す実施形態に限定されるものではない。これらの実施の例は例示に過ぎず、本開示は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した形態で実施することができる。なお、本明細書及び図面において符号が同じ構成要素は、相互に同一のものを示すものとする。
【0013】
図1に、本開示のシステム構成の一例を示す。本開示の測定システムは、被測定光ファイバ4で反射又は散乱された後方散乱光のスペクトルを測定するOFDR測定器10と、OFDR測定器10で得られたスペクトルデータを取得し、解析するスペクトル解析部20と、を備える。スペクトル解析部20は、本開示の解析装置として機能し、コンピュータとプログラムによっても実現でき、プログラムを記録媒体に記録することも、ネットワークを通して提供することも可能である。
【0014】
図2に、OFDR測定器10の構成例を示す。OFDR測定器10は、周波数掃引光源であるレーザ1、カプラ2、サーキュレータ3、カプラ5、バランス型受光器6、A/D変換器7、解析部8を備える。
【0015】
カプラ2は、レーザ1からの光をローカル光用の参照光路とプローブ光用の測定光路に分岐する。測定光路に分岐されたプローブ光用は、カプラ2及びサーキュレータ3を介して被測定光ファイバ4に入射される。カプラ5は、被測定光ファイバ4での後方散乱光である信号光と、カプラ2で分岐されたローカル光と、を合波する。バランス型受光器6は、カプラ5で合波された干渉光を受光する。この干渉光は、参照光路と測定光路の光路長差に応じたビート周波数を有する。A/D変換器7は、バランス型受光器6の出力信号をデジタル信号に変換する。解析部8は、A/D変換器7からのデジタル信号を用いて解析し、被測定光ファイバ4での後方散乱光のスペクトルを測定する。
【0016】
図3及び図4に、OFDR測定器10で得られるスペクトルの一例を示す。レーザ1の位相雑音がスペクトル測定に影響を与えない場合、図3に示すように、測定ごとにスペクトル構造は同じで、スペクトル構造を保ったまま温度・歪み量に応じてスペクトルシフトする。一方、レーザ1の位相雑音がスペクトル測定に影響を与える場合、図4に示すように、測定ごとにスペクトル構造が変化し、温度・歪み量に応じたスペクトルシフトを算出できない。
【0017】
本開示のスペクトル解析部20は、複数のスペクトルデータを用いて、周波数特性の時間変化を表す光スペクトログラムを生成する。図5に、本開示のフィルタリングを行わない場合の光スペクトログラムの一例を示す。図5では、光スペクトル強度の大きい帯域のみを表示している。
【0018】
本開示のスペクトル解析部20は、生成した光スペクトログラムに対して、時間方向と周波数方向の双方のガウシアンフィルタf(t,n)を適用することで、レーザ1の位相雑音によるスペクトル構造の変化を低減する。
【数1】
ここで、tは時間、νは光周波数、Δtはガウシアンフィルタの時間方向の幅、Δνは周波数方向の幅である。
【0019】
図6に、Δt=10ms、Δν=30.3MHzのガウシアンフィルタのフィルタプロファイルの一例を示す。ガウシアンフィルタの時間方向の幅Δtは、スペクトルシフトに対するローパスフィルタのカットオフ周波数f~1/Δtを決定する。また周波数方向の幅Δνは、測定される光スペクトログラムの周波数分解能より小さくすることで、元のスペクトル構造を維持できる。このため、幅Δνは、OFDR測定器10の周波数分解能より小さくする。一方、周波数分解能よりもぼかしを大きくすると、元のスペクトル構造が失われる可能性がある。
【0020】
静止状態の被測定光ファイバ4を測定することによって、OFDR測定器10の雑音を測定することができる。そこで、静止状態の被測定光ファイバ4の1地点における光スペクトログラムを解析し、OFDR測定器10の雑音を評価した。具体的には、光スペクトル解析長さ1.3m(対応する周波数分解能77MHz)で解析された光スペクトログラムに対して図に示すプロファイルを有するガウシアンフィルタを適用した。
【0021】
図7に、本開示の光スペクトログラムの一例を示す。図7についても、光スペクトル強度の大きい帯域のみを表示している。図7に示す光スペクトログラムは、図5に示すガウシアンフィルタなしの場合に比べて、ガウシアンフィルタを適用することで、レーザの位相雑音によるスペクトル構造の再現性劣化が抑制され、各時刻において同一のスペクトル構造が得られる。
【0022】
図8図10に、測定された歪みに対するフィルタリングの効果の一例を示す。図8及び図9は、光スペクトルシフトから解析された歪みの時間波形の一例を示す。図8は、本開示のガウシアンフィルタを適用した場合を示す。図9は、フィルタを適用しない場合を示す。図10は、歪みのスペクトル密度である。図10に示すスペクトル密度から、ガウシアンフィルタのローパスフィルタリングによって、40Hz以上の高周波成分が低減されていることが分る。このように、本開示によれば、レーザの位相雑音によるスペクトル構造の変化が抑制され、その結果、測定器雑音が低減されていることが分かる。したがって、本開示は、フィルタリング後の光スペクトログラムを用いてスペクトルシフトを算出することで、スペクトル構造の変化を抑制した温度・歪みセンシングを行うことが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0023】
本開示は情報通信産業に適用することができる。
【符号の説明】
【0024】
1:レーザ
2:カプラ
3:サーキュレータ
4:被測定光ファイバ
5:カプラ
6:バランス型受光器
7:A/D変換器
8:解析部
10:OFDR測定器
20:スペクトル解析部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10