(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-21
(45)【発行日】2024-10-29
(54)【発明の名称】酸化重合型不飽和樹脂用硬化促進剤および硬化性樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
C08L 101/02 20060101AFI20241022BHJP
C08K 5/098 20060101ALI20241022BHJP
C08K 5/3432 20060101ALI20241022BHJP
C08K 5/17 20060101ALI20241022BHJP
C09D 201/02 20060101ALI20241022BHJP
C09D 7/63 20180101ALI20241022BHJP
C09D 11/00 20140101ALI20241022BHJP
【FI】
C08L101/02
C08K5/098
C08K5/3432
C08K5/17
C09D201/02
C09D7/63
C09D11/00
(21)【出願番号】P 2024534050
(86)(22)【出願日】2023-08-17
(86)【国際出願番号】 JP2023029659
(87)【国際公開番号】W WO2024057813
(87)【国際公開日】2024-03-21
【審査請求日】2024-06-06
(31)【優先権主張番号】P 2022145166
(32)【優先日】2022-09-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149445
【氏名又は名称】大野 孝幸
(74)【代理人】
【識別番号】100163290
【氏名又は名称】岩本 明洋
(74)【代理人】
【識別番号】100186646
【氏名又は名称】丹羽 雅裕
(72)【発明者】
【氏名】中野 宏明
(72)【発明者】
【氏名】宇治川 麻里
【審査官】西山 義之
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/043406(WO,A1)
【文献】国際公開第2011/158694(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/084824(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00- 13/08
C09D 1/00- 13/00
C09D101/00-201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マンガン石鹸および/又は鉄石鹸と、含窒素芳香族複素環を2以上有する化合物と、アミノアルコール化合物とを含有する酸化重合型不飽和樹脂用硬化促進剤であって、
前記含窒素芳香族複素環を2以上有する化合物が、下記一般式(B-1)又は下記一般式(B-2)で表される化合物
であり、
コバルト、ビスマス、ジルコニウム、バリウム、カルシウム、ストロンチウム、ニッケル、銅、亜鉛、レアアースおよびバナジウムから選択される1種以上の金属の脂肪酸金属塩を含有しない酸化重合型不飽和樹脂用硬化促進剤。
【化1】
(前記一般式(B-1)および(B-2)において、
R
21は、単結合、下記一般式(b-1)で表される連結基又は下記一般式(b-2)で表される連結基であり、
R
22は、炭素原子数1~6のアルキル基、炭素原子数1~6のアルコキシ基又は炭素原子数6~15のアリール基であり、
R
23は、炭素原子数1~6のアルキル基、炭素原子数1~6のアルコキシ基又は炭素原子数6~15のアリール基であり、
mおよびnは、それぞれ独立に、0~4の範囲の整数であり、
pおよびqは、それぞれ独立に、0~3の範囲の整数である。)
【化2】
(前記一般式(b-1)および(b-2)において、
Lは、単結合又は炭素原子数1~4のアルキレン基であり、
R
24は、水素原子、炭素原子数1~4のアルキル基、ピリジル基又はビスピリジルメチルアミノ基であり、
R
25は、水素原子、炭素原子数1~4のアルキル基、ピリジル基又はビスピリジルメチルアミノ基であり、
*は、連結箇所を示す。)
【請求項2】
前記含窒素芳香族複素環を2以上有する化合物が、N,N,N’,N’-テトラキス(2-ピリジルメチル)エチレンジアミン、トリス(2-ピリジルメチル)アミン、ビス(2-ピリジルメチル)アミン、5,5’-ジメチル-2,2’-ジピリジルおよび2,2’-ビピリジミルからなる群から選択される1種以上である請求項1に記載の酸化重合型不飽和樹脂用硬化促進剤。
【請求項3】
前記マンガン石鹸が、炭素原子数1~22の脂肪酸の脂肪酸マンガン塩であり、前記鉄石鹸が炭素原子数1~22の脂肪酸の脂肪酸鉄塩である請求項1又は2に記載の酸化重合型不飽和樹脂用硬化促進剤。
【請求項4】
前記アミノアルコール化合物が、下記一般式(C)で表される化合物である請求項1又は2に記載の酸化重合型不飽和樹脂用硬化促進剤。
【化3】
(前記一般式(C)中において、
R
31およびR
32は、それぞれ独立に、水素原子又は炭素原子数1~6のアルキル基であり、
X
1およびX
2は、それぞれ独立に、炭素原子数1~6のアルキレン基であり、
Yは、エーテル結合又は-NR
33-で表される連結基(R
33は水素原子又は炭素原子数1~6のアルキル基)である。)
【請求項5】
請求項1又は2に記載の酸化重合型不飽和樹脂用硬化促進剤と、酸化重合型不飽和樹脂とを含有する硬化性樹脂組成物。
【請求項6】
印刷インキ又は塗料である請求項
5に記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項7】
請求項
5に記載の硬化性樹脂組成物を乾燥して硬化した硬化塗膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化重合型不飽和樹脂用硬化促進剤および硬化性樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
印刷インキ、塗料などの酸化重合型樹脂を用いる分野においては、当該樹脂を乾燥させるための硬化促進剤としてドライヤーが添加される。該インキや塗料に用いられるドライヤーとしては、コバルトとカルボン酸との金属塩(以下、金属とカルボン酸の金属塩を「金属石鹸」と略記することがある)が一般的である。
【0003】
コバルト金属石鹸は、優れた乾燥性能を有している一方で、コバルト化合物自体は、国際がん研究機関の発ガン性リスク一覧において「ヒトに対する発癌性が疑われる」とされるグループ2Bにリストアップされる発ガン性懸念物質である。この発ガン性懸念に加え、金属コバルトは希少金属で供給が不安定且つ高コストであるため、コバルトを使用しない非コバルト金属石鹸が種々提案されている(例えば特許文献1および2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】WO2013/077267A1
【文献】WO2015/005121A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の酸化重合型不飽和樹脂用硬化促進剤では、通常、コバルト、マンガン又は鉄の金属石鹸をメインドライヤーとし、ジルコニウム、カルシウム、ストロンチウム等の金属石鹸を補助ドライヤーとし、これらを組み合わせて使用される。補助ドライヤーはメインドライヤーの失活を防ぐ機能を有すると推測され、補助ドライヤーを用いない場合には硬化促進効果は十分に得られない。
【0006】
メインドライヤーと補助ドライヤーを組み合わせて用いる場合には、ドライヤーの管理に手間がかかる問題があるほか、補助ドライヤーであるジルコニウム、カルシウム、ストロンチウム等の金属石鹸は、淡黄色を示すために印刷インキおよび塗料に色変化が生じるおそれがあった。
このような背景から、補助ドライヤーを使用しない補助ドライヤーフリーな酸化重合型不飽和樹脂用硬化促進剤が求められている。
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、補助ドライヤーフリーで使用可能な酸化重合型不飽和樹脂用硬化促進剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討を行った結果、マンガン石鹸および/又は鉄石鹸に特定の含窒素複素環化合物およびアミノアルコール化合物を併せて用いることで、補助ドライヤーフリーの酸化重合型不飽和樹脂用硬化促進剤とすることができることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
すなわち、本発明は、下記の酸化重合型不飽和樹脂用硬化促進剤などに関するものである。
1.マンガン石鹸および/又は鉄石鹸と、含窒素芳香族複素環を2以上有する化合物と、アミノアルコール化合物とを含有する酸化重合型不飽和樹脂用硬化促進剤。
2.前記含窒素芳香族複素環を2以上有する化合物が下記一般式(B-1)又は下記一般式(B-2)で表される化合物である1に記載の酸化重合型不飽和樹脂用硬化促進剤。
【化1】
(前記一般式(B-1)および(B-2)において、
R
21は、単結合、下記一般式(b-1)で表される連結基又は下記一般式(b-2)で表される連結基であり、
R
22は、炭素原子数1~6のアルキル基、炭素原子数1~6のアルコキシ基又は炭素原子数6~15のアリール基であり、
R
23は、炭素原子数1~6のアルキル基、炭素原子数1~6のアルコキシ基又は炭素原子数6~15のアリール基であり、
mおよびnは、それぞれ独立に、0~4の範囲の整数であり、
pおよびqは、それぞれ独立に、0~3の範囲の整数である。)
【化2】
(前記一般式(b-1)および(b-2)において、
Lは、単結合又は炭素原子数1~4のアルキレン基であり、
R
24は、水素原子、炭素原子数1~4のアルキル基、ピリジル基又はビスピリジルメチルアミノ基であり、
R
25は、水素原子、炭素原子数1~4のアルキル基、ピリジル基又はビスピリジルメチルアミノ基であり、
*は、連結箇所を示す。)
3.前記含窒素芳香族複素環を2以上有する化合物が、N,N,N’,N’-テトラキス(2-ピリジルメチル)エチレンジアミン、トリス(2-ピリジルメチル)アミン、ビス(2-ピリジルメチル)アミン、5,5’-ジメチル-2,2’-ジピリジルおよび2,2’-ビピリジミルからなる群から選択される1種以上である1又は2に記載の酸化重合型不飽和樹脂用硬化促進剤。
4.前記マンガン石鹸が、炭素原子数1~22の脂肪酸の脂肪酸マンガン塩であり、前記鉄石鹸が炭素原子数1~22の脂肪酸の脂肪酸鉄塩である1~3のいずれかに記載の酸化重合型不飽和樹脂用硬化促進剤。
5.前記アミノアルコール化合物が、下記一般式(C)で表される化合物である1~4のいずれかに記載の酸化重合型不飽和樹脂用硬化促進剤。
【化3】
(前記一般式(C)中において、
R
31およびR
32は、それぞれ独立に、水素原子又は炭素原子数1~6のアルキル基であり、
X
1およびX
2は、それぞれ独立に、炭素原子数1~6のアルキレン基であり、
Yは、エーテル結合又は-NR
33-で表される連結基(R
33は水素原子又は炭素原子数1~6のアルキル基)である。)
6.コバルト、ビスマス、ジルコニウム、バリウム、カルシウム、ストロンチウム、ニッケル、銅、亜鉛、レアアースおよびバナジウムから選択される1種以上の金属の脂肪酸金属塩を含有しない1~5のいずれかに記載の酸化重合型不飽和樹脂用硬化促進剤。
7.1~6のいずれかに記載の酸化重合型不飽和樹脂用硬化促進剤と、酸化重合型不飽和樹脂とを含有する硬化性樹脂組成物。
8.印刷インキ又は塗料である8に記載の硬化性樹脂組成物。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、補助ドライヤーフリーで使用可能な酸化重合型不飽和樹脂用硬化促進剤が提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の一実施形態について説明する。本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の効果を損なわない範囲で適宜変更を加えて実施することができる。
尚、本明細書中の化合物は、化石資源由来であってもよく、生物資源由来であってもよい。
【0012】
[酸化重合型不飽和樹脂用硬化促進剤]
本発明の酸化重合型不飽和樹脂用硬化促進剤(以下、単に「本発明の硬化促進剤」という場合がある)は、マンガン石鹸および/又は鉄石鹸と、含窒素芳香族複素環を2以上有する化合物と、アミノアルコール化合物とを含有する。
【0013】
本発明では、マンガン石鹸および/又は鉄石鹸に、含窒素芳香族複素環を2以上有する化合物およびアミノアルコール化合物の両方が配位すると推測され、この2つの化合物によってマンガン石鹸および鉄石鹸の失活が抑制され、補助ドライヤー無しでも高い硬化促進効果が得られると推測される。
以下、本発明の硬化促進剤の各成分について説明する。
【0014】
(マンガン石鹸および鉄石鹸)
金属石鹸は、例えばM(X)nで表される金属塩であり、マンガン石鹸および鉄石鹸はMがマンガン又は鉄である金属塩である。
Xは、F-、Cl-、Br-、I-、PF6
-、SbF6
-、AsF6
-、BF4
-、B(C6F5)4
-、ClO4
-、ClO3
-、CO2
-、ClO-、H2PO4
-、H2PO3
-、H2PO2
-、HCO3
-、NO3
-、NO2
-、(CH3CO)2CH-、RCOO-(Rは炭素原子数1~21の炭化水素基)、O2-、S2-、SO4
2-、SO3
2-、CO3
2-から選択される1種以上である。
nは1以上の整数である。
【0015】
マンガン石鹸および鉄石鹸は、好ましくは炭素原子数1~22の脂肪酸の脂肪酸金属塩であり、より好ましくは下記一般式(A)で表される金属塩である。
【0016】
【化4】
(前記一般式(A)中、
R
11は、水素原子または炭素原子数1~21のアルキル基であり、
nは、1~4の範囲の整数であり、
Mは、マンガン又は鉄である。)
【0017】
前記一般式(A)において、nが2以上の整数である場合、複数のR11は互いに同じでもよく、異なってもよい。
【0018】
R11の炭素原子数1~21のアルキル基は、直鎖のアルキル基でもよく、分岐のアルキル基でもよく、脂環構造を含んでもよい。
【0019】
R11の炭素原子数1~21のアルキル基は、脂肪酸金属塩の製造に用いるR11COOHで表される炭素原子数1~22のカルボン酸からカルボキシル基(COOH)を除いたカルボン酸残基に対応する。当該カルボン酸残基としては、酢酸残基、プロピオン酸残基、ブタン酸残基、ペンタン酸残基、アクリル酸残基、メタクリル酸残基、オクチル酸残基(2-エチルヘキサン酸残基)、ネオデカン酸残基、ナフテン酸残基、イソノナン酸残基、桐油酸残基、トール油脂肪酸残基、ヤシ油脂肪酸残基、大豆油脂肪酸残基、アマニ油脂肪酸残基、サフラワー油脂肪酸残基、脱水ヒマシ油脂肪酸残基、キリ油脂肪酸残基、ラウリン酸残基、ミリスチン酸残基、パルミチン酸残基、ステアリン酸残基、イソステアリン酸残基、オレイン酸残基等が挙げられる。
【0020】
R11の炭素原子数1~21のアルキル基は、好ましくは炭素原子数1~15のアルキル基であり、より好ましくは炭素原子数1~11のアルキル基であり、さらに好ましくは酢酸残基、プロピオン酸残基、ブタン酸残基、ペンタン酸残基、2-エチルヘキサン酸残基、イソノナン酸残基、ネオデカン酸残基又はナフテン酸残基である。
【0021】
nはMの金属原子のイオン価数に対応する数値である。
【0022】
本発明の硬化促進剤に含まれるマンガン石鹸および鉄石鹸は、マンガン石鹸のみ又は鉄石鹸のみでもよく、マンガン石鹸および鉄石鹸を併用してもよい。
【0023】
マンガン石鹸および鉄石鹸は、公知の方法で製造することができ、市販品を用いてもよい。
【0024】
(マンガン石鹸および鉄石鹸以外の金属石鹸)
本発明の硬化促進剤は、好ましくはジルコニウムおよびカルシウムから選択される1種以上の金属の金属石鹸を含まず、より好ましくはコバルト、ビスマス、ジルコニウム、バリウム、カルシウム、ストロンチウム、ニッケル、銅、亜鉛、レアアースおよびバナジウムから選択される1種以上の金属の金属石鹸を含まない。
【0025】
マンガン石鹸および鉄石鹸以外の金属石鹸の形態は、マンガン石鹸および鉄石鹸と同様の形態でよく、例えば炭素原子数1~22の脂肪酸の脂肪酸金属塩の形態である。
【0026】
ジルコニウム、カルシウムなどの金属石鹸はメインの金属石鹸(マンガン石鹸および鉄石鹸)の機能を補助する補助ドライヤーとして通常用いられるが、本発明の硬化促進剤は、補助ドライヤーを含まなくても十分な効果促進効果が得られる。
補助ドライヤーを含まないことで、本発明の硬化促進剤はコスト面および作業効率に優れるほか、補助ドライヤーの金属成分に由来する着色も抑制することができる。
【0027】
尚、本発明においてレアアースとは、スカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)、ランタン(La)、セリウム(Ce)、プラセオジウム(Pr)、ネオジム(Nd)、プロメチウム(Pm)、サマリウム(Sm)、ユウロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)及びルテチウム(Lu)から選択される1種以上を意味する。
【0028】
(含窒素芳香族複素環を2以上有する化合物)
含窒素芳香族複素環を2以上有する化合物(以下、単に「含窒素芳香族複素環化合物」という場合がある)は、1分子中に含窒素芳香族複素環を2以上有する化合物であり、当該含窒素芳香族複素環としては、ピロール環、ピリジン環、ピリミジン環、キノリン環、アクリジン環等が挙げられる。
【0029】
含窒素芳香族複素環化合物は、好ましくは下記一般式(B-1)又は下記一般式(B-2)で表される化合物である。
【0030】
【化5】
(前記一般式(B-1)および(B-2)において、
R
21は、単結合、下記一般式(b-1)で表される連結基又は下記一般式(b-2)で表される連結基であり、
R
22は、炭素原子数1~6のアルキル基、炭素原子数1~6のアルコキシ基又は炭素原子数6~15のアリール基であり、
R
23は、炭素原子数1~6のアルキル基、炭素原子数1~6のアルコキシ基又は炭素原子数6~15のアリール基であり、
mおよびnは、それぞれ独立に、0~4の範囲の整数であり、
pおよびqは、それぞれ独立に、0~3の範囲の整数である。)
【0031】
【化6】
(前記一般式(b-1)および(b-2)において、
Lは、単結合又は炭素原子数1~4のアルキレン基であり、
R
24は、水素原子、炭素原子数1~4のアルキル基、ピリジル基又はビスピリジルメチルアミノ基であり、
R
25は、水素原子、炭素原子数1~4のアルキル基、ピリジル基又はビスピリジルメチルアミノ基であり、
*は、連結箇所を示す。)
【0032】
尚、R24およびR25のビスピリジルメチルアミノ基とは下記構造の基である。
【0033】
【0034】
R22およびR23の炭素原子数1~6のアルキル基は、直鎖のアルキル基でもよく、分岐のアルキル基でもよく、脂環構造を含んでもよい。
【0035】
R22およびR23の炭素原子数1~6のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、イソブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、tert-ペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基等が挙げられる。
【0036】
R22、R23、R24およびR25のアルキル基は、置換基を有してもよく、当該置換基としては、水酸基、オキソ基(=O)、フェニル基が挙げられる。
また、R22、R23、R24およびR25のアルキル基は、炭素炭素間に1以上のエーテル結合(-O-)を有してもよい。
【0037】
含窒素芳香族複素環化合物の具体例としては、下記化合物群が挙げられ、なかでもN,N,N’,N’-テトラキス(2-ピリジルメチル)エチレンジアミン、トリス(2-ピリジルメチル)アミン、ビス(2-ピリジルメチル)アミン、5,5’-ジメチル-2,2’-ジピリジルおよび2,2’-ビピリジミルが好ましい。
【0038】
【0039】
【0040】
含窒素芳香族複素環化合物は、好ましくは1分子中に窒素原子を4つ有する含窒素芳香族複素環化合物であり、より好ましくは3つの含窒素芳香族複素環を有し、1分子中に窒素原子を4つ有する含窒素芳香族複素環化合物である。
【0041】
本発明の硬化促進剤に含まれる含窒素芳香族複素環化合物は、1種単独でもよく、2種以上を併用してよもよい。
【0042】
含窒素芳香族複素環化合物の含有量は、硬化促進剤に含まれる金属石鹸の金属原子1モルに対し、例えば0.1~20モルの範囲であり、好ましくは0.2~10モルの範囲であり、より好ましくは0.5~8モルの範囲である。
【0043】
含窒素芳香族複素環化合物は、公知の方法で製造することができ、市販品を用いてもよい。
【0044】
(アミノアルコール化合物)
アミノアルコール化合物は、アルカン骨格にヒドロキシ基とアミノ基を有する化合物であり、アミノアルコール中の窒素原子がマンガン金属石鹸および/又は鉄金属石鹸に配位して、金属石鹸に優れた乾燥性能および経時安定性を与えると考えられる。
【0045】
アミノアルコールは、好ましくは下記一般式(C)で表される化合物である。
【0046】
【化10】
(前記一般式(C)中において、
R
31およびR
32は、それぞれ独立に、水素原子又は炭素原子数1~6のアルキル基であり、
X
1およびX
2は、それぞれ独立に、炭素原子数1~6のアルキレン基であり、
Yは、エーテル結合又は-NR
33-で表される連結基(R
33は水素原子又は炭素原子数1~6のアルキル基)である。)
【0047】
R31、R32およびR33の炭素原子数1~6のアルキル基は、直鎖のアルキル基でもよく、分岐のアルキル基でもよく、脂環構造を含んでもよい。
【0048】
X1およびX2の炭素原子数1~6のアルキレン基は、好ましくは炭素原子数2~3のアルキレン基である。
【0049】
アミノアルコール化合物の具体例としては、2-[(2-ジメチルアミノエチル)メチルアミノ]エタノール、2-(2-アミノエチル)アミノエタノール、1-(2-アミノエチル)アミノ-2-プロパノール、2-(3-アミノプロピルアミノ)エタノール、2-(2-ジメチルアミノエトキシ)エタノール等が挙げられる。
【0050】
本発明の硬化促進剤に含まれるアミノアルコール化合物は、1種単独でもよく、2種以上を併用してよもよい。
【0051】
アミノアルコール化合物の含有量は、硬化促進剤に含まれる金属石鹸の金属原子1モルに対し、例えば0.1~20モルの範囲であり、好ましくは0.2~15モルの範囲であり、より好ましくは0.5~12モルの範囲であり、さらに好ましくは0.5~10モルの範囲である。
【0052】
アミノアルコール化合物は、公知の方法で製造することができ、市販品を用いてもよい。
【0053】
(希釈剤)
本発明の硬化促進剤は、通常、マンガン石鹸および/又は鉄石鹸、含窒素芳香族複素環化合物並びにアミノアルコール化合物を希釈剤で希釈して使用される。
【0054】
希釈剤は公知のものが使用でき、例えば、トルエン、キシレン、ヘプタン、ヘキサン、ミネラルスピリット等の炭化水素系溶媒;メタノール、エタノール、プロパノール、シクロヘキサノール、1-メトキシ-2-プロパノール、プロピレングリコール、1,4-ブチレングリコール、1,3-ブチレングリコール、グリセリン、ジエチレングリコール、エチレングリコール、ジプロピレングリコール、2-メチル-1,3-ペンタンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、ベンジルアルコール等のアルコール系溶媒;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶媒;プロピルエーテル、メチルセロソルブ、セロソルブ、ブチルセロソルブ、メチルカルビトール等のエーテル系溶媒;カプロン酸メチルエステル、カプリン酸メチルエステル、ラウリン酸メチルエステル等の脂肪酸エステル;大豆油、亜麻仁油、菜種油、サフラワー油等の植物油脂等が挙げられる。
【0055】
本発明の硬化促進剤に含まれる希釈剤は、1種単独でもよく、2種以上を併用してよもよい。
【0056】
希釈剤の含有量は、適宜設定すればよく、(マンガン石鹸および/又は鉄石鹸、含窒素芳香族複素環化合物並びにアミノアルコール化合物の合計質量)/(希釈剤の質量)を、例えば10/90~95/5の範囲とし、好ましくは20/80~90/10の範囲であり、より好ましくは40/60~80/20の範囲である。硬化促進剤全体に占める希釈剤の割合を25~50質量%の範囲とすると好ましい。
【0057】
本発明の硬化促進剤は、マンガン石鹸および/又は鉄石鹸、含窒素芳香族複素環化合物、アミノアルコール化合物、並びに任意に希釈剤を含有すればよく、これら成分から実質的になってもよい。ここで「実質的になる」とは、本発明の硬化促進剤のマンガン石鹸および/又は鉄石鹸、含窒素芳香族複素環化合物、アミノアルコール化合物、並びに希釈剤の合計割合が例えば80質量%以上、90質量%以上又は95質量%以上であることを意味する。
マンガン石鹸および/又は鉄石鹸、含窒素芳香族複素環化合物、アミノアルコール化合物、並びに希釈剤の合計質量の上限は特に限定されないが例えば100質量%である。
本発明の硬化促進剤は、本発明の効果を損なわない範囲でその他の成分を含有してもよい
【0058】
[硬化性樹脂組成物]
本発明の硬化性樹脂組成物は、本発明の硬化促進剤と、酸化重合型不飽和樹脂とを含有する。
酸化重合型不飽和樹脂は、分子構造中に不飽和結合を有し、空気中の酸素により不飽和結合が酸化重合し得るものであれば、どのような樹脂でもよい。
【0059】
本発明の硬化性樹脂組成物における本発明の硬化促進剤の含有割合は、酸化重合型不飽和樹脂100質量部に対して例えば0.01~10質量部であり、好ましくは0.1~5質量部である。
【0060】
本発明の硬化促進剤は、補助ドライヤーを必要としないことから添加量を低く抑えることができ、例えば硬化性樹脂組成物中の酸化重合型不飽和樹脂100質量部に対し、硬化促進剤に含まれる金属石鹸に由来する金属の量を0.1質量部以下とすることが可能であり、好ましくは0.05質量部以下である。
ここで「固形分」とは、希釈剤などの液体成分以外の成分を意味する。
【0061】
酸化重合型不飽和樹脂の具体例としては、印刷インキ用であればロジン変性フェノール樹脂、不飽和基含有ポリエステル樹脂、アルキッド樹脂、石油樹脂、重合油等が挙げられ、塗料用であればアルキッド樹脂、不飽和基含有ウレタン樹脂、不飽和基含有エポキシ樹脂、不飽和基含有ポリエステル樹脂、重合油等が挙げられる。また、天然ゴムを含むジエン系ゴムであっても同様の効果が期待できる。
【0062】
本発明の硬化性樹脂組成物が含有する酸化重合型不飽和樹脂は、1種単独でもよく、2種以上を併用してもよい。
【0063】
本発明の硬化性樹脂組成物は、印刷インキ又は塗料として好適に用いることができ、本発明の硬化性樹脂組成物が含有する酸化重合型不飽和樹脂およびその他成分は、その用途に応じて適宜設定できる。
以下、本発明の硬化性樹脂組成物を印刷インキとして用いる場合および塗料として用いる場合を説明する。
【0064】
(印刷インキ)
本発明の硬化性樹脂組成物を印刷インキ用途に用いる場合、当該印刷インキは、前記酸化重合型不飽和樹脂用硬化促進剤および酸化重合型不飽和樹脂のほかに、顔料もしくは染料、ゲル化剤、表面改質剤、乾燥抑制剤、植物油、各種有機溶剤等を含有する。
これら各成分の配合割合や、配合物の種類は印刷方式によって適宜調整される。本発明の硬化性樹脂組成物は、平版オフセットインキ、平版水なしインキ、凸版インキ等のいずれの方式の印刷インキにも好適に用いることができる。
【0065】
印刷インキ中の本発明の硬化促進剤の含有量は、乾燥時間が短く、かつ、皮張りし難いインキとなることから、好ましくは印刷インキ100質量部中0.001~5質量部の範囲である。
【0066】
顔料は、例えば「有機顔料ハンドブック(著者:橋本勲、発行所:カラーオフィス、2006年初版)」に掲載される印刷インキ用有機顔料等が挙げられ、溶性アゾ顔料、不溶性アゾ顔料、縮合アゾ顔料、金属フタロシアニン顔料、無金属フタロシアニン顔料、キナクリドン顔料、ペリレン顔料、ペリノン顔料、イソインドリノン顔料、イソインドリン顔料、ジオキサジン顔料、チオインジゴ顔料、アンスラキノン系顔料、キノフタロン顔料、金属錯体顔料、ジケトピロロピロール顔料、カーボンブラック顔料、その他多環式顔料等が使用可能である。
【0067】
顔料として無機顔料を用いることもでき、例えば、酸化チタン、クラファイト、亜鉛華等の無機着色顔料の他、炭酸石灰粉、沈降性炭酸カルシウム、石膏、クレー(ChinaClay)、シリカ粉、珪藻土、タルク、カオリン、アルミナホワイト、硫酸バリウム、ステアリン酸アルミニウム、炭酸マグネシウム、バライト粉、砥の粉等の無機体質顔料や、シリコーン、ガラスビーズなどがあげられる。
【0068】
使用する顔料は1種単独でもよく、2種以上を併用してもよい。
また、顔料の含有量は、目的とする印刷インキの種類によっても異なるが、通常、印刷インキ100質量部中5~55質量部の範囲である。
【0069】
ゲル化剤は、印刷インキ用の粘弾性を調整する目的で用いるものであり、例えば、有機アルミニウム化合物、有機チタネート化合物、有機亜鉛化合物、有機カルシウム化合物等が挙げられる。
上記有機アルミニウム化合物はより具体的にはアルミニウムアルコラートおよびアルミニウムキレート化合物が挙げられ、当該アルミニウムキレート化合物の具体例として、アルミニウムジイソプロポキシドモノエチルアセトアセテート、アルミニウムジ-n-ブトキシドモノメチルアセトアセテート、アルミニウムジ-n-ブトキシドモノエチルアセトアセテート、アルミニウムジ-i-ブトキシドモノメチルアセトアセテート、アルミニウムジ-sec-ブトキシドモノエチルアセトアセテート、アルミニウムトリス(アセチルアセトナート)、アルミニウムトリス(エチルアセトアセトナート)、アルミニウムモノ-アセチルアセトナートビス(エチルアセトアセトナート)等が挙げられる。
【0070】
使用するゲル化剤は1種単独でもよく、2種以上を併用してもよい。
また、ゲル化剤の含有量は、目的とする印刷インキの種類によっても異なるが、通常、印刷インキ100質量部中0.1~5質量部の範囲である。
【0071】
表面改質剤は、インキ塗膜の耐摩擦性、ブロッキング防止性、スベリ性、スリキズ防止性等を向上させる目的で添加されるものであり、例えば、カルナバワックス、木ろう、ラノリン、モンタンワックス、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス等の天然ワックス;フィッシャートロプスワックス、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス、ポリテトラフルオロエチレンワックス、ポリアミドワックス、シリコーン化合物等の合成ワックス等が挙げられる。
【0072】
使用する表面改質剤は1種単独でもよく、2種以上を併用してもよい。
また、ゲル化剤の含有量は、目的とする印刷インキの種類によっても異なるが、通常、印刷インキ100質量部中0.1~7質量部の範囲である。
【0073】
前記乾燥抑制剤は、印刷インキの保存安定性を向上させ、皮張りを抑制する目的で添加されるものであり、例えば、ハイドロキノン、メトキノン、tert-ブチルハイドロキノン、メチルヒドロキノン等が挙げられる。
【0074】
使用する乾燥抑制剤は1種単独でもよく、2種以上を併用してもよい。
また、乾燥抑制剤の含有量は、目的とする印刷インキの種類によっても異なるが、通常、印刷インキ100質量部中0.01~5質量部の範囲である。
【0075】
植物油は、例えば、亜麻仁油、桐油、米油、サフラワー油、大豆油、トール油、菜種油、パーム油、ひまし油、やし油脂等の植物油;これら植物油を食品加工用等に使用した後に再生処理した再生植物油;アマニ油脂肪酸メチル、大豆油脂肪酸メチル、アマニ油脂肪酸エチル、大豆油脂肪酸エチル、アマニ油脂肪酸プロピル、大豆油脂肪酸プロピル、アマニ油脂肪酸ブチル、大豆油脂肪酸ブチル等の植物油脂肪酸モノエステルなどが挙げられる。これらのなかでも乾燥性に優れる印刷インキ用となることから亜麻仁油、桐油、大豆油等の分子中に不飽和結合を有する植物油が好ましく、環境に対する負荷が小さいことから大豆油及びその再生油がより好ましい。
【0076】
使用する植物油は1種単独でもよく、2種以上を併用してもよい。
【0077】
有機溶剤は市販品を用いることができ、「1号スピンドル油」、「3号ソルベント」、「4号ソルベント」、「5号ソルベント」、「6号ソルベント」、「ナフテゾールH」、「アルケン56NT」(以上、すべてエネオス株式会社製)、「ダイヤドール13」、「ダイヤレン168」(以上、すべて三菱ケミカル株式会社製);「Fオキソコール」、「Fオキソコール180」;JX社製「AFソルベント4号」、「AFソルベント5号」「AFソルベント6号」「AFソルベント7号」(以上、すべて日産化学株式会社製)、「ソルベントH」、「N-パラフィンC14-C18」(以上、すべてイス・ケミカル社製);「スーパーゾルLA35」、「スーパーゾルLA38」(以上、すべて出光興産株式会社製);「エクソールD80」、「エクソールD110」、「エクソールD120」、「エクソールD130」、「エクソールD160」、「エクソールD100K」、「エクソールD120K」、「エクソールD130K」、「エクソールD280」、「エクソールD300」、「エクソールD320」(以上、すべてエクソンモービル社製)等が挙げられる。
【0078】
使用する有機溶剤は1種単独でもよく、2種以上を併用してもよい。
【0079】
植物油および有機溶剤の合計含有量は、目的とする印刷インキの種類によっても異なるが、通常、印刷インキ100質量部中20~80質量部の範囲である。
【0080】
印刷インキを製造する方法は、例えば、酸化重合型不飽和樹脂、顔料、植物油、有機溶剤、各種添加剤等の配合物を三本錬肉ロール等の錬肉機で錬肉する方法が挙げられる。酸化重合型不飽和樹脂として特に汎用性の高いロジン変性フェノール樹脂を用いる場合には、当該ロジン変性フェノール樹脂、植物油、有機溶剤、ゲル化剤等を予めワニス化しておき、得られたワニスと、顔料、植物油、有機溶剤、各種添加剤等の配合物を三本錬肉ロール等の錬肉機で錬肉する方法でもよい。
本発明の硬化促進剤は、この錬肉時に添加してもよいし、錬肉後に添加してもよい。また、本発明の硬化促進剤の添加方法は、本発明の硬化促進剤を構成する各成分を予め配合したものを添加してもよいし、本発明の硬化促進剤を構成する各成分を別々で添加してもよい。
【0081】
(塗料)
本発明の硬化性樹脂組成物を塗料用途に用いる場合、当該塗料は、前記酸化重合型不飽和樹脂用硬化促進剤および酸化重合型不飽和樹脂のほかに、顔料、顔料分散剤、乾燥抑制剤、表面調整剤、紫外線吸収剤、消泡剤、増粘剤、沈降防止剤、植物油や各種の有機溶剤等を含有する。
これら各成分の種類および配合割合は、塗料の用途や所望の性能によって適宜調整される。
【0082】
塗料中の本発明の硬化促進剤の含有量は、乾燥時間が短く、かつ、皮張りし難いインキとなることから、好ましくは塗料100質量部中0.001~5質量部の範囲である。
【0083】
塗料用途に用いる場合の酸化重合型不飽和樹脂は、前述の通り、アルキッド樹脂、不飽和基含有ウレタン樹脂、不飽和基含有エポキシ樹脂等が挙げられる。このうち特に汎用性の高いアルキッド樹脂は、多塩基酸化合物、多価アルコール化合物及び油脂肪酸を主たる原料成分とするポリエステル樹脂の一種である。
【0084】
上記多塩基酸化合物は、例えば、無水フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、コハク酸、フマル酸、アジピン酸、セバシン酸、無水マレイン酸等の二塩基酸;及びこれらの酸の低級アルキルエステル化物が主として用いられる。必要に応じて、無水トリメリット酸、メチルシクロヘキセントリカルボン酸、無水ピロメリット酸等の3価以上の多塩基酸;スルホフタル酸、スルホイソフタル酸及びこれらのアンモニウム塩、ナトリウム塩や低級アルキルエステル化物等を使用することができる。
また、多塩基酸化合物以外の酸成分として、安息香酸、クロトン酸、p-t-ブチル安息香酸等の一塩基酸を分子量調整等の目的で併用することができる。
【0085】
前記多価アルコール化合物は、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、3-メチルペンタンジオール、1,4-ヘキサンジオール、1,6-ヘキサンジオール等の二価アルコールが挙げられる。必要に応じて、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等の3価以上の多価アルコール;ポリオキシエチレン基を有する多価アルコール等を併用することができる。
【0086】
上述の酸成分およびアルコール成分の一部をジメチロールプロピオン酸、オキシピバリン酸、パラオキシ安息香酸等;これらの酸の低級アルキルエステル;ε-カプロラクトン等のラクトン類等のオキシ酸成分に置き換えることもできる。
【0087】
前記油脂肪酸は、例えば、ヤシ油脂肪酸、大豆油脂肪酸、アマニ油脂肪酸、サフラワー油脂肪酸、トール油脂肪酸、脱水ヒマシ油脂肪酸、キリ油脂肪酸等を挙げることができる。
【0088】
原料の一部にエポキシ化合物を用いたエポキシ変性アルキッド樹脂、スチレンや(メタ)アクリル酸エステル等のビニルモノマーをグラフト重合させたビニル変性アルキッド樹脂等も酸化重合型不飽和樹脂として使用することができる。
【0089】
資源のリサイクルのために回収されたポリエチレンテレフタレート(例えば、PETボトル)、産業廃棄物ポリエチレンテレフタレート、テレフタル酸を主原料とするポリエチレンテレフタレートやポリブチレンテレフタレート等のポリエステル製品(フィルム、繊維、自動車部品、電子部品等)の製造に際して発生する屑等から再生されたテレフタル酸を主原料とするポリエステル樹脂(以下、「再生PES」と略す。)を利用して、上述のアルコール成分と多塩基酸成分との混合物中に、この再生PESを溶解させ、解重合するとともに、エステル化反応させることにより得られる再生PES変性アルキッド樹脂も酸化重合型不飽和樹脂として使用することができる。
【0090】
顔料は、例えば、二酸化チタン、酸化鉄、硫化カドミウム、炭酸カルシウム、炭酸バリウム、硫酸バリウム、クレー、タルク、黄鉛、カーボンブラックなどの無機顔料;アゾ系、ジアゾ系、縮合アゾ系、チオインジゴ系、インダンスロン系、キナクリドン系、アントラキノン系、ベンゾイミダゾロン系、ペリレン系、ペリノン系、フタロシアニン系、ハロゲン化フタロシアニン系、アントラピリジン系、ジオキサジン系などの有機顔料等が挙げられる。
【0091】
使用する顔料は1種単独でもよく、2種以上を併用してもよい。
また、顔料の含有量は、塗料の用途や所望の性能によって異なるが、通常、塗料100質量部中20~70質量部の範囲である。
【0092】
塗料に使用する乾燥抑制剤、植物油および有機溶剤は、それぞれ上記で説明した印刷インキに用いる乾燥抑制剤、植物油および有機溶剤と同じものが使用でき、含有量も同じ範囲が採用できる。
【0093】
塗料を製造する方法は、例えば、酸化重合型不飽和樹脂、顔料、有機溶剤、各種添加剤等の配合物をペイントシェーカー等の各種のミキサーで混合する方法が挙げられる。
本発明の硬化促進剤は、この混合時に添加してもよいし、混合後に添加してもよい。また、本発明の硬化促進剤の添加方法は、本発明の硬化促進剤を構成する各成分を予め配合したものを添加してもよいし、本発明の硬化促進剤を構成する各成分を別々で添加してもよい。
【0094】
本発明の塗料は常法により被塗物に塗布、乾燥・硬化させることにより塗膜を得ることができる。ここで、本発明の塗料を塗工することが可能な基材(被塗物)としては、例えば、鉄鋼等が挙げられる。また、塗布後の乾燥条件(硬化条件)としては常乾が挙げられる。
本発明の塗料は塗膜を厚くしても優れた硬化性を発現させることができることから、厚塗り用塗料としてとりわけ有用であり、具体的には、硬化塗膜の膜厚を1~500μmの範囲とすることができる。従って、本発明の塗料は建築用塗料として有用である。
【実施例】
【0095】
以下、実施例と比較例とにより、本発明を具体的に説明する。
尚、本発明は下記実施例に限定されない。
【0096】
(調製実施例1:メインドライヤー1)
ネオデカン酸マンガン(マンガン含有量1.29質量%)9.9質量部、トリス(2-ピリジルメチル)アミン7.0質量部および2-[(2-ジメチルアミノエチル)メチルアミノ]エタノール30.9質量部に脂肪酸メチルエステル52.2質量部を加え、メインドライヤー1を調製した。
【0097】
(調製比較例1:メインドライヤー1’)
市販の2-エチルヘキサン酸コバルト(コバルト含有量12質量%)を準備した。
【0098】
(調製比較例2:メインドライヤー2’)
市販のメインドライヤーであるOXY-Coat(borches社製)を準備した。
OXY-Coatは、鉄石鹸(FeCl2)と下記含窒素芳香族複素環化合物の混合物が石油系溶媒中に分散したものである。
【0099】
【0100】
(調製比較例3:メインドライヤー3’)
ネオデカン酸マンガン(マンガン含有量1.2質量%)9.2質量部および8-キノリノール3.2質量部にベンジルアルコール87.6質量部を加え、メインドライヤー3’を調製した。
尚、8-キノリノールは含窒素芳香族複素環を1つだけ有する化合物である。
【0101】
(調製比較例4:メインドライヤー4’)
ネオデカン酸マンガン(マンガン含有量1.29質量%)9.9質量部、2-[(2-ジメチルアミノエチル)メチルアミノ]エタノール30.9質量部に脂肪酸メチルエステル59.2質量部を加え、メインドライヤー4’を調製した。
【0102】
(調製比較例5:メインドライヤー5’)
ネオデカン酸マンガン(マンガン含有量1.29質量%)9.9質量部、2-[(2-ジメチルアミノエチル)メチルアミノ]エタノール30.9質量部にベンジルアルコール59.2質量部を加え、メインドライヤー5’を調製した。
【0103】
(実施例1および比較例1-10:評価用塗料の調製と評価)
チタンホワイト顔料(ケマーズ株式会社製「Ti-Pure R-960」)77.7質量部、炭酸カルシウム(日東粉化工業株式会社製「NS♯200」)33.3質量部、分子内に不飽和脂肪酸基を有するアルキド樹脂(DIC株式会社製「アルキディアP-470-70」)158.1質量部、ミネラルスピリット(オクサリスケミカルズ株式会社製「オクサゾールLA」)30.0質量部、増粘剤(東新化成株式会社製「ベントン34」)0.3質量部および皮張防止剤(宇部興産株式会社製「メチルエチルケトオキシム」)0.6質量部を、ガラスビーズを用いてペイントシェーカーにて混練し、ベース塗料を得た。
【0104】
得られた塗料に、表1および2に示す硬化促進剤(メインドライヤーおよび補助ドライヤ―)を加えて評価用塗料をそれぞれ調製した。
尚、評価用塗料の調製に用いた補助ドライヤ―は以下の通りである。
カルシウム石鹸 :ネオデカン酸カルシウムおよび2-エチルヘキサン酸カルシウムの混合物(DIC株式会社製「DICNATE Ca 5%」)
ジルコニウム石鹸:2-エチルヘキサン酸ジルコニウム(DIC株式会社製「12% Zr-OCTOATE」)
【0105】
得られた評価用塗料を用いて以下の評価を行った。結果を表1および2に示す。
【0106】
(初期乾燥試験)
得られたばかりの評価用塗料を室温で一晩放置し、一晩放置後の評価用塗料をガラス基板上にWet膜厚152μmの塗膜を塗工した。塗工後、30分ごとに塗膜を指先で触り、乾燥状態を確認した。指先に評価用塗料がつかなくなった時間を乾燥時間とし、評価した。
【0107】
(貯蔵後乾燥試験)
得られたばかりの評価用塗料を保管庫にて50℃で2週間貯蔵した。貯蔵後の評価用塗料を用いて初期乾燥試験と同じ方法で乾燥時間を評価した。
【0108】
(ドライングレコーダー)
得られたばかりの評価用塗料を室温で一晩放置し、一晩放置後の評価用塗料をガラス基板上にWet膜厚76μmの塗膜を塗工した。塗工したガラス基板を塗膜乾燥時間測定機にセットし、300mmの距離を24時間で動くように設定して硬化時間を測定した。
得られたばかりの評価用塗料を保管庫にて50℃で2週間貯蔵した塗料についても同様の評価を行った。
【0109】
尚、ドライングレコーダーでは、塗布した塗膜の一方の端から直線状に一定速度でピンが移動し、塗膜の状態変化に伴って特徴的な傷がつけられる。ドライングレコーダーにおける塗膜の傷のつき方には3種類又は4種類あり、具体的には(1)塗料の溶媒の蒸発が開始し始めるときに傷がつき始め、(2)塗料中の成分がゾルゲル移行し始めるときに傷が大きくなり、(3)塗料中の成分のゲル移行が完了したときに傷が小さくなり、(4)塗料が完全に硬化すると傷も消える。これらのうち、乾燥速度が速い場合は(3)の傷は(4)の傷と区別できない場合がある。
表1および2において、ドライングレコーダーの数字は、左から順に(1)、(2)および(4)、又は(1)~(4)の時間を示している。
【0110】
【0111】
【0112】
表2において「-」は、塗膜が硬化しなかったことを意味する。
【0113】
表1および2の結果から、調製実施例1のドライヤーであれば補助ドライヤー無しでも十分な硬化促進効果が得られることが分かる。一方、調製比較例のドライヤーでは、補助ドライヤー無しではそもそも硬化しなかった。