(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-21
(45)【発行日】2024-10-29
(54)【発明の名称】洗掘防止構造
(51)【国際特許分類】
E02B 3/12 20060101AFI20241022BHJP
【FI】
E02B3/12
(21)【出願番号】P 2020186003
(22)【出願日】2020-11-06
【審査請求日】2023-02-21
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】501203344
【氏名又は名称】国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】常住 直人
【審査官】佐久間 友梨
(56)【参考文献】
【文献】実公昭51-009135(JP,Y1)
【文献】特開2002-201627(JP,A)
【文献】実開昭57-133621(JP,U)
【文献】特開2001-003334(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02B 3/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
河床又は水路底に設けられた構造体の下流側に隣接して敷設された、河床及び水路底における洗掘を防止する洗掘防止構造であって、
河床又は水路底の土砂の通過を妨げるネット状体を、河床又は水路底からの浮き上がりを防止して河床又は水路底に敷設したものであり、
前記ネット状体は、敷設する河床又は水路に存在する土砂の平均粒径以下の目幅を有し、
ここで、前記土砂の平均粒径は、ふるい分け法によって求めた粒度分布における積算値60%での粒径を意味し、
前記ネット状体は、比重が1より大きい材料により形成されており、
前記ネット状体を、錘又はブロックと共に河床又は水路底に敷設し
、
前記ネット状体は、前記錘又はブロックの周囲を囲むように設けられている、洗掘防止構造。
【請求項2】
前記ネット状体と前記錘又はブロックとを連結した、請求項1に記載の洗掘防止構造。
【請求項3】
前記錘又はブロックは、互いに連結されている、請求項
2に記載の洗掘防止構造。
【請求項4】
前記ネット状体は、複数の前記ネット状体を重ね合わせて構成されている、請求項1から
3のいずれか1項に記載の洗掘防止構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、洗掘防止構造に関する。
【背景技術】
【0002】
農業取水堰は、圃場への自然送水を行うため、多くは河川の中上流域に設けられる。河川において、農業取水堰よりも下流域は、建設骨材の採取、堤防越流の防止、破堤の防止等の目的で河床掘削されていることが多い。また、農業取水堰の下流側は、水の流れにより河床洗掘が進行し、さらに河床が低下しやすい。その結果、下流域の河床低下が上流域の農業取水堰の直下まで波及し、護床工の流失や堰の損壊を招く場合がある。そのため、農業取水堰のような構造物の直下又は周辺における河床の低下を防ぐ技術が求められている。
【0003】
河床の低下を防ぐ技術として、護床ブロックの数を増やす技術、護床ブロックの設置範囲を広げる技術、護床ブロックを連結する技術、護床ブロックを大型化する技術、堰エプロンの設置範囲を広げる技術、堰の下流に副堰堤を設置する技術等が知られている。非特許文献1には、護岸ブロックの下にマットを敷設する技術が記載されている。非特許文献2には、護床工底面にフィルタ材を敷設する技術が記載されている。また、特許文献1~3には、ネット状体とコンクリート塊等の錘とを組み合わせた護岸構造が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平11-264128号公報
【文献】特開2001-193036号公報
【文献】特開2002-173926号公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】内田龍彦ら、河川技術論文集、第10巻、2004
【文献】川口広司ら、水工学論文集、第48巻、2004
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述したような技術には、以下に示すような問題がある。護床ブロックの数を増やす技術、護床ブロックの設置範囲を広げる技術、護床ブロックを連結する技術、及び、護床ブロックを大型化する技術では、護床工直下の河床低下により護床工の傾斜及び流出は防げず、農業取水堰の損壊を防ぐことはできない。また、堰エプロンの設置範囲を広げる技術では、大規模な改修が必要であり工費が嵩む上に、堰エプロン直下の洗掘が進行して堰エプロンが損壊する危険がある。さらに、副堰堤を設置する技術では、堰の新設に近い費用と手間がかかる上に、河床低下が進行すれば副堰堤が損壊する危険が高まるので、さらに副堰堤を追加する必要がある。
【0007】
また、非特許文献1に記載された技術では、河床を乾燥させてマットを敷設するドライ工法が必須であり、施工性に問題がある。また、ドライにせずロール状のマットを重ね敷きする場合は、施工時もしくは施工後の河床変動等でマット間に隙間を生じ、そこから洗掘する危険がある。さらに、施工後にマットに亀裂が生じた場合には、ロールマットを敷き直す、もしくはドライにして接着補修する等の補修の手間もかかる。さらに、非特許文献2に記載された技術では、河床低下の進行に伴い護床工直下にフィルタ材が流失し、護床効果を喪失する。また、特許文献1~3に記載された技術は、植生等の自然環境に配慮した護岸を目的とした技術であり、河床洗掘を防ぐことができない。
【0008】
本発明は上述した従来技術の問題点を解決するためになされたものであり、その目的は、河床及び水路底の洗掘を防ぐことである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る洗掘防止構造は、河床及び水路底における洗掘を防止する洗掘防止構造であって、河床又は水路底の土砂の通過を妨げるネット状体を、河床又は水路底からの浮き上がりを防止して河床又は水路底に敷設したものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明の一態様によれば、河床及び水路底の洗掘を防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の実施形態1に係る洗掘防止構造を示す概略上面図である。
【
図2】本発明の実施形態1に係る洗掘防止構造を示す概略側面図である。
【
図3】本発明の実施形態2に係る洗掘防止構造を示す概略上面図である。
【
図4】本発明の実施形態3に係る洗掘防止構造を示す概略側面図である。
【
図5】本発明の実施形態4に係る洗掘防止構造を示す概略上面図である。
【
図6】実施例の洗掘防止構造の通水前の状態を示す図である。
【
図7】実施例の洗掘防止構造の通水後の状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
〔実施形態1〕
以下、本発明の実施形態1について、詳細に説明する。本発明の一実施形態に係る洗掘防止構造は、河床及び水路底における洗掘を防止する洗掘防止構造であって、河床又は水路底の土砂の通過を妨げるネット状体を、河床又は水路底からの浮き上がりを防止して河床又は水路底に敷設したものである。
【0013】
本発明の一実施形態に係る洗掘防止構造は、河床又は水路底に敷設したものである。洗掘防止構造を敷設する河床には、河底及び河の法面が含まれる。洗掘防止構造を敷設する水路底には、農業用排水路、ダム放水路等の種々の水路の底及び法面が含まれる。洗掘防止構造を河床に敷設する場合、その領域は特に限定されず、河川に設けられた構造体の下流側に隣接して敷設してもよい。このような構造体として、例えば、農業取水堰のような堰、水門、落差工等が挙げられる。
【0014】
洗掘防止構造は、敷設する河床又は水路底からの浮き上がりを防止して敷設されたネット状体により構成される。河床又は水路底からの浮き上がりとは、河川又は水路における水の浮力により、ネット状体が河床又は水路底から水面側に移動することを意味している。
【0015】
図1及び2を参照して、本実施形態に係る洗掘防止構造について説明する。
図1は、本発明の実施形態1に係る洗掘防止構造を示す概略上面図であり、
図2は、本発明の実施形態1に係る洗掘防止構造を示す概略側面図である。
図1及び
図2に示すように、洗掘防止構造10は、ネット状体1を、錘2と共に河床又は水路底に敷設したものである。本実施形態において、洗掘防止構造10は、ネット状体1の上に錘2を設けたものである。したがって、錘2により、ネット状体1の河床又は水路からの浮き上がりが防止される。なお、ネット状体1の上に設けられる錘2の数、位置、大きさ、重さ、形状等は特に限定されず、ネット状体1の河床又は水路からの浮き上がりを防止できるように設定すればよい。
【0016】
ネット状体1は、河床又は水路底の土砂の通過を妨げるものである。すなわち、ネット状体1は、その網目において通水可能であるが、土砂の通過は妨げられた構造である。したがって、ネット状体1は、河床又は水路底の土砂の通過を妨げる目幅を有していればよい。土砂の通過を防げる目幅とは、河床又は水路底の土砂の粒度分布に応じて決定され得る。その目幅は河床又は水路底の近傍の粒度が大きい場合には、広い目幅でネット状体がフィルタ材化する場合もあり、そのような場合には河床又は水路底の土砂の平均粒径より大きい目幅のネット状体を用いる構成でも洗掘防止効果があり、本発明の範疇に含まれ得る。
【0017】
ネット状体1は、ネット状体1を敷設する河床又は水路に存在する土砂の平均粒径以下の目幅を有していてもよい。河床又は水路に細粒土砂が存在していても、平均粒径より大きい土砂がネット状体1の網目を塞いでフィルタ材化し、土砂の通過を妨げることができ得る。ここで、土砂の平均粒径は、ふるい分け法によって求めた粒度分布における積算値60%での粒径を意味している。また、ネット状体1として、平均粒径よりも大きい目幅のネットを複数重ね合わせたものを用いることにより、土砂の通過を妨げる構造としてもよい。
【0018】
また、ネット状体1は、河床及び水路の勾配や凹凸に追従する柔軟性を備えている。すなわち、ネット状体1は、河床及び水路底の勾配や凹凸がある場合であっても、勾配や凹凸に沿って撓み、河床及び水路底から浮き上がらないようになっている。このようなネット状体1の材料は、例えば、樹脂、天然繊維、化学繊維、鋼繊維等である。また、ネット状体1は、耐水性の材料からなるか、耐水加工を施されていることが好ましい。
【0019】
ネット状体1は、例えば、樹脂製の紐、繊維を寄り合わせた紐、紐状の不織布等を格子状やハニカム状等に編み込んで形成されたものである。また、強度に問題が無ければネット状体1として、市販のネットを使用することもできる。洗掘防止構造10は、ネット状体1の下に位置する土砂の流出を防ぐことで河床又は水路底の洗掘を防ぐので、洗掘を防止すべき領域の大きさに応じて、ネット状体1の大きさを設計すればよい。なお、敷設する河床又は水路底の勾配が大きい場合には、より広範囲に洗掘防止構造10を敷設できるように、ネット状体1をより大きくしてもよい。
【0020】
錘2は、ネット状体1の河床又は水路底からの浮き上がりを防止するものであり、例えば、自然石、加工石、擬岩、擬石、コンクリート塊、木材、マット、フィルタ材、金属等である。錘2間は連結されていてもよい。また、錘2は、河床、河岸、水路底、水路側岸等にアンカー等により固定されていてもよい。ネット状体1と錘2とは接続されていてもよい。
【0021】
洗掘防止構造は、河床又は水路底の土砂の通過を妨げるネット状体を、河床又は水路底からの浮き上がりを防止して河床又は水路底に敷設したものであるので、ネット状体により土砂の流出を妨げ、河床及び水路底における洗掘を防止することができる。これにより、河床及び水路底の低下も防ぐことができる。また、洗掘防止構造は、河床又は水路底を乾燥させて施工する必要がなく、施工性に優れている。
【0022】
さらに、洗掘防止構造によれば、河川において、下流域の河床低下に起因した上流域の洗掘だけでなく、堰ゲートからの高速放流により堰エプロン直下に生じる洗掘(露出射流洗掘)も防止することができる。また、洗掘防止構造は、河床又は水路底に設けられた堰のような構造物の下流側に隣接して敷設することにより、河床及び水路底の低下による堰等の損壊を防ぐこともできる。
【0023】
〔実施形態2〕
本発明の実施形態2について、以下に説明する。なお、説明の便宜上、上記実施形態にて説明した部材と同じ機能を有する部材については、同じ符号を付記し、その説明を繰り返さない。
【0024】
図3は、本発明の実施形態2に係る洗掘防止構造を示す概略上面図である。
図3に示すように、洗掘防止構造20は、ネット状体1と錘2とを連結したものである。洗掘防止構造20において、ネット状体1は、錘2の周囲を囲むように設けられている。なお、ネット状体1と錘2とはロープなどにより連結されていてもよいし、ネット状体1と錘2とが共に河床又は水路底に固定されていてもよい。錘2により、ネット状体1の河床又は水路底からの浮き上がりが防止される。なお、ネット状体1の大きさに対する錘2の数、ネット状体1と錘2との連結位置、錘2の大きさ、重さ、形状等は特に限定されず、ネット状体1の河床又は水路底からの浮き上がりを防止できるように設定すればよい。
【0025】
洗掘防止構造20は、ネット状体1により土砂の流出を妨げ、河床及び水路底における洗掘を防止することができる。また、洗掘防止構造20は、ネット状体1の破損または劣化により、ネット状体1を交換する場合でも、ネット状体1と錘2との連結を解除する、もしくは破損箇所を含むネット状体1と錘2との連結体を交換するだけで補修することができる。したがって、洗掘防止構造の保守管理が容易である。
【0026】
〔実施形態3〕
本発明の実施形態3について、以下に説明する。なお、説明の便宜上、上記実施形態にて説明した部材と同じ機能を有する部材については、同じ符号を付記し、その説明を繰り返さない。
【0027】
図4は、本発明の実施形態3に係る洗掘防止構造を示す概略側面図である。
図4に示すように、洗掘防止構造30は、ネット状体1に錘2を連結したものである。洗掘防止構造30において、隣接する錘2間はネット状体1を介して連結されている。したがって、錘2により、ネット状体1の河床又は水路底からの浮き上がりが防止される。なお、錘2の数、錘2間を連結するネット状体1の大きさ、ネット状体1と錘2との連結位置、錘の大きさ、重さ、形状等は特に限定されず、ネット状体1の河床又は水路底からの浮き上がりを防止できるように設定すればよい。また、洗掘防止構造30の変形例として、洗掘防止構造30を敷設する領域全体にネット状体1を敷き、その端部にのみ錘2を連結する構造が挙げられる。
【0028】
洗掘防止構造30は、ネット状体1により土砂の流出を妨げ、河床及び水路底における洗掘を防止することができる。また、洗掘防止構造30は、ネット状体1の破損または劣化によりネット状体1を交換する場合でも、錘2を移動させる必要がなく、交換するネット状体1と錘2との連結を解除する又は交換するネット状体1に連結された錘2のみを移動させるだけでよい。したがって、洗掘防止構造30の保守管理が容易である。
【0029】
〔実施形態4〕
本発明の実施形態4について、以下に説明する。
図5は、本発明の実施形態4に係る洗掘防止構造40を示す概略上面図である。
図5に示すように、洗掘防止構造40は、ネット状体41により構成される。ネット状体41は、比重が1より大きい材料により形成されている。なお、ネット状体41の比重は、編み込まれた紐単体の比重のみならず、ネット状体41を構成する部材全体の比重を意図している。これにより、ネット状体41は、河床又は水路底からの浮き上がりが防止される。すなわち、洗掘防止構造40は、錘を必要とせず、ネット状体41の自重のみで河床又は水路底からの浮き上がりが防止される。なお、ネット状体41は、比重が1より大きい材料により形成されている点以外は、ネット状体1と同様の構成である。また、洗掘防止構造40は、ネット状体41に組み合わせて、上述した実施形態で用いた錘2を用いてもよい。
【0030】
洗掘防止構造40は、ネット状体41により土砂の流出を妨げ、河床及び水路底における洗掘を防止することができる。また、洗掘防止構造40は、ネット状体41のみを敷設すればよいので、施工性がより優れている。さらに、洗掘防止構造40は、保守管理も容易である。
【0031】
〔実施例〕
本発明の一実施形態に係る洗掘防止構造を、水理模型実験に供した。水理模型として、縮尺1/70.5、フルード相似、及び、歪み無し模型を用いた。以下、本実施例の記述は現地換算値である。
【0032】
図6に、洗掘防止構造の通水前の状態を示す。アクリル製の堰エプロンの模型を、模型水路の上流端(
図6中、左端)に固定し、堰エプロン模型側から下流(
図6では右側)に向け高流速で通水した。この際の単位幅当たり流量、流速の組み合わせは、下流の河床低下が問題となる取水堰で想定される範囲をほぼ網羅しており、通水時間も想定される最長洪水相当とした。すなわち、単位幅当たり流量は3.3、6.6、10、20、30m
3/s/mであり、これらの単位幅当たり流量に対し、流速は固定堰の堰高3mでの放流相当、ゲート式可動堰でのセキ上げ水深10mでの放流相当からゲート全開での放流相当まで変化させた。以上の単位幅当たり流量と流速との組み合わせにより、各々1/4日ずつ通水した。通水は最大流量から漸次流量低下させて停水後、再増水、最大流量、再減水、停水の順に実施し、総通水日数は7日であった。
【0033】
エプロン下流の地形は、エプロン上面から下流河床模型までの落差を3.5m、下流河床の勾配を1/150とし、河床の平均粒径を6.1cmとした。この落差及び平均粒径は下流の河床低下が問題となる取水堰で標準的な値であるが、勾配は最大相当で、堰放流によりエプロン直下洗掘が大きくなりやすい条件とした。
【0034】
エプロン直下の護床勾配は1/12と想定される最大相当であり、これも洗掘が大きくなりやすい条件とした。この護床長さは49mで、護床ブロック重量、護床ブロック単位体積当たり重量は各々、3.6t、2350kg/m3と標準的な条件とした。一方、ブロック形状は直方体で高さ0.7m、幅1.5m、流下方向長さ1.5mとした。この護床底面に土砂が透過しない目幅1.8cmのポリエチレン製ネット模型を敷設し、洗掘防止構造とした。すなわち、護床ブロックは、流水で散逸せず、ネットの浮き上がりを防ぐ重しとして機能し続けられるように、互いに連結させた。また、連結の遊びは、ネットとブロックとの間に隙間を生じてブロックの重しとしての機能が喪失しないように、護床の屈撓性を十分確保すべく、28cmとした。
【0035】
図7に、洗掘防止構造の通水後の状態を示す。
図7に示すように、通水後も堰エプロン模型の直下に洗掘は起きず、護床模型は概ね初期状態の勾配のまま維持されていた。洗掘防止構造となっている護床では洗掘は起きず、その直下の河床で洗掘が生じているが、その洗掘深さも落差3.5mから流水を自由落下させた値より浅くなっており、護岸や堤防に付加的被害を与えないものになっていた。この洗掘形状は、流量増大時に最大洗掘点が下流に生じ、流量減少時に最大洗掘点が護床直下に上流移動するものとなっており、流量増減でこれを繰り返すだけで経時的に安定した。洗掘防止構造の下流端は流量停水時に護床直下に移動する最大洗掘点に概ね達しており、流量増大時は最大洗掘点の下流移動とともに埋め戻される。このため、流量増減があり、ネットに通水性があっても、護床底面土砂の下流への流出はネットにより抑えられる。護床底面土砂が流出しないので、護床部分での洗掘は起きず、当初の護床形状は維持され、エプロン直下の地形は安定する。
【0036】
すなわち、本発明の一態様に係る洗掘防止構造により、堰エプロン模型の底面における土砂の流出は起きず、堰エプロン模型の陥没、破壊は起きなかった。本実施例により、本発明に係る洗掘防止構造が、大洪水時のような厳しい条件を繰り返しても、長時間洗掘を防止し得ることが示された。なお、本実施例での落差及び粒径は標準的なものであるが、これらが、より洗掘の起きやすい値になっても、その落差及び粒径に応じた最大洗掘点の深さに達するように、洗掘防止構造を敷設する距離を調整すれば、本実施例と同様にエプロン直下の地形は安定することとなる。つまり、洗掘防止構造は、ネットの目幅を土砂の通過を妨げる大きさとすること、ネットの浮き上がりを防止すること、及び、十分な距離まで敷設することが重要である。
【0037】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0038】
1、41 ネット状体
2 錘
10、20、30、40 洗掘防止構造