(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-21
(45)【発行日】2024-10-29
(54)【発明の名称】自動走行作業車両の制御システムおよび車両制御装置
(51)【国際特許分類】
G05D 1/43 20240101AFI20241022BHJP
A01B 69/00 20060101ALI20241022BHJP
【FI】
G05D1/43
A01B69/00 303A
A01B69/00 B
(21)【出願番号】P 2021051513
(22)【出願日】2021-03-25
【審査請求日】2023-11-16
(73)【特許権者】
【識別番号】501203344
【氏名又は名称】国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】100105784
【氏名又は名称】橘 和之
(72)【発明者】
【氏名】山下 貴史
(72)【発明者】
【氏名】林 和信
【審査官】神山 貴行
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-060450(JP,A)
【文献】特開2010-143563(JP,A)
【文献】特開2021-036796(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05D 1/43
A01B 69/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動走行可能な複数の作業車両にそれぞれ搭載された車載操作装置および車両制御装置と、上記作業車両を目視可能な現場にいる作業者が使用する第1遠隔操作装置および上記作業車両を目視できない遠隔地にいる監視者が使用する第2遠隔操作装置の少なくとも一方である遠隔操作装置とを備え、上記車載操作装置、上記遠隔操作装置から上記車両制御装置に与えられる外発指示と、上記車両制御装置の自律制御による内発指示とに従って、上記複数の作業車両の動作を制御することが可能になされた作業車両の制御システムであって、
上記複数の作業車両に搭載された複数の上記車両制御装置はそれぞれ、
上記車載操作装置からの外発指示、上記遠隔操作装置からの外発指示、上記車両制御装置によるモード遷移を伴う内発指示、上記車両制御装置によるモード遷移を伴わない内発指示をそれぞれ
発行する主体を異なる指示主体とし、当該異なる指示主体に対してそれぞれ設定された優先順位を表す優先順位値を用いて、上記作業車両を制御する権限を直近で有している指示主体であるオーナーに関する優先権値を設定する優先権値設定部と、
上記優先権値設定部により設定された上記優先権値を記憶する優先権値記憶部と、
上記車載操作装置からの外発指示、上記遠隔操作装置からの外発指示、上記車両制御装置によるモード遷移を伴う内発指示、上記車両制御装置によるモード遷移を伴わない内発指示の何れかを受けたときに、当該受けた指示
の発行元の指示主体に対して設定されている上記優先順位値と上記優先権値記憶部に記憶されている上記優先権値とを比較し、上記優先順位値が上記優先権値に対して所定の関係となっている場合に、上記受けた指示を実行する制御部とを備え
、
上記優先権値設定部は、上記オーナーの指示主体に対して設定されている上記優先順位値と、上記作業車両を制御する権限を表すオーナー特権値とを加算することにより、上記オーナーに関する優先権値を設定する
ことを特徴とする自動走行作業車両の制御システム。
【請求項2】
上記制御部は、上記受けた指示
の発行元の指示主体に対して設定されている上記優先順位値と上記優先権値記憶部に記憶されている上記優先権値とを比較し、上記優先順位値が上記優先権値未満の場合には上記受けた指示を実行せず、上記優先順位値が上記優先権値以上
の場合に上記受けた指示を実行することを特徴とする請求項1に記載の自動走行作業車両の制御システム。
【請求項3】
上記車載操作装置からの外発指示、上記遠隔操作装置からの外発指示、上記車両制御装置によるモード遷移を伴う内発指示、上記車両制御装置によるモード遷移を伴わない内発指示
の指示主体に対してそれぞれ所定間隔差の優先順位値が設定されるとともに、当該所定間隔差より小さい値のオーナー特権値が設定されていることを特徴とする請求項
1または2に記載の自動走行作業車両の制御システム。
【請求項4】
上記制御部は、実行した指示の発行元の指示主体を上記オーナーに設定することを特徴とする請求項1~
3の何れか1項に記載の自動走行作業車両の制御システム。
【請求項5】
上記車載操作装置、上記遠隔操作装置および上記車両制御装置は、指示を発行する際に、上記作業車両を制御する権限の放棄の宣言を行うことが可能であり、
上記制御部は、上記オーナーから上記宣言を伴う指示を受けた場合、上記オーナーより優先順位の低い指示主体をオーナーに設定し、
上記優先権値設定部は、当該優先順位の低い指示主体に対して設定されている上記優先順位値を用いて上記優先権値を設定することを特徴とする請求項
4に記載の作業車両の遠隔制御システム。
【請求項6】
上記制御部は、上記オーナーから上記宣言を伴う指示を受けた場合、優先順位が最も低い指示主体をオーナーに設定し、
上記優先権値設定部は、当該優先順位が最も低い指示主体に対して設定されている上記優先順位値を用いて上記優先権値を設定することを特徴とする請求項
5に記載の作業車両の遠隔制御システム。
【請求項7】
自動走行可能な複数の作業車両にそれぞれ搭載された車載操作装置および車両制御装置と、上記作業車両を目視可能な現場にいる作業者が使用する第1遠隔操作装置および上記作業車両を目視できない遠隔地にいる監視者が使用する第2遠隔操作装置の少なくとも一方である遠隔操作装置とを備え、上記車載操作装置、上記遠隔操作装置から上記車両制御装置に与えられる外発指示と、上記車両制御装置の自律制御による内発指示とに従って、上記複数の作業車両の動作を制御することが可能になされた制御システムに用いられる上記車両制御装置であって、
上記車載操作装置からの外発指示、上記遠隔操作装置からの外発指示、上記車両制御装置によるモード遷移を伴う内発指示、上記車両制御装置によるモード遷移を伴わない内発指示をそれぞれ
発行する主体を異なる指示主体とし、当該異なる指示主体に対してそれぞれ設定された優先順位を表す優先順位値を用いて、上記作業車両を制御する権限を直近で有している指示主体であるオーナーに関する優先権値を設定する優先権値設定部と、
上記優先権値設定部により設定された上記優先権値を記憶する優先権値記憶部と、
上記車載操作装置からの外発指示、上記遠隔操作装置からの外発指示、上記車両制御装置によるモード遷移を伴う内発指示、上記車両制御装置によるモード遷移を伴わない内発指示の何れかを受けたときに、当該受けた指示
の発行元の指示主体に対して設定されている上記優先順位値と上記優先権値記憶部に記憶されている上記優先権値とを比較し、上記優先順位値が上記優先権値に対して所定の関係となっている場合に、上記受けた指示を実行する制御部とを備え
、
上記優先権値設定部は、上記オーナーの指示主体に対して設定されている上記優先順位値と、上記作業車両を制御する権限を表すオーナー特権値とを加算することにより、上記オーナーに関する優先権値を設定する
ことを特徴とする車両制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動走行作業車両の制御システムおよび車両制御装置に関し、特に、複数人の作業者が複数台の自動走行作業車両を制御可能になされたシステムに用いて好適なものである。
【背景技術】
【0002】
近年、農家人口の減少に伴い、担い手への農地の集積と経営規模の拡大とが進んでいる。そのため、将来的に熟練作業者の確保が困難になることが予想されている。このような状況のもと、限られた人員で、規模拡大に伴う多数圃場に対応しながら、生産性の高い農作業技術を実現することが求められている。例えば、自動走行作業車両の活用により作業者一人当たりの作業面積を増加させる技術の開発に期待が寄せられている。
【0003】
これに関して、従来、複数の自動走行作業車両の走行を遠隔制御するシステムが知られている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に記載の複数台併走作業システムでは、1台の遠隔操作装置により作業開始の操作が行われると、複数台の自律走行作業車両が併走して、圃場内をあらかじめ設定した走行経路に沿って往復走行して作業を行い、オペレータがその近傍で遠隔操作装置を持って操作を行う。遠隔操作装置では、複数台の自律走行作業車両の個々の制御が可能であり、それぞれの自律走行作業車両に切り換えて操作でき、作業開始や緊急停止は複数台同時に制御できるようにしている。
【0004】
この特許文献1に記載のシステムでは、複数台の作業車両を併走させて、作業者がそれらの作業車両を肉眼で視認する「目視監視」を基本としている。そのため、作業者の認知能力が制約になり、併走という形態の制約を外して、多くの台数の作業車両を目視監視して安全に走行させるには限界がある。そこで、現場での目視監視者の他に遠隔地での遠隔監視者を加えて、複数人の監視者が複数台の作業車両を監視して制御するといったシステムを構築することにより、作業車両の同時運用可能台数を増やすことが望まれる。
【0005】
ただし、複数人の監視者によって複数台の作業車両を制御するシステムにおいては、ある1台の作業車両に向けて操作命令を発出可能なデバイスが複数存在することになる。これらの操作命令を無条件に全て許可することは、安全面などの観点から望ましくない。例えば、目視監視者が安全上の理由から1台の作業車両の自動運転を停止させた後に、別の遠隔監視者がその作業車両の自動運転を自由に再開できるようにすることは好ましくない。現場から遠隔地に送られる監視映像だけでは、安全が確保されたかどうかを完全に把握できない場合があることが想定されるからである。
【0006】
なお、圃場情報記憶部に記憶された経路に沿った作業車両の走行を指示可能になされた遠隔操作装置において、入力された暗証番号により認証できた場合にのみ、圃場の経路情報を圃場情報記憶部に記憶させることにより、正規の使用者以外が自律走行のための設定をすることを防止できるようにしたシステムが知られている(例えば、特許文献2参照)。しかしながら、この特許文献2に記載の技術を用いても、複数人の監視者によって複数台の自動走行作業車両を安全に制御することは実現できない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2016-95659号公報
【文献】特開2017-162305号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、このような問題を解決するために成されたものであり、複数人の操作者によって複数台の自動走行作業車両を安全に制御できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記した課題を解決するために、本発明による作業車両の制御システムは、自動走行可能な複数の作業車両にそれぞれ搭載された車載操作装置、作業車両を目視可能な現場にいる作業者が使用する第1遠隔操作装置および作業車両を目視できない遠隔地にいる監視者が使用する第2遠隔操作装置の少なくとも一方である遠隔操作装置から車両制御装置に与えられる外発指示と、車両制御装置の自律制御による内発指示とに従って、複数の作業車両の動作を制御することが可能に構成される。複数の車両制御装置はそれぞれ、各操作装置からの外発指示および車両制御装置による内発指示に対してそれぞれ設定された優先順位を表す優先順位値を用いて、作業車両を制御する権限を直近で有している指示主体に関する優先権値を設定して記憶する。そして、各操作装置からの外発指示や車両制御装置による内発指示を受けたときに、当該受けた指示に対して設定されている優先順位値と優先権値記憶部に記憶されている優先権値とを比較し、優先順位値が優先権値に対して所定の関係となっている場合に、受けた指示を実行するようにしている。
【発明の効果】
【0010】
上記のように構成した本発明によれば、車載操作装置、遠隔操作装置を操作する操作者が複数人いて、当該の複数人の操作者が操作対象とする作業車両が複数台ある場合においても、指示の優先順位値に基づいて、各々の作業車両を制御するための権限が複数の指示主体の何れかに対して適切に付与される。これにより、複数人の操作者によって複数台の自動走行作業車両を安全に制御することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本実施形態による作業車両の制御システムの全体構成例を示す図である。
【
図2】本実施形態による車両制御装置の機能構成例を示すブロック図である。
【
図3】各指示主体に対して設定された優先順位値の例を示す図である。
【
図4】本実施形態による車両制御装置の動作例を示すフローチャートである。
【
図5】各指示主体に対して設定された優先順位値の変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本実施形態による作業車両の制御システム(以下、単に制御システムという)の全体構成例を示す図である。
【0013】
図1に示すように、本実施形態の制御システムは、複数の作業車両100
-1~100
-4(以下の説明において、各々を特に区別しないときは単に作業車両100と記す)にそれぞれ搭載された車両制御装置10
-1~10
-4(以下の説明において、各々を特に区別しないときは単に車両制御装置10と記す)および車載操作装置20
-1~20
-4(以下の説明において、各々を特に区別しないときは単に車載操作装置20と記す)と、作業車両100を目視可能な現場にいる作業者が使用するリモコン型の第1遠隔操作装置(以下、リモコンという)30と、作業車両100を目視できない遠隔地の基地局200にいる監視者が使用する遠隔監視型の第2遠隔操作装置(以下、単に遠隔操作装置という)40とを備えて構成される。
【0014】
作業車両100-1~100-4はそれぞれ、作業機101-1~101-4(以下の説明において、各々を特に区別しないときは単に作業機101と記す)を備えている。作業機101は任意であるが、本実施形態では一例として、車両本体の後方に連結して使用される耕うん機であるとする。作業機101は、上下方向に昇降可能に構成されており、作業時には作業機101を下降させ、非作業時には作業機101を上昇させる。
【0015】
車両制御装置10と車載操作装置20との間は、有線または無線により接続されており、相互に通信を行うことができるようになっている。車両制御装置10とリモコン30との間は、特定小電力無線、赤外線通信、Bluetooth(登録商標)または無線LANなどの無線通信手段を介して接続されており、相互に通信を行うことができるようになっている。また、車両制御装置10と遠隔操作装置40との間は、無線LANなどの無線通信手段を介して接続されており、相互に通信を行うことができるようになっている。リモコン30は、遠隔操作機能を有するアプリケーションがインストールされたスマートフォンやタブレットといったモバイル端末であってもよい。
【0016】
本実施形態の制御システムでは、車載操作装置20、リモコン30、遠隔操作装置40から車両制御装置10にそれぞれ与えられる指示(以下、外発指示という)と、車両制御装置10自身による自律的な制御に基づき発行される指示(以下、内発指示という)とに従って、複数の作業車両10-1~10-4の動作(走行および作業機101による作業)を制御することが可能になされている。
【0017】
なお、ここでは説明を簡単にするために、現場作業者が1人でリモコン30が1つ、基地局200の遠隔監視者が1人で遠隔操作装置40が1つの例を示しているが、リモコン30および遠隔操作装置40はそれぞれ複数であってもよい。また、現場作業者が複数人で、そのうちの何人かが作業車両100に乗車して運転を制御し、残りの何人かがリモコン30を操作して運転を制御する形態であってもよい。つまり、遠隔操作装置40が0台であってもよい。また、現場作業者が0人でリモコン30が0台であってもよい。また、本実施形態では、1台から最大4台までの作業車両100を同時に走行させることができるシステムの例について説明するが、最大4台というのは一例に過ぎず、2台以上であればよい。
【0018】
図2は、本実施形態による車両制御装置10の機能構成例を示すブロック図である。
図2に示すように、本実施形態の車両制御装置10は、機能構成として、指示受付部11、モード設定部12、運転制御部13、状態情報送信部14、優先権値設定部15および制御部16を備えている。また、車両制御装置10は、記憶媒体として、経路データ記憶部10A、優先権値記憶部10Bおよび優先順位値記憶部10Cを備えている。また、車両制御装置10には、各種センサ17およびカメラ18が電気的に接続されている。
【0019】
各機能ブロック11~16は、ハードウェア、DSP(Digital Signal Processor)、ソフトウェアの何れによっても構成することが可能である。例えばソフトウェアによって構成する場合、上記各機能ブロック11~16は、実際にはコンピュータのCPU、RAM、ROMなどを備えて構成され、RAMやROM、ハードディスクまたは半導体メモリ等の記録媒体に記憶されたプログラムが動作することによって実現される。
【0020】
指示受付部11は、車載操作装置20、リモコン30、遠隔操作装置40から与えられる外発指示を受け付ける。この外発指示には、作業車両100の運転に関する動作モードの設定を指示するもの(以下、モード設定指示という)と、作業車両100の運転(作業車両100の走行および作業機101の作動を含む)の制御を指示するもの(以下、操縦指示という)とが含まれる。操縦指示は、エンジンの起動・停止に関する指示、走行の開始・停止に関する指示、操舵の制御に関する指示、走行速度の制御に関する指示、変速の制御に関する指示、作業機101の作動(昇降および駆動)に関する指示などを含む。
【0021】
この外発指示には、発行元を識別可能な情報が含まれている。発行元を識別可能な情報は、例えば、車載操作装置20、リモコン30、遠隔操作装置40に対してそれぞれ割り振られたデバイスIDである。デバイスIDは、複数の車載操作装置20-1~20-4を互いに識別可能な固有のIDである。同様に、リモコン30または遠隔操作装置40が複数存在する場合には、それら複数のリモコン30または遠隔操作装置40を互いに識別可能な固有のIDである。
【0022】
モード設定部12は、指示受付部11が外発指示として受け付けたモード設定指示に従って、作業車両100の運転に関する動作モードを設定する。また、モード設定部12は、運転制御部13による自律的な制御に基づき内発指示として発行されるモード設定指示に従って、作業車両100の運転に関する動作モードを設定することもある。本実施形態において設定可能な動作モードは、例えば、手動運転モード、自動運転モード、遠隔操縦モード、待機モード、非常停止モード、一時停止モードである。なお、内発指示についても、その発行元を識別可能なデバイスIDが含まれている。
【0023】
手動運転モードは、現場作業者が作業車両100に乗車し、車載操作装置20および図示しないハンドルやアクセル、ブレーキ、変速器などの各種操作部を操作することにより、作業車両100の運転を現場作業者が手動で行う動作モードである。なお、以下の説明において、作業車両100に乗車して運転を制御する現場作業者を特に運転者ということがある。
【0024】
自動運転モードは、あらかじめ設定した計画(経路データ記憶部10Aに記憶される経路データ)に従って運転を自動実行する動作モードである。経路データ記憶部10Aには、作業車両100が走行する圃場内にあらかじめ設定された走行経路を表す経路データが記憶されている。経路データには、圃場内のどの位置で作業機101を下降させて作業を行い、どの位置で作業機101を上昇させて作業を停止するかの作業計画を示す作業指示データも含まれている。
【0025】
この経路データは、例えば、作業車両100が走行を開始する前に遠隔操作装置40から車両制御装置10に送信され、経路データ記憶部10Aに記憶される。なお、経路データ記憶部10Aに経路データを記憶させる方法は、上記のような無線送信によるものに限定されない。例えば、経路データを記憶したリムーバブル記憶媒体を車両制御装置10に接続し、当該リムーバブル記憶媒体から経路データ記憶部10Aに経路データを転送するようにしてもよい。また、経路データは、自動運転モードで動作中に、各種センサ17からのデータに基づいて動的に生成されてもよい。この場合は、経路データ記憶部10Aには作業範囲や圃場外形などの事前に取得されたデータが記録されている。
【0026】
遠隔操縦モードは、遠隔操作者(作業車両100に乗車していない現場作業者または遠隔監視者。以下同様)によるリモコン30または遠隔操作装置40からの外発指示を逐一作業車両100の車両制御装置10に送信して運転を制御する動作モードである。なお、リモコン30からの外発指示に基づき運転を制御する動作モードと、遠隔操作装置40からの外発指示に基づき運転を制御する動作モードとを分けて管理するようにしてもよい。待機モードは、いずれの動作もさせる必要がない場合に作業車両100をその場に停車させておくように制御し、他の動作モードへのモード設定指示を待機する動作モードである。
【0027】
非常停止モードは、システムが備える通常機能では対応できない安全を脅かす可能性のある障害が発生した場合に、現在システムが実施している作業を復帰継続できなくなるなどの作業上の不都合があるにもかかわらず緊急性を優先して作業車両100と作業機101とを安全状態に移行させる動作モードである。
【0028】
一時停止モードは、システムの設計上あらかじめ予見されうる範囲内での安全確保または作業確認などの要因が発生した場合に、現在システムが実施している作業を継続可能な状態で作業車両100と作業機101とを安全状態に移行させる動作モードである。
【0029】
運転制御部13は、モード設定部12により設定された動作モードに従って作業車両100の運転の制御を実行する。モード設定部12により手動運転モードが設定された場合、運転制御部13は、車載操作装置20から送信されてくる外発指示に従って、作業車両100の運転の制御を実行する。
【0030】
モード設定部12により自動運転モードが設定された場合、運転制御部13は、経路データ記憶部10Aに記憶された走行経路のデータと、各種センサ17に含まれる位置・方位センサにより検出される作業車両100の現在位置および現在方位(以下、車両位置・方位という)とに基づいて、走行経路に対する車両位置・方位の偏差を逐次検出しながら、その偏差が少なくなるように作業車両100の操舵を自動制御する。また、自動運転モードの設定時に運転制御部13は、作業車両100の走行速度や変速など、操舵以外の走行に関する制御も自動実行する。また、作業機101の作動に関する制御も自動実行する。すなわち、運転制御部13は、自動運転を開始した後は、車載操作装置20、リモコン30および遠隔操作装置40からの外発指示を受けなくても一切の運転を内発指示に従って自動制御可能である。
【0031】
モード設定部12により遠隔操縦モードが設定された場合、運転制御部13は、リモコン30または遠隔操作装置40から送信されてくる操縦指示に従って、作業車両100の運転の制御を実行する。モード設定部12により待機モードが設定された場合、運転制御部13は、作業車両100と作業機101とを直ちに動作させることができる機械状態で停止させる。
【0032】
状態情報送信部14は、各種センサ17により検出される作業車両100の走行状態を示す走行状態情報、各種センサ17により検出される作業機101の作動状態を示す作動状態情報、各種センサ17により検出される作業車両100の周囲の障害物情報、および、カメラ18により撮影される車両周囲の状態を示す車両周囲画像を遠隔操作装置40に逐次送信する。走行状態情報は、例えば、車両位置・方位、操舵角、走行速度、変速段、エンジン回転数、エンジン負荷率、車体の傾き角度(ロール角度およびピッチ角度)、燃料残量、冷却水温度、バッテリ電圧などの情報を含む。また、作動状態情報は、例えば、作業機101の高さ、PTO回転数などの情報を含む。以下では、走行状態情報、作動状態情報、障害物情報および車両周囲画像を合わせて各種状態情報という。
【0033】
なお、状態情報送信部14は、上述した各種状態情報の他に、モード設定部12により設定されている現在の動作モードを示す情報や、後述するオーナーに関する情報を更に送信するようにしてもよい。このようにすることにより、モード設定指示を発行した指示主体(詳細は後述する)は、車両制御装置10により指示が受け入れられたかどうかを把握することが可能である。また、状態情報送信部14は、ある作業車両100-i(iは1~4の何れか)の車両制御装置10-iから遠隔操作装置40に対してだけでなく、別の作業車両100-j(i≠j)の車両制御装置10-jやリモコン30に対しても各種状態情報を送信するようにしてもよい。ただし、以下では説明を簡単にするため、遠隔操作装置40にのみ送信するものとして説明する。
【0034】
各種センサ17は、上述の走行状態情報、作動状態情報および障害物情報を取得するために必要な複数のセンサを含む。カメラ18は、例えば、作業車両100の前方、後方、左方、右方、左斜め後方および右斜め後方を撮影するための6つのカメラである。作業車両100の前方を撮影するフロントカメラは、車体の一部が写り込むような撮影範囲となるように、設置位置および設置角度が調整されている。作業車両100の後方を撮影するリアカメラは、作業機101が写り込むような撮影範囲となるように、設置位置および設置角度が調整されている。なお、ここに示したカメラ18の台数は一例であり、少なくとも1台以上あればよい。カメラ18の種類(360度カメラ、アラウンドビューカメラ、ステレオカメラなど)も問わない。
【0035】
本実施形態では、モード設定部12および運転制御部13は、車両制御装置10、車載操作装置20、リモコン30および遠隔操作装置40のうち、後述するオーナー特権(作業車両100を制御する権限)を有するもの、およびそれより優先順位が高いものから与えられる指示に基づいて処理を実行し、それ以外のものから与えられる指示については処理を実行しない。以下の説明において、指示を発行するものを指示主体という。外発指示を発行する車載操作装置20、リモコン30および遠隔操作装置40に関しては、デバイスIDごとに指示主体は異なるものとする。また、複数の指示主体のうち、オーナー特権を有する指示主体をオーナーという。
【0036】
本実施形態における指示主体は、車両制御装置10、車載操作装置20、リモコン30、遠隔操作装置40である。車両制御装置10に関しては、モード設定指示によって動作モードの遷移を伴う場合と、操縦指示によって動作モードの遷移を伴わない場合とで指示主体を分けて、それぞれに対して異なるデバイスIDを付与している。以下では、前者を「車両制御装置10(モード遷移あり)」と表記し、後者を「車両制御装置10(モード遷移なし)」と表記することがある。
【0037】
優先権値設定部15は、優先順位値記憶部10Cに記憶されているテーブル情報に基づいて、作業車両100を制御する権限(オーナー特権)を直近で有している指示主体であるオーナーに関する優先権値を設定する。具体的には、優先権値設定部15は、車両制御装置10によるモード遷移を伴う内発指示(モード設定指示)、車両制御装置10によるモード遷移を伴わない内発指示(操縦指示)、車載操作装置20からの外発指示(モード設定指示および操縦指示)、リモコン30からの外発指示(モード設定指示および操縦指示)、遠隔操作装置40からの外発指示(モード設定指示および操縦指示)に対してそれぞれ設定された優先順位を表す優先順位値と、作業車両100を制御する権限を表すオーナー特権値とを用いて、オーナー特権を直近で有している指示主体であるオーナーに関する優先権値を設定する。
【0038】
各指示主体からの指示に対する優先順位は、複数の作業車両100を複数の指示主体から制御する場合における運転の安全上の観点から設定される。すなわち、ある指示主体(仮に、指示主体Aとする)がある作業車両100-iの運転を制御しているときに、別の指示主体(仮に、指示主体Bとする)が同じ作業車両100-iの運転を制御するために指示を発行した場合において、指示主体Bからの指示に従って作業車両100-iの運転を制御しても安全上の観点から支障がないと考えられる場合には、指示主体Aよりも指示主体Bの方が優先順位は上位に設定される。逆に、指示主体Bからの指示に従って作業車両100-iの運転を制御すると安全上の観点から支障があると考えられる場合には、指示主体Aよりも指示主体Bの方が優先順位は下位に設定される。
【0039】
一例として、自動運転モードで動作中の作業車両100-iに対して現場作業者がリモコン30を操作して一時停止モードに遷移させた後に、遠隔監視者が遠隔操作装置40を操作して、自動運転モードに戻して自動運転を再開させる場面を想定する。この場合、現場作業者が作業車両100-iを一時停止させた理由として、安全上の理由が存在する可能性がある。一方、その理由に当たる現場の状況がカメラ18の死角に入るなどの理由で、遠隔操作装置40に表示される監視映像(車両周囲画像)では把握できない可能性がある。このような場合に、遠隔操作装置40からの指示に基づいて自動運転を再開させることは、安全上の点で支障が生じる可能性があるので、この場合の指示は棄却されるべきと言える。これに対し、同じ場面において、現場作業者が作業車両100-iに乗車して車載操作装置20を操作し、これによって自動運転を再開する場合は、緊急停止させた当人が安全な状態であることを確認して指示を発行しているので、その指示は許可されるべきである。
【0040】
このことを踏まえて、車両制御装置10(モード遷移なし)による内発指示(自動運転モード時の操縦指示)よりもリモコン30からの外発指示の方が優先順位が高く設定されるとともに、遠隔操作装置40からの外発指示よりもリモコン30からの外発指示の方が優先順位が高く設定され、リモコン30からの外発指示よりも車載操作装置20からの外発指示の方が優先順位が高く設定される。これと同様にして、種々の場面を想定した安全上の観点から、各指示主体からの指示に対する優先順位が設定される。
【0041】
図3は、各指示主体に対して設定された優先順位値の例を示す図である。
図3に示す例では車載操作装置20からの外発指示>車両制御装置10(モード遷移あり)によるモード遷移を伴う内発指示>リモコン30からの外発指示>遠隔操作装置40からの外発指示>車両制御装置10(モード遷移なし)によるモード遷移を伴わない内発指示の順番に優先順位が設定され、それぞれの優先順位に対して優先順位値が設定されており、それがテーブル情報として優先順位値記憶部10Cに記憶されている。優先順位値は、優先順位が高い指示主体ほど大きな値が設定され、優先順位が低い指示主体ほど小さな値が設定される。
図3の例では、各指示主体の優先順位値として“2n”(n=1,2,3,4,5)が設定されている。また、
図3に示すように、本実施形態では、各指示主体の何れもオーナー特権を持たない状態を最下位の優先順位として設定し、対応する優先順位値として“0”を設定している。以上のような優先順位値“2n”(n=0~5)に対して、オーナー特権値は“1”に設定されている。
【0042】
なお、ここに示した優先順位値“2n”およびオーナー特権値“1”は一例に過ぎない。すなわち、車載操作装置20からの外発指示、車両制御装置10(モード遷移あり)によるモード遷移を伴う内発指示、リモコン30からの外発指示、遠隔操作装置40からの外発指示、車両制御装置10(モード遷移なし)によるモード遷移を伴わない内発指示に対してそれぞれ所定間隔差の優先順位値が設定されるとともに、当該所定間隔差より小さい値のオーナー特権値が設定されていればよい。例えば、車載操作装置20、車両制御装置10(モード遷移あり)、リモコン30、遠隔操作装置40、車両制御装置10(モード遷移なし)の各指示主体に対する優先順位値を“3n”とし、オーナー特権値を“2”としてもよい。
【0043】
各指示主体に対する優先順位値の間隔を3以上とする場合、機械装置としてはまったく同じ指示主体について、使用用途によって事前に割り振る優先順位値に差をつけることができる。例えば、所定間格差を“3n”として優先順位値を割り振る場合において、リモコン30の優先順位値を“9”とできる。このとき、特定のリモコン30-1のみ優先順位値を“9”にして,それ以外のリモコン30-i(i=2,3,4)の優先順位値を“10”にするような割り振り方ができる。このような設定をすることにより、複数の現場作業者のうちもっぱら監視作業のみに従事する者に特定のリモコン30-1を携帯させ、作業車両100や作業機101の操作を実施する可能性のある現場作業者に他のリモコン30-iを携帯させることで、より機械に近い人間が持つリモコン30-iに対して高い優先順位値を付与することができる。
【0044】
優先権値設定部15は、オーナーに対して設定されている優先順位値とオーナー特権値とを加算することにより、オーナーに関する優先権値を設定する。例えば、オーナー特権を有する指示主体が車載操作装置20の場合、オーナーに関する優先権値は“11”(=10+1)である。また、オーナー特権を有する指示主体がリモコン30の場合、オーナーに関する優先権値は“7”(=6+1)である。優先権値設定部15は、このようにして設定したオーナーの優先権値を、オーナー特権を有する指示主体のデバイスIDに関連付けて優先権値記憶部10Bに記憶する。
【0045】
制御部16は、車両制御装置10(モード遷移あり)によるモード遷移を伴う内発指示、車両制御装置10(モード遷移なし)によるモード遷移を伴わない内発指示、車載操作装置20からの外発指示、リモコン30からの外発指示、遠隔操作装置40からの外発指示の何れかを指示受付部11が受けたときに、当該受けた指示(指示の発行元の指示主体)に対して設定されている優先順位値と優先権値記憶部10Bに記憶されている優先権値とを比較し、優先順位値が優先権値未満の場合には、指示受付部11が受けた指示を実行せず、優先順位値が優先権値以上場合には、指示受付部11が受けた指示を実行するようにモード設定部12および運転制御部13を制御する。
【0046】
また、制御部16は、オーナー以外の指示主体から発行された指示を実行するように制御した場合、その指示の発行元の指示主体にオーナー特権を移し、そのことを優先権値設定部15に通知する。この通知を受けて、優先権値設定部15は、オーナー特権が移された新たな指示主体について優先権値を設定し、設定した優先権値を、オーナー特権を有する指示主体のデバイスIDに関連付けて優先権値記憶部10Bに記憶する。これにより、優先権値記憶部10Bに記憶される優先権値は、直近でオーナー特権を有する指示主体の優先権値に更新される。
【0047】
ここで、上述のように想定した場面に沿って制御部16の動作を説明する。ある作業車両100-iが自動運転モードで動作中のとき、オーナーは車両制御装置10(モード遷移なし)であり、優先権値記憶部10Bに記憶される優先権値は“3”となっている。この状態の作業車両100-iに対して現場作業者がリモコン30を操作してモード設定指示を発行し、作業車両100-iの動作モードを自動運転モードから一時停止モードに変更しようとしたとする。この場合、指示受付部11がリモコン30からのモード設定指示を受けると、制御部16は、リモコン30からの指示に対して設定されている優先順位値“6”と優先権値記憶部10Bに記憶されている優先権値“3”とを比較し、優先順位値が優先権値以上であることを確認して、指示受付部11が受けたモード設定指示を実行するようにモード設定部12を制御する。これにより、作業車両100-iの動作モードは自動運転モードから一時停止モードに遷移する。また、オーナー特権は車両制御装置10(モード遷移なし)からリモコン30に移される。このとき、優先権値設定部15は、リモコン30に対する優先権値を設定し、設定した優先権値を、オーナー特権を有する指示主体のデバイスIDに関連付けて優先権値記憶部10Bに記憶する。これにより、優先権値記憶部10Bに記憶される優先権値は、“3”から“7”に更新される。
【0048】
その後、遠隔監視者が遠隔操作装置40を操作してモード設定指示を発行し、作業車両100-iの動作モードを一時停止モードから自動運転モードに戻して自動運転を再開しようとしたとする。この場合、指示受付部11が遠隔操作装置40からのモード設定指示を受けると、制御部16は、遠隔操作装置40からの指示に対して設定されている優先順位値“4”と優先権値記憶部10Bに記憶されている優先権値“7”とを比較する。この場合、優先順位値よりも優先権値の方が大きいので、制御部16は、指示受付部11が受けたモード設定指示を実行しないようにモード設定部12を制御する。これにより、作業車両100-iの動作モードは一時停止モードのままであり、リモコン30がオーナー特権を持ち続ける。
【0049】
なお、リモコン30が複数ある場合において、あるリモコン30(仮に、リモコン30Aとする)がオーナー特権を持っているときに、別のリモコン30(仮に、リモコン30Bとする)からモード設定指示が発行されたとする。この場合、指示受付部11がリモコン30Bからのモード設定指示を受けると、制御部16は、リモコン30Bからの指示に対して設定されている優先順位値“6”と優先権値記憶部10Bに記憶されている優先権値“7”とを比較する。この場合、優先順位値よりも優先権値の方が大きいので、制御部16は、指示受付部11が受けたモード設定指示を実行しないようにモード設定部12を制御する。これにより、作業車両100-iの動作モードは一時停止モードのままであり、リモコン30Aがオーナー特権を持ち続ける。
【0050】
これに対し、現場作業者が作業車両100-iに乗車して車載操作装置20を操作し、モード設定指示を発行して作業車両100-iの動作モードを一時停止モードから自動運転モードに戻して自動運転を再開しようとしたとする。この場合、指示受付部11が車載操作装置20からのモード設定指示を受けると、制御部16は、車載操作装置20からの指示に対して設定されている優先順位値“10”と優先権値記憶部10Bに記憶されている優先権値“7”とを比較する。この場合、優先順位値の方が優先権値よりも大きいので、制御部16は、指示受付部11が受けたモード設定指示を実行するようにモード設定部12を制御する。これにより、作業車両100-iの動作モードは一時停止モードから自動運転モードに遷移し、オーナー特権はリモコン30から車載操作装置20に移される。
【0051】
なお、優先順位が上位の指示主体がオーナーになると、そのオーナーよりも優先順位が低い指示主体から発行される指示は常に拒否されることになる。このようなことを避けるために、本実施形態では、車両制御装置10、車載操作装置20、リモコン30および遠隔操作装置40は、指示を発行する際にオーナー特権の放棄を宣言することを可能としている。
【0052】
例えば、現場作業者または遠隔監視者が車載操作装置20、リモコン30または遠隔操作装置40の何れかを操作して外発指示を発行する際に、オーナー特権の放棄を宣言するための操作を行うことにより、放棄宣言付きの外発指示を発行するようにすることが可能である。また、車両制御装置10が自律制御に基づき内発指示を発行する際に、所定の条件を定めたルールに基づいて、条件を満たした場合に放棄宣言付きの内発指示を自動発行するようにすることも可能である。所定の条件は任意に定め得る。例えば、作業車両100の動作モードを待機モードに遷移させるようなモード設定指示を発行する際に、放棄宣言付きの指示とすることが一例として考えられる。
【0053】
具体例として、次のようなケースが考えられる。すなわち、車両制御装置10(モード遷移なし)が制御することで自動運転モードで自動運転している作業車両100において、各種センサ17のうち走行状態情報の位置測位精度の低下を条件に、車両制御装置10(モード遷移あり)が一時停止モードへのモード設定指示を発行したとする。この場合、車両制御装置10(モード遷移あり)がオーナーとなり一時停止モードへ遷移するため、位置測位精度が回復した後もこのままであるとすると、車両制御装置10(モード遷移あり)よりも高い優先順位値をもつ車載操作装置20を操作することでのみ指示することができ、リモコン30や遠隔操作装置40からは指示できないことになる。よって、位置測位精度が回復することを条件に、車両制御装置10(モード遷移あり)から放棄宣言付きの待機モードへのモード設定指示を発行することで、車両操作装置20以外からの操作も可能になる。
【0054】
指示受付部11がオーナーからオーナー特権の放棄の宣言を伴う指示を受けた場合、制御部16は、当該オーナーより優先順位の低い指示主体をオーナーに設定し、そのことを優先権値設定部15に通知する。優先権値設定部15は、新たにオーナーとして設定された指示主体の優先順位値を用いて優先権値を設定し、設定した優先権値を優先権値記憶部10Bに記憶する。例えば、制御部16は、オーナーより1つ優先順位の低い指示主体を新たなオーナーとして設定する。あるいは、オーナーより優先順位の低い指示主体の中から何れかを手動で選択してオーナー特権を移譲できるようにしてもよい。
【0055】
あるいは、制御部16は、優先順位が最も低い指示主体を新たなオーナーとして設定するようにしてもよい。本実施形態の場合、制御部16は、各指示主体の何れもオーナー特権を持たない最下位の優先順位に対応する“オーナーなし”を設定し、優先権値設定部15は、それに対応する優先順位値“0”を優先権値として設定する。このように、オーナーがオーナー特権を放棄する仕組みを導入することにより、放棄する前のオーナーについて設定される優先権値より優先順位値が低い指示主体から発行される指示も拒否せずに実行することができるようになる。
【0056】
図4は、以上のように構成した車両制御装置10の動作例を示すフローチャートである。
図4に示すフローチャートは、車両制御装置10の電源がオンとされたときに開始する。なお、電源がオンとされた直後において、オーナー特権が設定されている指示主体は存在せず、優先権値記憶部10Bに記憶されている優先権値は“0”である。
【0057】
まず、指示受付部11およびモード設定部12は、車両制御装置10、車載操作装置20、リモコン30、遠隔操作装置40の何れかより外発指示または内発指示を受けたか否かを判定する(ステップS1)。何らかの指示を受けるまで、ステップS1の判定が繰り返される。指示受付部11またはモード設定部12が指示を受けると、制御部16は、当該受けた指示に対して設定されている優先順位値と優先権値記憶部10Bに記憶されている優先権値とを比較し(ステップS2)、優先順位値が優先権値以上か否かを判定する(ステップS3)。
【0058】
ここで、優先順位値が優先権値以上ではないと判定された場合、処理はステップS1に戻り、指示は実行されない。なお、このとき指示の発行元の指示主体に対してエラーメッセージを送信して表示させるようにしてもよい。一方、優先順位値が優先権値以上であると判定された場合、制御部16は、指示受付部11またはモード設定部12が受けた指示を実行するようにモード設定部12または運転制御部13を制御する(ステップS4)。なお、車両制御装置10の電源がオンとされた直後においては、優先権値記憶部10Bに記憶されている優先権値は“0”であるから、指示受付部11またはモード設定部12が受けた指示に対して設定されている優先順位値は、優先権値記憶部10Bに記憶されている優先権値以上になる。よって、この場合に制御部16は、指示受付部11またはモード設定部12が受けた指示を実行するようにモード設定部12または運転制御部13を制御する。
【0059】
制御部16は、指示を実行した後、当該指示に対して、オーナー特権を放棄する宣言が付帯しているか否かを判定する(ステップS5)。オーナー特権を放棄する宣言が付帯していない場合、制御部16は、当該指示の発行元の指示主体をオーナーに設定する(ステップS6)。一方、オーナー特権を放棄する宣言が付帯している場合、制御部16は、オーナーよりも優先順位が低い指示主体にオーナー特権を移す(ステップS7)。
図4のフローチャートでは、優先順位が最下位であるオーナーなしの状態に設定している。
【0060】
ステップS6またはステップS7の後、優先権値設定部15は、オーナー特権を直近で有している指示主体であるオーナーに関する優先権値を設定する(ステップS8)。ここで、オーナー特権を直近で有している指示主体とは、ステップS6またはステップS7の処理によってオーナー特権が移された指示主体である。なお、ステップS7においてオーナーなしの状態に設定された場合、優先権値は“0”とされる。優先権値設定部15は、設定した優先権値を優先権値記憶部10Bに記憶する(ステップS9)。これにより、優先権値記憶部10Bに記憶される優先権値が更新される。
【0061】
その後、車両制御装置10は、電源がオフとされたか否かを判定する(ステップS10)。電源がオフとされていない場合、処理はステップS1に戻る。以上のように、指示受付部11が指示主体から指示を受けるたびに、ステップS1~S10の処理が実行される。そして、ステップS10において、車両制御装置10の電源がオフにされたと判定された場合、
図4に示すフローチャートの処理は終了する。
【0062】
以上詳しく説明したように、本実施形態では、車両制御装置10において、車載操作装置20、リモコン30、遠隔操作装置40からの外発指示および車両制御装置10による内発指示に対してそれぞれ設定された優先順位を表す優先順位値と、作業車両100を制御する権限を表すオーナー特権値とを用いて、作業車両100を制御する権限を直近で有している指示主体に関する優先権値を設定して優先権値記憶部10Bに記憶する。そして、車両制御装置10が外発指示または内発指示を受けたときに、当該受けた指示に対して設定されている優先順位値と優先権値記憶部10Bに記憶されている優先権値とを比較し、優先順位値が優先権値未満の場合には受けた指示を実行せず、優先順位値が優先権値以上の場合に受けた指示を実行するようにしている。
【0063】
このように構成した本実施形態によれば、車載操作装置20、リモコン30、遠隔操作装置40を操作する操作者(現場作業者および遠隔監視者)が複数人いて、当該の複数人の操作者が操作対象とする作業車両100が複数台ある場合においても、指示の優先順位値とオーナー特権値とに基づいて、各々の作業車両100を制御するための権限が指示主体に対して適切に付与される。そして、優先順位値が、現時点において権限を有するオーナーについて設定される優先権値以上となる指示主体からの指示についてのみ、指示の実行が許容されることとなる。これにより、ある指示主体がある作業車両100-iの動作を制御している際に、それよりも優先順位の低い別の指示主体が同じ作業車両100-iの動作を制御してしまうことを禁止することができ、複数人の操作者によって複数台の作業車両100-1~100-4を安全に制御することが可能となる。
【0064】
本実施形態において、オーナー特権の付与および優先権値の設定は複数の作業車両100-1~100-4ごとに個別に行われるので、複数の作業車両100-1~100-4ごとに、指示を実行可能な指示主体を異ならせることができる。例えば、ある作業車両100-iにおいて車両制御装置10がオーナー特権を有している場合において、別の作業車両100-j(i≠j)では車両制御装置10よりも優先順位の低い指示主体がオーナー特権を持つことも可能である。これにより、個々の作業車両100-1~100-4の運転状況や周囲環境などに合わせて、作業車両100-1~100-4ごとに適切な指示主体を用いて運転の制御を行うことができる。
【0065】
また、本実施形態では、優先順位値のほかにオーナー特権値を導入し、優先順位値とオーナー特権値との加算値を優先権値として設定するようにしている。これにより、優先順位が同じ指示主体が複数存在する場合において、その中の何れか1つがオーナー特権を有しているときには、同じ優先順位の他の指示主体から発行される指示を実行しないようにすることができる。
【0066】
これに対し、優先順位が同じ指示主体から発行される指示について実行を許可するようにしてもよい。この場合は、オーナー特権値を用いず、オーナー特権を有する指示主体の優先順位値をそのまま優先権値として優先権値記憶部10Bに記憶するようにする。そして、制御部16は、指示受付部11が受けた指示に対応する優先順位値と、優先権値記憶部10Bに記憶されている優先権値と比較し、優先順位値が優先権値以上の場合に指示を実行するようにする。
【0067】
なお、このように優先順位が同じ指示主体から発行される指示の実行を許可する場合、車載操作装置20に対して割り振られるデバイスIDは、複数の車載操作装置20-1~20-4を互いに識別可能な固有のIDであることを必須とするものではない。同様に、リモコン30または遠隔操作装置40が複数存在する場合に、それら複数のリモコン30または遠隔操作装置40を互いに識別可能な固有のIDであることを必須とするものではない。すなわち、この場合のデバイスIDは、車載操作装置20、リモコン30、遠隔操作装置40の3種類のデバイスのうちどれに関するものであるかを識別可能なものであればよい。
【0068】
なお、上記実施形態では、優先順位値が優先権値に対して所定の関係となっている場合に指示を実行するようにする一例として、優先順位値とオーナー特権値とを加算した結果の優先権値を優先権値記憶部10Bに記憶させ、指示を発行した指示主体に対応する優先順位値が優先権値記憶部10Bの優先権値以上となっている場合に処理を実行するという内容を説明したが、本発明はこれに限定されない。例えば、同じように優先権値を優先権値記憶部10Bに記憶させ、オーナーについてはオーナー特権値を加算した値を優先順位値として設定した上で、優先順位値が優先権値以上となっている場合に処理を実行するようにしてもよい。あるいは、指示主体に対応する優先順位値をそのまま優先権値として優先権値記憶部10Bに記憶させ、オーナーについてはオーナー特権値を加算した値を優先順位値として設定した上で、優先順位値が優先権値より大きくなっている場合に処理を実行するようにしてもよい。
【0069】
また、上記実施形態では、車両制御装置10に関して、モード遷移の有無に応じて指示主体を分けて、それぞれの指示主体からの指示に対して異なる優先順位値を設定する例について説明したが、これと同様に、車載操作装置20、リモコン30、遠隔操作装置40についても指示主体を分けて異なる優先順位値を設定するようにしてもよい。例えば、リモコン30に関して、現場作業者が非常停止スイッチを操作した場合に発行される非常停止指示(非常停止モードを設定するためのモード設定指示)と、現場作業者が非常停止スイッチ以外のスイッチを操作した場合に発行される操縦指示に対して、異なる優先順位値を設定するようにしてもよい。さらに、上述したようにスマートフォンのようなモバイル端末をリモコン30として用いる場合に、これに対して更に異なる優先順位値を設定するようにしてもよい。
図5は、この場合に各指示主体に対して設定される優先順位値の例を示す図である。
【0070】
その他、上記実施形態は、何れも本発明を実施するにあたっての具体化の一例を示したものに過ぎず、これによって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されてはならないものである。すなわち、本発明はその要旨、またはその主要な特徴から逸脱することなく、様々な形で実施することができる。
【符号の説明】
【0071】
10 車両制御装置
10B 優先権値記憶部
12 モード設定部
13 運転制御部
14 状態情報送信部
15 優先権値設定部
16 制御部
20 車載操作装置
30 リモコン(第1遠隔操作装置)
40 遠隔操作装置(第2遠隔操作装置)