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特許7575076形態が制御された粒子、該粒子からなる構造膜、およびそれらの製造方法、ならびに該構造膜を用いたセンサ
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  • 特許-形態が制御された粒子、該粒子からなる構造膜、およびそれらの製造方法、ならびに該構造膜を用いたセンサ 図1
  • 特許-形態が制御された粒子、該粒子からなる構造膜、およびそれらの製造方法、ならびに該構造膜を用いたセンサ 図2
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  • 特許-形態が制御された粒子、該粒子からなる構造膜、およびそれらの製造方法、ならびに該構造膜を用いたセンサ 図8
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  • 特許-形態が制御された粒子、該粒子からなる構造膜、およびそれらの製造方法、ならびに該構造膜を用いたセンサ 図12
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-21
(45)【発行日】2024-10-29
(54)【発明の名称】形態が制御された粒子、該粒子からなる構造膜、およびそれらの製造方法、ならびに該構造膜を用いたセンサ
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/12 20060101AFI20241022BHJP
   C01G 41/02 20060101ALI20241022BHJP
【FI】
G01N27/12 C
G01N27/12 M
C01G41/02
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2021107033
(22)【出願日】2021-06-28
(65)【公開番号】P2023005244
(43)【公開日】2023-01-18
【審査請求日】2024-03-14
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和2年度国立研究開発法人科学技術振興機構(研究成果展開事業 研究成果最適展開支援プログラム 産業ニーズ対応タイプ)「セラミックスの高機能化と製造プロセス革新/ナノブロック高次秩序化による配向性ナノ構造体の開発と表面ドーピングによる高機能化委託研究」に係る産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100218062
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 悠樹
(74)【代理人】
【識別番号】100093230
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 利夫
(72)【発明者】
【氏名】増田 佳丈
(72)【発明者】
【氏名】魚住 絢子
【審査官】黒田 浩一
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-195550(JP,A)
【文献】特開2004-210563(JP,A)
【文献】特開2010-139497(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2006/0071165(US,A1)
【文献】国際公開第2013/057976(WO,A1)
【文献】特開2014-092524(JP,A)
【文献】特開2002-031615(JP,A)
【文献】Kwangyeol Lee et al.,Synthesis and Optical Properties of Colloidal Tungsten Oxide Nanorods,J.AM.CHEM.SOC.,2003年,Vol.125,pp.3408-3409
【文献】Chai Yan Ng et al.,WO3 nanorods prepared by low-temperature seed growth hydrothermal reaction,Journal of Alloys and Compounds,2014年,Vol.588,pp.585-591
【文献】Yong Shin Kim et al.,Material and Gas-Sensing Properties of Tungsten Oxide Nanorod Thin-Films,J.Nanoscience and Nanotechnology,2009年,Vol.9,pp.2463-2468
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/12
C01G 25/00-99/00
C04B 35/42-35/515
B01J 21/00-38/74
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化タングステン、酸化タングステン水和物、または、タングステン含有物質を含み、針状の形態を有する粒から構成される構造膜であり、
前記針状の形態は、以下のサイズ、
長手方向の長さ:L(nm)の範囲は、40nm以上であり500nm以下、
太さ方向の長さ:W(nm)の範囲は、5nm以上であり50nm以下、
長手方向の長さ:L(nm)と、太さ方向の長さ:W(nm)の比率(R=L/W)の範囲は、2以上であり50以下、
を有し、
前記粒子どうしが、粒子の長手方向に直交する方向に枝分かれする樹枝状の分岐部を介して結合していることを特徴とする構造膜。
【請求項2】
請求項1に記載の構造膜の製造方法であって、
基材を、溶媒に溶解するタングステンイオンを含む物質を加えた溶液中に浸漬させることにより、基材表面に酸化タングステン、酸化タングステン水和物、または、タングステン含有物質からなる針状の形態を有する粒子の核形成および結晶成長を行い、該粒子から構成される構造膜を形成することを特徴とする構造膜の製造方法。
【請求項3】
前記構造膜を常圧(大気圧、1気圧)で形成することを特徴とする請求項に記載の構造膜の製造方法。
【請求項4】
前記構造膜を0℃から100℃の温度で形成することを特徴とする請求項またはに記載の構造膜の製造方法。
【請求項5】
前記基材表面に、溶媒に溶解するタングステンイオンを含む物質を含有するコーティング溶液を塗布してシード層を形成した後、前記構造膜を形成することを特徴とする請求項2から4のいずれか一項に記載の構造膜の製造方法。
【請求項6】
基材と、
この基材上に設けられた一対の電極と、
前記電極上に形成された請求項に記載の構造膜と、
を有することを特徴とするセンサ。
【請求項7】
センサがガスセンサであり、可燃性ガス、還元性ガス、酸化性ガス、支燃性ガス、または、水蒸気を検出対象ガスとすることを特徴とする請求項に記載のセンサ。
【請求項8】
検出ガスが空気に対して、2以上20以下の抵抗値変化を示すことを特徴とする請求項に記載のセンサ。
【請求項9】
アセトンに対する抵抗値変化と水素に対する抵抗値変化を比較した場合、1以上10以下の比率のアセトン選択性が得られることを特徴とする請求項またはに記載のセンサ。
【請求項10】
NO(二酸化窒素)に対する抵抗値変化と水素に対する抵抗値変化を比較した場合、1以上7.5以下の比率のNO(二酸化窒素)選択性が得られることを特徴とする請求項またはに記載のセンサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、形態が制御された粒子、該粒子からなる構造膜、およびそれらの製造方法、ならびに該構造膜を用いたセンサに関し、特にアセトンや水素等を検知するガスセンサに好ましく利用される、形状が制御された粒子、該粒子からなる構造膜、およびそれらの製造方法、ならびに該構造膜を用いたセンサに関する。
【背景技術】
【0002】
ガスセンサ、分子センサ、触媒、電池等において、微細構造が特性に大きく影響を及ぼすことから、特性向上のため、微細構造の制御が求められている。
【0003】
特許文献1では、ゼータ電位が負の主触媒粒子と、ゼータ電位が正の助触媒粒子を含み、主触媒粒子の平均径が助触媒粒子の平均径より小さい分散液が開発されている。ここで、主触媒は酸化タングステン粒子であり、助触媒は、平均粒径が300nm以下の鉄、ニッケル、亜鉛もしくは銅の酸化物粒子である。また、主触媒の質量100に対して助触媒の質量が0.1~20である。
【0004】
この特許文献1では、光触媒特性を有する酸化タングステン粒子が開発されているものの、特許文献1中の図1、2、5、6、7に見られるように、粒子形態は一般的な不定形粒子であり、粒子の結晶面や形状、構造も制御されていない。
【0005】
一方、特許文献2では、酸化スズの結晶面、形状、構造が制御された、酸化スズ含有シートが開発されている。また、同文献では、ブリッジ型の酸化スズ含有シートを用いたガスセンサが開発されており、ノナナール、メタン、または水素の検知が実施されている。
【0006】
この特許文献2では、酸化スズの結晶面、形状、構造が制御されているが、酸化タングステンについては、これらの制御は実施されていない。酸化スズと酸化タングステンは、結晶構造や組成、金属元素の価数、金属元素の化学的性質が異なるため、酸化スズにおける制御技術をもとにしても酸化タングステンにおける結晶面、形状、構造の制御が容易に行えるわけではない。
【0007】
このように、より優れた特性を有する酸化タングステン粒子を得るためには、酸化タングステン粒子における結晶面、形状、構造の制御が課題であった。
【0008】
これまでに、針状の形態を有する粒子どうしが、90°の角度の枝分かれからなる樹枝状の結晶成長により結合している酸化タングステンの構造膜合成例は報告されていない。
【0009】
低コスト、省エネルギー、簡便な製造のため、真空容器や圧力容器を用いない常圧での合成方法が求められている。また、0℃から100℃以下の間の温度での合成が求められている。水を溶媒とした簡便な合成が求められている。
しかし、これまでに、常温・常圧・水溶媒での酸化タングステンの合成例は報告されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2019-155280号公報
【文献】特開2020-106445号公報
【非特許文献】
【0011】
【文献】"Synthesis of tungsten trioxide hydrates and their structural properties", Materials Science and Engineering B77 (2000) 193-201
【文献】https://www.figaro.co.jp/product/entry/tgs2602.html
【文献】https://www.figaro.co.jp/product/docs/tgs2602_product%20information%28jp%29_rev04.pdf
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、形態が制御された酸化タングステン等の粒子、該粒子からなる構造膜、特にアセトンや水素等を検知するガスセンサに好ましく利用される、特性が優れた構造膜を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明によれば、上記目的を達成するため、下記の針状の形態を有する粒子、構造膜、該構造膜を用いたセンサ、およびこれらの製造方法が提供される。
【0014】
〔1〕酸化タングステン、酸化タングステン水和物、または、タングステン含有物質を含み、針状の形態を有することを特徴とする粒子。
〔2〕上記第〔1〕の発明において、前記針状の形態は、以下のサイズ、
手方向の長さ:L(nm)の範囲は、40nm以上であり500nm以下、
さ方向の長さ:W(nm)の範囲は、5nm以上であり50nm以下、
手方向の長さ:L(nm)と、太さ方向の長さ:W(nm)の比率(R=L/W)の範囲は、2以上であり50以下、
を有することを特徴とする粒子。
〔3〕0℃から100℃の温度の溶液に、溶媒に溶解するタングステンイオンを含む物質を加え、反応させることにより、上記第〔1〕または第〔2〕の粒子を形成することを特徴とする粒子の製造方法。
〔4〕上記第〔3〕の発明において、前記粒子を、常圧(大気圧、1気圧)で形成することを特徴とする粒子の製造方法。
〔5〕上記第〔1〕または第〔2〕の粒子から構成されることを特徴とする構造膜。
〔6〕上記第〔5〕の発明において、針状の形態を有する粒子どうしが、粒子の長手方向に直交する方向に枝分かれする樹枝状の分岐部を介して結合していることを特徴とする構造膜。
〔7〕上記第〔5〕または第〔6〕の構造膜の製造方法であって、基材を、溶媒に溶解するタングステンイオンを含む物質を加えた溶液中に浸漬させることにより、基材表面に酸化タングステン、酸化タングステン水和物、または、タングステン含有物質からなる針状の形態を有する粒子の核形成および結晶成長を行い、該粒子から構成される構造膜を形成することを特徴とする構造膜の製造方法。
〔8〕上記第〔7〕の発明において、前記構造膜を常圧(大気圧、1気圧)で形成することを特徴とする構造膜の製造方法。
〔9〕上記第〔8〕の発明において、前記構造膜を0℃から100℃の温度で形成することを特徴とする構造膜の製造方法。
〔10〕上記〔7〕から上記〔9〕のいずれかの発明において、前記基材表面に、溶媒に溶解するタングステンイオンを含む物質を含有するコーティング溶液を塗布してシード層を形成した後、前記構造膜を形成することを特徴とする構造膜の製造方法。
〔11〕基材と、
この基材上に設けられた一対の電極と、
前記電極上に形成された上記第〔5〕または第〔6〕に記載の構造膜と、
を有することを特徴とするセンサ。
〔12〕上記第〔11〕の発明において、センサがガスセンサであり、可燃性ガス、還元性ガス、酸化性ガス、支燃性ガス、または、水蒸気を検出対象ガスとすることを特徴とするセンサ。
〔13〕上記第〔12〕の発明において、検出ガスが空気に対して、2以上20以下の抵抗値変化を示すことを特徴とするセンサ。
〔14〕上記第〔12〕または第〔13〕の発明において、アセトンに対する抵抗値変化と水素に対する抵抗値変化を比較した場合、1以上10以下の比率のアセトン選択性が得られることを特徴とするセンサ。
〔15〕上記第〔12〕または第〔13〕の発明において、NO(二酸化窒素)に対する抵抗値変化と水素に対する抵抗値変化を比較した場合、1以上7.5以下の比率のNO(二酸化窒素)選択性が得られることを特徴とするセンサ。
【発明の効果】
【0015】
本発明の針状の形態を有する粒子は、微細構造における形態が制御されているため、粒子形態が不定形な従来の粒子に比べ、特性をより向上させることができ、ガスセンサ、分子センサ、2次電池、太陽電池、触媒等の用途に利用することができる。
【0016】
また、本発明の構造膜は、形態が針状に制御された粒子から構成されており、しかも粒子が基材表面に核形成および結晶成長しているため、平板やフィルム等の2次元部材に加え、凹凸部材はメッシュ、不織布、粒体、チューブ、容器内部外部、歯車等の3次元部材の形態をとる基材との複合材料を容易に形成することができる。また、本発明の構造膜は、基材を、溶媒に溶解するタングステンイオンを含む物質を加えた溶液中に浸漬させることにより形成されているので、圧力容器や高温装置を用いずに、基材として、プラスチック基材、セラミック基材、ポリマーフィルム、紙、金属、ガラス、カーボン材料、バイオ材料当を用いることができ、これらの基材との複合材料も形成することができる。また、本発明の構造膜は、用途に応じて、数マイクロメートル以下の小型基材から1メートルを超える大型基材との複合体を形成することができる。さらに、本発明の構造膜は、ガスセンサ、分子センサ、溶液センサ等のセンサ、電池材料、人工光合成材料等に好適に利用することができる。
【0017】
また、本発明のセンサは、特にガスセンサに適用した場合、半導体ガスセンサで検出可能な可燃性ガス、還元性ガス、酸化性ガス、支燃性ガス、水蒸気に対して、2以上20以下の抵抗率変化(Ra/Rg)を示し、半導体ガスに比べ、より優れたガス検出特性を示す。また、本発明のガスセンサは、アセトンやNO(二酸化窒素)等に対し水素より検出感度が高く、優れた選択性を示す。
【0018】
可燃性ガスは、空気中または酸素中で燃えるガスであり、アセトン、水素、メタン、プロパン、イソブタン、アンモニアなどである。
還元性ガスは、酸素を奪う性質を持つガスであり、水素、一酸化炭素、硫化水素、二酸化硫黄、アセトンなどである。
支燃性ガスは、可燃性物質の燃焼を助けるのに必要なガスであり、酸素、塩素、フッ素、一酸化窒素(NO)、二酸化窒素(NO)などである。
酸化性ガスは、支燃性ガスと同じである。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】試料1のX線回折パターンを示す図である。
図2】大気中で300℃にて2時間加熱処理を施した後の試料1のX線回折パターンを示す図である。
図3】針状の形態を有する酸化タングステン水和物からなる粒子の走査型電子顕微鏡写真である。
図4】針状の形態を有する酸化タングステン水和物からなる粒子のサイズを追記した走査型電子顕微鏡写真である。図中に書き込まれているのは、「L×W」と「R」の値である。
図5】試料2のX線回折パターンを示す図である。
図6】大気中で300℃にて2時間加熱処理を施した後の試料2のX線回折パターンを示す図である。
図7】針状の形態を有する酸化タングステン水和物からなる構造膜の走査型電子顕微鏡写真である。
図8】針状の形態を有する酸化タングステン水和物からなる構造膜における針状粒子のサイズを追記した走査型電子顕微鏡写真である。図中に書き込まれているのは、「L×W」と「R」の値である。
図9】針状の形態を有する酸化タングステン水和物からなる構造膜の断面の走査型電子顕微鏡写真である。
図10】針状の形態を有する酸化タングステン水和物からなる構造膜を用いたガスセンサのアセトンに対するセンサ特性を示す図である。
図11】針状の形態を有する酸化タングステン水和物からなる構造膜を用いたガスセンサの水素に対するセンサ特性を示す図である。
図12】針状の形態を有する酸化タングステン水和物からなる構造膜を用いたガスセンサのNO(二酸化窒素)に対するセンサ特性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を実施形態に基づいて詳細に説明する。
本発明の粒子は、酸化タングステン、酸化タングステン水和物、または、タングステン含有物質からなり、針状の形態を有することを特徴とする。
【0021】
本発明の粒子のサイズは、長手方向(最も長い方向)の長さ:L(nm)の範囲は、40nm以上であり500nm以下であり、太さ方向(最も短い方向)の長さ:W(nm)の範囲は、5nm以上であり50nm以下である。長手方向(最も長い方向)の長さ:L(nm)と、太さ方向(最も短い方向)の長さ:W(nm)の比率(R=L/W)の範囲は、2以上であり50である。
【0022】
本発明の粒子を構成する物質としては、次のようなものが例示される。
酸化タングステン、酸化タングステン水和物、WO(HO)0.333〔WO・1/3(HO)〕、WO・HO、WO・2(HO)、WO・n(HO)(ここでnは0または正数)、タングステン酸、タングステン酸バリウム、タングステン酸ジルコニア、タングステン酸マグネシウム、タングステン酸コバルト(II)、タングステン酸セリウム(III)、タングステン酸マンガン(II)、タングステン酸カルシウム、タングステン酸カリウム、タングステン酸銀、タングステン酸リチウム、タングステンカルボニル、タングステン(VI)酸ナトリウム二水和物、タングステン酸アンモニウムパラ五水和物、タングステン酸ナトリウム二水和物、タングステン酸アンモニウム五水和物、タングステン(VI)エトキシド、タングステン(V)エトキシド、タングステン酸アンモニウム、タングステン(VI)エトキシド、タングステン(VI)酸ナトリウム無水、酸化セシウムタングステン、酸化ストロンチウムタングステン、酸化リチウムタングステン、酸化マグネシウムタングステン、酸化ビスマスタングステン、酸化マンガン(II)タングステン、酸化ニッケルタングステン、酸化タングステンジルコニウム、酸化タングステンコバルト(II)、酸化タングステンアンモニウム、酸化亜鉛タングステン、タングストけい酸水和物、りんタングステン酸、りんタングステン酸アンモニウム三水和物、硫化タングステン、炭化タングステン、炭化タングステンコバルト、塩化タングステン(VI)、二水素化ビス(イソプロピルシクロペンタジエニル)タングステン、二けい化タングステン、トリカルボニルメシチレンタングステン、ヘキサカルボニルタングステン。
【0023】
本発明の粒子は、その形態が制御されており、具体的には、後述の実施例1の図3に示すような針状の形態を有するものである。
【0024】
本発明の粒子は、形態が針状に制御されているため、ガスセンサ、分子センサ、液体センサ等のセンサ、触媒、電池等に利用した場合、粒子形態が不定形な従来の粒子に比べ、特性をより向上させる利点がある。
【0025】
本発明の粒子は、例えば、センサに適用する場合、有機物のバインダーと混合して、センサ基板に塗布した後、加熱によりバインダーを除去することにより粒子膜とすることができる。また、別の方法としては、例えば、粒子を水やエタノールなどに分散した分散液を作成して、センサ基板に塗布した後、水やエタノールを乾燥させて粒子膜とすることができる。
【0026】
次に、本発明の粒子の製造方法について説明する。本発明の粒子は、例えば、反応容器中で、水等の溶媒に上記に示したようなタングステンを含む物質を加え、0℃~100℃程度の温度で0.1時間~14日程度保持して合成させ、その後遠心分離処理することにより作製することができる。溶液の温度は、溶液の凝固点以上であり、沸点以下の温度が望ましい。水を溶媒とした水溶液においては、水の凝固点の0℃以上であり、沸点の100℃以下の温度が望ましい。反応を促進するために、好ましくは50℃~100℃、より好ましくは、50℃~70℃が望ましい。合成を促進させるために、溶液に合成促進剤を加えることが出来る。合成促進剤としては、アセトニトリル、アクリロニトリル等の炭素-窒素三重結合(シアノ基、ニトリル基)を持つ各種ニトリルや、エチレンイミン等の炭素-二重窒素結合を持つ各種イミン、炭素-窒素結合を持つアンモニアや各種アミン、ならびに、塩酸、酢酸、硝酸、硫酸、リン酸、クエン酸、シュウ酸、炭酸、ホウ酸等の酸が好ましい。
【0027】
アセトニトリルは加水分解するとアセトアミドを経由して酢酸とアンモニアに分解される。生成されたアンモニアは溶液のpHを上昇させる効果を持つ。そのため、pHを上昇させる効果を持つ水酸化ナトリウムや各種アルカリを使用することもできる。
【0028】
溶媒には、水の他、メタノール、エタノール、各種アルコール、アセトン、ベンゼン、トルエン、ヘキサン、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、酢酸、硝酸等を用いることもできる。
また、水とエタノールのように、複数の溶媒が混合した溶媒を用いることもできる。
【0029】
本発明の粒子の製造方法では、反応容器としてプラスチック容器やガラス容器を用いることができ、水熱合成用の耐熱容器は不要であり、常圧(大気圧、1気圧)のもとで合成を行うことができる。
【0030】
次に、本発明の構造膜について説明する。
本発明の構造膜は、酸化タングステン、酸化タングステン水和物、または、タングステン物質からなる針状の形態を有する粒子から構成されることを特徴とする
【0031】
本発明の針状の形態を有する粒子から構成される構造膜は、基板の表面に核形成および結晶成長し、形成されているものである。したがって、この構造膜は基材に密着し固定されたものとなっている。基材としては、平板やフィルム等の2次元部材に加え、凹凸部材はメッシュ、不織布、粒体、チューブ、容器内部外部、歯車等の3次元部材の形態をとるものを用いることができこれらの基材との複合材料も形成することができる。また、本発明の構造膜は、後述するように、圧力容器や高温装置を用いずに、水溶液中にて形成することができるので基材として、プラスチック基材、セラミック基材、ポリマーフィルム、紙、金属、ガラス、カーボン材料、バイオ材料当を用いることができ、これらの基材との複合材料も形成することができる。
【0032】
本発明の構造膜における針状の形態を有する粒子のサイズは、長手方向(最も長い方向)の長さ:L(nm)の範囲は、40nm以上であり500nm以下である。太さ方向(最も短い方向)の長さ:W(nm)の範囲は、5nm以上であり50nm以下である。長手方向(最も長い方向)の長さ:L(nm)と、太さ方向(最も短い方向)の長さ:W(nm)の比率(R=L/W)の範囲は、2以上であり50以下である。
【0033】
本発明の構造膜における針状粒子を構成する物質としては、前記に例示したものが使用される。
【0034】
本発明の構造膜は、それを構成する粒子の形態が針状に制御されており、具体的には、後述の実施例2の図7図8図9に示すような針状の形態を有するものである。本発明の構造膜において、針状の形態を有する粒子どうしは、樹枝状に結晶成長した分岐部を介して結合している。特に、粒子の長手方向に直交する方向(略90°の角度)に枝分かれした樹枝状の分岐部により結合している。
【0035】
本発明の構造膜は、形態が針状に制御された粒子から構成されているためガスセンサ、分子センサ、溶液センサ等のセンサ、電池材料、人工光合成材料等に用いることができる。
【0036】
次に、本発明の構造膜の製造方法について説明する。
本発明の構造膜は、基材を、上記した、溶媒に溶解するタングステンイオンを含む物質の溶液に浸漬することにより、基材表面で針状の粒子の核形成および結晶成長を行い、これらの粒子から構成される膜を作製する。本製造方法は、水等の溶媒に溶解するタングステンイオンを含む物質を原料として用い、水等の溶媒への溶解度の低いタングステン含有物質を得るものである。原料は、タングステンイオンを含む物質であり、好ましくは、水等の溶媒に溶解するタングステンイオンを含む物質である。
生成物は、タングステン含有物質であり、好ましくは、水等の溶媒への溶解度の低いタングステン含有物質である。基材を上記水溶液に浸漬する工程は、常圧(大気圧、1気圧)のもとで0℃~100℃程度の温度で1分間~14日保持することにより行うことができる。
【0037】
本発明の構造膜の製造方法では、基板の表面での針状の粒子の核形成を促進するために、あらかじめシード層を形成することが好ましい。シード層の形成は、例えば、まず、過酸化水素水に、上記した、溶媒に溶解するタングステンイオンを含む物質とPVAを溶解してコーティング溶液を調製し、このコーティング溶液を、ディップコーティング法により、基材上に塗布した後、常圧(大気圧、1気圧)で0℃~500℃の温度で1分間~24時間加熱処理を施すことにより行うことができる。
【0038】
本発明の構造膜の製造方法では、圧力容器や高温装置を用いずに、水溶液中にて構造膜を作製することができ、水熱合成用の耐圧容器は不要であり、常圧(大気圧、1気圧)にて合成ができる。そのため、基材として、プラスチック基材、ポリマーフィルム、紙、金属、ガラス、カーボン材料、バイオ材料等を用いることができ、構造膜とこれらの基材の複合材料を形成することができる。また、本発明の構造膜は、基材を、上記した、溶媒に溶解するタングステンイオンを含む物質の溶液に浸漬することにより、基材表面で針状の粒子の核形成および結晶成長を行うので、溶液に接触している箇所に均一に膜を形成することができる。そのため、平板やフィルムなどの2次元部材に加え、凹凸基材やメッシュ、不織布、粒体、チューブ、容器内部外部、歯車などの3次元部材との複合材料を形成することができる。
【0039】
一方、数百℃の高温加熱処理を必要とする焼結法では、数百℃の高温加熱処理や劣化の起こるプラスチック基材、ポリマーフィルム、紙、金属、ガラス、カーボン材料、バイオ材料などには、本発明のようなタングステンを含有する物質からなる構造膜を形成することができない。これに対し、本発明の製造膜の製造方法では、このような基材に対しても構造膜を形成することができる。
【0040】
また、本発明の構造膜の製造方法は、基材を、上記の、溶媒に溶解するタングステンイオンを含む物質を含む溶液に接触させる方法であるため、用途に応じて、数マイクロメートル以下の小型基材から1メートルを超える大型基材との複合体を形成することができる。
【0041】
一方、数百℃の高温加熱処理を必要とする焼結法では、粘度の高い粒子含有ペーストの均一な塗布が必要であり、数マイクロメートル以下の小さな基材に酸化タングステン、酸化タングステン水和物、又は、タングステン物質からなる膜を形成することは困難である。また、焼成炉内における数百℃の高温加熱処理を必要とする焼結法では、焼成炉の大きさが制限となり、1メートルを超える大型基材へ酸化タングステン、酸化タングステン水和物、または、タングステン物質からなる膜を形成することは困難である。本発明の構造膜の製造方法では、このような困難性はない。
【0042】
次に、本発明の構造膜を用いたセンサとして代表的なものであるガスセンサについて説明する。
本発明のガスセンサは、基材と、基材に設けられた少なくとも白金等の金属等からなる一対の電極と、針状の形態を有する酸化タングステン、酸化タングステン、または、タングステン物質からなる針状の形態を有する粒子から構成される構造膜を有する。本発明のガスセンサは、加熱状態で使用する場合には、例えば平板の一面に電極を形成しその上に構造膜を形成し、構造膜が形成された面とは反対の面に白金等の金属等からなるヒータを印刷等により形成することができる。
【0043】
本発明のガスセンサは、空気中または酸素中で燃えるガスである、アセトン、水素、メタン、プロパン、イソブタン等の可燃性ガス;酸素を奪う性質を持つガスである、NO(二酸化窒素)等の還元性ガス;窒素、二酸化炭素、ヘリウム、アルゴン等の不燃性ガス;酸素、塩素、フッ素、一酸化窒素等の支燃性ガス;水蒸気を検知対象ガスとすることができる。本発明のガスセンサは、これらの検知対象ガスに対して、空気に対して抵抗値変化を示す。
【0044】
空気を模擬するガスとして、窒素80%と酸素20%との混合ガスを用いた。空気(air)中でのガスセンサの抵抗値(resistance)をRa、検知対象となるガス(gas)中でのガスセンサの抵抗値(resistance)をRgと記載すると、空気から検知対象ガスに切り替えた際の電気抵抗値の変化率(抵抗変化率)は、Ra/Rgで表される。
【0045】
本発明のガスセンサは、半導体センサ(例えば、フィガロ技研株式会社のTGS2602)で検出可能な可燃性ガス、還元性ガス、酸化性ガス、支燃性ガス、水蒸気に対して、2以上20以下の抵抗値変化率を示す。
【0046】
本発明のガスセンサは、アセトンと水素では、アセトンに対してより感度が高く1以上10以下のアセトン選択性を示す。
また、本発明のガスセンサは、NO(二酸化窒素)と水素では、NO(二酸化窒素)に対してより高感度が高く、1以上7.5以下のNO(二酸化窒素)選択性を示す。
【0047】
本発明のガスセンサは、基材上に一対の電極を設け、その上に上記の構造膜の製造方法で記載した方法により構造膜を形成し、必要に応じて、反対側の基材面に白金等の金属ヒータを設けることにより作製することができる。
【実施例
【0048】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明する。
【0049】
(実施例1)
〈粒子の合成〉
蒸留水(25mL)に、アセトニトリル(10mL)、0.25M(0.25mol/L)のタングステン酸(120mL)、6M(6mol/L)の塩酸(5mL)を加えた後、調製した溶液を70℃にて1週間保持した。反応容器として、プラスチック容器を用いた。合成は常圧(大気圧、1気圧)にて実施した。本合成方法では、水熱合成用の耐圧容器は不要であり、常圧(大気圧、1気圧)にて合成ができる。プラスチック容器やガラス容器を常圧(大気圧、1気圧)のもとで使用することができる。
【0050】
上記で使用したアセトニトリル、原料となる、溶媒に溶解するタングステンイオンを含む物質、および塩酸の詳細は次のとおりである。
アセトニトリル(Acetonitrile、CAS 登録番号:75-05-8、分子式:CHCN、分子量:41.05)
タングステン酸(Tungsten oxide、CAS 登録番号:7783-03-1、分子式:HWO、分子量:249.85)
塩酸(Hydrochloric Acid、CAS 登録番号:7647-01-0、分子式:HCl、分子量:36.46)
【0051】
1週間の保持後、遠心分離処理により、溶液中から粒子を取り出した。この溶液中にて、試料1を合成した。試料1は、針状の形態を有する酸化タングステン水和物からなる粒子である。図1に、試料1のX線回折パターンを示す。得られたX線回折パターンは、リガク社製X線回折装置の解析データベースにて、酸化タングステン水和物(Tungsten oxide hydrate)、WO(HO)0.333〔WO・1/3(HO)〕、(データ番号01-087-1203)の回折パターンに帰属された。
この酸化タングステン水和物は、上記化学式に示されるように、酸化タングステンに水和した水分子がついた物質である。
【0052】
非特許文献1によれば、WO・0.33HOは320℃でも相転移しないことがXRDにより確認され、DTAにおいて、480℃~490℃に発熱ピークがあり、WO・0.33HOからWOへの相転移すると記載され、600℃加熱後のXRDにおいて、WOであることが確認されたとされている。このことより、本実施例の酸化タングステン水和物を用いて、480℃~490℃の加熱により、容易に酸化タングステン(WO)を得ることができることがわかる。
【0053】
図2に、大気中で300℃にて2時間加熱処理を施した後の試料1のX線回折パターンを示す。この回折パターンは、リガク社製X線回折装置の解析データベースにて、酸化タングステン水和物(Tungsten oxide hydrate)、WO(HO)0.333〔WO・1/3(HO)〕、(データ番号01-087-1203)の回折パターンに帰属された。
【0054】
図3に、試料1の、針状の形態を有する酸化タングステン水和物からなる粒子を示す。また、図4に、試料1の、針状の形態を有する酸化タングステン水和物からなる粒子のサイズを示す。図4は、図3に、粒子のサイズを追記した図である。図4では、サイズを計測した針状の形態を有する酸化タングステン水和物からなる粒子について、その横に目印としての白線およびサイズを示す。
【0055】
手方向の長さ:L(nm)と、太さ方向の長さ:W(nm)、およびそれらの比率(R=L/W)について、下記の粒子が観察された。
L:W:R=100:10:10
L:W:R=160:10:16
L:W:R=160:20:8
L:W:R=100:5:20
L:W:R=40:20:2
L:W:R=160:20:8
L:W:R=40:20:2
L:W:R=120:10:12
L:W:R=120:10:12
L:W:R=150:50:3
L:W:R=100:5:20
L:W:R=160:20:8
L:W:R=100:5:20
L:W:R=200:20:10
【0056】
この実施例では、長手方向の長さ:L(nm)の範囲は、40nm以上であり200nm以下である。
また、太さ方向の長さ:W(nm)の範囲は、5nm以上であり50nm以下である。
さらに、長手方向の長さ:L(nm)と、太さ方向の長さ:W(nm)の比率(R=L/W)の範囲は、2以上であり20以下である。
【0057】
(実施例2)
〈構造膜の合成〉
[1]シード層の形成(コーティング液の調製と塗布、加熱)
過酸化水素水(30%)(10mL)に、タングステン酸(1.25g)とPVA(0.5g)を溶解し、コーティング溶液を調製した。ディップコーティング法により、コーティング溶液を酸化アルミニウム製板に塗布した後、大気中で500℃にて2時間加熱処理を施した。ディップコーティング法は、1回のディップコートにより実施した。
【0058】
上記で使用した過酸化水素水、タングステン酸およびPVAの詳細は次のとおりである。
過酸化水素水(30%)(Hydrogen Peroxide、CAS 登録番号:722-84-1、分子式:H、分子量:34.01)、密度約1.11g/mL(質量分率30%のとき)
タングステン酸(Tungsten oxide、CAS 登録番号:7783-03-1、分子式:HWO、分子量:249.85)
PVA(ポリビニルアルコール、Polyvinyl Alcohol、CAS 登録番号:9002-89-5、分子式:(-CHCHOH-)、分子量:平均重合度:1,500以上(1,500~1,800))
【0059】
[2]構造膜の合成
3mm四方の酸化アルミニウム製板の一方の面に白金製のくし型電極を印刷し、その裏面に白金製のヒータ用パターンを印刷し、基板として用いた。
蒸留水(25mL)に、アセトニトリル(10mL)、0.25M(0.25mol/L)のタングステン酸(120mL)、6M(6mol/L)の塩酸(5mL)を加えた後、調製した溶液に上記基板を浸漬して70℃にて1週間保持した。溶液中で生成した粒子の基板上への沈殿を抑制するため、基板は下向きに浸漬した。
【0060】
反応容器として、プラスチック容器を用いた。合成は常圧(大気圧、1気圧)にて実施した。本合成方法では、水熱合成用の耐圧容器は不要であり、常圧(大気圧、1気圧)にて合成ができる。プラスチック容器やガラス容器を常圧(大気圧、1気圧)のもと使用することができる。
【0061】
1週間の保持後、基板を蒸留水にて洗浄した。この溶液中にて、試料2を合成した。試料2は、針状の形態を有する酸化タングステン水和物からなる構造膜である。図5に、試料2のX線回折パターンを示す。この回折パターンは、リガク社製X線回折装置の解析データベースにて、酸化タングステン水和物(Tungsten oxide hydrate)、WO(HO)0.333〔WO・1/3(HO)〕、(データ番号01-087-1203)の回折パターンに帰属される回折線が観察された。
また、酸化アルミニウム基板に由来する酸化アルミニウムAl(アルミナ)、(データ番号00-046-1212)の回折パターンに帰属される回折線が観察された。
加えて、酸化アルミニウム基板に印刷した白金製のくし型電極に由来する白金Pt、(データ番号00-004-0802)の回折パターンに帰属される回折線が観察された。
【0062】
図6に、大気中で300℃にて2時間加熱処理を施した後の試料2のX線回折パターンを示す。リガク社製X線回折装置の解析データベースにて、酸化タングステン水和物(Tungsten oxide hydrate)、WO(HO)0.333〔WO・1/3(HO)〕、(データ番号01-087-1203)の回折パターンに帰属される回折線が観察された。
また、酸化アルミニウム基板に由来する酸化アルミニウムAl(アルミナ)、(データ番号00-046-1212)の回折パターンに帰属される回折線が観察された。
加えて、酸化アルミニウム基板に印刷した白金製のくし型電極に由来する白金Pt、(データ番号00-004-0802)の回折パターンに帰属される回折線が観察された。
【0063】
図7に、試料2の、針状の形態を有する酸化タングステン水和物からなる構造膜を示す。また、図8に、試料2の、針状の形態を有する酸化タングステン水和物からなる構造膜における針状粒子のサイズを示す。図8は、図7に、粒子のサイズを追記した図である。サイズを計測した針状の形態を有する酸化タングステン水和物からなる粒子について、その横に目印としての白線およびサイズを示す。
【0064】
図8中で円で示した箇所などにおいて、針状粒子から他の針状粒子が成長した樹枝状結晶が見られる。針状の形態を有する粒子どうしは、樹枝状の結晶成長により形成された分岐部を介して結合している。特に、粒子の長手方向に対して略90°の角度に枝分かれした分岐部により結合している。
【0065】
手方向の長さ:L(nm)と、太さ方向の長さ:W(nm)、およびそれらの比率(R=L/W)について、下記の粒子が観察された。
L:W:R=500.0:40.0:12.5
L:W:R=250.0:5.0:50.0
L:W:R=250.0:5.0:50.0
L:W:R=160.0:7.0:22.9
L:W:R=100.0:5.0:20.0
L:W:R=90.0:7.0:12.9
L:W:R=40.0:20.0:2.0
【0066】
この実施例では、長手方向の長さ:L(nm)の範囲は、40nm以上であり500nm以下である。
また、太さ方向の長さ:W(nm)の範囲は、5nm以上であり40nm以下である。
さらに、長手方向の長さ:L(nm)と、太さ方向の長さ:W(nm)の比率(R=L/W)の範囲は、2以上であり50以下である。

【0067】
図9に、試料2の、針状の形態を有する酸化タングステン水和物からなる構造膜の断面を示す。針状の形態を有する酸化タングステン水和物からなる構造膜が、基板と密着している様子が観察された。基板から0~200nmの範囲の構造膜は緻密であり、直径5~100nmの球状粒子が密集しているように観察された。この緻密領域は、直径5~100nmの球状粒子が密集している構造、または、直径5~100nmの針状粒子が密集している構造、あるいは球状粒子と針状粒子の両方が密集している構造となっていると考えられる。
【0068】
(実施例3)
実施例2における針状の形態を有する酸化タングステン水和物からなる構造膜は、白金電極を印刷した酸化アルミウム基板の表面に形成された構造膜である。この構造膜について、検知対象ガスをアセトンとして、ガスセンサ特性を評価した。
【0069】
針状の形態を有する酸化タングステン水和物からなる構造膜を用いたガスセンサのアセトンに対するセンサ特性を図10に示す。アセトンを流すとき、アセトンの濃度は10ppmである。センサ基板に印刷した白金製ヒータに電圧を印加してセンサ基板温度を300℃とした。最初の60分間、空気を流した。その後60分間、アセトンを流し、さらにその後60分間、空気を流した。空気を模擬するガスとして、窒素80%と酸素20%との混合ガスを用いた。アセトンを流すとき、アセトンの濃度は10ppmであり、窒素80%と酸素20%との混合ガスに混ぜて流した。開始から60分時点で空気からアセトンに切り替わる直前の、50分から60分の間のセンサ抵抗値の平均は約2MΩであった。このセンサ抵抗値は空気(air)中の抵抗(resistance)であるためRaと記載する。
【0070】
開始から120分時点でアセトンから空気に切り替わる直前の、110分から120分の間のセンサ抵抗値の平均は約0.1MΩであった。このセンサ抵抗値は検知対象となるガス(gas)中の抵抗(resistance)であるためRgと記載する。空気から検知対象ガスに切り替えた際の電気抵抗値の変化率(抵抗変化率)を、Ra/Rgとする。アセトンは還元性ガスのため、抵抗変化率はRa/Rgより算出する。10ppmアセトンに対して、Ra=2MΩ、Rg=0.1MΩより、抵抗変化率Ra/Rg=2/0.1=20であった。
【0071】
白金電極間の電気抵抗値が、検知対象ガスであるアセトンの存在により変化した。本センサ素子では、電気抵抗値の変化により、アセトンの検知が可能であった。
【0072】
本実施例では、構造膜は100℃以下の大気開放系の水溶液中で、70℃にて合成された。そのため、材料の表面や界部に多くの結晶欠陥を含み、その結晶欠陥が、検知対象ガス分子との高い反応性をもたらした。
【0073】
(実施例4)
実施例2における針状の形態を有する酸化タングステン水和物からなる構造膜は、白金電極を印刷した酸化アルミニウム基板の表面に形成された構造膜である。この構造膜について、検知対象ガスを水素として、ガスセンサ特性を評価した。
【0074】
針状の形態を有する酸化タングステン水和物からなる構造膜を用いたガスセンサの水素に対するセンサ特性を図11に示す。水素を流すとき、水素の濃度は10ppmである。センサ基板に印刷した白金製ヒータに電圧を印加してセンサ基板温度を300℃とした。最初の60分間、空気を流した。その後60分間、水素を流し、さらにその後60分間、空気を流した。空気を模擬するガスとして、窒素80%と酸素20%との混合ガスを用いた。水素を流すとき、水素の濃度は10ppmであり、窒素80%と酸素20%との混合ガスに混ぜて流した。開始から60分時点で空気から水素に切り替わる直前の、50分から60分の間のセンサ抵抗値の平均は約3MΩであった。このセンサ抵抗値は空気(air)中の抵抗(resistance)であるためRaと記載する。開始から120分時点で水素から空気に切り替わる直前の、110分から120分の間のセンサ抵抗値の平均は約1.4MΩであった。このセンサ抵抗値は検知対象となるガス(gas)中の抵抗(resistance)であるためRgと記載する。空気から検知対象ガスに切り替えた際の電気抵抗値の変化率(抵抗変化率)を、Ra/Rgとする。水素は還元性ガスのため、抵抗変化率はRa/Rgより算出する。10ppm水素に対して、Ra=3MΩ、Rg=1.5MΩより、抵抗変化率Ra/Rg=3/1.5=2であった。
【0075】
白金電極間の電気抵抗値が、検知対象ガスである水素の存在により変化した。本実施例のセンサ素子では、電気抵抗値の変化により、水素の検知が可能であった。
【0076】
(実施例5)
実施例2における針状の形態を有する酸化タングステン水和物からなる構造膜は、白金電極を印刷した酸化アルミニウム基板の表面に形成された構造膜である。この構造膜について、検知対象ガスをNO(二酸化窒素)として、ガスセンサ特性を評価した。
【0077】
針状の形態を有する酸化タングステン水和物からなる構造膜を用いたガスセンサのNO(二酸化窒素)に対するセンサ特性を図12に示す。水素の濃度は10ppmである。センサ基板に印刷した白金製ヒータに電圧を印加してセンサ基板温度を300℃とした。
【0078】
最初の60分間、空気を流した。その後60分間、水素を流し、さらにその後60分間、空気を流した。空気を模擬するガスとして、窒素80%と酸素20%との混合ガスを用いた。NO(二酸化窒素)を流すとき、NO(二酸化窒素)の濃度は10ppmであり、窒素80%と酸素20%との混合ガスに混ぜて流した。開始から60分時点で空気からNO(二酸化窒素)に切り替わる直前の、50分から60分の間のセンサ抵抗値の平均は約2MΩであった。このセンサ抵抗値は空気(air)中の抵抗(resistance)であるためRaと記載する。
【0079】
開始から120分時点でNO(二酸化窒素)から空気に切り替わる直前の、110分から120分の間のセンサ抵抗値の平均は約30MΩであった。このセンサ抵抗値は検知対象となるガス(gas)中の抵抗(resistance)であるためRgと記載する。空気から検知対象ガスに切り替えた際の電気抵抗値の変化率(抵抗変化率)を、Rg/Raとする。NO(二酸化窒素)は酸化性ガスのため、抵抗変化率はRg/Raより算出する。10ppmNO(二酸化窒素)に対して、Ra=2MΩ、Rg=30MΩより、抵抗変化率Rg/Ra=30/2=15であった。
【0080】
白金電極間の電気抵抗値が、検知対象ガスであるNO(二酸化窒素)の存在により変化した。本実施例のセンサ素子では、電気抵抗値の変化により、NO(二酸化窒素)の検知が可能であった。
【0081】
実施例3、実施例4および実施例5により、実施例2における針状の形態を有する酸化タングステン水和物からなる構造膜を用いたセンサは、アセトン、水素およびNO(二酸化窒素)を検知できることが確認された。
【0082】
すなわち、10ppmアセトンに対して、抵抗変化率Ra/Rg=2/0.1=20の高い応答特性を示した。
また、10ppm水素に対して、抵抗変化率Ra/Rg=3/1.5=2の高い応答特性を示した。
さらに、10ppmNO(二酸化窒素)に対して、抵抗変化率Rg/Ra=30/2=15の高い応答特性を示した。
【0083】
以上のように、実施例3~5のセンサは、アセトン、水素に代表される可燃性ガスに対して、2以上20以下の抵抗値変化を示した。
また、実施例3~5のセンサは、アセトン、水素、NO(二酸化窒素)に代表される、半導体センサにおいて検出可能な可燃性ガス、還元性ガス、酸化性ガス、支燃性ガス、水蒸気に対して、2以上20以下の抵抗値変化を示した。
【0084】
[アセトン/水素選択性]
アセトンと水素では、アセトンに対してより感度が高く、アセトンガスの選択検知が可能であることが示された。アセトンに対する抵抗変化率Ra/Rg=2/0.1=20と水素に対するRa/Rg=3/1.5=2を比較した場合、10(=20/2)の比率のアセトン選択性が得られた。
【0085】
他の可燃性ガスが混在することや、水分が混在すること、センサが劣化して応答性が低下すること、あるいはセンサ温度が低い状態で応答性が低下することなどの原因によって、アセトン選択性は最小値1まで低下することがある。最小値1の状態では、アセトンに対する抵抗値変化と水素の対する抵抗値変化が同じ値であり、両者の見分けがつかない状態である。本センサにおいても、上記の使用条件等が付与された場合、アセトン選択性が1以上10以下の数値を取りうる。
【0086】
[NO(二酸化窒素)/水素選択性]
NO(二酸化窒素)と水素では、NO(二酸化窒素)に対してより感度が高く、NO(二酸化窒素)の選択検知が可能であることが示された。NO(二酸化窒素)に対する抵抗変化率Rg/Ra=30/2=15と水素に対するRa/Rg=3/1.5=2を比較した場合、7.5(=15/2)の比率のNO(二酸化窒素)選択性が得られた。
【0087】
他の可燃性ガスが混在することや、水分が混在すること、センサが劣化して応答性が低下すること、あるいはセンサ温度が低い状態で応答性が低下することなどの原因によって、NO(二酸化窒素)選択性は最小値1まで低下することがある。最小値1の状態では、NO(二酸化窒素)に対する抵抗値変化と水素の対する抵抗値変化が同じ値であり、両者の見分けがつかない状態である。本センサにおいても、上記の使用条件等が付与された場合、NO(二酸化窒素)選択性が1以上7.5以下の数値を取りうる。
【0088】
比較として、代表的な半導体式ガスセンサであるフィガロ技研株式会社製TGS2602と比べると、製品TGS2602のカタログにて、
Rs=各種濃度のガス中でのセンサ抵抗値
Ro=清浄大気中でのセンサ抵抗値
とすると、10ppm水素にて、Rs/Ro=0.8である。Ra/Rgに換算すると、0.8の逆数で、Ra/Rg=1.25となる。
【0089】
実施例4では10ppm水素に対して、抵抗変化率Ra/Rg=2であり、フィガロ技研株式会社製TGS2602の10ppm水素に対する抵抗変化率Ra/Rg=1.25と比べると、1.6倍の抵抗変化率が実現されている。
【0090】
ガスの種類は異なるが、実施例3では、10ppmアセトンに対して、抵抗変化率Ra/Rg=20であり、フィガロ技研株式会社製TGS2602の10ppm水素に対する抵抗変化率Ra/Rg=1.25と比べると、16倍の抵抗変化率が実現されている。
【0091】
ガスの種類は異なるが、実施例5では、10ppmNO(二酸化窒素)に対して、抵抗変化率Rg/Ra=15であり、フィガロ技研株式会社製TGS2602の10ppm水素に対する抵抗変化率Ra/Rg=1.25と比べると、12倍の抵抗変化率が実現されている。
【0092】
なお、製品TGS2602のサイトは非特許文献2として示し、製品TGS2602のカタログのサイトは非特許文献3として示した。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12