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特許7575274合成ガス製造用触媒構造体及びその使用方法並びに合成ガス製造装置及び合成ガス製造用触媒構造体の製造方法
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  • 特許-合成ガス製造用触媒構造体及びその使用方法並びに合成ガス製造装置及び合成ガス製造用触媒構造体の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-21
(45)【発行日】2024-10-29
(54)【発明の名称】合成ガス製造用触媒構造体及びその使用方法並びに合成ガス製造装置及び合成ガス製造用触媒構造体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 29/035 20060101AFI20241022BHJP
   C01B 37/02 20060101ALI20241022BHJP
   B01J 37/14 20060101ALI20241022BHJP
   B01J 37/12 20060101ALI20241022BHJP
   B01J 37/02 20060101ALI20241022BHJP
   C01B 3/40 20060101ALI20241022BHJP
   C01B 32/40 20170101ALI20241022BHJP
【FI】
B01J29/035 M
C01B37/02
B01J37/14
B01J37/12
B01J37/02 101D
C01B3/40
C01B32/40
【請求項の数】 25
(21)【出願番号】P 2020559940
(86)(22)【出願日】2019-12-03
(86)【国際出願番号】 JP2019047296
(87)【国際公開番号】W WO2020116473
(87)【国際公開日】2020-06-11
【審査請求日】2022-08-25
(31)【優先権主張番号】P 2018226934
(32)【優先日】2018-12-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114292
【弁理士】
【氏名又は名称】来間 清志
(74)【代理人】
【識別番号】100205659
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 拓也
(72)【発明者】
【氏名】馬場 祐一郎
(72)【発明者】
【氏名】関根 可織
(72)【発明者】
【氏名】中井 祐賀子
(72)【発明者】
【氏名】西井 麻衣
(72)【発明者】
【氏名】福嶋 將行
(72)【発明者】
【氏名】加藤 禎宏
(72)【発明者】
【氏名】下山田 篤史
(72)【発明者】
【氏名】森 智比古
(72)【発明者】
【氏名】増田 隆夫
(72)【発明者】
【氏名】中坂 佑太
(72)【発明者】
【氏名】吉川 琢也
【審査官】▲高▼橋 真由
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/072698(WO,A1)
【文献】特表2017-515785(JP,A)
【文献】特開2003-238147(JP,A)
【文献】国際公開第2010/097108(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2011/0118425(US,A1)
【文献】特表2014-534902(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00-38/74
C01B 33/20-39/54
C01B 3/00-6/34
C01B 32/00-32/991
JSTPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一酸化炭素と水素とを含む合成ガスを製造する際に用いられる合成ガス製造用触媒構造体であって、
ゼオライト型化合物で構成される多孔質構造の担体と、
前記担体に内在する少なくとも1つの触媒物質と、
を備え、
前記担体が、互いに連通する通路を有し、
前記担体の、厚さ寸法dに対する長辺寸法Lの比(L/d比)が5.0以上であり、
前記触媒物質は、ロジウム(Rh)、ルテニウム(Ru)、イリジウム(Ir)、パラジウム(Pd)、白金(Pt)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、クロム(Cr)、セリウム(Ce)、銅(Cu)、マグネシウム(Mg)、アルミニウム(Al)、ニッケル(Ni)からなる群から選択される少なくとも1種の金属元素から構成される金属微粒子であり、
前記触媒物質が前記担体の少なくとも前記通路に存在し、
前記触媒物質の平均粒径が、前記通路の平均内径よりも大きく、
前記通路は、前記ゼオライト型化合物の骨格構造の一次元孔、二次元孔及び三次元孔のうちのいずれかと、前記一次元孔、前記二次元孔及び前記三次元孔のうちのいずれとも異なる拡径部とを有し、
前記触媒物質が、少なくとも前記拡径部に存在し、
前記触媒物質の平均粒径が、前記拡径部の内径以下であり、
前記通路の平均内径は、前記一次元孔、前記二次元孔及び前記三次元孔のうちのいずれかを構成する孔の短径及び長径の平均値から算出されることを特徴とする合成ガス製造用触媒構造体。
【請求項2】
一酸化炭素と水素とを含む合成ガスを製造する際に用いられる合成ガス製造用触媒構造体であって、
ゼオライト型化合物で構成される多孔質構造の担体と、
前記担体に内在する少なくとも1つの触媒物質と、
を備え、
前記担体が、互いに連通する通路を有し、
前記担体の、厚さ寸法dに対する長辺寸法Lの比(L/d比)が5.0以上であり、
前記触媒物質は、前記担体の少なくとも前記通路に存在し、平均粒径が1.00nm以上13.00nm以下であり、
前記触媒物質の平均粒径が、前記通路の平均内径よりも大きく、
前記通路は、前記ゼオライト型化合物の骨格構造の一次元孔、二次元孔及び三次元孔のうちのいずれかと、前記一次元孔、前記二次元孔及び前記三次元孔のうちのいずれとも異なる拡径部とを有し、
前記触媒物質が、少なくとも前記拡径部に存在し、
前記触媒物質の平均粒径が、前記拡径部の内径以下であり、
前記通路の平均内径は、前記一次元孔、前記二次元孔及び前記三次元孔のうちのいずれかを構成する孔の短径及び長径の平均値から算出されることを特徴とする合成ガス製造用触媒構造体。
【請求項3】
前記担体のL/d比が5.0以上35.0以下であることを特徴とする、請求項1または2に記載の合成ガス製造用触媒構造体。
【請求項4】
前記担体のL/d比が7.0以上25.0以下であることを特徴とする、請求項1または2に記載の合成ガス製造用触媒構造体。
【請求項5】
前記拡径部は、前記一次元孔、前記二次元孔及び前記三次元孔のうちのいずれかを構成する複数の孔同士を連通している、請求項1~4のいずれか1項に記載の合成ガス製造用触媒構造体。
【請求項6】
前記触媒物質は金属微粒子であることを特徴とする請求項に記載の合成ガス製造用触媒構造体。
【請求項7】
前記通路の平均内径Dに対する前記金属微粒子の平均粒径Dの割合(D/D)が、0.05以上130.0以下であることを特徴とする、請求項1または6に記載の合成ガス製造用触媒構造体。
【請求項8】
前記金属微粒子が、鉄(Fe)、コバルト(Co)及びニッケル(Ni)からなる群から選択される少なくとも1種の金属から構成される微粒子であることを特徴とする、請求項1、6~7のいずれか1項に記載の合成ガス製造用触媒構造体。
【請求項9】
前記金属微粒子が、ニッケル(Ni)から構成される微粒子であることを特徴とする、請求項1、6~8のいずれか1項に記載の合成ガス製造用触媒構造体。
【請求項10】
前記触媒物質は金属酸化物微粒子である、請求項に記載の合成ガス製造用触媒構造体。
【請求項11】
前記担体の外表面に保持された少なくとも1つの他の触媒物質を更に備えることを特徴とする、請求項1~10のいずれか1項に記載の合成ガス製造用触媒構造体。
【請求項12】
前記担体に内在する前記少なくとも1つの触媒物質の含有量が、前記担体の外表面に保持された前記少なくとも1つの他の触媒物質の含有量よりも多いことを特徴とする、請求項11に記載の合成ガス製造用触媒構造体。
【請求項13】
前記ゼオライト型化合物は、ケイ酸塩化合物であることを特徴とする、請求項1~12のいずれか1項に記載の合成ガス製造用触媒構造体。
【請求項14】
前記合成ガス製造用触媒構造体は、常圧流通式反応装置に充填され、GHSV5600h-1、CO/CH比(体積比)=1:1で原料ガスを供給しながら、100℃で10分保持した後に20℃/分で900℃まで昇温させ、100℃以上の総加熱時間が60分の条件下でドライリフォーミング反応を実施したとき、700℃におけるCH転化率が20%以上であることを特徴とする、請求項1~13のいずれか1項に記載の合成ガス製造用触媒構造体。
【請求項15】
前記合成ガス製造用触媒構造体は、前記ドライリフォーミング反応を実施したとき、700℃におけるCH転化率が60%以上であることを特徴とする、請求項14に記載の合成ガス製造用触媒構造体。
【請求項16】
前記合成ガス製造用触媒構造体は、前記ドライリフォーミング反応を実施したとき、反応後の前記合成ガス製造用触媒構造体をCHN測定により分析した際のコーキング量が、前記合成ガス製造用触媒構造体の全量に対し5.0質量%未満であることを特徴とする、請求項14または15に記載の合成ガス製造用触媒構造体。
【請求項17】
前記合成ガス製造用触媒構造体は、前記ドライリフォーミング反応を実施したとき、反応後の前記合成ガス製造用触媒構造体をCHN測定により分析した際のコーキング量が、前記合成ガス製造用触媒構造体の全量に対し0.3質量%未満であることを特徴とする、請求項14~16のいずれか1項に記載の合成ガス製造用触媒構造体。
【請求項18】
請求項1~17のいずれか1項に記載の合成ガス製造用触媒構造体を備える合成ガス製造装置。
【請求項19】
ゼオライト型化合物で構成される多孔質構造の担体を得るための細孔径13.0nm以下の細孔を有する前駆体材料(A)に、ロジウム(Rh)、ルテニウム(Ru)、イリジウム(Ir)、パラジウム(Pd)、白金(Pt)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、クロム(Cr)、セリウム(Ce)、銅(Cu)、マグネシウム(Mg)、アルミニウム(Al)、ニッケル(Ni)からなる群から選択される少なくとも1種の金属元素を含む金属含有溶液が含浸された前駆体材料(B)を焼成する焼成工程と、
前記前駆体材料(B)を焼成して得られた前駆体材料(C)を水熱処理し、前記担体の、厚さ寸法dに対する長辺寸法Lの比(L/d比)が5.0以上である触媒構造体を得る水熱処理工程と、
を有し、
前記水熱処理工程において、前記前駆体材料(C)と構造規定剤とを混合することを特徴とする合成ガス製造用触媒構造体の製造方法。
【請求項20】
前記焼成工程の前に、非イオン性界面活性剤を、前記前駆体材料(A)に対して50質量%以上500質量%以下添加することを特徴とする、請求項19に記載の合成ガス製造用触媒構造体の製造方法。
【請求項21】
前記焼成工程の前に、前記前駆体材料(A)に前記金属含有溶液を複数回に分けて添加することで、前記前駆体材料(A)に前記金属含有溶液を含浸させることを特徴とする、請求項19または20に記載の合成ガス製造用触媒構造体の製造方法。
【請求項22】
前記焼成工程の前に前記前駆体材料(A)に前記金属含有溶液を含浸させる際に、前記前駆体材料(A)に添加する前記金属含有溶液の添加量を、前記前駆体材料(A)に添加する前記金属含有溶液中に含まれる金属元素(M)に対する、前記前駆体材料(A)を構成するケイ素(Si)の比(原子数比Si/M)に換算して、10以上1000以下となるように調整することを特徴とする、請求項19~21のいずれか1項に記載の合成ガス製造用触媒構造体の製造方法。
【請求項23】
前記水熱処理工程が塩基性雰囲気下で行われることを特徴とする、請求項19~22のいずれか1項に記載の合成ガス製造用触媒構造体の製造方法。
【請求項24】
前記水熱処理された前駆体材料(C)に、還元ガス雰囲気下で還元処理を施す工程をさ
らに有することを特徴とする請求項19~23のいずれか1項に記載の合成ガス製造用触
媒構造体の製造方法。
【請求項25】
請求項1に記載の合成ガス製造用触媒構造体を還元雰囲気の使用環境に晒すことを特徴とする、合成ガス製造用触媒構造体の使用方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、合成ガス製造用触媒構造体及びその前駆体並びに合成ガス製造装置及び合成ガス製造用触媒構造体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化対策として、地球温暖化の原因物質である二酸化炭素とメタンとを接触させて、一酸化炭素と水素とを含む合成ガスに変換する技術(ドライリフォーミング)が着目されている。
【0003】
このような合成ガスを製造する際に用いる触媒として、例えば、特許文献1には、担体としてMnや所定のアルカリ土類金属等を含む酸素欠損ペロブスカイト型の複合酸化物を用い、かつ、担持金属としてニッケルを用いた触媒が開示されている。
【0004】
しかし、二酸化炭素とメタンとを接触させて、一酸化炭素と水素とを含む合成ガスに変換する反応は、800℃以上の高温で行う必要がある。特許文献1に開示されている触媒では、担体の外表面に担持金属が担持されているため、高温下で担持金属粒子同士が凝集(シンタリング)や触媒上への炭素析出(コーキング)により触媒活性が低下しやすい。
【0005】
触媒粒子同士の接着を抑制し、触媒粒子の比表面積を増加させる方法として、例えば、特許文献2には、基材表面に触媒粒子を固定した後、酸化処理及び還元処理を所定の条件で行う方法が開示されている。
【0006】
また、特許文献3にはNiを複合酸化物上に担持させたドライリフォーミング用触媒が記載されている。ドライリフォーミング法は触媒表面にコーキングを生じやすく、触媒活性の低下を招きやすい。メタンと水蒸気を反応させるスチームリフォーミング法に比べ、原料中の炭素含有比率が高いためである。また、コーキングにより反応管内の触媒層を閉塞させるといった問題にもつながる。特にNi担持触媒は、触媒の活性が高いという利点がある反面、コーキングが起こりやすく触媒活性の維持が困難である。
【0007】
ドライリフォーミングについての言及はないが、触媒粒子の活性を維持するための触媒構造体の構造として、例えば特許文献4、5には、エマルション法によりアモルファスシリカが被覆された金属微粒子を作製し、この微粒子を水熱処理することで、ゼオライト内に金属微粒子を内包させる手法が記載されている。エマルション法によって得られる、アモルファスシリカを被覆した金属微粒子は、有機溶媒中で界面活性剤と金属源とを混合した乳濁液に還元剤を加えることによって金属微粒子を形成させた後に、シランカップリング剤を添加して金属微粒子の表面にシリカ層を形成し、その後シリカ層からゼオライトを成長させることで作製される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2013-255911号公報
【文献】特開2016-2527号公報
【文献】特開2014-200705号公報
【文献】特開2017-128480号公報
【文献】国際公開第2010/097108号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、特許文献2に開示されている基材表面に触媒粒子が固定された触媒構造体においても、ドライリフォーミング反応の様な高温の反応場では、反応時間の経過に伴って、触媒粒子の凝集やコーキングが進行して触媒活性が低下する。そのため、触媒機能を再生するために、酸化処理及び還元処理を再度施す必要があり、作業が煩雑となる。さらには、実用化を考えると、さらなる触媒活性の向上が求められている。
【0010】
また、特許文献4、5のように、エマルション法で金属微粒子を作製する場合、得られる金属微粒子のサイズは、エマルション化した際の液滴のサイズと、金属粒子の凝集しやすさによって影響を受ける。一般に、卑金属は凝集しやすいため、ナノ粒子の状態を維持することが困難であり、特許文献5、6でもナノサイズの粒径を有していることが確認されているのは、金属微粒子が貴金属のうちRh、Au、Pt、Pdの場合だけである。他方で、特許文献5、6には、Ruや凝集しやすい卑金属からなる金属微粒子やその酸化物をゼオライトに内包させたときに、金属微粒子やその酸化物がナノサイズの粒径を有することは記載されていない。さらに、エマルション法では、ゼオライト構造を形成する際に用いられる有機溶媒や界面活性剤などが残留して不純物になることで、ゼオライトの熱安定性に悪影響を与えやすい。また、特許文献4では、コーキングを生じやすいNiなどの卑金属微粒子を内包したゼオライトについては記載されていない。さらに、特許文献4と類似の製法による特許文献5では、有機溶媒や界面活性剤が除去しきれずに残留し、ドライリフォーミング反応のような高温に対しての耐久性が低下してしまうと考えられている。
【0011】
本発明の目的は、優れた触媒活性を、長時間にわたって低下させることなく安定して維持することができ、一酸化炭素と水素とを含む合成ガスを効率良く製造することが可能な合成ガス製造用触媒構造体及びその前駆体並びにこれらの触媒構造体又はその前駆体を備える合成ガス製造装置及び合成ガス製造用触媒構造体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の要旨構成は、以下のとおりである。
1. 一酸化炭素と水素とを含む合成ガスを製造する際に用いられる合成ガス製造用触媒構造体であって、ゼオライト型化合物で構成される多孔質構造の担体と、前記担体に内在する少なくとも1つの触媒物質とを備え、前記担体が、互いに連通する通路を有し、前記担体の、厚さ寸法dに対する長辺寸法Lの比(L/d比)が5.0以上であり、前記触媒物質が前記担体の少なくとも前記通路に存在することを特徴とする合成ガス製造用触媒構造体。
2. 前記担体のL/d比が5.0以上35.0以下であることを特徴とする、前記1に記載の合成ガス製造用触媒構造体。
3. 前記担体のL/d比が7.0以上25.0以下であることを特徴とする、前記1または2に記載の合成ガス製造用触媒構造体。
4. 一酸化炭素と水素とを含む合成ガスを製造する際に用いられる合成ガス製造用触媒構造体であって、ゼオライト型化合物で構成される多孔質構造の担体と、前記担体に内在する少なくとも1つの触媒物質とを備え、前記担体が、互いに連通する通路を有し、前記担体の、厚さ寸法dに対する長辺寸法Lの比(L/d比)が5.0以上であり、前記触媒物質は、前記担体の少なくとも前記通路に存在し、平均粒径が1.00nm以上13.0nm以下であることを特徴とする合成ガス製造用触媒構造体。
5. 前記触媒物質の平均粒径が、前記通路の平均内径よりも大きいことを特徴とする、前記1~4のいずれかに記載の合成ガス製造用触媒構造体。
6. 前記通路は、前記ゼオライト型化合物の骨格構造の一次元孔、二次元孔及び三次元孔のうちのいずれかと、前記一次元孔、前記二次元孔及び前記三次元孔のうちのいずれとも異なる拡径部とを有し、かつ、前記触媒物質が、少なくとも前記拡径部に存在していることを特徴とする、前記1~5のいずれかに記載の合成ガス製造用触媒構造体。
7. 前記拡径部は、前記一次元孔、前記二次元孔及び前記三次元孔のうちのいずれかを構成する複数の孔同士を連通している、前記6に記載の合成ガス製造用触媒構造体。
8. 前記触媒物質の平均粒径が、前記拡径部の内径以下であることを特徴とする、前記6又は7に記載の合成ガス製造用触媒構造体。
9. 前記触媒物質は金属微粒子であることを特徴とする前記1~8のいずれかに記載の合成ガス製造用触媒構造体。
10. 前記通路の平均内径Dに対する前記金属微粒子の平均粒径Dの割合(D/D)が、0.05以上130.0以下であることを特徴とする、前記9に記載の合成ガス製造用触媒構造体。
11. 前記金属微粒子が、鉄(Fe)、コバルト(Co)及びニッケル(Ni)からなる群から選択される少なくとも1種の金属から構成される微粒子であることを特徴とする、前記9または10に記載の合成ガス製造用触媒構造体。
12. 前記金属微粒子が、ニッケル(Ni)から構成される微粒子であることを特徴とする、前記9~11のいずれかに記載の合成ガス製造用触媒構造体。
13. 前記触媒物質は金属酸化物微粒子である、前記1~8のいずれかに記載の合成ガス製造用触媒構造体。
14. 前記担体の外表面に保持された少なくとも1つの他の触媒物質を更に備えることを特徴とする、前記1~13のいずれかに記載の合成ガス製造用触媒構造体。
15. 前記担体に内在する前記少なくとも1つの触媒物質の含有量が、前記担体の外表面に保持された前記少なくとも1つの他の触媒物質の含有量よりも多いことを特徴とする、前記14に記載の合成ガス製造用触媒構造体。
16. 前記ゼオライト型化合物は、ケイ酸塩化合物であることを特徴とする、前記1~15のいずれかに記載の合成ガス製造用触媒構造体。
17. 前記合成ガス製造用触媒構造体は、常圧流通式反応装置に充填され、GHSV5600h-1、CO/CH比(体積比)=1:1で原料ガスを供給しながら、100℃で10分保持した後に20℃/分で900℃まで昇温させ、100℃以上の総加熱時間が60分の条件下でドライリフォーミング反応を実施したとき、700℃におけるCH転化率が20%以上であることを特徴とする、前記1~16のいずれかに記載の合成ガス製造用触媒構造体。
18. 前記合成ガス製造用触媒構造体は、前記ドライリフォーミング反応を実施したとき、700℃におけるCH転化率が60%以上であることを特徴とする、前記17に記載の合成ガス製造用触媒構造体。
19. 前記合成ガス製造用触媒構造体は、前記ドライリフォーミング反応を実施したとき、反応後の前記合成ガス製造用触媒構造体をCHN測定により分析した際のコーキング量が、前記合成ガス製造用触媒構造体の全量に対し5.0質量%未満であることを特徴とする、前記17または18に記載の合成ガス製造用触媒構造体。
20. 前記合成ガス製造用触媒構造体は、前記ドライリフォーミング反応を実施したとき、反応後の前記合成ガス製造用触媒構造体をCHN測定により分析した際のコーキング量が、前記合成ガス製造用触媒構造体の全量に対し0.3質量%未満であることを特徴とする、前記17~19のいずれかに記載の合成ガス製造用触媒構造体。
21. 前記1~20のいずれかに記載の合成ガス製造用触媒構造体の前駆体であって、前記触媒物質の前駆体物質が、金属酸化物微粒子であることを特徴とする合成ガス製造用触媒構造体の前駆体。
22. 前記1~20のいずれかに記載の合成ガス製造用触媒構造体または前記21に記載の合成ガス製造用触媒構造体の前駆体を備える合成ガス製造装置。
23. ゼオライト型化合物で構成される多孔質構造の担体を得るための細孔径13.0nm以下の細孔を有する前駆体材料(A)に金属含有溶液が含浸された前駆体材料(B)を焼成する焼成工程と、前記前駆体材料(B)を焼成して得られた前駆体材料(C)を水熱処理し、前記担体の、厚さ寸法dに対する長辺寸法Lの比(L/d比)が5.0以上である触媒構造体を得る水熱処理工程と、を有することを特徴とする合成ガス製造用触媒構造体の製造方法。
24. 前記焼成工程の前に、非イオン性界面活性剤を、前記前駆体材料(A)に対して50質量%以上500質量%以下添加することを特徴とする、前記23に記載の合成ガス製造用触媒構造体の製造方法。
25. 前記焼成工程の前に、前記前駆体材料(A)に前記金属含有溶液を複数回に分けて添加することで、前記前駆体材料(A)に前記金属含有溶液を含浸させることを特徴とする、前記23または24に記載の合成ガス製造用触媒構造体の製造方法。
26. 前記焼成工程の前に前記前駆体材料(A)に前記金属含有溶液を含浸させる際に、前記前駆体材料(A)に添加する前記金属含有溶液の添加量を、前記前駆体材料(A)に添加する前記金属含有溶液中に含まれる金属元素(M)に対する、前記前駆体材料(A)を構成するケイ素(Si)の比(原子数比Si/M)に換算して、10以上1000以下となるように調整することを特徴とする、前記23~25のいずれかに記載の合成ガス製造用触媒構造体の製造方法。
27. 前記水熱処理工程において、前記前駆体材料(C)と構造規定剤とを混合することを特徴とする、前記23~26のいずれかに記載の合成ガス製造用触媒構造体の製造方法。
28. 前記水熱処理工程が塩基性雰囲気下で行われることを特徴とする、前記23~26のいずれかに記載の合成ガス製造用触媒構造体の製造方法。
29. 前記水熱処理された前駆体材料(C)に、還元ガス雰囲気下で還元処理を施す工程をさらに有することを特徴とする前記23~28のいずれかに記載の合成ガス製造用触媒構造体の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、優れた触媒活性を、長時間にわたって低下させることなく安定して維持することができ、一酸化炭素と水素とを含む合成ガスを効率良く製造することが可能な合成ガス製造用触媒構造体及びその前駆体並びにこれらの触媒構造体又はその前駆体を備える合成ガス製造装置及び合成ガス製造用触媒構造体の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、実施形態に係る合成ガス製造用触媒構造体の内部構造が分かるように概略的に示したものであって、図1(a)は斜視図(一部を横断面で示す。)、図1(b)は部分拡大断面図である。
図2図2は、担体の長辺寸法および厚さ寸法を示すSEM画像である。
図3図3は、図1の合成ガス製造用触媒構造体の機能の一例を説明するための部分拡大断面図であり、図3(a)は篩機能、図3(b)は触媒能を説明する図である。
図4図4は、図1の合成ガス製造用触媒構造体の製造方法の一例を示すフローチャートである。
図5図5は、図1の合成ガス製造用触媒構造体の変形例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、実施形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0016】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、ゼオライト型化合物で構成される長辺寸法L/厚さ寸法dの比(L/d比)が5.0以上である多孔質構造の担体と、担体に内在する少なくとも1つの触媒物質とを備え、担体が、互いに連通する通路を有し、触媒物質が担体の少なくとも通路に存在していることによって、優れた触媒活性を、長時間にわたって低下させることなく安定して維持することができ、一酸化炭素と水素とを含む合成ガスを効率良く製造することが可能な合成ガス製造用触媒構造体が得られることを見出し、かかる知見に基づき本発明を完成させるに至った。
【0017】
実施形態の合成ガス製造用触媒構造体は、一酸化炭素と水素とを含む合成ガスを製造する際に用いられる合成ガス製造用触媒構造体であって、ゼオライト型化合物で構成される多孔質構造の担体と、前記担体に内在する少なくとも1つの触媒物質と、を備え、前記担体が、互いに連通する通路を有し、前記担体の、厚さ寸法dに対する長辺寸法Lの比(L/d比)が5.0以上であり、前記触媒物質が前記担体の少なくとも前記通路に存在する。
【0018】
実施形態の合成ガス製造用触媒構造体の製造方法は、ゼオライト型化合物で構成される多孔質構造の担体を得るための細孔径13.0nm以下の細孔を有する前駆体材料(A)に金属含有溶液が含浸された前駆体材料(B)を焼成する焼成工程と、前記前駆体材料(B)を焼成して得られた前駆体材料(C)を水熱処理し、前記担体の、厚さ寸法dに対する長辺寸法Lの比(L/d比)が5.0以上である触媒構造体を得る水熱処理工程と、を有する。
【0019】
[触媒構造体の構成]
図1は、実施形態に係る合成ガス製造用触媒構造体(以下、単に「触媒構造体」と記す)の構成を概略的に示す図であり、(a)は斜視図(一部を横断面で示す。)、(b)は部分拡大断面図である。なお、図1における触媒構造体は、その一例を示すものであり、各構成の形状、寸法等は、図1のものに限られないものとする。
【0020】
図1(a)に示す触媒構造体1は、一酸化炭素と水素とを含む合成ガスを製造する際に用いられる合成ガス製造用触媒構造体であって、ゼオライト型化合物で構成される多孔質構造の担体10と、該担体10に内在する、少なくとも1つの触媒物質20とを備える。
【0021】
≪担体≫
担体10は、ゼオライト型化合物で構成され、多孔質構造を有している。
ここでいう「ゼオライト型化合物」は、豊田中央研究所R&Dレビュー Vol.29、No2、(1994.6、p11~22、ゼオライト化学の新展開、稲垣伸二)にも示されるように、結晶性アルミノケイ酸塩だけでなく、同様の構造を有するリン酸塩系多孔質結晶などの種々のゼオライト類似物質も含まれる。
ゼオライト型化合物としては、例えば、ゼオライト(アルミノケイ酸塩)、陽イオン交換ゼオライト、シリカライト等のケイ酸塩化合物、アルミノホウ酸塩、アルミノヒ酸塩、ゲルマニウム酸塩等のゼオライト類縁化合物、リン酸モリブデン等のリン酸塩系ゼオライト類似物質などが挙げられる。中でも、ゼオライト型化合物はケイ酸塩化合物であることが好ましい。
【0022】
ゼオライト型化合物の骨格構造は、FAU型(Y型又はX型)、MTW型、MFI型(ZSM-5)、FER型(フェリエライト)、LTA型(A型)、MWW型(MCM-22)、MOR型(モルデナイト)、LTL型(L型)、BEA型(ベータ型)などの中から選択され、好ましくはMFI型であり、より好ましくはMFI型シリカライトである。ゼオライト型化合物には、各骨格構造に応じた孔径を有する孔が複数形成されており、例えばMFI型の最大孔径は0.636nm(6.36Å)、平均孔径0.560nm(5.60Å)である。
【0023】
担体10は、多孔質構造であり、図1(b)に示すように、好適には複数の孔11a,11a,・・・が形成されることにより、互いに連通する通路11を有する。ここで触媒物質20は、担体10の少なくとも通路11に存在しており、好ましくは担体10の少なくとも通路11に保持されている。
【0024】
このような構成により、担体10内での触媒物質20の移動が規制され、触媒物質20、20同士の凝集が有効に防止されている。その結果、触媒構造体1は、耐シンタリング性が向上し、触媒物質20としての有効表面積の減少を効果的に抑制することができ、触媒物質20の触媒活性は長期にわたって持続する。すなわち、触媒構造体1によれば、触媒物質20の凝集による触媒活性の低下を抑制でき、触媒構造体1としての長寿命化を図ることができる。また、触媒構造体1の長寿命化により、触媒構造体1の交換頻度を低減でき、使用済みの触媒構造体1の廃棄量を大幅に低減することができ、省資源化を図ることができる。
【0025】
通常、触媒構造体を、流体の中で用いる場合、流体から外力を受ける可能性がある。この場合、触媒物質が、担体10の外表面のみに付着されていると、流体からの外力の影響で担体10の外表面から離脱しやすいという問題がある。これに対し、本実施形態の触媒構造体1では、触媒物質20は担体10の少なくとも通路11に保持されているため、流体から外力を受けたとしても、担体10から触媒物質20が離脱しにくい。
【0026】
すなわち、触媒構造体1が流体内にある場合、流体は、担体10の孔11aから通路11内に流入するため、通路11内を流れる流体の速さは、流路抵抗(摩擦力)により、担体10の外表面を流れる流体の速さに比べて、遅くなると考えられる。このような流路抵抗の影響により、通路11内に保持される触媒物質20が流体から受ける圧力は、担体10の外部に保持される触媒物質が流体から受ける圧力に比べて低くなる。そのため、担体10に内在する触媒物質20が離脱することを効果的に抑制でき、触媒物質20の触媒活性を長期的に安定して維持することが可能となる。なお、上記のような流路抵抗は、担体10の通路11が、曲がりや分岐を複数有し、担体10の内部がより複雑で三次元的な立体構造となっているほど、大きくなると考えられる。
【0027】
また、通路11は、ゼオライト型化合物の骨格構造によって画定される一次元孔、二次元孔及び三次元孔のうちのいずれかと、上記一次元孔、上記二次元孔及び上記三次元孔のうちのいずれとも異なる拡径部12とを有していることが好ましい。このとき、触媒物質20は、少なくとも拡径部12に存在していることが好ましく、少なくとも拡径部12に包接されていることがより好ましい。これにより、触媒物質20の担体10内での移動がさらに規制され、触媒物質20の離脱や、触媒物質20、20同士の凝集をさらに有効に防止することができる。包接とは、触媒物質20が担体10に内包されている状態を指す。このとき触媒物質20と担体10とは、必ずしも直接的に互いが接触している必要はなく、触媒物質20と担体10との間に他の物質(例えば、界面活性剤等)が介在した状態で、触媒物質20が担体10に間接的に保持されていてもよい。
【0028】
ここでいう一次元孔とは、一次元チャンネルを形成しているトンネル型またはケージ型の孔、もしくは複数の一次元チャンネルを形成しているトンネル型またはケージ型の複数の孔(複数の一次元チャンネル)を指す。また、二次元孔とは、複数の一次元チャンネルが二次元的に連結された二次元チャンネルを指し、三次元孔とは、複数の一次元チャンネルが三次元的に連結された三次元チャンネルを指す。
【0029】
図1(b)では触媒物質20が拡径部12に包接されている場合を示しているが、この構成だけには限定されず、触媒物質20は、その一部が拡径部12の外側にはみ出した状態で通路11に存在していてもよい。また、触媒物質20は、拡径部12以外の通路11の部分(例えば通路11の内壁部分)に部分的に埋設され、又は固着等によって保持されていてもよい。
【0030】
また、拡径部12は、上記一次元孔、上記二次元孔及び上記三次元孔のうちのいずれかを構成する複数の孔11a,11a同士を連通しているのが好ましい。これにより、担体10の内部に、一次元孔、二次元孔又は三次元孔とは異なる別途の通路が設けられるので、触媒物質20の機能をより発揮させることができる。
【0031】
また、通路11は、担体10の内部に、分岐部又は合流部を含んで三次元的に形成されており、拡径部12は、通路11の上記分岐部又は合流部に設けられることが好ましい。
【0032】
担体10に形成された通路11の平均内径Dは、上記一次元孔、二次元孔及び三次元孔のうちのいずれかを構成する孔11aの短径及び長径の平均値から算出され、好ましくは0.10nm以上1.50nm以下であり、より好ましくは0.50nm以上0.80nm以下である。また、拡径部12の内径Dは、好ましくは0.5nm以上13.0nm以下であり、より好ましくは1.1nm以上13.0nm以下、さらに好ましくは1.1nm以上3.3nm以下である。拡径部12の内径Dは、例えば後述する前駆体材料(A)の細孔径、及び包接される触媒物質20の平均粒径Dに依存する。拡径部12の内径Dは、触媒物質20を包接し得る大きさである。
【0033】
また、担体10を適正形状にすること、より具体的には、担体10の、厚さ寸法dに対する長辺寸法Lの比(L/d比)を5.0以上とすることによって、触媒活性は向上する。触媒活性が向上する理由としては、次の2点が挙げられる。基本的に、触媒構造体1の孔11aは、長辺寸法Lが存在する面、すなわち長辺寸法Lを規定する上面や下面など((010)面や(100)面)に形成されており、厚さ寸法dの存在する面、すなわち厚さ寸法を規定する側面のうちの特定の面((101)面)には形成されない。そのため、L/d比の値が大きくなるほど、触媒構造体の全表面積に対する孔の存在割合(孔の個数/触媒構造体の全表面積)が増加するため、反応ガスが孔11aの存在する領域に接触する確率が向上し、反応ガスが触媒構造体1の内部の触媒物質に接触する確率は高くなる。また、L/d比の値が大きくなるほど、触媒構造体1を反応管内の触媒層に充填した際に、触媒層内の触媒構造体1の充填密度が過剰にならないため、反応ガスが孔11aに侵入しやすくなり、反応ガスが触媒物質に届くルートが確保されやすくなる。担体のL/d比は、5.0以上であり、5.0以上35.0以下が好ましく、7.0以上25.0以下がより好ましい。担体10のL/d比を5.0以上とすることによって、上記のように触媒活性を向上させることができる。担体10のL/d比が増加するにつれて、触媒活性は向上する。また、L/d比が35.0以下であると、高活性の触媒構造体1を製造する際に、歩留まりが向上する。このように、L/d比が5.0以上35.0以下である触媒構造体1は、製造効率が良く、高活性である。具体的な担体の形状としては、板状、コフィン状等が挙げられる。
【0034】
図2には、走査型電子顕微鏡(SEM)による撮影をしたときのSEM画像における、担体10の長辺寸法Lおよび厚さ寸法dを示す。ここで、担体10の長辺寸法Lとは、担体10を三次元的に見た時に、担体10の面内において、縁の任意の2点を結ぶ直線が最も長い線の長さである。また、担体10の厚さ寸法dとは、担体10の長辺を有する面と担体10の長辺を有する面に対向する面との最短距離の長さである。図2に示すように、長辺寸法Lは、担体10の上面または下面内の長さであり、厚さ寸法dは、担体10の側面内の長さである。
【0035】
例えば、SEM(SU8020、日立ハイテクノロジーズ社製)画像から、任意に担体10を200個選択し、それぞれの長辺寸法L及び厚さ寸法dを測定し、L/d比の平均値(N=200)を求める。長辺寸法Lおよび厚さ寸法dは適宜定めることができる。
【0036】
また、一般的に、ゼオライト型化合物の成長過程において、粒径(L)がある程度のサイズを有する球状のゼオライト型化合物、例えば粒径(L)が0.05μm程度(L/d比が約1))に成長した球状のゼオライト型化合物は、特定の軸方向への成長速度が速くなるため、板状やコフィン状等に成長する。このときの成長速度は、厚さ方向に比べて、長辺方向が非常に速い。このようなゼオライト型化合物の成長過程は、触媒構造体1にも適用できると考えられる。
【0037】
このように、所定の大きさを有する担体10では、厚さ方向よりも長辺方向の成長速度が非常に大きく、長辺寸法Lが1.00μm以上の担体10では、厚さ方向の成長速度は非常に遅い。そのため、長辺寸法Lについても、上記L/d比と同様に、触媒構造体1の触媒活性との関係性がある。このような観点から、長辺寸法Lは、1.00μm以上が好ましく、1.00μm以上50.00μm以下がより好ましく、1.00μm以上25.00μm以下がさらに好ましい。長辺寸法Lが1.00μm以上であると、触媒構造体1の触媒活性が向上する。長辺寸法Lが増加するにつれて、触媒活性は向上する。また、長辺寸法Lが50.00μm以下であると、高活性の触媒構造体1を製造する際に、歩留まりが向上する。このように、長辺寸法Lが1.00μm以上50.0μm以下である触媒構造体1は、製造効率が良く、高活性である。
担体10の厚さ寸法dは、0.05μm以上2.00μm以下が好ましい。
【0038】
≪触媒物質≫
以下、触媒物質20について詳しく説明する。
上記触媒物質としては、1種の金属元素からなる金属や、2種以上の金属元素の混合物、または、それらの少なくとも一部が合金化された金属微粒子であってもよい。また、触媒物質は、1種以上の金属元素の酸化物や、これらの複合材料からなる金属酸化物微粒子であってもよい。なお、本明細書において、触媒として使用する際の触媒物質を構成する(材質としての)「金属」は、1種の金属元素(M)を含む単体金属と、2種以上の金属元素(M)を含む金属合金とを含む意味であり、1種以上の金属元素を含む金属の総称である。金属微粒子や金属酸化物微粒子は、一次粒子の状態で通路11に保持されている場合と、一次粒子が凝集して形成された二次粒子の状態で通路11に保持されている場合とがある。
【0039】
金属微粒子は、酸化されていない金属を含んで構成されていればよく、例えば、単一の金属で構成されていてもよく、又は2種以上の金属の混合物で構成されていてもよい。なお、本明細書において、金属微粒子を構成する(材質としての)「金属」は、1種の金属元素(M)を含む単体金属と、2種以上の金属元素(M)を含む合金とを含む意味であり、1種以上の金属元素を含む金属の総称である。
【0040】
このような金属微粒子や金属酸化物微粒子に含まれる金属元素としては、例えばロジウム(Rh)、ルテニウム(Ru)、イリジウム(Ir)、パラジウム(Pd)、白金(Pt)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、クロム(Cr)、セリウム(Ce)、銅(Cu)、マグネシウム(Mg)、アルミニウム(Al)、ニッケル(Ni)、等が挙げられ、上記のいずれか1種以上を主成分とすることが好ましい。
【0041】
特に、金属微粒子は、触媒活性の観点で、ロジウム(Rh)、ルテニウム(Ru)、イリジウム(Ir)、パラジウム(Pd)、白金(Pt)、鉄(Fe)、コバルト(Co)及びニッケル(Ni)からなる群から選択される少なくとも1種の金属から構成される微粒子であることが好ましく、その中でも希少性・価格の観点から、鉄(Fe)、コバルト(Co)及びニッケル(Ni)からなる群から選択される少なくとも1種の金属から構成される微粒子であることがより好ましい。
【0042】
一般的に、ドライリフォーミング法は、メタンと水蒸気を反応させるスチームリフォーミング法に比べ、原料中の炭素含有比率が高いため、触媒表面に炭素析出を生じやすく、触媒活性の低下を招きやすい事の他に、反応管内の触媒層を閉塞させるといったコーキングの問題がある。また、貴金属系触媒(Pd,Rh,Ru,Pt)は、高価であるため非貴金属系触媒の利用が求められている。その中でも、Fe、Co、Niは低価格である点や、入手が容易である点で注目されている。これらの中で最も触媒活性が高い事で知られているNiは、特にコーキングが起こりやすい。また、Fe、Coは触媒活性が低いためNiと比べてコーキング量は少ないが、これら金属も触媒活性が向上するとコーキングが起こる。このように、Niを始めとした非貴金属系触媒は触媒活性の向上と共に耐コーキング性の向上への要求が特に高い。
【0043】
ところで、コーキングは、反応物が金属微粒子上に接触すると、金属微粒子上を移動しながら重合することで起こるため、金属微粒子の粒子径が大きいと、反応物が金属微粒子上で重合しやすくなり、反対に金属微粒子の粒子径が小さいと重合も起こりにくくなる。
【0044】
金属微粒子が鉄(Fe)、コバルト(Co)及びニッケル(Ni)からなる群から選択される少なくとも1種の金属から構成される微粒子、特にNi微粒子のように高い触媒活性を有する場合であっても、当該金属微粒子の平均粒径Dを一定範囲内に維持することができると、コーキングが十分に抑制される。
【0045】
金属微粒子の平均粒径Dの一定範囲として、金属微粒子の平均粒径Dは、1.00nm以上13.00nm以下であることが好ましい。金属微粒子の平均粒径Dが当該範囲内であると、触媒活性は十分に増加し、平均粒径Dが小さくなるにつれて、触媒活性は向上する。また、高い触媒活性と耐コーキング性の両立の観点から、金属微粒子の平均粒径Dは、好ましくは9.00nm以下であり、より好ましくは4.50nm以下である。また、金属微粒子が鉄(Fe)、コバルト(Co)及びニッケル(Ni)からなる群から選択される少なくとも1種の金属から構成される微粒子である場合、金属微粒子の平均粒径Dが当該範囲内であると、触媒活性と共に耐コーキング性の両方が十分に向上する。
【0046】
触媒物質20である金属微粒子の平均粒径Dは、例えば次のようにして測定することができる。
触媒構造体1の断面をSAXS(小角X線散乱)で測定し、得られたSAXSデータについてGuinier近似法により球形モデルでフィッティングを行うことで、金属微粒子の平均粒径Dを算出できると共に分散状態を得ることができる。SAXSによる測定は、例えばSpring-8のビームラインBL19B2を用いることができる。
【0047】
また、触媒物質20の平均粒径Dは、好ましくは通路11の平均内径Dよりも大きく、さらには、拡径部12の内径D以下であることがより好ましい(すなわち、D<D≦D)。このような触媒物質20は、通路11内では、好適には拡径部12に包接されており、担体10内での触媒物質20の移動が規制される。よって、触媒物質20が流体から外力を受けた場合であっても、担体10内での触媒物質20の移動が抑制され、担体10の通路11に分散配置された拡径部12、12、・・のそれぞれに包接された触媒物質20、20、・・同士が接触するのを有効に防止することができる。
【0048】
また、通路11の平均内径Dに対する金属微粒子の平均粒径Dの割合(D/D)は、好ましくは0.05以上130.0以下であり、より好ましくは0.1以上90.0以下であり、更に好ましくは1.1以上45.0以下であり、特に好ましくは1.4以上6.3以下である。
【0049】
また、触媒物質20が金属微粒子である場合、金属微粒子の金属元素(M)は、触媒構造体1に対して、0.5質量%以上7.6質量%以下で含有されているのが好ましく、0.5質量%以上6.9質量%以下で含有されているのがより好ましく、0.5質量%以上2.5質量%以下で含有されているのがさらに好ましい。例えば、金属元素(M)がNiである場合、Ni元素の含有量(質量%)は、{(Ni元素の質量)/(触媒構造体1の全元素の質量)}×100で表される。
【0050】
また、金属微粒子を構成する金属元素(M)に対する、担体10を構成するケイ素(Si)の割合(原子数比Si/M)は、10以上1000以下であることが好ましく、50以上200以下であるのがより好ましい。上記割合が1000より大きいと、触媒活性が低いなど、触媒物質の作用が十分に得られない可能性がある。一方、上記割合が10よりも小さいと、触媒物質の割合が大きくなりすぎて、担体10の強度が低下する傾向がある。なお、ここでいう金属微粒子20は、担体10の内部に存在し、又は担持された微粒子をいい、担体10の外表面に付着した金属微粒子を含まない。
【0051】
[触媒構造体の機能]
触媒構造体1は、上記のとおり、多孔質構造の担体10と、担体に内在する少なくとも1つの触媒物質20とを備える。触媒構造体1は、担体10に内在する触媒物質20が流体と接触することにより、触媒物質20の機能に応じた触媒能を発揮する。具体的に、図3に示すように、触媒構造体1の外表面10aに接触した流体は、外表面10aに形成された孔11aから担体10内部に流入して通路11内に誘導され、通路11内を通って移動し、他の孔11aを通じて触媒構造体1の外部へ出る。流体が通路11内を通って移動する経路において、流体が通路11に保持された触媒物質20と接触することによって、触媒物質20に応じた触媒反応が生じる。また、触媒構造体1は、担体が多孔質構造であることにより、分子篩能を有する。
【0052】
まず、触媒構造体1の分子篩能について、図3(a)を用いて、流体がメタン含有ガスと二酸化炭素である場合を例として説明する。なお、メタン含有ガスとは、メタンと、メタン以外のガスとを含む混合ガスのことをいう。また、触媒構造体1に対して、メタン含有ガスと二酸化炭素を順に接触させてもよく、同時に接触させてもよい。
【0053】
図3(a)に示すように、孔11aの孔径以下、言い換えれば、通路11の内径以下の大きさを有する分子で構成される化合物(例えば、メタン、二酸化炭素)は、担体10内に流入することができる。一方、孔11aの孔径を超える大きさを有する分子で構成されるガス成分15は、担体10内へ流入することができない。このように、流体が複数種類の化合物を含んでいる場合に、担体10内に流入することができない化合物の反応は規制され、担体10内に流入することができる化合物を反応させることができる。本実施形態では、メタンと二酸化炭素との反応が進行する。
【0054】
反応によって担体10内で生成した化合物のうち、孔11aの孔径以下の大きさを有する分子で構成される化合物のみが孔11aを通じて担体10の外部へ出ることができ、反応生成物として得られる。一方、孔11aから担体10の外部へ出ることができない化合物は、担体10の外部へ出ることができる大きさの分子で構成される化合物に変換させれば、担体10の外部へ出すことができる。このように、触媒構造体1を用いることにより、特定の反応生成物を選択的に得ることができる。本実施形態では、具体的に、メタンと二酸化炭素が反応して、一酸化炭素と水素とを含む合成ガスが反応生成物として得られる。
【0055】
触媒構造体1では、図3(b)に示すように、通路11の拡径部12に触媒物質20が包接されている。触媒物質20(金属微粒子)の平均粒径Dが、通路11の平均内径Dよりも大きく、拡径部12の内径Dよりも小さい場合には(D<D<D)、触媒物質20と拡径部12との間に小通路13が形成される。そこで、図3(b)中の矢印に示すように、小通路13に流入した流体が触媒物質20と接触する。各触媒物質20は、拡径部12に包接されているため、担体10内での移動が制限されている。これにより、担体10内における触媒物質20同士の凝集が防止される。その結果、触媒物質20と流体との大きな接触面積を安定して維持することができる。
【0056】
本実施形態では、触媒構造体1を用いることにより、メタン含有ガスと二酸化炭素とを原料として、一酸化炭素と水素とを含む合成ガスを製造することができる。この触媒反応は、例えば800℃以上の高温下で行われるが、触媒物質20は担体10に内在しているため、加熱による影響を受けにくい。その結果、触媒活性の低下が抑制され、触媒構造体1の長寿命化を実現することができる。
【0057】
また、触媒構造体1について、常圧流通式反応装置に充填され、GHSV5600h-1、CO/CH比(体積比)=1:1で原料ガスを供給しながら、100℃で10分保持した後に20℃/分で900℃まで昇温させ、100℃以上の総加熱時間が60分の条件下でドライリフォーミング反応を実施したとき、触媒活性として、700℃におけるCH転化率が、20%以上であることが好ましく、60%以上であることがより好ましい。このような触媒構造体1は、高い触媒活性を有する。
【0058】
また、触媒構造体1について、上記ドライリフォーミング反応を実施したとき、耐コーキング性として、反応後の触媒構造体をCHN測定により分析した際のコーキング量が、触媒構造体の全量に対し、5.0質量%未満であることが好ましく、0.3質量%未満であることがより好ましい。このような触媒活性の高い触媒構造体1は、耐コーキング性にも優れている。
【0059】
[触媒構造体の製造方法]
図4は、図1の触媒構造体1の製造方法を示すフローチャートである。以下、担体に内在する触媒物質20が金属微粒子である場合を例に、触媒構造体の製造方法の一例を説明する。
【0060】
(ステップS1:準備工程)
図4に示すように、先ず、ゼオライト型化合物で構成される多孔質構造の担体を得るための細孔径13.0nm以下の細孔を有する前駆体材料(A)を準備する。前駆体材料(A)は、好ましくは規則性メソ細孔物質であり、触媒構造体の担体を構成するゼオライト型化合物の種類(組成)に応じて適宜選択できる。前駆体材料(A)の細孔の細孔径が13.0nm以下であると、触媒物質の平均粒径が制御しやすくなり、優れた触媒活性および耐コーキング性が発揮される。そのため、当該細孔径は、13.0nm以下であり、好ましくは10.0nm以下、より好ましくは6.0nm以下である。当該細孔径が小さくなるにつれて、触媒活性および耐コーキング性は向上する。また、前駆体材料(A)の製造容易性や入手容易性から、前駆体材料(A)の細孔の細孔径は、好ましくは0.7nm以上、より好ましくは1.0nm以上である。
【0061】
ここで、触媒構造体の担体を構成するゼオライト型化合物がケイ酸塩化合物である場合には、規則性メソ細孔物質は、細孔径1.0nm以上13.0nm以下の細孔が1次元、2次元又は3次元に均一な大きさかつ規則的に発達したSi-O骨格からなる化合物であることが好ましい。このような規則性メソ細孔物質は、合成条件によって様々な合成物として得られるが、合成物の具体例としては、例えばSBA-1、SBA-15、SBA-16、KIT-6、FSM-16、MCM-41等が挙げられ、中でもMCM-41が好ましい。
【0062】
なお、SBA-1の細孔径は8.0nm以上13.0nm以下、SBA-15の細孔径は6.0nm以上10.0nm以下、SBA-16の細孔径は6.0nm、KIT-6の細孔径は9.0nm、FSM-16の細孔径は3.0nm以上5.0nm以下、MCM-41の細孔径は1.0nm以上10.0nm以下である。また、このような規則性メソ細孔物質としては、例えばメソポーラスシリカ、メソポーラスアルミノシリケート、メソポーラスメタロシリケート等が挙げられる。
【0063】
前駆体材料(A)は、市販品及び合成品のいずれであってもよい。前駆体材料(A)を合成する場合には、公知の規則性メソ細孔物質の合成方法を採用することができる。例えば、前駆体材料(A)の構成元素を含有する原料と、前駆体材料(A)の構造を規定するための鋳型剤とを含む混合溶液を調製し、必要に応じてpHを調整して、水熱処理(水熱合成)を行う。その後、水熱処理により得られた沈殿物(生成物)を回収(例えば、ろ別)し、必要に応じて洗浄及び乾燥し、さらに焼成することで、粉末状の規則性メソ細孔物質である前駆体材料(A)が得られる。
【0064】
ここで、混合溶液の溶媒としては、例えば水、アルコール等の有機溶媒、これらの混合溶媒などを用いることができる。また、原料は、担体の種類に応じて選択されるが、例えばテトラエトキシシラン(TEOS)等のシリカ剤、フュームドシリカ、石英砂等が挙げられる。また、鋳型剤としては、各種界面活性剤、ブロックコポリマー等を用いることができ、規則性メソ細孔物質の合成物の種類に応じて選択することが好ましく、例えばMCM-41を作製する場合にはヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロミド等の界面活性剤が好適である。水熱処理は、例えば、密閉容器内で、80℃以上800℃以下、5時間以上240時間以内、0kPa超2000kPa以下の処理条件で行うことができる。焼成処理は、例えば、空気中で、350℃以上850℃以下、2時間以上30時間以内の処理条件で行うことができる。
【0065】
(ステップS2:含浸工程)
次に、準備した前駆体材料(A)に、金属含有溶液を含浸させ、前駆体材料(B)を得る。
【0066】
金属含有溶液は、金属微粒子を構成する金属元素(M)に対応する金属成分(例えば、金属イオン)を含有する溶液であればよく、例えば、溶媒に、金属元素(M)を含有する金属塩を溶解させることにより調製できる。このような金属塩としては、例えば、塩化物、水酸化物、酸化物、硫酸塩、硝酸塩等が挙げられ、中でも硝酸塩が好ましい。溶媒としては、例えば水、アルコール等の有機溶媒、これらの混合溶媒などを用いることができる。
【0067】
前駆体材料(A)に金属含有溶液を含浸させる方法は、特に限定されないが、例えば、後述する焼成工程の前に、粉末状の前駆体材料(A)を撹拌しながら、金属含有溶液を複数回に分けて少量ずつ添加することが好ましい。また、前駆体材料(A)の細孔内部に金属含有溶液がより浸入し易くなる観点から、前駆体材料(A)に、金属含有溶液を添加する前に予め、添加剤として界面活性剤を添加しておくことが好ましい。このような添加剤は、前駆体材料(A)の外表面を被覆する働きがあり、その後に添加される金属含有溶液が前駆体材料(A)の外表面に付着することを抑制し、金属含有溶液が前駆体材料(A)の細孔内部により浸入し易くなると考えられる。
【0068】
このような添加剤としては、例えばポリオキシエチレンオレイルエーテル等のポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルなどの非イオン性界面活性剤が挙げられる。これらの界面活性剤は、分子サイズが大きく前駆体材料(A)の細孔内部には浸入できないため、細孔の内部に付着することは無く、金属含有溶液が細孔内部に浸入することを妨げないと考えられる。非イオン性界面活性剤の添加方法としては、例えば、後述する焼成工程の前に、非イオン性界面活性剤を、前駆体材料(A)に対して50質量%以上500質量%以下添加するのが好ましい。この範囲は、上記抑制作用が適度に発現し、粘度の上昇も適度であり好ましい。
【0069】
また、前駆体材料(A)に添加する金属含有溶液の添加量は、前駆体材料(A)に含浸させる金属含有溶液中に含まれる金属元素(M)の量(すなわち、前駆体材料(B)に内在させる金属元素(M)の量)を考慮して、適宜調整することが好ましい。例えば、後述する焼成工程の前に前駆体材料(A)に金属含有溶液を含浸させる際に、前駆体材料(A)に添加する金属含有溶液の添加量を、前駆体材料(A)に添加する金属含有溶液中に含まれる金属元素(M)に対する、前駆体材料(A)を構成するケイ素(Si)の比(原子数比Si/M)に換算して、10以上1000以下となるように調整することが好ましく、50以上200以下となるように調整することがより好ましい。例えば、前駆体材料(A)に金属含有溶液を添加する前に、添加剤として界面活性剤を前駆体材料(A)に添加した場合、前駆体材料(A)に添加する金属含有溶液の添加量を、原子数比Si/Mに換算して50以上200以下とすることで、金属微粒子の金属元素(M)を、触媒構造体1に対して0.5質量%以上7.6質量%以下で含有させることができる。
【0070】
前駆体材料(B)の状態で、その細孔内部に存在する金属元素(M)の量は、金属含有溶液の金属濃度や、上記添加剤の有無、その他温度や圧力等の諸条件が同じであれば、前駆体材料(A)に添加する金属含有溶液の添加量に概ね比例する。また、前駆体材料(B)に内在する金属元素(M)の量は、触媒構造体の担体に内在する金属微粒子を構成する金属元素の量と比例関係にある。したがって、前駆体材料(A)に添加する金属含有溶液の添加量を上記範囲に制御することにより、前駆体材料(A)の細孔内部に金属含有溶液を十分に含浸させることができ、ひいては、触媒構造体の担体に内在させる金属微粒子の量を調整することができる。
【0071】
前駆体材料(A)に金属含有溶液を含浸させた後は、必要に応じて、洗浄処理を行ってもよい。洗浄溶液として、水、アルコール等の有機溶媒、これらの混合溶媒等を用いることができる。また、前駆体材料(A)に金属含有溶液を含浸させ、必要に応じて洗浄処理を行った後、さらに乾燥処理を施すことが好ましい。乾燥処理としては、一晩程度の自然乾燥、150℃以下の高温乾燥等が挙げられる。なお、前駆体材料(A)に、金属含有溶液に含まれる水分及び洗浄溶液の水分が多く残った状態で後述の焼成処理を行うと、前駆体材料(A)の規則性メソ細孔物質としての骨格構造が壊れる恐れがあるので、十分に乾燥させることが好ましい。
【0072】
(ステップS3:焼成工程)
次に、ゼオライト型化合物で構成される多孔質構造の担体を得るための前駆体材料(A)に金属含有溶液が含浸された前駆体材料(B)を焼成して、前駆体材料(C)を得る。
【0073】
焼成処理は、例えば、空気中で、所定の温度範囲内で、2時間以上30時間以内の処理条件で行うことが好ましい。焼成処理における所定の温度範囲内は、好ましくは350℃以上850℃以下、より好ましくは500℃以上850℃以下である。このような焼成処理により、規則性メソ細孔物質の孔内に含浸された金属成分が結晶成長して、孔内で金属微粒子が形成される。
【0074】
(ステップS4:水熱処理工程)
次いで、前記前駆体材料(B)を焼成して得られた前駆体材料(C)を水熱処理して、触媒構造体を得る。好ましくは、水熱処理工程において、前駆体材料(C)と構造規定剤とを混合した混合溶液を用いて前駆体材料(C)を水熱処理する。
【0075】
構造規定剤は、触媒構造体の担体の骨格構造を規定するための鋳型剤であり、例えば界面活性剤を用いることができる。構造規定剤は、触媒構造体の担体の骨格構造に応じて選択することが好ましく、例えばテトラメチルアンモニウムブロミド(TMABr)、テトラエチルアンモニウムブロミド(TEABr)、テトラプロピルアンモニウムブロミド(TPABr)等の界面活性剤が好適である。
【0076】
前駆体材料(C)と構造規定剤との混合は、水熱処理工程時に行ってもよいし、水熱処理工程の前に行ってもよい。また、上記混合溶液の調製方法は、特に限定されず、前駆体材料(C)と、構造規定剤と、溶媒とを同時に混合してもよいし、溶媒に前駆体材料(C)と構造規定剤とをそれぞれ個々に分散させた状態にした後に、それぞれの分散溶液を混合してもよい。溶媒としては、例えば水、アルコール等の有機溶媒、これらの混合溶媒などを用いることができる。また、混合溶液は、水熱処理を行う前に、酸又は塩基を用いてpHを調整しておくことが好ましい。
【0077】
水熱処理は、公知の方法で行うことができ、例えば、密閉容器内で、80℃以上200℃以下、5時間以上100時間以内、0kPa超2000kPa以下の処理条件で行うことが好ましい。また、水熱処理は、塩基性雰囲気下で行われることが好ましい。
ここでの反応メカニズムは必ずしも明らかではないが、前駆体材料(C)を原料として水熱処理を行うことにより、前駆体材料(C)の規則性メソ細孔物質としての骨格構造は次第に崩れるが、前駆体材料(C)の細孔内部での金属微粒子の位置は概ね維持されたまま、構造規定剤の作用により、触媒構造体の担体としての新たな骨格構造(多孔質構造)が形成される。このようにして得られた触媒構造体は、多孔質構造の担体と、担体に内在する金属微粒子を備え、さらに担体はその多孔質構造により複数の孔が互いに連通した通路を有し、金属微粒子はその少なくとも一部分が担体の通路に存在している。
【0078】
また、本実施形態では、上記水熱処理工程において、前駆体材料(C)と構造規定剤とを混合した混合溶液を調製して、前駆体材料(C)を水熱処理しているが、これに限らず、前駆体材料(C)と構造規定剤とを混合すること無く、前駆体材料(C)を水熱処理してもよい。
【0079】
担体の長辺寸法L/厚さ寸法d比(L/d比)は、水熱処理工程によって調整することができる。塩基性度、処理温度、処理時間、処理圧力を適宜選択することにより、所望の長辺寸法L/厚さ寸法d比を得ることができる。
例えば、塩基性度の上昇、処理温度の昇温、処理時間の延長および圧力の付加のうち、少なくとも1つの処理条件の下で水熱処理を行なうことによって、担体は、先ず長さ方向に成長していき、その後、厚さ方向に成長するように形状を調整することができる。
水熱処理後に得られる沈殿物(触媒構造体)は、回収(例えば、ろ別)後、必要に応じて洗浄処理、乾燥処理及び焼成処理を施すことが好ましい。洗浄溶液としては、水、アルコール等の有機溶媒、これらの混合溶媒等を用いることができる。乾燥処理としては、一晩程度の自然乾燥や、150℃以下の高温乾燥が挙げられる。なお、沈殿物に水分が多く残った状態で焼成処理を行うと、触媒構造体の担体としての骨格構造が壊れる恐れがあるので、十分に乾燥させることが好ましい。また、焼成処理は、例えば、空気中で、350℃以上850℃以下、2時間以上30時間以内の処理条件で行うことができる。このような焼成処理により、触媒構造体に付着していた構造規定剤が焼失する。また、触媒構造体は、使用目的に応じて、回収後の沈殿物に対して焼成処理を施すことなくそのまま用いることもできる。例えば、触媒構造体の使用する環境が、酸化性雰囲気の高温環境である場合には、使用環境に一定時間晒すことで、構造規定剤は焼失する。この場合、焼成処理を施した場合と同様の触媒構造体が得られるので、焼成処理を施す必要がない。
【0080】
以上説明した製造方法は、前駆体材料(A)に含浸させる金属含有溶液に含まれる金属元素(M)が、酸化され難い金属種(例えば、貴金属)である場合の一例である。
【0081】
前駆体材料(A)に含浸させる金属含有溶液中に含まれる金属元素(M)が、酸化され易い金属種(例えば、Fe、Co、Ni等)である場合には、上記水熱処理工程後に、水熱処理された前駆体材料(C)に還元処理をさらに行うことが好ましい。金属含有溶液中に含まれる金属元素(M)が、酸化され易い金属種である場合、含浸処理(ステップS2)の後の工程(ステップS3~S4)における熱処理により、金属成分が酸化されてしまう。そのため、水熱処理工程(ステップS4)で形成される担体には、金属酸化物微粒子が内在することになる。そのため、担体に金属微粒子が内在する触媒構造体を得るためには、上記水熱処理後に、回収した沈殿物を焼成処理し、さらに水素ガス等の還元ガス雰囲気下で還元処理することが望ましい。触媒構造体の前駆体としての沈殿物の還元処理を行うことにより、担体に内在する触媒物質の前駆体物質としての金属酸化物微粒子が還元され、金属酸化物微粒子を構成する金属元素(M)に対応する金属微粒子が形成される。その結果、担体に金属微粒子が内在する触媒構造体が得られる。なお、このような還元処理は、必要に応じて行えばよく、例えば、触媒構造体を使用する環境が、還元雰囲気である場合には、使用環境に一定時間晒すことで、触媒物質の前駆体物質としての金属酸化物微粒子は還元される。この場合、還元処理した場合と同様の触媒構造体が得られるので、還元処理を施す必要がない。また、触媒物質に残留する金属酸化物も前記触媒物質の前駆体に該当する。
【0082】
[触媒構造体1の変形例]
図5は、図1の触媒構造体1の変形例を示す模式図である。
図1の触媒構造体1は、担体10と、担体10に内在する触媒物質20とを備えるが、この構成だけには限定されず、例えば、図5に示すように、触媒構造体2が、担体10の外表面10aに保持された他の触媒物質30を更に備えていてもよい。
【0083】
この触媒物質30は、一又は複数の触媒能を発揮する物質である。他の触媒物質30が有する触媒能は、触媒物質20が有する触媒能と同一であってもよいし、異なっていてもよい。また、触媒物質20,30の双方が同一の触媒能を有する物質である場合、他の触媒物質30の材料は、触媒物質20の材料と同一であってもよいし、異なっていてもよい。本構成によれば、触媒構造体2に保持された触媒物質の含有量を増大することができ、触媒物質の触媒活性を更に促進することができる。
【0084】
この場合、担体10に内在する触媒物質20の含有量は、担体10の外表面10aに保持された他の触媒物質30の含有量よりも多いことが好ましい。これにより、担体10の内部に保持された触媒物質20による触媒能が支配的となり、触媒物質の触媒能が安定的に発揮される。
【0085】
実施形態の合成ガス製造装置は、上記の触媒構造体1もしくは触媒構造体2、または触媒構造体1の前駆体もしくは触媒構造体2の前駆体を備える。上記触媒構造体を備える合成ガス製造装置としては、ドライリフォーミングを利用する合成ガス製造装置、スチームリフォーミングを利用する合成ガス製造装置、部分酸化反応を利用する合成ガス製造装置、オートサーマルリフォーミングを利用する合成ガス製造装置が好適である。このような合成ガス製造装置は、高い耐シンタリング性による触媒活性および耐コーキング性に優れているため、長時間にわたって安定して合成ガスを製造できる。
【0086】
以上説明した実施形態によれば、高い触媒活性と耐コーキング性を両立した触媒構造体を提供することができる。そのため、触媒構造体は、長期間にわたって効率よく合成ガスを製造することができる。
【0087】
以上、実施形態について述べたが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術思想に基づいて各種の変形及び変更が可能である。
【実施例
【0088】
(実施例1~22)
[前駆体材料(A)の合成]
シリカ剤(テトラエトキシシラン(TEOS)、和光純薬工業株式会社製)と、鋳型剤としての界面活性剤とを混合した混合水溶液を作製し、適宜pH調整を行い、密閉容器内で、80℃以上350℃以下、100時間、水熱処理を行った。その後、生成した沈殿物をろ別し、水及びエタノールで洗浄し、さらに600℃、24時間、空気中で焼成して、表1に示す種類及び孔径の前駆体材料(A)を得た。なお、界面活性剤は、前駆体材料(A)の種類に応じて(「前駆体材料(A)の種類:界面活性剤」)以下のものを用いた。
・MCM-41:ヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロミド(CTAB)(和光純薬工業株式会社製)
・SBA-1:Pluronic P123(BASF社製)
【0089】
[前駆体材料(B)及び(C)の作製]
次に、硝酸ニッケル(II)六水和物(和光純薬工業株式会社製)を水に溶解させて、Ni含有水溶液を調製した。
【0090】
次に、粉末状の前駆体材料(A)に、Ni含有水溶液を複数回に分けて少量ずつ添加し、室温(20℃±10℃)で12時間以上乾燥させて、前駆体材料(B)を得た。
【0091】
なお、Ni含有水溶液を添加する前の前駆体材料(A)に対して、添加剤としてのポリオキシエチレン(15)オレイルエーテル(NIKKOL BO-15V、日光ケミカルズ株式会社製)の水溶液を添加する前処理を行い、その後、上記のようにNi含有水溶液を添加した。
【0092】
また、前駆体材料(A)に添加するNi含有水溶液の添加量は、該Ni含有水溶液中に含まれるNi元素(M)に対する、前駆体材料(A)を構成するケイ素(Si)の比(原子数比Si/M)に換算したときの数値が、100になるように調整した。
【0093】
次に、上記のようにして得られたNi含有水溶液を含浸させた前駆体材料(B)を、600℃、24時間、空気中で焼成して、前駆体材料(C)を得た。
【0094】
上記のようにして得られた前駆体材料(C)と、構造規定剤テトラプロピルアンモニウムブロミド(TPABr)とを混合して混合溶液を作製し、密閉容器内で、表1に示すpH、時間及び時間の条件で、水熱処理を行った。その後、生成した沈殿物をろ別し、水洗し、100℃で12時間以上乾燥させ、さらに600℃、24時間、空気中で焼成した。実施例1~22では、焼成処理の後、焼成物を回収し、水素ガスの流入下で、700℃、90分間、還元処理を施すことにより、表2に示す担体と金属微粒子(Ni微粒子)とを有する触媒構造体を得た。なお、表1に示すpHは、生成した沈殿物をろ別するときに測定した。
【0095】
(比較例1)
比較例1では硝酸ニッケル水溶液をアルミナ(Wako製)に含浸させ、800℃/2h(Air雰囲気)で焼成させることで、1質量%のNi微粒子を、Alからなる担体の外表面に担持した、1質量%Ni/Alの触媒構造体を得た。
【0096】
(比較例2)
比較例2では、66質量%のNi微粒子を、Al-SiOからなる担体の外表面に担持した、市販の66質量%Ni/Al-SiO(Alfa Aesar製)の触媒構造体を用いた。
【0097】
(比較例3)
比較例3では、表1に示す原料および条件によって、表2に示す触媒構造体を得た。
【0098】
[評価]
実施例1~22および比較例1~2の触媒構造体について、以下に示す条件で、各種特性評価を行った。
【0099】
[A]断面観察
実施例1~22および比較例1~3の触媒構造体について、粉砕法にて観察試料を作製し、透過電子顕微鏡(TEM)(TITAN G2、FEI社製)を用いて、断面観察を行った。
その結果、上記実施例1~22の全ての触媒構造体および比較例3の触媒構造体では、シリカライトからなる担体の内部に触媒物質が内在し、保持されていることが確認された。一方、比較例1および2では、金属微粒子が担体の外表面に付着しているのみで、担体の内部には存在していないことも確認した。
【0100】
また、上記実施例1~22および比較例3の触媒構造体について、FIB(集束イオンビーム)加工により断面を切り出し、SEM(SU8020、日立ハイテクノロジーズ社製)、EDX(X-Max、堀場製作所製)を用いて断面元素分析を行った。その結果、担体内部からNi元素が検出された。
上記TEMとSEM/EDXによる断面観察の結果から、実施例1~22の全ての触媒構造体は担体内部にニッケル微粒子が存在していることが確認された。
【0101】
[B]担体の通路の平均内径及び触媒物質の平均粒径
上記評価[A]で行った断面観察により撮影したTEM画像にて、担体の通路を、任意に500個選択し、それぞれの長径及び短径を測定し、その平均値からそれぞれの内径を算出し(N=500)、さらに内径の平均値を求めて、担体の通路の平均内径Dとした。
【0102】
また、触媒物質の平均粒径及び分散状態を確認するため、SAXS(小角X線散乱)を用いて分析した。SAXSによる測定は、Spring-8のビームラインBL19B2を用いて行った。得られたSAXSデータは、Guinier近似法により球形モデルでフィッティングを行い、粒径を算出した。
この結果、平均粒径が1.44nm以上8.00nm以下の範囲内である金属微粒子(Ni微粒子)を有する各実施例の触媒構造体では、担体内部に、触媒物質の粒径が揃いかつ非常に高い分散状態で存在していることが分かった。
【0103】
[C]担体のサイズ評価
担体のサイズ評価は、SEM(SU8020、日立ハイテクノロジーズ社製)で評価した。任意に200個選択し、それぞれの長辺寸法L及び厚さ寸法dを測定し、さらに長辺寸法L/厚さ寸法dの比(L/d比)の平均値(N=200)を求めた。
【0104】
例えば、実施例3(長辺寸法2.29μm、厚さ寸法0.37μm)、実施例4(長辺寸法3.76μm、厚さ寸法0.52μm)、実施例5(長辺寸法10.16μm、厚さ寸法0.98μm)、実施例6(長辺寸法11.97μm、厚さ寸法0.69μm)、実施例7(長辺寸法19.30μm、厚さ寸法0.58μm)、実施例9(長辺寸法16.54μm、厚さ寸法0.78μm)であった。
上記では、実施例3~7、9についての長辺寸法と厚さ寸法についてしか開示していないが、実施例3~7、9を含めた全ての実施例は、長辺寸法Lが1.00以上25.00μm以下であり、厚さ寸法dが0.05μm以上1.00μm以下であった。
一方、比較例3の触媒構造体では、厚さ寸法dに対する長辺寸法Lの比(L/d比)が1.0であった。
【0105】
[D]性能評価
実施例及び比較例の触媒構造体について、触媒物質がもつ触媒能を評価した。結果を表3に示す。
【0106】
(1)触媒活性
ドライリフォーミングにおける触媒活性を評価した。実施例1~22および比較例1~3の触媒構造体を、常圧流通式反応装置に50mg充填し、CO(5ml/分)、CH(5ml/分)、GHSV5600h-1で原料ガスを供給しながら、100℃で10分保持した後に20℃/分で900℃まで昇温させた後に10分間保持し、100℃以上の総加熱時間は60分とした。常圧流通式反応装置はシングルマイクロリアクター(フロンティアラボ社製、Rx-3050SR)を使用した。生成物の分析はガスクロマトグラフィー質量分析法(GC/MS)を用いて行った。
【0107】
ドライリフォーミングにおける触媒活性について、100℃から900℃までの昇温過程における温度700℃時のCH転化率を下記基準として判断した。
CH転化率が60%以上 :◎
CH転化率が40%以上60%未満:○
CH転化率が20%以上40%未満:△
CH転化率が20%未満 :×
【0108】
(2)耐コーキング性
上記(1)触媒活性で評価した触媒構造体について、CHN元素分析装置(機器名:CE-440、EXETER ANALYTICAL,INC.社製)により触媒上の炭素量(生成コーク量)を分析した。
耐コーキング性について、触媒構造体全量の質量に対するコーク量を、下記を基準として判断した。
コーク量が0.3質量%未満 :◎
コーク量が0.3質量%以上1.0質量%未満:〇
コーク量が1.0質量%以上5.0質量%未満:△
コーク量が5.0質量%以上 :×
【0109】
触媒活性と耐コーキング性のいずれも優れた効果を示すことが求められているので、触媒の総合評価としていずれか低い評価をその触媒構造体の評価と判断した。
【0110】
【表1】
【0111】
【表2】
【0112】
【表3】
【0113】
表1~3から明らかなように、断面観察により担体の内部に触媒物質が保持されていることが確認された触媒構造体(実施例1~22)は、触媒物質が担体の外表面に付着しているだけの触媒構造体(比較例1~2)と比較して、ドライリフォーミング反応において優れた触媒活性と耐コーキング性を示す事を確認した。
また、長辺寸法Lと厚さ寸法dが等しい(L/d=1.0)比較例3の触媒構造体についても同様の性能評価測定を行ったところ、測定は非常に不安定であった。この理由は、比較例3の触媒構造体を常圧流通式反応装置の触媒層に充填した時に、触媒構造体の充填密度が上記実施例に比して高くなり、基質である原料ガスが触媒構造体の通路内部に入りにくくなったことなどが影響して測定が非常に不安定になったものと考えられる。
【0114】
(3)触媒活性および耐コーキング性の長期試験
実施例3~6、9、15~18および比較例1~2の触媒構造体を用いて長時間試験での触媒活性および耐コーキング性を評価した。これら実施例および比較例の触媒構造体を、常圧流通式反応装置に50mg充填し、CO(5ml/分)とCH(5ml/分)、GHSV5600h-1で原料ガスを供給しながら、100℃で10分保持した後に20℃/分で900℃まで昇温させ、100℃以上の総加熱時間が300分になるように保持した。但し、上記「(2)耐コーキング性」の評価でコーキング量の多かった比較例1~2は、前記総加熱時間を60分とした。常圧流通式反応装置はシングルマイクロリアクター(フロンティアラボ社製、Rx-3050SR)を使用した。生成物の分析は、ガスクロマトグラフィー(GC)、ガスクロマトグラフィー質量分析法(GC/MS)を用いて行った。なお、生成ガスの分析装置には、TRACE 1310GC(サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社製、検出器:熱伝導度検出器)を用いた。
【0115】
触媒活性のCH転化率は、上記「(1)触媒活性」と同じ基準で判定し、300分反応後の触媒上のコーク量は、上記「(2)耐コーキング性」で用いたCHN元素分析装置により分析した。結果を表4に示す。なお、表4には、表3に示した初期の触媒活性の結果も併記する。また、表4において、記号「※1」は、CHN元素分析装置で検出可能なコーク量の検出限界値が0.30質量%未満であるため、検出不可であったことを示す。記号「※2」は、触媒活性不良のため、長期試験評価不可であったことを示す。記号「※3」は、初期反応時(60分後)で既に20.64質量%の多量のコークが生成していたため、300分後の長期試験評価を断念したことを示す。
表4に示すように、1質量%Ni/Alの触媒構造体(比較例1)では、初期の触媒活性が不良であり、触媒活性が極めて低いレベルにおいてもコーク量は1.20質量%であった。市販の66質量%Ni/Al-SiOの触媒構造体(比較例2)では、初期の触媒活性は比較的高いものの、総加熱時間60分後には20質量%以上と多量のコークが触媒上に生成していることが分かった。
【0116】
これに対し、実施例3~6、9、15~18の触媒構造体はいずれも、300分反応させても良好な触媒活性を維持し、かつコーク量は分析機器の検出限界値を下回ったことから、非常に良好な触媒活性と耐コーキング性を示すことを確認した。また、特筆すべきは、触媒活性が極めて低い比較例1と比較しても、高活性の実施例3~6、9、15~18における生成コーク量が、検出限界値未満と低く抑制されていたことである。
【0117】
【表4】
【0118】
なお、上記実施例とは直接的に比較ができないため、参考例とするが、クアン・ル・マン・ハ(Quan Luu Manh Ha)等はCH/CO/Heの混合ガス(45体積%/45体積%/10体積%)を供給しながら、反応温度600℃で480分間ドライリフォーミング反応を実施し、この時に生成したコーク量が0.65質量%を示すNi系触媒を報告している(Catalysts 2017、7、157:doi:10.3390/catal7050157)。設備都合の関係上、クアン・ル・マン・ハ(Quan Luu Manh Ha)らと完全に反応条件を一致させることが出来ないため一概に比較することは難しいが、先行技術の生成コーク量が0.65質量%なのに対し、本実施例は、反応温度が先行技術よりも100℃も高いものの、生成コーク量は検出限界値(0.30質量%)を下回る結果が得られた。一般にドライリフォーミング反応は、反応温度の上昇にしたがって触媒活性が高くなるものの、触媒活性向上に伴って生成コーク量も増大することが良く知れている。
【0119】
事実、Ni量が異なる比較例1~2を見ると、Ni量が多いと、触媒活性が「×」から「〇」に改善しているが、これによって生成コーク量が激増している(表4参照)。これに対し、本実施例は、クアン・ル・マン・ハ(Quan Luu Manh Ha)等の触媒よりもコーキングが起こりやすい反応条件にも関わらず、生成コーク量を抑制することに成功した。このことからも本実施例は、先行技術と比べて、高い活性と優れた耐コーキング性の双方を有する触媒構造体であることがわかる。
【符号の説明】
【0120】
1、2 触媒構造体
10 担体
10a 外表面
11 通路
11a 孔
12 拡径部
20 触媒物質
30 触媒物質
図1
図2
図3
図4
図5