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特許7575285抗ウィルス性を有するリン酸塩系化合物がスキン層の表面に表出した発泡性に優れたポリオレフィン系押出樹脂発泡体及び前記ポリオレフィン系押出樹脂発泡体を用いた積層体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-21
(45)【発行日】2024-10-29
(54)【発明の名称】抗ウィルス性を有するリン酸塩系化合物がスキン層の表面に表出した発泡性に優れたポリオレフィン系押出樹脂発泡体及び前記ポリオレフィン系押出樹脂発泡体を用いた積層体
(51)【国際特許分類】
   C08J 9/04 20060101AFI20241022BHJP
   C08J 9/06 20060101ALI20241022BHJP
   B32B 5/18 20060101ALI20241022BHJP
   B32B 27/32 20060101ALI20241022BHJP
   B32B 27/18 20060101ALI20241022BHJP
   C08L 23/00 20060101ALI20241022BHJP
   C08K 3/02 20060101ALI20241022BHJP
   C08K 3/32 20060101ALI20241022BHJP
   C08K 3/015 20180101ALI20241022BHJP
【FI】
C08J9/04 103
C08J9/06 CES
B32B5/18
B32B27/32
B32B27/18 Z
C08L23/00
C08K3/02
C08K3/32
C08K3/015
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021016769
(22)【出願日】2021-02-04
(65)【公開番号】P2022119552
(43)【公開日】2022-08-17
【審査請求日】2023-12-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002631
【氏名又は名称】弁理士法人クオリオ
(74)【代理人】
【識別番号】100076439
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 敏三
(74)【代理人】
【識別番号】100161469
【弁理士】
【氏名又は名称】赤羽 修一
(72)【発明者】
【氏名】小澤 英史
(72)【発明者】
【氏名】松田 優
(72)【発明者】
【氏名】大来 裕
(72)【発明者】
【氏名】廣石 治郎
(72)【発明者】
【氏名】宮▲崎▼ 智基
(72)【発明者】
【氏名】岩本 冬馬
【審査官】川井 美佳
(56)【参考文献】
【文献】特開平7-173318(JP,A)
【文献】特開平11-56653(JP,A)
【文献】特開平10-182844(JP,A)
【文献】国際公開第2017/150063(WO,A1)
【文献】特開平11-293025(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 44/00-44/60
B29C 67/20
C08J 9/00-9/42
B32B 5/18
B32B 27/32
B32B 27/18
C08L 23/00
C08K 3/02
C08K 3/32
C08K 3/015
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗ウィルス剤として銀または銀化合物あるいは銀イオンを担持させたリン酸塩系の化合物を、ポリオレフィン樹脂100質量部に対して、0.8~5.0質量部の範囲で含むポリオレフィン系押出樹脂発泡体で、前記ポリオレフィン系押出樹脂発泡体の少なくとも一方の表面がスキン層であり、前記スキン層の表面に前記抗ウィルス剤が表出していることを特徴とする発泡性に優れたポリオレフィン系押出樹脂発泡体。
【請求項2】
前記ポリオレフィン系押出樹脂発泡体に含まれる、抗ウィルス剤としては、銀または銀化合物をイオン交換により担持させたリン酸ジルコニウム;銀または銀イオンをイオン交換で担持させたカルシウム・亜鉛を含むハイドロキシアパタイト組成からなるリン酸塩化合物のいずれかを少なくとも含むこと特徴とする、請求項1に記載のポリオレフィン系押出樹脂発泡体。
【請求項3】
前記ポリオレフィン系押出樹脂発泡体の基材樹脂は、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、超低密度ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-アクリル酸共重合体、エチレン-アクリル酸メチル共重合体、エチレン-アクリル酸エチル共重合体が挙げられるが、これらの少なくともいずれか、あるいはこれらの2種以上をブレンドした混合物のいずれかからなることを特徴とする、請求項1または2に記載のポリオレフィン系押出樹脂発泡体。
【請求項4】
前記ポリオレフィン系押出樹脂発泡体は、前記抗ウィルス剤に加えて、界面活性剤が0.5~2.0質量部含まれることを特徴とする、請求項1から3のいずれかに記載のポリオレフィン系押出樹脂発泡体。
【請求項5】
前記ポリオレフィン系押出樹脂発泡体は、前記抗ウィルス剤に加えて、酸化防止剤が0.05~1.0質量部含まれることを特徴とする、請求項1から4のいずれかに記載のポリオレフィン系押出樹脂発泡体。
【請求項6】
前記ポリオレフィン系押出樹脂発泡体の表面に、さらに別のポリオレフィン系押出樹脂発泡体を貼り付けて積層された積層体であって、前記積層体には少なくとも一つのスキン層が表出している積層体であることを特徴とする、請求項1から5のいずれかに記載の積層体。
【請求項7】
抗ウィルス剤として銀または銀化合物をイオン交換により担持させたリン酸ジルコニウム;銀または銀イオンをイオン交換で担持させたカルシウム・亜鉛を含むハイドロキシアパタイト組成からなるリン酸塩化合物の少なくともいずれかを、ポリオレフィン樹脂100質量部に対して、0.8~5.0質量部の範囲で含むポリオレフィン系押出樹脂発泡体で、前記ポリオレフィン系押出樹脂発泡体の少なくとも一方のスキン層が厚さ100μm以下であり、前記スキン層の表面に前記抗ウィルス剤が表出していることを特徴とする発泡性に優れたポリオレフィン系押出樹脂発泡体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発泡性と表面品質に優れた樹脂劣化のない抗ウィルス性を有するリン酸塩系化合物がスキン層の表面に表出したポリオレフィン系押出樹脂発泡体及び前記ポリオレフィン系押出樹脂発泡体を用いた積層体に関する。さらに、本発明は、高発泡倍率の場合だけでなく、低発泡倍率の押出樹脂発泡体の場合でも十分な抗ウィルス効果を有し、発泡性を阻害することがなく、樹脂の酸化劣化を防止することが可能なポリオレフィン系押出樹脂発泡体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ウィルスは、細菌類と異なり、細胞膜やリボゾームを持たず、エンベロープという蛋白質の膜とDNAまたはRNAのいずれかからなるが、エンベロープという膜あるいはカプシドという殻を有する粒子であるため、細菌類のように、自身でエネルギー代謝を行なって自己増殖することはできない。
【0003】
そのため、ウィルスは、動植物または細菌に寄生して増殖する。また、ウィルスは、エンベロープという膜を有する有膜ウィルスと膜がないウィルスに分類できるが、ウィルスに対する抗ウィルス剤の効果は、上記のような細菌類とウィルスの構造的な相違により、以下のように考えることができる。
【0004】
エンベロープを有する有膜ウィルスの場合にエンベロープが脂肪などから形成されている場合が多いので、有機系界面活性剤が有効である場合もあるが、膜を有しないウィルスの場合には、有機系界面活性剤は必ずしも有効でない場合もある。
【0005】
具体的な抗ウィルス性を有する有機系界面活性剤としては、直鎖アルキドベンゼンスルホン酸、アルキルグリコシド、アルキルアミンオキシド、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、塩化ジアルキルジメチルアンモニウム、ポリオキシアルキルエーテルなどの界面活性剤が考えられる。また、有機系界面活性剤などの有機系抗ウィルス剤は熱安定性に問題がある。
【0006】
一方、重金属の抗ウィルス剤の場合には、以下のメカニズムが考えられる。例えば、Ag、Cuなどの重金属の抗ウィルス剤としての阻害効果は、1)細胞とウィルスとの膜融合阻害が考えられ、重金属錯体及び重金属イオンがエンベロープに結合して細胞との膜融合を阻害することで宿主との結合を阻害すること、2)複製系酵素阻害、すなわち、重金属錯体及び重金属イオンが複製系酵素を阻害することが考えられる。
【0007】
さらにAgイオンやCuイオンは、通常の三重項酸素より、エネルギーが高い一重項酸素を発生させること、いわゆる活性酸素を発生させ、ここで発生した一重項酸素が水と反応し、ヒドロキシラジカル(・OH)を発生させ、これが抗ウィルス効果を発生させることも考えられている。
【0008】
抗菌剤と抗ウィルス剤は関連性が高いため、参考のために、抗菌剤の場合の阻害効果について非特許文献1により、まとめると、非特許文献1には、抗菌剤の場合の作用機構は、細胞壁合成阻害、細胞壁合成阻害、遺伝物質の翻訳と転写の阻害に伴う蛋白質の合成阻害、核酸の合成阻害などが考えられることが記載されている。
【0009】
具体的には、非特許文献1には、第1に細胞壁の合成阻害は、細胞壁は細胞の形態保持、内部浸透圧を保持する役割を有するが、細胞壁の合成が阻害されると、細胞が崩壊すること、第2に、細胞膜の機能障害の誘発があるが、細胞膜は、選択的透過性を有し、細胞内部の成分の輸送機能を発揮し細胞内部の成分調整をしているが、細胞膜の機能が阻害されると、細胞内部の高分子やイオンが漏れ出し、細胞障害や細胞の死滅が起こることなどが記載されている。
【0010】
次いで、非特許文献1には、第3には、遺伝物質の翻訳と転写の阻害に伴う蛋白質の合成阻害があるが、細菌のリボゾームに抗菌剤が付着すると、翻訳、転写機能を持たない蛋白質が合成されたり、リボゾームが破壊されて蛋白質が合成できなくなり、細胞が発育できなくなること、第4には、核酸の合成阻害があるが、核酸の合成阻害は、抗菌剤がDNAと結合して複合体を作ると、mRNAの形成の阻害を遮断し、細菌の発育を阻止することなどが記載されている。
【0011】
ここで前記のようにウィルスは、脂質を含むエンベロープと呼ばれている膜で包まれているウィルスと、エンベロープを持たないウィルスに分類できる。ここで、有膜ウィルスの場合は、エンベロープはその大部分が脂質からなるため、エタノール、有機溶媒、石けんなど有機系の抗ウィルス剤で処理すると容易に破壊することができる。
【0012】
このため一般にエンベロープを持つ有膜ウィルスは不活化が容易であるのに対し、エンベロープをもたないカプシドウィルスは上記処理剤への抵抗性が強いと言われており、有機系の抗ウィルス剤とは異なる別の抗ウィルス剤が必要であるとされている。
【0013】
本発明においては、有機系の抗ウィルス剤を使用することは可能であるが、主として金属イオンを用いた無機系の抗ウィルス剤を使用した、抗ウィルス性を有するスキン層が表出したポリオレフィン系押出樹脂発泡体及び前記ポリオレフィン系押出樹脂発泡体の積層体を中心に検討を行う。
【0014】
特許文献1には、平均粒径0.1~2.0μmである無機系抗菌剤が含有されている発泡性樹脂粒子に関する発明が開示されている。また、特許文献1には、この抗菌性発泡微粒子を予備発泡し、その後2次発泡成形した抗菌性合成樹脂発泡成形体が記載されている。
【0015】
さらに、特許文献1の成形体は、スキン層と発泡層の内部の2次加工後のスライス面であっても同様の抗菌性を有する。この発泡性微粒子は、発泡性微粒子100質量部に対して、0.01から5.0質量部の金属イオン系抗菌剤と合わせて硬化油0.01~2.0重量部を含み、金属イオンがリン酸ジルコニウムに担持され、さらに脂肪酸エステルを含むことが望ましいことが記載されている。
【0016】
特許文献2には、発泡シートの少なくとも一方の面に、パルミチルジエタノールアミン、ステアリルジエタノールアミン、グリセリンモノラウレート、グリセリンモノカプレートのいずれか1以上からなる有機系特定化合物が0.002~0.05(g/m)の割合で含有されるフィルムが積層された抗菌熱可塑性樹脂発泡シートが開示されている。
【0017】
また、特許文献2で積層される発泡シートに積層されるフィルムは、発泡後に積層されるもので、発泡シートは発泡倍率が2倍で、発泡体の厚さは1mmで、積層フィルムの厚さは30-40μm程度の薄肉材であり、二軸延伸多層フィルムである。
【0018】
特許文献3は、抗ウィルス剤、樹脂組成物及び抗ウィルス製品に関するもので、酸点濃度が0.005mol/gを超える無機固体酸を含み、前記無機固体酸は、無機リン酸化合物、無機ケイ酸化合物又は無機酸化物に加えて、銀、銅、及びそれらの化合物のいずれか一つを含む抗ウィルス剤及びこの抗ウィルス剤を含む樹脂組成物が記載されている。さらに、特許文献3には、前記無機固体酸における酸点の酸強度(pKa)は、3.3以下好ましいことが記載されている。
【0019】
さらに、特許文献3では、抗ウィルス剤を、衣類、寝具、マスク等の繊維製品、空気清浄機やエアコン等に用いられるフィルター、カーテン、カーペット、家具等のインテリア製品、自動車内装材等に噴霧加工、塗装加工、あるいは壁紙、フローリング材等の建築材料の表面層に展着加工することで、ウィルス活性を低減する効果が付与される。
【0020】
特許文献4には、基材表面に抗微生物成分を含むバインダ硬化物が固着形成されたバインダ硬化物を含む基材表面のJISZ8741に準拠した光沢度が、45%以上、100%未満であることを特徴とする抗微生物部材が記載されている。
【0021】
また、特許文献4には、無機系抗微生物剤は、銀、銅、亜鉛、白金、亜鉛化合物、銀化合物、銅化合物、金属もしくは金属酸化物が担持された金属酸化物触媒、金属イオンでイオン交換されたゼオライト、及び、銅の錯体等が記載されている。
【0022】
特許文献4には、有機系抗微生物剤は、抗微生物樹脂、スルホン酸系界面活性剤、銅のアルコキシド、及び、ビス型第四級アンモニウム塩からなる群から選択される少なくとも1種である抗微生物部材が記載され、特許文献4には、バインダ硬化物は、有機バインダ、無機バインダ、及び、有機・無機ハイブリッドバインダからなるバインダ硬化物を含むことが記載されている。
【0023】
特許文献5には、樹脂等に含有させても組成物の経時的変色を起こしにくい抗菌性ゼオライト及び該抗菌性ゼオライトを含有する抗菌性ゼオライトを提供することが記載され、さらに、ゼオライト中のイオン交換可能なイオンの一部又は全部を水素イオン及び銀イオンで置換した抗菌性ゼオライト、該抗菌性ゼオライトを0.05~80質量%含有する抗菌性樹脂組成物が記載されている。
【0024】
また、特許文献5では、ゼオライトのイオン交換可能な金属イオンを銀、銅、亜鉛等の抗菌性金属イオンで置換した抗菌性ゼオライト及びこれを含む抗菌性組成物が、抗菌性ゼオライトの持つ経時的変色という問題点を解消するものとしてゼオライトに銀イオンとアンモニニウムイオンを含むことが記載されている。
【0025】
特許文献6には、付着したウィルスを不活化できるシートであって、シート本体と、前記シート本体にて保持される、一価の銅化合物微粒子および/またはヨウ化物微粒子と、を備えることを特徴とするウィルス不活化シートが開示されている。
【0026】
特許文献6には、一価の銅化合物微粒子が、塩化物、酢酸物、硫化物、ヨウ化物、臭化物、過酸化物、酸化物、およびチオシアン化物からなる群から少なくとも1種選択されるウィルス不活化シートであることが記載され、さらにヨウ化物微粒子が、多数のヨウ化物粒子を含むウィルス不活化シートが記載されている。
【0027】
特許文献6の不活性化シートは、前記一価の銅化合物微粒子および/またはヨウ化物微粒子が、シランモノマーおよび/またはシランモノマーの重合体との化学結合によってシート本体に固定される他の無機微粒子の群を介して、前記シート本体に保持されることが記載されている。
【0028】
樹脂発泡体に抗ウィルス性を付与するため、抗ウィルス剤を練り込んだが、発泡体表面には、スキン層という非発泡層が存在するため、抗ウィルス剤粒子が発泡剤の表面の非発泡層中に存在するため、露出しにくく抗ウィルス効果を十分得ることができない。
【0029】
さらに、特許文献1の場合には、発泡性樹脂粒子を原料として、これに抗菌剤を塗付固定するためのバインダが必要な発明で、さらに、この抗菌性発泡微粒子を予備発泡し、その後2次発泡成形した抗菌性合成樹脂発泡成形体を製品とするので、特許文献1の成形体は、抗菌性発泡微粒子を原料とした2次成形体であり、スキン層が存在しない。そのため、本願発明のような基材樹脂に直接抗ウィルス剤を練り込みスキン層を有する連続成形した押出発泡体ではない。発泡体のスキン層の表面に表出した抗ウィルス剤を対象とする本願とは異なる技術思想に基づくものである。
【0030】
特許文献2には、フィルムが積層された抗菌熱可塑性樹脂発泡シートが開示されているが、発泡体そのものに抗菌特性や抗ウィルス特性を付与したものではない。特許文献3の抗ウィルス剤、樹脂組成物及び抗ウィルス製品は樹脂発泡体のスキン層の表面に抗ウィルス活性を持たせるものではない。
【0031】
特許文献4には、抗ウィルス剤として有機系抗ウィルス剤、無機系抗ウィルス剤、ハイブリッド抗ウィルス剤やイオン交換ゼオライトが開示されているが、これらも樹脂発泡体のスキン層に抗ウィルス性を付与するものではない。特許文献5の銀、銅、亜鉛等の抗菌性金属イオンを含む抗菌性ゼオライトを含む組成物が開示され、特許文献6には、一価の銅化合物粒子またはヨウ化粒子を含むウィルス不活性化シートが記載されているが、いずれも樹脂発泡体のスキン層の表面に抗ウィルス性を付与するものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0032】
【文献】特開平11-335481号公報
【文献】特開2015-48391号公報
【文献】国際公開2017/150063号
【文献】特開2020-083779号公報
【文献】国際公開2007/037195号
【文献】国際公開2011/040048号
【非特許文献】
【0033】
【文献】岩澤康裕著、「界面ハンドブック」エヌテーエス出版、2001年9月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0034】
以上のように、これまでの押出発泡で製造される重金属を抗ウィルス剤に含むシート状ポリオレフィン系押出樹脂発泡体は、抗ウィルス効果と発泡性の両方に優れ、樹脂の劣化のないものが存在しなかった。本発明は、このような事実に鑑みてなされたもので、発泡性と表面品質に優れた樹脂劣化への影響が少ない抗ウィルス性を有するリン酸塩系化合物がスキン層の表面に表出したポリオレフィン系押出樹脂発泡体及び前記ポリオレフィン系押出樹脂発泡体を用いた積層体を提供することを目的とする。本発明においては、発泡性に優れたとは、発泡阻害がなく所望の発泡倍率が得られることと、得られた発泡製品の表面性状に優れることの両者を意味する。具体的な特性としては、両者を分けて規定する。
【0035】
また、本発明においては、本発明の抗ウィルス剤の他、必要に応じて、界面活性剤、酸化防止剤などを所定量含有させることができるが、界面活性剤を用いる場合でも添加量を少なくして、さらに極力酸化防止剤を用いないか、用いる場合でも微量とすることを目的とする。
【0036】
本発明のポリオレフィン系押出樹脂発泡体のスキン層には、さらに製品用途に応じて押出樹脂発泡体の厚さを調整できるように、別のポリオレフィン系押出樹脂発泡体を貼り付けて積層された積層体とすることもできる。また、本発明は抗ウィルス剤のスキン層における表出効果を利用するため、発泡倍率10倍以下の低発泡倍率の場合はもとより、発泡倍率10倍を超えて発泡倍率20~40倍の高発泡倍率の押出樹脂発泡体にも好適に使用することができ、発泡倍率が高い方が抗ウィルス効果は向上する傾向がある。
【課題を解決するための手段】
【0037】
本発明のポリオレフィン系押出樹脂発泡体は、抗ウィルス剤として、銀または銀化合物あるいは銀イオンを担持させたリン酸塩系の化合物を、ポリオレフィン樹脂100質量部に対して、0.8~5.0質量部の範囲で含むポリオレフィン系押出樹脂発泡体で、前記ポリオレフィン系押出樹脂発泡体の少なくとも一方の表面がスキン層であり、前記スキン層の表面に前記抗ウィルス剤が表出していることを特徴とする発泡性に優れたポリオレフィン系押出樹脂発泡体である。抗ウィルス剤の含有量は、ポリオレフィン系押出樹脂100質量部に対して合計で1.0~4.0質量部が望ましい。本発明の樹脂発泡体は、発泡性と表面品質に優れた樹脂劣化への影響が少ないポリオレフィン系押出樹脂発泡体である。
【0038】
前記ポリオレフィン系押出樹脂発泡体に含まれる、リン酸塩系の抗ウィルス剤としては、銀または銀化合物をイオン交換により担持させたリン酸ジルコニウム、銀または銀イオンをイオン交換で担持させたカルシウム・亜鉛を含むハイドロキシアパタイト組成からなるリン酸塩化合物のいずれかを少なくとも含むことが望ましい。
【0039】
前記ポリオレフィン系押出樹脂発泡体の基材樹脂は、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、超低密度ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-アクリル酸共重合体、エチレン-アクリル酸メチル共重合体、エチレン-アクリル酸エチル共重合体が挙げられるが、これらの少なくともいずれか、あるいはこれらの2種以上をブレンドした混合物のいずれかからなることを特徴とするポリオレフィン系押出樹脂発泡体とすることもできる。
【0040】
前記ポリオレフィン系押出樹脂発泡体は、前記抗ウィルス剤に加えて、界面活性剤が0.5~2.0質量部含まれていてもよい。このように、ポリオレフィン系押出樹脂発泡体に界面活性剤を加えることで、抗ウィルス剤の分散性が向上することで、抗ウィルス性の指標である活性値が向上するため界面活性剤を加えてもよいが、抗ウィルス剤のみの組成としても少なくとも十分な抗ウィルス性が得られることから、界面活性剤を加えなくてもよい。界面活性剤の望ましい範囲は、0.8~2.0質量部である。
【0041】
前記ポリオレフィン系押出樹脂発泡体は、酸化防止剤を用いない方が望ましいが、前記抗ウィルス剤に加えて、酸化防止剤が0.05~1.0質量部含まれていてもよい。酸化防止剤の含有量は、発泡阻害などの影響を考慮すると、0.1~0.8質量部が望ましい。
【0042】
前記ポリオレフィン系押出樹脂発泡体の表面に、さらに別のポリオレフィン系押出樹脂発泡体を貼り付けて積層された積層体であって、前記積層体には少なくとも一つのスキン層が表出している積層体であることが望ましい。
【0043】
前記ポリオレフィン系押出樹脂発泡体は、抗ウィルス剤として銀または銀化合物をイオン交換により担持させたリン酸ジルコニウム;銀または銀イオンをイオン交換で担持させたカルシウム・亜鉛を含むハイドロキシアパタイト組成からなるリン酸塩化合物の少なくともいずれかを、ポリオレフィン樹脂100質量部に対して、0.8~5.0質量部の範囲で含むポリオレフィン系押出樹脂発泡体で、前記ポリオレフィン系押出樹脂発泡体の少なくとも一方のスキン層が厚さ100μm以下であり、前記スキン層の表面に前記抗ウィルス剤が表出している発泡性に優れた押出樹脂発泡体であることがのぞましい。
【0044】
なお、この発明においては、ポリオレフィン系押出樹脂発泡体のスキン層に抗ウィルス剤を表出させることが目的であることから、本発明に用いる抗ウィルス剤は、無機系抗ウィルス剤を中心として構成するが、使用する抗ウィルス剤は、有機系を含む、有機系・無機系の両者を含むハイブリッドした抗ウィルス剤であってもよい。
【0045】
(ポリオレフィン系押出樹脂発泡体の基材樹脂)
本発明におけるポリオレフィン系押出樹脂発泡体の基材樹脂としては、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、超低密度ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-アクリル酸共重合体、エチレン-アクリル酸メチル共重合体、エチレン-アクリル酸エチル共重合体が挙げられるが、これらを単独あるいは2種以上をブレンドした混合物として用いることもできる。
【0046】
(抗ウィルス剤)
本発明における抗ウィルス剤としては、無機系抗ウィルス剤、有機系抗ウィルス剤があげられる。熱安定性から無機系抗ウィルス剤が好ましい。無機系の抗ウィルス剤は、ポリオレフィン系押出樹脂発泡体を得る際の、混練や成形時の高温にさらされても分解することなく、十分に抗ウィルス性を発泡体に付与することが可能となる。本発明の抗ウィルス剤は、樹脂の発泡性を阻害せずに樹脂劣化の促進をおさえる点から、銅系を含まない銀系の無機系抗ウィルス剤として、銀を含むリン酸塩系の抗ウィルス剤を用いる。重金属、特に銅は、ポリオレフィン樹脂の熱劣化を促進する作用があるからである。
【0047】
特にリン酸塩系の抗ウィルス剤として、銀または銀化合物をイオン交換により担持させたリン酸ジルコニウム、または銀または銀イオンを担持させたカルシウム・亜鉛を含むハイドロキシアパタイト組成からなるリン酸塩化合物のいずれかの金属系の抗ウィルス剤をリン酸塩系の化合物に担持した抗ウィルス剤を用いる。
【0048】
抗ウィルス剤の含有量が少なすぎると抗ウィルス性の発現が弱くなり、多すぎると、発泡時の気泡の生成が不安定化する結果として、高発泡倍率の発泡体が得られにくくなったり、発泡体の端部にやけを生じやすくなったりする可能性がある。また、抗ウィルス剤の含有量が多くなると、抗ウィルス剤の凝集が生じやすくなったりするとともに、コストも上昇する。抗ウィルス剤の含有量は、ポリオレフィン系樹脂100質量部に対して、0.8~5.0質量部が好ましい。この範囲であると抗ウィルス性と良好な発泡体を得ることが両立しやすくなる。さらに好ましくは1.0~4.0質量部である。
【0049】
(銀または銀化合物イオン交換させたリン酸ジルコニウム)
銀、銅、亜鉛などを担持させた化合物を抗ウィルス剤として用いる担持体には、種々の無機固体酸をあげることができるが、特に代表的なものには、リン酸ジルコニウムを用いるもの、リン酸塩セラミックスを用いるもの、ガラスに担持させるもの、ケイ酸アルミン酸マグネシウムあるいは粘度系鉱物を用いるものなどが知られている。
【0050】
本発明では、銀または銀化合物担持させたリン酸ジルコニウムの含有量を、0.8~5.0質量部としたが、この理由は、含有量が5.0質量部でも所定の抗ウィルス効果が得られるからであり、5.0質量部以上になると、気泡の生成が不安定になると同時に分散性も低下し樹脂発泡体の製品コストが増加するためである。これらの特性のバランスを考えるとリン酸ジルコニウムの含有量の上限は望ましくは5.0質量部である。また、含有量が0.8質量部を下回ると抗ウィルス効果が認められるものの、抗ウィルス効果が弱いため、0.8質量部以上含有されることが望ましい。そのため、安定した抗ウィルス効果を得て、さらにコストバランスを考慮すると、リン酸ジルコニウムの含有量は、1.0~4.0質量部が望ましい。
【0051】
無機固体酸として、無機酸化物としてのリン酸ジルコニウムに加えて、銀、銅、及びそれらの化合物を少なくとも1つを含む材料が抗ウィルス剤として使用できる。具体的には、無機イオン交換体である六方晶リン酸ジルコニウムに銀イオンをイオン交換により担持させたものを用いることが可能である。
【0052】
ジルコニウムを中心とした酸素八面体とリンを中心とした酸素四面体が酸素共有で3次元的に連なり、その骨格のキャビティに銀イオンが存在する。ここで、例えば、銀を担持させたリン酸ジルコニウムは、先ず、所定濃度のリン酸水溶液に、所定濃度のオキシ塩化ジルコニウム水溶液を添加し、100℃で12時間熟成させ、その後、得られた沈殿物を水洗後乾燥し、リン酸ジルコニウムを回収する。
【0053】
次いで、このリン酸ジルコニウムの沈殿物を硝酸銀水溶液中にて、100℃で2時間攪拌した。その後、得られた沈殿物をろ過、水洗、乾燥及び解砕することで、白色の銀を所定量含有するα型リン酸ジルコニウム粉末を得ることができる。ここで、使用できる水溶液は、硝酸銀の他、硫酸銀、過塩素酸銀、酢酸銀、ジアンミン硝酸塩、ジアンミン硫酸塩等の水溶液を使用できる。
【0054】
本発明では、銀または銀化合物を担持させたリン酸ジルコニウム系の抗菌剤として、東亜合成のノバロンIV1000を使用した。ノバロンIV1000の平均粒径は、1から2μmで、リン酸ジルコニウムに担持されるAgの重量は、リン酸ジルコニウムの重量の約10重量%である。
【0055】
(銀または銀イオンを担持させたカルシウムと亜鉛を含むリン酸塩化合物)
同様に、抗ウィルス剤として、リン酸ジルコニウムの代わりに、カルシウムと亜鉛を複合したリン酸塩化合物に、銀または銀イオンを担持させた化合物を用いてもよい。この抗ウィルス剤の組成は、カルシウムと亜鉛を複合したリン酸塩化合物であり、下記の式(1)で表記されるハイドロキシアパタイト組成を有している。
(1)Ag-CaαZnβAlγ(PO4)δ(OH)
【0056】
Agを担持させたハイドロキシアパタイト組成を有するリン酸塩化合物は、下記のようにして製造される。先ず、水酸化カルシウム、酸化亜鉛、水酸化アルミニウム、リン酸を原料としてカルシウムと亜鉛を複合したリン酸塩化合物を合成する粗反応をさせる。次に硝酸銀を添加し、ボールミルを用いてメカノケミカル反応を行ない、リン酸塩化合物の有する酸点にて銀イオンを担持させた後、洗浄ろ過を行い、粉砕することで所定サイズの微粉末を得ることができる。
【0057】
この材料のAgの担持量は、リン酸塩化合物の重量の10重量%である。この材料の平均粒子径は1μm以下とすることが可能である。ここで、基材樹脂100質量部に対する抗ウィルス剤としてのカルシウムと亜鉛を複合したリン酸塩化合物の含有量は、0.8~5.0質量部であり、望ましくは1.0~4.0質量部である。これらの数値の規定理由は、リン酸ジルコニウムの場合と同様である。
【0058】
(界面活性剤)
本発明のポリオレフィン系押出樹脂発泡体は、基材樹脂に加えて、抗ウィルス剤とともに界面活性剤が含有されてもよい。本発明においては、界面活性剤は、0.5~2.0質量部含むことが許容される。界面活性剤の望ましい範囲は、0.8~2.0質量部である。
【0059】
ここで、界面活性剤が、樹脂に含有されることで、樹脂単体の場合よりも、疎水性樹脂の表面の状態に、親水性を付与することが可能となる。また、抗ウィルス剤の分散性をさせる効果も期待できる。
【0060】
ここで、界面活性剤を、基材樹脂に加える理由は、下記の通りである。本実施形態に係る基材である樹脂発泡体の表面は一般的に疎水性であり、また、ゲノムの種類や、エンベロープの有無等に係ることなく、疎水性のままであると、ウィルス表面に抗ウィルス剤が接触して付着しにくいので、抗ウィルス・抗菌層を構成する樹脂発泡体の表面性状を疎水性から親水性に変えることでウィルスが抗ウィルス層に吸着しやすくなる。なお、使用する界面活性剤は、アニオン系、カチオン系、ノニオン系のいずれでもよい。本発明では、アニオン系の界面活性剤として、ステアリン酸カルシウムを、ノニオン系界面活性剤としては、リケンビタミンのグリセリン脂肪酸エステル系のリケマールS-100等を用いることができる。また、カチオン系の界面活性剤としてライオン株式会社製レオミックスHTフレークなども使用した。
【0061】
(架橋剤)
架橋剤は、発泡時における樹脂の溶融状態における粘度を調整して安定した発泡状態を
得るために使用するが、架橋剤として使用する有機過酸化物としては、たとえば、ジクミルパーオキサイド、2,5-ジメチル-2,5-ジ-(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5-ジメチル-2,5-ジ-(t-ブチルパーオキシ)ヘキシン-3、α,α’-ビス(t-ブチルパーオキシジイソプロピル)ベンゼン、t-ブチルパーオキシクメン、4,4’-ジ(t-ブチルパーオキシ)バレリック酸n-ブチルエステル、1,1-ジ(t-ブチルパーオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、1,1-ジ(t-ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、ジ-t-ブチルパーオキサイドなどが挙げられる。
【0062】
有機過酸化物の配合量が少ないと、気泡膜強度が小さくなって発泡時に独立気泡化しにくくなり、有機過酸化物の配合量が多いと、気泡膜の成長が阻害されて低倍率の発泡体しか得られなくなる。本発明においては、架橋剤として、有機過酸化物を使用するが、発泡剤としての有機過酸化物の配合量は、ポリオレフィン系樹脂100質量部に対して、架橋剤の配合含有割合は、通常、0.3~2.0質量部、さらに0.5~1.5質量部とすることが好ましいが発泡剤の含有量との関係が深いため、架橋剤の配合量は発泡剤の含有量を考慮して決定すればよい。架橋剤としては、例えば、ジクミルパーオキサイドが好適に用いることができる。
【0063】
(発泡剤)
本発明では、発泡剤には、無機系の発泡剤もあるが、加熱すると分解してガスを発生するタイプの有機系熱分解発泡剤を用いることが望ましい。
【0064】
このような発泡剤としては、例えば、アゾジカルボンアミド(ADCA)、オキシビスベンゼンスルホニルヒドラジド(OBSH)、N,N’-ジニトロソペンタメチレンテトラミン(DPT)、p-トルエンスルホニルヒドラジド、ベンゼンスルホニルヒドラジド、ジアゾアミノベンゼン、N,N’-ジメチル-N,N’-ジニトロテレフタルアミド、アゾビスイソブチロニトリルなどを用いることができる。これらは単独でまたは2種以上混合して用いることができる。
【0065】
特に、アゾジカルボンイミド、N,N’-ジニトロソペンタメチレンテトラミン、オキシビスベンゼンスルホニルヒドラジドからなる群より選ばれる少なくとも1種を所定量用いると、高倍率の発泡体を容易に得ることができる。発泡剤の配合量はポリオレフィン系樹脂100質量部に対して、5~40質量部の範囲とすることが好ましいが、樹脂材質や発泡倍率を考慮して、発泡剤の添加量を決めればよいが、発泡剤の添加量は、10質量部から40質量部の範囲がさらに好ましい。特に、発泡剤としては、アゾジカルボンアミド(ADCA)が特に好適に用いられる。
【0066】
(酸化防止剤、安定剤、耐候剤)
本発明のポリオレフィン系押出樹脂発泡体は、酸化防止剤は、樹脂発泡体の発泡を阻害する面があるため、酸化防止剤を用いないか、用いる場合でも少量にすることが望ましいが、必要に応じて酸化防止剤や光安定剤、耐候剤等を少量含んでもよい。特に、配合する抗ウィルス剤が金属系化合物を含む抗ウィルス剤である場合は、母材である押出発泡体樹脂の酸化劣化や発泡阻害の可能性があるため、酸化劣化や発泡阻害の起こりにくい抗ウィルス剤を使用することが望ましい。本発明の押出樹脂発泡体は、酸化劣化や発泡阻害などを引き起こしにくい抗ウィルス剤を含む押出樹脂発泡体であり、必ずしも酸化防止剤を使用する必要はないが、微量であれば使用してもよい。
【0067】
酸化防止剤を配合すると、発泡体を構成する基材樹脂の酸化劣化を防止することができる。酸化防止剤には、フェノール系酸化防止剤、ホスファイト系酸化防止剤、フェノール系酸化防止剤とホスファイト系酸化防止剤をブレンドしたブレンド系酸化防止剤と、チオエーテル系酸化防止剤などがある。
【0068】
上記の要求を満足する酸化防止剤としては、例えば、ヒンダードフェノール系酸化防止剤、ヒンダードアミン系化合物等があげられる。以上の酸化防止剤は、酸化防止剤としての効果の他、安定剤、又は耐候剤としての効果を有する。例えば、本発明では、具体的には、テトラキス[メチレン-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタンとしては、BASF社製のIrganox1010を使用する。
【0069】
酸化防止剤の好ましい含有量は、ポリオレフィン系樹脂100質量部に対して、0.05~1.0質量部が好ましい。酸化防止剤の含有量が多いと基材樹脂の架橋が阻害され、粘度が低下するため、気泡径が大きくなり、ひいてはガス抜けが生じて発泡倍率が低下することがある。そのため、酸化防止剤は1.0質量部を超えて添加しないことが望ましい。
【0070】
次に酸化防止剤の発泡プロセスへの影響についてみる。発泡過程では、過酸化物による架橋反応と、発泡剤の分解に依るガス発生とのバランスが重要で、その過程において、酸化防止剤が影響する。架橋反応は、過酸化物が熱により分解し、ラジカルを発生し、ポリエチレン分子鎖をアタックし、水素分子を引き抜くことで開始する。これに対して、酸化防止剤は、樹脂の劣化を抑制するために配合するものである。樹脂の劣化も、樹脂と酸素が絡むラジカル連鎖反応に起因するものであり、酸化防止剤がこのラジカルをトラップし、不活性化することで劣化を防止する。
【0071】
従って、酸化防止剤が樹脂の中に大量に入っていると、架橋反応を起こすために発生させた過酸化物由来のラジカルが、酸化防止剤によって不活性化してしまう。そのため、狙い通りの架橋反応が阻害されてしまう。その結果、正常な発泡プロセスを実現するために必要な架橋度、つまり架橋によるポリエチレン樹脂の粘度を調整する効果が阻害され、適切な樹脂粘度が得られない状態で発泡プロセスが進行することになり、所望の発泡倍率の安定した発泡体が得られないという問題が生じることになる。
【0072】
そのため、酸化防止剤を添加する場合は、架橋を阻害しない範囲の含有量としては、上限は0.8質量部以下が好ましい。また酸化防止剤は少量の含有で効果を示すことから、0.05質量部以上含有されていればよいが、これを下回ると酸化防止剤の効果が不足するため、酸化防止剤は、少なくとも0.05質量部以上の含有が必要になるが、酸化防止剤の種類と、ポリオレフィン発泡体の用途により上記の範囲内で、適宜調整されるのが好ましい。酸化防止剤は、金属不活性能を有する酸化防止剤であってもよい。
【0073】
(難燃剤等その他の添加剤の樹脂発泡体への添加)
本発明における樹脂発泡体は、さらに、目的に応じて、難燃剤、滑剤、顔料、染料、可塑剤、充てん剤、金属不活性化剤、帯電防止剤等のその他の添加剤を、発泡性を阻害しない範囲で含んでもよい。例えば、樹脂発泡体に難燃剤を加えることで難燃性を付与することができるし、無機系顔料などを加えることで、意匠性やデザイン性を付与することができる。これらの添加剤には、公知の市販の添加剤を使用することができる。
【0074】
難燃剤としては、金属水酸化物、リン系難燃剤安定剤、ハロゲン系難燃剤等があげられる。難燃性向上のためにエチレン酢酸ビニル共重合体、エチルアクリレート共重合体等のエチレン系共重合体等の樹脂を含んでもよい。金属水酸化物、リン系難燃剤安定剤、ハロゲン系難燃剤としては、詳述は省くが、公知の難燃剤を組み合わせて適宜使用することができる。
【0075】
また、本発明のポリオレフィン系押出樹脂発泡体は、加工性向上のため、オイル成分や各種の添加剤を含むことができる。パラフィン、変性ポリエチレンワックス、ステアリン酸塩、ヒドロキシステアリン酸塩、フッ化ビニリデン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体等のフッ化ビニリデン系共重合体、有機変性シロキサン等があげられる。本発明のポリオレフィン系押出樹脂発泡体は、各種の顔料、染料やカーボンブラックを含有することができる。さらに、酸化チタンを含有してもよい。酸化チタンは、抗ウィルス性の向上と耐候性の向上に寄与する。なお、難燃剤等その他の添加剤の樹脂発泡体への添加量は、抗ウィルス性や発泡性に影響を及ぼさない限り特に制約は設けないが、発泡体のその他の機械的特性などへの影響を考慮すると、添加する目的が達成される限り、添加量は極力少ない方が望ましい。
【0076】
(抗ウィルス剤を含有する樹脂発泡体の製造方法)
本発明の樹脂発泡体は、ポリオレフィン樹脂に、発泡剤、架橋剤を加えて、所定の条件で、押出して発泡させることで高発泡倍率の独立気泡を有する樹脂発泡体を得ることができる。架橋助剤を必要に応じて加えてもよい。本発明においては、抗ウィルス性を有する樹脂発泡体を得るために、基材樹脂に所定の抗ウィルス剤や界面活性剤を必要に応じて所定量加えて、ポリオレフィン系押出樹脂発泡体の発泡倍率に応じて、発泡剤や架橋剤などの含有量を変える必要がある。
【0077】
例えば、基材樹脂が低密度ポリオレフィンの場合、発泡率20倍の場合、発泡剤、架橋剤の含有量は基材樹脂100質量部に対して、それぞれ11質量部、0.9質量部であり、発泡率40倍の場合の場合には、発泡剤、架橋剤の含有量は基材樹脂100質量部に対して、それぞれ16質量部、0.8質量部とすることができる。本発明のポリオレフィン系押出樹脂発泡体は、ここで、得られるポリオレフィン系押出樹脂発泡体のスキン層を除く、平均の気泡径は、200μmから1500μmであり、好ましくは、400μmから800μmである。スキン層の厚さは、発泡倍率により異なるが、例えば、5μm~200μm程度である。
【0078】
本発明においては、マスターバッチを使用して、抗ウィルス剤を含むポリオレフィン系押出樹脂発泡体を製造しても良いし、基材樹脂と抗ウィルス剤をコンパウンド化したペレットを用いるか、抗ウィルス剤を直接配合するダイレクトブレンド法を用いてもよいが、製品成形時に安定した分散状態が得られやすいことから、マスターバッチ方式またはコンパウンド方式により製造する方が望ましい。
【0079】
マスターバッチは、抗ウィルス剤と後述する界面活性剤や酸化防止剤等を樹脂と混合して、2軸または1軸の混練押出機でポリオレフィン樹脂に対して、抗ウィルス剤を高濃度で混練造粒する。通常マスターバッチは、スクリュウーで前方に運ばれて、可塑化、均質化、加圧され、均一化される。
【0080】
前記混練押出機で均一化された抗ウィルス剤を含む溶融樹脂が、押出ヘッドのダイを通してストランドが押出される。このストランドをカットしてマスタ―バッチが得られる。
この際、例えば、ポリオレフィン樹脂100部に対して、抗ウィルス剤の配合部数が20部とすれば、抗ウィルス剤粒子の濃度として20部含むマスターバッチを製造することができる。この際、マスターバッチの濃度管理は十分慎重に行う必要がある。
【0081】
コンパウンド方式では、抗ウィルス剤と樹脂と界面活性剤等の添加材を必要に応じて加えてもよい。リン酸塩系化合物は、熱分析の結果安定なため、通常酸化防止剤は必ずしも必要でないが、場合により、酸化防止剤を樹脂に対して少量であれば所定の範囲内で加えることができる。これらの添加材を樹脂と混合した後、混練押出をして予備成形体としてのペレット状コンパウンドを調整する。このコンパウンドを用いて、押出・発泡させることで樹脂発泡体を製造する。
【0082】
本発明におけるポリオレフィン系押出樹脂発泡体には、基材樹脂に抗ウィルス剤の他、界面活性剤などの添加剤を目的に応じて加えても良いが、これらの添加材を、基材樹脂とを溶融混練して押出し、押出中に架橋と同時に発泡させることができる。
【0083】
この方法の場合は、ポリオレフィン系樹脂に、抗ウィルス剤、界面活性剤、酸化防止剤、などの添加剤に加えて、有機系分解型発泡剤、および架橋剤を配合した樹脂組成物を、加圧式ニーダーや2本ロールなどの混練機にて混練し、押出機にて、所望の厚さと幅の発泡用基材シートに押出成形し、約200~230℃の加熱炉に導入して発泡させる。
【0084】
ここで、抗ウィルス剤としては,銀または銀化合物イオン交換させたリン酸ジルコニウム、銀または銀イオンを担持させたカルシウムと亜鉛を複合したリン酸塩化合物等の重金属を何らかの形で含む無機化合物を用いることが好ましい。もちろん必要に応じて有機系抗ウィルス剤を用いることも可能である。ここで、銀、銅をイオン交換で担持させたゼオライトは後述するように発泡性や樹脂の劣化を促進するため、抗ウィルス性には問題がないものの使用することは望ましくない。
【0085】
(樹脂発泡体の気泡構造の形成とスキン層における抗ウィルス粒子の分布)
押出後のシート状の樹脂発泡体は、表面には発泡時の発泡後には、基材樹脂の種類と発泡倍率に応じて、所定の気泡径を有する。シート状の樹脂発泡体の表層近傍に、スキン層と言われる非発泡層が形成される。その他は、全体として発泡した気泡構造がみられる。シートの厚さ方向の中心近傍と表層近傍での気泡の大きさは、中心近傍の方が表層近傍より少し大きくなるのが、一般的である。
【0086】
ここで、本発明の抗ウィルス剤の発泡体内部の分布を考えることにする。この際、発泡前には、抗ウィルス剤が3次元的に厚さ方向と平面方向に略均等に分散しているため、抗ウィルス剤の抗ウィルス効果の発現は、ウィルスに対する接触を前提とすることから、樹脂発泡体の表面に露出した抗ウィルス剤しか抗ウィルス効果を発現できない。発泡前の基材樹脂は、バルクの状態であるが、発泡時には、気泡壁は気泡内のガスの圧力を両側から受けながらそれぞれの気泡壁が気泡の成長ともに薄肉化して気泡内の圧力と樹脂の変形抵抗が釣り合った所定の気泡径で気泡の成長が止まり、これにより所定の気泡構造が形成される。
【0087】
これに対して、スキン層は、発泡体の架橋発泡過程の加熱工程において、架橋が内部の発泡層より早く進むため、発泡がそれにより阻害されて発泡が起こらないか、発泡しても僅かに起こる程度であり、スキン層内部で発泡が生じても、スキン層内部で発泡したガスが発泡層で発泡したガスの圧力によりスキン層の表層に抜けることで、再融着するなどして、押出樹脂発泡体の表面に形成される気泡を有しない層である。
【0088】
ここで、スキン層は、スキン層がスキン層と発泡層の界面において、発泡層に拘束されならがスキン層表面に向け押圧力を受けた状態で、スキン層が2軸延伸されることで薄肉化される。この際、抗ウィルス剤粒子は、表面方向に抗ウィルス剤粒子の間隔が広がると同時に、スキン層の薄肉化とともに厚さ方向にも移動する。この時、スキン層は発泡温度に近いため、樹脂は所定レベルの粘性を有しているため、抗ウィルス剤粒子が脱落しにくい状態を維持したまま、相対的にスキン層の表面方向に移動することになる。
【0089】
この際、実際の粒子が厚さ方向に移動しなくても、スキン層の厚さの薄肉化により抗ウィルス剤粒子が見かけ上表面方向に移動することになり、さらにスキン層表面は、スキン層の内部より界面の自由エネルギーが低いため、実際に抗ウィルス剤粒子は、スキン層の表面方向に移動しやすいことが分かる。また、発泡過程では樹脂の粘性が高く抗ウィルス剤粒子が表面近傍まで移動しても、樹脂フィルムを構成するポリエチレン樹脂の粘性によりほとんど脱落することがない。
【0090】
このことから、発泡前の基材樹脂に練り込んだ抗ウィルス剤粒子は、スキン層形成時のスキン層表面における抗ウィルス剤粒子数の確率分布密度の増加の効果がスキン層の内部における確率密度より大きいことを意味している。このため、本発明は、発泡倍率10倍以下の低発泡倍率の場合はもとより、発泡倍率10倍を超えて発泡倍率20~40倍の高発泡倍率の場合にも好適に使用することができる。また、スキン層を表面方向に押圧する押圧力とスキン層が発泡過程で2軸延伸される駆動力は、発泡倍率が高い方が粒子同士の間隔は多少大きくなるが、スキン層内部でのスキン層表面への厚さ方向の面密度の上昇効果は、発泡倍率が高い方が大きくなる。
【0091】
発泡過程におけるスキン層厚さについてみると、発泡倍率が大きくなると、スキン層厚さが薄くなる傾向がある。発泡倍率が10倍以下の場合には、スキン層は100μmを超える厚さとなるが、通常、発泡倍率が10倍を超えて40倍の間では、5μm前後から100μm前後の厚さとなり、発泡倍率が大きくなるとスキン層が加速度的に薄くなる傾向を示す。
ここで、発泡倍率が大きくなると、スキン層が薄くなる理由は、発泡倍率が大きくなると、板厚方向に見た場合の発泡層のスキン層に対する相対的な厚さが増加するのに対して、気泡がガス抜けして形成されるスキン層の厚さが相対的に薄くなるのと、発泡時の発泡体の表面における2軸延伸効果によるスキン層の薄肉化効果が重畳されるためと考えられる。
【0092】
そこで、ノバロンを使用した材料について、発泡体を厚さ方向に切断して、発泡体の表面のスキン層における抗ウィルス剤粒子の厚さ方向の数量分布を走査型電子顕微鏡観察した結果では、発泡体のスキン層の表面近傍とスキン層の表面近傍以外の部分を比べるとスキン層表面近傍の抗ウィルス剤粒子の数の方が多いことを確認している。
【0093】
上記のように、発泡体のスキン層が薄肉化され発泡時にミクロ的に延伸されていることで、逆に抗ウィルス剤粒子が存在する確率密度が増加することが確認された。ここで、上記の結果は樹脂発泡体の発泡挙動と抗ウィルス剤分散粒子の関係であることから、抗ウィルス剤粒子の大きさが極端に変わらなければ、同様の関係が成立するものと考えられる。
【0094】
(発泡体の圧延)
押出発泡された樹脂発泡体は、通常の量産工程では、その後製品は表面状態や寸法を整えるために、1段または複数段のロールにて張力を加えながら圧延される。これにより気泡は略等方的な状態から圧延方向にやや扁平に成形される。この際、発泡体の全長も伸びるようになる。通常、圧延率の設定値は5%から15%の範囲に設定される。
【0095】
ロール圧延による気泡構造の変化やスキン層に及ぼす影響をみると、ロール圧延による気泡が扁平化する場合には、気泡壁相互の境界である気泡壁の3重点や4重点における気泡壁の延出角がロール圧延時のせん断歪みによる応力集中により塑性変形して形状変化することで扁平化すると考えられるが、表面の平滑化するための軽度の圧延であれば、圧延直後に圧延量の多くが弾性回復するため、スキン層の表面性状、気泡の形状に大きな影響はない。
【0096】
圧延後のスキン層の状態についてみると、ロール通過により表層近傍のスキン層が圧延より少し薄肉化するものの、発泡層はロール通過後にほとんどは弾性回復するため、極僅かに扁平化拡開する程度で、スキン層の厚さや気泡の形状にほとんど影響がない。また、スキン層の薄肉化程度は、圧延後の弾性回復を考慮すると、ロールの圧延率の設定値より小さくなる。
【発明の効果】
【0097】
本発明は、発泡性を阻害することなく、発泡材の表面品質に優れ、樹脂の酸化劣化のほとんどない抗ウィルス性を有する抗ウィルス剤として銀または銀化合物あるいは銀イオンを担持させたリン酸塩系化合物がスキン層の表面に表出したポリオレフィン系押出樹脂発泡体及び前記ポリオレフィン系押出樹脂発泡体を用いた積層体を提供することが可能になる。本発明においては、本発明の抗ウィルス剤の他、必要に応じて、界面活性剤、酸化防止剤などを所定量含有させることができる。
【0098】
ポリオレフィン系押出樹脂発泡体の表面には、さらに別のポリオレフィン系押出樹脂発泡体を貼り付けて積層された積層体を得ることができ、この積層体の表面には少なくとも一つのスキン層が表出している積層体とすることができる。また、本発明は抗ウィルス剤のスキン層面における表出効果を利用するため、発泡倍率10倍以下の低発泡倍率の場合はもとより、発泡倍率10倍を超えて発泡倍率20~40倍の高発泡倍率の押出樹脂発泡体にも好適に使用することができるが、スキン層表面における表出効果を考慮すると、スキン層の厚さは、100μm以下が好ましく、さらに70μm以下がより好ましい。
【発明を実施するための形態】
【実施例
【0099】
本発明においては抗ウィルス剤を含有する脂発泡体の抗ウィルス性のみでなく、抗ウィルス剤が重金属イオンまたは重金属化合物を含むため、発泡阻害や基材樹脂の酸化劣化の心配があることから、発泡性に加えて、樹脂の酸化劣化に対する長期安定性に関する評価を行った。抗ウィルス性はISO21702に準拠して活性値により評価し、発泡性は、発泡倍率や発泡体の発泡倍率と表面性状により評価し、樹脂の酸化劣化に対する長期安定性は、抗ウィルス剤の含有量を5質量部の場合の所定組成の材料における熱分析試験により評価した。試験方法の詳細は後述する。
【0100】
以下に、本発明を実施例に基づき、さらに詳細に説明する。
(実施例)
基材樹脂としては、ポリオレフィン系樹脂として、低密度ポリエチレン(表中LDPE)100重量%の材料に対して、抗ウィルス剤として、銀または銀化合物イオン交換させたリン酸ジルコニウム;銀または銀化合物イオン交換させたカルシウム・亜鉛を含むリン酸塩化合物;銀、銅をイオン交換で担持させたゼオライトのいずれかの抗ウィルス剤について、界面活性剤との組合せを含め、表1から表3に示すそれぞれ10個ずつの組成の試験材を試験例1から試験例3として抗ウィルス性、発泡性を評価した。発泡倍率と表面性状を評価した。また、樹脂の酸化劣化に対する評価も行ったが、酸化劣化に対する長期安定性は、試験に時間を要するため、所定の組成の材料についてDSC分析を行いこれにより評価した。なお、各試験材の詳細は後述する。
【0101】
さらに、試験例4は、抗ウィルス剤として、可視光作動型光触媒である酸化チタン系の抗ウィルス剤を用い表4に示す5種の試験材について、試験例1から試験例3と同様の試験による評価を行った。
【0102】
試験例5は基材樹脂の種類による影響、発泡倍率の影響、酸化防止剤の影響を評価するために行った試験である。試験例5において、基材樹脂の相違による影響は、低密度ポリエチレンと高密度ポリエチレンを混合した混合樹脂、ポリプロピレン樹脂、エチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)のそれぞれを基材樹脂として用いて評価を行った。
【0103】
これについで、試験例5では、発泡倍率を変えてスキン層厚さを変えた場合の抗ウィルス性への影響を見るために、基材樹脂は低密度ポリエチレン、抗ウィルス剤の含有量を一定として、発泡倍率を15倍から40倍の間で、15倍、20倍、30倍、40倍と段階的に4段階に変えた樹脂発泡体と発泡倍率10倍の5種類の材料を用意した、ここで、各試験材は発泡倍率に応じて架橋剤と発泡剤の添加量を下記のように調整した。具体的には、発泡倍率15倍の場合には、架橋剤を0.9部、発泡剤を8.0部加え、発泡倍率20倍の場合には、架橋剤を0.9質量部、発泡剤は11質量部加えて、発泡倍率30倍の場合には、架橋剤を0.8質量部、16質量部加えた。発泡倍率40倍の場合には、架橋剤0.7質量部、発泡剤22質量部加えて、発泡倍率を調整した樹脂発泡体を製造した。また、発泡倍率10倍の場合には、架橋剤を0.9質量部、発泡剤は5.0質量部加えた。ついで、酸化防止剤の影響をみるために、酸化防止剤を0.8質量部、1.2質量部加えた組成の樹脂発泡体を作製した。
【0104】
ここで、基材樹脂に、下記の有機系分解型発泡剤、架橋剤を配合して、加圧式ニーダーにて混練、ペレタイズして、発泡性樹脂組成物のペレットを得た。単軸押出機のホッパーより、ペレットを投入し、押出機内で溶融混練して所定幅のダイスにより押出して、厚さ4mmの平滑な発泡用母材シートを得た。この際、試験例5の樹脂組成の影響を評価する試験の場合を除いては、基材樹脂には、低密度ポリエチレン(LDPE)を用いたが、いずれの場合も低密度ポリエチレンには、宇部丸善ポリエチレン(株)製:F120Nを使用した。
【0105】
次に、この発泡用母材シートを120~150℃の押出に続いて連続的に220℃~240℃の加熱炉中を通過させることで各試験材に応じた発泡倍率に発泡させ、シート状発泡体を得た。このシート状発泡体を得るためには、架橋剤としては、日本油脂(株)製、商品名 パークミルD ジクミルパーオキサイドを0.8質量部使用し、発泡剤には、有機系分解型発泡剤として、永和化成(株)製のビニホールAC#LQ(アゾジカルボンアミド(ADCA)を16質量部使用する。ここで、このシート状押出樹脂発泡体を得て、この発泡体のスキン層の表面より試験片を切り出し、抗ウィルス性評価、発泡性の評価のための、発泡倍率、表面性状の評価及び酸化劣化の評価のための試験に供した。なお、本発明では、後述するように発泡体の表面性状への影響を正しく評価するため、ロール圧延を行なわないことにした。
【0106】
(試験例1)
(銀または銀化合物をイオン交換により担持させたリン酸ジルコニウム)
基材樹脂として低密度ポリエチレン100重量%を用いて、30倍発泡させた抗ウィルス剤が銀または銀化合物をイオン交換させたリン酸ジルコニウムからなる、東亜合成のノバロンIV1000を基材樹脂100質量部に対して1.0質量部、2.0質量部、3.5質量部、5.0質量部含むポリオレフィン発泡体を作製し、それぞれ順に試験材1~試験材4とした。
【0107】
基材樹脂として低密度ポリエチレンのみを用いて、30倍発泡させた抗ウィルス剤が銀または銀化合物イオン交換させたリン酸ジルコニウムからなる、東亜合成のノバロンIV1000を基材樹脂100質量部に対して3.5質量部含み、さらに、界面活性剤として、リケンビタミンのグリセリン脂肪酸エステル系のリケマールS-100を、0.8質量部含むポリオレフィン系押出樹脂発泡体を作製し、それぞれ試験材5とした。
【0108】
試験材5の抗ウィルスとしてノバロンIV1000を3.5質量部、界面活性剤としてリケマールS-100から、別の界面活性剤であるリケマールS-100を0.8質量部含む材料に変えたものを、試験材6とした。界面活性剤として、リケマールS-100を2.0質量部含む材料を試験材7とした。
【0109】
さらに、抗ウィルス剤として、ノバロンを0.6質量部と微量添加したものを、試験材8、また、抗ウィルス剤として、ノバロンを3.5質量部に、界面活性剤としてリケマールS-100を0.3質量部添加したものを試験材9とした。また、試験材3に対して、界面活性剤としてリケマールS-100の含有量を、界面活性剤の含有量の上限の2.0質量部を超えてそれより過大の3.0質量部含む材料を作製し、これを試験材10とした。
【0110】
(試験例2)
(銀または銀イオンを担持させたカルシウム・亜鉛を含むハイドロキシアパタイト組成からなるリン酸塩化合物)
基材樹脂として低密度ポリエチレンを用いて、30倍発泡させた抗ウィルス剤が銀または銀化合物をイオン交換で担持させたカルシウム・亜鉛を含むハイドロキシアパタイト組成からなるリン酸塩化合物を基材樹脂100質量部に対して1.0質量部、2.0質量部、3.5質量部、5.0質量部含むポリオレフィン発泡体を作製し、それぞれ順に試験材11~試験材14とした。
【0111】
基材樹脂として低密度ポリエチレン100重量部を用いて、30倍発泡させた抗ウィルス剤が銀または銀化合物イオン交換で担持させたカルシウム・亜鉛を含むハイドロキシアパタイト組成からなるリン酸塩化合物を基材樹脂100質量部に対して3.5質量部含むポリオレフィン発泡体に、さらに、界面活性剤として、リケマールS-100、ステアリン酸カルシウムをそれぞれ0.8質量部含む材料を、それぞれ試験材15、試験材16とした。界面活性剤として、ステアリン酸カルシウムを2.0質量部含む材料を試験材17とした。
【0112】
さらに、抗ウィルス剤として、銀または銀化合物イオン交換で担持させたカルシウム・亜鉛を含むハイドロキシアパタイト組成からなるリン酸塩化合物を0.6質量部と微量添加したものを、試験材18、また、抗ウィルス剤として、上記のリン酸塩化合物を3.5質量部に、界面活性剤としてステアリン酸カルシウムを0.3質量部添加したものを試験材19とした。試験材13に対して、界面活性剤としてステアリン酸カルシウムの含有量を、界面活性剤の含有量の上限の2.0質量部を超えてそれより過大の3.0質量部含む材料を作製し、これを試験材20とした。
【0113】
(試験例3)
(銀、銅を含むイオン交換ゼオライト)
試験例3の各試験材は、抗ウィルス剤を、銀または銀化合物をイオン交換させたリン酸ジルコニウムからなる、東亜合成のノバロンIV1000を、銀、銅を含むイオン交換ゼオライトからなる、シナネンのAC100Dに変更した以外は、各試験材の抗ウィルス剤や界面活性剤の含有割合の組合せは、試験例1と同様である。
【0114】
基材樹脂として低密度ポリエチレンを用いて、30倍発泡させた抗ウィルス剤が銀、銅を含むイオン交換ゼオライトを基材樹脂100質量部に対して1.0質量部、2.0質量部、3.5質量部、5.0質量部含むポリオレフィン発泡体を作製し、それぞれ順に試験材21~試験材24とした。
【0115】
基材樹脂として低密度ポリエチレンを用いて、30倍発泡させた抗ウィルス剤が銀、銅を含むイオン交換ゼオライトを基材樹脂100質量部に対して3.5質量部含み、さらに、界面活性剤として、リケンビタミンのグリセリン脂肪酸エステル系のリケマールS-100、ステアリン酸カルシウムを、それぞれ0.8質量部含むポリオレフィン系押出樹脂発泡体を作製し、試験材25、試験材26とした。界面活性剤として、リケマールS-100を2.0質量部含む材料を試験材27とした。
【0116】
さらに、抗ウィルス剤として、銀、銅を含むイオン交換ゼオライトを0.6質量部と微量添加したものを、試験材28、また、抗ウィルス剤として、上記の銀、銅を含むイオン交換ゼオライトを3.5質量部に、界面活性剤としてリケマールS-100を0.3質量部添加したものを試験材29とした。試験材23に対して、界面活性剤としてステアリン酸カルシウムの含有量を、界面活性剤の含有量の上限の2質量部を超えてそれより過大の3.0質量部含む材料を作製し、これを試験材30とした。
【0117】
(試験例4)
(可視光応答形光触媒を用いた酸化チタン系の抗ウィルス剤)
また、基材樹脂として低密度ポリエチレンのみを用いて、基材樹脂100質量部に対して、他の抗ウィルス剤として、可視光応答形光触媒を用いた酸化チタン系の抗ウィルス剤であるナカ工業社製の抗ウィルスであるウィルアンを1.0質量部、2.0質量部、3.5質量部、5.0質量部添加し、これを30倍発泡させた材料を作成し、試験材31~試験材34として、さらにウィルアンを3.5質量部加えた材料に、カチオン系界面活性剤として、ライオン株式会社製のレオミックスHTフレークを1.0質量部加えた材料を試験材35として、他の抗ウィルスを含む試験材と同様の評価を行った。
【0118】
(試験例5)
(基材樹脂の種類、発泡倍率、酸化防止剤の抗ウィルス性への影響評価)
試験例4の試験材では、試験例1から試験例3における基材樹脂として、低密度ポリエチレン100重量%を、低密度ポリエチレン80重量%、高密度ポリエチレン20重量%を混合した混合樹脂発泡体にして30倍発泡させた以外は、試験材3と同様の抗ウィルス剤が東亜合成のノバロンIV1000を基材樹脂100質量部に対して3.5質量部含む材料を作成し、これを試験材36とした。試験材36では、低密度ポリエチレンは、宇部丸善ポリエチレン(株)製:F120Nを用い、高密度ポリエチレンには、日本ポリオレフィン(株)製:HD1300を用いた。
【0119】
試験材37は、樹脂発泡体の基材樹脂を低密度ポリエチレンからポリプロピレンに変えた場合の例であるが、ポリプロピレンは化学架橋では架橋が困難なため、2台の電子線架橋装置を用い電子線架橋法により、シートを押出し、シート上下より所定条件で電子線架橋後、30倍発泡させたもので、この試験材における抗ウィルス剤の組成は、試験材3と同様である。ポリプロピレンは、プライムポリマーのプライムポリプロE702MGを用いた。試験材38は基材樹脂をエチレン酢酸ビニル共重合体にした場合の例である。エチレン酢酸ビニル共重合体は、宇部丸善ポリエチレン(株)製のVF218Gを使用し、試験材3の低密度ポリエチレンの場合と同様に試験材を製造した。
【0120】
次に、試験材39、試験材40は、試験材3と同様の組成の抗ウィルス剤としてノバロンを3.5質量部含む材料について、発泡倍率を30倍から15倍、20倍に変えて発泡させたものであり、試験材41は、試験材3と同一の材料であるが、番号を表中の番号が連番となるように再付番したものである。試験材42は、試験材3と同様の抗ウィルス剤組成の材料について、発泡倍率を30倍から40倍に変えて発泡させたものである。試験材43は、試験材3と同様の組成の材料を、10倍発泡させたものである。また、試験材44、試験材45は、酸化防止剤の影響をみるために、酸化防止剤としてIrganox 1010をそれぞれ0.8質量部、1.2質量加えた発泡体を作製したものである。
【0121】
(抗ウィルス試験の方法)
抗ウィルス試験は、基本的にはISO21702に準拠して行った。試験には、インフルエンザウィルス(H3N2,A/hongkong/6/86)を用い、宿主細胞として、MDCK細胞(イヌ腎臓尿細管上皮由来細胞)を用いて、感作温度25℃、感作時間24時間にて下記条件にて行った。洗い出し液には、SCDLP培地を用いて、感染価は、プラーク法を用いて測定を行った。
【0122】
具体的な試験操作は、各実施例の試験材から寸法40mm×40mm×厚さ4mmのサンプルを各3枚切り出して、それぞれ個別に別々のシャーレの底面に貼り付けた。次に、ウィルス400μLを各サンプル上に接種後、PETフィルム(4cm×4cm)を被せた。その後、感作時間経過後10mLの洗い出し液を加えてピペッティングにて洗い出した。最後に洗い出し液中の24時間後における感染価V24を求めて、これをもとに、ウィルスの初期採取量Vに対する24時間後の減少量割合R(%)と、24時間の活性値Mvをそれぞれ求めた。
【0123】
具体的には、24時間後のウィルス減少量割合をR(%)と、抗ウィルス活性値をMvとすると、両者は、接種直後の初期感染価と接種後の24時間における感染価を用いて下記の式により求めることができる。
初期ウィルス量に対する24時間後のウィルス減少量割合R(%)は、下記式(1)により求め、
(1)R =(V - V24)/ V
また、抗ウィルス剤の活性値は、下記式(2)により求めることができる。
(2)Mv = log(V) - log(V24
【0124】
ここで、V:接種直後の初期感染価、V24:接種後の24時間後感染価であるが、本発明では、便宜上24時間後の感染価を、24時間後の感染価の対数表記したものをウィルス感染価対数値(Log(PFU))として、活性値(もともと対数価)とともに記載した。このような記載とすることにより、24時間後の感染価の対数表記したものと、活性値の合計が必ず初期感染価の対数値になるので、活性値と感染価の関係を確認しやすくした。ここで、初期感染価の測定値は、1.70×10で、初期感染価の対数価は、6.23であった。
【0125】
(発泡性の評価方法)
試験に用いた押出発泡時の発泡製品の健全性を確保するため、発泡性の評価を行ったが、発泡性は、各試験材の発泡倍率の安定性と発泡製品の表面性状の両者を評価して、これにより発泡性を評価した。各試験材の発泡倍率は、押出発泡後の製品の4隅と製品中央の5カ所より、発泡倍率測定用試験片を切り出し、切り出した試験片の発泡倍率を下記のように測定した。その5カ所の平均値を発泡倍率とした。なお、発泡性の評価に用いた材料には、発泡性に対するロール圧延の影響を排除するため、ロール圧延は行わなかった。
【0126】
発泡倍率は、樹脂の発泡体で一般的に用いられている見かけ倍率である。
この見かけ倍率は、下記の手順により求める。
まず、発泡前のシートから、10cm×10cmの寸法の試片を切り出し、重量(W1[g])を秤量し、その後、試片の四隅の角部及び中心部における厚さを測定し(測定機はJIS K 6767法に準拠する。)、5点の平均値(T[cm])を用いて、下記の(3)式により見かけ密度を算出する。
見かけ比重=10×10×T/W1 ・・・・(3)
同測定を発泡後にも実施し、発泡前後のシートについて、各々の比重を算出した上で、
(発泡倍率)=(発泡前の組成物の比重)/(発泡組成物の比重)
上計算式にて算出した値を、発泡倍率と定義する。
【0127】
その結果、発泡倍率が目標値の30倍に対して、±5%以内の30±1.5倍の31.5倍~28.5倍の場合をAランク、発泡倍率が目標倍率より低く目標値のー5%からー10%の28.5未満から27.0倍の場合をBランク,発泡倍率が目標倍率より低く目標値のー10%の27.0倍に満たない場合を、Cランクとして評価した。ここで、各試験材の表面性状は、発泡材の表面に変色、しわの全く存在しないものを◎,軽い2から3mmの凹凸が認められるものを△,表面2から3mmの凹凸及びしわの両者が認められるものを×と判断した。
【0128】
(押出樹脂発泡体の長期耐久性の評価)
試験に用いた樹脂の長期耐久性を予測するために、リン酸ジルコニウムとゼオライト、酸化チタン(光触媒型)で、樹脂の長期安定性に関して差異が認められることが予想されるため、これらの材料を抗ウィルス剤として、所定組成の場合について、空気雰囲気下でDSC熱分析試験を行った。熱分析は、昇温速度10℃/minの昇温速度にて、室温から所定温度まで昇温し、発熱開始温度を確認した。
【0129】
リン酸ジルコニウム、ゼオライト、酸化チタン系の抗ウィルス剤を基材樹脂であるLDPEに対して、5.0質量部ずつ加えた試験材である、試験例4、試験例24、試験例34を空気雰囲気下で室温から徐々に昇温して、各材料の酸化劣化挙動をDSC分析により比較した。
【0130】
(試験結果)
表1~表4は、抗ウィルスの種類と界面活性剤の添加量や種類を変えた場合の樹脂発泡体のスキン層における試験例1から試験例4の各試験例の各試験材の抗ウィルス試験結果と、発泡性の評価結果を示す。表5には、試験例5として、基材樹脂の組成、発泡倍率、酸化防止剤の抗ウィルス性と発泡性を評価した試験結果を示す。なお、抗ウィルス試験の結果として、24時間後におけるウィルスの感染価の対数値、ウィルスの初期採取量に対する減少量、活性値の3種の結果を求めて記載した。
【0131】
【表1】
【0132】
【表2】
【0133】
【表3】
【0134】
【表4】
【0135】
【表5】
【0136】
表1は、試験例1に対応する抗ウィルス剤に銀または銀化合物をイオン交換させたリン酸ジルコニウムの含有量を1.0~5.0質量部の範囲で変えて単独添加した場合と、これに界面活性剤を0.5~2.0質量部加えた場合と、これに界面活性剤を過少添加した場合と過大添加した場合の試験結果と抗ウィルス剤のみを0.6質量部と過少添加した場合の結果を示す。表2は、試験例2に対応する抗ウィルス剤に銀または銀イオンをイオン交換で担持させたカルシウム・亜鉛を含むハイドロキシアパタイト組成からなるリン酸塩化合物の含有量を1.0~5.0質量部の範囲で変えて単独添加した場合と、これに界面活性剤を0.5~2.0質量部加えた場合の試験結果と、これに界面活性剤を過少添加した場合と過大添加した場合の試験結果並びに抗ウィルス剤のみを0.6質量部と過少添加した場合の結果を示す。表3は、銀、銅を含むイオン交換ゼオライト、表4は可視光応答形光触媒として酸化チタン系の抗ウィルス剤を用いた抗ウィルス剤の場合の同様の試験結果を示す。
【0137】
(各試験材の抗ウィルス性の評価結果)
表1~表4の試験例1~試験例4において、いずれの抗ウィルス剤の場合も、抗ウィルス剤が1.0質量部から5.0質量部の範囲で抗ウィルス剤の含有量の増加に伴い試験材のウィルス量が所定の範囲に減少する傾向を示すが、抗ウィルス剤の含有量が3.5質量部の近傍において抗ウィルス効果が最も大きく、抗ウィルス剤量が3.5質量部を超えるとその効果が飽和する。また、抗ウィルス剤量が3.5質量部において、界面活性剤を、所定の範囲で加えることで、抗ウィルス剤の含有量が同一でもウィルスの減少効果は少し大きくなることが、ウィルス量の減少や活性値から分かる。
【0138】
ここで、試験例1~試験例4の結果では、抗ウィルス剤の含有量が1.0質量部から5.0質量部の範囲において、抗ウィルス剤の種類に関係なくウィルスの初期摂取量から減少量は、95%以上であり、活性値は、1.40を超えている。また、2質量部を超えると、ウィルスの初期摂取量から減少量は99%以上であり、活性値は、2.0を超えており、抗ウィルス剤が2質量部以上では、安定した抗ウィルス性を示すことが分かる。
【0139】
また、抗ウィルス剤3.5質量部において、抗ウィルス効果は最大となり、これは3.5部以上の5.0質量部に抗ウィルス剤を増量しても、ウィルス量の減少や活性値の増量効果は、認められなかった。この理由は不明であるが、抗ウィルス剤の量が増加しても分散状態に偏りが生じるなどの理由によるためと考えられる。
【0140】
したがって、抗ウィルス剤の含有量の上限は5.0質量部とする。抗ウィルス剤を、1.0質量部以下の0.6質量部加えた試験材の場合には、活性値が1.3を下回り、抗ウィルス効果は認められるものの、活性値が低く抗ウィルス効果が不足し、活性値が1.3を超えることはなかった。そのため、抗ウィルス効果を十分に得るための、抗ウィルス剤の含有量範囲は、0.8~5.0質量部を満足する必要があり、望ましくは1.0~5.0質量部を満足する必要があると考えられる。
【0141】
界面活性剤の効果を見るために、表1を基に説明する。試験材3を基準に、抗ウィルス剤の含有量を3.5質量部一定として、界面活性剤を0.3、0.8、2.0、3.0質量部と変えた試験材9、試験材5、試験材7、試験材10の比較では、界面活性剤の含有量の0.3質量部加えた試験材9では、界面活性剤の含有量が少ないため、界面活性剤の効果が得られず、3.0質量部加えた試験材10では、3.0質量部までの範囲で増量しても、ウィルス抑制効果が抗ウィルス剤を2.0質量部加えた場合と同等でそれほど変わらない傾向がみられた。
【0142】
そのため、界面活性剤の含有量は、3.0質量部まで加えても効果が飽和し、コスト高となるため、上限は2.0質量部とし、下限値は、上記の結果0.5質量部以上とする。また、界面活性剤としてリケマールS-100とステアリン酸カルシウムをそれぞれ同量の0.8質量部加えた試験材5と試験材6とを比較すると両者はほぼ同等であった。そのため、界面活性剤の含有量は、0.5~2.0質量部とするが、望ましい範囲は、0.8~2.0質量部である。
【0143】
ここで、界面活性剤については、表1の試験例を基準として説明したが、表2と表1との相違点は、抗ウィルス剤を別のリン酸塩系化合物に変えた点と、界面活性剤の含有量を変化させた界面活性剤を、表2ではリケマールS-100からステアリン酸カルシウムに変更した点である。表3は、抗ウィルス剤をリン酸ジルコニウムから、銀、銅を含むイオン交換ゼオライトに変更した点のみが相違する。表4では、酸化チタン系の可視光応答形光触媒を用いた抗ウィルス剤に関し、界面活性剤の効果は、カチオン系界面活性剤としてレオミックスHTフレークを1.0質量部の1水準のみ確認した。
【0144】
表2、表3の銀または銀イオンを担持させたリン酸塩化合物、銀、銅を含むイオン交換ゼオライト、さらに表4の可視光応答形光触媒を用いた酸化チタン系の抗ウィルス剤のいずれの抗ウィルス剤においても、抗ウィルス効果に材料間で若干の差異は存在するものの、各材料の場合ともに同様の効果が確認された。また、界面活性剤の効果は表2~表4のいずれの界面活性剤の場合も、表1の試験材とほぼ同様であった。
【0145】
(各試験材の発泡性の評価結果)
各試験例について、発泡性を発泡倍率と発泡体の表面性状を評価した結果を、表1~表4に示す。抗ウィルス剤が銀または銀化合物をイオン交換させたリン酸ジルコニウムと、銀または銀イオンをイオン交換で担持させたカルシウム・亜鉛を含むハイドロキシアパタイト組成からなるリン酸塩化合物の場合には、発泡倍率は、30倍の発泡倍率の目標値に対して、発泡倍率は目標値の±5%以内(28.5~31.5倍)であり、発泡性の評価は、いずれの材料もAランクを満足するものとなった。また、発泡体の表面性状も、発泡体の表面に変色、発泡体表面のしわや2から3mm程度の凹凸は全く存在せずに表面品質も全く問題がなかった。
【0146】
これに対して、表3、表4に示す銀、銅を含むイオン交換ゼオライトと可視光応答形光触媒を用いた酸化チタン系の抗ウィルス剤の場合には、発泡性の評価は、いずれも発泡倍率が28.5未満から27.0倍のBランクまたは発泡倍率が27.0倍未満のCランクで発泡性が阻害されているものと考えられた。また、これらの材料の表面性状を発泡体の表面で確認した結果、発泡体の表面には、2から3mm程度の凹凸や表面にしわが確認された。なお、抗ウィルス剤としてゼオライトのみを0.6質量部含む材料は、ゼオライトの含有量が少ないため、他の抗ウィルス剤と同様の挙動で、発泡性への影響は少なかった。
【0147】
また、表1~表4のそれぞれの抗ウィルスを3.5部含む、試験材3、13、23、33について、発泡体の切断面を観察した結果、発泡性の問題のない、リン酸塩系の抗ウィルス剤を用いた試験材3、13の場合には、均一な気泡構造を有しているのに対して、ゼオライト系や可視光応答形光触媒を用いた抗ウィルス剤の場合には、気泡構造が不均一であり、気泡径が安定な状態まで発泡していない部分が存在し発泡阻害が生じており、これが発泡倍率の低下や発泡体の表面性状の不均一性につながったものと考えられた。
【0148】
以上の結果より、本発明の重金属として銀または銀化合物あるいは銀イオンを含むリン酸塩系の抗ウィルス剤は、他の重金属を含む他の抗ウィルス剤に比べて、抗ウィルス性のみでなく、発泡過程における抗ウィルス剤による発泡阻害がなく、発泡性や発泡体の表面性状に優れることが確認された。
【0149】
(試験材の熱分析による樹脂の劣化に対する評価結果)
また、樹脂の劣化に対する長期安定性に関する各抗ウィルス剤に関する評価として、DSC分析を行ったが、その結果は以下の通りであった。各材料を空気雰囲気下で室温から一定速度(10℃/分)で昇温した場合に、100~130℃(ピークが125℃前後に存在するブロードな吸熱ピークに存在する。)の間にポリエチレン結晶の融解ピークと思われる吸熱ピークが認められ、その後も同様の一定速度の加熱により昇温していくと、ゼオライト系と酸化チタン系の抗ウィルス剤では、徐々にDSC曲線が上昇を開始し、発熱が開始しているのに対して、リン酸ジルコニウム化合物の場合には、130℃を超える昇温領域でもDSC曲線の上昇がほとんどなく安定していた。
【0150】
その結果、ゼオライト系や酸化チタン系の抗ウィルス剤の場合には、試験温度が130℃を超えると、酸化劣化が進む兆候が認められた。このことから、リン酸ジルコニウム化合物の抗ウィルス剤の場合とゼオライト系や酸化チタン系の抗ウィルス剤の場合を比較すると、リン酸ジルコニウムの場合には、重金属イオンとして、Agを含むが、ゼオライト系の抗ウィルス剤の場合には、Agの他にCuを含むために劣化が促進され、酸化チタン系の抗ウィルス剤の場合には、光触媒機能と材料構造的な相違も樹脂の劣化が進む要因の一つとして考えられる。以上の熱分析の結果より、樹脂の長期安定性もリン酸塩系の抗ウィルス剤が優れることが確認された。
【0151】
(基材樹脂の相違による抗ウィルス性評価)
表5の試験材36、37、38、41には、基材樹脂を低密度ポリエチレンから、低密度ポリエチレンと高密度ポリエチレンの混合樹脂、ポリプロピレン樹脂及びエチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)に変えた場合と基準となる低密度ポリエチレンの場合に関して同一発泡倍率で、抗ウィルス剤含有量を3.5質量部一定にして発泡させた試験材の抗ウィルス性の評価結果を順に示すが、基材樹脂の相違による抗ウィルス性に若干の差異は認められるものの、いずれの樹脂においても、活性値は、2.5を超えており、十分な抗ウィルス性を示した。これらの試験材の発泡性はいずれも良好で発泡阻害もなく、発泡体の表面性状はいずれも良好であった。
【0152】
(発泡倍率を変えた場合の抗ウィルス性評価結果)
表5の試験材39から試験材43の結果から判るように、基材樹脂を試験例3と同様の材料を用いて、発泡倍率を15倍、20倍、30倍とした樹脂発泡体である試験材39、40、41(試験材3)発泡倍率を40倍とした樹脂発泡体である試験材42のウィルス量の減少や活性値変化の挙動は、発泡倍率の増加につれて活性値も増加する傾向が認められ活性値も、発泡倍率が15倍から40倍になるにつれて2.40~2.82に増加した。
ここで、発泡倍率40倍の場合に、活性値が2.82と特に大きいのは、スキン層が10μm以下の5μmと極端に薄くなったために、抗ウィルス剤粒子の表出効果が著しく大きくなったものと考えられる。これに対して、試験材43の発泡倍率10倍の場合には、活性値が2.12と発泡倍率が15倍以上の場合と比べると低い値を示し、抗ウィルス効果は認められるもの、発泡倍率15倍以上の場合と比べて抗ウィルス効果が低めとなった。この結果から、発泡倍率による抗ウィルス効果の相違は、抗ウィルス剤粒子のスキン層表面への表出効果の相違と考えられ、スキン層厚さは、100μm以下が望ましいことが確認された。また、これらの発泡倍率を変えた試験材は全て、発泡性の試験による発泡倍率の安定性や表面性状は問題なく発泡阻害は生じていなかった。
【0153】
本発明では、抗ウィルス剤として金属系の抗ウィルス剤を無機物に担持させたものを使用しているため、試験材3の材料に、さらに樹脂の酸化劣化を防止するための酸化防止剤をとして、BASF社製の酸化防止剤Irganox1010をそれぞれ0.8、1.2質量部含有させた試験材44、45に記載の樹脂発泡体を用いて、酸化防止剤の抗ウィルス効果への影響や基材樹脂の発泡挙動に対する影響を評価した。
【0154】
試験材44、45の評価結果としては、酸化防止剤の含有量が0.8質量部の試験材44では、酸化防止剤による活性値に対する大きな影響はなく、所定の抗ウィルス効果が得られることが確認され、さらに発泡阻害が生じることもなく発泡体の表面性状も優れていたが、酸化防止剤1.0質量部を超えて含有する試験材45では、抗ウィルス効果は問題ないものの、発泡阻害が起こり、発泡性が低下し表面性状も良くなかった。そのため、酸化防止剤の含有量は1.0質量部以下とする必要がある。表5の比較例に示すように酸化防止剤の含有量が1.0質量部以下であれば、酸化防止剤を加えても問題ないものと考えられる。
【0155】
以上のように、本発明においては、ポリオレフィン系押出樹脂発泡体において、抗ウィルス剤として、銀または銀系化合物あるいは銀イオンを担持したリン酸塩系化合物系の抗ウィルス剤量を0.8~5.0質量部含むか、あるいはこれらの抗ウィルス剤にさらに界面活性剤を0.5~2.0質量部含む樹脂発泡体のスキン層の表面に抗ウィルス剤が表出しているため抗ウィルス性が優れるのみでなく、抗ウィルス剤が発泡性ならびに樹脂の酸化劣化に対しても優れる材料が得られることが確認された。
【0156】
これは、より具体的には、樹脂の溶融粘度の高い状態で気泡内部のガスによる押圧力を受けながら、スキン層が形成されるため、スキン層の成長過程での抗ウィルス剤粒子の脱落がほとんどなく、気泡壁の薄肉化による、気泡壁表層近傍における抗ウィルス剤粒子数の確率分布密度の増加が支配的になることによると考えられる。
【0157】
界面活性剤による抗ウィルス性への効果は、界面活性剤による抗ウィルス剤の分散性改善効果に加えて、気泡表面における親水性改善による濡れ性改善によりウィルスへの吸着性増加の効果が重畳されることにより促進されたものと考えられる。また、界面活性剤として異なる種類の界面活性剤を用いて、界面活性剤の種類による効果を確認したところ、界面活性剤の種類による差異はほとんどなかった。
【0158】
さらに、本発明においては、銀または銀系化合物あるいは銀イオンを担持したリン酸塩系化合物系の抗ウィルス剤を使用しているため、必ずしも酸化防止剤を加える必要はないが、酸化防止剤を1.0質量部以下の所定の範囲で含有させる効果を確認したところ、この範囲の酸化防止剤の添加であれば発泡性に影響がないことが確認された。
【0159】
また、リン酸ジルコニムを抗ウィルス剤として3.5質量部含む同一組成の材料を、10倍~40倍の範囲で発泡させたところ、スキン層厚さにより抗ウィルス効果に差異が認められ、スキン層厚さが100μm以上と厚い場合に比べて、スキン層厚さが100μm以下の場合には、活性値が高く抗ウィルス性が高いことが確認された。そのため、スキン層厚さは、5~100μm、さらには5~70μm以下が望ましいと考えられる。
【0160】
以上、本発明の実施の形態で樹脂発泡体における抗ウィルス剤や界面活性剤の抗ウィルス効果に関して説明したが、本発明の技術的範囲は、前述した実施の形態に左右されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。