(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-21
(45)【発行日】2024-10-29
(54)【発明の名称】波長可変レーザ素子の制御方法、波長可変レーザ素子、およびレーザ装置
(51)【国際特許分類】
H01S 5/0687 20060101AFI20241022BHJP
H01S 5/062 20060101ALI20241022BHJP
【FI】
H01S5/0687
H01S5/062
(21)【出願番号】P 2021021327
(22)【出願日】2021-02-12
【審査請求日】2023-12-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西田 昌義
(72)【発明者】
【氏名】木村 賢宜
【審査官】右田 昌士
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-535955(JP,A)
【文献】特開2019-021791(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0323578(US,A1)
【文献】特開2015-012093(JP,A)
【文献】特開2009-177140(JP,A)
【文献】特開2020-136359(JP,A)
【文献】特開平02-170587(JP,A)
【文献】特開2009-026968(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0176950(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第103811994(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01S 5/00 - 5/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
反射スペクトルが光の周波数に対して周期的な櫛状のかつ帯域を有する反射ピークを有する第1反射部と、
反射スペクトルが光の周波数に対して前記第1反射部における周期とは異なる周期にて周期的な櫛状のかつ帯域を有する反射ピークを有する第2反射部と、によって構成される光共振器と、
前記光共振器の中に配置された利得部と、
前記光共振器の中に配置され、前記光共振器の共振器長を調整する位相調整部と、
を備え、前記第1反射部の反射ピークの帯域内の波長と、前記第2反射部の反射ピークの帯域内の波長と、前記光共振器の共振器モードの波長とが一致するとレーザ発振し、一致する波長に応じてレーザ発振波長が可変する波長可変レーザ素子の制御方法であって、
前記レーザ発振波長の目標波長を取得し、
前記レーザ発振により前記第1反射部から出力される第1レーザ光の少なくとも一部を、前記第1レーザ光を吸収または透過するように制御できる第1光吸収部に吸収をさせて、当該吸収により発生する第1吸収電流の第1モニタ値を取得し、
前記レーザ発振により前記第2反射部から出力される第2レーザ光の少なくとも一部を、前記第2レーザ光を吸収または透過するように制御できる第2光吸収部に吸収をさせて、当該吸収により発生する第2吸収電流の第2モニタ値を取得し、
前記目標波長に対応する、前記第1吸収電流の第1目標電流値および前記第2吸収電流の第2目標電流値を取得し、
前記第1モニタ値が前記第1目標電流値から第1範囲内になり、かつ前記第2モニタ値が前記第2目標電流値から第2範囲内になるように前記第1反射部、前記第2反射部または前記位相調整部を制御し、
前記第1モニタ値が前記第1範囲内になるとともに、前記第2モニタ値が前記第2範囲内になった後に、
前記第1レーザ
光を透過するように前記第1光吸収
部を制御する
波長可変レーザ素子の制御方法。
【請求項2】
前記目標波長に対応する、前記第1吸収電流と前記第2吸収電流との比の目標比を取得し、
前記第1モニタ値と前記第2モニタ値との比であるモニタ比が前記目標比から第3範囲内になるように前記第1反射部、前記第2反射部または前記位相調整部を制御し、
前記第1モニタ値が前記第1範囲内になり、前記第2モニタ値が前記第2範囲内になるとともに、前記モニタ比が前記目標比から第3範囲内になった後に、
前記第1レーザ
光を透過するように前記第1光吸収
部を制御する
請求項1に記載の波長可変レーザ素子の制御方法。
【請求項3】
前記第1反射部の屈折率を変化させることによって前記第1反射部の反射スペクトルを波長軸方向へシフトさせる、および、前記第2反射部の屈折率を変化させることによって前記第2反射部の反射スペクトルを波長軸方向へシフトさせる、の少なくとも一方を実行する
請求項1または2に記載の波長可変レーザ素子の制御方法。
【請求項4】
前記第1反射部または前記第2反射部から出力された前記第1レーザ光の少なくとも一部または前記第2レーザ光の少なくとも一部を第3レーザ光として取り出し、
前記第3レーザ光の少なくとも一部を、光の周波数に対して周期的な透過特性を有する弁別フィルタに透過させ、
前記弁別フィルタを透過した前記第3レーザ光のパワーの、前記弁別フィルタを透過しない前記第3レーザ光のパワーに対する比をモニタパワー比として取得し、
前記目標波長に対応する目標パワー比を取得し、
前記モニタパワー比が前記目標パワー比から第4範囲内になるように前記位相調整部を制御して前記共振器長を調整しながら、前記第1反射部の反射スペクトルを波長軸方向へシフトさせる、および、前記第2反射部の反射スペクトルを波長軸方向へシフトさせる、の少なくとも一方を実行する
請求項3に記載の波長可変レーザ素子の制御方法。
【請求項5】
前記第1光吸収部および前記第2光吸収部の少なくとも一つは半導体光増幅器である
請求項1~4のいずれか一つに記載の波長可変レーザ素子の制御方法。
【請求項6】
前記第1モニタ値が前記第1範囲内にあり、前記第2モニタ値が前記第2範囲内にあり、前記第1吸収電流と前記第2吸収電流との比であるモニタ比が前記目標比から第3範囲内にあるように前記位相調整部を制御して前記共振器長を調整する
請求
項2に記載の波長可変レーザ素子の制御方法。
【請求項7】
前記第1反射部および前記第2反射部の少なくとも一つはDBR(Distributed Bragg Reflector)構造を含む
請求項1~6のいずれか一つに記載の波長可変レーザ素子の制御方法。
【請求項8】
前記第1反射部および前記第2反射部の少なくとも一つはリング共振器ミラーである
請求項1~7のいずれか一つに記載の波長可変レーザ素子の制御方法。
【請求項9】
反射スペクトルが光の周波数に対して周期的な櫛状のかつ帯域を有する反射ピークを有する第1反射部と、
反射スペクトルが光の周波数に対して前記第1反射部における周期とは異なる周期にて周期的な櫛状のかつ帯域を有する反射ピークを有する第2反射部と、によって構成される光共振器と、
前記光共振器の中に配置された利得部と、
前記光共振器の中に配置され、前記光共振器の共振器長を調整する位相調整部と、
光を吸収または透過するように制御できる第1光吸収部と、
光を吸収または透過するように制御できる第2光吸収部と、
を備え、前記第1反射部の反射ピークの帯域内の波長と、前記第2反射部の反射ピークの帯域内の波長と、前記光共振器の共振器モードの波長とが一致するとレーザ発振し、一致する波長に応じてレーザ発振波長が可変し、
前記第1光吸収部には、前記レーザ発振により前記第1反射部から出力される第1レーザ光の少なくとも一部が入力され、
前記第2光吸収部には、前記レーザ発振により前記第2反射部から出力される第2レーザ光の少なくとも一部が入力される
波長可変レーザ素子。
【請求項10】
前記第1レーザ光の一部または前記第2レーザ光の一部を分岐し、前記第1光吸収部および前記第2光吸収部を通過させずに出力する光分波器を備える
請求項9に記載の波長可変レーザ素子。
【請求項11】
前記第1光吸収部および前記第2光吸収部の少なくとも一つは半導体光増幅器である
請求項9または10に記載の波長可変レーザ素子。
【請求項12】
前記第1反射部および前記第2反射部の少なくとも一つはDBR(Distributed Bragg Reflector)構造を含む
請求項9~11のいずれか一つに記載の波長可変レーザ素子。
【請求項13】
前記第1反射部および前記第2反射部の少なくとも一つはリング共振器ミラーである
請求項9~12のいずれか一つに記載の波長可変レーザ素子。
【請求項14】
請求項9~13のいずれか一つに記載の波長可変レーザ素子と、
演算部とメモリとを有する制御部と、
を備え、
前記制御部は、
前記レーザ発振波長の目標波長を取得し、
前記第1レーザ光の少なくとも一部の前記第1光吸収部での吸収により発生する第1吸収電流の第1モニタ値を取得し、
前記第2レーザ光の少なくとも一部の前記第2光吸収部での吸収により発生する第2吸収電流の第2モニタ値を取得し、
前記メモリに記憶されたデータに基づいて、前記目標波長に対応する、前記第1吸収電流の第1目標電流値および前記第2吸収電流の第2目標電流値を取得し、
前記第1モニタ値が前記第1目標電流値から第1範囲内になり、かつ前記第2モニタ値が前記第2目標電流値から第2範囲内になるように前記第1反射部、前記第2反射部または前記位相調整部を制御し、
前記第1モニタ値が前記第1範囲内になるとともに、前記第2モニタ値が前記第2範囲内になった後に、
前記第1レーザ
光を透過するように前記第1光吸収
部を制御する
レーザ装置。
【請求項15】
前記制御部は、
前記メモリに記憶されたデータに基づいて、前記目標波長に対応する、前記第1吸収電流と前記第2吸収電流との比の目標比を取得し、
前記第1モニタ値と前記第2モニタ値との比であるモニタ比が前記目標比から第3範囲内になるように前記第1反射部、前記第2反射部または前記位相調整部を制御し、
前記第1モニタ値が前記第1範囲内になり、前記第2モニタ値が前記第2範囲内になるとともに、前記モニタ比が前記目標比から第3範囲内になった後に、
前記第1レーザ
光を透過する状態とする
請求項14に記載のレーザ装置。
【請求項16】
前記制御部は、
前記第1反射部の屈折率を変化させることによって前記第1反射部の反射スペクトルを波長軸方向へシフトさせる、および、前記第2反射部の屈折率を変化させることによって前記第2反射部の反射スペクトルを波長軸方向へシフトさせる、の少なくとも一方を実行する
請求項14または15に記載のレーザ装置。
【請求項17】
前記制御部は、
前記第1モニタ値が前記第1範囲内にあり、前記第2モニタ値が前記第2範囲内にあり、前記第1吸収電流と前記第2吸収電流との比であるモニタ比が前記目標比から第3範囲内にあるように前記位相調整部を制御して前記共振器長を調整する
請求
項15に記載のレーザ装置。
【請求項18】
光の周波数に対して周期的な透過特性を有する弁別フィルタをさらに備え、
前記弁別フィルタは、前記第1反射部または前記第2反射部から出力された前記第1レーザ光の少なくとも一部または前記第2レーザ光の少なくとも一部である第3レーザ光を透過し、
前記制御部は、
前記弁別フィルタを透過した前記第3レーザ光のパワーの、前記弁別フィルタを透過しない前記第3レーザ光のパワーに対する比をモニタパワー比として取得し、
前記メモリに記憶されたデータに基づいて、前記目標波長に対応する目標パワー比を取得し、
前記モニタパワー比が前記目標パワー比から第4範囲内になるように前記位相調整部を制御して前記共振器長を調整しながら、前記第1反射部の反射スペクトルを波長軸方向へシフトさせる、および、前記第2反射部の反射スペクトルを波長軸方向へシフトさせる、の少なくとも一方を実行する
請求項14~16のいずれか一つに記載のレーザ装置。
【請求項19】
前記第1レーザ光の一部または前記第2レーザ光の一部を分岐し、前記第1光吸収部および前記第2光吸収部を通過させずに出力する光分波器を備え、
前記第3レーザ光は、前記光分波器から出力されたレーザ光である
請求項18に記載のレーザ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、波長可変レーザ素子の制御方法、波長可変レーザ素子、およびレーザ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
反射スペクトルが光の周波数に対して周期的な櫛状のかつ帯域を有する反射ピークを有する2つの反射要素を組み合わせるとともに、2つの反射要素が構成する光共振器の共振器長を調整する位相調整部が設けられた、集積型の波長可変レーザ素子が知られている。この波長可変レーザ素子では、櫛状反射スペクトルにおける反射ピーク間隔が互いに僅かに異なるように構成し、広い帯域の波長可変を実現する。この手法の原理は、一般にバーニア効果と呼ばれており、その概要は以下のとおりである。
【0003】
バーニア効果を用いた波長可変レーザ素子では、2つの反射要素の反射ピークの帯域内の波長と、光共振器の共振器モードの波長とが一致するとレーザ発振する。2つの反射要素における櫛状反射スペクトルは反射ピーク間隔が僅かに異なるので、2つの反射要素で反射ピークの帯域が重なるのは或る波長帯域では1組の反射ピークのみである。そして、2つの反射要素の間では、当該重なった帯域内の波長に関する光共振器が形成され、重なった帯域内の共振器モードの波長にて狭線幅のレーザ発振が可能となる。また、2つの反射要素のうち一方または両方の屈折率を変化させると櫛状反射スペクトルがシフトし、2つの反射要素で反射ピークの帯域が重なる波長も変化する。このように、バーニア効果を用いた集積型レーザ素子では、発振波長の狭線幅と可変波長の広帯域との両立を実現している。また、位相調整部は、共振器モードの波長の調整のために用いられる(例えば特許文献1~5参照)。ここで、反射ピークの帯域は、互いに重なればレーザ発振する条件を満たせるように定義された帯域であり、反射ピークのスペクトル形状や発振条件などに依存する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2009-26968号公報
【文献】特開2016-178283号公報
【文献】特開2019-21791号公報
【文献】特許第5032451号公報
【文献】特許第3433044号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
バーニア効果を用いた波長可変レーザ素子では、2つの反射要素における反射ピークを高精度に一致させることが重要である。しかしながら、波長可変レーザ素子の構成要素などの特性が経時的に変化する場合がある。たとえば、経時的な変化により、反射要素の反射スペクトルが波長軸方向にシフトすると、初期状態と同じ制御条件としても、2つの反射要素における反射ピークがずれるので、レーザ光のパワーが低下するなど、波長可変レーザ素子の光学特性が低下する。したがって、波長可変レーザ素子の光学特性の変化を補償することが望ましい。
【0006】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、光学特性の変化の補償に適する波長可変レーザ素子の制御方法、波長可変レーザ素子、およびレーザ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明の一態様は、反射スペクトルが光の周波数に対して周期的な櫛状のかつ帯域を有する反射ピークを有する第1反射部と、反射スペクトルが光の周波数に対して前記第1反射部における周期とは異なる周期にて周期的な櫛状のかつ帯域を有する反射ピークを有する第2反射部と、によって構成される光共振器と、前記光共振器の中に配置された利得部と、前記光共振器の中に配置され、前記光共振器の共振器長を調整する位相調整部と、を備え、前記第1反射部の反射ピークの帯域内の波長と、前記第2反射部の反射ピークの帯域内の波長と、前記光共振器の共振器モードの波長とが一致するとレーザ発振し、一致する波長に応じてレーザ発振波長が可変する波長可変レーザ素子の制御方法であって、前記レーザ発振波長の目標波長を取得し、前記レーザ発振により前記第1反射部から出力される第1レーザ光の少なくとも一部を、前記第1レーザ光を吸収または透過するように制御できる第1光吸収部に吸収をさせて、当該吸収により発生する第1吸収電流の第1モニタ値を取得し、前記レーザ発振により前記第2反射部から出力される第2レーザ光の少なくとも一部を、前記第2レーザ光を吸収または透過するように制御できる第2光吸収部に吸収をさせて、当該吸収により発生する第2吸収電流の第2モニタ値を取得し、前記目標波長に対応する、前記第1吸収電流の第1目標電流値および前記第2吸収電流の第2目標電流値を取得し、前記第1モニタ値が前記第1目標電流値から第1範囲内になり、かつ前記第2モニタ値が前記第2目標電流値から第2範囲内になるように前記第1反射部、前記第2反射部または前記位相調整部を制御し、前記第1モニタ値が前記第1範囲内になるとともに、前記第2モニタ値が前記第2範囲内になった後に、前記第1レーザ光または前記第2レーザ光を透過するように前記第1光吸収部または前記第2光吸収部を制御する波長可変レーザ素子の制御方法である。
【0008】
前記目標波長に対応する、前記第1吸収電流と前記第2吸収電流との比の目標比を取得し、前記第1モニタ値と前記第2モニタ値との比であるモニタ比が前記目標比から第3範囲内になるように前記第1反射部、前記第2反射部または前記位相調整部を制御し、前記第1モニタ値が前記第1範囲内になり、前記第2モニタ値が前記第2範囲内になるとともに、前記モニタ比が前記目標比から第3範囲内になった後に、前記第1レーザ光または前記第2レーザ光を透過するように前記第1光吸収部または前記第2光吸収部を制御するものでもよい。
【0009】
前記第1反射部の屈折率を変化させることによって前記第1反射部の反射スペクトルを波長軸方向へシフトさせる、および、前記第2反射部の屈折率を変化させることによって前記第2反射部の反射スペクトルを波長軸方向へシフトさせる、の少なくとも一方を実行するものでもよい。
【0010】
前記第1反射部または前記第2反射部から出力された前記第1レーザ光の少なくとも一部または前記第2レーザ光の少なくとも一部を第3レーザ光として取り出し、前記第3レーザ光の少なくとも一部を、光の周波数に対して周期的な透過特性を有する弁別フィルタに透過させ、前記弁別フィルタを透過した前記第3レーザ光のパワーの、前記弁別フィルタを透過しない前記第3レーザ光のパワーに対する比をモニタパワー比として取得し、前記目標波長に対応する目標パワー比を取得し、前記モニタパワー比が前記目標パワー比から第4範囲内になるように前記位相調整部を制御して前記共振器長を調整しながら、前記第1反射部の反射スペクトルを波長軸方向へシフトさせる、および、前記第2反射部の反射スペクトルを波長軸方向へシフトさせる、の少なくとも一方を実行するものでもよい。
【0011】
前記第1光吸収部および前記第2光吸収部の少なくとも一つは半導体光増幅器であるものでもよい。
【0012】
前記第1モニタ値が前記第1範囲内にあり、前記第2モニタ値が前記第2範囲内にあり、前記第1吸収電流と前記第2吸収電流との比であるモニタ比が前記目標比から第3範囲内にあるように前記位相調整部を制御して前記共振器長を調整するものでもよい。
【0013】
前記第1反射部および前記第2反射部の少なくとも一つはDBR(Distributed Bragg Reflector)構造を含むものでもよい。
【0014】
前記第1反射部および前記第2反射部の少なくとも一つはリング共振器ミラーであるものでもよい。
【0015】
本発明の一態様は、反射スペクトルが光の周波数に対して周期的な櫛状のかつ帯域を有する反射ピークを有する第1反射部と、反射スペクトルが光の周波数に対して前記第1反射部における周期とは異なる周期にて周期的な櫛状のかつ帯域を有する反射ピークを有する第2反射部と、によって構成される光共振器と、前記光共振器の中に配置された利得部と、前記光共振器の中に配置され、前記光共振器の共振器長を調整する位相調整部と、光を吸収または透過するように制御できる第1光吸収部と、光を吸収または透過するように制御できる第2光吸収部と、を備え、前記第1反射部の反射ピークの帯域内の波長と、前記第2反射部の反射ピークの帯域内の波長と、前記光共振器の共振器モードの波長とが一致するとレーザ発振し、一致する波長に応じてレーザ発振波長が可変し、前記第1光吸収部には、前記レーザ発振により前記第1反射部から出力される第1レーザ光の少なくとも一部が入力され、前記第2光吸収部には、前記レーザ発振により前記第2反射部から出力される第2レーザ光の少なくとも一部が入力される波長可変レーザ素子である。
【0016】
前記第1レーザ光の一部または前記第2レーザ光の一部を分岐し、前記第1光吸収部および前記第2光吸収部を通過させずに出力する光分波器を備えるものでもよい。
【0017】
前記第1光吸収部および前記第2光吸収部の少なくとも一つは半導体光増幅器であるものでもよい。
【0018】
前記第1反射部および前記第2反射部の少なくとも一つはDBR(Distributed Bragg Reflector)構造を含むものでもよい。
【0019】
前記第1反射部および前記第2反射部の少なくとも一つはリング共振器ミラーであるものでもよい。
【0020】
本発明の一態様は、前記波長可変レーザ素子と、演算部とメモリとを有する制御部と、を備え、前記制御部は、前記レーザ発振波長の目標波長を取得し、前記第1レーザ光の少なくとも一部の前記第1光吸収部での吸収により発生する第1吸収電流の第1モニタ値を取得し、前記第2レーザ光の少なくとも一部の前記第2光吸収部での吸収により発生する第2吸収電流の第2モニタ値を取得し、前記メモリに記憶されたデータに基づいて、前記目標波長に対応する、前記第1吸収電流の第1目標電流値および前記第2吸収電流の第2目標電流値を取得し、前記第1モニタ値が前記第1目標電流値から第1範囲内になり、かつ前記第2モニタ値が前記第2目標電流値から第2範囲内になるように前記第1反射部、前記第2反射部または前記位相調整部を制御し、前記第1モニタ値が前記第1範囲内になるとともに、前記第2モニタ値が前記第2範囲内になった後に、前記第1レーザ光または前記第2レーザ光を透過するように前記第1光吸収部または前記第2光吸収部を制御するレーザ装置である。
【0021】
前記制御部は、前記メモリに記憶されたデータに基づいて、前記目標波長に対応する、前記第1吸収電流と前記第2吸収電流との比の目標比を取得し、前記第1モニタ値と前記第2モニタ値との比であるモニタ比が前記目標比から第3範囲内になるように前記第1反射部、前記第2反射部または前記位相調整部を制御し、 前記第1モニタ値が前記第1範囲内になり、前記第2モニタ値が前記第2範囲内になるとともに、前記モニタ比が前記目標比から第3範囲内になった後に、前記第1レーザ光または前記第2レーザ光を透過する状態とするものでもよい。
【0022】
前記制御部は、前記第1反射部の屈折率を変化させることによって前記第1反射部の反射スペクトルを波長軸方向へシフトさせる、および、前記第2反射部の屈折率を変化させることによって前記第2反射部の反射スペクトルを波長軸方向へシフトさせる、の少なくとも一方を実行するものでもよい。
【0023】
前記制御部は、前記第1モニタ値が前記第1範囲内にあり、前記第2モニタ値が前記第2範囲内にあり、前記第1吸収電流と前記第2吸収電流との比であるモニタ比が前記目標比から第3範囲内にあるように前記位相調整部を制御して前記共振器長を調整するものでもよい。
【0024】
光の周波数に対して周期的な透過特性を有する弁別フィルタをさらに備え、前記弁別フィルタは、前記第1反射部または前記第2反射部から出力された前記第1レーザ光の少なくとも一部または前記第2レーザ光の少なくとも一部である第3レーザ光を透過し、前記制御部は、前記弁別フィルタを透過した前記第3レーザ光のパワーの、前記弁別フィルタを透過しない前記第3レーザ光のパワーに対する比をモニタパワー比として取得し、前記メモリに記憶されたデータに基づいて、前記目標波長に対応する目標パワー比を取得し、前記モニタパワー比が前記目標パワー比から第4範囲内になるように前記位相調整部を制御して前記共振器長を調整しながら、前記第1反射部の反射スペクトルを波長軸方向へシフトさせる、および、前記第2反射部の反射スペクトルを波長軸方向へシフトさせる、の少なくとも一方を実行するものでもよい。
【0025】
前記第1レーザ光の一部または前記第2レーザ光の一部を分岐し、前記第1光吸収部および前記第2光吸収部を通過させずに出力する光分波器を備え、前記第3レーザ光は、前記光分波器から出力されたレーザ光であるものでもよい。
【発明の効果】
【0026】
本発明は、光学特性の変化の補償に適する波長可変レーザ素子の制御方法、波長可変レーザ素子、およびレーザ装置を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】
図1は、実施形態1に係るレーザ装置の構成を示す模式図である。
【
図2】
図2は、レーザ発振波長の制御の説明図である。
【
図3】
図3は、反射スペクトルが波長軸方向にシフトした状態の一例を示す図である。
【
図4】
図4は、制御装置が実行する制御の第1例を示すフロー図である。
【
図5】
図5は、
図4におけるヒーター電力を調整するステップの一例を示すフロー図である。
【
図6】
図6は、ボトム・ピークサーチの説明図である。
【
図7】
図7は、ボトム・ピークサーチの説明図である。
【
図8】
図8は、制御装置が実行する制御の第3例を示すフロー図である。
【
図9】
図9は、
図8におけるヒーター3電力を調整するステップの一例を示すフロー図である。
【
図10】
図10は、実施形態2に係るレーザ装置の構成を示す模式図である。
【
図11】
図11は、制御装置が実行する制御の第4例を示すフロー図である。
【
図12】
図12は、
図11におけるヒーター電力を調整するステップの一例を示すフロー図である。
【
図13】
図13は、波長可変レーザ素子の変形例1の構成を示す模式図である。
【
図14】
図14は、波長可変レーザ素子の変形例2の構成を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下に、図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。なお、以下に説明する実施形態によって本発明が限定されるものではない。さらに、図面の記載において、同一の部分には適宜同一の符号を付している。また、図面は模式的なものであり、各要素の寸法の関係、各要素の比率等は、現実と異なる場合がある。さらに、図面の相互間においても、互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれている場合がある。
【0029】
(実施形態1)
図1は、実施形態1に係るレーザ装置の構成を示す模式図である。レーザ装置100は、波長可変光源装置200と、制御部である制御装置300と、を備える。波長可変光源装置200は、制御装置300の制御のもと、所定の波長および出力のレーザ光L1を出力し、このレーザ光L1を後段の装置へ供給する。制御装置300は、例えばユーザーインターフェイスを備えた上位の制御装置と接続されており、この制御装置を介したユーザからの指示に従って波長可変光源装置200を制御する。なお、実施形態1では、レーザ装置100は、波長可変光源装置200と制御装置300とを同一の回路基板上に実装しているが、これに限定されることなく、波長可変光源装置200と制御装置300とを別体としてもよい。
【0030】
〔波長可変光源部の構成〕
次に、波長可変光源装置200の詳細な構成について説明する。波長可変光源装置200は、波長可変レーザ素子210と、光分波器220と、光分波器231と、弁別フィルタであるエタロンフィルタ232と、受光素子233(以下、「PD1」と記載する場合がある)と、受光素子234(以下、「PD2」と記載する場合がある)と、フィルタ温度モニタ素子235と、光ファイバ270と、温度調節器290と、を備える。
【0031】
波長可変レーザ素子210は、不図示のサブマウントを介して温度調節器290に載置される。波長可変レーザ素子210は、第1反射部211と、第2反射部212と、位相調整部213と、利得部214と、半導体光増幅器(SOA)215と、光吸収部216とを備える。なお、波長可変レーザ素子210は、モノリシック集積型レーザ素子とすることができるが、これに限定されることなく、Si導波路とゲインチップを組み合わせたハイブリッド集積型レーザ素子とすることも可能である。
【0032】
第1反射部211は、反射スペクトルが光の周波数に対して周期的な櫛状のかつ帯域を有する反射ピークを有する。第1反射部211は、たとえば分布型ブラッグ反射型のサンプルドグレーティング(SG-DBR)構造を含む、受動型の導波路を有している。第1反射部211には、第1ヒーター部211a(以下、「ヒーター1」と記載する場合がある)が設けられている。後述する制御装置300は、ヒーター1を制御することにより、第1反射部211の導波路を加熱してその反射スペクトルの特性を変化させることが可能であり、より具体的には、反射ピークを波長軸方向にシフトさせることができる。
【0033】
ヒーター1は、例えばマイクロヒーターであり、制御装置300から供給される電流によって第1反射部211の温度を変化させ、第1反射部211の物性的性質を利用して屈折率を変化させる。
【0034】
第2反射部212は、反射スペクトルが光の周波数に対して周期的な櫛状のかつ帯域を有する反射ピークを有する。ただし、反射ピークの周期は、第1反射部211における周期とは異なる。第2反射部212は、たとえばSG-DBR構造を含む、受動型の導波路を有している。第2反射部212には、第2ヒーター部212a(以下、「ヒーター2」と記載する場合がある)が設けられている。後述する制御装置300は、ヒーター2を制御することにより、第2反射部212の導波路を加熱してその反射スペクトルの特性を変化させることが可能であり、より具体的には、反射ピークを波長軸方向にシフトさせることができる。
【0035】
すなわち、第1反射部211および第2反射部212の両方がDBR構造を含む。
【0036】
ヒーター2は、例えばマイクロヒーターであり、制御装置300から供給される電流によって第2反射部212の温度を変化させ、第2反射部212の物性的性質を利用して屈折率を変化させる。
【0037】
第1反射部211と第2反射部212とは、対となって光共振器Cを構成する。第1反射部211および第2反射部212は、共に櫛状の反射スペクトルを有し、光の周波数に関して周期的に反射ピークが形成されている。一方で、第1反射部211と第2反射部212とでは、反射スペクトルの反射ピーク間隔が僅かに異なるので、第1反射部211と第2反射部212とで反射ピークの帯域が重なるのは或る波長帯域で1組の反射ピークのみである。この場合、光共振器Cは、第1反射部211と第2反射部212とで反射ピークの帯域が重なった場合に形成される。そして、当該重なった帯域内の光共振器Cの共振器モードの波長にて狭線幅のレーザ発振が可能となる。
【0038】
また、第1反射部211には、ヒーター1が設けられ、第2反射部212には、ヒーター2が設けられ、独立に反射ピークをシフトさせることができる。これにより反射ピークが一致する波長も変化し、第1反射部211と第2反射部212との対で構成される光共振器Cは、広い帯域でレーザ発振を生成することが可能である。
【0039】
位相調整部213と、利得部214とは、光共振器Cの中に配置されている。
【0040】
位相調整部213は、屈折率を変化させることにより、光共振器Cの共振器長を調整するためのものである。光共振器Cの共振器長が調整されることによって、共振器モードの波長は波長軸方向にシフトする。位相調整部213は、受動型の導波路を有している。位相調整部213には、第3ヒーター部213a(以下、単に「ヒーター3」と記載する場合がある)が設けられている。
【0041】
ヒーター3は、例えばマイクロヒーターであり、制御装置300から供給される電流によって位相調整部213の温度を変化させ、物性的性質を利用して屈折率を変化させる。
【0042】
利得部214は、制御装置300から供給される駆動電流によって、光増幅利得を発生させる。利得部214は、活性層を含む導波路を有している。すなわち、制御装置300は、利得部214に供給する電流を制御することによって、波長可変レーザ素子210をレーザ発振させ、かつ出力するレーザ光のパワーを制御することが可能である。
【0043】
半導体光増幅器215は、活性層を含む導波路を有しており、制御装置300から供給される駆動電流によって、光共振器Cの第1反射部211側から出力されたレーザ光(第1レーザ光)を増幅して光分波器220へ出力する。
【0044】
制御装置300は、半導体光増幅器215に順バイアス電圧を印加して電流を供給することによって、第1レーザ光を透過するように制御できる。なお、半導体光増幅器215が第1レーザ光を増幅する状態は、誘導放出過程によって実現されるので、本明細書では増幅は透過の一種とみなす。また、制御装置300は、半導体光増幅器215に逆バイアス電圧を印加することによって、第1レーザ光を吸収するように制御できる。この場合、半導体光増幅器215は吸収した第1レーザ光のパワーに応じた量の電流(第1吸収電流)を発生して出力する。すなわち、半導体光増幅器215は第1光吸収部の一例である。
【0045】
光吸収部216は、活性層を含む導波路を有している。制御装置300は、光吸収部216に順バイアス電圧を印加して電流を供給することによって、光共振器Cの第2反射部212側から出力されたレーザ光(第2レーザ光)を透過(増幅も含む)するように制御できる。また、制御装置300は、光吸収部216に逆バイアス電圧を印加することによって、第2レーザ光を吸収するように制御できる。この場合、光吸収部216は吸収した第2レーザ光のパワーに応じた量の電流(第2吸収電流)を発生して出力する。すなわち、光吸収部216は第2光吸収部の一例である。なお、光吸収部216は半導体光増幅器215と同様に順バイアス電流を流した場合に光増幅作用を有していてもよい。
【0046】
光分波器220は、波長可変レーザ素子210から出力された第1レーザ光の大部分を光ファイバ270へ透過するとともに、残りの第1レーザ光を第3レーザ光として取り出し、光分波器231へ反射する。光分波器220は、ビームスプリッタ等を用いて構成される。
【0047】
光分波器231は、光分波器220から入力された第3レーザ光の一部を受光素子233へ透過する一方、残りの第3レーザ光をエタロンフィルタ232へ反射する。光分波器231は、ビームスプリッタ等を用いて構成される。
【0048】
エタロンフィルタ232は、光の周波数に対して周期的な透過特性を有する。また、エタロンフィルタ232は、温度調節器290上に載置されており、温度調節器290によって温度が変更可能に構成されている。なお、実施形態1では、弁別フィルタとしてエタロンフィルタ232を用いているが、これに限定されることなく、リング共振器フィルタであっても適用することができる。
【0049】
受光素子233は、光分波器231を透過した第3レーザ光を受光し、その受光パワーに応じた電流信号を制御装置300へ出力する。受光素子233は、フォトダイオードを用いて構成される。
【0050】
受光素子234は、エタロンフィルタ232を透過した第3レーザ光を受光し、その受光パワーに応じた電流信号を制御装置300へ出力する。受光素子234は、フォトダイオードを用いて構成される。
【0051】
フィルタ温度モニタ素子235は、温度調節器290上に載置される。フィルタ温度モニタ素子235は、主にエタロンフィルタ232の温度を検出し、この検出結果を制御装置300へ出力する。フィルタ温度モニタ素子235は、サーミスタを用いて構成される。
【0052】
温度調節器290は、ペルチェ素子等を用いて構成され、波長可変レーザ素子210、光分波器220、光分波器231、エタロンフィルタ232、受光素子233、234およびフィルタ温度モニタ素子235が載置される。温度調節器290は、制御装置300の制御のもと、主にエタロンフィルタ232の温度を調節する。
【0053】
〔制御装置の構成〕
次に、制御装置300の構成について説明する。制御装置300は、利得部電流制御回路311と、SOA制御回路312と、SOA吸収電流モニタ回路313と、ヒーター1制御回路321と、ヒーター2制御回路322と、ヒーター3制御回路323と、光吸収部制御回路331と、光吸収部電流モニタ回路332と、PD1電流モニタ回路341と、PD2電流モニタ回路342と、エタロン温度モニタ回路351と、エタロン温度制御回路352と、メモリ360と、演算部370と、を備える。
【0054】
利得部電流制御回路311は、演算部370の制御のもと、利得部214へ供給する駆動電流を供給するとともに、この駆動電流を制御する。
【0055】
SOA制御回路312は、演算部370の制御のもと、半導体光増幅器215に印加する電圧を逆バイアスまたは順バイアスに制御することによって、半導体光増幅器215が第1レーザ光を吸収または透過するように制御する。第1レーザ光を透過するように制御する場合は、さらに半導体光増幅器215に供給する電流を制御することによって、半導体光増幅器215による利得を調整する。
【0056】
SOA吸収電流モニタ回路313は、演算部370の制御のもと、半導体光増幅器215が第1レーザ光を吸収するように制御されている場合、半導体光増幅器215から入力された電流値に対してA/D変換処理を行ってデジタル信号に変換し、このデジタル信号を演算部370へ出力する。この電流値は、半導体光増幅器215での第1レーザ光の吸収により発生する第1吸収電流の電流値であり、このデジタル信号は、第1吸収電流の電流値の情報を含む。以下、この電流値を第1吸収電流の第1モニタ値、またはSOA吸収電流モニタ値と記載する場合がある。
【0057】
ヒーター1制御回路321は、演算部370の制御のもと、ヒーター1へ電力を供給するとともに、この電流を制御する。
【0058】
ヒーター2制御回路322は、演算部370の制御のもと、ヒーター2へ電力を供給するとともに、この電力を制御する。
【0059】
ヒーター3制御回路323と、演算部370の制御のもと、ヒーター3へ電力を供給するとともに、この電力を制御する。
【0060】
光吸収部制御回路331は、演算部370の制御のもと、光吸収部216に印加する電圧を逆バイアスまたは順バイアスに制御することによって、光吸収部216が第2レーザ光を吸収または透過するように制御する。
【0061】
光吸収部電流モニタ回路332は、光吸収部216が第2レーザ光を吸収するように制御されている場合、光吸収部216から入力された電流値に対してA/D変換処理を行ってデジタル信号に変換し、このデジタル信号を演算部370へ出力する。この電流値は、光吸収部216での第2レーザ光の吸収により発生する第2吸収電流の電流値であり、このデジタル信号は、第2吸収電流の電流値の情報を含む。以下、この電流値を第2吸収電流の第2モニタ値または吸収部電流モニタ値と記載する場合がある。
【0062】
PD1電流モニタ回路341は、PD1(受光素子233)から入力された電流値(PD1電流値)に対してA/D変換処理を行ってデジタル信号に変換し、このデジタル信号を演算部370へ出力する。
【0063】
PD2電流モニタ回路342は、PD2(受光素子234)から入力された電流値(PD2電流値)に対してA/D変換処理を行ってデジタル信号に変換し、このデジタル信号を演算部370へ出力する。
【0064】
エタロン温度モニタ回路351は、フィルタ温度モニタ素子235から入力された検出結果に基づいて、エタロンフィルタ232の温度を特定し、特定したエタロンフィルタ232の温度のデータをデジタル信号として演算部370へ出力する。
【0065】
エタロン温度制御回路352は、エタロンフィルタ232が演算部370から入力された指示信号に応じた温度となるように温度調節器290へ供給する電流を制御する。
【0066】
演算部370は、たとえばCPU(Central Processing Unit)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field-Programmable Gate Array)、DSP(Digital Signal Processor)、GPU(Graphics Processing Unit)などのプロセッサを含んでおり、制御のための各種演算処理を行う。
【0067】
メモリ360は、演算部370が演算処理を行うために使用する各種プログラムやデータ等が格納されるROMなどのメモリと、演算部370が演算処理を行う際の作業スペースや演算部370の演算処理の結果等を記憶する等のために使用されるRAMなどのメモリとを備えている。メモリ360は、HDD(Hard Disk Drive)やSSD(Solid State Drive)などの補助記憶装置を備えていてもよい。
【0068】
〔レーザ発振波長の制御〕
次に、レーザ発振波長の制御について説明する。
図2において、スペクトルS1は、第1反射部211の反射スペクトルにおける櫛状の反射ピークの1つを示す。スペクトルS2は、第2反射部212の反射スペクトルにおける櫛状の反射ピークの1つを示す。スペクトルS3は、光共振器Cにおける共振器モードの1つを示す。λcはスペクトルS3の波長である。なお、
図2では横軸を波長で示している。ここで櫛状の反射ピークは、本来は周波数的に周期的である。波動の周波数と波長とは反比例するが、光のような高周波数の領域では周波数と波長とは略比例するので、横軸を波長で示した場合も略周期的と見做すことができる。これらのスペクトルS1~S3は、少なくとも波長を可変する波長帯域(たとえば波長1530nm~1570nm)にわたって周期的に存在する。
【0069】
図2を用いて、バーニア効果を用いた波長可変レーザ素子210のレーザ発振波長の制御ついて説明する。上述したように、第1反射部211の反射ピークは制御装置300による制御によって波長軸方向にシフトさせることができる。また第2反射部212の反射ピークも制御装置300による制御によって波長軸方向にシフトさせることができる。さらに光共振器Cの共振器モードの波長は制御装置300による位相調整部213の制御によって波長軸方向にシフトさせることができる。
【0070】
波長可変レーザ素子210は、第1反射部211と第2反射部212とで反射ピークの帯域が重なったとき、当該重なった帯域内にある光共振器Cの共振器モードの波長にて狭線幅のレーザ発振をする。
【0071】
制御装置300のメモリ360には、初期値として、所望のレーザ発振波長と、そのレーザ発振波長にて波長可変レーザ素子210を動作させるための制御条件との対応関係が、たとえばテーブルデータとして記憶されている。このようなレーザ発振波長と、これに対応する制御条件との関係を示すデータは、例えばレーザ装置100の製造時や出荷前に、波長計などを用いた波長キャリブレーションによって取得される。なお、レーザ発振波長は通常離散的な波長チャネルのデータとして記憶されているので、データに無いレーザ発振波長を目標波長とする場合には、データが存在する複数のレーザ発振波長を参照波長として、その参照波長に対応する制御条件から、内挿や外挿などの補間によって計算によって、目標波長に対する制御条件を取得できる。
【0072】
たとえば、制御装置300が、上位装置などから、レーザ装置100から出力すべきレーザ光L1の波長について指示信号を受信した場合、その波長を目標波長として制御条件が選択、取得され、制御が実行される。
【0073】
記憶されている制御条件のデータは、一例として、ヒーター1の電力指示値、ヒーター2の電力指示値、ヒーター3の電力指示値、利得部214に供給する電流の指示値、PD1電流の目標値、PD2電流の目標値、半導体光増幅器215に順バイアス方向に供給するSOA電流の指示値、SОA吸収電流の目標値、光吸収部電流の目標値などである。これらのデータは、レーザ装置100の出荷前に波長計を用いた波長キャリブレーションにより取得されてメモリ360に書き込まれる。
【0074】
また、制御装置300は、レーザ発振波長が目標波長から許容誤差範囲内で一定に維持されるようにフィードバック制御を実行できる。このような制御は波長ロック制御とも呼ばれる。なお、許容範囲内は第4範囲の一例である。
【0075】
波長ロック制御では、第1反射部211または第2反射部212から出力された第1レーザ光の少なくとも一部または第2レーザ光の少なくとも一部を第3レーザ光として取り出す。レーザ装置100においては、光分波器220が、第1反射部211から出力された第1レーザ光の一部を第3レーザ光として取り出す。さらに、光分波器231が、第3レーザ光を2つの第3レーザ光に分岐する。
【0076】
つづいて、光分波器231は、分岐した一方の第3レーザ光をエタロンフィルタ232に透過させる。エタロンフィルタ232は透過した第3レーザ光を受光素子234に出力する。一方光分波器231は、分岐した他方の第3レーザ光を、エタロンフィルタ232を透過しない第3レーザ光として受光素子233に出力する。
【0077】
演算部370は、PD1(受光素子233)、PD1電流モニタ回路341、PD2(受光素子234)、PD2電流モニタ回路342によって、エタロンフィルタ232を透過した第3レーザ光のパワーの、エタロンフィルタ232を透過しない第3レーザ光のパワーに対する比をパワー比のモニタ値(モニタパワー比)として取得する。モニタパワー比は、PD2電流値/PD1電流値として算出することができる。
【0078】
公知のように、エタロンフィルタ232の波長弁別特性に応じて、パワー比は、第3レーザ光の波長、すなわち波長可変レーザ素子210のレーザ発振波長と対応関係を有する。そこで、演算部370は、レーザ発振波長の目標波長と前記対応関係とに基づいて目標パワー比を取得し、モニタパワー比が目標パワー比から許容誤差範囲内になるように位相調整部213を制御する。これによってフィードバック制御(波長ロック制御)が実現される。なお、制御装置300のメモリ360には、所望のレーザ発振波長と、そのレーザ発振波長に対するパワー比との対応関係が、たとえばテーブルデータとして記憶されている。このようなレーザ発振波長と、これに対応するパワー比との関係は、レーザ装置100の出荷前に波長計を用いた波長キャリブレーションにより取得される。なお、レーザ発振波長は通常離散的なデータとして記憶されているので、データに無いレーザ発振波長を目標波長とする場合には、データのある複数のレーザ発振波長を参照波長として、その参照波長に対応するパワー比から、内挿や外挿などの補間によって計算によって、目標波長に対する目標パワー比を取得できる。
【0079】
また、制御装置300は、第1レーザ光のパワーが目標パワーから許容誤差範囲内で一定に維持されるようにフィードバック制御を実行できる。このような制御は光出力一定制御、またはAPC(Automatic Power Control)とも呼ばれる。
【0080】
光出力一定制御では、PD1(受光素子233)、PD1電流モニタ回路341によって、エタロンフィルタ232を透過しない第3レーザ光のパワーのモニタ値(モニタパワー)として取得する。
【0081】
演算部370は、モニタパワーが目標パワーから許容誤差範囲内になるように半導体光増幅器215の順バイアス電流を制御する。これによって光出力一定制御が実現される。なお、制御装置300のメモリ360には、所望のレーザ光L1のパワーと、そのパワーに対する目標パワーとの対応関係が、たとえばテーブルデータとして記憶されている。関係は、たとえばキャリブレーションによって取得される。
【0082】
〔光学特性の変化〕
ここで、
図2に示すように、スペクトルS1のピーク、スペクトルS2のピーク、スペクトルS3の一致度が高いことが、レーザ光L1のパワーをできるだけ高くする点や、線幅をできるだけ狭くする点や、サイドモード抑圧比を高くするなどの光学特性の観点から好ましい。
【0083】
しかしながら、波長可変レーザ素子210や波長可変光源装置200の製造時や使用開始時(BOL(Beginning Of Life)とも呼ばれる)に
図2のような好ましい状態であっても、波長可変レーザ素子210や波長可変光源装置200の経時的劣化や特性の変化によって、
図3に示すように、たとえばスペクトルS1、S2がそれぞれスペクトルS1a、スペクトルS2aのように波長軸方向にずれてしまうことがある。このようにずれが生じた場合、光学特性が、
図2のような好ましい状態の場合から変化し、劣化する場合がある。
【0084】
そこで、レーザ装置100では、制御装置300が、以下のような光学特性の変化を補償できる制御を実行する。
【0085】
〔制御の第1例〕
図4は、制御装置300が実行する制御の第1例を示すフロー図である。はじめに、ステップS101において、制御装置300は、上位装置などから、波長可変レーザ素子210のレーザ発振波長の目標波長を取得する。
【0086】
つづいて、ステップS102において、演算部370は、メモリ360から、目標波長における制御条件、または、目標波長における制御条件を算出するために使用する、参照波長における制御条件として、以下のデータを読み出す。すなわち、演算部370は、メモリ360から、(1)利得部電流指示値、(2)ヒーター1電力指示値、(3)ヒーター2電力指示値、(4)ヒーター3電力指示値、(5)PD1電流目標値、(6)PD2電流目標値、(7)SOA吸収電流目標値(第1目標電流値)、(8)光吸収部電流目標値(第2目標電流値)を読み出す。
【0087】
つづいて、ステップS103において、演算部370は、読み出した(1)~(8)のデータから、目標波長に対応する(1)~(8)を算出する。なお、目標波長がメモリ360に記憶された波長(参照波長)と同じ場合は、読み出した(1)~(8)の値をそのまま使用してよい。さらには、ステップS103では、たとえば(PD2電流目標値/PD1電流目標値)として目標パワー比も算出する。
【0088】
つづいて、ステップS104において、SOA制御回路312は、演算部370から入力された指示信号に基づいて、半導体光増幅器215に逆バイアス電圧を印加する。また、光吸収部制御回路331は、演算部370から入力された指示信号に基づいて、光吸収部216に逆バイアス電圧を印加する。これらの逆バイアス電圧は、入力されたレーザ光のパワーと吸収電流とが線形の関係になるように、すなわち吸収電流が飽和しないように十分な電圧値とすることが望ましい。
【0089】
つづいて、ステップS105において、利得部電流制御回路311、ヒーター1制御回路321、ヒーター2制御回路322、ヒーター3制御回路323は、それぞれ、演算部370の制御のもと、利得部214、ヒーター1、ヒーター2、ヒーター3のそれぞれに、算出したまたは読み出した指示電流または指示電力を供給する。
【0090】
つづいて、ステップS106において、制御装置300は、SOA吸収電流モニタ値(第1モニタ値)を取得し、SOA吸収電流モニタ値がSOA吸収電流目標値から第1範囲内の一例である第1許容誤差範囲内になるように、ヒーター1電力、またはヒーター2電力を調整し、第1反射部211の反射スペクトル、または第2反射部212の反射スペクトルを波長軸方向へシフトさせる。また、制御装置300は、吸収部電流モニタ値(第2モニタ値)を取得し、吸収部電流モニタ値が吸収部電流目標値から第2範囲内の一例である第2許容誤差範囲内になるように、ヒーター1電力、またはヒーター2電力を調整し、第1反射部211の反射スペクトル、または第2反射部212の反射スペクトルを波長軸方向へシフトさせる。なお、第1許容誤差範囲、第2許容誤差範囲はたとえば±5%であるが、所望の許容誤差に応じて適宜設定でき、また互いに異なる値でもよい。
【0091】
ステップS106の後、ステップS107において、SOA制御回路312は、演算部370の制御のもと、半導体光増幅器215に順バイアス電圧を印加し、かつメモリ360から読み出した値の電流を半導体光増幅器215に供給し、第1レーザ光を光増幅するように半導体光増幅器215を制御する。さらに、ステップS107においては、波長ロック制御と光出力一定制御を行い、制御は終了する。
【0092】
なお、ステップS107以降において、光吸収部制御回路331は、光吸収部216に逆バイアス電圧を印加し続けてもよい。これにより、第2レーザ光は光吸収部216に吸収されるので、第2レーザ光が迷光として放出されて波長可変光源装置200に意図しない影響を及ぼすことが防止される。
【0093】
つぎに、
図4におけるヒーター電力を調整するステップS106をより詳細に説明する。
図5は、
図4におけるヒーター電力を調整するステップS106の一例を示すフロー図である。
【0094】
図5に示すフローは、ステップS201~S207の粗調整のステップと、ステップS208~S213の微調整のステップとからなる。粗調整のステップでは、以下に説明する。ボトム・ピークサーチを行う。ボトム・ピークサーチは、ヒーター1で第1反射部211の屈折率を変化させ、またはヒーター2で第2反射部212の屈折率を変化させ、SOA吸収電流または吸収部電流の極大値または極小値をサーチするステップである(特許文献5参照)。
【0095】
図6は、ボトム・ピークサーチの説明図であって、ヒーター1電力またはヒーター2電力を変化させたときのSOA吸収電流の変化を示している。
図6に示すように、SOA吸収電流は、第1レーザ光を出力させながらヒーター1電力を変化させ、第1反射部211の反射ピークを波長軸方向にシフトさせた場合、極小値を取るように変化する。極小値では、レーザ発振波長と第1反射部211の反射ピークとがおおよそ一致すると考えられる。また、SOA吸収電流は、第1レーザ光を出力させながらヒーター2電力を変化させ、第2反射部221の反射ピークを波長軸方向にシフトさせた場合、極大値を取るように変化する。極大値では、レーザ発振波長と第2反射部212の反射ピークとがおおよそ一致すると考えられる。
【0096】
一方、
図7は、ボトム・ピークサーチの説明図であって、ヒーター1電力またはヒーター2電力を変化させたときの吸収部電流の変化を示している。
図7に示すように、吸収部電流は、第2レーザ光を出力させながらヒーター1電力を変化させた場合、極大値を取るように変化する。極大値では、レーザ発振波長と第1反射部211の反射ピークとがおおよそ一致すると考えられる。また、吸収部電流は、第2レーザ光を出力させながらヒーター2電力を変化させた場合、極小値を取るように変化する。極小値では、レーザ発振波長と第2反射部212の反射ピークとがおおよそ一致すると考えられる。
【0097】
図6、7の特性を利用すると、レーザ発振波長と第2反射部212の反射ピークと第1反射部211の反射ピークとがおおよそ一致するためのヒーター1電力およびヒーター2電力を見出すことができ、粗調整を実施することができる。
【0098】
ただし、レーザ発振波長と反射ピークとが一致していなくても極値を取る場合がある。その原因としては、たとえば、第1反射部211の反射率がピークよりも少し低い方が第1反射部211からの光出力が高い場合があることがあげられる。しかしながら、2つの反射ピークとレーザ発振波長とが精度よく一致した方が、狭スペクトル線幅や高サイドモード抑圧比など、光出力以外の特性が良好の場合があると考えられるので、本制御例では粗調整の後に微調整を行う。
【0099】
以下、
図5を参照して具体的に説明する。はじめに、ステップS201において、ヒーター1制御回路321は、演算部370の制御のもと、ヒーター1電力を所定量だけ調整(変更)する。所定量の絶対値は後述するR1よりも十分小さい値とする。また、所定量は、波長軸に対する調整の方向に応じて、正値も負値も取り得る。
【0100】
つづいて、ステップS202において、SOA吸収電流モニタ回路313は、演算部370の制御のもと、SOA吸収電流モニタ値を取得する。
【0101】
つづいて、ステップS203において、演算部370は、ヒーター1電力の総調整量が|R1|以下であるかどうかを判定する。総調整量が|R1|以下である場合(ステップS203、Yes)、制御はステップS201に戻る。一方、総調整量が|R1|より大きい場合(ステップS203、No)、制御はステップS204に進む。総調整量がR1より大きい場合は、固定されたヒーター2電力において、
図6に示すヒーター1電力に関するSOA吸収電流のデータの取得が、|R1|の電力範囲にて実行されたこととなる。
【0102】
つづいて、ステップS204において、ヒーター2制御回路322は、演算部370の制御のもと、ヒーター2電力を所定量だけ調整(変更)する。所定量の絶対値は後述する|R2|よりも十分小さい値とする。また、所定量は、波長軸に対する調整の方向に応じて、正値も負値も取り得る。
【0103】
つづいて、ステップS205において、SOA吸収電流モニタ回路313は、演算部370の制御のもと、SOA吸収電流モニタ値を取得する。
【0104】
つづいて、ステップS206において、演算部370は、ヒーター2電力の総調整量が|R2|以下であるかどうかを判定する。総調整量が|R2|以下である場合(ステップS206、Yes)、ステップS207おいてヒーター1制御回路321はヒーター1電力を、ステップS201を行う前の始めの値に戻し、制御はステップS202に戻る。一方、総調整量が|R2|より大きい場合(ステップS206、No)、制御はステップS208に進む。
【0105】
総調整量が|R2|より大きい場合、
図6に示すヒーター1電力およびヒーター2電力に関するSOA吸収電流のデータの取得が、|R1|および|R2|の電力範囲にて2次元的に実行されたこととなる。
【0106】
つづいて、ステップS208において、ヒーター1制御回路321は、演算部370の制御のもと、ヒーター1電力を微調整する。微調整の量はステップS201の所定量よりも十分小さくする。
【0107】
つづいて、ステップS209において、SOA吸収電流モニタ回路313は、演算部370の制御のもと、SOA吸収電流モニタ値を取得する。
【0108】
つづいて、ステップS210において、演算部370は、SOA吸収電流モニタ値がSOA吸収電流目標値から第1許容誤差範囲内かを判定する。この判定は、
図5に示すように、SOA吸収電流モニタ値をIms、SOA吸収電流目標値をIts、第1許容誤差をαsとすると、|Ims-Its|≦αsであるかを判定することと同じである。SOA吸収電流モニタ値がSOA吸収電流目標値から第1許容誤差範囲内でない場合(ステップS210、No)、制御はステップS208に戻る。SOA吸収電流モニタ値がSOA吸収電流目標値から第1許容誤差範囲内である場合(ステップS210、Yes)、制御はステップS211に進む。
【0109】
つづいて、ステップS211において、ヒーター2制御回路322は、演算部370の制御のもと、ヒーター2電力を微調整する。微調整の量はステップS204の所定量よりも十分小さくする。
【0110】
つづいて、ステップS212において、光吸収部電流モニタ回路332は、演算部370の制御のもと、光吸収部電流モニタ値を取得する。なお、ステップS211のヒーター2電力の微調整を行うことにより、第1レーザ光の出力が変化する可能性があり、したがってSOA吸収電流が変化する可能性がある。そこで、たとえばステップS212で再度SOA吸収電流モニタ値を取得してもよい。
【0111】
なお、ステップS208からステップS212までの順番についてはこれに限られない。たとえば、ヒーター1電力を微調整する前にヒーター2電力を微調整してもよい。このように、本明細書におけるステップの順番は、あくまでの一例であって、所期の効果をそうすれば適宜順番を入れ替え可能である。
【0112】
つづいて、ステップS213において、演算部370は、SOA吸収電流モニタ値がSOA吸収電流目標値から第1許容誤差範囲内であり、かつ光吸収部電流モニタ値が光吸収部電流目標値から第2許容誤差範囲内であるかを判定する。この判定は、
図5に示すように、光吸収部電流モニタ値をIma、光吸収部電流目標値をIta、第2許容誤差をαaとすると、|Ims-Its|≦αsかつ|Ima-Ita|≦αaであるかを判定することと同じである。|Ims-Its|≦αsかつ|Ima-Ita|≦αaではない場合(ステップS213、No)、制御はステップS208に戻る。|Ims-Its|≦αsかつ|Ima-Ita|≦αaである場合(ステップS213、Yes)、制御は終了する。
【0113】
以上説明したレーザ装置100における制御の第1例によれば、第1反射部211および第2反射部212の反射スペクトルを波長軸方向へシフトさせ、現在の状態を反映したSOA吸収電流モニタ値が、初期値としてのSOA吸収電流目標値から第1許容誤差範囲内になるようにし、かつ現在の状態を反映した吸収部電流モニタ値が、初期値としての吸収部電流目標値から第2許容誤差範囲内になるようにできる。その結果、波長可変レーザ素子210または波長可変光源装置200の光学特性の初期状態からの変化の補償をすることができる。なお、第1反射部211の反射スペクトルおよび第2反射部212の反射スペクトルは、両方に限らず、少なくとも一方の反射スペクトルを波長軸方向へシフトさせてもよい。
【0114】
また、波長可変レーザ素子210は、第1光吸収部としての半導体光増幅器215と第2光吸収部としての光吸収部216とを備えるので、制御の第1例を適用して波長可変レーザ素子210の光学特性の初期状態からの変化の補償をするのに適する。
【0115】
〔制御の第2例〕
つぎに制御の第2例について説明する。波長可変レーザ素子の構成要素などの特性が経時的に変化した場合には、第1例の制御を行っても、SOA吸収電流モニタ値がSOA吸収電流目標値から第1許容誤差範囲内であり、かつ光吸収部電流モニタ値が光吸収部電流目標値から第2許容誤差範囲内であるという状態が成立しない場合がある。たとえば、波長可変レーザ素子210の光出力が経時変化により低下した場合などは、たとえばSOA吸収電流モニタ値がSOA吸収電流目標値から第1許容誤差範囲内に入らない場合がある。
【0116】
しかし、波長可変レーザ素子210の光出力が低下したとしても、SOA吸収電流と光吸収部電流との比を初期状態と同じ比になるように変更することによって、第1反射部211の反射率と第2反射部212の反射率の初期状態からの変化を補償することができる。これにより、たとえば線幅やサイドモード抑圧比などの、光学特性の初期状態からの変化を補償することができる。そこで、第2例では、SOA吸収電流と光吸収部電流との比を用いた制御を実行する。
【0117】
第2例では、制御装置300は、第1例と同様に
図4、5にフローを示す制御を実行するが、以下の点では第1例とは異なる。
【0118】
まず、第2例では、演算部370は、目標波長における制御条件、または、参照波長における制御条件として、目標波長に対応する、SOA吸収電流と光吸収部電流との比の目標比を取得するステップを実行する。このステップは、たとえばステップS102以降に実行される。目標比は、たとえば、ステップS102で読み出す。例えば、SOA吸収電流目標値(第1電流目標値)と光吸収部電流目標値(第2電流目標値)から、これらの比として算出することができる。
【0119】
また、第2例では、第1許容誤差範囲および第2許容誤差範囲の少なくとも一方は、第1例における範囲よりも広くすることが、収束性の観点から好ましい。たとえば、第1許容誤差範囲および第2許容誤差範囲の少なくとも一方は10%である。また、第1許容誤差範囲および第2許容誤差範囲の少なくとも一方は、波長可変レーザ素子210の使用開始からの経過時間に応じて増加させてもよい。
【0120】
また、第2例では、SOA吸収電流モニタ値(第1モニタ値)が第1許容誤差範囲内になるとともに、光吸収部電流モニタ値が第2許容範囲内になった後に、以下のステップを実行する。すなわち、変形例では、制御装置300は、SOA吸収電流モニタ値と光吸収部電流モニタ値との比であるモニタ比が目標比から第3範囲内の一例である第3許容誤差範囲内になるように、ヒーター1電力およびヒーター2電力を調整し第1反射部211の反射スペクトルおよび第2反射部212の少なくとも一方の反射スペクトルを波長軸方向へシフトさせるステップを実行する。第3許容誤差範囲はたとえば±5%であるが、所望の許容誤差に応じて適宜設定してもよい。このステップはたとえばステップS106にて実行されるが、SOA吸収電流モニタ値(第1モニタ値)が第1許容誤差範囲内になるとともに、光吸収部電流モニタ値が第2許容範囲内になる前に実行してもよい。
【0121】
なお、ヒーター1電力の微調整を行うことにより、第2レーザ光の出力が変化する可能性があり、したがって光吸収部電流が変化する可能性がある。また、ヒーター2電力の微調整を行うことにより、第1レーザ光の出力が変化する可能性があり、したがってSOA吸収電流が変化する可能性がある。そこで、ステップS213の直前でSOA吸収電流モニタ値、光吸収部電流モニタ値、モニタ比の少なくとも1つを再度取得してもよい。
【0122】
さらに、第2例では、SOA吸収電流モニタ値が第1許容誤差範囲内であり、光吸収部電流モニタ値が第2許容範囲内であり、かつモニタ比が目標比から第3許容誤差範囲内である状態において、SOA制御回路312が、演算部370の制御のもと、半導体光増幅器215に順バイアス電圧を印加し、かつメモリ360から読み出した値の電流を半導体光増幅器215に供給し、第1レーザ光を光増幅するように半導体光増幅器215を制御する。また、光吸収部制御回路331は、光吸収部216に逆バイアス電圧を印加し続けてもよい。
【0123】
さらに、第2例では、演算部370は、ステップS213において、SOA吸収電流モニタ値がSOA吸収電流目標値から許容誤差範囲内であり、かつ光吸収部電流モニタ値が光吸収部電流目標値から第2許容誤差範囲内であり、かつモニタ比が目標比から第3範囲内であるかを判定する。この判定は、モニタ比をRm、目標比をRt、第3許容誤差をαrとすると、|Ims-Its|≦αs、|Ima-Ita|≦αaかつ|Rm-Rt|≦αrであるかを判定することと同じである。|Ims-Its|≦αs、|Ima-Ita|≦αaかつ|Rm-Rt|≦αrでない場合(ステップS213、No)、制御はステップS208に戻る。|Ims-Its|≦αs、|Ima-Ita|≦αaかつ|Rm-Rt|≦αrである場合(ステップS213、Yes)、制御は終了する。
【0124】
以上のような第2例に係る制御によれば、波長可変レーザ素子210の光出力が経時的に低下したとしても、波長可変レーザ素子210または波長可変光源装置200の光学特性の初期状態からの変化を効果的に補償することができる。
【0125】
〔制御の第3例〕
つぎに制御の第3例について説明する。たとえば第1反射部211および第2反射部212の信頼性が高く、光学特性の変化が少なく、調整による補償の必要性が少ない場合がある。このような場合は、第3例として、位相調整部213の調整のみを行う。
【0126】
第3例では、制御装置300は、第1例と同様な
図8、9にフローを示す制御を実行する。すなわち、はじめに、ステップS301において、制御装置300は、上位装置などから、波長可変レーザ素子210のレーザ発振波長の目標波長を取得する。
【0127】
つづいて、ステップS302において、演算部370は、メモリ360から、(1)利得部電流指示値、(2)ヒーター1電力指示値、(3)ヒーター2電力指示値、(4)ヒーター3電力指示値、(5)PD1電流目標値、(6)PD2電流目標値、(7)SOA吸収電流目標値(第1電流目標値)、(8)光吸収部電流目標値(第2電流目標値)を読み出す。
【0128】
つづいて、ステップS303において、演算部370は、読み出した(1)~(8)のデータから、目標波長に対応する(1)~(8)を算出する。なお、目標波長がメモリ360に記憶された波長(参照波長)の場合は、読み出した(1)~(8)の値をそのまま使用してよい。さらには、ステップS303では、たとえば(PD2電流目標値/PD1電流目標値)として目標パワー比も算出する。
【0129】
つづいて、ステップS304において、SOA制御回路312は、演算部370から入力された指示信号に基づいて、半導体光増幅器215に逆バイアス電圧を印加する。また、光吸収部制御回路331は、演算部370から入力された指示信号に基づいて、光吸収部216に逆バイアス電圧を印加する。これらの逆バイアス電圧は、入力されたレーザ光のパワーと吸収電流とが線形の関係になるように、すなわち吸収電流が飽和しないように十分な電圧値とすることが望ましい。
【0130】
つづいて、ステップS305において、利得部電流制御回路311、ヒーター1制御回路321、ヒーター2制御回路322、ヒーター3制御回路323は、それぞれ、演算部370の制御のもと、利得部214、ヒーター1、ヒーター2、ヒーター3のそれぞれに、算出したまたは読み出した指示電流または指示電力を供給する。
【0131】
つづいて、ステップS306において、制御装置300は、SOA吸収電流モニタ値(第1モニタ値)および吸収部電流モニタ値(第2モニタ値)を取得し、SOA吸収電流モニタ値がSOA吸収電流目標値から第1許容誤差範囲内になり、かつ吸収部電流モニタ値が吸収部電流目標値から第2許容誤差範囲内になるように、ヒーター3電力を調整し共振器モードの波長を波長軸方向へシフトさせる。第1許容誤差範囲、第2許容誤差範囲はたとえば±5%であるが、所望の許容誤差に応じて適宜設定でき、また互いに異なる値でもよい。
【0132】
ステップS306の後、ステップS307において、SOA制御回路312は、演算部370の制御のもと、半導体光増幅器215に順バイアス電圧を印加し、かつメモリ360から読み出された値の電流を半導体光増幅器215に供給し、第1レーザ光を光増幅するように半導体光増幅器215を制御する。さらに、ステップS107においては、波長ロック制御と光出力一定制御を行い、制御は終了する。
【0133】
なお、ステップS307以降において、光吸収部制御回路331は、光吸収部216に逆バイアス電圧を印加し続け、第2レーザ光が迷光として放出されないようにしてもよい。
【0134】
つぎに、
図8におけるヒーター3電力を調整するステップS306をより詳細に説明する。
図9は、
図8におけるヒーター3電力を調整するステップS306の一例を示すフロー図である。
【0135】
図9に示すフローは、ステップS401~S403の粗調整のステップと、ステップS404~S406の微調整のステップとからなる。粗調整のステップでは、ボトム・ピークサーチを行う。
【0136】
はじめに、ステップS401において、ヒーター3制御回路323は、演算部370の制御のもと、ヒーター3電力を所定量だけ調整(変更)する。所定量の絶対値は後述する|R3|よりも十分小さい値とする。また、所定量は、波長軸に対する調整の方向に応じて、正値も負値も取り得る。
【0137】
つづいて、ステップS402において、SOA吸収電流モニタ回路313は、演算部370の制御のもと、SOA吸収電流モニタ値を取得する。
【0138】
つづいて、ステップS403において、演算部370は、ヒーター3電力の総調整量が|R3|以下であるかどうかを判定する。総調整量が|R3|以下である場合(ステップS403、Yes)、制御はステップS401に戻る。一方、総調整量が|R3|より大きい場合(ステップS403、No)、制御はステップS404に進む。総調整量が|R3|より大きい場合は、ヒーター3電力に関するSOA吸収電流のデータの取得が、R3の電力範囲にて実行されたこととなる。
【0139】
つづいて、ステップS404において、ヒーター1制御回路321は、演算部370の制御のもと、ヒーター3電力を微調整する。微調整の量はステップS401の所定量よりも十分小さくする。
【0140】
つづいて、ステップS405において、SOA吸収電流モニタ回路313および光吸収部電流モニタ回路332は、演算部370の制御のもと、それぞれSOA吸収電流モニタ値、光吸収部電流モニタ値を取得する。
【0141】
つづいて、ステップS406において、演算部370は、SOA吸収電流モニタ値がSOA吸収電流目標値から第1許容誤差範囲内であり、かつ光吸収部電流モニタ値が光吸収部電流目標値から第2許容誤差範囲内であるかを判定する。すなわち、|Ims-Its|≦αsかつ|Ima-Ita|≦αaであるかを判定する。|Ims-Its|≦αsかつ|Ima-Ita|≦αaでない場合(ステップS406、No)、制御はステップS404に戻る。|Ims-Its|≦αsかつ|Ima-Ita|≦αaである場合(ステップS406、Yes)、制御は終了する。
【0142】
以上のような第3例に係る制御によれば、波長可変レーザ素子210または波長可変光源装置200の光学特性の初期状態からの変化を、より簡易かつ効果的に補償をすることができる。なお、第3例の変形例として、第2例と同様に、SOA吸収電流と光吸収部電流との比を用いた制御を追加してもよい。
【0143】
(実施形態2)
図10は、実施形態2に係るレーザ装置の構成を示す模式図である。このレーザ装置100Aは、レーザ装置100の波長可変光源装置200を波長可変光源装置200Aに置き換え、制御装置300を制御装置300Aに置き換えた構成を有する。
【0144】
波長可変光源装置200Aは、波長可変光源装置200の波長可変レーザ素子210を波長可変レーザ素子210Aに置き換え、光分波器281および受光素子282(以下、「PD3」と記載する場合がある)を追加し、かつ光分波器220を削除し、光分波器231、エタロンフィルタ232、受光素子233、234、およびフィルタ温度モニタ素子235の位置を移動させた構成を有する。
【0145】
波長可変レーザ素子210Aは、波長可変レーザ素子210の第1反射部211と半導体光増幅器215との間に光分波器217を設けた構成を有する。光分波器217は、前記第1反射部211から出力される第1レーザ光の一部を分岐し、半導体光増幅器215および光吸収部216を通過させずに、第3レーザ光として取り出し、第1反射部211、利得部214、位相調整部213、第2反射部212、光吸収部216に沿って形成された光導波路を導波してレーザ光L2として、光ファイバ270とは反対側に出力する。なお、第1レーザ光のうち分岐されなかった成分は半導体光増幅器215に入力し、光増幅されて光分波器281に入力される。
【0146】
光分波器281は、半導体光増幅器215から入力された第1レーザ光の大部分を、レーザ光L1として光ファイバ270へ透過する一方、残りの第1レーザ光を受光素子282へ反射する。光分波器281は、ビームスプリッタ等を用いて構成される。受光素子282は、光分波器281で反射された第1レーザ光を受光し、その受光パワーに応じた電流信号を制御装置300Aへ出力する。受光素子282は、フォトダイオードを用いて構成される。
【0147】
光分波器231は、第3レーザ光としてのレーザ光L2を入力される。入力された第3レーザ光は、その後分岐され、
図1の波長可変光源装置200の場合と同様に、エタロンフィルタ232、受光素子233、234のそれぞれに入力される。
【0148】
制御器300Aは、制御器300にPD3電流モニタ回路343を追加した構成を有する。制御装置300についてはレーザ装置100におけるものと同じ構成を有するので詳細な説明は省略する。PD3電流モニタ回路343は、PD3(受光素子282)から入力された電流値(PD3電流値)に対してA/D変換処理を行ってデジタル信号に変換し、このデジタル信号を演算部370へ出力する。このデジタル信号は、レーザ光L1のパワーをモニタするために使用される。モニタの結果はたとえばレーザ光L1の光出力一定制御に使用される。
【0149】
この波長可変レーザ素子210Aおよびレーザ装置100Aでは、半導体光増幅器215の動作状態、たとえば吸収状態か否かに関わらず波長ロック制御を同じ条件にて実施することができる。
【0150】
[制御の第4例]
レーザ装置100Aでは、上記の制御の第1~3例のいずれも実行することができる。ただし、ステップS106またはステップS306におけるヒーター1電力、ヒーター2電力またはヒーター3電力の調整の前に、半導体光増幅器215に逆バイアス電圧を印加したままで波長ロック制御を開始してもよい。
【0151】
たとえば、レーザ装置100Aでは、以下のような制御の第4例を実行する。
図11は、制御装置300Aが実行する制御の第4例を示すフロー図である。はじめに、ステップS501において、制御装置300Aは、上位装置などから、波長可変レーザ素子210のレーザ発振波長の目標波長を取得する。
【0152】
つづいて、ステップS502において、演算部370は、メモリ360から、(1)利得部電流指示値、(2)ヒーター1電力指示値、(3)ヒーター2電力指示値、(4)ヒーター3電力指示値、(5)PD1電流目標値、(6)PD2電流目標値、(7)SOA吸収電流目標値(第1電流目標値)、(8)光吸収部電流目標値(第2電流目標値)を読み出す。
【0153】
つづいて、ステップS503において、演算部370は、読み出した(1)~(8)のデータから、目標波長に対応する(1)~(8)を算出する。なお、目標波長がメモリ360に記憶された波長(参照波長)の場合は、読み出した(1)~(8)の値をそのまま使用してよい。さらには、ステップS503では、たとえば(PD2電流目標値/PD1電流目標値)として目標パワー比も算出する。
【0154】
つづいて、ステップS504において、SOA制御回路312は、演算部370から入力された指示信号に基づいて、半導体光増幅器215に逆バイアス電圧を印加する。また、光吸収部制御回路331は、演算部370から入力された指示信号に基づいて、光吸収部216に逆バイアス電圧を印加する。これらの逆バイアス電圧は、入力されたレーザ光のパワーと吸収電流とが線形の関係になるように、すなわち吸収電流が飽和しないように十分な電圧値とすることが望ましい。
【0155】
つづいて、ステップS505において、利得部電流制御回路311、ヒーター1制御回路321、ヒーター2制御回路322、ヒーター3制御回路323は、それぞれ、演算部370の制御のもと、利得部214、ヒーター1、ヒーター2、ヒーター3のそれぞれに、算出したまたは読み出した指示電流または指示電力を供給する。
【0156】
つづいて、ステップS506おいて、制御装置300Aは、波長ロック制御を実行する。
【0157】
つづいて、ステップS507において、制御装置300Aは、SOA吸収電流モニタ値(第1モニタ値)を取得し、SOA吸収電流モニタ値がSOA吸収電流目標値から第1範囲内の一例である第1許容誤差範囲内になるように、ヒーター1電力を調整し第1反射部211の反射スペクトルを波長軸方向へシフトさせる。また、制御装置300Aは、吸収部電流モニタ値(第2モニタ値)を取得し、吸収部電流モニタ値が吸収部電流目標値から第2範囲内の一例である第2許容誤差範囲内になるように、ヒーター2電力を調整し第2反射部212の反射スペクトルを波長軸方向へシフトさせる。第1許容誤差範囲、第2許容誤差範囲はたとえば±5%であるが、所望の許容誤差に応じて適宜設定でき、また互いに異なる値でもよい。
【0158】
ステップS507の後、ステップS508において、SOA制御回路312は、演算部370の制御のもと、半導体光増幅器215に順バイアス電圧を印加し、かつメモリ360から読み出された値の電流を半導体光増幅器215に供給し、第1レーザ光を光増幅するように半導体光増幅器215を制御する。さらに、ステップS508においては、光出力一定制御を行い、制御は終了する。
【0159】
なお、ステップS508以降において、光吸収部制御回路331は、光吸収部216に逆バイアス電圧を印加し続け、第2レーザ光が迷光として放出されないようにしてもよい。
【0160】
以下、ステップS507の内容の具体例を、
図12を参照して具体的に説明する。はじめに、ステップS601において、ヒーター1制御回路321は、演算部370の制御のもと、ヒーター1電力を所定量だけ調整(変更)する。所定量の絶対値は後述する|R1|よりも十分小さい値とする。また、所定量は、波長軸に対する調整の方向に応じて、正値も負値も取り得る。
【0161】
つづいて、ステップS602において、SOA吸収電流モニタ回路313は、演算部370の制御のもと、SOA吸収電流モニタ値を取得する。
【0162】
つづいて、ステップS603において、演算部370は、ヒーター1電力の総調整量が|R1|以下であるかどうかを判定する。総調整量が|R1|以下である場合(ステップS603、Yes)、制御はステップS601に戻る。一方、総調整量がR1より大きい場合(ステップS603、No)、制御はステップS204に進む。
【0163】
つづいて、ステップS604において、ヒーター2制御回路322は、演算部370の制御のもと、ヒーター2電力を所定量だけ調整する。所定量の絶対値は、|R2|よりも十分小さい値とする。また、所定量は、波長軸に対する調整の方向に応じて、正値も負値も取り得る。
【0164】
つづいて、ステップS605において、SOA吸収電流モニタ回路313は、演算部370の制御のもと、SOA吸収電流モニタ値を取得する。
【0165】
つづいて、ステップS606において、演算部370は、ヒーター2電力の総調整量が|R2|以下であるかどうかを判定する。総調整量が|R2|以下である場合(ステップS606、Yes)、ステップS607おいてヒーター1制御回路321はヒーター1電力を、ステップS601を行う前の始めの値に戻し、制御はステップS602に戻る。一方、総調整量が|R2|より大きい場合(ステップS606、No)、制御はステップS608に進む。
【0166】
つづいて、ステップS608において、ヒーター1制御回路321は、演算部370の制御のもと、ヒーター1電力を微調整する。微調整の量はステップS601の所定量よりも十分小さくする。
【0167】
つづいて、ステップS609において、SOA吸収電流モニタ回路313は、演算部370の制御のもと、SOA吸収電流モニタ値を取得する。
【0168】
つづいて、ステップS610において、演算部370は、SOA吸収電流モニタ値がSOA吸収電流目標値から第1許容誤差範囲内か、すなわち、|Ims-Its|≦αsであるかを判定する。SOA吸収電流モニタ値がSOA吸収電流目標値から第1許容誤差範囲内でない場合(ステップS610、No)、制御はステップS608に戻る。SOA吸収電流モニタ値がSOA吸収電流目標値から第1許容誤差範囲内である場合(ステップS610、Yes)、制御はステップS611に進む。
【0169】
つづいて、ステップS611において、ヒーター3制御回路322は、演算部370の制御のもと、ヒーター2電力を微調整する。微調整の量はステップS604の所定量よりも十分小さくする。
【0170】
つづいて、ステップS612において、光吸収部電流モニタ回路332は、演算部370の制御のもと、光吸収部電流モニタ値を取得する。なお、ステップS611のヒーター2電力の微調整を行うことにより、第1レーザ光の出力が変化する可能性があり、したがってSOA吸収電流が変化する可能性がある。そこで、ステップS612で再度SOA吸収電流モニタ値を取得してもよい。
【0171】
なお、ステップS608からステップS612までの順番についてはこれに限られない。たとえば、ヒーター1電力を微調整する前にヒーター2電力を微調整してもよい。このように、本明細書におけるステップの順番は、あくまでの一例であって、所期の効果をそうすれば適宜順番を入れ替え可能である。
【0172】
つづいて、ステップS613において、演算部370は、SOA吸収電流モニタ値がSOA吸収電流目標値から第1許容誤差範囲内であり、かつ光吸収部電流モニタ値が光吸収部電流目標値から第2許容誤差範囲内であるか、すなわち、|Ims-Its|≦αsかつ|Ima-Ita|≦αaであるかを判定する。|Ims-Its|≦αsかつ|Ima-Ita|≦αaでない場合(ステップS613、No)、制御はステップS611に戻る。|Ims-Its|≦αsかつ|Ima-Ita|≦αaである場合(ステップS613、Yes)、制御は終了する。
【0173】
なお、第4例の変形例として、第2例と同様に、SOA吸収電流と光吸収部電流との比を用いた制御を追加してもよい。
【0174】
[波長可変レーザ素子の変形例1]
以下では、上記実施形態において波長可変レーザ素子210と置き換えることができる波長可変レーザ素子の変形例について説明する。
【0175】
図13は、波長可変レーザ素子の変形例1の構成を示す模式図である。波長可変レーザ素子210Bは、
図1に示す波長可変レーザ素子210の第2反射部212を第2反射部212Bに置き換え、光吸収部216を光吸収部216Bに置き換えた構成を有する。
【0176】
第2反射部212Bは、特許文献2に開示されるようなリング共振器ミラーである。すなわち、波長可変レーザ素子210Bでは、第1反射部211および第2反射部212Bの一つがDBR構造を含み、一つはリング共振器ミラーである。
【0177】
光吸収部216Bは、活性層を含む導波路を有している。光吸収部216Bには第2反射部212Bの両アームが光学的に接続されている。光吸収部216Bは第2光吸収部の一例である。
【0178】
図14は、波長可変レーザ素子の変形例2の構成を示す模式図である。波長可変レーザ素子210Cは、
図13に示す波長可変レーザ素子210Bの光吸収部216Bを光吸収部216Cに置き換えた構成を有する。
【0179】
光吸収部216Cは、活性層を含む導波路を有している。光吸収部216Cには第2反射部212Bの片側アームが光学的に接続されている。光吸収部216Cは第2光吸収部の一例である。
【0180】
なお、波長可変レーザ素子のさらなる変形例3として、波長可変レーザ素子210B、210Cにおいて第1反射部211をリング共振器ミラーに置き換えてもよい。
【0181】
また、変形例1~3の波長可変レーザ素子に、波長可変レーザ素子210Aと同様に光分波器217を設ければ、レーザ装置100Aにおいて波長可変レーザ素子210Aと置き換えることができる。
【0182】
なお、上記実施形態により本発明が限定されるものではない。上述した各構成要素を適宜組み合わせて構成したものも本発明に含まれる。たとえば、制御の第3において第2例のように比を用いた判定を行ってもよい。また、光分波器は第2光反射部と光吸収部との間に配置され、第2レーザ光の一部を分岐し、光吸収部を通過させずに出力するものでもよい。また、さらなる効果や変形例は、当業者によって容易に導き出すことができる。よって、本発明のより広範な態様は、上記の実施形態に限定されるものではなく、様々な変更が可能である。
【符号の説明】
【0183】
100、100A :レーザ装置
200、200A :波長可変光源装置
210、210A、210B、210C :波長可変レーザ素子
211 :第1反射部
211a :第1ヒーター部
212、212B :第2反射部
212a :第2ヒーター部
213 :位相調整部
213a :第3ヒーター部
214 :利得部
215 :半導体光増幅器
216、216B、216C :光吸収部
217、220、231、281 :光分波器
221 :第2反射部
232 :エタロンフィルタ
233、234、282 :受光素子
235 :フィルタ温度モニタ素子
270 :光ファイバ
290 :温度調節器
300 :制御装置
311 :利得部電流制御回路
312 :SOA制御回路
313 :SOA吸収電流モニタ回路
321 :ヒーター1制御回路
322 :ヒーター2制御回路
323 :ヒーター3制御回路
331 :光吸収部制御回路
332 :光吸収部電流モニタ回路
341 :PD1電流モニタ回路
342 :PD2電流モニタ回路
351 :エタロン温度モニタ回路
352 :エタロン温度制御回路
360 :メモリ
370 :演算部
C :光共振器
L1、L2 :レーザ光
S1、S2、S1a、S2a、S3 :スペクトル