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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-21
(45)【発行日】2024-10-29
(54)【発明の名称】圧電体膜の形成方法及び圧電デバイス
(51)【国際特許分類】
   H10N 30/079 20230101AFI20241022BHJP
   C23C 14/08 20060101ALI20241022BHJP
   H03H 3/02 20060101ALI20241022BHJP
   H03H 3/08 20060101ALI20241022BHJP
   H03H 9/17 20060101ALI20241022BHJP
   H03H 9/25 20060101ALI20241022BHJP
   H10N 30/853 20230101ALI20241022BHJP
【FI】
H10N30/079
C23C14/08 K
H03H3/02 B
H03H3/08
H03H9/17 F
H03H9/25 C
H10N30/853
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2021064232
(22)【出願日】2021-04-05
(65)【公開番号】P2022159810
(43)【公開日】2022-10-18
【審査請求日】2024-01-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000231464
【氏名又は名称】株式会社アルバック
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【弁理士】
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(72)【発明者】
【氏名】松岡 耕平
(72)【発明者】
【氏名】露木 達朗
(72)【発明者】
【氏名】小林 宏樹
【審査官】黒田 久美子
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-186258(JP,A)
【文献】国際公開第98/056109(WO,A1)
【文献】特開2003-101372(JP,A)
【文献】特開2007-314378(JP,A)
【文献】特開2007-251387(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H10N 30/079
H10N 30/853
H10N 30/076
H10N 30/093
H03H 9/17
H03H 3/02
H03H 9/25
H03H 3/08
C23C 14/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
LiNbOまたはLiTaOからなる圧電体膜を形成する圧電体膜の形成方法であって、
基材上に下部電極層を形成し、前記下部電極層上に前記圧電体膜の結晶方位を(012)面方向に配向させるバッファ層としてペロブスカイト構造を有するLaNiO3、SrRuO 、LaCoO またはKNaNbO のうち何れか1つを形成し、前記バッファ層に、スパッタリング法により前記圧電体膜を形成する、圧電体膜の形成方法。
【請求項2】
LiNbO3またはLiTaO3からなる圧電体膜を形成する圧電体膜の形成方法であって、
基材上に、前記圧電体膜の結晶方位を(012)面方向に配向させるとともに下部電極層を兼ねるバッファ層として(002)面方向に結晶方位が配向されたAgを形成し、前記バッファ層に、スパッタリング法により前記圧電体膜を形成する、圧電体膜の形成方法。
【請求項3】
LiNbO3またはLiTaO3からなる圧電体膜を形成する圧電体膜の形成方法であって、
基材上に、前記圧電体膜の結晶方位を(012)面方向に配向させるバッファ層としてTiNを形成し、前記バッファ層上に下部電極層を形成し、前記下部電極層上に、スパッタリング法により前記圧電体膜を形成する、圧電体膜の形成方法。
【請求項4】
前記バッファ層が、LaNiO からなる、請求項1に記載の圧電体膜の形成方法。
【請求項5】
前記バッファ層が、Ag膜上にTiN、TiW、TiWNのうちの1種からなる膜が積層されたものである、請求項に記載の圧電体膜の形成方法。
【請求項6】
前記スパッタリング法が、ニオブ酸化物またはタンタル酸化物からなる第1ターゲットと、酸化リチウムからなる第2ターゲットとを用いるコスパッタリング法である、請求項1乃至請求項5の何れか一項に記載の圧電体膜の形成方法。
【請求項7】
基材と、
下部電極と、
前記下部電極上に配置されたバッファ層と、
前記バッファ層上に配置されて(012)面方向に結晶方位が配向されたLiNbOまたはLiTaOからなる圧電体膜と、
前記圧電体膜上に配置された上部電極と、を備え、
前記バッファ層は、ペロブスカイト構造を有するLaNiO3、SrRuO 、LaCoO またはKNaNbO のうち何れか1つである、圧電デバイス。
【請求項8】
基材と、
前記基材上に配置されて下部電極を兼ねるバッファ層と、
前記バッファ層上に配置されて(012)面方向に結晶方位が配向されたLiNbOまたはLiTaOからなる圧電体膜と、
前記圧電体膜上に配置された上部電極と、を備え、
前記バッファ層は、(002)面方向に結晶方位が配向されたAgである、圧電デバイス。
【請求項9】
基材と、
前記基材上に配置されたバッファ層と、
前記バッファ層上に配置された下部電極と、
前記下部電極上に配置されて(012)面方向に結晶方位が配向されたLiNbOまたはLiTaOからなる圧電体膜と、
前記圧電体膜上に配置された上部電極と、を備え、
前記バッファ層は、TiNである、圧電デバイス。
【請求項10】
前記バッファ層が、LaNiO からなる、請求項に記載の圧電デバイス。
【請求項11】
前記バッファ層上にTiN、TiW、TiWNのうちの1種からなる膜が積層されている、請求項に記載の圧電デバイス。
【請求項12】
前記圧電体膜の膜厚が、300nm以下である、請求項乃至請求項11の何れか一項に記載の圧電デバイス。
【請求項13】
前記圧電体膜に対してX線回折のロッキングカーブ測定を行った場合における前記圧電体膜の(012)面のX線回折ピークの半価幅が、10°以下である、請求項乃至請求項12の何れか一項に記載の圧電デバイス。
【請求項14】
請求項乃至請求項13の何れかに記載の圧電デバイスが、FBAR型フィルタまたはSAW型フィルタである、圧電デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電体膜の形成方法及び圧電デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
IoT関連の急速な市場拡大を背景に、通信分野の需要が高まっている。通信接続速度及び通信帯域の向上により、フィルタ性能の向上が求められている。現在、フィルタとしては、FBAR型フィルタ(Film Bulk Acoustic Resonator)やSAW型フィルタ(Surface Acoustic Wave filter)が主流であり、周波数帯で棲み分けられている。FBAR型フィルタとしては、例えば、特許文献1に記載されたバルク音響共振器が知られている。
【0003】
特許文献1に例示されるように、FBAR型フィルタの圧電体膜には、通常、窒化アルミニウム(AlN)が使われている。しかし、最近では、更なる性能向上のために、電気機械結合係数が優れた材料が求められており、ScをドーピングしたAlN(Sc-AlN)の開発が盛んになっている。また、最近では、AlNに代えて、LiNbOやLiTaOを用いた圧電体膜の開発も盛んになってきている。
【0004】
LiNbOは、バルク体を36°回転Yカットした場合に準縦波の電気機械結合係数が最大で約50%を示すとされており、ScをドーピングしたAlN(Sc-AlN)の電気機械結合係数が最大でも20%程度であることから、その潜在的性能の高さが伺える。ただし、LiNbOは、単結晶における36°回転Yカット方向に相当する方向に配向させることによって電気機械結合係数が最大値を示すものとされているため、LiNbOよりなる圧電体膜を形成するためには、その配向方向を薄膜形成プロセスにて正確に制御する必要がある。また、LiTaOについても、36°回転Yカット方向に配向させることによって高い電気機械結合係数が得られるとされているため、LiNbOの場合と同様に、薄膜形成時に配向方向の制御が必要になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2019-193168号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、FBAR型フィルタを構成するためには、基板上に下部電極を形成し、下部電極上に圧電材料からなる圧電体膜を形成し、更にその上に上部電極を形成する必要がある。下部電極の材質は、例えば、モリブデン、ルテニウム、タングステン、イリジウム、白金などが挙げられるが、これらの材質からなる下部電極上にLiNbOまたはLiTaOからなる圧電体膜を形成すると、LiNbOやLiTaOは単結晶におけるZカット方向に相当する方向であるc軸方向に配向し、36°回転Yカット方向に相当する方向である(012)方向には配向しないため、形成された圧電体膜は高い電気機械結合係数を発揮することができない。
【0007】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであって、スパッタリング法によってLiNbOまたはLiTaOを成膜する際に、LiNbOまたはLiTaOを配向制御することが可能な圧電体膜の形成方法及びその圧電体膜を備えた圧電デバイスを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明は以下の構成を採用する。
[1] LiNbOまたはLiTaOからなる圧電体膜を形成する圧電体膜の形成方法であって、
基材上に下部電極層を形成し、前記下部電極層上に前記圧電体膜の結晶方位を(012)面方向に配向させるバッファ層としてペロブスカイト構造を有するLaNiO3、SrRuO 、LaCoO またはKNaNbO のうち何れか1つを形成し、前記バッファ層に、スパッタリング法により前記圧電体膜を形成する、圧電体膜の形成方法。
[2] LiNbO3またはLiTaO3からなる圧電体膜を形成する圧電体膜の形成方法であって、
基材上に、前記圧電体膜の結晶方位を(012)面方向に配向させるとともに下部電極層を兼ねるバッファ層として(002)面方向に結晶方位が配向されたAgを形成し、前記バッファ層上に、スパッタリング法により前記圧電体膜を形成する、圧電体膜の形成方法。
[3] LiNbO3またはLiTaO3からなる圧電体膜を形成する圧電体膜の形成方法であって、
基材上に、前記圧電体膜の結晶方位を(012)面方向に配向させるバッファ層としてTiNを形成し、前記バッファ層上に下部電極層を形成し、前記下部電極層上に、スパッタリング法により前記圧電体膜を形成する、圧電体膜の形成方法。
] 前記バッファ層が、LaNiO からなる、[1]に記載の圧電体膜の形成方法。
] 前記バッファ層が、Ag膜上にTiN、TiW、TiWNのうちの1種からなる膜が積層されたものである、[]に記載の圧電体膜の形成方法。
] 前記スパッタリング法が、ニオブ酸化物またはタンタル酸化物からなる第1ターゲットと、酸化リチウムからなる第2ターゲットとを用いるコスパッタリング法である、[1]乃至[5]の何れか一項に記載の圧電体膜の形成方法
] 基材と、
下部電極と、
前記下部電極上に配置されたバッファ層と、
前記バッファ層上に配置されて(012)面方向に結晶方位が配向されたLiNbOまたはLiTaOからなる圧電体膜と、
前記圧電体膜上に配置された上部電極と、を備え、
前記バッファ層は、ペロブスカイト構造を有するLaNiO3、SrRuO 、LaCoO またはKNaNbO のうち何れか1つである、圧電デバイス。
] 基材と、
前記基材上に配置されて下部電極を兼ねるバッファ層と、
前記バッファ層上に配置されて(012)面方向に結晶方位が配向されたLiNbOまたはLiTaOからなる圧電体膜と、
前記圧電体膜上に配置された上部電極と、を備え、
前記バッファ層は、(002)面方向に結晶方位が配向されたAgである、圧電デバイス。
] 基材と、
前記基材上に配置されたバッファ層と、
前記バッファ層上に配置された下部電極と、
前記下部電極上に配置されて(012)面方向に結晶方位が配向されたLiNbOまたはLiTaOからなる圧電体膜と、
前記圧電体膜上に配置された上部電極と、を備え、
前記バッファ層は、TiNである、圧電デバイス。
10] 前記バッファ層が、LaNiO からなる、[]に記載の圧電デバイス[11] 前記バッファ層上にTiN、TiW、TiWNのうちの1種からなる膜が積層されている、[]に記載の圧電デバイス
12] 前記圧電体膜の膜厚が、300nm以下である、[]乃至[11]の何れか一項に記載の圧電デバイス。
13] 前記圧電体膜に対してX線回折のロッキングカーブ測定を行った場合における前記圧電体膜の(012)面のX線回折ピークの半価幅が、10°以下である、[]乃至[12]の何れか一項に記載の圧電デバイス。
14] []乃至[13]の何れかに記載の圧電デバイスが、FBAR型フィルタまたはSAW型フィルタである、圧電デバイス。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る圧電体膜の形成方法によれば、LiNbOまたはLiTaOを配向制御することが可能な圧電体膜の形成方法及びその圧電体膜を備えた圧電デバイスを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、本発明の実施形態である圧電デバイスの一例を示す断面模式図。
図2図2は、本発明の実施形態である圧電デバイスの別の例を示す断面模式図。
図3図3は、本発明の実施形態である圧電体膜の形成方法に用いるスパッタリング装置の一例を示す断面模式図。
図4図4は、本発明の実施形態である圧電体膜の形成方法に用いるスパッタリング装置の別の例を示す断面模式図。
図5図5は、本発明の実施形態である圧電デバイスの製造工程を説明する工程図。
図6図6は、本発明の実施形態である圧電デバイスの製造工程を説明する工程図。
図7図7は、本発明の実施形態である圧電デバイスの製造工程を説明する工程図。
図8図8は、本発明の実施形態である圧電デバイスの製造工程を説明する工程図。
図9図9は、本発明の実施形態である圧電デバイスの製造工程を説明する工程図。
図10図10は、本発明の実施形態である圧電デバイスの製造工程を説明する工程図。
図11図11は、本発明の実施形態である圧電デバイスの製造工程を説明する工程図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態である圧電体膜の形成方法及び圧電デバイスについて図面を参照して説明する。
【0012】
まず、本発明の基本的な形態を説明する。図1に、本実施形態の圧電デバイスの一例を断面模式図で示す。図1に示す圧電デバイスは、基材1と、基材1上に配置されたバッファ層2と、バッファ層2上に配置されて(012)面方向に結晶方位が配向されたLiNbOまたはLiTaOからなる圧電体膜3と、を備えている。バッファ層2は、圧電体膜3の結晶方位を(012)面方向に配向させる層である。
【0013】
また、図2には、本実施形態の圧電デバイスの別の例を断面模式図で示す。図2に示す圧電デバイスは、基材1と、基材1上に配置されたバッファ層2と、バッファ層2の上に配置された酸化防止膜4と、酸化防止膜4上に配置された圧電体膜3と、を備えている。バッファ層2は、圧電体膜3の結晶方位を(012)面方向に配向させる層である。
【0014】
なお、後述するように、バッファ層2と圧電体膜3との間に、別の層を積層してもよい。
【0015】
基材1は、薄膜成膜プロセスの基材として使用できるものであれば特に制限はない。基材1として例えば、単結晶シリコンからなる半導体基板であってもよい。また、表面に酸化シリコン膜が形成された単結晶シリコンからなる半導体基板であってもよい。
【0016】
また、基材1をなす半導体基板上には、圧電体膜3に電圧を印加するための電極層が備えられていてもよい。この場合、電極層上にバッファ層2および圧電体膜3が積層されているとよい。更に、バッファ層2が導電体からなる場合は、バッファ層2が電極層を兼ねることができる。この場合は、基材1をなす半導体基板上に、電極層を兼ねるバッファ層2及び圧電体膜3が積層されていてもよく、半導体基板上に、電極層を兼ねるバッファ層2、酸化防止膜4及び圧電体膜3が積層されていてもよい。電極層は、導電体または半導体からなることが好ましい。また、後述するように、バッファ層2と圧電体膜3との間に、別の層として電極層を積層してもよい。また、基材1と電極層との間に、密着層を形成してもよい。密着層は例えば酸化チタン膜でもよい。
【0017】
電極層の材質は、Pt、Mo、Ru、W、Ir等を用いることができる。なお、これらの材質からなる電極層上に圧電体膜を直接成膜すると、LiNbOまたはLiTaOの結晶方位は(001)面方向に配向し、(012)面方向に配向させることは困難である。
【0018】
バッファ層2は、具体的には、(002)面方向に結晶方位が配向されたAg、またはLaNiO、またはTiNからなることが好ましい。これらバッファ層2が形成されていることで、バッファ層2の上にLiNbOまたはLiTaOからなる圧電体膜を積層した場合に、LiNbOまたはLiTaOの結晶方位を(012)面方向に配向させることが可能になる。また、バッファ層2は、導電体または半導体からなることが好ましい。またバッファ層2としてLaNiOと同様のペロブスカイト構造を有するSrRuOやLaCoO、 KNaNbO等を採用することができる。
【0019】
また、前述したように、Agのような導電体からなる場合のバッファ層2は、圧電体膜3に電圧を印加する際の電極として機能してもよい。また、Agからなるバッファ層2を単結晶シリコンからなる基材1上に形成する場合において、基材1の表面に自然酸化膜である酸化シリコン膜が存在する場合は、酸化シリコン膜を公知のふっ酸処理あるいはドライエッチングにより予め除去しておくことが好ましい。
【0020】
更に、バッファ層2がAgからなる場合は、図2に示すように、バッファ層2上に酸化防止膜4が積層されていてもよい。
【0021】
バッファ層2の厚みは、10~150nmの範囲が好ましく、30~150nmの範囲であることがより好ましく、40~100nmの範囲であることが更に好ましい。バッファ層2が十分な厚みを有することで、圧電体膜3を所望の結晶方位に配向させることができる。また、バッファ層2が過剰に厚すぎないことで導電性を確保でき、圧電体膜3に電圧を印加することが可能になる。
【0022】
酸化防止膜4は、TiN、TiW、TiWNのうちの1種からなることが好ましい。酸化防止膜4は、バッファ層2の酸化を防止するとともに酸化防止膜自身の酸化も抑制する。酸化防止膜4は、バッファ層2と同様に、圧電体膜3の結晶方位を(012)面方向に配向させる層であることが好ましい。これにより、酸化防止膜4の上に圧電体膜3が形成された場合にも、圧電体膜3の表面における結晶方位を(012)面方向に配向させることができる。また、酸化防止膜4をバッファ層2上に形成することで、圧電体膜3の成膜時に雰囲気が酸化性雰囲気とされた場合であっても、バッファ層2の表面酸化を抑制することができ、また、酸化防止膜4自体の酸化も抑制される。これにより、バッファ層2上に酸化物層が形成されるおそれがなく、圧電体膜3の結晶方位を(012)面方向に配向させることが可能になる。また、酸化防止膜4は、導電体または半導体からなることが好ましい。
【0023】
酸化防止膜4の厚みは、10~200nmの範囲であることが好ましく、40~100nmの範囲であることがより好ましい。酸化防止膜4が十分な厚みを有することで、バッファ層2の酸化を十分に抑制することができ、また、圧電体膜3を所望の結晶方位に配向させることができる。また、酸化防止膜4が過剰に厚すぎないことで導電性を確保でき、圧電体膜3に電圧を印加することが可能になる。
【0024】
圧電体膜3は、その表面の面内において(012)面方向に結晶方位が配向されたLiNbOまたはLiTaOからなる。LiNbO及びLiTaOは、いずれも、三方晶系イルメナイト類似構造を持つ複合酸化物であって結晶構造が相互に類似する。LiNbO及びLiTaOは、単結晶における36°回転Yカット方向に相当する面において、機械電気結合係数(準縦波)が最大で50%程度の値を示すものとなり、圧電デバイスに好適に用いることができる。従来、LiNbOまたはLiTaOを薄膜形成プロセスで形成すると、C軸方向((001)面方向)に配向したものしか得られなかったが、本実施形態では、バッファ層2の上にスパッタリング法により圧電体膜3を形成することで、(012)面方向に結晶方位が配向されたものが得られ、しかも膜厚が極めて薄いものが得られ、これにより、圧電デバイスの特性を大幅に向上できる。
【0025】
圧電体膜3の厚みは、特に限定するものではないが、300nm以下であることが好ましく、200nm以下であってもよい。圧電体膜の厚みを300nm以下にすることにより、例えば圧電体膜3を高周波フィルタの圧電体膜として用いた際に、12.23GHzの共振周波数を得ることが出来、十数GHz帯の信号が入力されたとしても、フィルタとして機能させることが可能なる。なお、従来技術では、(012)面方向に配向されたLiNbOまたはLiTaOからなる圧電体膜を得る場合は、単結晶から切出す以外に手段がなく、この場合は単結晶から300nm以下の膜厚で切り出すことは到底困難であったが、本実施形態の圧電体膜3は、後述するようにスパッタリング法によって形成できるため、膜厚を300nm以下にすることは容易である。
【0026】
圧電体膜3の厚みは、300nm以下に限定するものではなく、圧電デバイスとして求められる共振周波数帯域に応じて厚みを調整してもよい。例えば、下限は40nm以上としてもよく、上限は2000nm以下としてもよいが、圧電体膜3の厚みは40~2000nmの範囲に限定されるものではない。
【0027】
また、圧電体膜3の(012)面のX線回折ピークの半価幅が、10°以下であることが好ましい。半価幅は、圧電体膜3に対してX線回折のロッキングカーブ測定(いわゆるω測定)を行うことにより測定される。半価幅が、10°以下であることにより、圧電体膜3の結晶性が高まり、機械電気結合係数をより高めることができる。半価幅はより好ましくは2°以下である。
【0028】
更に、圧電体膜3の上には、圧電体膜3に電圧を印加するための別の電極層が備えられていてもよい。別の電極層は、導電体または半導体からなることが好ましい。また、別の電極層は、先に説明した電極層と同様の材質、膜厚であればよい。
【0029】
本実施形態の圧電デバイスは、FBAR型フィルタまたはSAW型フィルタとして利用されることが好ましい。更に、本実施形態の圧電デバイスは、XBAR(Bulk Acoustic Wave Plate wave device)、HAL(Hetero Acoustic Layer)SAWにも適用することができる。加えて、全固体電池の正極活物質と固体電解質間の被覆層や、光変調デバイスにも適用することができる。
【0030】
本実施形態の圧電デバイスによれば、膜表面において(012)面の方位に配向したLiNbOまたはLiTaOからなる圧電体膜3を備えているので、その機械電気結合係数が高くなり、優れた圧電効果を発揮できるようになる。
更に、(012)面のX線回折ピークの半価幅が、10°以下とされた圧電体膜3は、その機械電気結合係数が更に高くなり、より優れた圧電効果を発揮できるようになる。
【0031】
また、本実施形態の圧電デバイスとして、圧電体膜3の厚さ方向両側に電極層を配置することにより、フィルタとして機能させることができる。特に、FBAR型フィルタとして機能させることができる。
【0032】
次に、本実施形態の圧電体膜の形成方法について説明する。
本実施形態の圧電体膜の形成方法は、LiNbOまたはLiTaOからなる圧電体膜3を形成する方法であって、基材1上に、バッファ層2を形成し、バッファ層2の上方に、スパッタリング法により圧電体膜3を形成する。
【0033】
バッファ層2は、基材1上に形成してもよいし、基材1上に電極層を形成してその上にバッファ層2を形成してもよい。バッファ層2の形成手段は、特に制限はないが、スパッタリング法で形成するとよい。LaNiOからなるバッファ層2を形成する場合は、RFスパッタ法により形成することが好ましく、特に雰囲気ガスに酸素を導入する反応性スパッタリング法がよい。また、Agからなるバッファ層2を形成する場合は、DCスパッタ法でもよく、RFスパッタ法でもよい。また、バッファ層2として、TiN、SrRuO、LaCoO、KNaNbO等を形成してもよい。また、基材1上にバッファ層2を形成し、バッファ層2の上に電極層を形成し、電極層の上に圧電体膜3を形成してもよい。
【0034】
図3には、バッファ層2、酸化防止膜4及び圧電体膜3の形成に好適に用いられるスパッタリング装置の概略図を示す。図3に示すスパッタリング装置は、基板ステージを兼ねる基板電極11と、基板電極11から離間して配置されたカソード電極12と、カソード電極12に取り付けられたターゲット13と、を備えている。
【0035】
基板電極11上に基材1が配置される。基板電極11には図示しないヒータが内蔵されており、基材1を加熱可能とされている。また、基板電極11には図示しないバイアス電源が接続されている。カソード電極12には図示しないカソード電源が接続されている。また、基板電極11、カソード電極12及びターゲット13は、図示しないチャンバに収容されている。チャンバ内は、真空雰囲気に制御可能となっている。
【0036】
バッファ層2の形成条件としては、ターゲット13の組成をLaNiO、AgまたはTiNとし、基板温度を250~800℃の範囲とし、成膜圧力を0.1~1.0Paとし、Ar流量を0~100sccmとし、O流量を0~15sccmとし、N流量を0~50sccmとし、RFスパッタの場合のパワーを100~15000W(周波数13.56MHz)とし、DCスパッタの場合のパワーを100~15000Wとする。
【0037】
次に、バッファ層2上に酸化防止膜4を形成してもよい。酸化防止膜4の形成方法は、特に制限はないが、スパッタリング法で形成するとよく、RFスパッタ法でもDCスパッタ法でもよく、特に雰囲気ガスに窒素を導入する反応性スパッタリング法がよい。
【0038】
酸化防止膜4の形成条件としては、ターゲット組成をTiまたはTiWとし、基板温度を室温(25℃)~400℃の範囲とし、成膜圧力を0.1~1Paとし、Ar流量を0~30sccmとし、N流量を0~40sccmとし、RFスパッタの場合のパワーを100~15000W(周波数13.56MHz)とし、DCスパッタの場合のパワーを100~15000Wとする。
【0039】
次に、バッファ層2上または酸化防止膜4上に、LiNbOまたはLiTaOからなる圧電体膜3を形成する。圧電体膜3の形成方法はスパッタリング法とする。そのなかでもRFスパッタ法により形成することが好ましく、特に雰囲気ガスに酸素を導入する反応性スパッタリング法がよい。
【0040】
圧電体膜3の形成条件としては、ターゲット組成をLiNbOまたはLiTaOとし、基板温度を300~650℃の範囲とし、成膜圧力を0.1~1.0Paとし、Ar流量を50~150sccmとし、O流量を0.1~50sccmとし、RFスパッタのパワーを50~2800W(周波数13.56MHz)とする。これにより、表面における結晶方位が(012)面に配向した圧電体膜3が得られる。
【0041】
別の手段としては、ニオブ酸化物またはタンタル酸化物からなる第1ターゲットと、酸化リチウムからなる第2ターゲットとを用いるコスパッタリング法を行うとよい。ニオブ酸化物またはタンタル酸化物としては、NbまたはTaの他に、LiNbOまたはLiTaOのような複合酸化物であってもよい。なお、第1ターゲットはニオブ又はタンタル金属からなるターゲットであってもよい。
【0042】
図4には、コスパッタリング法を実施するためのスパッタリング装置の概略図を示す。図4に示すスパッタリング装置は、基板ステージを兼ねる基板電極21と、基板電極21から離間して配置された2つのカソード電極22、23と、一方のカソード電極22に取り付けられた第1ターゲット24と、他方のカソード電極23に取り付けられた第2ターゲット25と、を備えている。
【0043】
基板電極21上には、複数の基材1が配置可能とされている。基板電極21には図示しないヒータが内蔵されており、基材1を加熱可能とされている。また、基板電極21は、図示しない駆動手段が接続されており、回転可能とされている。基板電極21が回転することにより、基板電極21上に載置された基材1は、第1ターゲット24及び第2ターゲット25に交互に対向するようになる。
【0044】
更に、基板電極21には図示しないバイアス電源が接続されている。また、カソード電極22、23にはそれぞれ、図示しないカソード電源が接続されている。
【0045】
また、基板電極21、カソード電極22、23、第1ターゲット24及び第2ターゲット25は、図示しないチャンバに収容されている。チャンバ内は、真空雰囲気に制御可能となっている。
【0046】
本実施形態の圧電体膜の形成方法では、バッファ層2または酸化防止膜4の上に、LiNbOまたはLiTaOからなる圧電体膜3をスパッタリング法により形成する。バッファ層2または酸化防止膜4として、圧電体膜3の結晶方位を(012)面方向に配向させる材質からなるものを選択することで、その上に形成されるLiNbOまたはLiTaOからなる圧電体膜3は、膜表面において(012)面の方位に配向したものとなる。これにより圧電体膜3は、機械電気結合係数が高くなり、優れた圧電効果を発揮できるようになる。
【0047】
特に、TiN、LaNiOまたは(002)面方向に結晶方位が配向されたAgからなるバッファ層2を用いることで、LiNbOまたはLiTaOからなる圧電体膜3の結晶方位を(012)面の方位に配向させることが容易になり、圧電体膜3に優れた圧電効果を発揮させることができる。また、圧電体膜3の結晶方位を(012)面方向に配向させるバッファ層2として、SrRuO、LaCoO、KNaNbO等からなるバッファ層を用いてもよい。
【0048】
更に、バッファ層2の上に酸化防止膜4を形成することで、バッファ層2の酸化を防止しつつ、LiNbOまたはLiTaOからなる圧電体膜3を形成でき、その結晶方位を好ましい方位に制御できる。
【0049】
次に、本発明の更に具体的な実施形態について説明する。
【0050】
図5及び図6には、本実施形態の圧電デバイスの一例として、FBAR型フィルタの製造プロセスを示す。
図5(a)に示すように、半導体基板31上に後にキャビティとなる凹部31aを形成し、凹部31a内に犠牲層32を形成する。犠牲層32を備えた半導体基板31を基材1とする。半導体基板31は単結晶シリコン基板を例示できる。単結晶シリコン基板の表面には、パッシベーション膜として図示しない酸化シリコン膜が形成されていてもよい。
【0051】
次に、図5(b)に示すように、半導体基板31及び犠牲層32上に、Pt、Mo、Ru、W、Ir等からなる下部電極層33を形成する。下部電極層33は例えば、Pt、Mo、Ru、W、Ir等をターゲットとするDCスパッタリング法により形成することが好ましい。下部電極層33の厚みは、例えば、10~200nmの範囲とする。
【0052】
次に、図5(c)に示すように、下部電極層33上に、LaNiOからなるバッファ層2を形成する。バッファ層2の製造条件等は上述した通りである。これにより、バッファ層2は、圧電体膜3の結晶方位を(012)面方向に配向させるものとなる。バッファ層2の厚みは、例えば、10~100nmの範囲とする。
【0053】
次に、図5(d)に示すように、バッファ層2上に、LiNbOまたはLiTaOからなる圧電体膜3を形成する。圧電体膜3の製造条件等は上述した通りである。これにより、圧電体膜3は、その表面の面内において(012)面方向に結晶方位が配向されたものとなる。圧電体膜3の厚みは、例えば、300nm以下の範囲とする。
【0054】
次に、図6(a)に示すように、圧電体膜3上に、Pt、Mo、Ru、W、Ir等からなる上部電極層34を形成する。上部電極層34は例えば、Pt、Mo、Ru、W、Ir等をターゲットとするDCスパッタリング法により形成することが好ましい。上部電極層34の厚みは、例えば、10~200nmの範囲とする。
【0055】
次に、図6(b)に示すように、フォトリソグラフィ技術及びエッチング技術により、上部電極層34及び圧電体膜3を所定の平面形状にパターニングする。上部電極層34及び圧電体膜3は、少なくとも犠牲層32の上方に残存するようにパターニングすることが好ましい。これにより、犠牲層32の上において、下部電極層33、バッファ層2、圧電体膜3及び上部電極層34からなる積層体K1が形成される。
【0056】
次に、図6(c)に示すように、犠牲層32を除去し、積層体K1の下にキャビティCを形成する。以上により、本実施形態の圧電デバイスが得られる。図6(c)に示す圧電デバイスは、FBAR型フィルタとして機能するものとなる。
【0057】
次に、図7及び図8には、本実施形態の圧電デバイスの別の例として、FBAR型フィルタの製造プロセスを示す。
図7(a)に示すように、図5(a)の場合と同様にして、半導体基板31上に後にキャビティとなる凹部31aを形成し、凹部31a内に犠牲層32を形成する。
【0058】
次に、図7(b)に示すように、Agからなるバッファ層2を形成する。Agからなるバッファ層2は、圧電デバイスの下部電極としても機能する。バッファ層2の製造条件等は上述した通りである。これにより、Agからなるバッファ層2は、その表面の面内において(002)面方向に結晶方位が配向されたものとなる。バッファ層2の厚みは、例えば、10~100nmの範囲とする。
【0059】
次に、図7(c)に示すように、図5(d)の場合と同様にして、バッファ層2上に、LiNbOまたはLiTaOからなる圧電体膜3を形成する。圧電体膜3の製造条件等は上述した通りである。これにより、圧電体膜3は、その表面の面内において(012)面方向に結晶方位が配向されたものとなる。圧電体膜3の厚みは、例えば、300nm以下の範囲とする。
【0060】
次に、図8(a)に示すように、圧電体膜3上に、Pt、Mo、Ru、W、Ir等からなる上部電極層34を形成する。
【0061】
次いで、図8(b)に示すように、フォトリソグラフィ技術及びエッチング技術により、上部電極層34及び圧電体膜3を所定の平面形状にパターニングする。上部電極層34及び圧電体膜3は、少なくとも犠牲層32の上方に残存するようにパターニングすることが好ましい。これにより、犠牲層32の上において、下部電極として機能するバッファ層2、圧電体膜3及び上部電極層34からなる積層体K2が形成される。
【0062】
次に、図8(c)に示すように、犠牲層32を除去し、積層体K2の下にキャビティCを形成する。以上により、本実施形態の圧電デバイスが得られる。図8(c)に示す圧電デバイスは、FBAR型フィルタとして機能するものとなる。
【0063】
次に、図9及び図10には、本実施形態の圧電デバイスの更に別の例として、FBAR型フィルタの製造プロセスを示す。
図9(a)に示すように、図5(a)の場合と同様にして、半導体基板31上に後にキャビティとなる凹部31aを形成し、凹部31a内に犠牲層32を形成する。
【0064】
次に、図9(b)に示すように、図7(b)の場合と同様にして、Agからなるバッファ層2を形成する。Agからなるバッファ層2は、圧電デバイスの下部電極としても機能する。
【0065】
次に、図9(c)に示すように、バッファ層2上に、TiN、TiW、TiWNのうちの1種からなる酸化防止膜4を形成する。酸化防止膜4の製造条件等は上述した通りである。酸化防止膜4は、圧電体膜の結晶方位を(012)面方向に配向させるものとなる。酸化防止膜4の厚みは、例えば、10~100nmの範囲とする。
【0066】
次に、図9(d)に示すように、図5(d)の場合と同様にして、酸化防止膜4上に、LiNbOまたはLiTaOからなる圧電体膜3を形成する。圧電体膜3の製造条件等は上述した通りである。これにより、圧電体膜3は、その表面の面内において(012)面方向に結晶方位が配向されたものとなる。圧電体膜3の厚みは、例えば、300nm以下の範囲とする。
【0067】
次に、図10(a)に示すように、圧電体膜3上に、Pt、Mo、Ru、W、Ir等からなる上部電極層34を形成する。
【0068】
次いで、図10(b)に示すように、フォトリソグラフィ技術及びエッチング技術により、上部電極層34及び圧電体膜3を所定の平面形状にパターニングする。上部電極層34及び圧電体膜3は、少なくとも犠牲層32の上方に残存するようにパターニングすることが好ましい。これにより、犠牲層32の上において、下部電極として機能するバッファ層2、酸化防止膜4、圧電体膜3及び上部電極層34からなる積層体K3が形成される。
【0069】
次に、図10(c)に示すように、犠牲層32を除去し、積層体K3の下にキャビティCを形成する。以上により、本実施形態の圧電デバイスが得られる。図10(c)に示す圧電デバイスは、FBAR型フィルタとして機能するものとなる。
【0070】
次に、図11には、本実施形態の圧電デバイスの更に別の例として、FBAR型フィルタの製造プロセスを示す。
図11(a)に示すように、酸化シリコン膜31aが形成された半導体基板31を用意する。半導体基板31は単結晶シリコン基板が好ましい。
【0071】
次に、図11(b)に示すように、Agからなるバッファ層2を形成する。Agからなるバッファ層2は、圧電デバイスの下部電極としても機能する。バッファ層2の製造条件等は上述した通りである。これにより、Agからなるバッファ層2は、その表面の面内において(002)面方向に結晶方位が配向されたものとなり、圧電体膜の結晶方位を(012)面方向に配向させるものとなる。バッファ層2の上に、酸化防止膜を更に成膜してもよい。
【0072】
次に、図11(c)に示すように、バッファ層2上に、LiNbOまたはLiTaOからなる圧電体膜3を形成する。圧電体膜3の製造条件等は上述した通りである。これにより、圧電体膜3は、その表面の面内において(012)面方向に結晶方位が配向されたものとなる。
【0073】
次に、図11(d)に示すように、圧電体膜3上に、Pt、Mo、Ru、W、Ir等からなる上部電極層34を形成する。これにより、下部電極として機能するバッファ層2、圧電体膜3及び上部電極層34からなる積層体K4が形成される。
【0074】
次に、図11(e)に示すように、半導体基板31及び積層体K4を覆うように絶縁膜35を形成する。
【0075】
次に、図11(f)に示すように、半導体基板31の裏面側からビア加工を行うことにより、積層体K4の下にキャビティCを形成する。以上により、本実施形態の圧電デバイスが得られる。図11(f)に示す圧電デバイスは、FBAR型フィルタとして機能するものとなる。
【0076】
更に、本実施形態の圧電デバイスは、図1及び図2示した形態に限定されるものではない、例えば、基材1の上にバッファ層2を形成し、更にその上に電極層(下部電極)を形成し、更に電極層の上に、(012)面方向に結晶方位が配向されたLiNbOまたはLiTaOからなる圧電体膜3を形成してもよい。また、圧電体膜3上には別の電極層(上部電極)を形成してもよい。この場合、バッファ層2は、電極層を(002)配向させるとともに、LiNbOまたはLiTaOからなる圧電体膜3の結晶方位を(012)面方向に配向させる層となる。より好ましくは、バッファ層2をTiN膜とし、電極層(下部電極)としてPt膜を選択することで、電極層を(002)配向させるとともに、LiNbOまたはLiTaOからなる圧電体膜3の結晶方位を(012)面方向に配向させることが可能になる。各層及び各膜の厚みの範囲は、上述の通りでよい。このような圧電デバイスは、FBAR型フィルタとして機能するものとなる。
【実施例
【0077】
以下、本発明の実施例について説明する。
【0078】
(実施例1)
単結晶シリコンからなる半導体基板表面に、密着層として酸化チタン膜を形成した後、Ptからなる下部電極層を形成した。下部電極層はPtをターゲットとするDCスパッタリング法により形成した。下部電極層の厚みは100nmとした。下部電極層の成膜条件としては、基板温度を500℃とし、成膜圧力を0.38Paとし、Ar流量を30sccmとし、DCスパッタのパワーを500Wとした。
【0079】
次に、下部電極層上に、LaNiOからなるバッファ層を形成した。バッファ層はLaNiOをターゲットとするDCスパッタリング法により形成した。バッファ層の厚みは100nmとした。バッファ層の成膜条件としては、基板温度を400℃とし、成膜圧力を0.23Paとし、Ar流量を8sccmとし、酸素流量を12sccmとし、DCスパッタのパワーを周波数20kHzのパルス印加として500Wとした。
【0080】
次に、バッファ層上に、LiNbOからなる圧電体膜を形成した。圧電体膜はLiNbOをターゲットとするRFスパッタリング法により形成した。圧電体膜の厚みは200nmとした。圧電体膜の成膜条件としては、基板温度を550℃とし、成膜圧力を0.50Paとし、Ar流量を100sccmとし、酸素流量を1sccmとし、RFスパッタのパワーを100W(周波数13.56MHz)とした。
【0081】
次に、圧電体膜上に、Ptからなる上部電極層を形成した。上部電極層はPtをターゲットとするDCスパッタリング法により形成した。上部電極層の厚みは100nmとした。上部電極層の成膜条件は、下部電極層の場合と同様にした。このようにして、実施例1の圧電デバイスを製造した。
【0082】
(実施例2)
単結晶シリコンからなる半導体基板表面に、Agからなるバッファ層を兼ねた下部電極層を形成した。下部電極層はAgをターゲットとするDCスパッタリング法により形成した。下部電極層の厚みは100nmとした。下部電極層の成膜条件としては、基板温度を400℃とし、成膜圧力を0.25Paとし、Ar流量を80sccmとし、DCスパッタのパワーを500Wとした。なお、Agからなるバッファ層を形成する前に、単結晶シリコンからなる半導体基板の表面の自然酸化膜をふっ酸で除去した。
【0083】
次に、Agからなる下部電極層上にTiNからなる酸化防止層を形成した。酸化防止層はTiをターゲットとするDCスパッタリング法により形成した。酸化防止層の厚みは100nmとした。酸化防止層の成膜条件としては、基板温度を400℃とし、成膜圧力を0.1Paとし、N流量を40sccmとし、DCスパッタのパワーを12000Wとした。
【0084】
次に、酸化防止層上に、LiNbOからなる圧電体膜を形成した。圧電体膜はLiNbOをターゲットとするRFスパッタリング法により形成した。圧電体膜の厚みは200nmとした。圧電体膜の成膜条件としては、基板温度を550℃とし、成膜圧力を0.50Paとし、Ar流量を100sccmとし、酸素流量を1sccmとし、RFスパッタのパワーを100W(周波数13.56MHz)とした。
【0085】
(実施例3)
単結晶シリコンからなる半導体基板表面に、TiNからなるバッファ層を形成した。バッファ層はTiをターゲットとするDCスパッタリング法により形成した。バッファ層の厚みは100nmとした。バッファ層の成膜条件としては、基板温度を400℃とし、成膜圧力を0.1Paとし、N流量を40sccmとし、DCスパッタのパワーを12000Wとした。
【0086】
次に、TiNからなるバッファ層上に、Ptからなる下部電極層を形成した。下部電極層はPtをターゲットとするDCスパッタリング法により形成した。下部電極層の厚みは100nmとした。下部電極層の成膜条件としては、基板温度を300℃とし、成膜圧力を0.38Paとし、Ar流量を30sccmとし、DCスパッタのパワーを500Wとした。
【0087】
次に、下部電極層上に、LiNbOからなる圧電体膜を形成した。圧電体膜はLiNbOをターゲットとするRFスパッタリング法により形成した。圧電体膜の厚みは200nmとした。圧電体膜の成膜条件としては、基板温度を550℃とし、成膜圧力を0.50Paとし、Ar流量を100sccmとし、酸素流量を1sccmとし、RFスパッタのパワーを100W(周波数13.56MHz)とした。
【0088】
(比較例1)
バッファ層を形成せずに下部電極層上に圧電体膜を形成したこと以外は上記実施例1と同様にして、比較例1の圧電デバイスを製造した。
【0089】
実施例1~3及び比較例1の圧電デバイスについて、圧電体膜の結晶配向性(面内配向性)をX線回折測定により確認した。また、圧電体膜の(012)面のX線回折ピークの半価幅を測定した。半価幅は、X線回折のロッキングカーブ測定により測定した。結果を表1に示す。
【0090】
【表1】
【0091】
表1に示すように、実施例1~実施例3の圧電体膜は、その表面の面内における結晶方位が(012)面方向に配向した。また、圧電体膜の半価幅が10°以下になり、結晶性にも優れていた。よって、優れた機械電気結合係数を示すことが期待された。
【0092】
一方、比較例1では、バッファ層を形成せずに下部電極層上に圧電体膜を形成したため、圧電体膜の表面の面内における結晶方位が(001)面方向に配向し、機械電気結合係数が実施例1~3よりも低くなることが予想された。
【符号の説明】
【0093】
1…基材、2…バッファ層、3…圧電体膜、4…酸化防止膜、33…下部電極層(下部電極)、34…上部電極層(上部電極)。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11