(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-21
(45)【発行日】2024-10-29
(54)【発明の名称】樹脂組成物及びこれを用いた射出成型体
(51)【国際特許分類】
C08L 53/00 20060101AFI20241022BHJP
C08L 23/16 20060101ALI20241022BHJP
C08K 3/04 20060101ALI20241022BHJP
C08K 5/3435 20060101ALI20241022BHJP
C08J 5/00 20060101ALI20241022BHJP
【FI】
C08L53/00
C08L23/16
C08K3/04
C08K5/3435
C08J5/00
(21)【出願番号】P 2024049203
(22)【出願日】2024-03-26
【審査請求日】2024-03-27
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002631
【氏名又は名称】弁理士法人クオリオ
(74)【代理人】
【識別番号】100161469
【氏名又は名称】赤羽 修一
(74)【代理人】
【識別番号】100141771
【氏名又は名称】星野 宏和
(74)【代理人】
【識別番号】100118809
【氏名又は名称】篠田 育男
(74)【代理人】
【識別番号】100164345
【氏名又は名称】後藤 隆
(72)【発明者】
【氏名】白井 友之
(72)【発明者】
【氏名】水野 晃一
【審査官】仁科 努
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-290961(JP,A)
【文献】特開平08-041251(JP,A)
【文献】特開2012-241055(JP,A)
【文献】特開平09-227759(JP,A)
【文献】特開2021-024955(JP,A)
【文献】国際公開第2021/095777(WO,A1)
【文献】特開平06-107897(JP,A)
【文献】特開平05-194804(JP,A)
【文献】特開平03-252444(JP,A)
【文献】特開2003-034742(JP,A)
【文献】特開平09-095592(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 53/00
C08J 5/00
C08K 3/04
C08K 5/3435
C08L 23/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブロックポリプロピレン100質量部に対して、エチレン-プロピレンゴム6~10質量部と、ヒンダードアミン系光安定剤0.05~2.0質量部と、カーボンブラック1.5~3.0質量部とを含有
し、
前記カーボンブラックが、比表面積(m
2
/g)に対する、DBP吸収量(cm
3
/100g)をカーボンブラック1g当たりのDBP吸収量に換算したDBP吸収量(cm
3
/g)の比[DBP吸収量(cm
3
/g)/比表面積(m
2
/g)]が0.018~0.040(cm
3
/m
2
)であるカーボンブラックを含む、樹脂組成物。
【請求項2】
前記エチレン-プロピレンゴムが、エチレン成分の含有量が60%以上であるエチレン-プロピレンゴムを含む、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記カーボンブラックがファーネスブラックを含む、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
前記ヒンダードアミン系光安定剤の含有量に対する前記カーボンブラックの含有量の質量比[カーボンブラックの含有量/ヒンダードアミン系光安定剤の含有量]が25~50である、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
メルトフローレート(測定温度230℃、荷重2.16kg)が3.0~5.0g/10minである、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の樹脂組成物で形成された射出成型体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物及びこれを用いた射出成型体に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車、電気・電子機器等には種々の樹脂成型体が用いられている。例えば、自動車等の車両用樹脂成型体としては、バンパー、スキッドガーニッシュ、ダッシュボード、車体パネル、配線コネクタや電装部品を収容する配線ボックス等の樹脂成型体が挙げられる。また、光又はメタル通信用ケーブルの接続、分岐を行うためクロージャ(接続箱)と呼ばれる樹脂成型体も挙げられる。
樹脂成型体を形成する樹脂組成物として、既に種々の樹脂組成物が知られており、目的とする用途に適した特性を満たす樹脂組成物も開発されている。例えば、特許文献1には、自動車外装用樹脂組成物であって色彩安定性及び耐候性を有する樹脂組成物として、実施例において具体的な組成は開示されていないものの、請求項1には、ポリプロピレン、ゴム、タルク、着色剤、紫外線吸収剤及びヒンダードアミン系光安定剤を特定の含有率で含有する樹脂組成物が提案されている。また、特許文献2は、向上した剛性/衝撃バランスを有する動的加硫アロイ組成物(DVA)について、請求項1において、硬化エラストマーと、熱可塑性ポリオレフィン樹脂と、充填剤、添加剤及びその混合物からなる群から選択された固体粒状成分とを含有する動的加硫組成物を提案している。しかし、特許文献2は、エチレンプロピレンエラストマーとランダムポリプロピレン(PPRC)とガラス繊維とを含有する組成物を具体的に開示しているに過ぎない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特表2008-537568号公報
【文献】特開平3-54237号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
樹脂成型体の中でも、配線ボックスやクロージャ等は、開閉可能なカバー部材やフラップ部材等を有するボックス状成型体、又は、開閉可能なカバー部材やフラップ部材等を有するカバー状成型体を備えた樹脂成型体として、形成される。このような成型体としては、本体とカバー部材やフラップ部材等の本体を覆う蓋体とを別体とするものもあるが、防水性等のための液密性、防汚性等のための気密性が求められる場合、本体と蓋体とを一体化したものが好適に用いられる。本体と蓋体とを一体化した一体成型体は、通常、本体と蓋体とを接続、連結する接続機構が設けられている。このような接続機構としては、蝶番等の種々の機構が知られているが、本体及び蓋体とを同じ樹脂組成物で一体的に形成した一体成型体がコスト、生産性等の点で有利である。この一体成型体に接続機構として設けられるヒンジ部は、開閉し易さの点で、通常、本体又は蓋体の厚さよりも薄く形成される。
このような一体成型体においては、実使用において、その内部機構を製造し、点検する際等に蓋体を開放する必要がある。しかし、薄肉状に形成されたヒンジ部(薄肉状ヒンジ部ともいう。)は、薄肉であるため、繰り返される蓋体の開閉により割れや亀裂等の損傷が発生しやすく、開閉耐久性(繰り返し屈曲耐久性)に劣る。しかも、屋外に設置される(架空設置)クロージャ等の樹脂成型体は紫外線に晒されるため、樹脂組成物、特に薄肉状ヒンジ部を形成する樹脂組成物は劣化しやすい。その結果、設置後(紫外線暴露後)、特に設置後に蓋体を開閉すると、薄肉状ヒンジ部に損傷が発生しやすく、耐候性に劣る。
しかし、特許文献1及び2では、上記観点からの検討はなされていない。
【0005】
本発明は、優れた繰り返し屈曲耐久性と耐候性とを発揮する射出成型体、及びこの射出成型体を形成できる樹脂組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、薄肉状ヒンジ部を有する樹脂成型体を形成する材料について鋭意検討したところ、樹脂成分として、ポリプロピレンの中でもブロックポリプロピレンを選定し、これを特定量のエチレン-プロピレンゴムと併用したうえで、更に、ヒンダードアミン系光安定剤とカーボンブラックとを特定の質量割合で組み合わせた組成とすることによって、成型体としたときに、薄肉状ヒンジ部の繰り返し屈曲耐久性を改善できるうえ、樹脂成型体だけでなく薄肉状ヒンジ部にも優れた耐候性を付与でき、紫外線の照射を受けた後であっても薄肉状ヒンジ部での開閉操作による損傷の発生を抑制できることを、見出した。本発明者らはこの知見に基づき更に研究を重ね、本発明をなすに至った。
【0007】
すなわち、本発明の課題は以下の手段によって達成された。
<1>ブロックポリプロピレン100質量部に対して、エチレン-プロピレンゴム6~10質量部と、ヒンダードアミン系光安定剤0.05~2.0質量部と、カーボンブラック1.5~3.0質量部とを含有する、樹脂組成物。
<2>前記エチレン-プロピレンゴムが、エチレン成分の含有量が60%以上であるエチレン-プロピレンゴムを含む、<1>に記載の樹脂組成物。
<3>前記カーボンブラックがファーネスブラックを含む、<1>又は<2>記載の樹脂組成物。
<4>前記カーボンブラックが、比表面積(m2/g)に対するDBP吸収量(cm3/100g)の比[DBP吸収量(cm3/g)/比表面積(m2/g)]が0.018~0.040(cm3/m2)であるカーボンブラックを含む、<1>~<3>のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
<5>メルトフローレート(測定温度230℃、荷重2.16kg)が3.0~5.0g/10minである、<1>~<4>のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
<6>上記<1>~<5>のいずれか1項に記載の樹脂組成物で形成された射出成型体。
【0008】
本発明及び本明細書において、物性等について、数値範囲を示して説明する場合、数値範囲の上限値及び下限値を別々に説明するときは、いずれかの上限値及び下限値を適宜に組み合わせて、特定の数値範囲とすることができる。一方、「~」を用いて表される数値範囲を複数設定して説明するときは、数値範囲を形成する上限値及び下限値は、特定の数値範囲として「~」の前後に記載された特定の組み合わせに限定されず、各数値範囲の上限値と下限値とを適宜に組み合わせた数値範囲とすることができる。なお、本発明及び本明細書において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、優れた繰り返し屈曲耐久性と耐候性とを発揮する射出成型体、特に薄肉状ヒンジ部を有する射出成型体、及びこのような優れた特性を発揮する射出成型体を形成できる樹脂組成物を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は光又はメタル通信用ケーブルの配設に用いられるクロージャの一例として本体と端面板に分解した状態を示す概略分解正面図である。
【
図2】
図2は光又はメタル通信用ケーブルの配設に用いられるクロージャの一例を構成する半管状体の軸線に垂直な断面を示す概略分解断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[樹脂組成物]
本発明の樹脂組成物は、ブロックポリプロピレン100質量部に対して、エチレン-プロピレンゴム6~10質量部と、ヒンダードアミン系光安定剤0.05~2.0質量部と、カーボンブラック1.5~3.0質量部とを含有しており、これら以外の成分を含有していてもよい。上記組成を有する本発明の樹脂組成物は、それ自体が優れた繰り返し屈曲耐久性及び耐候性を有しており、その射出成型体にも優れた繰り返し屈曲耐久性及び耐候性を付与できる。
【0012】
本発明において、樹脂は、特に断らない限り、エラストマー及びゴムを含む概念として用いる。なお、本発明において、樹脂組成物がエラストマー(ゴムを含む)を含有する場合においても、便宜上、樹脂組成物、樹脂成型体等と称するが、本発明の技術的範囲からエラストマー組成物及びエラストマー成型体を排斥するものではない。
以下に、本発明の樹脂組成物に含有されうる各成分及び含有量について説明する。各成分は、いずれも、1種単独で用いることができ、2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0013】
<ブロックポリプロピレン>
ポリプロピレンとしては、プロピレンの単独重合体(ホモポリプロピレン:h-PP)、ランダムポリプロピレン(エチレン-プロピレンランダム共重合体ともいう。r-PP)及びブロックポリプロピレン(エチレン-プロピレンブロック共重合体ともいう。b-PP)が知られている。本発明においては、樹脂成分(ベース樹脂)として、上記の中でもブロックポリプロピレンを後述するエチレン-プロピレンゴムと併用する。これにより、後述するヒンダードアミン系光安定剤及びカーボンブラックとの相乗効果により、優れた繰り返し屈曲耐久性と高い耐候性とを両立でき、しかも脆性をも改善できる。この優れた作用効果は、ホモポリプロピレンやランダムポリプロピレンでは実現しえないブロックポリプロピレンに特有のものである。
【0014】
ブロックポリプロピレンは、一般的に、ポリプロピレン(ホモポリプロピレン又はランダムポリプロピレン)にゴム成分を分散させた組成物(混合物)であり、ポリプロピレン中にゴム成分が独立して存在する海島構造を有している。上記ゴム成分としては、特に制限されないが、例えば、エチレン、オクテン、ブテン、ヘキセン等の重合体、エチレン-プロピレンゴム(EPR)等が挙げられる。このゴム成分は、ブロックポリプロピレン中に、通常、1~20質量%含有しており、5~20質量%であることが好ましい。ブロックポリプロピレン中のゴム成分の含有量は、フーリエ変換赤外分光法(FT-IR)等により、測定することができる。
【0015】
ブロックポリプロピレンのメルトフローレート(MFR、測定温度230℃、荷重2.16kg)MFRは、特に制限されず、本発明の樹脂組成物のMFRや射出成型性等を考慮して、適宜に決定される。ブロックポリプロピレンのMFRは、例えば、2.0~30g/10minであることが好ましく、2.0~10g/10minであることがより好ましい。ポリプロピレンのMFRは、JIS K 7210-1(2014)に準拠して、測定温度230℃、加重2.16kgの条件で、測定した値をいう。
【0016】
<エチレン-プロピレンゴム>
エチレン-プロピレンゴム(EPゴムともいう。)としては、エチレンとプロピレンとを共重合して得られる共重合体からなるゴム(エラストマーを含む。)であれば特に限定されず、公知のものを使用することができる。エチレン-プロピレンゴムとしては、好ましくは、エチレンとプロピレンとの二元共重合体、エチレンとプロピレンとジエンとの三元共重合体からなるゴムが挙げられる。
三元共重合体は、エチレンとプロピレンと共役ジエンとの三元共重合体、及び、エチレンとプロピレンと非共役ジエンとの三元共重合体等が挙げられる。三元共重合体を構成するジエン化合物は、特に制限されず、例えば、ブタジエン、イソプレン、1,3-ペンタジエン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン等の共役ジエン化合物、ジシクロペンタジエン(DCPD)、エチリデンノルボルネン(ENB)、1,4-ヘキサジエン等の非共役ジエン化合物等が挙げられ、非共役ジエン化合物が好ましい。
二元共重合体としては、エチレン-プロピレンゴム(EPM)が好ましく、三元共重合体としては、エチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)が好ましい。
【0017】
エチレン-プロピレンゴムにおけるエチレン構成成分の含有量(エチレン含有量という)は、特に制限されないが、優れた繰り返し屈曲耐久性を維持しつつ耐候性を改善できる点で、45~70質量%であることが好ましく、繰り返し屈曲耐久性と耐候性とを高い水準で両立でき、更に脆性をも改善できる点で、その下限値は60質量%以上であることがより好ましい。エチレン含有量は、ASTM D3900に記載の方法に準拠し、測定される値である。
三元共重合体ゴムにおけるジエン構成成分の含有量(ジエン含有量という)は、特に制限されないが、優れた繰り返し屈曲耐久性を維持しつつ耐候性を改善できる点で、2.0~10質量%であることが好ましく、繰り返し屈曲耐久性と耐候性とを高い水準で両立できる点で、3.0~7.0質量%であることがより好ましい。ジエン含有量はプロトンNMR(1H-NMR)法等で測定される値である。
本発明の樹脂組成物に含有されているエチレン-プロピレンゴムは、1種でも2種以上でもよいが、エチレン成分の含有量が60%以上であるエチレン-プロピレンゴムを含んでいることが好ましく、エチレン成分の含有量が60%以上であるエチレン-プロピレンゴムであることがより好ましい。
【0018】
<ヒンダードアミン系光安定剤>
本発明の樹脂組成物はヒンダードアミン系光安定剤(HALS)を含有する。
ヒンダードアミン系光安定剤としては、樹脂組成物に使用される公知のヒンダードアミン系光安定剤を特に制限されることなく用いることができ、重合性化合物であってもよいが、非重合性化合物であることが好ましい。
【0019】
非重合性化合物であるヒンダードアミン系光安定剤としては、例えば、セバシン酸ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)、セバシン酸ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル-1-オキシ)、セバシン酸ビス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)、セバシン酸メチル1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル、メタクリル酸2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル、メタクリル酸1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル、テトラキス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)ブタン-1,2,3,4-テトラカルボキシレート、テトラキス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)ブタン-1,2,3,4-テトラカルボキシレート、ステアリン酸2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル、3-ドデシル-1-(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)-ピロリジン-2,5-ジオン、後述する実施例で用いたもの等が挙げられる。
【0020】
ヒンダードアミン系光安定剤として、特許文献1及び2に記載の内容を適宜参照することができ、その内容はそのまま本明細書の記載の一部として取り込まれる。
ヒンダードアミン系光安定剤の市販品としては、例えば、ヒンダードアミン系光安定剤(HALS)・高分子量タイプ、ヒンダードアミン系光安定剤(HALS)・低分子量タイプ及びヒンダードアミン系光安定剤(HALS)・ブレンド(いずれもBASF社製)等を挙げることができる。
【0021】
ヒンダードアミン系光安定剤としては、上記樹脂成分中において後述するカーボンブラックと組み合わせることによって繰り返し屈曲耐久性と耐候性とを高い水準で両立できる点で、テトラキス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)ブタン-1,2,3,4-テトラカルボキシレート等の後述する実施例で用いたものが好ましい。
【0022】
<カーボンブラック>
本発明の樹脂組成物はカーボンブラックを含有する。
カーボンブラックとしては、樹脂組成物に使用される公知のカーボンブラックを特に制限されることなく用いることができる。本発明の樹脂組成物において、カーボンブラックは、着色剤及び紫外線吸収剤として機能すると考えられ、上記樹脂成分中においてヒンダードアミン系光安定剤と共存することにより、繰り返し屈曲耐久性と耐候性とを両立させることができる。
カーボンブラックの種類(製法別種類)としては、ファーネスブラック、チャンネルブラック、アセチレンブラック、サーマルブラック等が挙げられる。本発明の樹脂組成物に含有されているカーボンブラックは、1種でも2種以上でもよいが、上記樹脂成分中において上記ヒンダードアミン系光安定剤と組み合わせることによって繰り返し屈曲耐久性と耐候性とを高い水準で両立できる点で、ファーネスブラックを含んでいることが好ましく、ファーネスブラックであることがより好ましい。
【0023】
カーボンブラックの特性等は、特に制限されず、適宜に設定できる。
例えば、カーボンブラックが粉体である場合、その平均粒径は10~120nmとすることができる。
カーボンブラックの比表面積(m2/g)は、特に制限されず、例えば20~140m2/gとすることができる。カーボンブラックの比表面積は、JIS Z 8830:2013の「キャリアガス法」に準拠して、吸着質として窒素ガスを用いて、測定される「BET比表面積」である。例えば、比表面積・細孔分布測定装置「フローソーブ」(島津製作所社製)を用いて測定できる。比表面積は、製造プロセスや処理条件によって制御できる。活性剤の使用、熱処理の調整、酸洗浄や浸漬、気相法の制御、製造時のプロセスの最適化等の公知の方法によって、適宜に調整、設定できる。
カーボンブラックのDBP吸収量(cm3/100g)は、特に制限されず、例えば、80~200cm3/100gとすることができる。カーボンブラックのDBP吸収量(DBP吸油量ともいう。)は、DBP吸油量は、JIS K 6217-4(2008)に準拠して測定される値であり、カーボンブラック100g当たりに吸収されるジブチルフタレート(DBP)の量(cm3/100g)を意味する。DBP吸収量は、表面処理剤の使用、熱処理の調整、分級処理、表面酸化処理、物理的処理法の利用の公知の方法によって、適宜に調整、設定できる。
【0024】
カーボンブラックにおいて、比表面積(m2/g)に対するDBP吸収量(cm3/100g)の比[DBP吸収量(cm3/g)/比表面積(m2/g)]は、特に制限されないが、0.018~0.040(cm3/m2)の範囲にあることが好ましい。これにより、上記樹脂成分に対して良好な分散性を示し、ストランド不良の発生を抑えて成型することができる。その結果、繰り返し屈曲耐久性と耐候性とを高い水準で両立できる。上記比[DBP吸収量(cm3/g)/比表面積(m2/g)]は、耐候性を更に改善して繰り返し屈曲耐久性と耐候性とを更に高い水準でバランスよく両立できる点で、更に脆性をも改善できる点で、0.015~0.037(cm3/m2)の範囲にあることがより好ましく、0.020~0.032(cm3/m2)の範囲にあることが更に好ましい。ここで、上記比[DBP吸収量(cm3/g)/比表面積(m2/g)]は、カーボンブラックの「DBP吸収量(cm3/100g)」をカーボンブラック1g当たりDBP吸収量に換算した「DBP吸収量(cm3/g)」を比表面積(m2/g)で除して求めた値である。
本発明において、カーボンブラックは上記比[DBP吸収量(cm3/g)/比表面積(m2/g)]が上記範囲にあるものを選択して用いるか、上述のようにして比表面積及び/又はDBP吸収量を調整して上記比[DBP吸収量(cm3/g)/比表面積(m2/g)]を上記範囲内に調整したものを用いることが好ましい。なお、上記比[DBP吸収量(cm3/g)/比表面積(m2/g)]は、活性剤の使用、熱処理の調整、酸洗浄や浸漬、気相法の制御、製造時のプロセスの最適化等、表面処理剤の使用、熱処理の調整、分級処理、表面酸化処理、物理的処理法の利用等の公知の方法によって、適宜に調整、設定できる。
【0025】
<その他の樹脂>
本発明の樹脂組成物は、樹脂成分として、ブロックポリプロピレン以外で、かつエチレン-プロピレンゴム以外の樹脂(その他の樹脂という。)を含有していてもよい。その他の樹脂としては、ポリオレフィン(ブロックポリプロピレンを除く。)、スチレン系エラストマー、アクリルゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴム等が挙げられる。
ポリオレフィン樹脂は、エチレン性不飽和結合を有する化合物(オレフィン化合物)を重合又は共重合して得られる重合体からなる樹脂であれば特に限定されるものではなく、各種の樹脂組成物に使用されている公知のものを使用することができる。例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン(ブロックポリプロピレンを除く。)、エチレン-α-オレフィン共重合体(エチレン-プロピレンゴムを除く。)、酸共重合成分又は酸エステル共重合成分を有するポリオレフィン共重合体(例えばEVA、EEA)の各樹脂、更に酸変性ポリオレフィン樹脂が挙げられる。また、これら共重合体のゴムないしはエラストマー(エチレンゴムを除く)等も挙げられる。更に、その他の樹脂として、スチレン系エラストマー、アクリルゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴム等も挙げられる。また、樹脂としては可塑剤等との混合物を用いることもできる。可塑剤としては、例えば、有機油又は鉱物油が挙げられる。
【0026】
<その他の成分>
本発明の樹脂組成物は、ブロックポリプロピレン、エチレン-プロピレンゴム、ヒンダードアミン系光安定剤及びカーボンブラックに加えて、本発明の目的を損なわない範囲において、その他の成分として、樹脂組成物に一般的に使用される添加剤等の各種成分等を含有することができる。その他の成分としては、例えば、老化防止剤(酸化防止剤)、滑剤、加工熱安定剤、難燃剤、充填剤(無機フィラー)、架橋剤、架橋助剤、架橋触媒、架橋促進金属、不活性剤(例えば銅害防止剤)が挙げられる。
老化防止剤としては、特に限定されず、樹脂組成物に使用される公知の各種老化防止剤が挙げられる。老化防止剤としては、例えば、(ヒンダード)フェノール系老化防止剤、ベンゾイミダゾール系老化防止剤、アミン系老化防止剤、イオウ系老化防止剤(ベンゾイミダゾール系老化防止剤を除く。)等が挙げられ、フェノール老化防止剤、イオウ系老化防止剤が好ましい。
滑剤としては、特に限定されず、樹脂組成物に使用される公知の各種老化防止剤が挙げられる。滑剤としては、例えば、シリコーン化合物、脂肪酸、脂肪酸金属塩、脂肪酸アミドが挙げられ、脂肪酸又は脂肪酸金属塩が好ましい。
加工熱安定剤としては、特に限定されず、樹脂組成物に使用される公知の各種老化防止剤が挙げられる。加工熱安定剤としては、例えば、亜リン酸トリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)等のリン系加工熱安定剤、チオエステル等の硫黄系加工熱安定剤等が挙げられる。
充填剤(無機フィラー)としては、樹脂組成物に使用される公知の各種充填剤が挙げられ、適宜に樹脂組成物に含有させることができる。なお、本発明においては、タルクを含有させないことが好ましい態様の1つである。タルクを含有しないとは、樹脂組成物中にタルクが不可避的に存在している態様を包含し、例えば、ブロックポリプロピレン100質量部に対して5.0質量部以下で含有する態様を包含する。
【0027】
<樹脂組成物の組成>
本発明の樹脂組成物は、ブロックポリプロピレン、エチレン-プロピレンゴム、ヒンダードアミン系光安定剤及びカーボンブラックを特定の下記含有量で含有することにより、繰り返し屈曲耐久性と耐候性とを両立できる。
すなわち、本発明の樹脂組成物におけるエチレン-プロピレンゴムの含有量は、ブロックポリプロピレン100質量部に対して、6~10質量部である。エチレン-プロピレンゴムの上記含有量が6~10質量部の範囲内にあると、繰り返し屈曲耐久性と耐候性とを両立でき、しかも、本発明の樹脂組成物の成型体における脆性(特に低温脆性)の低下をも抑えることができる。本発明において、エチレン-プロピレンゴムの含有量は、繰り返し屈曲耐久性と耐候性とを高い水準で両立できる点、更に優れた脆性をも維持できる点で、ブロックポリプロピレン100質量部に対して、7.0~9.5質量部であることが好ましく、7.5~9.0質量部であることがより好ましい。
【0028】
本発明の樹脂組成物におけるヒンダードアミン系光安定剤の含有量は、ブロックポリプロピレン100質量部に対して、0.05~2.0質量部である。ヒンダードアミン系光安定剤の上記含有量が0.05~2.0質量部の範囲内にあると繰り返し屈曲耐久性と耐候性とを両立できる。本発明において、ヒンダードアミン系光安定剤の含有量は、耐候性を更に改善して繰り返し屈曲耐久性と耐候性とを高い水準で両立できる点で、ブロックポリプロピレン100質量部に対して、0.06~1.80質量部であることが好ましく、0.08~0.15質量部であることがより好ましい。
本発明の樹脂組成物におけるカーボンブラックの含有量は、ブロックポリプロピレン100質量部に対して、1.5~3.0質量部である。カーボンブラックの上記含有量が1.5~3.0質量部の範囲内にあると繰り返し屈曲耐久性と耐候性とを両立できる。本発明において、カーボンブラックの含有量は、繰り返し屈曲耐久性と耐候性とを高い水準で両立できる点で、ブロックポリプロピレン100質量部に対して、1.8~3.0質量部であることが好ましい。
本発明の樹脂組成物において、ヒンダードアミン系光安定剤の含有量に対するカーボンブラックの含有量の質量比[カーボンブラックの含有量/ヒンダードアミン系光安定剤の含有量]は、上記各含有量を考慮して適宜に設定できるが、繰り返し屈曲耐久性及び耐候性の点で、1~50であることが好ましく、10~40であることがより好ましく、15~35であることが更に好ましい。
【0029】
本発明の樹脂組成物におけるその他の樹脂の総含有量は、本発明の効果を損なわない範囲に設定され、例えば、ブロックポリプロピレン100質量部に対して、0~15質量部とすることができる。
本発明の樹脂組成物におけるその他の成分の総含有量は、本発明の効果を損なわない範囲に設定され、例えば、ブロックポリプロピレン100質量部に対して、0~15質量部とすることができる。ここで、老化防止剤の含有量は、その他の成分の上記総含有量を考慮して適宜に設定でき、例えば、ブロックポリプロピレン100質量部に対して0~2質量部とすることができる。滑剤の含有量は、その他の成分の上記総含有量を考慮して適宜に設定でき、例えば、ブロックポリプロピレン100質量部に対して0~2質量部とすることができる。加工熱安定剤の含有量は、その他の成分の上記総含有量を考慮して適宜に設定でき、例えば、ブロックポリプロピレン100質量部に対して0~2質量部とすることができる。
【0030】
<本発明の樹脂組成物の調製>
本発明の樹脂組成物は、ブロックポリプロピレン、エチレン-プロピレンゴム、ヒンダードアミン系光安定剤、カーボンブラック、適宜に、その他の樹脂、その他の成分等を、溶融混合(混錬)して調製することができる。
溶融混合方法としては、樹脂若しくはゴム組成物の調製に通常採用される方法であれば、特に限定されない。例えば、一軸押出機、二軸押出機、ロール、バンバリーミキサー、各種のニーダー等の各種混合装置を用いて混合することができる。溶融混合温度や溶融混合時間等の溶融混合条件は、特に限定されず、樹脂成分、通常ブロックポリプロピレンの溶融温度以上の温度範囲内で適宜に設定できる。溶融混合温度は、通常、樹脂成分の溶融温度以上の温度に設定され、樹脂成分の種類や組成等により一義的に定めることはできないが、一例を挙げると、120~240℃が好ましく、140~220℃がより好ましい。各成分の混合順は、特に制限されず、上記各成分を一度に(溶融)混合することもできるし、適宜の順で各成分を順次混合することもできる。こうして、各成分が分散(混合)された本発明の樹脂組成物を調製することができる。
【0031】
<本発明の樹脂組成物の特性等>
本発明の樹脂組成物は、上記組成により発揮される特性を有している。
例えば、後述する実施例における試験に合格する繰り返し屈曲耐久性及び耐候性を有し、望ましくは実施例における試験に合格する脆性を有している。
また、本発明の樹脂組成物のメルトフローレート(MFR、測定温度230℃、荷重2.16kg)は、特に制限されず適宜に決定でき、例えば、1.0~12g/10minの範囲とすることができる。本発明の樹脂組成物のメルトフローレートは、成型性の点で、3.0~5.0g/10minの範囲にあることが好ましく、3.0~4.0g/10minの範囲にあることがより好ましい。本発明の樹脂組成物のMFRは、JIS K 7210-1(2014)に準拠して、測定温度230℃、加重2.16kgの条件で、測定した値をいう。
【0032】
本発明の樹脂組成物は、成型用材料として、通常、バルク状、ストランド又はペレット等の形態とされる。
なお、本発明の樹脂組成物は、架橋構造(動的架橋構造を含む)を有する架橋樹脂組成物(架橋体)であってもよいが、通常、非架橋組成物(非架橋体)であることが好ましい。本発明において、非架橋樹脂組成物とは、その調製時及び射出成型体の成型時等に、樹脂組成物を電子線照射や架橋剤等によって積極的に架橋処理(動的架橋処理を含む)していない樹脂組成物をいう。よって、非架橋樹脂組成物は、射出成型体を例えば屋外等に設置した後に不可避的に架橋が一部進行したものを包含する。
【0033】
本発明の樹脂組成物は、上述のように、優れた繰り返し屈曲耐久性及び耐候性を実現でき、更に、組成によって、脆性(特に低温脆性)にも優れる。このような優れた特性を示す本発明の樹脂組成物は、各種の樹脂成型体の成型材料として好適であり、本体と蓋体とを一体化した一体成型体、特に、薄肉状ヒンジ部を有する一体成型体の成型材料として特に好適である。なお、成型方法としては、押出成型法、射出成型法、その他の各種成型法を適用できるが、本発明の樹脂組成物における上記特性(MFR)を活用して射出成型法を適用することが好ましい。
【0034】
[射出成型体]
以下に、本発明の樹脂組成物を用いた射出成型体(以下、本発明の射出成型体という。)について説明する。
本発明の射出成型体は、本発明の樹脂組成物を成型材料として用途等に応じた形状及び寸法に射出成型された成型体であり、好ましくは薄肉状に形成されたヒンジ部(薄肉状ヒンジ部)を有する射出成型体である。この薄肉状ヒンジ部は、薄肉状ヒンジ部を挟んで連設(一体成型)された部分の厚さよりも薄く形成されており、薄肉状ヒンジ部を支点(動作点)に屈曲、屈伸させることにより、蝶番として機能して、上記連接された部分の少なくとも一方を回動させる部分である。このような薄肉状ヒンジ部は、連接された部分の間に間隔をおいて複数の溝(細長い有底の窪み)を一直線上に配置したものであってもよいが、成型性の点で、連接された部分の間に1本の溝として形成したものが好ましい。
【0035】
薄肉状ヒンジ部は、薄肉状ヒンジ部を挟んで連接された部分よりも薄く形成されていれば、寸法は特に制限されない。薄肉状ヒンジ部の厚さは、薄肉状ヒンジ部を挟んで連接された部分の厚さよりも薄く、かつ蝶番として屈曲可能となる厚さに設定されていればよい。本発明の樹脂組成物は上述のように優れた繰り返し屈曲耐久性と耐候性とを発揮するため、薄肉状ヒンジ部を従来よりも薄くすることもできるが、成型体や上記連接された部分の寸法等によって一義的に決定できない。薄肉状ヒンジ部の厚さは、例えば、上記連接された部分の厚さに対して、50%以下とすることができ、屈曲のしやすさ、繰り返し屈曲耐久性等の点で、5~35%とすることが好ましく、10~25%とすることがより好ましい。薄肉状ヒンジ部の厚さの一例として、例えば、0.4~0.8mmを挙げることができる。ここで、薄肉状ヒンジ部の厚さの基準とする「連接された部分」は、薄肉状ヒンジ部を挟んで連接された部分が互いに異なる厚さである場合、薄い厚さを有する連接された部分とする。
薄肉状ヒンジ部の幅は、蝶番として屈曲可能となる幅であればよく、成型体や上記連接された部分の寸法等によって一義的に決定できない。薄肉状ヒンジ部の幅の一例として、例えば、1~5mm、好ましくは1.5~3.5mmを挙げることができる。
【0036】
本発明の樹脂組成物の成型方法及び成型条件は、成型後の形状や形態に応じて、適宜の方法及び条件が選択され、例えば、成型方法としては、押出成型機を用いた押出成型、射出成型機を用いた押出成型、その他の成型機を用いた成型が挙げられる。本発明においては射出成型が好ましい。成型温度は、特に制限されず、本発明の樹脂組成物を調製する際の溶融混合温度と同じ温度とすることができる。
なお、本発明の樹脂組成物は各成分の混合と成型とを同時又は連続して行うこともできる。
【0037】
本発明の射出成型体としては、種々の用途、製品(半製品を含む。)に用いることができる。好ましくは、開閉可能なカバー部材やフラップ部材等を有するボックス状成型体、又は、開閉可能なカバー部材やフラップ部材等を有するカバー状成型体、更にはカバー状成型体を備えた樹脂成型体等として好適であり、ボックス状成型体又はカバー状成型体として特に好適であり、具体的には、配線ボックス、クロージャ等が挙げられる。
【0038】
以下、本発明の射出成型体について、光又はメタル通信用ケーブルの接続、分岐を行うクロージャに用いる半管状体(カバー状成型体)について、説明する。
本発明の射出成型体の一例である半管状体を備えたクロージャ(以下、便宜的に「本発明のクロージャ」ということがある。)は、後述する本発明の半管状体を備えていること以外は公知のクロージャと同じである。本発明のクロージャは、好ましくは屋外における架空設置用のクロージャであって、例えば
図1に示されるように、管状の本体と、本体の軸線方向両端部を閉塞する端面板とで構成されており、本体の内部空間にケーブル等を把持又は固定する固定手段を備えている。接続、分岐等するケーブル等は各端面板を通って本体の内部空間に導入され、本体の内部空間において接続、分岐等される。
【0039】
本発明のクロージャが備える半管状体は、本発明の射出成型体の一例であって、本発明の樹脂組成物を用いて射出成型によって一体的に形成されている。本発明のクロージャが備える半管状体(以下、「本発明の半管状体」ということがある。)の一例を、図を参照して、説明する。
図1はクロージャを本体と端面板に分解した状態を示す概略分解正面図であり、
図2はクロージャを構成する半管状体の軸線に垂直な断面を示す概略分解断面図である。なお、
図1及び
図2において、半管状体の軸線方向を左右方向、軸線に垂直で後述する側面板及びカバー部を貫通する方向を前後方向、軸線及び前後方向に垂直な方向(上面板及び底面板を貫通する方向)を上下方向という。上記前後方向において、側面板からカバー部に向かう方向を前方、カバー部から側面板に向かう方向を後方といい、上記上下方向において、底面板7から上面部13cに向かう方向を上方、上面部13cから底面板7に向かう方向を下方という。
【0040】
本発明の半管状体は、特に
図2に示されるように、軸線に対して垂直な断面が逆U字状の半管状の形状をしており、この断面形状は樋形状、半割れ管形状ともいう。なお、本発明において、半管状体は、管状体の正確な半割れ形状(半分に分割した形状)でなくてもよく、その管壁の一部が欠落して開放した状態にある管状体を含む。この半管状体6は、互いに対面する側面板11及びカバー板12と、側面板11及びカバー板12を連接又は接合する連接部13とを有している。この連接部13は、肩部13a、13bと上面部13cからなり、肩部13aは側面板11と上面部13cとを連接し、肩部13bはカバー板12と上面部13cとを連接している。そして、上面部13cと肩部13aとの連接部(外側表面)及び上面部13cと肩部13bとの連接部(外側表面)には、それぞれ、本体の軸線方向にわたって1本の溝が形成されて、薄肉状ヒンジ部14が設けられている。薄肉状ヒンジ部14を形成する溝の形状及び寸法は上述の通り特に制限されないが、半管状体6には断面矩形の溝を形成している。この薄肉状ヒンジ部14は、上面部13cの厚さ、肩部13a及び肩部13bの厚さより薄い厚さ、例えば上面部13c、肩部13a及び肩部13bより1~3mm程度薄い厚さを有している。本発明の半管状体6は、下方が開口しており、
図2に示されるように、ここに底面板7が組み込まれて、断面6角形の管状本体を構成する。こうして形成される本体は、薄肉状ヒンジ部14を支点としてカバー板12及び肩部13bが回動可能(開閉可能)になっており、また薄肉状ヒンジ部14を支点として側面板11及び肩部13aが回動可能(開閉可能)になっている。なお、端面板3は、本体(半管状体6)の軸線方向の両開口部にそれぞれ設けられ、両開口部をそれぞれ閉塞する板状部材である。
【0041】
上記本体及び端面板3で構成されるクロージャ1は、半管状体6の開口に底面板7を組み込み、半管状体6の両開口部に端面板3を設けて、形成される。このクロージャ1にケーブルを配設する場合、薄肉状ヒンジ部14を支点に、カバー板12及び肩部13b並びに/又は側面板11及び肩部13aを、手前から上方に回動させる(跳ね上げる)ことにより、内部空間15が露出し、この内部空間15内でケーブル等の接続、分岐作業を行うことができる。接続、分岐作業の終了後には、跳ね上げたカバー板12及び肩部13b並びに/又は側面板11及び肩部13aを、薄肉状ヒンジ部14を支点に、下方に回動させて、内部空間15(クロージャ)を閉塞する。このクロージャ1は、このように薄肉状ヒンジ部14を支点にカバー板12及び肩部13b並びに/又は側面板11及び肩部13aを回動させるという簡潔な作業で、内部空間15(クロージャ)の開閉を行うことができる。しかも、半管状体6は本発明の樹脂組成物を用いて作製されているから、薄肉状ヒンジ部14の上記開閉作業を繰り返しても、また屋外に設置され紫外線の照射を受けた後に上記開閉作業を行っても、薄肉状ヒンジ部14に割れや亀裂の損傷が発生せずに優れた特性を示す。
【0042】
本発明のクロージャの寸法は、特に制限されず、用途、例えば、接続又は分岐する光又はメタル通信用ケーブルのサイズや数等に応じて適宜に決定される。例えば、半管状体6の軸線方向の長さとしては、455~620mmとすることができる。
【0043】
なお、
図1及び
図2に示す半管状体6においては、上面部13cと肩部13bとの連接部の外側表面に薄肉状ヒンジ部14を形成する溝を設けているが、本発明においては、上面部と肩部との連接部の内側表面に薄肉状ヒンジ部を形成する溝を設けることもできる。
また、半管状体6においては、上面部13cと肩部13aとの連接部にも薄肉状ヒンジ部14を設け、薄肉状ヒンジ部14を支点として側面板11及び肩部13aが回動可能になっているが、本発明において、薄肉状ヒンジ部は、上面部13cと肩部13aとの連接部及び上面部13cと肩部13bとの連接部のいずれか一方に設ければよい。
【実施例】
【0044】
以下、本発明を実施例に基づき更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
下記表1-1及び表1-2(併せて表1という。)において、各例の配合量に関する数値は特に断らない限り質量基準である。なお、各成分の含有量欄が空欄である場合、当該成分の含有量が0質量部であることを示す。
【0045】
実施例、参考例及び比較例に用いた各化合物の詳細を以下に示す。
<ポリプロピレン>
BC4BSW:商品名、ブロックポリプロピレン、MFR(230℃、2.16kg)5.0g/10min、日本ポリプロ社製
PM761A:商品名、ブロックポリプロピレン、MFR(230℃、2.16kg)9.5g/10min、サンアロマー社製
PM472W:商品名、ブロックポリプロピレン、MFR(230℃、2.16kg)2.7g/10min、サンアロマー社製
J466:商品名、ブロックポリプロピレン、MFR(230℃、2.16kg)3.1g/10min、プライムポリマー社製
J707G:商品名、ブロックポリプロピレン、MFR(230℃、2.16kg)30g/10min、プライムポリマー社製
PM600A:商品名、ホモポリプロピレン、MFR(230℃、2.16kg)7.5g/10min、サンアロマー社製
PF621S:商品名、ランダムポリプロピレン、MFR(230℃、2.16kg)6.5g/10min、サンアロマー社製
<エチレン-プロピレンゴム>
EPT3092:商品名、エチレン-プロピレン-エチリデンノルボルネンゴム、エチレン含有量65質量%、ジエン含有量4.6質量%、三井化学社製
EPT4045M:商品名、エチレン-プロピレン-エチリデンノルボルネンゴム、エチレン含有量45質量%、ジエン含有量7.6質量%、三井化学社製
【0046】
<ヒンダードアミン系光安定剤>
アデカスタブLA52:商品名、テトラキス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)ブタン-1,2,3,4-テトラカルボキシレート、ADEKA社製
Tinuvin 144:商品名、Bis(1,2,2,6,6-pentamethyl-4-piperidinyl)-[[3,5-bis(1,1-dimethylethyl)-4-hydroxyphenyl]methyl]butylmalonate、BASFジャパン社製
Tinuvin 770DF:商品名、Bis(2,2,6,6-tetramethyl-4-piperidyl)Sebacate、BASFジャパン社製
Tinuvin 123:商品名、Decanedioic acid, bis(2,2,6,6-tetramethyl-1-(octyloxy)-4-piperidinyl)ester, reaction products with 1,1-dimethylethylhydroperoxide and octane、BASFジャパン社製
<カーボンブラック>
カーボンブラックとしては、市販のファーネブラック(PK-1~PK-7)を用いた。各ファーネブラックについて、上述の方法により、DBP吸収量(cm3/100g)及び比表面積(m2/g)を測定して、比表面積(m2/g)に対するDBP吸収量(cm3/g)の比[DBP吸収量(cm3/g)/比表面積(m2/g)]を算出した。その結果を表1に示す。なお、各ファーネスブラックのDBP吸収量(cm3/100g)及び比表面積(m2/g)はいずれも上述の範囲内にあることを確認した。
【0047】
<その他の成分>
SumilizerTPM:商品名、イオウ系酸化防止剤、3,3’-チオビス(プロピオン酸テトラデシル)、住友化学社製
イルガフォス168:商品名、リン系加工熱安定剤、亜リン酸トリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)、BASF社製
ステアリン酸亜鉛:ZN-ST(商品名)、滑剤、日東化成社製
Irganox1010:商品名、フェノール系老化防止剤、Pentaerythritol tetrakis(3-(3,5-di-tert-butyl-4-hydroxyphenyl)propionate)、BASF社製
【0048】
[実施例1~25、参考例1~3及び比較例1~8]
表1に示す配合量で表1に示す各成分を同方向2軸押出機に投入して、200℃で3分溶融混合した後、材料排出温度220℃で排出し、フィーダールーダーを通して、樹脂組成物のペレットをそれぞれ得た。
【0049】
調製した各ペレットを用いて、射出成型体又は試験片を作製して、下記試験を行った。その結果を表1に示す。
【0050】
<試験1:ヒンジ曲げ試験(繰り返し屈曲耐久性試験)>
製造した各ペレットを用いて、下記寸法のクロージャ用半管状体を射出成型した。
(射出成型条件)
溶融温度:240℃
金型温度:固定側60℃
金型温度:移動側35℃
(半管状体の寸法)
半管状体の軸線方向長さ620mm
薄肉状ヒンジ部(断面矩形)の平行長さ(幅):2.4mm±0.5mm
薄肉状ヒンジ部の厚さ:0.45mm±0.5mm
薄肉状ヒンジ部の長さ:620mm
(薄肉状ヒンジ部を挟んで連設されている)部材(上面部及び肩部)の厚さ:3.0mm±0.2mm
【0051】
製造した半管状体6を、曲げ試験機のヒンジ曲げ試験可動部に軸線が平行となるように薄肉状ヒンジ部14を配置し、カバー板12及び肩部13bを、側面板11から離間する方向に(元の位置から)105°回動させて薄肉状ヒンジ部14を屈曲した状態(カバー板12及び肩部13bを開放した状態)で、曲げ試験機に固定した。なお、薄肉状ヒンジ部14を形成する溝が曲げ試験機の外側(カバー板12の屈曲側)に向いた状態に固定した。
次いで、常温(25±3℃)環境下で、カバー板12及び肩部13bを、側面板11に近接する方向に1秒間で105°回転させて(カバー板12及び肩部13bを閉じた状態)、半管状体6を元の状態(
図2に示す状態)に復帰させた。その後、側面板11から離間する方向に1秒間で105°回転させた(カバー板12及び肩部13bを開放した初期状態に復帰させた)。このようにして閉じた状態及び開放した状態に回動させる回動動作(開閉動作)を1サイクルとして、カバー板12及び肩部13bを複数サイクル回動動作して、薄肉状ヒンジ部14の割れや亀裂(クラック)の有無を確認した。
本試験は、本発明の樹脂組成物の射出成型である半管状体6の繰り返し屈曲耐久性を評価する試験であり、表1には薄肉状ヒンジ部14に割れや亀裂(クラック)が発生した回動動作のサイクル数を示した。なお、試験は回動動作を30000サイクル行ったが、30000サイクル後の薄肉状ヒンジ部14に割れや亀裂が発生しなかった場合、「30000>」と表記した。
本発明において、薄肉状ヒンジ部14に割れや亀裂が発生した回動動作のサイクル数が25000サイクル以上である場合を「合格」とし、25000サイクル未満である場合を「不合格」とする。
【0052】
<試験2:耐候性試験>
製造した各ペレットを用いて、JIS K7113を参照して、平行部分の長さ方向中央に幅方向に平行で連通する1本の溝(薄肉状ヒンジ部に相当する)を有する下記寸法のダンベル状試験片を作製した。
(作製条件)
溶融温度:240℃
金型温度:固定側60℃
金型温度:移動側35℃
(ダンベル状試験片の寸法)
全長A:70mm
両端の幅B:12.5mm
平行部分の長さC:12.5mm
平行部分の幅D:3mm
溝の長さ:3mm
溝の幅:2.4mm±0.5mm
厚さI:3.0mm±0.2mm
薄肉状ヒンジ部の厚さ:0.45mm±0.5mm
【0053】
サンシャインカーボンアーク灯式の耐候性試験機(フィルターAタイプ)(型番:サンシャインウエザーメータS80、スガ試験機社製)、及び作製したダンベル状試験片を用いて、耐候性を評価した。具体的には、JIS B 7753に準拠して各ダンベル試験片に照射した。ただし、槽内はブラックパネル温度を63±3℃とし、120分サイクル(102分間の照射に続いて18分間の照射及び噴霧)とした。
照射を開始してからの照射時間が2000時間、4000時間及び6000時間に達した時点でダンベル試験片を耐候性試験機から取り出し、ヒンジ曲げ試験100サイクルを行った。ヒンジ曲げ試験100サイクル後のダンベル試験片について、薄肉状ヒンジ部14(内表面及び裏側表面)の外観を目視で確認した。なお、ヒンジ曲げ試験は、ダンベル試験片を用いたこと以外は上記<試験1:ヒンジ曲げ試験(繰り返し屈曲耐久性試験)>と同様にして行った。
本試験は、本発明の樹脂組成物の射出成型であるダンベル試験片の耐候性を評価する試験であり、各照射時間の薄肉状ヒンジ部14に割れ又は亀裂が確認できた場合を「×」とし、割れ又は亀裂が確認できない場合を「〇」とした。本試験においては、照射時間が4000時間後の薄肉状ヒンジ部14に割れ又は亀裂が確認できた場合を「不合格」とし、照射時間が4000時間後の薄肉状ヒンジ部14に割れ又は亀裂が確認できない場合を「合格」とし、照射時間が6000時間後の薄肉状ヒンジ部14に割れ又は亀裂が確認できない場合を優れたもの(合格)とする。
【0054】
<試験3:MFRの測定>
調製した各ペレットを用いて、上述の方法により、各樹脂組成物のMFR(230℃、2.16kg)を測定しった。
本試験は参考試験であり、MFR(230℃、2.16kg)は3.0~5.0g/10minの範囲内にあることが好ましい。
【0055】
<試験4:脆化試験>
JIS K 7216に準拠して、調製した各ペレットを用いて作製したA形試験片5検体について、脆化試験を行った。ただし、試験片つかみ具及び打撃ハンマはA形を採用し、5検体の試験片すべてが破損個数0となる最低温度を表1に示した。なお、破損の判定は破損判定基準に従い、クラックの発生をもって破損とした。
本試験は参考試験であり、上記最低温度が-25℃以下であることが好ましい。
【0056】
【0057】
【0058】
表1において、「b-pp」はブロックポリプロピレンを、「h-pp」はホモポリプロピレンを、「r-pp」はランダムポリプロピレンを、それぞれ示す。また、ポリプロピレン及び樹脂組成物のMFRの条件及び単位は上記の通りであるが省略する。カーボンブラック欄の「吸収量/比表面積」は各カーボンブラックにおける比[DBP吸収量(cm3/g)/比表面積(m2/g)]を表し、「含有量の質量比」はヒンダードアミン系光安定剤の含有量に対するカーボンブラックの含有量の質量比[カーボンブラックの含有量/ヒンダードアミン系光安定剤の含有量]を表す。
【0059】
表1に示す結果から明らかなように、本発明で規定する成分及びその含有量を満たさない比較例の樹脂組成物は、ヒンジ曲げ試験及び耐候性試験の少なくとも一方の結果が劣っており、射出成型体の繰り返し屈曲耐久性及び耐候性を両立できない。
これに対して、ブロックポリプロピレン、エチレン-プロピレンゴム、ヒンダードアミン系光安定剤及びカーボンブラックを特定の含有量で含有する実施例1~25の樹脂組成物は、いずれも、ヒンジ曲げ試験及び耐候性試験の結果が優れており、優れた繰り返し屈曲耐久性と耐候性とを発揮する射出成型体を製造できる。
【符号の説明】
【0060】
1 クロージャ
3 端面板
6 半管状体
7 底面板
11 側面板
12 カバー板
13 連接部
13a、13b 肩部
13c 上面部
14 薄肉状ヒンジ部
15 内部空間
【要約】
【課題】優れた繰り返し屈曲耐久性と耐候性とを発揮する射出成型体、及びこの射出成型体を形成できる樹脂組成物を提供する。
【解決手段】ブロックポリプロピレン100質量部に対して、エチレン-プロピレンゴム6~10質量部と、ヒンダードアミン系光安定剤0.05~2.0質量部と、カーボンブラック1.5~3.0質量部とを含有する樹脂組成物、及びこれを用いた射出成型体を提供する。
【選択図】
図1